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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 B27B |
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管理番号 | 1276796 |
審判番号 | 無効2012-800181 |
総通号数 | 165 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-09-27 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2012-11-02 |
確定日 | 2013-07-16 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第4980001号発明「鋸刃」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯 1.1 本件特許第4980001号についての出願は、平成18年7月21日になされ、同24年4月27日にその発明について特許の設定登録がなされた。 1.2 これに対し、請求人アルスコーポレーション株式会社が、平成24年11月2日に、本件特許の請求項1及び2に係る発明について、特許を無効にするとの審決を求める無効審判を請求し、証拠方法として甲第1ないし3号証を提出した。 1.3 被請求人株式会社ユーエム工業は、平成25年1月28日に答弁書を提出した。 1.4 当審は平成25年2月14日付で審理事項を通知した。 1.5 被請求人は、平成25年3月13日に口頭審理陳述要領書を提出した。 1.6 請求人は、平成25年3月14日に口頭審理陳述要領書を提出するとともに、審判請求書を補正し、甲第4号証を追加した。 1.7 当審は平成25年3月28日に口頭審理を行った。 1.8 請求人は、平成25年4月3日に上申書を提出した。 1.9 被請求人は平成25年4月10日に上申書を提出した。 2.本件発明 本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」及び「本件発明2」という。)は、特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおり、以下のものと認める。 「【請求項1】 刃渡り部に複数の歯を有する鋸刃であって、前記刃渡り部の全ての歯は、その歯先を同一高さに形成すると共に歯先の角度を同一角度に形成し、且つ前記刃渡り部の全ての歯は、その歯深を前記刃渡り部の全領域にわたって一端側から他端側へ徐々に連続して増加するように形成し、これによって歯の大きさとピッチとが刃渡り部の全領域にわたって一端側から他端側にかけて連続的に拡大する連続拡大歯列を形成するようにしてあることを特徴とする鋸刃。 【請求項2】 引き鋸用であって、歯の大きさとピッチとが刃渡り部の基端側から先端側にかけて連続的に拡大する連続拡大歯列を形成するようにしてあることを特徴とする請求項1に記載の鋸刃。」 3.請求の趣旨 3.1 請求の理由 審判請求人は、本件特許第4980001号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする趣旨の審決を求めて無効審判を請求し、証拠方法として以下の書証をもって、概略、本件発明1及び2は、甲第1ないし3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるため、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきであると主張している。 なお、請求人は審判請求当初、本件発明1及び2は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであるとも主張していたが、平成25年3月14日付手続補正書により、該主張は取り下げられた。 (平成24年11月2日付審判請求書、平成25年3月14日付口頭審理陳述要領書及び同日付手続補正書、平成25年4月3日付上申書参照。) 3.2 証拠方法 甲第1号証: 実願昭55-123446号 (実開昭57-47301号)のマイクロフィルム 甲第2号証: アルス2005総合カタログの写し 甲第3号証: アルスコーポレーション なし専用剪定鋸「大山」 カタログの写し なお、審判請求人は平成25年3月14日付口頭審理陳述要領書に甲第4号証を添付しているが、甲第4号証は、甲第2号証と同じ「アルス2005総合カタログ」の別ページの写しであるため、甲第2号証の一部として扱う。 また、平成25年4月3日付上申書には、甲2号証について説明の補足を目的として、資料1ないし4が添付されている。 4.被請求人の主張 一方、被請求人の主張を整理すると、概略、本件発明1及び2は、甲第1ないし3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない、というものである。 (平成25年1月28日付審判事件答弁書、平成25年3月13日付口頭審理陳述要領書、平成25年4月10日付上申書参照。) 5.甲各号証に記載された発明または事項 5.1 甲第1号証 甲第1号証には、以下の記載がなされている。 a.(実用新案登録請求の範囲) 「(イ)手鋸切りの歯の一部(1)を本体部(2)の歯の大きさより充分に歯を細かく(ピッチを小さく)した手鋸切り。」 b.(考案の詳細な説明) 「この実用新案は、手鋸切りの歯のピッチを、本体部と手元部とに変化をもたせた手鋸切りである。従来の手鋸切りは、木材等の荒びきをする際、最初の切り始めの時、ピッチが荒いため、歯が材料に食い込み、切りにくい欠点があった。特にこの状態は、ピッチの荒い(歯の大きい)鋸切りにて角材を切るときに顕著にあらわれ、切り始めの動作が非常に困難であった。 本案は、その欠点を除くために考案されたもので、これを図面について説明すれば、手鋸切りの本体部の歯(2)のピッチと手元部の歯(1)のピッチの大きさ(荒らさ)について、手鋸切り本体部の歯のピッチより、手元部の歯のピッチを小さく(密に)する。このようにすれば、切り始めにピッチが小さいため材料への食い込みが浅く容易に切り始めの動作ができる。 なおこのピッチの変化は、ある一点をもって突然に変化することも、また順次変っていくことも出来るということは自明である。」 c.(第1図及び第2図) 刃渡り部に、一端側のピッチが小さい手元部の歯と、他端側のピッチが大きい本体部の歯とをもつ手鋸切りが示されていることが理解される。また、全ての歯の歯先がおおむね同一高さに形成されるとともに、歯先の角度もおおむね同一であることが推認される。 上記記載事項が鋸刃をもつ手鋸切りであって、その鋸刃の特徴について説明していることは明らかである。また、歯先の角度が同一であると、歯のピッチと歯の深さすなわち歯の大きさとが比例することは自明であるので、上記において、ピッチの変化が、歯の深さと歯の大きさの変化に一義的に直接対応することは自明である。 そこで、上記記載事項を、本件発明1の記載に倣って整理すると、甲第1号証には以下の発明が記載されていると認めることができる。 「刃渡り部に複数の歯を有する鋸刃であって、前記刃渡り部の全ての歯は、その歯先を同一高さに形成すると共に歯先の角度を同一角度に形成し、且つ前記刃渡り部の歯は、その歯深を前記刃渡り部の一端側から他端側の間で突然に、または順次増加するように形成し、これによって歯の大きさとピッチとが刃渡り部の手元部側から他端側の間で突然に、または順次拡大する歯列を形成するようにしてある鋸刃。」(以下、「甲第1号証発明」という。) 5.2 甲第2号証 甲第2号証には、以下の記載がなされている。 a.(第10ページ、「果樹剪定鋸」の見出しの下) 刃渡り部に複数の歯を有する鋸刃の、握り部寄りの基端側では歯のピッチ、深さ、大きさともに小さく、刃先寄りの先端側では歯のピッチ、深さ、大きさともに大きい刃をもつ鋸刃であって、刃渡り部の中間の複数箇所に切欠部を設けてある鋸刃の写真が示されていることが理解される。また、この鋸刃をもつ鋸の名称は「FS-22」であるものと推認される。 b.(第10ページ、「グラデーションピッチ採用」の見出しの下) 「刃元の細目ピッチで、なめらかに切りはじめ、刃先になる程荒目ピッチになり、ザクッと力強い切れ味になります。」 c.(第10ページ、「UVカット」の見出しの下) 「『切り粉』を切断溝からかき出し、目詰まりのしにくいUVカットで、さらに作業効率がアップします。」 d.(第20ページ第2段) 「ピストル型鋸22」と「ピストル型鋸22UV」とが並列して示されており、「ピストル型鋸22」の方には「●高炭素刃物鋼 ●アサリわけなし ●アルステックカット ●ハードクローム仕上げ ●替刃式」と記載され、「ピストル型鋸22UV」の方には「●高炭素刃物鋼 ●アサリわけなし ●リブ付き研磨 ●UVカット ●ハードクローム仕上げ ●替刃式」と記載されている。 また、「ピストル型鋸22」と「ピストル型鋸22UV」とでは、握り部の形状が異なるように見受けられる。 e.(裏表紙) 「●このカタログに記載されている価格は2005年2月現在のものです。」 「2005.2.10」 上記記載事項を整理すると、甲第2号証には以下の発明が記載されていると認めることができる。 「刃渡り部に複数の歯を有する鋸刃であって、前記刃渡り部の歯は、その歯深を前記刃渡り部の基端側では小さく、先端側では大きくなるように形成し、これによって歯の大きさとピッチとが刃渡り部の基端側では小さく、先端側では大きくなる歯列を形成するようにしてあり、刃渡り部の中間の複数箇所に切欠部を設けてある鋸刃。」(以下、「甲第2号証発明」という。) また、記載事項eから、甲第2号証は2005年、すなわち平成17年2月に発行されたものと推認される。 5.3 甲第3号証 甲第3号証には、以下の記載がなされている。 a.(第2ページ、「UVカット」の見出しの下の図) 「UVカット」、すなわち切欠部と、その前後における歯の形状が示されていることが理解される。この図によれば、「UVカット」の両側の歯は歯先の角度が異なるものと認められ、また、刃先の高さも異なるように見受けられる。 b.(第2ページ、下部マージン内) 「●このカタログに記載されている内容は2011年9月現在のものです。」 「2011.09.03」 甲第3号証は、甲第2号証に記載された「UVカット」について、補足的な説明を目的とするものと認められる。また、記載事項bから、甲第3号証は、本件特許の出願後である2011年、すなわち平成23年9月に発行されたものと推認される。 6.対比 6.1 本件発明1について 6.1.1 本件発明1と甲第1号証発明との対比 本件発明1と甲第1号証発明とを対比してみると、後者の「手元部側」は前者の「一端側」に相当するということができるから、両者の鋸刃は、一端側では刃深が小さく、他端側では刃深が大きくなるように形成し、これによって歯の大きさとピッチが一端側では小さく、他端側では大きくなる歯列を形成するように形成してあるものである限りにおいて共通する。 そうしてみると、両者は以下の点において一致及び相違するということができる。 <一致点> 「刃渡り部に複数の歯を有する鋸刃であって、前記刃渡り部の全ての歯は、その歯先を同一高さに形成すると共に歯先の角度を同一角度に形成し、且つ前記刃渡り部の歯は、その歯深が前記刃渡り部の一端側では小さく、他端側では大きくなるように形成し、これによって歯の大きさとピッチとが刃渡り部の一端側では小さく、他端側では大きくなる歯列を形成するようにしてある鋸刃。」である点。 <相違点1> 刃渡り部の歯は、前者では、全ての歯がその歯深を刃渡り部の全領域にわたって一端側から他端側へ徐々に連続して増加するように形成し、これによって歯の大きさとピッチとが刃渡り部の全領域にわたって一端側から他端側にかけて連続的に拡大する連続拡大歯列を形成するのに対し、後者では、その歯深を刃渡り部の一端側から他端側の間で突然に、または順次増加するように形成し、これによって歯の大きさとピッチとが刃渡り部の手元部側から他端側の間で突然に、または順次拡大する歯列を形成する点。 6.1.2 本件発明1と甲第2号証発明との対比 本件発明1と甲第2号証発明とを対比してみると、後者の「基端側」と「先端側」が、前者の「一端側」と「他端側」にそれぞれ相当することが明らかであるから、両者の鋸刃は、一端側では刃深が小さく、他端側では刃深が大きくなるように形成し、これによって歯の大きさとピッチが一端側では小さく、他端側では大きくなる歯列を形成するように形成してあるものである限りにおいて共通する。 そこで、両者は以下の点において一致及び相違するということができる。 <一致点> 「刃渡り部に複数の歯を有する鋸刃であって、前記刃渡り部の歯は、その歯深を前記刃渡り部の一端側では小さく、他端側では大きくなるように形成し、これによって歯の大きさとピッチとが一端側では小さく、他端側では大きくなる歯列を形成するようにしてあることを特徴とする鋸刃。」である点。 <相違点2> 刃渡り部の歯は、前者では、その全ての歯が、その歯先を同一高さに形成すると共に歯先の角度を同一角度に形成してあるのに対し、後者ではそのようなものか不明である点。 <相違点3> 刃渡り部の歯は、前者では、その全ての歯が、その歯深を刃渡り部の全領域にわたって一端側から他端側へ徐々に連続して増加するように形成し、これによって歯の大きさとピッチとが刃渡り部の全領域にわたって一端側から他端側にかけて連続的に拡大する連続拡大歯列を形成するのに対し、後者ではそのようなものか不明であり、また、刃渡り部の中間の複数箇所に切欠部を設けてある点。 6.2 相違点の検討 6.2.1 <相違点1>について 甲第1号証には、歯深を刃渡り部の一端側から他端側の間で順次増加するように形成し、これによって歯の大きさとピッチとが刃渡り部の一端側から他端側の間で順次拡大する歯列を形成することが記載されている。しかしながら、この記載が、刃深、歯の大きさ及びピッチを刃渡り部の全領域にわたって一端側から他端側へ徐々に連続して増加または拡大するように形成することを意味すると解釈することはできない。なぜなら、甲第1号証には、「このピッチの変化は、ある一点をもって突然に変化することも、また順次変っていくことも出来る」と記載されており、このことから、「順次変わっていく」とは、ある一点において突然に変化する代わりに、その一点を含み刃渡り方向に一定の長さをもつ、本体部の荒い歯から手元部の細かい歯への遷移部分を含む刃渡り部の一部においてピッチが徐々に変化することを意味していると解釈する方が自然だからである。 そこで、甲第1号証発明において、ピッチを刃渡り部の一部範囲内で徐々に変化させる代わりに、刃渡り部の全領域にわたって連続的に増加または拡大することが、当業者にとって容易であるか、検討する。 甲第1号証には、刃渡り部の全領域にわたって歯のピッチを連続的に拡大することについて、記載はない。また、記載事項bに示される、甲第1号証発明の解決しようとする課題を考慮すると、切り始めの時に使用する手元部の最初の歯からピッチの拡大を開始する必然性が認められないため、ピッチの変化する領域を刃渡り部の全領域とすることを発想することは困難である。 甲第2号証にも、6.2.3(3)にて後述するように、刃渡り部の全領域にわたって歯のピッチを連続的に増加または拡大することについて記載はないから、甲第1号証発明に甲第2号証発明を組み合わせても、本件発明1に到達することはできない。 6.2.2 <相違点2>について 鋸刃において、刃渡り部の全ての歯を、その歯先を同一高さに形成すると共に歯先の角度を同一角度に形成することは、甲第1号証に示されているほか、例示するまでもなく従来より周知かつ慣用の設計である。 したがって、甲第2号証発明において、少なくとも切欠部以外の刃渡り部の全ての歯を、その歯先を同一高さに形成すると共に歯先の角度を同一角度に形成することは、単に周知の設計を採用するものにすぎない。 6.2.3 <相違点3>について (1)請求人の主張 相違点3について、請求人は以下のように主張している。 a.甲第2号証には、「刃渡り部の全ての歯は、その歯深を前記刃渡り部の全領域にわたって一端側から他端側へ徐々に連続して増加するように形成し、これによって歯の大きさとピッチとが刃渡り部の全領域にわたって一端側から他端側にかけて連続的に拡大する連続拡大歯列を形成するようにしてある」鋸刃が記載されており、「UVカット」、すなわち切欠部の有無においてのみ本件発明1と相違する。 b.切欠部は切屑による目詰まりを低減するために任意の位置に設けるものであって、「刃渡り部の全ての歯は、その歯深を前記刃渡り部の全領域にわたって一端側から他端側へ徐々に連続して増加するように形成し、これによって歯の大きさとピッチとが刃渡り部の全領域にわたって一端側から他端側にかけて連続的に拡大する連続拡大歯列を形成するようにしてある」構成とは無関係であって不可欠のものではない。 c.切欠部を有しない鋸刃は従来周知であり、甲第2号証発明において切欠部をなくすことを妨げる事由はないから、甲第2号証発明において切欠部を省略することは容易である。 d.甲第4号証(当審注:甲第2号証の記載事項d)には、切欠部を有しないピストル型鋸22と、切欠部を有するピストル型鋸22UVが開示されている。 e.UVカットのような構造を設計の段階で、適宜、公知の連続する歯に対して選択的に設けたり、設けないものとすることは、刃物業界では普通に行われている。資料1(当審注:甲第2号証発明の作業工程を示す図)のように、UVカットの有無にかかわらず、歯の加工を行う前に、歯を刃の全体に対して連続的に設けるように指示がなされるものである。 (平成24年11月2日付審判請求書、平成25年3月14日付口頭審理陳述要領書及び同日付手続補正書、平成25年4月3日付上申書参照。) (2)被請求人の主張 これに対し、被請求人は以下のように反論している。 a.甲第2号証発明は、切欠部の刃深、歯の大きさまたはピッチよりも、その隣にそれぞれ配置される一対の刃の刃深、歯の大きさまたはピッチが小さいから、刃渡り部の全ての歯を、その歯深を刃渡り部の全領域にわたって一端側から他端側へ徐々に連続して増加するように形成するものではなく、これによって歯の大きさとピッチとが刃渡り部の全領域にわたって一端側から他端側にかけて連続的に拡大する連続拡大歯列を形成するものではない。 b.甲第2号証発明の鋸刃は、切屑のかき出し及び目詰まりのし難いUVカットにより作業効率をアップすることを大きな目的としている以上、切欠部は鋸刃の歯列を構成する必須の要素であって、不可欠のものである。 c.請求人の資料1の鋸刃には、歯列の変化に関して、厳密で一貫した連続性を確保するという技術思想は存在せず、歯列は不連続な複数の歯列群を構成するだけであり、切欠部での歯列の大きな不連続性は、設計段階からの技術思想として取り入れられている。 d.本件特許は、鋸刃の刃渡り部の全ての歯が1枚毎に歯深及びピッチが変化するものの発明に限られ、複数枚毎に変化するものは含まない。 (平成25年1月28日付審判事件答弁書、平成25年3月13日付口頭審理陳述要領書、平成25年3月28日付口頭審理調書、平成25年4月10日付上申書参照。) (3)当審の判断 そこで、甲第2号証発明の鋸刃において、切欠部(「UVカット」)を除いた、刃渡り部の全ての歯が、その歯深を刃渡り部の全領域にわたって一端側から他端側へ徐々に連続して増加するように形成し、これによって歯の大きさとピッチとが刃渡り部の全領域にわたって一端側から他端側にかけて連続的に拡大する連続拡大歯列を形成しているか、検討する。 請求人の平成25年4月3日付上申書に添付された資料1(甲第2号証発明の作業工程を示す図)を参照すると、「目立ピッチ:刃先P=8.0mmから0.1mmづつ減算」との記載があり、中央の図ではピッチが刃先部での8mmから0.1mmずつ小さくなる様子が観察される。しかし、刃先部からみて最初(図で右方)の切欠部には、切欠部をまたいで、切欠部がなければ、約1ピッチ半となる距離を9mmと指定してあり、この距離は切欠部の左方における最初のピッチ7.2mmの1.5倍よりも1.8mmと、大幅に小さい。同様のことが、次(図の左方)の切欠部についてもいえる。 このことから、資料1に詳細に示される甲第2号証発明の鋸刃では、たとえ切欠部を省略しても、切欠部のあった部分をはさんで隣接する歯列の間で、ピッチが不連続に変化することは自明である。 したがって、甲第2号証発明の鋸刃は、切欠部の有無にかかわらず、刃渡り部の全ての歯を、そのピッチが刃渡り部の全領域にわたって一端側から他端側にかけて連続的に拡大する連続拡大歯列を形成するものということはできず、同様に刃深及び歯の大きさについても、刃渡り部の全領域にわたって一端側から他端側にかけて連続的に増加または拡大するものということはできない。 また、請求人は甲第2号証の記載事項dに、「UVカット」をもつ鋸刃ともたない鋸刃とが並記してあることをもって、「UVカット」の有無以外は同等の品物が存在することを示そうとしているようであるが、「●アルステックカット」と「●リブ付き研磨」の違いのほか、握り部の形状も異なることから、両者が「UVカット」の有無以外全くの同等品であると断定することはできない。 したがって、甲第2号証発明の鋸刃は、切欠部をもたない鋸刃に切欠部を追加的に設けたものではなく、切欠部の存在を前提として、切欠部間の歯列を設計したものというべきであるから、切欠部は鋸刃の構成上、不可欠の要素であり、甲第2号証発明の鋸刃から切欠部を省略することは、当業者といえども容易になし得るものではない。 そして、刃渡り部の全ての歯を、その刃深、歯の大きさまたはピッチが刃渡り部の全領域にわたって一端側から他端側にかけて連続的に増加または拡大する連続拡大歯列を形成する鋸刃は、6.2.1で述べたように甲第1号証にも記載されておらず、また、請求人の資料2ないし4にも示されていない。 6.3 本件発明1についてのまとめ 以上のとおり、上記<相違点1>及び<相違点3>に係る発明特定事項が、当業者が容易に想到し得たものということはできないため、請求人の証拠方法によっては、本件発明1が特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものということはできない。 6.4 本件発明2について 本件発明2は本件発明1の発明特定事項をすべて含むため、本件発明2についても、本件発明1と同様に、<相違点1>及び<相違点3>に係る発明特定事項が、当業者が容易に想到し得たものということはできない。 したがって、請求人の証拠方法によっては、本件発明2が特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものということはできない。 7.むすび 以上、6.3及び6.4にて述べたとおり、本件特許の請求項1及び2に係る発明は、いずれも特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものということできないため、同法第123条第1項第2号に該当するということはできず、無効とすることはできない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 . . |
審理終結日 | 2013-05-14 |
結審通知日 | 2013-05-20 |
審決日 | 2013-05-31 |
出願番号 | 特願2006-198933(P2006-198933) |
審決分類 |
P
1
113・
121-
Y
(B27B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 岩瀬 昌治 |
特許庁審判長 |
豊原 邦雄 |
特許庁審判官 |
刈間 宏信 菅澤 洋二 |
登録日 | 2012-04-27 |
登録番号 | 特許第4980001号(P4980001) |
発明の名称 | 鋸刃 |
代理人 | 羽柴 拓司 |
代理人 | 石田 俊男 |
代理人 | 室田 力雄 |