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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1271973
審判番号 不服2010-15079  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-07-06 
確定日 2013-03-28 
事件の表示 特願2000-546742「洗浄剤用殺菌剤」拒絶査定不服審判事件〔平成11年11月11日国際公開、WO99/56714〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、1999年4月19日(優先権主張1998年4月30日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成22年3月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月6日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともにその審判の請求と同時に手続補正がなされ、同年8月17日付けで審判請求理由の手続補正書(方式)が提出されたが、その後、当審において、平成24年7月11付けで拒絶理由が通知され、同年9月18日に手続補正がなされるとともに意見書が提出され、さらに、当審において、同年10月19日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年12月25日に手続補正がなされるとともに意見書が提出されたものである。

第2 平成24年12月25日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年12月25日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正
本件補正は、補正前(平成24年9月18日付けの手続補正によるもの)の特許請求の範囲、
「【請求項1】銀イオンを担持させたハイドロキシアパタイトを0.05?10重量%、ラウリル硫酸ナトリウムを1?15重量%、コート過炭酸ナトリウムを15?45重量%、オキソンを5?20重量%、コートクエン酸を10?40重量%および炭酸水素ナトリウムを5?25重量%含有する、発泡錠である、義歯洗浄剤。」
を、
「【請求項1】銀イオンを担持させたハイドロキシアパタイトを0.05?10重量%、ラウリル硫酸ナトリウムを1?15重量%、コート過炭酸ナトリウムを15?45重量%、被覆されていない2KHSO_(5)/KHSO_(4)/K_(2)SO_(4)を5?20重量%、コートクエン酸を10?40重量%および炭酸水素ナトリウムを5?25重量%含有する、発泡錠である、義歯洗浄剤。」(下線は、原文のとおり)
と補正することを含むものである。

2 本件補正についての検討
(1)本件補正における上記請求項1の補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「オキソン」を「被覆されていない2KHSO_(5)/KHSO_(4)/K_(2)SO_(4)」とするものである。
この補正は、当審における平成24年10月19日付け拒絶理由通知に係る拒絶の理由2に示す事項(オキソンが商標名であるため不明瞭であるとの指摘)について、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において、「2KHSO_(5)/KHSO_(4)/K_(2)SO_(4)」と明瞭でない記載を釈明するとともに、「被覆されていない」との限定を付加するものである。

(2)本件補正は、いわゆる最後の拒絶理由通知に応答してなされたものであるから、特許法第17条の2第1項第3号の「拒絶理由通知を受けた後更に拒絶理由通知を受けた場合において、最後に受けた拒絶理由通知に係る第50条の規定により指定された期間内にするとき。」になされた補正に該当する。
そして、その補正前の請求項1に記載された発明とその補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
よって、上記請求項1の補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(3)引用例及び引用例の記載事項
ア 当審における、平成24年10月19日付けで通知した拒絶の理由(以下、「当審最後の拒絶理由」という。)に引用した、本願の優先日前である昭和60年6月24日に頒布された刊行物である「特開昭60-116625号公報」(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。なお、以下、下線は当審で付した。
(1a)「(1)乳糖被覆を施した過酸化物を配合してなることを特徴とする義歯洗浄剤。」(特許請求の範囲)
(1b)「従来から、義歯を水に浸漬し、これに添加して義歯の洗浄を行なう錠剤や顆粒ないし粉末状の義歯洗浄剤が知られている。これらの義歯洗浄剤は、一般に、水に添加した際に発泡し、活性酸素を生じ、発泡による物理的な汚れ除去と共に、活性酸素の漂白作用、殺菌作用により義歯の洗浄を行なうもので、かかる発泡および活性酸素の発生には、義歯洗浄剤に配合した酸性過酸化物の塩基性物質との反応または塩基性過酸化物の酸性物質との反応が利用されている。」(1頁左欄9?18行)
(1c)「かくして、義歯洗浄剤は水に添加した際に、この反応が効果的に進行するように、良好な崩壊性もしくは溶解性を有することが必要であるが、一方、明らかなごとく、この反応は使用前の義歯洗浄剤中で起きてはならない。また、過酸化物自体不安定で、特に、義歯洗浄剤のごとく発泡させる処方においては、非常に不安定になりやすい。そこで、従来、義歯洗浄剤中での前記反応の抑制および過酸化物の安定化のため、芒硝、炭酸カルシウム、ケイ酸塩などの無機物質と、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、カルボキシメチルセルロースもしくはそのナトリウム塩などの水溶性高分子物質のような被覆剤で過酸化物を被覆して義歯洗浄剤に配合することが行なわれている。
しかしながら、この被覆剤では製造上の制約が多く、また、使用に際しての崩壊性もしくは溶解性を良くするために、被覆を薄くすると、義歯洗浄剤の安定性が悪くなり、逆に、被覆を厚くすると、安定性は良くなるが、崩壊性もしくは溶解性が悪くなるという問題がある。
かかる問題を解消するために本発明者らは種々検討を重ねた。その結果、従来、糖類は、過酸化物と反応しやすいため、過酸化物の被覆には使用できないとされていたが、意外にも、乳糖が過酸化物の被覆に好適に使用でき、これにより、安定な、かつ、良好な崩壊性もしくは溶解性を示す義歯洗浄剤が得られることが判明した。」(1頁左欄下から2行?2頁左上欄5行)
(1d)「用いる過酸化物は、通常義歯洗浄剤に用いられるものいずれでもよく、例えば、過硫酸カリウムのような酸性過酸化物、過ホウ酸ナトリウム、過炭酸ナトリウムのような塩基性過酸化物が挙げられ、これらは単独でも、2種以上併用してもよく、一般に、義歯洗浄剤全量に対して20?40%(重量%、以下同じ)程度の割合で配合される。」(2頁左上欄12?18行)
(1e)「他の成分としては、酸性過酸化物を用いた場合は、炭酸水素ナトリウムのような塩基性物質、塩基性過酸化物を用いた場合は酒石酸、コハク酸、クエン酸などの有機酸のごとき酸性物質が挙げられ、これらは前記の活性酸素の発生反応に必要な量、例えば、過酸化物量の1/6?5倍量程度配合される。また、炭酸水素ナトリウムは義歯洗浄剤の発泡剤として用いることもでき、さらに、各種の界面活性剤、金属封鎖剤、着色料、香料、蛋白分解酸素剤、錠剤の場合には滑剤、賦形剤などが適宜配合される。」(2頁左下欄12行?同頁右下欄2行)
(1f)「実施例1?5および比較例1?5
つぎの処方に従い、各種の錠剤形の義歯洗浄剤を製造した。
成 分 %
酒石酸 20.0
過硫酸カリウム 5.0
過炭酸ナトリウム 26.0
炭酸水素ナトリウム 4.0
ラウリル硫酸ナトリウム 1.0
香料 3.0
着色料 0.02
ポリビニルピロリドン 第1表に表示
乳糖 第1表に表示
タルク 1.0
トリポリリン酸ナトリウム 第1表に表示
過硫酸カリウム、過炭酸ナトリウムおよび乳糖を混合し、ポリビニルピロリドンを配合する場合は、これに、ポリビニルピロリドンの2%無水エタノール溶液を噴霧しながら撹拌し、ついで、40℃以下で真空乾燥して乳糖被覆を施した過酸化物を得た。これを他の成分とドライブレンドし、常法に従つて20?25mm径に打錠し、錠剤形の義歯洗浄剤を得た。
・・・
結果を第1表に示す。

」(2頁右下欄5行?3頁第1表)

イ 当審最後の拒絶理由に引用した、本願の優先日前である1988年に頒布された刊行物である「海田博文他、各種義歯洗浄剤によるCandida albicansの洗浄および殺菌効果、補綴誌、32巻4号、1988年、908?912頁」(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。
(2a)「義歯性口内炎(denture stomatitis)は,義歯床に付着したdenture plaqueが原因となって引き起こされる感染症であると考えられている.denture plaqueは複雑な菌叢からなるが,特に構成員の一種であるCandida albicans(以下C.albicans)は,義歯床に容易に付着し,そこで増殖してdenture plaqueの母体となることが明らかにされている.」(908頁左下欄2?8行)

ウ 当審最後の拒絶理由に引用した、本願の優先日前である1991年に頒布された刊行物である「山内六男他、義歯用歯磨剤の抗菌性、補綴誌、35巻6号、1991年、1274?1276頁」(以下、「引用例3」という。)には、次の事項が記載されている。
(3a)「義歯に付着するプラーク,いわゆるデンチャー・プラークは義歯性口内炎の原因として重要視されている.そのため,義歯性口内炎の予防の意味からデンチャー・プラークを取り除くことが推奨されている.・・・しかし,義歯用歯磨剤の床用レジンの摩耗性についての報告はあるものの,義歯性口内炎予防の点で重要と考えられる義歯用歯磨剤の抗菌性についての報告はみられない。
そこで本研究では,義歯用歯磨剤のCandidaやその他の口腔細菌に対する抗菌性について検討を加えた.」(1274頁左下欄2行?同頁右下欄7行)

エ 当審最後の拒絶理由に引用した、本願の優先日前である1995年に頒布された刊行物である「中本匡美他、塩酸ベルベリン配合義歯洗浄剤の評価に関する研究、補綴誌、39巻5号、1995年、859?863頁」(以下、「引用例4」という。)には、次の事項が記載されている。
(4a)「義歯性口内炎の発症には,デンチャープラークが関与していることが知られている.義歯性口内炎患者のデンチャープラーク中からは種々のCandida属が検出されており,なかでも高頻度に検出されるC.albicansと義歯性口内炎との関連性が注目されている.」(859頁左下欄7?11行)

オ 当審最後の拒絶理由に引用した、本願の優先日前である平成8年5月14日に頒布された刊行物である「特開平8-119821号公報」(以下、「引用例5」という。)には、次の事項が記載されている。
(5a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、義歯床、歯冠、人工歯および歯科用充填材等に用いられる歯科用樹脂に関し、さらに詳しくは上記義歯床等に付着・繁殖する口腔内細菌に対して抗菌および殺菌作用を有する抗菌性歯科用樹脂に関するものである。」
(5b)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、口腔内には、う蝕性レンサ球菌、乳酸桿菌、カンジタ菌等の口腔内細菌が存在するが、上述した従来の歯科用樹脂は抗菌性を有しなかったため、該樹脂に上記口腔内細菌が付着して繁殖するという問題があった。」
(5c)「【0017】実施例5
ポリメチルメタクリレートに、銀をヒドロキシアパタイトに担持させた銀系抗菌剤を重量比で0.2%、1.0%、5%の割合でそれぞれ混入した。」
そして、実施例5の結果として、表2にカンジダ菌に対して抗菌剤含有率0.2%で6時間後菌数が1.6×10^(4)程度から3に減少したことが示されている(4頁の【表2】参照)。

カ 当審最後の拒絶理由に引用した、本願の優先日前である平成10年2月10日に頒布された刊行物である「特開平10-33568号公報」(以下、「引用例6」という。)には、次の事項が記載されている。
(6a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、・・・特に抗菌性金属が担持された無機質粉末を該分離剤中に含有せしめ、・・・併せて樹脂成形体の表面に抗菌性を与えることのできる分離剤、および該分離剤を用いて抗菌性に優れた歯科用樹脂成形体を製造する方法に関するものである。」
(6b)「【0005】他方口腔内には、う蝕性連鎖球菌、乳酸桿菌、カンジダ菌などの口腔内細菌が多数存在しており、上記の様な歯科用樹脂成形体を口腔内で使用すると、これらの細菌が成形体に付着して繁殖し、口腔内疾患を助長する原因になることがある。」
(6c)「【0016】本発明では、上記の様な成分からなる分離剤中に、抗菌性付与成分として抗菌性金属の担持された無機質粉末を含有させたところにその特徴があり、ここで用いられる抗菌性金属として最も代表的なのは、銀、銅、亜鉛、コバルト、ニッケル、マグネシウム等であり、これらは単独で使用できる他、2種以上を任意の組合せで併用することができる。これらの中でも最も好ましいのは銀と銅、とりわけ銀である。・・・
【0017】また本発明で使用する無機質粉末は、上記抗菌性金属を担持してこれを樹脂成形体の表面に埋没・移行させ抗菌性を与える為のキャリヤ成分となる成分であり、実質的に水に不溶性の無機質粉末であればその種類は特に制限されないが、好ましい例を示すとゼオライト、ヒドロキシアパタイト、シリカ・アルミナ等、あるいはリン酸ジルコニウム系、リン酸カルシウム系等のセラミックス等が挙げられる。」
(6d)「【0028】[抗菌性試験]JIS T 6501-1993(義歯床用アクリル系レジン)の「曲げたわみ試験」の試験片の作製法に準じて10mm×20mm×1mmの試験片を作製し、洗浄後カンジダアルビカンス(Candida albinans:臨床分離株)の菌液を生理食塩水で10^(4)CFU/mlに調整した菌液5mlの入った試験管(直径16mm)に浸漬した後、37℃で24時間インキュベートし、その時のサブロー寒天培地に塗抹して生菌数を測定する。
・・・
【0030】実施例1
水100gにアルギン酸ナトリウム5g、グリセリン5g、ピロリン酸ナトリウム0.5gおよび少量の着色剤を加えて混合溶解させ、この溶液に銀を3.0重量%担持させたゼオライト粉末10gを配合し、ボールミルを用いて均一に分散させて歯科用分離剤を作製した。これを石膏型への内面分離剤として使用し、分離膜の乾燥厚みが約10μmとなる様に塗布した以外は、JIS T 6501-1993(義歯床用アクリル系樹脂)の「曲げたわみ試験」の試験片の作製法に準拠して、義歯床用樹脂(三金工業株式会社製「デンチャーレジン」)の型内重合を行ない、得られた成形体について、抗菌性および曲げ強度試験を行ない、表1に示す結果を得た。」
そして、実施例1の結果として、表1に生菌数(CFU/ml)が100であったことが示されている(段落【0037】の【表1】参照)。

キ 当審最後の拒絶理由に引用した、本願の優先日前である1997年に頒布された刊行物である「T.Matsuura et al.,Prolonged antimicrobial effect of tissue conditioners containing silver-zeolite,J.Dent.,Vol.25,No.5,1997,pp.373-377」(以下、「引用例7」という。)には、次の事項が記載されている。なお、引用例7は英文のため当審による翻訳文で示す。
(7a)「目的:本研究の日的は、カンジダ菌、及び院内呼吸感染症の原因細菌である黄色ブドウ球菌及び緑膿菌に対する、銀-ゼオライト含有組織コンディショナーの、生体外での抗微生物効果を解明することである。
・・・
結論:SZ(審決注:銀-ゼオライト)含有組織コンディショナーは、生体外における唾液中のカンジダ菌及び院内呼吸感染症の原因細菌に対して4週間にわたる抗微生物効果を有することが示された。」(要約)

ク 当審最後の拒絶理由に引用した、本願の優先日前である平成6年5月6日に頒布された刊行物である「特開平6-122617号公報」(以下、「引用例8」という。)には、次の事項が記載されている。
(8a)「【0020】
【実施例10】
洗口剤
銀1%含有ハイドロキシアパタイト 0.1%
グリセリン 5.0
ソルビット 5.0
ラウリル硫酸ナトリウム 3.0
リン酸2ナトリウム 0.4
サッカリンナトリウム 0.15
香料 0.5
エタノール 10
精製水 残
計 100.0%」

ケ 当審最後の拒絶理由に引用した、本願の優先日前である平成4年6月9日に頒布された刊行物である「特開平4-164019号公報」(以下、「引用例9」という。)には、次の事項が記載されている。
(9a)「(実施例)
以下、本発明に係る歯磨の詳細を実施例に基づいて説明する。なお、実施例は、その組成を重量部で示す。また、実施例においては、抗菌性アパタイトは、一般式Ca_(10)(Ag・PO_(4))_(6)(OH)_(2)で表わされる銀(Ag)を担持させたアパタイトを用いている。
実施例1
抗菌性アパタイト 5.0
リン酸カルシウム 10.0
ピロリン酸カルシウム 20.0
CMCナトリウム塩 1.0
アルギン酸ナトリウム 0.1
ソルビット 10.0
ラウリル硫酸ナトリウム 1.5
ラウロイルザルコンンナトリウム 0.5
香料 0.5
サッカリンナトリウム 0.1
二酸化珪素 2.5
クエン酸 2.0
リン酸ナトリウム 1.0
水 35.0」(2頁右下欄2行?3頁左上欄8行)

コ 当審最後の拒絶理由に引用した、本願の優先日前である平成3年1月8日に頒布された刊行物である「特開平3-2113号公報」(以下、「引用例10」という。)には、次の事項が記載されている。
(10a)「[実施例]
以下に本発明の口腔内組成物の配合例を示す。
実施例1(練歯磨)
重量%
第二リン酸カルシウム 42.5
抗菌性ゼオライト 2.5
ラウリル硫酸ナトリウム 1.0
ソルビトール 10.0
グリセリン 10.0
カルボキシメチルセルロース
ナトリウム 1.0
サッカリンナトリウム 0.1
香料 0.5
水 32.4
100.0
抗菌性ゼオライトとしてAgイオンでイオン交換したもの(商品名ゼオミック:株式会社シナネンニューセラミック製)を用い、これに第二リン酸カルシウムを混合して均一にした。・・・
実施例2(練歯磨)
重量%
炭酸カルシウム 35.0
グリセリン 16.0
N-ラウロイルサルコシン
ナトリウム 1.0
ラウリル硫酸ナトリウム 1.0
カルボキシメチルセルロース
ナトリウム 1.5
ショ糖脂肪酸エステル 2.5
塩化ナトリウム 20.0
抗菌ゼオライト 1.5
二酸化ケイ素 0.2
ポリエチレングリコール 1.5
香料 0.6
水 19.2
100.0
炭酸カルシウム、ショ糖脂肪酸エステル、塩化ナトリウム及び前掲の抗菌性ゼオライトを混合して均一にした。・・・
実施例3
重量%
ゼオライト(クリノプチロライト) 35.0
抗菌性ゼオライト 10.0
ラウリル硫酸ナトリトリウム 1.5
グリセリン 20.0
二酸化ケイ素 0.1
カラギーナン 1.5
サツカリンナトリウム 0.1
香料 0.5
水 31.3
100.0
研磨剤としてのゼオライト(クリノプチロライト)及び前掲の抗菌性ゼオライトを混合して均一にした。・・・最後に香料を加えて練合して練歯磨とした。」(2頁左下欄下から3行?3頁左下欄末行)

サ 当審最後の拒絶理由に引用した、本願の優先日前である平成7年3月14日に頒布された刊行物である「特開平7-69854号公報」(以下、「引用例11」という。)には、次の事項が記載されている。
(11a)「【0016】本発明の義歯洗浄剤には、更に活性酸素発生物質を配合することが汚れ除去効果の点から好ましい。この活性酸素発生物質としては、モノ過硫酸水素カリウム(別名:オキソン)、過硼酸ナトリウム(別名:ペルボン)、過炭酸ナトリウム等があり、単独もしくは混合で使用される。その配合量は10?80重量%、好ましくは20?70重量%がよい。10重量%未満の場合は満足な漂白力が得られず、80重量%を超えると気泡力の低下等、トータルバランスで品質低下をもたらす場合が生じる。」
(11b)「【0018】なおまた、義歯洗浄剤に炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の炭酸塩と無水クエン酸、コハク酸、リンゴ酸等の酸剤を使用すると溶解時に発泡し、洗浄剤の溶解・分散を促進することができる。また、洗浄力の向上と適度な起泡を保証するためにアニオン性、ノニオン性、両性界面活性剤を好適に配合し得る。例えば直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム等を適宜量配合することができる。」
(11c)「【0038】〔実施例5〕
モノ過硫酸水素カリウム 15
過硼酸ナトリウム 5
過炭酸ナトリウム 10
炭酸ナトリウム バランス
炭酸水素ナトリウム 20
無水クエン酸 15
ポリエチレングリコール 1
乳糖 5
トリポリリン酸ナトリウム 10
ラウリル硫酸ナトリウム 0.5
デキストラナーゼ 0.5
本発明プロテアーゼ 0.5
粉末香料 1.5
青色1号 微
100%」

シ 当審最後の拒絶理由に引用した、本願の優先日前である1990年に頒布された刊行物である「中本匡美他、義歯洗浄剤の真菌に対する評価、補綴誌、34巻5号、1990年、892?895頁」(以下、「引用例12」という。)には、次の事項が記載されている。
(12a)「実験には,現在市販されている4種の酵素配合義歯洗浄剤と1種の酵素未配合の過酸化物タイプの義歯洗浄剤を用いた.」(893頁左欄6?8行)
(12b)「2) 供試菌株
Candida albicans A IFO 1385株を実験に供した.」(893頁左欄19?20行)
(12c)「蛋白質分解酵素配合の有無による差は溶菌効果と除去効果で認められた.しかし,殺菌効果については酵素配合の有無による差はなく,主に活性酸素の作用によるものと考えられた.」(894頁右欄下から5?2行)

ス 当審最後の拒絶理由に引用した、本願の優先日前である平成5年9月24日に頒布された刊行物である「特開平5-247496号公報」(以下、「引用例13」という。)には、次の事項が記載されている。
(13a)「【0008】本発明に使用されるペルオキソ一硫酸水素塩<1>(当審注:原文は○の中に数字の1)は、式:MHSO_(5)で表され、Mはアルカリ金属であり、好ましくはナトリウム、カリウムが良く、特にカリウムが好ましい。
【0009】このペルオキソ一硫酸水素塩は比較的不安定な化合物であるので、実際に使用する場合は硫酸水素塩や硫酸塩等との複塩として使用することが好ましく、特にMHSO_(5)2モルとMHSO_(4)1モルとM_(2)SO_(4)1モル(Mは上記の通り)からなる三重塩が最も安定していて使用するには好ましい。このような化合物は、例えば、デュポン社製商品名「オキソン」等としてとして市販されているのでこれを使用することができる。」

セ 当審最後の拒絶理由に引用した、本願の優先日前である平成7年9月5日に頒布された刊行物である「特開平7-233189号公報」(以下、「引用例14」という。)には、次の事項が記載されている。
(14a)「【0019】酸化剤としては、3位のアルコキシ基をカルボニル基とし、6位にヒドロキシ基を導入するものであれば特に限定されないが通常アルカリ金属の過硫酸水素塩、好ましくは過硫酸水素カリウム又はその複塩を用いるが、安定性、安全性の点から複塩を用いるのがより好ましい。複塩としては、過硫酸水素カリウム2モル・硫酸水素カリウム1モル・硫酸カリウム1モルから成る複塩等があげられ、例えばデュポン社製のオキソン(登録商標)を用いることができる。」

ソ 当審最後の拒絶理由に引用した、本願の優先日前である昭和61年1月7日に頒布された刊行物である「特開昭61-1637号公報」(以下、「引用例15」という。)には、次の事項が記載されている。
(15a)「〔産業上の利用分野〕
本発明は有機酸のコーティングによる安定化方法に関する。特にアルカリ性物質或は漂白剤等と共に配合して安定な組成物をつくるのに適した安定化された有機酸粉末を得る方法に関する。
〔従来の技術〕
一般に、有機酸を発泡を目的として重曹などのアルカリ性塩等と共存させると、接触部分の中和反応により有機酸の安定性が劣化する。又、塩素系や酸素系の酸化剤などと共存させると、有機酸が酸化剤の分解を促進させ、酸化剤の安定性が劣化する。例えば従来一般に、浴剤、風呂水清浄剤、風呂釜清浄剤等に、有機酸と重曹を組み合せた発泡剤組成物が利用される。しかし、有機酸と重曹をそのまま配合したものは原料中の水分、吸湿等により反応が起こりCO_(2)ガスが発生し、包装がフクレたり使用時の発泡性が低下する等の欠点があった。」(1頁右下欄下から5行?2頁左上欄14行)

(4)引用例1記載の発明
ア 引用例1の上記(1a)、(1f)の記載からみて、引用例1には、以下の組成の錠剤形の義歯洗浄剤が記載されているといえる。
酒石酸 20.0重量%
乳糖被覆過硫酸カリウム 5.0重量%
(過硫酸カリウムの量)
乳糖被覆過炭酸ナトリウム 26.0重量%
(過炭酸ナトリウムの量)
炭酸水素ナトリウム 4.0重量%
ラウリル硫酸ナトリウム 1.0重量%
香料 3.0重量%
着色料 0.02重量%
タルク 1.0重量%
トリポリリン酸ナトリウム 10.0?13.0重量%
乳糖 10.5?30.0重量%
(上記被覆に用いた量)

イ したがって、引用例1には、
「酒石酸を20.0重量%、乳糖被覆過硫酸カリウムを5.0重量%(過硫酸カリウムの量)、乳糖被覆過炭酸ナトリウムを26.0重量%(過炭酸ナトリウムの量;乳糖の量は前記と合わせて10.5?30.0重量%)、炭酸水素ナトリウムを4.0重量%、ラウリル硫酸ナトリウムを1.0重量%、香料を3.0重量%、着色料を0.02重量%、タルクを1.0重量%、トリポリリン酸ナトリウムを10.0?13.0重量%含有する、義歯洗浄剤。」
の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。

(5)対比
そこで、以下に本願補正発明と引用例1発明とを対比する。
ア 引用例1には、「この反応は使用前の義歯洗浄剤中で起きてはならない。また、過酸化物自体不安定で、特に、義歯洗浄剤のごとく発泡させる処方においては、非常に不安定になりやすい」こと、「乳糖が過酸化物の被覆に好適に使用でき、これにより、安定な、かつ、良好な崩壊性もしくは溶解性を示す義歯洗浄剤が得られる」ことが記載されており(1c)、引用例1発明の乳糖被覆は、過酸化物を乳糖で被覆して、義歯洗浄剤中での反応を抑制し、安定にすることを目的とするものといえる。
一方、本願明細書では、「本発明の義歯洗浄剤に含まれる成分に関して使用される『コート』なる語は、共存する他の成分との相互作用を避けるために、その成分が適当な被覆剤で被覆されていることを意味する。」(8頁6?9行;便宜的に、本願明細書の記載個所を本願の再公表公報WO99/56714の頁行で示す。以下同様)のように説明されており、義歯洗浄剤中に含まれる成分の相互作用を避けることを目的とするものであり、被覆剤については成分等も限定されていない。
したがって、引用例1発明の「乳糖被覆」は、本願補正発明の「コート」に包含される。
イ 引用例1発明の「酒石酸」と本願補正発明の「コートクエン酸」とは、「有機酸」である点で共通する。
ウ 引用例1発明の「乳糖被覆過硫酸カリウム」と本願補正発明の「被覆されていない2KHSO_(5)/KHSO_(4)/K_(2)SO_(4)」とは、「カリウム塩」である点で共通する。
なお、以下審決において、本願補正発明の「2KHSO_(5)/KHSO_(4)/K_(2)SO_(4)」を「オキソン」ともいう。
エ 引用例1発明の「乳糖被覆過炭酸ナトリウム」、「炭酸水素ナトリウム」、「ラウリル硫酸ナトリウム」、「義歯洗浄剤」は、それぞれ、本願補正発明の「コート過炭酸ナトリウム」、「炭酸水素ナトリウム」、「ラウリル硫酸ナトリウム」、「義歯洗浄剤」に相当する。
オ 本願明細書には、義歯洗浄剤に、滑沢剤、安定化剤、保湿剤、可溶化剤、香料、着色料などを配合してよいことが記載されている(9頁下から2行?10頁20行参照)。
したがって、引用例1発明の、香料、着色料、タルク、トリポリリン酸ナトリウムは、本願補正発明にも包含され、両発明の相違点ではない。
カ 引用例1発明と、本願補正発明とは、各成分をそれぞれ所定量で配合している点で共通する。
キ 以上のことから、本願補正発明と引用例1発明とは、以下の一致点及び相違点1?4を有する。

一致点:「ラウリル硫酸ナトリウムを所定量、コート過炭酸ナトリウムを所定量、カリウム塩を所定量、有機酸を所定量および炭酸水素ナトリウムを所定量含有する、義歯洗浄剤。」

相違点1:本願補正発明では、さらに、「銀イオンを担持させたハイドロキシアパタイト」を含むのに対し、引用例1発明ではこれを含まない点。
相違点2:本願補正発明では、義歯洗浄剤が「発泡錠である」と特定されているのに対し、引用例1発明では、そのような特定がされていない点。
相違点3:カリウム塩が、本願補正発明では「被覆されていない2KHSO_(5)/KHSO_(4)/K_(2)SO_(4)」であるのに対し、引用例1発明では「乳糖被覆過硫酸カリウム」であり、「有機酸」が、本願補正発明では、「コートクエン酸」であるのに対し、引用例1発明では「酒石酸」である点。
相違点4:各成分の配合量が、その範囲において一致していない点。

(6)判断
そこで、以下に上記相違点1?4について検討する。
ア 相違点1について
(ア)引用例1発明は、義歯の洗浄を目的とした洗浄剤に関し、引用例1には、「これらの義歯洗浄剤は、一般に、水に添加した際に発泡し、活性酸素を生じ、発泡による物理的な汚れ除去と共に、活性酸素の漂白作用、殺菌作用により義歯の洗浄を行なうもので、かかる発泡および活性酸素の発生には、義歯洗浄剤に配合した酸性過酸化物の塩基性物質との反応または塩基性過酸化物の酸性物質との反応が利用されている。」(1b)と説明されているように、発泡による物理的な汚れの除去と、活性酸素の漂白作用、殺菌作用を利用して洗浄を行うものである。
(イ)引用例1には活性酸素による殺菌作用の具体的な対象について言及されていないが、義歯性口内炎の原因と考えられるデンチャープラーク中から検出されるカンジダ菌に着目し、カンジダ菌に対する抗菌性を検討することは、引用例2?4にあるように、本出願の優先日前から当業者に共通の技術課題であったといえる((2a)、(3a)、(4a)参照))。
そして、義歯自体に抗菌性を持たせてカンジダ菌を除去することを目的として、義歯床などに銀を担持したハイドロキシアパタイトやゼオライトを配合する技術は、引用例5?7((5a)?(5c)、(6a)?(6d)、(7a)参照))に記載されているとおり、当業者に広く知られていた。
(ウ)銀イオンが抗菌活性を有することは、証拠を示すまでもなく本出願の優先日前周知の事項であり、銀イオンを担持させたハイドロキシアパタイトやゼオライトを、洗浄成分として公知のラウリル硫酸ナトリウムを含有する口腔用組成物に配合することも、引用例8?10に記載されているとおり既に行われていたことである((8a)、(9a)、(10a)参照)。
(エ)そうしてみると、引用例1発明の義歯洗浄剤に、引用例2?4に示された技術課題に基づき、カンジダ菌の殺菌作用をも持たせることを目的として、引用例5?7から義歯におけるカンジダ菌の除去に有効であることが知られ、引用例8?10から洗浄成分を含有する口腔用組成物に配合できることが公知の銀イオンを担持させたハイドロキシアパタイトを、さらに配合することは、当業者が容易になし得たことである。

イ 相違点2?4について
相違点2?4は関連するので、以下にまとめて検討する。
(ア)引用例1には、「従来から、義歯を水に浸漬し、これに添加して義歯の洗浄を行なう錠剤や顆粒ないし粉末状の義歯洗浄剤が知られている。これらの義歯洗浄剤は、一般に、水に添加した際に発泡し」(1b)と記載されており、義歯洗浄剤に発泡剤を配合することは周知の事項といえる。
(イ)ところで、引用例1発明の炭酸水素ナトリウムについて、引用例1には、「炭酸水素ナトリウムは義歯洗浄剤の発泡剤として用いることもでき」(1e)ることが記載されている。
そして、引用例1発明の「酒石酸」、「過硫酸カリウム」、「過炭酸ナトリウム」、及び「炭酸水素ナトリウム」に関して、引用例1には、「用いる過酸化物は、通常義歯洗浄剤に用いられるものいずれでもよく、例えば、過硫酸カリウムのような酸性過酸化物、・・・過炭酸ナトリウムのような塩基性過酸化物」(1d)、「他の成分としては、酸性過酸化物を用いた場合は、炭酸水素ナトリウムのような塩基性物質、塩基性過酸化物を用いた場合は酒石酸、コハク酸、クエン酸などの有機酸のごとき酸性物質・・・、これらは前記の活性酸素の発生反応に必要な量・・・配合される。」(1e)のように記載されている。
(ウ)以上のことから、引用例1発明の義歯洗浄剤は、過硫酸カリウムと炭酸水素ナトリウムとの組み合わせ、及び過炭酸ナトリウムと酒石酸との組合せにより、活性酸素を発生させてその漂白作用、殺菌作用により義歯の洗浄を行うものであるとともに、炭酸水素ナトリウムは発泡剤として用いることができ、義歯洗浄剤は発泡による物理的な汚れ除去も利用するものである。
(エ)そこで検討するに、引用例11には、義歯洗浄剤の成分について、「義歯洗浄剤には、更に活性酸素発生物質を配合することが汚れ除去効果の点から好ましい。この活性酸素発生物質としては、モノ過硫酸水素カリウム(別名:オキソン)、・・・過炭酸ナトリウム等」(11a)、「義歯洗浄剤に炭酸水素ナトリウム、・・・等の炭酸塩と無水クエン酸、・・・等の酸剤を使用すると溶解時に発泡し」(11b)とあり、実施例5には、モノ過硫酸水素カリウム(オキソン)、過炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、無水クエン酸を配合した義歯洗浄剤が記載されている((11c)参照)。
(オ)引用例1及び引用例11の記載から、活性酸素を発生させる物質として、過硫酸ナトリウム、オキソン、過炭酸ナトリムなどの過酸化物が知られていたこと、炭酸水素ナトリウムは、活性酸素の発生にも、発泡にも寄与する成分であること、酒石酸とクエン酸が同等に扱われていることが理解される。
また、引用例1発明の「酒石酸」、「過硫酸カリウム」、「過炭酸ナトリウム」、「炭酸水素ナトリウム」や、引用例11の上記実施例5に配合されている「無水クエン酸」、「モノ過硫酸水素カリウム(オキソン)、「過炭酸ナトリウム」、「炭酸水素ナトリウム」は、それらを義歯洗浄剤中に同時に配合した場合、それぞれが任意に反応し活性酸素の発生や発泡に寄与するものであり、特定の組み合わせのみが反応し、他の成分とは相互作用しないようなものではないことは、当業者が理解するところである。
そして、引用例1発明の「酒石酸」を「クエン酸」に、「過硫酸カリウム」を「オキソン」にそれぞれかえても同様の機能を発揮することは、当業者が容易に予測し得ることである。
そうしてみると、引用例1発明を発泡錠と特定し、「酒石酸」を「クエン酸」に、「過硫酸カリウム」を「オキソン」にそれぞれ変更することは、当業者が適宜なし得たことである。

(カ)次に、本願補正発明では、クエン酸は被覆されているものであり、オキソンは被覆されていないものであるので、さらにこの点について検討する。
引用例1には、「一方、明らかなごとく、この反応は使用前の義歯洗浄剤中で起きてはならない。また、過酸化物自体不安定で、特に、義歯洗浄剤のごとく発泡させる処方においては、非常に不安定になりやすい。そこで、従来、義歯洗浄剤中での前記反応の抑制および過酸化物の安定化のため、・・・被覆剤で過酸化物を被覆して義歯洗浄剤に配合することが行なわれている。」(1c)のように記載されているとおり、従来から、発泡させる処方の義歯洗浄剤では、各配合成分が使用前に義歯洗浄剤中で反応しないように過酸化物を被覆剤で被覆する手段がとられていたことが理解できる。
つまり、過酸化物の安定性のため被覆の必要性が生じていたといえるところ、引用例13、14にあるように、オキソンは、過酸化物であるモノ過硫酸水素カリウムの安定性を向上させた複塩であることが知られている((13a)、(14a)参照)。
そうしてみると、引用例1発明において、過硫酸カリウムにかえてオキソンを採用することは適宜なし得たことであるといえるところ、安定性の優れていることが知られているオキソンを採用した際にこれに被覆を施すか否かは義歯洗浄剤の安定性や洗浄効果を考慮して、当業者が適宜決定し得たことである。

(キ)また、引用例1には、炭酸水素ナトリウムを発泡剤として用いることができることが記載され((1e)参照)、引用例11には、炭酸水素ナトリウムと無水クエン酸等の酸剤を使用すると溶解時に発泡することが記載されており((11b)参照)、義歯洗浄剤は使用前に発泡及び活性酸素の発生を抑制することが、本出願時の当業者の技術常識であったといえる((1c)参照)。
そして、引用例15に記載されているように、有機酸を発泡を目的として重曹(炭酸水素ナトリウム)などと共存させる場合に、使用前にこれらが反応することを抑制するために有機酸にコーティングを施すことは、本出願前既に行われていたことである((15a)参照)。
そうしてみると、引用例1発明において、酒石酸をクエン酸にかえるとともに、炭酸水素ナトリウムも同時に配合するものであることから、クエン酸に被覆を施して安定化することは、当業者が普通に想到し得たことである。

(ク)よって、引用例1発明を発泡剤と特定し、引用例1発明の「酒石酸」、「乳糖被覆過硫酸カリウム」を、それぞれ「コートクエン酸」、「被覆されていない2KHSO_(5)/KHSO_(4)/K_(2)SO_(4)」に変更するとともに、活性酸素の発生、発泡、及び洗浄効果を考慮して、各成分の配合量を最適化することは、引用例1?15の記載に基づき、当業者が容易になし得たことであり、本願発明の配合量とすることに格別困難を要することとはいえない。

ウ 本願補正発明の効果について
(ア)本願明細書には、「本発明は、洗浄剤中の他の成分による殺菌効果の阻害を受けることなく、洗浄剤に従来使用されていた殺菌剤よりもさらに短時間で優れた殺菌効果をもたらす洗浄剤用殺菌剤、および該殺菌剤を含有する義歯洗浄剤を提供することを目的とする。また本発明は、優れた洗浄作用および発泡作用を有するラウリル硫酸ナトリウムを含有する洗浄剤に対して、その作用を妨げない洗浄剤用殺菌剤を提供することを目的とする。さらに本発明は、ラウリル硫酸ナトリウムの洗浄作用および発泡作用を維持し、優れた殺菌作用を併せ持ち、快適に使用可能な義歯洗浄剤を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、抗菌性金属イオンを担持させた無機物系担体(以下、本発明の殺菌剤ということがある)が、洗浄剤用殺菌剤として極めて優れていることを見い出した。すなわち、本発明の殺菌剤は殺菌効果に優れており、しかも洗浄剤中の他の成分によって殺菌効果が阻害されないため短時間で優れた殺菌効果をもつ。」(5頁13?25行)と記載されている。
そこで検討するに、銀イオンを担持させたハイドロキシアパタイトがラウリル硫酸ナトリウムの洗浄作用や発泡作用を妨げず、かつ殺菌効果が阻害されない点については、先に示したとおり、引用例8?10に、ラウリル硫酸ナトリウムと銀イオンを担持させたハイドロキシアパタイトやゼオライトを併用した抗菌性を有する口腔用組成物が記載されていることから、当業者が予測し得たことである((8a)、(9a)、(10a)参照)。
(イ)次に、短時間で優れた殺菌効果を奏する点について検討する。
本願明細書には、本発明義歯洗浄剤と他社製義歯洗浄剤との比較を行った結果が実施例3に示されている。ここで使用された他社製義歯洗浄剤は、その成分は明らかでないもののいずれも殺菌作用が活性酸素によるものであると説明されている。
結果を示した表4では、カンジダ菌及び黄色ブドウ球菌に対する本発明義歯洗浄剤の有意性が示されている。
しかしながら、引用例12に、義歯洗浄剤の真菌に対する評価に関して、「実験には,現在市販されている4種の酵素配合義歯洗浄剤と1種の酵素未配合の過酸化物タイプの義歯洗浄剤を用いた.」(12a)、「2) 供試菌株 Candida albicans A IFO 1385株を実験に供した.」(12b)のように、酵素と過酸化物とのカンジダ菌に対する殺菌効果の比較を行ったことが記載されており、考察に「蛋白質分解酵素配合の有無による差は溶菌効果と除去効果で認められた.しかし,殺菌効果については酵素配合の有無による差はなく,主に活性酸素の作用によるものと考えられた.」(12c)と記載されており、活性酸素がカンジダ菌の殺菌に関与していることが示されている。
また、上記のとおり、引用例5?7には、義歯床などに配合したものではあるものの、銀イオンを担持させたハイドロキシアパタイトやゼオライトには、カンジダ菌や黄色ブドウ菌に対する殺菌効果があることが知られており((5a)?(5c)、(6a)?(6d)、(7a)参照)、洗浄剤に配合した場合にも銀イオンの殺菌作用が発揮されるであろうことは当業者が予測し得ることである。
そして、前記実施例3の本発明義歯洗浄剤は、その組成から明らかなとおり、銀イオンと活性酸素を併用したものであるから、銀イオンを担持させたハイドロキシアパタイトを併用することよって、他社製義歯洗浄である活性酸素の殺菌作用のみを利用したものに比べて殺菌効果が向上し、殺菌時間が短縮されることも当業者が予測し得たことであり、その程度も格別顕著なものともいえない。
さらに、ハイドロキシアパタイトを選択したことについても、義歯洗浄剤として他のゼオライトを用いた場合の比較がされているものでもなく、本願明細書の実施例1で示された表2の結果を参酌すると、これを選択したことによって予測もできない効果を奏するものともいえない。
(ウ)「コートクエン酸」、「被覆されていない2KHSO_(5)/KHSO_(4)/K_(2)SO_(4)」としたことによる効果について
本願明細書には、「本発明の義歯洗浄剤に含まれる成分に関して使用される「コート」なる語は、共存する他の成分との相互作用を避けるために、その成分が適当な被覆剤で被覆されていることを意味する。」(8頁6?9行)と記載されているが、この点は、引用例1((1c)参照)や引用例15((15a)参照)の記載から自明な事項であり、比較して安定性の高いものに被覆の必要性がないことも予測し得たことである。
そのうえ、本願明細書には、「コートクエン酸」、「被覆されていない2KHSO_(5)/KHSO_(4)/K_(2)SO_(4)」としたことによる効果については明記されていないし、比較データなども示されていないから、このような構成としたことにより予想外の効果を奏したものとはいえない。
(エ)各成分の配合量について
引用例1の実施例1?5((1f)参照)及び引用例11の実施例5((11c)参照)の配合量は、本願補正発明の配合量と重複するかその近傍にあり、また、銀イオンを担持させたハイドロキシアパタイトの量も口腔用組成物に関する引用例8?10の実施例の配合量と重複している((8a)、(9a)、(10a)参照)。
そして、本願補正発明の数値範囲とすることによる臨界的効果は本願明細書に示されていない。
よって、本願補正発明の配合量とすることによって、当業者が予測し得ない効果を奏するものとはいえない。

エ 審判請求人の主張について
(ア)審判請求人は、平成24年9月18日付けの意見書及び同年12月25日付けの意見書において、以下のような主張をしているので、その点についても検討する。
(イ)引用例1は、過酸化物に被覆を施すことを必須の要件とするものであるから、過硫酸カリウムをオキソンにかえるとともに敢えて被覆を施さないものとし、酒石酸をクエン酸にかえて被覆を施すことが容易とはいえない旨主張するが、上記「イ 相違点2?4について」及び「ウ 本願補正発明の効果について (ウ)」で検討したとおり、審判請求人の主張は採用できない。
(ウ)本願補正発明では、活性酸素の発生に、オキソンと過炭酸ナトリウムの反応を利用するのに対し、引用例1発明では、過硫酸カリウムと炭酸水素ナトリウム、及び/又は過炭酸ナトリウムと酒石酸との反応を利用するものであり、かつ、本願補正発明では、発泡成分として、クエン酸と炭酸水素ナトリウムの組合せが特定されているのに対し、引用例1発明では、発泡成分として有機酸を使用する旨の特定がされていない旨主張する。
しかしながら、本願補正発明は、義歯洗浄剤の配合成分、それらの配合量、及び発泡錠であるとの規定があるのみで、特定の成分の組み合わせと特定の作用機序とを関連づける記載はないから、そもそも本願補正発明の発明特定事項に基づかない主張であるため採用できない。
また、審判請求人が主張するような特定の成分の組み合わせが特定の作用機序に関与すると断定できる根拠も示されていない。
そして、上記「イ 相違点2?4について」で言及したとおり、これら4成分を義歯洗浄剤中に同時に配合した際に、特定の成分のみが反応し、他の成分とは相互作用しないと解する方が不自然であり、本願明細書の記載を参酌しても、実際の義歯洗浄剤中で審判請求人が主張するような反応のみが起こっているものとも解されず、このような特定をすることで、本願補正発明が引用例1発明から容易に想到し得ないものであるとすることはできない。
(エ)さらに、本願補正発明では漂白を目的として活性酸素を用いるのに対し、引用例1発明は活性酸素により殺菌を行うものであり、両者の活性酸素の用途が異なり、漂白と殺菌作用のメカニズムが異なるため、選択される成分及びそれらを安定化する手段としての被覆の形態も異なる旨主張している。
しかしながら、引用例1にも「これらの義歯洗浄剤は、一般に、水に添加した際に発泡し、活性酸素を生じ、発泡による物理的な汚れ除去と共に、活性酸素の漂白作用、殺菌作用により義歯の洗浄を行なうもので、かかる発泡および活性酸素の発生には、義歯洗浄剤に配合した酸性過酸化物の塩基性物質との反応または塩基性過酸化物の酸性物質との反応が利用されている。」(1b)のように記載されているように、発生した活性酸素が漂白と殺菌という用途で区別して使用されているとはいえず、配合した成分がそれぞれ反応して、殺菌、漂白、及び発泡剤として機能するといえるから、この点の主張も採用することはできない。
(オ)引用例13、14は、引用例1に記載の義歯洗浄剤とは技術分野が異なり、解決しようとする課題も異なるため、これらを組み合わせる動機付けがないこと、引用例13、14には、ペルオキソ一硫酸水素塩、過硫酸水素カリウムが比較的不安定な化合物であるため複塩として使用することが示されているのであって、過硫酸カリウムより安定性が向上したものであると解することはできないこと、更には、仮にこれらを組み合わせてもオキソンに被覆を施すものである旨主張する。
しかしながら、引用例13、14は、オキソンが比較的不安定な化合物の安定性を向上させた改良剤であることを示すためのものであり((13a)、(14a)参照)、引用例11にもあるように、オキソンは義歯洗浄剤に配合して用いることが既に知られているものであることから((11a)、(11c)参照)、引用例1発明にオキソンを採用することができないとする理由はない。
また、引用例1には、過硫酸カリウムが不安定な過酸化物の例として挙げられていること((1d)参照)、オキソンが一般に安定性の改良された酸化剤であることを考慮すると、過硫酸カリウムより安定性が良いものであることも当業者が予測し得たことである。
そして、オキソンを採用して被覆を施さないものとする点は、上記「イ 相違点2?4について」で既に検討したとおりである。

オ まとめ
以上のことから、本願補正発明は、引用例1?15の記載を勘案して引用例1発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(7)むすび
よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成24年12月25日付けの手続補正は却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成24年9月18日付けの手続補正より補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認められる(以下、「本願発明」という。)。
「【請求項1】銀イオンを担持させたハイドロキシアパタイトを0.05?10重量%、ラウリル硫酸ナトリウムを1?15重量%、コート過炭酸ナトリウムを15?45重量%、オキソンを5?20重量%、コートクエン酸を10?40重量%および炭酸水素ナトリウムを5?25重量%含有する、発泡錠である、義歯洗浄剤。」

2 引用例の記載事項及び引用例記載の発明
当審最後の拒絶理由に引用された引用例の記載事項及び引用例1記載の発明は、前記「第2 2 (3)引用例及び引用例の記載事項、(4)引用例1記載の発明」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記「第2 2 (5)対比」で検討した本願補正発明から、発明を特定するために必要な事項である「被覆されていない2KHSO_(5)/KHSO_(4)/K_(2)SO_(4)」から「被覆されていない」を省き、「2KHSO_(5)/KHSO_(4)/K_(2)SO_(4)」を「オキソン」と表現したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2 2 (6)判断」に記載したとおり、引用例1?15の記載を勘案して引用例1発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用例1?15の記載を勘案して引用例1発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-01-25 
結審通知日 2013-01-29 
審決日 2013-02-12 
出願番号 特願2000-546742(P2000-546742)
審決分類 P 1 8・ 575- WZ (A61K)
P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大島 忠宏  
特許庁審判長 川上 美秀
特許庁審判官 菅野 智子
関 美祝
発明の名称 洗浄剤用殺菌剤  
代理人 田村 恭生  
代理人 田村 恭生  
代理人 鮫島 睦  
代理人 坪井 有四郎  
代理人 新田 昌宏  
代理人 坪井 有四郎  
代理人 鮫島 睦  
代理人 新田 昌宏  

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