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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C04B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C04B
管理番号 1274539
審判番号 不服2012-10060  
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-05-30 
確定日 2013-05-23 
事件の表示 特願2007-8095号「中庸熱セメント組成物及びその製造方法、並びに、セメント系固化材及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年7月31日出願公開、特開2008-174410号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成19年1月17日の出願であって、平成23年5月12日付けの拒絶理由の通知に対して、同年6月22日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成24年2月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年5月30日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに同日付けで手続補正書が提出され、その後、特許法第164条第3項に基づく報告を引用した同年9月21日付けの審尋を通知し、同年10月29日付けで回答書が提出され、平成25年3月8日付けで上申書が提出されたものである。

2.平成24年5月30日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年5月30日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(2-1)補正事項
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1に係る補正を含み、補正前後の請求項1の記載は次のとおりである。
(補正前)
「【請求項1】
セレン含有量が1.6mg/kg以下、ボーグ式算定のC_(2)S量が30?55質量%であるセメントクリンカーと、石膏と、セメントキルンからのセレン含有排ガスから回収したセレンを含有し抽気ダストとを含み、かつ、中庸熱セメント組成物中のセレン含有量が1.5?5.5mg/kgである中庸熱セメント組成物。」

(補正後)
「【請求項1】
セレン含有量が1.6mg/kg以下のセメントクリンカーと、石膏と、を含み、ボーグ式算定のC_(2)S量が30?55質量%であるセメント組成物と、
セメントキルンからのセレン含有排ガスから回収したセレンを含有する抽気ダストと、
を含み、
前記抽気ダスト中のセレン含有量が50?5000mg/kg及び塩素含有量が2?31.82質量%であり、
前記抽気ダストを0.042?5.26質量%含み、かつセレン含有量が1.5?5.5mg/kgである中庸熱セメント組成物。」

(2-2)補正の適否
請求項1に係る補正事項は、
(i)請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「ボーグ式算定のC_(2)S量が30?55質量%であるセメントクリンカー」を、補正後の「ボーグ式算定のC_(2)S量が30?55質量%であるセメント組成物」とし、
(ii)同補正前の「抽気ダストとを含み」を、補正後の「抽気ダストと、を含み、抽気ダスト中のセレン含有量が50?5000mg/kg及び塩素含有量が2?31.82質量%であり」とし、
(iii)同補正前の「中庸熱セメント組成物中のセレン含有量が1.5?5.5mg/kgである中庸熱セメント組成物」を、補正後の「抽気ダストを0.042?5.26質量%含み、かつセレン含有量が1.5?5.5mg/kgである中庸熱セメント組成物」とするものである。

ここで、上記補正事項(i)は、願書の最初に添付した特許請求の範囲の「【請求項1】
セレン含有量が1.6mg/kg以下のセメントクリンカーと石膏とを含み、ボーグ式算定のC_(2)S量が30?55質量%であることを特徴とするセメント組成物。」との記載、願書の最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)の「【0030】
セメント組成物は中庸熱セメントが該当し、その鉱物組成は、ボーグ式算定のC_(3)S量が30?50質量%、好ましくは31?48質量%、更に好ましくは32?40質量%、である。C_(2)S量は30?55質量%、好ましくは32?51質量%、更に好ましくは32?47質量%、C_(3)A量は、1?8質量%、好ましくは2?6質量%、C_(4)AF量は7?15質量%、好ましくは8?14質量%である。ここでボーグ式算定のC_(3)S量、C_(2)S量、C_(3)A量およびC_(4)AF量は、下記の式(1)、(2)、(3)、(4)によって算出する値である。
C_(3)S量(質量%)=4.07×CaO(質量%)-7.60×SiO2(質量%)-6.72×Al_(2)O_(3)(質量%)-1.43×Fe_(2)O_(3)(質量%)-2.85×SO_(3)(質量%) (1)
C_(2)S量(質量%)=2.87×SiO_(2)(質量%)-0.754×C_(3)S(質量%) (2)
C_(3)A量(質量%)=2.65×Al_(2)O_(3)(質量%)-1.69×Fe_(2)O_(3)(質量%) (3)
C_(4)AF量=3.04×Fe_(2)O_(3)(質量%) (4)」等の記載からして、補正前の「ボーグ式算定のC_(2)S量が30?55質量%であるセメントクリンカー」の「セメントクリンカー」が明らかな誤記であって、これを補正後の「セメント組成物」に、つまり「ボーグ式算定のC_(2)S量が30?55質量%であるセメント組成物」に正すものであることから、平成18年法律第55条改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第3号の誤記の訂正を目的にするものである。
次に、上記補正事項(ii)は、「抽気ダクト」について、「抽気ダスト中のセレン含有量が50?5000mg/kg及び塩素含有量が2?31.82質量%であり」という限定事項を付加するものであり、上記補正事項(iii)は、「中庸熱セメント組成物」について、「抽気ダストを0.042?5.26質量%含み」という限定事項を付加するものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、補正事項(ii)及び(iii)は、平成18年法律第55条改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的にするものである。
そして、当初明細書には、「【0027】
また、キルン運転の安定性、熱収支や経済性等を総合した適正な抽気ダスト中のセレン含有量は、質量基準で50?5000mg/kgの範囲が好ましい。セレンの溶出特性の点からは、200?2000mg/kgの範囲がより好ましい。」、
「【0026】
抽気ダストの化学成分は、原料の化学成分、セメントクリンカー製造プラント、抽気ガス設置の位置、抽気方法等により異なるが、Na_(2)Oが0.1?5質量%、好ましくは1?3質量%、K_(2)Oが2?60質量%、好ましくは30?50質量%、Clが2?50質量%、好ましくは30?40質量%である。」、
「【0051】
【表4】

」及び
「【0056】
【表5】


との記載及び表示があり、これらからして、請求項1に係る補正は、当初明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであるので、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定を満足するものである。

(2-3)独立特許要件について
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2-3-1)引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用した特開2006-36571号公報(以下、「引用例」という。)には、以下の記載及び表示がある。
(a)「【0009】
すなわち、本発明に係るセメント組成物は、セメントクリンカーと石膏と塩素バイパスダストとを含むセメント組成物であって、ボーグ式算定でC_(2)S量が30質量%以上であり、塩素量が0.005質量%?0.10質量%であることを特徴とする。」

(b)「【0014】
以下、本発明に係るセメント組成物の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0015】
セメント組成物は、セメントクリンカーと石膏と塩素バイパスダストとを含む。このセメント組成物は、セメントキルン内の排ガスの一部を抽気する塩素バイパス装置を備えたセメント製造プラントを用いて製造される。塩素バイパスダストは、KCl等の塩化物やセメント原料の仮焼物、それらの硫酸塩等から成る固形物である。セメント組成物に用いる塩素バイパスダストは、水洗処理される前の固形物であっても良く、水洗処理されて塩素濃度が低減されたスラッジ等であっても良い。」

(c)「【0018】
セメント組成物に用いるセメントクリンカーとしては、C_(2)S量を30質量%以上含有するもの、例えば、中庸熱ポルトランドセメントクリンカー、低熱ポルトランドセメントクリンカー等が挙げられる。また、早強セメントクリンカー或いは普通ポルトランドセメントクリンカーに、中庸熱ポルトランドセメントクリンカーや低熱ポルトランドセメントクリンカー等のC2Sを多く含有するクリンカーを混合して、C_(2)S量を30%以上に調整したものでも良い。」

(d)「【0032】
【表2】



(e)「【0035】
【表4】



(f)「【0036】
【表5】



(g)「【0038】
【表6】



上記(a)ないし(g)の記載事項及び表示内容より、引用例(資料No.18、19)には
「セメントクリンカーの種別(3)と、石膏と、を含み、ボーグ式算定のC_(2)S量が43質量%である中庸熱ポルトランドセメント組成物と、
セメントキルンからの排ガスから回収した塩素バイパスダストの種別bと、を含み、
塩素バイパスダストの種別b中の塩素含有量が3.44質量%であり、
塩素バイパスダストの種別bを1質量%または2質量%含む、中庸熱ポルトランドセメント組成物」の発明(以下、「引用例記載の発明」という。)が記載されているものと認める。

(2-3-2)対比・判断
本願補正発明と引用例(資料No.18、19)記載の発明を対比する。
○引用例記載の発明の「セメントクリンカーの種別(3)」、「塩素バイパスダストの種別b」は、本願補正発明の「セメントクリンカー」、「抽気ダスト」にそれぞれ相当する。

○本願の当初明細書の「【0007】
本発明は、原燃料の種類あるいは原燃料原単位を制限することなく、セレン含有量を低減したセメントクリンカー、及びセレン含有量に対する溶出量比が小さく、結果としてセレン溶出量を抑制することができるポルトランドセメント組成物及びセメント系固化材を提供することを目的とする。」との記載からして、本願補正発明の「中庸熱セメント組成物」は、「中庸熱ポルトランドセメント組成物」であるということができるので、引用例記載の発明の「中庸熱ポルトランドセメント組成物」は、本願補正発明の「中庸熱セメント組成物(中庸熱ポルトランドセメント組成物)」及び「セメント組成物」に相当する。

○引用例記載の発明の「C_(2)S量が43質量%」、「塩素含有量が3.44質量%」及び「塩素バイパスダストの種別b(抽気ダスト)を1質量%または2質量%」と、本願補正発明の「C_(2)S量が30?55質量%」、「塩素含有量が2?31.82質量%」及び「抽気ダストを0.042?5.26質量%」とは、「C_(2)S量が43質量%」、「塩素含有量が3.44質量%」及び「抽気ダストを1質量%または2質量%」という点で重複する。

上記より、本願補正発明と引用例(資料No.18、19)記載の発明は「セメントクリンカーと、石膏と、を含み、ボーグ式算定のC_(2)S量が43質量%であるセメント組成物と、
セメントキルンからの排ガスから回収した抽気ダストと、
を含み、
前記抽気ダスト中の塩素含有量が3.44質量%であり、
前記抽気ダストを1質量%または2質量%含む、中庸熱セメント組成物。」という点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点1>
本願補正発明では、「セレン含有量が1.6mg/kg以下の」セメントクリンカーであるのに対して、引用例記載の発明では、セメントクリンカーであるものの、上記「」内の事項の特定がなされていない点。

<相違点2>
本願補正発明では、セメントキルンからの「セレン含有」排ガスから回収した「セレンを含有する」抽気ダストであるのに対して、引用例記載の発明では、セメントキルンからの排ガスから回収した塩素バイパスダストb(抽気ダスト)であるものの、上記「」内の事項の特定がなされていない点。

<相違点3>
本願補正発明では、「セレン含有量が1.5?5.5mg/kgである」中庸熱セメント組成物であるのに対して、引用例記載の発明では、中庸熱ポルトランドセメント組成物(中庸熱セメント組成物)であるものの、上記「」内の事項の特定がなされていない点。

上記各相違点について、これらを併せて検討する。
(イ)上記で示したように、引用例(資料No.18、19)記載の発明と本願補正発明は、「セメントクリンカーと、石膏と、抽気ダストとを含む中庸熱セメント組成物」、「ボーグ式算定のC_(2)S量が43質量%である中庸熱セメント組成物」、「抽気ダスト中の塩素含有量が3.44質量%」及び「抽気ダストを1質量%または2質量%含む中庸熱セメント組成物」という点で一致している。

(ロ)一般に、中庸熱ポルトランドセメント組成物の製造に使用する各種原燃料(天然産品等)に重金属(鉛、亜鉛、クロム、セレン等)が含まれ、この各種原燃料に直接的または間接的に関係するセメントクリンカー、排ガス及び塩素バイパスダストにもセレンが含まれることは、先行技術文献を示すまでもなく、当業者における技術常識であるということができるので、引用例(資料No.18、19)記載の発明においても、セメントクリンカー、排ガス、塩素バイパスダストの種別b(抽気ダスト)及び中庸熱ポルトランドセメント組成物(中庸熱セメント組成物)のそれぞれには、本願補正発明と同じく、セレンが含まれているというべきである。

(ハ)一般に、セメントキルン(焼成炉)内においてセレンが揮発することは、本願出願前周知の事項(例えば、特開2006-45006号公報の特に【0002】、特開2002-284550号公報の特に【0002】【0003】参照)である。
また、引用例の「【0004】
この塩素バイパス装置によって抽気されたガス成分は、集塵機を経て再びセメント原料系内に戻されたり大気中に放出されたりするが、窯尻で1000℃以上の熱履歴を経たKCl等の塩化物やセメント原料の仮焼物とそれらの硫酸塩等から成る固形物が発生する。この固形物のことを塩素バイパスダストといい、水洗処理することにより塩素濃度を低減してスラッジ等にする場合もある。」との記載からして、引用例に示されている一般的な「熱履歴温度(焼成温度)」は、1000℃以上である、更にいうと、引用例(資料No.18、19)記載の発明の「焼成温度」は、1000℃以上であり、
一方、本願の当初明細書の「【0037】
上記現象の理由は明らかでないが、以下の機構によるものと推察される。すなわち、1200℃近くで焼成されたクリンカーは、水と接触した際に、クリンカー鉱物中のC_(3)S、C_(2)S、C_(3)A、C_(4)AFが速やかに水和反応を開始するため、クリンカー中に含有するセレン等もこの水和反応と共に液相中に溶出するのに対し、800℃程度しか加熱されてない抽気ダストは仮焼原料であり、クリンカー鉱物がほとんど生成してないため水和反応も進まず、そのため抽気ダスト中のセレンも液相中に溶出し難いと考えられる。」との記載からして、本願補正発明の「焼成温度」は1200℃程度である。
上記より、引用例(資料No.18、19)記載の発明の「焼成温度」と本願補正発明の「焼成温度」は、重複している、更にいうと、両者の「セメントキルン(焼成炉)内におけるセレンの揮発」は、重複している焼成温度からみると同等であるということができる。

(ニ)一般に、塩素バイパスダスト中に3桁レベル(mg/kg)のセレンが含まれる場合があることは、本願出願前周知の事項(例えば、拒絶査定および前置報告において引用した下記の参考文献A、前置報告において引用した下記の参考文献C参照)であることから、引用例記載の発明(資料No.18、19)においても、塩素バイパスダスト(抽気ダスト)中に3桁レベル(mg/kg)(本願補正発明の50?5000mg/kgの範囲内)のセレンが含まれている場合があるということができる。

・参考文献A
上野直樹、塩素バイパスシステムによるセメントキルンの安定運転と廃棄物の有効活用、セメント・コンクリート、社団法人セメント協会、1999年12月10日、第634号、第28-35頁
・参考文献C
特開2005-314178号公報(【0022】【表1】)

(ホ)引用例の上記2.(2-3-1)の(g)の表示内容からして、引用例(資料No.18、19)記載の発明の「中庸熱ポルトランドセメント組成物(中庸熱セメント組成物)のブレーン比表面積」は、3750cm^(2)/gであり、
一方、本願の当初明細書の「【0031】
セメント組成物の粉末度は、ブレーン比表面積で、2700?5000cm^(2)/g、好ましくは3000?4300cm^(2)/gである。」との記載からして、本願補正発明の「セメント組成物(中庸熱セメント組成物)の粉末度(ブレーン比表面積)」は、好ましくは3000?4300cm^(2)/gである。
上記より、引用例(資料No.18、19)記載の発明の「中庸熱セメント組成物のブレーン比表面積」と本願補正発明の「中庸熱セメント組成物のブレーン比表面積」は、3750cm^(2)/gという点で一致している。

(ヘ)引用例の上記2.(2-3-1)の(g)の表示内容からして、資料No.18では、クリンカーが95質量%、石膏が5質量%、セメント(クリンカー+石膏)が99質量%、塩素バイパスダストの種別bが1質量%であり、資料No.19では、クリンカーが95質量%、石膏が5質量%、セメントが98質量%、塩素バイパスダストの種別bが2質量%であり、これからして、資料No.18、19について、石膏/セメント組成物(クリンカー+石膏+塩素バイパスダストの種別b)を算出すると、資料No.18では、4.95質量%に、No.19では、4.9質量%になり、この石膏を仮に半水石膏としたとき、これをSO_(3)の質量%に換算すると、No.18では、4.95×SO_(3)の分子量(80.06)/半水石膏の分子量(145.15)=2.73質量%に、資料No.19では、4.9×SO_(3)の分子量(80.06)/半水石膏の分子量(145.15)=2.7質量%になることから、引用例(資料No.18、19)記載の発明の「中庸熱ポルトランドセメント組成物中(中庸熱セメント組成物)の石膏量(SO_(3)換算量)」は、2.73質量%または2.7質量%であり、
一方、本願の当初明細書の「【0042】
セメントクリンカーは、実機製造プラントで、抽気の有無や抽気率等を変えることによって実験的に得られたセレン含有量の異なる計5種のクリンカー(K1?K5)を試料とした。ここで、工場における排ガスの抽気位置は、入口フッド部であり、抽気温度は、1150?1200℃であった。抽気率を表1に示す。これらのクリンカーに、二水石膏及び半水石膏を質量比で2:8の割合で混合した石膏を、セメント中のSO_(3)基準で2.3%になるように内割で添加し、試験ボールミルでブレーン比表面積3850±50cm^(2)/gになるように粉砕しセメント組成物とした。試製したセメント組成物は、その粉体からのセレンの溶出量を環境庁告示第13号方法(昭和48年2月17日)に準拠し、測定した。結果を表1に示す。」との記載からして、本願補正発明の「セメント組成物(中庸熱セメント組成物)中の石膏量(SO_(3)換算量)」は、一例として2.3質量%である。
上記より、引用例(資料No.18、19)記載の発明の「中庸熱セメント組成物中の石膏量(SO_(3)換算量)」と本願補正発明の「中庸熱セメント組成物中の石膏量(SO_(3)換算量)」は、近似している。

上記(イ)ないし(へ)からして、引用例(資料No.18、19)記載の発明の「中庸熱ポルトランドセメント組成物(中庸熱セメント組成物)」と本願補正発明の「中庸熱セメント組成物」は、同等である場合がある、つまり、セメントクリンカー、抽気ダスト及び中庸熱ポルトランドセメント組成物それぞれに含まれるセレンの量、更に、該組成物からのセレン溶出量についても同等である場合があるというべきである。
したがって、相違点1ないし3は、実質的な相違ではない。

次に、請求人は、平成25年3月8日付け上申書において、
「塩化物イオン量の規格値は、各種ポルトランドセメントのうち、普通ポルトランドセメントのみ緩和されて中庸熱ポルトランドセメントについては緩和されておらず(厳しい規格値のままであり)、また、中庸熱ポルトランドセメントは、普通ポルトランドセメントと比較して生産量が限られていて特殊なものであることから、わざわざ塩素を多く含有する廃棄物(原料)を使用することはないので、引用例(特開2006-36571号公報)の実施例における中庸熱セメントクリンカーは、塩素バイパス設備を稼働して製造したものでない旨」の主張をしているので、これについて検討する。
ここで、一般に、引用例(特願2004-217515号、特開2006-36571号公報)の出願前において、中庸熱セメントクリンカーを製造することについて、さまざまな事情により原料が調整・修正され、また、この調整・修正によっては(塩化物イオン量の規格値が厳しいが故に)塩素バイパス設備を稼働させる(塩素を除く)必要が生じる(例えば、特開2003-24994号公報の特に以下で示す【0017】【0020】【0028】参照)ことは、当業者であれば普通に知られた事項であるというべきであり、そうである以上、引用例記載の発明において、中庸熱セメントクリンカーを製造するときに、塩素バイパス設備を稼働させる可能性を否定することはできない、つまり、塩素バイパス設備を稼働させていないと断ずることはできない。
上記より、請求人の上記主張を採用することはできない。

上記で示した特開2003-24994号公報の【0017】【0020】【0028】の記載は、以下のとおりである。
「【0017】また、該セメントクリンカー製造設備の仮焼炉5やロータリーキルン7の窯尻6などの高温部に供給することにより、含水汚泥は、臭気が外部に漏れることなく、乾燥、燃焼されるため、従来、含水汚泥の乾燥時に津費用とされた大掛かりな脱臭設備を設ける必要がないというメリットを有する。」
「【0020】上記塩化物系の酸化剤を使用する場合、セメントクリンカー製造設備内で塩素量が増大して得られるセメントクリンカーの塩素量に影響を与えることが懸念されるが、このような場合は、該設備内の塩素化合物の濃度が高いガス組成を有する領域、例えば、仮焼炉下部からガスの一部を抽気する、いわゆる塩素バイパス法により塩素量の低減を図ることが好ましい。」
「【0028】本発明において、セメントクリンカー製造設備は、含水汚泥をセメントクリンカーの原料として使用できる設備であれば特に限定されない。具体的には、普通ポルトランドセメントクリンカー、中庸熱ポルトランドセメントクリンカー、低熱ポルトランドセメントクリンカーなどのポルトランドセメントクリンカーの製造設備が挙げられる。」

よって、本願補正発明は、引用例(資料No.18、19)に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものである。

(2-3-3)まとめ
上記からして、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(3-1)本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成23年6月22日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、上記2.(2-1)の(補正前)で示したとおりのものである。

(3-2)引用例の記載事項
原査定の拒絶理由において引用した引用例の記載事項は、上記2.(2-3-1)で示したとおりである。

(3-3)対比・判断
上記2.(2-2)で示したように、本件補正における請求項1の補正事項は、誤記の訂正及び特許請求の範囲の減縮を目的にするものであることから、本願発明は、本願補正発明を包含している。
そうすると、本願補正発明が、上記2.(2-3-2)で示したように、引用例(資料No.18、19)に記載された発明であるので、本願補正発明を包含する本願発明も同じく、引用例(資料No.18、19)に記載された発明であるということができ、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものである。

次に、請求人は、回答書において、特許請求の範囲の補正案を提示しているので、これについて検討する。
補正案は、特許請求の範囲の請求項8のみを補正するものであって、これ以外の請求項については補正するものではない。
補正案における特許請求の範囲の請求項8に係る発明(以下、「本願補正(案)発明」という。)は、補正案の特許請求の範囲の請求項8に記載された事項により特定される、以下で示すとおりのものである。
「【請求項8】
請求項1?7いずれか一項記載の中庸熱セメント組成物を含む、セメント系固化材。」

本願補正(案)発明の一つとして、本願補正発明に該当する「請求項1記載の(セレンを含有する)中庸熱セメント組成物」を「セメント系固化材」に「含ませる」ことを発明特定事項にする発明があるということができる。
ここで、上記2.(2-3-2)で示したように、本願補正発明(中庸熱セメント組成物)は、引用例(資料No.18、19)に記載された発明であり、1.5?5.5mg/kgのセレンを含有するものである。
そして、セレンの土壌含有量の環境基準が150mg/kg以下であること、及び、通常の中庸熱セメント組成物をセメント系固化材(土壌固化材)に利用する(含ませる)ことは、先行技術文献を示すまでもなく、本願出願前周知の事項である。
そうすると、引用例(資料No.18、19)に記載された発明であると共に、環境基準の150mg/kg以下にあたる1.5?5.5mg/kgのセレンを含有している本願補正発明の「中庸熱セメント組成物」を「セメント系固化材(土壌固化材)」に「含ませる」ようにすることは、当業者であれば容易に想起し得ることである。
したがって、本願補正(案)発明は、引用例(資料No.18、19)記載の発明及び本願出願前周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、請求人提示の上記補正案を採用することはできない。

(3-4)むすび
したがって、本願発明は、引用例に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものである。
それゆえ、本願は、特許請求の範囲の請求項2ないし13に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-19 
結審通知日 2013-03-26 
審決日 2013-04-09 
出願番号 特願2007-8095(P2007-8095)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C04B)
P 1 8・ 113- Z (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 永田 史泰  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 真々田 忠博
國方 恭子
発明の名称 中庸熱セメント組成物及びその製造方法、並びに、セメント系固化材及びその製造方法  
代理人 池田 正人  
代理人 城戸 博兒  
代理人 黒木 義樹  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 石坂 泰紀  

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