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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1273104
審判番号 不服2010-25612  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-11-15 
確定日 2013-04-17 
事件の表示 特願2001-564278「ポリマー組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 9月 7日国際公開、WO01/64787、平成15年 8月26日国内公表、特表2003-525334〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は,平成13年3月2日(優先権主張2000年3月2日,(DE)ドイツ)を国際出願日とする出願であって,平成22年3月1日付で通知した拒絶の理由に対し,同年6月9日付で手続補正されたが,同年7月7日付で拒絶査定がされ,これに対し,同年11月15日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。
その後,平成22年12月24日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され,特許法第162条所定の審査がされた結果,平成23年3月4日付けで同法164条第3項の所定の報告がなされ,平成24年5月9日付で審尋を行ったところ,これに対し同年7月27日付で回答書が提出されたものである。

第2.平成22年11月15日付の手続補正についての補正の却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成22年11月15日付の手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成22年11月15日付の手続補正(以下,「本件補正」という。)は,特許請求の範囲に

<本件補正前>
「【請求項1】 A) 0から99.9重量%までのポリマーAであって,少なくとも,
A1) モノマーA1としてのC4-からC10-ジエン,および
A2) モノマーA2としてのビニル芳香族C8-からC20-モノマー,
から得られるポリマーA;
または,
B) 0から99.9重量%までのポリマーBであって,少なくとも,
B1) モノマーB1としてのC2-からC20-オレフィン,および
B2) モノマーB2としての,C2-からC10-ビニルアルコールおよびC2-からC10-カルボン酸からのモノマー,
から得られるポリマーB;
および,
C) 少なくとも1つのビニル芳香族モノマーから得られる0から99.9重量%までのポリマーC;
D) 少なくとも1つのC4-からC10-ジエンおよび少なくとも1つの臭素から得られる,5から50重量%までの臭素含有ポリマーD;
E) 0から40重量%までの充填剤;
を有してなる粘性ポリマー組成物であって,
前記成分AからEまでの合計が100重量%となり,前記ポリマー組成物が2つの成分AおよびBの内の少なくとも1つを常に含有することを特徴とする粘性ポリマー組成物。
【請求項2】 前記ポリマーAがブロックコポリマーであることを特徴とする請求項1記載のポリマー組成物。
【請求項3】 前記ポリマーAにおいて,モノマーA1から得られるブロックが,モノマーA2から得られるポリマーのブロックに囲まれていることを特徴とする請求項2記載のポリマー組成物。
【請求項4】 前記成分Eが酸化ケイ素化合物であることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載のポリマー組成物。
【請求項5】 請求項1から4いずれか1項記載の成分A)からE)が互いに混合されることを特徴とするポリマー組成物を製造する方法。
【請求項6】 請求項1から4いずれか1項記載の成分A)からE)を混合させることにより得られるポリマー組成物。
【請求項7】 以下の特性:
a) 50から80%までの範囲にあるエネルギー損失,
b) 80から150N/mmまでの範囲にある200Nから400Nまででの動剛性,
c) 100から400N/mmまでの範囲にある1000Nから1500Nまででの動剛性,
d) 0.3から0.8g/cm3までの範囲にある比重,
e) 1から30%までの範囲にある弾性;
の内の少なくとも1つ有することを特徴とする請求項1から4および6いずれか1項記載のポリマー組成物。
【請求項8】 請求項1から4と6および7いずれか1項記載のポリマー組成物を有してなるシューソール。
【請求項9】 シューソールを製造するための,請求項1から4と6および7いずれか1項記載のポリマー組成物の使用。」

とあったものを

<本件補正後>
「【請求項1】 A) 0から99.9重量%までのポリマーAであって,少なくとも,
A1) モノマーA1としてのC4-からC10-ジエン,および
A2) モノマーA2としてのビニル芳香族C8-からC20-モノマー,
から得られるポリマーA;
および,
C) 少なくとも1つのビニル芳香族モノマーから得られる0から99.9重量%までのポリマーC;
D) 少なくとも1つのC4-からC10-ジエンおよび少なくとも1つの臭素から得られる,5から50重量%までの臭素含有ポリマーD;
E) 0から40重量%までの充填剤;
を有してなる粘性ポリマー組成物であって,
前記成分A,C,DおよびEの合計が100重量%となることを特徴とする粘性ポリマー組成物。
【請求項2】 B) 0から99.9重量%までのポリマーBであって,少なくとも,
B1) モノマーB1としてのC2-からC20-オレフィン,および
B2) モノマーB2としての,C2-からC10-ビニルアルコールおよびC2-からC10-カルボン酸からのモノマー,
から得られるポリマーB;
および,
C) 少なくとも1つのビニル芳香族モノマーから得られる0から99.9重量%までのポリマーC;
D) 少なくとも1つのC4-からC10-ジエンおよび少なくとも1つの臭素から得られる,5から50重量%までの臭素含有ポリマーD;
E) 0から40重量%までの充填剤;
を有してなる粘性ポリマー組成物であって,
前記成分B,C,DおよびEの合計が100重量%となることを特徴とする粘性ポリマー組成物。
【請求項3】 前記ポリマーAがブロックコポリマーであることを特徴とする請求項1記載のポリマー組成物。
【請求項4】 前記ポリマーAにおいて,モノマーA1から得られるブロックが,モノマーA2から得られるポリマーのブロックに囲まれていることを特徴とする請求項3記載のポリマー組成物。
【請求項5】 前記成分Eが酸化ケイ素化合物であることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載のポリマー組成物。
【請求項6】 請求項1から5いずれか1項記載の成分A,C,DおよびE,または成分B,C,DおよびEが互いに混合されることを特徴とするポリマー組成物を製造する方法。
【請求項7】 請求項1から5いずれか1項記載の成分A,C,DおよびE,または成分B,C,DおよびEを混合させることにより得られるポリマー組成物。」

と補正しようとするものである。

2.本件補正の目的
本件補正は,本件補正前の請求項1を本件補正後の請求項1および請求項2(下記を参照。なお,下線は,当審で付した。)とすること,本件補正前の請求項2乃至6を,それぞれ,本件補正後の請求項3乃至7とすること,および,本件補正前の請求項7乃至9を削除することを目的とするものである。

<本件補正前の請求項1>
「A) 0から99.9重量%までのポリマーAであって,少なくとも,
A1) モノマーA1としてのC4-からC10-ジエン,および
A2) モノマーA2としてのビニル芳香族C8-からC20-モノマー,
から得られるポリマーA;
または,
B) 0から99.9重量%までのポリマーBであって,少なくとも,
B1) モノマーB1としてのC2-からC20-オレフィン,および
B2) モノマーB2としての,C2-からC10-ビニルアルコールおよびC2-からC10-カルボン酸からのモノマー,
から得られるポリマーB;
および,
C) 少なくとも1つのビニル芳香族モノマーから得られる0から99.9重量%までのポリマーC;
D) 少なくとも1つのC4-からC10-ジエンおよび少なくとも1つの臭素から得られる,5から50重量%までの臭素含有ポリマーD;
E) 0から40重量%までの充填剤;
を有してなる粘性ポリマー組成物であって,
前記成分AからEまでの合計が100重量%となり,前記ポリマー組成物が2つの成分AおよびBの内の少なくとも1つを常に含有することを特徴とする粘性ポリマー組成物。」

<本件補正後の請求項1>
「A) 0から99.9重量%までのポリマーAであって,少なくとも,
A1) モノマーA1としてのC4-からC10-ジエン,および
A2) モノマーA2としてのビニル芳香族C8-からC20-モノマー,
から得られるポリマーA;
および,
C) 少なくとも1つのビニル芳香族モノマーから得られる0から99.9重量%までのポリマーC;
D) 少なくとも1つのC4-からC10-ジエンおよび少なくとも1つの臭素から得られる,5から50重量%までの臭素含有ポリマーD;
E) 0から40重量%までの充填剤;
を有してなる粘性ポリマー組成物であって,
前記成分A,C,DおよびEの合計が100重量%となることを特徴とする粘性ポリマー組成物。」

<本件補正後の請求項2>
「B) 0から99.9重量%までのポリマーBであって,少なくとも,
B1) モノマーB1としてのC2-からC20-オレフィン,および
B2) モノマーB2としての,C2-からC10-ビニルアルコールおよびC2-からC10-カルボン酸からのモノマー,
から得られるポリマーB;
および,
C) 少なくとも1つのビニル芳香族モノマーから得られる0から99.9重量%までのポリマーC;
D) 少なくとも1つのC4-からC10-ジエンおよび少なくとも1つの臭素から得られる,5から50重量%までの臭素含有ポリマーD;
E) 0から40重量%までの充填剤;
を有してなる粘性ポリマー組成物であって,
前記成分B,C,DおよびEの合計が100重量%となることを特徴とする粘性ポリマー組成物。」

3.本件補正の適否
(1)新規事項について
本件補正後の請求項1に係る発明は,本件補正が補正前の請求項1の「前記ポリマー組成物が2つの成分AおよびBの内の少なくとも1つを常に含有する」との記載を削除することを含むことから明らかなとおり,ポリマーBを含有せず,かつ,ポリマーAが0重量%である場合,すなわち,ポリマーAとポリマーBのいずれも含有しない場合を包含しており,本件補正後の請求項2に係る発明は,ポリマーAを含有せず,かつ,ポリマーBが0重量%である場合,すなわち,ポリマーAとポリマーBのいずれも含有しない場合を包含している。
しかしながら,本願の願書に最初に添付した明細書および図面(以下,「当初明細書等」という。)に記載されていたものは,成分AおよびBの内の少なくとも1つを常に含有するポリマー組成物であり(例えば,段落【0018】),ポリマーAとポリマーBのいずれも含有しないポリマー組成物については記載がないし,記載されている事項から自明であるとも認められない。
よって,本件補正は,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではないから,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

(2)いわゆる目的要件について
仮に,本件補正が,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえるとしても,本件補正は,目的要件を満足しないすなわち,本件補正前後の関係についてみるに,本件補正前の請求項1に係る発明は,「前記ポリマー組成物が2つの成分AおよびBの内の少なくとも1つを常に含有すること」を発明を特定するための事項として有しているのに対し,本件補正後の請求項1および2に係る発明は,ポリマーAとポリマーBのいずれも含有しない場合を包含している。
そうすると,本件補正によってポリマーAとポリマーBのいずれも含有しない場合が新たに包含されるようになるのであるから,本件補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しないことが明らかである。
また,本件補正は,請求項の削除,誤記の訂正,明りようでない記載の釈明のいずれを目的とするものでもない。
したがって,本件補正は,平成18年法律第55条改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,単に「特許法」という。)第17条の2第4項の規定に違反する。

(3) 上記(1),(2)のとおりであるから本件補正は,特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明
平成22年11月15日付けの手続補正は,上記のとおり却下された(上記第2.を参照。)ので,本願の請求項1乃至9に係る発明(なお,以下,請求項1に係る発明を「本願発明1」という。)は,平成22年6月9日付けの手続補正書により補正された明細書(以下,「本願明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1乃至9に記載されたとおりのものであって,上記第2.(1)に<本件補正前>として記載したとおりのものと認める。

第4.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,要するに,本願は,発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものであり,また,特許請求の範囲の記載が,特許法第36条第6項第1号,および,第2号に規定する要件を満たしていない,というものである。

第5.当審の判断
特許法第36条第6項第1号違反について検討する。

1.本願明細書の記載
本願明細書には,本願発明1について,以下の記載がある。なお,下線を当審で付した。

ア.
「2. 本発明の背景
歩行,走行または跳躍中に地面に接触することにより,地面と足との間に力が作用する。そのような力は,一般に床反力または地面反力(GRF)と称される。これは,適切な測定装置により求められる。GRFの大きさの次数は,通常,競技者の体重(BW)の1-1.5倍である。走行中には,反力は体重の2-3倍であり,跳躍中は,体重の5から10倍までの反力が測定された。反力-時間パターンは,各々の種類の足と地面との相互作用において,2つの相を示している。足が地面に衝突する瞬間の衝突相a)の後に,競技者がそれによって前方かつ上方に自分自身を押し進める押進め相b)が続く。図1aは,長距離走中の足の着地動作を示している。全走行者の約80%が最初に踵で地面に接触する。図1bは,足の中部と前部によるその後の押進みを示している。結果としてのGRFの垂直成分が図1cに示されている。この図によれば,曲線が2つの重要な反力の最大値を示している。最初の最大値は,20-30ミリ秒(ms)後に現れ,踵の衝突により生じる。文献には,この反力の最大値は,人体がこの短期間中には反応し,適応できないので,「衝撃反力最大値(impact-force-maximum)」と通常称される。第2の反力の最大値は,60msから80ms後に現れ,押進みにより生じる。この反力の最大値は,通常,「能動反力最大値(active-force-maximum)」または「押進め反力最大値(push-force-maximum)」と称される。」
これらの二種類の反力は,骨系および筋肉系に関して異なる影響を与える。
衝撃反力には,競技者の力には何の関係もない。衝撃反力は,特に踵が関与する場合,いくつかのスポーツの慢性的な変形性傷害に関連すると考えられている。したがって,シューソールに適切な構造を用いることにより,衝撃反力を減少させることが目的の1つである。反力の元で容易に変形し,エネルギーを分散させるシステムについて言及する。
能動反力の量および持続時間が,競技者の能力,すなわち,走行力および跳躍高さを決定する。これは,競技者がある速度で走ることを意図したときに,ある水準の能動反力を蓄える必要があることを意味する。したがって,そのような反力を援助することが意図される。エネルギー分散をできるだけ小さくし,これと同時に,必要な抑制を与えるシューソールがこれに影響を与えることができる。
スポーツ,走行速度,脚の解剖学的形態等に依存して,受動最大値および能動最大値の互いに対する相対的な高さが変動し得ることが研究により証明された。したがって,各々の場合に応じて,図1cに示した状況は,能動最大値が受動最大値と同じ量を有する,またはそれより大きくなることができる様式で変動し得る。しかしながら,それらの最大値は,約60msだけ異なるのが普通である。
イ.


ウ.
「3. 発明の概要
本発明の目的は,自然な動作の最中に生じる受動反力および能動反力の最大値に特に適し,自然な動作の原動力を最適に使用し,したがって,走行者の安全かつ効率的な前方への動きを与える粘性材料を提供することにある。 さらに,この粘性材料は,効率的かつ安価な様式でシューソールを製造するために,公知の工場設備において大きな改造を行わずに使用できることが望ましい。」(段落【0014】乃至【0015】)

エ.
「 本発明によれば,上述した目的は,
A) ポリマーAであって,少なくとも,
A1) モノマーA1としてのC4-からC10-ジエン,および
A2) モノマーA2としてのビニル芳香族C8-からC20-モノマー,
から得られるポリマーA;
または,
B) ポリマーBであって,少なくとも,
B1) モノマーB1としてのC2-からC20-オレフィン,および
B2) モノマーB2としての,C2-からC10-ビニルアルコールおよびC2-からC10-カルボン酸からのモノマー,
から得られるポリマーB;
および以下の成分C)からE)までの内の少なくとも1つ,
C) 少なくとも1つのビニル芳香族モノマーから得られるポリマーC;
D) 少なくとも1つのC4-からC10-ジエンおよび少なくとも1つのハロゲンから得られる,ハロゲン含有ポリマーD;
E) 充填剤;
もしくは,A)およびB)のみ,または成分C)からE)までの内の少なくとも1つと共にA)およびB),
を有してなる,特に含有する,粘性ポリマー組成物により解決される。
さらに,本発明によるポリマー組成物は,例えば,成形型からのポリマー組成物の取出しを簡単にするためのような,通常の助剤および追加の化合物を含有しても差し支えない。
4. 発明の詳細な説明
本発明によれば,成分Aの成分B-Eとの全ての可能な組合せが好ましい。さらに,成分Bは,成分CからEと組み合わせることができる。特に,成分の好ましい組合せは,以下の文字の組合せにより与えられる:AB,AC,AD,AE,AEC,ABCD,BC,ABC,ABCDEFおよびABCDE。
さらに,成分:
A) 0から99.9重量%まで,好ましくは,5から60重量%までのポリマーA,
B) 0から99.9重量%まで,好ましくは,5から60重量%までのポリマーB,
C) 0から99.9重量%まで,好ましくは,5から60重量%までのポリマーC,
D) 0から90.4重量%まで,好ましくは,5から50重量%までのポリマーD,
E) 0から40重量%まで,好ましくは,1から20重量%までの成分Eとしての充填剤,
を含有する粘性ポリマー組成物であって,
成分A-Eの合計が100重量%となり,二成分AおよびBの内の少なくとも1つを常に含有し,AまたはBを含有する場合には,成分CからEまでの内の少なくとも1つをさらに含有するポリマー組成物が好ましい。
成分Fの量は,もし存在すれば,残りのポリマー組成物に対して,15重量%まで,好ましくは,0.5から5重量%までである。
本発明によれば,モノマーA1として,好ましくは,C4-からC8-,特に好ましくは,C4-からC6-,より好ましくは,C4-からC5-ジエンが用いられる。C4-からC5-ジエンは,好ましくは,ブタジエンおよびイソプレンであり,ブタジエンが特に好ましい。
モノマーA2して,特に,C8-からC15-,特に好ましくは,C8-からC10-モノマーが用いられる。α-メチルスチレンおよびスチレンが好ましく,スチレンが特に好ましい。」(段落【0016】乃至【0022】)
オ.
「 ポリマーAは,好ましくは,少なくとも,1つのブロックのモノマーA1および1つのブロックのモノマーA2を有してなるブロックポリマーである。モノマーA2のブロックにモノマーA1の1つのブロックが続き,その後にモノマーA2の1つのブロックが続いている3ブロックのコポリマーが特に好ましい。例えば,BASF AGにより商標Styroflex(登録商標)の元で入手できるような,ポリ(スチレン-ブタジエン-スチレン)ブロックコポリマーが特に好ましい。
そのようなポリ(スチレン-ブタジエン-スチレン)ブロックコポリマーは,材料を柔軟にするゴム状の統計的スチレン-ブタジエンコポリマーのマトリクス中に埋め込まれた硬質繊維としてのポリスチレンの「島」からなる。一般に,これらの材料は,DIN53505によれば,それぞれ,(85から90まで)または80から85までの範囲にある,ショアA硬度(3s)15_(s)を有する。DIN53505により測定されたショアD硬度(3s)15_(s)は,それぞれ,(30から35まで)または27から32までの範囲にある。さらに,そのような材料は,-40℃辺りの範囲にある低いガラス転移温度および約-35℃の範囲にある破壊温度(DIN53372によれば)を有する。この材料についてのさらなる情報は,ルートヴィヒスハーフェン所在のBASF AGから入手できるStyroflex(登録商標)に関するデータシートに与えられている。
ポリマーBは,少なくともモノマーB1およびB2から形成されるコポリマーである。
モノマーB1は,好ましくは,C2-からC20-,より好ましくは,C2-からC15-,特に好ましくは,C2-からC10-オレフィンである。さらに,モノマーB1がアルファオレフィンであることが好ましい。特に,エチレン,プロピレン,1-ブテン,1-ペンテン,1-ヘキセン,1-へブテン,1-オクテンおよび1-ノネンが好ましく,エチレンが特に好ましい。
ポリマーBにさらに用いられるモノマーB2は,例えば,特に,2から8まで,より特別に,2から5まで,さらにより特別に,2の炭素を有するビニルアルコール,および特に,2から8まで,より特別に,2から5まで,さらにより特別に,2の炭素原子を有するカルボン酸から得られる生成物である。
ポリマーBは,5から25重量%まで,特に,15から23重量%までの範囲でポリマーB2を含有することができる。
ポリマーBとして特に好ましいのは,本発明による粘性ポリマー組成物中の全ポリマーBに基づいて,18から21重量%までの酢酸ビニル含有量を有するEVA(エチレン-酢酸ビニル)ポリマーである。このEVAポリマーは,例えば,Leuna Polymer GmbH,DuPontまたはExxonにより供給される。
この群のポリマーでは,酢酸ビニルの含有量並びにコポリマーのメルトインデックスが,とりわけ,ポリマーの機械的および熱的特性を決定する。酢酸ビニルの含有量が増加するにつれ,伸び,引裂き安定性,柔軟性,低温抵抗,反発弾性,許容差および粘着性が増加し,一方で,硬度,剛性,弾性,ビカ(vica)温度,曲げ応力および耐薬品性が減少する。
市販のポリマーB,特に,EVAポリマーの特性および組成に関する詳細は,例えば,Leuna Polymer GmbHのMiravithen(登録商標),およびDuPontのElvax(登録商標)に関するデータシートのような,上述した会社の対応するデータシートから得られる。
ポリマーCは,例えば,スチレンのような少なくとも1つのビニル芳香族モノマーから得られるポリマーである。一般に,そのようなポリマーは,-10から100℃までの温度範囲において液体である。好ましくは,ポリマーCは,0から70℃まで,特に好ましくは,10から50℃までの範囲において液体である。C_(4)-からC_(10)-ジエンに関しては,モノマーA1に関する説明を参照する。
ポリマーDにおけるハロゲンは,好ましくは,フッ素,塩素および臭素であり,特に,臭素が好ましい。ポリマーDに用いる共役ジエンに関しては,モノマーB1を参照する。ポリマーDにおいて,ブロモブタジエンおよびブロモイソプレンが好ましく,ブロモブタジエンが特に好ましい。したがって,ポリブロモブタジエンゴムがポリマーDとして特に好ましい。
ポリマーDとして使用できる材料の例としては,イソブテンおよびイソプレンのフッ素化コポリマーに言及すべきであり,これらは,例えば,Bayer AGのPolysar(登録商標)の名称で入手できる。ポリマーDとして使用できるそのようなポリマーに関する詳細は,Bayer AGの対応するデータシートに与えられている。
充填剤Eとして,当業者に知られている全ての充填剤が使用できる。一般に,充填剤は,無機充填剤および有機充填剤に分類できる。本発明によれば,無機充填剤が好ましい。これらの充填剤は,特にSiをベースとし,ここで,酸化ケイ素がより好ましく,シリカが最も好ましい。充填剤を使用すると,安定性が増加することに加え,粘性ポリマー組成物の耐磨耗性も増加する。
言及すべきさらなる充填剤としては,例えば,スート,ケイ酸カルシウムおよびケイ酸アルミニウム,酸化アルミニウム,カオリン,シリカ,フレンチチョーク,チョーク,酸化亜鉛のような金属酸化物,金属炭酸塩が挙げられる。
上記に関して,全ての公知の無機および有機顔料を充填剤として使用することができ,ここで,酸化チタン,硫酸亜鉛,酸化鉄,酸化クロム,カドミウムおよびクロム酸塩の顔料が無機顔料として好ましく,有機顔料としては,ジアリール-およびピラゾロン-ジアゾ顔料,β-ナフトールカルボン酸またはβ-ナフトールカルボン酸-アリライト(arylits)の顔料,ナフタレンテトラカルボン酸の誘導体またはペリレンテトラカルボン酸の誘導体,ジオキサジンの顔料並びにチャイナクリドン(chinacridon)縮合生成物,チオインジゴ-イソインドリノン縮合生成物およびジアゾ縮合生成物の顔料が特に好ましい。」(段落【0023】乃至【0037】)

2.本願明細書の記載から認定できる事実
本願明細書の上記摘示事項ア.?オ.から,以下の事実を認めることができる。
<認定事実1>
本願発明1は,自然な動作の原動力を最適に使用し,走行者の安全かつ効率的な前方への動きを与える粘性材料を提供することや,効率的かつ安価な様式でシューソールを製造するために,公知の工場設備において大きな改造を行わずに使用できることを解決すべき課題とするものであること。
<認定事実2>
本願発明1は,成分AからEを所定の含有量で含有する組成物の発明であること。
<認定事実3>
本願明細書には本願発明1のポリマーA(成分A)に関し,モノマーA1の具体例としてブタジエンおよびイソプレンが例示されるとともにブタジエンが特に好ましく,モノマーA2の具体例としてα-メチルスチレンおよびスチレンが例示されるとともにスチレンが特に好ましく,ポリマーAとして特にBASF AGにより商標Styroflex(登録商標)の元で入手できるような,ポリ(スチレン-ブタジエン-スチレン)ブロックコポリマーが好ましいことが記載されていること。
成分BからEのそれぞれについても同様に,モノマー(成分Eについては充填剤)の例示,好ましいモノマーの記載,好ましいポリマー(成分Eについては充填剤)の記載があること。
<認定事実4>
各成分の好ましい組合せは,AB,AC,AD,AE,AEC,ABCD,BC,ABC,ABCDEFおよびABCDEであること。

3.判断
(1)特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号の規定(以下,「明細書のサポート要件」という。)に適合するといえるためには,特許請求の範囲に記載された発明が,(a)発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか,また,(b)その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであることの少なくともいずれか一つを満足することを要する。そして,本願発明1は,組成物の技術分野に属するものであり(上記,認定事実2を参照。),組成物の技術分野に属する発明は,一般に,課題の解決に貢献する有効成分の発見,あるいは,有効な組成の発見に基づいてなされるものであることを勘案すると,本願発明1において明細書のサポート要件に適合するためには,発明の詳細な説明の記載は,少なくとも「本願発明1の組成物が上記課題(上記,認定事実1を参照。)の解決に貢献する有効成分を含有している(あるいは有効な組成となっている)ことを当業者が認識できる程度に,具体的に説明等が記載されていること。」(以下,「要件1」という。),または,「具体的な説明等が記載されていなくても,技術常識に照らせば,本願発明1の組成物が上記課題の解決に貢献する有効成分を含有している(あるいは有効な組成となっている)ことが明らかであるといえること。」(以下,「要件2」という。)のいずれか一つを満足することを要するといえる。

(2) そこで,上記要件1について検討するに,本願明細書には,ポリマーA(成分A)に関し,モノマーA1としてブタジエンが特に好ましいこと,モノマーA2としてスチレンが特に好ましいこと,ポリマーAとしてBASF AGにより商標Styroflex(登録商標)の元で入手できるようなポリ(スチレン-ブタジエン-スチレン)ブロックコポリマーが好ましいことが単に記載されているだけ(上記認定事実3を参照。)であって,その理由(他のポリマー等が相対的に好ましくない理由)については具体的な説明(特に,上記課題の解決と関連づけた説明)はもちろん,定性的な説明すら記載されていない。
したがって,成分Aが上記課題の解決に貢献する有効成分であることを当業者が認識できる程度に,具体的に説明等が記載されているとはいえない。 成分BからEのそれぞれについても同様である。
また,本願発明1の組成物の組成に関し,各成分の好ましい組合せが,AB,AC,AD,AE,AEC,ABCD,BC,ABC,ABCDEFおよびABCDEであることが単に記載されているだけ(上記認定事実4を参照。)であって,その理由(他の組合せが相対的に好ましくない理由)については具体的な説明(特に,上記課題の解決と関連づけた説明)はもちろん,定性的な説明すら記載されていない。
したがって,本願発明1の組成物の組成が上記課題の解決に貢献する有効な組成となっていることを当業者が認識できる程度に,具体的に説明等が記載されているともいえない。
したがって,本願明細書の発明の詳細な説明の記載は,上記要件1を満足していない。

(3) 次に,上記要件2についてみるに,
成分Aは,「0から99.9重量%までのポリマーAであって,少なくとも,A1) モノマーA1としてのC4-からC10-ジエン,およびA2) モノマーA2としてのビニル芳香族C8-からC20-モノマー,から得られるポリマーA」であるが,ポリマーAについて分子量やモノマーA1およびモノマーA2の種類および共重合比率等に限定がないことを勘案すると,成分Aには,モノマーA1およびモノマーA2の種類および共重合比率や分子量(したがって,性質)が異なる多種類のポリマーAが含まれているといえる。
本願発明1の組成物が成分Aを主要な構成成分として含有する場合,例えば,ポリマーAを95.0重量%含有する場合(なお,成分Aの含有量は,0から99.9重量%であるが,成分Dの含有量の下限値が5重量%なので,95.0より大きく99.9重量%までの範囲は取り得ない。)には,ポリマーAの有する性質をほぼそのまま本願発明1の組成物も有するので,本願発明1の組成物の性質は,含有されているポリマーAに応じて様々に変化する。
したがって,本願発明1の組成物が上記課題を解決できるような特定の性質(に限らずいかなる特定の性質であっても)を常に有しているということはないといえる。
なお,成分Dは,「少なくとも1つのC4-からC10-ジエンおよび少なくとも1つの臭素から得られる,5から50重量%までの臭素含有ポリマーD」であってその含有量が5から50重量%までであることから本願発明1の組成物に必ず含有されている成分であるが,分子量やジエンの種類や臭素の含有量が異なる多種類のポリマーDが含まれていること,および,技術常識を参酌すれば,成分Dは,その含有量が5重量%と少量であっても本願発明1の組成物に特定の性質を有するようにしうるような成分ではない。

次に,成分Aが主要な構成成分ではない(含有されていない場合を含む)場合には,本願発明1の組成物の有する性質は,成分Aだけでは決まらず成分A以外に含有されている成分(成分BからE)の具体的な種類や含有割合に応じてさらに様々な性質を有するといえる。
したがって,上記と同様の理由により,本願発明1の組成物が上記課題を解決できるような特定の性質(に限らずいかなる特定の性質であっても)を常に有しているということはないといえる。

さらに,本願発明1は,「ポリマーA;または・・・ポリマーB;および・・前記ポリマー組成物が2つの成分AおよびBの内の少なくとも1つを常に含有すること」を発明を特定するための事項として有することから,本願発明1の組成物は,成分Aを含有する組成物(残部は,成分CからE)と,成分Bを含有する組成物(残部は,成分CからE)を包含しているが,成分Bは,「0から99.9重量%までのポリマーBであって,少なくとも,B1) モノマーB1としてのC2-からC20-オレフィン,およびB2) モノマーB2としての,C2-からC10-ビニルアルコールおよびC2-からC10-カルボン酸からのモノマー,から得られるポリマーB」であってポリマーAとはそのモノマーの種類が全く異なっている。
したがって,成分Aを含有する組成物(残部は,成分CからE)の性質と,成分Bを含有する組成物(残部は,成分CからE)の性質は大きく異なっており,両者がともに上記課題を解決できるような特定の性質を有しているということを想定することができないといえる。
以上を総合すると,本願発明1の組成物は,技術常識を参酌しても,上記課題を解決すること明らかであるとはいえない。
よって,本願明細書の発明の詳細な説明の記載は,上記要件2も満足していない。

(5) 本願明細書の発明の詳細な説明の記載は,上記要件1乃至要件2のいずれも満足しないので,本願明細書に接する当業者において,成分AからEを所定の含有量で含有する組成物であれば,上記課題を解決した組成物を得られると認識することは,本願の優先日における技術常識を参酌しても,不可能というべきであり,本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載が,明細書のサポート要件に適合するということはできない。

(6)
なお,上記第2.のとおり,本件補正は却下されたが,仮に,本件補正が適法な補正であるとしても,本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載が,明細書のサポート要件に適合するということはできない。すなわち,本件補正後の請求項1に係る発明(以下,「本件補正後発明1」という。)は,平成22年11月15日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであって,上記第2.1.に<本件補正後>として記載したとおりのものと認められる。そして,本件補正後発明1は,本願発明1のうち成分Bを含有しない場合に限定したものに相当する。
そうすると,上記のとおり本願発明1について明細書のサポート要件に適合するということはできないことから,本件補正後発明1についても明細書のサポート要件に適合するということはできないことが明らかである。

第6.むすび
以上のとおり,本願発明についての原査定の拒絶の理由は妥当なものであり,その余の請求項について論及するまでもなく,本願は,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-11-14 
結審通知日 2012-11-20 
審決日 2012-12-03 
出願番号 特願2001-564278(P2001-564278)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 和田 勇生  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 小野寺 務
須藤 康洋
発明の名称 ポリマー組成物  
代理人 柳田 征史  
代理人 佐久間 剛  

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