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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C04B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C04B
管理番号 1274178
審判番号 不服2012-2225  
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-02-06 
確定日 2013-05-16 
事件の表示 特願2006-128298号「超速硬セメント組成物、超速硬モルタル組成物、及び超速硬グラウトモルタル」拒絶査定不服審判事件〔平成19年11月15日出願公開、特開2007-297250号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成18年5月2日の出願であって、平成22年12月9日付けの拒絶理由の通知に対して、平成23年1月24日に意見書及び手続補正書が提出され、同年11月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成24年2月6日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに同日付けで手続補正書が提出されたものであり、その後、特許法第164条第3項に基づく報告を引用した平成24年5月25日付けの審尋を通知し、同年7月12日付けで回答書が提出されたものである。

2.平成24年2月6日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年2月6日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(2-1)補正事項
本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし3を引用する請求項4を補正後の特許請求の範囲の請求項1にする補正を含み、補正前の請求項1ないし4と補正後の請求項1の記載は次のとおりである。
(補正前)
「【請求項1】
ポルトランドセメントと、CaO/Al_(2)O_(3)モル比が1.25?1.75の強熱減量が0.3?2%である非晶質カルシウムアルミネートと、無水セッコウと、R_(2)O/Al_(2)O_(3)モル比0.8?1.2(ここで、Rはナトリウム又はカリウム)のアルカリ金属アルミン酸塩と、凝結調整剤と、ガス発泡物質とを含有してなる超速硬セメント組成物。
【請求項2】
ポルトランドセメントと非晶質カルシウムアルミネートと無水セッコウからなる結合材100部中、非晶質カルシウムアルミネートと無水セッコウからなる急硬成分が10?50部である請求項1に記載の超速硬セメント組成物。
【請求項3】
非晶質カルシウムアルミネートと無水セッコウからなる急硬成分100部中、非晶質カルシウムアルミネート30?70部である請求項1又は2に記載の超速硬セメント組成物。
【請求項4】
ポルトランドセメントと非晶質カルシウムアルミネートと無水セッコウからなる結合材100部に対して、アルカリ金属アルミン酸塩が0.01?0.3部である請求項1?3のいずれか1項に記載の超速硬セメント組成物。」

(補正後)
「【請求項1】
ポルトランドセメントと、CaO/Al_(2)O_(3)モル比が1.25?1.75の強熱減量が0.3?2%である非晶質カルシウムアルミネートと、無水セッコウと、R_(2)O/Al_(2)O_(3)モル比0.8?1.2(ここで、Rはナトリウム又はカリウム)のアルカリ金属アルミン酸塩と、凝結調整剤と、炭素物質や、過炭酸塩、過硫酸塩、過ホウ酸塩及び過マンガン酸塩の過酸化物質から選ばれるガス発泡物質とを含有してなり、ポルトランドセメントと非晶質カルシウムアルミネートと無水セッコウからなる結合材100部中、非晶質カルシウムアルミネートと無水セッコウからなる急硬成分が10?50部であり、非晶質カルシウムアルミネートと無水セッコウからなる急硬成分100部中、非晶質カルシウムアルミネート30?70部であり、ポルトランドセメントと非晶質カルシウムアルミネートと無水セッコウからなる結合材100部に対して、アルカリ金属アルミン酸塩が0.01?0.2部である、超速硬セメント組成物。」

(2-2)補正の適否
補正前の請求項4の記載は、引用する請求項1ないし3の記載を加味すると、「ポルトランドセメントと、CaO/Al_(2)O_(3)モル比が1.25?1.75の強熱減量が0.3?2%である非晶質カルシウムアルミネートと、無水セッコウと、R_(2)O/Al_(2)O_(3)モル比0.8?1.2(ここで、Rはナトリウム又はカリウム)のアルカリ金属アルミン酸塩と、凝結調整剤と、ガス発泡物質とを含有してなり、ポルトランドセメントと非晶質カルシウムアルミネートと無水セッコウからなる結合材100部中、非晶質カルシウムアルミネートと無水セッコウからなる急硬成分が10?50部であり、非晶質カルシウムアルミネートと無水セッコウからなる急硬成分100部中、非晶質カルシウムアルミネート30?70部であり、ポルトランドセメントと非晶質カルシウムアルミネートと無水セッコウからなる結合材100部に対して、アルカリ金属アルミン酸塩が0.01?0.3部である、超速硬セメント組成物。」となる。

ここで、補正前の請求項1ないし3を引用する請求項4に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明に係る補正事項は、
(α)補正前の発明を特定するために必要な事項である「ガス発泡物質」を、補正後の発明を特定するために必要な事項である「炭素物質や、過炭酸塩、過硫酸塩、過ホウ酸塩及び過マンガン酸塩の過酸化物質から選ばれるガス発泡物質」にし、
(β)補正前の発明を特定するために必要な事項である「アルカリ金属アルミン酸塩が0.01?0.3部である」を、補正後の発明を特定するために必要な事項である「アルカリ金属アルミン酸塩が0.01?0.2部である」に補正するものである。
ここで、
(α)は、補正前の発明を特定するために必要な事項である「ガス発泡物質」について、具体的な物質の「炭素物質や、過炭酸塩、過硫酸塩、過ホウ酸塩及び過マンガン酸塩の過酸化物質から選ばれる」ものに限定し、
(β)は、数値範囲の上限を「0.3部」から「0.2部」にすることで数値範囲を狭くする(限定する)ものであり、
かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1ないし3を引用する請求項4に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、上記補正事項は、平成18年法律第55条改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的にするものである。
そして、願書の最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)には、「【0022】
本発明のアルカリ金属アルミン酸塩の配合割合は、0.01?0.3部が好ましく、より好ましくは0.03?0.2部である。0.01部未満では、低温での初期強度発現性が充分に得られない。0.3部を超えて使用しても更なる効果の増進が期待できない。
【0023】
本発明では、ガス発泡物質を用いる。ガス発泡物質は、本発明の超速硬グラウトモルタルをグラウト材料として利用する場合、構造物を一体化させるために、まだ固まらない状態の超速硬グラウトモルタルが沈下や収縮するのを抑止する働きを担う。
ガス発泡物質の具体例としては、例えば、アルミ粉や炭素物質の他、過炭酸塩、過硫酸塩、過ホウ酸塩及び過マンガン酸塩等の過酸化物質が挙げられる。本発明では、炭素物質や、過炭酸塩、過硫酸塩、過ホウ酸塩及び過マンガン酸塩等の過酸化物質を用いることが、沈下抑制効果が大きいことから好ましい。中でも、過炭酸塩の使用が最も好ましい。」との記載があり、これからして、上記補正事項は、当初明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであるので、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定を満足するものである。

(2-3)独立特許要件について
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2-3-1)引用例の記載事項
◇原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用した特開2005-289656号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の記載がある。
(a)「【請求項1】
カルシウムアルミネート、セッコウ類、炭素物質、流動化剤、及び凝結調整剤を含有してなる超速硬セメント混和材。
【請求項2】
カルシウムアルミネートが、非晶質カルシウムアルミネートであることを特徴とする請求項1に記載の超速硬セメント混和材。
【請求項3】
カルシウムアルミネートの強熱減量が1%以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の超速硬セメント混和材。
【請求項4】
カルシウムアルミネートとセッコウ類からなる急硬成分100部中、セッコウ類が30?70部であることを特徴とする請求項1?請求項3のうちの一項に記載の超速硬セメント混和材。」

(b)「【0004】
超速硬グラウトモルタルは、適度な可使時間を確保するために凝結調整剤が添加され、可使時間を長く確保したい場合には、凝結調整剤をより多く添加する必要がある。
この場合、殊に冬場等低温環境下では、硬化体表面に美観を損ねる模様、いわゆる斑点が発生する場合もしばしば見受けられる。
斑点は強度発現性や耐久性の面では、悪影響をおよぼすものではないが、美観上の面から嫌われることも多く、その対策も求められていた。」

(c)「【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、カルシウムアルミネート、セッコウ類、炭素物質、流動化剤、及び凝結調整剤を含有してなる超速硬セメント混和材であり、カルシウムアルミネートが、非晶質カルシウムアルミネートである該超速硬セメント混和材であり、カルシウムアルミネートの強熱減量が1%以上である該超速硬セメント混和材であり、カルシウムアルミネートとセッコウ類からなる急硬成分100部中、セッコウ類が30?70部である該超速硬セメント混和材、炭素物質の水分含有量が2%以下である該超速硬セメント混和材であり、セメントと、該該超速硬セメント混和材とを含有してなる超速硬セメント組成物であり、セメントと、カルシウムアルミネートとセッコウ類からなる急硬成分とからなる結合材100部中、急硬成分が10?50部である該超速硬セメント組成物であり、炭素物質が、セメントと急硬成分からなる結合材100部に対して、3?15部である該超速硬セメント組成物であり、該超速硬セメント組成物と細骨材とを含有してなる超速硬モルタル組成物であり、該速硬モルタル組成物と、水とを含有してなる超速硬グラウトモルタルであり、該超速硬グラウトモルタルを硬化してなるモルタル硬化体である。」

(d)「【0011】
本発明で使用するカルシウムアルミネート(以下、CAという)とは、CaOとAl_(2)O_(3)を主成分とする化合物を総称するものであり、具体例としては、例えば、CaO・2Al_(2)O_(3)、CaO・Al_(2)O_(3)、12CaO・7Al_(2)O_(3)、11CaO・7Al_(2)O_(3)・CaF_(2)、及び3CaO・3Al_(2)O_(3)・CaSO_(4)などと表される結晶性のカルシウムアルミネートや、CaOとAl_(2)O_(3)成分を主成分とする非晶質の化合物が挙げられる。
CAを得る方法としては、CaO原料とAl_(2)O_(3)原料等をロータリーキルンや電気炉等によって熱処理して製造する方法が挙げられる。
CAを製造する際のCaO原料としては、例えば、石灰石や貝殻等の炭酸カルシウム、消石灰等の水酸化カルシウム、あるいは生石灰等の酸化カルシウムが挙げられる。
また、Al_(2)O_(3)原料としては、例えば、ボーキサイトやアルミ残灰と呼ばれる産業副産物のほか、アルミ粉等が挙げられる。
本発明のCAのCaO/Al_(2)O_(3)モル比は、0.75?3が好ましく、1?2がより好ましい。CaO/Al_(2)O_(3)モル比が0.75未満では充分な強度発現性が得られない場合があり、CaO/Al_(2)O_(3)モル比が3を超えると充分な流動性や可使時間が得られない場合がある。」

(e)「【0014】
本発明で使用するセッコウ類とは、無水、半水、及び二水の各セッコウを総称するものであり特に限定されるものではないが、強度発現性の面から、無水又は半水セッコウの使用が好ましく、無水セッコウの使用がより好ましい。
セッコウ類の粒度は特に限定されるものではないが、通常、ブレーン値で3,000?9,000cm^(2)/gが好ましく、4,000?8,000cm^(2)/gがより好ましい。3,000cm^(2)/g未満では寸法安定性が悪くなる場合があり、9,000cm^(2)/gを超えると、流動性の確保が困難になる場合がある。
CAとセッコウ類の配合割合は、CAとセッコウ類からなる急硬成分100部中、CA30?70部で、セッコウ類70?30部が好ましく、CA40?60部で、セッコウ類60?40部がより好ましい。CAが30部未満で、セッコウ類が70部を越えると、初期強度の発現性が充分でない場合や寸法安定性が悪くなる場合があり、CAが70部を越え、セッコウ類が30部未満では、可使時間の確保が困難となる場合がある。」

(f)「【0015】
CAとセッコウ類からなる急硬成分の配合割合は、セメントと急硬成分からなる結合材100部中、10?50部が好ましく、20?40部がより好ましい。10部未満では初期強度発現性や材料分離抵抗性が良好とならない場合があり、50部を越えると可使時間の確保が困難になったり、寸法安定性が悪くなる場合がある。

(g)「【0016】
ここで、セメントとしては、普通、早強、超早強、低熱、及び中庸熱等の各種ポルトランドセメント、これらポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ、又はシリカを混合した各種混合セメント、また、石灰石粉末等や高炉徐冷スラグ微粉末を混合したフィラーセメント、各種の産業廃棄物を主原料として製造される環境調和型セメント、いわゆるエコセメントなどが挙げられ、これらのうちの一種又は二種以上が併用可能である。本発明では、初期強度発現性の面から、また、材料分離抵抗性の面から、早強セメントを選定することが好ましい。」

(h)「【0017】
本発明で使用する炭素物質は、本発明の超速硬セメント組成物をグラウト材料として利用する場合、コンクリート構造物と一体化させるために、まだ固まらない状態のグラウトモルタルが沈下や収縮するのを抑止する働きや、乾燥状態に置かれた際のひび割れ抵抗性の向上を担うものであり、また、急硬性成分との相互作用によって、斑点の防止効果、ならびに、縦型構造物への充填性と横型構造物への充填性を共に改良方向に向かわせる役割を担うものである。
炭素物質は特に限定されるものではないが、その具体例としては、例えば、流動コークス、石油コークス、石炭コークス、無煙炭、未燃炭、カーボンブラック、及び活性炭等が挙げられ、これらのうちの一種又は二種以上が使用可能である。
炭素物質の粒度は特に限定されるものではないが、平均粒径が100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましい。平均粒径が100μmを超えると、本発明の効果、即ち、まだ固まらない状態のグラウトモルタルが沈下や収縮するのを抑止する働きや、乾燥状態に置かれた際のひび割れ抵抗性の向上、また、急硬性成分との相互作用によって、斑点の防止効果、ならびに、縦型構造物への充填性と横型構造物への充填性を共に改良方向に向かわせる効果等が充分に得られない場合がある。
炭素物質の水分量は、2%以下が好ましく、1%以下がより好ましい。炭素物質の水分量が2%を超えると、まだ固まらない状態のグラウトモルタルが沈下や収縮するのを抑止する働きや、乾燥状態に置かれた際のひび割れ抵抗性が充分に得られない場合がある。
炭素物質の配合割合は特に限定されるものではないが、通常、セメントと急硬成分からなる結合材100部に対して、3?15部が好ましく、5?10部がより好ましい。3部未満では充分な初期膨張効果を付与することができない場合や斑点の防止効果が得られない場合があり、15部を超えて使用すると、強度発現性が悪くなる場合がある。」

(i)「【0021】
本発明で使用する凝結調整剤は特に限定されるものではないが、その具体例としては、例えば、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、グルコン酸、及びコハク酸等のオキシカルボン酸又はそれらのナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウム、及びアルミニウムなどの塩等の有機酸、さらに、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、重炭酸リチウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、及び重炭酸アンモニウムなどのアルカリ炭酸塩が挙げられ、本発明では、充分な可使時間と初期強度発現性の双方を満足する面から、有機酸とアルカリ炭酸塩の併用が好ましい。
凝結調整剤の使用量は特に限定されるものではないが、通常、結合材100部に対して、0.1?2部が好ましく、0.3?1部がより好ましい。0.1部未満では可使時間の確保が困難な場合があり、2部を超えて使用すると強度発現性が悪くなる場合がある。」

(j)「【発明の効果】
【0029】
本発明は、流動性、ブリージングの防止、強度発現性、及び温度依存性が小さいことなどの要求性能をより高めることに加えて、従来の超速硬グラウトモルタルに要求されていた硬化前の沈下現象の改善、乾燥状態に置かれた際のひび割れ抵抗性の向上、及び斑点問題を解消でき、さらに、縦方向や横方向の双方に良好な充填性能を発揮するなどの効果を奏する。」

(k)「【実施例3】
【0037】
CAヘを使用し、表3に示す炭素物質を使用したこと以外は実施例1と同様に行った。
なお、比較例として、炭素物質の代わりに、従来のガス発泡物質であるアルミニウム粉を使用して同様に行った。結果を表3に併記する。
<使用材料>
炭素物質b:ホンゲイ産無煙炭の粉砕品、平均粒径35μm、水分量2.0%
炭素物質c:炭素物質bの乾燥品、平均粒径35μm、水分量1.0%
炭素物質d:市販のカーボンブラック、平均粒径30μm、水分量0.1%
炭素物質e:ホンゲイ産無煙炭の粉砕品、平均粒径35μm、水分量3.0%
従来のガス発泡物質:アルミニウム粉、市販品」

(l)上記(h)の「【0017】・・・炭素物質は、本発明の超速硬セメント組成物をグラウト材料として利用する場合、コンクリート構造物と一体化させるために、まだ固まらない状態のグラウトモルタルが沈下や収縮するのを抑止する働きや、乾燥状態に置かれた際のひび割れ抵抗性の向上を担うものであり、また、急硬性成分との相互作用によって、斑点の防止効果、ならびに、縦型構造物への充填性と横型構造物への充填性を共に改良方向に向かわせる役割を担うものである。・・・」及び上記(k)「【実施例3】・・・なお、比較例として、炭素物質の代わりに、従来のガス発泡物質であるアルミニウム粉を使用して同様に行った。・・・」との記載からして、引用例には、「炭素物質であるガス発泡物質」を用いることが記載されているということができる。

(m)上記(g)の「【0016】・・・セメントとしては、普通、早強、超早強、低熱、及び中庸熱等の各種ポルトランドセメント、これらポルトランドセメント・・・本発明では、初期強度発現性の面から、また、材料分離抵抗性の面から、早強セメントを選定することが好ましい。」との記載からして、引用例には、「早強ポルトランドセメント(ポルトランドセメント)」を用いることが記載されているということができる。

(n)上記(c)の「【課題を解決するための手段】・・・本発明は、カルシウムアルミネート、セッコウ類、炭素物質、流動化剤、及び凝結調整剤を含有してなる超速硬セメント混和材であり、カルシウムアルミネートが、非晶質カルシウムアルミネートである該超速硬セメント混和材であり、カルシウムアルミネートの強熱減量が1%以上である該超速硬セメント混和材であり、カルシウムアルミネートとセッコウ類からなる急硬成分100部中、セッコウ類が30?70部である該超速硬セメント混和材・・・」との記載からして、引用例には、「カルシウムアルミネートとセッコウ類からなる急硬成分100部中、セッコウ類が30?70部である非晶質カルシウムアルミネート」、つまり、「カルシウムアルミネートとセッコウ類からなる急硬成分100部中、カルシウムアルミネートが70?30部である非晶質カルシウムアルミネート」を用いることが記載されているということができる。

(o)上記(e)の「【0014】・・・セッコウ類とは、無水、半水、及び二水の各セッコウを総称するものであり特に限定されるものではないが、強度発現性の面から、無水又は半水セッコウの使用が好ましく、無水セッコウの使用がより好ましい。・・・」との記載からして、引用例には、「無水セッコウ」を用いることが記載されているということができる。

上記(a)ないし(k)の記載事項及び上記(l)ないし(o)の検討事項より、引用例1には、「ポルトランドセメントと、CaO/Al_(2)O_(3)モル比が1?2の強熱減量が1%以上である非晶質カルシウムアルミネートと、無水セッコウと、凝結調整剤と、炭素物質であるガス発泡物質と、流動化剤とを含有してなり、ポルトランドセメントと非晶質カルシウムアルミネートと無水セッコウからなる結合材100部中、非晶質カルシウムアルミネートと無水セッコウからなる急硬成分が10?50部であり、非晶質カルシウムアルミネートと無水セッコウからなる急硬成分100部中、非晶質カルシウムアルミネート30?70部である、超速硬セメント混和材。」の発明(以下、「引用例1記載の発明」という。)が記載されているものと認める。

◇原査定の拒絶の理由に引用文献3として引用した特開昭60-108352号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の記載がある。
(p)公報第1頁左下欄第4?11行
「2.特許請求の範囲の範囲
カルシウムアルミネート対無機硫酸塩の重量比が1対0.5?3からなる急硬成分を15?35重量%含有してなる急硬セメントにおいて、内割重量にて、アルミン酸塩0.2?5%、無機炭酸塩0.2?5%、並びにオキシカルボン酸及び/又はその塩0.1?2%を含有せしめることを特徴とする超速硬セメント組成物。」

(q)公報第2頁右上欄第7行?同第2頁左下欄第13行
「カルシウムアルミネートとしては、12CaO・7Al_(2)O_(3)、3CaO・Al_(2)O_(3)、CaO・Al_(2)O_(3)、11CaO・7Al_(2)O_(3)・CaX_(2)(Xはハロゲン)などの無定形又は結晶形が用いられ、また、無機硫酸塩としては、各種石膏類や硫酸ナトリウム等が使用される。好ましいものは、12CaO・7Al_(2)O_(3)又は12CaO・7Al_(2)O_(3)とCaO・Al_(2)O_(3)、との混合物とII型無水石膏の組合わせであり最も高強度を発現する。粉末度はブレーン値で3,000cm^(2)/gもあれば十分であり好ましくは4,000?8,000cm^(2)/gである。該急硬成分の添加量は、セメントに対し15?35重量%好ましくは25?30重量%である。これ以外の添加量では、作業時間がとれないか又は高強度が得られない。
アルミン酸塩は、本発明の目的を達成するための重要部分であり、前記急硬成分を配合してなる急硬セメントの水和反応を著しく高め、1時間で200kgf/cm^(2)以上の強度を発現させるために必要なものである。本発明の配合においては、急結剤でありながら逆に硬化時間を延ばすという特異な作用を示し、長期強度を低下させることもない。急硬セメントに対する配合量は、内割重量で0.2?5%好ましくは0.5?2%である。0.2%未満では所定の強度に達せず、また、5%をこえると凝結調節剤を用いても作業時間を確保することができず、さらには長期耐久性に問題がある。アルミン酸塩としては、アルミン酸塩ソーダが一般的である。」

(r)公報第2頁右下欄第10行?同第3頁左上欄第11行
「以上、本発明の超速硬セメント組成物によれば、20分以上の作業時間において、従来は3?6時間を要した強度をわずか1時間で発現させることができ、その後の強度も順調に伸び長期耐久性に優れ、しかも、硬化体には斑点化現象は起こさない等の効果を発揮するするものである。
以下、実施例をあげてさらに具体的に説明する。
実施例1
12CaO・7Al_(2)O_(3)とCaO・Al_(2)O_(3)を主成分とするブレーン値4,800cm^(2)/gのカルシウムアルミネート粉末(CaO分44.5%)100重量部にII型無水石膏(ブレーン値6,500cm^(2)/g)150重量部を配合して得られた急硬成分を市販早強ポルトランドセメントに内割で10?40重量%配合し、さらに内割重量でアルミン酸ソーダと炭酸カリウムをそれぞれ1%、クエン酸を0.4%添加して超速硬セメント組成物を調合した。
このセメント組成物100重量部、川砂(F.M2.60)200重量部、水36重量部をモルミキサーで練り混ぜ、20℃恒温室にて硬化時間(ASTM C403-65Tに準じる)と1時間圧縮強度を測定した。その結果を第1表に示す。」

(s)上記(p)の「・・・15?35重量%含有してなる急硬セメントにおいて、内割重量にて、アルミン酸塩0.2?5%、無機炭酸塩0.2?5%、並びにオキシカルボン酸及び/又はその塩0.1?2%を含有・・・」との記載からして、「セメント84.5重量%、急硬成分15重量%、アルミン酸塩0.2重量%、無機炭酸塩0.2重量%、オキシカルボン酸及び/又はその塩0.1重量%」?「セメント53重量%、急硬成分35重量%、アルミン酸塩5重量%、無機炭酸塩5重量%、オキシカルボン酸及び/又はその塩2重量%」が示されているので、引用例2には、「材(セメント+急硬成分)100部中の急硬成分の部数は、100×15/(84.5+15)?100×35/(53+35)部、つまり、15?40部である」こと、及び、「材(セメント+急硬成分)100部に対するアルミン酸塩の部数は、100×0.2/(84.5+25)?100×5/(53+35)部、つまり、0.2?5.7部である」ことが記載されているということができる。

(t)上記(p)の「・・・カルシウムアルミネート対無機硫酸塩の重量比が1対0.5?3からなる急硬成分・・・」との記載からして、引用例2には、「急硬成分100部中のカルシウムアルミネートの部数は、100×1/(1+0.5)?100×1/(1+3)部、つまり、67?25部である」ことが記載されているということができる。

上記(p)ないし(r)の記載事項及び上記(s)(t)の検討事項より、引用例2には、「ポルトランドセメントと、カルシウムアルミネート(無定形カルシウムアルミネート)と、無機硫酸塩(無水石膏)と、アルミン酸塩(アルミン酸ソーダ)と、オキシカルボン酸(クエン酸)及び/又はその塩と、無機炭酸塩(炭酸カリウム)とを含有してなり、ポルトランドセメントとカルシウムアルミネートと無機硫酸塩からなる材100部中、カルシウムアルミネートと無機硫酸塩からなる急硬成分が15?40部であり、カルシウムアルミネートと無機硫酸塩からなる急硬成分100部中、カルシウムアルミネート25?67部であり、ポルトランドセメントとカルシウムアルミネートと無機硫酸塩からなる材100部に対して、アルミン酸塩が0.2?5.7部であり、20℃恒温室にて硬化時間と1時間圧縮強度が測定される、超速硬セメント組成物。」の発明(以下、「引用例2記載の発明」という。)が記載されているものと認める。

(2-3-2)対比・判断
本願補正発明と引用例1記載の発明とを対比する。
○引用例記載の発明の「超速硬セメント混和材」は、本願補正発明の「超速硬セメント組成物」に相当する。

○引用例1記載の発明の「CaO/Al_(2)O_(3)モル比が1?2の強熱減量が1%以上である非晶質カルシウムアルミネート」と、本願補正発明の「CaO/Al_(2)O_(3)モル比が1.25?1.75の強熱減量が0.3?2%である非晶質カルシウムアルミネート」とは、「CaO/Al_(2)O_(3)モル比が1.25?1.75の強熱減量が1?2%である非晶質カルシウムアルミネート」という点で共通する。

○引用例1記載の発明の「炭素物質であるガス発泡物質」と、本願補正発明の「炭素物質や、過炭酸塩、過硫酸塩、過ホウ酸塩及び過マンガン酸塩の過酸化物質から選ばれるガス発泡物質」とは、「炭素物質であるガス発泡物質」という点で共通する。

上記より、本願補正発明と引用例1記載の発明とは、
「ポルトランドセメントと、CaO/Al_(2)O_(3)モル比が1.25?1.75の強熱減量が1?2%である非晶質カルシウムアルミネートと、無水セッコウと、凝結調整剤と、炭素物質であるガス発泡物質とを含有してなり、ポルトランドセメントと非晶質カルシウムアルミネートと無水セッコウからなる結合材100部中、非晶質カルシウムアルミネートと無水セッコウからなる急硬成分が10?50部であり、非晶質カルシウムアルミネートと無水セッコウからなる急硬成分100部中、非晶質カルシウムアルミネート30?70部である、超速硬セメント組成物。」という点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点1>
本願補正発明では、「流動化剤」を特定事項にしていないのに対して、引用例記載の発明では、「流動化剤」を特定事項にしている点。

<相違点2>
本願補正発明では、「R_(2)O/Al_(2)O_(3)モル比0.8?1.2(ここで、Rはナトリウム又はカリウム)のアルカリ金属アルミン酸塩と」を含有し、「ポルトランドセメントと非晶質カルシウムアルミネートと無水セッコウからなる結合材100部に対して、アルカリ金属アルミン酸塩が0.01?0.2部である」のに対して、
引用例1記載の発明では、上記「」内の事項を特定事項にしていない点。

上記両相違点について検討する。
<相違点1>について
本願明細書には、「【0027】
本発明では必要に応じて流動化剤を併用できる。本発明で言う流動化剤とは、特に限定されるものではない。・・・」との記載があり、本願補正発明は、「流動化剤」を用いる場合を想定するものであり、これを排除するものではないことから、この点において、引用例記載の発明と同じであるので、相違点1は、実質的な相違ではない。

<相違点2>について
上記(2-3-1)で示したように、引用例2記載の発明は、「ポルトランドセメントと、カルシウムアルミネート(無定形カルシウムアルミネート)と、無機硫酸塩(無水石膏)と、アルミン酸塩(アルミン酸ソーダ)と、オキシカルボン酸(クエン酸)及び/又はその塩と、無機炭酸塩(炭酸カリウム)とを含有してなり、ポルトランドセメントとカルシウムアルミネートと無機硫酸塩からなる材100部中、カルシウムアルミネートと無機硫酸塩からなる急硬成分が15?40部であり、カルシウムアルミネートと無機硫酸塩からなる急硬成分100部中、カルシウムアルミネート25?67部であり、ポルトランドセメントとカルシウムアルミネートと無機硫酸塩からなる材100部に対して、アルミン酸塩が0.2?5.7部であり、20℃恒温室にて硬化時間と1時間圧縮強度が測定される、超速硬セメント組成物。」である。
ここで、引用例1には、上記(2-3-1)の(i)「【0021】
本発明で使用する凝結調整剤は特に限定されるものではないが、その具体例としては、例えば、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、・・・炭酸カリウム・・・が挙げられ・・・」との記載があり、これからして、引用例2記載の発明の「無機炭酸塩(炭酸カリウム)」及び「オキシカルボン酸(クエン酸)及び/又はその塩」は、凝結調整剤であるとみることができ、これを前提にして、引用例1記載の発明と引用例2記載の発明とを対比すると、両者は、「ポルトランドセメントと、カルシウムアルミネート(非晶質カルシウムアルミネート)と、無機硫酸塩(無水セッコウ)と、凝結調整剤とを含有してなり、ポルトランドセメントとカルシウムアルミネートと無機硫酸塩からなる材(結合材)100部中、カルシウムアルミネートと無機硫酸塩からなる急硬成分が15?40部であり、カルシウムアルミネートと無機硫酸塩からなる急硬成分100部中、カルシウムアルミネート30?67部である、超速硬セメント組成物。」という点で共通している。

また、引用例1には、上記(2-3-1)の(j)「【発明の効果】
【0029】
本発明は、流動性、ブリージングの防止、強度発現性、及び温度依存性が小さいことなどの要求性能をより高めることに加えて、従来の超速硬グラウトモルタルに要求されていた硬化前の沈下現象の改善、乾燥状態に置かれた際のひび割れ抵抗性の向上、及び斑点問題を解消でき、さらに、縦方向や横方向の双方に良好な充填性能を発揮するなどの効果を奏する。」との記載があり、
一方、引用例2には、上記(2-3-1)の(r)「以上、本発明の超速硬セメント組成物によれば、20分以上の作業時間において、従来は3?6時間を要した強度をわずか1時間で発現させることができ、その後の強度も順調に伸び長期耐久性に優れ、しかも、硬化体には斑点化現象は起こさない等の効果を発揮するするものである。・・・」との記載があり、
上記からして、引用例1記載の発明と引用例2記載の発明とは、強度発現性、耐久性、斑点化現象に関する効果で共通している。

そうすると、引用例1記載の発明について、上記の点で共通する引用例2記載の発明の上記の「アルミン酸塩(アルミン酸ソーダ)と」を含有し、「ポルトランドセメントとカルシウムアルミネート(非晶質カルシウムアルミネート)と無機硫酸塩(無水セッコウ)からなる結合材100部に対して、アルミン酸塩(アルミン酸ソーダ)が0.2?5.7部である」との事項を適用することは、当業者であれば容易に想到し得ることである。
そして、一般に、アルミン酸ソーダといえば、メタアルミン酸ナトリウム(NaAlO_(2))、つまり(Na_(2)OAl_(2)O_(3))であることが多いことは、本願出願前周知の事項(例えば、本査定において参考文献Aとして引用された、化学大辞典編集委員会、化学大辞典1 縮刷版、共立出版株式会社、1963年7月1日、第447-448頁参照)であり、このNa_(2)OAl_(2)O_(3)におけるNa_(2)O/Al_(2)O_(3)モル比は1であることから、上記で検討したように、「アルカリ金属アルミン酸塩(アルミン酸ソーダ)と」を含有するようにしたとき、これの大部分がメタアルミン酸ナトリウム(モル比1)であるということができるので、当然、「R_(2)O/Al_(2)O_(3)モル比0.8?1.2(ここで、Rはナトリウム)」になるというべきである。

ここで、引用例1記載の発明について、引用例2記載の発明の「アルミン酸塩(アルミン酸ソーダ)と」を含有するとの事項を適用したとき、引用例2記載の発明の「ポルトランドセメントと非晶質カルシウムアルミネートと無水セッコウからなる結合材100部に対して、アルミン酸塩(アルミン酸ソーダ)が0.2?5.7部である」との事項の「0.2?5.7部(含有量)」がどれくらいになるかについて、以下、検討する。
(ア)本願の当初明細書には、「【実施例1】
【0035】
ポルトランドセメント70部と、表1に示す各種の非晶質カルシウムアルミネート15部と無水セッコウ15部とを配合し、さらに、ポルトランドセメントと、非晶質カルシウムアルミネートと無水セッコウからなる結合材の合計100部に対して、アルカリ金属アルミン酸塩α0.05部と凝結調整剤0.7部とガス発泡物質イ0.05部を配合して超速硬セメント組成物を調製した。この超速硬セメント組成物100部に対して、細骨材150部を配合して超速硬モルタル組成物を調製した。混練り水は、ポルトランドセメントと非晶質カルシウムアルミネートと無水セッコウからなる結合材の合計100部に対して、35部を使用して調製した超速硬グラウトモルタルの流動性、可使時間、圧縮強度を10℃の低温環境下で測定した。また、非晶質カルシウムアルミネートの強熱減量の測定、モルタルのブリーディング、ひび割れ抵抗性の評価を行った。結果を表1に併記する。
【0036】
<使用材料>
ポルトランドセメント:市販の早強ポルトランドセメント、ブレーン比表面積4500cm^(2)/g
非晶質カルシウムアルミネートA:CaO/Al_(2)O_(3)モル比1.0、SiO_(2)含有量3%、非晶質、ブレーン比表面積5000cm^(2)/g、強熱減量1.0%。
非晶質カルシウムアルミネートB:CaO/Al_(2)O_(3)モル比1.25、SiO_(2)含有量3%、非晶質、ブレーン比表面積5000cm^(2)/g、強熱減量1.0%
非晶質カルシウムアルミネートC:CaO/Al_(2)O_(3)モル比1.50、SiO_(2)含有量3%、非晶質、ブレーン比表面積5000cm^(2)/g、強熱減量1.0%
非晶質カルシウムアルミネートD:CaO/Al_(2)O_(3)モル比1.75、SiO_(2)含有量3%、非晶質、ブレーン比表面積5000cm^(2)/g、強熱減量1.0%
非晶質カルシウムアルミネートE:CaO/Al_(2)O_(3)モル比2.00、SiO_(2)含有量3%、非晶質、ブレーン比表面積5000cm^(2)/g、強熱減量1.0%
無水セッコウ:酸性のII型無水セッコウ、ブレーン比表面積4000cm^(2)/g、市販品
アルカリ金属アルミン酸塩α:アルミン酸ナトリウム、Na_(2)O/Al_(2)O_(3)モル比1.0、無水塩
ガス発泡物質イ:試薬1級の過炭酸ナトリウム
凝結調整剤:試薬1級のクエン酸25部と試薬1級の炭酸カリウム75部の混合物
水:水道水
細骨材:石灰砂、4mm下品」、
「【0050】
<使用材料>
アルカリ金属アルミン酸塩β:アルミン酸ナトリウム、Na_(2)O/Al_(2)O_(3)モル比1.0、含水塩、含水率20%
アルカリ金属アルミン酸塩γ:アルミン酸ナトリウム、Na_(2)O/Al_(2)O_(3)モル比1.2、無水塩
アルカリ金属アルミン酸塩δ:アルミン酸カリウム、K_(2)O/Al_(2)O_(3)モル比1.0、無水塩」との記載、及び
「【0051】
【表5】


との表示があり、これらの記載及び表示における実験番号N_(O).1-3(α0.05部)、N_(O).5-5(α0.01部)、N_(O).5-6(α0.03部)、N_(O).5-7(α0.07部)、N_(O).5-8(α0.10部)、N_(O).5-9(α0.20部)、N_(O).5-10(α0.30部)の各N_(O).について、流動性J_(14)ロート(秒)、可使時間(分)、圧縮強度3時間(N/mm^(2))、圧縮強度1日(N/mm^(2))、初期膨張率(%)、ブリーデイング率(%)、ひび割れ抵抗性がどうであるかをみてみると、αアルミン酸ナトリウムの使用量(部数)が増えるに従って、流動性J_(14)ロート(秒)は長くなる(流動性は低下する)と共に可使時間(分)は短くなっているものの、圧縮強度3時間及び1日は使用量が0.07部(本願補正発明の「0.01?0.2部」の範囲内)と0.3部(同範囲外)とで同等になっており、また、ブリーデイング率(%)は各N_(O).において0%であり、ひび割れ抵抗性は各N_(O).において○であって、これらからして、αアルミン酸ナトリウムの含有量の0.2部(本願補正発明の「0.01?0.2部」の上限)に臨界的意義があるとみることはできない。
そして、一般に、超速硬セメント組成物の各成分の含有量(部数)は、使用条件等に応じて設定された、流動性J_(14)ロート(秒)、可使時間(分)、圧縮強度3時間(N/mm^(2))、圧縮強度1日(N/mm^(2))、初期膨張率(%)、ブリーデイング率(%)、ひび割れ抵抗性などの各特性(効果)のそれぞれを達成するために適宜調整されるものであるということができる。
そうすると、本願補正発明の「ポルトランドセメントと非晶質カルシウムアルミネートと無水セッコウからなる結合材100部に対して、アルカリ金属アルミン酸塩が0.01?0.2部である」との事項の「0.01?0.2部」は、「超速硬セメント組成物の使用条件(温度については10℃)等に応じて設定された各特性(効果)のそれぞれ」を達成するための調整の結果であるというべきである。

(イ)上記で示したように、引用例1記載の発明と引用例2記載の発明とは、上記の点で共通しているものの、両者の間には「超速硬セメント組成物の使用条件等に応じて設定された特性(効果)」等に幾らかの差異があることから、引用例1記載の発明について、引用例2記載の発明の「アルミン酸塩(アルミン酸ソーダ)と」を含有するとの事項を適用したとき、引用例2記載の発明の「ポルトランドセメントと非晶質カルシウムアルミネートと無水セッコウからなる結合材100部に対して、アルミン酸塩(アルミン酸ソーダ)が0.2?5.7部である」との事項の「0.2?5.7部(含有量)」は、引用例1記載の発明の「超速硬セメント組成物の使用条件等に応じて設定された各特性(効果)のそれぞれ」を達成するために適宜調整(増減)されることになる。

(ウ)本願補正発明は、上記(ア)で示した本願の当初明細書の【0035】の記載より、10℃での使用を想定するものであり、
一方、引用例1記載の発明は、上記(2-3-1)の(b)(j)からして、低温での使用を想定するものであり、
さらに、引用例2記載の発明は、上記(2-3-1)で示したように「・・・20℃恒温室にて硬化時間と1時間圧縮強度が測定される、超速硬セメント組成物。」であって、20℃での使用を想定するものである。
ここで、引用例1記載の発明について、引用例2記載の発明の「アルミン酸塩(アルミン酸ソーダ)と」を含有するとの事項を適用したとき、引用例2記載の発明の「20℃での使用が想定されて」「上記(2-3-1)の(q)に示されている『水和反応を著しく高める』」「アルミン酸塩(アルミン酸ソーダ)」は、引用例1記載の発明の「想定されている使用温度(低温)」で使用される、例えば、本願の当初明細書の【0035】に示されている10℃で使用されることになり、このとき、低温にすることによる水和反応の低下を補うために、「アルミン酸塩(アルミン酸ソーダ)」の含有量(部数)を増やす必要が生じる、つまり、引用例2記載の発明の「ポルトランドセメントと非晶質カルシウムアルミネートと無水セッコウからなる結合材100部に対して、アルミン酸塩(アルミン酸ソーダ)が0.2?5.7部である」との事項の「0.2?5.7部(含有量)」は、「アルミン酸塩(アルミン酸ソーダ)」の「『水和反応を著しく高める』」という物性を考慮した上で、増やされることになる。

上記(ア)ないし(ウ)を勘案すると、引用例1記載の発明について、引用例2記載の発明の「アルミン酸塩(アルミン酸ソーダ)と」を含有するとの事項を適用したとき、引用例2記載の発明の「ポルトランドセメントと非晶質カルシウムアルミネートと無水セッコウからなる結合材100部に対して、アルミン酸塩(アルミン酸ソーダ)が0.2?5.7部である」との事項の「0.2?5.7部(含有量)」は、引用例1記載の発明の「超速硬セメント組成物の使用条件(温度については10℃)等に応じて設定された各特性(効果)のそれぞれ」を達成するために適宜調整(増減)されることになり、この調整の結果として、0.2部以下の含有量になる場合があるとみるのが妥当である。

したがって、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、引用例1、2記載の発明及び本願出願前周知の事項に基いて当業者であれば容易になし得ることである。

そして、本願補正発明の「流動性、ブリーディングの防止、充分な可使時間の確保などの他、低温時の初期強度発現性と、硬化前の沈下現象の改善や乾燥状態に置かれた際のひび割れ抵抗性などに関する効果」は、引用例1、2記載の発明及び本願出願前周知の事項から当業者であれば容易に予測し得るものである。
よって、本願補正発明は、引用例1、2記載の発明及び本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2-3-3)まとめ
上記からして、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(3-1)本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし3を引用する請求項4に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成23年1月24日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項4に記載された事項により特定される、上記2.で示したとおりのものである。

(3-2)引用例の記載事項
原査定の拒絶理由において引用した引用例の記載事項は、上記2.(2-3-1)で示したとおりである。

(3-3)対比・判断
上記2.(2-2)で示した本件補正における補正事項は、補正前の請求項1ないし3を引用する請求項4に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであることから、本願発明は、本願補正発明を包含している。
そうすると、本願補正発明が、上記2.(2-3-2)で示したように、引用例1、2記載の発明及び本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、本願補正発明を包含する本願発明も同じく、引用例1、2記載の発明及び本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということができる。

(3-4)むすび
したがって、本願発明は、引用例1、2に記載された発明に及び本願出願前周知の事項基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
それゆえ、本願は、特許請求の範囲の請求項2ないし8に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する
 
審理終結日 2013-03-13 
結審通知日 2013-03-19 
審決日 2013-04-01 
出願番号 特願2006-128298(P2006-128298)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C04B)
P 1 8・ 121- Z (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 永田 史泰  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 中澤 登
國方 恭子
発明の名称 超速硬セメント組成物、超速硬モルタル組成物、及び超速硬グラウトモルタル  

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