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審決分類 審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正する E02F
管理番号 1274142
審判番号 訂正2013-390037  
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-07-26 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2013-02-22 
確定日 2013-04-25 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5161386号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5161386号に係る特許請求の範囲を、本件審判請求書に添付された特許請求の範囲のとおり一群の請求項ごとに訂正することを認める。 
理由 1 手続の経緯
本件審判の請求に係る特許第5161386号(以下、「本件特許」という。)は、平成24年6月22日に出願され、平成24年12月21日に特許権の設定登録がなされ、その後、平成25年2月22日に本件訂正審判が請求されたものである。

2 請求の要旨
本件請求の要旨は、本件特許に係る特許請求の範囲を、審判請求書に添付の特許請求の範囲のとおり一群の請求項ごとに訂正することを求めるものであって、その内容は次のとおりである。

〔訂正事項〕
特許請求の範囲の請求項1に「前記前後進切替用操作部材がニュートラル位置であって、かつ前記ブーム操作部材が操作されて前記ブームの操作角度が前記バケットの底板が地面から離れたことを示す角度になった場合に、前記エンジンの最高回転数を所定の回転数に制限する、ホイールローダ。」とあるのを、
「前記前後進切替用操作部材がニュートラル位置であって、かつ前記ブーム操作部材が操作されて前記ブームの操作角度が前記バケットの底板が地面から離れたことを示す角度になった場合に、前記エンジンの最高回転数を所定の回転数に制限するエンジン制御部と、を備えたホイールローダ。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?4も同様に訂正する)。

3 当審の判断
(1)訂正の目的、新規事項及び特許請求の範囲の拡張・変更について
ア 訂正前の請求項1を引用する請求項2には、「前記エンジン制御部」とあり、請求項1又は2を引用する請求項3、さらに請求項1から3のいずれかを引用する請求項4にも、「前記エンジン制御部」とある。
これについて請求項1に係る発明には、発明特定事項としての「エンジン制御部」が無いことから、請求項1を引用した請求項2ないし4に係る発明における「前記エンジン制御部」の「前記」が指し示す「エンジン制御部」が、請求項1には存在しないものとなっている。
とすれば、請求項2ないし4からみて、発明特定事項として必須である「エンジン制御部」を、請求項1に係る発明のホイールローダが備えているものとすることは、誤記の訂正を目的とするものと認められる。

イ 次に特許明細書を参照すると、段落【0011】に「本発明の第1側面に係るホイールローダは、車体フレームと、車体フレームに搭載されたエンジンと、作業機と、キャブと、第1センサと、第2センサと、第3センサと、エンジン制御部と、を備えている。・・・エンジン制御部は、前記前後進切替用操作部材がニュートラル位置であって、かつ前記ブーム操作部材が操作されて、前記ブームの操作角度が、前記バケットの底板が地面から離れたことを示す角度になった場合に、エンジンの最高回転数を所定の回転数に制限する。」と記載されている様に、「前記前後進切替用操作部材がニュートラル位置であって、かつ前記ブーム操作部材が操作されて前記ブームの操作角度が前記バケットの底板が地面から離れたことを示す角度になった場合に、前記エンジンの最高回転数を所定の回転数に制限する」のは、ホイールローダに備えられたエンジン制御部であることは明白である。

ウ 上記アおよびイからみて、上記訂正事項は、誤記の訂正を目的とし、さらに特許明細書及び出願当初の明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものでもない。

(2)独立特許要件について
上記(1)で検討したとおり、訂正事項は特許法第126条第1項ただし書き第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものである。
そこで、特許法第126条第7項の規定により、訂正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される請求項1に係る発明(以下「訂正後発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討すると、訂正後発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるとする理由は発見されない。

したがって、訂正後発明は、いずれも特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであり、特許法第126条第7号に規定する要件に適合するものである。

4 まとめ
以上のとおりであるから、本件審判の請求は、特許法第126条第1項ただし書き第2号に掲げる誤記の訂正を目的とし、かつ、同条第5ないし7項の規定に適合するものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ホイールローダ及びホイールローダの制御方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイールローダ及びホイールローダの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホイールローダにおいては、一般的に、燃料コントロールレバーを最高回転位置にセットした状態で操作レバー等が操作され、掘削等の作業が行われる。このような作業状態では、走行時の振動や掘削等の作業に伴う不可避な振動が発生しているので、エンジン回転に起因する振動は相対的に小さくなる。したがって、エンジン回転に起因する振動が、オペレータに不快感を与えることはない。
【0003】
一方で、例えば土砂等を掘削した後、ブームを操作してダンプトラック等に土砂等を積み込む場合は、走行を停止した状態で、かつエンジン回転数を最高回転数にセットして作業を行う場合が多い。このために、エンジン回転に起因する振動が大きくなり、またこのような状況におけるエンジン回転による振動は、外部からの要因がないこともあって、オペレータに不快感を与えることになる。
【0004】
ここで、建設機械における振動を抑えるために、特許文献1に示されたようなエンジン制御装置が提案されている。この装置では、作業が操作されていないときに、エンジン回転数が、まず最大共振点の回転数より高い第1の低速回転数に設定される。その後、所定時間経過後に、第1の低速回転数よりさらに低い反共振点の回転数の近傍に位置する第2の低速回転数に、エンジン回転数が設定される。このようにローアイドル回転数を制御することによって、エンジンの共振を避け、低燃費及び低騒音を実現している。
【0005】
また、特許文献2に示された制御装置では、エンジンの回転数が予め設定された特定回転数域内に入っていると判定された場合は、エンジンの回転数が、特定回転数域よりも高い回転数又は低い回転数に自動的に変更されるようになっている。これにより、騒音や振動の大きい特定回転数域でエンジンが運転されるのを防止し、車両の居住性や耐久性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-303872号公報
【特許文献2】特開平09-32596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の装置では、エンジンの回転数を最大共振点の回転数より低い回転数に制御し、振動を抑制するようにしている。しかし、ホイールローダにおいては、車体前部にブーム及びバケット等の重量物が装着されており、これらの作動状態によって最大共振点の回転数が変化する。また、前後の車輪に作用する負荷の状況によっても最大共振点の回転数が変化する。したがって、エンジンの回転数が最大共振点の回転数より常に低くなるように制御することは困難である。
【0008】
また、特許文献2の装置では、エンジンの回転数を特定回転数域外の回転数に自動的に変更するようにしているが、前述の理由と同様の理由により、車両や作業機の状況によって特定回転数域が変化する。したがって、特許文献2の装置においても、常に特定回転数域を避けるようにエンジン回転数を制御することは困難である。
【0009】
なお、エンジンの最高回転数を制限することによってエンジン回転に起因する振動を抑えることは可能であるが、単純にエンジンの最高回転数を制限した場合、ポンプの吐出量が減り、作業機の動きが遅くなったり、潤滑油不足になったりするという問題がある。
【0010】
本発明の課題は、簡単なエンジン制御によって、作業性を損なうことなく、エンジン回転に起因する振動を抑えてオペレータに与える不快な振動を抑えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1側面に係るホイールローダは、車体フレームと、車体フレームに搭載されたエンジンと、作業機と、キャブと、第1センサと、第2センサと、第3センサと、エンジン制御部と、を備えている。作業機は、ブーム及びブームの前端に設けられたバケットを有し、車体フレームの前方に配置されている。キャブは、オペレータシート、ブームを操作するブーム操作部材、及び前後進切替用の操作部材が内部に配置されている。第1センサは前後進切替用操作部材がニュートラル位置であることを検知する。第2センサはブームが操作されたことを検知する。第3センサはブームの操作角度を検出する。エンジン制御部は、前後進切替用操作部材がニュートラル位置であって、かつブーム操作部材が操作されて、ブームの操作角度が、バケットの底板が地面から離れたことを示す角度になった場合に、エンジンの最高回転数を所定の回転数に制限する。
【0012】
なお、「ブーム操作角度」とは、図4に示すように、側面視において、水平方向を0度として、ブームピンP1とバケットピンP2とを結ぶ線と、水平方向との間のなす角θである。水平方向よりも下方の角度は、マイナスの値であり、水平方向よりも上方の角度は、プラスの値であるものとする。したがって、ブーム操作角度は、上方に向かって増大するように定義される。
【0013】
ここで、前述のように、走行時や掘削等の作業時においては、エンジンの回転に起因する振動以外の振動の方が大きく、エンジンの回転による振動がオペレータに不快感を与えることはない。しかし、例えば、ブームを操作してダンプトラック等に土砂等を積み込む場合には、外部からの振動原因がないこともあって、エンジン回転による振動はオペレータに不快感を与えることになる。
【0014】
そこでこの装置では、エンジン回転による振動をオペレータが不快に感じるであろう状況を検知し、このような状況においてはエンジン回転数を制御するようにしている。具体的には、第1センサによって前後進切替用操作部材がニュートラル位置であることが検知され、また、第2センサによってブームが操作されたことが検知される。すなわち、車両が停止した状態、あるいは惰性で低速走行しているような状態で作業機が操作されたことを検知し、このような状況では、エンジンの最高回転数が所定の回転数に制限される。
【0015】
ここでは、オペレータがエンジン回転による振動を不快であると感じる状況になったときに、エンジンの最高回転数が制限される。このため、単純にエンジン回転数を抑える場合に比較して、作業効率の低下を抑えて、オペレータに与える不快感を抑制することができる。
【0016】
ここで、バケットの底板が地面に接している状態では、車体は安定しており、車体の振動は抑えられる。しかし、バケットが地面から離れると、作業機が前方に突出していることから、振動が生じやすい。特にホイールローダは走行輪タイプの車両であるために、前輪を中心として前後に振れやすい。
【0017】
そこで、このホイールローダでは、ブームの操作角度を検知し、バケットが地面から離れたことを検知してエンジン回転数を制御するようにしている。これにより、より効果的にオペレータに与える不快感を抑制することができる。
【0018】
本発明の第2側面に係るホイールローダは、第1側面のホイールローダにおいて、車速を検出する車速検出手段をさらに備えている。そして、エンジン制御部は、車速が所定値以下である場合にエンジンの最高回転数を所定の回転数に制限する。
【0019】
作業の形態によっては、走行途中で前後進切替用操作部材をニュートラル位置に切り替え、惰性走行をしながら作業を行う場合がある。このような場合にまでエンジンの最高回転数を制限すると、作業効率が低下する。
【0020】
そこで、第2側面のホイールローダでは、前後進切替用操作部材がニュートラル位置であって、かつ車速が所定値以下の場合にのみエンジンの最高回転数を制限するようにしている。このため、作業効率の低下をより抑えることができる。
【0021】
本発明の第3側面に係るホイールローダは、第1又は第2側面のホイールローダにおいて、モード切替制御部をさらに備えている。モード切替制御部は、エンジンを第1馬力で使用するパワーモードと、エンジンを第1馬力より低い第2馬力で使用するエコノミーモードと、の間でエンジンの出力モードを切り替える。そして、エンジン制御部は、エンジンの出力モードがパワーモードに切り替えられているときにエンジンの最高回転数を所定の回転数に制限する。
【0022】
ホイールローダにおいては、エンジンの出力モードとして、作業性を重視したパワーモードと、燃費を重視したエコノミーモードと、を有するものがある。パワーモードにおいては、エンジンの最高回転数が比較的高い回転数に設定され、エンジン回転に起因する振動は大きい。しかし、エコノミーモードにおいては、エンジンの最高回転数は制限され、エンジン回転に起因する振動は比較的小さい。したがって、エコノミーモードでは、エンジン回転に起因する不快な振動は小さく、エンジンの最高回転数をさらに制限する必要はない。また、エコノミーモードにおいてエンジンの最高回転数をさらに制限すると、作業性が著しく低下する場合がある。
【0023】
そこで、第3側面のホイールローダでは、エンジンの出力モードがパワーモードのときにのみエンジンの最高回転数を制限するようにしている。このため、オペレータに与える不快感を抑制し、しかも作業性が著しく低下するのを抑えることができる。
【0024】
本発明の第4側面に係るホイールローダは、第1から第3側面のいずれかのホイールローダにおいて、バケットを操作するバケット操作部材と、バケット操作部材が操作されていることを検知する第4センサをさらに備えている。そして、エンジン制御部は、バケット操作部材が操作されていない場合にエンジンの最高回転数を所定の回転数に制限する。
【0025】
ホイールローダでは、バケットに付着した土砂等を取り除くために、バケットを上下に短い周期で複数回回動させる作業を行う場合がある。このような作業を行う場合は、バケットを駆動するために比較的大きなエンジン出力が必要になる。
【0026】
そこで、第4側面に係るホイールローダでは、オペレータによってバケットが操作されたことを検知し、この場合にはエンジンの最高回転数を制限しないようにしている。すなわち、バケット操作がされていないことを検知してエンジンの最高回転数を制限するようにしている。このため、バケットに付着した土砂等の除去作業の効率が低下することはない。
【0027】
本発明に係るホイールローダのエンジン制御方法は、車体フレームと、車体フレームに搭載されたエンジンと、作業機と、キャブと、エンジン制御部と、を備えたホイールローダのエンジンを制御する方法である。作業機は、ブーム及びブームの前端に設けられたバケットを有し、車体フレームの前方に配置されている。キャブは、オペレータシート、ブームを操作するブーム操作部材、及び前後進切替用の操作部材が内部に配置されている。エンジン制御部は以下の方法によってエンジンの回転数を制御する。
【0028】
前後進切替用操作部材がニュートラル位置であることを示す信号と、ブーム操作部材が操作されていることを示す信号と、ブームの操作角度がバケットの底板が地面から離れたことを示す角度になったことを示す信号と、を受け、エンジンの最高回転数を所定の回転数に制限する。
【発明の効果】
【0029】
以上のような本発明では、簡単なエンジン制御によって、作業性を損なうことなく、エンジン回転に起因する振動を抑えてオペレータに与える不快な振動を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】
本発明の一実施形態に係るホイールローダの側面図。
【図2】
ホイールローダの構成を示す概略ブロック図。
【図3】
エンジン制御のためのフローチャート。
【図4】
ブームの操作角度を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
[構成]
図1は作業車両としてのホイールローダ1の外観図であり、図2はホイールローダ1の概略のブロック構成図である。ホイールローダ1は、車体フレーム2、作業機3、前輪4a、後輪4b、キャブ5を備えている。このホイールローダ1は、前輪4a、後輪4bが回転駆動されることにより自走可能であり、作業機3を用いて所望の作業を行うことができる。
【0032】
車体フレーム2は前車体部2a及び後車体部2bを有している。前車体部2aと後車体部2bとは互いに左右方向に揺動可能に連結されている。前車体部2aには、作業機3及び前輪4aが設けられている。後車体部2bには、キャブ5及び後輪4bが設けられている。作業機3は、前車体部2aの前方に配置されており、ブーム6、バケット7、ベルクランク8等を有している。ブーム6は1対のリフトシリンダ10によって上下に揺動される。また、バケット7は、ブーム6の先端に装着されており、ベルクランク8を介してバケットシリンダ11によって上下に揺動される。
【0033】
また、図2に示すように、このホイールローダ1は、エンジン15、動力取り出し部16、動力伝達機構17、シリンダ駆動部18、制御部19を備えている。
【0034】
エンジン15は、後車体部4bに搭載されており、シリンダ内に噴射する燃料量を調整することにより出力が制御される。この燃料量の調整は、エンジン15の燃料噴射ポンプ20に付設された電子ガバナ21が制御部19によって制御されることで行われる。
【0035】
動力取り出し部16は、エンジン15の出力を、動力伝達機構17とシリンダ駆動部18とに振り分ける装置である。
【0036】
動力伝達機構17は、エンジン15からの駆動力を前輪4a及び後輪4bに伝達する機構である。この動力伝達機構17はトルクコンバータ22及びトランスミッション23を有している。トランスミッション23は、前後進用のクラッチと、複数の速度段に対応した複数の速度段クラッチを有している。例えば、トランスミッション23には4つの速度段クラッチが設けられており、速度段を第1速から第4速までの4段階に切り替えることができる。
【0037】
シリンダ駆動部18は油圧ポンプ25及び制御弁26を有している。油圧ポンプ25へは動力取り出し部16を介してエンジン15の出力が伝達される。また、油圧ポンプ25から吐出された作動油は制御弁26を介してリフトシリンダ10及びバケットシリンダ11に供給される。
【0038】
制御部19は、マイクロコンピュータで構成されており、主に、以下のセンサからの信号を受け付ける。
(1)アクセルペダル28の開度を検出するアクセル開度センサ29。
(2)ブーム6を操作するためのブーム操作レバー31が操作されたことを検知するブーム操作検知センサ32。
(3)前後進切替レバー33の位置を検出する位置センサ34。
(4)エンジンの出力モードを切り替えるための切替スイッチ35の切替位置を検出する出力モード検知センサ36。
(5)車速センサとしてのトランスミッション23の出力軸回転数センサ38。
(6)バケット7を操作するためのバケット操作部材39が操作されたことを検知するバケット操作検知センサ40。
(7)ブーム6の操作角度を検出するためのブーム操作角度検出センサ41。
【0039】
なお、「ブームの操作角度」とは、前述のように、図4に示すように、側面視において、水平方向を0度として、ブームピンP1とバケットピンP2とを結ぶ線と、水平方向との間のなす角θである。
【0040】
そして、制御部19は、以上の各センサからの信号に基づいて、エンジン15の回転数の制御及び最高回転数を制限する制御を実行するとともに、作業機駆動部18の駆動制御、トランスミッション23の変速制御等を実行する。
【0041】
なお、エンジンの出力モード切替スイッチ35は、オペレータの操作によって、エンジン15の出力モードをパワーモードとエコノミーモードとで切替制御するためのスイッチである。パワーモードは、走行あるいは作業時において大きなエンジン出力を必要とする際に選択されるモードである。また、エコノミーモードは低燃費化のためにエンジン出力を低く抑える際に選択されるモードである。このようなエンジン15の出力モードの制御は、エンジン15への燃料噴射量の上限値を制御することにより行われる。
【0042】
[エンジンの最高回転数の制御]
ここでの制御処理は、オペレータがエンジン回転による振動を感じやすい状況で、エンジン回転数の上昇に伴って増大する振動を、エンジンの最高回転数を制限することで抑制するものである。この制御処理によって、オペレータの不快感を抑えて快適性を向上することができる。
【0043】
オペレータがエンジン回転による振動を不快に感じる具体例としては、バケット7に土砂等を積み込み、停止してダンプトラックを待っているような状態で、エンジン回転数を最高回転数にセットし、ブーム6を上昇させるような状況が考えられる。特に、ホイールローダでは、作業機が前方に突出し、かつ走行輪タイプの車両であるために、バケット7の底板7aが地面から離れると振動が生じやすい。
【0044】
以上のような状況を検知し、エンジンの最高回転数を制限する処理のフローチャートを図3に示している。
【0045】
図3において、ステップS1では、エンジン出力モードとしてパワーモードが選択されているか否かを判断する。パワーモードが選択されていない場合、すなわちエコノミーモードが選択されている場合は、エンジンの最高回転数は例えば2000rpm以下に制限される。このようなエコノミーモードでは、エンジン回転数は2000rpm以上に上がらないために、エンジン回転に起因する振動は比較的小さい。したがって、このような場合は、ステップS1からステップS2に移行し、エンジン制御処理は実行されない。すなわち、エンジンの最高回転数としては、エコノミーモード用として設定された最高回転数が用いられる。
【0046】
エンジン出力モードとしてパワーモードが選択されている場合は、エンジンの最高回転数は例えば2000rpm以上の回転数に設定されているので、エンジン回転に起因する振動は大きくなる。したがって、このような場合はステップS1からステップS3に移行する。
【0047】
ステップS3では、前後進切替レバー33がニュートラル位置に操作されているか否かを判断する。前後進切替レバー33がニュートラル位置以外の場合は、走行中であってエンジンのパワーが要求されるので、エンジンの最高回転数を制限することは好ましくない。そこで、前後進切替レバー33がニュートラル位置以外の場合は、ステップS3からステップS2に移行し、このエンジン制御処理を終了する。したがって、エンジンの最高回転数としては、パワーモード用として設定された最高回転数が用いられる。
【0048】
前後進切替レバー33がニュートラル位置の場合は、停止あるいは惰性による低速走行であるので、ステップS3からステップS4に移行する。ステップS4では、バケット7の操作がなされていないか否かを判断する。前述のように、バケット7に付着した土砂等を除去する場合、車両を停止させてバケット7を短い周期で上下に回動させる操作が行われる。この場合は、エンジンのパワーが必要であって、エンジンの最高回転数を制限することは好ましくない。したがって、このような場合は、ステップS4からステップS2に移行し、エンジン制御処理は実行されない。この場合は、前記同様に、エンジンの最高回転数としては、パワーモード用として設定された最高回転数が用いられる。
【0049】
バケット7の操作がなされていない場合は、ステップS4からステップS5に移行する。ステップS5では、ブーム6の操作がなされた否かを判断する。ブーム6の操作がなされていない場合は、エンジン回転数は最高回転数に設定されないので、この場合はエンジン回転に起因する振動は小さい。したがって、ステップS5からステップS2に移行し、エンジン制御処理は実行されない。
【0050】
また、ステップS6では、ブーム6の操作角度θが、振動が生じやすいしきい値θa以上であるか否かを判断する。ここで、ブーム操作角度のしきい値θaとしては、例えば「-30°」に設定されている。このしきい値θaは以下のようにして設定される。
【0051】
すなわち、バケット7の底板7aが地面に接するようにブーム6を下げた場合、ブーム6の操作角度は-40°?-45°になる。そこで、しきい値θaとしては、バケット7の底板7aが地面から確実に離れた状態として、バケット7が地面に接している状態から5?10°上昇した状態の角度が設定される。したがって、しきい値θaは、一例として、「-30°」に設定される。
【0052】
ブーム6の操作角度が-30°以下である場合は、バケット7の底板7aが地面から離れていないとみなし、この場合はエンジン回転に起因する振動は小さい。したがって、ステップS6からステップS2に移行し、エンジン制御処理は実行されない。
【0053】
バケット7内の土砂等をダンプトラックに積み込む場合は、ブーム6が操作される。この場合は、効率的に作業を行うために、オペレータはエンジンを最高回転数にセットする場合が多い。また、バケット7の底板7aが地面から離れる。このような場合は、エンジン回転による振動は大きくなる。そこで、ブーム6が操作されて操作角度θがθa以上になった場合は、ステップS6からステップS7に移行する。
【0054】
ステップS7では、車速が例えば4km/h以下であるか否かを判断する。作業の形態によっては、走行中に前後進切替レバーをニュートラル位置にして、惰性で走行しながら作業を行う場合がある。このような場合は、作業機を駆動するためにエンジンのパワーが必要であり、エンジンの最高回転数を制限することは好ましくない。そこで、車速が4km/hを越えているような場合は、ステップS7からステップS2に移行し、エンジン制御処理は実行されない。この場合は、前記同様に、エンジンの最高回転数としては、パワーモード用として設定された最高回転数が用いられる。
【0055】
車速が例えば4km/h以下の場合は、車両は停止しているか、あるいは惰性によって車両が移動しているような状態である。このような場合にエンジンの回転数を予め設定されている最高回転数まで上昇させると、エンジン回転に起因する振動が大きくなる。また、この振動によってオペレータに不快感を与える。そこで、車速が4km/h以下の場合は、ステップS7からステップS8に移行する。このステップS8では、エンジンの最高回転数が2000rpmになるように制御する。
【0056】
以上のように、この制御処理では、以下のすべての条件が満たされたときに、エンジンの最高回転数が制限される。
・エンジン出力モードとしてパワーモードが選択されている。
・前後進切替レバー33がニュートラル位置である。
・バケット7が操作されていない。
・ブーム6が操作されてバケット7の底板7aが地面から離れている。
・車速が4km/h以下である。
【0057】
そして、以上の制御処理によって、エンジン回転による振動が抑えられ、オペレータに与える不快感を抑えることができる。
【0058】
[特徴]
(1)オペレータに不快感を与えるような状況を検知し、そのような状況ではエンジンの最高回転数を制限するので、複雑な制御が不要になる。しかも、この制御処理によって、車両の仕様等によらずに常に効果的にエンジン回転に起因するオペレータへの不快感を抑えることができる。さらに、作業性を損なわないようにエンジン回転数を制御するので、作業効率の低下を防止できる。
【0059】
(2)惰性で走行しながら作業を行う場合は、エンジンの最高回転数を制限しない。したがって、作業効率の低下をより避けることができる。
【0060】
(3)エンジンの出力モードがパワーモードのときにのみエンジンの最高回転数を制限するようにしている。このため、不要な制御を行うのを防止できる。また、エコノミーモードにおいて作業性が著しく低下するのを防止できる。
【0061】
(4)バケット7に付着した土砂等を取り除くための作業を行う場合は、バケット操作が検知されて、エンジンの最高回転数を制限する処理は実行されない。このため、バケット7に付着した土砂等の除去作業の効率が低下することはない。
【0062】
[他の実施形態]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0063】
前記実施形態では、車速を検出するためのセンサとして出力軸回転数センサを設けたが、車速を検出するための手段はこれに限定されない。例えば、トランスミッションの入力軸回転数と変速段を検知して車速を求めるようにしてもよい。
【0064】
また、実施形態で挙げた数値は例示のための数値であって、これらの数値に限定されることはない。
【符号の説明】
【0065】
1 ホイールローダ
3 作業機
6 ブーム
7 バケット
7a バケットの底板
15 エンジン
19 制御部
31 ブーム操作レバー
32 ブーム操作検知センサ(第2センサ)
33 前後進切替レバー
34 位置センサ(第1センサ)
35 出力モード切替スイッチ
36 出力モード検知センサ
38 出力軸回転数センサ
39 バケット操作部材
40 バケット操作検知センサ(第4センサ)
41 ブーム操作角度検出センサ(第3センサ)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体フレームと、
前記車体フレームに搭載されたエンジンと、
ブーム及び前記ブームの前端に設けられたバケットを有し、前記車体フレームの前方に配置された作業機と、
オペレータシート、前記ブームを操作するブーム操作部材、及び前後進切替用の操作部材が内部に配置されたキャブと、
前記前後進切替用操作部材がニュートラル位置であることを検知する第1センサと、
前記ブームが操作されたことを検知する第2センサと、
前記ブームの操作角度を検出する第3センサと、
前記前後進切替用操作部材がニュートラル位置であって、かつ前記ブーム操作部材が操作されて前記ブームの操作角度が前記バケットの底板が地面から離れたことを示す角度になった場合に、前記エンジンの最高回転数を所定の回転数に制限するエンジン制御部と、を備えたホイールローダ。
【請求項2】
車速を検出する車速検出手段をさらに備え、
前記エンジン制御部は、車速が所定値以下である場合に前記エンジンの最高回転数を前記所定の回転数に制限する、
請求項1に記載のホイールローダ。
【請求項3】
前記エンジンを第1馬力で使用するパワーモードと、前記エンジンを前記第1馬力より低い第2馬力で使用するエコノミーモードと、の間で前記エンジンの出力モードを切り替えるモード切替制御部をさらに備え、
前記エンジン制御部は、前記エンジンの出力モードが前記パワーモードに切り替えられているときに前記エンジンの最高回転数を前記所定の回転数に制限する、
請求項1又は2に記載のホイールローダ。
【請求項4】
前記バケットを操作するバケット操作部材と、
前記バケット操作部材が操作されていることを検知する第4センサをさらに備え、
前記エンジン制御部は、前記バケット操作部材が操作されていない場合に前記エンジンの最高回転数を前記所定の回転数に制限する、
請求項1から3のいずれかに記載のホイールローダ。
【請求項5】
車体フレームと、
前記車体フレームに搭載されたエンジンと、
ブーム及び前記ブームの前端に設けられたバケットを有し、前記車体フレームの前方に配置された作業機と、
オペレータシート、前記ブームを操作するブーム操作部材、及び前後進切替用の操作部材が内部に配置されたキャブと、
前記エンジンの回転数を制御するエンジン制御部と、
を備えたホイールローダのエンジン制御方法であって、
前記前後進切替用操作部材がニュートラル位置であることを示す信号と、前記ブーム操作部材が操作されていることを示す信号と、前記ブームの操作角度が前記バケットの底板が地面から離れたことを示す角度になったことを示す信号と、を受け、前記エンジンの最高回転数を所定の回転数に制限する、
ホイールローダのエンジン制御方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2013-04-16 
出願番号 特願2012-140515(P2012-140515)
審決分類 P 1 41・ 852- Y (E02F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 有賀 信  
特許庁審判長 高橋 三成
特許庁審判官 中川 真一
住田 秀弘
登録日 2012-12-21 
登録番号 特許第5161386号(P5161386)
発明の名称 ホイールローダ及びホイールローダの制御方法  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  

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