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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1281175
審判番号 不服2013-2541  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-02-09 
確定日 2013-11-07 
事件の表示 特願2006-240612「反射防止フィルム用積層ポリエステルフィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 3月21日出願公開、特開2008- 64882〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年9月5日の出願であって、平成23年8月22日及び平成24年6月28日に手続補正がなされ、平成25年1月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年2月9日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。
なお、審判請求人は、当審における平成25年7月5日付け審尋に対して、同年8月4日付けで回答書を提出している。

第2 平成25年2月9日付け手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成25年2月9日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正の内容
平成25年2月9日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明についてするもので、特許請求の範囲については、本件補正前(平成24年6月28日付け補正後のもの)に、

「【請求項1】
少なくとも一軸方向に延伸されたポリエステルフィルムの少なくとも片面に、少なくとも1種のカチオンポリマーと、アクリル樹脂またはウレタン樹脂とを含有する塗布層を有し、当該塗布層の塗布量(乾燥後)が0.001?0.05g/m^(2)の範囲であり、当該塗布層にハードコート層を設け剥離させたときの剥離面積が20%未満であり、フィルムのヘイズが2.0%以下であることを特徴とする反射防止フィルム用積層ポリエステルフィルム。」とあったものを、

「【請求項1】
少なくとも一軸方向に延伸されたポリエステルフィルムの少なくとも片面に、少なくとも1種のカチオンポリマーを50?90重量%と、アクリル樹脂またはウレタン樹脂とを含有する塗布層を有し、当該塗布層の塗布量(乾燥後)が0.001?0.05g/m^(2)の範囲であり、当該塗布層にハードコート層を設け剥離させたときの剥離面積が20%未満であり、フィルムのヘイズが2.0%以下であることを特徴とする反射防止フィルム用積層ポリエステルフィルム。
【請求項2】
ウレタン樹脂を10?50重量%含有する塗布層を有する請求項1に記載の反射防止フィルム用積層ポリエステルフィルム。」と補正するものである。(下線は審決で付した。以下同じ。)

2 本件補正の目的
(1)上記1の補正は、次のア及びイからなる。
ア 本件補正前の請求項1に記載されていた発明特定事項である「カチオンポリマー」の塗布層中での含有量を「50?90重量%」と限定する。

イ 請求項を1つ増加して請求項2を新たに設ける。

(2)上記(1)イの補正内容は、請求項を増加するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号の請求項の削除を目的とするものではなく、同法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものではなく、同法第17条の2第4項第3号の誤記の訂正を目的とするものではなく、同法第17条の2第4項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものでもない。

(3)したがって、上記(1)イの補正内容を含む本件補正後の特許請求の範囲に係る本件補正は、全体として、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号ないし第4号に掲げるいずれの事項をも目的とするものではない。
以上のとおりであるから、本件補正は、同法第17条の2第4項の規定に違反するものである。

3 補正却下の決定についてのまとめ
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成24年6月28日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲及び明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された上記「第2〔理由〕1」に本件補正前の請求項1として示したとおりのものである。

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された「本願の出願前に頒布された刊行物である特開2004-177718号公報(以下「引用例」という。)」には、次の事項が記載されている。
(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は離型フィルムに関して、詳しくは液晶ディスプレイ(以下、LCDと略記する場合がある)に用いられる偏光板、位相差板等の液晶構成部材製造時に用いる粘着剤層保護用離型フィルムとして、オリゴマー析出量が極力少なく、帯電防止性、透明性良好であり、光学的評価を伴う検査が容易な離型フィルムを提供することにある。
【0002】
【従来の技術】
従来、ポリエステルフィルムを基材とする離型フィルムが液晶偏光板、位相差板等の液晶構成部材製造時に用いる粘着剤層保護用に使用されているが、高温下、離型層表面に析出するオリゴマーが製造工程内において各種不具合を生じることが問題となっている。液晶偏光板の製造工程は、粘着剤層を介して離型フィルムと偏光板が貼り合わされてロール状に巻き取られる工程等からなるが、粘着剤塗布後の乾燥工程を経てオリゴマーが析出するものと考えられる。離型層表面に析出するオリゴマーは貼り合わせている相手方粘着剤層表面へ転着し、オリゴマーの付着した粘着剤層付きの偏光板をガラス基板と貼り合わせてLCDを製造した場合、得られるLCDの輝度が低下する等の不具合を生じる場合がある。
【0003】
近年、LCDの視認性向上を目的として表示画面の輝度をより高くする傾向にあり、上記不具合が深刻な問題となってきている。また、生産性向上に伴う製造コストの低減を図ることを目的として、製造工程における高速化に伴い、特に乾燥工程における乾燥温度をより高く設定する傾向にあり、上述のオリゴマーがより析出しやすい状況になっている。
一方、加工工程中において、何らかの作用により、離型フィルムが帯電した場合、当該離型フィルムを用いて加工を継続すると、例えば、ロール状離型フィルムを巻き出す際には剥離帯電が発生する、粘着剤塗布工程においては粘着剤の塗布むらが発生する、粘着剤層を介して離型フィルムと偏光板とが貼り合わされたシート状積層体においては当該シート状積層体同志を積み重ねる際に貼り付く、さらに離型フィルム自身が加工現場における異物・埃等を引きつけやすくなる等の不具合を生じる場合がある。
【0004】
そのため、除電装置(例えば、除電バー、イオンブロー等)の設置等、設備面から除電対策を講じても、加工上問題ないレベルまでには至らない場合があり、使用する離型フィルム自身に帯電防止性が必要とされる場合がある。
また、液晶偏光板の表示能力、色相、コントラスト、異物混入などの光学的評価を伴う検査工程においては、目視あるいは拡大鏡使用による欠陥品の流出防止対策が講じられているが、離型フィルムを構成するポリエステルフィルムの光学的異方性起因により、異物混入を見落としやすくなる等の不具合を生じる場合があるため、検査時に離型フィルムを一旦剥離し、検査終了後に再度貼付しなければならないという問題を抱えている。
【0005】
【特許文献1】特開平10-278203号公報
【特許文献2】特開2001-390738号公報
【特許文献3】特開2002-39960号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記実情に鑑みなされたものであって、その解決課題は、液晶構成部材製造時に用いる粘着剤層保護用として、オリゴマー析出量が極力少なく、帯電防止性、透明性良好であり、光学的評価を伴う検査が容易な離型フィルムを提供することにある。
【0007】
【発明を解決するための手段】
本発明者らは、上記実状に鑑み、鋭意検討した結果、特定の構成からなる離型フィルムを用いれば、上述の課題を容易に解決できることを知見し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明の要旨は、液晶構成部材製造時に用いられるフィルムであって、ポリエステルフィルムの片面に窒素元素を有する化合物およびバインダーポリマーを含有する塗布層、離型層が順次設けられた離型フィルムであり、下記式(1)?(4)を同時に満足することを特徴とする粘着剤層保護用離型フィルムに存する。
OL≦2.0 …(1)
R≦1×10^(13) …(2)
TL≧80 …(3)
TL(H)≦8 …(4)
(上記式中、OLは熱処理(180℃、10分間)後の離型フィルムの離型層表面からジメチルホルムアミドにより抽出されるオリゴマー量(mg/m^(2))、Rは離型フィルムの何れか一方のフィルム面の表面固有抵抗(Ω)、TLは離型フィルムの全光線透過率(%)、TL(H)は直交させた偏光板の間に離型フィルムを挟んだ積層体の全光線透過率(%)を表す)」

(2)「【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明においてポリエステルフィルムに使用するポリエステルはホモポリエステルであっても共重合ポリエステルであってもよい。
・・・(中略)・・・
【0014】
次に、本発明におけるポリエステルフィルムの製造例について具体的に説明するが、以下の製造例に何ら限定されるものではない。
すなわち、先に述べたポリエステル原料を使用し、ダイから押し出された溶融シートを冷却ロールで冷却固化して未延伸シートを得る方法が好ましい。この場合、シートの平面性を向上させるためシートと回転冷却ドラムとの密着性を高めることが好ましく、静電印加密着法および/または液体塗布密着法が好ましく採用される。
【0015】
次に得られた未延伸シートを少なくとも一軸方向に延伸するのが好ましい。また、二軸方向に延伸してもよく、二軸延伸する場合には、まず前記の未延伸シートを一方向にロールまたはテンター方式の延伸機により延伸する。延伸温度は通常130?170℃であり、延伸倍率は通常2.5?7倍、好ましくは3.0?6倍である。次いで、一段目の延伸方向と直交する方向に延伸を行う。延伸温度は、通常130?170℃であり、延伸倍率は、通常3.0?7倍、好ましくは3.5?6倍である。そして、引き続き、180?270℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、二軸配向フィルムを得る。
【0016】
延伸工程中にフィルム表面を処理する、いわゆる塗布延伸法(インラインコーティング)を施すことができる。それは以下に限定するものではないが、特に1段目の延伸が終了して、2段目の延伸前にコーティング処理を施すことができる。
上記の延伸においては、一方向の延伸を2段階以上で行う方法を用いることもできる。その場合、最終的に二方向の延伸倍率がそれぞれ上記範囲となるように行うのが好ましい。
また、前記の未延伸シートを面積倍率が10?40倍になるように同時二軸延伸を行うことも可能である。さらに必要に応じて熱処理を行う前または後に再度縦および/または横方向に延伸してもよい。
【0017】
上述の塗布延伸法にてポリエステルフィルム上に塗布層が設けられる場合には、延伸と同時に塗布が可能になると共に塗布層の厚みを延伸倍率に応じて薄くすることができ、ポリエステルフィルムとして好適なフィルムを製造できる。
本発明における離型フィルムは、下記式(1)および(2)を同時に満足する必要がある。
OL≦2.0 …(1)
R≦1×10^(13) …(2)
(上記式中、OLは熱処理(180℃、10分間)後の離型フィルムの離型層表面からジメチルホルムアミドにより抽出されるオリゴマー量(mg/m^(2))、Rは離型フィルムの何れか一方のフイルム面の表面固有抵抗(Ω)を表す)
【0018】
OLが2.0mg/m^(2)を超える場合には粘着剤塗布後の乾燥工程において、乾燥温度をより高く設定した場合に離型フィルムの離型層表面に析出するオリゴマー量が多くなり、本発明の用途においては粘着剤の透明性が低下する、あるいは粘着剤層の粘着力が低下する等の不具合を生じるようになる。OLに関して、1.0mg/m^(2)以下が好ましい。
【0019】
一方、Rが1×10^(13)Ωを超える場合、例えば、ロール状離型フィルムを巻き出す際には剥離帯電したり、粘着剤塗布工程においては粘着剤の塗布むらが発生する等の不具合を生じたりするようになる。Rは、好ましくは1×10^(12)Ω以下、さらに好ましくは1×10^(11)Ω以下、最も好ましくは1×10^(10)Ω以下である。
本発明における離型フィルムにおいて、オリゴマー析出防止性と帯電防止性とを同時に満足させるための具体的手法として、離型フィルムを構成する塗布層が窒素元素を有する化合物を含有する必要がある。
【0020】
窒素元素を有する化合物の具体例として、例えば、第四級アンモニウム塩基含有カチオン系の化合物が挙げられ、その中でもイオン化された窒素元素またはピロリジウム環の何れかを主鎖に含有するポリマーを使用すれば、特に帯電防止性が良好になるだけではなく、驚くべきことに顕著なオリゴマー析出防止性能を有することが判明した。
主鎖にイオン化された窒素元素を含有するポリマーとして、その一例としてアイオネンポリマーが挙げられる。具体例として、特公昭53-23377号公報、特交昭(審決注:「特公昭」の誤記。)54-10039号公報、特開昭47-34581号公報、特開昭56-76451号公報、特開昭58-93710号公報、特開昭61-18750号公報、特開昭63-68687号公報等の記載例が挙げられる。
・・・(中略)・・・
【0031】
塗布層中に含有される窒素元素を有する化合物の含有量は特に限定される訳ではないが、好ましくは10?99重量%、さらに好ましくは20?95重量%の範囲がよい。
さらに本発明における離型フィルムを構成する塗布層中には塗布層の塗膜耐久性、造膜性等を考慮して、バインダーポリマーを含有する必要がある。
塗布層に含有されるバインダーポリマーの具体例として、ポリビニルアルコール(以下、PVAと略記する場合がある。)、ポリアクリルアミド、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレンイミン、メチルセルロース、ヒドロキシセルロース、でんぷん類、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアクリレート、塩素系ポリマー(ポリ塩化ビニル、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体等)、ポリオレフィン等が挙げられる。それらの中でも、塗布層を塗布延伸法により塗設する場合にはノニオン系、カチオン系、両性系の水溶液または水分散体として使用可能な有機ポリマーが挙げられ、好ましくはオリゴマー析出防止性向上の観点からも、上述の窒素元素を有する化合物との好適な組み合わせとして、ポリビニルアルコールを含有するのがよい。
【0032】
塗布層中に含有されるポリビニルアルコール等のバインダーポリマーの含有量は特に限定される訳ではないが、好ましくは10?90重量%、さらに好ましくは10?80重量%の範囲がよい。バインダーポリマーの含有量が10重量%未満では塗布層の造膜性が不十分になる等の不具合を生じる場合がある。
また、本発明で用いるPVAの重合度は特に限定されるわけではないが、通常100以上、好ましくは300?40000のものが用途上好適に用いられる。
一方、PVAのけん化度は特に限定されるわけではないが、70モル%以上、好ましくは80モル%以上、99.9モル%以下のものが好適に用いられ、具体例としては酢酸ビニルけん化物等が挙げられる。
【0033】
さらに塗布層には架橋剤を併用してもよく、具体例としてはメチロール化またはアルキロール化した尿素系、メラミン系、グアナミン系、アクリルアミド系、ポリアミド系化合物、エポキシ化合物、アジリジン化合物、ブロックポリイソシアネート、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、ジルコ-アルミネートカップリング剤等が挙げられる。これらの架橋成分は、バインダーポリマーと予め結合していてもよい。
また、塗布層の固着性、滑り性改良を目的として、無機系粒子を含有してもよく、具体例としてはシリカ、アルミナ、カオリン、炭酸カルシウム、酸化チタン、バリウム塩等が挙げられる。さらに必要に応じて消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、有機系潤滑剤、有機系高分子粒子、酸化防止剤、紫外線吸収剤発泡剤、染料等が含有されてもよい。
【0034】
本発明における離型フィルムを構成する塗布層の塗布量(乾燥後)は通常0.01?1g/m^(2)、好ましくは0.03?0.5g/m^(2)の範囲がよい。塗布量が0.01g/m^(2)未満の場合には、塗布厚みの均一性が不十分な場合があり、一方、1g/m^(2)を超えて塗布する場合には、滑り性低下等の不具合を生じる場合がある。
本発明において、離型フィルムを構成する塗布層を設ける方法は後述する離型層を設ける場合と同様にリバースグラビアコート、グラビアコート、バーコート、ダイコート等、従来公知の塗工方式を用いることができる。
【0035】
なお、塗布層に関して、好ましくは上述の塗布延伸法(インラインコーティング法)によりポリエステルフィルム上に設けられるのがよい。
本発明の離型フィルムを構成する離型層中には硬化型シリコーン樹脂を含有させると離型性が良好となるので好ましい。硬化型シリコーン樹脂を主成分とするタイプでもよいし、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂等の有機樹脂とのグラフト重合等による変性シリコーンタイプ等を使用してもよい。
硬化型シリコーン樹脂の種類としては付加型・縮合型・紫外線硬化型・電子線硬化型・無溶剤型等、何れの硬化反応タイプでも用いることができる。
具体例を挙げると、信越化学工業(株)製KS-774、KS-775、KS-778、KS-779H、KS-847H、KS-856、X-62-2422、X-62-2461、ダウ・コーニング・アジア(株)製DKQ3-202、DKQ3-203、DKQ3-204、DKQ3-205、DKQ3-210、東芝シリコーン(株)製YSR-3022、TPR-6700、TPR-6720、TPR-6721、東レ・ダウ・コーニング(株)製SD7220、SD7226、SD7229、LTC750A等が挙げられる。さらに離型層の剥離性等を調整するために、剥離コントロール剤を併用してもよい。
【0037】
本発明における離型フィルムに関して、離型層が設けられていない面には接着層、帯電防止層、オリゴマー析出防止層等の塗布層を設けてもよく、ポリエステルフィルムにはコロナ処理、プラズマ処理等の表面処理を施してもよい。
本発明の離型フィルムの全光線透過率(TL)は80%以上であることが用途上、必要である。TLが80%未満の場合、透明性が不十分となり、光学的評価を伴う検査工程においては異物の混入を見落とし易くなる等の不具合を生じるようになる。
さらに本発明の離型フィルムを、直交させた偏光板の間に挟んで積層状態としたときの全光線透過率(TL(H))は8%以下である必要があり、好ましくは5%以下、さらに好ましくは2%以下である。TL(H)が8%を超える場合、液晶偏光板の検査工程において、離型フィルムを構成するポリエステルフィルムの光学的異方性起因により、偏光ムラ等の不具合を生じるようになる。」

(3)「【0076】
【発明の効果】
本発明の離型フィルムは、液晶偏光板、位相差板等の液晶構成部材製造時に用いる粘着剤層保護用として、オリゴマー析出量が極力少なく、帯電防止性、透明性良好であり、光学的評価を伴う検査が容易な離型フィルムであり、その工業的価値は極めて高い。」

(4)上記(1)ないし(3)からみて、引用例には、
「液晶ディスプレイに用いられる偏光板、位相差板等の液晶構成部材製造時に用いる粘着剤層保護用離型フィルムであって、
少なくとも一軸方向に延伸されたポリエステルフィルムと、該ポリエステルフィルムの片面に設けられ、窒素元素を有する化合物およびバインダーポリマーを含有し、オリゴマー析出防止性と帯電防止性とを同時に満足する塗布層と、該塗布層上に設けられた離型層とからなり、
下記式(1)?(4)を同時に満足し、
前記窒素元素を有する化合物として、第四級アンモニウム塩基含有カチオン系の、イオン化された窒素元素またはピロリジウム環の何れかを主鎖に含有するポリマーを用い、
前記バインダーポリマーとして、ポリウレタンまたはポリアクリレートを用い、
前記バインダーポリマーの含有量を好ましくは10?90重量%、さらに好ましくは10?80重量%の範囲とし、
前記塗布層の塗布量(乾燥後)を通常0.01?1g/m^(2)、好ましくは0.03?0.5g/m^(2)の範囲とした、
オリゴマー析出量が極力少なく、帯電防止性、透明性良好であり、光学的評価を伴う検査が容易な粘着剤層保護用離型フィルム。
OL≦2.0 …(1)
R≦1×10^(13) …(2)
TL≧80 …(3)
TL(H)≦8 …(4)
(上記式中、OLは熱処理(180℃、10分間)後の離型フィルムの離型層表面からジメチルホルムアミドにより抽出されるオリゴマー量(mg/m^(2))、Rは離型フィルムの何れか一方のフィルム面の表面固有抵抗(Ω)、TLは離型フィルムの全光線透過率(%)、TL(H)は直交させた偏光板の間に離型フィルムを挟んだ積層体の全光線透過率(%)を表す)」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

3 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「少なくとも一軸方向に延伸されたポリエステルフィルム」、「第四級アンモニウム塩基含有カチオン系の、イオン化された窒素元素またはピロリジウム環の何れかを主鎖に含有するポリマー」、「ポリアクリレート」、「ポリウレタン」、「塗布層」及び「『ポリエステルフィルムと、該ポリエステルフィルムの片面に設けられ』た『塗布層と、該塗布層上に設けられた離型層とからな』る『離型フィルム』」は、それぞれ、本願発明の「少なくとも一軸方向に延伸されたポリエステルフィルム」、「カチオンポリマー」、「アクリル樹脂」、「ウレタン樹脂」、「塗布層」及び「積層ポリエステルフィルム」に相当する。

(2)引用発明の「積層ポリエステルフィルム(離型フィルム)」は、「少なくとも一軸方向に延伸されたポリエステルフィルム」の片面に、「カチオンポリマー(第四級アンモニウム塩基含有カチオン系の、イオン化された窒素元素またはピロリジウム環の何れかを主鎖に含有するポリマー)」と、「ウレタン樹脂(ポリウレタン)」または「アクリル樹脂(ポリアクリレート)」とを含有する「塗布層」が設けられているから、本願発明の「積層ポリエステルフィルム」と、「少なくとも一軸方向に延伸されたポリエステルフィルムの少なくとも片面に、少なくとも1種のカチオンポリマーと、アクリル樹脂またはウレタン樹脂とを含有する塗布層を有」する点で一致する。

(3)ア 本願明細書の発明の詳細な説明には、「塗布層にハードコート層を設け剥離させたときの剥離面積が20%未満」であることについて、次の記載がある。
(ア)「【0049】
本発明における積層芳香族ポリエステルフィルムにおいては、塗布面上に種々の表面機能層が積層されたときの反射防止能の向上や透明性の向上、種々の表面機能層との密着性を向上させるために少なくとも1種のバインダーポリマーを使用する。
・・・(中略)・・・
【0051】
バインダーポリマーの具体例としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられ、通常、塗布剤として用いられるものであれば特に限定はない。カチオンポリマーと混合させたときの塗布液の安定性や表面機能層との接着性を向上させるという点において、ノニオン性あるいはカチオン性のアクリル樹脂あるいはウレタン樹脂あるいはポリエステル樹脂が好ましい。」
(イ)「【0056】
本発明における積層芳香族ポリエステルフィルムを構成する塗布層中のカチオンポリマーの割合は、重量比で通常50?90%の範囲である。50%未満の場合は帯電防止能が十分でない場合がある。また、塗布層中のバインダーポリマーの割合は、重量比で通常10?50%の範囲である。10%未満の場合は、表面機能層との接着性が低下する場合がある。」
(ウ)「【0074】
(7)密着性の測定方法
積層芳香族ポリエステルフィルムの塗布層側に、日本合成化学工業株式会社製の紫光(登録商標)を塗布し、80℃で1分間乾燥し溶剤を除去した。次いで、フィルムを送り速度10m/分で走行させながら、水銀ランプを用いて照射エネルギー120W/cm、照射距離10cmの条件下で紫外線を照射し、表面機能層を有するフィルムを得た。当該フィルムに碁盤目のクロスカット(1mm^(2)の升目を100個)を施し、その上に18mm幅のテープ(ニチバン株式会社製セロテープ(登録商標)CT-18)を貼り付け、180度の剥離角度で急激にはがした後、剥離面を観察し、剥離面積が20%未満ならば○、20%以上50%未満なら△、50%以上ならば×とした。」
(エ)「【0083】
・バインダーポリマー:(b1)
下記の方法で得られたノニオン性ウレタン樹脂を使用した。・・・(中略)・・・
【0084】
・バインダーポリマー:(b2)
カチオン系ウレタン樹脂(大日本インキ化学工業製ハイドラン)
【0085】
・バインダーポリマー:(b3)
アクリル酸アルキルエステルとメタクリル酸アルキルエステルを共重合し、ノニオン系乳化剤で分散させたアクリル樹脂(日本カーバイド工業製ニカゾール)」
(オ)【0091】の【表1】から、各塗布液の塗布剤組成(重量%)におけるバインダーポリマー成分(b1ないしb3)が、塗布液1及び5においてはb1で40重量%であり、塗布液2においてはb2で40重量%であり、塗布液3においてはb1で25重量%であり、塗布液4においてはb3で20重量%であり、塗布液6においてはバインダーポリマーが0重量%であり、塗布液7においてはb1で70重量%であることを見て取れ、【表2】から、塗布液1ないし5及び塗布液7を用いた実施例1ないし5、比較例2及び比較例3の密着性の評価が○であり、塗布液6を用いた比較例1の密着性評価が×であることを見て取れる。

イ 上記ア(ア)ないし(オ)からみて、カチオンポリマーと、アクリル樹脂またはウレタン樹脂とを含有し、アクリル樹脂またはウレタン樹脂の含有量が10重量%以上である塗布層は、ハードコート層を設け剥離させたときの剥離面積が20%未満であるものと解される。

ウ 引用発明の「塗布層」は、窒素元素を有する化合物およびバインダーポリマーを含有し、前記窒素元素を有する化合物として、「カチオンポリマー(第四級アンモニウム塩基含有カチオン系の、イオン化された窒素元素またはピロリジウム環の何れかを主鎖に含有するポリマー)」を用い、前記バインダーポリマーとして、「ウレタン樹脂(ポリウレタン)」または「アクリル樹脂(ポリアクリレート)」を用い、前記バインダーポリマーの含有量を好ましくは10?90重量%、さらに好ましくは10?80重量%の範囲としたものであり、カチオンポリマーと、アクリル樹脂またはウレタン樹脂とを含有し、アクリル樹脂またはウレタン樹脂の含有量が10重量%以上のものであるといえるから、上記イからみて、ハードコート層を設け剥離させたときの剥離面積が20%未満である。
よって、引用発明の「塗布層」と本願発明の「塗布層」は、「ハードコート層を設け剥離させたときの剥離面積が20%未満」である点で一致する。

(4)上記(1)ないし(3)から、本願発明と引用発明とは、
「少なくとも一軸方向に延伸されたポリエステルフィルムの少なくとも片面に、少なくとも1種のカチオンポリマーと、アクリル樹脂またはウレタン樹脂とを含有する塗布層を有し、当該塗布層にハードコート層を設け剥離させたときの剥離面積が20%未満である積層ポリエステルフィルム。」の点で一致し、次の点で相違している。

相違点1:
前記塗布層の塗布量(乾燥後)が、本願発明では「0.001?0.05g/m^(2)の範囲」であるのに対して、引用発明では「通常0.01?1g/m^(2)、好ましくは0.03?0.5g/m^(2)の範囲」である点。

相違点2:
本願発明では、フィルムのヘイズが「2.0%以下」であるのに対して、引用発明では、フィルムのヘイズが不明な点。

相違点3:
前記積層ポリエステルフィルムが、本願発明では「反射防止フィルム用」であるのに対して、引用発明では「液晶ディスプレイに用いられる偏光板、位相差板等の液晶構成部材製造時に用いる」点。

4 判断
上記相違点1ないし3について検討する。
(1)相違点1について
ア 塗布量(乾燥後)が0.03?0.05g/m^(2)の範囲にある帯電防止性を有する塗布層を形成したポリエステルフィルムは、本願出願前に周知である(以下「周知技術1」という。例.特開2002-192661号公報(【0016】、【0019】、【0055】の「乾燥後の塗布量が0.03g/m^(2)」参照。)、特開平11-157013号公報(【0028】、【0040】の「乾燥後の厚さが0.03g/m^(2)」参照。)、特開平9-1752号公報(【0001】、【0051】の表2、【0055】の表4参照。表2及び表4によれば、実施例1?8、14?16の塗布層における帯電防止樹脂の含有量は30重量%であり、当該帯電防止樹脂の塗布量(乾燥後)が0.015g/m^(2)であるから、塗布層全体の塗布量(乾燥後)は0.05g/m^(2)である。)。

イ 引用発明の帯電防止性を満足する塗布層は、その塗布量(乾燥後)を通常0.01?1g/m^(2)、好ましくは0.03?0.5g/m^(2)の範囲としたものであるところ、当該塗布量(乾燥後)を0.03?0.05g/m^(2)の範囲とすることは、当業者が周知技術1に基づいて適宜なし得た程度のことである。

ウ 上記イの塗布層の塗布量(乾燥後)を0.03?0.05g/m^(2)の範囲とすることは、引用発明において相違点1に係る本願発明の構成となすことに相当する。

エ よって、引用発明において、相違点1に係る本願発明の構成となすことは、当業者が周知技術1に基づいて適宜なし得た程度のことである。

(2)相違点2について
ア 全光線透過率が80%以上でかつヘイズが2.0%以下の透明性に優れた離型フィルムは、本願出願前に周知である(以下「周知技術2」という。例.特開2005-59276号公報(【0002】、【0032】、【0077】の【表3】の実施例1?3の「離型フィルムのヘーズ値(%)」及び「離型フィルムの全光線透過率(%)」参照。)、特開2004-148538号公報(【0061】、【0127】の【表1】の実施例1?3の「離型フィルムの特性」の欄の「全光線透過率(%)」及び「ヘイズ(%)」、【0128】参照。))。

イ 引用発明の「積層ポリエステルフィルム(離型フィルム)」は、全光線透過率(%)TLが80%以上で((3)式)、直交させた偏光板の間に離型フィルムを挟んだ積層体の全光線透過率(%)TL(H)が8%以下で((4)式)、透明性良好で、光学的評価を伴う検査が容易なものであるから、そのヘイズが2.0%以下の透明性に優れたものとすること、すなわち、引用発明において相違点2に係る本願発明の構成となすことは、当業者が周知技術2に基づいて容易になし得た程度のことである。

(3)相違点3について
ア ディスプレイの表示画面に貼着する反射防止フィルムに形成された粘着層上に貼り付けられ、当該粘着層を保護する離型フィルムは、本願出願前に周知である(以下「周知技術3」という。例.特開平10-334807号公報(【0029】、【0035】参照。)、特開2004-12657号公報(【0017】、【0025】、【0027】参照。))。

イ 引用発明の「積層ポリエステルフィルム」は、液晶ディスプレイに用いられる偏光板、位相差板等の液晶構成部材製造時に用いる粘着剤層保護用離型フィルムであるところ、上記アからみて、これを、反射防止フィルムに形成された粘着層上に貼り付けて当該粘着層を保護するために用いることは、当業者が周知技術3に基づいて容易に想到することができた程度のことである。

ウ 引用発明の「積層ポリエステルフィルム」である粘着剤層保護用離型フィルムを反射防止フィルムに形成された粘着層上に貼り付けて当該粘着層を保護するために用いることにすると、引用発明の「積層ポリエステルフィルム」は、反射防止フィルム用粘着剤層保護用離型フィルムであるといえるから、上記イのようにした引用発明の「積層ポリエステルフィルム」は「反射防止フィルム用」のものとなる。
したがって、引用発明において、相違点3に係る本願発明の構成となすことは、上記イからみて、当業者が周知技術3に基づいて容易に想到し得たことである。

(4)効果について
本願発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果、周知技術1の奏する効果、周知技術2の奏する効果及び周知技術3の奏する効果から、当業者が予測できた程度のものである。

(5)まとめ
したがって、本願発明は、当業者が引用例1に記載された発明、周知技術1、周知技術2及び周知技術3に基づいて容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
本願発明は、以上のとおり、当業者が引用例1に記載された発明、周知技術1、周知技術2及び周知技術3に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-09-04 
結審通知日 2013-09-10 
審決日 2013-09-24 
出願番号 特願2006-240612(P2006-240612)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 57- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 竹村 真一郎  
特許庁審判長 小牧 修
特許庁審判官 西村 仁志
清水 康司
発明の名称 反射防止フィルム用積層ポリエステルフィルム  

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