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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61L
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A61L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61L
管理番号 1273742
審判番号 不服2012-5359  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-03-22 
確定日 2013-05-08 
事件の表示 特願2006-531698「殺菌方法および殺菌装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 2月16日国際公開、WO2006/016620〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2005年8月10日(優先権主張 2004年8月10日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成23年7月11日付けで拒絶理由が起案され(発送日 平成23年7月13日)、これに対する応答なく平成23年12月14日付けで拒絶査定が起案され(発送日 平成23年12月22日)、これに対し、平成24年3月22日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされると共に特許請求の範囲の記載に係る手続補正書が提出され、平成24年5月25日付けで特許法第164条第3項に基づく報告(以下、「前置報告書」という。)を引用した審尋が起案され(発送日 平成24年5月30日)、これに対して平成24年7月27日付けで回答書が提出されたものである。

第2.平成24年3月22日付けの特許請求の範囲の記載に係る手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成24年3月22日付けの特許請求の範囲の記載に係る手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正の目的
本件補正は、当初明細書の特許請求の範囲の請求項1を、平成24年3月22日付けの特許請求の範囲の記載に係る手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に、以下のように補正することを含むものである。
<本件補正前>
「【請求項1】
殺菌有効成分を含有した処理ガスを処理室内に充満させて当該処理室内の殺菌処理対象物を殺菌処理する殺菌方法であって、
前記処理室内を所定温度に保ちつつ前記処理室内に前記処理ガスを供給して前記殺菌処理対象物を前記処理ガスに曝した後、前記処理室内への前記処理ガスの供給を停止し、前記処理室内を前記所定温度よりも高く且つ前記殺菌処理対象物の耐熱温度の上限を超えない範囲で可能な限り高い加熱処理温度まで上昇させるようにしたことを特徴とする殺菌方法。」
<本件補正後>
「【請求項1】
殺菌有効成分を含有した処理ガスを処理室内に充満させて当該処理室内の殺菌処理対象物を殺菌処理する殺菌方法であって、
前記処理ガスは、白金、銅、アルミニウム、または炭素、あるいはこれらの混合物である触媒がメタノールガスに作用することにより発生する、HCHOおよび各種ラジカル種を含む処理ガスであり、 前記処理室内を所定温度に保ちつつ前記処理室内に前記処理ガスを供給して前記殺菌処理対象物を前記処理ガスに曝した後、前記処理室内への前記処理ガスの供給を停止し、前記処理室内を前記所定温度よりも高く且つ前記殺菌処理対象物の耐熱温度の上限を超えない範囲で可能な限り高い加熱処理温度まで上昇させるようにしたことを特徴とする殺菌方法。」
(下線は請求人が付与したもので補正箇所を示している。)

この補正事項は、本件補正前の「処理ガス」について、さらにどのような「処理ガス」であるのかを明らかにするものであって、本件補正前の「処理ガス」に内在されていた技術的事項を減縮して特定するものであるから、これは実質的に特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものといえる。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の規定を満たすので、同条第5項の規定に基づき補正後の請求項1に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるか否かについて以下「2.」で検討する。

2.独立特許要件
2-1.補正発明について
補正後の請求項1に係る発明は、平成24年3月22日付けの特許請求の範囲の記載に係る手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載される事項によって特定される次のとおりのものである(以下、「補正発明」という。)。

「【請求項1】
殺菌有効成分を含有した処理ガスを処理室内に充満させて当該処理室内の殺菌処理対象物を殺菌処理する殺菌方法であって、
前記処理ガスは、白金、銅、アルミニウム、または炭素、あるいはこれらの混合物である触媒がメタノールガスに作用することにより発生する、HCHOおよび各種ラジカル種を含む処理ガスであり、
前記処理室内を所定温度に保ちつつ前記処理室内に前記処理ガスを供給して前記殺菌処理対象物を前記処理ガスに曝した後、前記処理室内への前記処理ガスの供給を停止し、前記処理室内を前記所定温度よりも高く且つ前記殺菌処理対象物の耐熱温度の上限を超えない範囲で可能な限り高い加熱処理温度まで上昇させるようにしたことを特徴とする殺菌方法。」

2-2.刊行物の記載
(1)前置報告書に引用文献1として引用され本願優先権主張日前に頒布された特開2002-17830号公報(以下、「刊行物1」という。)には次の事項が記載されている。
(刊1-ア)「【請求項1】処理対象となる医療・福祉用具の発生場所において前記医療・福祉用具を処理容器に収容し前記処理容器を密封する収容工程と、
前記収容工程において前記医療・福祉用具が収容された前記処理容器を処理実施場所に搬送する搬送工程と、
前記処理容器内に滅菌用試薬を供給することにより前記処理容器内に収容されている前記医療・福祉用具の滅菌を行う滅菌工程と、
前記滅菌工程により滅菌が終了した前記医療・福祉用具が収容された前記処理容器を密封状態のまま出荷する出荷工程とを備えることを特徴とする医療・福祉用具の処理方法。
【請求項2】前記滅菌工程は、前記処理容器内の減圧を行う減圧工程と、前記処理容器内に滅菌用試薬を供給する滅菌用試薬供給工程と、前記処理容器内の滅菌用試薬を排気する滅菌用試薬排気工程とを備えることを特徴とする請求項1記載の医療・福祉用具の処理方法。
【請求項3】前記滅菌用試薬は、ホルマリンガスであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の医療・福祉用具の処理方法。
【請求項4】前記滅菌工程の前又は後に前記処理容器内に熱風を供給して前記医療・福祉用具に付着している有害微生物を除去する有害微生物除去工程を、更に備えることを特徴とする請求項1?請求項3の何れか一項に記載の医療・福祉用具の処理方法。」(【特許請求の範囲】請求項1?4)
(刊1-イ)「【発明の属する技術分野】この発明は、介護用マット、車椅子、歩行器等の医療・福祉用具の再使用を行うための医療・福祉用具の処理方法に関するものである。」(【0001】)
(刊1-ウ)「この請求項1記載の医療・福祉用具の処理方法によれば、処理対象となる医療・福祉用具の発生場所において医療・福祉用具を処理容器に収容し処理容器を密封することから、使用済みの医療・福祉用具が病原菌等により汚染されていた場合においても、作業員の感染を防止でき処理実施場所に安全に医療・福祉用具を搬送することができる。また、滅菌が終了した医療・福祉用具が収容された処理容器を密封状態のまま出荷するため、滅菌済みであることを示すインジケータ等を処理容器内に入れておくことで、利用者の所に医療・福祉用具が届けられたときに利用者が医療・福祉用具の滅菌が完了していることを確認することができ、利用者は安心して清潔な医療・福祉用具を利用することができる。」(【0005】)
(刊1-エ)「また、請求項2記載の医療・福祉用具の処理方法は、前記滅菌工程が前記処理容器内の減圧を行う減圧工程と、前記処理容器内に滅菌用試薬を供給する滅菌用試薬供給工程と、前記処理容器内の滅菌用試薬を排気する滅菌用試薬排気工程とを備えることを特徴とする。この請求項2記載の医療・福祉用具の処理方法によれば、処理容器内を減圧した後に滅菌用試薬を供給するため、処理容器内の全体に所定濃度の滅菌用試薬がいきわたり滅菌を完全に行うことができる。(【0006】)
(刊1-オ)「また、請求項3記載の医療・福祉用具の処理方法は、前記滅菌用試薬は、ホルマリンガスであることを特徴とする。この請求項3記載の医療・福祉用具の処理方法によれば、医療・福祉用具の滅菌を完全に行うことができる。」(【0007】)
(刊1-カ)「また、請求項4記載の医療・福祉用具の処理方法は、前記滅菌工程の前又は後に前記処理容器内に熱風を供給して医療・福祉用具に付着している有害微生物を除去する有害微生物除去工程を、更に備えることを特徴とする。この請求項4記載の医療・福祉用具の処理方法によれば、処理容器内に熱風を供給することにより、ダニ等の有害微生物が医療・福祉用具に付着していた場合においても有害微生物を死滅させることができる。また、処理用機内の医療・福祉用具に水が付着していた場合においても迅速に乾燥させることができる。」(【0008】)
(刊1-キ)「次に、処理袋2内の減圧を行う(ステップS14)。即ち、ホルマリンガス殺菌装置4のポンプ16を停止させポンプ24のみを運転することにより、処理袋2内の空気を処理袋2外に排出し処理袋2内の減圧を行う。次に、処理袋2内にホルマリンガスを供給し(ステップS15)、介護用マットの滅菌処理を行う。即ち、ホルマリンガス殺菌装置4のホルマリンガス発生装置14、ポンプ16、湿度調節器18、温度調節器20を制御することにより処理袋2内に、温度及び湿度(以後相対湿度を意味する)がそれぞれ温度20?40℃、湿度50?90%であり、ホルマリンガス濃度160ppm以上のホルマリンガスを供給し介護用マットを滅菌する。なお、ホルマリンガス濃度は、JIS K0303に液体クロマトグラフ分析を組み合わせて測定したホルムアルデヒド自体の濃度である。
この状態で所定時間経過した後に、作業員がケミカルインジケータが適正値になっていることを確認し(ステップS16)、その後、処理袋2からホルマリンガスを排出させる(ステップS17)。即ちホルマリンガス発生装置14を停止させ、ポンプ16、24を運転して処理袋2から排気されたホルマリンガスを排ガス処理機22により処理する。排ガス処理機22により処理された排ガスは、還流空気通路40を介してポンプ16に供給され、再度処理袋2内に供給することにより処理袋2内の空気を循環させる。この処理を処理袋2内のホルマリンガス濃度が所定の値より低くなるまで実施する。
次に、処理袋2内に乾燥した熱風を供給して介護用マットに付着している有害微生物を除去する(ステップS18)と共に介護用マットの乾燥を行う。即ち、ポンプ24及びポンプ16を運転することにより処理袋2内の空気を循環させながら温度調節器20により空気の加熱を行い処理袋2内に乾燥した熱風を供給して有害微生物を死滅させる。そして、処理袋2の導入口2d、排出口2eから接続されているホルマリンガス殺菌装置4の給気口10の先端部、排気口12の先端部を外し、所定時間経過後、滅菌有害微生物の処理が終了した介護用マットが収容された処理袋を密封状態のまま出荷する(ステップS19)。」(【0014】?【0016】)
(刊1-ク)「なお、上述の実施の形態において使用可能なホルマリンガス発生装置は特に限定はないがドライなホルムアルデヒドガスを発生可能な手段が好ましい。即ち、ホルムアルデヒドが、制御可能な程度の少量の水分の発生のみを伴う手段である。具体的には、メタノールから、(1)触媒を用いて発生させる手段、(2)超音波処理して発生させる手段、(3)紫外線照射して発生させる手段等が挙げられる。上述の実施の形態において、処理袋2内のホルムアルデヒド濃度の測定は、排ガス処理機22の上流側に設けられた公知のモニタ手段によることが可能である。具体的には、化学分析法、又は物理化学分析法が挙げられる。」(【0019】)

(2)前置報告書に引用文献2として引用され本願優先権主張日前に頒布された特開2002-355278号公報(以下、「刊行物2」という。)には次の事項が記載されている。
(刊2-ア)「【従来の技術】従来、使用済みの介護用品や医療用具は殺菌室へ搬入され、この殺菌室に殺菌ガス(例えば、ホルムアルデヒドガス等)を供給して殺菌している。この殺菌ガスの殺菌効果は、このガス濃度のほかに、室内の湿度や温度等に大きく依存している。ここで、殺菌室に充満させた殺菌ガスは、この殺菌室から漏れないようにしなければならない。一方、殺菌処理を施したバイオクリーンルームで、細菌等の実験を行う場合にあってはバイオクリーンルーム外に細菌等が洩れないようにしなければならない。」(【0002】)
(刊2-イ)「ホルムアルデヒドガスによる殺菌効果は、湿度の上昇に相関していることが知られていることから、最適な湿度を保持しつつホルムアルデヒドを発生させることが好ましい。具体的には、メタノールから、(1)触媒を用いて発生させる手段、(2)超音波処理して発生させる手段、(3)紫外線照射して発生させる手段等が挙げられる。このホルムアルデヒドガス殺菌装置66においては、特に(1)が好ましい。この際、同時に水が副生成するが極めて少量である。
上述の触媒を用いて発生させる手段で用いられる具体的な触媒として、白金、銅、アルミニウム、又は炭素等、又それらの混合物が挙げられる。この触媒を円筒状の容器に充填し、円筒状容器を温度調節して該触媒を所定の温度に加熱、冷却する。所定の量のメタノールをまず気化させ、触媒部分へ送り、触媒反応を開始する。」(【0049】、【0050】)

2-3.刊行物1に記載された発明の認定
(1)刊行物1の記載事項(刊1-ウ)(以下、単に「(刊1-ウ)」のように記載する。)に記載されるように、刊行物1の請求項1には、「処理対象」からの病原菌等の感染を防ぎ、また、「処理対象」を滅菌した状態で届けるために、「処理対象となる医療・福祉用具」の「収容工程」、「搬送工程」、「出荷工程」を有し、それらとは別に、「処理対象」を滅菌するための「滅菌工程」を有する「医療・福祉用具の処理方法」が示されており、「滅菌工程」と、「収容工程」、「搬送工程」、「出荷工程」とは直接的な関連はないといえる。
(2)また、刊行物1の請求項2、3には、(刊1-エ)、(刊1-オ)に記載されるように、「滅菌工程」において、当該工程での各種操作、滅菌用試薬の特定について示され、また、請求項4には、(刊1-カ)に記載されるように、有害微生物の除去のために熱風を供給する「有害微生物除去工程」が示され、これは有害物を除去するという観点から「滅菌工程」とは不可分ととらえることが自然であるといえる。
そして、「滅菌工程」と「有害微生物除去工程」は、上記の「収容工程」、「搬送工程」、「出荷工程」とは直接的な関連がないといえる。
(3)すると、「滅菌工程」と「有害微生物除去工程」については、「収容工程」、「搬送工程」、「出荷工程」とは独立に把握することが可能な「医療・福祉用具の処理方法」とみることができるといえる。
(4)以上を踏まえ、(刊1-ア)の請求項1?4の記載から、請求項1を引用する請求項2をさらに引用する請求項3をまたさらに引用する請求項4について、「滅菌工程」「有害微生物除去工程」に着目した医療・福祉用具の処理方法」に関して、これを独立形式で記載すると、刊行物1には、
「処理容器内に滅菌用試薬を供給することにより前記処理容器内に収容されている医療・福祉用具の滅菌工程であって、前記処理容器内の減圧を行う減圧工程と、前記処理容器内に滅菌用試薬を供給する滅菌用試薬供給工程と、前記処理容器内の滅菌用試薬を排気する滅菌用試薬排気工程とを備え、前記滅菌用試薬がホルマリンガスである滅菌工程と、
前記滅菌工程の前又は後に前記処理容器内に熱風を供給して前記医療・福祉用具に付着している有害微生物を除去する有害微生物除去工程を、更に備える医療・福祉用具の処理方法。」の発明(以下、「引用発明甲」という。)が記載されていると認められる。

2-4.補正発明と引用発明甲との対比
(1)引用発明甲の「医療・福祉用具」を「収容」する「処理容器」は「滅菌用試薬」が「供給」され「滅菌後」に「排出」されるものである。
一方、本願明細書【0036】?【0038】には、補正発明の「殺菌処理対象物」を「収容」する「処理室」も「殺菌有効成分を含有した処理ガス」が「供給」され「殺菌処理」後に「排気」されるものであることが示されており、両者は同様に機能することは明らかである。
また、本願明細書の【0001】に「本発明は、無菌室や手術室、手術用具、医療資材、介護用品など各種殺菌処理対象物を殺菌処理する技術に関し」と記載されており、補正発明は例えば「介護用品」を対象とするものであるから、引用発明甲の「医療・福祉用具」は補正発明の例えば「介護用品」である「殺菌処理対象物」に相当するといえる。
よって、引用発明甲の「処理容器」は、補正発明の「処理室」に相当するということができる。
(2)補正発明の「処理ガス」は「殺菌処理対象物」を「殺菌処理」するものだから、引用発明甲の「滅菌用試薬」は、補正発明の「処理ガス」に相当するといえる。
(3)(刊1-キ)には「処理袋2内にホルマリンガスを供給し(ステップS15)、介護用マットの滅菌処理を行う」ことが記載されており、十分な滅菌を行うために「処理袋2内」の隅々まで「ホルマリンガス」を行き渡らせることは当然であるから、これは「滅菌用試薬」である「ホルマリンガス」を「処理容器」である「処理袋」に「充満」させるものであるということができる。
また、引用発明甲の「処理方法」は、「滅菌用試薬」を用いる実質的な「殺菌方法」であることは明らかだから、引用発明甲の「処理方法」は補正発明の「殺菌方法」に相当するということができる。
したがって、引用発明甲の「処理容器内に滅菌用試薬を供給することにより前記処理容器内に収容されている医療・福祉用具の滅菌工程」を備える「医療・福祉用具の処理方法」は、補正発明の「殺菌有効成分を含有した処理ガスを処理室内に充満させて当該処理室内の殺菌処理対象物を殺菌処理する殺菌方法」に相当するということができる。
(4)そして、引用発明甲の「前記処理容器内の減圧を行う減圧工程と、前記処理容器内に滅菌用試薬を供給する滅菌用試薬供給工程と、前記処理容器内の滅菌用試薬を排気する滅菌用試薬排気工程とを備え、」について、さらに詳細に説明された(刊1-キ)には、「・・・処理袋2内の空気を処理袋2外に排出し処理袋2内の減圧を行う。次に、処理袋2内にホルマリンガスを供給し(ステップS15)、介護用マットの滅菌処理を行う・・・処理袋2内に、温度及び湿度(以後相対湿度を意味する)がそれぞれ温度20?40℃、湿度50?90%であり、ホルマリンガス濃度160ppm以上のホルマリンガスを供給し介護用マットを滅菌する・・・この状態で所定時間経過した後に・・・ホルマリンガス発生装置14を停止させ・・・処理袋2から排気されたホルマリンガスを排ガス処理機22により処理する・・」と記載されている。すると、
i)本願明細書の【0032】には「制御器60は・・・吸気ポンプ51と排気ポンプ55とを制御することにより処理室20内への処理ガスの搬送量および処理室20内からの排ガスの排出量を制御する」と記載され、「処理室20内への処理ガスの搬送量」すなわち「処理室20内への処理ガス」の供給量が「排気ポンプ55」によっても制御されることが示されており、これは、補正発明でも「処理室20内への処理ガス」の供給量が「処理室20内」の「減圧」によっても制御され得ることを示しているということができるから、これは、引用発明甲の「処理容器内の減圧を行う減圧工程」にあたるということができる。
ii)引用発明甲では「処理容器」である「処理袋2」内を減圧して、「滅菌用試薬」を「処理容器」内へ供給し「所定時間経過」させるものだから、これは補正発明の「殺菌処理対象物」を「処理ガス」に「曝」すことにあたるということができる。
iii)「処理袋2」内の温度によっては、供給される「滅菌用試薬」であるホルマリンガスの物性からして、「処理袋2」内に供給された際に「処理袋2」内に結露等の発生する可能性があるといえるので、「処理袋2」内も、結露等が発生しない温度としておくべきだから、この温度は補正発明の「処理室内を所定温度に保ちつつ」にあたるということができる。
iv)「ホルマリンガス発生装置14を停止させ・・・処理袋2から排気されたホルマリンガスを排ガス処理機22により処理する」から、引用発明甲では、「滅菌用試薬」であるホルマリンガスの供給が停止されてから、「処理袋2」内から「滅菌用試薬」であるホルマリンガスが排気されるものである。
これに対して、補正発明でも本願明細書【0037】【0038】にあるように「処理ガスの供給を開始してから所定時間h1が経過すると、処理ガスの供給が停止される・・・処理ガス発生器40を停止させた状態で、吸気ポンプ51および排気ポンプ55が運転される。そして、処理室20内からの排ガスを排ガス処理器54により処理する。」とあるように、「処理ガスの供給を停止」してから「処理ガス」を排気するものである。
v)したがって、引用発明甲の「前記処理容器内の減圧を行う減圧工程と、前記処理容器内に滅菌用試薬を供給する滅菌用試薬供給工程と、前記処理容器内の滅菌用試薬を排気する滅菌用試薬排気工程とを備え、」は、補正発明の「前記処理室内を所定温度に保ちつつ前記処理室内に前記処理ガスを供給して前記殺菌処理対象物を前記処理ガスに曝した後、前記処理室内への前記処理ガスの供給を停止し、」に相当するということができる。
(5)引用発明甲の「前記滅菌工程の前又は後に前記処理容器内に熱風を供給して前記医療・福祉用具に付着している有害微生物を除去する有害微生物除去工程」について、(刊1-キ)には「・・・処理袋2内にホルマリンガスを供給し(ステップS15)、介護用マットの滅菌処理を行う・・・所定時間経過した後に・・・ホルマリンガス発生装置14を停止させ・・・次に、処理袋2内に乾燥した熱風を供給して介護用マットに付着している有害微生物を除去する(ステップS18)と共に介護用マットの乾燥を行う。即ち、ポンプ24及びポンプ16を運転することにより処理袋2内の空気を循環させながら温度調節器20により空気の加熱を行い処理袋2内に乾燥した熱風を供給して有害微生物を死滅させる。」と記載されていることから、引用発明甲では「ホルマリンガス発生装置14を停止させ」た後で「処理袋2内に乾燥した熱風を供給」するものといえるものであり、これは補正発明が「処理ガスの供給を停止」してから「加熱」することにあたるということができる。
また、補正発明でも「前記処理室内を前記所定温度よりも高く且つ前記殺菌処理対象物の耐熱温度の上限を超えない範囲で可能な限り高い加熱処理温度まで上昇させるように」することから、「有害微生物」がいれば除去されるということができる。
(6)以上のことから、補正発明と引用発明甲とは、
「殺菌有効成分を含有した処理ガスを処理室内に充満させて当該処理室内の殺菌処理対象物を殺菌処理する殺菌方法であって、
前記処理室内を所定温度に保ちつつ前記処理室内に前記処理ガスを供給して前記殺菌処理対象物を前記処理ガスに曝した後、前記処理室内への前記処理ガスの供給を停止し、前記処理室内を加熱する殺菌方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>「殺菌有効成分を含有した処理ガス」について、補正発明は
「処理ガスは、白金、銅、アルミニウム、または炭素、あるいはこれらの混合物である触媒がメタノールガスに作用することにより発生する、HCHOおよび各種ラジカル種を含む処理ガス」であるのに対して、引用発明甲では「ホルマリンガス」である点。
<相違点2>「処理室内」の加熱について、補正発明では「所定温度よりも高く且つ前記殺菌処理対象物の耐熱温度の上限を超えない範囲で可能な限り高い加熱処理温度まで上昇させるようにした」ものであるのに対して、引用発明甲では温度の特定なしに「熱風を供給」して加熱するものである点。

2-5.相違点の検討
(1)相違点1について
a)(刊1-ク)には「なお、上述の実施の形態において使用可能なホルマリンガス発生装置は特に限定はないがドライなホルムアルデヒドガスを発生可能な手段が好ましい。即ち、ホルムアルデヒドが、制御可能な程度の少量の水分の発生のみを伴う手段である。具体的には、メタノールから、(1)触媒を用いて発生させる手段、(2)超音波処理して発生させる手段、(3)紫外線照射して発生させる手段等が挙げられる。」と記載されており、引用発明甲の「ホルマリンガス」は「ホルムアルデヒドガス」であり、その製造は「メタノール」から「触媒を用いて発生させる手段」によって行われ得るものであることが理解される。
b)そこで、刊行物2の(刊2-ア)、(刊2-イ)をみると、「使用済みの介護用品や医療用具」を「殺菌室」で殺菌するのに「殺菌ガス(例えば、ホルムアルデヒドガス等)」を供給して殺菌すること、当該「ホルムアルデヒドガス」を製造するのに「メタノールから、(1)触媒を用いて発生させる手段、(2)超音波処理して発生させる手段、(3)紫外線照射して発生させる手段等が挙げられる。このホルムアルデヒドガス殺菌装置66においては、特に(1)が好ましい。この際、同時に水が副生成するが極めて少量である。
上述の触媒を用いて発生させる手段で用いられる具体的な触媒として、白金、銅、アルミニウム、又は炭素等、又それらの混合物が挙げられる。この触媒を円筒状の容器に充填し、円筒状容器を温度調節して該触媒を所定の温度に加熱、冷却する。所定の量のメタノールをまず気化させ、触媒部分へ送り、触媒反応を開始する。」と記載されている。
c)ここで、本願明細書の【0028】【0029】には「図4は処理ガス発生器40の構成図である。処理ガス発生器40内には、図示しないメタノール供給源から搬送管41を通してメタノールが供給される気化室42と、気化室42を周囲から加熱する第1温度調節器43と、気化室42の上方に接続された略円筒状の触媒槽44と、触媒槽44を周囲から加熱する第2温度調節器45とが設けられている。触媒槽44には、粒状化した触媒46が充填されている。触媒46には、白金、銅、アルミニウム、または炭素、あるいはこれらの混合物が用いられる。
処理ガス発生器40にて処理ガスを発生させる際、まず気化室42内に所定量のメタノールが供給される。気化室42に供給されたメタノールは、加熱により気化されて触媒槽44に供給される。触媒槽44内では、メタノールガスに触媒が作用することにより、HCHOおよび各種ラジカル種を含む処理ガスが発生する。処理ガスの発生量は、気化室42におけるメタノールの気化量、触媒槽44に供給されるメタノールガスの量、触媒槽44の加熱温度、等に依存する。」と記載されている。
すなわち、刊行物2には、「メタノール」から「触媒」を用いて「ホルムアルデヒドガス」を発生させるのに、「メタノール」を気化させて「触媒部分へ送り、触媒反応を開始する」ものであって、当該触媒が「白金、銅、アルミニウム、又は炭素等、又それらの混合物」であることが記載され、これは、補正発明において「白金、銅、アルミニウム、または炭素、あるいはこれらの混合物である触媒がメタノールガスに作用すること」により「処理ガス」を発生させることと、ガスの材料(メタノール)と発生方法が同じであるということができる。
すると、ガスの材料と発生方法が同じであれば発生するガスは同じであるといえるから、刊行物2には、「白金、銅、アルミニウム、または炭素、あるいはこれらの混合物である触媒がメタノールガスに作用すること」で「HCHOおよび各種ラジカル種を含む処理ガス」が発生すること、当該処理ガスを「使用済みの介護用品や医療用具」に使用することが記載されているということができる。
d)そうであれば、引用発明甲の「ホルマリンガス」は「ホルムアルデヒドガス」であり、その製造は「メタノール」から「触媒を用いて発生させる手段」によって行われ得るものであるから、これに刊行物2の製造方法による処理ガスを適用することに想到することは格別の困難性なく成し得ることといえる。
よって、引用発明甲において刊行物2に記載の技術手段を適用して相違点1に係る補正発明の特定事項に想到することは当業者の容易に推考し得るところということができる。
そして上記相違点1に基づく補正発明の奏する作用効果も、刊行物1、2の記載事項及び技術常識から予測できる範囲のものであり格別なものではない。

(2)相違点2について
(刊1-キ)には「処理袋2内に乾燥した熱風を供給して介護用マットに付着している有害微生物を除去する(ステップS18)と共に介護用マットの乾燥を行う。即ち、ポンプ24及びポンプ16を運転することにより処理袋2内の空気を循環させながら温度調節器20により空気の加熱を行い処理袋2内に乾燥した熱風を供給して有害微生物を死滅させる。」と記載されており、引用発明甲では「有害微生物を死滅させる」ことを目的として「処理袋2内に乾燥した熱風を供給」して「処理袋2内」を加熱するものであるから、より早くより確実に「有害微生物を死滅させる」ためには可能な限りの高温とすることが望ましいが、加熱される「医療・福祉用具」である「介護用マット」が熱で損傷してしまうほどの高温にすることは避けるのは当然であるから、引用発明甲において、「処理容器」である「処理袋」内を加熱するにあたり、「医療・福祉用具」である「介護用マット」が熱で損傷しない範囲で可能な限りの高温とするようにすることに格別の困難性は見いだせない。
よって、引用発明甲において相違点2に係る補正発明の特定事項に想到することは当業者の容易に推考し得るところということができる。
そして上記相違点2に基づく補正発明の奏する作用効果も、刊行物1の記載事項及び技術常識から予測できる範囲のものであり格別なものではない。
(3)請求人の主張について
請求人は回答書において以下の補正案を提示しているのでこれを検討する。
<補正案>
「[請求項1]
殺菌有効成分を含有した処理ガスを処理室内に充満させて当該処理室内の殺菌処理対象物を殺菌処理する殺菌方法であって、
前記処理ガスは、白金、銅、アルミニウム、または炭素、あるいはこれらの混合物である触媒がメタノールガスに作用することにより発生する、HCHOおよび各種ラジカル種を含む処理ガスであり、
前記処理室内を所定温度に保ちつつ前記処理室内に前記処理ガスを供給して前記殺菌処理対象物を前記処理ガスに曝した後、前記処理室内への前記処理ガスの供給を停止し、前記処理室内を前記所定温度よりも高く且つ前記殺菌処理対象物の耐熱温度の上限を超えない範囲で可能な限り高い加熱処理温度まで上昇させ、
前記加熱処理温度は最高で80℃であることを特徴とする殺菌方法。」

上記補正案において、加熱の温度範囲は、「前記所定温度よりも高く且つ前記殺菌処理対象物の耐熱温度の上限を超えない範囲」であって、「加熱処理温度は最高で80℃である」と特定されることによって、「前記所定温度よりも高く且つ最高で80℃」の範囲ということができる。
そこで、本願明細書【0040】【0041】をみると、「図5は、処理ガス供給時の温度T1を35℃、加熱処理温度T1(当審注:「T2」の誤記と認める。)を75℃に設定して殺菌処理を実施した場合における殺菌処理対象物内部の温度変化を例示している。この例では外気温が約20℃であるので、電熱ヒータ25による処理ガス供給前の処理室20内の温度調節を行っているが、外気温が30℃程度であれば、処理ガス発生器40により発生させた温風を処理室20内に供給して温度調節を行ってもよいし、処理室20内の温度調節を行わずに処理ガスの供給を開始してもよい。
この殺菌方法によれば、処理室20内を所定温度T1に保ちつつ、HCHOを含有した処理ガスを処理室20内に供給して、処理室20内に収容した殺菌処理対象物を処理ガスに所定時間暴露することにより、殺菌処理対象物の表面や内部に存在する芽胞の熱に対する耐性を低下させてから、処理室20内を処理ガス供給時の温度T1よりも高く且つ殺菌処理対象物の耐熱温度T0以下の加熱処理温度T2に加熱することにより、本来の死滅温度よりも格段と低い温度T2で、殺菌処理対象物の表面及び内部に存在する芽胞を含む全ての細菌を死滅させることができる。」と記載されており、「所定温度T1」は 上記記載からは「35℃」を含むものである。
すると、上記補正案において、加熱の温度範囲は、たとえば「35℃よりも高く且つ最高で80℃」の範囲ということができる。
ところで本願明細書の【実施例】(【0049】?)をみると、ガス曝露と共に加熱温度を「60℃」「80℃」とする場合には、生菌数が十分に減少しており、上記補正発明では温度範囲が特定されないことから、上記した当審の判断ではこの「60℃」「80℃」の場合を想定して審理したものであるが、「35℃よりも高く且つ最高で80℃」の範囲と特定すると、例えば「50℃」の場合には生菌数が十分に減少しているかどうかは明らかでないことから、上記補正案においては本願明細書に記載の効果を奏し得るか否か明らかでないため、そのような補正を認めることはできない。
また、補正案には請求項1についてのみ記載され、他の請求項について補正案はないが、拒絶理由通知に「なお、上記のとおり、上記請求項1に係る発明は、上記刊行物1に記載される発明といえるので、上記請求項1に係る発明と請求項2?7に係る発明との間で同一の又は対応する特別な技術的特徴を見出すことができない。」と記載された点は、平成24年3月22日付けの特許請求の範囲の記載に係る手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?7について、依然として補正されておらず、上記補正案を採用したとしてもなお特許法第37条違反の問題が残るものである。
以上のことから上記補正案は採用できない。

2-6.独立特許要件のまとめ
上記の検討から、補正発明は、引用発明甲、刊行物2に記載の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件補正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものであったとしても、上記の理由により、いわゆる独立特許要件を満足しないため、本件補正は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成24年3月22日付けの特許請求の範囲の記載に係る手続補正は前記「第2.」のとおり却下されたので、本願の請求項1-7に係る発明は、当初の特許請求の範囲の請求項1-7に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項3に記載された事項によって特定される発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「【請求項3】
殺菌処理対象物を殺菌有効成分を含有した処理ガスに曝した後、当該殺菌処理対象物にガンマ線または紫外線を照射するようにしたことを特徴とする殺菌方法。」

2.刊行物の記載
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用され本願優先権主張日前に頒布された特開平10-328279号公報(以下、「刊行物3」という。)には次の事項が記載されている。
(刊3-ア)「【従来の技術】従来、医療機器や食器のような種々の固形物を殺菌処理する方法として、被処理物を加熱する方法や被処理物へ紫外線(典型的には主波長253.7nm)を照射する方法が多用されている。ところで、殺菌処理すべき病原微生物には胞子を形成するもの(例えばバチルス属等のグラム陽性細菌)も多い。そして、これら胞子が一般的な微生物の栄養細胞体よりも紫外線照射あるいは加熱処理に対して高い抵抗性を有していることが知られている。従って、被処理物の殺菌処理にあたっては通常の形態の微生物体のみならず、このような胞子をも完全に死滅させ得る処理を行うことが必要である。そのため、近年、微生物に及ぼす作用機作が加熱や紫外線とは異なっていることが知られているオゾン(O3)を殺菌処理に利用することが普及してきており、そのようなオゾン処理を効率よく行い得る殺菌装置の開発が望まれている。」(【0002】)
(刊3-イ)「本発明の第一の殺菌装置では、上記オゾン供給手段からケーシング内にオゾンを供給することができる。これにより、ケーシング内に収容・配置した固体形状の被処理物とオゾンとの接触が実現され、当該被処理物をオゾンの酸化反応に基づいて殺菌処理することができる。さらに、本発明の第一の殺菌装置では、上記オゾン供給手段からケーシング内にオゾンを供給する際、上記加湿手段によって予め当該ケーシング内を加湿し、被処理物の表面を湿潤状態(被処理物の表面が水気を帯びた状態。以下同じ。)にしておくこと若しくは当該ケーシング内に収容された被処理物の表面を直に湿らせることができる。このため、本発明の第一の殺菌装置においては、ケーシング内において被処理物を湿潤状態としたうえで当該被処理物とオゾンとを接触させることができる。従って、本発明の第一の殺菌装置によれば、被処理物の表面に付着した水分によって、胞子を含む微生物とオゾンとの接触効率を高めることができると共に、当該水分によってオゾンの分解反応(すなわちオゾン分子から活性酸素が生成される反応)が促進される。その結果、オゾンおよび当該生成された活性酸素の強力な酸化作用によって微生物の表層組織(細胞壁、莢膜、細胞膜、エンベロープ等)の破壊が助長されるため、被処理物の殺菌処理効率を向上させることができる。」(【0007】)
(刊3-ウ)「本発明の第三の殺菌装置によれば、上記本発明の第二の殺菌装置における紫外線照射処理を行う際、上記加熱手段によって被処理物の表面を一旦乾燥させることができる。このため、上記光源から照射された紫外線が被処理物の表面に付着する水分あるいは上記オゾン処理に伴い当該水分に残留するオゾンに吸収されて減衰するのを防止することができる。従って、本発明の第三の殺菌装置によれば、上記湿潤状態の被処理物に対するオゾン処理と乾燥状態の被処理物に対する紫外線照射処理とを併用することが可能となり、被処理物に対する殺菌効果をさらに高めることができる。」(【0011】)
(刊3-エ)「上記加湿処理の際には同時に湿度センサ32を作動させておき、ケーシング10内部の相対湿度%(以下、%RHで示す)をモニタリングする。而して、ケーシング10内部の相対湿度が所定レベル(典型的には60%RH以上、好ましくは85%RH以上)に到達したことが湿度センサ32を介して検知された際には、制御部36からの作動信号に基づいてオゾン発生器26が作動し、上記電源部34からオゾン発生器26の電極(図示せず)に高周波高電圧が印加される。これにより、当該電極間に無声放電(典型的には沿面放電)が生じ、吸入口26bからオゾン発生器26のガス供給管(図示せず)に導入されたエア中の酸素からオゾンが生成され、当該オゾンを含むエアはオゾン噴出口26aから反応室内に供給される。このようにして、所定の時間、ケーシング10内に収容した被処理物Sを湿潤状態においてオゾン処理することができる。なお、ケーシング10の反応室に供給されたオゾンは、排気口16(ヘパフィルタ付)を介して上述のオゾン分解剤を含有する処理フィルタ18内に誘導され、当該処理フィルタ18において酸素に分解された後に外部排気口22から大気中に放出される。」(【0022】)
(刊3-オ)「以上のとおり、本殺菌装置1では、先ず、湿潤状態において被処理物Sをオゾン処理し得るとともに、被処理物Sを乾燥状態にした後に紫外線照射処理を行うことができる。このため、本殺菌装置1によれば、作用機作の異なるオゾンによる殺菌処理と紫外線照射による殺菌処理のいずれをも効果的かつ適切に行うことができる。」(【0024】)
(刊3-カ)「上記構成の本殺菌装置1によれば、種々の固体形状の被処理物Sを殺菌処理することができる。例えば、樹脂、ガラス、セラミック若しくはステンレス製の食器、調理用具、医療機器および各種実験器具類(児童・生徒が使用する教育用理科機器を含む)、あるいは加硫ゴム製品や種々の加工食品(冷凍物、ゲル化物等)の殺菌処理に好適に使用し得る。そして、本殺菌装置1における殺菌処理条件(オゾン処理時間、紫外線照射時間、反応室温度等)は、被処理物Sの性状に応じて、適宜変更される。例えば、予め大腸菌および枯草菌(胞子を含む)を塗布した一般的な実験器具(ここではガラス製ビーカー)を本殺菌装置1によって殺菌処理する場合、室温条件下で上記反応室内の湿度をほぼ85%RHに調整した後、オゾン濃度90?150ppmにおいて10?20分間の上記オゾン処理を行い、次いで湿度を50%RH以下に下げた後に紫外線照射(照射照度;10?15mW/cm^(2))を30秒間行うことによって、当該実験器具表面の滅菌が実現された。あるいは、室温条件下で湿度が50%RH以下の状態において、先ず紫外線照射(照射照度;10?15mW/cm^(2))を30秒間行い、次いで上記反応室内の湿度をほぼ85%RHに調整した後にオゾン濃度90?150ppmにおいて10?20分間オゾン処理した場合も、同様に実験器具表面を滅菌することができた。」(【0026】)

3.原査定の理由について
原査定には「この出願については、平成23年 7月11日付け拒絶理由通知書に記載した理由1?3によって、拒絶をすべきものです。」と記載されており、上記拒絶理由通知書には、理由1(新規性:特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。)、理由2(進歩性:特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。)について請求項1?7に対して、理由3(記載不備:特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。)について請求項7に対して摘示されている。
そこで、上記各理由について原査定の判断の妥当性を以下で検討する。

4.新規性進歩性について
4-1.刊行物3に記載された発明の認定
刊行物3には、(刊3-ア)に「殺菌処理すべき病原微生物には胞子を形成するもの(例えばバチルス属等のグラム陽性細菌)も多い。そして、これら胞子が一般的な微生物の栄養細胞体よりも紫外線照射あるいは加熱処理に対して高い抵抗性を有していることが知られている。従って、被処理物の殺菌処理にあたっては通常の形態の微生物体のみならず、このような胞子をも完全に死滅させ得る処理を行うことが必要である。」と記載されるように、細菌中の特に「胞子を形成するもの(例えばバチルス属等のグラム陽性細菌)」に対する殺菌処理を課題とすることが示されているといえる。
そして本願発明は、本願明細書【0002】に記載されるように「耐熱性芽胞菌」に対する殺菌処理を課題とするものであり、当該菌の例として本願明細書【実施例】【0049】には、「セルテックラボラトリー社製のBacillus Subtilis(牙胞)ATCC9372」が記載されており、これは刊行物3の上記「バチルス属等のグラム陽性細菌」であるので、本願発明と刊行物3に記載の技術手段とは同一の課題を有するものといえる。
そして、【0024】には「以上のとおり、本殺菌装置1では、先ず、湿潤状態において被処理物Sをオゾン処理し得るとともに、被処理物Sを乾燥状態にした後に紫外線照射処理を行うことができる。このため、本殺菌装置1によれば、作用機作の異なるオゾンによる殺菌処理と紫外線照射による殺菌処理のいずれをも効果的かつ適切に行うことができる。」と記載されており、これは、「本殺菌装置1」は「湿潤状態において被処理物Sをオゾン処理し得るとともに、被処理物Sを乾燥状態にした後に紫外線照射処理を行う」という殺菌処理を実施し得ることを示すもので、「オゾン処理」後に「紫外線照射処理」を行うという時間経過に従った工程が示されていることから、「湿潤状態において被処理物Sをオゾン処理し得るとともに、被処理物Sを乾燥状態にした後に紫外線照射処理を行う」という殺菌方法を「本殺菌装置1」は実施し得るということができる。
よって、刊行物3には、「湿潤状態において被処理物Sをオゾン処理し得るとともに、被処理物Sを乾燥状態にした後に紫外線照射処理を行う殺菌処理方法。」の発明(以下、「引用発明乙」という。)が記載されていると認められる。

4-2.本願発明と引用発明乙との対比・判断
(1)引用発明乙の「被処理物S」は【0026】に「・・・種々の固体形状の被処理物Sを殺菌処理することができる。例えば、樹脂、ガラス、セラミック若しくはステンレス製の食器、調理用具、医療機器および各種実験器具類(児童・生徒が使用する教育用理科機器を含む)、あるいは加硫ゴム製品や種々の加工食品(冷凍物、ゲル化物等)の殺菌処理に好適に使用し得る。・・・」と記載されている。
一方、本願発明の「殺菌処理対象物」は、本願明細書【0001】に「本発明は、無菌室や手術室、手術用具、医療資材、介護用品など各種殺菌処理対象物を殺菌処理する技術に関し」と記載されている。
すると、少なくとも引用発明乙の「医療機器」と本願発明の「医療資材」とは共通するものといえる。
よって、少なくとも「医療資材」である引用発明乙の「被処理物S」は、本願発明の「殺菌処理対象物」に相当するということができる。
(2)引用発明乙の「湿潤状態において被処理物Sをオゾン処理し得る」ことについて、【0022】には「制御部36からの作動信号に基づいてオゾン発生器26が作動し、上記電源部34からオゾン発生器26の電極(図示せず)に高周波高電圧が印加される。これにより、当該電極間に無声放電(典型的には沿面放電)が生じ、吸入口26bからオゾン発生器26のガス供給管(図示せず)に導入されたエア中の酸素からオゾンが生成され、当該オゾンを含むエアはオゾン噴出口26aから反応室内に供給される。このようにして、所定の時間、ケーシング10内に収容した被処理物Sを湿潤状態においてオゾン処理することができる。」と記載されていることから、オゾンは湿潤状態下で被処理物Sに対してガスとして供給されているといえる。
また、【0007】には「・・・被処理物の表面に付着した水分によって、胞子を含む微生物とオゾンとの接触効率を高めることができると共に、当該水分によってオゾンの分解反応(すなわちオゾン分子から活性酸素が生成される反応)が促進される。その結果、オゾンおよび当該生成された活性酸素の強力な酸化作用によって微生物の表層組織(細胞壁、莢膜、細胞膜、エンベロープ等)の破壊が助長されるため、被処理物の殺菌処理効率を向上させることができる。」と記載されており、オゾンが殺菌を行うもので、湿潤状態下で殺菌力が向上されることが理解される。
すると、引用発明乙の「オゾン」は、「殺菌有効成分を含有した処理ガス」に相当し、湿潤状態下で供給されてより殺菌力が向上しているものであり、本願発明は、「殺菌有効成分を含有した処理ガス」を用いるが当該ガスによる殺菌力をより向上させることまでは特定していないので、本願発明の「殺菌処理対象物を殺菌有効成分を含有した処理ガスに曝」すことは、引用発明乙の「湿潤状態において被処理物Sをオゾン処理し得る」ことを包含するものということができる。
(3)引用発明乙の「被処理物Sを乾燥状態にした後に紫外線照射処理を行う」ことについて、【0011】に「・・・紫外線照射処理を行う際、上記加熱手段によって被処理物の表面を一旦乾燥させることができる。このため、上記光源から照射された紫外線が被処理物の表面に付着する水分あるいは上記オゾン処理に伴い当該水分に残留するオゾンに吸収されて減衰するのを防止することができる。・・・」と記載されていることから、紫外線照射処理の殺菌効率を向上させるために「被処理物Sを乾燥状態」にするものであることが理解される。
また、引用発明乙では、湿潤状態下でオゾンガスが供給され、乾燥させてから紫外線が照射されることから、オゾンガスの供給の後に紫外線照射されていることは明らかである。
すると、引用発明乙の「紫外線照射処理」は「被処理物Sを乾燥状態」にすることで殺菌力が向上しているものであり、本願発明は「当該殺菌処理対象物にガンマ線または紫外線を照射する」ものであるが「紫外線を照射」することによる殺菌力をより向上させることまでは特定していないので、本願発明の、処理ガスに曝した「後、当該殺菌処理対象物にガンマ線または紫外線を照射する」ことは、引用発明乙の「被処理物Sを乾燥状態にした後に紫外線照射処理を行う」ことを包含するものということができる。
(4)以上のことから、本願発明と引用発明乙とは、
「殺菌処理対象物を殺菌有効成分を含有した処理ガスに曝した後、当該殺菌処理対象物にガンマ線または紫外線を照射するようにした殺菌方法。」である点で一致し、実質的に相違しないといえる。
(5)以上から、本願発明は引用発明乙と同一発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、そうでないとしても、本願発明は引用発明乙に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5.記載不備について
本願特許請求の範囲の請求項7には「【請求項7】前記加熱処理温度は最高で80℃である請求項3記載の殺菌装置。」と記載されているが、上記請求項7で引用される請求項3には「殺菌方法」に係る発明が記載されているから、請求項相互の記載が整合していないので、上記請求項7に係る発明の構成が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第4.むすび
以上のとおり、請求項3に係る本願発明は引用発明乙と同一発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
そうでないとしても、請求項3に係る本願発明は引用発明乙に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、請求項7に係る記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、当該記載に係る請求項7に記載された発明は特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-07 
結審通知日 2013-03-13 
審決日 2013-03-26 
出願番号 特願2006-531698(P2006-531698)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (A61L)
P 1 8・ 121- Z (A61L)
P 1 8・ 113- Z (A61L)
P 1 8・ 537- Z (A61L)
P 1 8・ 575- Z (A61L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 金 公彦  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 中澤 登
國方 恭子
発明の名称 殺菌方法および殺菌装置  
復代理人 茜ヶ久保 公二  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
復代理人 茜ヶ久保 公二  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  

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