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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A63B
審判 全部無効 2項進歩性  A63B
審判 全部無効 特17条の2、3項新規事項追加の補正  A63B
管理番号 1280229
審判番号 無効2010-800200  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-11-02 
確定日 2013-09-17 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3924467号「管状格子パターンを有するゴルフボール」の特許無効審判事件についてされた平成23年 9月27日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の決定(平成24年(行ケ)第10034号平成24年6月25日決定言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
平成12年11月16日 国際出願
(PCT/US2000/031777号)
(優先権主張:
平成11年11月18日 米国)
平成19年 3月 2日 設定登録(特許第3924467号)
平成22年11月 4日 本件無効審判請求・甲第1?9号証提出
(無効2010-800200号)
平成23年 2月28日 答弁書・訂正請求書
平成23年 3月16日 通知書
平成23年 5月11日 第1陳述要領書(被請求人)
平成23年 5月13日 第1陳述要領書(請求人)
甲第10号証提出
平成23年 5月27日 第2陳述要領書(請求人)
甲第11、12号証提出
平成23年 5月27日 第2陳述要領書(被請求人)
乙第1、2号証提出
平成23年 5月27日 口頭審理
(口頭で無効理由を通知)
平成23年 6月16日 意見書・上申書・訂正請求書
平成23年 7月 6日 上申書
甲第13、14号証提出
平成23年 7月12日 訂正拒絶理由通知書・通知書
平成23年 8月30日 意見書
平成23年 9月27日 審決(平成23年 6月16日付けでした訂正
を認めない・請求成立)
(以下「第1審決」という。)
平成24年 1月25日 審決取消訴訟
(平成24年(行ケ)第10034号)
平成24年 4月10日 訂正審判請求
(訂正2012-390047号)
平成24年 6月25日 第1審決の取消決定
平成24年 9月 5日 訂正請求のための期間指定通知
平成24年 9月14日 上申書・訂正請求書
平成24年11月 8日 弁駁書
平成24年11月21日 訂正拒絶理由通知書・通知書
平成25年 1月11日 意見書・補正書
平成25年 3月 4日 手続補正指令(方式)
平成25年 3月12日 手続補正書(方式)
平成25年 4月 4日 弁駁書(2)

第2 審判請求の概要・被請求人の答弁等
1 請求人の主張の概要
請求人が審判請求書において主張する無効理由は、概略、以下の(1)ないし(3)のとおりであり、また、請求人の平成24年11月8日付け弁駁書における主張は、概略、(4)のとおりである。

(1)無効理由1
本件請求項1に係る発明は、甲第1号証発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるか、甲第1号証発明及び甲第2号証記載の事項あるいは周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件請求項2?10の発明特定事項は、いずれも周知技術であるか設計事項である。
よって、請求項1ないし10に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。

(2)無効理由2
本件請求項4、5及び6についての補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものではない。
本件請求項4、5及び6に係る発明及びこれを引用する請求項7、8、9及び10に係る発明は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たさないで特許されたものであるから、同法第123条第1項第1号の規定により無効とすべきものである。
本件請求項8についての補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではない。
本件請求項8に係る発明及びこれを引用する請求項9及び10に係る発明は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たさないで特許されたものであるから、同法第123条第1項第1号の規定により無効とすべきものである。

(3)無効理由3
本件請求項4、5及び6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。よって、本件請求項4、5及び6に係る発明及びこれを引用する請求項7、8、9及び10に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないで特許されたものであるから、同法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものである。
本件請求項8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。よって、本件請求項8に係る発明及びこれを引用する請求項9及び10に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないで特許されたものであるから、同法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものである。

(4)平成24年11月8日付け弁駁書における主張
平成24年9月14日付けの訂正請求は特許明細書等の記載範囲を超えるものであり、認めるべきでなく、また、訂正補正が認められる余地もない。
そうすると、特許明細書の特許請求の範囲に記載された請求項1ないし10のうち、請求項2及び請求項9は、平成24年9月14日付けの訂正請求により削除されているから、審理の対象となる請求項は、特許明細書の特許請求の範囲に記載された請求項1、3ないし8、10となるが、第1審決のとおり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、同法第123条第2項の規定により無効とすべきものである。
仮に平成24年9月14日付けの訂正請求が認められたとしても、訂正後の請求項1ないし8に係る発明は、第1審決のとおり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。

2 請求人提示の証拠方法
請求人が本件審判請求にあたり提示した証拠方法は、以下のとおりである。

平成22年11月2日差出の審判請求書に添付されたもの
甲第1号証:特開平10-146403号公報
甲第2号証:特開平7-289662号公報
甲第3号証:特開平6-182002号公報
甲第4号証:特開平8-47553号公報
甲第5号証:特開平9-308709号公報
甲第6号証:特開平11-299930号公報
甲第7号証:特開昭61-22871号公報
甲第8号証:本件の平成18年7月21日付け手続補正書
甲第9号証:本件の平成18年7月21日付け意見書

平成23年5月13日付け第1陳述要領書に添付されたもの
甲第10号証:米国特許第4991852号明細書(翻訳文付)

平成23年5月27日付け第2陳述要領書に添付されたもの
甲第11号証:特開平5-137817号公報
甲第12号証:特開平4-347177号公報

平成23年7月6日付け上申書に添付されたもの
甲第13号証:本件に関する国際公開01/36053号パンフレット
甲第14号証:本件に関する特表2003-513767号公報

平成25年4月4日付け弁駁書(2)に添付されたもの
甲第15号証:特許庁ホームページ 審判情報
「訂正の補正に関する運用変更のお知らせ」
平成12年3月

3 被請求人 キャラウェイ・ゴルフ・カンパニの主張の概要
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、請求人が主張する上記無効理由は、いずれも理由がない旨の主張をし、平成23年5月27日の口頭審理において口頭で通知された無効理由は成り立たない旨主張した。

4 被請求人提示の証拠方法
被請求人が本件審判請求にあたり提示した証拠方法は、以下のとおりである。

平成23年5月27日付け第2陳述要領書に添付されたもの
乙第1号証:本件に関する米国特許第6290615号明細書(図面省略)
乙第2号証:本件に関する欧州特許第1233818号明細書(図面省略)

第3 平成23年5月27日の口頭審理において口頭で通知された無効理由の概要
本件請求項1に係る特許及び本件請求項1に係る特許を引用する請求項2?10に係る特許は、下記の点で不備のため、平成14年改正前特許法第36条第4項及び同条第6項2号に規定する要件を満たしていない。



a 本件特許明細書請求項1における「格子部材」が何を意味しているのか不明瞭である。
b 本件特許明細書請求項1において、何が相互に連結されているのか不明瞭である。

第4 平成25年1月11日付けで補正された平成24年9月14日付け訂正請求の内容
平成23年2月28日付け訂正請求及び平成23年6月16日付け訂正請求は、平成24年9月14日付けで訂正請求がなされたから、特許法第134条の2第4項の規定により取り下げられたものとみなされる。
よって、以下、平成25年1月11日付けで補正された平成24年9月14日付け訂正請求について検討する。
平成25年1月11日付けで補正された平成24年9月14日付け訂正請求は、本件の特許明細書を、平成25年1月11日付けの補正書に添付された全文訂正明細書(なお、平成24年9月14日付け訂正請求に添付された訂正明細書の誤記は平成25年3月12日付け補正書で補正されている。よって、平成25年3月12日付け補正書で補正された訂正明細書を以下「訂正明細書」という。)のとおりに訂正することを求めるものであって、その訂正内容は、次のとおりのものである(下線は審決で付した。以下同様。)。

訂正事項1:
特許請求の範囲を以下のとおり訂正する。
「【請求項1】
表面を有し、4.06cm?4.32cm(1.60in?1.70in)の範囲の直径を有する内側球体と、
前記内側球体の表面から延びる格子構造であって、該格子構造は複数の相互に連結した格子部材からなり、各格子部材は、第1の凹部分と第2の凹部分と、前記第1の凹部分と第2の凹部分の間に設けられた凸部分を有する曲線の断面を持ち、前記凸部分は頂部を有し、前記格子部材の底部から前記頂部までの距離が0.0127cm?0.0254cm(0.005in?0.010in)の範囲であり、
前記第1の凹部分と第2の凹部分は0.38cm?0.51cm(0.150in?0.200in)の範囲の曲率半径を持ち、前記凸部分は0.07cm(0.0275in)?0.0889cm(0.0350in)の曲率半径を持ち、
前記相互に連結された格子部材の頂部はゴルフボールの最外部であり、
前記複数の格子部材は互いに辺を共有して連結された複数の6角形状の領域と、複数の5角形状の領域とを形成し、前記複数の5角形状の領域は前記複数の6角形状の領域の一部と互いに辺を共有して連結されている、
ディンプルを伴わないゴルフボール。
【請求項2】
ゴルフボールはポリウレタン材料のカバーを持ち、前記内側球体の直径は4.24cm(1.67in)以上である請求項1に記載のゴルフボール。
【請求項3】
ゴルフボールの最外部から0.005cmの範囲の体積は0.03491cm^(3)未満である請求項1又は2に記載のゴルフボール。
【請求項4】
ゴルフボールの最外部から0.0102cmの範囲の体積は0.08162cm^(3)未満である請求項1又は2に記載のゴルフボール。
【請求項5】
ゴルフボールの最外部から0.0152cmの範囲の体積は0.13784cm^(3)未満である請求項1又は2に記載のゴルフボール。
【請求項6】
前記ゴルフボールは、ソリッドコア、中空コア又は流体コアのいずれかを持つ請求項1乃至5のいずれかに記載のゴルフボール。
【請求項7】
レイノルド数が70,000で回転数が毎分2000回のときの揚力係数が0.18以上であり、レイノルド数が180,000で回転数が毎分3000回のときの流体抵抗が0.23未満である請求項1乃至6のいずれかに記載のゴルフボール。
【請求項8】
ゴルフボールの表面の全体が複数の相互に連結された格子部材と内側球体によって画成されている請求項1乃至7のいずれかに記載のゴルフボール。」と訂正する。

訂正事項2:
明細書の段落【0047】の記載中の「各格子部材の長さは0.005-0.01インチの範囲であり、これにより少なくとも1.68インチの外側球体を画定している。」の記載における「長さ」を「高さ」に訂正し、「各格子部材の高さは0.005-0.01インチの範囲であり、これにより少なくとも1.68インチの外側球体を画定している。」と訂正する。

訂正事項3:
明細書の段落【0052】の記載中の「第1及び第2の凹面部54,58の半径R_(2)は好ましくは0.150から0.200インチであり、最も好ましくは、0.175インチである。」の記載における「R_(2)」を「R_(1)」に訂正し、「第1及び第2の凹面部54,58の半径R_(1)は好ましくは0.150から0.200インチであり、最も好ましくは、0.175インチである。」と訂正する。

訂正事項4:
明細書段落【0068】の記載中の「突起40」を「格子部材40」と訂正する。

第5 訂正の適否について
1 訂正事項1について
(1)訂正事項1のうち、請求項1の「第1の凹部分と第2の凹部分」を「前記第1の凹部分と第2の凹部分は0.38cm?0.51cm(0.150in?0.200in)の範囲の曲率半径を持ち、前記凸部分は0.07cm(0.0275in)?0.0889cm(0.0350in)の曲率半径を持ち、」とする訂正は、平成24年9月14日付け訂正請求では、
「前記第1の凹部分と第2の凹部分は0.38cm?0.51cm(0.150in?0.200in)の範囲の曲率半径を持ち、前記凸部分は0.07cm(0.0275in)?0.09cm(0.0350in)の曲率半径を持ち、」
とされていたものを、平成25年1月11日付けで上記のとおりに補正したものであるが、この補正は、「0.0350in」をメートル法に換算した「0.09cm」につき、より正確に「0.0889cm」と補正するものであるから、この補正は請求の要旨を変更するものではない。
そして、「前記第1の凹部分と第2の凹部分は0.38cm?0.51cm(0.150in?0.200in)の範囲の曲率半径を持ち、前記凸部分は0.07cm(0.0275in)?0.0889cm(0.0350in)の曲率半径を持ち、」とする訂正は、第1の凹部分、第2の凹部分及び凸部分の曲率半径につき、その数値範囲を願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において限定して特定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)訂正事項1のうち、請求項1の「前記複数の格子部材は複数の6角形状を形成している、」を「前記複数の格子部材は互いに辺を共有して連結された複数の6角形状の領域と、複数の5角形状の領域とを形成し、前記複数の5角形状の領域は前記複数の6角形状の領域の一部と互いに辺を共有して連結されている、」とする訂正は、複数の格子部材が形成する「複数の6角形状」につき、領域であることを明確にするとともにその領域が相互に連結されたものであることを特定するものであり、明りょうでない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
当該訂正は、特許明細書の段落【0054】の「図9に示されるように、各半球26と18は2列の六角形70、72、74,76を分離ライン100に隣接してもっている。第1の半球26の極30は図9Bに示されるように五角形44bにより囲まれる。極30の五角形44bは、円形状に増加する五角形状に六角形80,82,86,88のグループにより囲まれている。五角形のグループ90は各対応するベースにおいて、六角形44aをそれらの間に挟んで五角形44bを有している。五角形のグループ80,82,84,86,88及び90は4つの隣接する列70,72,74及び76に変形する。好ましい実施例は六角形44aと五角形44bだけを持っている。」の記載、及び図9,図9A,図9Bに示された格子部材の構造に基づくものである。

(3)訂正事項1のうち、請求項2ないし8についての訂正について
請求項2ないし請求項8についての訂正は、訂正前の請求項2及び9の削除及び請求項の削除に伴う明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。

2 訂正事項2について
特許明細書の段落【0047】の記載中の「各格子部材の長さは0.005-0.01インチの範囲であり、これにより少なくとも1.68インチの外側球体を画定している。」の記載における「長さ」は、より正確には「高さ」であり、このことは、同記載中の「これにより少なくとも1.68インチの外側球体を画定している。」の記載から「高さ」の意味で使用されていることは明らかであるから、誤記の訂正を目的とするものに該当する。

3 訂正事項3について
本来「R_(1)」であるべきものを「R_(2)」とした誤記の訂正を目的とするものであり、誤記の訂正であることは【図8】より明らかである。

4 訂正事項4について
特許明細書においては、符号「40」で指示する部材は、全て、「格子部材40」と説明しており、「突起40」を「格子部材40」とする訂正は他の記載と整合させるものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。

5 訂正拒絶理由について
(1)平成24年11月21日付け訂正拒絶理由は、平成24年9月14日付け訂正請求における訂正事項1のうち、請求項1において
「前記第1の凹部分と第2の凹部分は0.38cm?0.51cm(0.150in?0.200in)の範囲の曲率半径を持ち、前記凸部分は0.07cm(0.0275in)?0.09cm(0.0350in)の曲率半径を持ち、」
とする訂正について、
「a 特許明細書の段落【0052】に
『図5及び6に示された格子部材40の断面は円形であるが、複数の格子部材40の好ましい断面が図7及び8に示されている。この好ましい断面は、第1の凹面部54と、凸面部56と、第2の凹面部58を有する湾曲面52を有している。各格子部材40の凸面部56の半径R_(2)は好ましくは0.0275から0.0350インチの範囲である。第1及び第2の凹面部54,58の半径R_(2)は好ましくは0.150から0.200インチであり、最も好ましくは、0.175インチである。R_(ball)は内側球体の半径で、好ましくは0.831インチである。R_(OS)は外側球体の半径で好ましくは1.68である。』と記載されている。
すなわち、特許明細書に示された『凸面部の半径』が、本件訂正後の請求項1における『凸部分』『の曲率半径』に相当するものであって、その具体的な数値としては、『好ましくは0.0275から0.0350インチ』であるということができる。
b ここで、1インチを2.54cmとして換算する。
0.0275×2.54=0.06985
0.0350×2.54=0.0889
すなわち、『0.0275から0.0350インチ』は『0.06985から0.0889cm』と換算されることになる。
c ところが、訂正事項1のうち、『凸部分は0.07cm(0.0275in)?0.09cm(0.0350in)の曲率半径を持ち、』との記載において、その上限である0.09cmは換算値である0.0889cmを上回るものである。
d そして、凸面部の半径について、特許明細書の段落【0052】に記載の、0.0350インチを上回る数値は、特許明細書の他の部分には記載も示唆もされていない。
e してみると、訂正事項1のうち、『凸部分は0.07cm(0.0275in)?0.09cm(0.0350in)の曲率半径を持ち、』とした部分における、『0.0889?0.09cmの曲率半径』の部分は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項とは認められない。
f そうすると、本件請求項1についての訂正及びこれを引用する請求項2ないし8についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではなく、特許法第134条の2第5項において読み替えて準用する同法第126条第3項に規定する訂正の要件を満たしていない。」
というものである。

(2)しかしながら、上記(1)で指摘された理由は、平成25年1月11日付けでした補正により上記1の(1)に示したとおり解消されたものである。

6 訂正の適否についての判断のまとめ
上記1ないし5のとおりであるから、平成25年1月11日付けで補正された平成24年9月14日付け訂正請求による訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書きの規定に適合し、同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合する。
よって、当該訂正を認める。

第6 本件発明
上記したように、平成25年1月11日付けで補正された平成24年9月14日付け訂正請求は認められることから、本件請求項1ないし8に係る発明(以下それぞれを「本件発明1」ないし「本件発明8」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし8(以下それぞれを「本件請求項1」ないし「本件請求項8」という。)に記載されたとおりの次のものと認める。
「【請求項1】
表面を有し、4.06cm?4.32cm(1.60in?1.70in)の範囲の直径を有する内側球体と、
前記内側球体の表面から延びる格子構造であって、該格子構造は複数の相互に連結した格子部材からなり、各格子部材は、第1の凹部分と第2の凹部分と、前記第1の凹部分と第2の凹部分の間に設けられた凸部分を有する曲線の断面を持ち、前記凸部分は頂部を有し、前記格子部材の底部から前記頂部までの距離が0.0127cm?0.0254cm(0.005in?0.010in)の範囲であり、
前記第1の凹部分と第2の凹部分は0.38cm?0.51cm(0.150in?0.200in)の範囲の曲率半径を持ち、前記凸部分は0.07cm(0.0275in)?0.0889cm(0.0350in)の曲率半径を持ち、
前記相互に連結された格子部材の頂部はゴルフボールの最外部であり、
前記複数の格子部材は互いに辺を共有して連結された複数の6角形状の領域と、複数の5角形状の領域とを形成し、前記複数の5角形状の領域は前記複数の6角形状の領域の一部と互いに辺を共有して連結されている、
ディンプルを伴わないゴルフボール。
【請求項2】
ゴルフボールはポリウレタン材料のカバーを持ち、前記内側球体の直径は4.24cm(1.67in)以上である請求項1に記載のゴルフボール。
【請求項3】
ゴルフボールの最外部から0.005cmの範囲の体積は0.03491cm^(3)未満である請求項1又は2に記載のゴルフボール。
【請求項4】
ゴルフボールの最外部から0.0102cmの範囲の体積は0.08162cm^(3)未満である請求項1又は2に記載のゴルフボール。
【請求項5】
ゴルフボールの最外部から0.0152cmの範囲の体積は0.13784cm^(3)未満である請求項1又は2に記載のゴルフボール。
【請求項6】
前記ゴルフボールは、ソリッドコア、中空コア又は流体コアのいずれかを持つ請求項1乃至5のいずれかに記載のゴルフボール。
【請求項7】
レイノルド数が70,000で回転数が毎分2000回のときの揚力係数が0.18以上であり、レイノルド数が180,000で回転数が毎分3000回のときの流体抵抗が0.23未満である請求項1乃至6のいずれかに記載のゴルフボール。
【請求項8】
ゴルフボールの表面の全体が複数の相互に連結された格子部材と内側球体によって画成されている請求項1乃至7のいずれかに記載のゴルフボール。」

第7 無効理由1についての検討
1 甲第1号証について
請求人が提出し、本件の優先権主張日前に頒布された甲第1号証(特開平10-146403号公報)には、以下の記載がある。
(1)「【請求項1】直径42.66mm以下の球面上に凸部を形成してなり、かつ内径42.67mmのリングゲージを通過できないことを特徴とするゴルフボール。
【請求項2】凸部の高さが0.01mm以上1.0mm以下である請求項1記載のゴルフボール。
【請求項3】 凸部の一部又は全部が半球状又は先部が丸味を帯びた錐状若しくは錐台状である請求項1又は2記載のゴルフボール。
【請求項4】 凸部の一部又は全部が内側にディンプル状凹部を形成する小リング状突起部である請求項1、2又は3記載のゴルフボール。
【請求項5】凸部の一部又は全部が球面の大円に沿う突条部である請求項1乃至4のいずれか1項記載のゴルフボール。
【請求項6】球面にディンプルを形成した請求項1乃至5のいずれか1項記載のゴルフボール。」
(2)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、スモールサイズボールのようにストレートで伸びのある弾道を有し、風に強く、ランがよく出るゴルフボールに関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】ゴルフ競技は、プレーヤーの技倆を公平に競うものであり、プレーの平等性を確保すべく、種々の規制(ゴルフ規則)が設けられている。中でも、ゴルフボールは、一人一人のプレーヤーが自分の責任でボールを自由に選択してプレイに供するものであり厳格な規制が必要となる。
【0003】このため、ゴルフボール、特に公認球(公式試合用ボール)については、英国のゴルフ協会R&A(ロイヤル・アンド・エインシエント・ゴルフ・クラブ・オブ・セント・アンドリュス)と全米ゴルフ協会USGA(United States Golf Association)の両者により制定された世界共通のゴルフ規則により、ゴルフボールの重量、直径、対称性、及び初速などがきめ細かく制限されている。
【0004】ところで、従来から、ゴルフボールの直径、重量については、スモールサイズボールとラージサイズボールの二つの規則が存在していた。これは、1920年にイギリスで「重さ1.62オンス(45.93g)以下、直径1.62インチ(41.15mm)以上」のスモールサイズボールの規則が作られ、1931年に今度はアメリカで「重さ1.62オンス(45.93g)以下、直径1.68インチ(42.67mm)以上」のラージサイズボールの規則が作られ、両者が併存しつつ使用されていたためであるが、最近、統一化が進み1990年R&A規則の改正により、イギリスにおいてもボール直径は41.15mm以上(スモールサイズボール)から42.67mm以上(ラージサイズボール)とされ、日本においても1977年より男子プロの競技には、ラージサイズボールの使用が義務付けられており、ラージサイズボールが一般に使用される傾向にある。
【0005】この場合、上記ラージサイズボールは、スモールサイズボールに比べて、芝に対して浮き易く、ラフ等のショット、アプローチが比較的容易であり、パッティング時のころがり等が良い点などの優れた特徴を有している反面、特に向かい風の場合は球筋が高くなり、ボールの落下角度が大きくなるため、ランが少なくなり、飛距離が出なくなる上に、曲がりやすいという欠点がある。
【0006】従って、ラージサイズボールの規格を満たしつつ、スモールサイズボールのようなストレートで伸びのある弾道を有し、風に強く、ランのよく出るゴルフボールの開発が望まれていた。
【0007】本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、ラージサイズボール規格を満しつつ、スモールサイズボールの優れた飛び性能を有するゴルフボールを提供することを目的とする。」
(3)「【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記目的を達成するために、(1)直径42.66mm以下の球面上に凸部を形成してなり、かつ内径42.67mmのリングゲージを通過できないことを特徴とするゴルフボール、(2)凸部の高さが0.01mm以上1.0mm以下である(1)記載のゴルフボール、(3)凸部の一部又は全部が半球状又は先部が丸味を帯びた錐状若しくは錐台状である(1)又は(2)記載のゴルフボール、(4)凸部の一部又は全部が内側にディンプル状凹部を形成する小リング状突起部である(1)、(2)又は(3)記載のゴルフボール、(5)凸部の一部又は全部が球面の大円に沿う突条部である(1)乃至(4)のいずれか1項記載のゴルフボール、(6)球面にディンプルを形成した(1)乃至(5)のいずれか1項記載のゴルフボール、(7)一部又は全部のディンプルの縁部に沿ってリング状突起部を上記凸部の一部又は全部として形成した(6)記載のゴルフボール、(8)表面形状が軸対称形状を持つ(1)乃至(7)のいずれか1項記載のゴルフボール、(9)凸部を平面に投影した時の投影全面積が最初の球面総表面積に対して1?40%である(1)乃至(8)のいずれか1項記載のゴルフボール、及び、(10)ディンプル状凹部及びディンプルを平面に投影した時の投影全面積が最初の球面総面積に対して10?85%である(4)乃至(9)のいずれか1項記載のゴルフボールを提供する。
【0009】本発明によれば、ラージサイズボールの基準を満たしつつ、実質的にボール直径を小さくすることができ、スモールサイズボールと同程度の優れた飛び性能を有するゴルフボールが得られるものである。
【0010】即ち、ラージサイズボールの直径(42.67mm以上)は、スモールサイズボールの直径(41.15mm以上)に比べて1.5mm(約3.7%)しか大きくないが、体積は約11.5%、表面積は約7.5%も大きくなる。このため、同じ条件のショットであればラージサイズボールの方がスモールサイズボールに比べ揚力、抗力共に大きくなる(揚力、抗力は断面積、即ち直径の二乗に比例する)。また、ディンプルの影響はボール表面積と密接に関係し、風の影響はボール断面積と密接に関係するために、スモールサイズボールの直径からラージサイズボールの直径とすることにより飛び性能は、予想を遥かに上回る影響を受けることは以前から知られていたことであるが、本発明者らが更に鋭意検討を進めた結果、上述したように直径42.66mm以下の球面に対し凸部を形成すること、即ち、ラージサイズボールの直径42.67mmよりも小さいスモールサイズボールと同程度又はそれ以下の直径からなる球面に、直径42.67mm以上となるように凸部を形成することにより、内径42.67mmのリングゲージを通過できない、つまり、ラージサイズボールの直径基準を満たすゴルフボールが得られ、このボールはスモールサイズボールの有するストレートで伸びのある弾道を有し、風に強く、ランがよく出、飛距離が飛躍的に増大し得ることを見出したものである。」
(4)「【0011】
【発明の実施の形態及び実施例】以下、本発明につき、図面を参照して更に詳しく説明する。本発明のゴルフボールは、直径42.66mm以下、好ましくは36?42.66mm、より好ましくは40?42.5mm、更に好ましくは41?42.4mmの球1の表面に凸部2を形成したものである。
【0012】この場合、凸部2の形状は、特に制限されないが、図1(A),(B)に示すような半球状、先端部が丸味を帯びた錐状(特に円錐状)又は錐台状(特に円錐台状)凸部2a、図2(A),(B)に示すような内部にディンプル状凹部3を形成する小リング状突起部2b、図3(A),(B)に示すような上記球1の大円に沿う突条部2c、図4(A),(B)に示すように球1の表面にディンプル4を形成した場合、その縁部を取り巻いて形成する突起部2d、更に図5(A),(B)に示すように球1の表面に形成されたディンプル4内に先部が該ディンプル4より突出するように設けられた凸部2e(この場合、該ディンプル4は該凸部2eの形成によりリング状ディンプル4’として形成される)などが挙げられ、これらはそれぞれ単独で又は組み合わせて形成することができる。
【0013】この場合、上記ディンプル状凹部3の底面は上記球1の球面である。また、上記半球状、錐状又は錐台状凸部2aは、ディンプル4を球1の球面に形成した場合、球面陸地部に形成することができ、上記突条部2cは1本だけに限られず、複数本、例えば2?30本、特に2?15本形成することがシンメトリー性の点から好ましい。更に、上記ディンプル4の縁部を取り巻く突起部2dは、全部のディンプルに形成してもよく、一部のディンプルに形成するだけであってもよい。
【0014】上記凸部2の高さは0.01?1.0mm、より好ましくは0.1?0.8mm、更に好ましくは0.2?0.7mmとすることが好ましい。なお、図5の場合、その凸部2eは球1の表面から突出する突出高さが上記値となる。また、図1の凸部2aの場合、その直径は1.0?5.0mm、特に3.0?4.2mmであることが好ましい。図2の突起部2b、図4の突起部2dの場合、その幅は0.5?2.2mm、特に0.8?1.5mmが好ましく、図3の突条部2cの場合、その幅は0.1?3.2mm、特に0.2?2.0mmとすることが好ましく、また、図2における凹部3の直径は0.4?3.6mm、特に0.8?2.6mmであることが好ましい。
【0015】また、本発明のゴルフボールにはディンプル4が形成されるが、この場合ディンプル形状は平面円形状とするのが好ましく、その直径は0.4?4.0mm、特に1.6?3.6mm、深さは0.01?0.4mm、特に0.05?0.2mmとすることが好ましい。なお、ディンプルは直径及び/又は深さが異なる2種以上を形成し得る。
【0016】本発明のゴルフボールにおいて、上記凸部2の形成割合は、これを平面に投影した時の面積の合計が、上記球1の球面総表面積の1?40%、特に4?28%とすることが好ましい。1%より少ないと、球面の凸部の割合が少なすぎ、本発明の作用効果を奏することができない場合があり、40%を超えるとラージサイズボールに近い弾道となり、風の影響を受けやすくなる場合がある。」
(5)「【0020】本発明におけるゴルフボールの表面形状は軸対称に形成することが好ましいが、ディンプル4及びディンプル状凹部3の配列態様は従来のディンプル配列態様と同様に配列することができる。この場合、本発明のゴルフボールにおいては、従来のゴルフボールのディンプル配列法において設けられた大円を上述したように突条部2cとして形成し得るものであり、この突条部2cは大円に沿った周のうち一部であってもよいし、大円から若干はずれてもよい。また上述したように陸地部(土手部)に半球状、錐状又は錐台状凸部2aを形成し得るものである。」
(6)「【0025】なお、ボールの構造は、ワンピースゴルフボール、ツーピースゴルフボール、3層構造以上のマルチピースゴルフボール等のソリッドゴルフボールとしても、糸巻きゴルフボールとしてもよく、あらゆる種類のゴルフボールに適用可能であり、成形法は射出成形法でも圧縮成形法でもよく、公知の材料を使用して、常法により製造することができる。なお、ボールの重量等のボール性状はゴルフ規則に従って適宜設定することができる。
【0026】〔実験例〕シス-1,4-ポリブタジエンゴムを基材ゴムとし、架橋剤としてアクリル酸亜鉛を用いて形成した表1に示す直径及び硬度(100kg荷重時の変形量)を有するソリッドコアに、ショアD硬度56のアイオノマー樹脂を主成分とするカバー材を射出成形し、球の表面に凸部及びディンプルを形成したツーピースゴルフボール得た。」
(7)突条部の部分断面を示す【図3】(A)から、突条部2cの両すそ部分は、凹形状となっており、凹形状となっている両すそ部分の間は凸形状となっており、全体的に曲線の断面となっていることが看取できる。

上記記載(1)ないし(7)及び図面を含む甲第1号証全体の記載から、甲第1号証には、以下の発明が開示されていると認められる。
「直径42.66mm以下、好ましくは36?42.66mm、より好ましくは40?42.5mm、更に好ましくは41?42.4mmの球1の球面上に凸部を形成してなり、かつ内径42.67mmのリングゲージを通過できず、凸部の高さが0.01mm以上1.0mm以下であり、より好ましくは0.1?0.8mm、更に好ましくは0.2?0.7mmとすることが好ましい、凸部の一部又は全部が球面の大円に沿う突条部であるゴルフボールであって、
ラージサイズボール規格を満しつつ、スモールサイズボールの優れた飛び性能を有するゴルフボールを提供することを目的とし、
上記突条部は1本だけに限られず、複数本、例えば2?30本、特に2?15本形成することがシンメトリー性の点から好ましく、大円に沿った周のうち一部であってもよいし、大円から若干はずれてもよいものであり、
上記突条部は、両すそ部分が凹形状となり、凹形状となっている両すそ部分の間は凸形状となっており、全体的に曲線の断面となっている
ゴルフボール。」(以下「甲第1号証発明」という。)

2 甲第2号証について
請求人が提出し、本件の優先権主張日前に頒布された甲第2号証(特開平7-289662号公報)には、以下の記載がある。
(1)「【請求項1】 球表面の少なくとも一部の範囲に、隣合う六角形ディンプルの辺同志が略一定幅のランドをおいて略平行に並ぶように複数の六角形ディンプルを稠密に配設したことを特徴とするゴルフボール。」
(2)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、新しいディンプル・ランド理論に基づくゴルフボールに関するものである。なお、本明細書において「ランド」とは、球表面にディンプルを設けたときにディンプル間に残る陸部分をいう。
【0002】
【従来の技術】ゴルフボールの球表面にディンプルを形成すると飛距離が伸びることが発見されて以来、ディンプルに関して多くの研究がなされてきた。そして、これまでの研究では、ディンプルが飛距離を伸ばす理論について、次のように説明されている。
(1)バックスピンのかかったボールは、ベルヌーイの定理による上下方の気圧差により揚力が生じるが、ディンプルは上方の空気流を早くして気圧をさらに低下させ、揚力を増加させる。
(2)ディンプルはボール背後への空気の回り込みを助け、ボール背後の気圧の低下を防ぐため、ボールを後方へ引っ張る空気の力が減少する。
【0003】このディンプル理論の根底には、「ディンプルは空気との接触面積を増加させて空気流への影響力を増大する」という考え方があり、この考え方に基づいて、ディンプルの形状、大きさ、深さ、数、配置等が検討されてきたものと思われる。そして、次のようなディンプルが知られている。」
(3)「【0011】ランドの幅は、0.0?2.5mm位の範囲から適宜設定できるが、ランドの合計面積を小さくするために好ましくは0.1?1.5mmの範囲、特にプロや上級アマチュア向けのゴルフボールのように飛距離性を高めたいときには0.2?1.0mmの範囲から設定する。なお、ランドの幅が0.0mmとは、隣合う六角形ディンプル同志が辺を共有するように配設された場合をいう。但し、その場合でも、現実に形成されるディンプルの辺及び角にはアールが不可避的に付くから、そのアール分の幅・面積のランドはあることになる。」
(4)「【0013】
【作用】
(1)空気との摩擦の減少作用について
本発明は、「物体と流体との摩擦は、物体の流体接触面積と略比例する。」という考え方と、「マグナス効果は、流体の流れと回転する物体との間に摩擦があって初めて流体の流速に影響を及ぼし、流体圧力に差を生じさせるものである。」という公理とに基づいて発明されたものであり、ランドの合計面積を小さくすることを根底にしている。」

3 甲第3号証について
請求人が提出し、本件の優先権主張日前に頒布された甲第3号証(特開平6-182002号公報)には、以下の記載がある。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明はゴルフボールおよびその製造方法並びに装置に関し、特に詳しくは、ゴルフボールのコアにポリウレタンカバーを形成せしめたゴルフボールに関するものである。」

4 甲第4号証について
請求人が提出し、本件の優先権主張日前に頒布された甲第4号証(特開平8-47553号公報)には、以下の記載がある。
「【0001】
【産業上の利用分野】本願発明はゴルフボールの製造方法及び装置とその方法で製造したゴルフボールに関するものであり、特に、ゴルフボールのコアの表面にポリウレタン製カバーを形成する方法及び装置と当該方法を用いて製造したゴルフボールに関するものである。」

5 甲第5号証について
請求人が提出し、本件の優先権主張日前に頒布された甲第5号証(特開平9-308709号公報)には、以下の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、中空コアとカバー層から成るソリッドゴルフボールに関し、更に詳述すると、打撃時のフィーリングが良好で、慣性モーメントが大きく、打撃時の打出角が大きく、飛距離が増大したゴルフボールに関する。」

6 甲第6号証について
請求人が提出し、本件の優先権主張日前に頒布された甲第6号証(特開平11-299930号公報)には、以下の記載がある。
「【0020】
【実施例】図1に示すように従来のツーピースゴルフボール10は、固体のコア11及び外側成形カバー12を備えるが中間の層又は部分は設けていない。従来のスリーピースゴルフボール14は図2に示すように液体コア中心部15,糸巻き中間層16及び外側成形カバー18を備えている。」

7 甲第7号証について
請求人が提出し、本件の優先権主張日前に頒布された甲第7号証(特開昭61-22871号公報)には、以下の記載がある。
「ゴルフボールの場合、一般的には風洞実験で得られる揚力係数と抗力係数のうち揚力係数が大きく抗力係数が小さい程、良好な空力特性を有すると考えられている。」(第6頁左上欄第7?10行)

8 本件発明1についての検討
(1)対比
ア 本件発明1と甲第1号証発明とを比較すると、甲第1号証発明の「球面」、「直径」、「球」、「凹形状となっている両すそ部分」、「曲線の断面」、「凸形状となって」いる部分及び「ゴルフボール」は、それぞれ本件発明1の「表面」、「直径」、「内側球体」、「第1の凹部分と第2の凹部分」、「曲線の断面」、「凸部分」及び「ゴルフボール」に相当する。
イ 甲第1号証発明の「直径」「41?42.4mm」の範囲は、本件発明1の「4.06cm?4.32cm(1.60in?1.70in)」の範囲に包含される。
ウ 球面の大円に沿う突条部を複数本設ければ突条部同士が交差することは当業者に自明であるから、甲第1号証発明の「複数本」の「突条部」が交差した構造と、本件発明1の「格子構造」とは、「内側球体の表面から延び交差する突部構造」の点で一致する。
エ 甲第1号証発明の球面の大円に沿う複数本の突条部同士が交差し、球面を複数の多角形の領域に区分し、突条部の交差点から交差点の部分が多角形の領域の辺となることは当業者に自明であるから、甲第1号証発明の「突条部」の交差点から交差点の部分と本件発明1の「格子部材」は、「突条部材」の点で共通し、甲第1号証発明の前記突条部の交差点から交差点の部分(突条部材)が交差点で連結していることは明らかであるから、甲第1号証発明の球面の大円に沿う複数本の突条部と、本件発明1の「格子構造」とは「複数の相互に連結した突条部材からなる」点で共通する。
オ 甲第1号証発明の「凸形状となって」いる部分が頂部を有していることは当業者に自明であるから、甲第1号証発明の「高さ」が本件発明1の「底部から前記頂部までの距離」に相当し、その数値が特定の範囲である点で共通する。
カ 甲第1号証発明の突条部は球面上に形成されているから、突条部の頂部(突条部材の頂部)は、ゴルフボールの最外部であるといえる。
キ 上記アないしカから、本件発明1と甲第1号証発明は、
「表面を有し、4.06cm?4.32cm(1.60in?1.70in)の範囲の直径を有する内側球体と、
前記内側球体の表面から延び交差する突部構造であって、該突部構造は複数の相互に連結した突条部材からなり、各突条部材は、第1の凹部分と第2の凹部分と、前記第1の凹部分と第2の凹部分の間に設けられた凸部分を有する曲線の断面を持ち、前記凸部分は頂部を有し、前記突条部材の底部から前記頂部までの距離が特定の範囲であり、
前記相互に連結された突条部材の頂部はゴルフボールの最外部である
ゴルフボール。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]内側球体の表面から延び交差する突部構造の点に関し、本件発明1は、「格子部材」からなる「格子構造」と特定され、「複数の格子部材は互いに辺を共有して連結された複数の6角形状の領域と、複数の5角形状の領域とを形成し、前記複数の5角形状の領域は前記複数の6角形状の領域の一部と互いに辺を共有して連結されている」とされているのに対し、甲第1号証発明の突部構造は「突条部材」からなるものであるが「格子構造」とは特定されておらず、「突条部材」についても、「複数の相互に連結した」と特定されるにとどまる点。
[相違点2]本件発明1は「ディンプルを伴わない」と特定されているのに対し、甲第1号証発明では、ディンプルを伴わないことが明示されていない点。
[相違点3]突条部材の底部から頂部までの距離の範囲に関し、本件発明1は「0.0127cm?0.0254cm(0.005in?0.010in)」と特定されているのに対し、甲第1号証発明は「0.01mm以上1.0mm以下であり、より好ましくは0.1?0.8mm、更に好ましくは0.2?0.7mmとすることが好ましい」ものである点。
[相違点4]第1の凹部分と第2の凹部分と、前記第1の凹部分と第2の凹部分の間に設けられた凸部分の曲率半径に関し、本件発明1は「前記第1の凹部分と第2の凹部分は0.38cm?0.51cm(0.150in?0.200in)の範囲の曲率半径を持ち、前記凸部分は0.07cm(0.0275in)?0.0889cm(0.0350in)の曲率半径を持ち」と特定されているのに対し、甲第1号証発明では、そのように特定されてはいない点。

(2)判断
<相違点1及び相違点2についての検討>
ア 甲第1号証発明は複数本の大円に沿う突条部を有しており、球面の大円に沿う突条部を複数本設ければ突条部同士が交差する、即ち、格子となることは当業者に自明である。
イ また、甲第1号証発明の突条部は、「1本だけに限られず、複数本、例えば2?30本、特に2?15本形成することがシンメトリー性の点から好ましく、大円に沿った周のうち一部であってもよいし、大円から若干はずれてもよいもの」であるから、複数本の突条部を大円に沿って設けることにより、球面を複数の多角形の領域に区分することができるものである。
してみると、甲第1号証発明の複数本の突条部は、本件発明1の「複数の格子部材は複数の6角形状を形成している」と、「複数の突条部材は複数の多角形状を形成している」点で共通している。
ウ しかしながら、甲第1号証発明において、球面の大円に沿う突条部を複数本設けることにより、「互いに辺を共有して連結された複数の6角形状の領域と、複数の5角形状の領域とを形成し、前記複数の5角形状の領域は前記複数の6角形状の領域の一部と互いに辺を共有して連結されている」構成を得ることはできない。
エ 甲第2号証には、「互いにランドを共有して連結された複数の六角形ディンプルと、複数の五角形ディンプルとを形成し、前記複数の五角形ディンプルは前記複数の六角形ディンプルの一部と互いにランドを共有して連結されている」構成が記載されているから、「互いに辺を共有して連結された複数の6角形状の領域と、複数の5角形状の領域とを形成し、前記複数の5角形状の領域は前記複数の6角形状の領域の一部と互いに辺を共有して連結されている」構成について記載されているということができるが、甲第2号証におけるこれらの「領域」はそもそも「ディンプル」であり、同じく甲第2号証における「辺」は、「領域」である「ディンプル」を構成するための「ランド」である。
オ そして甲第1号証発明は上記第7の1(1)で示したとおり、ディンプルを伴ってもよいものであるが、「突条部」はディンプルを構成するために設けられたものではないから甲第2号証における「ランド」に相当するものではなく、また、上記イで述べたとおり、「複数本の大円に沿う突条部」を辺として共有させることにより、複数の五角形ディンプルと複数の六角形ディンプルの一部とを連結させることができるものでもない。
カ したがって、甲第1号証発明に、甲第2号証記載の構成を適用して「ディンプルを伴わない」ことを特徴とする上記相違点1及び相違点2に係る本件発明1の構成を得ることはできず、また、ディンプルを構成するための構成ではない甲第1号証発明に記載の「突条部」に、甲第2号証記載のディンプルを構成するための構成を適用する動機付けも存在しない。
キ さらに、甲第3号証ないし甲第7号証のいずれにも、「互いに辺を共有して連結された複数の6角形状の領域と、複数の5角形状の領域とを形成し、前記複数の5角形状の領域は前記複数の6角形状の領域の一部と互いに辺を共有して連結されている」構成については、記載されていない。
したがって、甲第1号証発明において、上記相違点1及び相違点2に係る本件発明1の構成を採用することが、当業者が容易になし得たとすることはできない。

よって、相違点3ないし相違点4を検討するまでもなく、甲第1号証発明を主引用例とする無効理由1によって理由があるものとすることはできない。

9 本件発明2ないし8についての検討
本件発明2ないし8は、本件発明1の構成を有しているから、本件発明1と同様の理由により、請求人の主張は採用できない。

第8 無効理由2についての検討
1 本件発明3ないし5について
平成25年1月11日付けで補正された平成24年9月14日付け訂正請求により、訂正前の本件請求項4、5及び6は訂正後の請求項3、4及び5に訂正された(なお訂正後の請求項3の誤記は平成25年3月12日付け補正書で補正されている。)。
同じく、平成25年1月11日付けで補正された平成24年9月14日付け訂正請求により、訂正前の本件請求項7及び8は訂正後の請求項6及び7に、訂正前の本件請求項10は訂正後の請求項8に、それぞれ訂正された(なお訂正前の請求項9は削除された。)。
本件当初明細書等の段落【0044】(訂正明細書の段落【0067】)には「図15はランド領域144によって囲まれた在来のディンプル142を有する先行技術のゴルフボール140の表面を示している。ランド領域144は先行技術のゴルフボール140の最大範囲を示している。本発明のゴルフボール20と比較するため、先行技術のゴルフボール140の最大範囲144と球面130’の間の体積は0.00213立方インチである。本発明のゴルフボール20において、0.004インチ、0.006インチ、0.008インチにおけるそれぞれの球面132,134,136は、0.0023074立方インチ、0.0042164立方インチ、0.0065404立方インチの体積をそれぞれ有している。一方、先行技術140におけるゴルフボール140の、0.004インチ、0.006インチ、0.008インチにおけるそれぞれの球面132’、134’、136’の体積は、0.00498立方インチ、0.00841立方インチ、0.01238立方インチである。」と記載され、1インチ=2.54cmとして換算すると、0.00213立方インチ、0.00498立方インチ及び0.00841立方インチは、それぞれ、0.0349cm^(3)、0.0816cm^(3)、0.138cm^(3)となり、本件請求項4ないし6に記載の「0.03491cm^(3)」、「0.08162cm^(3)」及び「0.13784cm^(3)」に近い値となる。
また、本件当初明細書等の段落【0044】(訂正明細書の段落【0067】)には、在来のディンプル142を有する先行技術のゴルフボール140について、そのディンプルの数や配置等の開示は全くされていない。
そうすると、本件請求項3ないし請求項5に記載の特定の範囲の体積は、数ある先行技術のゴルフボールの内の1つを単に取り上げ、その特定の範囲の体積より小さいことを規定しているのみであり、新たな技術的事項を導入したものとまではいえない。
したがって、本件発明3ないし5及びこれを引用する本件発明6ないし8は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たさないで特許されたものでなく、同法第123条第1項第1号の規定により無効とすべきものとはいえず、請求人の主張は採用できない。

2 本件発明7について
平成25年1月11日付けで補正された平成24年9月14日付け訂正請求により、訂正前の本件請求項8は訂正後の請求項7に、訂正前の本件請求項10は訂正後の請求項8に、それぞれ訂正された(なお訂正前の請求項9は削除された。)。
(1)レイノルド数及び回転数と揚力係数の関係、レイノルド数及び回転数と流体抵抗の関係について、本件当初明細書等の段落【0033】ないし【0042】(訂正明細書の段落【0055】ないし【0065】)及び【図10】ないし【図13】(訂正明細書でも【図10】ないし【図13】)に記載があり、特に段落【0037】(訂正明細書の段落【0059】)、段落【0039】(訂正明細書の段落【0061】及び【0062】)及び【0041】(訂正明細書の段落【0064】)には以下の記載がある。
a「レイノルド係数Rは、流体中を移動する物体に作用する粘性に対する慣性力の比率を大きさを表わす無次元のパラメータである。ディンプル付きのゴルフボールへの乱流はRが40000より大きいと起きる。もしRが40000より小さいと、流れは層流となる。飛行しているディンプル付きゴルフボールの回りの乱流は平滑なゴルフボールよりより遠くへ飛ぶことを可能にする。」(段落【0037】(訂正明細書の段落【0059】))
b「ここで、νは平均のゴルフボールの速度;Dはゴルフボールの直径(通常は1.68インチ);ρは空気の密度(標準気圧において0.00238slug/ft^(3));μは空気の絶対粘性(標準大気圧で3.74×10^(7)lb^(*)sec/ft^(3))。USGAが承認した1.68インチのゴルフボールで標準大気圧におけるレイノルド数が180,000は、略200ft/s又は136mphで打ち出されたゴルフボールに相当するもので、それはゴルフボールの飛行中の最高の速度となる点でである。USGAが承認した1.68インチのゴルフボールで標準大気圧におけるレイノルド数が70,000は、最高点における略78ft/s又は53mphのゴルフボールに相当し、それはゴルフボールが最も遅い速度で飛んでいる点である。最高点に到達した後は重力がゴルフボールの速度を増加させる。
図10は、タイトリストプロフェッショナル、タイトリストツアープレスティージ、マックスフライレボリューション、マックスフライHTウレタンのような在来のゴルフボールの揚力係数を示す。図11はタイトリストプロフェッショナル、タイトリストツアープレスティージ、マックスフライレボリューション、マックスフライHTウレタンのような在来のゴルフボールの流体抵抗係数を示す。」(段落【0039】(訂正明細書の段落【0061】及び【0062】))
c「在来のゴルフボールと比較すると、本発明のゴルフボールだけが高速における小さい流体抵抗と低速における大きいで揚力とが組合されたゴルフボールである。特に、図10-13に示されるように、他の如何なるゴルフボールもレイノルド数70,000で0.18より大きい揚力係数(「揚力」は「揚力係数」の誤記であることは明らかなので訂正して記載した。)、C_(L)、を有さず、また、レイノルド数180,000で0.23より小さい流体抵抗係数(「流体抵抗」は「流体抵抗係数」の誤記であることは明らかなので訂正して記載した。)C_(D)を有していない。例えば、タイトリストプロフェッショナルはレイノルド数70,000で0.18より大きい揚力係数C_(L)(「CL」は「C_(L)」の誤記であることは明らかなので訂正して記載した。)を持つが、レイノルド数180,000では流体抵抗係数(上と同じ。)C_(D)が0.23より大きい。また、マックスフライレボリューションはレイノルド数180,000で流体抵抗係数(上と同じ。)C_(D)(「CD」は「C_(D)」の誤記であることは明らかなので訂正して記載した。)が0.23(「023」は「0.23」の誤記であることは明らかなので訂正して記載した。)より大きく、レイノルド数70,000で揚力係数(上と同じ。)が0.18より小さい。」(【0041】(訂正明細書の段落【0064】))

また、【図10】ないし【図13】から、以下のことが看取できる。
d 【図10】から、タイトリストプロフェッショナルは、レイノルド数70,000で回転数が毎分2000回のときの揚力係数が0.21を上回っている。
e 【図11】から、タイトリストプロフェッショナルは、レイノルド数180,000で回転数が毎分3000回のときの流体抵抗係数が0.23強である。
f 訂正明細書におけるゴルフボールの揚力係数(【図面の簡単な説明】の項には「リフト係数」と記載されているが、「揚力係数」の誤記であることは明らかなので訂正して記載した。)とレイノルド数の関係を示す【図12】から、訂正明細書に記載のゴルフボールは、レイノルド数70,000で回転数が毎分2000回のときの揚力係数が0.17を上回っている。
g 訂正明細書におけるゴルフボールの流体抵抗係数とレイノルド数の関係を示す【図13】から、訂正明細書に記載のゴルフボールは、レイノルド数180,000で回転数が毎分3000回のときの流体抵抗係数が0.24を下回っている(【図13】の縦軸が「揚力係数」とあるが「流体抵抗係数」の誤記であることは明らかである。)。

上記cから、レイノルド数70,000で0.18より大きい揚力係数、レイノルド数180,000で0.23より小さい流体抵抗係数のゴルフボールを得ることを目指していることが窺え、従来のゴルフボールであるタイトリストプロフェッショナルについて「レイノルド数70,000で0.18より大きい揚力係数C_(L)を持つが、レイノルド数180,000では流体抵抗係数C_(D)が0.23より大きい」と記載されているが、【図10】ないし【図13】のグラフから、訂正明細書記載のゴルフボールは、レイノルド数70,000で0.17より大きい揚力係数であるといえても0.18より大きい揚力係数であるか否かは明らかではなく、レイノルド数180,000で0.24より小さい流体抵抗係数であるといえても0.23より小さい流体抵抗係数であるか否かは明らかでないから、【図10】ないし【図13】のグラフからみる限りにおいて目指している数値のいずれも満たしておらず、揚力係数では、前記数値を満たしており、流体抵抗係数でも前記数値に近い値である従来のゴルフボールであるタイトリストプロフェッショナルに比べ、却って悪い結果が示されている。
そうすると、該両方の数値を満たすゴルフボールの実施例は、一例も記載されていないことになるが、両数値はいずれも従来のタイトリストプロフェッショナルでほぼ達成されている数値にすぎないものであることに鑑みれば、【図10】ないし【図13】のグラフから両方の数値を満たすゴルフボールの実施例を読み取ることができないからといって、請求項7の数値限定が、直ちに新たな技術的事項を導入したものであるとまではいえない。
したがって、本件発明7及びこれを引用する本件発明8は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たさないで特許されたものでなく、同法第123条第1項第1号の規定により無効とすべきものとはいえず、請求人の主張は採用できない。

第9 無効理由3についての検討
1 本件発明3ないし5について
上記第8の1で既に検討したように、本件請求項3ないし請求項5に記載の特定の範囲の体積は、数ある先行技術のゴルフボールの内の1つを単に取り上げ、その特定の範囲の体積より小さいことを規定しているのみであり、訂正明細書の段落【0067】には、先行技術のゴルフボールの特定の範囲の体積が実質的に記載されているから、本件発明3、4及び5は、発明の詳細な説明の項に記載したものではないとまではいえない。
したがって、本件発明3ないし5及びこれを引用する本件発明6ないし8は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないで特許されたものでなく、同法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものとはいえず、請求人の主張は採用できない。

2 本件発明7について
上記第8の2で既に検討したように、請求項7に記載の揚力係数及び流体抵抗係数の数値は、単なる目標値にすぎず、訂正明細書の段落【0064】には、揚力係数及び流体抵抗係数の目標値が記載されているから、本件発明7は、発明の詳細な説明の項に記載したものではないとまではいえない。
したがって、本件発明7及びこれを引用する本件発明8は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないで特許されたものであるから、同法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものとはいえず、請求人の主張は採用できない。

第10 当審の無効理由についての検討
上記第5の1(2)で既に検討したように、平成25年1月11日付けで補正された平成24年9月14日付け訂正請求により、「格子部材」は、「互いに辺を共有して連結された複数の6角形状の領域と、複数の5角形状の領域とを形成し、前記複数の5角形状の領域は前記複数の6角形状の領域の一部と互いに辺を共有して連結されている」と明確に記載されたものであるから、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2ないし8が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないということはできない。

第11 むすび
請求人の主張する無効理由、当審で通知した無効理由についての当審の判断は、以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法並びに当審で通知した無効理由によっては、本件特許を無効とすることができない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
管状格子パターンを有するゴルフボール
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面を有し、4.06cm?4.32cm(1.60in?1.70in)の範囲の直径を有する内側球体と、
前記内側球体の表面から延びる格子構造であって、該格子構造は複数の相互に連結した格子部材からなり、各格子部材は、第1の凹部分と第2の凹部分と、前記第1の凹部分と第2の凹部分の間に設けられた凸部分を有する曲線の断面を持ち、前記凸部分は頂部を有し、前記格子部材の底部から前記頂部までの距離が0.0127cm?0.0254cm(0.005in?0.010in)の範囲であり、
前記第1の凹部分と第2の凹部分は0.38cm?0.51cm(0.150in?0.200in)の範囲の曲率半径を持ち、前記凸部分は0.07cm(0.0275in)?0.0889cm(0.0350in)の曲率半径を持ち、
前記相互に連結された格子部材の頂部はゴルフボールの最外部であり、
前記複数の格子部材は互いに辺を共有して連結された複数の6角形状の領域と、複数の5角形状の領域とを形成し、前記複数の5角形状の領域は前記複数の6角形状の領域の一部と互いに辺を共有して連結されている、
ディンプルを伴わないゴルフボール。
【請求項2】
ゴルフボールはポリウレタン材料のカバーを持ち、前記内側球体の直径は4.24cm(1.67in)以上である請求項1に記載のゴルフボール。
【請求項3】
ゴルフボールの最外部から0.005cmの範囲の体積は0.03491cm^(3)未満である請求項1又は2に記載のゴルフボール。
【請求項4】
ゴルフボールの最外部から0.0102cmの範囲の体積は0.08162cm^(3)未満である請求項1又は2に記載のゴルフボール。
【請求項5】
ゴルフボールの最外部から0.0152cmの範囲の体積は0.13784cm^(3)未満である請求項1又は2に記載のゴルフボール。
【請求項6】
前記ゴルフボールは、ソリッドコア、中空コア又は流体コアのいずれかを持つ請求項1乃至5のいずれかに記載のゴルフボール。
【請求項7】
レイノルド数が70,000で回転数が毎分2000回のときの揚力係数が0.18以上であり、レイノルド数が180,000で回転数が毎分3000回のときの流体抵抗が0.23未満である請求項1乃至6のいずれかに記載のゴルフボール。
【請求項8】
ゴルフボールの表面の全体が複数の相互に連結された格子部材と内側球体によって画成されている請求項1乃至7のいずれかに記載のゴルフボール。
【発明の詳細な説明】
【0001】
(技術分野)
本発明は、ゴルフボールの空気力学的表面パターンに関する。特に、本発明は格子構造と内側球体を有するゴルフボールに関する。
【0002】
(背景技術)
ゴルファーは、1800年代には窪みのあるゴルフボールは滑らかな表面のものより良く飛ぶということを認識していた。遅くとも1860年代には手で打ったグッタペルカゴルフボールを購入することはでき、ブランブル(窪みというよりもむしろでこぼこ状)を有するゴルフボールは1800年代から1908年までは流行していた。1908年に、英国人のウィリアムテイラーはぎざぎざのついたゴルフボールについて英国の特許を受け、そのボールはでこぼこ状のゴルフボールよりよくしかも正確に飛んだ。エー・ジー・スポルディング・アンド・ブロス(A.G.Spalding & Bros)は、特許権(1918年に発行された米国特許第1,286,834号に具体化されている)を購入し、テイラーディンプル(TAYLOR dimple)を特徴付けるグローリー(GLORY)ボールを導入した。1970年代まではグローリーボール及び他のディンプルを持つボールは同一のパターン、ATTIパターンで同一のサイズの336のディンプルを持っていた。ATTIパターンは八角形パターンで、同心状の8つの直線列に分けられ、ゴルフボールの成形業者にちなんで名づけられたものである。
【0003】
この6年間の間のゴルフボールの表面に関する改良は、ダンロップのためにメッシュ状パターンを発明したアルバートペンフォルドによるものだけである。このパターンは1912年に発明され1930年代まで受け入れられていた。メッシュパターンとディンプルは1935年発効されたヤング(Young)の米国特許第2,002,726号「ゴルフボール」に開示されている。
【0004】
一般の使用者に好意をもって受け入れられている伝統的なゴルフボールは、円形の断面を有する複数のディンプルを有する球体である。この伝統的なものを打破する多くのゴルフボールが開示されたが、これらの伝統的でないゴルフボールの大部分は商業的には成功しなかった。
【0005】
これらの伝統的でないゴルフボールの大部分はいまだに米国ゴルフ協会(“USGA”)及びセントアンドリウスロイヤルエイシャントゴルフクラブ(“R&A”)のゴルフ規則に固執しようとしている。このゴルフ規則の付則IIIに規定されるように、ボールの重量は1.620オンスアバダポイズ(avdp)を(45.93g)超えてはならず、ボールの直径は1.680インチ(42.67mm)より小さくなく、温度23±1℃で行われるテストで、ランダムの場所から選択された100個のうちから25個以下のボールが1.680インチのリングゲージを通過し、球対称のボールと異なる特性を持つように意図的に改変されたものでないものとされている。一つの例として、シモサカの米国特許第5,916,044号「ゴルフボール」はUSGAとR&Aの限度である直径1.68インチ(42.67mm)に適合するように突起を利用することが開示されている。シモサカの特許は表面から0.001?1.0mmの高さを持ついくつかの突起の列を持つ複数のディンプルを持つゴルフボールを開示している。したがって、表面の直径は42.67mm以下である。
【0006】
伝統的なゴルフボールでない他の例は、パケット他の米国特許第4,836,552号「短距離ゴルフボール」で、短い距離のコースでプレーするための伝統的なゴルフボールの飛距離の半分の飛距離にするためディンプルの替わりにでこぼこを持ったゴルフボールを開示している。
【0007】
他の伝統的でないゴルフボールはポックリントン(Pocklington)の米国特許第4,787,638号「ゴルフボール」で、各ディンプル内に隆起した分部を有するゴルフボールを開示し、また、幾何学的形状が四角形、ダイアモンド形状や五角形のように変化するディンプルを開示している。ポックリントンの各ディンプルの隆起した部分はディンプルの全体の体積を調節するのに役立つ。
【0008】
他の例のコバヤシの米国特許第4,787,638号「ゴルフボール」は、各ディンプル内にぎざぎざが形成されたディンプルを持つゴルフボールが開示されている。コバヤシのディンプル内のぎざぎざは、飛距離を増すため、低速における空気圧による吸引を抑制するためのものである。
【0009】
さらに他の例としてトレッドウェル(Treadwell)の米国特許第4,830,378号「均一なランド形状を持つゴルフボール」があり、ゴルフボールが飛行しているとき空気流の境界層をとらえるため表面に滑らかな帯とラフな帯を有するゴルフボールを開示している。
【0010】
アオヤマの米国特許第4,830,378号「均一なランド形状を持つゴルフボール」は三角形のディンプルを持つゴルフボールを開示している。アオヤマの平坦なランド領域の総計はゴルフボールの表面の20%を越えず、この特許の目的はディンプルではなく均一なランド形状を最適化することにある。
【0011】
ディンプルの形状の他のバリエーションについて、ステイフェル(Steifel)の米国特許第5,890,975号「ゴルフボールとでディンプルの形成方法」に記載されている。ステイフェルのいくつかのディンプルは断面が円形の替わりに楕円形を細長い形状である。細長いディンプルは表面をカバーする領域を増やすことを可能とする。ステイフェルの米国デザイン特許第406,623号は全てが細長いディンプルを持っている。
【0012】
このテーマの変形としてモリヤマの米国特許第5,722,903号「ゴルフボール」は伝統的なディンプルと楕円形のディンプルを持つゴルフボールを開示している。
【0013】
伝統的でない更なる例として、シャウ(Shaw)他の米国特許第4,722,529号「ゴルフボール」は空気力学上の改良を行うためのディンプルと30のダンベルの形状のはげた区画を有するゴルフボールを開示している。
【0014】
他の伝統的でないゴルフボールの例はキャドミガ(Cadomiga)の米国特許第5,470,076号「ゴルフボール」があり、複数のディンプルの各々は追加的な凹所を持つことを開示している。
【0015】
キャドミガの大小の凹所はゴルフボールの飛行中に小さい空気の軌跡を作ると信じられている。
【0016】
オカ他の米国特許第5,143,377号は円形と非円形のディンプルを開示している。非円形のディンプルは正方形、正八角形、正六角形であり、オカのゴルフボールの332のディンプルのうちの少なくとも40%を占める。これらのオカの非円形のディンプルは空気の乱流を起こすために周囲から空気を追い出す2重のスロープを持っている。
【0017】
マシン(Machin)の米国特許第5,377,989号「イソダイアメトリックのディンプルを持つゴルフボール」は飛行中のゴルフボールに作用する吸引力を減少するための奇数の曲線の側面と円錐からなるディンプルを持つゴルフボールを開示している。
【0018】
ラヴァリー(Lavallee)の米国特許第5,356,150号はゴルフボールの表面のディンプルがカバーする領域を最大にするための重なる細長いディンプルを開示している。
【0019】
オカ他の米国特許第5,338,039号は少なくとも40%のディンプルが多角形であるゴルフボールを開示している。オカのゴルフボールの形状は、五角形、六角形及び八角形である。
【0020】
先行技術はゴルフボールの表面について多くの変形例を提供しているが、低速において空気の境界層を捕捉する一方、高速時には空気抵抗を少なくするために必要とする最小の体積の表面を持つゴルフボールに対する要求が残されている。
【0021】
(発明の開示)
本発明はUSGAの要件を満たすゴルフボールを提供し、より大きな距離を得るための必要な乱流を生じさせるため、飛行中にゴルフボールの周りを取り囲む空気の境界層を捕捉する最小のランド領域を提供することを可能とする。
【0022】
本発明は、ゴルフボールに、内側球体の表面の管状格子パターンを与えることによりこれを達成することを可能にしている。
【0023】
本発明の一つの態様は、表面を有する内側球体と外側球体を画定する複数の格子部材を有するゴルフボールである。各格子部材は外側球体を画定するゴルフボールの中心から最も離れた点において頂部を有する隆起した断面形状を持つ。複数の格子部材はゴルフボール上に所定のパターンを形成するように互いに連結されている。
【0024】
ゴルフボール上の複数の格子部材は内側球体表面の20%から80%をカバーしている。複数の格子部材の各々の頂部は0.00001インチより小さい幅を有している。内側球体の直径は少なくとも1.67インチであり、連結された複数の格子部材の頂部の高さは内側球体の表面から少なくとも0.005インチである。ゴルフボールは内側球体上に複数の円滑な部分を有し、その円滑な部分と複数の格子部材は内側球体の全体の表面をカバーしている。
【0025】
(図面の簡単な説明)
図1は本発明のゴルフボールの赤道を見た図である。
【0026】
図2は図1のゴルフボールの極を見た図である。
【0027】
図3は図1の部分拡大図である。
【0028】
図4は図3の部分拡大図である。
【0029】
図4Aは本発明のゴルフボールの表面の断面図で仮想球体として示される外側球体を示す図である。
【0030】
図5は本発明によるゴルフボールの格子部材の一実施例の断面を示す図である。
【0031】
図6は本発明のゴルフボールの他の実施例による格子部材の断面を示す図である。
【0032】
図6Aは格子部材の各頂部の幅を示す図6の平面図である。
【0033】
図7は本発明のゴルフボールの格子部材の一実施例を部分的に示した図である。
【0034】
図8は本発明のゴルフボールの好ましい実施例の格子部材の正面図である。
【0035】
図9は他の分離ラインを示す本発明のゴルフボールの好ましい実施例を示す図である。
【0036】
図9Aは図9のゴルフボールの斜視図である。
【0037】
図9Bは図9のゴルフボールの極を示す図である。
【0038】
図9Cは正六角形の正五角形状へのグループ化を示す図である。
【0039】
図10は伝統的なボールのリフト係数(揚力係数)とレイノルド数の関係を示すグラフである。
【0040】
図11は伝統的なボールの流体抵抗係数とレイノルド数の関係を示すグラフである。
【0041】
図12は本発明のゴルフボールの4個の異なるバックスピンについてリフト係数とレイノルド数の関係を示すグラフである。
【0042】
図13は本発明のゴルフボールの4個の異なるバックスピンについて流体抵抗係数とレイノルド数の関係を示すグラフである
図14は本発明の小さい体積の特徴を示す本発明によるゴルフボールの表面の拡大図である。
【0043】
図15は本発明の小さい体積の特徴と比較するための先行技術のゴルフボールの表面を拡大図である。
【0044】
図16は最小体積のチャートである。
【0045】
(発明を実施するためのベストモード)
図1-4に示されるように、ゴルフボールは全体として20で示されている。ゴルフボールはツーピースでも、スリーピースでも又多層のものであってもよい。更に、スリーピースゴルフボールは、糸巻き層、あるいはソリッド境界層を持っていてもよい。さらに、ゴルフボール20のコアは、ソリッドでも、中空のものでも、ガスや液体のような流体で満たされたものでもよい。好ましいカバーは熱硬化性のポリウレタン材料からなる。しかしながら、当業者であれば本発明の範囲と精神を離れない範囲で他の材料が使用できることは理解できるであろう。ゴルフボール20はベースコート及び/又はトップコートで仕上げられる。
【0046】
ゴルフボール20は内側球体表面22を有する球体21を持っている。ゴルフボール20は、また、第1の半球26と第2の半球28に分ける赤道24を有している。第1の極30は第1の半球26の赤道24から経線の円弧に沿って90度の点に位置している。第2の極32は、第2の半球28の赤道24から経線の円弧に沿って90度の点に位置している。
【0047】
内側球体21の表面22に下がるように複数の格子部材40が存在する。好ましい実施例において、格子部材40は管状である。しかしながら、当業者であれば格子部材40は他の同様な形状でもよいことは理解できるであろう。格子部材は互いに連結されていて、内側球体の表面上に格子構造42を形成している。連結された格子部材40は内側球体21の表面22を区画された領域を囲む複数の多角形を形成している。これらの区画された連結された領域44の大部分は六角形の連結された領域44aで、いくつかの五角形の連結された領域44b,いくつかの八角形連結された領域44及びいくつかの四辺形の連結された領域を44dを伴っている。図1-4の実施例においては、380個の多角形が存在している。好ましい実施例では、複数の格子部材40の各々は少なくとも他の格子部材と連結している。各格子部材40は頂部46において少なくとも二つの他の格子部材と対面している。頂部46の大部分は三つの格子部材40と一致している。しかしながら、いくつかの頂部46aは四つの格子部材と一致している。これらの頂部46aはゴルフボールの赤道に位置している。各格子部材の高さは0.005-0.01インチの範囲であり、これにより、少なくとも1.68インチの外側球体を画定している。
【0048】
本発明の好ましい実施例は、複数の格子構造40の各ラインだけが1.68インチの球体の面に存在するため、ランド領域をほとんどゼロに減少している。より、特定的には、伝統的なゴルフボールのランド領域は、USGAとR&Aに適合するゴルフボールのために少なくとも1.68インチの球体を形成している。このランド領域は、伝統的なゴルフボールの球体の表面に凹まされたディンプルによって最小にされ、この結果、ゴルフボールの表面のディンプルのないランド領域をもたらしている。しかしながら、本発明によるゴルフボール20は、ゴルフボール20の外側球体のランド領域を画定する各格子部材40の頂部50ラインだけを有している。
【0049】
在来のゴルフボールは飛んでいるゴルフボールの表面の境界層をディンプルが捕捉し、より大きい浮揚と流体抵抗を抑制するようにに設計されている。本発明のゴルフボール20は飛んでいるゴルフボール20の表面の周りに空気の境界層を捕捉する管状格子構造を有する。
【0050】
図4Aに示されるように、線45で示される1.68インチの外側球体は格子部材40と内側球体21を包囲している。各格子部材の底から頂部50まで測定された格子構造42の体積は1.68インチの外側球体と内側球体21の間の小さい体積である。好ましい実施例においては、頂部50は1.68インチの外側球体上にある。したがって、ゴルフボール20の全体表面の90%以上、95%近くは1.68インチ外側球体より下方にある。
【0051】
図5及び6に示すように、各格子部材40の底部から頂部50までの格子部材40の距離h、h’はゴルフボール20が1.68インチの要件を満たすため、又はこれを越えるように変えることができる。例えば、内側球体の直径が1.666インチであるとすると、一方の半球26の格子部材40と対応する第2の半球28の格子部材40とが結合されて外側球体の直径の要件である1.68インチとするため、図5の格子部材40の高さhは0.007インチとなる。好ましい実施例において、図6に示すように、もし格子部材40が大きい距離h’が望まれると、内側球体はより小さい直径を持つ。したがって、図6の内側球体21の直径は1.662インチで、格子部材40の距離h’は0.009インチで、これにより1.68インチの直径の外側球体を得ることができる。図6Aに示されるように、各頂部50の幅は、頂部が格子部材40の円弧に沿って存在するため最小となる。理論的には頂部50の幅は線の幅に近づく。実際には、格子部材40の各頂部50の幅はゴルフボール20を製造するのに使用される金型の精度によって決まる。金型の精度自体は金型を形成するマスターによって決定される。実際、各線の幅は0.0001?0.001インチである。
【0052】
図5及び6に示された格子部材40の断面は円形であるが、複数の格子部材40の好ましい断面が図7及び8に示されている。この好ましい断面は、第1の凹面部54と、凸面部56と、第2の凹面部58を有する湾曲面52を有している。各格子部材40の凸面部56の半径R_(2)は好ましくは0.0275から0.0350インチの範囲である。第1及び第2の凹面部54,58の半径R_(1)は好ましくは0.150から0.200インチであり、最も好ましくは、0.175インチである。R_(ball)は内側球体の半径で、好ましくは0.831インチである。R_(OS)は外側球体の半径で好ましくは1.68である。
【0053】
本発明の好ましい実施例が図9、9A、9B、9Cに示されている。この実施例においては、ゴルフボール20は、赤道24のまわりの複数の格子部材40により画定される多角形の形状に対応する分離ライン100を有している。したがって、もし多角形が六角形であれば、分離ライン100は一つの六角形の下方半分に沿い、隣の六角形の上半分に交互にそうようになる。このようなゴルフボール20は、ここに参照として組み入れられる1999年11月18日に出願され係続中の米国特許出願第09/442,845、「ゴルフボールの金型」に開示されている。好ましい実施例では多角形のより均一性を可能とする。図9、9A、9B、9Cの実施例では、それらの12が五角形で、残りが六角形の332の多角形が存在している。
【0054】
図9に示されるように、各半球26と18は2列の六角形70、72、74,76を分離ライン100に隣接してもっている。第1の半球26の極30は図9Bに示されるように五角形44bにより囲まれる。極30の五角形44bは、円形状に増加する五角形状に六角形80,82,86,88のグループにより囲まれている。五角形のグループ90は各対応するベースにおいて、六角形44aをそれらの間に挟んで五角形44bを有している。五角形のグループ80,82,84,86,88及び90は4つの隣接する列70,72,74及び76に変形する。好ましい実施例は六角形44aと五角形44bだけを持っている。
【0055】
図10及び11は在来のゴルフボールがバックスピン2000rpm及び3000rpmのときの揚力及び流体抵抗を示している。図12及び13は本発明による4つの異なるバックスピンの場合の揚力及び吸引力を示している。飛んでいるゴルフボールに作用する力は下記の弾道式により計算される。
【0056】
【数1】

ここで、Fはゴルフボールに作用する力;FLは揚力、FDは流体抵抗;Gは重力である。式Aの揚力及び流体抵抗は下記の式により計算できる。
【0057】
【数2】

ここで、C_(L)は揚力係数、;C_(D)は流体抵抗係数;Aはゴルフボールの最大断面積;ρは空気の密度;νはゴルフボールの大気速度である。
【0058】
流体抵抗係数CD及び揚力係数CLは下記の式により計算できる。
【0059】
【数3】

レイノルド係数Rは、流体中を移動する物体に作用する粘性に対する慣性力の比率を大きさを表わす無次元のパラメータである。ディンプル付きのゴルフボールへの乱流はRが40000より大きいと起きる。もしRが40000より小さいと、流れは層流となる。飛行しているディンプル付きゴルフボールの回りの乱流は平滑なゴルフボールよりより遠くへ飛ぶことを可能にする。
【0060】
レイノルド数Rは下記の式で計算できる。
【0061】
【数4】

ここで、νは平均のゴルフボールの速度;Dはゴルフボールの直径(通常は1.68インチ);ρは空気の密度(標準気圧において0.00238slug/ft^(3));μは空気の絶対粘性(標準大気圧で3.74×10^(7)lb^(*)sec/ft^(3))。USGAが承認した1.68インチのゴルフボールで標準大気圧におけるレイノルド数が180,000は、略200ft/s又は136mphで打ち出されたゴルフボールに相当するもので、それはゴルフボールの飛行中の最高の速度となる点でである。USGAが承認した1.68インチのゴルフボールで標準大気圧におけるレイノルド数が70,000は、最高点における略78ft/s又は53mphのゴルフボールに相当し、それはゴルフボールが最も遅い速度で飛んでいる点である。最高点に到達した後は重力がゴルフボールの速度を増加させる。
【0062】
図10は、タイトリストプロフェッショナル、タイトリストツアープレスティージ、マックスフライレボリューション、マックスフライHTウレタンのような在来のゴルフボールの揚力係数を示す。図11はタイトリストプロフェッショナル、タイトリストツアープレスティージ、マックスフライレボリューション、マックスフライHTウレタンのような在来のゴルフボールの流体抵抗係数を示す。
【0063】
本発明のゴルフボール20を含む比較テストのための全てのゴルフボールは、熱硬化性のポリウレタンのカバーを有している。本発明のゴルフボールは、関連部分を参照としてここに組み入れられる、1999年7月27日に出願された米国特許第6,117,024号、「ポリウレタンカバーを有するゴルフボール」に記載されている構成を有する。しかしながら、本発明のゴルフボールとして他の材料が使用できることは当業者であれば理解できるであろう。本発明による管状の格子パターンの空気力学は、より大きな揚力と少ない空気抵抗を与え、これにより在来の同様な構成のゴルフボールより大きな距離を飛ぶゴルフボールとなる。
【0064】
在来のゴルフボールと比較すると、本発明のゴルフボールだけが高速における小さい流体抵抗と低速における大きいで揚力とが組合されたゴルフボールである。特に、図10-13に示されるように、他の如何なるゴルフボールもレイノルド数70,000で0.18より大きい揚力、C_(L)、を有さず、また、レイノルド数180,000で0.23より小さい流体抵抗C_(D)を有していない。例えば、タイトリストプロフェッショナルはレイノルド数70,000で0.18より大きい揚力係数CLを持つが、レイノルド数180,000では流体抵抗C_(D)が0.23より大きい。また、マックスフライレボリューションはレイノルド数180,000で流体抵抗CDが023より大きく、レイノルド数70,000で揚力が0.18より小さい。
【0065】
以上の点に関して、USGA及びR&Aにより承認されたゴルフ規則は、ゴルフボールの初速度を毎秒250ft(76.2m)に制限しており(初速度毎秒255の最大2%の誤差が許容される)、全体の距離が280ヤード(256m)プラス全体の距離296.8ヤードの6%の許容誤差としている。完全なUSGAのゴルフ規則はウェブページwww.usga.org.又はR&Aウエブページwww.randa.org.によって得ることができる。このように、ゴルフボールの初速度と全体距離はゴルフ規則に適合するようにこれらの制限を超えてはならない。したがって、ゴルフボール20はこれらの制限に越えることなく適合することができるようなディンプルパターンを持たなければならない。
【0066】
図14は本発明のゴルフボール20の表面の拡大図であり、ゴルフボール20の外側球体の最大の範囲から所定の距離の小さい体積を示している。より特定的には、ゴルフボール20の実施例の最も大きい範囲は、1.68インチの直径の球体面(線45で示される)上に位置する格子部材40の頂部50である。当業者であれば、他の実施例として、頂部50は、1.70インチ、1,72インチ、1.64インチ、及び1.60インチの球面上、又はゴルフボール20の最大の直径の種々の直径の球面上に位置するようにすることができることが理解できるであろう。ゴルフボール20の最大の範囲が決定されるため、本発明はこの最大のものから内側球体22に向けて小さい体積を持つようになる。例えば、線130はゴルフボール20の最大範囲から0.002インチの距離の点(中心から半径0.839インチ)で格子部材40と交差する。最も大きい球面45と球面130の間の本発明のゴルフボールの体積はたったの0.0008134立方インチである。換言すれば、ゴルフボール20の外側0.002インチ(半径0.841と0.839の間)の体積は0.0008134立方インチである。
【0067】
図15はランド区域144によって囲まれた在来のディンプル142を有する先行技術のゴルフボール140の表面を示している。ランド区域144は先行技術のゴルフボール140の最大範囲を示している。本発明のゴルフボール20と比較するため、先行技術のゴルフボール140の最大範囲144と球面130’の間の体積は0.00213立方インチである。本発明のゴルフボール20において、0.004インチ、0.006インチ、0.008インチにおけるそれぞれの球面132,134,136は、0.0023074立方インチ、0.0042164立方インチ、0.0065404立方インチの体積をそれぞれ有している。一方、先行技術140におけるゴルフボール140の、0.004インチ、0.006インチ、0.008インチにおけるそれぞれの球面132’、134’、136’の体積は、0.00498立方インチ、0.00841立方インチ、0.01238立方インチである。
【0068】
このように、更に図16及び下記の表に示すように、本発明のゴルフボール20はゴルフボール20の最大範囲から所定の距離において小さい体積を有する。この小さい体積は低速時において空気境界層を捕捉するに必要とされる最小の量であり、一方、高速時において低い空気抵抗を与える。表1の第1欄は格子部材40の頂部50であるゴルフボール20の最外点からの距離である。第2欄は最外点から内側への上記距離における830の格子部材40の個々の体積である。第3の欄は最外点から内側への上記距離における球面の全体の体積である。表2は先行技術のゴルフボール140の同様な情報である。
【表1】

【表2】

【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のゴルフボールの赤道を見た図である。
【図2】図1のゴルフボールの極を見た図である。
【図3】図1の部分拡大図である。
【図4】図3の部分拡大図である。
【図4A】本発明のゴルフボールの表面の断面図で仮想球体として示される外側球体を示す図である。
【図5】本発明によるゴルフボールの格子部材の一実施例の断面を示す図である。
【図6】本発明のゴルフボールの他の実施例による格子部材の断面を示す図である。
【図6A】格子部材の各頂部の幅を示す図6の平面図である。
【図7】本発明のゴルフボールの格子部材の一実施例を部分的に示した図である。
【図8】本発明のゴルフボールの好ましい実施例の格子部材の正面図である。
【図9】他の分離ラインを示す本発明のゴルフボールの好ましい実施例を示す図である。
【図9A】図9のゴルフボールの斜視図である。
【図9B】図9のゴルフボールの極を示す図である。
【図9C】正六角形の正五角形状へのグループ化を示す図である。
【図10】伝統的なボールのリフト係数(揚力係数)とレイノルド数の関係を示すグラフである。
【図11】伝統的なボールの流体抵抗係数とレイノルド数の関係を示すグラフである。
【図12】本発明のゴルフボールの4個の異なるバックスピンについてリフト係数とレイノルド数の関係を示すグラフである。
【図13】本発明のゴルフボールの4個の異なるバックスピンについて流体抵抗係数とレイノルド数の関係を示すグラフである
【図14】本発明の小さい体積の特徴を示す本発明によるゴルフボールの表面の拡大図である。
【図15】本発明の小さい体積の特徴と比較するための先行技術のゴルフボールの表面を拡大図である。
【図16】図16は最小体積のチャートである。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2013-04-15 
結審通知日 2013-04-18 
審決日 2013-05-09 
出願番号 特願2001-538041(P2001-538041)
審決分類 P 1 113・ 121- YA (A63B)
P 1 113・ 561- YA (A63B)
P 1 113・ 537- YA (A63B)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 吉野 公夫
特許庁審判官 東 治企
鈴木 秀幹
登録日 2007-03-02 
登録番号 特許第3924467号(P3924467)
発明の名称 管状格子パターンを有するゴルフボール  
代理人 伊東 忠重  
代理人 大貫 進介  
代理人 山口 昭則  
代理人 岡本 雄二  
代理人 佐々木 定雄  
代理人 松原 等  
代理人 佐々木 定雄  
代理人 山口 昭則  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 大貫 進介  
代理人 伊東 忠重  
代理人 伊東 忠彦  

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