• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1273208
審判番号 不服2012-8858  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-05-14 
確定日 2013-04-25 
事件の表示 特願2007-172684「プレーナ型アクチュエータ」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 1月15日出願公開、特開2009- 9064〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年6月29日の出願であって、平成23年10月3日付けで拒絶理由が通知され、同年12月9日に特許請求の範囲、明細書及び図面の補正がなされたが、平成24年2月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年5月14日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に特許請求の範囲及び明細書の補正がなされたものである(以下、この平成24年5月14日になされた補正を「本件補正」という。)。

第2 本件補正についての却下の決定
1 結論
本件補正を却下する。

2 理由
(1)補正の内容及び目的
本件補正は、本願特許請求の範囲の請求項1につき、補正前の
「枠状の固定部と、
この固定部の内側に、トーションバーを介して回動自在に支持された可動部と、
前記可動部を駆動する駆動手段と、
前記トーションバーに配置され互いにほぼ直行する方向に対向する2対の電極を有するピエゾ抵抗素子と、
前記トーションバー上に形成され前記固定部に形成された電極部に引き回す配線部と、
を備え、
前記トーションバーは、n型単結晶シリコン材料により構成されるとともに、前記ピエゾ抵抗素子はp型領域で形成され、
前記ピエゾ抵抗素子は、前記トーションバーを構成するn型単結晶シリコン材料の(001)面または(110)面における<100>軸に対して±30°の範囲に、前記ピエゾ抵抗素子の一対の前記電極を結ぶ方向が略平行となるように配置されていることを特徴とするプレーナ型アクチュエータ。」
を、
「枠状の固定部と、
この固定部の内側に、トーションバーを介して回動自在に支持された可動部と、
前記可動部を駆動する駆動手段と、
前記トーションバーに配置され互いにほぼ直行する方向に対向する2対の電極を有するピエゾ抵抗素子と、
前記トーションバー上に形成され前記固定部に形成された電極部に引き回す配線部と、
を備え、
前記トーションバーは、n型単結晶シリコン材料により構成されるとともに、前記ピエゾ抵抗素子はp型領域で形成され、
前記ピエゾ抵抗素子は、前記トーションバーを構成するn型単結晶シリコン材料の(001)面または(110)面における<100>軸に対して±30°の範囲に、前記ピエゾ抵抗素子の一対の前記電極を結ぶ方向が略平行となるように配置され、
前記ピエゾ抵抗素子は絶縁層を備え、前記配線部の一部は前記ピエゾ抵抗素子に重ねて配置されていることを特徴とするプレーナ型アクチュエータ。」
に補正する内容を含むものであって、当該補正の内容は、平成23年法律第63号による改正前の特許法(以下「平成23年改正前特許法」という。)第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。

(2)独立特許要件についての検討
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は、上記(1)において、補正後のものとして記載したとおりのものと認められるところ、本願補正発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうかについて検討する。

ア 先願明細書の記載
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願日前の他の特許出願であって本願出願後に出願公開された特願2006-225835号(特開2008-51904号。以下「先願」という。)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「先願明細書」という。)には、以下の記載がある(下線は、審決で付した。)。

「【0018】
アクチュエータ1は、図1ないし図3に示すような2自由度振動系を有する基体2と、この基体2を支持する支持基板3とを有している。
基体2は、1対の第1の質量部(駆動部)21、22と、1対の支持部23、24と、第2の質量部(可動部)25と、1対の第1の弾性部26、27と、1対の第2の弾性部28、29と、1対の電極32、33とを備えている。ここで、第1の質量部21と第1の弾性部26と第2の弾性部28とは、質量部である第2の質量部25を支持部23に対し回動可能とするように、第2の質量部25と支持部23とを連結する連結部である。これと同様に、第1の質量部22と第1の弾性部27と第2の弾性部29とは、質量部である第2の質量部25を支持部24に対し回動可能とするように、第2の質量部25と支持部24とを連結する連結部である。
【0019】
このようなアクチュエータ1にあっては、1対の電極32、33に電圧を印加することにより、第1の質量部21、22と電極32、33との間に静電引力を生じさせ、1対の第1の弾性部26、27を捩れ変形させながら1対の第1の質量部21、22を回動させ、これに伴って、1対の第2の弾性部28、29を捩れ変形させながら第2の質量部25を回動させる。このとき、1対の第1の質量部21、22および第2の質量部25は、それぞれ、図1に示す回動中心軸Xを中心にして回動する。
【0020】
1対の第1の質量部21、22は、それぞれ、板状をなし、互いにほぼ同一寸法でほぼ同一形状をなしている。
また、第1の質量部21の平面視にて回動中心軸Xに直角な方向での両端部(回動中心軸Xからの遠位側の両端部)には、櫛歯状をなす櫛歯状電極部211、212が設けられている。これと同様に、第1の質量部22の平面視にて回動中心軸Xに直角な方向での両端部(回動中心軸Xからの遠位側の両端部)には、櫛歯状をなす櫛歯状電極部221、222が設けられている。
【0021】
また、1対の質量部21、22の間には、第2の質量部25が設けられており、1対の質量部21、22は、図1における平面視にて、第2の質量部25を中心として、ほぼ左右対称となるように設けられている。
第2の質量部25は、板状をなし、その板面に光反射部251が設けられている。これにより、アクチュエータ1を光スキャナ、光アッテネータ、光スイッチなどの光学デバイスに適用することができる。
【0022】
このような第1の質量部21、22および第2の質量部25にあっては、第1の質量部21が第1の弾性部26を介して支持部23に支持され、第2の質量部25が第2の弾性部28を介して第1の質量部21に支持されている。これと同様に、第1の質量部22が第1の弾性部27を介して支持部24に支持され、第2の質量部25が第2の弾性部29を介して第1の質量部21、22に支持されている。
【0023】
支持部23、24は、それぞれ、支持基板3上に固定されている。そして、支持部23上には、図示しない絶縁層を介して、後述するピエゾ抵抗素子41に接続された端子416?419が設けられている。
一方、支持部24上には、図示しない絶縁層を介して、後述するピエゾ抵抗素子42に接続された端子426?429が設けられている。
【0024】
第1の弾性部26は、第1の質量部21を支持部23に対して回動可能とするように、第1の質量部21と支持部23とを連結している。これと同様に、第1の弾性部27は、第1の質量部22を支持部24に対して回動可能とするように、第1の質量部22と支持部24とを連結している。
第2の弾性部28は、第2の質量部25を第1の質量部21に対して回動可能とするように、第2の質量部25と第1の質量部21とを連結している。これと同様に、第2の弾性部29は、第2の質量部25を第1の質量部22に対して回動可能とするように、第2の質量部25と第1の質量部22とを連結している。
【0025】
各第1の弾性部26、27および各第2の弾性部28、29は、同軸的に設けられており、これらを回動中心軸(回転軸)Xとして、第1の質量部21、22が支持部23、24に対して、また、第2の質量部25が第1の質量部21、22に対して回動可能となっている。
このように、基体2は、第1の質量部21、22と第1の弾性部26、27とで構成された第1の振動系と、第2の質量部25と第2の弾性部28、29とで構成された第2の振動系とを有する。すなわち、基体2は、第1の振動系および第2の振動系からなる2自由度振動系を有する。
【0026】
このような2自由度振動系は、図2および図3に示すように、基体2の全体の厚さよりも薄く形成されているとともに、基体2の上部に位置している。換言すれば、基体2には、基体2の全体の厚さよりも薄い部分が形成されており、この薄い部分に異形孔が形成されることにより、第1の質量部21、22と第2の質量部25と第1の弾性部26、27と第2の弾性部28、29とが形成されている。
【0027】
本実施形態では、前記薄肉部の上面が支持部23、24の上面と同一面上に位置することにより、前記薄い部分の下方には、各質量部21、22、25の回動のための空間(凹部)30が形成されている。
このような基体2は、後述するように、p型シリコン単結晶基板またはn型シリコン単結晶基板を加工することにより形成されたものである。すなわち、第1の質量部21、22と、第2の質量部25と、支持部23、24と、第1の弾性部26、27と、第2の弾性部28、29とは、p型シリコン単結晶基板またはn型シリコン単結晶基板を加工することにより一体的に形成されたものである。これにより、優れた機械的強度および振動特性を有するアクチュエータ1を提供することができる。
【0028】
そして、基体2が(001)面のp型シリコン単結晶基板を加工することにより形成されたものである場合、第1の弾性部26、27および第2の弾性部28、29は、それぞれ、(001)面のp型シリコン単結晶基板の<110>方向に沿って延在している。一方、基体2が(001)面のn型シリコン単結晶基板を加工することにより形成されたものである場合、第1の弾性部26、27および第2の弾性部28、29は、(001)面のn型シリコン単結晶基板の<100>方向または<010>方向に沿って延在している。
【0029】
なお、基体2は、SOI基板等の積層構造を有する基板から、第1の質量部21、22と、第2の質量部25と、支持部23、24と、第1の弾性部26、27と、第2の弾性部28、29と、電極32、33とを形成したものであってもよい。その際、第1の質量部21、22と、第2の質量部25と、支持部23、24の一部と、第1の弾性部26、27と、第2の弾性部28、29とが一体的となるように、これらを積層構造の基板の1つの層で構成するのが好ましい。
【0030】
前述した第2の弾性部28の上面には、図1および図4に示すように、ピエゾ抵抗素子41と、これを囲むように形成された高導電性領域282とがそれぞれ設けられている。これと同様に、図1および図4に示すように、第2の弾性部29の上面には、ピエゾ抵抗素子42と、これを囲むように形成された高導電性領域292とがそれぞれが設けられている。
【0031】
より具体的には、ピエゾ抵抗素子41は、第2の質量部25の平面視にて、回動中心軸X方向における第2の弾性部28の中央部に設けられている。
このピエゾ抵抗素子41は、図5および図6に示すように、第2の弾性部28の本体部281上に設けられたn型またはp型の不純物の拡散あるいはイオン注入により形成された抵抗領域411と、抵抗領域411上に回動中心軸X方向に並接された1対の入力電極412、413と、抵抗領域411上に回動中心軸Xに対し直角な方向に並接された1対の出力電極414、415とを有している。
【0032】
抵抗領域411は、第2の弾性部28表面に不純物をドーピングすることにより形成されたものである。より具体的には、基体2がp型シリコン単結晶基板を加工することにより形成されたものである場合、第2の弾性部28表面にリンなどの不純物をドーピングすることにより形成されたn型シリコン単結晶(n型抵抗領域)である。一方、基体2がn型シリコン単結晶基板を加工することにより形成されたものである場合、第2の弾性部28表面にボロンなどの不純物をドーピングすることにより形成されたp型シリコン単結晶(p型抵抗領域)である。
【0033】
したがって、第2の弾性部28は、その本体部281および抵抗領域411のうち、一方がp型のシリコンで構成され、他方がn型のシリコンで構成され、本体部281と抵抗領域411との間には、pn接合が形成されている。
そして、基体2が(001)面のp型シリコン単結晶基板を加工することにより形成されたものである場合、抵抗領域411の<110>方向(すなわち、回動中心軸X方向)に沿って、第2の弾性部28が延在している。一方、基体2が(001)面のn型シリコン単結晶基板を加工することにより形成されたものである場合、抵抗領域411の<100>方向または<010>方向(すなわち、回動中心軸X方向)に沿って、第2の弾性部28が延在している。
【0034】
このような結晶方位に沿って第2の弾性部28が延在していると、第2の弾性部28の捩れ変形により抵抗領域411にせん断応力が生じたとき、抵抗領域411の比抵抗値の変化率を最も大きくすることができる。」、
「【0042】
また、前述したピエゾ抵抗素子41と同様に、ピエゾ抵抗素子42も、図5および図6に示すように、第2の弾性部29上に設けられたn型またはp型の抵抗領域421と、抵抗領域421上に回動中心軸X方向に並接された1対の入力電極422、423と、抵抗領域421上に回動中心軸Xに対し直角な方向に並接された1対の出力電極424、425とを有している。
【0043】
抵抗領域421は、第2の弾性部29表面に不純物をドーピングすることにより形成されたものである。したがって、第2の弾性部28と同様に、第2の弾性部29も、その本体部291および抵抗領域421のうち、一方がp型のシリコンで構成され、他方がn型のシリコンで構成され、本体部291と抵抗領域421との間には、pn接合が形成されている。
【0044】
また、基体2が(001)面のp型シリコン単結晶基板を加工することにより形成されたものである場合、抵抗領域421の<110>方向(すなわち、回動中心軸X方向)に沿って、第2の弾性部29が延在している。一方、基体2が(001)面のn型シリコン単結晶基板を加工することにより形成されたものである場合、抵抗領域421の<100>方向または<010>方向(すなわち、回動中心軸X方向)に沿って、第2の弾性部29が延在している。
【0045】
このような結晶方位に沿って第2の弾性部29が延在していると、第2の弾性部29の捩れ変形により抵抗領域421にせん断応力が生じたとき、前述した抵抗領域411と同様に、抵抗領域421の比抵抗値の変化率を最も大きくすることができる。」、
「【0051】
このようなピエゾ抵抗素子41、42において、抵抗領域411、421中の不純物濃度は、それぞれ、特に限定されないが、例えば、1.0×10^(18)?1.0×10^(20)cm^(-3)であるのが好ましい。また、本実施形態では、図示しないが、図2にて基体2の上面には、入力電極412、413および出力電極414、415上を除き、シリコン酸化膜や樹脂膜などの絶縁層が形成され、この絶縁層上に金属製の端子416?419、426?429や金属製の配線が形成されている。」

図1、図2及び図5は以下のものである。

イ 先願発明
先願明細書には、「基体2は、…p型シリコン単結晶基板またはn型シリコン単結晶基板…により形成されたものである」(【0027】)と記載されており、基体2が「n型シリコン単結晶基板」で形成されたものについてみると、先願明細書には、次の発明が記載されているものと認められる。

「基体2と、この基体2を支持する支持基板3とを有しているアクチュエータであって、
基体2は、1対の第1の質量部(駆動部)21、22と、1対の支持部23、24と、第2の質量部(可動部)25と、1対の第1の弾性部26、27と、1対の第2の弾性部28、29と、1対の電極32、33とを備えており、
第1の質量部(駆動部)21、22が第1の弾性部26、27を介して支持部23、24に支持され、第2の質量部25が第2の弾性部28、29を介して第1の質量部21、22に支持され、支持部23、24は、支持基板3上に固定されており、支持部23上には、絶縁層を介して端子416?419、426?429が設けられており、
1対の電極32、33に電圧を印加することにより、第1の質量部21、22と電極32、33との間に静電引力を生じさせ、第1の弾性部26、27を捩れ変形させながら第1の質量部21、22を回動させ、これに伴って、第2の弾性部28、29を捩れ変形させながら第2の質量部25を回動させるものであり、
基体2は、n型シリコン単結晶基板を加工することにより形成されたもの、すなわち、第1の質量部21、22と、第2の質量部25と、支持部23、24と、第1の弾性部26、27と、第2の弾性部28、29は、n型シリコン単結晶基板を加工することにより一体的に形成されたものであり、第1の弾性部26、27及び第2の弾性部28、29は、(001)面のn型シリコン単結晶基板の<100>方向に沿って延在しており、
第2の弾性部28、29の上面には、ピエゾ抵抗素子41、42が設けられており、
ピエゾ抵抗素子41、42は、第2の弾性部28、29の本体部281、291上に設けられたp型の不純物の拡散あるいはイオン注入により形成された抵抗領域411、421と、抵抗領域411、421上に回動中心軸方向に並接された1対の入力電極412、413ないし422、423と、抵抗領域411、421上に回動中心軸に対し直角な方向に並接された1対の出力電極414、415ないし424、425とを有しており、
基体2の上面には、入力電極412、413及び出力電極414、415上を除き、シリコン酸化膜や樹脂膜などの絶縁層が形成され、この絶縁層上に金属製の端子416?419、426?429や金属製の配線が形成され、端子416?419、426?429がピエゾ抵抗素子41、42に接続されたアクチュエータ。」(以下「先願発明」という。)

ウ 対比
本願補正発明と先願発明を対比する。

(ア)先願発明の「基体2と、この基体2を支持する支持基板3」は、本願補正発明の「枠状の固定部」といえる。

(イ)先願発明は、「第2の質量部25が第2の弾性部28、29を介して第1の質量部21、22に支持され」、「第2の弾性部28、29を捩れ変形させながら第2の質量部25を回動させるもの」であるから、先願発明の「第2の弾性部28、29」及び「第2の質量部25」がそれぞれ本願補正発明の「トーションバー」及び「可動部」に相当するところであり、本願補正発明と同様に「固定部の内側に、トーションバーを介して回動自在に支持された可動部」を備えるものといえる。

(ウ)先願発明は、「1対の電極32、33に電圧を印加することにより、第1の質量部21、22と電極32、33との間に静電引力を生じさせ、第1の弾性部26、27を捩れ変形させながら第1の質量部21、22を回動させ、これに伴って、第2の弾性部28、29を捩れ変形させながら第2の質量部25を回動させるもの」であるから、本願補正発明と同様に「前記可動部を駆動する駆動手段」を備えるものであることは明らかである。

(エ)先願発明は、「第2の弾性部28、29の上面には、ピエゾ抵抗素子41、42が設けられており、ピエゾ抵抗素子41、42は、…抵抗領域411、421上に回動中心軸方向に並接された1対の入力電極412、413ないし422、423と、抵抗領域411、421上に回動中心軸に対し直角な方向に並接された1対の出力電極414、415ないし424、425とを有しており」というものであって、先願発明の「『1対の入力電極412、413ないし422、423』と『1対の出力電極414、415ないし424、425』」及び「ピエゾ抵抗素子41、42」がそれぞれ本願補正発明の「互いにほぼ直行する方向に対向する2対の電極」及び「ピエゾ抵抗素子」に相当するところであるから、本願補正発明と同様に「前記トーションバーに配置され互いにほぼ直行する方向に対向する2対の電極を有するピエゾ抵抗素子」を備えるものといえる。

(オ)先願発明において、「(支持基板3上に固定されている)支持部23上」には、「絶縁層を介して端子416?419、426?429」が設けられており、先願発明の「金属製の端子416?419、426?429」は、本願補正発明の「前記固定部に形成された電極部」に相当する。
また、先願発明は、「端子416?419、426?429がピエゾ抵抗素子41、42に接続された」ものであるところ、この接続は、「(絶縁層上に形成された)金属製の配線」により、「(第2の弾性部28、29の上面に設けられたピエゾ抵抗素子41、42の)入力電極412、413ないし422、423及び出力電極414、415ないし424、425」に対してなされるものと認められるから、前記「(絶縁層上に形成された)金属製の配線」は、先願発明の「第2の弾性部28、29の上面」に設けられるものと認められる。
以上によれば、先願発明は、本願補正発明と同様に「前記トーションバー上に形成され前記固定部に形成された電極部に引き回す配線部」を備えるものといえる。

(カ)先願発明において、「第2の弾性部28、29」は、「n型シリコン単結晶基板を加工することにより一体的に形成された」ものであり、また、「ピエゾ抵抗素子41、42」は、「第2の弾性部28、29の本体部281、291上に設けられたp型の不純物の拡散あるいはイオン注入により形成された抵抗領域411、421」を有するものであるから、先願発明は、本願補正発明と同様に「前記トーションバーは、n型単結晶シリコン材料により構成されるとともに、前記ピエゾ抵抗素子はp型領域で形成され」たものといえる。

(キ)先願発明において、「第2の弾性部28、29」は、「(001)面のn型シリコン単結晶基板の<100>方向に沿って延在」しており、「(第2の弾性部28、29の上面に設けられた)ピエゾ抵抗素子41、42」の「1対の入力電極412、413ないし422、423」は、「回動中心軸方向に並接され」ているから、先願発明は、本願補正発明と同様に「前記ピエゾ抵抗素子は、前記トーションバーを構成するn型単結晶シリコン材料の(001)面または(110)面における<100>軸に対して±30°の範囲に、前記ピエゾ抵抗素子の一対の前記電極を結ぶ方向が略平行となるように配置され」たものといえる。

(ク)先願発明も、本願補正発明と同様に「プレーナ型アクチュエータ」といえるものである。

(ケ)先願発明において、「基体2の上面には、入力電極412、413および出力電極414、415上を除き、シリコン酸化膜や樹脂膜などの絶縁層が形成され」ているから、先願発明のピエゾ抵抗素子41の抵抗領域411の電極以外の部分は、絶縁層によって覆われているものと認められるところであり、先願発明の「ピエゾ抵抗素子41」が本願補正発明の「ピエゾ抵抗素子」と同様に「絶縁層を備え」るものであることは明らかである。
ここで、本願補正発明は、「前記配線部の一部は前記ピエゾ抵抗素子に重ねて配置されている」ものであるところ、先願発明の前記「(絶縁層上に形成された)金属製の配線」の一部が先願発明の「ピエゾ抵抗素子41」に重ねて配置されているかについては、先願明細書に明確な記載がない。

(コ)以上によれば、本願補正発明と先願発明とは、
「枠状の固定部と、
この固定部の内側に、トーションバーを介して回動自在に支持された可動部と、
前記可動部を駆動する駆動手段と、
前記トーションバーに配置され互いにほぼ直行する方向に対向する2対の電極を有するピエゾ抵抗素子と、
前記トーションバー上に形成され前記固定部に形成された電極部に引き回す配線部と、
を備え、
前記トーションバーは、n型単結晶シリコン材料により構成されるとともに、前記ピエゾ抵抗素子はp型領域で形成され、
前記ピエゾ抵抗素子は、前記トーションバーを構成するn型単結晶シリコン材料の(001)面または(110)面における<100>軸に対して±30°の範囲に、前記ピエゾ抵抗素子の一対の前記電極を結ぶ方向が略平行となるように配置され、
前記ピエゾ抵抗素子は絶縁層を備えているプレーナ型アクチュエータ」
である点で一致し、
「本願補正発明では、『前記配線部の一部は前記ピエゾ抵抗素子に重ねて配置されている』ものであるのに対して、先願発明では、『(絶縁層上に形成された)金属製の配線』の一部が『ピエゾ抵抗素子41』に重ねて配置されているか明らかでない点」
でひとまず相違すると認められる。

エ 判断
(ア)先願発明における前記「(絶縁層上に形成された)金属製の配線」は、現実問題としては幅を有するものであるところ、図5のごとく、抵抗領域411の外側のような狭い領域に複数の配線を設けると、配線の幅が狭くなり、その抵抗が大きくなることが当業者に明らかであるから、当該配線をピエゾ抵抗素子41に重ならないように設けることは、特段の事情がない限り想定しがたい。
ここで、先願発明においては、上記ウ(ケ)のとおり、ピエゾ抵抗素子41の抵抗領域411の電極以外の部分は、絶縁層によって覆われているから、この絶縁層を介して、ピエゾ抵抗素子41に重ねて配線を形成し得ることは当業者に明らかな事項である(例えば、特開2006-126190号公報の図1?3及び図6には、絶縁層である酸化層17を介して、ピエゾ抵抗体22に重ねて、配線となる導電層26を配置したものが示されているところである。)。
してみると、先願発明において、前記「金属製の配線」を絶縁層上に形成するに当たって、抵抗値が高くならないようにその幅を確保すべく、ピエゾ抵抗素子41に重なるように形成することは、先願発明の実施に際して普通に採用される事項というべきである。

(イ)なお、先願明細書の図5では、入力電極412、413および出力電極414、415から電源及び検知器11に接続される配線がピエゾ抵抗素子41の抵抗領域411の外側において引き回されて図示されているが、この配線は、幅を有さない「線」として記載されており、電源や検知器11に対する電気的な接続関係を表すための、いわゆる電気回路における信号線として示されているにすぎないものと認められる。
そして、上記(ア)のとおり、当該配線をピエゾ抵抗素子41に重ならないように設けることは、特段の事情がない限り想定しがたいことに照らせば、図5において、配線が抵抗領域411の外側において引き回されているからといって、直ちに、先願発明における前記「(絶縁層上に形成された)金属製の配線」が抵抗領域411の外側において形成されているとは認められない。

(ウ)以上の検討によれば、本願補正発明の「前記配線部の一部は前記ピエゾ抵抗素子に重ねて配置されている」との事項は、先願発明の実施に際して当業者が普通に採用する設計的事項を特定したにとどまるものというべきであって、当該事項をもって、先願発明と技術的思想すなわち発明としての実質上の差異を生じる相違点とはいえない。
したがって、本願補正発明の「プレーナ型アクチュエータ」と先願発明の「アクチュエータ」とは、実質的に同一の発明である。

(3)補正却下の決定についてのむすび
以上のとおり、本願補正発明は、先願明細書に記載された発明と同一である。しかも、本願補正発明の発明者が先願に係る上記発明をした者と同一の者ではなく、また、本願の出願の時にその出願人が先願の出願人と同一の者でもないから、本願補正発明は、特許法第29条の2の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、本件補正は、平成23年特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成23年12月9日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2、2(1)において、補正前のものとして示したとおりのものである。

2 判断
本願発明は、本願補正発明から「前記ピエゾ抵抗素子は絶縁層を備え、前記配線部の一部は前記ピエゾ抵抗素子に重ねて配置され、」との事項を除いたものである。
そして、当該事項を備えた本願補正発明が先願明細書に記載された発明と同一であることは、前記第2、2(2)で検討したとおりであるから、本願発明が先願明細書に記載された発明と同一であることは明らかである。

3 むすび
以上のとおり、本願発明は、先願明細書に記載された発明と同一である。しかも、本願発明の発明者が先願に係る上記発明をした者と同一の者ではなく、また、本願の出願の時にその出願人が先願の出願人と同一の者でもないから、本願発明は、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-21 
結審通知日 2013-02-26 
審決日 2013-03-11 
出願番号 特願2007-172684(P2007-172684)
審決分類 P 1 8・ 161- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川口 聖司  
特許庁審判長 服部 秀男
特許庁審判官 松川 直樹
江成 克己
発明の名称 プレーナ型アクチュエータ  
代理人 村松 恒幸  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ