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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  A61M
管理番号 1273159
審判番号 無効2012-800110  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-06-27 
確定日 2013-04-22 
事件の表示 上記当事者間の特許第4354523号発明「医療用ガイドワイヤ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 I 手続の経緯
本件特許第4354523号に係る発明についての出願は、平成21年3月19日に特許出願され、平成21年8月7日にその請求項1ないし7に係る発明について特許の設定登録がなされた。
これに対し、平成24年6月27日に請求人(朝日インテック株式会社)より、請求項1ないし4及び7に係る発明についての特許を無効とする審決を求める無効審判の請求がなされ、平成24年9月26日に被請求人(日本ライフライン株式会社)より答弁書が提出された。
その後、請求人より平成24年11月26日付けの口頭審理陳述要領書が提出され、被請求人より平成24年12月4日付けの口頭審理陳述要領書が提出され、平成24年12月13日に口頭審理が行われた。
さらに、請求人より、その口頭審理の期日に、同日付けの上申書が提出され、被請求人より平成25年1月25日に被請求人より答弁書が提出された。

II 本件発明
本件特許の請求項1?4及び7に係る発明は、次のとおりのものである(以下、「請求項1?4及び7に係る発明」を「本件発明1?4及び7」という。)。
「【請求項1】
遠位端側小径部と前記遠位端側小径部より外径の大きい近位端側大径部とを有するコアワイヤと、
前記コアワイヤの遠位端側小径部の外周に軸方向に沿って装着され、少なくとも先端部および後端部において、前記コアワイヤに固着されているコイルスプリングとを有する医療用ガイドワイヤであって、
前記コアワイヤの近位端側大径部の外径および前記コイルスプリングのコイル外径が、何れも0.012インチ以下であり、
前記コイルスプリングの先端部は、Au-Sn系はんだにより、前記コアワイヤに固着され、
Au-Sn系はんだによる先端硬直部分の長さが0.1?0.5mmであることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項2】
前記コアワイヤの近位端側大径部の外径および前記コイルスプリングのコイル外径が、何れも0.010インチ以下であることを特徴とする請求項1に記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項3】
前記コイルスプリングの先端部におけるコイルピッチが、コイル線径の1.0?1.8倍であり、
Au-Sn系はんだが、前記コイルスプリングの1?3ピッチに相当する範囲においてコイル内部に浸透していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項4】
前記コイルスプリングの内部に樹脂が充填されているとともに、前記コイルスプリングの外周に前記樹脂による樹脂層が形成され、前記樹脂層の表面に親水性樹脂層が積層形成され、
前記コアワイヤの表面には撥水性樹脂層が形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項7】
前記コアワイヤがステンレスからなることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れかに記載の医療用ガイドワイヤ。」

III 請求人及び被請求人の主張の概略
1 請求人の主張
請求人の主張は、以下のとおりである。

無効理由
本件発明1?3は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明、甲第4号証?甲第11号証に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本件発明4及び7は、甲第1号証?甲第3号証に記載された発明、甲第4号証?甲第11号証に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、これらの発明についての特許は無効とすべきである。
<証拠方法>
甲第1号証:特開2003-164530号公報
甲第2号証:米国特許第4,682,607号明細書及びその全文翻訳文
甲第3号証:特開2008-307367号公報
甲第4号証:特開平3-283451号公報
甲第5号証:米国特許第5,276,289号明細書及びその部分翻訳文
甲第6号証:特開平9-19791号公報
甲第7号証:特開2005-26291号公報
甲第8号証:特開2005-317603号公報
甲第9号証:米国特許第5,666,969号明細書
甲第10号証:特表2005-514115号公報
甲第11号証:INDIUM CORPORATION社の製品データシート

2 被請求人の主張
本件発明1?4及び7のいずれも甲第1?11号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではないから、本件特許は特許法第123条第1項第2号に該当せず、無効とされるべきものではない。

IV 当審の判断
A 刊行物
1 甲第1号証
(1-1)「【請求項1】 可撓性線条体のワイヤ主部の先端部分のコア線にコイルばねを嵌装すると共に、該コイルばねの先端を該コア線前端の先導栓に外嵌固着した医療用ガイドワイヤにおいて、該先導栓の栓頭から該コイルばねの固着後端までの硬直部分の長さを概ね0.5粍以下に成すと共に、前記コイルばねのばね長方向の中間部位に、前記コア線の中間ボス部に固着した中間固定部を設け、さらに、前記先導栓と前記中間固定部の間の前記コイルばねは、弾性拡縮自在のコイル線間間隙を備えた構造を特徴とする医療用ガイドワイヤ。
・・・
【請求項6】 コイルばねの先端と先導栓が、TIG溶接またはレーザースポット溶接から成る請求項1?請求項5のいずれかの医療用ガイドワイヤ。」
(1-2)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、心臓血管系内等にカテーテルを導入する際に用いる医療用ガイドワイヤに関するものである。」
(1-3)「【0004】
・・・従来のコイルばね嵌装形態のガイドワイヤ1Aは、コイルばね4の前端を先導栓5に「ロー付け固着」するとき、ロー材の毛細管現象による拡散・溶材の飛散等によりコイルばね4のコイル線8間が付着固着する現象が避けられないので、先導栓5の栓頭からコイルばね4の先端ゾーンを含む図示L5の概ね1.5粍長の部分が硬直部分となる。
・・・
【0006】・・・硬直部分が長い従来構造のものは前端部10の柔軟性に欠けるので、その操作感触情報の正確な伝達性に欠け、図示点線のように前端部10が内膜21の内壁を突き通して中膜22に至る偽腔(false lumen)に迷入するケースがあり、このような偽腔を生ずると前端部10が血管外に穿通する危険があると共に、真腔に戻ることや新しい別のルートを探すことも困難にして、その上偽腔自体が拡大することもあり血管の治療性・治癒性を著しく妨げることになる。」
(1-4)「【0007】本発明は、以上の従来技術の難点を解消する医療用ガイドワイヤを提供するものである。
・・・
【0009】即ち、本発明のガイドワイヤは「前端部の硬直部分の特段の短小化」と、該硬直部分に続くコイルばねの若干部分を「コイル線間間隙が外力によって弾性伸縮可能の構成に設定する」手段によって前端部10の柔軟性を向上し、血管内進行の操作感触性の特段の向上を図る思想を特徴とするものである。
【0010】そして、前記の硬直部分の特段の短小化の具体的手段は、コイルばねと先導栓を「公知のTIG溶接・レーザースポット溶接」等で溶着する手段が採択され、該硬直部分の「先導栓の栓頭から該溶着端までの硬直部分長を0.5粍以下(好ましくは0.2粍以下)に短小化する。」
(1-5)「【0013】
【作用】以上の構成の本発明のガイドワイヤは、前端部の硬直部分が特段に短小にして、かつ、該硬直部分に続くコイルばねの若干部分が「外力に応じてコイル線間を弾性伸縮する」弾性ばね機能部を有するので、前端部の血管内との接合順応性・接合状態感知性に優れ、ガイドワイヤの手元部の操作感触性が極めて良好になる。
【0014】そして、血管病変部へ挿入されると、病変部との接触抵抗外力によってコイル線間間隙が弾性伸びして軟質の病変部組織を、その線間に受け入れて進退・回転操作されるメカニズムになる。従って、その病変部組織とコイルばねとの相対関係によってガイドワイヤの手元部の操作感触に明白な変化をもたらし、操作情報の把握精度が向上する。
【0015】さらに、本発明のガイドワイヤは「前端部の硬直部分短小化構成」であることから、血管内挿入に際して前端部を「くの字状」にするプリシエイプ性が良く(従来物に生ずる折損トラブルがない)、かつ血管屈曲部での曲げ追従性が向上する。・・・」
(1-6)「【0016】
・・・本発明1実施例の医療用ガイドワイヤ1(以下、ガイドワイヤ1という)を図1・図2を参照して説明する。即ち、可撓性線条体のワイヤ主部2の先端部分を細径にしたコア線3に「前方半円球の先導栓5」を一体に設け、このコア線3にコイルばね4を嵌装すると共に、コイルばね4の前端を先導栓5の胴部に嵌装して固着した可撓性柔軟質の先端部分6を有するガイドワイヤ1において、この実施例の「先導栓5と先導栓5に続くコイルばね4の若干で形成する前端部10」は以下の構造を有している。
【0017】詳しくは、コイルばね4は前端の2?3巻きのコイル部分のみが先導栓5の胴部に溶着固定され、先導栓5の栓頭からコイルばね4の溶着後端に至る硬質部分の長さL3が0.5粍以下に設定されている。
【0018】そして、コイルばね4は長さ方向の中間部分がコア線3に設けた中間ボス部9に溶着固定された中間固定点11を有し、前記硬質部分の後端から中間固定点11に至るコイルのそれぞれにはコイル線8の線間間隙Cが設定され、この線間間隙Cはそれぞれのコイルに生ずる外力によって弾性伸縮自在に構成されている。」
(1-7)「【0019】なお、この実施例のものは「コイルばね4のコイル外直径=0.355粍、コイル線8の直径D=0.072粍、自由状態の線間間隙C=0.021粍(コイル線直径Dの約30%)、ガイドワイヤ1の全長L1=約1800粍、コイルばね4の全長L2=約300粍、中間ボス部9の幅=約0.8粍、先導栓5の栓頭から中間固定点11に至る長さL4=24粍」の寸法諸元である。
【0020】そして、コイルばね4と先導栓5・中間ボス部9は「直径0.2?0.3粍のSn(錫)のボール状のロー材」を用いて、公知の「TIG溶接またはレーザースポット溶接」によって溶剤飛散を防止して溶着されている。」
(1-8)「【0021】以上の図1実施例のガイドワイヤ1は前端部10の先頭を形成する硬質部分が前記0.5粍の極短小にして、かつ、その硬質部分に続くコイルばね4の若干長がコイル線間間隙Cを弾性伸縮自在にする弾性コイルばね機能部を構成しているので、前端部10と血管閉塞部Pの係合状態が手元部7で鋭敏に感知できる特有作用がある。・・・」
(1-9)「【0030】・・・本実施例の前端部10は特段の柔軟性と良好なプリシエイプ形状(これについては前述ずみ)に基づいて屈曲形状に容易に追従して真腔進行が容易になる。」
(1-10)「【0034】なお、コイルばね4と先導栓5の溶着は、前記のTIG溶接レーザースポット溶接のみではなく、直径=約0.2粍のボール状のロー材を用いる通常の溶着工法によって、硬質部分が0.5粍以内の前記構成のものを成形することがある。」

(a)記載事項(1-6)の「可撓性線条体のワイヤ主部2の先端部分を細径にしたコア線3」との記載から、可撓性線条体は「コア線3とコア線3より外径の大きいワイヤ主部2とを有する可撓性線条体」といえる。
(b)記載事項(1-6)の「可撓性線条体のワイヤ主部2の先端部分を細径にしたコア線3に「前方半円球の先導栓5」を一体に設け、このコア線3にコイルばね4を嵌装すると共に、コイルばね4の前端を先導栓5の胴部に嵌装して固着した」との記載からみて、コイルばね4は「可撓性線条体のコア線3の外周に軸方向に沿って装着され、前端において、可撓性線条体に固着されているコイルばね4」といえる。
(c)記載事項(1-7)の「コイルばね4のコイル外直径=0.355粍」との記載から、コイルばね4のコイル外径が約0.014インチであることが記載されている(審決注:1インチ=約25.4粍として換算した。)。
(d)記載事項(1-6)の「コイルばね4は前端の2?3巻きのコイル部分のみが先導栓5の胴部に溶着固定され、先導栓5の栓頭からコイルばね4の溶着後端に至る硬質部分の長さL3が0.5粍以下に設定されている」との記載と記載事項(1-7)の「コイルばね4と先導栓5・中間ボス部9は「直径0.2?0.3粍のSn(錫)のボール状のロー材」を用いて、公知の「TIG溶接またはレーザースポット溶接」によって溶剤飛散を防止して溶着されている。」との記載とを併せてみて、「コイルばね4の前端は、Snのロー材により、可撓性線条体に溶着され、Snのロー材による硬質部分の長さL3が0.5ミリである」(審決注:粍をミリと書き改めた。)といえる。

以上から、甲第1号証には、次の発明が記載されている(以下、「甲第1号証発明」という。)。

「コア線3とコア線3より外径の大きいワイヤ主部2とを有する可撓性線条体と、
可撓性線条体のコア線3の外周に軸方向に沿って装着され、前端において、可撓性線条体に固着されているコイルばね4とを有する医療用ガイドワイヤであって、
コイルばね4のコイル外径が約0.014インチであり、
コイルばね4の前端は、Snのロー材により、可撓性線条体に溶着され、
Snのロー材による硬質部分の長さL3が0.5ミリ以下である医療用ガイドワイヤ。」

2 甲第2号証
請求人の提出した全文翻訳文に基いて記載する。
(2-1)「本発明は、ガイドワイヤに関する。より具体的には、本発明は、カテーテルの為のガイドワイヤに関する。」(全文翻訳文2頁5?6行)
(2-2)「従来、種々のガイドワイヤが人体の血管系内への注入の為に使用されてきた。一般に、これらのガイドワイヤは、ガイドワイヤが血管系内の所望の位置に向けられるようにする為に、剛体部と同様に、血管組織への損傷を避けるために柔軟な先端部が必要とされる。・・・
剛体部に延出することなく、柔軟部のみに延出するコイルバネでガイドワイヤを組み立てることは、米国特許No.3,789,841号からも知られている。この場合、剛体部は、樹脂ジャケットで被覆される一定の厚みのコアワイヤによって形成されている。一方、柔軟部は、コアワイヤのテーパ部及びそれを覆うコイルバネによって形成されている。樹脂ジャケットの使用は、ガイドワイヤ全体の長さを超えて延びるコイルバネの必要性を無くすと言われており、このことが必要なバネ材の量を減らす。ガイドワイヤの価格は下がる可能性があるが、このガイドワイヤを製造する為の全体の価格及び製造技術は、相対的に高価のままである。
したがって、最小限の価格で簡単に製造可能なガイドワイヤを提供することが本発明の目的である。
また、比較的簡単な技術で製造可能なガイドワイヤを提供することが本発明のもう一つの目的である。」(同2頁7?27行)
(2-3)「第1図及び第2図に示されるように、撚り線11は、例えば、ステンレス鋼又は他の何れか適切な生体適合性材料の、複数の独立した素線14から成る。これらの素線14は、単一の撚り線を形成する為に従来の方法で捻られている。例えば、撚り線11は、約0.008?0.062インチの直径を有することが可能である。」(同3頁11?14行)
(2-4)「突出部13は、撚り線11から分離した成分で作られており、錫銀金属、錫金金属その他何れかの適切な材料で良く、球形状のような何れかの適切な形状で良い。第3図に示されるように、突出部13は、何れかの適切な方法で撚り線11の端部に融合された固体構造の球状の金属ボールから成る。例えば、酸性のフラックスは、球状の金属ボールが熱せられ、撚り線11の先端に対して適用されているときに、撚り線11の先端に適用可能である。冷却時には、ボールは、第3図に示される形状に突出部13を形成するように、ワイヤ11に融合される。そして、それによって、ワイヤ11が先端部でほつれるのを防止する。」(同3頁23?30行)

以上から、甲第2号証には、撚り線11からなるガイドワイヤにおいて、その先端部に撚り線11がほつれるのを防止するための錫金金属からなる金属ボールを融合する発明が記載されている。

3 甲第4号証
(4-1)「本発明は電子回路部品、配線基板及び冷却部品によって構成された電子回路装置にかかわり、特に、複雑になる装置の組立て順序、保守のための分解順序、長期の信頼性、を確保するために好適な電子回路装置に関する。」(2頁右上欄6?10行)
(4-2)「・・・セラミック基板は金属に比べ脆いため、接合後の冷却過程でろう材との界面に発生する熱応力で破壊しやすいという問題がある。セラミック基板の引張強度はアルミナが約30kg/mm^(2)以上、ムライトが約25kg/mm^(2)以上,ガラスが約15kg/mm^(2)以上、である(短冊片の引張試験による。)。そこで、各ろう材の常温における引張強度がこれ以下であればろう材が、変形し基板を破壊することはない。・・・そこで、これらの特性を調べて適正なろう材を組合せることにより、高信頼な階層接続を確実に行うことができる。第4図は引張試験によって得た、室温での引張応力-ひずみ特性である。室温で強く、温度が高くなると軟くなるので、室温での強度がセラミックの強度以下であれば良い。Agろう、Au6Siを除くとすべて引張強度が20kg/mm^(2)以下であり、アルミナ、ムライトセラミックに対しては破壊がなく安全である。ガラスに対してもさらに、Au13Ga,Au12Ge,Au20Snを除く他のろう材の引張強度が15kg/mm^(2)以下であり、これらを適用することができる。」(3頁右上欄5行?左下欄8行)

(4-3)第1表には、Au20SnとSn3.5Agの引張強さが、それぞれ、29kg/mm^(2)と2.9kg/mm^(2)であることが記載されている。
(4-4)第4図の記載から、Au20Snは、略5?20%のひずみに対して応力が略30kg/mm^(2)であること、及び、Sn3.5Agは、略5?25%のひずみに対して応力が略3kg/mm^(2)であることが窺える。

上記記載から、甲第4号証には、セラミック基板に用いられるろう材について、Au20Snの引張強さはSn3.5Agの引張強さより大きいことが記載されている。

4 甲第5号証
甲第5号証には、実質的に甲第4号証と同様の事項が記載されている。

5 甲第6号証
(6-1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は電子部品の電子機器配線用として用いられる汎用の無鉛半田に関するものであって、より詳しくは錫-銀-ビスマス系無鉛半田に関するものである。」
(6-2)「【0024】
・・・、実施例2の無鉛半田は液相線温度が218℃、固相線温度が195℃であり、凝固温度範囲は23℃となり、汎用の無鉛半田として非常に好適なものであることがわかる。」
(6-3)「【0035】実験例2
本発明による無鉛半田と従来の半田に対する機械的性質を調べるため、実施例2とSn-40Pb半田とについて機械的性質を測定し、その結果を図2に示した。
【0036】図2に示したように、実施例2の場合、従来例に比べて引張強度が極めて優れていることがわかるが、これは、結局、半田付け後の最終接合強度が本発明の無鉛半田を用いることにより、一層優れたものになることを意味している。」

(6-4)表2の記載から、実施例2は、成分を錫90%、鉛3.1%、ビスマス6.9%とする半田であることが窺える。
(6-5)図2の記載から、従来例と発明例(2)の引張強度が、それぞれ、略22MPaと75MPaであることが窺える。

以上の記載から、甲第6号証には、電子部品の電子機器配線として用いられる無鉛半田について、錫90%、鉛3.1%、ビスマス6.9%とする半田は、その引張強度が略75MPaであり、半田付け後の最終接合強度が優れたものであることが記載されている。

6 甲第7号証
(7-1)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高出力時においても、高い信頼性を有し、かつ長寿命である窒化物系半導体発光装置およびその製造方法に関する。」
(7-2)「【0033】
図1において、まず、サブマウント103の所定位置に、第1のハンダ材102をたとえば3μm程度形成する。第1のハンダ材102の上に、半導体レーザ素子チップ101の第2の電極212側を第1のハンダ材102に対向させた状態で設置し、サブマウント103を第1のハンダ材102の融点以上に加熱してハンダ材を融解させ、サブマウント103と半導体レーザ素子チップ101とを接合し、降温して第1のハンダ材102を固化させる。
・・・
【0035】
第1のハンダ材にはAu_(0.8)Sn_(0.2)を用いることができるが、AuSn以外にも、SnSb、SnAg、SnAgCu、InSn、InAg、In等を用いることが可能である。AuSnを用いた場合、AlNサブマウントと半導体レーザ素子チップとの密着性を大幅に向上できる。」

上記記載から、甲第7号証には、窒化物系半導体発光装置において、サブマウントと半導体レーザ素子チップとを接合する第1のハンダ材としてAuSnを用いた場合、サブマウントと半導体レーザ素子チップとの密着性を大幅に向上できることが記載されている。

7 甲第8号証
(8-1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体等の発熱体の冷却等に好適に使用され、特に長期信頼性に優れる熱電モジュール及びその製造方法に関する。」
(8-2)「【0021】
本発明の熱電モジュールは、図1に示すように、支持基板1a、1bの表面に、それぞれ配線導体2a、2bが形成され、熱電素子3が配線導体2a、2bによって挟持されるとともに、電気的に直列に連結されるように構成されている。
・・・
【0023】
上記の配線導体2a,2bは、大電流に耐え得るように、低抵抗な電極が用いられ、配線導体2a,2bに熱電素子3がPbを実質的に含まない半田5で接合されている。
・・・
【0025】
Pbを実質的に含まない半田は公知のものであれば何でも使用でき、Bi-Sn系、Sn-Ag系、Sn-Ag-Cu系、Sn-Sb系、Sn-In系、Au-Sn系などが使用できる。これらPbを実質的に含まない半田はPbを含まないために環境性に優れ、幅広い用途に使用できる。・・・」
(8-3)「【0042】
また次に、本発明によれば、Pbを実質的に含まない半田の中でAu-Sn系、特に80質量%Au-20質量%Snが、またSn-Sb系、特に95質量%Sn-5質量%Sbが半田の強度、耐熱性が高く、熱電モジュールの信頼性を高める上で好ましい。」

上記記載から、甲第8号証には、配線導体と熱電素子とを有する熱電モジュールにおいて、配線導体と熱電素子とを接合する半田としてAu-Sn系、特に80質量%Au-20質量%Snを用いた場合、半田の強度、耐熱性が高いことが記載されている。

8 甲第9号証
(9-1)「A plurality of radiopaque solder bands 118 can be disposed around distal portion 105 of core wire 102 along a length of proximal coil 108. The solder forming bands 118 is preferably silver/tin or gold/tin solder. Although other substantially radiopaque, biocompatible solders can be used.」(第6欄11?15行)(複数の放射線不透過性はんだバンド118は、コアワイヤ102の先端部105の周りに配置されている。バンド118を形成するはんだは、銀錫又は金錫はんだが好ましいが、他の実質的に放射線不透過性の生体適合性があるはんだであっても使用可能である。(請求人の提出した翻訳(口頭審理陳述要領書4頁を参照。)))

9 甲第10号証
(10-1)「【0012】
・・・このガイドワイヤ20は、近位端26および遠位端28を有する近位側コア部分24と、近位端32および遠位端34を有する遠位側コア部分30とを有しているコア22を備えている。近位側コア部分24をステンレス鋼から製造し、遠位側コア部分30をニチノールから製造することが好ましい。しかしながら、コア部分はガイドワイヤ技術において公知の任意の材料から作ることができる。」
(10-2)「【0015】
硬化材料36が接続端28、32の間に配設され、および/またはこれらの接続端を包む。硬化材料36は、はんだ、ろう付、エポキシ、接着剤、レーザ溶接およびスポット溶接を含む溶接のための接合材料であるが、それらには限定されない。接続端28,32の間の接合部を形成するためにはんだを用いるとともに、このはんだがニッケルチタンフラックス400と共に用いるスズ銀95-5はんだであることが好ましい。しかしながら、コア材料を一体に接合するために、90-10を含む他の組成の銀スズはんだ、並びに金スズはんだのような、適切な強度を有した互換性のある任意のタイプのはんだを用いることができる。・・・」

10 甲第11号証
(11-1)6頁左欄2行には、「AuSn(Gold/Tin)alloy Provides great joint strength」(AuSn(金/錫)合金は、偉大な接合力を具備する。(請求人の提出した翻訳(甲第11号証の部分訳を参照。)))」と記載されている。
(11-2)同頁右欄の表の、「Composition」、「Au80Sn20」、「Tensile Strength」、「40,000psi」の記載から、AuSn合金について、Au80Sn20の引張り強度は40,000psiであると認められる。
(11-3)9?12頁は各種合金についての物性値が記載された表であり、その表の記載から、
96.5Sn3.5Agの引張り強度が5,800psi(10頁)であり、80.0Au20.0Snの引張り強度が40,000psi(11頁)であり、90.0Sn21.0Auの引張り強度が7,280psi(12頁)であることが記載されている。

B 本件発明1について
1 対比
本件発明1と甲第1号証発明とを対比する。
甲第1号証発明の「医療用ガイドワイヤ」は、その構造または機能からみて、本件発明1の「医療用ガイドワイヤ」に相当し、以下同様に、「コア線3」は「遠位端側小径部」に、「ワイヤ主部2」は「近位端側大径部」に、「可撓性線条体」は「コアワイヤ」に、「前端」は「先端部」に、「コイルばね4」は「コイルスプリング」に、「溶着され」は「固着され」に、「硬質部分の長さL3」は「先端硬直部分の長さ」に、それぞれ相当する。
また、甲第1号証発明の「コイルばね4の前端は、Snのロー材により、可撓性線条体に溶着され、Snのロー材による硬質部分の長さL3が0.5ミリ以下である」と、本件発明1の「前記コイルスプリングの先端部は、Au-Sn系はんだにより、前記コアワイヤに固着され、Au-Sn系はんだによる先端硬直部分の長さが0.1?0.5mmである」とは、「前記コイルスプリングの先端部は、前記コアワイヤに固着され、先端硬直部分の長さが0.5mm以下である」かぎりにおいて一致する。

以上から、両者は、
「遠位端側小径部と前記遠位端側小径部より外径の大きい近位端側大径部とを有するコアワイヤと、
前記コアワイヤの遠位端側小径部の外周に軸方向に沿って装着され、少なくとも先端部および後端部において、前記コアワイヤに固着されているコイルスプリングとを有する医療用ガイドワイヤであって、
前記コイルスプリングの先端部は、前記コアワイヤに固着され、先端硬直部分の長さが0.5mm以下である医療用ガイドワイヤ。」
である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
外径について、本件発明1は、コアワイヤの近位端側大径部の外径およびコイルスプリングのコイル外径が、何れも0.012インチ以下であるのに対し、甲第1号証発明は、コイルスプリングのコイル外径が約0.014インチであり、コアワイヤの近位端側大径部の外径は不明である点。
(相違点2)
コイルスプリングの先端部は、コアワイヤに固着され、先端硬直部分の長さが0.5mm以下であることについて、本件発明1は、コイルスプリングの先端部は、Au-Sn系はんだにより、コアワイヤに固着され、Au-Sn系はんだによる先端硬直部分の長さが0.1?0.5mmであるのに対し、甲第1号証発明は、コイルスプリングの先端部は、Snのロー材により、コアワイヤに固着され、Snのロー材による先端硬直部分の長さが0.5ミリ以下である点。

2 判断
(1)最初に、相違点2について検討する。
a まず、甲第1号証に、甲第1号証発明の「コイルスプリングの先端部は、Snのロー材により、コアワイヤに固着され、Snのロー材による先端硬直部分の長さが0.5ミリ以下である」を「コイルスプリングの先端部は、Au-Sn系はんだにより、コアワイヤに固着され、Au-Sn系はんだによる先端硬直部分の長さが0.1?0.5mmである」とすることについて記載ないし示唆があるかどうかについて検討する。

甲第1号証には、コイルスプリングの先端部とコアワイヤとの固着部分について、「コイルばねと先導栓を「公知のTIG溶接・レーザースポット溶接」等で溶着する」(上記記載事項(1-1)及び(1-4)を参照。)、「コイルばね4と先導栓5・中間ボス部9は「直径0.2?0.3粍のSn(錫)のボール状のロー材」を用いて、公知の「TIG溶接またはレーザースポット溶接」によって溶剤飛散を防止して溶着されている。」(上記記載事項(1-7)を参照。)、「なお、コイルばね4と先導栓5の溶着は、前記のTIG溶接レーザースポット溶接のみではなく、直径=約0.2粍のボール状のロー材を用いる通常の溶着工法によって、硬質部分が0.5粍以内の前記構成のものを成形することがある。」(上記記載事項(1-10)を参照。)と記載されているものの、ロー材の材質を具体的に言及する記載はない。また、「Snのロー材」が「Au-Sn系はんだ」であると解する根拠もない。
したがって、甲第1号証には、甲第1号証発明の「Snのロー材」を「Au-Sn系はんだ」とすることについて、記載ないし示唆はない。
よって、甲第1号証には、甲第1号証発明の「コイルスプリングの先端部は、Snのロー材により、コアワイヤに固着され、Snのロー材による先端硬直部分の長さが0.5ミリ以下である」を「コイルスプリングの先端部は、Au-Sn系はんだにより、コアワイヤに固着され、Au-Sn系はんだによる先端硬直部分の長さが0.1?0.5mmである」とすることについての記載ないし示唆があるとすることはできない。

b 次に、甲第2号証及び甲第4号証?甲第11号証に、上記した事項について記載又は示唆があるかどうかについて検討する。

(甲第2号証)
甲第2号証には、撚り線11からなるガイドワイヤにおいて、その先端部に撚り線11がほつれるのを防止するための錫金金属からなる金属ボールを融合する発明が記載されている(上記A2欄を参照。)。
しかしながら、甲第2号証のガイドワイヤはコイルスプリングとコアワイヤとを有するものではないから、錫金金属からなる金属ボールは、Au-Sn系はんだといえるとしてもコイルスプリングをコアワイヤに固着するためのものとはいえない。
また、錫金金属からなる金属ボールは、撚り線11がほつれるのを防止するためのものにすぎないから、甲第2号証に、コイルスプリングとコアワイヤとの固着に関し、その固着強度を高めるための固着手段が示唆されているともいえない。

(甲第4号証及び甲第5号証)
甲第4号証及び甲第5号証には、セラミック基板に用いられるろう材について、Au20Snの引張強さはSn3.5Agの引張強さより大きいことが記載されている(上記A3及び4欄を参照。)。
しかしながら、Au20Snからなるろう材とSn3.5Agからなるろう材とのいずれもセラミック基板に用いられるものである。
したがって、Au20SnとSn3.5Agが「Snのロー材」といえるものであり、また、Au20Snは「Au-Sn系はんだ」といえるとしても、いずれもコイルスプリングをコアワイヤに固着するためのものとはいえない。
また、上記の引張強さはAu20Snそれ自体またはSn3.5Agそれ自体についてのものであるし、また、ろう材とセラミック基板との固着についてのものであるから、コイルスプリングとコアワイヤとの固着に関し、その固着強度を高めるための固着手段が示唆されているともいえない。

(甲第6号証)
甲第6号証には、電子部品の電子機器配線として用いられる無鉛半田について、錫90%、銀3.1%、ビスマス6.9%とする半田は、その引張強度が略75MPaであり、半田付け後の最終接合強度が優れたものであることが記載されている(上記A5欄を参照。)。
しかしながら、当該記載の半田は、「Au-Sn系はんだ」についてのものではない。
したがって、甲第6号証に、Au-Sn系はんだによりコイルスプリングをコアワイヤに固着するについて記載も示唆もされているものとはいえない。
また、上記半田は電子機器配線用として用いられるものにすぎないから、甲第6号証に、コイルスプリングとコアワイヤとの固着に関し、その固着強度を高めるための固着手段が示唆されているともいえない。

(甲第7号証及び甲第8号証)
甲第7号証には、窒化物系半導体発光装置において、サブマウントと半導体レーザ素子チップとを接合する第1のハンダ材としてAuSnを用いた場合、サブマウントと半導体レーザ素子チップとの密着性を大幅に向上できること(上記A6欄を参照。)、また、甲第8号証には、配線導体と熱電素子とを有する熱電モジュールにおいて、配線導体と熱電素子とを接合する半田としてAu-Sn系、特に80質量%Au-20質量%Snを用いた場合、半田の強度、耐熱性が高いこと(上記A7欄を参照。)が記載されている。
しかしながら、いずれも電子部品の接合に関するものであって、コイルスプリングやコアワイヤに関するものではないから、これらには、Au-Sn系はんだによりコイルスプリングをコアワイヤに固着すること、及び、コイルスプリングとコアワイヤとの固着に関し、その固着強度を高めるための固着手段が記載も示唆もされているとはいえない。

(甲第9号証及び甲第10号証)
甲第9号証には、ガイドワイヤにおいて、放射線不透過性はんだバンドとしてAu-Sn系はんだを用いること(上記A8欄を参照。)、また、甲第10号証には、ガイドワイヤのコアワイヤを一体に接合するためにAu-Sn系はんだを用いること(上記A9欄を参照。)がそれぞれ記載されているにすぎない。
したがって、その詳細を検討するまでもなく、これらには、Au-Sn系はんだによりコイルスプリングをコアワイヤに固着すること、及び、コイルスプリングとコアワイヤとの固着に関し、その固着強度を高めるための固着手段が記載も示唆もされているとはいえない。

(甲第11号証について)
甲第11号証には、Au-Sn系はんだの引張り強度の物性値と、Au-Sn系はんだが偉大な接合力を具備すると記載されていることが認められるにすぎない(上記A10欄を参照。)。
したがって、その詳細を検討するまでもなく、甲第11号証には、Au-Sn系はんだによりコイルスプリングをコアワイヤに固着すること、及び、コイルスプリングとコアワイヤとの固着に関し、その固着強度を高めるための固着手段について記載も示唆もされているとはいえない。

以上のとおり、甲第2号証、甲第4号証?甲第11号証のいずれにも、Au-Sn系はんだによりコイルスプリングをコアワイヤに固着すること、及び、コイルスプリングとコアワイヤとの固着に関し、その固着強度を高めるための固着手段について記載も示唆も見当たらない。

c 以上のとおりであるから、甲第1号証には、甲第1号証発明の「コイルスプリングの先端部は、Snのロー材により、コアワイヤに固着され、Snのロー材による先端硬直部分の長さが0.5ミリ以下である」を「コイルスプリングの先端部は、Au-Sn系はんだにより、コアワイヤに固着され、Au-Sn系はんだによる先端硬直部分の長さが0.1?0.5mmである」とすることについての記載も示唆もあるといえず、また、甲第2号証、甲第4号証?甲第11号証のいずれにも、Au-Sn系はんだによりコイルスプリングをコアワイヤに固着すること、及び、コイルスプリングとコアワイヤとの固着に関し、その固着強度を高めるための固着手段について記載も示唆もあるとすることはできない。

この点について、請求人は、「甲第2号証には、「ワイヤの外径が0.012インチ以下である点(要件D)」及び「医療用ガイドワイヤの端部にAu-Snはんだが使用されている点」が記載されており、しかも甲第2号証に記載されたものは医療用ガイドワイヤに関する技術であり、本件請求項1に係る特許発明及び甲第1号証に記載された発明と技術分野を同一にするものであるから、甲第2号証に記載された上記の点の構成を甲第1号証に記載されたものに適用することはその発明の属する技術の分野において通常の知識を有する者が容易に推考し得るものである。」(審判請求書9頁)と主張している。
しかしながら、上記したとおり、甲第2号証の錫金金属からなる金属ボールは、コイルスプリングをコアワイヤに固着するためのものとはいえないから、甲第1号証発明のロー材に対応する部材であるとは認められない。
よって、請求人の当該主張は理由がない。

また、請求人は、「本件請求項1に係る特許発明の効果も、甲第1号証及び甲第2号証記載のものから予測できる効果以上のものはない。すなわち、シェイピングの長さを短くし、かつ、CTO病変のマイクロチャンネル内における操作性を向上させるという効果については、甲第1号証に記載されており、コアワイヤとコイルスプリングとの固着強度の増大については、はんだの材料をAu-Snはんだにすることによって奏されるものであるから、甲第1号証に記載のガイドワイヤのSn(錫)系はんだを、甲第2号証に記載のAu-Snはんだに置換することによって当然に導き出されるものであり、何ら特有の効果を奏するものではない。」(請求書9頁)、「甲第1号証に記載のSn系はんだをAu-Sn系はんだに置換する効果は、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第4号証及び甲第5号証に記載されている材料の引張強さに依存するものである。すなわち、固着強度の増大は、以下に示すように、Ag-SnはんだとAu-Snはんだとの引張強度の差によるものであるから、固着強度の増大は、Ag-SnはんだをAu-Snはんだに変更したことによる当然の効果であって、特有の効果は無い。・・・甲第4号証乃至甲第8号証の上記内容からすれば、Au-Snは、Ag-Snよりも接合強度が大きいことが明らかである。」(口頭審理陳述要領書2?3頁)と主張している。
しかしながら、本件発明1の「コイルスプリングの先端部は、Au-Sn系はんだにより、前記コアワイヤに固着され、Au-Sn系はんだによる先端硬直部分の長さが0.1?0.5mmである」とすることの効果は、本件明細書に記載された、つぎのとおりのものと認められる。
「【発明の効果】
【0024】
請求項1?3に係る医療用ガイドワイヤによれば、コイルスプリングの先端部をコアワイヤに固着するためのはんだとしてAu-Sn系はんだが使用されているので、先端硬直部分の長さが0.1?0.5mmと短い(はんだによる固着領域が狭い)にも関わらず、コアワイヤに対するコイルスプリングの固着強度を十分に高い(コアワイヤの遠位端側小径部の破断強度より高い)ものとすることができ、コイルスプリングに挿入されている状態のコアワイヤに引張力を作用しても、コアワイヤが引き抜かれるようなことはない。」
そして、上記記載の「固着強度を十分に高い」とは、コアワイヤとはんだとの間の固着強度と、はんだ自体の引張強さと、コイルスプリングとはんだとの間の固着強度とのすべてを含み、その結果得られるコイルスプリングとコアワイヤとの間の固着強度が十分に高いものであることを意味すると認められる。
これに対して、請求人の上記主張における固着強度は、はんだそれ自体の引張強さ、あるいははんだと部材との間の固着強度もしくは接合強度のいずれかを意味するものに止まり、上記した「コアワイヤとはんだとの間の固着強度と、はんだ自体の引張強さと、コイルスプリングとはんだとの間の固着強度とのすべてを含み、その結果得られるコイルスプリングとコアワイヤとの間の固着強度」に対応する固着強度を意味するものとはいえない。したがって、請求人のいう固着強度を前提としてされた請求人の上記主張はその前提において理由がない。

なお、請求人の提出した甲第3号証にも、Au-Sn系はんだによりコイルスプリングをコアワイヤに固着すること、及び、コイルスプリングとコアワイヤとの固着に関し、その固着強度を高めるための固着手段について記載も示唆もあるとはいえない。

d 以上のとおりであるから、甲第1号証発明の「コイルスプリングの先端部は、Snのロー材により、コアワイヤに固着され、Snのロー材による先端硬直部分の長さが0.5ミリ以下である」を「コイルスプリングの先端部は、Au-Sn系はんだにより、コアワイヤに固着され、Au-Sn系はんだによる先端硬直部分の長さが0.1?0.5mmである」とすることは当業者が容易になし得る事項であるとはいえない。

3 小括
よって、相違点1についての検討をするまでもなく、本件発明1は、甲第1号証発明、甲第2号証に記載された発明及び甲第4号証?甲第11号証に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

C 本件発明2?4及び7について
本件発明2?4及び7は、本件発明1の発明特定事項をその構成の一部とするものであるから、上記と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

V むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては本件発明1?4及び7についての特許を無効にすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-21 
結審通知日 2013-02-26 
審決日 2013-03-11 
出願番号 特願2009-67638(P2009-67638)
審決分類 P 1 123・ 121- Y (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 内藤 真徳  
特許庁審判長 高木 彰
特許庁審判官 蓮井 雅之
山口 直
登録日 2009-08-07 
登録番号 特許第4354523号(P4354523)
発明の名称 医療用ガイドワイヤ  
代理人 吉本 聡  
代理人 愛智 宏  

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