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審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  B01D
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B01D
審判 全部無効 1項2号公然実施  B01D
管理番号 1280220
審判番号 無効2009-800070  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-03-30 
確定日 2013-08-19 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3561899号「換気扇フィルター及びその製造方法」の特許無効審判事件についてされた平成24年6月22日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成24年(行ケ)第10278号 平成25年3月6日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3561899号は、平成12年7月10日に特許出願され、平成16年6月11日にその設定登録がなされたもので、その後の無効審判における手続は次のとおりである。
審判請求 平成21年3月30日
答弁書の提出 平成21年6月22日
口頭審理陳述要領書の提出(請求人) 平成21年11月17日
口頭審理陳述要領書の提出(1)(2)(被請求人)
平成21年11月17日
口頭審理(特許庁審判廷) 平成21年11月17日
上申書の提出(請求人) 平成21年11月30日
上申書の提出(被請求人) 平成21年12月7日
無効審決 平成22年1月25日
知財高裁への出訴(被請求人)(平成22年(行ケ)第10075号)
平成22年3月4日
判決(審決取消) 平成23年1月31日
上告申立て 平成23年2月16日
上告申立ての却下 平成23年7月5日
無効理由通知(起案日) 平成23年8月23日
意見書の提出(被請求人) 平成23年9月20日
意見書の提出(請求人) 平成23年9月26日
無効審決 平成23年12月7日
知財高裁への出訴(被請求人)(平成24年(行ケ)第10010号)
平成24年1月13日
訂正審判(被請求人) 平成24年1月18日
決定(差戻し) 平成24年2月22日
特許法第134条の3第2項の規定に基く通知書
平成24年3月 2日
無効審決 平成24年6月22日
知財高裁への出訴(被請求人)(平成24年(行ケ)10278号)
平成24年7月28日
判決(審決取消) 平成25年3月 6日

第2 訂正の適否について
被請求人に対して特許法第134条の3第2項の規定に基づく平成24年3月2日付けの通知書を通知したところ、指定された期間内に訂正の請求はなされなかったので、同法第134条の3第5項の規定により、同年1月18日に請求された訂正審判の請求書(訂正2012-390003号)に添付された明細書を援用し、無効審判(無効2009-800070号)の「訂正の請求」とみなす。

1 訂正の内容
(1)訂正事項a
請求項1に記載された「金属製フィルター枠と、該金属製フィルター枠に設けられた開口を覆って、該金属製フィルター枠に接着されている不織布製フィルター材とよりなる換気扇フィルターにおいて、」を「金属製フィルター枠と、該金属製フィルター枠に設けられた開口を覆って、該金属製フィルター枠に接着されている不織布製フィルター材とよりなる換気扇フィルターであって、該不織布製フィルター材が汚れた場合、該不織布製フィルター材と共に該金属製フィルター枠を廃棄して新しい換気扇フィルターと交換するタイプの換気扇フィルターにおいて、」と訂正する(下線部は訂正箇所を示す。以下、同様。)。

(2)訂正事項b
請求項3に記載された「金属製フィルター枠に設けられた開口を覆って、該金属製フィルター枠に不織布製フィルター材を接着して換気扇フィルターを製造する方法において、」を「金属製フィルター枠に設けられた開口を覆って、該金属製フィルター枠に不織布製フィルター材を接着して請求項1記載の換気扇フィルターを製造する方法において、」と訂正する。

(3)訂正事項c
本件明細書の「【0006】・・・本発明者は、金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とを強固に接着せしめる一方、」を「【0006】・・・本発明者は、後者のタイプの換気扇フィルターにおいて、金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とを強固に接着せしめる一方、」とし、
本件明細書の「【0007】・・・とよりなる換気扇フィルターにおいて、該金属製フィルター枠と該不織布製フィルター材とは、・・・」を「【0007】・・・とよりなる換気扇フィルターであって、該不織布製フィルター材が汚れた場合、該不織布製フィルター材と共に該金属製フィルター枠を廃棄して新しい換気扇フィルターと交換するタイプの換気扇フィルターにおいて、該金属製フィルター枠と該不織布製フィルター材とは、・・・」と訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、拡張・変更の存否
(1)訂正事項a、bについて
請求項1、3に記載された発明を特定するために必要な事項である「換気扇フィルター」について、「不織布製フィルター材が汚れた場合、不織布製フィルター材と共に該金属製フィルター枠を廃棄して新しい換気扇フィルターと交換するタイプ」であるという限定を付与するものであるので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、
そして、本件特許明細書には、
「【0003】
換気扇フィルターには、フィルター材を着脱自在にフィルター枠に係止するタイプのものと、フィルター材をフィルター枠に接着したタイプのものが知られている。前者は、フィルター材が汚れたら、フィルター材のみを交換するものである。後者は、フィルター材が汚れたら、フィルター枠共に廃棄し、新しい換気扇フィルターと交換するものである。後者は、フィルター材を係止する煩わしさがなく、手軽に交換しうるため、重宝されている。」
「【0017】
【発明の効果】
従って、本発明に係る換気扇フィルターを使用した後、廃棄する際に、この換気扇フィルターを水に浸漬すれば、金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とを手指で容易に剥離することができる。従って、金属と不織布とを分別廃棄することができるという効果を奏する。依って、金属は再利用することも可能であるし、金属は金属のみで廃棄処理し、不織布は不織布のみで廃棄処理することができ、省資源上或いは環境上、有益なものである。」との記載があることから、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でなされたものである。

(2)訂正事項cについて
訂正事項cは、訂正事項a、bによって訂正された特許請求の範囲の記載と、発明の詳細な説明の記載とを整合させるためのものであるので、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、そして、本件特許明細書には、上記訂正事項a、bと同じく【0003】【0017】の記載があることから、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でなされたものである。

(3)訂正の適否についてのむすび
以上のとおりであることから、上記訂正事項a、bは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でなされたものであり、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は、変更するものではなく、上記訂正事項cは、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でなされたものであり、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は、変更するものではない。
したがって、本件訂正は、平成24年改正前特許法第134条の2第1項ただし書き第1号及び第3号、並びに同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するので適法な訂正として、これを認める。

第3 本件発明
本件請求項1?4に係る発明(以下、それぞれを「本件発明1」?「本件発明4」といい、これらをまとめて「本件発明」ということがある。)は、特許法第134条の3第5項の規定により援用された、平成24年1月18日に請求された訂正審判の請求書(訂正2012-390003号)に添付された訂正明細書(以下、これを「本件特許明細書」と呼ぶ。)の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
金属製フィルター枠と、該金属製フィルター枠に設けられた開口を覆って、該金属製フィルター枠に接着されている不織布製フィルター材とよりなる換気扇フィルターであって、該不織布製フィルター材が汚れた場合、該不織布製フィルター材と共に該金属製フィルター枠を廃棄して新しい換気扇フィルターと交換するタイプの換気扇フィルターにおいて、該金属製フィルター枠と該不織布製フィルター材とは、皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤を用いて接着されていることを特徴とする換気扇フィルター。
【請求項2】
皮膜形成性重合体のガラス転移点が-10℃?+30℃である請求項1記載の換気扇フィルター。
【請求項3】
金属製フィルター枠に設けられた開口を覆って、該金属製フィルター枠に不織布製フィルター材を接着して請求項1記載の換気扇フィルターを製造する方法において、該金属製フィルター枠に設けられた開口縁部及び/又は桟部の面に、皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤を塗布し、次いで該塗布面に該不織布製フィルター材を押圧すると共に加熱して、該不織布製フィルター材を該開口縁部及び/又は該桟部に接着することを特徴とする換気扇フィルターの製造方法。
【請求項4】
皮膜形成性重合体のガラス転移点が-10℃?+30℃である請求項3記載の換気扇フィルターの製造方法。」

第4 当事者の主張
1 請求人の主張
審判請求人は、審判請求書、平成21年11月17日付け口頭審理陳述要領書、平成21年11月30日付け上申書、平成23年9月26日付け意見書および証拠方法として下記の甲第1ないし38号証の書証を提出し、本件発明についての特許第3561899号の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、以下に示す無効理由により本件特許は無効にされるべきであると主張する。
(1)無効理由1
本件発明1?4は、(1)甲第1号証の1及び甲第2号証に記載された発明、及び甲第6号証に記載された事項又は周知技術に基づいて、(2)甲第1号証の2及び甲第2号証に記載された発明、及び甲第6号証に記載された事項又は周知技術に基づいて、あるいは(3)甲第1号証の1又は甲第1号証の2に記載された発明、及び甲第6号証に記載された事項又は周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(2)無効理由2
本件発明1?4は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しない。
したがって、その特許は特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
(3)無効理由3
本件特許明細書は、特許法第36条第4項第1号の規定に適合しない。
したがって、その特許は特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
(4)無効理由4
本件発明1、2は、職権審理による無効理由通知で引用した引用例1及び本件出願前周知の事項により当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本件発明3、4は、引用例1、引用例2の記載及び本件出願前周知の事項により当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

<審判請求書>
・甲第1号証の1:実願昭58-136320号
(実開昭60-43929号)のマイクロフィルム
・甲第1号証の2:実願平4-78617号
(実開平6-35842号)のCD-ROM
・甲第2号証:特開平7-188632号公報
・甲第3号証:特開平7-228786号公報
・甲第4号証:特開平1-152056号公報
・甲第5号証:特開平7-62007号公報
・甲第6号証:特開平10-77455号公報
・甲第7号証:特開平11-181394号公報
・甲第8号証:特開2000-212533号公報
・甲第9号証:特開平11-106733号公報
・甲第10号証:特開平11-129645号公報
・甲第11号証:特開昭51-48408号公報
・甲第12号証:特開平6-271642号公報
・甲第13号証:特開平6-17025号公報
・甲第14号証:特開平7-25916号公報
・甲第15号証:特開平8-199128号公報
・甲第16号証:特開平10-245537号公報
・甲第17号証:特開平6-80948号公報
<口頭審理陳述要領書>
・甲第18号証:登録実用新案第3022380号公報
・甲第19号証:特開平11-325528号公報
・甲第20号証:特開昭57-57765号公報
・甲第21号証:特開昭61-7371号公報
・甲第22号証:特開平8-231936号公報
・甲第23号証:実願平4-2709号
(実開平5-64637号)のCD-ROM
・甲第24号証:特開2000-126523号公報
・甲第25号証:特開2000-27071号公報
・甲第26号証:特開平8-325307号公報
・甲第27号証:「化学大辞典」1989年10月20日
株式会社東京化学同人 1267頁
・甲第28号証:「化学大辞典5」昭和36年4月15日
共立出版株式会社 360?361頁
<上申書>
・甲第29号証:「最新ラミネート加工便覧」1989年6月30日
加工技術研究会 75?92頁
・甲第30号証:実公平5-37148号公報
<意見書>
・甲第31号証:特開平11-193305号公報
・甲第32号証:特開平9-12999号公報
・甲第33号証:特開平11-80485号公報
・甲第34号証:実開平5-67311号公報
・甲第35号証:特開平8-110075号公報
・甲第36号証:特開平8-272295号公報
・甲第37号証:特開平10-43528号公報
・甲第38号証:実用新案登録第2564298号公報
<無効理由通知>
・引用例1:特開平11-197428号公報
・引用例2:実願昭58-136320号
(実開昭60-43929号)のマイクロフィルム

2 被請求人の反論
被請求人は、答弁書、平成21年11月17日付け口頭審理陳述要領書(1)(2)、平成21年12月7日付け上申書、平成23年9月20日付け意見書および証拠方法として下記の乙第1ないし8号証の書証を提出し、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、本件発明の特許は上記無効理由1?4によっては無効とすることができないと主張する。
<答弁書>
・乙第1号証:特開2000-279721号公報
・乙第2号証:実願平5-60805号
(実開平7-31119号)のCD-ROM
・乙第3号証:特開平7-190434号公報
<口頭審理陳述要領書(2)>
・乙第4号証:中前勝彦他著「接着・粘着の化学と応用」
1998年2月5日 大日本図書株式会社 100?103頁

<上申書>
・乙第5号証:特許メモ(平成16年5月12日)
・乙第6号証:特開平5-51569号公報
<意見書>
・乙第7号証:平成22年(行ケ)第10075号審決取消請求事件の判決書
・乙第8号証:昭和63年(行ツ)第10号審決取消請求事件の判決書

第5 当審の判断
1 無効理由1について
1-1 刊行物の記載について
(1)甲第1号証の1(実願昭58-136320号(実開昭60-43929号)のマイクロフィルム)には、以下の事項が記載されている。
(ア)「レンジフードの開口部周縁への取付座となるフィルターカバーの鍔部の内周縁に立上り壁をそなえるとともに、該立上り壁の下端に格子状部を有するカバーを金属箔をもって、一体に形成し、該格子状部には難燃性乃至不燃性のフィルターを装着するとともに鍔部にはレンジフードへの吸着用マグネットを取付けたことを特徴とするレンジフード用フィルターカバー。」(実用新案登録請求の範囲)
(イ)「以下本考案を図面に示す実施例について説明する。
・・・フードAは磁性を有する鋼板をもって形成され・・・
・・・
フィルターカバーBはアルミ箔製で、鍔部2を有し、・・・立上り壁3を具備し、・・・格子状枠4を有しており、鍔部2、立上り壁3、格子状枠4は一体に形成されている。・・・格子状枠4はフィルター5を装着するもので、フィルター5は接着剤を使用して格子状枠の内面側に装着される。フィルター5は防火上難燃性または不燃性の不織布で形成される。
・・・
・・・しかも鍔部に吸着用マグネットを設けるので、フードへの着脱もいたって容易であるとともに薄肉なアルミ箔をもって形成でき、安易に提供できるので使い捨て方式のフィルターカバーとして有効なものである。」(2頁16行?5頁6行)

(2)甲第1号証の2(実願平4-78617号(実開平6-35842号)のCD-ROM)には、以下の事項が記載されている。
(カ)「【請求項1】 フレームがアルミニウムシートで形成された長方形のフィルターカバーが短辺方向に一半フィルターカバーと他半フィルターカバーとに2分割され、両フィルターカバーの長辺方向の端縁にそれぞれ嵌合溝が形成されて一半フィルターカバーと他半フィルターカバーとがこの嵌合溝に沿って重ね合わされ、一半フィルターカバーと他半フィルターカバーとの分割端部の両側にそれぞれ舌片が設けられて下側に位置する一半フィルターカバーの舌片が上側に位置する他半フィルターカバーの端縁上部に折り曲げられ、上部に位置する他半フィルターカバーの舌片が下側に位置する一半フィルターカバーの端縁下部に折り曲げられて一半フィルターカバーと他半フィルターカバーとがその長辺方向に伸縮自在に構成されていることを特徴とする換気装置用フィルターカバー。」(実用新案登録請求の範囲の請求項1)
(キ)「本考案は、レンジフードや換気扇等の換気装置用のフィルターカバーに関するものである。」(段落【0001】)
(ク)「図1における(7)は薄い不織布フィルターであって、このフィルター(7)は一半フィルターカバー(1)と他半フィルターカバー(2)のそれぞれの裏面に接着剤でもって接合され、また両フィルターカバー(1)(2)の外端部にはレンジフードに止着するための磁石片(8)(9)が設けられている。」(段落【0010】)

1-2 本件発明1について
1-2-1 甲第1号証の1を主の引用例とした場合
(1)甲1-1発明
甲第1号証の1の記載事項(ア)には、「レンジフードの開口部周縁への取付座となるフィルターカバーの鍔部の内周縁に立上り壁をそなえるとともに、該立上り壁の下端に格子状部を有するカバーを金属箔をもって、一体に形成し、該格子状部には難燃性乃至不燃性のフィルターを装着するとともに鍔部にはレンジフードへの吸着用マグネットを取付けた・・・レンジフード用フィルターカバー」が記載されている。
また、同(イ)の記載によれば、「鍔部2、立上り壁3、及び格子状枠4は一体に形成され」、「難燃性または不燃性の不織布」で形成されたフィルター5は、「接着剤を使用して格子状枠の内面側に装着」されている。
そこで、上記の検討を踏まえ、上記(ア)及び(イ)の記載事項を本件発明1の記載ぶりに則して整理して記載すると、甲第1号証の1には、
「金属箔をもって一体に形成された、レンジフードの開口部周縁への取付座となるフィルターカバーの鍔部と、この鍔部の内周縁に立上り壁と、該立上り壁の下端に格子状部と、該格子状部に接着剤によって装着されている難燃性乃至不燃性の不織布フィルターとからなる使い捨て方式のレンジフード用フィルターカバー。」の発明(以下、「甲1-1発明」という。)が記載されている。

(2)対比
次に、本件発明1と甲1-1発明とを対比する。
本件特許明細書の段落【0008】には、「本発明で用いる・・・金属製フィルター枠の形状は、従来公知の形状であれば、どのような形状であっても良い。例えば、図1に示したフィルター枠1は、その一例であり、基本的には、換気扇の基板と当接しうる鍔部5と、換気扇の出っ張りをカバーしうる膨出部6と、空気が流通しうる開口7とを具えたものである。また、開口7の周囲には開口縁部3が設けられていることも多く、開口7中に桟部4が設けられていることも多い。」と記載されているから、本件発明1に係る「金属製フィルター枠」は、鍔部、膨出部及び桟部が設けられた開口を有しているものを含むといえる。
そうすると、甲1-1発明の「金属箔をもって一体に形成された、レンジフードの開口部周縁への取付座となるフィルターカバーの鍔部と、この鍔部の内周縁に立上り壁と、該立上り壁の下端に格子状部」は、本件発明1の「金属製フィルター枠」に相当する。
また、甲1-1発明の「該格子状部に接着剤によって装着されている難燃性乃至不燃性の不織布フィルター」は、本件発明1の「金属製フィルター枠に設けられた開口を覆って、該金属製フィルター枠に接着されている不織布製フィルター材」に相当する。
また、本件特許明細書の段落【0001】には、「本発明で言う換気扇フィルターとは、換気扇に取り付けられるものを意味しており、例えば、レンジフードフィルターをも包含するものである。」と記載されているから、本件発明1の「換気扇フィルター」には、レンジフードフィルターが含まれる。そうすると、甲1-1発明の「レンジフード用フィルターカバー」は、本件発明1の「換気扇フィルター」に相当する。
また、甲1-1発明の「使い捨て方式」は、本願発明1の「不織布製フィルター材が汚れた場合、該不織布製フィルター材と共に該金属製フィルター枠を廃棄して新しい換気扇フィルターと交換するタイプ」に相当する。
そこで、上記の検討を踏まえて、本件発明1と甲1-1発明とを対比すると、両発明は、「金属製フィルター枠と、該金属製フィルター枠に設けられた開口を覆って、該金属製フィルター枠に接着されている不織布製フィルター材とよりなる換気扇フィルターであって、該不織布製フィルター材が汚れた場合、該不織布製フィルター材と共に該金属製フィルター枠を廃棄して新しい換気扇フィルターと交換するタイプの換気扇フィルターにおいて、該金属製フィルター枠と該不織布製フィルター材とは、接着剤を用いて接着されている換気扇フィルター」である点で一致し、次の点で相違している。
・相違点A:接着剤につき、本件発明1では、「皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤」を用いているのに対し、甲1-1発明では、かかる接着剤を用いていない点。

(3)判断
平成22年(行ケ)第10075号判決において、次のとおり判示されるように、甲1-1発明において、相違点Aにかかる本件発明1の構成を採用することは、当業者において容易に想到するものでない。
「本件発明1は、「金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とが接着剤で接着されている換気扇フィルターにおいて、通常の状態では強固に接着されているが、使用後は容易に両者を分別し得るようにして、素材毎に分別して廃棄することを可能とすること」を解決課題とし、「(換気扇フィルターにおいて)、通常の状態では強固に接着させるが、水に浸漬すれば接着力が低下し、容易に金属製フィルター枠と不織布製フィルター材を分別し得る被膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤を用いること」を解決手段とした発明である。
これに対して、前記認定のとおり、審決が文献から引用した発明A(審決注:本審決における甲1-1発明)は、・・・であって、「金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とが接着剤で接着されている換気扇フィルターにおいて、通常の状態では強固に接着されているが、使用後は容易に両者を分別し得るようにして、素材毎に分別して廃棄することを可能とすること」を解決課題として、これに対する解決課題を示した本件発明1とは異なる。甲1(審決注:本審決における甲1-1)には、本件発明1が目的としている解決課題及び解決手段に関連した記載又は開示等はないのみならず、逆に、フィルターをフィルターカバーから剥離せずに廃棄することを前提とした発明であることが示されている。」(判決書第27頁下から8行?第28頁14行)
「しかし、前記のとおり、甲18、19及び32等の例によっても、「金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とが接着剤で接着されている換気扇フィルターにおいて、通常の状態では強固に接着されているが、使用後は容易に両者を分別し得ることを容易化すること」との解決課題を設けることが示されていない以上、当業者において、発明Aに、甲2記載の発明を適用することによって、本件発明1における発明Aとの異なる構成に想到することが容易であったとすることもできない。」(判決文第30頁下から5行?第31頁2行)
なお、請求人が提出した甲3?38号証(甲18、19及び32を除く)を検討しても、発明A(本審決における甲1-1発明)に、甲2記載の発明を適用することが容易であったとすることはできない。
したがって、甲1-1発明において、相違点Aにかかる本件発明1の構成を採用することは、当業者において容易に想到するものでない。

1-2-2 甲第1号証の2を主の引用例とした場合
(1)甲1-2発明
甲第1号証の2には、「フレームがアルミニウムシートで形成され」、「一半フィルターカバーと他半フィルターカバーとに2分割され、・・・一半フィルターカバーと他半フィルターカバーとがその長辺方向に伸縮自在に構成されている換気装置用フィルターカバー」(記載事項(カ))が記載されている。これは、同(キ)の記載によれば、「レンジフードや換気扇等の換気装置用のフィルターカバー」であり、同(ク)の記載によれば、「一半フィルターカバーと他半フィルターカバーのそれぞれの裏面に接着剤で不織布フィルターが接合」されている。
そこで、上記(カ)?(ク)の記載事項を本件発明1の記載ぶりに則して整理すると、甲第1号証の2には、「フレームがアルミニウムシートで形成された一半フィルターカバーと他半フィルターカバーとからなり、それぞれのフィルターカバーには接着剤で不織布フィルターが接合されている換気扇等の換気装置用のフィルターカバー」の発明(以下「甲1-2発明」という。)が記載されている。

(2)対比
甲1-2発明における一半フィルターカバーと他半フィルターカバーはアルミニウム製であり、不織布フィルターを接合しているので、本件発明1の「金属製フィルター枠」に相当する。
また、甲1-2発明における不織布フィルターは、フィルターカバーの裏面に接着剤で接合されて換気扇のフィルターカバーを構成するので、本件発明1の不織布製フィルター材とは、「金属製フィルター枠に設けられた開口を覆って」、「金属製フィルター枠に接着されている」点で共通する。このため、甲1-2発明の不織布フィルターは、本件発明1の「不織布製フィルター材」に相当する。
また、甲1-2発明における換気装置用のフィルターカバーは、金属製フィルター枠と不織布製フィルターからなり、換気装置用のフィルターカバーなので、本件発明1の「換気扇フィルター」に相当する
したがって、本件発明1と甲1-2発明とは、
「金属製フィルター枠と、該金属製フィルター枠に設けられた開口を覆って、該金属製フィルター枠に接着されている不織布製フィルター材とよりなる換気扇フィルターにおいて、該金属製フィルター枠と該不織布製フィルター材とは、接着剤を用いて接着されている換気扇フィルター」である点で一致し、次の点で相違している。
相違点A:接着剤につき、本件発明1では、皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤を用いているのに対し、甲1-2発明では、かかる接着剤を用いているか明らかでない点。
相違点B:本件発明1は、「不織布製フィルター材が汚れた場合、該不織布製フィルター材と共に該金属製フィルター枠を廃棄して新しい換気扇フィルターと交換するタイプの換気扇フィルター」に関するものであるが、甲1-2発明では、この点が明らかではない点。

(3)判断
甲1-2発明では、記載事項(ク)によれば、使用する接着剤については「接着剤でもって接合され」と記載するのみであり、このため、「通常の状態では強固に接着されているが、使用後は容易に両者を分別し得るようにして、素材毎に分別して廃棄することを可能とすること」を解決課題として、これに対する解決課題を示した本件発明1とは異なる。
このため、甲1-2発明においても、甲1-1発明と同様に、「本件発明1が目的としている解決課題及び解決手段に関連した記載又は開示等はない発明」であるので、「甲2記載の発明を適用することによって、本件発明1における・・・構成に想到することが容易であった」とすることはできない。
したがって、本件発明1が甲1-1発明を主の引用例として、当業者が容易に発明をすることができないと判示されたと同様の理由により、甲1-2発明を主の引用例として、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

1-2-3 甲第1号証の1又は甲第1号証の2を主の引用例とした場合
甲1-1発明と甲1-2発明のいずれもが、不織布フィルターをフィルター枠に接着剤により接着させるものであるが、いずれも、本件発明1の使用後に素材毎に分別して廃棄することについて、記載も示唆もない。
このため、いずれを主の引用例としても、本件発明1は、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

1-3 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1について、さらに「皮膜形成性重合体のガラス転移点が-10℃?+30℃」という特定事項を付加したもので、本件発明1の下位概念にあたる発明である。
したがって、本件発明2の上位概念にあたる本件発明1が、甲1-1発明又は甲1-2発明から容易に発明できたとすることができない以上、本件第2発明も同様の理由により、甲1-1発明又は甲1-2発明から、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

1-4 本件第3発明について
1-4-1 甲第1号証の1を主の引用例とした場合
上記判決文によれば、「上記述べた理由は、本件発明2ないし4についても、同様に妥当する」(第31頁下から9号)ので、甲第1号証の1を主の引用例とした場合に、本件発明3は、甲第1号証の1に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

1-4-2 甲第1-2号証を主の引用例とした場合
本件発明1において検討したように、甲第1-2号証には、本件発明3が解決課題及び解決手段とする「金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とが接着剤で接着されている換気扇フィルターにおいて、通常の状態では強固に接着されているが,使用後は容易に両者を分別し得るようにして、素材毎に分別して廃棄することを可能とすること」に関して、関連した記載又は開示等はなし、これが周知であるとすることもできない。
このため、甲第1-2号証を主の引用例として、本件発明3を当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

1-4-3 甲第1-1号証又は甲第1-2号証を主の引用例とした場合
甲第1-1号証及び甲第1-2号証には、上記したように、いずれにも、本件発明3が解決課題及び解決手段とする事項について記載も示唆もない。 このため、本件発明3は、これらの証拠を主の引用例として、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

1-4 本件発明4について
本件発明4は、本件発明3について、さらに「皮膜形成性重合体のガラス転移点が-10℃?+30℃」という特定事項を付加したもので、本件発明3の下位概念にあたる発明である。
したがって、本件発明4の上位概念にあたる発明が、甲1-1発明又は甲1-2発明から容易に発明できたとすることができない以上、本件発明4も同様の理由により、甲1-1発明又は甲1-2発明から、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

1-5 小括
以上のとおりであるので、本件発明1?4は、甲第1号証の1又は甲第1号証の2を主の引用例とし、当業者が容易に発明をすることができたものではないので、無効理由1は理由がない。

2 無効理由2について
請求人は、本件発明で使用する「皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤」は、実質的にあらゆる種類の重合体成分を包含するものなので、本件発明の奏する効果について、本件特許明細書で裏付けられておらず、サポート要件に違反する旨を主張する(審判請求書第21頁)。
そこで、本件発明が発明の詳細な説明に記載されたものであるか、具体的には、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか、について検討する。
(1)本件発明の課題
本件発明の課題は、平成22年(行ケ)10075号で上記(第5、1、1-2、1-2-1(3)判断)のように判示されたとおり、「金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とが接着剤で接着されている換気扇フィルターにおいて、通常の状態では強固に接着されているが、使用後は容易に両者を分別し得るようにして、素材毎に分別して廃棄することを可能とすること」にある。

(2)発明の詳細な説明における課題解決の記載
発明の詳細な説明には、「皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤」について
「・・・これらの重合体は、水を分散媒として乳化分散しており、水性エマルジョンの形態となっている。この水性エマルジョンから水を蒸発させると、乳化分散している重合体粒子群が凝集し、皮膜を形成する。そして、この皮膜を形成する際、重合体の粘着力によって、接着作用が発現し、接着剤として機能するのである。」(段落【0011】)
「本発明に係る換気扇フィルターは、・・・。水性エマルジョン系接着剤から水が蒸発し、皮膜形成された重合体によって接着されてなるものである。このようにして皮膜形成された重合体は、水を付与すると、金属と不織布間の接着力を低下させるという作用を奏する。」(段落【0016】)
と記載されている。
これらの記載から、本件発明で使用する「皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤」は、水を分散媒として乳化重合している重合体を含み、水が蒸発すると分散していた重合体粒子群が凝集して被膜を形成し接着作用が発現するが、この皮膜形成した重合体に水を付与すると該重合体粒子群が再度分散して接着力が低下する特性を有するものと認められる。すなわち、発明の詳細な説明には、「皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤」について、「通常の状態では強固に接着させるが、水に浸漬すれば接着力が低下し、容易に金属製フィルター枠と不織布製フィルター材を分別し得る」接着剤として定義されているといえる。
本件発明は、このような接着剤を用いるものであり、その効果として次の記載がある。
「従って、本発明に係る換気扇フィルターを使用した後、廃棄する際に、この換気扇フィルターを水に浸漬すれば、金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とを手指で容易に剥離することができる。従って、金属と不織布とを分別廃棄することができるという効果を奏する。」(段落【0017】)
このように、発明の詳細な説明には、換気扇フィルターの金属製フィルター枠と不織布製フィルター材との接着剤として水性エマルジョン系接着剤を採用することにより、通常の状態では強固に接着されているが、使用後に水を付与することにより接着力が低下するので、金属製フィルター枠と不織布製フィルター剤とを簡単に剥離できることが記載されているということができる。
このため、発明の詳細な説明は、本件発明において「被膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤を用いること」を採用することにより、本件発明の課題が解決できると当業者は認識することができる範囲のものとして記載されているということができる。

(3)請求人の主張について
請求人は、「被膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤」のいずれもが、例外なく、水に浸漬すると接着力が低下して手指で剥離しうるようになるものではなく、「被膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤」であっても、耐水性・耐湿性を有するものは知られているとし、その証拠として、甲3、甲7及び甲8を例示する(請求人による口頭審理陳述要領書第11頁の「(7)答弁書の「第7.サポート要件違反について」)。
しかし、本件特許発明で使用する「皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤」は、上記のとおり、「通常の状態では強固に接着させるが、水に浸漬すれば接着力が低下し、容易に金属製フィルター枠と不織布製フィルター材を分別し得る」接着剤として定義されるものである。
とすると、本件発明で使用する「被膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤」として、甲3、甲7及び甲8に記載されているような水性エマルジョン系接着剤を使用することは、本件発明においては予定されていないとすることができる。
すなわち、甲3は、「・・・自己架橋型共重合体の水性分散液に関し、・・・繊維質基材・・・などの基材に対する接着力に優れ、・・・耐候性に優れた皮膜を形成することが可能で、・・・卓越した長所を有する共重合体の水性分散液に関する。」(段落【0001】)ものであり、塗装被膜耐水性は、「作成した試験片を20℃の水に1週間浸漬し、塗膜の外観及びブリスター発生の有無を次の基準に従って評価する」(段落【0097】)とし、実施例6の塗装被膜耐水性は全く問題がない「◎」と評価されている(段落【0110】の【表4】)。
同様に、甲7は、「ポリウレタン樹脂水分散体又は水溶液を主剤とする接着剤及びその接着剤を利用する技術に関し、特に金属箔を接着するためのフィルム用接着剤に関する。このようなフィルム用接着剤は、・・・通常、高温で、水あるいは水蒸気に晒される環境下でも十分な接着性を維持することが要求される場合が多い。」(段落【0001】)ものである。
そして、その接着力は、アルミニウムフィルムとポリプロピレンフィルムとを接着したラミネートフィルムにつき、測定温度20℃と、ボイル直後(100℃沸騰水中に30分間浸漬し、取出してすぐに20℃下で接着力を測定)の接着力の変化で評価でき(段落【0029】?【0032】)、実施例1及び2では、20℃での接着力(700及び690(g/15mm))は、ボイル直後に450及び440(g/15mm)に減少していることを確認することができる(段落【0033】の【表1】)。
また、甲8は、「下記の(A)及び(B)を含有し、その(A)/(B)の重量割合が・・・である接着剤組成物
(A)・・・エチレン-酢酸ビニル-多官能性モノマー系共重合体水性エマルジョン
(B):アニオン性ポリウレタン水性エマルジョン」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)であり
「本発明は、接着剤組成物に関するものである。更に詳しくは、・・・接着剤の基本性能である常態接着性、耐水接着性及び耐熱クリープ性に優れ、・・・優れた特徴を有する接着剤組成物に関するもの」(段落【0001】)である。
実施例では、当該接着剤によりラワン合板と塩化ビニルシートを接着し、その常態接着力(23℃での剥離試験)と耐水接着力(水に23℃下24時間浸漬した後濡れたままで剥離試験)を測定している(段落【0022】、【0023】)。
しかし、上記したとおり、「20℃の水に1週間浸漬」(甲3)、「100℃の沸騰水中に30分浸漬」(甲7)、「水に23℃下24時間浸漬」(甲8)しても耐水性を有する接着剤は、「通常の状態では強固に接着させるが、水に浸漬すれば接着力が低下し、容易に金属製フィルター枠と不織布製フィルター材を分別し得る」ものではないので、本件発明では使用を予定していないと理解すべきである。
エ 小括
以上のとおりであるので、請求人の提出する甲3、7、8に記載された接着剤は、本件発明において使用する「被膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤」に含まれないと理解できるから、請求人の主張は採用することができない。
したがって、無効事由2は理由がない。

3 無効理由3について
請求人は、本件特許明細書の記載は、実施可能要件に適合しないと主張し、その根拠として、(1)「皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤」であっても耐水性、耐湿性等に優れたものは多数知られているので、本件発明の効果を達成できる水性エマルジョンを調製することについて、当業者に過度の試行錯誤を強いるものであるとし、また、(2)剥離試験の試験方法が特定されていないので、具体的にどのような水性エマルジョンを使用すればよいかを理解できないとする(審判請求書第33頁下から17行?第34頁20行)。
そこで、発明の詳細な説明の記載が、当業者が実施することができる程度に明確かつ充分に記載されているかを検討する。
まず(1)に関しては、無効理由2の検討において述べたとおり、本件発明で使用する「皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤」は、通常の状態では強固に接着させるが、水に浸漬すれば接着力が低下し、容易に金属製フィルター枠と不織布製フィルター材を分別し得る接着剤である。そして、具体的には、アクリル酸エステル系重合体等の皮膜形成性重合体を、水を分散剤として乳化重合した水性エマルジョンである(本件特許明細書の段落【0011】)。
このため、当業者は、皮膜形成性重合体を水を分散剤として乳化分散した水性エマルジョンを選択することにより、本件発明を容易に実施することができ、その選択は、請求人の主張するような当業者に過度の試行錯誤を強いるものではないと認める。
また、(2)の剥離試験に関しても、「この換気扇フィルターを水に浸漬すれば、金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とを手指で容易に剥離することができる」(本件特許明細書の段落【0017】)程度の剥離性を確認するものとして、当業者が適宜設定しうるものである。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、当業者が発明を実施できる程度に明確かつ充分な記載があると認める。
このため、無効理由3は理由がない。

4 無効理由4について
本件発明1?4が、引用例1及び引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易になしえたものとすることができないことは、平成24年(行ケ)10278号判決において判示されたとおりである。
したがって、無効理由4は理由がない。

第6 むすび
以上のとおりであるので、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反せず、同法第36条第4項及び同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているので、特許法第123条第1項第2号及び4号の規定に該当しない。
したがって、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件発明1?4に係る特許を無効とすることはできない。
また、他に本件発明1?4に係る特許を無効とすべき理由を発見しない。 審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
換気扇フィルター及びその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製フィルター枠と、該金属製フィルター枠に設けられた開口を覆って、該金属製フィルター枠に接着されている不織布製フィルター材とよりなる換気扇フィルターであって、該不織布製フィルター材が汚れた場合、該不織布製フィルター材と共に該金属製フィルター枠を廃棄して新しい換気扇フィルターと交換するタイプの換気扇フィルターにおいて、該金属製フィルター枠と該不織布製フィルター材とは、皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤を用いて接着されていることを特徴とする換気扇フィルター。
【請求項2】
皮膜形成性重合体のガラス転移点が-10℃?+30℃である請求項1記載の換気扇フィルター。
【請求項3】
金属製フィルター枠に設けられた開口を覆って、該金属製フィルター枠に不織布製フィルター材を接着して請求項1記載の換気扇フィルターを製造する方法において、該金属製フィルター枠に設けられた開口縁部及び/又は桟部の面に、皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤を塗布し、次いで該塗布面に該不織布製フィルター材を押圧すると共に加熱して、該不織布製フィルター材を該開口縁部及び/又は該桟部に接着することを特徴とする換気扇フィルターの製造方法。
【請求項4】
皮膜形成性重合体のガラス転移点が-10℃?+30℃である請求項3記載の換気扇フィルターの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、台所や調理場等で用いられている換気扇の、主として吸気口側に取り付ける換気扇フィルター及びその製造方法に関するものである。なお、本発明で言う換気扇フィルターとは、換気扇に取り付けられるものを意味しており、例えば、レンジフードフィルターをも包含するものである。
【0002】
【従来の技術】
台所や調理場等で用いられている換気扇は、油汚れ等が付着しやすく、これをそのまま放置しておくと不潔であるため、或いは換気扇が重くなって回転抵抗が大きくなるため、換気扇の吸気口側に換気扇フィルターを取り付けることが行われている。換気扇フィルターは、換気扇の吸気口に装着するためのフィルター枠と、フィルター枠に設けられた開口を覆うためのフィルター材とで構成されており、このフィルター材に油汚れ等を付着させ、換気扇に油汚れ等が付着するのを防止するのである。
【0003】
換気扇フィルターには、フィルター材を着脱自在にフィルター枠に係止するタイプのものと、フィルター材をフィルター枠に接着したタイプのものが知られている。前者は、フィルター材が汚れたら、フィルター材のみを交換するものである。後者は、フィルター材が汚れたら、フィルター枠共に廃棄し、新しい換気扇フィルターと交換するものである。後者は、フィルター材を係止する煩わしさがなく、手軽に交換しうるため、重宝されている。
【0004】
従来、後者のタイプの換気扇フィルターは、以下のようにして製造されている。まず、金属製フィルター枠の一般的な素材であるアルミニウム箔片面全面に、有機溶剤を溶媒とする感熱性接着剤溶液を塗布して、感熱性接着剤皮膜を設ける。そして、このアルミニウム箔に、張出成形や膨出成形等の成形を施すと共に、打抜加工して開口を設けて金属製フィルター枠とする。この金属製フィルター枠の開口を覆うようにして不織布製フィルター材を張り、押圧加熱し、感熱性接着剤を溶融固化させて、不織布製フィルター材を金属製フィルター枠に接着するという方法が採用されている。
【0005】
しかし、この方法で得られた換気扇フィルターは、使用後に金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とを分別して廃棄する際、両者の接着箇所で剥離しにくいということがあった。具体的には、不織布製フィルターを金属製フィルター枠から剥離しようとすると、両者の接着が強固であるため、不織布製フィルターが破れてしまい、両者を分別することができなかったのである。近年、省資源上或いは環境上の問題から、家庭ゴミにおいても、素材毎に分別して廃棄することが推奨されており、このような欠点は看過することのできないものとなっている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
このため、本発明者は、後者のタイプの換気扇フィルターにおいて、金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とを強固に接着せしめる一方、簡単に剥離しうる接着剤を捜し求めた。しかし、強固な接着と簡単な剥離という、二律背反的な性質を持つ接着剤は無いというのが技術常識であった。ところが、本発明者が種々の接着剤を用いて実験を行っていたところ、ある特定の接着剤を用いると、通常の状態では強固な接着が達成でき、水を付与すると、金属と不織布間との接着力が低下することを見出した。そして、このような接着剤を用いれば、使用後の換気扇フィルターを水に漬けただけで、容易に金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とに分別しうると考え、本発明に到達した。
【0007】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は、金属製フィルター枠と、該金属製フィルター枠に設けられた開口を覆って、該金属製フィルター枠に接着されている不織布製フィルター材とよりなる換気扇フィルターであって、該不織布製フィルター材が汚れた場合、該不織布製フィルター材と共に該金属製フィルター枠を廃棄して新しい換気扇フィルターと交換するタイプの換気扇フィルターにおいて、該金属製フィルター枠と該不織布製フィルター材とは、皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤を用いて接着されていることを特徴とする換気扇フィルター及びその製造方法に関するものである。
【0008】
本発明で用いる金属製フィルター枠は、一般的には、アルミニウム箔製のフィルター枠であるが、その他、アルミニウム板製,鉄板製,鉄箔製等のフィルター枠であってもよい。また、金属製フィルター枠の形状は、従来公知の形状であれば、どのような形状であっても良い。例えば、図1に示したフィルター枠1は、その一例であり、基本的には、換気扇の基板と当接しうる鍔部5と、換気扇の出っ張りをカバーしうる膨出部6と、空気が流通しうる開口7とを具えたものである。また、開口7の周囲には開口縁部3が設けられていることも多く、開口7中に桟部4が設けられていることも多い。
【0009】
本発明で用いる不織布製フィルター材は、従来、換気扇用フィルター材として用いられているものであれば、どのようなものでも使用しうる。具体的には、ポリオレフィン系繊維やポリエステル系繊維等を集積し、繊維相互間を結合剤等で結合したものが使用される。また、不織布製フィルター材は、粗目のものが多く、見掛け密度で0.01?0.03g/cm^(3)程度のものである。従って、引張強度が比較的低く、手で引っ張ることにより、容易に破断してしまうものが多い。
【0010】
図2に示す如く、不織布製フィルター材2は、金属製フィルター枠1の開口7を覆う状態で、金属製フィルター枠1と接着されて、換気扇フィルターとなる。不織布製フィルター材2と金属製フィルター枠1とを接着箇所は、任意であって良いが、一般的に、開口縁部3及び/又は桟部4である。
【0011】
本発明の特徴は、この接着箇所における接着が、皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤を用いてなされている点にある。皮膜形成性重合体としては、アクリル酸エステル系重合体,メタアクリル酸エステル系重合体,酢酸ビニル系重合体,エチレン-酢酸ビニル系共重合体等が用いられる。ここで、アクリル酸エステル系重合体の如く「系」が用いられているのは、アクリル酸エステル重合体だけではなく、アクリル酸エステルを単量体として含み、ポリビニルアルコール,スチレン,ポリブタジエン等の他の単量体との共重合体をも含み意味である。そして、これらの重合体は、水を分散媒として乳化分散しており、水性エマルジョンの形態となっている。この水性エマルジョンから水を蒸発させると、乳化分散している重合体粒子群が凝集し、皮膜を形成する。そして、この皮膜を形成する際、重合体の粘着力によって、接着作用が発現し、接着剤として機能するのである。
【0012】
本発明で使用する水性エマルジョン系接着剤の濃度は、どの程度であっても差し支えないが、30?70質量%程度が好ましい。濃度が30質量%未満であると、接着力が低下する傾向が生じる。また、濃度が70質量%を超えると、粘度が高くなり、金属製フィルター枠の接着箇所に塗布しにくくなる。しかし、この場合には、水にて希釈して塗布すれば問題ない。
【0013】
皮膜形成性重合体のガラス転移点は任意であってよいが、-30℃?+60℃程度であるのが好ましく、特に-10℃?+30℃程度であるのが、より好ましい。ガラス転移点は、皮膜形成可能な温度(最低造膜温度)と関係があり、例えば、ガラス転移点が+60℃を超えると、皮膜形成させるのに高温が必要となる。また、ガラス転移点が-30℃未満であると、得られる皮膜が柔軟になりすぎて、皮膜が不織布製フィルター材の背面に漏出しやくなる。従って、押圧体等で不織布製フィルター材を押圧すると、押圧体等に皮膜が付着し、不織布製フィルター材が押圧体等に付着してしまうということがある。このような観点から、最も使用しやすいのは、ガラス転移点が+10℃?+30℃の皮膜形成性重合体である。また、皮膜形成性重合体の融点は、任意であって良い。例えば、皮膜形成性重合体の融点が100℃未満の場合には、皮膜形成による接着力だけでなく、重合体の可塑化による接着も発現することがあるが、水の付与によって接着力が低下するものであれば、本発明において使用しうるものである。
【0014】
本発明に係る換気扇フィルターの製造方法は、金属製フィルター枠に設けられた開口を覆って、該金属製フィルター枠に不織布製フィルター材を接着して換気扇フィルターを製造する方法において、該金属製フィルター枠に設けられた開口縁部及び/又は桟部の面に、皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤を塗布し、次いで該塗布面に該不織布製フィルター材を押圧すると共に加熱して、該不織布製フィルター材を該開口縁部及び/又は該桟部に接着するというものである。この方法を、図3に基づいて、具体的に説明すれば以下のとおりである。
【0015】
まず、金属製フィルター枠1を準備する。そして、金属製フィルター枠1の開口縁部3及び/又は桟部4に、塗布具11を用いて、水性エマルジョン系接着剤を塗布する。塗布具11としては、従来公知のどのようなものでも使用でき、例えば、筆や印判等であっても良いし、噴霧器等であっても良い。水性エマルジョン系接着剤を塗布した後、金属製フィルター枠1の開口7を覆うような状態で、即ち、接着剤を塗布した開口縁部3及び/又は桟部4を被覆するような状態で、不織布製フィルター材2を置く。この後、不織布製フィルター材2側から、押圧体12を下方へ移動させると共に加熱板13を上方へ移動させることによって、不織布製フィルター材2を開口縁部3及び/又は桟部4の接着剤塗布面に押圧する。この結果、加熱板13の熱によって、水性エマルジョン系接着剤の分散媒である水が蒸発すると共に、押圧体12によって不織布製フィルター材2が開口縁部3及び/又は桟部4に押圧される。そして、水性エマルジョン系接着剤は皮膜形成され、その粘着力によって、不織布製フィルター材2と金属製フィルター枠1とが接着するのである。なお、ここでは、押圧体12を下方へ移動させ加熱板13を上方へ移動させる例を説明したが、押圧体12は移動させずに、加熱板13及びフィルター枠1を上方へ移動させ、不織布製フィルター材2を開口縁部3及び/又は桟部4の塗布面に押圧しても良い。また、加熱板13を移動させずに、押圧体12及び金属製フィルター枠1を下方へ移動させ、不織布製フィルター材2を開口縁部3及び/又は桟部4の塗布面に押圧しても良い。更に、ここでは、水性エマルジョン系接着剤を開口縁部3及び/又は桟部4に塗布したが、その他の箇所、例えば、金属製フィルター枠1の膨出部6内面等に塗布しても良い。以上の方法によって、本発明に係る換気扇フィルターが得られるのである。
【0016】
【作用】
本発明に係る換気扇フィルターは、金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とが、水性エマルジョン系接着剤を用いて接着されてなるものである。即ち、水性エマルジョン系接着剤から水が蒸発し、皮膜形成された重合体によって接着されてなるものである。このようにして皮膜形成された重合体は、水を付与すると、金属と不織布間の接着力を低下させるという作用を奏する。
【0017】
【発明の効果】
従って、本発明に係る換気扇フィルターを使用した後、廃棄する際に、この換気扇フィルターを水に浸漬すれば、金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とを手指で容易に剥離することができる。従って、金属と不織布とを分別廃棄することができるという効果を奏する。依って、金属は再利用することも可能であるし、金属は金属のみで廃棄処理し、不織布は不織布のみで廃棄処理することができ、省資源上或いは環境上、有益なものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明で用いる金属製フィルター枠の一例を示す斜視図である。
【図2】図1の金属製フィルター枠に不織布製フィルター材が接着された、本発明に係る換気扇フィルターの一例を示す斜視図である。
【図3】本発明に係る換気扇フィルターの製造方法の一例を模式的に示した工程図である。
【符号の説明】
1 金属製フィルター枠
2 不織布製フィルター材
3 開口縁部
4 桟部
5 鍔部
6 膨出部
7 開口
11 塗布具
12 押圧体
13 加熱板
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2013-06-20 
結審通知日 2013-06-25 
審決日 2013-07-08 
出願番号 特願2000-208387(P2000-208387)
審決分類 P 1 113・ 536- YA (B01D)
P 1 113・ 112- YA (B01D)
P 1 113・ 537- YA (B01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 新居田 知生  
特許庁審判長 真々田 忠博
特許庁審判官
吉水 純子
大橋 賢一
登録日 2004-06-11 
登録番号 特許第3561899号(P3561899)
発明の名称 換気扇フィルター及びその製造方法  
代理人 奥村 茂樹  
代理人 奥村 茂樹  
代理人 藤井 淳  
代理人 奥村 茂樹  
代理人 平野 和宏  

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