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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04L
管理番号 1281216
審判番号 不服2011-27586  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-12-21 
確定日 2013-11-06 
事件の表示 特願2008-530302「WDMリンク上の量子鍵配布システムおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 3月29日国際公開,WO2007/033561,平成21年 3月 5日国内公表、特表2009-509367〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は,2006年7月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年9月19日 アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって,
平成20年5月1日付けで特許法第184条の4第1項の規定による明細書,請求の範囲,及び,図面(図面の中の説明に限る)の日本語による翻訳文が提出されると共に審査請求がなされ,平成23年3月16日付けで審査官により拒絶理由が通知され,これに対して平成23年6月20日付けで意見書が提出されると共に手続補正がなされたが,平成23年9月2日付けで審査官により拒絶査定がなされ,これに対して平成23年12月21日付けで審判請求がなされると共に手続補正がなされ,平成24年2月13日付けで審査官により特許法第164条第3項の規定に基づく報告がなされ,平成24年8月29日付けで当審により特許法第134条第4項の規定に基づく審尋がなされ,平成24年11月26日付けで回答書の提出があったものである。

第2.平成23年12月21日付けの手続補正の却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成23年12月21日付け手続補正を却下する。

[理由]

1.補正の内容
平成23年12月21日付けの手続補正(以下,「本件手続補正」という)により,平成23年6月20日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲,
「 【請求項1】
複数の送信ユニットと複数の受信ユニットの間でWDM(wavelength division multiplexing)リンク上で量子鍵を配布する方法であって,
前記送信ユニットと前記受信ユニットをつなぐために,複数の量子チャネルと複数の古典チャネルを含む複数のWDMチャネルを前記WDMリンク上に提供するステップと,
WDMチャネルに異なる波長を割り当てるステップと,
量子チャネル上で単一光子信号を送信するステップと,
古典チャネル上で,古典データ,または,量子チャネル上での単一光子信号の送信の同期を取るトリガ信号を含むデータを送信するステップとを含むことを特徴とする量子鍵配布方法。
【請求項2】
量子鍵配布のための通信システムであって,
複数の量子送信部と複数の古典送信部を含む複数の送信ユニットと,
複数の量子受信部と複数の古典受信部を含む複数の受信ユニットと,
前記送信ユニットを前記受信ユニットに結合するWDM(wavelength division multiplexing)リンクとを含み,
WDMリンクは,複数のWDMチャネルを含み,WDMチャネルは,複数の量子送信部と複数の量子受信部間でそれぞれ単一光子信号を通信する複数の量子チャネルと,複数の古典送信部と複数の古典受信部間でそれぞれデータを通信する複数の古典チャネルとを含み,
前記データは,古典データ,または,量子チャネル上での単一光子信号の送信の同期を取るトリガ信号を含み,
WDMチャネルには互いに異なる波長が割り当てられることにより,WDMチャネルがWDMリンク上で波長多重化されることを特徴とする通信システム。
【請求項3】
送信器と受信器間でWDM(wavelength division multiplexing)リンクを介して量子鍵を配布する方法であって,
WDMリンク上に1つ以上の量子チャネルと1つ以上の古典チャネルを提供するステップと,
量子チャネルと古典チャネルに異なる波長を割り当てるステップと,
量子チャネル上で単一光子信号を送信するステップと,
古典チャネル上で,古典データ,または,量子チャネル上での単一光子信号の送信の同期を取るトリガ信号をデータとして送信するステップとを含むことを特徴とする量子鍵配布方法。
【請求項4】
WDMリンクにおいて二つの量子チャネルと一つの古典チャネルが提供されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
二つの量子チャネルと一つの古典チャネルに割り当てられる波長は約1550ナノメートルであることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
波長が約1475ナノメートルから約1590ナノメートルの範囲にあることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
二つの量子チャネルに割り当てられた波長はそれぞれ約1549.33ナノメートルと約1551.18ナノメートルであり,一つの古典チャネルに割り当てられた波長は約1557.35ナノメートルであることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
二つの量子チャネルにおいて単一光子信号を送信するステップは,
前記受信器におけるレーザーからパルスを発射するステップと,
パルスを第1パルスと第2パルスに分割するステップと,
第1パルスを遅延させるステップと,
前記受信器における偏光ビームスプリッタによって形成された直交する偏光をもつ第1および第2パルスを,WDMリンク上で第2アレイ導波路格子,光ファイバ,および第1アレイ導波路格子を通じて送信するステップと,
帰路において第1パルスと第2パルスを減衰させる前記送信器における減衰器を制御するために,第1パルスの一部と第2パルスの一部を検出するステップと,
第1パルスおよび第2パルスを90度偏光させて反射させるステップと,
位相変調により第1パルスを変調するステップと,
前記送信器における前記減衰器によって第1パルスと第2パルスをそれぞれ第1単一光子と第2単一光子に減衰させるステップと,
二つの単一光子パルスをWDMリンク上で第1アレイ導波路格子,光ファイバ,および第2アレイ導波路格子を通じて送信するステップと,
第2単一光子パルスを変調し,遅延させるステップと,
変調された第1単一光子パルスと変調された第2単一光子パルス間で干渉を検出するステップとを含むことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記光ファイバは標準的な単一モード光ファイバであることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
古典チャネル上でデータを送信するステップは,
前記受信器におけるレーザからパルスを発射するステップと,
第2アレイ導波路格子,光ファイバおよび第1アレイ導波路格子を通じて,WDMリンク上で前記受信器から前記送信器に向かう前向きデータパルスを送信するステップと,
前記前向きデータパルスの一部を第1トリガ信号として検出するステップと,
前記前向きデータパルスの別の一部を反射させ,反射されたデータパルスを,第1アレイ導波路格子,光ファイバおよび第2アレイ導波路格子を通じてWDMリンク上で送信するステップと,
前記反射されたデータパルスを第2トリガ信号として検出するステップとを含むことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記第1トリガ信号は,量子チャネル上での第1パルスの変調ステップの同期と,第1パルスと第2パルスのそれぞれを第1単一光子と第2単一光子に減衰させるステップの同期を取るために用いられ,第2トリガ信号は第2単一光子の変調ステップの同期と二つの単一光子パルス間の干渉結果の検出ステップの同期を取るために用いられることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
量子チャネルはBB84プロトコルを用いることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項13】
量子鍵配布のための通信システムであって,
一つ以上の量子送信部と一つ以上の古典送信部とを含む送信器と,
前記量子送信部に対応する一つ以上の量子受信部と前記古典送信部に対応する一つ以上の古典受信部とを含む受信器と,前記送信器と前記受信器をつなぐWDM(wavelength division multiplexing)リンクとを含み,
前記WDMリンクは,前記量子送信部と前記量子受信部間でそれぞれ単一光子信号を通信する量子チャネルと,前記古典送信部と前記古典受信部間でデータを通信する古典チャネルとを含み,
前記データは,古典データ,または,前記量子チャネル上の単一光子信号の送信を同期させるトリガ信号を含み,
前記古典チャネルと前記量子チャネルには異なる波長が割り当てられることにより,古典チャネルと量子チャネルはWDMリンク上で波長多重されることを特徴とする通信システム。
【請求項14】
二つの量子送信部と二つの量子受信部の間でそれぞれ単一光子信号を通信する二つの量子チャネルが設けられ,一つの古典送信部と一つの古典受信部の間でデータを通信する一つの古典チャネルが設けられることを特徴とする請求項13に記載の通信システム。
【請求項15】
各量子チャネル上で送信される単一光子信号は約1475ナノメートルから約1590ナノメートルの範囲の波長のレーザから生成されることを特徴とする請求項14に記載の通信システム。
【請求項16】
前記データは,約1475ナノメートルから約1590ナノメートルの範囲の波長にあることを特徴とする請求項15に記載の通信システム。
【請求項17】
各量子送信部は,レーザ信号を単一光子信号に減衰させる減衰器と,レーザ信号を変調する変調器とを含むことを特徴とする請求項16に記載の通信システム。
【請求項18】
量子受信部は,単一光子信号を変調する変調器と単一光子信号を検出する単一光子検出器を含むことを特徴とする請求項17に記載の通信システム。
【請求項19】
前記古典送信部は,量子送信部の変調器の同期を取るために,前記データの一部を第1トリガ信号として検出する検出器を含むことを特徴とする請求項18に記載の通信システム。
【請求項20】
前記古典受信部は,量子受信部の単一光子検出器の同期を取るために,前記データの別の一部を第2トリガ信号として検出する検出器を含むことを特徴とする請求項19に記載の通信システム。」(以下,上記引用の請求項各項を,「補正前の請求項」という)は,
「 【請求項1】
複数の送信ユニットと複数の受信ユニットの間でWDM(wavelength division multiplexing)リンク上で量子鍵を配布する方法であって,
前記送信ユニットと前記受信ユニットをつなぐために,複数の量子チャネルと複数の古典チャネルを含む複数のWDMチャネルを前記WDMリンク上に提供するステップと,
WDMチャネルに異なる波長を割り当てるステップと,
量子チャネル上で単一光子信号を送信するステップと,
古典チャネル上で,量子チャネル上での単一光子信号の送信の同期を取るトリガ信号を含むデータを送信するステップとを含むことを特徴とする量子鍵配布方法。
【請求項2】
量子鍵配布のための通信システムであって,
複数の量子送信部と複数の古典送信部を含む複数の送信ユニットと,
複数の量子受信部と複数の古典受信部を含む複数の受信ユニットと,
前記送信ユニットを前記受信ユニットに結合するWDM(wavelength division multiplexing)リンクとを含み,
WDMリンクは,複数のWDMチャネルを含み,WDMチャネルは,複数の量子送信部と複数の量子受信部間でそれぞれ単一光子信号を通信する複数の量子チャネルと,複数の古典送信部と複数の古典受信部間でそれぞれデータを通信する複数の古典チャネルとを含み,
前記データは,量子チャネル上での単一光子信号の送信の同期を取るトリガ信号を含み,
WDMチャネルには互いに異なる波長が割り当てられることにより,WDMチャネルがWDMリンク上で波長多重化されることを特徴とする通信システム。
【請求項3】
送信器と受信器間でWDM(wavelength division multiplexing)リンクを介して量子鍵を配布する方法であって,
WDMリンク上に1つ以上の量子チャネルと1つ以上の古典チャネルを提供するステップと,
量子チャネルと古典チャネルに異なる波長を割り当てるステップと,
量子チャネル上で単一光子信号を送信するステップと,
古典チャネル上で,量子チャネル上での単一光子信号の送信の同期を取るトリガ信号をデータとして送信するステップとを含むことを特徴とする量子鍵配布方法。
【請求項4】
WDMリンクにおいて二つの量子チャネルと一つの古典チャネルが提供されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
二つの量子チャネルと一つの古典チャネルに割り当てられる波長は約1550ナノメートルであることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
波長が約1475ナノメートルから約1590ナノメートルの範囲にあることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
二つの量子チャネルに割り当てられた波長はそれぞれ約1549.33ナノメートルと約1551.18ナノメートルであり,一つの古典チャネルに割り当てられた波長は約1557.35ナノメートルであることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
二つの量子チャネルにおいて単一光子信号を送信するステップは,
前記受信器におけるレーザーからパルスを発射するステップと,
パルスを第1パルスと第2パルスに分割するステップと,
第1パルスを遅延させるステップと,
前記受信器における偏光ビームスプリッタによって形成された直交する偏光をもつ第1および第2パルスを,WDMリンク上で第2アレイ導波路格子,光ファイバ,および第1アレイ導波路格子を通じて送信するステップと,
帰路において第1パルスと第2パルスを減衰させる前記送信器における減衰器を制御するために,第1パルスの一部と第2パルスの一部を検出するステップと,
第1パルスおよび第2パルスを90度偏光させて反射させるステップと,
位相変調により第1パルスを変調するステップと,
前記送信器における前記減衰器によって第1パルスと第2パルスをそれぞれ第1単一光子と第2単一光子に減衰させるステップと,
二つの単一光子パルスをWDMリンク上で第1アレイ導波路格子,光ファイバ,および第2アレイ導波路格子を通じて送信するステップと,
第2単一光子パルスを変調し,遅延させるステップと,
変調された第1単一光子パルスと変調された第2単一光子パルス間で干渉を検出するステップとを含むことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記光ファイバは標準的な単一モード光ファイバであることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
古典チャネル上でデータを送信するステップは,
前記受信器におけるレーザからパルスを発射するステップと,
第2アレイ導波路格子,光ファイバおよび第1アレイ導波路格子を通じて,WDMリンク上で前記受信器から前記送信器に向かう前向きデータパルスを送信するステップと,
前記前向きデータパルスの一部を第1トリガ信号として検出するステップと,
前記前向きデータパルスの別の一部を反射させ,反射されたデータパルスを,第1アレイ導波路格子,光ファイバおよび第2アレイ導波路格子を通じてWDMリンク上で送信するステップと,
前記反射されたデータパルスを第2トリガ信号として検出するステップとを含むことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記第1トリガ信号は,量子チャネル上での第1パルスの変調ステップの同期と,第1パルスと第2パルスのそれぞれを第1単一光子と第2単一光子に減衰させるステップの同期を取るために用いられ,第2トリガ信号は第2単一光子の変調ステップの同期と二つの単一光子パルス間の干渉結果の検出ステップの同期を取るために用いられることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
量子チャネルはBB84プロトコルを用いることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項13】
量子鍵配布のための通信システムであって,
一つ以上の量子送信部と一つ以上の古典送信部とを含む送信器と,
前記量子送信部に対応する一つ以上の量子受信部と前記古典送信部に対応する一つ以上の古典受信部とを含む受信器と,前記送信器と前記受信器をつなぐWDM(wavelength division multiplexing)リンクとを含み,
前記WDMリンクは,前記量子送信部と前記量子受信部間でそれぞれ単一光子信号を通信する量子チャネルと,前記古典送信部と前記古典受信部間でデータを通信する古典チャネルとを含み,
前記データは,前記量子チャネル上の単一光子信号の送信を同期させるトリガ信号を含み,
前記古典チャネルと前記量子チャネルには異なる波長が割り当てられることにより,古典チャネルと量子チャネルはWDMリンク上で波長多重されることを特徴とする通信システム。
【請求項14】
二つの量子送信部と二つの量子受信部の間でそれぞれ単一光子信号を通信する二つの量子チャネルが設けられ,一つの古典送信部と一つの古典受信部の間でデータを通信する一つの古典チャネルが設けられることを特徴とする請求項13に記載の通信システム。
【請求項15】
各量子チャネル上で送信される単一光子信号は約1475ナノメートルから約1590ナノメートルの範囲の波長のレーザから生成されることを特徴とする請求項14に記載の通信システム。
【請求項16】
前記データは,約1475ナノメートルから約1590ナノメートルの範囲の波長にあることを特徴とする請求項15に記載の通信システム。
【請求項17】
各量子送信部は,レーザ信号を単一光子信号に減衰させる減衰器と,レーザ信号を変調する変調器とを含むことを特徴とする請求項16に記載の通信システム。
【請求項18】
量子受信部は,単一光子信号を変調する変調器と単一光子信号を検出する単一光子検出器を含むことを特徴とする請求項17に記載の通信システム。
【請求項19】
前記古典送信部は,量子送信部の変調器の同期を取るために,前記データの一部を第1トリガ信号として検出する検出器を含むことを特徴とする請求項18に記載の通信システム。
【請求項20】
前記古典受信部は,量子受信部の単一光子検出器の同期を取るために,前記データの別の一部を第2トリガ信号として検出する検出器を含むことを特徴とする請求項19に記載の通信システム。」(以下,上記引用の請求項各項を,「補正後の請求項」という)に補正された。

2.補正の適否
本件手続補正は,補正前の請求項1に記載の,
「古典チャネル上で,古典データ,または,量子チャネル上での単一光子信号の送信の同期を取るトリガ信号を含むデータを送信するステップ」,
補正前の請求項2に記載の,
「前記データは,古典データ,または,量子チャネル上での単一光子信号の送信の同期を取るトリガ信号を含み」,
及び,補正前の請求項3に記載の,
「古典チャネル上で,古典データ,または,量子チャネル上での単一光子信号の送信の同期を取るトリガ信号をデータとして送信するステップ」,
並びに,補正前の請求項13に記載の,
「前記データは,古典データ,または,前記量子チャネル上の単一光子信号の送信を同期させるトリガ信号を含み」,
をそれぞれ,補正後の請求項1の,
「古典チャネル上で,量子チャネル上での単一光子信号の送信の同期を取るトリガ信号を含むデータを送信するステップ」,
補正後の請求項2の,
「前記データは,量子チャネル上での単一光子信号の送信の同期を取るトリガ信号を含み」,
及び,補正後の請求項3の,
「古典チャネル上で,量子チャネル上での単一光子信号の送信の同期を取るトリガ信号をデータとして送信するステップ」,
並びに,補正後の請求項13の,
「前記データは,前記量子チャネル上の単一光子信号の送信を同期させるトリガ信号を含み」,
という記載に補正するもの,即ち,“古典チャネル上で送信されるデータを,単一光子信号の送信の同期を取るトリガ信号”に限定するものであるから,本件手続補正は,発明の詳細な説明に記載の範囲内でなされるものであり,かつ,限定的減縮を目的とするものである。
よって,本件手続補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第184条の12第2項により読み替える同法第17条の2第3項の規定,及び,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第184条の12第2項により読み替える同法第17条の2第4項の規定を満たすものである。
そこで,本件手続補正が,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定を満たすものであるか否か,即ち,補正後の請求項1に係る発明(以下,これを「本件補正発明」という)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて,以下に検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は,上記「1.補正の内容」において,補正後の請求項1として引用した記載のとおりものである。

(2)引用文献に記載の発明
一方,原審が,平成23年3月16日付けの拒絶理由(以下,これを「原審拒絶理由」という)において引用した,本願の第1国出願前に既に公知である,「J.C.Bienfang et al, “Quantum key distribution with 1.25 Gbps clock synchronization”, [online] , 2004年,」(以下,これを「引用文献1」という。なお,当該引用文献1の出典元は,電子版のみのジャーナルである,“Optic EXPRESS”の“Vol.12,Issue9,May.3,2004 p2011-2016”である。)には,関連する図面と共に,次のように記載されている。

A.「2. Single-photon QKD
Quantum key distribution uses a quantum channel, comprised of a set of non-orthogonal bases, and an auxiliary classical channel to create a link over which two parties can develop a secret key. The security of the key developed by the sender (Alice) and receiver (Bob) is based on their ability to detect the measurements of an eavesdropper on the quantum channel. There are a variety of protocols that realize QKD by transmission of single photons. Our system is designed to implement the four-state BB84 protocol [7] with linear-polarization states, but in this initial demonstration we have implemented the B92 protocol [8,9]. This two-state protocol, though simpler to set up, generates sifted key at half the rate of the BB84 protocol.」(2012頁26行?35行)
(2.単一光子 QKD
量子鍵配送は,非直交基底のセットから成る量子チャネルと,その上で,2つのパーティーが秘密鍵を生成することができる,リンクを生成するための,補助となる古典チャネルとを用いる。送信者(アリス)と,受信者(ボブ)との間で生成した鍵の安全性は,量子チャネル上で,彼らの盗聴者の測定を見破る能力に基礎を置いている。単一光子の送信によってQKDを実現する様々なプロトコルが存在する。我々のシステムは,直線偏光による,4状態BB84プロトコル[7]を組み入れて設計されているが,最初のデモンストレーションにおいては,B92プロトコル[8,9]を,組み入れている。この2状態プロトコルは,セットアップが簡単であるにも関わらず,BB84プロトコルのレートの半分で,変更されたキーを生成する。<当審訳。以下同じ。>)

B.「3. Experimental setup
Figure 1 shows the layout of our experimental system. Alice and Bob are located inside two buildings separated by 730 m. A free-space 1550 nm optical link between the buildings provides four full-duplex wavelength-division multiplexed (WDM) channels at 1.25 Gbps. These channels comprise the classical channel for the QKD protocols: one we refer to as the primary classical channel (labeled λ1 in Fig. 1), and is driven directly by custom data-handling PCI boards, while the others are used as dedicated Ethernet links between Alice and Bob. These systems have optical beacons and active tracking, and can operate over ranges of a few kilometers. This link operates continuously between the buildings.
The quantum channel runs parallel to the classical channel and operates at 845 nm. The quantum channel sources are 10 GHz vertical-cavity surface-emitting lasers (VCSELs) and are driven by Alice’s PCI board.」(2012頁45行?2013頁10行)
(3.実験の設定
図1に,実験システムの配置を示す。アリスとボブは,730m離れた2つのビルディングの内部に位置する。ビルディング間の自由空間1550nm光リンクは,1.25GBpsの,4つの全二重波長分割多重(WDM)チャネルを備える。これらのチャネルは,QKDプロトコルのための古典チャネルから成る。:一つを,第1の古典チャネル(図1において,λ1とラベル付けらている)と呼び,カスタム情報操作PCIボードから,直接制御され,一方,他は,アリスとボブの間の,イーサネット・リンク専用として用いられる。これらのシステムは,光学標識と,アクティブ・トラッキングとを有し,数キロメールの範囲を超えて,動作することができる。このリンクは,ビルディング間で,連続的に,動作する。
量子チャネルは,古典チャネルと平行して走り,845nmで動作する。量子チャネル源は,10GHzの,垂直共振器面発光レーザー(VCSELs)であり,アリスのPCIボードによって制御される。)

C.「The PCI boards at Alice and Bob each have a field-programmable gate array (FPGA), and two four-channel gigabit Ethernet serializers/deserializers (SerDes): one for the primary classical channel, and one for the quantum channel.」(2013頁24行?26行)
(アリスとボブのPCIボードは,それぞれ,フィールド・プログラマブル・ゲートアレイ(FPGA)と,1つは,第1の古典チャネル用,もう一つは,量子チャネル用の,2つの4チャネルギガビット・イーサネット直列化/直列化解除機(SerDes)を有している。)

D.「The quantum channel sends the random data while the primary classical channel sends a synchronizing message, which includes a 32-bit frame number.」(2014頁11行?12行)
(量子チャネルは,第1の古典チャネルが32ビットのフレーム番号を含む,同期メッセージを送信している間に,乱数を送信する。)

E.引用刊行物1の2013頁に掲載されたfig.1には,引用文献1における実験システムの,ハードウェア構成が示されている。

ア.上記Aの「Quantum key distribution uses a quantum channel, comprised of a set of non-orthogonal bases, and an auxiliary classical channel to create a link over which two parties can develop a secret key.・・・ There are a variety of protocols that realize QKD by transmission of single photons.(量子鍵配送は,非直交基底のセットから成る量子チャネルと,その上で,2つのパーティーが秘密鍵を生成することができる,リンクを生成するための,補助となる古典チャネルとを用いる。・・・単一光子の送信によってQKDを実現する様々なプロトコルが存在する。)」(下線は,説明の都合上,当審にて附加したものである。以下,同じ。)という記載から,引用文献1には,“量子鍵配送において,量子チャネルで単一光子を送信する”ことが記載されている点が読み取れる。

イ.上記Aの「The security of the key developed by the sender (Alice) and receiver (Bob) is based on their ability to detect the measurements of an eavesdropper on the quantum channel.(送信者(アリス)と,受信者(ボブ)との間で生成した鍵の安全性は,量子チャネル上で,彼らの盗聴者の測定を見破る能力に基礎を置いている。)」という記載,及び,上記Bの「 Alice and Bob are located inside two buildings separated by 730 m. A free-space 1550 nm optical link between the buildings provides four full-duplex wavelength-division multiplexed (WDM) channels at 1.25 Gbps. (アリスとボブは,730m離れた2つのビルディングの内部に位置する。ビルディング間の自由空間1550nm光リンクは,1.25GBpsの,4つの全二重波長分割多重(WDM)チャネルを備える。)」という記載,同じく,上記Bの「The quantum channel runs parallel to the classical channel and operates at 845 nm.(量子チャネルは,古典チャネルと平行して走り,845nmで動作する。)」という記載から,引用文献1に記載の「システム」は,
“730m離れたビルディング内にそれぞれ位置する送信者アリスと受信者ボブの間には,4つの全二重波長分割(WDM)チャネルと,量子チャネルが備えられている”ことが読み取れる。

ウ.Cに引用した記載,及び,上記Eで指摘した,fig.1に示された実験システムから,「送信者(アリス)」,及び,「受信者(ボブ)」は,それぞれ,“アリスの送信側装置”,及び,“ボブの受信側装置”を意味することは,明らかである。

エ.上記Dの「The quantum channel sends the random data while the primary classical channel sends a synchronizing message(量子チャネルは,第1の古典チャネルが・・・同期メッセージを送信している間に,乱数を送信する)」という記載から,引用文献1において,“古典チャネルが,同期メッセージを送信する”ことが読み取れる。

よって,以上,ア.?エ.で検討した事項から,引用文献1には,次の発明(以下,これを「引用発明」という)が記載されているものと認める。

アリスの送信側装置とボブの受信側装置の間で,量子鍵配送を行う方法であって,
730m離れたビルディング内にそれぞれ位置するアリスの送信側装置とボブの受信側装置の間には,4つの全二重波長分割(WDM)チャネルと,量子チャネルが備えられ,
量子チャネルで単一光子を送信し,
古典チャネルが,同期メッセージを送信する,方法。

(3)本件補正発明と引用発明との対比
ア.引用発明における「アリスの送信側装置」と,「ボブの受信側装置」が,本件補正発明における「送信ユニット」と,「受信ユニット」に相当し,引用発明も,本件補正発明も,「量子鍵」を配送するものであるから,
引用発明における「アリスの送信側装置とボブの受信側装置の間で,量子鍵配送を行う方法」と,
本件補正発明における「複数の送信ユニットと複数の受信ユニットの間でWDM(wavelength division multiplexing)リンク上で量子鍵を配布する方法」とは,
“送信ユニットと受信ユニットの間で量子鍵を配布する方法”である点で共通する。

イ.引用発明においては,「アリスの送信側装置とボブの受信側装置の間には,4つの全二重波長分割(WDM)チャネルと,量子チャネルが備えられ」ているのであるから,「送信側ユニット」と,「受信側ユニット」とを繋ぐために,“複数の古典チャネルのWDMチャネル”と,「量子チャネル」を有しており,
本件補正発明においても,「古典チャネル」は,「WDMチャネル」に含まれており,「量子チャネル」が存在することも明らかであるから,
引用発明における「アリスの送信側装置とボブの受信側装置の間には,4つの全二重波長分割(WDM)チャネルと,量子チャネルが備えられ」と,
本件補正発明における「前記送信ユニットと前記受信ユニットをつなぐために,複数の量子チャネルと複数の古典チャネルを含む複数のWDMチャネルを前記WDMリンク上に提供する」とは,
“前記送信ユニットと前記受信ユニットをつなぐために,複数の古典チャネルを含むWDMチャネルと,量子チャネルを設ける”点で共通する。

ウ.引用発明における「量子チャネルで単一光子を送信し」が,
本件補正発明における「量子チャネル上で単一光子信号を送信するステップ」に相当し,
引用発明における「古典チャネルが,同期メッセージを送信する」が,
本件補正発明における「古典チャネル上で,量子チャネル上での単一光子信号の送信の同期を取るトリガ信号を含むデータを送信するステップ」に相当する。

よって,上記ア.?ウ.において検討した事項から,本件補正発明と,引用発明との,一致点,及び,相違点は,次のとおりである。

[一致点]
送信ユニットと受信ユニットの間で量子鍵を配布する方法であって,
前記送信ユニットと前記受信ユニットをつなぐために,複数の古典チャネルを含むWDMチャネルと,量子チャネルを設けるステップと,
量子チャネル上で単一光子信号を送信するステップと,
古典チャネル上で,量子チャネル上での単一光子信号の送信の同期を取るトリガ信号を含むデータを送信するステップとを有する,量子鍵配布方法。

[相違点1]
“送信ユニット,及び,受信ユニット”に関して,
本件補正発明においては,「複数の送信ユニット」,及び,「複数の受信ユニット」であるのに対して,
引用発明においては,「送信者(アリス)」,及び,「受信者(ボブ)」が,それぞれ,複数存在する点については,言及されていない点。

[相違点2]
“送信ユニットと受信ユニットをつなぐために,複数の古典チャネルを含むWDMチャネルと,量子チャネルを設けるステップ”に関して,
本件補正発明においては,「複数の量子チャネルと複数の古典チャネルを含む複数のWDMチャネル」であるのに対して,
引用発明においては,「量子チャネル」は,「古典チャネル」の「WDMチャネル」とは別に存在している点。

[相違点3]
本件補正発明においては,「WDMチャネルに異なる波長を割り当てるステップ」が存在するのに対して,
引用発明においては,「異なる周波数を割り当てる」点については言及されていない点。

(4)相違点に対する当審の判断
ア.相違点1について
“複数の送信者(アリス)”と,“複数の受信者(ボブ)”との間で「量子鍵配送」を行う点に関しては,原審拒絶理由に引用された,本願の第1国出願前に既に公知である,特開2003-018144号公報(2003年1月17日公開,以下,これを「引用刊行物2」という)に,

F.「【0021】図1に示したように,これらの非対称光導波干渉系を送信者ノードの光信号多重化装置,受信者ノードの光信号分離装置として用いれば,単一の光ファイバーチャネル上に複数の量子チャネルを多重化することが出来,かつ送信者が送信する光子の波長を選択することにより望みの受信者へのみ回線交換を行い,多ノードネットワーク上の任意の二者間での量子鍵配布を行うことが可能である。」

と記載されているように,“複数の送信者ノード,受信者ノード間で,量子鍵配送を行う”ことは,本願の第1国出願前に既に公知であり,引用発明も,引用刊行物2に記載の発明も,共に,“量子鍵配送”に関する技術であるから,引用発明においても,引用刊行物2に記載の手法を用いて,“複数の送信者(アリス)と,複数の受信者(ボブ)との間で,量子鍵配送を行うよう構成する”ことは,当業者が適宜なし得る事項である。
よって,相違点1は,格別のものではない。

イ.[相違点2],及び,[相違点3]について
上記Fで引用したように,「量子チャネルを多重化する」点については,引用刊行物2にも記載され,
「古典チャネル」と,「量子チャネル」とを,多重化する点については,原審拒絶理由に引用された,本願の第1国出願前に既に公知である,米国特許出願公開第2005/0180575号明細書(2005年8月18日公開,以下,これを「引用刊行物3」という)に,

G.「[0070] FIG. 4 is a block diagram showing a quantum key distribution system based on the “Plug & Play” scheme, according to a first example of the present invention. In this example, used are a quantum channel 401 (corresponding to the quantum channel 51 in FIG. 3 ) at a wavelength λ1 and a classical channel 402 (corresponding to the classical channel 52 in FIG. 3 ) at wavelengths λ2 and λ3 for synchronization. Wavelength multiplexing splitters 601 and 602 are connected to each other through an optical fiber transmission line 400 (corresponding to the optical fiber 5 in FIG. 3 ). The quantum channel 401 at the wavelength λ1 is connected to each of quantum units 100 and 200 . The classical channel 402 at the wavelengths λ2 and λ3 for synchronization is connected to each of synchronization sections 300 and 500 . 」
(図4は,本発明の第1実施例に従う,“プラグ&プレイ”スキームを基礎とする,量子鍵配送システムのブロック図を示している。この例では,(図3における,量子チャネル51と同様の)波長λ1の量子チャネル401と,(図3における古典チャネル52と同様の)同期のための,波長λ2,及び,λ3の古典チャネル402とを用いる。波長多重スプリッタ601,及び,602が,互いに,(図3における光ファイバ5と同様の)光ファイバ通信線400を介して,接続されている。波長λ1の,量子チャネル401は,量子ユニット100,及び,200のそれぞれに接続され,波長λ2,及び,λ3の古典チャネルは401は,同期のために,同期部300,及び,500のそれぞれに接続されている)。

と記載され,更に,上記Gの記載が引用する,引用刊行物3の,FIG.4には,各波長のチャネルが,「WDM」で多重されている点が示されているように,当業者にとっては,本願の第1国出願前に既に公知の技術事項であり,また,光通信の技術領域において,波長分割多重(WDM)を用いることは,例えば,本願の第1国出願前に既に公知である,特開平08-122557号公報(1996年5月17日公開,以下,これを「周知文献」という)に,

H.「【目的】 クロストークが悪化することなく,3dB帯域幅が拡大された波長分割多重伝送用の光波長合分波器を提供する。
【構成】 基板101と,基板101上に形成された1本又は複数本の入力導波路102と,入力導波路102に接続され平板構造を有する入力側スラブ導波路103と,入力側スラブ導波路103に接続され導波路長がLi(i=1,2,3,…)の複数のチャネル導波路115?117からなるアレイ導波路回折格子104と,アレイ導波路回折格子104に接続された出力側スラブ導波路105と,出力側スラブ導波路105に接続された複数本の出力導波路106?108とを備えた光波長合分波器において,入力導波路102と入力側スラブ導波路103との接続部で入力導波路102又は入力側スラブ導波路103上にスリット112を形成したことを特徴としている。」

と記載されているように,当業者にとっては周知の技術事項であって,引用発明,引用刊行物2に記載の発明,及び,引用刊行物3に記載の発明,並びに,周知文献に記載された周知技術は,何れも,光通信に関する技術であることは明らかであるから,引用発明において,“複数の波長の量子チャネル,及び,古典チャネルを,波長分割多重(WDM)を用いて多重化する”ことは,当業者が適宜なし得る事項である。
よって,相違点2,及び,相違点3は,格別のものではない。

上記で検討したごとく,相違点1?3はいずれも格別のものではなく,そして,本件補正発明の構成によってもたらされる効果も,当業者であれば容易に予測できる程度のものであって,格別なものとは認められない。
よって,本件補正発明は,引用発明,並びに,引用刊行物2,3に記載の発明,及び,周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際特許を受けることができない。

3.補正却下むすび
したがって,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって,補正却下の決定の結論のとおり決定する。

第3.本願発明について
平成23年12月21日付けの手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,これを「本願発明」という)は,平成23年6月20日付けの手続補正により補正された,上記「第2.平成23年12月21日付けの手続補正の却下の決定」の「1.補正の内容」において,「補正前の請求項1」として引用した次のとおりのものである。

「複数の送信ユニットと複数の受信ユニットの間でWDM(wavelength division multiplexing)リンク上で量子鍵を配布する方法であって,
前記送信ユニットと前記受信ユニットをつなぐために,複数の量子チャネルと複数の古典チャネルを含む複数のWDMチャネルを前記WDMリンク上に提供するステップと,
WDMチャネルに異なる波長を割り当てるステップと,
量子チャネル上で単一光子信号を送信するステップと,
古典チャネル上で,古典データ,または,量子チャネル上での単一光子信号の送信の同期を取るトリガ信号を含むデータを送信するステップとを含むことを特徴とする量子鍵配布方法。」

第4.引用文献に記載の発明
一方,原審拒絶理由に引用された引用文献1には,上記「第2.平成23年12月21日付けの手続補正の却下の決定」の「2.補正の適否」における「(2)引用文献に記載の発明」において指摘したとおりの発明が記載されていると認める。

第5.本願発明と引用発明との対比
本願発明は,本件補正発明の「古典チャネル上で,量子チャネル上での単一光子信号の通信の同期を取るトリガ信号を含むデータを送信するステップ」を,
「古典チャネル上で,古典データ,または,量子チャネル上での単一光子信号の通信の同期を取るトリガ信号を含むデータを送信するステップ」としたものであるから,
よって,上記「第2.平成23年12月21日付けの手続補正の却下の決定」の「2.補正の適否」における「(3)本件補正発明と引用発明との対比」における検討を踏まえると,本願発明と,引用発明との一致点,及び,相違点は,次のとおりである。

[一致点]
送信ユニットと受信ユニットの間で量子鍵を配布する方法であって,
前記送信ユニットと前記受信ユニットをつなぐために,複数の古典チャネルを含むWDMチャネルと,量子チャネルを設けるステップと,
量子チャネル上で単一光子信号を送信するステップと,
古典チャネル上で,量子チャネル上での単一光子信号の送信の同期を取るトリガ信号を含むデータを送信するステップとを有する,量子鍵配布方法。

[相違点a]
“送信ユニット,及び,受信ユニット”に関して,
本願発明においては,「複数の送信ユニット」,及び,「複数の受信ユニット」であるのに対して,
引用発明においては,「送信者(アリス)」,及び,「受信者(ボブ)」が,それぞれ,複数存在する点については,言及されていない点。

[相違点b]
“送信ユニットと受信ユニットをつなぐために,複数の古典チャネルを含むWDMチャネルと,量子チャネルを設けるステップ”に関して,
本願発明においては,「複数の量子チャネルと複数の古典チャネルを含む複数のWDMチャネル」であるのに対して,
引用発明においては,「量子チャネル」は,「古典チャネル」の「WDMチャネル」とは別に存在している点。

[相違点c]
本願発明においては,「WDMチャネルに異なる波長を割り当てるステップ」が存在するのに対して,
引用発明においては,「異なる周波数を割り当てる」点については言及されていない点。

[相違点d]
“古典チャネル上で,量子チャネル上での単一光子信号の送信の同期を取るトリガ信号を含むデータを送信するステップ”に関して,
本願発明においては,「古典チャネル上で,古典データ,または,量子チャネル上での単一光子信号の送信の同期を取るトリガ信号を含むデータを送信するステップ」であるのに対して,
引用発明においては,“古典チャネル上で,古典データを送信する”点については,特に言及されていない点。

第6.相違点に対する当審の判断
1.[相違点a]?[相違点c]について
本願発明と,引用発明との[相違点a]?[相違点c]は,本件補正発明と,引用発明との[相違点1]?[相違点3]と同じものであるから,上記「第2.平成23年12月21日付けの手続補正の却下の決定」の「2.補正の適否」における「(4)相違点に対する当審の判断」において検討したとおり,本願発明と,引用発明との相違点a?相違点cは,格別のものではない。

2.[相違点d]について
上記Bに「 while the others are used as dedicated Ethernet links between Alice and Bob.(他は,アリスとボブの間の,イーサネット・リンク専用として用いられる。)」と記載されていて,引用発明のおいて「WDM」で多重された「古典チャネル」の1チャネル以外は,「イーサネット・リンク専用」に用いられているのであるから,この「チャネル」を用いて,「古典データ」を送信可能であることは,当業者にとって周知の技術事項である。
また,原審が,平成23年9月2日付けの拒絶査定において,周知技術として例示した,本願の第1国出願前に既に公知である,国際公開第2004/073235号(2004年8月26日公開,以下,これを「周知文献2」という)に,

I.「I. QKD system overview

A. Multiple communication link embodiment FIG. 1A is a high-level schematic diagram of a quantum key distribution (QKD) system 10 according to the present invention. System 10 includes two QKD stations, referred to as “Alice” and “Bob.” Alice includes a quantum channel optics layer (“quantum transceiver”) 20A for preparing, transmitting and/or receiving a quantum signal S1 sent to or receive from Bob over a quantum channel 24, which is coupled to Bob. Alice also includes a random number generator (RNG) unit 30A coupled to quantum transceiver 20A. RNG unit 30A provides random numbers to quantum transceiver 20A so that it can randomly set either the polarization or phase of quantum signal S1 based on a select set of polarizations or phases.
Alice also includes a public data transceiver (PDT) 40A coupled to a classical (data) channel 44, which is coupled to Bob. PDT 40A is adapted to acquire and process classical signals S2 used to publicly transmit and receive data (e.g., encrypted messages) between Alice and Bob. PDT 40A is coupled to RNG unit 30A and to quantum transceiver 20A.
Alice also includes an optical modem unit 50A coupled to a timing channel 54, which is also coupled to Bob. Optical modem unit 50A is adapted to transmit and receive optical signals S3 sent over timing channel 54 necessary for carrying out the timing operations, described below, and necessary for QKD system 10 to function properly.」(5頁1行?20行)
(【0014】
[I.QKDシステムの概略]
A.多重通信リンクの実施形態
図1Aは,本発明に係る量子鍵配送(QKD)システム10の上位概略図である。システム10は,2つのQKDステーションを備える。以下,これらを「アリス」および「ボブ」と呼ぶ。アリスは,量子チャネル24を介してボブに送信,あるいはボブから受信する量子信号S1を準備,送信および/または受信するための量子チャネル光レイヤ(「量子トランシーバ」)20Aを有する。量子チャネル24は,ボブに連結されている。アリスはまた,量子トランシーバ20Aに連結された乱数発生(RNG)部30Aを有する。RNG部30Aは,選択された一連の偏光または位相に基づいて,量子信号S1の偏光または位相のどちらかをランダムに設定できるように,量子トランシーバ20Aに乱数を提供する。
【0015】
アリスはまた,古典(データ)チャネル44に連結された公開データトランシーバ(PDT)40Aを有している。古典(データ)チャネル44は,ボブに連結されている。PDT40Aは,アリスとボブ間において,公開でデータ(例えば,暗号化されたメッセージ)を送受信するために使用される古典信号S2を取得し,処理するよう調整される。PDT40Aは,RNG部30Aと量子トランシーバ20Aに連結されている。
【0016】
アリスはまた,タイミングチャネル54に連結された光モデム部50Aを有する。タイミングチャネル54も,ボブに連結されている。光モデム部50Aは,タイミングチャネル54を介して送信される光信号S3を送信および受信するよう調整される。光信号S3は,以下に述べるタイミング動作を実行するために必要であり,またQKDシステム10を適切に機能させるために必要なものである。<対応する日本語公報である,特表2006-513678号より引用>)

と記載されていて,引用発明におけるリンクの点も併せて考慮すれば,“量子鍵配送”において,「古典チャネル」を介して「古典データ」を送信することは,本願の第1国出願前に既に,当業者には,周知の技術事項である。
以上のとおりであるから,引用発明において,「古典チャネル」を用いて,「古典データ」を送信するよう構成することは,当業者が適宜なし得る事項である。
よって,相違点dは,格別のものではない。

上記で検討したごとく,相違点a?dはいずれも格別のものではなく,そして,本願発明の構成によってもたらされる効果も,当業者であれば容易に予測できる程度のものであって,格別なものとは認められない。

第7.むすび
したがって,本願発明は,本願の特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-06-07 
結審通知日 2013-06-11 
審決日 2013-06-26 
出願番号 特願2008-530302(P2008-530302)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H04L)
P 1 8・ 121- Z (H04L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松平 英  
特許庁審判長 山崎 達也
特許庁審判官 石井 茂和
田中 秀人
発明の名称 WDMリンク上の量子鍵配布システムおよび方法  
代理人 森下 賢樹  

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