• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08G
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08G
管理番号 1278355
審判番号 不服2012-11852  
総通号数 166 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-06-25 
確定日 2013-08-22 
事件の表示 特願2009- 76115「液状熱硬化性樹脂組成物及びそれを用いた銅張積層板」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 1月28日出願公開、特開2010- 18778〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 主な手続の経緯
本願は,平成21年3月26日(先の出願に基づく優先権主張 平成20年6月11日)を出願日とする特許出願であって,平成23年12月8日付けで拒絶理由が通知され,平成24年2月13日に意見書が提出されるとともに(なお,当該意見書を補足する手続補足書が併せて提出されている。),特許請求の範囲が補正され,同年3月22日付けで拒絶査定がされたところ,これに対して,同年6月25日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲が補正されたので,特許法162条所定の審査がされた結果,同年7月23日付けで同法164条3項の規定による報告がされ,平成25年1月15日付けで同法134条4項の規定による審尋がされ,同年3月21日に回答書が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定

[結論]
平成24年6月25日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 平成24年6月25日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)の内容
本件補正は特許請求の範囲を変更するものであるところ,本件補正の前後における特許請求の範囲の請求項1の記載は,それぞれ以下のとおりである。
・ 本件補正前(平成24年2月13日付け手続補正書)
「【請求項1】 (A)1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂,(B)不飽和二重結合を6?13当量/Kg含む架橋性ラジカル重合性化合物,(C)スチレン系モノマー,(D)イミダゾール系化合物,及び(E)ラジカル重合開始剤,を含有し,
前記架橋性ラジカル重合性化合物(B)が,ジシクロペンタジエンジ(メタ)アクリレート,トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート,エチレングリコールジ(メタ)アクリレート,ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート,グリセリンジ(メタ)アクリレート,ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート及び無水メタクリル酸からなる群から選択される少なくとも1種の架橋性単量体,並びにビニルエステル樹脂から選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする液状熱硬化性樹脂組成物。」
・ 本件補正後
「【請求項1】 (A)1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂,(B)不飽和二重結合を6?13当量/Kg含む架橋性ラジカル重合性化合物,(C)スチレン系モノマー,(D)イミダゾール系化合物,及び(E)ラジカル重合開始剤,を含有し,
前記架橋性ラジカル重合性化合物(B)が,ジシクロペンタジエンジ(メタ)アクリレート,トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート,エチレングリコールジ(メタ)アクリレート,ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート,グリセリンジ(メタ)アクリレート,ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート及び無水メタクリル酸からなる群から選択される少なくとも1種の架橋性単量体,並びにビニルエステル樹脂から選択される少なくとも1種を含有し,
前記(C)スチレン系モノマーが,液状熱硬化性樹脂組成物中に15?40質量%配合されていることを特徴とする液状熱硬化性樹脂組成物。」

2 本件補正の目的
本件補正は,補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「(C)スチレン系モノマー」について,補正前において特定していなかったその配合量を,「液状熱硬化性樹脂組成物中に15?40質量%配合されている」と特定するものである。(しかも,補正の前後で,請求項1に記載の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が変わるものでない。)
よって,本件補正は,請求項1についてする補正については,特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認める。
なお,本件補正は,いわゆる新規事項を追加するものではないと判断される。

3 独立特許要件違反の有無について
上記2のとおりであるから,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか,要するに,本件補正が特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に適合するものであるか(いわゆる独立特許要件違反の有無)について検討するところ,本件補正は当該要件に違反すると判断される。
すなわち,本願補正発明は,本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平3-109401号公報(以下,「引用文献」という。)に記載された発明であり,特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができない。(なお,当該引用文献は,上記拒絶理由を通知する際に「引用文献2」として請求人に提示された刊行物である。)
以下,特許を受けることができない理由を詳述する。

4 本願補正発明
本願補正発明は,本件補正により補正された特許請求の範囲及び明細書(以下,「本願明細書」という。)の記載からみて,以下のとおりのものであると認める。
「(A)1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂,(B)不飽和二重結合を6?13当量/Kg含む架橋性ラジカル重合性化合物,(C)スチレン系モノマー,(D)イミダゾール系化合物,及び(E)ラジカル重合開始剤,を含有し,
前記架橋性ラジカル重合性化合物(B)が,ジシクロペンタジエンジ(メタ)アクリレート,トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート,エチレングリコールジ(メタ)アクリレート,ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート,グリセリンジ(メタ)アクリレート,ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート及び無水メタクリル酸からなる群から選択される少なくとも1種の架橋性単量体,並びにビニルエステル樹脂から選択される少なくとも1種を含有し,
前記(C)スチレン系モノマーが,液状熱硬化性樹脂組成物中に15?40質量%配合されていることを特徴とする液状熱硬化性樹脂組成物。」

5 本願補正発明が特許を受けることができない理由
(1) 引用発明
ア 引用文献には,次の記載がある。(なお,下線は本審決による。以下同じ。)
「1.フェノール樹脂,エポキシ樹脂及びラジカル重合能を有する化合物から成る樹脂に,充填剤,硬化促進剤及びラジカル重合開始剤を添加して成る制振材料用樹脂組成物。
2.ラジカル重合能を有する化合物が,二官能性以上の多官能性化合物を少なくとも一種類以上含むものである請求項1記載の制振材料用樹脂組成物。…」(特許請求の範囲)
「本発明は…,室温から150℃の温度において優れた制振性能を発揮するという特長を有し,耐熱性にも優れた制振材料を得ることを目的とするものである。」(2頁左上欄下から4?最下行)
「本発明に用いるラジカル重合能を有する化合物としては,…,スチレン,…その他各種置換基を有するビニル化合物等の一官能性ラジカル重合反応成分及びエチレングリコールジアクリレート,エチレングリコールジメタクリレート,…,トリメチロールプロパントリアクリレート,…その他各種置換基を有する多官能ビニル化合物等の多官能性ラジカル重合反応成分を組み合わせたものが用いられる。」(3頁右上欄6行?左下欄下から7行)
「硬化促進剤としては,…2-メチルイミダゾール,2-エチルイミダゾール,2-フェニルイミダゾール,4-メチルイミダゾール,2-エチル-4-メチルイミダゾール等のイミダゾール類が用いられる。」(4頁左上欄5?10行)
「〔実施例〕
実施例1?5,比較例1?4
樹脂の合成
反応容器にフェノール940g,80%パラホルム560g,37%ホルマリン水溶液165g,しゅう酸2.7gを入れ,室温から徐々に昇温し,乳化後還流温度で3時間加熱を続けた。つぎに減圧下で脱水濃縮を行い,副生した水,未反応のホルムアルデヒド,フェノールを除去した。このようにして,軟化点90℃のノボラック型フェノール樹脂を得た。
制振材料用樹脂組成物の調整
制振材料組成を表1に示す。
熱硬化性樹脂成分として上記ノボラック型フェノール樹脂250g及びビスフェノールA型エポキシ樹脂250gを,ラジカル重合能を有する化合物(ラジカル重合反応成分)としてスチレン450g及びエチレングリコールジメタクリレート50gを選び,これらを60?100℃で約1時間よく攪拌混合した。この中に鱗片状充填剤としてマイカ500g,粒子状充填剤としてフェライト500gを添加し,約30分間混練した。最後に硬化促進剤として2-エチル-4-メチルイミダゾール(2E4MZ)10g,ラジカル重合開始剤としてジクミルパーオキサイド(DCP)10gを添加し,均一に分散するまで攪拌混練することにより制振材料用樹脂組成物を得た。(実施例1)」(4頁右上欄12行?右下欄1行)
「制振性能評価用試験片の調製
型枠の中に250mm(L)×15mm(W)×0.8mm(T)の鋼板を置き,全体の厚みが3mmになるように,上記実施例で示した制振材料用樹脂組成物で鋼板を覆った。これを170℃で1時間加熱することにより樹脂の硬化反応を進行させ,制振材料を鋼板に密着させた制振性能評価用試験片を得た。」(5頁左上欄下から5行?右上欄3行)
また,5頁には,実施例1?5,比較例1?4の制振材料組成を示す表1の記載がある。なお,当該表1において,硬化促進剤,重合開始剤及び充填剤の配合量は「phr」,すなわち本件においては,熱硬化性樹脂成分及びラジカル重合反応成分の配合量の合計(1000g)を100とした「重量部」として示されている。

イ そして,上記アで摘記した記載,特に実施例1についての記載,を総合すると,引用文献には,次のとおりの発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていることが認められる。
「ノボラック型フェノール樹脂250g,ビスフェノールA型エポキシ樹脂250g,ラジカル重合能を有する化合物としてスチレン450g及びエチレングリコールジメタクリレート50g,充填剤としてマイカ500g及びフェライト500g,硬化促進剤として2-エチル-4-メチルイミダゾール(2E4MZ)10g,並びに,ラジカル重合開始剤としてジクミルパーオキサイド(DCP)10gからなる制振材料用樹脂組成物」

(2) 対比・判断
ア 本願補正発明と引用発明を対比する。
引用発明の「ビスフェノールA型エポキシ樹脂」は本願補正発明の「(A)1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂」に,「エチレングリコールジメタクリレート」は「(B)不飽和二重結合を6?13当量/Kg含む架橋性ラジカル重合性化合物」に,「スチレン」は「(C)スチレン系モノマー」に,「2-エチル-4-メチルイミダゾール(2E4MZ)」は「(D)イミダゾール系化合物」に,「ジクミルパーオキサイド(DCP)」は「(E)ラジカル重合開始剤」にそれぞれ相当するのは明らかである。
また,引用発明の樹脂組成物は制振材料用と特定するものではあるが,当該樹脂組成物は液状でありかつ加熱することにより硬化するものであることからして,引用発明の「制振材料用樹脂組成物」は本願補正発明の「液状熱硬化性樹脂組成物」に相当するといえる。
さらに,引用発明の樹脂組成物中におけるスチレンの配合割合は,22.3質量%(=[450÷(250+250+450+50+500+500+10+10)]×100)と計算されるから,本願補正発明と引用発明とは,そのスチレン系モノマーの配合割合について,液状熱硬化性樹脂組成物中に「22.3質量%」配合されている点で一致する。

イ したがって,本願補正発明と引用発明とは,次の点で一致するといえる。
「(A)1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂,(B)不飽和二重結合を6?13当量/Kg含む架橋性ラジカル重合性化合物,(C)スチレン系モノマー,(D)イミダゾール系化合物及び(E)ラジカル重合開始剤を含有し,前記架橋性ラジカル重合性化合物(B)がエチレングリコールジ(メタ)アクリレートであり,前記(C)スチレン系モノマーが液状熱硬化性樹脂組成物中に22.3質量%配合されている液状熱硬化性樹脂組成物」
他方,本願補正発明と引用発明との間に,相違点は認められない。

ウ 請求人は,引用発明はフェノール樹脂を必須成分としており,他方,本願補正発明はフェノール樹脂を用いることができないから,本願補正発明は引用発明から想到容易ではない旨主張する(回答書3頁。なお,当該主張は,本願補正発明は引用文献に記載されたものではないと主張しているとも善解される。)。
しかし,本願補正発明の樹脂組成物は,成分(A),(B),(C),(D)及び(E)のみから構成されるものではなく,これら成分「を含有し」てなるものである。すなわち,本願補正発明は,上記成分以外の成分,例えば,充填剤やフェノール樹脂の含有を何ら排除していない。
請求人の上記主張は,採用の限りでない。

(3) 小活
よって,本願補正発明は,引用文献に記載された発明であり,特許法29条1項3号に該当する発明であるといえる。

6 まとめ
以上のとおりであるから,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
上記第2のとおり,本件補正は却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成24年2月13日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲及び明細書の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「(A)1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂,(B)不飽和二重結合を6?13当量/Kg含む架橋性ラジカル重合性化合物,(C)スチレン系モノマー,(D)イミダゾール系化合物,及び(E)ラジカル重合開始剤,を含有し,
前記架橋性ラジカル重合性化合物(B)が,ジシクロペンタジエンジ(メタ)アクリレート,トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート,エチレングリコールジ(メタ)アクリレート,ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート,グリセリンジ(メタ)アクリレート,ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート及び無水メタクリル酸からなる群から選択される少なくとも1種の架橋性単量体,並びにビニルエステル樹脂から選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする液状熱硬化性樹脂組成物。」

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,要するに,本願発明は上記引用文献に記載された発明であり特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができない,という理由を含むものである。

3 引用発明
引用発明は,上記第2_5(1)イにおいて認定のとおりである。

4 対比・判断
本願発明は,本願補正発明との比較において,スチレン系モノマーの配合量を特定しないものである(上記第2_1(2)参照)。
そうすると,上記第2_5(2)で検討したことからすれば,同様に,本願発明と引用発明との間にも相違点は存在しないと判断されるから,本願発明は,特許法29条1項3号に該当する発明であり,特許を受けることができないといえる。

第4 むすび
以上のとおり,原査定の拒絶の理由は妥当なものであるから,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-06-20 
結審通知日 2013-06-25 
審決日 2013-07-08 
出願番号 特願2009-76115(P2009-76115)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C08G)
P 1 8・ 575- Z (C08G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 繁田 えい子  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 須藤 康洋
田口 昌浩
発明の名称 液状熱硬化性樹脂組成物及びそれを用いた銅張積層板  
代理人 宇佐美 綾  
代理人 小谷 悦司  
代理人 小谷 昌崇  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ