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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01P
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01P
管理番号 1276923
審判番号 不服2012-16994  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-08-31 
確定日 2013-07-16 
事件の表示 特願2007-262793「無線電力の可変分配方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 4月30日出願公開、特開2009- 94745〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成19年10月7日の出願であって、平成24年5月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月31日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付けで審判請求時の手続補正がなされたものである。

第2.補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年8月31日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本願発明と補正後の発明
上記手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の補正を含むものであり、補正前の特許請求の範囲の請求項1、2は以下のとおりである。

「【請求項1】
電磁波を伝搬する方形断面の給電導波管の電力分岐部のH面に当該導波管との整合用拡径部が設けられた同軸プローブを電界と平行に挿入し、前記導波管のプローブ近傍のE面にプローブと平行な回転軸を設けてプローブ近傍の電界強度を回転角度φに応じて変化させる回転導体板を取り付け、前記プローブ及び導体板より下流側の導波管断面上の対向するE面又はH面にそれぞれ回転軸を設けてその断面積を回転角度θに応じて変化させる一対の回転絞り板を取り付け、前記導波管からプローブへ分配する電力の割合に応じた回転角度φに導体板を調整すると共にその回転角度φに応じてプローブ及び導体板の上流側及び下流側を整合させる回転角度θに一対の絞り板を調整してなる無線電力の可変分配方法。
【請求項2】
請求項1の分配方法において、前記導波管のプローブ近傍のH面に管内への突出長dが可変の導体棒を電界と平行に挿入し、前記導体板の回転角度φに応じてプローブ及び導体板の上流側及び下流側が整合するように絞り板の回転角度θと共に導体棒の突出長dを調整してなる無線電力の可変分配方法。」

本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1、2は以下のとおりである。
「【請求項1】
電磁波を伝搬する方形断面の給電導波管の電力分岐部のH面に当該H面の幅に対して所定径及び高さに設計された導波管との整合用拡径部が設けられた同軸プローブを電界と平行に挿入し、前記導波管のプローブ近傍のE面にプローブと平行な回転軸を設け且つプローブ近傍の電界強度を回転角度φに応じて変化させる所定長さの回転導体板を取り付け、前記プローブ及び導体板より下流側の導波管断面上の対向するE面又はH面にそれぞれ回転軸を設けてその断面積を回転角度θに応じて変化させる一対の回転絞り板を取り付け、前記導波管からプローブへ分配する電力の割合に応じた回転角度φに導体板を調整すると共にその回転角度φに応じてプローブ及び導体板の上流側及び下流側を整合させる回転角度θに一対の絞り板を調整してなる無線電力の可変分配方法。
【請求項2】
請求項1の分配方法において、前記導波管のプローブ近傍のH面に管内への突出長dが可変の導体棒を電界と平行に挿入し、前記導体板の回転角度φに応じてプローブ及び導体板の上流側及び下流側が整合するように絞り板の回転角度θと共に導体棒の突出長dを調整してなる無線電力の可変分配方法。」

以下、補正前の請求項2に記載された発明を「本願発明」、補正後の請求項2に記載された発明を「補正後の発明」ということにする。

2.新規事項の有無、補正の目的要件について
本件補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において、補正前の「当該導波管との整合用拡径部が設けられた同軸プローブ」を「当該H面の幅に対して所定径及び高さに設計された導波管との整合用拡径部が設けられた同軸プローブ」と限定し、補正前の「回転導体板」を「所定長さの回転導体板」と限定することにより特許請求の範囲を減縮するものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項(新規事項)及び特許法第17条の2第5項(補正の目的)の規定に適合している。

3.独立特許要件について
本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、上記補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて以下に検討する。

(1)補正後の発明
上記「1.本願発明と補正後の発明」の項で「補正後の発明」として認定したとおりである。

(2)引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された、「佐薙稔(ほか7名)、「機械的に分配比を可変できる導波管型電力分配器の設計」、2007年電子情報通信学会エレクトロソサイエティ大会講演論文集1,エレクトロニクス(1)、2007年8月29日発行、p.73,C-2-51」
(以下、「引用例」という。)には図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「1 まえがき
建物の構造体等により生じる閉空間をマイクロ波伝送路として利用して電力を配電するシステム[1]では,機械的に分配比を可変できる導波管型電力分配器が必要である.システムが要求する仕様を満たす分配器を設計したので報告する.
2 分配器の基本構造
図1に分配器の構造を示す.基本構成は矩形導波管に同軸プローブを挿入した構成の進行波型電力分割/合成器[2]の分岐ユニットである.導波管ポートから入力された電力は,同軸プローブによりその一部が取り出され,残りが導波管中を透過する.その際に同軸プローブにより反射が生じるが,すぐ隣にある対称回転フィンによる反射で打ち消し,分配器としては無反射とする.分配比を可変とするには,同軸プローブから取り出す電力の割合を変化させる必要があるので,同軸プローブ部にも同様な回転フィンを設ける.フィンを回転させて,その先端部をプローブに近づけるとプローブ近傍の電界が弱くなるために,プローブから取り出される電力が減る.これにより,プローブでの反射が変わるので.分配器全体として無反射とするために対称回転フィンの角度φと,導体棒の挿入長daを調節する.」
ここで、図1(b)を参照すれば、対称回転フィンの角度はθと記載されているので、引用例の「対称回転フィンの角度φ」という記載は、「対称回転フィンの角度θ」の誤記であることは明らかである。

引用例の図1を参照すれば、同軸プローブは、矩形導波管の分岐ユニットの上面から下面に向かって垂直に挿入されているものであり、その先端部に径の拡大した部分を有するものであることが見てとれる。
引用例の図1を参照すれば、回転フィンは、所定の長さを有しており、回転軸を中心にして回転するものであり、その回転軸はプローブ近傍の側面にプローブと平行に設けられていることが見てとれる。
回転フィンの回転角度はφであり、「フィンを回転させて,その先端部をプローブに近づけるとプローブ近傍の電界が弱くなるために,プローブから取り出される電力が減る.」と記載されていることから、回転フィンは、プローブ近傍の電界強度を回転角度φに応じて変化させるものであるといえる。
引用例の図1を参照すれば、対称回転フィンは一対であり、プローブ及び回転フィンより下流側の導波管断面上の対向する側面にそれぞれ回転軸を設けてその断面積を回転角度θに応じて変化させるものであるといえる。
引用例の「導体棒の挿入長daを調節する」との記載、及び図1によれば、挿入量daが可変の導体棒は矩形導波管のプローブ近傍の下面に設けられ、下面から上面に向かって挿入されたものといえる。
また、「分配器全体として無反射とするために対称回転フィンの角度φと,導体棒の挿入長daを調節する」と記載されていることから、引用例には、「分配器全体として無反射とするために対称回転フィンの角度θと導体棒の挿入長daを調節してなるマイクロ波電力の可変分配方法」が示されているといえる。

したがって、この分野における技術常識を考慮すると、上記引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されているものと認められる。

「マイクロ波を伝送する矩形導波管の分岐ユニットの上面から下面に向かって拡径部が設けられた同軸プローブを挿入し、前記導波管のプローブ近傍の側面にプローブと平行な回転軸を設け且つプローブ近傍の電界強度を回転角度φに応じて変化させる所定長さの回転フィンを取り付け、前記プローブ及び回転フィンより下流側の導波管断面上の対向する側面にそれぞれ回転軸を設けてその断面積を回転角度θに応じて変化させる一対の対称回転フィンを取り付け、前記導波管からプローブへ分配する電力の割合に応じた回転角度φに回転フィンを調整すると共に、前記導波管のプローブ近傍の下面に挿入長daが可変の導体棒を下面から上面に向かって挿入し、分配器全体として無反射とするために対称回転フィンの角度θと導体棒の挿入長daを調節してなるマイクロ波電力の可変分配方法。」

(3)対比
補正後の発明と引用発明を対比する。
引用発明の「マイクロ波を伝送する」は、補正後の発明の「電磁波を伝搬する」に相当する。
引用発明の「矩形導波管」は、マイクロ波を伝送することにより電力を給電するものであるから、補正後の発明の「方形断面の給電導波管」に相当する。
引用発明の「分岐ユニット」は、補正後の発明の「電力分岐部」に相当するので、引用発明の「分岐ユニットの上面」は、補正後の発明の「電力分岐部のH面」に相当する。
引用発明の「同軸プローブ」は、「矩形導波管の分岐ユニットの上面から下面に向かって挿入」されたものであるが、矩形導波管の電界がH面に垂直となることは技術常識であるから、「方形断面の給電導波管の電力分岐部のH面に電界と平行に挿入」されたものといえる。
引用発明の「前記導波管のプローブ近傍の側面」は、補正後の発明の「前記導波管のプローブ近傍のE面」に相当する。
引用発明の「回転フィン」は、補正後の発明の「回転導体板」に相当する。
引用発明の「導波管断面上の対向する側面」は、補正後の発明の「導波管断面上の対向するE面」に相当する。
引用発明の「一対の対称回転フィン」は、補正後の発明の「一対の回転絞り板」に相当する。
引用発明の「前記導波管のプローブ近傍の下面」は、補正後の発明の「前記導波管のプローブ近傍のH面」に相当する。
引用発明の「導体棒の挿入長da」は、補正後の発明の「導体棒の管内への突出長d」に相当する。
引用発明の「下面から上面に向かって挿入」は、補正後の発明の「電界と平行に挿入」に相当する。
引用発明の「分配器全体として無反射とする」ことと、補正後の発明の「プローブ及び導体板の上流側及び下流側が整合する」こととに差異はないので、引用発明と補正後の発明とは、「前記導体板の回転角度φに応じてプローブ及び導体板の上流側及び下流側が整合するように絞り板の回転角度θと共に導体棒の突出長dを調整してなる」ものである点で一致している。
また、引用発明の「マイクロ波電力の可変分配方法」は、補正後の発明の「無線電力の可変分配方法」に相当する。

したがって、補正後の発明と引用発明は、以下の点で一致し、また、相違している。
(一致点)
「電磁波を伝搬する方形断面の給電導波管の電力分岐部のH面に拡径部が設けられた同軸プローブを電界と平行に挿入し、前記導波管のプローブ近傍のE面にプローブと平行な回転軸を設け且つプローブ近傍の電界強度を回転角度φに応じて変化させる所定長さの回転導体板を取り付け、前記プローブ及び導体板より下流側の導波管断面上の対向するE面にそれぞれ回転軸を設けてその断面積を回転角度θに応じて変化させる一対の回転絞り板を取り付け、前記導波管からプローブへ分配する電力の割合に応じた回転角度φに導体板を調整すると共に、前記導波管のプローブ近傍のH面に管内への突出長dが可変の導体棒を電界と平行に挿入し、前記導体板の回転角度φに応じてプローブ及び導体板の上流側及び下流側が整合するように絞り板の回転角度θと共に導体棒の突出長dを調整してなる無線電力の可変分配方法。」

(相違点)
同軸プローブの拡径部について、補正後の発明では「当該H面の幅に対して所定径及び高さに設計された導波管との整合用拡径部」と特定されているのに対して、引用発明では、そのように特定されていない点。

(4)判断
上記相違点について検討する。
導波管に挿入する同軸プローブの先端に拡径部を設けて導波管との整合を行うことは、拒絶査定の備考欄で引用された、J.M.Jarem,"Analysis of a probe-metallic sleeve feed system for a rectangular waveguide",IEEE Antenna and Propagation Society International Symposium 1989,Vol.2,1989年発行,pp.942-945、特開2005-51331号公報(図2-5,[0043]-[0048])、米国特許第2433074号明細書(FIG.1-2,第2欄第12-35行)に示されるように周知事項であることを考慮すれば、同軸プローブの先端に「導波管との整合用拡径部」を設けることは格別なことではなく、また、その拡径部が導波管との整合のために設計されることから導波管の大きさであるH面の幅を考慮して設計することは当業者が適宜なし得る程度のことである。
したがって、引用発明において上記相違点に係る構成を採用することに困難性は認められない。

以上のとおりであるから、補正後の発明は、引用発明及び周知事項に基づいて容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)新規性喪失の例外適用について
請求人は、審判請求書において、引用例は本願の特許を受ける権利を有する者の意に反して公開されたものであるから、新規性喪失の例外の適用対象となるものである旨主張している。
この点について検討すると、請求人が、平成19年10月24日付けで提出した新規性の喪失の例外の規定の適用を受けるための証明書には、平成19年10月6日に本願の発明者8名が特許を受ける権利を鹿島建設株式会社に譲渡したことが記載されており、この記載事項が事実に相違ないことが証明されている。また、平成19年10月6日付けの譲渡証書も添付されている。
したがって、本願の特許を受ける権利が鹿島建設株式会社に譲渡されたのは平成19年10月6日であると認められる。
一方、引用例が公開されたのは平成19年8月29日であるから、この時点においては本願の特許を受ける権利は、本願の発明者8名が有していたことになる。
そして、引用例の公開は本願の発明者8名によるものであるが、その公開は特許を受ける権利を有する者によりなされたものであるから、特許を受ける権利を有する者の意に反して公開されたものでないことは明かである。
請求人は、本願の特許を受ける権利の譲渡が、平成19年10月6日としたのは誤りであり、正しくは審判請求書に添付の譲渡証書にあるとおり、平成19年8月1日であったと主張している。
しかしながら、平成19年10月24日付けで提出した新規性の喪失の例外の規定の適用を受けるための証明書、及び平成19年10月6日付けの譲渡証書は適正なものと認められ、これらの記載を誤りであったとする合理的な根拠も認められない。
したがって、引用例の公開は、本願の特許を受ける権利を有する者の意に反してなされたものではない。

4.結語
以上のとおり、本件補正は、補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合していない。
したがって、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、上記「第2.補正却下の決定」の「1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。

2.引用発明
引用発明は、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項中の「(2)引用発明」の項で認定したとおりである。

3.対比・判断
そこで、本願発明と引用発明とを対比するに、本願発明は上記補正後の発明から当該補正に係る限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成に当該補正に係る限定を付加した補正後の発明が、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項で検討したとおり、引用発明及び周知事項に基づいて容易に発明できたものであるから、上記補正後の発明から当該補正に係る限定を省いた本願発明も、同様の理由により、容易に発明できたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-17 
結審通知日 2013-05-20 
審決日 2013-06-04 
出願番号 特願2007-262793(P2007-262793)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01P)
P 1 8・ 575- Z (H01P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岸田 伸太郎  
特許庁審判長 竹井 文雄
特許庁審判官 藤井 浩
矢島 伸一
発明の名称 無線電力の可変分配方法及び装置  
代理人 市東 禮次郎  
代理人 市東 篤  

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