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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 C09J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09J
管理番号 1274230
審判番号 不服2010-26112  
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-11-19 
確定日 2013-05-15 
事件の表示 特願2001-518101「シクロデキストリンを含む感圧接着剤」拒絶査定不服審判事件〔平成13年3月1日国際公開、WO2001/013968、平成15年2月25日国内公表、特表2003-507536〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成12年7月27日(パリ条約による優先権主張 1999年8月25日 グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国)を国際出願日とする特許出願であって、平成22年2月17日付けで拒絶理由が通知され、同年6月22日に意見書及び手続補正書が提出され、同年7月13日付けで拒絶をすべき旨の査定がされ、同年11月19日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、平成23年1月21日付けで前置審査の結果が報告され、当審において平成24年2月14日付けで審尋され、同年5月2日に回答書が提出されたものである。

第2.補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成22年11月19日付け手続補正書による補正をを却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成22年11月19日付け手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)は、特許法等の一部を改正する法律(平成14年法律第24号)附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、単に「特許法」という。)第17条の2第1項第3号に掲げる場合の補正であって、明細書の特許請求の範囲について、本件補正前の
「【請求項1】
感圧接着剤組成物の層が形成されている基材を備え、前記感圧接着剤組成物は内部に不連続相が分布するゴム状連続相を有し、前記不連続相が、全組成物に対して0.1?65重量%の複合していないシクロデキストリンを含む親水コロイド組成物と、シクロデキストリン以外の親水コロイドを含むことを特徴とする傷口用包帯等の保護材、人工肛門等形成用具や皮膚用の保護材の形態の医療用品または外科用品。
【請求項2】
全組成物に対して少なくとも5重量%の前記シクロデキストリンを含む請求項1に記載の用品。
【請求項3】
全組成物に対して少なくとも10重量%の前記シクロデキストリンを含む請求項2に記載の用品。
【請求項4】
前記連続相が、主成分として最高50重量%のポリイソブチレンを含む請求項1乃至3のいずれかに記載の用品。
【請求項5】
前記連続相が、主成分として最高15重量%のスチレンまたは置換スチレンのゴム状コポリマを含む請求項1乃至4のいずれかに記載の用品。
【請求項6】
シクロデキストリンと結合した前記親水コロイドとして、ペクチン、グアールガム、ローカストビーンガム、カラヤガム、カラゲナン、トラガカントゴム、アルギン酸塩、カルボキシルメチルセルロース、ポリビニール・アルコール、ポリオキシアルキレンポリオル、ポリビニール・ピロリドン・ゼラチン、ヒアルロン酸、キトサン塩およびDEADデキストランから選択される請求項1乃至5のいずれかに記載の用品。
【請求項7】
前記接着剤組成物が、活性成分を含む請求項1乃至6のいずれかに記載の用品。
【請求項8】
前記活性成分が、ヒドロキノン、メントール、サリチル酸、抗菌剤、抗真菌剤、精油および芳香剤から選択される請求項7に記載の用品。
【請求項9】
前記基材が、非接着性の防水フィルムによる裏打ち材料を含む請求項1乃至8のいずれかに記載の用品。」
を、
「【請求項1】
感圧接着剤組成物の層が形成されている基材を備え、前記感圧接着剤組成物は内部に不連続相が分布するゴム状連続相を有し、前記不連続相が、全組成物に対して0.1?65重量%の複合していないシクロデキストリンを含む親水コロイド組成物と、シクロデキストリン以外の親水コロイドを含み、全組成物に対して少なくとも5重量%の前記シクロデキストリンを含むことを特徴とする傷口用包帯の保護材、人工肛門形成用具や皮膚用の保護材の形態の医療用品または外科用品。
【請求項2】
全組成物に対して14?60重量%の前記シクロデキストリン以外の親水コロイドを含む請求項1に記載の用品。
【請求項3】
全組成物に対して少なくとも10重量%の前記シクロデキストリンを含む請求項1乃至2に記載の用品。
【請求項4】
前記連続相が、主成分として最高50重量%のポリイソブチレンを含む請求項1乃至3のいずれかに記載の用品。
【請求項5】
前記連続相が、主成分として最高15重量%のスチレンまたは置換スチレンのゴム状コポリマを含む請求項1乃至4のいずれかに記載の用品。
【請求項6】
シクロデキストリンと結合した前記親水コロイドとして、ペクチン、グアールガム、ローカストビーンガム、カラヤガム、カラゲナン、トラガカントゴム、アルギン酸塩、カルボキシルメチルセルロース、ポリビニール・アルコール、ポリオキシアルキレンポリオル、ポリビニール・ピロリドン・ゼラチン、ヒアルロン酸、キトサン塩およびDEADデキストランから選択される1乃至5のいずれかに記載の用品。
【請求項7】
前記接着剤組成物が、活性成分を含む請求項1乃至6のいずれかに記載の用品。
【請求項8】
前記活性成分が、ヒドロキノン、メントール、サリチル酸、抗菌剤、抗真菌剤、精油および芳香剤から選択される請求項7に記載の用品。
【請求項9】
前記基材が、非接着性の防水フィルムによる裏打ち材料を含む請求項1乃至8のいずれかに記載の用品。」
と補正するものである。すなわち、本件補正は次の補正事項を含んでいる。
(1)本件補正前の請求項1を削除し、同請求項2を新請求項1とするとともに、「傷口用包帯等」及び「人工肛門等」から「等」を削除する補正事項
(2)新たに請求項2を新設し、請求項3において、請求項2も引用する形式とする補正事項

2.補正の目的について
上記補正事項のうち、(2)については、請求項を新設する補正であるから、特許法第17条の2第4項各号のいずれに掲げる事項を目的とするものでもない。
なお、請求人は、回答書において、「請求項2の補正につきましては、今回の補正前の請求項1に記載の「シクロデキストリン以外の親水性コロイド」の割合を限定するものであるため、限定的減縮として認められるべき補正であると確信しています。」と主張しているが、以下の理由によりこの主張は受け入れられない。
すなわち、本件補正前の請求項1は削除され、同請求項2が新請求項1と補正され、別途、新請求項1を引用する新請求項2を新設する補正であるから、一つの請求項(補正前の請求項2)に記載された発明を複数の請求項(新請求項1及び2)に分割して、新たな請求項を追加する態様による補正、いわゆる「増項補正」であって、このような補正は、たとえそれが全体として一つの請求項(補正前の請求項2)に記載された発明特定事項を限定する趣旨でされたものであるとしても、同項第2号にいう「特許請求の範囲の減縮」には当たらないものである。というのも、同号の定める「特許請求の範囲の減縮」は、補正前後の請求項に係る発明が一対一の対応関係にあることを必要とするものであるからである。(知財高裁平成17年(行ケ)第10192号・平成17年4月25日判決参照)

3.まとめ
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定に違反しているので、同法第159条第1項で読み替えて準用する同第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.当審の判断
1.本願発明
上記のとおり、平成22年11月19日付け手続補正書による補正は却下されたので、本願の請求項1?9に係る発明は、平成22年6月22日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲請求項1?9にそれぞれ記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりである。
「感圧接着剤組成物の層が形成されている基材を備え、前記感圧接着剤組成物は内部に不連続相が分布するゴム状連続相を有し、前記不連続相が、全組成物に対して0.1?65重量%の複合していないシクロデキストリンを含む親水コロイド組成物と、シクロデキストリン以外の親水コロイドを含むことを特徴とする傷口用包帯等の保護材、人工肛門等形成用具や皮膚用の保護材の形態の医療用品または外科用品。」

なお、請求人は、回答書において、「「医療用品または外科用品」という記載は、「医療用品としての外科用品」という程度の意味」であり、また、「「傷口用包帯の保護材、人工肛門形成用具や皮膚用の保護材」の記載につきましては、「医療用品としての外科用品」の具体例を列挙しているだけ」であると主張していることにかんがみ、これらの用語について請求人の主張する意味として本願発明1を把握するものとする。

2.原査定における拒絶理由の概要
原査定は、「この出願については、平成22年2月17日付け拒絶理由通知書に記載した理由3によって、拒絶をすべき」というものであり、当該拒絶理由通知書に記載した理由3とは、概略、この出願に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、との理由を含むものである。
引用文献1:特開昭63-280013号公報

3.当審の判断
そこで、上記原査定の拒絶理由が妥当であったか、すなわち本願発明が刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるか否かについて検討する。
(1)引用文献及びその記載事項
刊行物1:特開昭63-280013号公報 (原査定の引用文献1)

ア.「1.基材および,該基材の少なくとも片側に粘着剤層を有する貼付剤であって,
該基材が,伸長性を有する不織布または織布からなり,そして
該粘着剤層が,シクロデキストリンおよび/またはその誘導体を含有する体臭防止用貼付剤。
2.前記シクロデキストリンおよび/またはその誘導体が,前記粘着剤層にて3重量%以上の割合で含有された特許請求の範囲第1項に記載の体臭防止用貼付剤。」(特許請求の範囲の請求項1および2)

イ.「シクロデキストリンやシクロデキストリン誘導体は,粘着剤層において,3重量%以上,好ましくは5重量%以上の範囲で含有される。3重量%を下まわると,体臭の除去が効果的になされない。シクロデキストリンの含有量は,通常,3?40重量%の範囲とされる。40重量%を上まわってもよいが,無駄であるうえに,粘着剤層の粘着性が低下する。シクロデキストリンには,これを構成するグルコースの数により,α,β,γ-シクロデキストリンの3種類の化合物がある。本発明に用いられるシクロデキストリンは,上記化合物のいずれでもよく,またそれらの混合物でもよい。混合物としては,シクロデキストリンの製造過程において,各タイプのシクロデキストリンに単離される前の混合物が挙げられる。この混合物の混合比は,α:β:γ=約6:3:1(重量比)である。しかし,各タイプのシクロデキストリンを任意の比率で混合した混合物も使用可能である。シクロデキストリン誘導体には,例えば,シクロデキストリン骨格にマルトース分子が1個?数個で導入された化合物がある。」(2頁右上欄17行?左下欄17行)

ウ.「粘着剤層に含有される粘着剤には,通常の感圧性接着剤が用いられる。……。好ましい粘着剤としては,例えば,(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体系,天然ゴムまたは合成ゴム(IR,IIR,SBR,SISブロックコポリマー,SBSブロックコポリマーおよびそれらの混合物)系組成物,……などがある。」(3頁左上欄下から2行?右上欄10行)

エ.「この粘着剤に水溶性高分子を添加すれば,汗などの水分が吸収されるため,湿った表面への粘着が可能となる。水溶性高分子には,例えば,グアーガム,トラガントガム,カラヤガム,ペクチン,ポリビニルピロリドン,ポリビニルアルコール,ポリアクリル酸ナトリウム,カルボキシメチルセルロースナトリウム,カルボキシメチル化デンプンがある。」(3頁右上欄12?19行)

オ.「(実施例)
以下に本発明を実施例について述べる。
実施例1
(1)粘着剤溶液の調製
……
この粘着剤溶液100重量部に対し,シクロデキストリン混合物を3重量部加え,短翼型高速回転攪拌機によって約10分間攪拌することにより,シクロデキストリン混合物を均一に分散させた。このシクロデキストリン混合物中において,各タイプのシクロデキストリンの混合比は,α:β:γ=約6:3:1(重量比)である。
(2)貼付剤の作製
基材として,以下の構成でなる布地を用いた。……
この基材の塗工面に,あらかじめ毛焼加工を施した。次いで,この加工面に,グラビアコーティング法により,ポリイソプレン-メタクリル酸メチルグラフト共重合体(7:3重量比)を約8g/cm^(2)の層厚で塗工し,アンカー処理を行った。このアンカー処理層に,(1)項で得た粘着剤溶液を,シリコーン剥離紙を用いた転写塗工法により塗工し,約70μm厚の粘着剤層を形成した。……
(3)貼付剤の評価
(2)項で得た貼付剤を,わきが臭を有する人の腋窩部に,午前7時に貼付した。貼付は,腕を約140°の角度に上げ,貼付剤の長手方向を上下方向として行った。約36時間にわたって貼付を続け,翌日の午後7時に剥離した。……
実施例2
(1)粘着剤溶液の調製
合成ポリイソプレンゴム(IR,IR-2200,日本合成ゴム社製) 90重量部
スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS,E-2359,住友化学社製) 10重量部
ポリ-β-ピネン樹脂(軟化点110℃) 70重量部
スクワラン(軟化剤) 25重量部
2,6-ジ(t-ブチル)-p-クレゾール(酸化防止剤) 1重量部
グリチルレチン 0.5重量部
上記処方を混合した後(混合物のTg点は約-68℃),シクロヘキサンに溶解して,18%の粘着剤溶液を調製した。この粘着剤溶液100重量部に対し,実施例1と同じシクロデキストリン混合物を2.5重量部の割合で加えた。
(2)貼付剤の作製および評価
実施例1と同様の基材を用いた。この基材上に、(1)項で得た粘着剤溶液を、実施例1と同様の方法により塗工して、約80μm厚の粘着剤層を形成した。得られた貼付剤は,例えば,10cm×6cmの大きさに切断され,使用に供される。使用時には,シリコーン剥離紙が剥離される。この貼付剤を,実施例1と同様にして,わきが臭を有する人の人体の腋窩部に貼付したところ,貼付中,本人および周囲の人のいずれもわきが臭を感じなかった。しかも,この貼付剤は,皮膚の屈伸に応じて伸縮し,剥離することはなかった。貼付後,約4時間は,わずかな違和感を感じたものの,慣れにより徐々に消滅した。腕の上げ下げによる痛みや貼付剤による蒸れも生じなかった。貼付剤を剥離後,貼付部位には,かぶれや発赤などは全く認められなかった。剥離では痛みを伴わず,粘着剤の残留もなかった。」(3頁右下欄12行?5頁左上欄4行)

キ.「実施例4
(1)粘着剤溶液の調製
ポリビニルピロリドン(Kollidon K-90,BASF社製) 18重量部
カルボキシメチルセルロースナトリウム(セロゲン FSBH-12,第一工業製薬社製) 3重量部
架橋型ポリアクリル酸(ジュンロンPW-150,日本純薬社製) 5重量部
マルチトール 74重量部
エチルパラベン 0.1重量部
上記処方を混合した後(混合物のTgは約4℃),水に溶解して,15%の粘着剤溶液を調製した。この粘着剤溶液100重量部に対し,マルトース結合シクロデキストリン(マルトシルCD,大洋漁業社製)を5重量部加え,シクロデキストリンを均一に溶解させた。
(2)貼付剤の作製および評価
基材として,以下の構成でなる布地を用いた。
……
この基材に,ドライボンド接着剤(約10g/m^(2))により,厚さ30μmのポリエーテル系ポリウレタンフィルム(伸縮性フォルム)を積層した。この基材の伸縮性フィルムとは反対側の面に,(1)項で得た粘着剤溶液を直接塗工し,約60μm厚の粘着剤層を形成した。得られた貼付剤は,親水性が高く,汗などで湿った皮膚にも貼付し得る。しかも,発汗や濡れによっても容易に剥離しない。この貼付剤は,例えば,10cm×6cmの大きさに切断され,使用に供される。」(5頁右上欄17行?右下欄7行)

(2)刊行物1に記載の発明
刊行物1の摘示アの請求項1の記載から、刊行物1には、以下の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されている。
「基材および、該基材の少なくとも片側に粘着剤層を有する貼付剤であって、該基材が、伸長性を有する不織布または織布からなり、そして該粘着剤層が、シクロデキストリンおよび/またはその誘導体を含有する体臭防止用貼付剤。」

(3)対比
本願発明1と刊行物1発明を対比する。
刊行物1に「粘着剤層に含有される粘着剤には,通常の感圧性接着剤が用いられる。」(摘示ウ)と記載されていることからみて、刊行物1発明における「粘着剤層」には「粘着剤」が含まれており、この「粘着剤」には「感圧性接着剤」が用いられるものであることから、刊行物1発明における「基材の少なくとも片側に粘着剤層を有する」とは、本願発明1における「感圧接着剤組成物の層が形成されている基材を備え」たものに相当する。また、刊行物1発明の「シクロデキストリン」が複合しているものではないことは、刊行物1全体の記載からみて明らかであるから、本願発明1における「複合していないシクロデキストリン」に相当する。さらに、刊行物1発明の「体臭防止用貼付剤」が本願発明1の「医療用品または外科用品」(「医療用品としての外科用品」)に相当するものであることは、本願発明1に具体例として列挙されている「皮膚用の保護材」に類似する形態であることから明らかである。
そうすると、両者は、「感圧接着剤組成物の層が形成されている基材を備え、前記感圧接着剤組成物は複合していないシクロデキストリンを含む傷口用包帯等の保護材、人工肛門等形成用具や皮膚用の保護材の形態の医療用品または外科用品」である点で一致し、以下の点で相違するものといえる。

相違点1:
本願発明1では、「感圧接着剤組成物は内部に不連続相が分布するゴム状連続相を有」すると特定されているのに対し、刊行物1発明ではそのような規定がない点。

相違点2:
本願発明1では、「不連続相が、全組成物に対して0.1?65重量%の複合していないシクロデキストリンを含む親水コロイド組成物と、シクロデキストリン以外の親水コロイドを含」むと特定されているのに対し、刊行物1発明ではそのような規定がない点。

(4)相違点に対する判断
上記相違点1及び2について検討する。
≪相違点1≫
刊行物1発明において、「粘着剤層が、シクロデキストリンおよび/またはその誘導体を含有する」と特定されていること、及び刊行物1には「粘着剤層に含有される粘着剤には,通常の感圧性接着剤が用いられる」(摘示ウ)と記載されていることからみて、粘着剤層が粘着剤(感圧性接着剤)とシクロデキストリンを含んでいることは明らかである。
また、刊行物1には、粘着剤(通常の感圧性接着剤)について、「天然ゴムまたは合成ゴム(IR,IIR,SBR,SISブロックコポリマー,SBSブロックコポリマーおよびそれらの混合物)系組成物」(摘示ウ)が使用可能なことが記載されており、実施例2(摘示オ)には具体的に「合成ポリイソプレンゴム(IR)及びスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)」が使用されたものが記載されている。これらはゴム状物質であることは自明である。
一方、刊行物1には、シクロデキストリンは「粘着剤層にて3重量%以上の割合で含有され」ており(摘示アの請求項2)、また、「シクロデキストリンの含有量は,通常,3?40重量%の範囲とされる。」(摘示イ)と記載されている。さらに、実施例2(摘示オ)においては「18%の粘着剤溶液100重量部に対し,シクロデキストリン混合物を2.5重量部の割合で加えた。」と具体的に記載されているところ、感圧接着剤組成物全体に対するシクロデキストリンの含有量は約12重量%(2.5÷(2.5+100×0.18)=0.12)と計算できる。したがって、シクロデキストリンは粘着剤層における少量成分といえる。
すなわち、刊行物1発明において、粘着剤層を構成する感圧接着剤組成物はその大部分が「天然ゴムまたは合成ゴム」(ゴム状物質)であると解される。
ここで、「天然ゴムまたは合成ゴム」(ゴム状物質)は一般的に疎水性であるのに対し、「シクロデキストリン」は親水性であるから、両者は非相溶であり、シクロデキストリンはゴム状物質中に溶解することはない。このような状態では、通常、多量に存在するゴム状物質が連続相(ゴム状連続相)となり、相対的に少量存在するシクロデキストリンは不連続相としてこのゴム状連続相中に分布することになる。
そうすると、刊行物1発明においても「感圧接着剤組成物は内部に不連続相が分布するゴム状連続相を有」するものといえるから、上記相違点1は実際には相違点とはいえないものである。

≪相違点2≫
本願発明1は「不連続相が、全組成物に対して0.1?65重量%の複合していないシクロデキストリンを含む親水コロイド組成物と、シクロデキストリン以外の親水コロイドを含」むと特定しているところ、「全組成物に対して0.1?65重量%」の量で含有するのは「複合していないシクロデキストリンを含む親水コロイド組成物」であって、「シクロデキストリン以外の親水コロイド」は含まれないと解するのが自然である。
しかしながら、刊行物1には、「シクロデキストリンの含有量は,通常,3?40重量%の範囲とされる。」(摘示イ)と記載されており、この数値範囲は本願発明1で特定する数値範囲と相違しない。
そして、刊行物1には、「粘着剤に水溶性高分子を添加すれば、汗などの水分が吸収される」(摘示エ)ことが記載されており、「水溶性高分子」として、「グアーガム,トラガントガム,カラヤガム,ペクチン,ポリビニルピロリドン,ポリビニルアルコール,……,カルボキシメチルセルロースナトリウム」が挙げられているが(摘示エ)、これらの水溶性高分子は本願明細書の段落0032で「親水コロイド」として挙げられているものと重複している。また、実施例4(摘示カ)には、親水性高分子である「ポリビニルピロリドン」及び「カルボキシメチルセルロースナトリウム」を粘着剤層に配合した粘着剤も具体的に記載されている。したがって、刊行物1には、シクロデキストリン以外の親水コロイドを添加する態様についても十分な示唆があり、その示唆に基づいて「シクロデキストリン以外の親水コロイド」を含有させることは当業者が容易になし得ることである。
そうすると、相違点2については、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得ることである。
そして、その効果についても格別なものとは認められない。

なお、本願明細書には、「親水コロイドは、シクロデキストリンに加えて含まれて、60重量%またはそれ以上の量で使用することができ、シクロデキストリン成分と組み合わせた2つの集合体の量は0.1?65重量%になる。」(段落0030)と記載されていることにかんがみれば、本願発明1で特定する「全組成物に対して0.1?65重量%」とは「複合していないシクロデキストリンを含む親水コロイド組成物」と「シクロデキストリン以外の親水コロイド」の両成分の合計量であると解する余地もあるので、以下検討する。
「シクロデキストリン」及び「シクロデキストリン以外の親水コロイド」を含む「親水コロイド組成物」の含有量は粘着剤(感圧接着剤組成物)としての性質を考慮しつつ、適宜決定できるものである。そして、刊行物1には、「シクロデキストリンの含有量は,通常,3?40重量%の範囲とされる。」(摘示イ)と記載されており、この数値範囲は本願発明1で特定する「全組成物に対して0.1?65重量%」の範囲に包含されるものであることから、刊行物1発明においてさらに「シクロデキストリン以外の親水コロイド」である親水性高分子を添加するにしても、組成物全体として粘着剤の性質を有するものでなければならないことにかんがみれば、この「全組成物に対して0.1?65重量%」という数値範囲と大きく異なるものになるということはできず、そのような数値範囲とすることは当業者が容易になし得るものといえる。また、本願明細書の記載をみても、この本願発明1で特定する数値範囲に臨界的意義を見いだせない。
なお、上記引用した本願明細書の段落0030の記載「親水コロイドは、シクロデキストリンに加えて含まれて、60重量%またはそれ以上の量で使用することができ、シクロデキストリン成分と組み合わせた2つの集合体の量は0.1?65重量%になる。」についてみると、「親水コロイド」とは、「シクロデキストリンに加えて含まれ」るものであるから、「シクロデキストリン以外の親水コロイド」を意味するものであり、その「親水コロイド」が「60重量%またはそれ以上の量で使用」されるものであると解されるところ、「シクロデキストリン成分と組み合わせた2つの集合体の量は0.1?65重量%になる」のであるから、「シクロデキストリン」は結局5重量%未満の量しか含まれないことになる。(それにもかかわらず、シクロデキストリンの含有量について、請求項2では、「全組成物に対して少なくとも5重量%」、請求項3では、「全組成物に対して少なくとも10重量%」と特定しており、整合していない。)しかし、本願明細書には実施例としてそのような組成でシクロデキストリンとシクロデキストリン以外の親水コロイドとを含む例は記載されておらず、その効果についても格別なものとすることはできない。
そうすると、上記相違点2については、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものである。

(5)小括
上記したとおり、相違点1については実質的に相違点ではなく、また相違点2については当業者が容易になし得たものであるから、本願発明1は刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.請求人の主張について
請求人は、回答書において、次のように匂い吸収力についての相乗効果を主張をしている。
「引用文献1には、2種類の体臭防止用貼付剤が開示されていますが、シクロデキストリンとシクロデキストリン以外の親水コロイドを混合させることによって、匂い吸収力が向上するという相乗効果が生まれることについて一切開示されていません。」
「これに対して、本願発明は、ゴム状の連続層内に分布する不連続層が、シクロデキストリンを含む親水コロイド組成物と、シクロデキストリン以外の親水コロイドを含むことで、匂い吸収力を高めるという相乗効果を生じさせます。」
しかし、本願明細書において匂い吸収力について試験をした例9?11(本願明細書の段落0067?0075)を対比すると、例9は匂いを吸収させるシクロデキストリンが含まれていないから臭気レベルのランキングが12と悪い結果となるのは当然であり、シクロデキストリンの含まれた例10と例11では、シクロデキストリンの含有量の少ない例10の臭気レベルのランキングが7であるのに対し、シクロデキストリンの量が少ない例11の臭気レベルのランキングが7と向上しているが(同段落0074の表6参照)、これは臭気を吸収するシクロデキストリン量が多くなったことから当然予測される結果を示しているにすぎない。
そして、例10には「ナトリウム CMC」と「ペクチン USP100」が、例11では「Aquasorb A-500」(これはおそらく例6で使用されている「ナトリウム CMC、Aqualon A-500」と同じものと思われる。)が「シクロデキストリン以外の親水コロイド」として添加されていることから(同段落0068の表5参照)、これらの試験結果からは、「シクロデキストリン」と「シクロデキストリン以外の親水コロイド」とを組み合わせたことによる「匂い吸収力」に関する相乗効果は把握できない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

また、請求人は、審判請求書において本願明細書に記載された例1?4及び6?8の「静的吸収」の試験結果から、「シクロデキストリン」と「シクロデキストリン以外の親水コロイド」とを組み合わせた場合に静的吸収に相乗効果が得られる旨主張している。(なお、審判請求書に記載された表1は「シクロデキストリン以外の親水コロイド」に相当する「ペクチン」を除外しており、正しいものではないが、この点は措く。)
ここで、本願明細書の段落0063?0066によれば、例6?8の結果は、「ナトリウムCMC」を28.0重量%及び「ペクチン」を14.0重量%含有させた例6の静的吸収が最も大きく、「ナトリウムCMC」を14.0重量%及び「ペクチン」を14.0重量%を含有させた例7の静的吸収が低下することを示すものである。(なお、例8は、例7と同様の「シクロデキストリン以外の親水コロイド」の添加量であるが、「シクロデキストリン」として例7が「β-シクロデキストリン」を使用するのに対し、「ヒドロキシプロピル β-シクロデキストリン」を使用するものであることから、例8の「静的吸収」が例7に比べて増加したものと考えられる。これは、本願明細書の段落0032に「変性していないβ-シクロデキストリンは水にそれほどよく溶けず、高度の吸収性を必要とする場合には、通常好ましいものではない。α-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、およびある種の変性β-シクロデキストリンは、もっと高い吸水性を持つ。」と記載されていることに沿うものである。)
この例6?8の試験結果は、吸水性のある材料が多ければ「静的吸収」が多くなることを示すものにすぎず、このことは、刊行物1の「粘着剤に水溶性高分子を添加すれば,汗などの水分が吸収される」(摘示エ)の記載から容易に想到し得ることである。
なお、確かに、例1?3(本願明細書の段落0056?0059参照)の対比では、吸水性に欠ける「シクロデキストリン」を配合しない例1に対し、「シクロデキストリン以外の親水コロイド」の一部を「シクロデキストリン」に置き換えた例2及び3の「静的吸収」に大きな変化が見られないが、先に述べた例6?8の試験結果を踏まえると、他の要因(例えば「一体型でない」(例1?3)と「一体型」(例6?8)とするための構成の違いなど)が関与している可能性や、あるいは例1に含まれる「ゼラチン 100メッシュ、225 Bloom」(本願明細書の段落0030によれば、シクロデキストリン以外の親水コロイドに該当する)に吸水効果がないことを示すものと解釈できることもあり、単に「シクロデキストリン」と「シクロデキストリン以外の親水コロイド」とを組み合わせたことのみによる効果であるとは認められない。
よって、請求人の上記主張は採用できない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願発明1は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項に規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-11-27 
結審通知日 2012-12-04 
審決日 2012-12-17 
出願番号 特願2001-518101(P2001-518101)
審決分類 P 1 8・ 57- Z (C09J)
P 1 8・ 121- Z (C09J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松原 宜史  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 小石 真弓
星野 紹英
発明の名称 シクロデキストリンを含む感圧接着剤  
代理人 加藤 恒久  

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