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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B21D
審判 全部無効 2項進歩性  B21D
管理番号 1274621
審判番号 無効2011-800168  
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-07-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-09-13 
確定日 2013-06-14 
事件の表示 上記当事者間の特許第4551587号発明「板金用引出装置とそれに使用する引出補助具」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続きの経緯
本件無効審判事件に関する手続の経緯は、以下のとおりである。

平成13年 6月14日 本件特許出願(特願2001-180733号)
(特許法第41条に基づく優先権主張、出願番号
:特願2000-331518号、優先日平成1
2年10月30日)
平成22年 4月 6日 拒絶理由通知
平成22年 6月11日 意見書及び手続補正書の提出
平成22年 6月24日 特許査定
平成22年 7月16日 特許登録(特許第4551587号)
平成23年 9月13日 本件無効審判請求(無効2011-800168
号)
平成23年12月 2日 答弁書の提出
平成24年 2月 7日 口頭審理陳述要領書の提出(請求人及び被請求人
)
平成24年 2月21日 物件提出書の提出(被請求人)
平成24年 2月21日 第1回口頭審理
平成24年 2月27日 上申書の提出(請求人)

第2.本件発明について

本件発明は、平成22年6月11日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載のとおりのものと認められるところ、請求人が無効審判請求書で用いた構成要件の分説分けをあわせて示せば、同記載は以下のとおりである。

「【請求項1】
A. 板金面を引き出すための板金用引出装置であって、
B. シャフト(24,81)またはロッドを備えている引出具(2,8
)と、
C. 該引出具(2,8)に着脱自在に取り付けできる引出補助具(3)

D. の組み合わせを含み、
E. 前記引出補助具(3)は、
E-1 グリップ(30)と、
E-2 中空部(310)と、
E-3 該中空部(310)に通じている後部側の貫通孔(314)を有する
補助具本体(31)と、
E-4 前記後部側の貫通孔(314)に挿入され前記補助具本体(31)に
対して進退自在に設けられており、嵌め入れられる前記引出具(2
,8)のシャフト(24,81)またはロッドを着脱自在に保持す
る装着部(35)と、
E-5 前記中空部(310)の中で回動自在に軸支されており、前記引出
具(2,8)のシャフト(24,81)またはロッドが通り抜け、
かつ前記中空部(310)の中で前記装着部(35)と当接し前記
装着部(35)の進退方向と同じ方向に動かす操作レバー(32)
と、
E-6 前記装着部(35)を進行させる方向に付勢する手段(36)と、
E-7 前記補助具本体(31)の前部側に設けられている脚部(34)と

を備え、
F. 前記装着部(35)は、
F-1 筒状の装着部本体(352)と、
F-2 前記補助具本体(31)の後部側に露出しており前記装着部本体(
352)に螺合して装着部(35)全体の長さを調整する筒状の調
整部(354)を有し、
G. 前記引出補助具(3)は、前記引出具のシャフト(24,81)ま
たはロッドを前記装着部(35)に嵌め入れて通すことにより前記
引出具(2,8)に装着される、
H. 板金用引出装置。
【請求項2】
I. 板金面を引き出す2種類以上の引出具(2)を有し、
J. 該2種類以上の引出具(2)はシャフト(24,81)またはロッ
ドの先端部に設けられた取着部の少なくとも機能または構造を異に
し、引出補助具(3)に対して選択的に組み合わされる、
K. 請求項1に記載の板金用引出装置。
【請求項3】
L. 2種類以上の引出具は、溶接チップを備えたものと引掛部を備えた
ものを含んでいる、
M. 請求項2記載の板金用引出装置。
【請求項4】
N. シャフト(24,81)またはロッドを備え、板金面を引き出すた
めの引出具(2,8)と協働して板金面を引き出す引出補助具(3
)であって、
P. グリップ(30)と、中空部(310)と、該中空部(310)に
通じている後部側の貫通孔(314)を有する補助具本体(31)
と、
Q. 前記後部側の貫通孔(314)に挿入され前記補助具本体(31)
に対して進退自在に設けられており、嵌め入れられる前記引出具(
2,8)のシャフト(24,81)またはロッドを着脱自在に保持
する装着部(35)と、
R. 前記中空部(310)の中で回動自在に軸支されており、前記引出
具(2,8)のシャフト(24,81)またはロッドが通り抜け、
かつ前記中空部(310)の中で前記装着部と(35)当接し前記
装着部(35)の進退方向と同じ方向に動かす操作レバー(32)
と、
S. 前記装着部(35)を進行させる方向に付勢する手段と、
T. 前記補助具本体(31)の前部側に設けられている脚部(34)と

を備え、
U. 前記装着部(35)は、
U-1 筒状の装着部本体(352)と、
U-2 前記補助具本体(31)の後部側に露出しており前記装着部本体(
352)に螺合して装着部(35)全体の長さを調整する筒状の調
整部(354)を有し、
V. 前記引出具のシャフト(24,81)またはロッドを前記装着部(
35)に嵌め入れて通すことにより前記引出具(2,8)に装着さ
れる、
W. 引出補助具。」(以下、特許請求の範囲の請求項1ないし請求項4
に係る発明を「本件発明1」ないし「本件発明4」という。)

第3.請求の趣旨及び理由

(1)請求人は、証拠として甲第1号証ないし甲第10号証を提出し、特許第4551587号の請求項1ないし請求項4に係る特許は、これを無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めた。

(2)請求人の主張する無効理由は、以下の無効理由1及び無効理由2である。

(2-1)無効理由1.特許法第29条第2項違反(特許法第123条第1項第2号)

ア.本件発明1について

本件発明1と甲第1号証に記載された発明とは、
「シャフトを備えている引出具と、引出具に着脱可能に取り付け得る引出補助具との組み合わせを含み、引出補助具は、グリップと、中空部と、中空部に通じている貫通孔を有する補助具本体と、挿通される引出具のシャフトを保持する装着部と、回動自在に軸支され、引出具のシャフトが挿通され装着部の移動方向と同じ方向に可動する操作レバーと、装着部を付勢する手段と、補助具本体の前部側に設けられている脚部とを備え、装着部は、装着部本体を含み、シャフトの位置の調整を装着部に形成したねじ部における螺合の加減によって行い、引出補助具は、引出具のシャフトを装着部に挿通するこにより引出具に装着される板金用引出具」(一致点)
である点で共通し、
「装着部が、筒状の装着部本体と、補助具本体の後部側に露出しており装着部本体に螺合して装着部全体の長さを調節する筒状の調整部を有しているか」(相違点1)
「装着部は、補助具本体に対して進退自在に設けられているか」(相違点2)
「装着部は、嵌め入れられる引出具のシャフトを着脱自在に保持するか」(相違点3)
で相違している。(陳述要領書第2頁第16行?第3頁第3行)

甲第2号証には少なくとも、「可動ハンドルは把持部と歯部を有し、歯部は第1の歯部と第2の歯部からなり、第1の歯部と第2の歯部のそれぞれの上面とはカム形に湾曲して形成されていること」「枢支ピンが枢支部材に形成された開口部に設けられ、枢支ピンは可動ハンドルがフレームに対して回転する際の軸の役割を果たすこと」「可動ハンドルは枢支部材に枢支され、可動ハンドルは静止ハンドルに向かって旋回して可動ハンドルの引き込み位置にくること」「貫通する開口を持つ従動部材がスライドロッド上に設けられ、止めナットとフレーム部材との間に配置されていること」「従動部材は、従動部材の下端が可動ハンドルの第1の歯部と第2の歯部との間にくるように互いに反対側に第1の平坦面と第2の平坦面を有しており、従動部材はスライドロットの回転からは干渉されないように形成されていること」「従動部材は、第1の揚力面と、第2の揚力面を有し、第1の揚力面は第1の歯部の上面と当接係合し、第2の揚力面は第2の歯部の上面と当接係合すること」「第1の揚力面と第2の揚力面は湾曲したカム面を形成し、ハンドルが引き込み位置まで旋回し、ハンドルがバネの作用によって延長位置まで旋回すると、可動ハンドルの湾曲した上面と当接係合して保持されること」が開示されている。(審判請求書第29頁第19?34行)

甲第3号証には、「引出補助具に着脱自在に取り付けできる引出具を備えていること」「施工箇所に適合した引出具を引出補助具と選択的に組み合わせられること」が開示されている。(審判請求書第30頁第2?4行)

甲第2号証の発明と甲第3号証の発明および甲第1号証の発明の解決課題はともに金属面の凹部を矯正する板金用引出具を提供することにあって同じくし、甲第2号証と甲第3号証に記載された上記の点を甲第1号証に記載されたものに用いることは当業者であれば容易に推考しうるものである。(審判請求書第30頁第13?16行)

イ.本件発明2、3について

甲第1号証,甲第4号証には、溶接チップを備えた引出具が開示され、甲第5号証には、「板金用プーラ工具がプーラ用シャフトとしてプルアップフックあるいはウェルトアップヘッドを選択できること」が開示されているところ、甲第3号証には、「引出補助具に着脱自在に取り付けできる引出具」「引出具は、先端部に形成される取着部の機能または構造を異にする金属ピンまたは治具フックを備え、金属ピンまたは治具フックは引出補助具に対して選択的に組み合わすことがきること」「施工箇所に適合した引出具を引出補助具と選択的に組み合わせられること」が開示乃至示唆されている。
本件発明2、3は、甲第4号証、甲第5号証に記載の周知技術を勘案するならば、甲第1号証乃至甲第5号証から当業者であれば容易に推考しうるものである。(審判請求書第30頁第18?28行)

ウ.本件発明4について

本件発明4と甲第1号証に記載された発明とは、
「シャフトを備え、板金面を引き出すための引出具と協働して板金面を引き出す引出補助具であって、引出補助具が、グリップと、中空部と、中空部に通じている貫通孔を有する補助具本体と、挿通される引出具のシャフトを保持する装着部と、回動自在に軸支され、引出具のシャフトが挿通され装着部の移動方向と同じ方向に可動する操作レバーと、装着部を付勢する手段と、補助具本体の前部側に設けられている脚部とを備え、装着部は装着部本体を含み、シャフトの位置の調整を装着部に形成したねじ部における螺合の加減によって行い、引出補助具は、引出具のシャフトを装着部に挿通するこにより引出具に装着される引出補助具」(一致点)
である点で共通し、
「装着部が、筒状の装着部本体と、補助具本体の後部側に露出しており装着部本体に螺合して装着部全体の長さを調節する筒状の調整部を有しているか」(相違点4)
「装着部は、補助具本体に対して進退自在に設けられているか」(相違点5)
「装着部は、嵌め入れられる引出具のシャフトを着脱自在に保持するか」(相違点6)
で相違している。(審判請求書第30頁第31行?第31頁第10行)

甲第2号証には少なくとも、「可動ハンドルは把持部と歯部を有し、歯部は第1の歯部と第2の歯部からなり、第1の歯部と第2の歯部のそれぞれの上面とはカム形に湾曲して形成されていること」「枢支ピンが枢支部材に形成された開口部に設けられ、枢支ピンは可動ハンドルがフレームに対して回転する際の軸の役割を果たすこと」「可動ハンドルは枢支部材に枢支され、可動ハンドルは静止ハンドルに向かって旋回して可動ハンドルの引き込み位置にくること」「貫通する開口を持つ従動部材がスライドロッド上に設けられ、止めナットとフレーム部材との間に配置されていること」「従動部材は、従動部材の下端が可動ハンドルの第1の歯部と第2の歯部との間にくるように互いに反対側に第1の平坦面と第2の平坦面を有しており、従動部材はスライドロッドの回転からは干渉されないように形成されていること」「従動部材は、第1の揚力面と、第2の揚力面を有し、第1の揚力面は第1の歯部の上面と当接係合し、第2の揚力面は第2の歯部の上面と当接係合すること」「第1の揚力面と第2の揚力面は湾曲したカム面を形成し、ハンドルが引き込み位置まで旋回し、ハンドルがバネの作用によって延長位置まで旋回すると、可動ハンドルの湾曲した上面と当接係合して保持されること」が開示されている。(審判請求書第31頁第23行?第32頁第4行)

甲第3号証には、「引出補助具に着脱自在に取り付けできる引出具を備えていること」「施工箇所に適合した引出具を引出補助具と選択的に組み合わせられること」が開示されているところ、甲1の板金用引出具にあっては、図5に示されるように、そもそも板金用引出し具は構成部品を分解(分離)でき、シャフト12の先端部12Bは前記ビット15の基端部に設けたねじ穴に螺着し、シャフト12の略中央部から基端部にかけてねじ部13が刻設され、このねじ部が第2の操作手段20の支持部50に螺合し、第1の操作手段10は第2の操作手段20に回動自在に支持されるように形成され、第2の操作手段(20)は第1の操作手段(10)に着脱可能に取り付け得る構成をとっている。(審判請求書第32頁第18?26行)

甲第2号証の発明と甲第3号証の発明および甲第1号証の発明の解決課題はともに金属面の凹部を矯正する板金用引出具を提供することにあって同じくし、甲第2号証と甲第3号証に記載された上記の点を甲第1号証に記載されたものに用いることは当業者であれば容易に推考しうるものである。(審判請求書第32頁第27?30行)

(2-2)無効理由2.特許法第36条第6項第2号違反(特許法第123条第1項第4号)

本件発明1において、引出具と引出補助具は着脱自在にあるとされ、引出具と引出補助具により板金面の凹部の引き出し行い補修を行うためには、シャフト装着部(35)がシャフト(24)の基端部に形成されたフランジ部(242)に衝接し引出具と引出補助具が協動する構成をとることが必須の要件と解されるところ、本件発明1よれば「・・・シャフト・・・を着脱自在に保持する装着部と、・・・装着部は、・・・装着部本体と、・・・調整部・・・を有し、・・・シャフト・・・を・・・装着部に嵌め入れて通す・・・」ことが要件とはされているが、引出具を引出補助具に装着し引出具に凹部の引き出しに要する力を伝え補修を行うことを可能とする「(シャフト)装着部はシャフトの基端部に形成されたフランジ部に衝接可能に形成されていること」の構成が本件発明1の記載からは認められない。本件発明1の記載には「(シャフト)装着部がシャフトの基端部に形成されたフランジ部に衝接しない」構成をも含むと解され、本件発明1?3に記載の発明には発明の詳細な説明に記載していない発明を含むとともに発明の明確性を欠くから特許法第36条第6項第2号の規定により特許を受けることができないものである。(審判請求書第33頁第5?18行)

なお、請求人は、上記「衝接」という用語を撤回し、口頭審理陳述要領書においては以下のように主張している。

本件発明1において、引出具と引出補助具は着脱自在にあるとされ、引出具と引出補助具により板金面の凹部の引き出し行い補修を行うためには、シャフト装着部35がシャフト24の基端部に形成されたフランジ部242に当たり引出具と引出補助具が協動する構成をとることが必須の要件と解されるところ、本件発明1よれば「・・・シャフト・・・を着脱自在に保持する装着部と、・・・装着部は、・・・装着部本体と、・・・調整部・・・を有し、・・・シャフト・・・を・・・装着部に嵌め入れて通す・・・」ことが要件とはされているが引出具を引出補助具に装着し引出具に凹部の引き出しに要する力を伝え補修を行うことを可能とする「(シャフト)装着部はシャフトの基端部に形成されたフランジ部に当たることが可能に形成されていること」の構成が本件発明1の記載からは認められない。本件発明1の記載には「(シャフト)装着部がシャフトの基端部に形成されたフランジ部に当たらない」構成をも含むと解され、本件発明1?3に記載の発明には発明の詳細な説明に記載していない発明を含むとともに発明の明確性を欠くことになるから、特許法第36条第6項第2号の規定により特許を受けることができないものである。(口頭審理陳述要領書第12頁第24行?第13頁第4行)

(3)証拠

請求人の提出した甲第1号証ないし甲第10号証は、以下のとおりである。

甲第1号証 特許第2876402号公報
甲第2号証 米国特許第4050271号明細書
甲第3号証 特開平9-206833号公報
甲第4号証 特開平4-367318号公報
甲第5号証 特開平9-314231号公報
甲第6号証 株式会社岩波書店発行に係る「広辞苑」(第5版)第556
頁の写し
甲第7号証 日刊工業新聞社発行に係る「特許技術用語集?第2版?」第
68頁の写し
甲第8号証 実願平5-34453号(実開平6-86813号)のCD
-ROM
甲第9号証 意匠登録第921787号公報
甲第10号証 意匠登録第921788号公報

なお、請求人は、甲第7ないし10号証を平成24年2月7日付けの口頭審理陳述要領書に添付して提出した。
また、同口頭審理陳述要領書に、本件発明と、甲第1号証記載の発明を対比させるための図面を、資料1ないし資料6として添付した。

第4.被請求人の主張

(1)被請求人は、証拠として乙第1号証、および乙第2号証を提出し、概略、以下のとおり主張している。

請求項1ないし請求項4に係る発明は、甲各号証の記載に基づいて容易に発明できたものではなく、また、各請求項の記載は明確であるから、請求人の主張する記載不備はない。

(2)証拠

被請求人は、平成23年2月21日付け物件提出書とともに、以下の乙第1号証及び乙第2号証を提出した。

乙第1号証 弁理士会研修所編、「基本テキスト 特許・実用新案の中間手続の実務」、第37頁、弁理士会、平成元年12月26日発行の写し

乙第2号証 石川重三著、「特許明細書の作成用語集」、第182-183頁、日刊工業新聞社、昭和55年10月30日初版発行の写し

第5.無効理由についての判断

(1)無効理由1について

(1-1)甲各号証の記載事項

(1-1-1)甲第1号証の記載事項

甲第1号証には、「板金用引出し具」に関して、図面とともに、以下の記載がある。

ア.【特許請求の範囲】
「【請求項1】シャフトと、該シャフトの先端部に配設し板金面に溶着可能なビットを備えた第1の操作手段と、
該第1の操作手段のシャフトを支持する支持部を備え、手動操作により前記第1の操作手段を引き上げる第2の操作手段と、
該第2の操作手段を支承する脚体とを具備し、
前記第2の操作手段を、メインレバーと、セカンドレバーと、このメインレバーとセカンドレバーとの間に介在させたばねを含んで構成し、このばねにより前記セカンドレバーを付勢させ、前記メインレバーとセカンドレバー間を前記ばねに抗しながらつぼめて板金面の引き出しを行うことを特徴とする板金用引出し具。
【請求項2】前記支持部に前記シャフトを保持する貫通部が形成されている請求項1に記載の板金用引出し具。
【請求項3】シャフトの先端部に配設し板金面に溶着可能なビットを備えた第1の操作手段と、
該第1の操作手段を支持する支持部と、
前記第1の操作手段の引き上げを行う第2の操作手段と、
該第2の操作手段を支承する脚体とを具備し、
前記第2の操作手段を、メインレバーと、セカンドレバーと、このメインレバーとセカンドレバーとの間に介在させたばねを含んで構成し、このばねにより前記セカンドレバーを付勢させ、前記メインレバーとセカンドレバー間を前記ばねに抗しながらつぼめて板金面の引き出しを行うことを特徴とする板金用引出し具。」

イ.段落【0001】
「【産業上の利用分野】本発明は板金用引出し具に関するものであり、板金面に溶着するビット先端に細やかな力を加えながら引き出し作業を行なう板金用引き出し具に関するものである。」

ウ.段落【0013】?【0018】
「【実施例】実施例について図面を参照して説明する。図1は本発明に係る板金用引出し具を示す斜視図、図2は板金用引出し具のコード接続部に電源コードのクランプ手段を取り付けた状態を示す斜視図、図3は板金用引出し具の側面図、図4は板金用引出し具の正面図、図5は板金用引出し具の各構成部品を示す分解斜視図、図6は電源コードのクランプ手段の一端部を板金用引出し具のコード接続部に、他端部をスタッド溶接機の出力電極側に取り付けた使用状態を示す斜視図である。
これらの図において、板金用引出し具本体1は、板金面に溶着可能なビット15を先端部に備えた第1の操作手段10と、この第1の操作手段10を支持する支持部50を備え、操作することにより前記第1の操作手段10を引き上げる第2の操作手段20と、該第2の操作手段20を支承する脚体90を具備している。
このうち、前記第1の操作手段10は、シャフト12と、このシャフト12の一端に設けたシャフト回動用のハンドル11を具備し、前記シャフト12の先端部に前記ビット15が配設されている。即ち、前記第1の操作手段10を構成する前記シャフト12の一端部12Aは、前記ハンドル11に連設して形成したコード接続部11Bのねじ穴に螺着し、一方前記シャフト12の先端部12Bは前記ビット15の基端部に設けたねじ穴に螺着する。又このシャフト12の略中央部から基端部にかけてねじ部13が刻設され、このねじ部13が後述する第2の操作手段20の支持部50に螺合し、前記第1の操作手段10は前記第2の操作手段20に回動自在に支持される。また前記シャフト12にはばね14が巻装している。更に、前記ハンドル11の把持部11Aには絶縁部材を被覆してある。
前記第2の操作手段20は、メインレバー30と、セカンドレバー40と、このメインレバー30とセカンドレバー40を連結する連結アーム60と、メインレバー30とセカンドレバー40との間に介在させたばね14を含んで構成してある。
前記メインレバー30は、絶縁部材を被覆して形成した取手部31と、前記取手部31の配設方向と直交する方向に延出し前記脚体90によって支承される左右一対の腕杆33A,33Bと、この腕杆中央部を穿設して形成した、前記シャフト12が挿通する前記シャフト案内用の貫通孔34(図5参照)と、腕杆中央より外方に突出し中央に溝部35Cを持って形成した左右一対の突出部35A,35Bを備えている。
前記セカンドレバー40は、前記取手部31と同様に絶縁部材を被覆して形成した取手部41と、この取手部41の先端部側に形成したくり抜き部42に配設し前記第1の操作手段10を支持する支持部50と、前記取手部41の側端面43より外方に突出し中央に溝部44Cを持って形成した左右一対の突出部44A,44Bを備えている。前記支持部50は、中央貫通孔(貫通部)52にめねじ部を形成した支持部材51を前記くり抜き部42内に収容しねじ48,49により前記セカンドレバー40に固定して構成される。かくして、前記支持部材51の貫通孔(貫通部)52と前記シャフト12のねじ部13が螺合し、前記第1の操作手段10は前記第2の操作手段に20に回動自在に支持される。」

エ.段落【0019】?【0023】、並びに、【図1】?【図5】及び【図11】
「更に、前記連結アーム60の上部側と下部側にはボルト挿通孔61,62が穿設されている。前記連結アーム60の上部側は、前記メインレバー30の溝部35Cに前記連結アーム60の上腕部を挿入してボルト挿通孔35D,61にボルト37を挿通しナット38にて固定される。一方、前記連結アーム60の下部側は、前記セカンドレバー40の溝部44Cに前記連結アーム60の下腕部を挿入してボルト挿通孔44D,62にボルト46を挿通しナット38にて取り付ける。
かくして、前記メインレバー30と前記セカンドレバー40とは連結アーム60を介して連結している。この場合、前記セカンドレバー40は、前記連結アーム60のボルト挿通孔62に挿通されたボルト46を短軸として前記連結アーム60に枢支される。また前記ばね14が、前記メインレバー30と前記支持部50の頂面間に前記シャフト12を巻装した状態で介在しているため、前記セカンドレバー40は図1乃至図3の下方向に常時付勢している。
符号70は、前記セカンドレバー40を手動操作により引き上げたときに、前記セカンドレバー40の上面部と当接して前記セカンドレバー40が必要以上に上方へ動くのを規制するストッパである。このストッパ70は、前記メインレバー30の取手部31の近傍に設けたねじ穴36と、このねじ穴36に螺合し、その一端が前記セカンドレバー40に当接するボルト70Aから構成されている。このボルト70Aにコイルばね71を巻装した状態で前記ボルト70Aを前記メインレバー30のねじ穴に36に螺合させる。
符号80は、前記連結アーム60と前記セカンドレバー40との間に配設した、前記メインレバー30と前記セカンドレバー40との握り幅を調整する握り幅調整手段である。この握り幅調整手段80は、前記連結アーム60の下部に設けたねじ穴63と、このねじ穴63に螺合し、その一端が前記セカンドレバー40に当接するボルト80Aから構成されている。このボルト80Aにコイルばね81を巻装した状態で前記ボルト80Aを前記連結アーム60のねじ穴63へ螺合させ、前記ボルト80Aの先端を前記セカンドレバー40の側端面43に当接させる。この握り幅調整用のボルト80Aの螺合の進め具合(深浅)を加減することにより、前記メインレバー30とセカンドレバー40間の握り幅L(スパンL;図3参照)を作業者に適する握り幅に調整する。
前記脚体90は、接面部材93と、この接面部材上に立設した左右一対の脚部91、92と、前記接面部材93を囲成する皿状に形成されたクッション98とより構成され、前記接面部材93とクッション98とで板金面に当接する接面部99を形成する。前記脚体91,92の各上部には、案内溝94,95が形成され、この案内溝94,95に前記メインレバー30の腕杆33A,33Bを挿入し、ねじ96,97にて固定する。」
また、【図1】?【図5】には、「ねじ96,97」として蝶ねじが示されている。また、【図11】にも同様の蝶ねじが示されている。

オ.段落【0031】
「尚、以上の説明では脚体の接面部材及びクッションを角形に形成したものを示したが、図10に示すように丸形の接面部材193、クッション198としてもよい。更に、図11に示すように、脚体290の脚部291,292を独立させ、接面部材293A,293Bを直線上に形成し、クッション298A,298Bを同様に形成してもよいこと勿論である。図11の脚体を用いた場合には、図12に示すように左右の脚部の位置を移動させて使用することが可能となる。」

(1-1-2)甲第2号証の記載事項

甲第2号証には、請求人の提出した翻訳文によれば、「硬質外板のくぼみ矯正装置」に関して、図面とともに、以下の記載がある。

カ.翻訳文第3頁第29行?第7頁第22行
「図面を参照して、特に図1と2を参照すると、本発明の改良くぼみ矯正装置が示されており、典型的に参照番号10で表される。装置10は、基本的には部材12から延出する静止ハンドル部材14を有するフレーム部材12を備えている。図1に示されるように、ハンドル14はポリマー材料からなるスリーブ16を有する。
フレーム部材12からは、枢支部材18も延出している。可動ハンドル20は、可動部材20が実線で示されるような図1に示す延長位置に来るように枢支部材18に枢支されて、可動ハンドル20が静止ハンドルに向かって旋回して可動ハンドル20の破線で示されるような図1の引き込み位置にくるように設計されている。
可動ハンドル20は把持部22と歯部24を有し、歯部24は第1の歯部26と第2の歯部28からなる。フレーム部材12は一般に略管状で、図2に示されるように、フレーム12の一方の側面に第1の平坦面30とフレーム12と反対の側面に第2の平坦面32を有する。歯部24は、第1の歯部26が第1の平坦面30に隣接し、第2の歯部28が第2の平坦面32に隣接するように配置される。枢支ピン33は、枢支部材18の適切に配置された開口部に設けられ、第1と第2の歯部26、28の縁部34に位置する一対の心あわせした開口を通過する。枢支ピン33は可動ハンドル20がフレーム12に対して回転する際の軸の役割を果たす。第1と第2の歯部26と28のそれぞれの上面36と37は、以下で述べる理由によりカム形に湾曲している。
ベースプレート40は、フレーム部材12の下方ねじ付き端42で支持される。ベースプレートアセンブリ40は、外側に開いた耳46と48を有した、約C形に形成されている。フレーム部材44に取り付けられているのは、フレーム部材12の下端42とねじ係合する内側ねじ付きカラーコネクタ50である。内側ねじ付き補助カラー52は下端42を覆って設けられ、ベースプレートアセンブリ40をフレーム部材12にロックするようにカラーコネクタ50に対して固定する役割を果たす。
さらにベースプレートアセンブリ40は、ベースプレート54の開口を通過して耳46、48に位置するねじ込み開口と係合する従来のネジボルト56を介してフレーム部材44の耳46と48に接続するベースプレート54を備える。ボルト56はベースプレート54の表面58と面一になるようにベースプレート54内のさら穴に埋められる。
ベースプレート54はプラスチックやポリマー材料などの透明材料からなる。ベースプレート54用に使用可能な材料は、「Tuffak」という登録商標のRohm and Haas Company製の透明ポリカーボネートプラスチックである。ベースプレート54は、くぼみ矯正装置10を用いて取り除かれるくぼみに対する補助部材としての役割を果たし、そのため、この役割を果たすために必要な力を備えている必要がある。また、くぼみ矯正装置10のオペレータが、以下で明らかになるように、操作結果を見ることができるように十分透明でなければならない。
くぼみ矯正装置10の切断図である図3で最もよく示されるように、フレーム部材12は、下端42の先端部62から当接肩部64に延出するチャンバ60を有した約管状の部材である。チャンバ60と同軸の小孔66がフレーム部材12の残りの部分を通って延出する。
チャックアセンブリ70は、チャンバ60とフレーム部材12を通過する孔66内でスライド可能に支持される。チャックアセンブリ70は、チャック72とスライドロッド74からなる。チャック72は、外径がチャンバ60内に受け入れ可能な大きさの円筒形チャック部材76を備える。スライドロッド74はチャック部材76の上端78に取り付けられ、スライドロッド74は小孔66を通ってはっきりと延出するような大きさになっている。コイルバネ80がスライドロッド74を中心にしてチャンバ60内に設けられ、チャック部材76の上端78と肩部64との間に延びている。チャックアセンブリ70が引き込み方向と呼ばれる方向の第1の方向82に移動すると、バネ80が肩部64とチャックアセンブリ76との間で圧縮される。
チャック72に連続して、円筒形のチャック部材76は一端で中空となり、チャック部材76の端部86内に延出する孔84を持つ。ボルト係合タブ88は、孔84を横切って延びている。チャック部材76は外側ねじ付き部90を有し、ねじ付き部90とねじ接続するための内側ねじ付き孔を有した外側スリーブ92が設けられる。外側チャックスリーブ92は横壁94を有し、開口96が壁94内に設けられている。
くぼみ係合部材100は、次のようにしてチャックアセンブリ70に支持される。係合部材100は、すり割り付き102と、テーパー状ねじ付き端104とを有するボルトである。ねじ付き端104は、外側チャックスリーブ92内で開口96を明らかに通過できるような選択的な大きさをとり、すり割り付き102は、タブ88がすり割り付き102のスロットと係合するようにチャック部材76の孔84内に少なくとも一部受けられるような選択的な大きさをとっている。ボルトをこのように配置することによって、外側チャックスリーブ92は、係合部材100をしっかりとスリーブ92に固定するように、チャック部材76上に締め付けられる。
くぼみ係合部材100は、従来の設計の良質なセルフタッピング金属ネジであってよい。その目的は、下で説明するような方法で引っ張りながらくぼみと係合することなので、ねじ山がすりへらないように熱処理したネジを用いるのが望ましい。
スライドロッド74はねじ付き端110を有し、スライドロッド74とねじ接続するためのねじ付き孔を有したノブ112が設けられる。ノブ112は、フレーム部材12に対してスライドロッド74を手動で回転させるオペレータの手にほぼ一致するような大きさと形状になっている。ねじ付き開口が貫通する止めナット114が、ノブ112とフレーム部材12との間のスライドロッド74の端部110でねじ係合し、止めナット114はノブ112に対して締められてこれらの部材を確実に固定するようにする。貫通する開口を持つ従動部材116がスライドロッド74上に設けられ、止めナット114とフレーム部材12との間に配置される。従動部材116は、従動部材116の下端112が可動ハンドル20の第1の歯部26と第2の歯部28との間にくるように互いに反対側に第1の平坦面118と第2の平坦面120を有しており、このようにして従動部材116はスライドロッド74の回転からは干渉されないようになっている。さらに、従動部材116は、第1の平坦面118の近くに第1の揚力面124と、第2の平坦面120の近くに第2の揚力面126とを有している。第1の揚力面124は、第1の歯部25の上面と当接係合するように配置され、第2の揚力面126は第2の歯部28の上面と当接係合するように配置される。第1と第2の揚力面124と126は、湾曲したカム面で、ハンドル20がオペレータの手によって(図1に破線で示される)引き込み位置まで旋回し、ハンドル20がバネ80の作用によって延長位置まで旋回すると、可動ハンドル20の湾曲した上面36と37と当接係合して保持されるようになっている。バネ80に関して、バネ80がチャックアセンブリ70に対して力を伝達して、チャックアセンブリ70をバイアスさせて延長方向とも呼ばれる第2の方向83に移動させる。可動ハンドル20がオペレータの手によって引き込み位置に移動し、その後開放されるとすると、バネ80は可動ハンドル20の移動によって引っ込み位置まで圧縮して、その後チャックアセンブリ70を延長方向に移動させる力を印加し、バネ80の力によって第1と第2の揚力面124、126を介してハンドル20の第1と第2の歯部26、28に耐えるようにさせて、ハンドル20が図1の実線で示されるような延長位置をとるようにする。
ベースプレート54に戻って、開口128がベースプレート54に設けられ、くぼみ係合部材100のねじ付き端104が開口128を自由に通過できるようにする。ねじ付き端104は、図1から図3に示されるようにくぼみ係合端100をくぼみと接続させるためのくぼみ接触部の役割を果たす。金属外板130がベースプレート54の表面58と当接係合している状態の横断面図がこれらの図に示されている。外板130は第2の方向83の打撃力を外板130に印加することによって形成された圧痕すなわちくぼみ132を有する。くぼみ係合部材100のくぼみ132への取り付けについては、好ましい実施例の動作とともに以下で検討していく。」

キ.翻訳文第7頁第24行?第9頁第13行
「次に、図1から3に示されて説明されているくぼみ矯正装置10の動作を説明する。簡単に言えば、くぼみ矯正装置10は、フレーム部材12と、ベースプレートアセンブリ40と、チャックアセンブリ70とを備え、チャックアセンブリ70はくぼみ係合アセンブリ100を支持する。可動ハンドル20は、カム従動子部材116と係合し、ハンドル20が延長位置から引き込み位置まで移動することで、チャックアセンブリ70を引き込み方向82へ移動させる。バネ80はチヤックアセンブリ70が引き込み方向82へ移動することで圧縮され、ハンドル20を開放すると、バネ80によってチヤックアセンブリ70が延長方向83に移動して、ハンドル20を延長位置に戻す。
ここで、くぼみ矯正装置10を実際の操作を説明するために、本体外板130とそこに押し付けられたくぼみ134に対する操作について検討する必要がある。くぼみ矯正装置10のオペレータは、ベースプレート54内の開口128がくぼみ132の中心のほぼ上方にくるようにハンドル部材20を図1に示すような延長位置に配置し、ベースプレート54を本体外板130上に配置するよう指示される。なお、ベースプレート54は、くぼみ132よりも大きな面積にわたり、ベースプレート54が外板領域14によって支持されるように、くぼみ132に接近してほぼ外接するような大きさになっている。ベースプレート54の大きさは、便宜上小さなくぼみ132に対して示されているが、ベースプレート54は本体外板130の無傷の部分上にベースプレートの一部分が支持されるのに必要な寸法であればよい。ベースプレート54は必要であれば表面58が好適に湾曲した本体外板上に支持されるような輪郭にしてもよい。
上記の工程によって、くぼみ矯正装置10は、チヤックアセンブリ70がくぼみ132の上方にあるように配置され、これによってくぼみ係合部材100をくぼみ132と接触させる。くぼみ係合部材100のねじ部104は、くぼみ132とねじ係合するようにセルフタッピングねじを有する。いくつかの応用例、たとえば自動車のボディのくぼみを矯正するように実施する場合、小さな始動穴を中心近くでくぼみ132を貫通するように設けてねじ部104がそこを貫通し始めるのを助けるようにすることが望ましいということがわかった。ねじ部104が一旦くぼみ132の中心と接するように配置されると、ノブ112は下方向の力を印加されながら手動で回転する。これにより、静止ハンドル14を把持するオペレータが片手でくぼみ矯正装置10を適切な位置に保持し、同時にオペレータのもう一方の手のひらでノブ112を押圧して回転させることが必要となる。この結果、ねじ部104がくぼみ132のほぼ中央で係合する。この下方回転力は、くぼみ係合部材100が外板130のくぼみ部132と不安定ながらも係合するまで継続する。ここでの目的はくぼみ係合部材100がくぼみ132上をしっかりと持ち上げることができるようにすることである。
ここでくぼみ132を矯正するために、オペレータは静止ハンドル14と可動ハンドル20の把持部16および22を合わせて強く把持するだけでよく、これによりハンドル20が引き込み位置まで上方移動する。またこれにより、従動子116(したがってチャックアセンブリ70)が、くぼみ矯正装置10の構造の説明において述べた理由で、引き込み方向82に移動する。チャックアセンブリ70の引き込み方向82への移動によって、くぼみ係合部材100はベースプレート54方向に引っ張られる。くぼみ係合部材100がくぼみ132とねじ係合すると、チャックアセンブリ70の上方移動により、くぼみ132が形成された方向と略反対の方向の力をくぼみ132に印加し、くぼみ部をベースプレート54に向かって持ち上げる。ハンドル14と20のそれぞれの長さは、チャックアセンブリ70をくぼみ132の材料力によって与えられる抑制力に抗して移動させる際に機械的に大きく有利なように選択的に決定される。」

ク.翻訳文第11頁第7行?第12頁第23行
「特許請求の範囲
1.金属外板のへこみ部分を修理するための装置であって、
フレームと;
フレームに支持され、中間部を通って延出する隙間開口を有する透明ベースプレートと;
ベースプレートの一方の側面でフレーム上にスライド可能に支持され、ベースプレートから離れる引き込み方向に移動するためのチャックアセンブリと;
チャックアセンブリに支持され、隙間開口を通って延出してへこみ部分と係合する部分を有するへこみ係合部材と;
チャックアセンブリとくぼみ係合部材を引き込み方向に移動させることにより、へこみ部分がベースプレートに向かって引っ張られて透明なベースプレートを介して観察されるような所定位置までくるようにするための、フレームに支持される手段とを備える装置。
2.チャックアセンブリは:
フレームにスライド可能に支持されるスライドロッドと;
スライドロッドの一端に取り付けられるチャックとを備え、
チャックは:
スライドロッドに取り付けられ、孔を有したねじ付き端を有するチャック部材と;
該孔においてチャック部材に支持されるボルト係合タブと;
チャック部材のねじ付き端とねじ係合し、チャック部材と協動してへこみ係合部材を支持する外側チャックスリーブとを備えることを特徴とする請求項1に記載の装置。
3.くぼみ係合部材は:
チャックに支持されるボルトであって、開口を通って延出し、ベースプレートに接触することなく金属外板のへこみ部分と係合するような大きさのねじ付き端部と、ボルト係合タブに係合するスロットを有したヘッドとを備えるボルトを備えることを特徴とする請求項2に記載の装置。
4.チャックアセンブリを移動させる手段は:
フレームに支持される静止ハンドルと;
フレームに旋回可能に支持される可動ハンドルと;
可動ハンドルが静止ハンドルに向かって旋回すると、スライドロッドを引き込み方向に移動させる手段とを備えることを特徴とする請求項2に記載の装置。
5.チャック部材に対向したスライドロッドの端部に取り付けられるノブをさらに備え;
可動ハンドルが歯部を有し;
スライドロッドを引き込み方向に移動させる手段は、ノブとフレームの間でスライドロッド上にスライド可能に支持され、可動ハンドルの歯部と係合し、可動ハンドルが静止ハンドルに向かって旋回すると可動ハンドルを介して従動部材に印加される力をノブに伝達し、これによってチャックアセンブリを引き込み方向に移動させるようにする従動部材を備えることを特徴とする請求項4に記載の装置。
6.チャックアセンブリをバイアスさせて引き込み方向と逆の延長方向に移動させるための手段をさらに備えることを特徴とする請求項4に記載の装置。
7.ベースプレートは、応力線の位置を示すゲージであることを特徴とする請求項1に記載の装置。」

(1-1-3)甲第3号証の記載事項

甲第3号証には、「自動車修理用パネル板金引出し工具並びに金属ピン及びそれを使用したパネル板金引出し方法」に関して、図面とともに、以下の記載がある。

ケ.【特許請求の範囲】
「【請求項1】自動車パネル板金面の凹み部分に溶接された金属ピン(16)を本体シリンダー部(3B)内の爪(21)で挟み、ハンドル(1,2)を握ることによって、本体カム機構部(3A)で倍加された大きな力で金属ピン(16)を引き上げて、その反力を、本体両側にある、接面パッド(10A,B)を付属する足(9A,B)を嵌合・固定したアーム(8A,B)で支えながら、パネル面の凹みをパネルの元の面と平滑な位置に、静的な力を利用して復元するようにしたことを特徴とする自動車修理用パネル板金引出し工具。
【請求項2】接面パッド(10A,B)間の必要な間隔を設定するために、ラック(13)とラチェット爪押さえ(23)で押さえられ、ラック(13)に噛み込み勝手になっているラチェット爪(22)で構成するラチェット部(5)を上下させることで、任意の間隔に接面パッド(10A,B)を開いて固定できて、閉じる時もラチェット開放ボタン(6)を押さえてラチェット爪(22)を開放するワンタッチ操作でできるように構成したことを特徴とする請求項1記載の自動車修理用パネル板金引出し工具。
【請求項3】パネル面の形状や凹みの深さによっては、溶接された金属ピン(16)を引き出す角度を傾斜させたりする必要があるが、左右のアーム(8A,B)のアーム長さ調整ノブ(12A,B)を緩めて、足(9A,B)を上下させ、それぞれ任意の長さに調整することによって、本工具を自在に傾斜させて引出し作業ができるようにしたことを特徴とする請求項1または2記載の自動車修理用パネル板金引出し工具。
【請求項4】パネル面とノーズピース(4)との間隔が、アーム(8A,B)をどの位置に開閉しても常にほぼ同じ間隔を保つように、アーム(8A,B)と本体(3)をつなぐステー(11Λ,B)の取り付け位置を考慮したことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の自動車修理用パネル板金引出し工具。
【請求項5】先端の形状が従来使用されている丸頭状のものではなく偏平な半円盤形状になっており、付属の専用レンチ(17)で挟んでねじればパネルを傷つけることなく取り外せる溶接用金属ピン。
【請求項6】長さの一定した金属ピンを、パネルの凹みに沿って並べて溶接して、ピンの先端に直線定規などをあてがって凹みの形状や修理状態を眼で見て確認しながら行うパネル板金引出し方法。」

コ.段落【0005】?【0012】
「【発明の実施の形態】本発明は、ハンドル1,2を握ることによって内部の爪21でパネルに溶接された金属ピン16を引き、反力を両側のアーム8A,Bと付属する接面パッド10A,Bで支える構造を持った自動車修理用パネル引出し工具(以下、引出し工具という)並びに特殊な形状をした金属ピンおよびピンをパネルから取り除くための専用レンチ17と、市販のワッシャーを引き出すためのワッシャー引出し治具15からなる。
上記引出し工具は、金属ピン16を引き出すための構造は従来からあるブラインドリベットをかしめるための工具の応用であるが、それほど強い力を必要としないので、ハンドル1,2を握る力を倍加させるカム19の比率を下げて引き出す距離を増加させる方が効果的である。
また、引出し工具両側のアーム8A,Bの先端に付属する接面パッド10A,Bの間隔は作業の性質上、変更する頻度が高いので、ラチェット機構5で簡単に開閉できる構造にしてある方が良い。
また、ラチェット機構5の部分を上下させてアーム8A,Bの開閉をする構造は、本体3Aとアーム8A,Bを固定するステー11A,Bの取り付け位置を工夫すれば、金属ピン16の挿入口であるノーズピース4とパネル面の間隔をほぼ一定に保つために効果的である。
また、パネルに溶接された金属ピン16を引き出すとき、引き出す方向を変えることも必要である。このためには、左右両側のアーム8A,Bと足9A,Bの嵌合位置をそれぞれ任意の位置に固定して、アーム8A,B全体の長さを左右個別に調整できる構造にしてあると引出し工具全体を傾斜させることができる。
そして、アーム8A,Bと足9A,Bとの嵌合の固定は、コ字形状のアーム8A,Bの内側と足9A,Bの外側にセレーション加工を施せば、アーム長さ調整ノブ12A,Bの締めつけ力だけの固定に比較して、確実に固定するのに効果的である。
また、アーム8A,B先端に取り付けた足9A,Bの接面パッド10A,Bは、本工具の前後方向にシーソー運動ができるような構造にしておけばよい。
さらに、引出し板金作業でよく使用される溶接された金属ワッシャーを引き出すために、金属ピン16を引き出す機構を利用して、先端を曲げた形状のワッシャー引出し治具フック15Bを本体シリンダー部3Bに挿入し、金属ワッシャーに引っかけて引出し作業をできるようにすればよい。なお、治具後端にワッシャー引出し治具ノブ15Aを取り付けるとワッシャー引出し治具の高さの位置調整に効果的である。ワッシャー引出し治具ノブ15Aとワッシャー引出し治具フック15Bはネジで取り外し自由にしておけばよい。」

(1-1-4)甲第4号証の記載事項

甲第4号証には、「鈑金均し装置」に関して、図面とともに、以下の記載がある。

サ.【特許請求の範囲】
「【請求項1】鈑金作業に使用する鈑金均し装置であって、この鈑金均し装置は、取手部(11)を有するシリンダ基体(1)と;このシリンダ基体(1)に抜け外れることなく摺動自在に設けられた摺動基体(2)と;この摺動基体(2)の先端部に設けられたチップ部材(3)と;このチップ部材(3)に通電する電極を接続するための接続端子(201)と;を備えた鈑金均し装置。」

シ.段落【0004】
「【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために講じた本発明の手段は次のとおりである。鈑金作業に使用する鈑金均し装置であって、この鈑金均し装置は、取手部を有するシリンダ基体と;このシリンダ基体に抜け外れることなく摺動自在に設けられた摺動基体と;この摺動基体の先端部に設けられたチップ部材と;このチップ部材に通電する電極を接続するための接続端子と;を備えた鈑金均し装置である。シリンダ基体に設けられる取手部は、一般にはシリンダ基体の後部に設けられているが、特に限定はせず、側部や前部に設けてもよい。摺動基体は、シリンダ基体の前部に摺動自在に挿入され、例えば挿入端にストッパを設けることにより、シリンダ基体から抜け外れることのないようにしている。チップ部材は、修復する外板等に高電圧により溶着される部材であり、その材質は一般的には通常の外板と同様に鉄であるが、その合金や他の金属でもよく、限定するものではない。接続端子には、スタッド溶接機の電極が接続される。接続端子の材質は、例えば電気伝導性にすぐれた銅等であるが、限定はしない。」

ス.段落【0005】?【0006】
「(中略)
(作 用)図3は使用状態を示す説明図である。図1乃至図3を参照して本実施例の作用を説明する。○1 スタッド溶接機5の一方の電極E1を鈑金均し装置Aの端子棒201に接続し、他方の電極E2は母材である自動車の外板Pに接続する。○2 調整ボルト142を閉めて金属球122を摺動ロッド22側へ押圧する。次に、摺動ロッド22を摺動させて掛止溝部221と金属球122を掛止させ、仮止めしておく。○3 外板PのへこみP1部分に鈑金均し装置Aのチップ30の先端部を接触させてスタッド溶接機5により極く短時間だけ通電する。○4 外板Pとチップ30の接触部は、通電時のアークの発生により高温となって溶融した後、断電により冷えて固まり、瞬時に接着する。○5 取手部11を持って鈑金均し装置Aを引っ張り、へこみP1を修復する。この際に、引っ張り操作を素早く行なえば、ストッパ部材12とストッパ220の作用によるシリンダ基体1の停止の際の衝撃で、引っ張り力が増して効果的に修復できる。また、力の加減がしやすく、微妙な修復も容易である。○6 鈑金均し装置Aをこじて外板Pとチップ30を分離させる。そして、へこみP1の修復が一回では不十分な場合は、残りのへこんだ部分に上記○2以下の手順で修復を施すようにする。上記手順においては、外板Pがへこんでいる場合の修復について説明したが、盛り上がっている部分をへこませて修復する場合も、ほぼ同様にして使用できるのはいうまでもない。なお、上記○5の操作において、固定具14を締めておいてシリンダ基体1と摺動基体2を固定して使用することは任意である。本発明は図示の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載内において種々の変形が可能である。
【発明の効果】本発明は上記構成を備え、次の効果を有する。例えば、自動車の外板のへこみ部分や盛り上がり部分の修復にあたって、外板を取り外したり組み付けたりする面倒な作業をすることなく修復作業ができるので、作業が迅速で容易である。また、ワッシャ等の異物を母材に着脱するような作業も必要とせず、しかも修復部の位置の変更が他の工具を使用することなく簡単にできるので、効率のよい作業ができる。」(なお、丸付き数字は、上記の様に摘記した。)

(1-1-5)甲第5号証の記載事項

甲第5号証には、「板金用プーラ工具」に関して、図面とともに、以下の記載がある。

セ.【特許請求の範囲】の【請求項1】
「中央にシャフト直動ガイド用の貫通穴(11)を設けた梁部材(12)の両端に、先端に絶縁材料からなる当接用クッション(13)が具備された脚体(14)を一体又は開閉設定固定自在として具備させた金属製又は合成樹脂製部材からなる当接用支持基体(1)と、該当接用支持基体(1)の梁部材(12)部に軸結合して揺動自在に立設した一対の支持板(2)と、先端にプルアップフック(31)を一体に形成又はプルアップフック(31)とウェルトアップヘッド(32)を交換するための雌螺子孔(33)を設けた直動軸部(34)の後端部に、一端部にレバーハンドル(35)を具備した回転操作体(36)が固定された螺子軸(37)を結合し、前記当接用支持基体(1)の貫通穴(11)に挿通される金属製のプーラ用シャフト(3)と、前記支持板(2)に支点用支軸(27)で枢着されるナット保持部(42)に操作アーム(43)を連結するとともに、ナット保持部(42)に前記螺子軸(37)と螺合する雌螺子(44)を貫設したナット体(45)を回動自在に枢着し、雌螺子(44)の開口側のそれぞれには拘束回避用開口(46)を形成し且つ先端にウェルトアップヘッド(32)を装着した場合には、絶縁用握り(47)を形成したシャフト操作用レバー(4)とを具備したことを特徴とする板金用プーラ工具。」

ソ.段落【0021】?【0025】
「上記本発明に係る板金用プーラ工具は、図5に二点鎖線で示すように、プーラ用シャフト(3)としてプルアップフック(31)を装備したものを使用する場合は、従来の板金用プーラ工具と同様、予め凹み部分にワッシャ(W)を溶接した後、該ワッシャ(W)を跨ぐように当接用支持基体(1)の脚体(14)を板金面(a)に当接し、プーラ用シャフト(3)をその後端部に固定された回転操作体(36)のレバーハンドル(35)で操作し、梁部材(12)の下方へのプーラ用シャフト(3)の突出量を調節してプルアップフック(31)を前記ワッシャ(W)に引っ掛ける。そして、倍力機構としたシャフト操作用レバー(4)を、支持板(2)の支点用支軸(27)を支点として矢印方向へ片手で回動操作することにより、プーラ用シャフト(3)に大きな引っ張り力が作用して、脚体(14)で板金面(a)を押し付けながら凹み部分を引き上げて膨らませるようになり、該引き上げ状態において、必要に応じて他方の手で鈑金面(W)を軽打(ハンマー作業等)したり加熱したりして板金面(a)を平滑化にした後、レバーハンドル(35)で回転操作体(36)を操作してプーラ用シャフト(3)を回動させ、溶着されているワッシャ(W)を板金面(a)から捩り切って分離させるのであるが、梁部材(12)に対して支持板(2)が揺動自在に結合されており且つナット体(45)が回動自在でその開口部に略扇形の拘束回避用開口(46)部を形成していることから、プーラ用シャフト(3)の円滑な直線移動が確保されるようになる。
また、プーラ用シャフト(3)としてウェルトアップヘッド(32)を装備したものを使用する場合は、予めウェルトアップヘッド(32)の先端を凹み部分に接しさせた状態でプーラ用シャフト(3)に通電して溶着した後、前記と同様の手段で板金面の平滑化加工を行う。
【発明の効果】以上説明した本発明の板金用プーラ工具は、当接用支持基体(1)の梁部材(12)部に貫通するプーラ用シャフト(3)の螺子軸(37)を、梁部材(12)に軸結合して揺動自在に立設した一対の支持板(2)に支点用支軸(27)で連結したシャフト操作用レバー(4)のナット保持部(42)のナット体(45)に螺合することによって、単一槓杆による単純な倍力機構を利用したプーラ用シャフト(3)の直線運動が確保でき、しかも、プーラ用シャフト(3)の引き上げ力に対する反力が脚体(14)を介して板金面にバランス良く作用して、板金用プーラ工具を安定状態で維持しつつ正確に板金面の凹み部分を膨らますことができる。
したがって、倍力率が高い極めて簡単な倍力機構の利用と少ない数の部品の結合により構成することができて、板金用プーラ工具を安価に提供することができるとともに、細部の引き出しを必要とする場合や板金面が小領域の凹部である場合、あるいは引き出し箇所が極めて特殊な場所である場合でも、片手で引き出し操作をしながら他方の手でハンマー作業を実施し、引き出し状態を目視にて確認しながら迅速かつ確実に板金作業が行え、板金面の平滑化が容易に達成できる板金用プーラ工具を提供できる。
また当接用支持基体(1)の梁部材(12)と脚体(14)とを開閉設定固定自在に結合するにおいて、脚体(14)の脚連結用孔(15)を該脚体(14)の長さ方向に沿うスリット状の長孔(16)とし、結合手段として非回転状態で通されたボルト(17)と蝶ナット(18)を使用した場合には、梁部材(12)の板金面に対する高さの変更又は脚体(14)の跨ぎ幅を、板金面の凹み領域の広狭に応じて簡単に変更設定し固定することができる。」

(1-1-6)甲第6号証の記載事項

甲第6号証には、「カム」に関して、以下の記載がある。

タ.第556頁
「カム【cam】回転軸からの距離が一定でない周辺を有し、回転しながらその周辺で他の部材に種々の運動を与える装置。」

(1-1-7)甲第7号証の記載事項

甲第7号証には、「支承」に関して、以下の記載がある。
チ.第68頁
「支承〔ししょう〕取りはずし自在または回動自在に支持すること。
(例)軸受で回動軸を支承する。
回転板のピンを支承する。」

(1-1-8)甲第8号証の記載事項

甲第8号証には、「板金用具」に関して、図面とともに、以下の記載がある。

ツ.【実用新案登録請求の範囲】の【請求項1】
「シャフト(12,52)と、
該シャフト(12,52)の一端に設けた操作用のハンドル(11,51)と、
前記シャフト(12,52)の先端部に設けたビット(15,55)と、
前記ハンドル(11,51)に連設して形成したコード接続部(16,56)を備えてなる板金用具。」

テ.段落【0004】?【0007】
「従って本考案の目的は、安定した電気的接触が得られる板金用具を提供することにある。
本考案の他の目的は、電気的接続をワンタッチで行なえる板金用具を提供することにある。
本考案のもう一つ他の目的は、最も扱い易い位置どりや方向を自由に選定でき板金用具を提供することにある。
本考案の更に他の目的は、点引き作業、点絞り作業等、ビット先端に細やかな力を加えながら板金作業が行なえる板金用具を提供することにある。
本考案のその余の目的及び利点は以下の記述により明らかとなるであろう。」

ト.段落【0009】
「【作 用】
第1のクランプ手段と第2のクランプ手段とをスプリングに抗しながら拡開し工具のシャフト等に装着することにより安定した電気的接触が保証される。枢着した第1のクランプ手段と第2のクランプ手段とで構成する挾着部はコード接続部に取り付けた状態で回動する。」

(1-1-9)甲第9号証の記載事項

甲第9号証には、「鈑金用具」に関して、図面とともに、以下の記載がある。

ナ.「説明」欄
「鈑金用具10は、シヤフト12と、シヤフト12の一端に設けた操作用のハンドル11と、シヤフト12の先端部に設けたビツト15と、ハンドル11に連設して形成したコード接続部16と、シヤフト12が挿通し、シヤフト12に沿つて可動するスライドハンマ20を備えている。本物品を使用するに当たり、先ず電源となる溶接機の出力電極40(参考図1参照)側と本物品のコード接続部16をコネクテイングケーブル30で接続する。かかる準備作業を終えた後、一方の手でハンドル11を握持し、ビツト15先端に微電流を通電しながらポイントにビツト15を溶着する(参考図2、参考図5参照)。次に、スライドハンマ20を可動させ、鈑金を必要とする箇所を、シヨツクを利用して引き出すかあるいは叩き、鈑金面が平滑化したことを確認する。その後ハンドル11を回動させビツト15の溶着を解く(参考図2乃至7参照)。鈑金面の点引き作業(参考図2乃至4参照)のみならず、点絞り作業(参考図5乃至7参照)が可能となり、ビツト15の先端に細やかな力を加えながら鈑金作業が行なえる。」

(1-1-10)甲第10号証の記載事項

甲第10号証には、「鈑金用具」に関して、図面とともに、以下の記載がある。

ニ.「説明」欄
「鈑金用具10は、シヤフト12と、シヤフト12の一端に設けた操作用のハンドル11と、シヤフト12の先端部に設けたビツト15と、ハンドル11に連設して形成したコード接続部16を備えている。本物品を使用するに当たり、先ず電源となる溶接機の出力電極40(参考図1参照)側と本物品のコード接続部16をコネクテイングケーブル30で接続する。かかる準備作業を終えた後、一方の手でハンドル11を握持し、ビツト15先端に微電流を通電しながらポイントにビツト15を溶着する(参考図2参照)。次に、ハンドル11を引き、鈑金面が平滑化したことを確認する。その後ハンドル11を回動0させビツト15の溶着を解く(参考図2乃至4参照)。ビツト15の先端に細やかな力を加えながら鈑金面の点引き作業(参考図2乃至4参照)が行なえる。」

(1-2)請求人の主張について

(1-2-1)本件発明1との対比

請求人は、平成24年2月7日付け口頭審理陳述要領書の第13?16頁の「1」欄の甲1において、甲第1号証には、本件各発明との対比において、以下の発明が記載されているとしている。

「A. 板金面を引き出すための板金用引出し具であって、
B. シャフト(12)を備えている第1の操作手段(10)と、
c. 該第1の操作手段(10)に着脱可能に取り付け得るとともに、前
記第1の操作手段と協働して板金面の引き出しを行なう第2の操作
手段(20)と
D. の組み合わせを含み、
E. 前記第2の操作手段(20)は、
E-1 取手部(31)と、
E-2 くり抜き部(42)と、
e-3 該くり抜き部(42)に面し、前記シャフトが挿通するシャフト案
内用の貫通孔(34)を有するメインレバー(30)と、
e-4 前記くり抜き部(42)に配設され挿入される前記第1の操作手段
(10)のシャフト(12)を着脱可能に保持する支持部材(51
)と前記シャフト(12)に形成されたねじ部(13)とにより構
成される、シャフトを保持する手段と、
e-5 前記くり抜き部(42)を備えた取手部(41)の側端面(43)
より外方に突出した突出部(44A、44B)において回動自在に
軸支されており、前記第1の操作手段(10)のシャフト(12)
が挿通され前記支持部材(51)の移動方向と同じ方向に可動する
セカンドレバー(40)と、
E-6 前記支持部材(51)を付勢するばね(14)とを備え、
E-7 前記第2の操作手段(20)は、前記支持部(50)の前部側に設
けられる脚体(90)に支持され、
f. 前記シャフトを保持する手段は、
f-1 貫通孔(52)が形成された前記支持部材(51)を含み、
f-2 前記支持部材(51)の前記貫通孔(52)にめねじ部を形成し、
この支持部材(51)を前記くり抜き部(42)に収容し、前記貫
通孔(52)のめねじ部と前記シャフト(12)に形成されたねじ
部(13)を螺合させ、前記貫通孔(52)のめねじ部と前記シャ
フト(12)のねじ部(13)の螺合の進め具合を加減して前記シ
ャフト(12)の位置決めを行い、前記シャフト(12)の先端に
配設したビット(15)の位置を調製し、
G. 前記第2の操作手段(20)は、前記第1の操作手段(12)のシ
ャフト(11)を前記支持部材(51)に挿通することにより前記
第1の操作手段(10)に装着される、
H. 板金用引出し具。」(以下、請求人が主張する、この甲第1号証記載の発明を「甲1発明の1」という。)

同様に、請求人は、甲第2号証には、本件発明1との対比において、以下の記載があるとしている。(上記口頭審理陳述要領書の第16?17頁の「1」欄の甲2)

「(1)くぼみ矯正装置は、フレーム部材12、従動部材116、静止ハンドル部材14、可動ハンドル20を具備していること
(2)フレーム部材12は静止ハンドル部材14と枢支部材18を有していること
(3)従動部材116は、貫通する開口をもっていること
(4)可動ハンドル20は、チャンバ60を有するフレーム部材12の上方に位置する従動部材116と当接係合し従動部材116の進退方向と同じ方向にスライドロッド74を動かすこと
(5)従動部材116が可動ハンドル20の操作によって静止ハンドル部材14に対して進退自在に設けられていること」(以下、請求人の主張する(1)?(5)を「甲2記載事項の1」という。)

同様に、請求人は、甲第3号証には、本件発明1との対比において、以下の記載があるとしている。(上記口頭審理陳述要領書の第17頁の「1」欄の甲3)

「(1)引出補助具に着脱自在に取り付けできる引出具を備えていること
(2)施工箇所に適合した引出具を引出補助具と選択的に組み合わせられること」(以下、請求人の主張する(1)、(2)を「甲3記載事項の1」という。)

そして、この甲1発明の分説AないしHと同様に、本件発明1をAないしHに分説し、本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点を前記第3.(2-1)アのとおり主張している。

(1-2-2)本件発明2との対比

請求人は、上記口頭審理陳述要領書の第17?18頁の「2」欄で、甲第3号証には、本件発明2との対比において、以下の記載があるとしている。

「I. 板金面を引き出す2種類の引出具を有し、
J. 引出具は、先端部に形成される取着部の機能または構造を異にする
金属ピン16または治具フック15Bを備え、金属ピン16または
治具フック15Bは引出補助具に対して選択的に組み合わすことが
できる、
K. 板金用引出装置。」(以下、請求人の主張する、I.?K.を「甲3記載事項の2」という。)

(1-2-3)本件発明3との対比

請求人は、上記口頭審理陳述要領書の第17?18頁の「3」欄で、甲第3号証には、本件発明3との対比において、以下の記載があるとしている。

「L. 2種類以上の引出具は、溶接チップを備えたものと引掛部を備え
たものを含んでいる、
M. 板金用引出装置。」(以下、請求人の主張する、L.,M.を「甲3記載事項の3」という。)

同様に、請求人は、上記口頭審理陳述要領書の第18頁の「3」欄の甲1、甲4欄で、甲第1号証および甲第4号証には、本件発明3との対比において、
「溶接チップを備えた引出具」の記載があるとしている(以下、請求人の主張するこれを「甲1,4記載事項」という。)。

同様に、請求人は、上記口頭審理陳述要領書の第18頁の「3」欄の甲5欄で、甲第5号証には、本件発明3との対比において、「プーラ用シャフトとしてプルアップフック(31)あるいはウェルトアップヘッド(32)を選択できる板金用プーラ工具」の記載があるとしている(以下、請求人の主張する、これを「甲5記載事項」という。)。

(1-2-4)本件発明4との対比
請求人は、上記口頭審理陳述要領書の第18?21頁の「4」欄の甲1欄で、甲第1号証には、本件発明4との対比において、以下の記載があるとしている。

「N. シャフト(12)を備えた板金面を引き出すための第1の操作手
段(10)と協働して板金面を引き出す第2の操作手段(20)で
あって、
該第2の操作手段(20)は、
P-1 取手部(31)と、
P-2 くり抜き部(42)と、
p-3 該くり抜き部(42)に面し、前記シャフトが挿通するシャフト案
内用の貫通孔(34)を有するメインレバー(30)と、
q. 前記くり抜き部(42)に配設され挿入される前記第1の操作手段
(10)のシャフト(12)を着脱可能に保持する支持部材(51
)と前記シャフト(12)に形成されたねじ部(13)とにより構
成される、シャフトを保持する手段と、
r. 前記くり抜き部(42)を備えた取手部(41)の側端面(43)
より外方に突出した突出部(44A,44B)において回動自在に
軸支されており、前記第1の操作手段(10)のシャフト(12)
が挿通され前記支持部材(51)の移動方向と同じ方向に可動する
セカンドレバー(40)と、
S. 前記支持部材(51)を付勢するばね(14)とを備え、
T. 前記支持部(50)の前部側に設けられる脚体(90)に支持され、
u. 前記シャフトを保持する手段は、
u-1 貫通孔(52)が形成された前記支持部材(51)を含み、
u-2 前記支持部材(51)の前記貫通孔(52)にめねじ部を形成し、
この支持部材(51)を前記くり抜き部(42)に収容し、前記貫
通孔(52)のめねじ部と前記シャフト(12)に形成されたねじ
部(13)を螺合させ、前記貫通孔(52)のめねじ部と前記シャ
フト(12)のねじ部(13)の螺合の進め具合を加減して前記シ
ャフト(12)の位置決めを行い、前記シャフト(12)の先端に
配設したビット(15)の位置を調製し、
V. 前記第1の操作手段(12)のシャフト(11)を前記支持部材(
51)に挿通することにより前記第1の操作手段(10)に装着さ
れる、
w. 第2の操作手段。」(以下、請求人の主張する、この甲第1号証記載の発明を「甲1発明の2」という。)

同様に、請求人は、上記口頭審理陳述要領書の第21頁の「4」欄の甲2欄で、甲第2号証には、本件発明4との対比において、以下の記載があるとしている。

「(1)くぼみ矯正装置は、フレーム部材12、従動部材116、静止ハンドル部材14、可動ハンドル20を具備していること
(2)フレーム部材12は静止ハンドル部材14と枢支部材18を有していること
(3)従動部材116は、貫通する開口をもっていること
(4)可動ハンドル20は、チャンバ60を有するフレーム部材12の上方に位置する従動部材116と当接係合し従動部材116の進退方向と同じ方向にスライドロッド74を動かすこと
(5)従動部材116が可動ハンドル20の操作によって静止ハンドル部材14に対して進退自在に設けられていること」(請求人の主張する「甲2記載事項の1」)

同様に、請求人は、上記口頭審理陳述要領書の第21?22頁の「4」欄の甲3欄で、甲第3号証には、本件発明4との対比において、以下の記載があるとしている。

「(1)引出補助具に着脱自在に取り付けできる引出具を備えていること
(2)施工箇所に適合した引出具を引出補助具と選択的に組み合わせられること」(請求人の主張する「甲3記載事項の1」)

そして、請求人は、甲1発明の分説Nないしwと同様に、本件発明4をNないしWに分説し、本件発明4と甲1発明の一致点及び相違点を前記第3.(2-1)ウのとおり主張している。

(1-3)対応関係の検討

そこで、請求人の主張する対応関係を検討し、請求人の主張する各甲号証記載の発明ないし事項が本件発明の各分説に相当するものであるか、否かについて検討する。

(1-3-1)本件発明1について

各分説の対応関係の検討に当たって、はじめに、分説EないしE-7を検討し、その後、分説AないしD、分説FないしHを検討する。

ア.分説EないしE-7について
本件発明1の分説EないしE-7の記述は、本件発明1の引出補助具(3)は、補助具本体(31)と、装着部(35)と、操作レバー(32)と、付勢する手段(36)と、脚部(34)を備えるものであることを示し、また、補助具本体(31)が、グリップ(30)と、中空部(310)と、貫通孔(314)を有するものであることを示すものである。
請求人は、本件発明1の引出補助具に関する分説EないしE-7について、甲1発明の1のEないしE-7が対応するとしている。そこで、以下、各分説EないしE-7について検討する。

ア-1.分説Eについて
請求人の主張によると、甲1発明の1の分説Eに係る「第2の操作手段(20)」が、本件発明1の分説Eに係る「引出補助具(3)」に対応するとしている。
この対応関係については、後記イ.で述べる。

ア-2.分説E-1について
分説E-1に係る、甲1発明の1の「取手部(31)」は、本件発明1の「グリップ(30)」に対応している。

ア-3.分説E-2について
本件発明1の分説E-2「中空部(310)と、」と、甲1発明の1の分説E-2「くり抜き部(42)と、」との対応について検討する。
本件発明1の分説E-2に係る中空部(310)は、補助具本体(31)の構成要件として記載されたものである。
これに対して、甲1発明の1のくり抜き部(42)は、本件発明1の補助具本体(31)に対応するメインレバー(30)に設けられたものではなく、本件発明1の操作レバー(32)に対応する甲1発明の1のセカンドレバー(40)に設けられたものである。
してみれば、補助具本体(31)の構成要件としての本件発明1の分説E-2に係る「中空部(310)」と、甲1発明の1の分説E-2に係る「くり抜き部(42)」は、その前提からして異なるものであり、本件発明1の分説E-2「中空部(310)と、」は、甲1発明の1の分説E-2「くり抜き部(42)と、」に相当しないものである。

ア-4.分説E-3について
本件発明1の分説E-3「該中空部(310)に通じている後部側の貫通孔(314)を有する補助具本体(31)と、」と、甲1発明の1の分説e-3「該くり抜き部(42)に面し、前記シャフトが挿通するシャフト案内用の貫通孔(34)を有するメインレバー(30)と、」との対応について検討する。
そもそも、甲1発明の1の「メインレバー(30)」が、請求人が本件発明1の中空部(310)に対応するとしている「くり抜き部(42)」を有したものではないのは上記ア-3.で述べたとおりである。
そして、甲1発明の1の「貫通孔(34)」は、メインレバー(30)に設けられているとはいえるものの、上記のとおり、メインレバー(30)にくり抜き部(42)を有していないのだから、くり抜き部(42)に通じているといえるものでもない。
してみれば、本件発明1の分説E-3に係る「補助具本体(31)」と、甲1発明の1の分説e-3に係る「メインレバー(30)」とは異なるものであり、本件発明1の分説E-3「該中空部(310)に通じている後部側の貫通孔(314)を有する補助具本体(31)と、」は、甲1発明の1の分説e-3「該くり抜き部(42)に面し、前記シャフトが挿通するシャフト案内用の貫通孔(34)を有するメインレバー(30)と、」に相当しないものである。

ア-5.分説E-4について
本件発明1の分説E-4「前記後部側の貫通孔(314)に挿入され前記補助具本体(31)に対して進退自在に設けられており、嵌め入れられる前記引出具(2,8)のシャフト(24,81)またはロッドを着脱自在に保持する装着部(35)と、」と、甲1発明の1の分説e-4「前記くり抜き部(42)に配設され挿入される前記第1の操作手段(10)のシャフト(12)を着脱可能に保持する支持部材(51)と前記シャフト(12)に形成されたねじ部(13)とにより構成される、シャフトを保持する手段と、」との対応について検討する。
そもそも、本件発明1の「中空部(310)」が、甲1発明の1の「くり抜き部(42)」に相当したものではないのは、上記ア-3.で述べたとおりである。
また、本件発明1の分説E-4のうち、装着部(35)が、「後部側の貫通孔(314)に挿入され」の点についてみると、請求人が本件発明1の装着部(35)に対応するとしている甲1発明の1の、「支持部材(51)」と「シャフト(12)に形成されたねじ部(13)」によって構成される「シャフトを保持する手段」は、本件発明1の中空部(310)に対応すると請求人の主張するくり抜き部(42)に配設されるものであって、本件発明1の貫通孔(314)に対応すると請求人の主張するシャフト案内用の貫通孔(34)に挿入されるものではない。
また、本件発明1の分説E-4のうち、装着部(35)が、「嵌め入れられる前記引出具(2,8)のシャフト(24,81)またはロッドを着脱自在に保持する」点についてみると、請求人が本件発明1の装着部(35)に対応するとしている甲1発明の1の「シャフトを保持する手段」は、そもそも、「支持部材(51)」と「シャフト(12)に形成されたねじ部(13)」によって構成されるのであるところ、そのようなねじによる保持は、以下のイ.欄で説示するように「着脱可能」保持とはいえない。
してみれば、本件発明1の分説E-4に係る「装着部(35)」は、甲1発明の1の分説e-4に係る「シャフトを保持する手段」とは異なるものであり、本件発明1の分説E-4「前記後部側の貫通孔(314)に挿入され前記補助具本体(31)に対して進退自在に設けられており、嵌め入れられる前記引出具(2,8)のシャフト(24,81)またはロッドを着脱自在に保持する装着部(35)と、」は、甲1発明の1の分説e-4「前記くり抜き部(42)に配設され挿入される前記第1の操作手段(10)のシャフト(12)を着脱可能に保持する支持部材(51)と前記シャフト(12)に形成されたねじ部(13)とにより構成される、シャフトを保持する手段と、」に相当しないものである。

ア-6.分説E-5について
本件発明1の分説E-5「前記中空部(310)の中で回動自在に軸支されており、前記引出具(2,8)のシャフト(24,81)またはロッドが通り抜け、かつ前記中空部(310)の中で前記装着部(35)と当接し前記装着部(35)の進退方向と同じ方向に動かす操作レバー(32)と、」と、甲1発明の1の分説e-5「前記くり抜き部(42)を備えた取手部(41)の側端面(43)より外方に突出した突出部(44A、44B)において回動自在に軸支されており、前記第1の操作手段(10)のシャフト(12)が挿通され前記支持部材(51)の移動方向と同じ方向に可動するセカンドレバー(40)と、」との対応について検討する。
そもそも、本件発明1の「中空部(310)」が、甲1発明の1の「くり抜き部(42)」に相当したものではないのは、上記ア-3.で述べたとおりである。
また、本件発明1の「装着部(35)」が、甲1発明の1の「シャフトを保持する手段」に対応したものではないのは、上記ア-5.で述べたとおりである。
そして、本件発明1の分説E-5のうち、操作レバー(32)が「前記中空部(310)の中で回動自在に軸支されており」の点についてみると、請求人が本件発明1の操作レバー(32)に対応するとしている甲1発明の1の「セカンドレバー(40)」は、本件発明1の中空部(310)に対応するとしている「くり抜き部(42)」の中で軸支されるものではなく、「取手部(41)の側端面(43)より外方に突出した突出部(44A、44B)において回動自在に軸支され」ているものである。
また、本件発明1の分説E-5のうち、操作レバー(32)が「前記中空部(310)の中で前記装着部(35)と当接し」の点についてみると、請求人が本件発明1の操作レバー(32)に対応するとしている甲1発明の1の「セカンドレバー(40)」は、本件発明1の装着部(35)に対応するとしているシャフトを保持する手段に当接するものではない。
してみれば、本件発明1の分説E-5に係る「操作レバー(32)」は、甲1発明の1の分説e-5に係る「セカンドレバー(40)」とは異なるものであり、本件発明1の分説E-5「前記中空部(310)の中で回動自在に軸支されており、前記引出具(2,8)のシャフト(24,81)またはロットが通り抜け、かつ前記中空部(310)の中で前記装着部(35)と当接し前記装着部(35)の進退方向と同じ方向に動かす操作レバー(32)と、」は、甲1発明の1の分説e-5「前記くり抜き部(42)を備えた取手部(41)の側端面(43)より外方に突出した突出部(44A、44B)において回動自在に軸支されており、前記第1の操作手段(10)のシャフト(12)が挿通され前記支持部材(51)の移動方向と同じ方向に可動するセカンドレバー(40)と、」に相当しないものである。

ア-7.分説E-6について
本件発明1の分説E-6「前記装着部(35)を進行させる方向に付勢する手段(36)と、」と、甲1発明の1の分説E-6「前記支持部材(51)を付勢するばね(14)とを備え、」との対応について検討する。
そもそも、本件発明1の「装着部(35)」が、甲1発明の1の「シャフトを保持する手段」に相当したものではないのは、上記ア-5.で述べたとおりである。
そして、本件発明1の分説E-6に係る「付勢する手段(36)」が付勢しているのは装着部(35)であるのに対して、甲1発明の1の分説E-6に係る「付勢するばね(14)」が付勢しているのは支持部材(51)である点で異なっている。
してみれば、本件発明1の分説E-6に係る「付勢する手段(36)」は、甲1発明の1の分説E-6に係る「付勢するばね(14)」とは異なるものであり、本件発明1の分説E-6「前記装着部(35)を進行させる方向に付勢する手段(36)と、」は、甲1発明の1の分説E-6「前記支持部材(51)を付勢するばね(14)とを備え、」に相当しないものである。

ア-8.分説E-7について
本件発明1の分説E-7「前記補助具本体(31)の前部側に設けられている脚部(34)と、」と、甲1発明の1の分説E-7「前記第2の操作手段(20)は、前記支持部(50)の前部側に設けられる脚体(90)に支持され、」との対応について検討する。
そもそも、本件発明1の「補助具本体(31)」が、甲1発明の1の「メインレバー(30)」に相当したものではないのは、上記ア-4.で述べたとおりである。
そして、本件発明1の分説E-7に係る「脚部(34)」が補助具本体(31)の前部側に設けられているものであるのに対して、甲1発明の1の分説E-7に係る「脚体(90)」は本件発明1の補助具本体(31)に対応するとしている甲1発明1のメインレバー(30)ではなく、引出補助具(3)に対応するとしている第2の操作手段(20)を支持している点で異なっている。
してみれば、本件発明1の分説E-7に係る「脚部(34)」は、甲1発明の1の分説E-7に係る「脚体(90)」とは異なるものであり、本件発明1の分説E-7「前記補助具本体(31)の前部側に設けられている脚部(34)と、」は、甲1発明の1の分説E-7「前記第2の操作手段(20)は、前記支持部(50)の前部側に設けられている脚体(90)に支持され」に相当しないものである。

イ.分説AないしDについて
請求人は、本件発明1の分説AないしDに関し、甲1発明の1の分説AないしDが対応するとしている。
本件発明1の分説AないしDは、本件発明1の基本的構成についての記述であり、本件発明1の分説Aに係る板金引出装置は、分説Bに係る引出具(2,8)と分説Cに係る引出補助具(3)の分説Dに係る組み合わせを基本としたものであって、分説Cは、「引出補助具(3)」は、「引出具(2,8)」に「着脱自在に取り付けできる」ものであることを示している。
ここで、「引出補助具(3)は引出具(2,8)に着脱自在に取り付けできる」ことについて検討する。
本件明細書の段落【0021】?【0023】には、以下のように記載されている。
「(作 用)
本発明に係る板金用引出装置及び引出補助具は次のように作用する。
例えば、比較的広い(大きい)凹み面を一度に引き出す荒出し作業等を行う場合には、引出具を単独で使用する。引出具は、施工箇所(板金面に出来た凹部の深さや面積)に適合したものを選ぶ。引出具として、溶接チップを備えた引出具を例に挙げて説明する。
まず、引出具を板金面の凹部に押し当て、溶接チップで凹部を押圧する。その状態で溶接チップの先端部を凹部に溶接する。
次に、引出具を直接手で引き、板金面の凹部を元の凹む前の状態までゆっくりと引き寄せる。板金面が平らになったことを確認した後、溶接チップの先端と板金面との溶接を解除する。
一方、荒出し作業後に更に細部の引き出しが必要である場合や、狭い(小さい)凹部の補修を行う場合は、引出補助具を引出具に装着し、板金用引出装置を構成して使用する。引出補助具は、少なくとも機能または構造を異にする取着部を備えた2種類以上の引出具の何れにも着脱自在に取り付けできるので、施工箇所に適合した引出具を引出補助具と選択的に組み合わせる。
まず、引出補助具の脚部を凹部の両側(凹んでいない部分)に押し当てた状態で、引出具の溶接チップの先端部を凹部に溶接する。
次に、引出具による凹部の引き出しに要する力を調整することができる手段により、引出具を引出補助具の外側に引き、凹部を元の凹む前の状態までゆっくりと引き出す。板金面が平らになったことを確認した後、溶接チップの先端と板金面との溶接を解除する。
また、引掛部等の他の取着部を備えた引出具を使用する場合は、引出補助具を溶接チップを備えた引出具から取り外し、選択した他の引出具に引出補助具を装着する。引掛部を備えた引出具を使用した場合は、板金面の凹部に溶接ワッシャや孔開きピン等を溶接し、その溶接ワッシャや孔開きピンに引掛部を直接的または間接的に引っ掛けて、凹部を引き出す。」
また、本件明細書の段落【0041】には、以下のように記載されている。
「(1)引出具2を単独で使用する場合
引出具2単独の使用は、比較的広い(大きい)凹み面を一度に引き出す荒出し作業を行う場合に特に適している。ただし、この使用方法に限定するものではなく、狭い(小さい)凹部の引き出し作業にも使用できることは言うまでもない。」
また、本件明細書の段落【0044】には、以下のように記載されている。
「また、図5に示すように、シャフト24にスライドハンマー5を装着することにより、溶接チップ23を凹部4に溶接した後にスライドハンマー5を可動させ、このスライドハンマー5の衝撃力を利用して凹部4を引き出す(あるいは衝撃力を利用して板金面に出来た凸部を叩く)こともできる。なお、スライドハンマー5を利用した補修方法は周知の技術であるため、スライドハンマー5の詳しい説明は省略する。」
上記各記載によれば、引出具(2,8)は単独で使用することもあれば、引出補助具(3)を引出具(2,8)に装着し、板金用引出装置を構成して使用することもあり、さらに、他の取着部を備えた引出具(8)を使用する場合は、引出補助具(3)を溶接チップを備えた引出具(2)から取り外し、選択した他の引出具(8)に引出補助具(3)を装着することもあるものである。
以上のとおり、分説Cに係る「着脱自在に取り付けできる」という発明特定事項が表しているのは、着脱に当たって、分解組み立て作業を伴うことなく、引出補助具(3)は引出具(2,8)に取り付けできるということである。
これに対して、請求人が本件発明1の分説Cに対応するとした甲1発明の1の分説cについてみると、甲第1号証に記載によれば、第2の操作手段(20)は、分説Bに係る第1の操作手段(10)に組み付けて、一体化して使用することを意図したものであって、第1の操作手段(10)と第2の操作手段(20)とは着脱して使用するものではなく、また、第1の操作手段(10)を単独で使うこともない。
甲1発明の1の分説cに係る第2の操作手段(20)は、第1の操作手段(10)に「着脱自在」であるとか「着脱可能」であるとかの議論以前に、第1の操作手段(10)と第2の操作手段(20)を「着脱」することについては、甲第1号証には、なんら記載も示唆もされていない。
この点について、甲第1号証は、上記第5.(1-1-1)の摘記事項エ.ないしオ.によれば、脚体(90)を第2の操作手段(20)のメインレバー(30)の腕杆(33A、33B)に固定するねじ(96、97)は、蝶ねじであり、これは、通常、特に工具などを用いることなく簡単に着脱するために固定するためのねじとして使われるものである。このことからも、甲1発明は、一体化された第1の操作手段と第2の操作手段に、脚体を着脱して使うものであることが示されている。また、甲第1号証の図12の記載も、脚体の位置調整をする際の態様を表したものであるが、このような場合、蝶ねじを道具無しで緩めたり締めたりすることにより、着脱作業、ひいては調整作業が容易になるようにすることが常套手段であり、脚体の位置調整に蝶ねじを使うことが示されている。
また、第1の操作手段(10)と第2の操作手段(20)の一体化について、請求人は、口頭審理陳述要領書の5.陳述の要領、III.請求の理由の補足、III-1.甲第1号証記載の発明、(4)、(5)において、「ところで、甲1は、そもそも、第2の操作手段(20)は脚体(90)により支承されており(甲1の特許請求の範囲の請求項1,3)、『支承』とは『取りはずし自在にまたは回動自在に支持すること』を意味すると解されるところ(甲7)、例えば、甲1の図1ないし図6に示される実施例においては、具体的には、脚部(91,92)の各上部には、案内溝(94,95)が形成され、この案内溝(94,95)にメインレバー(30)の腕杆(33A,33B)を挿入し、ねじ(96,97)にて固定されており(甲1の段落番号の段落番号【0023】)、脚体は腕杆に着脱可能ないし着脱自在な構成を取り、ねじによる腕杆への固定を解き脚体を外した状態では(資料4の参考図参照。資料4:本件特許発明の図1の天地を反転させた状態の図と甲1の第2の操作手段と脚体を分離した状態を示す板金用引出し具の『参考図』とを比較する対比図)、少なくとも第1の操作手段(10)[甲1によれば、第1の操作手段(10)はハンドル(11)とシャフト(12)とビット(15)を具備している]のみによっても、本件特許発明が引出具単独での使用を想定する板金面の荒出し作業を行ない得るものである。」、「このため、甲1において、ねじによる腕杆への固定を解き脚体を外した状態では、少なくとも第1の操作手段(10)のみによっても、本件特許発明が引出具単独での使用を想定する板金面の荒出し作業を行ないことが可能であり、この点において本件特許発明1と甲1は同等(等価)の作用効果を奏する。」と述べており、このことも、甲1発明の1は、脚体(90)が着脱自在であるとしても、第1の操作手段(10)と第2の操作手段(20)は一体化しているものであり、第1の操作手段(10)は第2の操作手段(20)から取り外して、単独で使用することについては記載も示唆もない。
請求人が、甲1発明1の1の分説cにおいて第2の操作手段が「着脱可能」であるとした理由は、甲1発明の1の第2の操作手段(20)が、第1の操作手段(10)に組み付けられている点を根拠として、組み付けられたものである以上、分解することにより着脱も「可能」であり、さらに、「着脱自在」と「着脱可能」は大きな違いではないというものであるところ、甲第1号証には、第1の操作手段(10)と第2の操作手段(20)を着脱して使用する点の記載も示唆もないのであるから、この理由は、引出具と引出補助具を着脱するという本件発明1によって公知となった発明をみて、甲1発明の1を事後的・主観的に解釈したもので、いわば後知恵によるものである。
そして、上記ア.で検討したように、本件発明1の引出補助具(3)は、甲1発明の1の第2の操作手段(20)とは、分説E-2ないしE-7においても相違するものである。
以上のとおり、本件発明1の分説C「該引出具(2,8)に着脱自在に取り付けできる引出補助具(3)と」が、甲1発明の1の分説c「該第1の操作手段(10)に着脱可能に取り付け得るとともに、前記第1の操作手段と協働して板金面の引き出しを行なう第2の操作手段(20)と」に対応するとした、請求人の主張は、その前提となる甲1発明の1の第2の操作手段(20)の解釈に関して、引出補助具と引出具の着脱の点で誤っており、本件発明1と甲1発明の1は、分説Cに関して、本件発明1が引出補助具(3)が該引出具(2,8)に着脱自在に取り付けできるものであるのに対して、甲1発明の1の第1の操作手段(10)と第2の操作手段(20)は、上記ア.で述べたように相違しているから、本件発明1の分説C「該引出具(2,8)に着脱自在に取り付けできる引出補助具(3)と」は、甲1発明の1の分説c「該第1の操作手段(10)に着脱可能に取り付け得るとともに、前記第1の操作手段と協働して板金面の引き出しを行なう第2の操作手段(20)と」に相当しないものである。
上記ア-1.に係る分説Eについても、同様の理由により、本件発明1の分説Eに係る「引出補助具(3)」は、甲1発明の1の分説Eに係る「第2の操作手段(20)」に相当しないものである。

なお、残余の、分説A,B,Dについては、本件発明1は甲1発明の1と対応している。

ウ.分説FないしF-2について
請求人は、本件発明1の装着部に関する分説FないしF-2について、甲1発明の1の分説fないしf-2が対応するとしている。そこで、以下、各分説FないしF-2について検討する。
本件発明1の分説FないしF-2の記述は、本件発明1の装着部(35)は、装着部本体(352)と、調整部(354)を有するものであることを示すものである。

ウ-1.分説Fについて
本件発明1の分説Fに係る「装着部(35)」が、甲1発明の1の分説fに係る「シャフトを保持する手段」に対応したものではないのは、上記ア-5.で述べたとおりである。

ウ-2.分説F-1について
本件発明1の分説F-1「筒状の装着部本体(352)と、」と、甲1発明の1の分説f-1「貫通孔(52)が形成された前記支持部材(51)を含み、」との対応について検討する。
請求人が本件発明1の筒状の装着部本体(352)に対応するとしている甲1発明の1の「支持部材(51)」は、「筒状」ではない。
してみれば、本件発明1の分説F-1に係る「筒状の装着部本体(352)」は、甲1発明の1の分説f-1に係る「支持部材(51)」とは異なるものであり、本件発明1の分説F-1「筒状の装着部本体(352)と、」と、甲1発明の1の分説f-1「貫通孔(52)が形成された前記支持部材(51)を含み、」に相当しないものである。

ウ-3.分説F-2について
本件発明1の分説F-2「前記補助具本体(31)の後部側に露出しており前記装着部本体(352)に螺合して装着部(35)全体の長さを調節する筒状の調整部(354)を有し、」と、甲1発明の1の分説f-2「前記支持部材(51)の前記貫通孔(52)にめねじ部を形成し、この支持部材(51)を前記くり抜き部(42)に収容し、前記貫通孔(52)のめねじ部と前記シャフト(12)に形成されたねじ部(13)を螺合させ、前記貫通孔(52)のめねじ部と前記シャフト(12)のねじ部(13)の螺合の進め具合を加減して前記シャフト(12)の位置決めを行い、前記シャフト(12)の先端に配設したビット(15)の位置を調製し、」との対応について検討する。
そもそも、本件発明1の「装着部(35)」が、甲1発明の1の「シャフトを保持する手段」に相当したものではないのは、上記ア-5.で述べたとおりである。
また、本件発明1の「補助具本体(31)」が、甲1発明の1の「メインレバー(30)」に相当したものではないのは、上記ア-4.で述べたとおりである。
そして、本件発明1の分説F-2のうち、調整部(354)が「補助具本体(31)の後部側に露出しており」の点についてみると、請求人が本件発明1のF-2に対応するとしている甲1発明の1の分説f-2には、メインレバー(30)の後部側に露出した調整部に相当する記載はない。
また、本件発明1の分説F-2のうち、調整部(354)が「装着部本体(352)に螺合して装着部(35)全体の長さを調節する」ものである点についてみると、請求人が本件発明1の分説F-2に対応するとしている甲1発明の1の分説f-2は、「支持部材(51)の前記貫通孔(52)にめねじ部を形成し」、「前記貫通孔(52)のめねじ部と前記シャフト(12)に形成されたねじ部(13)を螺合させ、前記貫通孔(52)のめねじ部と前記シャフト(12)のねじ部(13)の螺合の進め具合を加減して前記シャフト(12)の位置決めを行い、前記シャフト(12)の先端に配設したビット(15)の位置を」調整するものであるから、シャフト(12)を備えた第1の操作手段(10)を構成要件とするものであり、請求人が本件発明1の引出補助具(3)に対応するとした甲1発明の第2の操作手段(20)以外の構成を含むことになる。
してみれば、本件発明1の分説F-2に係る「調整部(354)」に対応する記載は、甲1発明の1の分説f-2にはなく、本件発明1の分説F-2「前記補助具本体(31)の後部側に露出しており前記装着部本体(352)に螺合して装着部(35)全体の長さを調節する筒状の調整部(354)を有し、」は、甲1発明の1の分説f-2「前記支持部材(51)の前記貫通孔(52)にめねじ部を形成し、この支持部材(51)を前記くり抜き部(42)に収容し、前記貫通孔(52)のめねじ部と前記シャフト(12)に形成されたねじ部(13)を螺合させ、前記貫通孔(52)のめねじ部と前記シャフト(12)のねじ部(13)の螺合の進め具合を加減して前記シャフト(12)の位置決めを行い、前記シャフト(12)の先端に配設したビット(15)の位置を調製し、」に相当するものではない。

エ.分説Gについて
本件発明1の分説G「前記引出補助具(3)は、前記引出具のシャフト(24,81)またはロッドを前記装着部(35)に嵌め入れて通すことにより前記引出具(2,8)に装着される、」と、甲1発明の1の分説G「前記第2の操作手段(20)は、前記第1の操作手段(12)のシャフト(11)を前記支持部材(51)に挿通することにより前記第1の操作手段(10)に装着される、」との対応について検討する。
そもそも、本件発明1の「引出補助具(3)」が甲1発明の1の「第2の操作手段(20)」に相当しないものであることは、上記ア.で述べたとおりである。
また、本件発明1の「装着部(35)」が甲1発明の1の「支持部材(51)」に相当しないものであることは、上記ア-5.で述べたとおりである。
そして、請求人が、本件発明1の分説Gに係る「嵌め入れて通すこと」に対応するとしている甲1発明の1の分説Gに係る「挿通すること」についてみると、甲1発明の1のシャフト(11)と支持部材(51)は、シャフト(11)のねじ部(13)と、支持部材(51)の貫通孔(52)のめねじ部を螺合することによって組み立てられているものであるから、「嵌め入れて通す」ものではない。
してみれば、本件発明1の分説Gに係る「嵌め入れて通すこと」は、甲1発明の1の分説Gに係る「挿通すること」とは異なるものであり、本件発明1の分説G「前記引出補助具(3)は、前記引出具のシャフト(24,81)またはロッドを前記装着部(35)に嵌め入れて通すことにより前記引出具(2,8)に装着される、」と、甲1発明の1の分説G「前記第2の操作手段(20)は、前記第1の操作手段(12)のシャフト(11)を前記支持部材(51)に挿通することにより前記第1の操作手段(10)に装着される、」に相当しないものである。

オ.分説Hについて
分説Hにおける甲1発明の1が「板金用引出し具」である点は、本件発明1の「板金用引出装置」に対応している。
この点に関しては、分説Aと同様である。

(1-3-2)本件発明2について

カ.分説IないしKについて
分説IないしKのうち、分説I、Jにおける、甲3記載事項2が、分説I「板金面を引き出す2種類の引出具を有し、」、分説J「引出具は、先端部に形成される取着部の機能または構造を異にする金属ピン16または治具フック15Bを備え、金属ピン16または治具フック15Bは引出補助具に対して選択的に組み合わすことができる、」点は、本件発明2の分説I「板金面を引き出す2種類以上の引出具(2)を有し、」、J「該2種類以上の引出具(2)はシャフト(24,81)またはロッドの先端部に設けられた取着部の少なくとも機能または構造を異にし、引出補助具(3)に対して選択的に組み合わされる、」に対応している。
しかしながら、本件発明2の分説Kが「請求項1に記載の板金用引出装置。」と、請求項1を引用している点においては、本件発明2の分説Kと甲3記載事項2の分説Kは対応していない。

(1-3-3)本件発明3について

キ.分説L,Mについて
分説L,Mのうち、分説Lにおける、甲3記載事項2が、分説L「2種類以上の引出具は、溶接チップを備えたものと引掛部を備えたものを含んでいる、」点は、本件発明3の分説L「2種類以上の引出具は、溶接チップを備えたものと引掛部を備えたものを含んでいる、」に対応している。
しかしながら、本件発明3の分説Mが「請求項2に記載の板金用引出装置。」と、請求項2を引用している点においては、本件発明3の分説Mと甲3記載事項2の分説Mは対応していない。

甲1,4記載事項「引出具が溶接チップを備えた引出具」は、本件発明3の分説L「2種類以上の引出具は、溶接チップを備えたものと引掛部を備えたものを含んでいる、」のうち、「溶接チップ」に関しては、対応している。
しかしながら、本件発明3の分説Mが「請求項2に記載の板金用引出装置。」と、請求項2を引用している点においては、甲1,4記載事項は対応していない。

甲5記載事項「プーラ用シャフトとしてプルアップフック(31)あるいはウェルトアップヘッド(32)を選択できる板金用プーラ工具」は、本件発明3の分説L「2種類以上の引出具は、溶接チップを備えたものと引掛部を備えたものを含んでいる、」に対応している。
しかしながら、本件発明3の分説Mが「請求項2に記載の板金用引出装置。」と、請求項2を引用している点においては、甲5記載事項は対応していない。

(1-3-4)本件発明4について

ク.分説Nについて
請求人は、本件発明4の分説N「シャフト(24,81)またはロッドを備え、板金面を引き出すための引出具(2,8)と協働して板金面を引き出す引出補助具(3)であって、」について、甲1発明の2の分説N「シャフト(12)を備えた板金面を引き出すための第1の操作手段(10)と協働して板金面を引き出す第2の操作手段(20)であって、」が対応するとしている。
この点について検討すると、本件発明4の分説Nに係る引出補助具(3)は、「シャフト(24,81)またはロッドを備え、板金面を引き出すための引出具(2,8)と協働して板金面を引き出す」限りにおいて、甲1発明の2の分説Nと対応している。

ケ.分説Pについて
請求人は、本件発明4の分説P「グリップ(30)と、中空部(310)と、該中空部(310)に通じている後部側の貫通孔(314)を有する補助具本体(31)と、」について、甲1発明の2の分説P-1「取手部(31)と、」、P-2「くり抜き部(42)と、」p-3「該くり抜き部(42)に面し前記シャフトが挿通するシャフト案内用の貫通孔(34)を有するメインレバー(30)と、」が対応するとしている。
この点について検討すると、分説Pは、実質的に、上記(1-3-1)、ア-2.ないしア-4.で述べた分説E-1ないしE-3と同じであり、分説E-1ないしE-3と同様の判断が適用できる。
上記判断によれば、本件発明4の分説Pは、甲1発明の2の分説P-1には対応するものの、分説P-2ないしp-3に相当するものではない。

コ.分説Qについて
請求人は、本件発明4の分説Q「前記後部側の貫通孔(314)に挿入され前記補助具本体(31)に対して進退自在に設けられており、嵌め入れられる前記引出具(2,8)のシャフト(24,81)またはロッドを着脱自在に保持する装着部(35)と、」について、甲1発明の2の分説q「前記くり抜き部(42)に配設され挿入される前記第1の操作手段(10)のシャフト(12)を着脱可能に保持する支持部材(51)と前記シャフト(12)に形成されたねじ部(13)とにより構成される、シャフトを保持する手段と、」が対応するとしている。
この点について検討すると、分説Qは上記ア-5.で述べた分説E-4と同じであり、分説E-4と同様の判断が適用できる。
上記判断によれば、本件発明4の分説Qは、甲1発明の2の分説qに相当するものではない。

サ.分説Rについて
請求人は、本件発明4の分説R「前記中空部(310)の中で回動自在に軸支されており、前記引出具(2,8)のシャフト(24,81)またはロットが通り抜け、かつ前記中空部(310)の中で前記装着部(35)と当接し前記装着部(35)の進退方向と同じ方向に動かす操作レバー(32)と、」について、甲1発明の2の分説r「前記くり抜き部(42)を備えた取手部(41)の側端面(43)より外方に突出した突出部(44A,44B)において回動自在に軸支されており、前記第1の操作手段(10)のシャフト(12)が挿通され前記支持部材(51)の移動方向と同じ方向に可動するセカンドレバー(40)と、」が対応するとしている。
この点について検討すると、分説Rは上記ア-6.で述べた分説E-5と同じであり、分説E-5と同様の判断が適用できる。
上記判断によれば、本件発明1の分説Rは、甲1発明の2の分説rに相当するものではない。

シ.分説Sについて
請求人は、本件発明4の分説S「前記装着部(35)を進行させる方向に付勢する手段(36)と、」について、甲1発明の2の分説s「前記支持部材(51)を付勢するばね(14)とを備え、」が対応するとしている。
この点について検討すると、分説Sは上記ア-7.で述べた分説E-6と同じであり、分説E-6と同様の判断が適用できる。
上記判断によれば、本件発明1の分説Sは、甲1発明の2の分説sに相当するものではない。

ス.分説Tについて
請求人は、本件発明4の分説T「前記補助具本体(31)の前部側に設けられている脚部(34)と、」について、甲1発明の2の分説T「前記支持部(50)の前部側に設けられる脚体(90)に支持され、」が対応するとしている。
この点について検討すると、分説Tは上記ア-8.で述べた分説E-7と同じであり、分説E-7と同様の判断が適用できる。
上記判断によれば、本件発明1の分説Tは、甲1発明の2の分説Tに相当するものではない。

セ.分説UないしU-2について
請求人は、本件発明4の分説U「前記装着部(35)は、」、分説U-1「筒状の装着部本体(352)と、」、分説U-2「前記補助具本体(31)の後部側に露出しており前記装着部本体(352)に螺合して装着部(35)全体の長さを調節する筒状の調整部(354)を有し、」について、それぞれ、甲1発明の2の分説u「前記シャフトを保持する手段は、」、分説u-1「貫通孔(52)が形成された前記支持部材(51)を含み、」、分説u-2「前記支持部材(51)の前記貫通孔(52)にめねじ部を形成し、この支持部材(51)を前記くり抜き部(42)に収容し、前記貫通孔(52)のめねじ部と前記シャフト(12)に形成されたねじ部(13)を螺合させ、前記貫通孔(52)のめねじ部と前記シャフト(12)のねじ部(13)の螺合の進め具合を加減して前記シャフト(12)の位置決めを行い、前記シャフト(12)の先端に配設したビット(15)の位置を調製し、」が対応するとしている。
この点について検討すると、分説UないしU-2は上記ウ.ないしウ-3.で述べた分説FないしF-2と同じであり、分説FないしF-2と同様の判断が適用できる。
上記判断によれば、本件発明1の分説UないしU-2は、それぞれ甲1発明の2の分説uないしu-2に相当するものではない。

ソ.分説Vについて
請求人は、本件発明4の分説V「前記引出具のシャフト(24,81)またはロッドを前記装着部(35)に嵌め入れて通すことにより前記引出具(2,8)に装着される、」について、甲1発明の2の分説V「前記第1の操作手段(12)のシャフト(11)を前記支持部材(51)に挿通することにより前記第1の操作手段(10)に装着される、」が対応するとしている。
この点について検討すると、分説Vは上記エ.で述べた分説Gと同じであり、分説Gと同様の判断が適用できる。
上記判断によれば、本件発明1の分説Vは、甲1発明の2の分説Vに相当するものではない。

タ.分説Wについて
請求人は、本件発明41の分説W「引出補助具」について、甲1発明の2の分説w「第2の操作手段」が対応するとしている。
この点について検討すると、本件発明4の分説Vは、シャフト(24,81)またはロッドを備え、板金面を引き出すための引出具(2,8)と協働して板金面を引き出す「引出補助具」である限りにおいて、甲1発明の2の分説wと対応している。

(1-4)容易想到性の検討

(1-4-1)本件発明1について

ア.はじめに
請求人の主張する、本件発明1と、甲1発明の1との対比は、上記(1-3-1)のように部分的に否定されたので、請求人の主張する、本件発明1と甲1発明の1との一致点、及び、相違点1ないし3は、誤りである。

イ.甲第1号証記載の発明
前記第5.(1-1-1)甲第1号証の記載事項の摘記事項ア.ないしオ.によれば、甲第1号証には、次のとおりの発明が記載されている。
「シャフト(12)と、該シャフト(12)の先端部に配設し板金面に溶着可能なビット(15)を備えた第1の操作手段(10)と、
該第1の操作手段(10)のシャフト(12)を支持する支持部(50)を備え、手動操作により前記第1の操作手段(10)を引き上げる第2の操作手段(20)と、
該第2の操作手段(20)を着脱可能に支承する脚体(90)とを具備し、
前記第2の操作手段(20)を、
取手部(31)と、脚体90によって支承される左右一対の腕杆(33A,33B)と、前記シャフト(12)案内用の貫通孔(34)と、連結アーム(60)を軸支する突出部(35A,35B)を備えたメインレバー(30)と、
取手部(41)と、くり抜き部(42)に配設し前記第1の操作手段(10)を支持する支持部(50)と、前記連結アーム(60)の他端を軸支する突出部(44A,44B)を備えたセカンドレバー(40)と、
このメインレバー(30)とセカンドレバー(40)との間に介在させたばね(14)を含んで構成し、
前記支持部(50)は、中央貫通孔(52)にめねじ部を形成した支持部材(51)を前記くり抜き部(42)内に収容し、ねじ(48,49)により前記セカンドレバー(40)に固定して構成され、前記支持部材(51)の貫通孔(52)と前記シャフト(12)のねじ部(13)が螺合し、前記第1の操作手段(10)は前記第2の操作手段(20)に前記連結アーム(60)により回動自在に支持されるものであり、
上記ばね(14)により前記セカンドレバー(40)を付勢させ、前記メインレバー(30)とセカンドレバー(40)間を前記ばね(14)に抗しながらつぼめて板金面の引き出しを行う、
板金用引出し具。」(以下、これを「甲1発明」という。)

そして、本件発明1と甲1発明とを比較すると、後者は「板金用引出し具」であり、これは「板金用引出し装置」ということができるから、前者の「板金用引出装置」に相当し、後者の「シャフト(12)」は、前者の「シャフト(24,81)」に、後者の「第1の操作手段(10)」は、前者の「引出具(2,8)」に、それぞれ相当している。
また、後者の「取手部(31)」は、前者の「グリップ(30)」に、後者の「ばね(14)」は、前者の「付勢する手段(36)」に、後者の「脚体(90)」は、前者の「脚部(34)」に、それぞれ相当している。
また、後者の「第2の操作手段(20)」は、前者の「引出補助具(3)」と、前者の引出具(2,8)に相当する第1の操作手段(10)と組み合わせて使うものであり、前者の脚部(34)に相当する脚体(90)を備え、前者の付勢する手段(36)に相当するばね(14)を備える限りにおいて相当している。
さらに、後者の「メインレバー(30)」は、前者の「補助具本体(31)」と、前者のグリップ(30)に相当する取手部(31)を有する限りにおいて相当し、後者の「セカンドレバー(40)」は、前者の「操作レバー(32)」と、引出具を進退方向と同じ方向に動かす限りにおいて相当し、後者の「支持部(50)」は、前者の「装着部(35)」とは、引出具を装着する限りにおいて相当し、後者の「支持部(50)」は、前者の「調整部(354)」とは、ビットの位置を調整する限りにおいて相当している。

ウ.一致点・相違点
してみれば、本件発明1と甲1発明との一致点、相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「板金面を引き出すための板金用引出装置であって、シャフトを備えている引出具と、引出補助具との組み合わせを含み、引出補助具は、グリップを有する引出補助具本体と、脚部と、操作レバーと、操作レバー進行させる方向に付勢する手段と、引出具を装着する装着部と、ビット位置を調整する調整部を備える板金用引出装置。」

<相違点1>
本件発明1は、引出補助具の補助具本体が、「中空部と、該中空部に通じている後部側の貫通孔を有」し、「引出補助具」の「操作レバー」が、「補助具本体」の「中空部の中で回動可能に軸支され」、「中空部の中で装着部と当接」するものであるのに対して、甲1発明の第2の操作手段(20)のメインレバー(30)はそのような中空部、貫通孔を有せず、甲1発明のセカンドレバーは、中空部の中で軸支されるものではないし、装着部と当接するものでもない点。

<相違点2>
本件発明1は、引出補助具が、「後部側の貫通孔に挿入され補助具本体に対して進退自在に設けられており、嵌め入れられる引出具のシャフトまたはロッドを着脱自在に保持する装着部」を備え、前記装着部は、「筒状の装着部本体と、補助具本体の後部側に露出しており前記装着部本体に螺合して装着部全体の長さを調整する筒状の調整部を有」するものであり、これによって、引出補助具は引出具に、「引出具のシャフトまたはロッドを装着部に嵌め入れて通すことにより」、着脱自在に取り付けできるものであるのに対して、甲1発明には、装着部と同様にシャフトを支持する支持部はあるものの、支持部は、「後部側の貫通孔に挿入され補助具本体に対して進退自在に」設けられているものではなく、また、支持部材の貫通孔とシャフトのねじ部が螺合するから、支持部は、「嵌め入れられる引出具のシャフトまたはロッドを着脱自在に保持する」装着部を有せず、さらに、支持部は、本件発明1の調整部の機能と同様の調整機能をなすものではあるものの、「補助具本体の後部側に露出しており前記装着部本体に螺合して装着部全体の長さを調整する筒状」のものではなく、結果として、第1の操作手段と第2の操作手段は着脱できない点。

エ.相違点についての判断
相違点1、2に関して、甲第2ないし10号証をみると、以下のとおりである。

甲第2号証には、本件発明1のグリップと操作レバーに相当する、「ハンドル14」と「可動ハンドル20」は記載されているものの、本件発明1の引出具に相当する「スライドロッド74」は、本件発明1の引出補助具に相当する「フレーム部材12」の中に組み込まれているものであるから、相違点1に係る、「引出補助具の補助具本体」が、「中空部と、該中空部に通じている後部側の貫通孔を有」し、「引出補助具」の「操作レバー」が、「補助具本体」の「中空部の中で回動可能に軸支され」、「中空部の中で装着部と当接」する点、及び、相違点2に係る、引出補助具が、「後部側の貫通孔に挿入され補助具本体に対して進退自在に設けられており、嵌め入れられる引出具のシャフトまたはロッドを着脱自在に保持する装着部」を備え、前記装着部は、「筒状の装着部本体と、補助具本体の後部側に露出しており前記装着部本体に螺合して装着部全体の長さを調整する筒状の調整部を有」するものであり、これによって、引出補助具は引出具に、「引出具のシャフトまたはロッドを装着部に嵌め入れて通すことにより」、着脱自在に取り付けできるものである点は、記載も示唆もされていない。

甲第3号証にも、本件発明1のグリップと操作レバーに相当する、「ハンドル2」と「ハンドル1」は記載されているものの、本件発明1の引出具に相当する「ワッシャー引出し治具15」は、本件発明1の引出補助具に相当する「自動車修理用パネル引出工具」の中に組み込まれているものであるから、相違点1に係る、「引出補助具の補助具本体」が、「中空部と、該中空部に通じている後部側の貫通孔を有」し、「引出補助具」の「操作レバー」が、「補助具本体」の「中空部の中で回動可能に軸支され」、「中空部の中で装着部と当接」する点、及び、相違点2に係る、引出補助具が、「後部側の貫通孔に挿入され補助具本体に対して進退自在に設けられており、嵌め入れられる引出具のシャフトまたはロッドを着脱自在に保持する装着部」を備え、前記装着部は、「筒状の装着部本体と、補助具本体の後部側に露出しており前記装着部本体に螺合して装着部全体の長さを調整する筒状の調整部を有」するものであり、これによって、引出補助具は引出具に、「引出具のシャフトまたはロッドを装着部に嵌め入れて通すことにより」、着脱自在に取り付けできるものである点は、記載も示唆もされていない。

甲第4号証には、本件発明1の引出具に相当する「鈑金均し装置」のみが記載され、本件発明1の引出補助具に相当する記載はない。

甲第5号証には、本件発明1の操作レバーに相当する、「シャフト操作用レバー(4)」は記載されているものの、本件発明1の引出具に相当する「プーラ用シャフト(3)」は、本件発明1の引出補助具に相当する「当接用支持基体(1)」の中に組み込まれているものであるから、相違点1に係る、「引出補助具の補助具本体」が、「中空部と、該中空部に通じている後部側の貫通孔を有」し、「引出補助具」の「操作レバー」が、「補助具本体」の「中空部の中で回動可能に軸支され」、「中空部の中で装着部と当接」する点、及び、相違点2に係る、引出補助具が、「後部側の貫通孔に挿入され補助具本体に対して進退自在に設けられており、嵌め入れられる引出具のシャフトまたはロッドを着脱自在に保持する装着部」を備え、前記装着部は、「筒状の装着部本体と、補助具本体の後部側に露出しており前記装着部本体に螺合して装着部全体の長さを調整する筒状の調整部を有」するものであり、これによって、引出補助具は引出具に、「引出具のシャフトまたはロッドを装着部に嵌め入れて通すことにより」、着脱自在に取り付けできるものである点は、記載も示唆もされていない。

甲第6、7号証には、板金引出しに関する記載はない。

甲第8号証には、本件発明1の引出具に相当する「鈑金用具10」のみが記載され、本件発明1の引出補助具に相当する記載はない。

甲第9、10号証には、本件発明1の引出具に相当する「鈑金用具10」のみが記載され、本件発明1の引出補助具に相当する記載はない。

そして、上記相違点1、2は、当業者にとって自明な事項でもない。

してみれば、本件発明1が、甲第1号証ないし甲第10号証に記載された発明に基づいて容易に発明できたものとすることはできない。

(1-4-2)本件発明2について

上記(1-4-1)で述べたように、本件発明1は甲各号証記載の発明に基づいて容易に発明できたものでないから、本件発明2の分説I,Kに係る発明特定事項が甲第3号証に記載されていたとしても、本件発明1に従属する本件発明2が甲第1号証ないし甲第10号証に記載された発明に基づいて容易に発明できたものであるとすることはできない。

(1-4-3)本件発明3について

上記(1-4-1)で述べたように、本件発明1は甲各号証記載の発明に基づいて容易に発明できたものでないから、本件発明3の分説Lに係る発明特定事項が甲第1号証、甲第3ないし5号証に記載されていたとしても、本件発明1に従属する本件発明3が甲第1号証ないし甲第10号証に記載された発明に基づいて容易に発明できたものであるとすることはできない。

(1-4-4)本件発明4について

ア.はじめに
本件発明1と同様に、請求人の主張する、本件発明4と、甲1発明の1との対比は、上記(1-3-4)のように部分的に否定されたので、請求人の主張する、本件発明4と甲1発明の1との一致点、及び、相違点4ないし6は、誤りである。

イ.甲第1号証記載の発明
上記(1-4-1)のイ.で述べたように、甲第1号証には甲1発明が記載されている。

ウ.一致点・相違点
本件発明4は、本件発明1に係る板金用引出装置に係る引出具と引出補助具のうち、引出補助具のみに関するものであり、上記(1-4-1)のウ.と同様に、一致点、相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「板金面を引き出すための引出補助具であって、シャフトを備えている引出具と協働するものであり、引出補助具は、グリップを有する引出補助具本体と、脚部と、操作レバーと、操作レバー進行させる方向に付勢する手段と、引出具を装着する装着部と、ビット位置を調整する調整部を備える板金用引出装置。」

<相違点3>
本件発明4は、引出補助具の補助具本体が、「中空部と、該中空部に通じている後部側の貫通孔を有」し、「引出補助具」の「操作レバー」が、「補助具本体」の「中空部の中で回動可能に軸支され」、「中空部の中で装着部と当接」するものであるのに対して、甲1発明の第2の操作手段(20)のメインレバー(30)はそのような中空部、貫通孔を有せず、甲1発明のセカンドレバーは、中空部の中で軸支されものではないし、装着部と当接するものでもない点。

<相違点4>
本件発明4は、引出補助具が、「後部側の貫通孔に挿入され補助具本体に対して進退自在に設けられており、嵌め入れられる引出具のシャフトまたはロッドを着脱自在に保持する装着部」を備え、前記装着部は、「筒状の装着部本体と、補助具本体の後部側に露出しており前記装着部本体に螺合して装着部全体の長さを調整する筒状の調整部を有」するものであり、これによって、引出補助具は引出具に、「引出具のシャフトまたはロッドを装着部に嵌め入れて通すことにより」、着脱自在に取り付けできるものであるのに対して、甲1発明には、装着部と同様にシャフトを支持する支持部はあるものの、支持部は、「後部側の貫通孔に挿入され補助具本体に対して進退自在に」設けられているものではなく、また、支持部材の貫通孔とシャフトのねじ部が螺合するから、支持部は、「嵌め入れられる引出具のシャフトまたはロッドを着脱自在に保持する」装着部を有せず、さらに、支持部は、本件発明1の調整部の機能と同様の調整機能をなすものではあるものの、「補助具本体の後部側に露出しており前記装着部本体に螺合して装着部全体の長さを調整する筒状」のものではなく、結果として、第1の操作手段と第2の操作手段は着脱できない点。

エ.相違点についての判断
相違点3、4に関して、甲第2ないし10号証をみると、本件発明1と同様に、各甲号証のいずれにも、相違点3、4について記載されていないし、示唆もされていない。

そして、上記相違点3、4は、当業者にとって自明な事項でもない。

してみれば、本件発明4が、甲第1号証ないし甲第10号証に記載された発明に基づいて容易に発明できたものとすることはできない。

(1-5)無効理由1についての結論

以上のとおり、本件発明1ないし4は、甲第1号証ないし甲第10号証に記載された発明に基づいて容易に発明できたものとすることはできないから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとすることはできない。

(2)無効理由2について

請求人は、無効理由2について、平成24年2月7日付け口頭審理陳述要領書の5.陳述の要領、V.被請求人の主張に対する反論:無効理由2において、審判請求書に記載の無効理由2における「衝接」という用語の使用を撤回し、以下のとおり主張している。
「(4)本件特許発明の目的は上記iv(3)ロー2に記載のところ。本件特許の請求項1において、引出具と引出補助具は着脱自在にあるとされ、引出具と引出補助具により板金面の凹部の引き出し行い補修を行うためには、シャフト装着部35がシャフト24の基端部に形成されたフランジ部242に当たり引出具と引出補助具が協動する構成をとることが必須の要件と解されるところ,請求項1よれば『・・・シャフト・・・を着脱自在に保持する装着部と、・・・装着部は、・・・装着部本体と、・・・調整部・・・を有し、・・・シャフト・・・を・・・装着部に嵌め入れて通す・・・』ことが要件とはされているが引出具を引出補助具に装着し引出具に凹部の引き出しに要する力を伝え補修を行うことを可能とする『(シャフト)装着部はシャフトの基端部に形成されたフランジ部に当たることが可能に形成されていること』の構成が請求項1の記載からは認められない。請求項1の記載には『(シャフト)装着部がシャフトの基端部に形成されたフランジ部に当たらない』構成をも含むと解され、請求項1?3に記載の発明には発明の詳細な説明に記載していない発明を含むとともに発明の明確性を欠くことになると思料する。」

この点について検討すると、本件特許明細書の【図1】は、「本発明に係る板金用引出装置の第1の実施の形態を示し、この板金用引出装置を引出具と引出補助具に分離した状態を示す説明図。」であり、【図2】は、「引出具に引出補助具を装着して、凹部の引き出し作業を行っている状態を示す縦断面図。」である。
そして、これらに対応する明細書の段落【0027】の記載によれば、引出具2のフランジ部242が、引出補助具3のシャフト装着部35に接すること、同じく、明細書の段落【0036】、【0037】の記載によれば、装着部35の調整部354にはフランジ353があって、これが引出具2のフランジ部242に接するものであり、この、フランジ353とフランジ部242が接した状態が、引出具2が引出補助具3に装着された状態であり、それが、【図2】に示される、作業を行っている状態であることが明らかである。
そして、このようなフランジ部同士が接して押力を伝える場合、例えば、フランジ部間にワッシャやカラーなどのスペーサーを介入させれば、フランジ部間の距離を調整しつつ押力を伝えることができるのは、本件明細書に接した当業者にとって自明な事項であるから、「(シャフト)装着部がシャフトの基端部に形成されたフランジ部に当たらない」構成は、明細書の記載から自明な事項の範囲にあり、特許請求の範囲に、(シャフト)装着部はシャフトの基端部に形成されたフランジ部に「当たる」ことが可能に形成されていることが記載されていないことをもって、発明の明確性を欠くものとすることはできない。
さらにいえば、本件発明1は、「引出補助具(3)」の「装着部(35)」が、「引出具(2,8)」の「シャフト(24,81)またはロッド」を、「着脱自在に保持」することによって、明細書記載の所期の目的を達成することは明らかであるから、発明特定事項としては、「装着部(35)」が「着脱自在に保持」することが記載されていれば充分なのであって、保持の具体的構成である「フランジ部」までも記載する必要はない。
本件の特許請求の範囲の請求項1には、引出補助具(3)が備える装着部(35)が、「嵌め入れられる前記引出具(2,8)のシャフト(24,81)またはロッドを着脱自在に保持する」と記載されているから、装着部(35)の構成は「シャフトまたはロッドを保持する」点に関して明確であって、請求項1の記載に不足はない。
してみれば、本件発明1、及び、本件発明1を引用する本件発明2、並びに、本件発明3が特許法第36条第6項第2号に規定に違反して特許されたものとすることはできない。

第6.むすび

したがって、本件発明1ないし4は、特許法第29条第2項、同第36条第6項第2号の規定によっては特許を受けことができないものとすることはできない。
また、他に、本件発明1ないし4を無効とすべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2012-03-26 
出願番号 特願2001-180733(P2001-180733)
審決分類 P 1 113・ 537- Y (B21D)
P 1 113・ 121- Y (B21D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川村 健一  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 菅澤 洋二
刈間 宏信
登録日 2010-07-16 
登録番号 特許第4551587号(P4551587)
発明の名称 板金用引出装置とそれに使用する引出補助具  
代理人 近藤 豊  
代理人 伊藤 真  
代理人 梶原 克彦  
代理人 平井 佑希  
代理人 橋爪 健  

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