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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02M
管理番号 1277200
審判番号 不服2011-16539  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-08-01 
確定日 2013-07-24 
事件の表示 特願2002-522666「第1と第2のガスの流れを混合する装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 3月 7日国際公開、WO02/18773、平成16年 3月11日国内公表、特表2004-507659〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯及び本願発明
本願は、2001年8月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2000年8月30日、スウェーデン国)を国際出願日とする出願であって、平成15年2月27日に特許法第184条の5第1項に規定する国内書面が提出され、平成15年4月28日に特許法第184条の4第1項に規定する日本語による翻訳文及び特許法第184条の8第1項に規定する特許協力条約第34条の規定に基づく補正の日本語による翻訳文が提出され、平成22年7月5日付けで拒絶の理由が通知され、平成23年1月11日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成23年3月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年8月1日に拒絶査定不服の審判が請求されると同時に、同日付けで特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、平成23年9月8日付けで審判請求書の請求の理由を補正する手続補正書が提出され、平成23年11月9日付けで前置審査において拒絶の理由が通知され、平成24年5月11日に意見書及び手続補正書が提出され、当審において平成24年7月5日付けの書面による審尋がなされ、平成25年1月7日付けで回答書が提出されたものであって、その請求項1ないし7に係る発明は、平成15年4月28日付けで提出された特許協力条約第34条補正の翻訳文によって補正された明細書、平成24年5月11日付けで提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲及び国際出願時における図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「 【請求項1】 第1と第2のガスの流れを混合する、入口の空気の流れと燃焼機関の排ガス再循環EGRの流れを混合する装置であって、
前記第1の流れのための配管(16)と、
混合を行うための前記配管(16)における前記第2の流れ用の入口(3)を有する供給部分(2)と、
可変ベンチュリ作用を行ってそれによる可変吸引作用を行い、混合された流れの混合を達成するために、前記入口(3)のところで前記配管(16)の長手方向に移動するように配置された流線形の体部(8)と、
前記配管(16)において前記体部を前後に移動させる作動手段とを含む混合装置において、
前記の流線形の体部(8)と供給部分(2)とが、圧力損失を最小にするために、前記供給部分(2)と前記流線形体部(8)との間に画成されたリング状の通路が常に前記スリット(3)まで流れ方向に集束したコースをとり、前記スリット(3)の後は前記体部(8)の位置とは無関係に拡散したコースをとることにより、前記体部(8)の位置とは関係なしに前記入口(3)で前記配管(16)において最大の絞りを達成するように設計され、
吸引作用を最大にし、圧力損失を最小にするために、前記入口(3)が、前記配管(16)の断面周りに配置され、第2のガスの流れを前記配管(16)に半径方向に供給する円形スリット(3)が配置されていることを特徴とする第1と第2のガスの流れを混合する装置。」


2 引用文献
2-1 引用文献1
(1)前置審査における拒絶理由に引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平10-77912号公報(以下、「引用文献1」という。)には、例えば、以下の記載がある。(なお、下線は、理解の一助のために当審で付したものである。)

(a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 ターボチャージャのコンプレッサ下流側の吸気通路に吸気をバイパスさせるバイパス通路が接続され、該バイパス通路に狭隘部が形成されるとともに、該狭隘部に排気ガスを還流させる排気ガス還流通路が接続された排気ガス還流装置において、
機関の運転状態を検出する運転状態検出手段と、
該狭隘部の吸気流通断面積を変更しうる可変手段と、
該運転状態検出手段からの検出情報に基づいて可変手段の作動を制御する制御手段とをそなえたことを特徴とする、排気ガス還流装置。
【請求項2】 該制御手段が、該運転状態検出手段からの検出情報に基づいて、該機関の高負荷運転時には該狭隘部の吸気流通断面積が減少するように該可変手段の作動を制御するとともに、該機関の低負荷運転時には該狭隘部の吸気流通断面積が増加するように該可変手段の作動を制御することを特徴とする、請求項1記載の排気ガス還流装置。
【請求項3】 該吸気通路のバイパス通路分岐部よりも下流側に、該吸気通路内を流通する吸気の流量を制御する開閉弁が設けられ、
該制御手段が、該運転状態検出手段からの検出情報に応じて該可変手段とともに該開閉弁の作動を制御するように構成されていることを特徴とする、請求項1記載の排気ガス還流装置。
【請求項4】 該制御手段が、該運転状態検出手段からの検出情報に基づいて、該機関の高負荷運転時には該狭隘部の吸気流通断面積が減少するように該可変手段の作動を制御するとともに、該開閉弁の開度が減少するように該開閉弁の作動を制御し、該機関の低負荷運転時には該狭隘部の吸気流通断面積が増加するように該可変手段の作動を制御するとともに、該開閉弁の開度が増加するように該開閉弁の作動を制御することを特徴とする、請求項3記載の排気ガス還流装置。
【請求項5】 該狭隘部が、該バイパス通路の断面積を徐々に減少させるようなベンチュリとして形成され、
該可変手段が、該ベンチュリの軸方向に移動可能なコアを有し、該コアをアクチュエータにより軸方向に対して進退させることで、該バイパス路における吸気流通断面積を変更するように構成されていることを特徴とする、請求項1?4のいずれかに記載の排気ガス還流装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項5】)

(b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ターボチャージャ付きエンジン、特にターボチャージャ付きディーゼルエンジンに用いて好適の、排気ガス還流装置に関する。」(段落【0001】)

(c)「【0009】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このような従来のEGR装置では、ターボチャージャ付きのエンジンにおいては、高負荷時に排気ガスを還流することができなくなる場合がある。すなわち、図8はタービン6a入口での排気圧(以下、タービン入口圧という)Ptiとコンプレッサ6bにより過給された吸気圧力(以下、ブースト圧という)Pbとの関係を示す図であり、縦軸は圧力、横軸はエンジンの負荷に対応するエンジン出力トルクTrqをそれぞれ示しており、図8中、曲線aはブースト圧Pb、曲線bはタービン入口圧Ptiをそれぞれ示している。
【0010】これによると、曲線a,bに示すように、低負荷時(即ち、トルクTrqが小さい時)にはブースト圧Pbはタービン入口圧Ptiよりも低いが、ブースト圧Ptiの方が上昇する割合が大きく、高負荷時(即ち、トルクTrqが大きい時)にはブースト圧Pbがタービン入口圧Ptiよりも高くなることがわかる。このように高負荷時にブースト圧Pbがタービン入口圧Ptiよりも高くなると、気体は圧力が低い方から高い方へは流れないため、排気ガスを還流することができなくなるのである。
【0011】つまり、ブースト圧Pbがタービン入口圧Ptiよりも低い領域(図8の点線Yよりも負荷が少ない低負荷領域)では適正なEGR率を確保することができるが、ブースト圧Pbがタービン入口圧Ptiよりも高い領域(点線Yよりも負荷が大きい高負荷領域)ではEGR率が不足したり、排気ガスを還流することができなくなる場合があり、適正なEGR率を確保することができないという課題がある。
【0012】このような課題を解決するものとして、例えば特開平4-47157号公報に開示された技術がある。この技術では、図9に示すように、吸気管122にバイパス管路124を設けるとともに、このバイパス管路124の中間部に断面積が小さな縮流部125を設け、この縮流部125と排気管115とを連通させるようにEGRパイプ126を接続し、吸気管122とバイパス管路124との分岐部分に切換え弁127を取り付けるようにしている。
【0013】このようにして、コンプレッサ119から供給される吸気をバイパス管路124を通過させたとき、縮流部125の圧力を低くすることにより、EGRパイプ126を通して排気管115から排気ガスを吸引可能にして、高過給(高負荷)の場合であっても排気ガスを還流させることができるようにしている。しかし、このような技術では、縮流部125は一定の形状に形成されており、縮流部125の圧力を調整することができないため、機関の負荷状態に応じてEGR率を積極的、且つ、細かく調整することができないという課題がある。
【0014】本発明は、このような課題に鑑み創案されたもので、吸気側の圧力が排気側の圧力よりも高まった場合であっても、EGR率を積極的に且つ細かく調整することができるようにし、適正なEGR率を確保できるようにした、排気ガス還流装置を提供することを目的とする。」(段落【0009】ないし【0014】)

(d)「【0020】
【発明の実施形態】以下、図面により、本発明の一実施形態について説明すると、図1?図6は本実施形態にかかる排気ガス還流装置を示す図である。本排気ガス還流装置(以下、これをEGR装置という)は、図1に示すように、ターボチャージャ付きエンジン50に取付けられている。なお、図1中、矢印は吸入空気(以下、吸気ともいう)や排気ガスの流れを示している。
【0021】1は燃焼室であり、この燃焼室1には、吸気通路2及び排気通路3とが連通しうるように接続されており、吸気通路2と燃焼室1とは吸気弁4によって連通制御されるとともに、排気通路3と燃焼室1とは排気弁5によって連通制御されるようになっている。また、排気通路3にはターボチャージャ6を構成するタービン6aが介装されるとともに、吸気通路2にはターボチャージャ6を構成するコンプレッサ6bが介装されており、このタービン6aとコンプレッサ6bとはタービンシャフト6cを介して接続されている。そして、排気通路3内の排気ガスによってタービン6aを回動させ、タービン6aの回転力をコンプレッサ6bに伝達し、コンプレッサ6bを回動させることで吸気通路2内の吸気を加圧するようになっている。
【0022】さらに、コンプレッサ6bの下流側の吸気通路2には、コンプレッサ6bにより加圧されて高温になった吸気を冷却するインタクーラ(I/C)7が配設されている。また、インタクーラ7の下流側の吸気通路2aには、吸気をバイパスさせるバイパス通路20が接続されている。このバイパス通路20には、エンジン50から排出された排気ガスを吸気側に再循環させるための排気ガス還流通路(EGR通路)10bが接続されている。そして、このEGR通路10bを介して、バイパス通路20内に還流される排気ガスの流量は、後述するEGRバルブ10aの開度を調整することにより制御されるようになっている。」(段落【0020】ないし【0022】)

(e)「【0023】また、このバイパス通路20には、ベンチュリ(狭隘部)21が設けられている。このベンチュリ21は、図1,図2に示すように、バイパス通路20の断面積を徐々に減少させるように形成される。つまり、ベンチュリ21は、その上流側部分21aがバイパス通路20の下流側に向かって次第に縮小する断面として形成されるとともに、下流側部分21bがバイパス通路20の下流側に向かって次第に拡大する断面として形成される。なお、図2中、矢印は吸気の流れを示している。
【0024】このようにバイパス通路20にベンチュリ21を設けているのは、バイパス通路20の断面積を減少させて、吸気の流速を高め、バイパス通路20内のベンチュリ21の設けられている部分の圧力を低下させることで、機関の高負荷運転時でも排気ガスを還流することができるようにして、EGR率が低下するのを防ぎ、機関の高負荷運転時にも適正なEGR率を確保できるようにするためである。また、バイパス通路20の断面積を元に戻すのは、吸気の圧力を高圧の状態に回復させるためである。」(段落【0023】及び【0024】)

(f)「【0025】図2に示すように、このベンチュリ21の断面積の最も小さい部分には、環状溝21cが形成されており、この環状溝21cには連通路21dを介してEGR通路10bが接続されている。ここで、図3はベンチュリ21の断面積の最も小さい部分の模式的な断面図であり、図2のB-B矢視断面図である。なお、図3中、中央に図示したものは、後述する可変手段22を構成するコア(可動コア)23である。
【0026】また、バイパス通路20のベンチュリ21よりも上流側には、図1,図2に示すように、バイパス通路20の開度(ベンチュリ21の吸気流通断面積)を変更しうる可変手段22が取り付けられている。この可変手段22は、ベンチュリ21の軸方向に移動可能なコア23を有し、コア23をアクチュエータ30により軸方向に対して進退させることで、バイパス通路20の開度を変更することができるように構成されている。
【0027】これについて詳述すると、可変手段22が有するコア23は、図2に示すように、例えば、細い円筒状のコア支持部24、薄い平らな部材により形成されるコア取付部25,26を介して、アクチュエータ30に取り付けられる。つまり、コア支持部24の一端部にはコア23がネジ止めされるとともに、他端部にはコア取付部25,26がネジ止めされ、これにより、コア23がコア取付部25,26に取り付けられている。
【0028】そして、コア23を取り付けたコア取付部25,26を、アクチュエータ30により、バイパス通路20の内周面に摺接させながらバイパス通路20の軸方向に移動させることで、ベンチュリ21とコア23との間の隙間、即ちバイパス通路20の開度を調整できるようになっている。ここで、図4は図2のA矢視図であり、コア23の取付状態を説明するための模式図である。図4に示すように、コア取付部25,26はバイパス通路20内に互いに直交するように取り付けられ、これらのコア取付部25,26の交わる部分にコア支持部24がネジ止めされている。なお、コア取付部25,26の端部はバイパス通路20の内周面に摺接できるようになっている。
【0029】また、コア23を進退させるアクチュエータ30は、図2に示すように、ステッピングモータ31を有し、このステッピングモータ31がケース37に取り付けられ、その回転軸31aがケース37内で軸の長いボルト32と連結されている。また、ボルト32にはコの字状に形成された移動部(ボールねじ式LMガイド)34が螺合されている。このため、移動部34の側面には、ボルト32に対応するように雌ねじが形成されている。なお、ボルト32は固定部33a,33bにより軸支されている。」(段落【0025】ないし【0029】)

(g)「【0034】ところで、ECU40は、具体的には、エンジン回転数センサ42a,アクセル開度センサ42b,冷却水温センサ42cからの検出情報に基づいて、機関の高負荷運転時にはバイパス通路20の開度が減少するように可変手段22の作動を制御するとともに、バタフライ弁41の開度が減少するようにバタフライ弁41の作動を制御し、機関の低負荷運転時にはバイパス通路20の開度が増加するように可変手段22の作動を制御するとともに、バタフライ弁41の開度が増加するようにバタフライ弁41の作動を制御する機能を有している。
【0035】本排気ガス還流装置は上述のように構成されるため、ベンチュリ21の取り付けられたバイパス通路20内の圧力は、図5に示すように変化する。図5中、縦軸は圧力、横軸はバイパス通路20内の位置を示している。また、図5中、曲線aはバイパス通路20における吸気圧、直線bはEGRガス圧(タービン入口圧)Ptiをそれぞれ示している。なお、図5の横軸のC,B,Dは、図2中の位置C,B,Dにそれぞれ対応している。また、図5のバイパス通路20における吸気圧は、図2に示すように、コア23を最も右側に移動させた場合の吸気圧を示している。
【0036】図5に示すように、位置Cでは吸気圧はEGRガス圧Ptiよりも高い場合であっても、位置B、即ち、ベンチュリ21付近では、吸気圧をEGRガス圧Ptiよりもかなり低くすることができ、さらに、ベンチュリ21の下流側部分では再びブースト圧Pbを上昇させることができるのである。本実施形態の排気ガス還流装置におけるコア23,バタフライ弁41,EGRバルブ10aの動作について説明すると、以下のようになる。
【0037】つまり、排気ガスを還流させない場合は、EGRバルブ10aを閉じ、排気ガスが還流しないようにするが、この際、バイパス通路20の開度はコア23を引き出す(図2中、最も左へ移動させる)ことにより全開にするとともに、バタフライ弁41は開くようにして、吸気が吸気通路2a側に流入するように制御する。これにより、圧力損失を防ぐことができることになる。
【0038】なお、コア23の位置は任意でもよいが、ここでは高圧の排気ガスが還流されるバイパス通路20内の冷却を考慮して、最も左側に位置するように制御している。また、排気ガスを還流させない場合とは、例えば、アイドリング時,高負荷時(低速側),暖機時(低水温時),加速時である。一方、排気ガスを還流させる場合は、EGRバルブ10aを開き、排気ガスを還流させるが、この際、バタフライ弁41は閉じて吸気がバイパス通路20側のみに流入するように制御するとともに、コア23を目標のEGR率になるような位置に移動させることによってバイパス通路20が適当な開度になるように制御する。
【0039】つまり、コア23がバイパス通路20を閉じる程、図2,図5に示すバイパス通路20のB位置における圧力を低下させることができるので、EGR通路10bから取り込めるEGRガス流量を増大させ、EGR率を大きくすることができる。したがって、目標とするEGR率が大きい場合は、コア23をバイパス通路20を閉じる方向(図2中、右方向)へ移動させてバイパス通路20の開度を減少するように制御し、逆に、目標とするEGR率が小さい場合は、コア23をバイパス通路20を開ける方向(図2中、左方向)へ移動させてバイパス通路20の開度を増加するように制御する。
【0040】これにより、特に高負荷時に、コア23の位置を移動させてバイパス通路20の開度を減少させることにより、吸気の流速を高めて吸気圧を低下させることができ、ブースト圧Pbの方がタービン入口圧Ptiよりも高い場合でも、十分なEGR率を確保することができることになる。なお、コア23の移動量は、エンジン回転数,負荷,冷却水温に基づいて、予め用意されたマップにより設定する。なお、排気ガスを還流させる場合は、例えば上述のアイドリング時,高負荷時(低速側),暖機時(低水温時),加速時以外の場合である。」(段落【0034】ないし【0040】)

(h)「【0041】ここで、バイパス通路20の開度,EGR率,ブースト圧Pb及びタービン入口圧Ptiと負荷との関係について、図6を参照しながら説明する。まず、ブースト圧Pb及びタービン入口圧Ptiと負荷との関係は、図6(c)に示すようになっている。図6(c)中、曲線dはブースト圧Pb、曲線eはタービン入口圧Ptiを示している。これによると、低負荷時にはブースト圧Pbはタービン入口圧Ptiよりも低いが、負荷が大きくなるにつれてブースト圧Pbの方が高くなることがわかる。つまり、直線Xよりも負荷が小さい場合はブースト圧Pbはタービン入口圧Ptiよりも低く、直線Xよりも負荷が大きい場合はブースト圧Pbはタービン入口圧Ptiよりも高くなる。
【0042】したがって、バイパス通路20の開度は、上述のようなブースト圧Pbとタービン入口圧Ptiとの関係を考慮して、図6(a)の線aに示すような特性に制御する。つまり、低負荷時にはブースト圧Pbの方がタービン入口圧Ptiよりも低いため、EGR率が減少することがないため、バイパス通路20の開度が大になるようにコア23の位置を制御する。
【0043】そして、負荷が大きくなるにしたがってブースト圧Pbの方がタービン入口圧Ptiよりも高くなり、EGR率が減少するため、徐々にバイパス通路20の開度が減少するようにコア23の位置を制御する。なお、図6(a)では、ブースト圧Pbがタービン入口圧Ptiよりも大きくなるようなエンジン負荷(図中、Xで示す)となる以前に、バイパス通路20の開度が減少するようにコア23の制御を開始するようにしているが、これはEGR率が低下し、排気ガスの還流が不可能になるのを防止するためである。
【0044】このようにして、バイパス通路20の開度を制御すると、EGR率を、図6(b)に示すように調整することができる。ここで、図6中、実線bは上述のようにしてバイパス通路20の開度を制御した場合のEGR率、破線cは従来技術のようにバイパス通路20の開度を制御しない場合のEGR率をそれぞれ示している。
【0045】これによると、バイパス通路20の開度を制御しない場合は、負荷が大きくなるにつれてEGR率が低下し、やがてEGR率は0になってしまうが、本実施形態の装置のように、バイパス通路20の開度を制御した場合は、EGR率の低下を効果的に防ぐことができ、従来、排気ガスの還流が不可能であった機関の高負荷運転領域においても排気ガスの還流が可能となることがわかる。なお、EGR率が0とは、排気ガスの還流が不可能であることを示している。」(段落【0041】ないし【0045】)

(i)「【0046】本実施形態の排気ガス還流装置によれば、バイパス通路20の開度を変更することにより、還流される排気ガスが合流する部分の吸気の圧力を調整することができるため、吸気の圧力が高くなる場合であっても、吸気の圧力を排気ガスの圧力よりも低くなるように制御することができ、十分なEGR率を確保することができるという利点がある。
【0047】特に、吸気の圧力が高まる機関の高負荷運転時であっても、還流される排気ガスが合流する部分の吸気の圧力を低くすることができ、十分なEGR率を確保することができるため、機関の高負荷運転時においてもNO_(X) を大幅に低減することができるという利点がある。つまり、吸気通路2に設けたベンチュリ21に対してコア23を移動させることでバイパス通路20の開度を調整して、吸気の流速を高めることにより、ブースト圧Pbがタービン入口圧Ptiよりも高い時(高負荷運転時)であっても、EGR装置10により還流される排気ガスと吸気とが合流する部分の圧力を排気ガスの圧力(タービン入口圧)Ptiよりも低くなるように制御することができるため、十分なEGR率を確保することができ、機関の高負荷運転時においてもNO_(X) を大幅に低減することができるのである。」(段落【0046】及び【0047】)

(j)「【0048】一方、吸気の圧力が低い機関の低負荷運転時には、吸気の圧力が低くならないように制御することで適正なEGR率を確保することができるため、機関の低,中負荷運転時において燃費の悪化を防止することもできるという利点もある。さらに、バタフライ弁41と可変手段22とを制御することにより、EGR率の細かい制御が可能となるという利点もある。
【0049】また、排気ガスを還流させる必要がない場合は、バタフライ弁41の開度を増加させて吸気通路2a側に吸気を流すことにより圧力損失を防ぐことができるとともに、適正な空気量を確保することもでき、さらにバイパス通路20内及びEGR装置10の冷却を行なうこともできるという利点もある。なお、図中では、ベンチュリ21の断面は、略円形に示しているが、断面形状はこれに限られるものではない。」(段落【0048】及び【0049】)

(k)「【0050】
【発明の効果】以上詳述したように、請求項1記載の本発明の排気ガス還流装置によれば、狭隘部の吸気流通断面積を変更することにより、排気ガス還流装置により還流される排気ガスが合流する部分の吸気の圧力を調整することができるため、吸気の圧力が高くなる場合であっても、吸気の圧力を排気ガスの圧力よりも低くなるように制御することができ、適正なEGR率を確保することができるという利点がある。
【0051】請求項2記載の本発明の排気ガス還流装置によれば、吸気の圧力が高まる機関の高負荷運転時には、排気ガス還流装置により還流される排気ガスが合流する部分の吸気の圧力を低くすることができるため、十分なEGR率を確保することができ、NO_(X) を大幅に低減することができる一方、吸気の圧力が低い機関の低負荷運転時には、吸気の圧力が低くならないように制御することで、適正なEGR率を確保することができるため、燃費の悪化を防止することもできるという利点もある。
【0052】請求項3記載の本発明の排気ガス還流装置によれば、開閉弁と可変手段とを制御することにより、EGR率の細かい制御が可能となるという利点がある。請求項4記載の本発明の排気ガス還流装置によれば、高負荷運転時には、開閉弁の開度を減少させてバイパス通路側に吸気を流通させるとともに、可変手段を狭隘部の吸気流通断面積が減少するように制御する一方、低負荷運転時には、開閉弁の開度を増加させて吸気通路側にも吸気を流すとともに、可変手段を狭隘部の吸気流通断面積が増加するように制御してEGR率を適正に制御することができるという利点がある。
【0053】請求項5記載の本発明の排気ガス還流装置によれば、簡素な構成によって適正なEGR率を確保することができるという利点がある。」(段落【0050】ないし【0053】)

(2)上記(1)及び図1ないし6の記載から、以下のことが分かる。

(ア)上記(1)(a)ないし(k)及び図1ないし6の記載から、引用文献1には、吸気と排気ガスの流れを混合する、吸気の流れとエンジンの排気ガスの還流を混合する排気ガス還流装置が記載されていることが分かる。

(イ)上記(1)(e)、(f)及び図1ないし6の記載から、引用文献1に記載された排気ガス還流装置において、バイパス通路20には、ベンチュリ(狭隘部)21が設けられており、このベンチュリ21は、図1,図2に示すように、つまり、ベンチュリ21は、その上流側部分21aがバイパス通路20の下流側に向かって次第に縮小する断面として形成されるとともに、下流側部分21bがバイパス通路20の下流側に向かって次第に拡大する断面として形成され、図2に示すように、このベンチュリ21の断面積の最も小さい部分には、環状溝21cが形成されており、この環状溝21cには連通路21dを介してEGR通路10bが接続されていることが分かる。

(ウ)上記(1)(f)ないし(h)及び図1ないし6の記載から、引用文献1に記載された排気ガス還流装置において、バイパス通路20には、バイパス通路20の開度(ベンチュリ21の吸気流通断面積)を変更しうる可変手段22が取り付けられており、ベンチュリ21とコア23との間の隙間、即ちバイパス通路20の開度を調整できるようになっていることが分かる。また、上記(1)(g)の記載から、バイパス通路20の開度は、バイパス通路20の位置Bにおける圧力に対応していることが分かる。

(エ)上記(1)(f)ないし(h)及び図1ないし6(特に図2及び図5を参照。)の記載から、引用文献1に記載された排気ガス還流装置において、バイパス通路内の圧力は、位置Bにおいて最低となり、還流される排気ガスを吸引する力が最大となることが分かる。そして、バイパス通路内の位置B以外の位置においては、位置Bにおける圧力以下となるような余分な圧力低下を行っていないことから、「圧力損失を最小にしている」といえる。

(オ)上記(1)(i)、(j)及び図1ないし6の記載から、引用文献1に記載された排気ガス還流装置において、前記流線形のコア23とベンチュリ21とが、還流される排気ガスが合流する部分の吸気の圧力を調整することができ、吸気の圧力が高まる高負荷運転時であっても、還流される排気ガスが合流する部分の吸気の圧力を低くすることができ、十分なEGR率を確保することができ、吸気の圧力が低い機関の低負荷運転時には吸気の圧力が低くならないように制御する(すなわち、圧力損失が小さくなるように制御する)ことで適正なEGR率を確保することができるため、機関の低,中負荷運転時において燃費の悪化を防止することもできることが分かる。したがって、高負荷運転時においては吸気の圧力を必要な分だけ低くするように調整できることから、圧力損失を最小にでき、低,中負荷運転時においては吸気の圧力が低くならないように制御することにより圧力損失を最小にできることが分かる。

(カ)上記(1)(a)ないし(k)並びに図1ないし6の記載から、引用文献1に記載された排気ガス還流装置は、吸気の流れのためのバイパス通路20と、混合を行うための前記バイパス通路20における前記排気ガスの流れ用の環状溝21cを有するベンチュリ21と、前記環状溝21cのところで前記バイパス通路20の長手方向に移動するように配置された流線形のコア23と、前記バイパス通路20において前記コア23を前後に移動させるアクチュエータ30とを含む排気ガス還流装置であることが分かる。

(キ)上記(1)(a)ないし(k)並びに図1ないし6の記載から、引用文献1に記載された排気ガス還流装置において、前記環状溝21cは、バイパス通路20のベンチュリ21の周りに環状に配置されていることが分かる。

(ク)上記(1)(c)の記載から、引用文献1に記載された排気ガス還流装置が解決しようとする課題は、「高負荷時に吸気側の圧力が排気側の圧力よりも高まった場合であっても、排気ガスを還流できるようにすること」、「適正なEGR率を確保することができるようにすること」、「機関の負荷状態に応じてEGR率を積極的、且つ、細かく調整することができるようにすること」等であることが分かる。

(3)上記(1)、(2)及び図面の記載から、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「吸気の流れと排気ガスの流れを混合する、吸気の流れとエンジンの排気ガスの還流を混合する装置であって、
前記吸気の流れのためのバイパス通路20と、
混合を行うための前記バイパス通路20における前記排気ガスの流れ用の環状溝21cを有するベンチュリ(狭隘部)21と、
可変ベンチュリ作用を行ってそれによる可変吸引作用を行い、吸気の流れと排気ガスの流れの混合を達成するために、前記環状溝21cのところで前記バイパス通路20の長手方向に移動するように配置された流線形のコア23と、
前記バイパス通路20において前記コア23を前後に移動させるアクチュエータ30とを含む混合装置において、
前記の流線形のコア23とベンチュリ(狭隘部)21とが、前記環状溝21cで前記バイパス通路20において最大の絞りを達成するように設計され、
吸引作用を最大にするために、前記環状溝21cが、前記バイパス通路20のベンチュリ(狭隘部)21に環状に配置され、排気ガスの流れを前記バイパス通路20のベンチュリ(狭隘部)21に半径方向に供給する環状溝21cが配置されている、吸気の流れと排気ガスの流れを混合する装置。」


2-2 引用文献2
(1)前置審査における拒絶理由に引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平8-326609号公報(以下、「引用文献2」という。)には、例えば、以下の記載がある。(なお、下線は、理解の一助のために当審で付したものである。)

(a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、排気脈動の影響を受けることなくEGR率の調整が可能で、過給機付きエンジンにも適応できる内燃機関のEGR装置に関するものである。」(段落【0001】)

(b)「【0002】
【従来の技術】従来から、排気ガスを吸気通路に還流させて、酸素濃度を低減し、燃焼速度を遅くすることによって、NO_(X) いわゆる窒素酸化物の発生を抑制するEGRシステムは良く知られている。このEGRシステムを採用する場合、一般的には図4に示すように、排気通路(排気マニホールド)1から吸気通路2に排気ガス還流用のEGR通路3を設けて、そのEGR通路3の途中にEGRバルブ4を設けている。
【0003】また、最近では、エンジン出力を向上させるために、図中に示す如く過給機5付きのエンジン6が増えているが、過給機付きエンジンの場合、過給効果により吸気通路2の内圧が上昇し、排気通路1の内圧に近い値となる。従って、そのままでは排気還流ができないため、インタークーラー7下流の吸気通路2側の排気還流出口に、ベンチュリ8と呼ばれる絞りを設けて、排気ガスを吸気通路内に吸い出し、排気還流を可能ならしめる構成が知られている。」(段落【0002】及び【0003】)

(c)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところで、排気ガス還流を行う場合には、NO_(X) 生成量を低減できる代わりに、燃焼効率の低下やスモークの悪化など、種々の影響を及ぼすため、エンジン回転数や負荷に応じて排気ガス還流量を制御し、EGR率を適切な値に調整しなけばならない。
【0005】しかし、従来のEGRバルブの場合、一般的にダイヤフラムバルブを使用し、ダイヤフラムで区画された負圧室内の圧力をコントロールして、スプリングの弾性力とのバランスによって、開度調整を行う構造となっているので、精密な開度の制御は難しく、また、排気脈動の影響を受けてダイヤフラムが振動するので、バルブ開度が一定せず、排気ガス還流量の細かい制御を非常に困難なものとしている。特に微小リフトさせた時は、排気脈動で開度が一定しないために、コントロールは事実上不可能なのが実情である。
【0006】本発明は以上の問題点に鑑みて、排気脈動の影響を受けることなくEGR率の調整が可能で、簡単な構成で安定した制御を可能とする内燃機関のEGR装置を提供することを目的とするものである。」(段落【0004】ないし【0006】)

(d)「【0007】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成するための本発明の内燃機関のEGR装置は、吸気通路に設けた固定ベンチュリ部と、この固定ベンチュリ部に接離自在で、前記吸気通路の長手方向に移動可能な可動ベンチュリ部と、EGR通路に連通するガス流入部を有し、前記固定ベンチュリ部と可動ベンチュリ部を保持するハウジング部とからなり、前記固定ベンチュリ部と可動ベンチュリ部が離間した状態で、これらの間に形成されるガス流出部のスリットを、前記吸気通路の下流方向に配向してなるものである。
【0008】前記ハウジング部と、固定ベンチュリ及び可動ベンチュリによって囲まれる空間に、ガス流入部から流入したEGRガスを溜めるチャンバを形成すると好ましく、このチャンバを環状に配して、EGRガスを前記スリットから均等に吸気通路内に吸い出させるようにすると良い。また、前記可動ベンチュリを駆動する場合には、リンク機構や流体圧シリンダ等の駆動手段を使用し、エンジン回転数、エンジン負荷、過給圧等の各種パラメータにより適切なEGR率を決定し、前記駆動手段を制御するようにすると好ましい。」(段落【0007】及び【0008】)

(e)「【0009】
【作 用】本発明は以上の構成を有しているので、可動ベンチュリ部を吸気通路の長手方向に操作することにより、固定ベンチュリ部と可動ベンチュリ部の間に形成されるスリットの幅を調節することができ、このスリットの幅に対応したEGR率に調整することが可能となる。
【0010】これにより、従来のダイヤフラム式のEGRバルブを取り付ける必要がなくなり、排気脈動の影響を受けることもなくなるので、EGR率を安定して制御することができ、特に微小リフトのコントロールを精密に行うことが可能となる。また、前記固定ベンチュリ部と可動ベンチュリ部の間に形成されるスリットの開口方向が、吸気通路の下流側に向いて配置されているので、EGRガスが吸気に混合する際に、抵抗が極めて少なく、スムーズに還流させることができる。
【0011】更に、上記固定ベンチュリ部と可動ベンチュリ部により吸気通路が絞られ、ベンチュリ効果により、EGR通路内の排気ガスを吸気通路内に吸い出す作用が高まるため、過給機付きエンジンの場合のように、吸気通路内圧と排気通路内圧の差が殆どない場合であっても、排気ガス還流を容易に行うことができる。」(段落【0009】ないし【0011】)

(f)「【0012】
【実施例】次に図面を参照して本発明の内燃機関のEGR装置の一実施例を説明する。図1及び図2に示す本実施例のEGR装置11は、吸気通路の途中に配設され、その外殻となるハウジング部は、上流側の排気通路に接続されるハウジング12と、下流側の排気通路に接続されるカバー13から成っている。
【0013】ハウジング12は、図示していない上流側の吸気通路に接続される管状部14と、ガス流入部15が形成された接続部16と、ガスケット17を挟持するフランジ部18とからなり、前記管状部14と接続部16の境界には、管状部14の内径よりも接続部16の内径を拡大する段部19が形成されている。カバー13は、図示していない下流側の吸気通路に接続される管状部20と、後述するブッシュ21が嵌合する穴22を形成したフランジ部23とからなり、このフランジ部23と前記ハウジング12のフランジ部18の間に、上述したガスケット17が介装されている。
【0014】また、ハウジング12に形成された段部19には、断面が弧状に湾曲した固定ベンチュリ部24の上流側端部が固着されており、下流側端部には、下流側の吸気通路に向かって先細りとなるようにテーパー面25が形成されている。一方、前記カバー13には前記ブッシュ21を介して可動ベンチュリ16のアーム部27が摺動自在に支持されており、この可動ベンチュリ部26の上流側端部には、上流側の吸気通路に向かって先細りとなるようにテーパー面28が形成されている。
【0015】そして、前記固定ベンチュリ部24と可動ベンチュリ部26とハウジング12によって囲まれる部分に、環状のEGRガスチャンバ29が形成され、また、共に湾曲形状に形成されている固定ベンチュリ部24の内周面30と可動ベンチュリ部26の内周面31によって、ベンチュリが構成されるようになっている。前記ハウジング12には、上方に拡開して開口するガス流入部15が形成されており、その内周面には雌ねじ部32が形成され、この雌ねじ部32には、図示していないEGR通路に接続されたコネクタ33の雄ねじ部34が螺合されている。
【0016】また、前記可動ベンチュリ部26のアーム部27には、第1ピン35を介して回動アーム36の一端が連結さており、この回動アーム36の他端には、第2ピン37を介してEGR率制御手段側のリンク38が連結されている。また、前記回動アーム36は、支軸39を中心に回動自在に支持されている。上記の如く構成されたEGR装置11により、EGR率を調整する場合には、EGR率制御手段によって制御されるアクチュエータ等の駆動手段により、前記リンク38を操作することによって、支軸39を中心に回動アーム36を回動させ、可動ベンチュリ部26を、吸気通路の長手方向に移動させて行う。
【0017】例えば、図1に示すEGR率ゼロの状態からEGR率を高めていく場合には、リンク38を図中左方向に変位させて、回動アーム36を反時計回りに回動させ、可動ベンチュリ部26のアーム部27を右方向に変位させることにより、図3に示す如く、可動ベンチュリ部26と固定ベンチュリ部24との間にガス流出部となるスリット40を形成させる。尚、図3には、このスリット40が最大となり、EGR率が制御範囲の上限まで上昇した状態が示されている。
【0018】この状態では、EGR通路から吸気通路に還流するEGRガスは、コネクタ33を介してハウジング12のガス流入部15からEGRガスチャンバ29に入り、固定ベンチュリ部24及び可動ベンチュリ部26による絞り作用により発生する負圧により、吸気通路内に吸引され、新気に混合される。このスリット40は、吸気通路の下流方向に向かって開口しているので、EGRガスが吸気通路に流入する際の抵抗が小さく、また、EGRガスチャンバ29に沿って環状に形成されているので、ベンチュリ部分の内壁面全周から分散して還流されることになり、それ故、EGRガスをスムーズに新気に混合することができる。
【0019】また、本実施例のEGR装置11によると、従前使用されていたダイヤフラムのように排気脈動によって振動することも無いので、比較的に簡単な制御手法でEGR率を的確に調整することが可能となる。更に、過給機付きエンジンに適用することにより、排気通路の内圧と吸気通路の内圧の差が小さい場合であっても、ベンチュリによる絞り作用により、EGRガスを吸気通路側に吸引して、スムーズに還流させることができる。」(段落【0012】ないし【0019】)

(2)上記(1)並びに図1ないし4の記載から、以下のことが分かる。

(ア)上記(1)(a)ないし(f)並びに図1ないし4の記載から、引用文献2には、EGR率を調節できる、内燃機関のEGR装置が記載されていることが分かる。

(イ)上記(1)(a)ないし(f)並びに図1ないし4の記載から、引用文献2に記載された内燃機関のEGR装置は、吸気通路に設けた固定ベンチュリ部24と、前記吸気通路の長手方向に移動可能な可動ベンチュリ部26と、ハウジング12と、EGR通路に連通するガス流入部15と、前記固定ベンチュリ部と可動ベンチュリ部とハウジング12によって囲まれる部分に形成された環状のEGRガスチャンバ29とを有し、前記固定ベンチュリ部24と可動ベンチュリ部26との間にスリット40を形成したものであることが分かる。

(ウ)上記(1)(a)ないし(f)並びに図1ないし4の記載から、引用文献2に記載された内燃機関のEGR装置において、前記スリット40は、EGRガスチャンバ29に沿って環状に形成されているので、EGRガスがベンチュリ部分の内壁面全周から分散して還流されることになり、それ故、EGRガスをスムーズに新気に混合する(すなわち、圧力損失を最小にする)ことができることが分かる。

(3)上記(1)、(2)及び図面の記載から、引用文献2には次の技術(以下、「引用文献2記載の技術」という。)が記載されているといえる。

「内燃機関のEGR装置の吸気通路において、負圧を発生させ、EGRガスをスムーズに新気に混合するために、スリットが、ベンチュリを構成する固定ベンチュリ部24と可動ベンチュリ部26との間に形成され、EGRガスの流れをベンチュリ部分の内周面全周から分散して還流するスリット40が形成されている技術。」


3 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「吸気の流れ」は、その機能、作用又は技術的意義からみて、本願発明における「第1のガスの流れ」に相当し、以下同様に、「排気ガスの流れ」は「第2のガスの流れ」に、「吸気」は「入口の空気」に、「エンジンの排気ガスの還流」は「燃焼機関の排気ガス再循環EGRの流れ」に、「バイパス通路」及び「バイパス通路のベンチュリ(狭隘部)」は「配管」に、「供給部分」は「ベンチュリ(狭隘部)」に、「コア」は「体部」に、「アクチュエータ」は「作動手段」に、「吸気の流れと排気ガスの流れの混合」は、「混合された流れの混合」に、それぞれ相当する。
また、引用発明における「環状溝」は、排気ガスの流れ用の入口であるから、本願発明における「入口」に相当し、溝形状であることから、本願発明における「スリット」にも相当する(技術用語として、「スリット」は「溝」を意味することもある。)。
また、引用発明における「バイパス通路20のベンチュリ(狭隘部)21に環状に配置」は、その機能、作用又は技術的意義からみて、「配管に環状に配置」である限りにおいて、本願発明における「配管の断面周りに配置」に相当し、同様に、引用発明における「排気ガスの流れをバイパス通路のベンチュリに半径方向に供給する環状溝」は、「第2のガスの流れを配管に供給する環状の溝」である限りにおいて、本願発明における「第2のガスの流れを配管に半径方向に供給する円形スリット」に相当する。

そうすると、本願発明と引用発明とは、
「第1と第2のガスの流れを混合する、入口の空気の流れと燃焼機関の排ガス再循環EGRの流れを混合する装置であって、
前記第1の流れのための配管と、
混合を行うための前記配管における前記排第2の流れ用の入口を有する供給部分と、
可変ベンチュリ作用を行ってそれによる可変吸引作用を行い、混合された流れの混合を達成するために、前記入口のところで前記配管の長手方向に移動するように配置された流線形の体部と、
前記配管において前記体部を前後に移動させるア作動手段とを含む混合装置において、
前記の流線形の体部と供給部分とが、前記入口で前記配管において最大の絞りを達成するように設計され、
吸引作用を最大にするために、前記入口が、前記配管に環状に配置され、第2のガスの流れを前記配管に供給する環状の溝が配置されている、第1と第2のガスの流れを混合する装置。」
という点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
(1)本願発明においては、「体部と供給部分とが、圧力損失を最小にするために、供給部分と流線形体部との間に画成されたリング状の通路が常にスリットまで流れ方向に集束したコースをとり、スリットの後は体部の位置とは無関係に拡散したコースをとることにより、体部の位置とは関係なしに入口で配管において最大の絞りを達成するように設計されている」のに対し、引用発明においては、流線形のコア[本願発明における「体部」に相当する。以下、[ ]内に、対応する本願発明の発明特定事項を記す。]とベンチュリ[供給部分]とが、環状溝[入口]でバイパス通路[配管]において最大の絞りを達成するように設計されているものの、「圧力損失を最小にするために」、供給部分と流線形体部との間に画成されたリング状の通路が「常にスリットまで」流れ方向に集束したコースをとり、「スリットの後は体部の位置とは無関係に」拡散したコースをとることにより、「体部の位置とは関係なしに」環状溝[入口]でバイパス通路[配管]において最大の絞りを達成するように設計されているかどうか明らかでない点(以下、「相違点1」という。)。

(2)本願発明においては、「吸引作用を最大にし、圧力損失を最小にするために、入口が、配管の断面周りに配置され、第2のガスの流れを配管に半径方向に供給する円形スリットが配置されている」のに対し、引用発明においては、「吸引作用を最大にするために、環状溝[入口]が、バイパス通路のベンチュリに環状に配置[配管の断面周りに配置]され、排気ガスの流れ[第2のガスの流れ]をバイパス通路のベンチュリ[配管]に半径方向に供給する環状溝21c[円形スリット]が配置されている」ものの、「圧力損失を最小にする」ためであるかどうか明らかでなく、「配管の断面周りに配置された円形スリット」であるかどうか明らかでない点(以下、「相違点2」という。)。


4 判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
引用発明について、引用文献1を参照すると、「バイパス通路の開度」(=ベンチュリ21の吸気通路断面積、段落【0026】を参照。)は「バイパス通路20のB位置における圧力」に対応しており(段落【0039】を参照)、図面の【図5】によれば、バイパス通路内の圧力は、バイパス通路20のB位置において最も低くなることが示されていることから、【図5】に対応する、コア23が図2の位置にある場合(段落【0035】を参照)には、「バイパス通路の開度」は、バイパス通路20のB位置において最も小さくなっている(=ベンチュリ21の吸気通路断面積がB位置において最も小さくなっている。段落【0025】も参照。)開度を意味していると考えるのが自然である。
そうすると、コア23が図2の位置にある場合においては「コア23とベンチュリ21とが、ベンチュリ21とコア23との間に画成されたリング状の通路の断面積が環状溝21cまで流れ方向に集束したコースをとり、スリットの後は拡散したコースをとることにより、環状溝21cで最大の絞りを達成するように設計されている」(本願発明における「体部と供給部分とが、供給部分と流線形体部との間に画成されたリング状の通路がスリットまで流れ方向に集束したコースをとり、スリットの後は拡散したコースをとることにより、入口で配管において最大の絞りを達成するように設計されている」に相当する。)といえる。
また、上記2 2-1(2)(エ)及び(オ)に記載したように、引用発明は、環状溝21cが設けられたB位置において、還流される排気ガスを吸引する力が最大となるように、すなわち余計な圧力降下がなく圧力損失を最小にするように設計されているといえる。
また、コア23が図2の位置以外にある場合についても、引用文献1の(a)及び(e)ないし(i)の記載からみて、「バイパス通路の開度」としては、B位置における開度を計算するのが自然であり、図6(a)におけるY軸の「バイパス通路開度」はB位置におけるバイパス通路の開度であると考えられる。そうすると、「バイパス通路の開度」は、コア23がどの位置にあっても、バイパス通路20のB位置における開度に対応しており、バイパス通路20のB位置における開度がバイパス通路の断面積が最も小さい部分の開度であると考えられる。(ちなみに、「ベンチュリ21」については、「その上流側部分21aがバイパス通路20の下流側に向かって次第に縮小する断面として形成されるとともに、下流側部分21bがバイパス通路20の下流側に向かって次第に拡大する断面として形成される。」(段落【0023】)と記載されている。)。
そして、引用発明における「バイパス通路の開度」(=ベンチュリ21の吸気通路断面積)(段落【0026】を参照)は、本願発明における「供給部分と流線形体部との間に画成されたリング状の通路」の断面積に相当するから、引用文献1には、相違点1に係る本願発明の発明特定事項が実質的に記載されているといえる。
してみれば、上記相違点1は実質的な相違点ではないと考えられ、仮にそうでないとしても、引用発明においては、上記のように、環状溝21cが設けられた位置Bにおいて圧力が最小となるように設計され、位置Bにおける圧力が基準として考えられていることから、引用発明において、コア23がどの位置にあってもバイパス通路の位置Bにおける圧力が常に最小となるようにするために、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項を想到することは、当業者が容易になし得たことである。

(2)相違点2について
引用文献2記載の技術における「負圧を発生させ、EGRガスをスムーズに新気に混合する」ことは、その機能、作用又は技術的意義からみて、本願発明における「吸引作用を最大にし、圧力損失を最小にする」ことに相当するといえる。
また、引用文献2記載の技術における「ベンチュリを構成する固定ベンチュリ部と可動ベンチュリ部」は、その機能、作用又は技術的意義からみて、本願発明における「配管の断面」に相当する。
また、引用文献2記載の技術における「EGRガスの流れをベンチュリ部分の内周面全周から分散して還流するスリットが形成されている」ことは、その機能、作用又は技術的意義からみて、本願発明における「第2のガスの流れを配管に半径方向に供給する円形スリットが配置されている」ことに相当する。
そうすると、引用文献2記載の技術は、本願発明の用語を用いて、「吸引作用を最大にし、圧力損失を最小にするために、入口が、配管の断面周りに配置され、第2のガスの流れを配管に半径方向に供給する円形スリットが配置されている」と言い換えることができる。
そして、引用発明と引用文献2記載の技術は、共にエンジンのEGR装置という共通の技術分野に属し、吸気通路にベンチュリを設けることにより、過給機付きのエンジンにおいて排気ガスの還流を行えるようにし、かつEGR率の調整を行えるようにするという共通の課題を有するものである。
してみれば、引用発明において、排気ガスの入口である環状溝に、引用文献2記載の技術を適用することにより、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項を想到することは、当業者が容易になし得たことである。


そして、本願発明を全体としてみても、その奏する効果は、引用発明及び引用文献2記載の技術から当業者が予測できた範囲内のものであり、格別に顕著な効果ではない。

したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-25 
結審通知日 2013-02-26 
審決日 2013-03-12 
出願番号 特願2002-522666(P2002-522666)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 島倉 理  
特許庁審判長 小谷 一郎
特許庁審判官 金澤 俊郎
中川 隆司
発明の名称 第1と第2のガスの流れを混合する装置  
代理人 浅村 肇  
代理人 森 徹  
代理人 浅村 皓  
代理人 水本 義光  

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