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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C09J
管理番号 1281750
審判番号 不服2012-18695  
総通号数 169 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-09-25 
確定日 2013-11-14 
事件の表示 特願2009-168978「感光性接着剤及び接着フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成21年12月10日出願公開,特開2009-287028〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,平成21年7月17日に,
「特許法第44条第1項の規定による特許出願
【原出願の表示】
【出願番号】特願2007-524032
【出願日】平成18年6月30日」(本件願書面の記載参照)
として出願されたものであって,平成24年4月6日付け拒絶理由通知書に対して,その指定期間内である同年6月8日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが,その後,同年6月21日付けで拒絶査定がされ,これに対して,同年9月25日に審判請求がされると同時に手続補正がされ,さらに,前置報告を利用した平成25年1月28日付け審尋がなされ,それに対して同年3月28日に回答書が提出されたものである。
なお,「原出願」としている特願2007-524032号は,先の国内出願(2件)に基づく優先権を主張するものであって,当該先の出願の出願日は,平成17年7月5日及び同年11月17日である。

2.平成24年9月25日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成24年9月25日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)本件補正発明
平成24年9月25日付け手続補正(以下,「本件補正」という。)は,特許請求の範囲の請求項1を次のように補正しようとするものである。
「【請求項1】
側鎖にカルボキシル基を有し,酸価が80?180mg/KOHである,主鎖中にイミド骨格を有する樹脂と,放射線重合性化合物と,光重合開始剤と,熱硬化性樹脂と,を含有する感光性接着剤であって,
当該感光性接着剤からなる接着剤層を被着体上に形成し,前記接着剤層を露光した後,テトラメチルアンモニウムハイドライド2.38%水溶液を用いて現像することにより接着剤パターンが形成され,前記接着剤パターンを介して前記被着体に他の被着体を接着することが可能である,感光性接着剤。」(以下,「本件補正発明」という。)

(2)分割出願としての適法性について
ア 特許法第44条第1項の規定に基づく新たな特許出願が適法とされるためには,少なくとも,新たな特許出願に係る発明は,もとの出願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものあることが必要であるので,以下この点について検討する。
イ 本件補正発明では,感光性接着剤の1成分として,「側鎖にカルボキシル基を有し,酸価が80?180mg/KOHである,主鎖中にイミド骨格を有する樹脂」と特定されているので,このような樹脂が本件出願の原出願としている特願2007-524032号の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下,「原出願当初明細書等」という:再公表公報WO2007/4569号(原審で引用された文献1:後記刊行物A)参照)に記載されているといえるか否かについて検討する。
ウ 原出願当初明細書等の特許請求の範囲には,
「【請求項1】
(A)カルボキシル基を側鎖として有し,酸価が80?180mg/KOHであるポリイミドと,
(B)放射線重合性化合物と,
(C)光重合開始剤と,
を含有する感光性接着剤組成物。
(【請求項2】以下,省略)」
と記載されている。
そして,原出願当初明細書等の明細書においては,【発明が解決しようとする課題】の項で,
「ポリイミド樹脂を用いた従来の感光性接着剤は,アルカリ現像液によるパターン形成性及び被着体への低温での貼り付け性の両方について同時に高いレベルを達成することは困難であった。また,露光後に熱圧着したときに十分に高い接着力を発現することが可能な,再接着性を付与することも困難であった。」(【0004】)とした上で,
「本発明は,アルカリ現像液によるパターン形成性に優れ,露光後の十分な再接着性を有する感光性接着剤組成物を提供することを目的とする。…」(【0005】)と記載し,
これを受ける形で,【課題を解決するための手段】の項で,
「本発明の感光性接着剤組成物は,(A)カルボキシル基を側鎖として有し酸価が80?180mg/KOHであるポリイミドと,(B)放射線重合性化合物と,(C)光重合開始剤と,を含有する。上記酸価は,好ましくは80?150mg/KOHである。」(【0006】)と記載していて,ここでいう「本発明の感光性接着剤組成物」は,上記した特許請求の範囲の【請求項1】と内容的に一致している。
すなわち,明細書において発明の目的を記載した【0005】では,直接的には「ポリイミド」又は「ポリイミド樹脂」との記載はないものの,その前提となった従来技術における問題点として,「ポリイミド樹脂を用いた従来の感光性接着剤は,…」とポリイミド樹脂に関することとして記載しており,さらに,課題を解決するための手段としても,「本発明の感光性接着剤組成物は,(A)…であるポリイミド…,を含有する。」と含有成分が『ポリイミド』であることを明記していて,このことは【請求項1】の記載も同様である。
したがって,原出願当初明細書等に記載された発明に係る感光性接着剤組成物の1成分として,「カルボキシル基を側鎖として有し,酸価が80?180mg/KOHであるポリイミド」が記載されているものといえる。
これに対して,上記した本件補正発明における感光性接着剤の成分は,
「側鎖にカルボキシル基を有し,酸価が80?180mg/KOHである,主鎖中にイミド骨格を有する樹脂」
である。
両者を比較すると,「側鎖にカルボキシル基を有し,酸価が80?180mg/KOHである」とする点は共通するので,両成分の異同については,結局「主鎖中にイミド骨格を有する樹脂」と「ポリイミド」とを対比・検討すれば,それに尽きるといえることから,以下この点について検討する。
エ 最初に,用語「ポリイミド」なる語の意味について検討すると,主鎖がイミド結合の繰り返しにより重合された,以下の式で示される「直鎖状ポリイミド」と「環状ポリイミド」の大別して2つの種類のタイプのものの総称であって,そのうち一般に「ポリイミド」といえば,環状ポリイミドを意味するとされるものである。(参考資料1:日本ポリイミド研究会編「最新ポリイミド?基礎と応用?」,2002年1月28日株式会社エヌ・ティー・エス発行,第4頁第2?7行参照)

すなわち,用語「ポリイミド」は,一般的には,「環状ポリイミド」(以下,「狭義のポリイミド」ということもある。)を意味するものとして使用されるが,場合によっては,「直鎖状及び環状を含む両タイプのポリイミド」(以下,「広義のポリイミド」ということもある。)を意味する場合もあり得ると理解される。
次に,「主鎖中にイミド骨格を有する樹脂」の意味について検討すると,『主鎖中に…骨格を有する』といった表現に関して,主鎖中にどのような形式で当該骨格が存在していれば,この表現に該当するかについて共通の理解があるとはいえないものの,上記2つのタイプのポリイミド(すなわち,直鎖状及び環状の両タイプのポリイミド)が含まれることは明らかであり,また,このような主鎖がイミド結合の繰り返しにより重合されたもののみに止まらず,例えば,イミド骨格が主鎖の所々に点在する構造をもつ重合体であって,もはや「ポリイミド」とは呼ぶべきものとはいえない構造のものも含まれると解される。
すなわち,用語「ポリイミド」が,狭義と広義のどちらの意味で使用されているかにかかわらず,「主鎖中にイミド骨格を有する樹脂」には,用語「ポリイミド」には該当しない樹脂までも含まれると解すべきということになる。
(なお,このように「主鎖中にイミド骨格を有する樹脂」には,用語「ポリイミド」には該当しない樹脂も含まれるという解釈は,請求人が提出した平成25年3月28日付け回答書の「(2-2)分割出願の適法性について」の第6段落において,「…『主鎖中にイミド骨格を有する樹脂』であれば,ポリイミドでなくても,…」といった記載がなされていることからも,請求人と共通の認識であると解される。)
「ポリイミド」及び「主鎖中にイミド骨格を有する樹脂」に関する以上の理解を前提とすれば,本件補正発明における「側鎖にカルボキシル基を有し,酸価が80?180mg/KOHである,主鎖中にイミド骨格を有する樹脂」には,原出願当初明細書等における,用語「ポリイミド」が狭義と広義のどちらの意味で使用されていたとしても,何れにしても,「カルボキシル基を側鎖として有し,酸価が80?180mg/KOHであるポリイミド」には該当しない樹脂も含まれるものと解すべきということになる。
オ さらに,原出願当初明細書等における他の記載を見ても,感光性接着剤の「(A)成分」としては,専ら「ポリイミド」の用語が用いられて記載されていたことに加えて,例えば,
(a)【0002】における
「感光性接着剤としては,これまで,ポリイミド樹脂前駆体(ポリアミド酸)あるいはポリイミド樹脂をベースとした材料が使用されていた」なる記載,
(b)【0033】における
「テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応(縮合反応)は,当業者には理解されるように,公知の方法により行うことができる。例えば,この反応においては,まず,…ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸が生成する。…生成したポリアミド酸を脱水閉環させることにより,ポリイミドが生成する。」なる記載,及び,
(c)実施例(【0120】?【160】)において「ポリイミド」として具体的に示されたPI-1?PI-11(これらのポリイミドは全て環状ポリイミドに相当する)に関する記載,
を参酌しても,何れも,上記参考資料1における環状ポリイミドを意味するものとして理解されることから,原出願当初明細書等における『ポリイミド』は,該参考資料1でいう,一般的な意味での「ポリイミド」と解される。
また,【0031】には,
「上記ポリイミドは,主鎖中にイミド骨格を有し,カルボキシル基を側鎖として有する1種又は2種以上の重合体から構成される。」
なる記載がなされているが,この記載は【0030】の
「本実施形態に係る感光性接着剤組成物は,ポリイミド,放射線重合性化合物及び光重合開始剤を含有する。」
なる記載を受けて『上記ポリイミド』としていると解されるから,「上記ポリイミドは,主鎖中にイミド骨格を有し,…」というのは,あくまで「ポリイミド」なる用語によって表される樹脂の範囲内において説明するものに過ぎないと解すべきであって,このような記載に基づいて,原出願当初明細書等における『ポリイミド』が,一般的な意味での用語「ポリイミド」を越える意味に解すべき根拠とはなり得ないものである。
したがって,本件補正発明における「側鎖にカルボキシル基を有し,酸価が80?180mg/KOHである,主鎖中にイミド骨格を有する樹脂」には,原出願当初明細書等に記載された,「カルボキシル基を側鎖として有し,酸価が80?180mg/KOHであるポリイミド」には該当しない樹脂も含まれるものといえる。
カ ところで,本件補正発明は,個別の成分の限定とは別に,「感光性接着剤(組成物)」全体の限定事項として,次の(i)及び(ii)のような限定も付加されている。
(i)「当該感光性接着剤からなる接着剤層を被着体上に形成し,前記接着剤層を露光した後,テトラメチルアンモニウムハイドライド2.38%水溶液を用いて現像することにより接着剤パターンが形成され」
(ii)「前記接着剤パターンを介して前記被着体に他の被着体を接着することが可能である」
念のため,これらの事項を併せ考慮しても,本件補正発明に係る感光性接着剤の1成分である「側鎖にカルボキシル基を有し,酸価が80?180mg/KOHである,主鎖中にイミド骨格を有する樹脂」が,実質的に,一般的な意味での「ポリイミド」の範囲内に限定される,とすることはできないものである。
すなわち,(i)については,『側鎖にカルボキシル基を有し』や『酸価が80?180mg/KOHである』と関連するものとして論じられることがあったとしても,「主鎖中にイミド骨格を有する樹脂」が,実質的に「ポリイミド」に限定されるか否かとは何ら関連しないことと解せられ,また,(ii)についても,同様に「主鎖中にイミド骨格を有する樹脂」が,実質的に「ポリイミド」に限定されることとは何ら関連しないことと解せられる。
したがって,上記(i)及び(ii)の記載により,感光性接着剤の1成分である「側鎖にカルボキシル基を有し,酸価が80?180mg/KOHである,主鎖中にイミド骨格を有する樹脂」が,実質的に,一般的な意味での「ポリイミド」の範囲内に限定される,とすることはできない。

キ なお,請求人は,本件補正発明の分割出願としての適法性に関し,
「テトラメチルアンモニウムハイドライド2.38%水溶液を用いて現像可能となるようなアルカリ水溶液への溶解性を有する『主鎖中にイミド骨格を有する樹脂』等を含有する感光性接着剤を用いる,という技術手段により,『アルカリ現像液によるパターン形成性に優れ,露光後の十分な再接着性を有する』という課題を解決するという技術的思想に基づく発明を,当業者であれば原出願の明細書等から明確に把握することができる」旨(平成24年6月8日付け意見書「3.分割出願の適法性について」の第7段落),及び,
「原出願に記載の発明において,接着剤又は接着フィルムに含有されるポリイミドに求められる機能は,原出願の背景技術に記載されているように,『耐湿信頼性』及び『耐はんだリフロー性』(原出願の明細書段落0002参照)にあって,これらの性質は,ポリイミドに限らずとも『主鎖中にイミド骨格を有する樹脂』であれば達成することができる」旨(平成25年3月28日付け回答書「(2-2)分割出願の適法性について」の第3段落),
主張している。
しかしながら,特許法第44条の規定に基づく適法な分割出願といえるか否かは,分割出願に係る発明が,もとの出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に,あくまで『記載されていたといえるか否か』で判断すべきであって(仮に,原出願当初明細書等の記載から,「当業者が容易に把握し得る事項」であったとしても,そのことと「記載されていたといえる事項」とは明確に峻別されるべきことである),上記したように,この出願の原出願当初明細書等には,発明に係る感光性接着剤の(A)成分としては,専ら「ポリイミド」の用語が用いられていたものであり,これを越える樹脂については記載されていたとはいえないのであるから,上記請求人の主張は何れも採用することができない。

ク 以上のことから,本件補正発明は,少なくとも,本件において「原出願」と称する特願2007-524032号の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明から逸脱するものを含むものであるから,特許法第44条第1項にいう「もとの出願の一部を…新たな特許出願とする」には該当せず,同条第2項に規定される「もとの特許出願の時にしたものとみなす」との効果も享受することはできない。
よって,本件補正発明を対象とするこの出願は,現実の出願日である平成21年7月17日に出願されたものとして扱う。

(3)本件補正の目的等
本件補正は,補正前請求項1(平成24年6月8日付け手続補正書の請求項1)に記載した発明を特定するために必要な事項である「主鎖中にイミド骨格を有する樹脂」を,「側鎖にカルボキシル基を有し,酸価が80?180mg/KOHである,主鎖中にイミド骨格を有する樹脂」と限定するものであって,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(4)本件補正発明の独立特許要件
上記(3)で記載したように,本件補正は特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので,本件補正後の前記請求項1に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下検討する。

(4-1)引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願前に頒布されたことが明らかな,原出願の再公表特許公報「WO2007/004569」(発行日:平成21年1月29日)(以下,「刊行物A」という。)には,以下の事項が記載されている。
・刊行物Aの記載事項
(A-1)
「【請求項1】
(A)カルボキシル基を側鎖として有し,酸価が80?180mg/KOHであるポリイミドと,
(B)放射線重合性化合物と,
(C)光重合開始剤と,
を含有する感光性接着剤組成物。

【請求項3】
(D)熱硬化性樹脂を更に含有する,請求項1又は2記載の感光性接着剤組成物。」
(A-2)
「【0023】
本発明の接着剤パターンは,上記本発明の感光性接着剤組成物からなる接着剤層を被着体上に形成し,該接着剤層をフォトマスクを介して露光し,露光後の接着剤層をアルカリ水溶液により現像処理することにより形成されるものである。この接着剤層は,上記本発明の感光性接着剤組成物がパターン形成性に優れているため,高精細なパターンを有することが可能であり,また,露光後の再接着性に優れる。」
(A-3)
「【0114】
接着剤パターン1a及び1bは,感光性接着剤組成物からなる接着剤層1を被着体としての半導体ウェハ5上に形成して接着剤層付半導体ウェハ20を得,接着剤層1をフォトマスクを介して露光し,露光後の接着剤層1をアルカリ水溶液により現像することにより形成される。すなわち,接着剤パターン1a及び1bは,露光後の感光性接着剤組成物から構成される。
【0115】
続いて,接着剤パターン1a又は1bを介して半導体ウェハ20にもう一方の被着体としてのカバーガラス9が接着される。図9はカバーガラス9が接着剤パターン1aを介して半導体ウェハ20に接着された状態を示す上面図であり,図10は図9のX-X線に沿った端面図である。図11はカバーガラス9が接着剤パターン1bを介して半導体ウェハ20に接着された状態を示す上面図であり,図12は図11のXI-XI線に沿った端面図である。カバーガラス9は,加熱硬化された接着剤パターン1a又は1bを挟んで半導体ウェハ20に接着されている。カバーガラス9を接着剤パターン1a又は1b上に載せ,これを熱圧着することにより,カバーガラス9が接着される。接着剤パターン1a及び1bは,カバーガラス9を接着するための接着剤として機能するとともに,有効画素領域7を囲む空間を確保するためのスペーサとしても機能している。」
(A-4)
「【0154】
(1)パターン形成性
接着フィルムを,シリコンウェハ(6インチ径,厚さ400μm)上にロールで加圧することにより積層し,その上にマスクを載せた。そして,高精度平行露光機(オーク製作所製)で露光した後,テトラメチルアンモニウムハイドライド(TMAH)2.38%溶液を用いてスプレー現像した。現像後,パターン形成(ライン幅1mm)されているか確認し,パターン形成されていた場合をA,パターン形成されていなかった場合をCとした。」

(4-2)刊行物Aに記載された発明
刊行物Aの【請求項1】には,
「(A)カルボキシル基を側鎖として有し,酸価が80?180mg/KOHであるポリイミドと,
(B)放射線重合性化合物と,
(C)光重合開始剤と,
を含有する感光性接着剤組成物。」(摘記(A-1))
と記載されていて,また,同【請求項3】には,
「(D)熱硬化性樹脂を更に含有する,請求項1又は2記載の感光性接着剤組成物。」(摘記(A-1))
と記載されていることから,
「(A)カルボキシル基を側鎖として有し,酸価が80?180mg/KOHであるポリイミドと,
(B)放射線重合性化合物と,
(C)光重合開始剤と,
(D)熱硬化性樹脂,
を含有する感光性接着剤組成物。」
が記載されているといえる。
また,【0023】には,
「本発明の接着剤パターンは,上記本発明の感光性接着剤組成物からなる接着剤層を被着体上に形成し,該接着剤層をフォトマスクを介して露光し,露光後の接着剤層をアルカリ水溶液により現像処理することにより形成されるものである。この接着剤層は,上記本発明の感光性接着剤組成物がパターン形成性に優れているため,高精細なパターンを有することが可能であり,また,露光後の再接着性に優れる。」(摘記(A-2))
と記載されていることから,「上記感光性接着剤組成物からなる接着剤層を被着体上に形成し,露光後の接着剤層をアルカリ水溶液により現像処理することによりパターンが形成されるもの」といえるし,さらに,「接着剤層は,露光後の再接着性に優れる。」ともいえるものである。
したがって,刊行物Aには,次の発明が記載されているものといえる。
「(A)カルボキシル基を側鎖として有し,酸価が80?180mg/KOHであるポリイミドと,
(B)放射線重合性化合物と,
(C)光重合開始剤と,
(D)熱硬化性樹脂,
を含有する感光性接着剤組成物であって,
該感光性接着剤組成物からなる接着剤層を被着体上に形成し,露光後の接着剤層をアルカリ水溶液により現像処理することによりパターンが形成されるものであり,
さらに,該接着剤層は,露光後の再接着性に優れるもの。」(以下,「引用発明」という。)

(4-3)対比・検討
ア まず,本件補正発明の特定事項は,次のように分説される。
「a:側鎖にカルボキシル基を有し,酸価が80?180mg/KOHである,主鎖中にイミド骨格を有する樹脂と,
b:放射線重合性化合物と,
c:光重合開始剤と,
d:熱硬化性樹脂と,
e:を含有する感光性接着剤であって,
f:当該感光性接着剤からなる接着剤層を被着体上に形成し,前記接着剤層を露光した後,テトラメチルアンモニウムハイドライド2.38%水溶液を用いて現像することにより接着剤パターンが形成され,
g:前記接着剤パターンを介して前記被着体に他の被着体を接着することが可能である,
h:感光性接着剤。」
そこで,分節された各特定事項について,順次,上記引用発明がこれらの特定事項を具備するものといえるかについて検討する。
イ 本件補正発明の特定事項aは,「側鎖にカルボキシル基を有し,酸価が80?180mg/KOHである,主鎖中にイミド骨格を有する樹脂」としているのに対して,引用発明は,「(A)カルボキシル基を側鎖として有し,酸価が80?180mg/KOHであるポリイミド」とするものである。
両者は,「側鎖にカルボキシル基を有し,酸価が80?180mg/KOHである」点で共通し,さらに,引用発明でいう『ポリイミド』は,その主鎖中にイミド骨格をするものであることは技術常識であるから,本件補正発明でいう「主鎖中にイミド骨格を有する樹脂」に該当し,結局,本件補正発明の特定事項aは,引用発明でも具備されている事項といえる。
ウ 本件補正発明の特定事項b?dとして記載されている成分は,何れも引用発明でも含まれているものであるから,これらの特定事項についても,引用発明は具備するものである。
エ 本件補正発明の特定事項eについては,引用発明も「感光性接着剤」であるから,この事項についても,引用発明は具備するものである。
オ 本件補正発明の特定事項fについては,現像液が,上記引用発明では,単に「アルカリ水溶液」とされるものであるが,刊行物Aの【0154】には,「テトラメチルアンモニウムハイドライド2.38%水溶液」を用いて現像する旨記載されている(摘記(A-4))ので,この特定事項fについては,引用発明と実質的に差異があるとはいえないものである。
カ 本件補正発明の特定事項gに関しても,以下に述べるように,引用発明も具備するものといえる。
すなわち,上記引用発明に係る接着剤は,「接着剤層は,露光後の再接着性に優れるもの」であるとされ,ここでは,『露光後』のことをいっているのであるから,引用発明のここでいう『接着剤層』とは,露光によって形成されたパターン状になっているものと解される。また,引用発明でいう『露光後の再接着』との意味は,刊行物Aの【0114】?【0115】に「接着剤層を被着体としての半導体ウェハ上に形成して,露光・現像してパターンを形成した後,接着剤パターンを介して半導体ウェハにもう一方の被着体としてのカバーガラスが接着される」(摘記(A-4))旨記載されていることから,「接着剤パターンを介して」,露光前に接着した半導体ウェハという「被着体」に,カバーガラスという「他の被着体」を「接着する」ことを意味するものと解される。
そうすると,引用発明の「接着剤層は,露光後の再接着性に優れるもの」ということは,本件補正発明の特定事項gである「接着剤パターンを介して前記被着体に他の被着体を接着することが可能である」ことを意味するものと解される。
したがって,本件補正発明の特定事項g「接着剤パターンを介して前記被着体に他の被着体を接着することが可能である」は,引用発明もこれを具備するものといえる。
キ 本件補正発明の特定事項hについても,引用発明は「感光性接着剤」といえるから,この事項についても,引用発明は具備するものである。
ク 以上のとおり,本件補正発明の特定事項a?hは,何れも,引用発明でも具備するものであるか,或いは,実質的に差異があるものとはいえないものであるので,本件補正発明は,刊行物Aに記載された発明であるといえ,特許法第29条第1項第3号に該当する。

(4-4)むすび
本件補正発明は,特許法第29条第1項第3号の発明に該当し,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,本件補正は,特許法第17条の2第6項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本件出願について
(1)本願発明
平成24年9月25日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願請求項1に係る発明は,平成24年6月8日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。
「【請求項1】
主鎖中にイミド骨格を有する樹脂と,放射線重合性化合物と,光重合開始剤と,熱硬化性樹脂と,を含有する感光性接着剤であって,
当該感光性接着剤からなる接着剤層を被着体上に形成し,前記接着剤層を露光した後,テトラメチルアンモニウムハイドライド2.38%水溶液を用いて現像することにより接着剤パターンが形成され,前記接着剤パターンを介して前記被着体に他の被着体を接着することが可能である,感光性接着剤。」(以下,「本願発明」という)

(2)分割出願の適法性について
本願発明と本件補正発明とを対比すると,本願発明は,本件補正発明をそのまま全て含みさらに広範なものとなっているものであるが,本願発明とはそのような関係にある本件補正発明が,上記2.(2)に記載したように,原出願当初明細書等に記載された発明から逸脱した内容を含むものといえるのであるから,本願発明も同様に原出願当初明細書等に記載された発明から逸脱した内容を含むものといえることとなる。
したがって,本願発明を対象とする出願であっても,特許法第44条第1項に規定される分割出願として適法なものとはいえないから,出願日の遡及は認められず,本出願は,現実の出願日である平成21年7月17日になされたものとして扱う。

(3)引用刊行物及び引用発明
原審で引用された刊行物A及びその記載事項並びに該刊行物Aに記載された発明は,上記2.(4-1)?2.(4-2)に記載したとおりである。

(4)対比・検討
上記2.(4-3)で記載した本件補正発明の発明特定事項a?hのうち,特定事項aのみが,本願発明では「主鎖中にイミド骨格を有する樹脂」(以下,「特定事項a’」という。)と異なるのみで,他の特定事項b?hについては,本願発明と変更がないものである。
したがって,上記2.(4-3)で記載した本件補正発明の発明特定事項b?hについての引用発明との対比・検討は,本願発明でも全く同様にいえることであり,また,本願発明の特定事項a’については,カルボキシル基を側鎖として有しているか否か,或いは,酸価が80?180mg/KOHであるか否かに関わらず,「ポリイミド」であれば「主鎖中にイミド骨格を有する樹脂」といえることは技術常識であるから,引用発明の「(A)カルボキシル基を側鎖として有し,酸価が80?180mg/KOHであるポリイミド」が,本願発明の特定事項a’の「主鎖中にイミド骨格を有する樹脂」に該当することは明らかである。
よって,引用発明は,本願発明の特手事項a’及びb?hの何れについても,具備するか又は実質的に差異がないとされるものであるから,本願発明は,刊行物Aに記載された発明といえるものである。

(5)むすび
以上のとおりであるから,本願発明は,刊行物Aに記載された発明であって,特許法第29条第1項第3号の発明に該当し,特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-09-10 
結審通知日 2013-09-17 
審決日 2013-09-30 
出願番号 特願2009-168978(P2009-168978)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C09J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 澤村 茂実  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 松浦 新司
小石 真弓
発明の名称 感光性接着剤及び接着フィルム  
代理人 沖田 英樹  
代理人 池田 正人  
代理人 城戸 博兒  
代理人 清水 義憲  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 酒巻 順一郎  

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