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審決分類 |
審判 査定不服 特37 条出願の単一性( 平成16 年1 月1 日から) 取り消して特許、登録 A61M 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 A61M 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61M |
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管理番号 | 1281200 |
審判番号 | 不服2013-4662 |
総通号数 | 168 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-12-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-03-11 |
確定日 | 2013-11-26 |
事件の表示 | 特願2010-547745号「気道陽圧を連続的に供給する装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年8月27日国際公開、WO2009/105528、平成23年7月7日国内公表、特表2011-519284号、請求項の数(16)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2009年2月19日(パリ条約による優先権主張2008年2月19日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成24年11月7日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成25年3月11日に拒絶査定不服審判の請求がされ、同時に手続補正がされたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1に係る発明は、平成25年3月11日付けの誤訳訂正書で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下、本願の請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。 「【請求項1】 膨張可能なマスクと流体流通構成とを具えた装置であって、 膨張可能なマスクは、第1開口端部および第2開口端部を有し、前記マスクの第1開口端部は患者の鼻腔を囲む大きさであり、 流体流通構成は、膨張可能なマスクの第2開口端部に配置され、 マスクは剛性はないが呼吸用の陽圧気体を受ける作動時は膨張し、 マスクは気体不透過性の軟質プラスチック製内層としなやかで自由変形可能な布製外層とからなる複合材料によって構成されている、装置。」 第3 原査定の理由の概要 原査定の理由の概要は、次の理由1?3のとおりである。 (理由1) 本願の請求項1に記載された全ての技術的特徴は、下記の刊行物の開示内容に照らして、先行技術に対する貢献をもたらすものではないから、当該技術的特徴は、特別な技術的特徴であるとはいえない。よって本願発明と他の請求項に係る発明との間に、同一の又は対応する特別な技術的特徴が見いだすことができず、この出願は、特許法第37条に規定する要件を満たさない。 (理由2) 本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 (理由3) 本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 刊行物:特表2007-520321号公報 第4 当審の判断 A 原査定の理由3について 1 刊行物の記載事項 刊行物には次のとおり記載されている。 (1)「【請求項1】 患者界面材と、 患者界面材に連結されかつ患者界面材から患者の下顎の下の位置に延伸する顎支持体とを備えることを特徴とする患者界面装置組立体。」 (2)「【0002】 本発明は、全般的に圧力支援装置に用いられる患者界面装置組立体、特に、患者の下顎の少なくとも一部に支持される患者界面装置組立体及び該患者界面装置組立体を組み込む気体搬送システムに関する。」 (3)「【0004】 非侵襲的換気法及び圧力支援治療法では、通常マスク緩衝体を支持する剛性枠体を有する鼻マスク又は鼻/口マスクである患者界面装置を患者の顔面上に配置し、人工呼吸器又は圧力支援装置を患者の気道に連結して、呼吸気体流を圧力/流れ発生装置から患者の気道に供給することができる。患者の頭部上に配置されかつ上部帯紐、即ち上部ストラップ及び下部帯紐、即ち下方ストラップを有するヘッドギアにより、患者の顔面にマスクを保持し、マスクの両側部及び頂部に設けられる連結部材に上部ストラップ及び下部ストラップの各両端部を挿通する構造は公知である。」 (4)「【0005】 通常、患者の顔面に対して十分に気密の密封構造を形成して不快感なくヘッドギアによりマスクを維持し、マスクを長時間着用できることが重要である。・・・前記状態での1つの問題は、使用者に患者界面装置を確実に支持するため、睡眠中に患者が動いても、マスクが移動しないことである。・・・不快感なく患者の顔面に対して十分に気密の密封構造を形成する界面材装置を提供することも重要である。・・・ 【0007】 ・・・これらの問題を完全に解決するマスクの必要性が依然として存続する。」 (5)「【0009】 本発明による患者界面装置組立体は、顎支持体に連結される患者界面部材を備える。一実施の形態では、可撓性でかつ中空の空洞を有する支持体により形成される顎支持体は、患者界面材の両側部から患者の頬の前面で下方に湾曲して、患者の口の外周を周って患者の顎の下方まで延伸する。詳細には、顎支持体は、顎のオトガイ隆起の下方又は後方の位置まで延伸する。顎支持体は、患者の顔面の外形に沿って緊密に形成され、患者の肌に直接接触する。 【0010】 顎支持体の中空構造により、圧力発生装置からの圧力を使用してマスク組立体は、膨張することができる。・・・睡眠時に患者がマスク組立体上に寝返りを打ったとき、顎支持体の可撓性軟質構造により殆ど不快感を生じない。・・・ 【0011】 マスク組立体のユニット (モジュール又は構成単位)構造により、鼻孔部材、鼻マスク、口マスク及び鼻/口マスク等の種々の異なる患者界面材を使用することができる。オトガイ隆起の下方又は後方で患者の顎に接触して支持する顎マスクの環状構造により、付加的な額支持体を使用せずに、支持力と安定性とを増大させることができる。・・・」 (6)「【0015】 図1?図6に示す本発明の第1の実施の形態による患者界面装置組立体10は、顎支持体14に回転可能に流体連結される患者界面材12を備える。患者界面装置組立体10は、患者の気道と圧力発生装置16との間で呼吸用気体流を連絡し、・・・。 【0016】 軟質樹脂(プラスチック)化合物により形成される中空空洞を有する支持体により顎支持体14を形成するのが好ましく、顎支持体14は、患者界面材12の両側部から患者の頬の正面で下方に湾曲して、患者の口の外周を周って患者の顎(下顎、オトガイ)の下方まで延伸する。詳細には、顎支持体14は、顎のオトガイ隆起の下方位置又は後方位置まで延伸する。顎支持体14は、患者の顔面の外形に沿って緊密に形成され、患者の肌に直接接触する。顎支持体14は、顎のオトガイ隆起の下方位置又は後方位置付近に配置される旋回口部材18を更に備え、旋回口部材18は、圧力発生装置16に接続される導管20に回転可能に流体接続される。・・・ 【0023】 患者界面装置組立体10のユニット構造により、種々の患者界面材12を使用して、患者界面装置組立体10を患者の気道に連結することができる。前記患者界面材12の他の例には、鼻孔界面材、鼻マスク及び鼻/口マスクが含まれる。・・・」 (7)「【0025】 患者界面装置組立体に使用する適切な患者界面材の別の実施の形態を図9?図18Bに示す。・・・ 【0034】 図14A及び図14Bは、それぞれ図1の患者界面装置組立体10への使用に適切な更に別の患者界面材110の正面図及び背面図である。患者界面材110は、開口部114を有するフラップ(耳)部112と、顎支持体14に連結される端部116とを備える。フラップ部112は、使用時に使用者の鼻の下に取り付けられ、両鼻孔が開口部114内に配置される。図示の実施の形態では、人間の鼻の下側にほぼ適合する開口部114の形状とフラップ部112の外形が決定される。これにより、快適性及び取付性が改善される。シリコーン等の単一材料によりフラップ部112及び端部116を形成するのが好ましい。」 (8)「【0039】 図19?図26は、本発明の原理による患者界面装置組立体160の第3の実施の形態を示す。図1?図5について説明した顎支持体14と同様に、患者界面装置組立体160は、顎支持体164に回転可能に流体連結される患者界面材162を備える。顎支持体164は、患者接触部166と、患者回路連結口170から患者界面材162への気体流連絡に適する中空管を形成する外側部168とを備える。シリコーン等の軟質材料により患者接触部166を形成しかつ/又は患者接触部166上に軟質の患者接触物質を配置して、患者と患者界面装置組立体160との間での接触の快適さを最大にできることが好ましい。 【0040】 例えば、本発明は、着脱可能な発泡体又は布製のスリッポン式のカバー(図示せず)を患者接触部166上に設けることを企図する。スリッポン式のカバーは、下記利点を備える。(1)患者接触部166下の患者の皮膚に「呼吸」をさせ、(2)患者から湿気を吸収し、(3)特に周期的にカバーを新しいものに取り替えるか又は洗濯する場合に、より長期間顎支持体164の清潔を維持する。」 摘記事項(7)の「フラップ部112は、使用時に使用者の鼻の下に取り付けられ、両鼻孔が開口部114内に配置される。図示の実施の形態では、人間の鼻の下側にほぼ適合する開口部114の形状とフラップ部112の外形が決定される。」との記載からみて、開口部114は患者の鼻腔を囲む大きさといえる。 摘記事項(7)の「患者界面材110は、開口部114を有するフラップ(耳)部112と、顎支持体14に連結される端部116とを備える。」との記載からみて、顎支持体14は、患者界面材110の端部116に配置されているといえる。 以上から、刊行物には、次の発明が記載されている(以下、「引用発明」という。)。 「患者界面材110と顎支持体14とを具えた患者界面装置組立体10であって、 患者界面材110は、開口部114および端部116を有し、患者界面材110の開口部114は患者の鼻腔を囲む大きさであり、 顎支持体14は、患者界面材110の端部116に配置されている、 患者界面装置組立体10。」 2 対比 本願発明と引用発明とを対比する。 本願発明と引用発明とは、いずれも睡眠時無呼吸の治療に関する装置であって、引用発明の「患者界面材110」、「顎支持体14」、「患者界面装置組立体10」、「開口部114」、「端部116」は、それぞれその構造または機能からみて、本願発明の「マスク」、「流体流通構成」、「装置」、「第1開口端部」、「第2開口端部」に相当する。 したがって、両者は、「マスクと流体流通構成とを具えた装置であって、 マスクは、第1開口端部および第2開口端部を有し、前記マスクの第1開口端部は患者の鼻腔を囲む大きさであり、 流体流通構成は、マスクの第2開口端部に配置されている、装置。」である点で一致し、次の点で相違する。 (相違点) マスクについて、本願発明は、膨張可能であって、気体不透過性の軟質プラスチック製内層としなやかで自由変形可能な布製外層とからなる複合材料によって構成され、剛性はないが呼吸用の陽圧気体を受ける作動時は膨張するものであるのに対し、引用発明は、本願発明に係るこれらの発明特定事項を有していない点。 3 判断 上記相違点について検討する。 最初に、引用発明の患者界面材110を構成する材料について検討する。 摘記事項(7)には、患者界面材110のフラップ部112及び端部116をシリコーン等の単一材料により形成することが記載されているにすぎない。 また、刊行物のその余の記載には、患者界面材110を軟質プラスチック製内層と布製外層とからなる複合材料によって構成することについて記載も示唆もされていない。 したがって、引用発明の患者界面材110を、気体不透過性の軟質プラスチック製内層としなやかで自由変形可能な布製外層とからなる複合材料によって構成することは、当業者が容易になし得るといえない。 次に、引用発明の患者界面材110を膨張可能とすることについて検討する。 摘記事項(3)には、患者界面材としての鼻マスクや口マスクを、マスク緩衝体を支持する剛性枠体を有するものとすることが記載されているにすぎない。また、摘記事項(7)には、患者界面材110のフラップ部112及び端部116をシリコーン等の単一材料により形成することが記載されているにすぎない。 また、刊行物のその余の記載には、患者界面材110を膨張可能とすることについて記載も示唆もない。 したがって、引用発明の患者界面材110を膨張可能とすることは、当業者が容易になし得るといえない。 よって、引用発明において、患者界面材110(本願発明のマスクに相当する。)を、膨張可能であって、気体不透過性の軟質プラスチック製内層としなやかで自由変形可能な布製外層とからなる複合材料によって構成され、剛性はないが呼吸用の陽圧気体を受ける作動時は膨張するものとすることは、当業者が容易になし得るとはいえない。 一方、本願発明は、マスクを、膨張可能であって、気体不透過性の軟質プラスチック製内層としなやかで自由変形可能な布製外層とからなる複合材料によって構成され、剛性はないが呼吸用の陽圧気体を受ける作動時は膨張するものとすることにより、従来のマスクの、プラスチック製のインターフェースは患者へ適合させるのが困難である、皮膚の油が皮膚と上記インターフェースとの間に集まることになり、患者に締め付け感を引き起こすといった問題点(明細書の段落【0009】の記載を参照。)を解決できるという格別顕著な効果を奏するものと認められる。 よって、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 4 小括 以上のとおり本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないから、原査定の理由3によっては、本願を拒絶することはできない。 B 原査定の理由2について 本願発明は、上記A2欄の相違点で引用発明と相違するものであって、しかも、当該相違点に係る発明特定事項を有することにより、「作動中、流体流通手段およびマスクは膨張し(inflates)、マスクの第1開口端は患者の鼻腔の近くの区域に係合する」(明細書の段落【0011】の記載を参照。)という、引用発明の有さない作用を奏するものである。 したがって、本願発明と引用発明とは実質的に相違するから、本願発明は引用発明と同一であるとはいえない。 よって、原査定の理由2によっては、本願を拒絶することはできない。 C 原査定の理由1について 上記A欄に記載したとおり、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできず、また、上記B欄に記載したとおり、本願発明は引用発明と同一であるとはいえないから、本願の請求項1に記載された技術的特徴は、先行技術に対する貢献をもたらすものと認められる。 よって、本願の請求項1に記載された全ての技術的特徴は特別な技術的特徴ではないことを根拠とする、原査定の理由1によっては、本願を拒絶することはできない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、原査定の理由1?3によっては、本願を拒絶することはできない。また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2013-11-14 |
出願番号 | 特願2010-547745(P2010-547745) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
WY
(A61M)
P 1 8・ 121- WY (A61M) P 1 8・ 65- WY (A61M) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 倉橋 紀夫 |
特許庁審判長 |
本郷 徹 |
特許庁審判官 |
高木 彰 松下 聡 |
発明の名称 | 気道陽圧を連続的に供給する装置 |
代理人 | 丸山 敏之 |
代理人 | 宮野 孝雄 |
代理人 | 長塚 俊也 |
代理人 | 西岡 伸泰 |
代理人 | 久徳 高寛 |