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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A23L
審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 A23L
管理番号 1274454
審判番号 不服2010-22182  
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-10-01 
確定日 2013-05-22 
事件の表示 特願2006-517248「トウモロコシをベースとする食品中のアクリルアミドを低減する方法、アクリルアミド濃度が低減されているトウモロコシをベースとする食品、及び商品」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 1月20日国際公開、WO2005/004628、平成19年8月23日国内公表、特表2007-523619〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

この出願は,2004年6月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2003年6月25日,米国(US))を国際出願日とする出願であって,以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成21年12月25日付け 拒絶理由通知書
平成22年 5月27日付け 拒絶査定
平成22年10月 1日 審判請求書・手続補正書
平成22年11月26日 手続補正書(方式)
平成23年 1月27日付け 前置報告書
平成23年 9月 5日付け 審尋
平成23年12月 8日 回答書

第2 平成22年10月1日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成22年10月1日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正

平成22年10月1日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。なお,本件補正後の明細書を,以下,「本願補正明細書」という。)は,補正前の請求項1ないし4,6,7,11ないし44を削除すると共に,補正前の

「【請求項5】
トウモロコシをベースとする食品材料中のアスパラギン濃度を低減する方法であって,
(1)アスパラギンを含む食品材料にアスパラギン低減酵素を添加する工程と,
(2)任意選択的に酵素と食品材料とを混合する工程と,
(3)酵素にアスパラギンを十分な時間反応させる工程と,
(4)任意選択的に酵素を失活させる,又は任意選択的に酵素を除去する工程と,を含む方法。」を,

「【請求項1】
トウモロコシをベースとする食品材料中のアスパラギンを除去する方法であって,
(1)アスパラギンを含む食品材料にアスパラギン低減酵素を添加する工程と,
(2)任意選択的に酵素と食品材料とを混合する工程と,
(3)酵素にアスパラギンを十分な時間反応させる工程と,
(4)任意選択的に酵素を失活させる,又は任意選択的に酵素を除去する工程と,を含む方法。」とする補正を含むものである。

2 本件補正の適否(目的外の補正)

本件補正は,補正前の請求項5に係る発明について,該請求項5に記載した発明を特定するために必要と認める事項である「アスパラギン濃度を低減する」を,「アスパラギンを除去する」に変更するものである。
この「アスパラギン濃度を低減する」という文言自体は明確であり,且つ,平成21年12月25日付け拒絶理由通知書に,該請求項5に係る発明は明確でないとの拒絶の理由は示されていない。
しかも,「アスパラギンを除去する」について,本願補正明細書に記載されているのは「【0011】・・調理前に食品中のアスパラギンを除去するか,又はアスパラギンを別の物質に転換させることによって,加熱された食品中のアクリルアミドの形成を低減できることを見出した」ということのみである。ここでは,「アスパラギンを除去する」と「アスパラギンを別の物質に転換させる」とは別の方法として示されており,且つ,本願補正明細書の「【0012】・・アスパラギンの側鎖上にあるアミド基を加水分解する酵素を添加すると,完成食品中に存在するアクリルアミドの濃度が減少することを見出した・・このような酵素の添加が,アスパラギンの側鎖を分解し,それによってアスパラギンがアクリルアミドを形成するのを妨げると考えられている。その際,アミド結合が加水分解され,アスパラギンがアスパラギン酸に転換される」という記載より,アスパラギンのアミド基を加水分解する酵素によりアスパラギンを加水分解することは,アスパラギンを別の物質であるアスパラギン酸に「転換」と言っていることから,アスパラギンのアミド基を加水分解する酵素を用いる方法は,段落【0011】の「アスパラギンを別の物質に転換させる」方法に相当するといえ,「アスパラギンを除去する」方法とは異なるものとして明細書に記載されている。
そうすると,本願補正明細書に唯一記載された段落【0011】記載の「アスパラギンを除去する」に関する記載は,アスパラギン低減酵素と無関係なものであって,「アスパラギン低減酵素」を用いて「アスパラギンを除去する」ことについては,本願補正明細書に全く記載がない。
これに対し,「低減」は,本願補正明細書に「【0040】C.アクリルアミド濃度が低減されている,トウモロコシをベースとする食品
本明細書の方法によって調製されるトウモロコシをベースとする食品は,そのアクリルアミド濃度が少なくとも約10%,好ましくは少なくとも約30%,より好ましくは少なくとも約50%,更により好ましくは少なくとも約70%,いっそうより好ましくは少なくとも約90%低減されたものにすることができる。」と明確に定義なされている。
そうすると,補正前の請求項5に係る発明はそれ自体明りょうであり,発明の詳細な説明にも「低減」の定義がなされているのであるから,何ら不明りょうな点はなく,本願上記補正により,補正前より明りょうになるものではない。
そうすると,請求項1における,本件補正前の請求項5の「アスパラギン濃度を低減する」を「アスパラギンを除去する」と変更する補正は,明りょうでない記載の釈明を目的とするものとはいえない。

したがって,請求項1における,本件補正前の請求項5の「アスパラギン濃度を低減する」を「アスパラギンを除去する」と変更するものを含む本件補正は,請求項の削除,特許請求の範囲の減縮,誤記の訂正あるいは明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものでもないので,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項各号のいずれの規定にも該当しない。

よって,請求項1についての補正は,その余の補正事項を検討するまでもなく,平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反するから,本件補正は,その余の点を検討するまでもなく,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1 本願発明

平成22年10月1日付けの手続補正は,上記のとおり却下されることとなったので,この出願の請求項1ないし44に係る発明は,この出願の願書に最初に添付された明細書(以下,「本願明細書」という。)の記載からみて,特許請求の範囲の請求項1ないし44に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は次のとおりのものであると認める。

「トウモロコシをベースとする食品材料中のアスパラギン濃度を低減する方法であって,加熱前に食品材料にアスパラギン低減酵素を添加する工程を含む方法。」

2 原査定の拒絶の理由の概要

本願発明の拒絶の理由の概要は,本願発明は,この出願の日前の外国語特許出願(特許法第184条の4第3項の規定により取り下げられたものとみなされたものを除く。)であって,その出願後に国際公開がされた下記の外国語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書,請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり,しかも,この出願の発明者がその出願前の外国語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく,またこの出願の時において,その出願人が上記外国語特許出願の出願人と同一でもないので,特許法第29条の2の規定により,特許を受けることができない(同法第184条の13参照),ということを含むものである。

特願2004-537698号(国際公開第2004/026042号,特表2006-500024号公報参照。原査定における引用文献1。以下,「先願」という。)

第4 先願明細書に記載された事項

先願は,2003年8月27日(パリ条約に基づく優先権主張,2002年9月19日,米国)を国際出願日とする出願であって,本願の優先日後の2004年4月1日に国際公開されたものであり,その国際出願日における国際出願の明細書又は請求の範囲(以下,「先願明細書」という。)には,以下の事項が記載されている(なお,下線は当審で付与した。)。

1a (公表公報・国際公開 請求項16,18,20)
「【請求項16】 熱処理された食品中のアクリルアミドを低減させる方法であって,
a)遊離アスパラギンを含有する食品材料を提供する工程と,
b)前記アスパラギン含有食品材料中のアスパラギンをアスパラギナーゼと接触させる工程と,
c)前記食品材料を,食品混合物中の成分として使用する工程と,
d)前記食品混合物を加熱して,熱処理食品を製造する工程とを含む方法。
・・(中略)・・
【請求項18】 前記食品材料は,米,小麦,トウモロコシ,大麦,大豆,ジャガイモ及びカラス麦から選択される,請求項16に記載の熱処理食品中のアクリルアミドを低減させる方法。
・・(中略)・・
【請求項20】工程(b)のアスパラギン含有食品材料をアスパラギナーゼと接触させる工程は,単糖の存在下で実行される請求項16に記載の方法」

1b (公表公報【0002】ないし【0005】,【0008】ないし【0010】,国際公開 1頁9行?3頁10行,4頁8行?5頁4行)
「【0002】
化学物質のアクリルアミドは,ポリマー形態にて水処理,原油の二次回収,製紙,凝集剤,濃縮剤,鉱石処理,パーマネントプレス加工織物等の工業的用途において長く使用されている。最近,様々な食品がアクリルアミド試験にて陽性反応を示している。アクリルアミドは,特に,高温処理された炭水化物食品中に発見されている。アクリルアミド試験にて陽性を示した食品の例としては,コーヒー,シリアル,クッキー,ポテトチップ,クラッカー,フライドポテト,食パン,又はロールパン,及びメンチかつ等がある。食品中のアクリルアミドの存在は最近になって発見されため,その形成メカニズムは未だ確認されていない。食品中にアクリルアミド単量体が存在することは好ましくないため,熱処理食品中のアクリルアミド量を相当低減させるか,又はアクリルアミドを除去するための方法は有益であると思われる。
【0003】
本発明は,熱処理食品中のアクリルアミド量を低減させる方法に関する。本方法の一実施形態は,アスパラギンを含有する食品材料を提供する工程と,該アスパラギン含有食品材料をアスパラギン不活性手段で処理する工程と,このアスパラギン含有食品材料を食品混合物中の一成分として使用する工程と,この食品混合物を加熱して熱処理食品を製造する工程とを含む。熱処理に先立って,食品中,又は食品材料中に存在する反応性アスパラギンの量を低減させることによって,アクリルアミドが効果的に低減される。一実施形態では,アスパラギンを酵素アスパラギナーゼと接触させて,アスパラギンをアスパラギン酸とアンモニアとに変換する。別の一実施形態では,約80℃よりも高い温度で食品材料を加熱するに先立って,熱処理食品の製造に使用される成分を浸出して,アスパラギンを除去する。本発明の更なる別の一実施形態では,食品の製造に使用される成分を発酵させて,微生物によるタンパク質合成のためのアスパラギン代謝により,及び,その他の微生物代謝によりアスパラギンを低減させる。
【0004】
上述した本発明の特徴は,以下の詳細な説明から明らかとなるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
熱処理食品中でアクリルアミドが形成されるには,炭素源と窒素源とを必要とする。炭素は,炭水化物源により提供され,窒素は,タンパク質,又はアミノ酸源により提供されると仮定できる。米,小麦,トウモロコシ,大麦,大豆,ジャガイモ及びカラス麦等の植物由来の食品材料の多くはアスパラギンを含有しており,少量のアミノ酸成分を含む炭水化物から主として構成されている。一般に,これら植物由来の食品材料は,アスパラギンに加えて他のアミノ酸を包含する小さいアミノ酸貯蔵室(amino acid pool)を有する。タンパク質塊を構成する標準アミノ酸は12種類存在し,これら食品材料中に発見され得るアミノ酸には,リジン,アラニン,アスパラギン,グルタミン,アルギニン,ヒスチジン,グリシン及びアスパラギン酸等がある。 ・・(中略)・・
【0008】
単糖の存在下でアスパラギンを加熱するとアクリルアミドの迅速形成が行われることが確認されたことにより,アスパラギンを不活性化させることによって,熱処理食品中のアクリルアミドを低減させ得ると想定される。用語「不活性化」とは,アスパラギンを食品から除去するか,又はアスパラギンを転換して,アスパラギンからのアクリルアミドの形成を阻害するか,若しくはアスパラギンを別の一化合物に対して結合させることにより,アクリルアミド形成経路に沿って,アスパラギンを非反応性のものに変更することを意味する。
【0009】
不活性化の一方法では,アスパラギンを酵素アスパラギナーゼと接触させる。酵素アスパラギナーゼは,アスパラギンをアスパラギン酸とアンモニアとに分解する。アスパラギンはまた,浸出によっても熱処理食品中にてアクリルアミド前駆体として不活性化され得る。水溶液に対するアスパラギンの溶解度は,溶液のpHを僅かに酸性,又はアルカリ性,好ましくはpH5?9に維持することにより向上する。アスパラギンは更に,発酵によって熱処理食品中にてアクリルアミド前駆体として不活性化される。アスパラギンはまた,タンパク質内に組み込まれることによって,アクリルアミド前駆体として不活性化され得る。アスパラギンは更に,乳酸カルシウム,クエン酸カルシウム又はリンゴ酸カルシウムの形態を有するカルシウム等の二価カチオンを添加することによって,アクリルアミド前駆体として不活性化され得る。アスパラギンはまた,グルコース,フルクトース又はラムノースを添加して食品中の還元糖の量を増加させることによって,アクリルアミド前駆体として不活性化され得る。
【0010】
当業者には,アクリルアミド形成を妨害することによりアスパラギンを不活性化させる他の手段が明らかになろう。加熱処理に先立って,食品材料,又は食品中のアスパラギンレベルを低下させることによって,最終処理食品中のアクリルアミドレベルが劇的に低減されるものと想定される。」

1c (公表公報【0015】ないし【0017】,国際公開 6頁12行?7頁15行)
「【0015】
実施例5
本実験例では,酵素アスパラギナーゼの存在下でアスパラギンとグルコースとを加熱すると,アクリルアミドの形成が低減されることを示す。酵素アスパラギナーゼを,pH8.6の0.05Mトリス塩酸バッファに溶解して,活性アスパラギナーゼ溶液を作成した。活性アスパラギナーゼ溶液の一部を,100℃で20分間加熱して酵素を不活性化して,コントロール・アスパラギナーゼ溶液も作成した。コントロール溶液中,グルコース0.2g,アスパラギナーゼ0.1g,及び加熱アスパラギナーゼ溶液20mlを,20ml頭隙ガラス瓶中で化合させた。活性酵素による実験では,グルコース0.2g,アスパラギナーゼ0.1g,及び活性アスパラギナーゼ溶液20mlを,20ml頭隙ガラス瓶中で化合させた。ガラス瓶中の酵素量は250酵素単位であった。コントロール,及び活性酵素の混合物は,全く同一に処理された。ガラス瓶を38℃にて2時間保持した後,80℃のオーブン内に40時間配置して蒸発させ,乾燥させた。加熱後,各ガラス瓶に水0.2mlを追加した。その後,ガラス瓶をガスクロマトグラフィー・オーブン内で,以下の温度プロファイルにて加熱した。開始温度40℃から,20℃/分で200℃迄加熱し,40℃迄冷却するに先立って200℃で2分間保持した。その後,反応混合物を水50mlで抽出して,水中のアクリルアミドをGC-MSにより測定した。測定値を以下の表1に示す。
【0016】
【表1】 表1
アスパラギナーゼ,及びグルコース存在したにおけるアクリルアミド形成
試験材料 アクリルアミド(ppb) 還元率
コントロール1 334,810 -
コントロール2 324,688 -
活性アスパラギナーゼ1 66 99.9
活性アスパラギナーゼ2 273 99.9
【0017】
表1から明らかなように,アスパラギンをアスパラギン酸とアンモニアとに分解する酵素により系を処理すると,アクリルアミド形成は99.9%以上低減された。本実験により,アスパラギンの濃度,又はアスパラギンの反応性を低下させると,アクリルアミドの形成が低減されることが確認された。」

第5 当審の判断

1 先願明細書に記載された発明

先願明細書の特許請求の範囲の請求項16には,「熱処理された食品中のアクリルアミドを低減させる方法であって,a)遊離アスパラギンを含有する食品材料を提供する工程と,b)前記アスパラギン含有食品材料中のアスパラギンをアスパラギナーゼと接触させる工程と,c)前記食品材料を,食品混合物中の成分として使用する工程と,d)前記食品混合物を加熱して,熱処理食品を製造する工程とを含む方法。」(摘示1a)が記載されており,同請求項18(摘示1a)には,請求項16に記載の発明における「食品材料」として具体的な選択肢が特定されている発明が,請求項16の記載を引用して記載されているから,請求項18に記載されている発明を書き下すと,先願明細書には,
「熱処理された食品中のアクリルアミドを低減させる方法であって,
a)遊離アスパラギンを含有する,米,小麦,トウモロコシ,大麦,大豆,ジャガイモ及びカラス麦から選択される,食品材料を提供する工程と,
b)前記アスパラギン含有食品材料中のアスパラギンをアスパラギナーゼと接触させる工程と,
c)前記食品材料を,食品混合物中の成分として使用する工程と,
d)前記食品混合物を加熱して,熱処理食品を製造する工程とを含む方法。」が記載されているといえる。
ここで,先願明細書には「【0003】・・熱処理に先立って,食品中,又は食品材料中に存在する反応性アスパラギンの量を低減させることによって,アクリルアミドが効果的に低減される。一実施形態では,アスパラギンを酵素アスパラギナーゼと接触させて,アスパラギンをアスパラギン酸とアンモニアとに変換する」(摘示1b)と記載されていることから,上記請求項18に記載の発明の内,熱処理に先立って行われる,アスパラギンを酵素アスパラギナーゼと接触させる工程であるa)工程及びb)工程を含む方法は,食品材料中に存在する反応性アスパラギンの量を低減させる方法であるといえる。
そうすると,先願明細書には,

「熱処理に先立って,食品材料中に存在する反応性アスパラギンの量を低減させる方法であって,
a)遊離アスパラギンを含有する,米,小麦,トウモロコシ,大麦,大豆,ジャガイモ及びカラス麦から選択される,食品材料を提供する工程と,
b)前記アスパラギン含有食品材料中のアスパラギンをアスパラギナーゼと接触させる工程とを含む方法。」

の発明(以下,「先願発明」という。)が記載されていると認められる。

2 先願の優先権主張について

先願は,2002年9月19日付け米国出願10/247,504号を基礎とするパリ条約に基づく優先権主張を伴うものである。
そして,先願発明に関する上記記載事項1aないし1cは,上記米国出願明細書の対応する以下の箇所に初めて記載された事項である。

記載事項1a:請求の範囲 請求項16,18,20
記載事項1b:2頁8行?4頁11行,5頁10行?6頁8行
記載事項1c:7頁19行?8頁末行

したがって,先願は先願発明について,米国出願10/247,504号に基づく優先権の利益を享受するものであり,その優先日(2002年9月19日)は本願の優先日(2003年6月25日)よりも前である。
したがって,先願は特許法第184条の13の規定により読み替えて適用される特許法第29条の2の「他の特許出願」に該当する。

3 本願発明と先願発明との対比

(1)アスパラギンについて
先願発明の「反応性アスパラギン」及び「遊離アスパラギン」は,共に,本願発明の「アスパラギン」に相当する。

(2)トウモロコシをベースとする食品材料について
先願発明の「遊離アスパラギンを含有する,米,小麦,トウモロコシ,大麦,大豆,ジャガイモ及びカラス麦から選択される,食品材料」について,先願発明には「【0005】・・米,小麦,トウモロコシ,大麦,大豆,ジャガイモ及びカラス麦等の植物由来の食品材料の多くはアスパラギンを含有しており,少量のアミノ酸成分を含む炭水化物から主として構成されている」(摘示1b)と記載されており,アスパラギンを含有する植物由来の食品材料として列記されているものであり,先願発明の「食品材料中に存在する反応性アスパラギンの量を低減させる方法」において,「米,小麦,トウモロコシ,大麦,大豆,ジャガイモ及びカラス麦」の何れの食品材料も選択し得ることは明白であるから,選択肢を有する発明において,かかる選択肢の中から,トウモロコシを選び得るものといえ,一の選択肢としてトウモロコシのみを発明を特定するための事項とすることができるといえる。
それ故,先願発明における食品材料は,トウモロコシからなる食品材料ということができるが,トウモロコシをベースとする食品材料といえるかは不明である。
そうすると,先願発明の「遊離アスパラギンを含有する,米,小麦,トウモロコシ,大麦,大豆,ジャガイモ及びカラス麦から選択される,食品材料」及び「前記アスパラギン含有食品材料」と,本願発明の「トウモロコシをベースとする食品材料」とは,トウモロコシを含む食品材料という点で共通する。

(3)アスパラギン濃度を低減する方法について
濃度とは,混合物全体に対するある物質の量の比率のことであるから,先願発明の「食品材料中に存在する反応性アスパラギンの量を低減させる方法」と,本願発明の「トウモロコシをベースとする食品材料中のアスパラギン濃度を低減する方法」とは,上記(1),(2)に記載した点を除き,食品材料中のアスパラギン濃度を低減する方法である点で一致する。

(4)アスパラギン低減酵素について
本願発明の「アスパラギン低減酵素」について,本願明細書には「【0017】・・「アスパラギン低減酵素」には,トウモロコシをベースとする食品材料中のアスパラギン濃度を低減可能なあらゆる酵素が含まれる・・本明細書で使用するのに好ましい酵素は,アスパラギナーゼである」と記載されていることから,アスパラギナーゼはアスパラギン低減酵素といえる。
そうすると,先願発明の「アスパラギナーゼ」は,本願発明の「アスパラギン低減酵素」に相当する。

(5)加熱前の食品材料にアスパラギン低減酵素を添加する工程について
先願発明の「b)前記アスパラギン含有食品材料」は,a)工程に記載の「遊離アスパラギンを含有する,米,小麦,トウモロコシ,大麦,大豆,ジャガイモ及びカラス麦から選択される,食品材料」に他ならないから,本願発明の「トウモロコシをベースとする食品材料」とは,上記(2)で述べたことを踏まえると,トウモロコシを含む食品材料で共通する。

先願発明の「熱処理に先立って」「b)前記アスパラギン含有食品材料中のアスパラギンをアスパラギナーゼと接触させる工程」について,アスパラギン含有食品材料中のアスパラギンをアスパラギナーゼと接触させるには,アスパラギンが食品材料中に存在するのであるから,「前記アスパラギン含有食品材料」をアスパラギナーゼと接触させる必要があることは明白である。この接触させる時期は,「熱処理に先立って」すなわち加熱前といえる。
そして,先願発明の「熱処理に先立って」「b)前記アスパラギン含有食品材料中のアスパラギンをアスパラギナーゼと接触させる工程」は,実質的に,加熱前に,前記アスパラギン含有食品材料にアスパラギナーゼを添加し,該食品材料中のアスパラギンをアスパラギナーゼと接触させて作用させることであるから,前記アスパラギン含有食品材料にアスパラギナーゼを作用させる工程といえる。
他方,本願発明の「加熱前に食品材料にアスパラギン低減酵素を添加する工程」は,いわば,加熱前にトウモロコシをベースとする食品材料にアスパラギン低減酵素を添加し,該食品材料中の基質をアスパラギナーゼと接触させて作用させる工程といえる。

そうすると,先願発明の「熱処理に先立って」「b)前記アスパラギン含有食品材料中のアスパラギンをアスパラギナーゼと接触させる工程」と,本願発明の「加熱前に食品材料にアスパラギン低減酵素を添加する工程」とは,前記(2)で検討した,先願発明の「前記アスパラギン含有食品材料」がトウモロコシからなる食品材料といえるがトウモロコシをベースとする食品材料といえるか不明である点を除き,加熱前にトウモロコシを含む食品材料にアスパラギン低減酵素を作用させる工程である点で共通する。

したがって,両者は,

「トウモロコシを含む食品材料中のアスパラギン濃度を低減する方法であって,加熱前にトウモロコシを含む食品材料にアスパラギン低減酵素を作用させる工程を含む方法。」

である点で一致し,以下の点で一応相違する。

ア トウモロコシを含む食品材料が,
本願発明では,トウモロコシをベースとするものであるのに対し,
先願発明では,トウモロコシであって,「前記アスパラギン含有食品材料」である点。(以下,「相違点ア」という。)

イ トウモロコシを含む食品材料にアスパラギン低減酵素を作用させる工程が,
本願発明では,上記食品材料にアスパラギン低減酵素を添加する工程であるのに対し,
先願発明では,前記アスパラギン含有食品材料中のアスパラギンをアスパラギナーゼと接触させる工程,である点。(以下,「相違点イ」という。)

3 本願発明と先願発明との相違点についての検討

(1)相違点アについて

本願発明では,トウモロコシを含む食品材料が,トウモロコシをベースとするものである。この「トウモロコシをベースとするもの」は,本願明細書の「【0019】本明細書で使用する時,「トウモロコシをベースとする」は,50%?100%のトウモロコシを含むことを意味する」という記載より,50%?100%のトウモロコシを含むことを意味するものといえる。
先願発明では,アスパラギンを含む食品材料は,米,小麦,トウモロコシ,大麦,大豆,ジャガイモ及びカラス麦から選択されるものである。この食品材料の選択肢の一つとして,トウモロコシが明示されており,トウモロコシを選択した場合,トウモロコシは100%のトウモロコシに他ならないから,本願発明のトウモロコシをベースとするものに該当する。

そうすると,相違点アは,実質的な相違点とはいえない。

(2)相違点イについて

前提として,本願発明の食品材料は,トウモロコシをベースとするものであり,他方,先願発明の,熱処理される前の食品材料は,遊離アスパラギンを含有する,米,小麦,トウモロコシ,大麦,大豆,ジャガイモ及びカラス麦から選択されるものであるが,この点での相違点については,上記(1)で検討したとおり,実質的な相違点ではない。

先願発明の「前記アスパラギン含有食品材料中のアスパラギンをアスパラギナーゼと接触させる」は,上記2(5)に記載したように,「前記アスパラギン含有食品材料」をアスパラギナーゼと接触させることであるが,これは「前記アスパラギン含有食品材料中のアスパラギン」がアスパラギナーゼと接触していない状態から,接触した状態にする必要があり,そのためには,「前記アスパラギン含有食品材料」にアスパラギナーゼを添加する必要があることは明らかである。

そうすると,相違点イは,食品材料にアスパラギン低減酵素を作用させる点における,単なる表現上の相違であって,実質的な相違点とはいえない。

以上より,本願発明は,先願発明と同一のものである。

4 出願人・発明者について

本願の特許出願時における出願人は,「ザ プロクター アンド ギャンブル カンパニー」であり,先願の出願人は,「フリト-レイ ノース アメリカ インコーポレイテッド」である。

また,本願の発明者は,「リー マイケル テラス」,「スティーブン ポール ジマーマン」,「デイビッド ビンセント ジザク」,「ピーター ヤウ タク リン」,「マルコ ストヤノビック」,「ロバート アラン サンダース」,「マリア ドロレス マーティンズ-セルナ ビリグラン」,「ジョン キーニー ハウイー」及び「リチャード ジェラルド シェファーメイアー」であるが,先願の発明者は,「エルダー,ビンセント アレン」,「ファルシャー,ジョン グレゴリー」及び「ルン,ヘンリー キン-ハン」である。

したがって,本願発明の発明者が先願発明の発明者と同一であるとも,また,本願の出願時に,その出願人が先願の出願人と同一であるとも認められない。

5 請求人の主張について

請求人は,平成23年12月8日付け回答書「<2>(3)(イ)本発明と引用文献1(先願1)に記載の発明との対比」において,先願明細書中の実施例5を採り上げ,「実施例5はテストバイアル中に限定され,併用されている材料も食品とはいえず,まして,本発明のコーンベースの材料とはいえない。グルコースおよびアスパラギンは多くの食品の最も基本的な構成要素であるが,多くの食品が有している複雑な構造を欠いている。例えば食品では,セルロースや澱粉といった高分子構造を有しているが,実施例では,セルロースや澱粉を酵素等で分解した後の糖とアミノ酸の組合わせを評価しているにすぎない。このように,この実施例5では,実際の食品とは,全く異なる状態のものを評価していることになる。さらに,引用文献1では・・「接触させ」という文言については,実施例5において,試験管にアスパラギナーゼを加えること意外には,何らの説明もされていない。・・引用文献1は,単に,糖/アミノ酸の混合物にアスパラギナーゼを加えて反応させたことを開示するのみであるから,本発明のようにトウモロコシをベースとする食品材料中のアスパラギンを除去する方法,または,アスパラギンを低減する方法を開示するものではないから,引用文献1は,本発明と,実質的に同一な発明とはいえない。」と主張している。

しかしながら,実施例5は,テストバイアルとはいえ,実施例5中の段落【0017】にも「表1から明らかなように,アスパラギンをアスパラギン酸とアンモニアとに分解する酵素により系を処理すると,アクリルアミド形成は99.9%以上低減された。本実験により,アスパラギンの濃度,又はアスパラギンの反応性を低下させると,アクリルアミドの形成が低減されることが確認された」(摘示1c)と記載されているように,アスパラギンが効率的に低減されることを確認している。
アスパラギナーゼは,本願優先日前から周知の酵素であり,アスパラギナーゼによる反応は,他の酵素と同様,水の存在下で基質と酵素が接触することで生じるものであって,特段他の酵素と異なることはない。アスパラギンも可溶性のアミノ酸であることも周知であり,酵素を含む水溶液に原料を投入すれば液中に溶け出てくることも自明な事項である。また,原料に含まれる基質と酵素を充分接触させる手段は,原料を粉砕する等,本願優先日前から普通に行われていることである。
先願発明は,先願明細書の段落【0002】に「食品中にアクリルアミド単量体が存在することは好ましくないため,熱処理食品中のアクリルアミド量を相当低減させるか,又はアクリルアミドを除去するための方法は有益であると思われる。」(摘示1b)と記載されているのであるから,できる限りアスパラギンを低減させるべく,アスパラギンとアスパラギナーゼとが良好に接触するような条件下で行うことは当然のことである。請求人が主張するように,実施例5がテストバイアルであるとしても,この結果から,先願発明のごとくトウモロコシに対して上記酵素反応における技術常識から導かれる良好な接触条件下で反応を行えば,相当量の低減が見込まれることは明白であって,上記「第5 1」で認定した先願発明が先願明細書に記載されているといえる。
したがって,請求人の上記主張は採用できない。

第6 むすび

以上のとおりであるから,本願発明は,先願の特許法第184条の4第1項の国際出願日における国際出願の明細書,請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であって,しかも,本願発明の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも,また,本願の出願時に,その出願人が上記先願の出願人と同一であるとも認められないので,本願発明は,特許法第184条の13の規定により読み替えて適用される特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。
したがって,本願は,他の請求項について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-12-17 
結審通知日 2012-12-18 
審決日 2013-01-08 
出願番号 特願2006-517248(P2006-517248)
審決分類 P 1 8・ 161- Z (A23L)
P 1 8・ 537- Z (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 佑一  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 小川 慶子
齊藤 真由美
発明の名称 トウモロコシをベースとする食品中のアクリルアミドを低減する方法、アクリルアミド濃度が低減されているトウモロコシをベースとする食品、及び商品  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  

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