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審決分類 |
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A01N 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A01N 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01N |
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管理番号 | 1280994 |
審判番号 | 不服2012-7875 |
総通号数 | 168 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-12-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-04-27 |
確定日 | 2013-10-28 |
事件の表示 | 特願2001-505749「銀、銅、又は亜鉛イオンにより効力増大したピリチオン殺生物剤」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 1月 4日国際公開、WO01/00021、平成15年 7月29日国内公表、特表2003-522734〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2000年6月23日〔パリ条約による優先権主張外国庁受理1999年6月25日及び2000年6月22日(US)米国〕を国際出願日とする出願であって、 平成22年8月25日付けの拒絶理由通知に対し、平成23年2月28日付けで意見書及び手続補正書の提出がなされ、 平成23年12月19日付けの拒絶査定に対し、平成24年4月27日付けで審判請求がなされるとともに手続補正書の提出がなされ、その後、平成24年5月29日付けで上申書の提出がなされ、 平成24年10月18日付けの審尋に対し、平成24年12月25日付けで回答書の提出がなされたものである。 第2 平成24年4月27日付け手続補正についての補正の却下の決定 〔補正の却下の決定の結論〕 平成24年4月27日付け手続補正を却下する。 〔理由〕 1.補正の内容 平成24年4月27日付け手続補正(以下「第2回目の手続補正」という。)は、 補正前の請求項1の「ナトリウムピリチオン、カリウムピリチオン、リチウムピリチオン、アンモニウムピリチオン、亜鉛ピリチオン、銅ピリチオン、カルシウムピリチオン、マグネシウムピリチオン、ストロンチウムピリチオン、銀ピリチオン、金ピリチオン、マンガンピリチオン、エタノールアミンピリチオン塩、キトサンピリチオン塩、二硫化ピリチオン塩、及びそれらの組合せからなる群から選択されている、ピリチオン塩、及び 亜鉛又は銅又は銀の塩、亜鉛又は銅又は銀の酸化物、亜鉛又は銅又は銀の水酸化物、亜鉛又は銅又は銀の硫酸塩、亜鉛又は銅又は銀の塩化物、亜鉛又は銅又は銀の金属、亜鉛又は銅又は銀の錯体、及びそれらの組合せからなる群から選択された亜鉛又は銅又は銀源、を含有し、然も、前記亜鉛又は銅又は銀源対前記ピリチオン塩の重量比が、1:300?1:25の範囲にあり、自生微生物、寄生微生物、付着微生物、バイオフイルム、及びそれらの組合せからなる群から選択された微生物に対し増大した殺生物効果を有することを特徴とする抗菌組成物。」との記載を、 補正後の請求項1の「ナトリウムピリチオン、カリウムピリチオン、リチウムピリチオン、アンモニウムピリチオン、亜鉛ピリチオン、銅ピリチオン、カルシウムピリチオン、マグネシウムピリチオン、ストロンチウムピリチオン、銀ピリチオン、金ピリチオン、マンガンピリチオン、エタノールアミンピリチオン塩、キトサンピリチオン塩、二硫化ピリチオン塩、及びそれらの組合せからなる群から選択されている、ピリチオン塩、及び 亜鉛又は銅又は銀の塩、亜鉛又は銅又は銀の酸化物、亜鉛又は銅又は銀の水酸化物、亜鉛又は銅又は銀の硫酸塩、亜鉛又は銅又は銀の塩化物、亜鉛又は銅又は銀の金属、亜鉛又は銅又は銀の錯体、及びそれらの組合せからなる群から選択された亜鉛又は銅又は銀源、を含有し、然も、前記亜鉛又は銅又は銀源対前記ピリチオン塩の重量比が、1:100?1:10の範囲にあり、自生微生物、寄生微生物、付着微生物、バイオフイルム、及びそれらの組合せからなる群から選択された微生物に対し増大した殺生物効果を有することを特徴とする抗菌組成物。」との記載に改める補正を含むものである。 2.補正の適否 上記請求項1についての補正は、補正前の請求項1の記載における「前記亜鉛又は銅又は銀源対前記ピリチオン塩の重量比が、1:300?1:25の範囲にあり」という事項を、補正後の請求項1の記載において「前記亜鉛又は銅又は銀源対前記ピリチオン塩の重量比が、1:100?1:10の範囲にあり」という事項に改める補正を含むものであって、 当該補正によって、補正前の請求項1の「1:300?1:25の範囲」に含まれない『1:25未満?1:10の範囲』が、補正後の請求項1の「1:100?1:10の範囲」に含まれることになるから、 上記請求項1についての補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものに該当しない。 なお、平成24年12月25日付けの回答書においては『当該補正は、拒絶査定において審査官殿による、『平成23年2月28付け手続補正書において、「亜鉛又は銅又は銀源対前記ピリチオン塩の重量比」を「1:300?1:25の範囲」とする補正がなされたが、当該数値範囲は当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内にないし、当業者の技術常識からみて自明な事項ともいえない。』旨のご指摘に従って当該ご指摘を解消するために出願人が採った補正であり、出願時の「1:300?50:1の範囲」内にも含まれており、限定的減縮を目的とするものであり、しかも、明細書に十分記載されている範囲であります。』との釈明がなされているが、当該補正が「限定的減縮」に該当しないことは上記のとおりである。 そして、一般に『特許法17条の2第4項4号は,「明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」と規定しているから,「明りようでない記載の釈明」を目的とする補正は,法律上,審査官が拒絶理由中で特許請求の範囲が明りようでない旨を指摘した事項について,その記載を明りようにする補正を行う場合に限られており,原告の主張する「新規事項の追加状態を解消する」目的の補正が特許法17条の2第4項4号に該当する余地はない。』とされているところ〔平成19年(行ケ)10159号判決参照。〕、 補正前の請求項1の「1:300?1:25の範囲」との記載が「誤記」ないし「明りようでない記載」であるとは認められないから、 上記請求項1についての補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第3号に掲げる「誤記の訂正」ないし同4号に掲げる「明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」を目的とするものに該当せず、 上記請求項1についての補正が、同1号に掲げる「第三十6条第5項に規定する請求項の削除」を目的とするものに該当しないことも明らかである。 したがって、第2回目の手続補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしていない。 3.まとめ 以上総括するに、第2回目の手続補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反しているから、その余のことを検討するまでもなく、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、〔補正の却下の決定の結論〕のとおり決定する。 第3 本願発明について 1.本願発明 第2回目の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?31に係る発明は、平成23年2月28日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?31に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。 2.原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、「この出願については、平成22年8月25日付け拒絶理由通知書に記載した理由1-2によって、拒絶をすべきものです。」というものであって、 平成22年8月25日付け拒絶理由通知書には、 その理由1として「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。」との理由と、 その理由2として「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」との理由が示され、 その「記」には、『<理由1-2:請求項1-5、8-16、19-42:引用文献1-2>…引用文献1には、…ピリチオン塩(ナトリウムピリチオン、亜鉛ピリチオン、MDS等)と、亜鉛化合物(酸化亜鉛等)を含む抗菌組成物が記載されており、水性コーティング…に用いることも記載されている(特許請求の範囲、実施例等)。』との指摘がなされている。 3.理由1(新規性)及び理由2(進歩性)について (1)引用文献及びその記載事項 原査定の拒絶の理由において「引用文献1」として引用された本願優先日前に頒布された刊行物の「米国特許第5883154号明細書」には、和訳にして、次の記載がある。 摘記1a:請求項1(第8欄第59行?第9欄第4行) 「塗料、接着剤、コーキング、シーラント、及びその組み合わせからなる群から選択される水性抗微生物組成物における変色の形成を抑制又は望ましくない変色を除去する方法であって、前記組成物は、ビニル、アルキッド、エポキシ、アクリル、ポリウレタン、ポリエステル、及びその組み合わせからなる群から選択される樹脂を含み、前記組成物は、鉄イオン、銅イオン、及びその組み合わせからなる群から選択される溶解した金属イオンを更に含み、そして、ピリチオンを含み、前記組成物中の前記溶解された金属イオンの量と少なくとも同じモル量の亜鉛イオンを組成物に組み入れることからなる、前記方法。」 摘記1b:第3欄第42?53行 「本発明に従い、ピリチオン並びに鉄又は銅イオンを含有する組成物に亜鉛を添加することによって、そのような組成物に別段に関与することなく、変色の問題が減少又は解消されることが、今や驚くべきことに発見された。いずれか特定の理論に拘束されることを望まないが、この変色の問題は、組成物の変色のみならず、ナトリウムピリチオンを含有する組成物中の利用可能なピリチオンを消耗させ、組成物の抗微生物効果を減少させる不溶性の鉄ピリチオンの沈殿の形成によって生じるものと信じられる。」 摘記1c:第5欄第3?11行 「典型的な塗料組成物は、当該技術において周知の、樹脂、顔料、並びに増粘剤(1種又は2種以上)、湿潤剤、及びその類似物のような各種の任意の添加剤を、抗微生物組成物に追加的に含んでいる。この樹脂は、好ましくは、ビニル、アルキッド、エポキシ、アクリル、ポリウレタン、及びポリエステル樹脂、並びにその組み合わせからなる群から選択される。この樹脂は好ましくは、塗料又は塗料基材の重量に基づき、約20%?約80%の量で使用する。」 摘記1d:第6欄第29?31行及び第8欄第40?57行 「本発明を下記の実施例により更に詳説する。特段の記載がない限り、「部」及び「%」は、各々、「重量部」及び「重量%」である。… 実施例3 水性コーティングにおけるピリチオン及び鉄イオンの存在によって生じる変色の解消のための方法 48%の水性亜鉛ピリチオンが白色塗料試料に添加され、試料中の亜鉛ピリチオンを3000ppmの水準になるよう調製した。塩化鉄が次に添加され、試料中の鉄イオンを25ppmの濃度になるよう調製した。2日間の放置後、この塗料は青みがかった色に変わったことが観察された。この時点で、0.007%(70ppm)の硫酸亜鉛が添加され、塗料は5分間混合された。更に5分間の攪拌後、この塗料は白色化し、青みがかった色はもはや際だっていなかったことが観察された。この塗料への硫酸亜鉛の添加は、亜鉛ピリチオン及び塩化鉄の追加によって形成された青色を解消した。」 (2)引用文献1に記載された発明 ア.例3発明 摘記1aの「塗料…から選択される水性抗微生物組成物…前記組成物は、…ピリチオンを含み、…亜鉛イオンを組成物に組み入れることからなる」との記載、及び 摘記1dの「実施例3 水性コーティング…試料中の亜鉛ピリチオンを3000ppmの水準になるよう調製した。…0.007%(70ppm)の硫酸亜鉛が添加され、塗料は5分間混合された。」との記載からみて、引用文献1には、 『亜鉛ピリチオン3000ppmと硫酸亜鉛70ppmを含む水性抗微生物組成物。』についての発明(以下「例3発明」という。)が記載されている。 イ.引用発明 摘記1aの「塗料…から選択される水性抗微生物組成物…であって、前記組成物は、ビニル、アルキッド、エポキシ、アクリル、ポリウレタン、ポリエステル、及びその組み合わせからなる群から選択される樹脂を含み、前記組成物は、鉄イオン、銅イオン…から選択される溶解した金属イオンを更に含み、そして、ピリチオンを含み、前記組成物中の前記溶解された金属イオンの量と少なくとも同じモル量の亜鉛イオンを組成物に組み入れることからなる」との記載からみて、引用文献1には、 『ビニル、アルキッド、エポキシ、アクリル、ポリウレタン、ポリエステル、及びその組み合わせからなる群から選択される樹脂を含み、鉄イオン又は銅イオンから選択される溶解した金属イオンを更に含み、そして、ピリチオンを含み、前記溶解された金属イオンの量と少なくとも同じモル量の亜鉛イオンを組成物に組み入れることからなる、塗料から選択される水性抗微生物組成物。』についての発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 (3)本願請求項1に係る発明について ア.本1発明 本願請求項1に係る発明(以下「本1発明」という。)は、上記『第2』の『1.補正の内容』の項において示したとおりのものである。 イ.対比 本1発明と例3発明とを対比すると、 例3発明の「亜鉛ピリチオン」は、本1発明の「ナトリウムピリチオン、カリウムピリチオン、リチウムピリチオン、アンモニウムピリチオン、亜鉛ピリチオン、銅ピリチオン、カルシウムピリチオン、マグネシウムピリチオン、ストロンチウムピリチオン、銀ピリチオン、金ピリチオン、マンガンピリチオン、エタノールアミンピリチオン塩、キトサンピリチオン塩、二硫化ピリチオン塩、及びそれらの組合せからなる群から選択されている、ピリチオン塩」に相当し、 例3発明の「硫酸亜鉛」は、亜鉛の硫酸塩としての亜鉛源であるから、本1発明の「亜鉛又は銅又は銀の塩、亜鉛又は銅又は銀の酸化物、亜鉛又は銅又は銀の水酸化物、亜鉛又は銅又は銀の硫酸塩、亜鉛又は銅又は銀の塩化物、亜鉛又は銅又は銀の金属、亜鉛又は銅又は銀の錯体、及びそれらの組合せからなる群から選択された亜鉛又は銅又は銀源」に相当し、 例3発明の「亜鉛ピリチオン3000ppmと硫酸亜鉛70ppmを含む」は、摘記1dの『特段の記載がない限り、「部」及び「%」は、各々、「重量部」及び「重量%」である』との記載を参酌するに、硫酸亜鉛と亜鉛ピリチオンの重量比が『1:約42.9』と換算されることから、本1発明の「前記亜鉛又は銅又は銀源対前記ピリチオン塩の重量比が、1:300?1:25の範囲にあり」に相当し、 例3発明の「水性抗微生物組成物」は、微生物に対して抗微生物効果を発揮する組成物であって、その「微生物」の範囲に本1発明の「自生微生物、寄生微生物、付着微生物、バイオフイルム、及びそれらの組合せからなる群から選択された微生物」が含まれることが明らかであるから、本1発明の「自生微生物、寄生微生物、付着微生物、バイオフイルム、及びそれらの組合せからなる群から選択された微生物に対し殺生物効果を有する抗菌組成物」に相当する。 してみると、本1発明と例3発明は、『亜鉛ピリチオンから選択されている、ピリチオン塩、及び亜鉛の硫酸塩から選択された亜鉛源、を含有し、然も、前記亜鉛源対前記ピリチオン塩の重量比が、1:300?1:25の範囲にあり、自生微生物、寄生微生物、付着微生物、バイオフイルム、及びそれらの組合せからなる群から選択された微生物に対し殺生物効果を有する抗菌組成物。』に関するものである点において一致し、 (α)殺生物効果が、本1発明においては「増大した」ものであるのに対して、例3発明においては「増大した」ものであるとして特定されていない点においてのみ一応相違する。 ウ.判断 上記(α)の相違点について検討する。 例3発明の「水性抗微生物組成物」は「亜鉛ピリチオン3000ppmと硫酸亜鉛70ppmを含む」ものであって、本1発明の「増大した」という『機能・特性等により表現された発明特定事項』以外の技術的事項が全く共通しているものであるから、例3発明の「水性抗微生物組成物」も本1発明と同様の『増大した殺生物効果』を有するものであると解するのが合理的であり、 詮ずるところ、本1発明の「抗菌組成物」と例3発明の「水性抗微生物組成物」の組成に一致しない点が存在しないことから、両者を「物」として区別することができない。 そして、摘記1bの「本発明に従い…亜鉛を添加することによって、…変色の問題が減少又は解消される…この変色の問題は、組成物の変色のみならず、ナトリウムピリチオンを含有する組成物中の利用可能なピリチオンを消耗させ、組成物の抗微生物効果を減少させる不溶性の鉄ピリチオンの沈殿の形成によって生じるものと信じられる。」との記載からみて、 例3発明は『組成物の抗微生物効果を減少させる問題』を解消するために硫酸亜鉛の所定量を添加するものと解せるから、例3発明において『増大した殺生物効果』が得られることは明らかである。 してみると、上記(α)の相違点については、実質的な差異であるとは認められない。 したがって、本1発明は、引用文献1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 (4)本願請求項20に係る発明について ア.本2発明 本願請求項20に係る発明(以下、「本2発明」という。)は、次に示したとおりのものである。 「(a)ビニル、アルキド、エポキシ、アクリル、ポリウレタン及びポリエステル樹脂、及びそれらの組合せからなる群から選択された溶媒樹脂系又は水を含有する基礎媒体、及び(b)ナトリウムピリチオン、カリウムピリチオン、リチウムピリチオン、アンモニウムピリチオン、亜鉛ピリチオン、銅ピリチオン、カルシウムピリチオン、マグネシウムピリチオン、ストロンチウムピリチオン、銀ピリチオン、金ピリチオン、マンガンピリチオン、エタノールアミンピリチオン塩、キトサンピリチオン塩、二硫化ピリチオン塩、及びそれらの組合せからなる群から選択されている、ピリチオン塩;及び亜鉛又は銅又は銀の塩、亜鉛又は銅又は銀の酸化物、亜鉛又は銅又は銀の水酸化物、亜鉛又は銅又は銀の硫酸塩、亜鉛又は銅又は銀の塩化物、亜鉛又は銅又は銀の金属、亜鉛又は銅又は銀の錯体、及びそれらの組合せからなる群から選択された亜鉛又は銅又は銀源;から本質的になり、然も、前記亜鉛又は銅又は銀源対前記ピリチオン塩の重量比が、1:300?1:25の範囲にあり、自生微生物、寄生微生物、付着微生物、バイオフイルム、及びそれらの組合せからなる群から選択された微生物に対し増大した殺生物効果を有する抗菌組成物を含有する殺生物剤、を含むことを特徴とする被覆組成物。」 イ.対比 本2発明と引用発明とを対比すると、 引用発明の「ビニル、アルキッド、エポキシ、アクリル、ポリウレタン、ポリエステル、及びその組み合わせからなる群から選択される樹脂」又は「水性抗微生物組成物」の「水性」は、本2発明の「(a)ビニル、アルキド、エポキシ、アクリル、ポリウレタン及びポリエステル樹脂、及びそれらの組合せからなる群から選択された溶媒樹脂系又は水を含有する基礎媒体」に相当し、 引用発明の「鉄イオン又は銅イオンから選択される溶解した金属イオン」及び「前記溶解された金属イオンの量と少なくとも同じモル量の亜鉛イオン」は、摘記1dの「塩化鉄が次に添加され」及び「硫酸亜鉛が添加され」との記載からみて、具体的には『銅の塩化物』や『亜鉛の硫酸塩』の形態で添加される『亜鉛又は銅源』を含むことが明らかであるから、本2発明の「亜鉛又は銅又は銀の塩、亜鉛又は銅又は銀の酸化物、亜鉛又は銅又は銀の水酸化物、亜鉛又は銅又は銀の硫酸塩、亜鉛又は銅又は銀の塩化物、亜鉛又は銅又は銀の金属、亜鉛又は銅又は銀の錯体、及びそれらの組合せからなる群から選択された亜鉛又は銅又は銀源」に相当し、 引用発明の「塗料から選択される水性抗微生物組成物」は、微生物に対して抗微生物効果を発揮する組成物であって、その「微生物」の範囲に本2発明の「自生微生物、寄生微生物、付着微生物、バイオフイルム、及びそれらの組合せからなる群から選択された微生物」が含まれることが明らかであって、引用発明の「ビニル、アルキッド、エポキシ、アクリル、ポリウレタン、ポリエステル、及びその組み合わせからなる群から選択される樹脂」以外の成分が本2発明の「殺生物剤」に対応するものであることが明らかであるから、本2発明の「自生微生物、寄生微生物、付着微生物、バイオフイルム、及びそれらの組合せからなる群から選択された微生物に対し殺生物効果を有する抗菌組成物を含有する殺生物剤、を含む被覆組成物」に相当する。 してみると、本2発明と引用発明は、『(a)ビニル、アルキド、エポキシ、アクリル、ポリウレタン及びポリエステル樹脂、及びそれらの組合せからなる群から選択された溶媒樹脂系又は水を含有する基礎媒体、及び(b)ナトリウムピリチオン、カリウムピリチオン、リチウムピリチオン、アンモニウムピリチオン、亜鉛ピリチオン、銅ピリチオン、カルシウムピリチオン、マグネシウムピリチオン、ストロンチウムピリチオン、銀ピリチオン、金ピリチオン、マンガンピリチオン、エタノールアミンピリチオン塩、キトサンピリチオン塩、二硫化ピリチオン塩、及びそれらの組合せからなる群から選択されている、ピリチオン塩;及び亜鉛又は銅又は銀の塩、亜鉛又は銅又は銀の酸化物、亜鉛又は銅又は銀の水酸化物、亜鉛又は銅又は銀の硫酸塩、亜鉛又は銅又は銀の塩化物、亜鉛又は銅又は銀の金属、亜鉛又は銅又は銀の錯体、及びそれらの組合せからなる群から選択された亜鉛又は銅又は銀源;から本質的になり、自生微生物、寄生微生物、付着微生物、バイオフイルム、及びそれらの組合せからなる群から選択された微生物に対し殺生物効果を有する抗菌組成物を含有する殺生物剤、を含む被覆組成物。』に関するものである点において一致し、 (α)殺生物効果が、本2発明においては「増大した」ものであるのに対して、引用発明においては「増大した」ものであるとして特定されていない点、及び (β)亜鉛又は銅又は銀源対ピリチオン塩の重量比が、本2発明においては「1:300?1:25の範囲」に特定されているのに対して、引用発明においては当該『重量比』が特定されていない点、 の2つの点においてのみ一応相違する。 ウ.判断 上記(α)及び(β)の点について検討する。 先ず、上記(β)の点について、摘記1dの「実施例3」の具体例においては、引用発明の「ピリチオン」に対応するものとして「亜鉛ピリチオンを3000ppm」と、引用発明の「鉄イオン又は銅イオンから選択される溶解した金属イオン」に対応するものとして「鉄イオンを25ppm」と、引用発明の「前記溶解された金属イオンの量と少なくとも同じモル量の亜鉛イオン」に対応するものとして「0.007%(70ppm)の硫酸亜鉛」を配合してなるものであるから、 引用発明の「実施例3」の具体例の場合では、その『亜鉛又は銅又は銀源対ピリチオン塩の重量比』が、亜鉛の硫酸塩としての亜鉛源(70ppm)とピリチオン塩(3000ppm)の重量比として『1:約42.9』と換算され、 当該「実施例3」における亜鉛の金属イオンとして配合量は、70÷161.47×65.38=28.3ppmと換算されるところ、 当該「実施例3」の鉄イオンの代わりに銅イオンを同じ25ppmの量で配合した想定例の場合では、その『亜鉛又は銅又は銀源対ピリチオン塩の重量比』が、亜鉛の硫酸塩(又は亜鉛の金属)並びに銅の金属の組合せとしての亜鉛及び銅源(95ppm又は53.3ppm)とピリチオン塩(3000ppm)の重量比として『1:約31.6(又は約56.3)』と換算されるから、 引用発明は、その「亜鉛又は銅又は銀源対ピリチオン塩の重量比」が「1 :300?1:25の範囲」である場合のものを明らかに含んでいる。 してみると、上記(β)の点について、実質的な差異があるとは認められない。 また、例えば、特開平6-134227号公報(周知例A)の段落0006の「本発明の処理液中の抗菌成分および水性エマルション樹脂の含有量は特に制限はされないが酸化亜鉛は0.01?10重量%、ジンクピリチオン及び/又はウンデシレン酸亜鉛は0.005?5重量%、また水性エマルション樹脂(固形)分は10重量%以下であることが好ましい。」との記載や、特開平6-9352号公報(周知例B)の請求項5及び段落0031の「b.ジンクピリチオンを約0.1%?約2%;…d.有機酸の亜鉛塩、無機酸の亜鉛塩、酸化亜鉛、水酸化亜鉛およびそれらの混合物から成る群から選ばれた保存剤安定化剤を約0.01%?約0.1%;…を含んで成る水性フケ防止シャンプー。…亜鉛化合物の単独使用では殺菌効果が低いのに対して、…亜鉛化合物を併用した場合には、殺菌効果が顕著で、その明瞭な相剰作用が認められる。」との記載にあるように、 亜鉛源とピリチオン塩の重量比を殺菌効果の観点から本2発明の「1:300?1:25の範囲」を含む広範な範囲で最適化することは普通に知られている。 してみると、上記(β)の点については、当業者にとって容易に設定可能な設計事項にすぎないことと認められる。 次に、上記(α)の点について、引用文献1には、ピリチオンを含有する組成物に亜鉛を添加することによって、組成物中の利用可能なピリチオンが消耗され、組成物の抗微生物効果が減少する問題を解消できることが示唆さ れているところ(摘記1b)、 引用発明は、ピリチオンを含有する組成物に亜鉛を添加しているものであるから、組成物の抗微生物効果が減少する問題が解消され、亜鉛を添加していない場合に比べてその殺生物効果が「増大する」ことが明らかである。 してみると、上記(α)の点について、実質的な差異があるとは認められない。 そして、本2発明の作用効果について検討するに、 原査定の備考欄においては『引用文献3には、亜鉛化合物と、ピリチオン塩(ピリチオンナトリウム等)や亜鉛ピリチオンを包含する水性被膜組成物において、…ピリチオン塩対金属イオン含有化合物が約1:10?10:1となる…組成物も開示されている…引用文献1-3には、金属イオン源対ピリチオン塩の重量比について「1:300?1:25」との数値範囲自体が記載されていない点で一応相違するものであるとしても、…該数値範囲における上下限値自体に特段の臨界的意義も認められない。』との指摘がなされているところ、 本願明細書の段落0052の「ピリチオン又はピリチオン塩に対する亜鉛又は銅又は銀塩の有用な量は、約1:300?約50:1、一層好ましくは約1:100?約1:10、一層好ましくは約1:100?約1:1の範囲にある。夫々の比は、重量対重量基準で表されている。」との記載、 同段落0079の「FIC指数は、1/256?≧50/1のZn(II)/ピリチオン範囲で<1.0であった。」との記載、及び 同段落0121の「それらの結果は亜鉛(II)イオン対ピリチオンの重量比が50:1?1:50であるピリチオンと亜鉛(II)イオンとの混合物が、数日の処理を超えた或る時点で金属加工用流体中の細菌及び真菌に対する予想外に増大した殺微生物活性を実証したことを示している。」等の記載からみて、 本2発明の「1:300?1:25の範囲」に設定することに特段の臨界的意義は認められず、本2発明の作用効果が、他の範囲〔就中、上記引用文献3(国際公開第97/01397号)の請求項1に記載された範囲〕に設定した場合に比べて、格別予想外の顕著なものであるとは認められない。 いずれにせよ、引用発明の具体例に相当する「実施例3」のものは、本2発明の「1:300?1:25の範囲」を満たす『亜鉛又は銅又は銀源対ピリチオン塩の重量比』の組成にあるものであるから、 本2発明に引用発明を超える顕著な作用効果があるとは認められない。 以上総括するに、原査定の備考欄の『よって、本願補正後の請求項1-31に係る発明は、依然として引用文献1-3に記載された発明であるか、もしくは、引用文献1-3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。』との指摘は妥当なものである。 したがって、本2発明は、引用文献1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、若しくは、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。 4.むすび 以上のとおり、本1発明及び本2発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、若しくは、本2発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の事項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-06-04 |
結審通知日 | 2013-06-07 |
審決日 | 2013-06-18 |
出願番号 | 特願2001-505749(P2001-505749) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A01N)
P 1 8・ 113- Z (A01N) P 1 8・ 572- Z (A01N) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 高橋 直子 |
特許庁審判長 |
中田 とし子 |
特許庁審判官 |
木村 敏康 村守 宏文 |
発明の名称 | 銀、銅、又は亜鉛イオンにより効力増大したピリチオン殺生物剤 |
代理人 | 安藤 克則 |
代理人 | 池田 幸弘 |
代理人 | 浅村 皓 |
代理人 | 浅村 肇 |