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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L |
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管理番号 | 1272808 |
審判番号 | 不服2010-23334 |
総通号数 | 162 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-06-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-10-15 |
確定日 | 2013-04-10 |
事件の表示 | 特願2006-103246「垂直構造3族窒化物発光素子およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月26日出願公開、特開2006-295162〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は、平成18年4月4日(パリ条約による優先権主張 2005年4月7日、大韓民国)に特許出願したものであって、平成21年9月18日に手続補正がなされたが、平成22年6月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年10月15日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同時に手続補正がなされた後、当審において、平成24年3月22日付けで拒絶理由が通知されたものである。 2 本願発明 本願の請求項に係る発明は、平成22年10月15日になされた手続補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「母基板上面に凸凹パターンを形成する段階と、 凸凹パターンが形成された上記母基板上面にアンドープGaN層を形成する段階と、 上記アンドープGaN層上にn-ドープAl_(x)Ga_(y)In_((1-x-y))N(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)層を形成する段階と、 上記n-ドープAl_(x)Ga_(y)In_((1-x-y))N(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)層上に活性層を形成する段階と、 上記活性層上にp型クラッド層を形成する段階と、 上記p型クラッド層上に導電性基板を形成する段階と、 上記アンドープGaN層に形成された凸凹パターンを露出させるよう上記母基板を除去する段階及び 上記アンドープGaN層の露出面の一部領域上に上記アンドープGaN層と接触するn側電極を形成する段階を含み、 上記母基板上面に凸凹パターンを形成する時、上記母基板上面のうちn側電極に相応する領域には凸凹パターンを形成しないことを特徴とする垂直構造3族窒化物発光素子の製造方法。」 3 当審において平成24年3月22日付けで通知した拒絶の理由 当審において平成24年3月22日付けで通知した拒絶の理由は、以下のとおりのものである。 「本件出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 本件出願の発明の詳細な説明の記載は、発明を実施するために必要な事項と考えられる下記1.?3.等の点について、当業者が理解できる程度に記載したものとはいえない。 1.本願請求項1の「凸凹パターンが形成された上記母基板上面にアンドープGaN層を形成する段階」について、凸凹パターン上にアンドープGaN層を形成しようとすると、アンドープGan層に結晶欠陥が生じる等の困難が予想されるところ、具体的にどのようにすれば、凸凹パターン153を有する母基板151上面にアンドープGaN層111を成長させることができるのか、そのように形成されたアンドープGaN層111がどのようなものであるのか。 2.本願請求項1の「上記アンドープGaN層に形成された凸凹パターンを露出させるよう上記母基板を除去する段階」について、母基板に凸凹パターンがあるために除去工程には困難が伴うことが予想されるところ、どのような工程によって、母基板を除去し、図12及び図13に示されるような、アンドープGaN層111表面に形成された凸凹パターン121が得られるのか。明細書の【0053】には、「例えばレーザービームを利用したレーザーリフトオフ(laser lift-off)工程により除去されることが可能である。」と記載されているが、レーザーリフトオフとは、どの部材のどの個所にどのような処理を行うのか。 3.本願請求項1の「アンドープGaN層」について、明細書の【0038】には、「アンドープGaN層111は電流を拡散させる特性を有しているため、n側電極123から印加される電圧によって発生される電流を側方向に広く拡散させることとなる。」と記載されている。「アンドープGaN層」は、単に抵抗を増大させるだけとも考えられるところ、なぜ電流を拡散させる特性を有し、n側電極123から印加される電圧によって発生される電流を側方向に広く拡散させることとなるのか。 したがって、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。」 4 当審の判断 (1)本願発明の「凸凹パターンが形成された上記母基板上面にアンドープGaN層を形成する段階」について ア 本願明細書の発明の詳細な説明及び図面には、本願発明の「凸凹パターンが形成された上記母基板上面にアンドープGaN層を形成する段階」との特定事項に関し、 「【0035】 後述する通り、上記凸凹パターン121は、他の基板(例えば、 サファイア 基板)に形成された凸凹パターンがアンドープGaN層111に転写(transfer)されることによって作られる。従って、上記凸凹パターン121は非常に正確な寸法で規則的に形成されることが可能である。充分な散乱効果を得るため、凸凹パターン121の間隔と幅そして高さは20nmないし100μmの範囲にあることが好ましい。」、 「【0049】 次に、図6を参照すると、上記凸凹パターン153が形成された母基板151上面にアンドープGaN層111、n-ドープAlxGayIn(1-x-y)N層109、活性層107及びp型クラッド層105を順次に成長させる。これに伴い、n型クラッド層110、活性層107及びp型クラッド層105からなる発光構造物が形成される。凸凹パターン153を有する母基板151上面にアンドープGaN層111を成長させることにより、上記凸凹パターン153は母基板151と接するアンドープGaN層111表面上に転写される。これに伴い、アンドープGaN層111の下面にも凸凹パターン(図9の図面符号121参照)が形成される。 【0050】 アンドープGaN層111に形成された凸凹パターン121の間隔と幅そして高さは、母基板151に形成された凸凹パターン153の間隔および幅そして高さと実質的に同じになる。図5及び図11を参照して既に説明した通り‘n側電極に相応する領域(図11のA領域)'には母基板151の凸凹パターン153が形成されていないため、その領域ではアンドープGaN層111の凸凹パターン121も形成されなくなる。」 との記載があり、該記載以上に、本願発明の上記特定事項を具体的に説明する記載はない。 イ しかるに、本願発明のように、凸凹パターン上にアンドープGaN層を形成しようとすると、アンドープGan層に結晶欠陥が生じる等の問題が予想されるところであり、本願明細書の上記アの記載を見ても、具体的にどのようにすれば、凸凹パターン153を有する母基板151上面にアンドープGaN層111を成長させるのか、また、形成されたアンドープGaN層111がどのようなものであるのか不明であり、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。 ウ 請求人は、平成24年6月27日付け意見書において、 「これについて、出願時の技術常識に鑑みて具体的に説明しますと、一般に、半導体成長用基板上に発光構造物を成長させるためには、バッファ層としてアンドープ半導体層を形成します。例えば、半導体成長用基板として利用されるサファイア基板と、その上面に積層されるGaNからなる半導体層との格子定数の差異を緩和し、GaN層の結晶性を増大させるためには、アンドープGaNを使用することができます。このとき、アンドープGaNは500から600℃の低温で数十から数百Åの厚さに成長させて形成します。このように、本発明において母基板上にアンドープGaN層を形成する場合、工程の序盤に低温で成長させてバッファ層を形成し、その後、高温で成長させる方法を使用すると、アンドープGaN層に結晶欠陥が生じることを防止することができます。また、母基板151が凸凹パターン153を有する場合も、アンドープGaN層に結晶欠陥が生じることを防止することができます。 このとき、アンドープGaN層は半導体層に対して不純物ドーピング工程を別途に行わないものであっても、半導体層に本来存在していた水準の不純物濃度、例えば、窒化ガリウム半導体をMOCVDを利用して成長させると、ドーパントとして使用されるSi等が意図しなくても約10^(14)?10^(18)/cm^(3)の水準に含むようにすることができます。 従って、このような技術常識を考慮すると、請求項1の「凸凹パターンが形成された母基板上面にアンドープGaN層を形成する段階」について、凹凸パターン153を有する母基板上面151にアンドープGaN層111を成長させる方法、また、どのようなアンドープGaN層111が形成されるかは、発明の詳細に当業者が理解できる程度に記載されていることは明らかです。」 と主張する。 しかし、本願発明において、「母基板上にアンドープGaN層を形成する場合、工程の序盤に低温で成長させてバッファ層を形成し、その後、高温で成長させる方法を使用する」ことは、本願明細書に記載されていないし、母基板に凸凹パターンが形成される場合において、バッファ層を形成することにより、結晶欠陥が生じることを防止できると認めるに足る根拠も示されていないから、上記主張は、採用の限りでない。 (2)本願発明の「上記アンドープGaN層に形成された凸凹パターンを露出させるよう上記母基板を除去する段階」について ア 本願明細書の発明の詳細な説明及び図面には、本願発明の「上記アンドープGaN層に形成された凸凹パターンを露出させるよう上記母基板を除去する段階」との特定事項に関し、 「【0053】 次に、図9を参照すると、母基板151を発光構造物から分離、除去する。母基板151は例えばレーザービームを利用したレーザーリフトオフ(laser lift-off)工程により除去されることが可能である。これに伴い、図9に図示された通りアンドープGaN層111の下面に形成された凸凹パターン121が現れることとなる。」、 「【0059】 次に、図15に図示された通り母基板151を分離、除去する。これに伴い、アンドープGaN層111に形成された凸凹パターンが現れることとなる。・・・」 との記載があり、該記載以上に、本願発明の上記特定事項を具体的に説明する記載はない。 イ しかるに、本願発明においては、母基板に凸凹パターンがあるために、母基板151を発光構造物から分離、除去するには困難が伴うことが予想されるところであり、本願明細書の上記アの記載を見ても、どのような工程によって、母基板を除去し、図12及び図13に示されるような、アンドープGaN層111表面に形成された凸凹パターン121が得られるのか、また、レーザーリフトオフとは、どの部材のどの個所にどのような処理を行うのか不明であり、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。 ウ 請求人は、平成24年6月27日付け意見書において、 「これについて、出願時の技術常識に鑑みて検討すると、窒化物系発光素子を製造するとき、基板と窒化物系発光素子との分離工程を行うにあたり、窒化物系発光構造物のクラック(crack)発生等を最小限にするため、基板と窒化物系発光構造物との界面にレーザー(laser)を照射して分離させるレーザーリフトオフ(LLO)方法が主に使用されます。このようなレーザーリフトオフ(LLO)方法は、母基板にレーザービームを照射して母基板と発光構造物とを分離するものです。 このとき、レーザーリフトオフ(LLO)を利用して母基板と発光構造物とを分離する過程において、発光構造物にクラック(crack)が発生しない限度内でレーザービームのエネルギーを高めたり、レーザービームを何度かにわたって照射すると、アンドープGaN層及び凸凹パターンが形成された母基板を容易に除去することができます。 このような技術常識を考慮すると、請求項1の「上記アンドープGaN層に形成された凸凹パターンを露出させるよう上記母基板を除去する段階」について、母基板を除去してアンドープGaN層111表面に形成された凹凸パターン121を得る方法、また、レーザーリフトオフはどの部材のどの個所にどのような処理を行うのかは、発明の詳細に当業者が理解できる程度に記載されていることは明らかです。」 と主張するが、上記主張は、一般的なレーザーリフトオフについて説明するにとどまり、アンドープGaN層に形成された凸凹パターンを露出させるよう母基板を除去する具体的な手法を明らかにするものではないから、採用の限りでない。 (3)本願発明の「アンドープGaN層」が奏する作用効果について ア 本願明細書の発明の詳細な説明及び図面には、本願発明の「アンドープGaN層」が奏する作用効果に関し、 「【0038】 本実施形態によると、垂直構造発光素子100はn-ドープAl_(x)Ga_(y)In_((1-x-y))N層109とn側電極123との間にアンドープGaN層111を含んでいる。このようにn側電極123の下にアンドープGaN層111を位置させることで、従来問題になっていたn側電極123の下での電流集中現象を防止することが可能である。すなわち、アンドープGaN層111は電流を拡散させる特性を有しているため、n側電極123から印加される電圧によって発生される電流を側方向に広く拡散させることとなる。これに伴い、発光素子100の動作電圧(Vf)が減少され、ESD(Electrostatic Discharge:静電気放電)特性が向上され、素子の寿命が改善される。」 との記載があり、該記載以上に、上記作用効果を具体的に説明する記載はない。 イ 上記アによれば、本願明細書において、本願発明の「アンドープGaN層」は、電流を拡散させる特性を有しているため、n側電極123から印加される電圧によって発生される電流を側方向に広く拡散させるとされていることが認められる。 ウ しかし、上記イのように、本願発明の「アンドープGaN層」が、なぜ、電流を拡散させる特性を有しており、n側電極123から印加される電圧によって発生される電流を側方向に広く拡散させるのか不明であり、本願の発明の詳細な説明は、当業者が、本願発明において「アンドープGaN層」を形成することの技術上の意義を理解するために必要な事項を記載したものとはいえない。 エ 請求人は、平成24年6月27日付け意見書において、 「これについて出願時の技術常識に鑑みて検討すると、アンドープGaN層は半導体層に不純物ドーピング工程を別途に行わないものであっても、半導体層に本来存在していた水準の不純物濃度、例えば、窒化ガリウム半導体をMOCVDを利用して成長させると、ドーパントとして使用されるSi等が意図しなくても約10^(14)?10^(18)/cm^(3)の水準に含まれたものであることができます。よって、n側電極123下に形成されたアンドープGaN層111は、その下部に形成されたn-ドープAl_(x)Ga_(y)In_((1-x-y))N層109に比べて高い抵抗を有しますが、一定の電気伝導性を有するようになります。 アンドープGaN層111なしに直接n-ドープAl_(x)Ga_(y)In_((1-x-y))N層109の上部にn側電極123が形成される場合には、n側電極123に外部から電気信号が印加されると、電流が電極の下部領域に集中する現象が発生します。 しかし、アンドープGaN層111の上部に形成されたn側電極123に外部から電気信号が印加されると、比較的抵抗が高いアンドープGaN層によって電流が電極の下部領域に集中しないため、それ以外の領域に電流が拡散できます。 以上の技術常識の内容を踏まえると、請求項1の「アンドープGaN層」はなぜ電流を拡散させる特性を有し、n側電極123から印加される電圧によって発生される電流を側方面に広く拡散させることとなるのかは、発明の詳細に当業者が理解できる程度に記載されていることは明らかです。」 と主張するが、なぜ「比較的抵抗が高いアンドープGaN層によって電流が電極の下部領域に集中しないため、それ以外の領域に電流が拡散でき」るのか不明であるから、上記主張は、採用することができない。 (4)まとめ 上記(1)ないし(3)のとおり、本願の発明の詳細な説明は、経済産業省令(特許法施行規則第24条の2)で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 5 むすび 以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 よって、結論のとおり、審決する。 |
審理終結日 | 2012-11-12 |
結審通知日 | 2012-11-13 |
審決日 | 2012-11-27 |
出願番号 | 特願2006-103246(P2006-103246) |
審決分類 |
P
1
8・
536-
WZ
(H01L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 吉野 三寛 |
特許庁審判長 |
服部 秀男 |
特許庁審判官 |
江成 克己 北川 創 |
発明の名称 | 垂直構造3族窒化物発光素子およびその製造方法 |
代理人 | 三好 秀和 |
代理人 | 伊藤 正和 |
代理人 | 特許業務法人共生国際特許事務所 |