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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 B01J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B01J
管理番号 1272034
審判番号 不服2011-5654  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-03-14 
確定日 2013-03-27 
事件の表示 特願2006-520177号「制御された配位構造を有する担持型触媒および該触媒の調製方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年2月3日国際公開、WO2005/009611、平成19年11月1日国内公表、特表2007-530248号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年6月17日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2003年7月14日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成22年2月15日付けの拒絶理由の通知に対して、同年6月18日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年11月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成23年3月14日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに同日付けで特許請求の範囲の記載に係る手続補正書が提出されたものであり、その後、特許法第164条第3項に基づく報告を引用した平成24年2月23日付けの審尋を通知し、同年5月28日付けで回答書が提出されたものである。

2.平成23年3月14日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年3月14日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(2-1)補正事項
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1に係る補正を含み、補正前後の請求項1の記載は次のとおりである。
(補正前)
「【請求項1】
担体材料と、
該担体材料上に配置される複数の反応性触媒粒子であって、貴金属、卑遷移金属、希土類金属および固体非金属を含む群から選択される少なくとも1つの構成要素を含む複数の触媒反応性原子を含む反応性触媒粒子と
を含み、
該触媒反応性原子は、該触媒反応性原子の最上位面層すなわち外面層の少なくとも約50%が最隣接原子配位数2を有するように配置されており、および、
固定材料は、該反応性触媒粒子の少なくとも一部分を該担体材料に化学的に結合するポリマー、オリゴマーまたは有機化合物のうちの少なくとも1つのタイプを含み、該固定材料の少なくとも一部分は、該触媒反応性原子の最下層と該担体材料との間に配置されており、
該固定材料の少なくとも約50%は直鎖状である
ことを特徴とする、水素および酸素から過酸化水素の直接合成を触媒するための、制御された配位構造を有する担持型反応性触媒。」

(補正後)
「【請求項1】
担体材料と、
該担体材料上に配置される複数の反応性触媒粒子であって、貴金属、卑遷移金属、希土類金属および固体非金属を含む群から選択される少なくとも1つの構成要素を含む複数の触媒反応性原子を含む反応性触媒粒子と
を含み、
該触媒反応性原子は、該触媒反応性原子の最上位面層すなわち外面層の少なくとも約50%が最隣接原子配位数2を有するように配置されており、および、
固定材料は、該担体材料中と該固定材料中との間の化学結合によって反応性触媒粒子の少なくとも一部分を該担体材料に化学的に結合する、ポリマー、オリゴマーまたは有機化合物のうちの少なくとも1つのタイプを含み、該化学結合は、該担体材料中の官能基と該固定材料中の官能基との縮合反応生成物であり、該固定材料の少なくとも一部分は、該触媒反応性原子の最下層と該担体材料との間に配置されており、
該固定材料の少なくとも約90%は直鎖状である
ことを特徴とする、水素および酸素から過酸化水素の直接合成を触媒するための、制御された配位構造を有する担持型反応性触媒。」

(2-2)補正の適否
請求項1に係る補正事項は、
(i)請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である補正前の「固定材料は、該反応性触媒粒子の少なくとも一部分を該担体材料に化学的に結合するポリマー、オリゴマーまたは有機化合物のうちの少なくとも1つのタイプを含み、」を、補正後の「固定材料は、該担体材料中と該固定材料中との間の化学結合によって反応性触媒粒子の少なくとも一部分を該担体材料に化学的に結合する、ポリマー、オリゴマーまたは有機化合物のうちの少なくとも1つのタイプを含み、該化学結合は、該担体材料中の官能基と該固定材料中の官能基との縮合反応生成物であり、」とし、
(ii)同補正前の「少なくとも約50%は直鎖状である」を、補正後の「少なくとも約90%は直鎖状である」とするものである。
ここで、上記(i)は、「固定材料は、反応性触媒粒子の少なくとも一部分を担体材料に化学的に結合する」ことについて、「担体材料中と固定材料中との間の化学結合によって」及び「化学結合は、担体材料中の官能基と固定材料中の官能基との縮合反応生成物であり」という点で化学的結合(化学結合)の態様を具体的に限定するものであり、
上記(ii)は、「固定材料」における「直鎖状」の割合について、「少なくとも約50%」から「少なくとも約90%」に範囲を狭くする(限定する)ものであり、
かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、請求項1に係る補正は、平成18年法律第55条改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的にするものである。
そして、願書の最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)には、「【0100】
最後に、担持型触媒が形成される方法にもよるが、制御剤または鋳型剤の他の態様は、制御剤または鋳型剤が、触媒粒子を担体に固定する働きをすることができることである。すなわち、触媒粒子の形成中および形成後に、制御剤は固定剤として働いて、粒子を基体材料に固定することができる。好ましくは、基体はその表面に、制御剤の1つまたは複数の官能基に例えば縮合反応によって化学結合することができる複数のヒドロキシル基または他の官能基を有する。また、制御剤の1つまたは複数の追加の官能基は、触媒粒子内の1つまたは複数の原子に結合され、それによって触媒粒子を基体に固定する。制御剤によって触媒粒子を基体表面に化学的に結合させることは、集塊化する触媒粒子の傾向を低減させることによって、長い間触媒を活性に保つのに役立つ。」及び「【0018】
最上位層すなわち外層で配位数2を有するように担体上に配置される触媒反応性原子の傾向は、枝分れ状である分子ではなく、制御剤を構成する直鎖状分子のパーセンテージによって、少なくとも部分的に決定されることが現在見出されている。より具体的には、直鎖状分子のパーセンテージを増大させることが、配位数2を有する触媒反応性原子の傾向を高めることが見出されている。このことを考慮して、制御剤は、典型的には、少なくとも約50%が直鎖状であるポリマー、オリゴマーまたは有機分子を含む。好ましい実施形態では、制御剤のポリマー、オリゴマーまたは有機分子の少なくとも約60%、より好ましくは少なくとも約75%、さらにより好ましくは少なくとも約90%、最も好ましくは少なくとも約95%が直鎖状である。最上位層すなわち外層で配位数2を有するように配置される触媒反応性原子の傾向は、制御剤を構成するポリマー、オリゴマーまたは有機分子の100%が直鎖状である場合に最大となる。」との記載があり、これらからして、請求項1に係る補正は、当初明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであるので、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定を満足するものである。

(2-3)独立特許要件について
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2-3-1)引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用した米国特許第6168775号明細書(以下、「引用例」という。)には、以下の記載がある。
(a)明細書第2欄第56?61行
「This invention provides an improved particulate supported noble metal catalyst which is very useful for direct catalytic production of hydrogen peroxide (H_(2)O_(2)) product from hydrogen and oxygen containing feedstreams, and also provides a direct hydro peroxide production process utilizing the catalyst. 」
『本発明は、供給流体中の水素と酸素から過酸化水素を直接に触媒形成するのに極めて有用な貴金属触媒を担持する改良された粒子(担体)、また、触媒を用いた過酸化水素の直接形成方法を与えるものである。』(『』内は当審による仮訳。以下同じ。)

(b)明細書第3欄第18?22行
「Suitable catalyst support materials include alumina, activated carbon, carbon black and silica powders having particle size of 5-1,000,000 nanometers (nm) and preferably 15-1000 nanometers (nm) and surface area of 50-500 m^(2)/gm, with carbon black being preferred. 」
『好適な触媒担持物質は、粒子径サイズが5?100万ナノメータ、好ましくは15?1000ナノメータで、表面積が50?500m^(2)/gであるアルミナ、活性炭、カーボンブラック、シリカの粉体のいずれか、好ましくはカーボンブラックである。』

(c)明細書第5欄第29?39行
「The surface structure of a catalyst having different crystal phases of active metal(s) such as palladium catalyst is shown schematically in FIG. 2. For phase 110 shown by FIG. 2a, each palladium atom has only two adjacent atoms; but there are more surrounding atoms on both the phase 100 (4 atoms) per FIG. 2b, and the phase 111 (6 atoms) per FIG. 2c. The probability of undesired water formation on phase 110 is one third of that on phase 100, and one fifth of that on phase 111. Thus, for selective formation of hydrogen peroxide product, the catalyst must expose as much as possible of the Pd phase 110 or the similar phases 220, 300, 440 etc. 」
『異なる結晶相を持っているパラジウム触媒といった活性金属触媒の表面構造は、図2に模擬的に示されている。図2aに示されている110相の各パラジウム原子は2つの原子とのみ隣接するものの、図2bの100相では4つの原子と隣接し、図2cの111相では6つの原子と隣接しており、共により多くの原子に取り囲まれている。110相が好ましくない水を形成する確率は、100相の3分の1であり、111相の5分の1である。したがって、過酸化水素を形成するために選択される形態として、パラジウム触媒は、できる限り110相もしくはこれと類似する220相、300相、440相等を露出させるべきである。』

(d)明細書第6欄第17?22行
「The catalysts of this invention are prepared by providing the controlling precursor solution which contains a dissolved noble metal salt such as palladium chloride and negatively charged ionic water soluble control polymer having molecular weight of 300-8000, such as sodium polyacrylate having molecular weight of about 1200. 」
『本発明の触媒は、溶解している塩化パラジウムといった貴金属塩と、分子量が約1200であるポリアクリル酸ナトリウムといった分子量が300?8000である調整されたポリマーが溶解した負帯電イオン水とを含む調整された前駆体溶液を形成することにより準備される。』

(e)明細書第6欄第35?54行
「For making the catalyst samples, the desired amount of palladium chloride (Pd Cl.sub.2) was dissolved in a 0.4% hydrochloric acid (HCl) to form a first solution, and a second solution of the sodium polyacrylate in aqueous solution was added to the first solution to provide a metal to ionic polymer molar ratio of 1:0.5-1:1.5. Then a third solution of platinum chloride solution was added to provide a palladium to platinum weight ratio in a range of 20:1 to 100:1. The combined solution was then purged with 100 ml/min nitrogen flow for 1 hour, and then reduced by 100 ml/min hydrogen for 20 minutes, and the palladium-sodium polyacrylate precursor solution is formed. The precursor material is mixed with the selected carbon black catalyst support powder so that the support is impregnated with the precursor solution. After the catalyst sample was dried overnight, the metal was further reduced in hydrogen at temperature of 250-350℃. for 10 20 hours and the polymer removed, thereby leaving the metal crystal in a 110 and/or 220 phase exposition. The final catalyst should preferably have a palladium loading between about 0.5 to 0.7 wt. %. 」
『触媒サンプルの作り方について、望ましい量の塩化パラジウムが溶解した0.4%塩酸の第1の水溶液を調整し、そして、ポリアクリル酸ナトリウム溶液からなる第2の水溶液は、イオン化されたポリマーに対する金属(パラジウム)のモル比が1:0.5?1:1.5となるように第1の水溶液に加えられる。さらに、塩化白金水溶液からなる第3の水溶液は、白金に対するパラジウムの重量比が20:1?100:1の範囲になるように加えられる。混合水溶液は、さらに、100ml/minの窒素流で1時間パージされた後に100 ml/minの水素で20分間還元され、パラジウム-ポリアクリル酸ナトリウムの前駆体水溶液が形成される。前駆体物質は、触媒担持粉体として選ばれたカーボンブラックと一緒に混合され、これにより触媒担体は前駆体水溶液で含浸される。その後、触媒サンプルは一晩乾燥され、金属は250?350℃の温度の水素で10?20時間さらに還元され、ポリマーは除去され、110及び/又は220相の金属結晶が露出する。最終触媒は好ましくは約0.5?0.7重量%の間で配置されたパラジウムを有するべきである。』

(f)上記(b)、(c)、(e)の記載からして、引用例には、「カーボンブラック粉体上に複数のパラジウム原子が配置され、配置された複数のパラジウム原子の表面部が110相であり、110相の各パラジウム原子が2つの原子とのみ隣接する」ことが記載されているということができる。

(g)上記(c)、(e)の記載からして、引用例には、「前駆体物質としてのパラジウム[複数のパラジウム原子]-ポリアクリル酸ナトリウムとカーボンブラック粉体とが一緒に混合されて、ポリアクリル酸ナトリウムとカーボンブラック粉体とが結合する」ことが記載されているということができる。

上記(a)ないし(e)の記載事項及び(f)、(g)の検討事項より、引用例には
「カーボンブラック粉体と、
カーボンブラック粉体上に配置される複数のパラジウム原子と
を含み、
配置された複数のパラジウム原子の表面部が110相であり、110相の各パラジウム原子が2つの原子とのみ隣接し、および、
前駆体物質としてのパラジウム[複数のパラジウム原子]-ポリアクリル酸ナトリウムとカーボンブラック粉体とが一緒に混合されて、ポリアクリル酸ナトリウムとカーボンブラック粉体とが結合し、
ポリアクリル酸ナトリウムの分子量は約1200である、
水素および酸素から過酸化水素の直接合成を触媒するための、複数のパラジウム原子の表面部が110相である最終触媒。」の発明(以下、「引用例記載の発明」という。)が開示されている。

(2-3-2)対比・判断
本願補正発明と引用例記載の発明とを対比する。
○引用例記載の発明の「カーボンブラック粉体」、「複数のパラジウム原子」、「パラジウム原子」、「表面部」、「ポリアクリル酸ナトリウム」、「複数のパラジウム原子の表面部が110相である」、「最終触媒」は、
本願補正発明の「担体材料」、「反応性触媒粒子」又は「複数の反応性触媒粒子」、「触媒反応性原子」又は「貴金属、卑遷移金属、希土類金属および固体非金属を含む群から選択される少なくとも1つの構成要素」、「最上位面層すなわち外面層」、「固定材料」又は「ポリマー、オリゴマーまたは有機化合物のうちの少なくとも1つのタイプ」、「制御された配位構造を有する」、「担持型反応性触媒」にそれぞれ相当する。

○引用例記載の発明の「カーボンブラック粉体(担体材料)上に配置される複数のパラジウム原子」は、本願補正発明の「担体材料上に配置される複数の反応性触媒粒子であって、貴金属、卑遷移金属、希土類金属および固体非金属を含む群から選択される少なくとも1つの構成要素を含む複数の触媒反応性原子を含む反応性触媒粒子」に相当する。

○引用例記載の発明の「配置された複数のパラジウム原子の表面部(最上位面層すなわち外面層)が110相であり、110相の各パラジウム原子(触媒反応性原子)が2つの原子とのみ隣接し」は、本願補正発明の「触媒反応性原子は、触媒反応性原子の最上位面層すなわち外面層の少なくとも約50%が最隣接原子配位数2を有するように配置されており」に相当する。

○引用例記載の発明の「前駆体物質としてのパラジウム[複数のパラジウム原子]-ポリアクリル酸ナトリウムとカーボンブラック粉体(担体材料)とが一緒に混合されて、ポリアクリル酸ナトリウム(固定材料)(ポリマー、オリゴマーまたは有機化合物のうちの少なくとも1つのタイプ)とカーボンブラック粉体とが結合し」は、本願補正発明の「固定材料は、担体材料中と固定材料中との間の結合によって反応性触媒粒子の少なくとも一部分を担体材料に結合する、ポリマー、オリゴマーまたは有機化合物のうちの少なくとも1つのタイプを含み、固定材料の少なくとも一部分は、触媒反応性原子の最下層と担体材料との間に配置されており」に相当する。

上記より、本願補正発明と引用例記載の発明とは、
「担体材料と、
該担体材料上に配置される複数の反応性触媒粒子であって、貴金属、卑遷移金属、希土類金属および固体非金属を含む群から選択される少なくとも1つの構成要素を含む複数の触媒反応性原子を含む反応性触媒粒子と
を含み、
該触媒反応性原子は、該触媒反応性原子の最上位面層すなわち外面層の少なくとも約50%が最隣接原子配位数2を有するように配置されており、および、
固定材料は、該担体材料中と該固定材料中との間の結合によって反応性触媒粒子の少なくとも一部分を該担体材料に結合する、ポリマー、オリゴマーまたは有機化合物のうちの少なくとも1つのタイプを含み、該固定材料の少なくとも一部分は、該触媒反応性原子の最下層と該担体材料との間に配置されている、
水素および酸素から過酸化水素の直接合成を触媒するための、制御された配位構造を有する担持型反応性触媒。」という点で一致し、以下の点で一応相違している。(以下の相違点における「」内の事項が相違に係る本願の発明特定事項である。)

<相違点1>
本願補正発明では、「固定材料の少なくとも約90%は直鎖状である」のに対して、
引用例記載の発明では、ポリアクリル酸ナトリウム(固定材料)の分子量は約1200である点。

<相違点2>
本願補正発明では、固定材料は、担体材料中と固定材料中との間の「化学」結合によって反応性触媒粒子の少なくとも一部分を担体材料に「化学的に」結合する、ポリマー、オリゴマーまたは有機化合物のうちの少なくとも1つのタイプを含み、「化学結合は、担体材料中の官能基と固定材料中の官能基との縮合反応生成物であり、」固定材料の少なくとも一部分は、触媒反応性原子の最下層と担体材料との間に配置されているのに対して、
引用例記載の発明では、前駆体物質としてのパラジウム[複数のパラジウム原子]-ポリアクリル酸ナトリウムとカーボンブラック粉体(担体材料)とが一緒に混合されて、ポリアクリル酸ナトリウム(固定材料)(ポリマー、オリゴマーまたは有機化合物のうちの少なくとも1つのタイプ)とカーボンブラック粉体とが結合している、つまり、固定材料は、担体材料中と固定材料中との間の結合によって反応性触媒粒子の少なくとも一部分を担体材料に結合する、ポリマー、オリゴマーまたは有機化合物のうちの少なくとも1つのタイプを含み、固定材料の少なくとも一部分は、触媒反応性原子の最下層と担体材料との間に配置されている点。

上記両相違点を検討する。
<相違点1>について
本願の当初明細書には、「【0094】
例えば、分子量1200を有するポリアクリル酸(反復単位を約16単位有し、約3?5nmの表面直径を有する触媒粒子を生成する)は、枝分れを最小限しか持たないと考えられる。現時点のデータに基づくと、分子量1200を有するポリアクリル酸を含む分子の少なくとも約80?90%は直鎖状であると考えられる。これは、非特許文献2に見出されるポリマーの枝分れに関連する教示と矛盾しない。この文献は、ポリエチレンの高転化に関して、『側鎖は、平均して15主鎖反複単位に1回の頻度で生じる可能性がある』と述べている。したがって、少なくともポリエチレンおよび同様のポリマーに関しては、15単位よりも少ない反復単位を有するオリゴマーは、枝分れ点を持たない完全な直鎖状であることが予想される。したがって、16単位のポリアクリル酸オリゴマーは、たとえあったとしても、特に、枝分れの発生を低減させるために反応条件がより慎重に制御されている場合には、枝分れの発生率がほんの僅かであると予想される。」及び「【0130】
塩酸0.15%を含む酸性水溶液1000mlに塩化パラジウム1.333gを溶解することによって第1の溶液を調製した。45%ポリアクリル酸ナトリウム溶液15gを水100mlに溶解することによって第2の溶液を調製した。ポリアクリル酸ナトリウムの分子量は1200であった。このポリアクリル酸ナトリウムのバッチは、直鎖状分子を約80?90%含むと考えられた。次いで、塩化白金0.2614gを水1000mlに溶解することによって第3の溶液を調製した。その後、第1の溶液300ml、第2の溶液40mlおよび第3の溶液48mlを一緒に混合した。次いで組合せ溶液を、全容積が4000mlになるまで水で希釈した。」との記載があり、これらは、ポリアクリル酸ナトリウム(固定材料)の分子量が1200であれば、これの約80?90%が直鎖状になることを示すものであり、そうである以上、「ポリアクリル酸ナトリウム(固定材料)の分子量は約1200である」引用例記載の発明のポリアクリル酸ナトリウム(固定材料)についても、これの約80?90%が直鎖状になっているとみるのが妥当である。
したがって、相違点1は、実質的な相違ではない。

<相違点2>について
本願の当初明細書には、「【0129】
(実施例1)
炭素担体上のPd/Ptの制御された配位触媒の調製
この実施例は、配位数が2に制御された貴金属原子の最上位層すなわち外層を有する炭素担体上の貴金属触媒の調製を説明する。活性貴金属成分はパラジウムと白金の混合物を含む。触媒担体はカーボンブラックである。
【0130】
塩酸0.15%を含む酸性水溶液1000mlに塩化パラジウム1.333gを溶解することによって第1の溶液を調製した。45%ポリアクリル酸ナトリウム溶液15gを水100mlに溶解することによって第2の溶液を調製した。ポリアクリル酸ナトリウムの分子量は1200であった。このポリアクリル酸ナトリウムのバッチは、直鎖状分子を約80?90%含むと考えられた。次いで、塩化白金0.2614gを水1000mlに溶解することによって第3の溶液を調製した。その後、第1の溶液300ml、第2の溶液40mlおよび第3の溶液48mlを一緒に混合した。次いで組合せ溶液を、全容積が4000mlになるまで水で希釈した。
【0131】
次いで希釈された組合せ溶液を、連続窒素流で1時間パージし、次いで連続水素流によって20分間還元した。この組合せ溶液混合物を「触媒前駆体溶液」と称する。
【0132】
次いで触媒前駆体溶液を、表面積200m^(2)/gを有するカーボンブラック24gと混合した。前駆体溶液/カーボンブラック混合物を17時間混合して、触媒前駆体溶液による担体の完全な含浸を保証した。次いで、含浸カーボンブラックを一晩乾燥させて、カーボンブラック担体に付着されたパラジウム、白金およびポリアクリレートからなる触媒錯体を含む中間前駆体組成物を得た。
【0133】
乾燥後、この中間前駆体組成物を300℃の連続水素流下で17時間還元した。このプロセスを完了した後、本発明に従う反応性担持型触媒の一例である活性な制御された配位の触媒が得られた。この反応性担持型触媒の貴金属装填量は0.7重量%であった。」との記載があり、これからして、本願補正発明における「固定材料(ポリアクリル酸ナトリウム)と担体材料(カーボンブラック)の結合」は、大略、
塩酸(低濃度)の酸性水溶液に塩化パラジウムを溶解した第1の溶液と、ポリアクリル酸ナトリウム(分子量1200)を溶解した第2の溶液と、塩化白金を溶解した第3の溶液とを混合し、次いで混合溶液を窒素流で1時間パージした後に水素流で20分間還元し、この溶液(触媒前駆体溶液)をカーボンブラックと混合して乾燥し、水素で3百℃及び十数時間レベル還元することで行われるものであり、
一方、引用例には、上記2.(2-3-1)(d)、(e)の記載があり、これらからして、引用例記載の発明の「ポリアクリル酸ナトリウム(固定材料)とカーボンブラック(担体材料)の結合」は、大略、
塩酸(低濃度)の酸性水溶液に塩化パラジウムを溶解した第1の溶液と、ポリアクリル酸ナトリウム(分子量1200)を溶解した第2の溶液と、塩化白金を溶解した第3の溶液とを混合し、次いで混合溶液を窒素流で1時間パージした後に水素流で20分間還元し、この溶液(触媒前駆体溶液)をカーボンブラックと混合して乾燥し、水素で3百℃及び十数時間レベル還元することで行われるものである。
そうすると、本願補正発明と引用例記載の発明とは、「ポリアクリル酸ナトリウム(固定材料)とカーボンブラック(担体材料)の結合」について、上記の点で一致しているので、両者の結合形態は同じである、つまり、引用例記載の発明の、担体材料中と固定材料中との間の結合によって反応性触媒粒子の少なくとも一部分を担体材料に結合する、ポリマー、オリゴマーまたは有機化合物のうちの少なくとも1つのタイプを含み、固定材料の少なくとも一部分は、触媒反応性原子の最下層と担体材料との間に配置されていることは、本願補正発明と同じく、固定材料は、担体材料中と固定材料中との間の「化学」結合によって反応性触媒粒子の少なくとも一部分を担体材料に「化学的に」結合する、ポリマー、オリゴマーまたは有機化合物のうちの少なくとも1つのタイプを含み、「化学結合は、担体材料中の官能基と固定材料中の官能基との縮合反応生成物であり、」固定材料の少なくとも一部分は、触媒反応性原子の最下層と担体材料との間に配置されているということができる。
したがって、相違点2は、実質的な相違ではない。

よって、本願補正発明は、引用例に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものである。

(2-3-3)まとめ
上記からして、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(3-1)本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成22年6月18日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された、上記2.(2-1)の(補正前)で示したとおり特定されるものである。

(3-2)引用例の記載事項
原査定の拒絶理由において引用した引用例の記載事項は、上記2.(2-3-1)で示したとおりである。

(3-3)対比・判断
上記2.(2-2)で示したように、本件補正における請求項1の補正事項は、特許請求の範囲の減縮を目的にするものであることから、本願発明は、本願補正発明を包含している。
そうすると、本願補正発明が、上記2.(2-3-2)で示したように、引用例に記載された発明であるので、本願補正発明を包含する本願発明も同じく、引用例に記載された発明であるということができ、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものである。

次に、請求人は、回答書において、特許請求の範囲の補正案を提示しているので、これについて検討する。
補正案における特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正(案)発明」という。)は、以下で示したとおり特定されるものである。
「【請求項1】
シリカ、アルミナ、金属酸化物、黒鉛およびポリマーからなる群から選択される担体材料と、
該担体材料上に配置される複数の反応性触媒粒子であって、貴金属、卑遷移金属、希土類金属および固体非金属を含む群から選択される少なくとも1つの構成要素を含む複数の触媒反応性原子を含む反応性触媒粒子と
を含み、
該触媒反応性原子は、該触媒反応性原子の最上位面層すなわち外面層の少なくとも約50%が最隣接原子配位数2を有するように配置されており、および、
固定材料は、該担体材料中と該固定材料中との間の化学結合によって反応性触媒粒子の少なくとも一部分を該担体材料に化学的に結合する、ポリマー、オリゴマーまたは有機化合物のうちの少なくとも1つのタイプを含み、該化学結合は、該担体材料中の官能基と該固定材料中の官能基との縮合反応生成物であり、該固定材料の少なくとも一部分は、該触媒反応性原子の最下層と該担体材料との間に配置されており、
該固定材料の少なくとも90%は直鎖状である
ことを特徴とする、水素および酸素から過酸化水素の直接合成を触媒するための、制御された配位構造を有する担持型反応性触媒。」

本願補正(案)発明は、本願補正発明の「担体材料」を「シリカ、アルミナ、金属酸化物、黒鉛およびポリマーからなる群から選択される担体材料」とし、同「約90%」を「90%」とするものである。
本願補正(案)発明と引用例記載の発明とを対比すると、以下の点で一応相違し、上記2.(2-3-2)で示した一致点で一致している。
<相違点α>
本願補正(案)発明では、「固定材料の少なくとも90%は直鎖状である」のに対して、
引用例記載の発明では、ポリアクリル酸ナトリウム(固定材料)の分子量は約1200である点。

<相違点β>
上記2.(2-3-2)で示した<相違点2>と同じ。

<相違点γ>
本願補正(案)発明では、「シリカ、アルミナ、金属酸化物、黒鉛およびポリマーからなる群から選択される」担体材料であるのに対して、
引用例記載の発明では、カーボンブラック(担体材料)である点。

上記各相違点について検討する。
<相違点α>及び<相違点β>について
上記2.(2-3-2)で示した「<相違点1>について」及び「<相違点2>について」と同じ理由より、相違点α及び相違点βは、実質的な相違ではない。

<相違点γ>について
引用例には、上記2.(2-3-1)(b)で示したように、『好適な触媒担持物質は、粒子径サイズが5?100万ナノメータ、好ましくは15?1000ナノメータで、表面積が50?500m^(2)/gであるアルミナ、活性炭、カーボンブラック、シリカの粉体のいずれか、好ましくはカーボンブラックである。』との記載があり、カーボンブラック以外に、シリカ、アルミナを触媒担持物質(担体材料)として用いることが示されているので、相違点γは、実質的な相違ではない。
更にいうと、引用例記載の発明において、担体材料として、カーボンブラックをシリカ、アルミナに換えることは、上記(b)に基いて当業者であれば容易に想起し得ることである。

したがって、本願補正(案)発明は、特許法第29条第1項第3号及び同第2項の規定に該当し、特許を受けることができないものである。
よって、請求人提示の補正案を採用することはできない。

(3-4)むすび
したがって、本願発明は、引用例に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものである。
それゆえ、本願は、特許請求の範囲の請求項2ないし99に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-10-25 
結審通知日 2012-10-30 
審決日 2012-11-12 
出願番号 特願2006-520177(P2006-520177)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (B01J)
P 1 8・ 575- Z (B01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡田 隆介  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 斉藤 信人
真々田 忠博
発明の名称 制御された配位構造を有する担持型触媒および該触媒の調製方法  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  
復代理人 主代 静義  

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