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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01J
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01J
管理番号 1278153
審判番号 不服2012-12089  
総通号数 166 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-06-27 
確定日 2013-08-15 
事件の表示 特願2007-501013「イオンビーム電流の調整」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月15日国際公開、WO2005/086204、平成19年 9月 6日国内公表、特表2007-525811〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2005年2月23日(優先権主張2004年2月27日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成23年8月8日及び平成24年1月12日に手続補正がなされたが、同年2月27日に上記平成24年1月12日付けの手続補正についての補正の却下の決定がなされ、同日に拒絶査定がなされた。
これに対し、平成24年6月27日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。
その後、平成24年10月30日に、審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ、平成25年1月30日付けで回答書が提出された。

第2 平成24年6月27日付けの手続補正についての却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成24年6月27日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正後の請求項1に記載された発明
平成24年6月27日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により、本願の特許請求の範囲の請求項1は、特許請求の範囲の減縮を目的として、以下のように補正された。
「1つまたは複数の加工物内にイオンを注入するために適したイオン注入システムであって、
ビーム電流を有するイオンビームの形で引き出される多量のイオンを生じるイオン源と、
前記イオン源の下流にあって前記イオンビームを受け入れて指向し、かつ、前記イオンビーム内のイオンを質量分析する質量分析器を含むビームラインアセンブリと、
前記ビームラインアセンブリの下流にあって前記イオンビームが指向される方向に前記1つまたは複数の加工物を保持するためのエンドステーションと、
前記イオン源内に配置され、または、前記イオン源と前記質量分析器との間に配置され、1つまたは複数の加工物にイオンを注入しながら、イオンビーム内のイオンの量又は数、あるいは、前記イオンビーム内のイオンの線量を変えることによって、前記ビーム電流を調整するための調整コンポーネントと、
前記ビーム電流を読取るための測定コンポーネントとを含み、
前記調整コンポーネントは、前記測定コンポーネントによって得られた測定値に応答して前記ビーム電流を調整することを特徴とするイオン注入システム。」

そこで、本件補正後の上記請求項1に記載された発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。

2.引用刊行物

引用文献1:特開2000-39478号公報
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である、上記引用文献1には、以下の事項が記載されている。
(1a)「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、例えばイオン注入装置、イオンビーム照射装置、電子線照射装置等であって、イオンビームのような荷電粒子ビームの電磁気的走査と、半導体基板のような被処理物の機械的駆動とを併用する、いわゆるハイブリッドスキャン方式の装置において、しかも被処理物のチルト角を0度よりも大きく設定可能な装置において、被処理物内に位置するZ座標位置における荷電粒子ビームの電流密度分布を測定する方法、同分布を調整する方法および好ましい走査電気波形で荷電粒子ビームを走査しながら被処理物に照射する方法に関する。」
(1b)「【0005】イオンビーム2の走査方向(X方向)に所望のドーパント分布を得るためには、周知のように、イオンビーム2が被処理物4に入射衝突する位置におけるイオンビーム2の走査方向の電流密度分布を、所望のドーパント分布と一致させれば
良い。」
(1c)「【0021】
【発明の実施の形態】図1は、この発明に係る分布測定方法等を実施するハイブリッドスキャン方式のイオン注入装置の一例を示す斜視図である。図7の従来例と同一または相当する部分には同一符号を付し、以下においては当該従来例との相違点を主に説明する。
【0022】この実施例の装置は、図示しないイオン源で発生させた前記イオンビーム2を、必要に応じて加速、質量分離等を行った後、走査器12によって電磁気的に往復走査し、更にこの例では平行化器14によって平行化した後に、機械的に往復駆動される前記ホルダ6上の被処理物4に照射するよう構成されている。被処理物4およびホルダ6の駆動方向、被処理物4に照射するイオンビーム2の進行方向および走査方向は、前述した図7の例の場合と同様であり、それぞれY軸方向、Z軸方向およびX方向である。」
(1d)「【0024】走査器12はこの例では一対の走査磁極であり、これには、走査制御装置34から出力される三角波状の走査電圧V(t)が、増幅器36によって増幅されて電流波形I(t)に変換された後に供給される。
【0025】平行化器14は、この発明の本質に影響するものではなく、それを設けるか否かは任意である。
【0026】ホルダ6に対してZ軸方向の前後近傍にそれぞれ位置するように、第1および第2の多点ファラデー20および30を設けている。両多点ファラデー20、30のZ座標位置をそれぞれZ_(f )、Z_(b )とする。この例では、図8も参照して、Z_(f )<Z_(1 )<Z_(2 )<Z_(3 )<Z_(b )の関係にある。Z_(1 )?Z_(3 )は前述のとおりである。各多点ファラデー20および30は、それぞれ、Y軸方向に細長いスリットを持つ複数の互いに同一仕様のファラデーカップ22、32を、イオンビーム2の走査方向であるX方向に並べたものである。各ファラデーカップ22、32のX座標位置は予め分かっている。
【0027】各ファラデーカップ22、32は、イオンビーム2を受けてそのビーム電流を測定するものであるが、各ファラデーカップ22、32のビーム入射部分の面積は予め分かっているので、各ファラデーカップ22、32に入射するイオンビーム2のビーム電流密度を測定することもできる。従って、各多点ファラデー20および30によって、Z座標位置Z_(f )およびZ_(b )におけるイオンビーム2のX方向のビーム電流密度分布をそれぞれ測定することができる。両多点ファラデー20、30からの測定データは、この例では走査制御装置34に供給される。
【0028】上流側の多点ファラデー20は、この例では開口部18を有するマスク板16の前方部に取り付けられており、これらは図示しない駆動装置によって、矢印Cに示すようにビーム軌道に対して上下に駆動される。図1では、マスク板16および多点ファラデー20は上限位置にある。この状態では、走査されたイオンビーム2の一部は、マスク板16の開口部18を通過する。通過したイオンビーム2は、被処理物4に対して注入処理が行われるときは、図示のように、ホルダ6上の被処理物4に照射されるが、注入処理が行われないときは、ホルダ6はイオンビーム2を遮らない位置に退避するため、下流側の多点ファラデー30に入射する。従ってこのときは、下流側の多点ファラデー30によってイオンビーム2のX方向のビーム電流密度分布を測定することができる。
【0029】マスク板16および多点ファラデー20が下限位置にある状態では、多点ファラデー20が走査されたイオンビーム2を遮る状態になり、この上流側の多点ファラデー20によってイオンビーム2のX方向のビーム電流密度分布を測定することができる。」
(1e)「【0030】(1)この図1の装置において、走査されたイオンビーム2の電流密度分布を測定する方法を説明する。
【0031】まず、上流側の多点ファラデー20を使用して、Z座標位置Z_(f )におけるイオンビーム2の走査方向(X方向)のビーム電流密度分布S(X,Z_(f ))を測定する。その測定結果の一例を単純化して図3中に示す。
【0032】次に、下流側の多点ファラデー30を使用して、Z座標位置Z_(b )におけるイオンビーム2のX方向のビーム電流密度分布S(X,Z_(b ))を測定する。その測定結果の一例を単純化して図3中に示す。
【0033】両データは、イオンビーム2が上流側の多点ファラデー20から下流側の多点ファラデー30まで進む間に、ビーム電流密度分布が図3中のS(X,Z_(f ))の形からS(X,Z_(b ))の形に変化したことを意味している。
【0034】ところで、この実施例の装置では、多点ファラデー20と30との間には、イオンビーム2の軌道を変化させるような外部電磁界は実効的には存在しない。また、この区間にイオンビーム2の焦点が存在しないように設計されているので、イオンビーム2の自己電界による発散効果(空間電荷効果)も無視し得るほど小さい。従って、イオンビーム2はこの区間においてその進行方向を変えないと見なすことができる。更に、この区間で発生するイオンビーム2の生成、消滅は無視し得るほど少ない。以上のことは、この種のイオン注入装置において一般的に言えることである。
【0035】従って、両多点ファラデー20、30間に存在する被処理物4内に位置する任意のZ座標位置Z_(x )(Z_(1 )≦Z_(x )≦Z_(3 ))におけるイオンビーム2のX方向のビーム電流密度分布S(X,Z_(x ))は、次の数1に示すように、多点ファラデー20でのビーム電流密度分布S(X,Z_(f ))と多点ファラデー30でのビーム電流密度分布S(X,Zb )とを使って表現することができる。
【0036】
【数1】S(X,Z_(x ))=S(X,Z_(f ))+{S(X,Z_(b ))-S(X,Z_(f ))}×(Z_(x )-Z_(f ))/(Z_(b )-Z_(f ))
【0037】従って、この数1に従って、上記Z座標位置Z_(x )におけるビーム電流密度分布S(X,Z_(x ))を求めることができる。この方法は、内挿法(補間法)と呼ばれるものである。このようにして求めたビーム電流密度分布S(X,Z_(x ))の一例を単純化して図3中に示す。
【0038】なお、多点ファラデー20および30の両方を共に被処理物4の上流側近傍または下流側近傍に設けた場合も、数1と同様の関係が成立するので、それに従って、上記Z座標位置Z_(x )におけるビーム電流密度分布S(X,Z_(x ))を求めることができる。この方法は、外挿法(補外法)と呼ばれるものである。
【0039】この例では、上記のようなビーム電流密度分布の測定を、二つの多点ファラデー20、30および走査制御装置34を用いて行うことができる。
【0040】上記分布測定方法によれば、2個所(Z_(f )とZ_(b ))でのビーム電流密度分布測定という少ない測定で、被処理物4内に位置する任意のZ座標位置Z_(x )におけるビーム電流密度分布を自由に求めることができる。従って、被処理物4のチルト角θや平面寸法が大きい場合でも、被処理物4のY方向端部付近を含めて、被処理物4の面内におけるビーム電流密度分布の状況を正確に把握することができる。」
(1f)「【0041】(2)次に、上記のようにして求めたビーム電流密度分布S(X,Z_(x ))が所望の分布になるように調整する方法を説明する。
【0042】まず一例として、上記ビーム電流密度分布S(X,Z_(x ))の、次式で定義する偏差dev(X,Z_(x ))を求める。ここでmeanS(Z_(x ))は、S(X,Z_(x ))の平均値である。
【0043】
【数2】dev(X,Z_(x ))={S(X,Z_(x ))-meanS(Z_(x ))}/meanS(Z_(x ))
【0044】上記のようにして求めた偏差dev(X,Z_(x ))の一例を単純化して図4Aに示す。偏差dev(X,Z_(x ))がプラスの部分は平均よりも電流密度が大きい部分であり、マイナスの部分は小さい部分である。
【0045】このような場合、ビーム電流密度を上げたい位置でのイオンビーム2の走査速度が相対的に小さくなるようにイオンビーム2の走査電圧V(t)の波形を整形する、具体的にはビーム電流密度を上げたい位置に相当する部分での走査電圧V(t)の傾きΔV(t)/Δtを小さくすることによって、またはビーム電流密度を下げたい位置に相当する部分の走査電圧V(t)の傾きを大きくすることによって、あるいは両者を併用することによって、上記位置Z_(x )における偏差dev(X,Z_(x ))を所望のものに、即ち上記位置Z_(x )におけるビーム電流密度分布S(X,Z_(x ))を所望のものに調整することができる。
【0046】例えば、図4Aに示すような偏差dev(X,Z_(x ))の場合、同図Bに示すように、偏差dev(X,Z_(x ))がマイナスの部分での走査電圧V(t)の傾きを基本となる三角波42の傾きよりも小さくし、偏差dev(X,Z_(x ))がプラスの部分での走査電圧V(t)の傾きを三角波42の傾きよりも大きくすることによって、偏差dev(X,Z_(x ))をほぼ0に平坦化して、上記位置Z_(x )におけるビーム電流密度分布S(X,Z_(x ))をほぼ一様に(均一に)することができる。
【0047】この例では、上記のような走査電圧V(t)の波形整形を、走査制御装置34によって行うことができる。
【0048】波形整形前後の走査電圧V(t)、当該走査電圧の変分D(=ΔV(t)/Δt)およびビーム電流密度分布の偏差devのより具体例を図5(波形整形前)および図6(波形整形後)に示す。変分Dは、上述した走査電圧V(t)の傾きに相当する。両図の横軸は、ここでは時間tで表しているが、これは、イオンビーム2のX方向の走査位置に対応している。走査電圧V(t)の傾きが反転している時点で(即ち三角波状の頂点で)、イオンビーム2の走査方向は反転することになる。図6の変分Dの目盛りは、図5のそれを約10倍に拡大している。
【0049】図5に示すように、完全な三角波の(即ち変分Dが一定の)走査電圧V(t)でイオンビーム2を走査したときの偏差devが図示のように±に変化している場合、図6に示すように、走査電圧V(t)の変分Dを上記偏差devを打ち消すように変化させて走査電圧V(t)の波形を完全な三角波から少し整形(この例では三角波の斜辺をわずかに下に凸状にしている)することによって、偏差devを常に0にすることができる。
【0050】(3)次に、チルト角θを採った状態でY軸方向に往復駆動される被処理物4(図8参照)に、所望のビーム電流密度分布を実現するのに適切な走査電圧波形で走査しながらイオンビーム2を照射するビーム照射方法を説明する。
【0051】イオン注入時のホルダ6および被処理物4のチルト角θ(これは注入中は一定である)および時々刻々のY座標位置Y^(x )は、ホルダ駆動装置24によって検出され、走査制御装置34にリアルタイムで供給される(図1参照)。この明細書でリアルタイムとは、バッチ処理ではなく即時処理の意味である。
【0052】走査制御装置34は、供給されるチルト角θおよびY座標位置Y_(x )を用いて、例えば次式の演算をリアルタイムで行うことによって、イオンビーム2が被処理物4に入射する位置のZ座標位置Z_(x )をリアルタイムで求めることができる。ここでY_(x )は、図8を参照して、イオンビーム2の入射位置Z_(x )がZ_(2 )のときを0とし、それよりも被処理物4が上にある場合を正、下にある場合を負としている。
【0053】
【数3】Z_(x )=Z_(2 )-Y_(x )tanθ
【0054】このようにして、被処理物4にイオンビーム2が入射衝突するZ座標位置Zxをリアルタイムで求めることができ、その各Z座標位置Z_(x )において、前述した分布調整方法に従って、所望のビーム電流密度分布S(X,Z_(x ))を実現する走査電圧波形でイオンビーム2を走査しながらそれを被処理物4に照射することによって、被処理物4のチルト角θや平面寸法が大きい場合でも、被処理物4の所望の領域(例えば全面)に所望の分布(例えば均一な分布)でイオンビーム2を照射することができる。その結果例えば、被処理物4のチルト角θや平面寸法が大きい場合でも、被処理物4の全面に亘って均一なイオン注入を行って、被処理物4の全面におけるドーパントの注入量分布を均一にすることができる。」

これらの記載事項を含む引用文献1全体の記載及び当業者の技術常識を総合すれば、引用文献1には、以下の発明が記載されている。
「イオン源で発生させたイオンビーム(2)を、必要に応じて加速、質量分離等を行った後、走査器(12)によって電磁気的に往復走査し、ホルダ(6)上の被処理物(4)に照射するよう構成されており、
ホルダに対して前後近傍にそれぞれ位置するように、第1および第2の多点ファラデー(20および30)を設け、両多点ファラデーによってイオンビームのビーム電流密度分布を各座標位置ごとに測定し、
各座標位置の所望のビーム電流密度分布との偏差がマイナスの部分での走査電圧V(t)の傾きを基本となる三角波(42)の傾きよりも小さくし、偏差がプラスの部分での走査電圧V(t)の傾きを三角波の傾きよりも大きくすることによって、偏差をほぼ0に平坦化して、各座標位置におけるビーム電流密度分布をほぼ一様にすることができ、
被処理物にイオンビームが入射衝突する座標位置をリアルタイムで求め、その各座標位置において、所望のビーム電流密度分布を実現する走査電圧波形でイオンビームを走査しながらそれを被処理物に照射することによって被処理物の所望の領域に所望の分布でイオンビームを照射することができる、
イオンビームを走査しながら被処理物に照射する装置。」(以下「引用発明」という。)

3.対比
補正発明と引用発明を対比する。
(1)引用発明の「被処理物」、「イオン源」及び「イオンビームを走査しながら被処理物に照射する装置」は、それぞれ補正発明の「加工物」、「ビーム電流を有するイオンビームの形で引き出される多量のイオンを生じるイオン源」及び「イオン注入システム」に相当する。
(2)引用発明は「イオン源で発生させたイオンビームを、必要に応じて加速、質量分離等を行った後、走査器によって電磁気的に往復走査」するから、補正発明の「イオン源の下流にあってイオンビームを受け入れて指向し、かつ、イオンビーム内のイオンを質量分析する質量分析器を含むビームラインアセンブリ」に相当する構成を有することは明らかである。
(3)引用発明は「イオンビームを」「ホルダ上の被処理物に照射するよう構成されて」いるから、補正発明の「ビームラインアセンブリの下流にあってイオンビームが指向される方向に1つまたは複数の加工物を保持するためのエンドステーション」に相当する構成を有することも明らかである。
(4)引用発明の「被処理物にイオンビームが入射衝突する座標位置をリアルタイムで求め、その各座標位置において、所望のビーム電流密度分布を実現する走査電圧波形でイオンビームを走査しながらそれを被処理物に照射することによって被処理物の所望の領域に所望の分布でイオンビームを照射すること」は、補正発明の「1つまたは複数の加工物にイオンを注入しながら、イオンビーム内のイオンの量又は数、あるいは、イオンビーム内のイオンの線量を変えることによって、ビーム電流を調整する」ことに相当する。
したがって、引用発明は補正発明の「調整コンポーネント」に相当する構成を有する。
(5)引用発明の「第1および第2の多点ファラデー」は、補正発明の「ビーム電流を読取るための測定コンポーネント」に相当する。
そして、引用発明は「両多点ファラデーによってイオンビームのビーム電流密度分布を各座標位置ごとに測定し」「各座標位置の所望のビーム電流密度分布との偏差がマイナスの部分での走査電圧V(t)の傾きを基本となる三角波の傾きよりも小さくし、偏差がプラスの部分での走査電圧V(t)の傾きを三角波の傾きよりも大きくすることによって、偏差をほぼ0に平坦化して、各座標位置におけるビーム電流密度分布をほぼ一様にすることができ」「各座標位置において、所望のビーム電流密度分布を実現する走査電圧波形でイオンビームを走査しながらそれを被処理物に照射することによって被処理物の所望の領域に所望の分布でイオンビームを照射することができる」から、補正発明の「調整コンポーネントは、前記測定コンポーネントによって得られた測定値に応答して前記ビーム電流を調整すること」に相当する構成を有することは明らかである。

してみると両者は、
「1つまたは複数の加工物内にイオンを注入するために適したイオン注入システムであって、
ビーム電流を有するイオンビームの形で引き出される多量のイオンを生じるイオン源と、
前記イオン源の下流にあって前記イオンビームを受け入れて指向し、かつ、前記イオンビーム内のイオンを質量分析する質量分析器を含むビームラインアセンブリと、
前記ビームラインアセンブリの下流にあって前記イオンビームが指向される方向に前記1つまたは複数の加工物を保持するためのエンドステーションと、
1つまたは複数の加工物にイオンを注入しながら、イオンビーム内のイオンの量又は数、あるいは、前記イオンビーム内のイオンの線量を変えることによって、イオンビーム内のイオンの量又は数、あるいは、前記イオンビーム内のイオンの線量を変えることによって、前記ビーム電流を調整するための調整コンポーネントと、
前記ビーム電流を読取るための測定コンポーネントとを含み、
前記調整コンポーネントは、前記測定コンポーネントによって得られた測定値に応答して前記ビーム電流を調整するイオン注入システム。」
の点で一致し、次の点で相違している。

(相違点)
調整コンポーネントが、補正発明では「イオン源内に配置され、または、前記イオン源と前記質量分析器との間に配置され」ているのに対して、引用発明ではどこに配置されているのか不明な点。

4.判断
上記相違点について検討する。
ビーム電流を調整するための調整コンポーネントを備えたイオン注入装置において、調整コンポーネントとしてイオン源と質量分析器との間に引き出し電極を配置するなどし、該電極に印加する電圧を調整することは、ごく普通に行われている周知技術(原査定の拒絶の理由に引用された下記引用文献2、同じく特開昭61-233942号公報参照)である。
引用発明の調整コンポーネントとして当該周知技術を用い、上記相違点に係る構成を採用することは、当業者が容易になしうる事項である。

そして、補正発明全体の効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものではない。

したがって、補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項の規定において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり、決定する。

第3 本願発明について

1.本願発明
平成24年6月27日付けの手続補正は上記のとおり却下され、平成24年1月12日付けの手続補正は同年2月27日に補正の却下の決定がなされているので、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成23年8月8日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「1つまたは複数の加工物内にイオンを注入するために適したイオン注入システムであって、
ビーム電流を有するイオンビームの形で引き出される多量のイオンを生じるイオン源と、
前記イオン源の下流にあって前記イオンビームを受け入れて指向するためのビームラインアセンブリと、
前記ビームラインアセンブリの下流にあって前記イオンビームが指向された方向に前記1つまたは複数の加工物を保持するためのエンドステーションと、
前記イオン源に関連して前記ビーム電流を調整するための調整コンポーネントと、
前記ビーム電流を読取るための測定コンポーネントとを含み、
前記ビームラインアセンブリは、前記イオンビーム内のイオンを質量分析するための分析磁石を含み、前記調整コンポーネントは、前記測定コンポーネントによって得られた測定値に応答して前記ビーム電流を調整することを特徴とするイオン注入システム。」(以下「本願発明」という。)

2.引用刊行物
引用文献2:特開平9-283074号公報
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である、上記引用文献2には、以下の事項が記載されている。
(1a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、半導体デバイスの製造プロセスの一つであるイオン注入技術に関するものである。」
(1b)「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明に係るイオン注入装置は、イオンビームを半導体基板に照射させるイオン注入装置において、イオンビームを出射させるイオンビーム発生手段と、イオンビーム発生手段からのイオンビームの速度調節及び収束を行なうイオンビーム速度調節・収束手段と、所定位置におけるイオンビームの電流密度を検出するイオン検出手段と、半導体基板を支持する基板支持台と、イオンビームの電流密度を調整すべくイオンビームの径を調整するイオンビーム径調整手段と、イオン検出手段により検出されたイオンビームの電流密度に基づき、所望の電流密度となるようにイオンビーム径調整手段を制御する制御手段とを備えることを特徴とする。これによって、所要の電流密度を有したイオンビームが得られ、電流密度の変動によるシート抵抗の再現性劣化を防止することができる。」
(1c)「【0012】図2は、本発明に係るイオン注入装置10の好適な実施形態を概略的に示したものである。図示するように、イオン注入装置10はイオン源20、イオンビーム引き出し・前段加速系30、質量分析系40、イオンビームレンズ・後段加速系60、イオン注入室80から主として構成されている。
【0013】イオン源20は、ガス供給源(図示せず)から送り込まれたドーピングガスを放電させることにより、高密度のプラズマ状態を作り出すことができるようになっている。また、イオン源20と質量分析系40との間には、イオンビーム引き出し・前段加速系30が設けられ、イオン源20よりも負電圧に印加される一対の引き出し電極(図示せず)が配置されている。引き出し電極に負電圧を印加させると、上記プラズマを構成するイオンが0?80keV程度の運動エネルギで加速されてイオンビーム11が形成され、質量分析系40に導入される。ただし、このイオンビームは様々なイオンを含んでいる。
【0014】質量分析系40は分析磁石42及び第1のスリット群44から構成され、上に述べたイオンビーム11から所望のイオン種のみを取り出すようにしている。詳細に説明すると、イオンビーム11の通路内において、イオンビーム11に対して垂直な方向に分析磁石により磁界がかけられると、イオンビーム11の進行方向が曲げられる。この場合、イオンビーム11の曲る度合いが質量によって異なる。つまり、重いイオンほど曲げられる度合いが少なく、軽いイオンほど大きい。したがって、イオンビームは質量毎に異なる軌道を描き、第1のスリット群44に導かれる。また、第1のスリット群44は複数のスリットから構成され、必要とするイオンビームのみを通過させるようにしている。これらのうち、分析磁石42の焦点に位置している可変分析スリット46は、そのスリット幅に応じて、質量分析系40の分解能に特に影響を及ぼしている。」
(1d)「【0018】イオン注入室80は、イオンビーム11の進行方向に沿ってプラズマシャワー84、及び半導体基板を支持する基板支持台90が順次配設して構成されており、さらに、本発明では基板支持台90の背面側にイオン検知器86が設けられている。
・・・
【0020】半導体基板を支持する基板支持台90は、図3に明示するように、シャフト100により第1のモータに連結されたハブ部92を備えており、、そこから複数のアーム94が放射状に突設されている。また、アーム94には複数のサセプタ96が固設されている。さらに、このサセプタ96の上には、そこに設けられた支持機構(図示せず)によって半導体基板98が支持されるようになっている。このように構成された基板支持台90では、第1のモータ102を作動させることにより、旋回運動を可能にしている。また、第1のモータ102は、シャフト106、揺動アーム104及び揺動機構107を介して第2のモータ108が接続されている。揺動機構は、第2のモータ108の回転運動を揺動アームの往復揺動運動に変えることができる。以上から、上記イオン注入装置では、偏向されることなく軌道が固定されたイオンビームを半導体基板の全面に照射させることができる。なお、図3及び図2の基板支持台90は、説明のために、実際のものよりも小さく示されており、また、サセプタ96及びアーム94の数も少なくしてある。
【0021】上記の場合、揺動アーム104を揺動させてサセプタ96の旋回軌道がイオンビーム11の照射位置から外れたとき、イオンビーム11がイオン検出器86に入射可能となる。このイオン検知器86はファラデーカップ88が1次元配列して構成されたもので、イオンビーム11に対して垂直な一つの面内を走査手段(図示せず)によって走査できるようになっている。ただし、ファラデーカップ88を二次元配列して、イオンビームが照射領域全体に渡るようにしてもよい。」
(1e)「【0023】このようなイオン注入装置では、イオンビーム11の加速電圧、イオンビーム11の径、イオンビーム11の照射位置、及びイオンビーム11の照射量が制御手段によって制御されている。この制御手段110は、図4に示されるように、CPU110aを中心にして構成されている。CPU110aには入力インターフェース110bを介してイオン検出器86が接続されている。よって、CPU110aは、イオン検出器86からのイオン電流の信号に基づいてイオンビーム電流密度を求める演算を行なうことができる。この演算では、走査時におけるイオン電流の測定値を走査時間で積分した値を、走査面積で割ることが行なわれている。また、CPU110aはRAM及びROMからなる記憶手段110cに接続されている。この記憶手段110cには、様々なイオンビーム電流密度におけるイオンドーズ量とシート抵抗値との関係が記憶されている。さらに、CPU110aには出力インターフェース110dからモータ駆動回路114を介して、駆動機構83におけるモータ115、筒体70及び第1の電極72が接続されている。したがって、CPU110aは、この演算結果及び記憶装置に記憶された記憶内容に基づいて、イオンビームが所望のイオンビーム電流密度となるように、第2の電極82の位置を制御することができる。なお、制御手段110には基板支持台90の第1及び第2のモータ102、108が接続され、基板支持台90の位置及び揺動アーム104の往復揺動速度を制御できるようにしている。また、制御手段110にはイオンビーム電流密度を表示し、異常な値を測定した時は警報を発する表示・警報手段112や、イオンビーム照射時間を制御するタイマ回路(図示せず)も接続されている。」
(1f)「【0031】
【発明の効果】本発明のイオン注入装置及び方法によれば、イオンビームが検出できる位置に配置されたイオン検出器によって、半導体基板にイオンビームを照射させる前に予めイオンビームの電流密度を測定することができ、その測定結果から、イオンビーム電流密度を調整できる。したがって、電流密度の変動によるシート抵抗の再現性劣化を防止することができる。」

これらの記載事項を含む引用文献1全体の記載及び当業者の技術常識を総合すれば、引用文献2には、以下の発明が記載されている。
「イオンビームを半導体基板に照射させるイオン注入装置において、
イオンビームを出射させるイオンビーム発生手段と、
イオンビーム発生手段からのイオンビームの速度調節及び収束を行なうイオンビーム速度調節・収束手段と、
イオンビームから所望のイオン種のみを取り出すための分析磁石と、
所定位置におけるイオンビームの電流密度を検出するイオン検出手段と、
半導体基板を支持する基板支持台と、
イオンビームの電流密度を調整すべくイオンビームの径を調整するイオンビーム径調整手段と、
イオン検出手段により検出されたイオンビームの電流密度に基づき、所望の電流密度となるようにイオンビーム径調整手段を制御する制御手段とを備える、
イオン注入装置。」(以下「引用2発明」という。)

3.対比
本願発明と引用2発明を対比する。
(1)引用2発明の「半導体基板」、「イオンビーム発生手段」、「イオンビーム発生手段からのイオンビームの速度調節及び収束を行なうイオンビーム速度調節・収束手段」、「半導体基板を支持する基板支持台」及び「イオン注入装置」は、それぞれ本願発明の「加工物」、「ビーム電流を有するイオンビームの形で引き出される多量のイオンを生じるイオン源」、「イオン源の下流にあって前記イオンビームを受け入れて指向するためのビームラインアセンブリ」、「ビームラインアセンブリの下流にあって前記イオンビームが指向された方向に前記1つまたは複数の加工物を保持するためのエンドステーション」及び「イオン注入システム」に相当する。
(2)同じく「イオンビームの電流密度を調整すべくイオンビームの径を調整するイオンビーム径調整手段」、「イオンビームの電流密度を検出するイオン検出手段」及び「イオンビームから所望のイオン種のみを取り出すための分析磁石」は、それぞれ「イオン源に関連して前記ビーム電流を調整するための調整コンポーネント」、「ビーム電流を読取るための測定コンポーネント」及び「イオンビーム内のイオンを質量分析するための分析磁石」に相当する。
(3)さらに「イオン検出手段により検出されたイオンビームの電流密度に基づき、所望の電流密度となるようにイオンビーム径調整手段を制御する」ことは、「調整コンポーネントは、前記測定コンポーネントによって得られた測定値に応答して前記ビーム電流を調整すること」に相当する。

そうすると、両者は
「1つまたは複数の加工物内にイオンを注入するために適したイオン注入システムであって、
ビーム電流を有するイオンビームの形で引き出される多量のイオンを生じるイオン源と、
前記イオン源の下流にあって前記イオンビームを受け入れて指向するためのビームラインアセンブリと、
前記ビームラインアセンブリの下流にあって前記イオンビームが指向された方向に前記1つまたは複数の加工物を保持するためのエンドステーションと、
前記イオン源に関連して前記ビーム電流を調整するための調整コンポーネントと、
前記ビーム電流を読取るための測定コンポーネントとを含み、
前記ビームラインアセンブリは、前記イオンビーム内のイオンを質量分析するための分析磁石を含み、前記調整コンポーネントは、前記測定コンポーネントによって得られた測定値に応答して前記ビーム電流を調整することを特徴とするイオン注入システム。」
の点で一致し、相違点はない。

4.判断
したがって、本願発明は引用2発明であり、特許法第29条第1項3号に規定する発明に該当し特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は引用2発明であり、特許法第29条第1項3号に規定する発明に該当し特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-14 
結審通知日 2013-03-21 
審決日 2013-04-04 
出願番号 特願2007-501013(P2007-501013)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01J)
P 1 8・ 113- Z (H01J)
P 1 8・ 575- Z (H01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 遠藤 直恵  
特許庁審判長 神 悦彦
特許庁審判官 伊藤 昌哉
土屋 知久
発明の名称 イオンビーム電流の調整  
代理人 萼 経夫  
代理人 小野塚 薫  
代理人 宮崎 嘉夫  

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