• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  H01L
管理番号 1276959
審判番号 無効2011-800043  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-03-15 
確定日 2013-07-16 
事件の表示 上記当事者間の特許第4128564号「発光装置」の特許無効審判事件についてされた平成23年12月12日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成24年(行ケ)第10020号 平成25年1月31日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第4128564号の請求項1、2、4、6ないし13に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 事案の概要
本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第4128564号(以下「本件特許」という。請求項の数は13である。)の請求項1、2、4、6ないし13に係る発明についての特許を無効とすることを求める事案である。

第2 手続の経緯
本件特許に係る手続の経緯概要は、以下のとおりである。

平成16年12月15日 本件特許出願(優先権主張 平成16年4月27日、平成16年6月21日、平成16年6月30日)
平成20年 5月23日 設定登録
平成23年 3月15日 審判請求
平成23年 5月26日 審判事件答弁書提出(被請求人)
平成23年 8月16日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
平成23年 8月23日 審判事件上申書提出(被請求人)
平成23年 8月30日 弁駁書提出(請求人)
平成23年 8月30日 口頭審理
平成23年 9月 1日 上申書提出(請求人)
平成23年 9月 7日 審判事件上申書提出(被請求人)
平成23年12月12日 審決(請求成立。以下「前回審決」という。)
平成24年 1月20日 知的財産高等裁判所出訴(平成24年(行ケ)第 10020号)
平成24年 4月18日 訂正審判請求(訂正2012-390050号)
平成25年 1月31日 審決取消しの判決言渡
平成25年 3月 4日 上申書提出(請求人)
平成25年 3月11日 審判事件上申書提出(被請求人)
平成25年 3月12日 訂正審判請求(訂正2012-390050号) 取下げ

第3 本件発明
1 本件特許の請求項1ないし13に係る発明(以下、各請求項に係る発明を「本件発明1」ないし「本件発明13」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、次の各請求項に記載されたとおりのものと認められる。
「【請求項1】
蛍光体を含む蛍光体層と発光素子とを備え、前記発光素子は、360nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有し、前記蛍光体は、前記発光素子が放つ光によって励起されて発光し、前記蛍光体が放つ発光成分を出力光として少なくとも含む発光装置であって、
前記蛍光体は、
Eu^(2+)で付活され、かつ、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有する窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体と、
Eu^(2+)で付活され、かつ、500nm以上600nm未満の波長領域に発光ピークを有するアルカリ土類金属オルト珪酸塩蛍光体とを含み、
前記発光素子が放つ光励起下において、前記蛍光体の内部量子効率が80%以上であることを特徴とする発光装置。
【請求項2】
前記出力光は、前記発光素子が放つ発光成分を含む請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記窒化物蛍光体は、組成式(M_(1-x)Eu_(x))SiN_(2)で表される蛍光体であり、前記Mは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnから選ばれる少なくとも1つの元素であり、前記xは、式0.005≦x≦0.3を満たす数値である請求項1に記載の発光装置。
【請求項4】
前記窒化物蛍光体は、組成式(M_(1-x)Eu_(x))_(2)Si_(5)N_(8)で表される蛍光体であり、前記Mは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnから選ばれる少なくとも1つの元素であり、前記xは、式0.005≦x≦0.3を満たす数値である請求項1に記載の発光装置。
【請求項5】
前記酸窒化物蛍光体は、組成式(M_(1-x)Eu_(x))_(2)Si_(4)AlON_(7)で表される蛍光体であり、前記Mは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnから選ばれる少なくとも1つの元素であり、前記xは、式0.005≦x≦0.3を満たす数値である請求項1に記載の発光装置。
【請求項6】
前記Mの主成分は、Sr又はCaである請求項3?5のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項7】
前記蛍光体は、420nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有する発光素子が放つ光によって励起されて発光する請求項1に記載の発光装置。
【請求項8】
前記出力光は、相関色温度が2000K以上8000K以下の白色系光である請求項1に記載の発光装置。
【請求項9】
前記蛍光体層は、Eu^(2+)で付活され、かつ、420nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有する青色蛍光体をさらに含み、前記青色蛍光体は、前記発光素子が放つ光によって励起されて発光する請求項1に記載の発光装置。
【請求項10】
前記青色蛍光体は、Eu^(2+)で付活された窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体、Eu^(2+)で付活されたアルカリ土類金属オルト珪酸塩蛍光体、Eu^(2+)で付活されたアルミン酸塩蛍光体、及び、Eu^(2+)で付活されたハロ燐酸塩蛍光体から選ばれる少なくとも1つの蛍光体である請求項9に記載の発光装置。
【請求項11】
前記青色蛍光体は、360nm以上420nm未満の波長領域に発光ピークを有する発光素子が放つ光によって励起されて発光する請求項9に記載の発光装置。
【請求項12】
前記発光装置の出力光は、相関色温度が2000K以上12000K以下の白色系光である請求項9に記載の発光装置。
【請求項13】
前記発光装置の出力光は、R1?R15の特殊演色評価数の数値がそれぞれ80以上の白色系光である請求項9に記載の発光装置。」

2 本件発明1を分説すると次のとおりである。
「(A)蛍光体を含む蛍光体層と発光素子とを備え、前記発光素子は、360nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有し、前記蛍光体は、前記発光素子が放つ光によって励起されて発光し、前記蛍光体が放つ発光成分を出力光として少なくとも含む発光装置であって、
(B)前記蛍光体は、
(B1)Eu^(2+)で付活され、かつ、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有する窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体と、
(B2)Eu^(2+)で付活され、かつ、500nm以上600nm未満の波長領域に発光ピークを有するアルカリ土類金属オルト珪酸塩蛍光体とを含み、
(B3)前記発光素子が放つ光励起下において、前記蛍光体の内部量子効率が80%以上である
(C)ことを特徴とする発光装置。」

第4 請求人の主張の概要及び証拠方法
1 無効理由1(特許法第29条第1項第3号または第2項違反)
(1) その1(甲第1号証の1記載の発明との対比を中心として)
本件発明1、本件発明2、本件発明4、本件発明6、本件発明7、本件発明8、本件発明9、本件発明10、本件発明11、本件発明12及び本件発明13は、甲第1号証の1記載の発明と同一、または、当業者が、甲第1号証の1記載の発明及び他の甲号証記載の発明に基づいて容易に発明できたものである。
よって、本件特許は、特許法第29条第1項第3号または第2項の規定に違反して特許されたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

(2) その2(甲第2号証記載の発明との対比を中心として)
本件発明1、本件発明2、本件発明4、本件発明6、本件発明7、本件発明8、本件発明9、本件発明10、本件発明11、本件発明12及び本件発明13は、甲第2号証記載の発明と同一、または、当業者が、甲第2号証記載の発明及び他の甲号証記載の発明に基づいて容易に発明できたものである。
よって、本件特許は、特許法第29条第1項第3号または第2項の規定に違反して特許されたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

(3) その3(甲第3号証記載の発明との対比を中心として)
本件発明1、本件発明2、本件発明4、本件発明6、本件発明7、本件発明8、本件発明9、本件発明10、本件発明11、本件発明12及び本件発明13は、甲第3号証記載の発明と同一、または、当業者が、甲第3号証記載の発明及び他の甲号証記載の発明に基づいて容易に発明できたものである。
よって、本件特許は、特許法第29条第1項第3号または第2項の規定に違反して特許されたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

2 無効理由2(特許法第36条第6項第1号または第4項第1号違反)
本件発明1において、蛍光体の内部量子効率が80%以上である要件は、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有する窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体(赤色発光蛍光体)についても要求されるところ、赤色発光蛍光体の内部量子効率が80%以上である点については、明細書及び図面において、開示や示唆がなく、また出願時の技術常識を参酌しても当該技術事項は、当業者において自明の事項でもないから、本件特許は、特許法36条6項1号の規定に違反して特許されたものである。
また、発明の詳細な説明には、内部量子効率が80%以上である赤色発光蛍光体についての製造条件などについて開示がないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反して特許されたものである。
よって、本件特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

3 甲号証
請求人が提出した甲号証及び参考資料は、以下のとおりである。

甲第1号証の1:国際公開2003/080763号
甲第1号証の2(甲第1号証の1の訳文として):特開2005-520916号公報
甲第2号証:特開2004-111937号公報
甲第3号証:特表2004-505470号公報
甲第4号証:特開2003-277746号公報
甲第5号証:特表2002-531955号公報
参考資料1:照明学会編「照明用語事典」1990年11月25日発行
参考資料2:図1:xy色度図上の黒体軌跡、図2:xy色度図上の黒体軌跡と等色温度線・等偏差線上に、それぞれ請求人において該当個所をプロットしたもの。
(以上、審判請求書に添付して提出。)

甲第6号証:特許第4094047号公報
甲第7号証:特願2007-210888における、被請求人提出の平成19年10月30日付け意見書
(以上、平成23年9月1日付け上申書に添付して提出。)

4 平成25年3月4日付け上申書の主張
請求人が、前回審決後の平成25年3月4日に提出した上申書においてする主張の抜粋は、次のとおりである。
「とりわけ、今回の判決によって、当業者の技術常識に鑑み、内部量子効率80%以上の意義が明らかになったものであるから、その判示事項を踏まえて、進歩性違背、特許法第36条第6項第1号(サポート要件)違背を審理すべきと考えられ、審判請求人としても、本件判示事項を踏まえた主張すべき項目が多々ありますので、審判請求人の主張が十分尽くされるように、その機会を頂きたく、上申に及ぶものであります。」(同上申書2頁8ないし12行。下線は審決にて付した。以下同じ。)

第5 被請求人の主張の概要
1 無効理由1(特許法第29条第1項第3号または第2項違反)に対して
(1) 甲第1号証には、本件発明1の構成要件(B3)となるように(B1)と(B2)を配合するという有機的結合は、記載も示唆もされていない。
また、甲第4号証及び甲第5号証には、各々単独の蛍光体の量子効率が記載されているだけであり、複数種類を組み合わせること、とくに(B3)となるように(B1)と(B2)を配合して「暖色系の白色光」を得ることは記載も示唆もないから、甲第1号証と組み合わせることはできないし、本件発明1と関連付けることもできない。

(2) 甲第2号証には、本体発明1の(B1)と(B2)を組み合わせること、及び構成要件(B3)となるように(B1)と(B2)を配合するという有機的結合は、記載も示唆もされていない。

(3) 甲第3号証には、本体発明1の(B1)と(B2)を組み合わせること、及び構成要件(B3)となるように(B1)と(B2)を配合するという有機的結合は、記載も示唆もされていない。

2 無効理由2(特許法第36条第6項第1号または第4項第1号違反)に対して
本件発明1の構成要件(B3)の「前記蛍光体」は、「各蛍光体」ではなく、(B)の「前記蛍光体」のことであって、「前記蛍光体の内部量子効率」は、蛍光体全体としての内部量子効率である。
実施例1及び実施例3について、各蛍光体(比重はほぼ同じ)の中心粒径と重量比を基に求めた表面積比で最大内部粒子効率を加重平均すると、蛍光体全体の内部量子効率は、それぞれ、80%、84%になるから、本件発明1は本件特許明細書に記載されたものである。

3 平成25年3月11日付け審判事件上申書の主張
被請求人が、前回審決後の平成25年3月11日に提出した上申書においてする主張の抜粋は、次のとおりである。
「第3 本件発明の主旨
本件発明の主旨をあらためて述べる。
本件特許の出願以前、発光素子と蛍光体層とを備え、白色光を放つ発光装置においては、蛍光体の励起スペクトルの強度(蛍光体の発光強度)が最大となる波長が、発光素子(例えば、青色LED)の光の波長と一致するように蛍光体が選択されていた。そのため、高効率の白色発光装置を実現するに際して、選択の候補となる蛍光体は自ずと限られていた。
これに対し、本件の発明者は、蛍光体の励起スペクトルに代えて内部量子効率に初めて着目して、発光素子が放つ光の波長において高い内部量子効率を有する蛍光体を選択することが有効であることを世界で最初に見出したのである。
かかる発明により、励起スペクトルの強度が下がった波長領域においても、内部量子効率が高い水準を維持している蛍光体を用いて、高効率の白色発光装置を実現することが可能となった。このことは、励起スペクトルに基づく従来の蛍光体選択方法では使えないと判断されていた蛍光体であっても、使える可能性が出てくるということであり、蛍光体の選択範囲が広がることを意味する。
その結果、発光素子及び蛍光体の放つ光の組合せで決まる演色評価指数の設計範囲も広がり、高い光束と高い演色性とを両立する発光装置、特に暖色系の白色光を放つ発光装置を実現すること可能となったのである(本件特許明細書【0011】、【0089】参照)。」(同上申書3頁3ないし25行。)

第6 無効理由についての当審の判断
事案に鑑み、まず、上記「第4 請求人の主張の概要及び証拠方法 1 無効理由1 (1) その1」について検討する。
1 甲第1号証の1の記載事項
本願の最先の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に頒布された刊行物と認められる甲第1号証の1には、以下の(1)ないし(8)の記載がある。
(1) 「CLAIMS:
1. A light emitting device comprising a LED for emitting a pattern of light and a phosphor composition comprising a phosphor of general formula (Ba_(1-x-y-z)Sr_(x)Ca_(y))_(2)SiO_(4):Eu_(z), wherein 0 ≦ x ≦l, 0 ≦ y ≦l and 0 < z < 1.
2. The light emitting device according to claim 1, wherein the light emitting device has an emission at a wavelength from 450 nm to 480 nm.
3. The light emitting device according to claim, wherein the phosphor composition is comprised in a thin film layer.
4. The light emitting device according to claim 1 , wherein the LED is a blue- emitting LED.
5. The light emitting device according to claim 1, wherein the phosphor composition comprises a green phosphor of general formula (Ba_(1-x-y-z)Sr_(x)Ca_(y))_(2)SiO_(4):Eu_(z), wherein 0 ≦ x ≦l, 0 ≦ y ≦l and 0 < z < 1 and a red phosphor.
6. The light emitting device according to claim 5, wherein the red phosphor is selected from the group of (Sr_(1-x-y)Ba_(x)Ca_(y))S:Eu wherein 0≦x 当審による上記記載の訳を付す。以下同様。
「請求の範囲
1. 一般式(Ba_(1-x-y-z)Sr_(x)Ca_(y))_(2)SiO_(4):Eu_(z)(但し、0≦x≦1, 0≦y≦1, 0<z<1 である。)である蛍光体組成物と、光のパターンを発光するLEDとを具える発光装置。
2. 1.に記載の発光装置において、
前記発光装置が450nmから480nmまでの波長で発光する、発光装置。
3. 1.または2.に記載の発光装置において、
前記蛍光体組成物が薄膜層に含まれている、発光装置。
4. 1.に記載の発光装置において、
前記LEDが青色発光LEDである、発光装置。
5. 1.に記載の発光装置において、
前記蛍光体組成物が、一般式(Ba_(1-x-y-z)Sr_(x)Ca_(y))2SiO_(4):Eu_(z)(0≦x≦1, 0≦y≦1, 0<z<1 )である緑色蛍光体と、赤色蛍光体とを含む、発光装置。
6. 5.に記載の発光装置において、
前記赤色蛍光体が、
(Sr_(1-x-y)Ba_(x)Ca_(y))S:Eu(0≦x<1, 0≦y<1)、
CaS:Ce, Cl、Li_(2)SrSiO_(4):Eu、
(Sr_(1-x)Ca_(x))SiO_(4):Eu(0≦x<1 )、
(Y_(1-x)Gd_(x))_(3)(Al_(1-y)Ga_(y))_(5)O_(12):Ce(0≦x<1, 0≦y<1 )、及び
(Sr_(1-x-y)Ba_(x)Ca_(y))_(2)Si_(5)N_(8):Eu(0≦x<1, 0≦y<1)、
からなる群から選択されるものである、発光装置。」

(2) 「FIELD OF INVENTION
The present invention relates to a tri-color lamp. The lamp comprises a phosphor composition and a light emitting diode for an excitation energy source. In particular, the lamp employs a blue LED and a mixture of red and green phosphors for the production of white light.」(1頁2ないし6行。)
「技術分野
本発明は、3色ランプに関する。このランプは、蛍光体組成物と励起エネルギー源としての発光ダイオードを含む。特に、このランプは、白色光を生成するために、青色LEDと、赤と緑の蛍光物質の混合物とを使用する。」)

(3) 「There remains a continued challenge to uncover phosphor compositions and mixtures of these compositions to provide improved properties, including improved efficiency, color rendering (e.g. as measured by high color rendering indices) and luminance (intensity), particularly in a tri-color, white lamp.」(3頁15ないし18行。)
「特に、3色、白色ランプにおける、改善された効率、演色(例えば、高い演色指数で測定される)、及び輝度(強度)を含む改善された諸特性を提供する蛍光体組成物とこれらの混合物を見つける継続的な挑戦が残っている。」)

(4) 「SUMMARY OF THE INVENTION
One aspect of the present invention provides a device comprising a light emitting diode, for emitting a pattern of light. The device further comprises a phosphor composition comprising a phosphor of general formula (Ba_(1-x-y-z)Sr_(x)Ca_(y))_(2)SiO_(4):Eu_(z), wherein 0≦x ≦l, 0≦y≦l and 0 The phosphor comprises as a host an alkaline earth silicate lattice and divalent Europium as a dopant and the composition is positioned in the light pattern.
Such a device shows high efficiency, particularly at chip temperature above 150℃, because of the high quenching temperature of such a phosphor.
Especially, when the phosphor is comprised in a thin film layer the high quenching temperature of the phosphor is of advantage.
Another aspect of the present invention provides a light emitting device comprising a LED for emitting a pattern of light and a phosphor composition comprising a mixture of a first phosphor and a second phosphor. The first phosphor has the general formula (Ba_(1-x-y-z)Sr_(x)Ca_(y))_(2)SiO_(4):Eu _(z), wherein 0≦x≦l, 0≦y≦l and 0 Another aspect of the present invention provides a light emitting device wherein the phosphor composition comprises a green phosphor of general formula (Ba_(1-x-y-z)Sr_(x)Ca_(y))_(2)SiO_(4):Eu _(z), wherein 0≦x≦l, 0≦y≦l and 0 CaS:Ce,Cl; Li_(2)SrSiO:Eu; (Sr_(1-x)Ca_(x))SiO_(4):Eu wherein 0≦x (Y_(1-x)Gd_(x))_(3)(Al_(1-y)Ga_(y))_(5)O_(12):Ce wherein 0≦x (Sr_(1-x-y)Ba_(x)Ca_(y))_(2)Si_(5)N_(8):Eu wherein 0≦x Another aspect of the present invention provides a phosphor composition comprising a phosphor of general formula (Ba_(1-x-y-z)Sr_(x)Ca_(y))_(2)SiO:Eu_(z), wherein 0≦x≦l, 0≦y≦l and 0 「発明の概要
本発明のある実施態様では、光のパターンを発光、即ち放射する発光ダイオードを含む装置を提供する。この装置は、さらに、一般式(Ba_(1-x-y-z)Sr_(x)Ca_(y))_(2)SiO_(4):Eu_(z)(但し、0≦x≦1, 0≦y≦1, 0<z<1 である。)である蛍光体を含む蛍光体組成物を含むものである。
この蛍光体は、支持体成分(ホスト)としてアルカリ土類ケイ酸塩格子と、添加物としての2価のユウロピウムからなり、この組成は光のパターンにあわせて決められる。
このような蛍光体の高い消光温度のため、このような装置は、特にチップ温度が150℃を超えるような場合に高効率を呈する。
特に、蛍光体が薄膜層に含まれている場合には、蛍光体の高い消光温度が利点となる。
本発明の他の態様では、光のパターンを出射するLEDと、第1の蛍光体と第2の蛍光体との混合物を含む蛍光体とを含む発光装置を提供する。第1の蛍光体は、一般式(Ba_(1-x-y-z)Sr_(x)Ca_(y))_(2)SiO_(4):Eu_(z)(0≦x≦1, 0≦y≦1, 0<z<1 )であり、支持体成分のアルカリ土類ケイ酸塩格子と添加物としての2価ユウロピウムからなり、発光ダイオードによって励起される機能を持っている。第2の蛍光体は、赤色を発光する蛍光体である。
本発明の他の実施態様では、一般式(Ba_(1-x-y-z)Sr_(x)Ca_(y))_(2)SiO_(4):Eu_(z)(0≦x≦1, 0≦y≦1, 0<z<1 )である緑色蛍光体と、(Sr_(1-x-y)Ba_(x)Ca_(y))S:Eu(0≦x<1, 0≦y<1)、CaS:Ce, Cl、Li_(2)SrSiO_(4):Eu、(Sr_(1-x)Ca_(x))SiO_(4):Eu(0≦x<1 )、(Y_(1-x)Gd_(x))_(3)(Al_(1-y)Ga_(y))_(5)O_(12):Ce(0≦x<1, 0≦y<1 )、及び(Sr_(1-x-y)Ba_(x)Ca_(y))_(2)Si_(5)N_(8):Eu(0≦x<1, 0≦y<1 )、からなる群から選択されるような赤色蛍光体とを含む蛍光体組成物を具える発光装置を提供する。このような蛍光体組成物の放射スペクトルは、LEDの青色光と一緒になって、必要とされる色温度で優れた演色を持つ高品質の白色光を得るために適切な波長を持つ。
本発明の他の実施態様では、一般式(Ba_(1-x-y-z)Sr_(x)Ca_(y))_(2)SiO_(4):Eu_(z)(0≦x≦1, 0≦y≦1, 0<z<1 )であり、支持体成分としてアルカリ土類ケイ酸塩格子と添加物としてのユウロピウムとを含む蛍光体組成物を提供する。一般式(Ba_(1-x-y-z)Sr_(x)Ca_(y))_(2)SiO_(4):Eu_(z)(0≦x≦1, 0≦y≦1, 0<z<1 )の蛍光体は、フォトンを効率的に、特に450nmで動作している青色LEDのフォトンを吸収し、このような波長の励起を受けて高い量子効率を示す。このような蛍光体は、230℃でTQ50%の高い消光温度を示す。」

(5) 「DETAILED DESCRIPTION
The invention relates, in part to the discovery that a tri-color lamp employing specific green and red phosphors excitable by a common light emitting diode (LED) can achieve white light at higher efficiencies with superior color rendering over previous fluorescent lamps and are not apt to substantial quenching at chip temperature above 150 ℃and up to 230℃.」(5頁26ないし31行。)
「詳細な説明
本発明は、一部は、共通の発光ダイオード(LED)で励起可能な、特定の緑と赤の蛍光体を使用する3色ランプが従来の蛍光灯より高品質な演色、かつ高効率で白色光を達成することに関する知見に関連するものであり、150℃から230℃までの素子温度で実質的に消光を起こす傾向がないことに関連する。」

(6) 「In one embodiment, the common LED is a blue LED. The use of blue light as an excitation radiation over other light sources has been found to be particularly advantageous in that conversion efficiency to visible light is higher. In one embodiment each phosphor is capable of being excited by a common LED which emits radiation at a wavelength from about 450 nm to about 480 nm. It has been found that color rendering can decrease at excitation energies below 450 nm whereas absorption by the phosphors decreases at excitation energies greater than 480 nm. An example of a blue LED that emits radiation in the above-mentioned energy ranges is a (In,Ga)N diode.」(6頁6ないし13行。)
「ある実施態様では、共通のLEDは青色LEDである。励起放射エネルギーとして他の光源ではなく青色光源を使用することは、特に、可視光への変換効率が高くなるという利点があることが判明した。ある実施態様では、各蛍光体は、約450nmから約480nmまでの波長で放射エネルギーを放出する共通のLEDによって励起されることができる機能を持つ。蛍光体による吸収は480nmを超える励起エネルギーで減少するのに対して、演色は450nmより下の励起エネルギーにおいて減少し得ることを見いだした。上述したエネルギー範囲で放射エネルギーを放出する青色LEDの例としては、(In,Ga)Nダイオードがある。」

(7) 「In one embodiment, the device is a lamp. In one embodiment, the lamp emits white light. In this embodiment, the first phosphor is a green phosphor of general formula (Ba_(o .49) Sr_(o. 49) )_(2)SiO_( 4) :Eu_(o.o2) and the second phosphor is a red phosphor of general formula SrSi_(5)N_(8):E, where the white color is achieved by effectively mixing the green and red light with unabsorbed blue light provided by the LED.
The white light lamp of the present invention is particularly advantageous in that the color rendering properties are far superior to those of any previous white lamps. In one embodiment, the lamp is capable of emitting radiation having a color rendering index, Ra of at least about 60 at a color temperature from about 2700 K to about 8000 K, preferably an Ra of at least about 70, more preferably an Ra of at least about 80 and even more preferably an Ra of at least about 90. In a preferred embodiment, the lamp generates a CRI, Ra of greater than 70 for CCT values of less than 6000 K.」(7頁32行ないし8頁9行。)
「ある実施態様では、本装置はランプである。ある実施態様では、ランプは白色光を出す。この実施態様では、第1の蛍光体は一般式(Ba_(0.49)Sr_(0.49))_(2)SiO_(4):Eu_(0.02)である緑色蛍光体であり、第2の蛍光体は一般式Sr_(2)Si_(5)N_(8):Euである赤色蛍光体であり、ここで白色はLEDによって提供される吸収されなかった青色光と、赤色と緑色の光とを効率的に混合することによって達成される。
本発明の白色ランプは、演色特性が従来の白色ランプよりも非常に優れているという点で特に有利である。ある実施態様では、ランプは色温度約2700Kから約8000Kで平均演色評価数Raが少なくとも約60であり、好適には、Raは少なくとも約70、さらに好適にはRaが少なくとも約80であり、さらに好ましくはRaは少なくとも約90であるような、放射エネルギーを出す能力を持つ。好適な実施態様では、ランプは6000K未満の相関色温度で、平均演色評価数Raが70を超える演色指数を生成する。」

(8) 「Fig. 2 shows a simulation of emission spectra of a tri-color lamp comprising a mixture of (Ba_(o.49)Sr_(o.49))_(2)SiO:Eu_(o.o2 )and Sr_(2)Si_(5)N_(8):Eu excited by a blue (In,Ga)N LED at 460 nm. Emission intensity or radiance is indicated in the ordinate axis. This system exhibits superior color rendering properties over a wide range of color temperatures. It is a feature of the present invention to mix respective amounts of the phosphors and to illuminate these phosphors with a blue LED to closely match these desired simulated spectra.
By varying optical properties of each source of light in the device, the device can be designed to have desired characteristics depending on a particular application. For example, certain devices may be required to generate light of high intensity and only adequate color rendering is needed, whereas other applications may require high color rendering properties, at the expense of efficiency. Alternatively, color rendering can be sacrificed for higher efficiency. For example, a 50% increase in efficiency can be achieved by decreasing Ra down to about 60. Such properties can be varied by changing relative power fractions of each light source. A "power fraction" is the fraction of light from each source that provides the final light color. Power fractions can be varied by, for example, changing a relative amount of phosphor material present in the device or varying dopant concentration.
It is understood that the phosphor composition can comprise more than two phosphors so long as optimal color rendering properties are achieved.」(8頁10ないし28行。)
「図2は、460nmで青色(In,Ga)NのLEDで励起されている(Ba_(0.49)Sr_(0.49))_(2)SiO_(4):Eu_(0.02)とSr_(2)Si_(5)N_(8):Euとの混合物を具える3色ランプの発光スペクトルを示す。発光強度、即ち、放射エネルギーを縦の座標軸に示す。このシステムは、広範囲な色温度に対して優れた演色特性を呈する。本発明の特徴は、蛍光体の各量をミックスし、青色LEDでこれら蛍光体を照らし、これらの所望されるシミュレーションされたスペクトルにきっちりと合致させることである。
装置の各光源の光学特性を変化させることによって、本装置に特定の用途に依存した所望の特性を持たせることができる。例えば、ある装置は、高輝度(強度)の光を生成することを必要とし一方でほどほどの演色性を必要とすることができるが、他の用途では効率を犠牲にして高い演色性を必要とすることもできる。或いは、高い効率のために演色性を犠牲にすることもできる。例えば、効率の50%の増大は、Raを約60%に低下させることによって達成できる。このような諸特性は、各光源の相対出力比率を変更することによって変化させることができる。出力比は、例えば、装置内にある蛍光物質の相対的な量を変える、或いは、添加物濃度を変化させることによって変化させることができる。
蛍光体組成物は、最適な演色特性が達成されるならば2つを超える、即ち3つ以上の蛍光体を具えることができる。」

2 甲1発明の認定
(1) 上記「1 (1)」における、1.を引用する5.を引用する6.を、先行する記載を引用しない独立の形式で記載すれば次のとおりである。
「蛍光体組成物と、光のパターンを発光するLEDとを具え、
前記蛍光体組成物が、緑色蛍光体と、赤色蛍光体とを含み、
前記緑色蛍光体が、一般式(Ba_(1-x-y-z)Sr_(x)Ca_(y))2SiO_(4):Eu_(z)(0≦x≦1, 0≦y≦1, 0<z<1 )であり、
前記赤色蛍光体が、
(Sr_(1-x-y)Ba_(x)Ca_(y))S:Eu(0≦x<1, 0≦y<1)、
CaS:Ce, Cl、Li_(2)SrSiO_(4):Eu、
(Sr_(1-x)Ca_(x))SiO_(4):Eu(0≦x<1 )、
(Y_(1-x)Gd_(x))_(3)(Al_(1-y)Ga_(y))_(5)O_(12):Ce(0≦x<1, 0≦y<1 )、及び
(Sr_(1-x-y)Ba_(x)Ca_(y))_(2)Si_(5)N_(8):Eu(0≦x<1, 0≦y<1 )、
からなる群から選択される、発光装置。」

(2) 上記「1 (4)」には、「本発明の実施態様」が4つ記載されている。そのうち、3番目の実施態様についての記載は、次のとおりである。「本発明の他の実施態様では、一般式(Ba_(1-x-y-z)Sr_(x)Ca_(y))_(2)SiO_(4):Eu_(z)(0≦x≦1, 0≦y≦1, 0<z<1 )である緑色蛍光体と、(Sr_(1-x-y)Ba_(x)Ca_(y))S:Eu(0≦x<1, 0≦y<1)、CaS:Ce, Cl、Li_(2)SrSiO_(4):Eu、(Sr_(1-x)Ca_(x))SiO_(4):Eu(0≦x<1 )、(Y_(1-x)Gd_(x))_(3)(Al_(1-y)Ga_(y))_(5)O_(12):Ce(0≦x<1, 0≦y<1 )、及び(Sr_(1-x-y)Ba_(x)Ca_(y))_(2)Si_(5)N_(8):Eu(0≦x<1, 0≦y<1 )、からなる群から選択されるような赤色蛍光体とを含む蛍光体組成物を具える発光装置を提供する。このような蛍光体組成物の放射スペクトルは、LEDの青色光と一緒になって、必要とされる色温度で優れた演色を持つ高品質の白色光を得るために適切な波長を持つ。」

上記「3番目の実施態様」の発光装置は、上記(1)に記載した発光装置において、LEDが青色光を発することと白色光を得ることを限定した、次のとおりのものと認められる。
「蛍光体組成物と、光のパターンを発光するLEDとを具え、
前記蛍光体組成物が、緑色蛍光体と、赤色蛍光体とを含み、
前記緑色蛍光体が、一般式(Ba_(1-x-y-z)Sr_(x)Ca_(y))_(2)SiO_(4):Eu_(z)(0≦x≦1, 0≦y≦1, 0<z<1 )であり、
前記赤色蛍光体が、
(Sr_(1-x-y)Ba_(x)Ca_(y))S:Eu(0≦x<1, 0≦y<1)、
CaS:Ce, Cl、Li_(2)SrSiO_(4):Eu、
(Sr_(1-x)Ca_(x))SiO_(4):Eu(0≦x<1 )、
(Y_(1-x)Gd_(x))_(3)(Al_(1-y)Ga_(y))_(5)O_(12):Ce(0≦x<1, 0≦y<1 )、及び
(Sr_(1-x-y)Ba_(x)Ca_(y))_(2)Si_(5)N_(8):Eu(0≦x<1, 0≦y<1 )、
からなる群から選択され、
前記蛍光体組成物の放射スペクトルは、前記LEDの青色光と一緒になって、必要とされる色温度で優れた演色を持つ高品質の白色光を得るために適切な波長を持つ、発光装置。」

(3) 上記「1 (4)」によれば、上記「3番目の実施態様」の発光装置の「一般式(Ba_(1-x-y-z)Sr_(x)Ca_(y))_(2)SiO_(4):Eu_(z)(0≦x≦1, 0≦y≦1, 0<z<1 )である緑色蛍光体」は、支持体成分のアルカリ土類ケイ酸塩格子と添加物としての2価ユウロピウムとを含む蛍光体組成物を提供し、フォトンを効率的に、特に450nmで動作している青色LEDのフォトンを吸収し、このような波長の励起を受けて高い量子効率を示すものである。

(4) 上記「3番目の実施態様」の発光装置の「赤色蛍光体」は、
「(Sr_(1-x-y)Ba_(x)Ca_(y))S:Eu(0≦x<1, 0≦y<1)、
CaS:Ce, Cl、Li_(2)SrSiO_(4):Eu、
(Sr_(1-x)Ca_(x))SiO_(4):Eu(0≦x<1 )、
(Y_(1-x)Gd_(x))_(3)(Al_(1-y)Ga_(y))_(5)O_(12):Ce(0≦x<1, 0≦y<1 )、及び
(Sr_(1-x-y)Ba_(x)Ca_(y))_(2)Si_(5)N_(8):Eu(0≦x<1, 0≦y<1 )、
からなる群から選択される」ものであり、最後に記載された化学式のものを選択した際には「(Sr_(1-x-y)Ba_(x)Ca_(y))_(2)Si_(5)N_(8):Eu(0≦x<1, 0≦y<1 )」である。

(5) 上記(1)ないし(4)によれば、甲第1号証の1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「蛍光体組成物と、LEDとを具え、
前記蛍光体組成物は、緑色蛍光体と、赤色蛍光体とを含み、
前記緑色蛍光体は、(Ba_(1-x-y-z)Sr_(x)Ca_(y))_(2)SiO_(4):Eu_(z)(0≦x≦1, 0≦y≦1, 0<z<1 )であり、支持体成分のアルカリ土類ケイ酸塩格子と添加物としての2価ユウロピウムからなり、フォトンを効率的に、特に450nmで動作している青色LEDのフォトンを吸収し、このような波長の励起を受けて高い量子効率を示し、
前記赤色蛍光体は、(Sr_(1-x-y)Ba_(x)Ca_(y))_(2)Si_(5)N_(8):Eu(0≦x<1, 0≦y<1 )であり、
前記蛍光体組成物の放射スペクトルは、前記LEDの青色光と一緒になって、必要とされる色温度で優れた演色を持つ高品質の白色光を得るために適切な波長を持つ、
発光装置。」

3 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(1) 甲1発明の「緑色蛍光体と、赤色蛍光体」、「『緑色蛍光体と、赤色蛍光体とを含』む『蛍光体組成物』」及び「蛍光体組成物の放射スペクトルは、LEDの青色光と一緒になって、必要とされる色温度で優れた演色を持つ高品質の白色光を得るために適切な波長を持つ、発光装置」は、それぞれ、本件発明1の「蛍光体」、「蛍光体を含む蛍光体層」及び「蛍光体は、発光素子が放つ光によって励起されて発光し、前記蛍光体が放つ発光成分を出力光として少なくとも含む発光装置」に相当する。

(2) 500nm以上600nm未満の波長領域は、緑色光といえる。
よって、甲1発明の「『(Ba_(1-x-y-z)Sr_(x)Ca_(y))_(2)SiO_(4):Eu_(z)(0≦x≦1, 0≦y≦1, 0<z<1 )であり、支持体成分のアルカリ土類ケイ酸塩格子と添加物としての2価ユウロピウムからなり、フォトンを効率的に、特に450nmで動作している青色LEDのフォトンを吸収し、このような波長の励起を受けて高い量子効率を示』す『緑色蛍光体』」は、「Eu^(2+)で付活され、アルカリ土類金属オルト珪酸塩からなる、緑色蛍光体」である点で、本件発明1の「Eu^(2+)で付活され、かつ、500nm以上600nm未満の波長領域に発光ピークを有するアルカリ土類金属オルト珪酸塩蛍光体」と共通している。

(3) 甲1発明の「『(Sr_(1-x-y)Ba_(x)Ca_(y))_(2)Si_(5)N_(8):Eu(0≦x<1, 0≦y<1 )』である『赤色蛍光体』」は、「Eu^(2+)で付活された窒化物蛍光体」といえる。
また、600nm以上660nm未満の波長領域は、赤色光といえる。
よって、甲1発明の「『(Sr_(1-x-y)Ba_(x)Ca_(y))_(2)Si_(5)N_(8):Eu(0≦x<1, 0≦y<1 )』である『赤色蛍光体』」は、「Eu^(2+)で付活され、窒化物蛍光体からなる赤色蛍光体」である点で、本件発明1の「Eu^(2+)で付活され、かつ、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有する窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体」と共通している。

(4) 一般に、450ないし495nmの波長領域の光を青色光と称するから、甲1発明の「青色LED」は、「450ないし495nmの波長領域」に発光ピークを有しているものと認められる。
一方、本件発明1の「発光素子」は、「360nm以上500nm未満の波長領域」に発光ピークを有している。
そして、「450ないし495nmの波長領域」は「360nm以上500nm未満の波長領域」を含む。
よって、甲1発明の「青色LED」は、本件発明1の「『360nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有し』ている『発光素子』」に相当する。

(5) 上記(1)ないし(4)によれば、本件発明1と甲1発明は、以下の<一致点>で一致し、以下の<相違点>で相違する。
<一致点>
「蛍光体を含む蛍光体層と発光素子とを備え、前記発光素子は、360nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有し、前記蛍光体は、前記発光素子が放つ光によって励起されて発光し、前記蛍光体が放つ発光成分を出力光として少なくとも含む発光装置であって、
前記蛍光体は、
Eu^(2+)で付活され、窒化物蛍光体からなる赤色蛍光体と、
Eu^(2+)で付活され、アルカリ土類金属オルト珪酸塩からなる緑色蛍光体とを含む、
発光装置。」

<相違点>
本件発明1は、
「赤色蛍光体」(Eu^(2+)で付活され、かつ、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有する窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体)が「600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有する」ものであり、
「緑色蛍光体」(Eu^(2+)で付活され、かつ、500nm以上600nm未満の波長領域に発光ピークを有するアルカリ土類金属オルト珪酸塩蛍光体)が「500nm以上600nm未満の波長領域に発光ピークを有する」ものであり、
「発光素子が放つ光励起下において、蛍光体の内部量子効率が80%以上である」のに対して、
甲1発明は、
「赤色蛍光体」((Sr_(1-x-y)Ba_(x)Ca_(y))_(2)Si_(5)N_(8):Eu(0≦x<1, 0≦y<1 ))が「600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有する」か否か不明であり、
「緑色蛍光体」((Ba_(1-x-y-z)Sr_(x)Ca_(y))_(2)SiO_(4):Eu_(z)(0≦x≦1, 0≦y≦1, 0<z<1 ))が「500nm以上600nm未満の波長領域に発光ピークを有する」か否か不明であり、
「発光素子(青色LED)が放つ光励起下において、蛍光体(緑色蛍光体と、赤色蛍光体)の内部量子効率が80%以上である」か否か不明である点。

4 判断
上記<相違点>について検討する。
(1) 「赤色蛍光体」について
甲第4号証には次のアの記載がある。
ア 「【0060】<実施例8及び9>実施例8は、蛍光体Sr_(1.97)Eu_(0.03)Si_(5)N_(8)である。原料の配合比率は、窒化カルシウムSr_(3)N_(2):窒化ケイ素Si_(3)N_(4):酸化ユウロピウムEu_(2)O_(3)=1.97:5:0.03である。この3化合物原料を、BNるつぼに入れ、管状炉で、800?1000℃で3時間焼成し、その後、1250?1350℃で5時間焼成を行い、5時間かけて室温まで、徐々に冷却を行った。アンモニアガスは、1l/minの割合で、終始流し続けた。この結果、体色がピンク、365nmの光照射を行うと、肉眼でピンクに発光している窒化物蛍光体が得られた。実施例8の窒化物蛍光体の200℃における温度特性は、87.7%と極めて高い温度特性を示している。表5は、本発明に係る窒化物蛍光体の実施例8及び9を示す。



【0063】実施例9は、蛍光体Sr_(1.4)Ca_(0.6)Si_(5)N_(8):Euである。実施例9は、実施例8と同様の焼成条件で焼成を行った。図10は、実施例9を、Ex=460nmで励起したときの発光スペクトルを示す図である。図10から明らかなように、Ex=460nmの発光スペクトルの光を照射したところ、II価のSrを単独で用いたときよりも、SrとCaを組み合わせたときの方が、長波長側にシフトした。発光スペクトルのピークは、655nmである。これにより、青色発光素子と実施例9の蛍光体とを組み合わせると赤みを帯びた白色に発光する蛍光体を得ることができる。また、実施例9の蛍光体Sr_(1.4)Ca_(0.6)Si_(5)N_(8):Euの量子効率は、86.7%と、良好である。」

イ 甲1発明の「『(Sr_(1-x-y)Ba_(x)Ca_(y))_(2)Si_(5)N_(8):Eu(0≦x<1, 0≦y<1 )』である『赤色蛍光体』」は、x=0、y=0のとき、Sr_(2)Si_(5)N_(8):Euである。これは、Euが付活のため微量添加されるものであることを鑑みれば、上記アにおける実施例8の「蛍光体Sr_(1.97)Eu_(0.03)Si_(5)N_(8)」と実質的に同一のものと認められる。
実施例8の蛍光体は、上記アによれば、200℃において、87.7%と極めて高い温度特性を示し、表5によれば、量子効率は62.9%である。

ウ 甲1発明の「『(Sr_(1-x-y)Ba_(x)Ca_(y))_(2)Si_(5)N_(8):Eu(0≦x<1, 0≦y<1 )』である『赤色蛍光体』」は、x=0、y=0.3のとき、Sr_(1.4)Ca_(0.6)Si_(5)N_(8):Euである。これは、上記アにおける実施例9の「蛍光体Sr_(1.4)Ca_(0.6)Si_(5)N_(8):Eu」である。
実施例9の蛍光体は、上記アによれば、その量子効率は86.7%と良好である。ここで、量子効率が良好とは、量子効率が大きいことを意味することは明らかである。そして、実施例9の蛍光体の量子効率86.7%は、実施例8の蛍光体の量子効率62.9%よりも大きい値となっている。

エ 一般的に、量子効率が大きい蛍光体を用いる等により、LEDの発光効率を高めることは望ましいことである。甲第1号証の、以下の(ア)ないし(エ)の記載は、そのことを裏付ける。
(ア) 「特に、3色、白色ランプにおける、改善された効率、演色(例えば、高い演色指数で測定される)、及び輝度(強度)を含む改善された諸特性を提供する蛍光体組成物とこれらの混合物を見つける継続的な挑戦が残っている。」(上記「1 (3)」参照。)

(イ) 「本発明は、一部は、共通の発光ダイオード(LED)で励起可能な、特定の緑と赤の蛍光体を使用する3色ランプが従来の蛍光灯より高品質な演色、かつ高効率で白色光を達成することに関する知見に関連するものであり」(上記「1 (5)」参照。)

(ウ)「青色光源を使用することは、特に、可視光への変換効率が高くなるという利点がある」(上記「1 (6)」参照。)

(エ)「ある装置は、高輝度(強度)の光を生成することを必要とし」(上記「1 (8)」参照。)

よって、甲1発明において、「『(Sr_(1-x-y)Ba_(x)Ca_(y))_(2)Si_(5)N_(8):Eu(0≦x<1, 0≦y<1 )』である『赤色蛍光体』」として、x=0、y=0.3である「Sr_(1.4)Ca_(0.6)Si_(5)N_(8):Eu」、すなわち甲第4号証に記載された、量子効率が大きい実施例9の蛍光体を採用することは、当業者が、甲第4号証の記載に基づいて容易に想到し得たことと認められる。
そして、上記アによれば、実施例9の蛍光体は、460nmの光で励起したとき、655nmに発光ピークを有するから、「600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有する」ものである。

(2) 「緑色蛍光体」について
甲第5号証には次のア及びイの記載がある。
ア 「 【0023】
緑色発光蛍光体は好ましくは約500nm?約555nmの間に発光ピークを示す。図5,図6及び図7は本明細書で開示した3種の緑色蛍光体の発光スペクトルである。これらの図に示した通り、緑色蛍光体の発光スペクトルは図1の分光視感度曲線の最も高感度の領域と大部分一致している。Ba_(2)MgSi_(2)O_(7):Eu^(2+)は約495?505nm、通例約500nmに発光ピークを有し、Ba_(2)SiO_(4):Eu^(2+)は約500?510nm、通例約505nmに発光ピークを有し、(Sr,Ca,Ba)(Al,Ga)_(2)S_(4):Eu^(2+)は約535?545nm、通例約540nmに発光ピークを有する。これらの蛍光体を1種類以上使用したランプで得られる分光視感度は、青色光が実質的にすべて蛍光体で吸収されたと仮定して、550ルーメン/ワット放射束を超えるのが通例である。
【0024】
ルーメンを得る際にランプ効率の記述に常用されるもう一つの変数はデバイス視感度であり、ランプの出力光束をランプへの入力電力で除した値として定義される。ランプのデバイス視感度は出力スペクトルの分光視感度だけでなく3つの付加的因子も考慮に入れる。第一に、デバイス効率はLEDの出力放射束をLEDへの入力電力で除した値を表す。典型的な青色LEDでは、デバイス効率は約10%である。第二に、蛍光体の量子効率は吸収フォトンから放出フォトンへのエネルギー遷移に付随する損失を表す。量子効率は、蛍光体から放出されたフォトンの数を蛍光体に吸収されたフォトンの数で除した値として定義される。本明細書に開示した蛍光体では、量子効率は通例約80%である。第三に、蛍光体の発する放出光の振動数の減少に付随したエネルギー損失があり、hΔνに等しい。hはプランク定数で、Δνは光の振動数の変化である。吸収波長が450nmで発光波長が555nmの光では、放出エネルギーは吸収エネルギーの450/555=81%である。
【0025】
これらすべての因子を考慮に入れると、典型的なランプのデバイス視感度(DLE)は、
DLE=(DE)×(QE)×(FL)×(SLE)
で表される。DE=デバイス効率、QE=蛍光体量子効率、FL=振動数損失効率、そしてSLE=分光視感度である。本発明の例示的実施形態による典型的なランプでは、デバイス視感度は(10%)×(80%)×(81%)×(550?683ルーメン/ワット放射束)=約35?45ルーメン/ワット入力電力となる。かかる範囲のデバイス視感度は公知のLEDランプに比べて格段に高い。例えば、従来の緑色発光LEDは通例30ルーメン/ワット入力電力以下である。」

イ 「【0026】
本発明の別の実施形態では、デバイス効率が例えば40%であるようなレーザーダイオードを利用することでデバイス視感度をさらに高めることができる。他の変数が実質的に同じと仮定して、デバイス視感度は約143?177ルーメン/ワット入力電力へと高まる。」

ウ 甲1発明の「緑色蛍光体」は「(Ba_(1-x-y-z)Sr_(x)Ca_(y))_(2)SiO_(4):Eu_(z)(0≦x≦1, 0≦y≦1, 0<z<1 )」である。Euは付活のために微量添加するものであってzは十分に小さいので、x=y=0のときの「(Ba_(1-x-y-z)Sr_(x)Ca_(y))_(2)SiO_(4):Eu_(z)(0≦x≦1, 0≦y≦1, 0<z<1 )」、すなわち「Ba_(2-2z)SiO_(4):Eu_(z)(0<z<1 )」は、上記アに記載された「Ba_(2)SiO_(4):Eu^(2+)」と実質的に同一のものと認められる。
上記アによれば、「Ba_(2)SiO_(4):Eu^(2+)」は、約500?510nm、通例約505nmに発光ピークを有する。

エ 上記アの【0024】には「蛍光体の量子効率は吸収フォトンから放出フォトンへのエネルギー遷移に付随する損失を表す。量子効率は、蛍光体から放出されたフォトンの数を蛍光体に吸収されたフォトンの数で除した値として定義される。本明細書に開示した蛍光体では、量子効率は通例約80%である。」との記載がある。
該記載は、蛍光体に吸収された後の過程について述べている。一方、「外部量子効率」は、光が蛍光体に入射して吸収される際の吸収率を考慮に入れたものであって、外部量子効率=該吸収率×内部量子効率である。
してみると、該記載における「量子効率」が「内部量子効率」を指すことは明らかである。
そして、該記載には「本明細書に開示した蛍光体では、量子効率は通例約80%である。」とある。
よって、上記アに記載された「Ba_(2)SiO_(4):Eu^(2+)」の内部量子効率は、約80%と認められる。

オ 上記アは、LEDを用いたランプについての記載となっている。そして、上記アの【0024】に「典型的な青色LEDでは、デバイス効率は約10%である。」との記載があるところ、上記アの【0025】では、DE=デバイス効率が10%とされていることは、上記アの【0025】が、LEDについての記載であることを示しているといえる。
また、上記イには、「本発明の別の実施形態」として、レーザーダイオードを利用することで、そのデバイス効率が例えば40%となって、デバイス視感度をさらに高めることができることが記載されている。該記載は、レーザーダイオードランプは、同じ「本明細書に開示した蛍光体」を用いた際のデバイス効率が、LEDランプのデバイス効率10%よりも高い40%となることを意味すると解される。
してみると、上記アの【0025】の「本発明の例示的実施形態による典型的なランプ」とは、青色を発光するLEDと、その青色光を吸収して緑色に発光する、上記アの【0023】に記載された3種の緑色蛍光体を用いたLEDランプを指すものと認められる。そして、上記アの【0025】の記載によれば、該LEDランプは、公知のLEDランプに比べて格段に高いデバイス視感度を得られるものである。
ここで、上記アの「【0024】ルーメンを得る際にランプ効率の記述に常用されるもう一つの変数はデバイス視感度であり、ランプの出力光束をランプへの入力電力で除した値として定義される。」との記載によれば、デバイス視感度が高ければ、同じランプ入力電力によって、より大きいランプ出力光束が得られることになるから、デバイス視感度が低いよりは高い方が望ましいことは明らかである。

カ 上記オによれば、甲第5号証の上記アの記載は、青色LEDの青色光を緑色光に変換する緑色蛍光体として、上記アの【0023】に記載された3種の緑色蛍光体を採用すれば、高いデバイス視感度が得られるという望ましい効果を奏することを意味するか、少なくともそのことを示唆するものと認められる。
この3種の緑色蛍光体のうち、「Ba_(2)SiO_(4):Eu^(2+)」は、甲1発明の「『(Ba_(1-x-y-z)Sr_(x)Ca_(y))_(2)SiO_(4):Eu_(z)(0≦x≦1, 0≦y≦1, 0<z<1 )』である『緑色蛍光体』」に該当し得る。
また、一般的に、量子効率が大きい蛍光体を用いる等により、LEDの発光効率を高めることが望ましいところ(上記「(1) エ」参照。)、甲第5号証に記載された「Ba_(2)SiO_(4):Eu^(2+)」の緑色蛍光体は、上記エによれば、約80%の高い内部量子効率を有している(例えば、上記「(1) ウ」で検討した、甲第4号証に記載された「実施例8の蛍光体」の内部量子効率は62.9%であって、80%よりも小さい。)。
してみると、甲1発明において、「『(Ba_(1-x-y-z)Sr_(x)Ca_(y))_(2)SiO_(4):Eu_(z)(0≦x≦1, 0≦y≦1, 0<z<1 )』である『緑色蛍光体』」として、甲第5号証に記載された「Ba_(2)SiO_(4):Eu^(2+)」を採用することは、当業者が、甲第5号証の記載に基づいて容易に想到し得たことと認められる。
そして、甲第5号証に記載された「Ba_(2)SiO_(4):Eu^(2+)」の発光ピークの波長領域である「約500?510nm、通例約505nm」は、本件発明1の「緑色蛍光体」(Eu^(2+)で付活され、かつ、500nm以上600nm未満の波長領域に発光ピークを有するアルカリ土類金属オルト珪酸塩蛍光体)の発光ピークの波長領域である「500nm以上600nm未満」に含まれる。

(3) 「蛍光体の内部量子効率」について
ア 本件発明1の「蛍光体の内部量子効率」について
本件発明1の「蛍光体の内部量子効率」が、蛍光体層中にある赤色蛍光体及び緑色蛍光体を含む、蛍光体全体としての内部量子効率を意味することは、本件特許の請求項1の記載から明白である。

イ 甲1発明における「赤色蛍光体」の内部量子効率について
甲1発明において、「赤色蛍光体」として、甲第4号証に実施例9の蛍光体として記載された「Sr_(1.4)Ca_(0.6)Si_(5)N_(8):Eu」を採用した際には、該「赤色蛍光体」の量子効率は86.7%である(上記「(1) ウ」参照。)。
この量子効率が外部量子効率を指すのか内部量子効率を指すのかは不明である。しかしながら、外部量子効率=内部量子効率×吸収率であり、かつ吸収率は100%未満であるから、外部量子効率<内部量子効率である。
よって、該「赤色蛍光体」の内部量子効率が86.7%より大きいことは明らかである。

ウ 甲1発明における「緑色蛍光体」の内部量子効率について
甲1発明において、「緑色蛍光体」として、甲第5号証に「3種の緑色蛍光体」のうちの1つとして記載された「Ba_(2)SiO_(4):Eu^(2+)」を採用した際には、該「緑色蛍光体」の内部量子効率は約80%である(上記「(2) エ」参照。)。

エ 甲1発明の「蛍光体の内部量子効率」について
(ア) 上記イによれば、「赤色蛍光体」として「Sr_(1.4)Ca_(0.6)Si_(5)N_(8):Eu」を採用した際には、甲1発明の「赤色蛍光体」の内部量子効率は86.7%より大きい。

(イ) 上記ウによれば、「緑色蛍光体」として「Ba_(2)SiO_(4):Eu^(2+)」を採用した際には、甲1発明の「緑色蛍光体」の内部量子効率は約80%である。

(ウ) 甲第1号証の1における、「このランプは、白色光を生成するために、青色LEDと、赤と緑の蛍光物質の混合物とを使用する。」(上記「1 (2)」参照。)、「共通の発光ダイオード(LED)で励起可能な、特定の緑と赤の蛍光体を使用する3色ランプ」(上記「1 (5)」参照。)及び「白色はLEDによって提供される吸収されなかった青色光と、赤色と緑色の光とを効率的に混合することによって達成される。」(上記「1 (7)」参照。)との記載は、甲1発明の「蛍光体組成物」が、緑色蛍光体と赤色蛍光体のみを含むことを示唆する。
また、甲第1号証の1の「蛍光体組成物は、最適な演色特性が達成されるならば2つを超える、即ち3つ以上の蛍光体を具えることができる。」(上記「1 (8)」参照。)との記載は、蛍光体組成物が、緑色蛍光体と赤色蛍光体の2つの蛍光体のみを含むものであってよいことを意味する。
してみると、甲1発明は、蛍光体として、緑色蛍光体と赤色蛍光体のみを用いてもよいものと認められる。
そして、甲1発明において、蛍光体として、内部量子効率が約80%の緑色蛍光体と、内部量子効率が86.7%より大きい赤色蛍光体のみを用いた際には、緑色蛍光体と赤色蛍光体からなる蛍光体の内部量子効率は、80%以上になるものと認められる。

(エ) 上記(ア)ないし(ウ)によれば、甲1発明において、「赤色蛍光体」として、甲第4号証に実施例9の蛍光体として記載された「Sr_(1.4)Ca_(0.6)Si_(5)N_(8):Eu」を採用し、「緑色蛍光体」として、甲第5号証に「3種の緑色蛍光体」のうちの1つとして記載された「Ba_(2)SiO_(4):Eu^(2+)」を採用した際には、「蛍光体の内部量子効率」は80%以上になるものと認められる。

(4) まとめ
上記(1)ないし(3)によれば、甲1発明において、本件発明1の<相違点>に係る構成を備えることは、当業者が、甲第1号証の1の記載、甲第4号証の記載及び甲第5号証の記載に基づいて容易に想到し得たことと認められる。
また、該構成を備えることによる効果は、当業者が予測し得る程度のものである。
したがって、本件発明1は、当業者が、甲1発明、甲第1号証の1の記載、甲第4号証の記載及び甲第5号証の記載に基づいて容易に発明をすることができたものである。

5 本件発明2について
(1) 本件発明2
本件発明2は、本件発明1に、「出力光は、発光素子が放つ発光成分を含む」との限定を付加したものに相当する。

(2) 対比・判断
ア 甲1発明は、「蛍光体組成物の放射スペクトルは、LEDの青色光と一緒になって、必要とされる色温度で優れた演色を持つ高品質の白色光を得るために適切な波長を持つ」ものであるから、蛍光体組成物が放射する光だけではなく、LEDの青色光も外部に出力するものと認められる。
してみると、甲1発明は、本件発明2の「出力光は、発光素子が放つ発光成分を含む」との構成を備えている。

イ 上記「4 判断」の検討及び上記アの検討によれば、本件発明2は、当業者が、甲1発明、甲第1号証の1の記載、甲第4号証の記載及び甲第5号証の記載に基づいて容易に発明をすることができたものと認められる。

6 本件発明4について
(1) 本件発明4
本件発明4は、本件発明1において、「窒化物蛍光体」を「組成式(M_(1-x)Eu_(x))_(2)Si_(5)N_(8)で表される蛍光体であり、前記Mは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnから選ばれる少なくとも1つの元素であり、前記xは、式0.005≦x≦0.3を満たす数値である」に限定したものに相当する。
(2) 対比・判断
ア 甲第1号証の1には「蛍光体組成物は、最適な演色特性が達成されるならば2つを超える、即ち3つ以上の蛍光体を具えることができる。」(上記「1 (8)」参照。)との記載があるから、甲1発明において、「赤色蛍光体」として、甲第4号証に実施例9の蛍光体として記載された「Sr_(1.4)Ca_(0.6)Si_(5)N_(8):Eu」に加えて、他の「赤色蛍光体」を合わせ用いることは、当業者が、甲第1号証の1の記載に基づいて適宜なし得たことと認められる。

イ 甲第1号証の1に「赤色蛍光体」として記載されていた「(Sr_(1-x-y)Ba_(x)Ca_(y))_(2)Si_(5)N_(8):Eu(0≦x<1, 0≦y<1 )」について、Euは付活のために微量用いるものであるから、Eu_(x)(xは、式0.005≦x≦0.3を満たす数値である)とすることは通常の選択の範囲内であり、かつ(Sr_(1-x-y)Ba_(x)Ca_(y))は、x、yの値を、例えば得られる蛍光体の特性等を勘案して、設計事項の範囲内で適宜選択することにより、Ca、Sr、Baから選ばれる1つの元素となり得る。
よって、甲第1号証の1には、「赤色蛍光体」である「窒化物蛍光体」として「組成式(M_(1-x)Eu_(x))_(2)Si_(5)N_(8)で表される蛍光体であり、前記Mは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnから選ばれる少なくとも1つの元素であり、前記xは、式0.005≦x≦0.3を満たす数値である」ものが記載されているといえる。

ウ 上記ア及びイによれば、甲1発明において、蛍光体組成物に、「『組成式(M_(1-x)Eu_(x))_(2)Si_(5)N_(8)で表される蛍光体であり、前記Mは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnから選ばれる少なくとも1つの元素であり、前記xは、式0.005≦x≦0.3を満たす数値である』『窒化物蛍光体』」、すなわち上記(1)で検討した本件発明4の備える窒化物蛍光体を加えることは、当業者が、甲第1号証の1の記載に基づいて適宜なし得たことと認められる。

エ 上記「4 判断」の検討及び上記ウの検討によれば、本件発明4は、当業者が、甲1発明、甲第1号証の1の記載、甲第4号証の記載及び甲第5号証の記載に基づいて容易に発明をすることができたものと認められる。

7 本件発明6について
(1) 本件発明6
請求項4を引用する場合、本件発明6は、本件発明4において、「Mは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnから選ばれる少なくとも1つの元素」であったところ、MをSrまたはCaに限定したものに相当する。

(2) 対比・判断
本件発明4について、上記「6 (2) イ」で述べたことと同様に、(Sr_(1-x-y)Ba_(x)Ca_(y))は、x、yの値を、例えば得られる蛍光体の特性等を勘案して、設計事項の範囲内で適宜選択することにより、Ca、Srから選ばれる1つの元素となり得る。
よって、 上記6と同様の検討により、本件発明6は、当業者が、甲1発明、甲第1号証の1の記載、甲第4号証の記載及び甲第5号証の記載に基づいて容易に発明をすることができたものと認められる。

8 本件発明7について
(1) 本件発明7
本件発明7は、本件発明1に、「蛍光体は、420nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有する発光素子が放つ光によって励起されて発光する」との限定を付加したものに相当する。

(2) 対比・判断
ア 甲1発明において、
「赤色蛍光体」として、甲第4号証に記載された、460nmの光で励起されて発光する実施例9の赤色蛍光体を採用し、
「緑色蛍光体」として、甲第5号証に記載された、450nmの光で強く励起されて発光する緑色蛍光体「Ba_(2)SiO_(4):Eu^(2+)」を採用した際、
「発光素子」(青色LED)は、その発光波長領域に、「赤色蛍光体」と「緑色蛍光体」を励起するために460nmと450nmを含まねばならないが、この条件さえ満たせば、該発光波長領域は適宜設定できるものと認められる。
一方、「420nm以上500nm未満の波長領域」は、460nmと450nmを含んでいる。
よって、甲1発明において、「発光素子」(青色LED)を、「420nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有する発光素子」とし、「蛍光体は、420nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有する発光素子が放つ光によって励起されて発光する」ようにすることは、当業者が設計事項の範囲内でなし得ることと認められる。

イ 上記「4 判断」の検討及び上記アの検討によれば、本件発明7は、当業者が、甲1発明、甲第1号証の1の記載、甲第4号証の記載及び甲第5号証の記載に基づいて容易に発明をすることができたものと認められる。

9 本件発明8について
(1) 本件発明8
本件発明8は、本件発明1に、「出力光は、相関色温度が2000K以上8000K以下の白色系光」との限定を付加したものに相当する。
なお、相関色温度とは、光源色と最も近い色の光を放射しているときの黒体の温度を指し、概ね、2000Kは朝日や夕日の橙色であり、8000Kは空色である。

(2) 対比・判断
ア 甲1発明は、「蛍光体組成物の放射スペクトルは、LEDの青色光と一緒になって、必要とされる色温度で優れた演色を持つ高品質の白色光を得るために適切な波長を持つ、発光装置」であるから、白色光を発するものである。
一方、白色光の相関色温度は、2000K以上8000K以下の範囲に含まれるものと認められる。
よって、甲1発明は、「出力光は、相関色温度が2000K以上8000K以下の白色系光」との構成を備えているものと認められる。

イ 上記「4 判断」の検討及び上記アの検討によれば、本件発明8は、当業者が、甲1発明、甲第1号証の1の記載、甲第4号証の記載及び甲第5号証の記載に基づいて容易に発明をすることができたものと認められる。

10 本件発明9について
(1) 本件発明9
本件発明9は、本件発明1に、「蛍光体層は、Eu^(2+)で付活され、かつ、420nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有する青色蛍光体をさらに含み、前記青色蛍光体は、前記発光素子が放つ光によって励起されて発光する」との限定を付加したものに相当する。

(2) 対比・判断
ア 甲第1号証の1には、「蛍光体組成物は、最適な演色特性が達成されるならば2つを超える、即ち3つ以上の蛍光体を具えることができる。」との記載がある(上記「1 (8)」参照。)から、甲1発明の「蛍光体組成物」に、赤色蛍光体と緑色蛍光体に加えて、他の蛍光体を追加して含ませることは、当業者が、甲第1号証の1の上記記載に基づいて適宜なし得ることであり、他の蛍光体としてどのようなものを採用するかは、設計事項と認められる。
一方、Eu^(2+)で付活され、かつ、420nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有する青色蛍光体は優先日時点で周知である。
例えば、甲第3号証には次の記載がある。
「【請求項7】
白色光を生じさせるために、一次発光した放射線は370?420nmの波長領域にあり、青色蛍光体M_(5)(PO_(4))_(3)(X):Eu^(2+)[式中、Mは金属Ba、Caの少なくとも1つだけを表すか又はSrと組み合わされたものを表し、XはハロゲンF又はClの少なくとも1つを表す];又は蛍光体M^(**)MgAl_(10)O_(17):Eu^(2+)[式中、M^(**)は金属Eu、Srの少なくとも1つだけを表すか又はBaと組み合わされたものを表す]を使用する、請求項1記載の照明ユニット。」

青色は通常450?495nmを指すから、上記記載にあるEu^(2+)で付活された青色蛍光体は、450?495nmの波長領域に発光ピークを有するものと認められる。
してみると、甲1発明の「蛍光体組成物」に、赤色蛍光体と緑色蛍光体に加えて、「Eu^(2+)で付活され、かつ、420nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有する青色蛍光体」をさらに含ませることは、当業者が、甲第1号証の1の記載に基づいて適宜なし得たことと認められる。

イ 上記「4 判断」の検討及び上記アの検討によれば、本件発明9は、当業者が、甲1発明、甲第1号証の1の記載、甲第4号証の記載及び甲第5号証の記載に基づいて容易に発明をすることができたものと認められる。

11 本件発明10について
(1) 本件発明10
本件発明10は、本件発明9の「Eu^(2+)で付活され、かつ、420nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有する青色蛍光体」を、「Eu^(2+)で付活された窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体、Eu^(2+)で付活されたアルカリ土類金属オルト珪酸塩蛍光体、Eu^(2+)で付活されたアルミン酸塩蛍光体、及び、Eu^(2+)で付活されたハロ燐酸塩蛍光体から選ばれる少なくとも1つの蛍光体」に限定したものに相当する。

(2) 対比・判断
ア LEDを備えた発光装置に青色蛍光体を用いる際に、どのような青色蛍光体を用いるかは設計事項と認められるところ、「Eu^(2+)で付活され、かつ、420nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有する青色蛍光体」であって、「Eu^(2+)で付活された窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体、Eu^(2)+で付活されたアルカリ土類金属オルト珪酸塩蛍光体、Eu^(2+)で付活されたアルミン酸塩蛍光体、及び、Eu^(2+)で付活されたハロ燐酸塩蛍光体から選ばれる少なくとも1つの蛍光体」は、優先日時点で周知である。
例えば、上記10で検討したとおり、甲第3号証には「蛍光体M^(**)MgAl_(10)O_(17):Eu^(2+)[式中、M^(**)は金属Eu、Srの少なくとも1つだけを表すか又はBaと組み合わされたものを表す]」が記載されており、この蛍光体は、「Eu^(2+)で付活されたアルミン酸塩蛍光体」であり、M^(**)をBaとした場合、本願明細書の【0016】に記載された「BaMgAl_(10)O_(17):Eu^(2+)青色蛍光体」と組成が同じになるから、青色蛍光体、つまり青色光(通常450nmないし495nmの波長の光を指す)で発光する蛍光体であると認められる。よって、甲第3号証には、「Eu^(2+)で付活され、かつ、420nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有する青色蛍光体」であって、「Eu^(2+)で付活されたアルミン酸塩蛍光体」が記載されているといえる。
また、甲第5号証には、「緑色蛍光体の発光スペクトルは図1の分光視感度曲線の最も高感度の領域と大部分一致している。Ba_(2)MgSi_(2)O_(7):Eu^(2+)は約495?505nm、通例約500nmに発光ピークを有し」との記載がある(「4 (3) ア」参照。)。この「Ba_(2)MgSi_(2)O_(7):Eu^(2+)」は、「Eu^(2+)で付活されたアルカリ土類金属オルト珪酸塩蛍光体」であり、その発光ピーク「約495?505nm、通例約500nm」は、「420nm以上500nm未満の波長領域」に含まれる。よって、甲第5号証には、「Eu^(2+)で付活され、かつ、420nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有する青色蛍光体」であって、「Eu^(2+)で付活されたアルカリ土類金属オルト珪酸塩蛍光体」が記載されているといえる。
以上のことから、当業者が、LEDを備えた発光装置に青色蛍光体を用いる際に、該青色蛍光体として、「Eu^(2+)で付活され、かつ、420nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有する青色蛍光体」であって、「Eu^(2+)で付活された窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体、Eu^(2+)で付活されたアルカリ土類金属オルト珪酸塩蛍光体、Eu^(2+)で付活されたアルミン酸塩蛍光体、及び、Eu^(2+)で付活されたハロ燐酸塩蛍光体から選ばれる少なくとも1つの蛍光体」を採用することは、設計事項の範囲内で、適宜なし得たことと認められる。

イ 上記「4 判断」の検討、上記「10 本件発明9について」の検討及び上記アの検討によれば、本件発明10は、当業者が、甲1発明、甲第1号証の1の記載、甲第4号証の記載及び甲第5号証の記載に基づいて容易に発明をすることができたものと認められる。

12 本件発明11について
(1) 本件発明11
本件発明11は、本件発明9に、「青色蛍光体は、360nm以上420nm未満の波長領域に発光ピークを有する発光素子が放つ光によって励起されて発光する」との限定を付加したものに相当する。

(2) 対比・判断
ア 上記「10 本件発明9について」で検討した、甲第3号証に記載された「蛍光体M^(**)MgAl_(10)O_(17):Eu^(2+)[式中、M^(**)は金属Eu、Srの少なくとも1つだけを表すか又はBaと組み合わされたものを表す]」が励起される波長は、上記10で摘記した甲第3号証の「白色光を生じさせるために、一次発光した放射線は370?420nmの波長領域にあり」との記載によれば、「370?420nmの波長領域」にある。
この「370?420nmの波長領域」は、上記(1)の限定における「360nm以上420nm未満の波長領域」に含まれる。

イ 上記「4 判断」の検討、上記「10 本件発明9について」の検討及び上記アの検討によれば、本件発明10は、当業者が、甲1発明、甲第1号証の1の記載、甲第4号証の記載及び甲第5号証の記載に基づいて容易に発明をすることができたものと認められる。

13 本件発明12について
(1) 本件発明12
本件発明12は、本件発明9において、「出力光」を「相関色温度が2000K以上8000K以下の白色系光」に限定したものに相当する。

(2) 対比・判断
ア 上記9の検討によれば、甲1発明において、出力光を、「相関色温度が2000K以上8000K以下の白色系光」とすることは、当業者が、設計事項の範囲内で適宜なし得ることと認められる。

イ 上記「4 判断」の検討、上記「10 本件発明9について」の検討及び上記アの検討によれば、本件発明12は、当業者が、甲1発明、甲第1号証の1の記載、甲第4号証の記載及び甲第5号証の記載に基づいて容易に発明をすることができたものと認められる。

14 本件発明13について
(1) 本件発明13
本件発明13は、本件発明9において、「出力光」を「R1?R15の特殊演色評価数の数値がそれぞれ80以上の白色系光」に限定したものに相当する。

(2) 対比・判断
ア 上記「10 本件発明9について」によれば、甲1発明において、「蛍光体組成物」に、赤色蛍光体と緑色蛍光体に加えて、「Eu^(2+)で付活され、かつ、420nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有する青色蛍光体」をさらに含ませて、本件発明9と同じ構成を備えるものとすることは、当業者が、甲第1号証の1の記載に基づいて適宜なし得たことと認められる。
そして、上記の「蛍光体組成物」への青色蛍光体の追加は、甲第1号証の1の「蛍光体組成物は、最適な演色特性が達成されるならば2つを超える、即ち3つ以上の蛍光体を具えることができる。」との記載(上記「1 (3)」参照。)によれば、最適な演色特性を達成するために行ってよいものと認められる。その際、どのような演色特性を得られるようにするか、例えば、R1?R15の特殊演色評価数の数値をそれぞれどの程度の大きさにするかは、当業者が適宜定めるべき設計事項と認められる。

イ 上記「4 判断」の検討、上記「10 本件発明9について」の検討及び上記アの検討によれば、本件発明13は、当業者が、甲1発明、甲第1号証の1の記載、甲第4号証の記載及び甲第5号証の記載に基づいて容易に発明をすることができたものと認められる。

15 被請求人の主張について
(1) 被請求人は、「甲第1号証、甲第4号証及び甲第5号証のいずれにも、本件発明1の構成要件(B3)となるように(B1)と(B2)を配合するという有機的結合は、記載も示唆もされていない。」旨を主張する(上記「第5 1 (1)」参照。)。
しかしながら、甲1発明において、(B1)として甲第4号証に記載された赤色蛍光体を採用し、(B2)として甲第5号証に記載された緑色蛍光体を採用した際には、自ずと(B3)の「蛍光体の内部量子効率が80%以上」との構成を備えるのである。
また、甲1発明において、(B1)として甲第4号証に記載された赤色蛍光体を採用する動機、(B2)として甲第5号証に記載された緑色蛍光体を採用する動機があることは、それぞれ、上記「4 (1) エ」及び「4 (2) カ」に示したとおりである。特に、上記「4 (1) エ」の冒頭で言及したとおり、甲第1号証には、「一般的に、量子効率が大きい蛍光体を用いる等により、LEDの発光効率を高めることは望ましいことである。」ことを裏付ける記載がある。
よって、被請求人の上記主張は採用できない。

(2) 被請求人は、「本件の発明者は、蛍光体の励起スペクトルに代えて内部量子効率に初めて着目して、発光素子が放つ光の波長において高い内部量子効率を有する蛍光体を選択することが有効であることを世界で最初に見出したのである。かかる発明により、励起スペクトルの強度が下がった波長領域においても、内部量子効率が高い水準を維持している蛍光体を用いて、高効率の白色発光装置を実現することが可能となった。」と主張する(上記「第5 3」参照。)。
しかしながら、上記主張は、上記「4 判断」の判断を左右するものではないから、被請求人の上記主張は採用できない。

16 小括
以上のことから、本件発明1、本件発明2、本件発明4、本件発明6ないし本件発明13は、当業者が、甲1発明、甲第1号証の1の記載、甲第4号証の記載及び甲第5号証の記載に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

第7 むすび
以上のとおり、本件発明1、本件発明2、本件発明4、本件発明6ないし本件発明13についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、請求人の主張する他の理由について検討するまでもなく、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-15 
結審通知日 2013-05-17 
審決日 2013-05-31 
出願番号 特願2004-363534(P2004-363534)
審決分類 P 1 123・ 121- Z (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 高椋 健司  
特許庁審判長 江成 克己
特許庁審判官 松川 直樹
星野 浩一
登録日 2008-05-23 
登録番号 特許第4128564号(P4128564)
発明の名称 発光装置  
代理人 内藤 浩樹  
復代理人 永井 秀男  
復代理人 中川 文貴  
代理人 寺内 伊久郎  
代理人 藤井 兼太郎  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ