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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A44C
審判 全部無効 2項進歩性  A44C
管理番号 1279746
審判番号 無効2012-800218  
総通号数 167 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-11-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-12-28 
確定日 2013-10-02 
事件の表示 上記当事者間の特許第4592116号発明「クリップ式イヤリング」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 本件特許第4592116号(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成21年10月3日に特許出願され、平成22年9月24日にその請求項1乃至4に係る発明について特許の設定登録がなされ、これに対し、平成24年12月28日に株式会社ミスティー・コレクション及び望月孝雄(以下、「請求人ら」という。)より、請求項1?4に係る発明についての特許を無効とする審決を求める無効審判の請求がなされ、平成25年3月28日に株式会社ピアリング(以下、「被請求人」という。)より答弁書が提出され、その後、請求人ら及び被請求人より、それぞれ平成25年6月3日付けの口頭審理陳述要領書が提出され、平成25年7月11日に口頭審理が行われ、さらに、請求人らより平成25年7月16日付けの上申書が提出されたものである。

II 本件発明
本件特許の請求項1?4に係る発明(以下、「本件発明1?4」という。)は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された次のとおりのものである。
「 【請求項1】
一方の主装飾体と他方の挟着部材とに一対の取付脚部と取付基部とを形成するとともに、前記一対の取付脚部と取付基部との間に1枚もしくは2枚の弾性を有する平滑な円形金属板材を介装してこれらを軸着し、前記円形金属板材とともに該軸部を加締めてなるイヤリングであって、前記取付基部は前記円形金属板材の直径よりも細い幅に形成されており、一方の主装飾体と他方の挟着部材とにそれぞれ形成された取付脚部と取付基部とが相対的に回動する際、前記円形金属板材は前記取付基部との当接部分に掛かる負荷で前記取付基部の幅方向の端縁との交差部分が内向きにたわみ、該たわみ部分が前記取付基部の前記端縁との間で係合するようにしたことを特徴とするイヤリング。
【請求項2】
前記平滑な円形金属板材の直径が、前記一対の取付脚部の輪郭内に収容される寸法から前記一対の取付脚部の輪郭よりもやや大きい寸法の範囲を有するようにしたことを特徴とする請求項1記載のイヤリング。
【請求項3】
前記平滑な円形金属板材は、その厚さを0.1?0.25mmの範囲のものとしたことを特徴とする請求項1または2記載のイヤリング。
【請求項4】
前記取付基部の幅方向の端縁が前記円形金属板材の輪郭を横切る交差線を、前記取付基部の幅方向の両側に配置したことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のイヤリング。」

III 請求人ら及び被請求人の主張の概略
A 請求人らの主張
請求人らの主張は、次のとおりである。
1 本件発明1?4は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法123条1項2号に該当し、無効とすべきである(以下、「無効理由1」という。)。
2 本件発明1?4は、特許請求の範囲の記載が明確ではないため、特許法36条6項2号の規定する要件を満たしていないものであり、その特許は同法123条1項4号に該当し、無効とすべきである(以下、「無効理由2」という。)。

〈証拠方法〉
甲第1号証:特開平10-276810号公報
甲第2号証:特許権侵害差止等請求事件(平成24年(ワ)第4964号)平成24年10月1日付け提出の準備書面(3)

B 被請求人の主張
被請求人の主張は、次のとおりである。
1 本件発明1?4は、いずれも進歩性を備えたものであるから、本件特許は無効となり得ず、維持されるべきものである。
2 本件発明1?4は、特許請求の範囲の記載が明確であるから、本件特許は無効となり得ず、維持されるべきものである。

IV 当審の判断
A 無効理由1について
1 甲第1号証
(1)甲第1号証には、つぎのとおり記載されている。
(1-1)「【請求項1】 一方の主装飾体と他方の挟着部材とに一対の取付脚部と取付基部とを形成してこれらを軸着し、この部位を加締めてなるイヤリングであって、一対の取付脚部と取付基部との間にこれら部材より硬質部材のワッシャを介して加締めたことを特徴とするイヤリング。」
(1-2)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はクリップ式イヤリングに関するものである。」
(1-3)「【0011】
【実施例】・・・図1は本発明のイヤリングの第1例の斜視図、図2は内側から見た展開図である。又、図3は分解図である。図中、符号1は主装飾体であり、2は耳たぶ挟着部としての副装飾体であって、その全体形状は略同じであり、この例では両者はいずれの側を耳たぶの表側に向けて装着してもよい形状とされている。両者は共にK-18製である。
【0012】主装飾体1には一対の取付脚部3、4が一体に備えられ、これと対向して副装飾体2には前記取付脚部3、4間に嵌り合う基部5が一体に形成されている。そしてこれらに開けられた貫通孔6、7にピン8を挿通し、この部位を加締めることとなるが、この際、取付脚部3、4と基部5との間に両者の部材K-18よりも硬度の高い厚さ0.15mmのステンレス製のワッシャ9を介して加締めたものである。・・・
【0013】従って、イヤリングの主装飾体1及び副装飾体2の開閉に供される際には取付脚部3、4と基部5とは直接接触することがなく、比較的軟かい部材同士の接触はなくなる。」
(1-4)「【0014】図4は本発明のイヤリングの第2例の側面図、図5はその分解図である。この例の場合も主装飾体1より伸びた一対の取付脚部3、4が一体に備えられ、これと対向して挟着部材2には前記取付脚部3、4間に嵌り合う基部5が一体に形成されている。そしてこれらに開けられた貫通孔6、7にピン8を挿通し、この部位を加締めることとなるが、この際、取付脚部3、4と基部5との間に両者の部材K-18よりも硬度の高い厚さ0.15mmのステンレス製のワッシャ9を介して加締めたものである。・・・」
(1-5)「【0015】(評価)ここで図1にて示す本発明のイヤリングと図6にて示す従来のイヤリングとの繰り返し開閉試験を行った。試験はイヤリングの主装飾体1及び副装飾体2の耳当部10、11を180度に開閉し、その繰返し回数を指数で示した。尚、イヤリングを構成する主装飾体1及び副装飾体2、即ち、取付脚部3、4と基部5は互いにK-18及びプラチナであり、従来のイヤリングはこれらが直接接触するものであり、本発明のイヤリングはこれらが直接接触せず、ステンレス製のワッシャがこれらに接触するものである。試験結果は加締め力によって異なるが、評価のイヤリングはいずれも同一の加締め力にて加締めたものである。
【0016】評価の結果、従来のイヤリングの繰り返し開閉回数(指数)を100とした。この場合、接触摩擦を受ける取付脚部3、4と基部5は摩耗が激しく、殆ど耳たぶへの挟着力はなくなっている。一方、本発明のイヤリングはいずれも200(指数)以上であっても耳たぶへの挟着力は十分保持され、取付脚部3、4と基部5の摩耗も殆どなかった。」

図4の記載から、次の事項が窺える。
(1-6)挟着部材2と取付脚部4とが連なる部分に、挟着部材2及び取付脚部4より大きい径の円が記載され、当該円の中心の位置にピン8が記載されていること。
図5の記載から、次の事項が窺える。
(1-7)挟着部材2は、貫通孔7近傍から、略一定の幅で右方向に延びる部分(以下、「挟着部材2の第1部分」という。)と略一定の幅で左斜め上方向に延びる部分(以下、「挟着部材2の第2部分」という。)とを有し、また、挟着部材2の第1部分と第2部分とは、貫通孔7を中心とする円形状部分を介して配置されていること。
(1-8)取付脚部4は、貫通孔6近傍から、略一定の幅で左方向に延びる部分を有するとともに、貫通孔6を中心とする円形状部分を有するものであること。
(1-9)取付脚部3は、取付脚部4の奥側に並んで配置されるとともにその左方向に延びる部分は取付脚部4の左方向に延びる部分と一体となるものであること。
(1-10)貫通孔7から一方のワッシャ9の中心を通り貫通孔6に至る一点鎖線と、貫通孔7から他方のワッシャ9の中心を通り取付脚部3の右端部分に至る一点鎖線とが描かれていること。
(1-11)ピン8が右下から左上方向に延びる向きで配置されると共に、その延長上に貫通孔6が配置されていること。

(2)記載事項(1-4)の「図4は本発明のイヤリングの第2例の側面図、図5はその分解図である。この例の場合も主装飾体1より伸びた一対の取付脚部3、4が一体に備えられ、これと対向して挟着部材2には前記取付脚部3、4間に嵌り合う基部5が一体に形成されている。」との記載から、イヤリングは、主装飾体1に一対の取付脚部3、4を形成し、挟着部材2に基部5を形成しているといえる。
記載事項(1-4)の「厚さ0.15mmのステンレス製のワッシャ9」との記載、記載事項(1-5)の「本発明のイヤリングは・・・、取付脚部3、4と基部5の摩耗も殆どなかった。」との記載及びステンレス自体が弾性を有することは明らかであることを併せてみて、ワッシャ9は、弾性を有する平滑な円形金属板材といえる。
そして、ワッシャ9が弾性を有する平滑な円形金属板材であることと、記載事項(1-4)の「取付脚部3、4と基部5との間に両者の部材K-18よりも硬度の高い厚さ0.15mmのステンレス製のワッシャ9を介して加締めたものである。」との記載とを併せてみて、イヤリングは、取付脚部3と基部5との間及び取付脚部4と基部5との間にそれぞれ弾性を有する平滑な円形金属板材を介装してこれらを軸着し、前記円形金属板材とともに該軸部を加締めているといえる。

(3)以上から、甲第1号証には次の発明(以下、「甲第1号証発明」という。)が記載されている。
「主装飾体1に一対の取付脚部3、4を形成し、挟着部材2に基部5を形成するとともに、取付脚部3と基部5との間及び取付脚部4と基部5との間にそれぞれ弾性を有する平滑な円形金属板材(ワッシャ9)を介装してこれらを軸着し、前記円形金属板材(ワッシャ9)とともに該軸部を加締めてなるイヤリング。」

2 本件発明1について
(1)対比
甲第1号証発明と本件発明1とを対比する。
両者はいずれも「イヤリング」に関するものであって、甲第1号証発明の「主装飾体1」、「挟着部材2」、「取付脚部3、4」、「基部5」、「円形金属板材」は、それぞれその構造または機能からみて、本件発明1の「主装飾体」、「挟着部材」、「一対の取付脚部」、「取付基部」、「円形金属板材(ワッシャ9)」に相当する。
甲第1号証発明の「主装飾体1に一対の取付脚部3、4を形成し、挟着部材2に基部5を形成する」は、本件発明1の「一方の主装飾体と他方の挟着部材とに一対の取付脚部と取付基部とを形成する」に相当する。
甲第1号証発明の「取付脚部3と基部5との間及び取付脚部4と基部5との間にそれぞれ弾性を有する平滑な円形金属板材(ワッシャ9)を介装してこれらを軸着し」は、本件発明1の「一対の取付脚部と取付基部との間に1枚もしくは2枚の弾性を有する平滑な円形金属板材を介装してこれらを軸着し」に相当する。
甲第1号証発明の「円形金属板材(ワッシャ9)とともに該軸部を加締めてなる」は、本件発明1の「円形金属板材とともに該軸部を加締めてなる」に相当する。

以上から、両者は、
「一方の主装飾体と他方の挟着部材とに一対の取付脚部と取付基部とを形成するとともに、前記一対の取付脚部と取付基部との間に1枚もしくは2枚の弾性を有する平滑な円形金属板材を介装してこれらを軸着し、前記円形金属板材とともに該軸部を加締めてなるイヤリング」である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
取付基部について、本件発明1は「前記取付基部は前記円形金属板材の直径よりも細い幅に形成されて」いるとの発明特定事項を有するのに対し、甲第1号証発明は、そのような発明特定事項を有しているかどうか不明な点。
(相違点2)
円形金属板材と取付基部との関係について、本件発明1は「一方の主装飾体と他方の挟着部材とにそれぞれ形成された取付脚部と取付基部とが相対的に回動する際、前記円形金属板材は前記取付基部との当接部分に掛かる負荷で前記取付基部の幅方向の端縁との交差部分が内向きにたわみ、該たわみ部分が前記取付基部の前記端縁との間で係合する」との発明特定事項を有するのに対し、甲第1号証発明は、そのような発明特定事項を有しているかどうか不明な点。

(2)判断
(相違点1について)
最初に、甲第1号証に、取付基部と円形金属板材(ワッシャ9)の外径との関係についての記載もしくは示唆があるかどうかについてみる。
記載事項(1-4)及び(1-5)には、イヤリングの開閉の際の、取付脚部3と基部5とが直接接触することによりこれら取付脚部3、取付脚部4及び基部5が摩耗してしまうことを防ぐために、硬度が取付脚部3、4及び基部5の硬度より高いワッシャ9を、基部取付脚部3と基部5との間、及び取付脚部4と基部5との間に介在させることが記載されているにすぎず、取付基部(基部5)を円形金属板材(ワッシャ9)の外径より細い幅に形成することについては記載されていない。
第4図及び第5図には、図示内容(1-6)?(1-11)の記載が認められるにすぎず、取付基部の幅と円形金属板材(ワッシャ9)の外径との関係については記載されているとはいえない。
また、記載事項(1-4)及び(1-5)の記載と、図示内容(1-6)?(1-11)の記載とを併せて検討しても、取付脚部3の円形状部分と挟着部材2の円形状部分との間、及び、取付脚部4の円形状部分と挟着部材2の円形状部分との間に、それぞれこれらより硬度の高い円形金属板材(ワッシャ9)を介在すると共に、これらをピン8により軸着することが認められるにすぎず、取付基部を円形金属板材(ワッシャ9)の外径より細い幅に形成することについての記載もしくは示唆がされているとはいえない。
この点について、請求人らは、「同号証(審決注:甲第1号証のこと。)の第5図(・・・)にて、ワッシャの直径が取付基部の幅よりやや外方へ突出している点を窺い知ることができる」(審判請求書4頁、陳述要領書3頁)、「甲1図4の側面図を参酌すれば、取付基部の幅よりも大径のワッシャが開示されていることは更に明らかである。同図は側面図であるから寸法関係は正確に把握することができるところ、同図に開示されたイヤリングでは、取付基部の幅の略2倍に形成されたワッシャが設けられている点を窺い知ることができる」(上申書2頁)と主張している。
しかしながら、仮に、請求人らの主張するとおり、第4図及び第5図における貫通孔7を中心とする円形状部分がワッシャ9を表しているとしても、挟着部材2のワッシャ9に当接している部分がどのような形状であるか不明であり、取付基部の幅と円形金属板材(ワッシャ9)の外径との関係を特定することができないから、請求人らの当該主張は理由がない。
さらに、甲第1号証のその余の記載をみても、取付基部と円形金属板材(ワッシャ9)の外径との関係についての記載はない。
よって、甲第1号証には、取付基部と円形金属板材(ワッシャ9)の外径との関係についての記載も示唆もあるとすることはできない。

次に、甲第1号証発明の取付基部について、「取付基部は前記円形金属板材の直径よりも細い幅に形成されて」いるものとすることが単なる設計事項であるといえないことは明らかである。

以上のとおりであるから、甲第1号証の記載に基づき、甲第1号証発明の取付基部について、「取付基部は前記円形金属板材の直径よりも細い幅に形成されて」いるものとすることは当業者が容易になし得るものであるとすることはできない。

(3)小括
以上のとおりであるから、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証から当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

3 本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1の構成をその構成の一部とするものであるから、上記した「本件発明1について」と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

4 小括
請求人らの主張する無効理由1により、本件発明1?4についての特許を無効とすることはできない。

B 無効理由2について
1 本件発明1について
(1)請求人らは、「本件発明1の技術的特徴である円形金属板材の変形態様は、以下のように解するのが自然である。
(A)円形金属板材は、取付脚部と取付基部との非相対回動時には、平滑であること。
(B)取付脚部と取付基部との相対回動時に、円形金属板材が内向きにたわみ、取付基部の端縁が円形金属板材に係合すること。
一方、被請求人は、・・・円形金属板材の変化態様について下記趣旨の主張を行っている・・・。
(A’)円形金属板材は、取付脚部と取付基部との相対回動時又は非相対回動時に係らず、内向きにたわんでいること。
(B’)取付脚部と取付基部との相対回動時には、取付基部の端縁がたわんだ円形金属板材に係合すること。
・・・
仮に、被請求人の主張するような文言解釈が成り立つ場合には、本件発明1は、構成要件E(審決注:請求項1の「一方の主装飾体と他方の挟着部材とにそれぞれ形成された取付脚部と取付基部とが相対的に回動する際、前記円形金属板材は前記取付基部との当接部分に掛かる負荷で前記取付基部の幅方向の端縁との交差部分が内向きにたわみ、」のこと。)、特に、円形金属板材の変形態様が多義的に解釈可能であるから、発明の内容が不明確であることは免れない。」(審判請求書7?9頁、陳述要領書3?4頁)と主張しているので、その点について検討する。

(a)請求項1には、円形金属板材について「前記取付基部は前記円形金属板材の直径よりも細い幅に形成されており、一方の主装飾体と他方の挟着部材とにそれぞれ形成された取付脚部と取付基部とが相対的に回動する際、前記円形金属板材は前記取付基部との当接部分に掛かる負荷で前記取付基部の幅方向の端縁との交差部分が内向きにたわみ、該たわみ部分が前記取付基部の前記端縁との間で係合するようにした」と記載されている。
すなわち、請求項1には、発明を特定するために必要な事項として、取付脚部と取付基部とが相対的に回動する際の円形金属板材について内向きにたわむことのみが記載され、取付脚部と取付基部との非相対回動時の円形金属板材については記載されていない。

(b)発明の詳細な説明には、円形金属板材について、「【0008】
この発明のイヤリングは従来のイヤリングの前記欠点を改良するものであって、・・・一方の主装飾体と他方の挟着部材とにそれぞれ形成された取付脚部と取付基部とが相対的に回動する際、前記円形金属板材にかかる負荷が前記取付基部の幅方向の端縁との交差部分にかかって大きな挟着力が得られ、長い期間の使用に耐えられるイヤリングを提供しようとするものである。」、「【0013】
以上のようにこの発明においては、・・・一方の主装飾体と他方の挟着部材とにそれぞれ形成された取付脚部と取付基部とが相対的に回動する際、前記円形金属板材にかかる負荷が前記取付基部の幅方向の端縁との交差部分にかかるようにしたものである。」、「【0014】
この発明におけるイヤリングが、耳たぶへの挟着力が従来に比して飛躍的に高まり、しかもその挟着力が長期間一定に保持されることとなるという機能については、前記円形金属板材にかかる負荷が前記取付基部の幅方向の端縁との交差部分に作用して円形金属板材がたわむことに起因する円形金属板材の弾性が微妙に作用し、そのような顕著な効果を奏することができるようになったものと考えられる。」、「【0019】
この実施例においては、・・・そして、一方の主装飾体1と他方の挟着部材2とにそれぞれ形成された取付脚部3,4と取付基部5とが相対的に回動する際、前記円形金属板材9にかかる負荷が前記取付基部5の幅方向の端縁12との交差部分にかかるようにしてある。」、「【0022】
この実施例におけるイヤリングが、耳たぶへの挟着力が従来に比して飛躍的に高まり、しかもその挟着力が長期間一定に保持されることとなるという機能については、軸部を締めた際に、円形金属板材9に前記取付基部5の幅方向の端縁12との交差部分において、1枚もしくは2枚の円形金属板材9がたわんで係合することに起因する円形金属板材9の弾性が微妙に作用し、そのような顕著な効果を奏することができるようになったものと考えられる。・・・」、「【0024】
この発明は以上の通り、・・・一方の主装飾体と他方の挟着部材とにそれぞれ形成された取付脚部と取付基部とが相対的に回動する際、前記円形金属板材にかかる負荷が前記取付基部の幅方向の端縁との交差部分にかかるようにしたものである。」と記載されている。
したがって、発明の詳細な説明には、取付脚部と取付基部とが相対的に回動する際のみならず非相対回動時においても円形金属板材がたわんでいることが記載されており、取付脚部と取付基部との非相対回動時の円形金属板材が平滑であることについては記載されていない。

(c)以上のとおり、特許請求の範囲の記載においても、また、当該記載について発明の詳細な説明の記載を参酌しても、本件発明1は、円形金属板材に関して「一方の主装飾体と他方の挟着部材とにそれぞれ形成された取付脚部と取付基部とが相対的に回動する際、前記円形金属板材は前記取付基部との当接部分に掛かる負荷で前記取付基部の幅方向の端縁との交差部分が内向きにたわ」むことを発明を特定するために必要な事項とし、取付脚部と取付基部との非相対回動時の円形金属板材が平滑であることを発明を特定するために必要な事項とするものではない。

(d)したがって、請求人らの、取付脚部と取付基部についての非相対回動時における円形金属板材の形状が平滑であるかどうかに着目し、その形状を前提として、円形金属板材の変形態様が多義的に解釈可能であるから、発明の内容が不明確であるとの主張は、その前提において理由がない。

(2)次に、請求人らは、「被請求人の上記主張のように本件発明1の円形金属板材をたわませる構成、例えば・・・凹部を取付脚部の内側面に設けて、・・・軸部を加締めることで凹部の側面で円形金属板材の周縁部分を内向きにたわませる等の具体的構成が欠落しており、円形金属板材がどのような作用を受けてたわむのか不明確であるから、発明の内容が明確でないことは明らかである。」(審判請求書9?10頁、陳述要領書4?5頁)と主張しているので、この点について検討する。

本件発明1は、特許請求の範囲の記載からみて、「一対の取付脚部と取付基部との間に1枚もしくは2枚の弾性を有する平滑な円形金属板材を介装してこれらを軸着し、前記円形金属板材とともに該軸部を加締め」ることと、「前記取付基部は前記円形金属板材の直径よりも細い幅に形成されて」いることとを発明を特定するために必要な事項とするものである。
一方、「一対の取付脚部と取付基部との間に1枚もしくは2枚の弾性を有する平滑な円形金属板材を介装してこれらを軸着し、前記円形金属板材とともに該軸部を加締め」るにあたり、「前記取付基部は前記円形金属板材の直径よりも細い幅に形成されて」いるので、円形金属板材は取付基部との当接部分に加締めにより負荷が掛かり、取付基部の幅方向の端縁との交差部分が内向きにたわむことは技術常識である。
しかも、本件明細書には、「【0022】
・・・軸部を締めた際に、円形金属板材9に前記取付基部5の幅方向の端縁12との交差部分において、1枚もしくは2枚の円形金属板材9がたわんで係合する」と記載されているから、実質的に上記した「円形金属板材は取付基部との当接部分に加締めにより負荷が掛かり、取付基部の幅方向の端縁との交差部分が内向きにたわむこと」が記載されている。

以上から、請求人らの主張する円形金属板材をたわませる構成について、請求項1の記載から特定することができるものであり、仮に、請求項1の記載のみから特定することができないとしても、発明の詳細な説明の記載を参酌することにより特定することができるものである。
よって、本件発明1は明確であって、請求人らの当該主張も理由がない。

2 本件発明2?4について
請求人らは、「本件発明2?4は、本件発明1を引用するものであり、本件発明1が上述した不明確点を有しているのであるから、本件発明2?4の内容も不明確である」(審判請求書10?11頁)と主張している。
しかしながら、請求人らの当該主張は、本件発明1が不明確であるとの主張を前提とするものであるところ、上記1に記載したとおり、その主張はいずれも理由がないから、請求人らの本件発明2?4についての上記主張はその前提において理由がない。

3 小括
以上のとおりであるから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たすものである。

V まとめ
以上のとおりであるから、請求人らの主張する理由及び提出した証拠方法によっては本件発明1?4についての特許を無効にすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人らが負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-08-06 
結審通知日 2013-08-08 
審決日 2013-08-22 
出願番号 特願2009-231059(P2009-231059)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (A44C)
P 1 113・ 537- Y (A44C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 誠  
特許庁審判長 高木 彰
特許庁審判官 関谷 一夫
蓮井 雅之
登録日 2010-09-24 
登録番号 特許第4592116号(P4592116)
発明の名称 クリップ式イヤリング  
代理人 林 孝吉  
代理人 林 孝吉  
代理人 清水 貴光  
代理人 清水 貴光  
代理人 土橋 博司  

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