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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  H02N
審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  H02N
審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備  H02N
管理番号 1281845
審判番号 無効2011-800176  
総通号数 169 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-01-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-09-16 
確定日 2013-12-06 
事件の表示 上記当事者間の特許第3269223号発明「超音波モータと振動検出器とを備えた装置」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

本件特許第3269223号(請求項の数[9],以下,「本件特許」という。)は,平成5年10月15日に特許出願された特願平5-281843号に係るものであって,平成13年9月28日付け手続補正書による補正がなされ,その請求項1ないし9に係る発明について,平成14年1月18日に特許の設定登録がなされた。

これに対して,平成23年9月16日に,本件特許の請求項1ないし9に係る発明の特許に対して,本件無効審判請求人(以下,「請求人」という。)により本件無効審判〔無効2011-800176号〕が請求されたものであり,本件無効審判被請求人(以下,「被請求人」という。)により指定期間内の平成23年12月12日付けで審判事件答弁書が提出されたものである。

また,平成24年4月3日に請求人及び被請求人より,それぞれ,口頭審理陳述要領書が提出され,同年4月24日に第1回口頭審理が行われると共に審理終結通知がなされたものである。


第2 本件特許に係る発明

本件特許の請求項1ないし9に係る発明は平成13年9月28日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された以下の事項により特定されるとおりのものと認める。

1 「【請求項1】
超音波モータと励振された振動検出素子を用いて振動を検出する振動検出器とを備えた装置であって,
前記超音波モータの共振周波数帯域を前記振動検出素子の1次の共振周波数と2次の共振周波数帯域との間に設定したこと
を特徴とする超音波モータと振動検出器とを備えた装置。」
(以下,「本件特許発明1」という。)

2 「【請求項2】
超音波モータと励振された振動検出素子を用いて振動を検出する振動検出器とを備えた装置であって,
前記振動検出素子の共振の半値幅帯域と前記超音波モータの周波数制御範囲とを別の帯域に設定したこと
を特徴とする超音波モータと振動検出器とを備えた装置。」
(以下,「本件特許発明2」という。)

3 「【請求項3】
超音波モータと励振された振動検出素子を用いて振動を検出する振動検出器とを備えた装置であって,
前記超音波モータの周波数制御範囲を前記振動検出素子の1次の共振周波数帯域と2次の共振周波数帯域との間に設定したこと
を特徴とする超音波モータと振動検出器とを備えた装置。」
(以下,「本件特許発明3」という。)

4 「【請求項4】
超音波モータと励振された振動検出素子を用いて振動を検出する振動検出器とを備えた装置であって,
前記振動検出素子の共振の半値幅帯域と前記超音波モータの共振周波数帯域とを別の帯域に設定したこと
を特徴とする超音波モータと振動検出器とを備えた装置。」
(以下,「本件特許発明4」という。)

5 「【請求項5】
超音波モータと励振された振動検出素子を用いて振動を検出する振動検出器とを備えた装置であって,
前記超音波モータの共振周波数帯域を前記振動検出素子の1次の共振の半値幅帯域と2次の共振の半値幅帯域との間に設定したこと
を特徴とする超音波モータと振動検出器とを備えた装置。」
(以下,「本件特許発明5」という。)

6 「【請求項6】
超音波モータと励振された振動検出素子を用いて振動を検出する振動検出器とを備えた装置であって,
前記超音波モータの周波数制御範囲を前記振動検出素子の1次の共振の半値幅帯域と2次の共振の半値幅帯域との間に設定したこと
を特徴とする超音波モータと振動検出器とを備えた装置。」
(以下,「本件特許発明6」という。)

7 「【請求項7】
請求項1?請求項6のいずれか1項に記載の超音波モータと励振された振動検出素子を用いて振動を検出する振動検出器とを備えた装置において,
前記装置は,撮影レンズとカメラボディとが一体又は着脱可能なカメラシステムであること
を特徴とする超音波モータと振動検出器とを備えた装置。」
(以下,「本件特許発明7」という。)

8 「【請求項8】
請求項7に記載の超音波モータと励振された振動検出素子を用いて振動を検出する振動検出器とを備えた装置において,
前記超音波モータは,前記撮影レンズに設けられ,
前記振動検出素子は,前記撮影レンズ又は前記カメラボディに設けられていること
を特徴とする超音波モータと振動検出器とを備えた装置。」
(以下,「本件特許発明8」という。)

9 「【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載の超音波モータと励振された振動検出素子を用いて振動を検出する振動検出器とを備えた装置において,
前記超音波モータは,撮影レンズの焦点整合用の駆動源であり,
前記振動検出素子は,手振れの検出用のセンサであること
を特徴とする超音波モータと振動検出器とを備えた装置。」
(以下,「本件特許発明9」という。)


第3 当事者の主張

1 請求人の主張,及び提出した証拠の概要

請求人は,平成23年9月16日付けの審判請求書,平成24年4月3日付けの口頭審理陳述要領書及び同年4月24日の第1回口頭審理において,甲第1号証ないし甲第23号証を提示して以下の無効理由を主張した。

1.無効理由1(要旨変更の補正に基づく無効理由)

本件特許に係る出願の平成13年9月28日付け手続補正書による補正(以下,「本件補正」という。)は,明細書の要旨を変更するものであるから,本件特許に係る出願日は,平成5年法律第26号による改正前の特許法第40条の規定により当該補正書が提出された平成13年9月28日とみなされ,本件特許発明1ないし9は,甲第3号証(前記みなし出願日前に頒布された刊行物であって,本件特許に係る出願の公開公報である特開平7-115781号公報)に記載された発明であるから,または,甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第1項第3号または第2項の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は同法第123条第1項第1号に該当し,無効とすべきである。

(具体的理由)
(1)本件補正における,請求項1の記載のうち,「振動検出素子の共振周波数帯域と前記超音波モータの共振周波数帯域とを別の帯域に設定した」を「超音波モータの共振周波数帯域を前記振動検出素子の1次の共振周波数と2次の共振周波数帯域との間に設定した」とする補正は願書に最初に添付した明細書又は図面(以下,「当初明細書等」という。)に記載されておらず,自明なものでもないから,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではないので,明細書の要旨を変更するものである。
すなわち,当初明細書等には,「超音波モータの共振周波数f2を,振動検出素子の1次の共振周波数f1から離す。」(【0023】)及び「超音波モータの共振周波数f2を,振動検出素子の2次の共振周波数f3から離す。」(【0024】)と記載されているが,振動検出素子の1次の共振周波数は,共振周波数を基準とし,2次の共振周波数は,共振周波数帯域を基準として,超音波モータの共振周波数との関係を示した記載はない。(審判請求書7頁20行-8頁15行)
なお,当初明細書等の図1には,所定の帯域を持つ超音波モータ5の共振特性L2が,振動検出素子8の1次の共振周波数f1と,所定の帯域を持つ2次共振特性L3との間の特定の位置に設定されていることは記載されている。(口頭審理陳述要領書6頁14行-16行)
(2)本件補正における「励振された振動検出素子を用いて振動を検出する振動検出器」は,当初明細書等に記載されておらず,自明なものでもない。
すなわち,当初明細書等には,「・・・振動検出素子8は,圧電振動ジャイロ型と呼ばれるものであり,励振用圧電素子8aが三角柱8cを励振させ,検出用圧電素子8bにより,コリオリの力を利用して,被検出物の変動を検出するものである。・・・」(【0021】)と記載されているから,「振動検出素子」は,被検出物の変動を検出するものと記載され,振動を検出できる振動検出器とは記載されていない。
そして,振動検出素子が何らかの検出器の一部を構成しその検出器を装置に搭載することにより,その装置の変動を検出していることは自明かもしれないが,装置の変動を検出するための検出器が振動検出器に限られるものではないので,当該補正事項は自明なものともいえない。(審判請求書8頁16行-9頁14行)
(3)請求項3,5及び6に係る本件補正は,
「前記振動検出素子の共振周波数帯域と前記超音波モータの周波数制御範囲とを別の帯域に設定した」を,「前記超音波モータの周波数制御範囲を前記振動検出素子の1次の共振周波数帯域と2次の共振周波数帯域との間に設定した」と,
「前記振動検出素子の共振周波数帯域以外の帯域に前記超音波モータの共振周波数帯域を設定した」を,「前記超音波モータの共振周波数帯域を前記振動検出素子の1次の共振の半値幅帯域と2次の共振の半値幅帯域との間に設定した」と,
「前記振動検出素子の共振の半値幅帯域以外の帯域に前記超音波モータの周波数制御範囲を設定した」を,「前記超音波モータの周波数制御範囲を前記振動検出素子の1次の共振の半値幅帯域と2次の共振の半値幅帯域との間に設定した」と,
それぞれ補正するものであるが,超音波モータの共振周波数帯域や周波数制御範囲を,振動検出素子の1次の共振周波数と2次の共振周波数に関連して定まる帯域との間に設定した発明は,当初明細書等に記載されておらず,自明なものでもない。
すなわち,請求項6についてみると,当初明細書には,「超音波モータ5の周波数制御範囲Δf2を,振動検出素子8の1次の共振の半値幅帯域Δf1から離す。」(【0023】)及び「超音波モータ5の周波数制御範囲Δf2を,振動検出素子8の2次の共振の半値幅帯域Δf3から離す。」(【0024】)と記載されているが,超音波モータの周波数制御範囲を,振動検出素子の1次の共振の半値幅帯域と2次の共振の半値幅帯域との間に設定することは記載されておらず,その技術的意義も記載されていない。また,図1には,振動検出素子の1次の共振特性L1の波形と2次の共振特性L3の波形との間に超音波モータの周波数制御範囲が位置するものの1つの態様が示されているだけであって,この図のみから上記構成の技術的意義が認識できるものではない。
そして,請求項3及び請求項5についても同様である。(審判請求書9頁15行-11頁7行)
(4)以上のことから,本件補正は,明細書の要旨を変更するものであって,本件特許の出願日は,当該補正がなされた日とみなされる。(審判請求書11頁8行-11行)
(5)そこで,甲第3号証記載の発明と,本件特許発明1ないし9の各発明とを比較すると,本件特許発明1ないし9が「励振された振動検出素子を用いて振動を検出する振動検出器」を備えているのに対し,甲第3号証記載の発明は,励振された振動検出素子は用いるが,その素子が振動を検出する振動検出器の構成とはされていない点(以下,「相違点」という。)でのみ相違する。しかし,本件特許発明1ないし9も,実質的に撮影レンズのぶれ(撮影レンズの変動)を検出するものであり,振動検出器は装置の変動を検出するための手段となるものであるから,振動検出器は,装置を構成する何らかの部材の振動を検出し,検出された振動を装置の変動に変換する手段を備えていなければならないところ,本件特許発明1ないし9と甲第3号証記載の発明とはいずれも,振動検出器はコリオリの力を利用したものであり(【0021】),本件特許明細書には,振動検出素子を用いて検出した装置の振動からどのように装置の変動を求めるかの記載もなく,また,装置の変動を検出する際に振動を検出した上でこれを変動に変換することの技術的意義も記載されていないので,上記相違点は当業者が適宜行う設計的事項に過ぎない。
したがって,本件特許発明1ないし9はいずれも,甲第3号証記載の発明と実質的に同一,または,当業者が容易に発明をすることができたものである。(審判請求書11頁12行-13頁14行)

2.無効理由2(記載不備に基づく無効理由)

本件特許発明1,3,4及び5並びにこれらを引用する本件特許発明7ないし9は,本件特許の発明の詳細な説明に記載されたものではないから,本件特許は,特許法第36条第5項第1号に規定する要件を満たさない特許出願に対してなされたものであり,また,本件特許発明1ないし9は,その発明の詳細な説明に,当業者が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効果が記載されていないから,本件特許は,特許法第36条第4項に規定する要件を満たさない特許出願に対してなされたものであり,その特許は同法第123条第1項第3号に該当し,無効とすべきである。

(具体的理由)
(1)請求項1,3,4,及び5には「共振周波数帯域」と他の共振周波数特性との関係が特定されている。
しかし,発明の詳細な説明(【0022】-【0026】)には,「共振周波数」(f1-3),「半値幅帯域」(Δf1,3),「周波数制御範囲」(Δf2)という文言は使用されているが,「共振周波数帯域」という文言は使用されていない。
また,【0023】,【0024】,【0026】には,「共振周波数」(f1-3)と他の「半値幅帯域」(Δf1,3),「周波数制御範囲」(Δf2)との関係は記載されているが,「共振周波数帯域」と他の共振周波数特性との関係は記載されていない。
したがって,本件特許発明1,3,4及び5並びにこれらを引用する本件特許発明7ないし9は,本件特許の発明の詳細な説明に記載されたものではない。(審判請求書13頁16行-15頁23行)
(2)本件特許発明1ないし9は,いずれも「励振された振動検出素子を用いて振動を検出する振動検出器とを備えた装置」を構成要件とする。一方,「振動を検出する振動検出器」の語は明細書にも図面にも記載がないが,【0019】,【0021】の記載からすると,振動検出素子は被検出物の変動の検出に用いられるものであり,例えば,撮影レンズのブレに対応すると解される。
ところで,本件特許発明1ないし9の「振動検出器」は,振動検出の対象物が特定されておらず,その実施例は「振動」とは概念的に異なる,装置の「変動」を検出するものであるから,振動検出器は「装置」の振動を検出するものとはいえない。そうすると,上記のとおり,本件特許発明1ないし9は「・・・振動検出器」によって「装置」を構成する何らかの部材の振動を検出し,これによって「装置」の変動を検出するものと解される。
しかし,明細書又は図面にその旨記載されておらず,当業者が容易に実施することができない。
したがって,本件特許発明1ないし9は,その発明の詳細な説明に,当業者が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効果が記載されていない。(審判請求書15頁24行-17頁6行)

3.無効理由3(進歩性欠如に基づく無効理由)

本件特許発明2及び6並びに7ないし9は,甲第4号証ないし甲第7号証に記載された発明並びに共振に係る技術常識に基いて,もしくは,甲第4号証,甲第10号証及び甲第11号証に記載された発明に基いて,その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は同法第123条第1項第1号に該当し,無効とすべきである。

(具体的理由)
3-1.本件特許発明2について
(1)本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第4号証には,
「超音波モータ112,113と,カメラの回転方向のぶれの角速度を検出するための角速度検出部119a,119bとを備えたカメラシステム。」
の発明「以下,「請求人引用発明」という。)が記載されている。(審判請求書17頁12行-19頁20行)
(2)本件特許発明2と請求人引用発明とを対比すると,後者の「カメラシステム」は前者の「装置」に相当し,前者の「励振された振動検出素子」は,手振れ検出用のセンサを下位概念に含み,請求人引用発明の「角速度検出部119a,119b」もカメラの回転方向のぶれの角速度を検出するためのものであるから,両者はカメラシステムの手振れの検出用のセンサという点で一致する。
したがって,両者は,
「超音波モータと,カメラシステムの手振れの検出用のセンサとを備えたカメラシステム。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
相違点1:本件特許発明2の手振れの検出用のセンサが,「励振された振動検出素子」を構成要素とするのに対し,請求人引用発明は角速度検出部の具体的な構成が特定されていない点。
相違点2:本件特許発明2が「振動検出素子の共振の半値幅帯域と超音波モータの周波数制御範囲とを別の帯域に設定」しているのに対し,請求人引用発明は,そのように特定されていない点。(審判請求書31頁21行-32頁16行)
(3)相違点1について評価する。
カメラのブレ防止のための検出器として励振された振動子を用いた圧電振動ジャイロで角速度を検出することは甲第5号証(【0002】,【0005】),甲第6号証(【0002】-【0007】)及び甲第7号証(119頁)に記載されたように周知技術であり,請求人引用発明の角速度検出部として励振された振動子を用いた圧電振動ジャイロを用いることは,適宜選択する設計事項である。
なお,甲第5号証ないし甲第7号証には,圧電振動ジャイロを振動検出器として用いることの記載はないが,本件特許明細書にも振動検出素子を用いて検出した振動からどのように手振れを検知するか記載がなく,この点は単なる設計事項にすぎない。(審判請求書32頁18行-33頁1行)
(4)相違点2について評価(その1:共振に係る技術常識に基づく)する。
甲第5号証(【0003】,【0004】,【0006】)及び甲第6号証(【0002】)に記載されたとおり,圧電振動ジャイロが外部からの振動によってジャイロ特性が劣化したり,誤信号を出力することは知られており,甲第7号証(181-182頁)に記載のとおり,超音波モータは他の機械系に不要な振動を与えることが知られているのだから,超音波モータと圧電振動ジャイロを同じ装置に搭載するときには,そのための対策を採ることは当業者として当然のことである。
そして,物体の固有振動数と同じ振動が外部から与えられると共振を起こし,固有振動数と大きく異なる振動が与えられた場合は,振動の振幅が大きくならないことは,甲第8号証(169頁左欄),甲第9号証(8-10行)に記載されているように共振に係る技術常識であるから,圧電振動ジャイロに影響を与える超音波モータから生ずる振動の周波数を圧電振動子の共振周波数(固有振動数)に近づけないことは,当業者であれば普通に考えることである。
よって,超音波モータの制御周波数を振動検出素子の共振周波数とを離すことは,容易になし得ることであり,その結果として振動検出素子の共振周波数の半値幅帯域をはずれることも当然である。
また,本件特許明細書には,振動検出素子の共振の半値幅帯域よりも超音波モータの周波数制御範囲を離すことの技術的意義も記載されていないので,この点は単なる設計的事項にすぎない。(審判請求書33頁2行-34頁3行)
(5)相違点2について別の観点で評価(その2:公知のモータ,検出器の適用による)する。
甲第10号証(574頁)に記載された振動ジャイロはカメラ用の加速度センサであり,甲第11号証(【0048】,【0110】)に記載された超音波モータはカメラの焦点調整用部材を駆動するためのものであるから,これらの発明を請求人引用発明に採用することに困難性はない。
この場合,甲第10号証に記載された振動ジャイロにおいて1次の共振周波数が24.0kHzの場合(574頁),2次の共振周波数を2倍の48.0kHzとしても,超音波モータの駆動周波数(周波数制御範囲)35?45kHz(甲第11号証(【0106】))は,振動ジャイロの1次と2次の共振周波数の間にある。
また,半値幅は,甲第10号証には記載されていないが,甲第14号証(458頁)の記載事項から半値幅=共振周波数/Q値で近似的に求められ,エリンバ材は,甲第12号証(1頁),甲第13号証(2頁右欄)に記載されたとおり,Q値が5000以上であり,一般に振動子に使われる材料はQ値が高く(甲第8号証(169頁右欄)),仮にQ値が100程度であっても,甲第10号証(574頁)に記載されたエリンバ材を用いた振動ジャイロの2次共振周波数の半値幅は0.48kHzであるので,請求人引用発明に甲第10号証記載の振動ジャイロ,甲第11号証記載の超音波モータを適用したものにおいて,超音波モータの周波数制御範囲が振動ジャイロの1次と2次の共振の半値幅帯域に重ならない。(審判請求書34頁8行-35頁10行)
(6)相違点1に関し,甲第23号証にみられるように,振動検出素子と超音波モータを搭載した装置の発明は,本件特許の出願以前に出願されていたものである。(口頭審理陳述要領書30頁6行-14行)
(7)圧電振動ジャイロに影響する外部からの振動に対する対策は,甲第5号証,甲第6号証及び甲第7号証に種々の対策が記載され,一般に装置の不具合に対する対策が複数ある場合,それらの対策には,メリット・デメリットがあるのが普通であり,新たな工夫をするものである。また,1つの対策のみでは不十分な場合,異なる対策を重ね合わせて使うこともあり,当業者は,常により良い対策を模索して工夫しているのであるから,1つの対策が開示されていれば,他の対策は全く考慮しないというものではない。さらに,振動ジャイロに,振動ジャイロの振動周波数と等しい周波数又はその高調波の外部振動があると共振して誤差出力を生ずることがあることは当業者に知られていたから(甲第18号証ないし甲第20号証),外部振動の周波数に着目した対策も当然に考えられる。(口頭審理陳述要領書17頁11行-27行)

3-2.本件特許発明6について
(1)本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第4号証には,前記請求人引用発明が記載されている。(審判請求書17頁12行-19頁20行)
(2)本件特許発明6と請求人引用発明とを対比すると,後者の「カメラシステム」は前者の「装置」に相当し,前者の「励振された振動検出素子」は,手振れ検出用のセンサを下位概念に含み,請求人引用発明の「角速度検出部119a,119b」もカメラの回転方向のぶれの角速度を検出するためのものであるから,両者はカメラシステムの手振れの検出用のセンサという点で一致する。
したがって,両者は,
「超音波モータと,カメラシステムの手振れの検出用のセンサとを備えたカメラシステム。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
相違点3:本件特許発明6の手振れの検出用のセンサが,「励振された振動検出素子」を構成要素とするのに対し,請求人引用発明は角速度検出部の具体的な構成が特定されていない点。
相違点4:本件特許発明6が「超音波モータの周波数制御範囲を振動検出素子の1次の共振の半値幅帯域と2次の共振の半値幅帯域との間に設定した」構成を備えているのに対し,請求人引用発明はそのように特定されていない点。(審判請求書35頁20行-36頁14行)
(3)相違点3について評価すると,上記相違点1についての評価と同様である。(審判請求書36頁16行-19行)
(4)相違点4について評価(その1)する。
上記相違点2についての評価(その1)と同様に,甲第5号証ないし甲第7号証から,超音波モータと励振された振動素子を用いた圧電振動ジャイロとを同じ装置に搭載するときには,振動についての対策を採ることは当然である。
そして,共振に係る技術常識(甲第8号証及び甲第9号証)から,超音波モータから生ずる振動の周波数を圧電振動子の共振周波数に近づけないことは,普通に考えることである。
よって,超音波モータの制御周波数と振動検出素子の共振周波数とを離すことは,当業者が容易に想到することであり,その結果として振動検出素子の共振周波数の半値幅帯域をはずれることも当然である。
また,本件特許明細書には,振動検出素子の共振の半値幅帯域よりも超音波モータの周波数制御範囲を離すことの技術的意義も記載されていないので,この点は単なる設計的事項にすぎない。
そうすると,本件特許発明6の「・・・との間に設定した」構成は,圧電振動ジャイロに対し超音波モータから生ずる振動の影響を小さくするときに当然に設計する超音波モータの周波数制御範囲の1つを含むものにすぎない。(審判請求書36頁20行-38頁4行)
(5)相違点4について別の観点での評価(その2)をする。
すでに相違点2についての評価(その2)において指摘したとおり,請求人引用発明に甲第10号証記載の振動ジャイロ,甲第11号証記載の超音波モータを適用すると,超音波モータの駆動周波数は振動ジャイロの1次と2次の共振周波数との間にある。(審判請求書38頁9行-19行)

3-3.本件特許発明7ないし9について
(1)本件特許発明7及び8でさらに限定された構成は,いずれも甲第4号証に記載されている。(審判請求書39頁3行-40頁3行)
(2)本件特許発明9について,撮影レンズの焦点整合用の駆動源に超音波モータを用いることは,甲第11号証(【0110】)に記載されており,これを請求人引用発明に適用することに困難性はない。(審判請求書40頁4行-20行)

4.証拠方法

甲第1号証:特許第3269223号公報
甲第2号証:平成13年9月28日付け手続補正書
甲第3号証:特開平7-115781号公報
甲第4号証:特開平4-134316号公報
甲第5号証:特開平5-118854号公報
甲第6号証:特開平5-107623号公報
甲第7号証:日本電子材料工業会編,「圧電セラミックス新技術」,株式会社オーム社,平成3年10月20日,116-127頁,174-182頁
甲第8号証:日本放送出版協会編集,「エレクトロニクスライフ 1992年3月号」,日本放送出版協会,1992年(平成4年)3月1日,169頁
甲第9号証:フリー百科事典「ウィキペディア」からの出力物
甲第10号証:日本音響学会誌,Vol.48 No.8,1992年,第572-576頁
甲第11号証:特開平5-115183号公報
甲第12号証:特開昭61-288057号公報
甲第13号証:特公昭63-22083号公報
甲第14号証:物理学辞典編集委員会編,「物理学辞典 改訂版」,株式会社培風館,1992年5月20日,457頁-458頁
甲第15号証:訂正2009-390116号訂正請求書
甲第16号証:訂正2009-390116号に対する平成21年10月26日付け訂正拒絶理由通知書
甲第17号証:日本規格協会編,「JIS用語辞典 機械編 第2版」,財団法人日本規格協会,1987年7月15日,1555頁,1556頁,1558頁,1559頁,1588頁,1634頁
甲第18号証:特開平3-108670号公報
甲第19号証:特開平3-2516号公報
甲第20号証:特開平3-282372号公報
甲第21号証:藤田勝久著,「振動工学 振動の基礎から実用解析入門まで」,森北出版株式会社,2008年10月10日,122頁-124頁,154頁-161頁
甲第22号証:平成13年9月28日付け意見書
甲第23号証:特開平2-282717号公報


2 被請求人の主張,及び提出した証拠の概要

これに対して,被請求人は,平成23年12月12日付けの審判事件答弁書,平成24年4月3日付けの口頭審理陳述要領書及び同年4月24日の口頭審理において,乙第1号証ないし乙第10号証を提示して,請求人主張の無効理由に対して以下のように反論した。

1.無効理由1(要旨変更の補正に基づく無効理由)について

本件特許に係る出願の平成13年9月28日付け手続補正書による補正は,明細書の要旨を変更するものではないから,本件特許に係る出願日は,当該手続補正書が提出された平成13年9月28日に繰り下がることはなく,請求人の主張は失当である。

(具体的理由)
(1)請求項1の記載のうち,「超音波モータの共振周波数帯域を前記振動検出素子の1次の共振周波数と2次の共振周波数帯域との間に設定した」とした補正は,甲第3号証の図1に超音波モータの共振周波数帯域が,振動検出素子の1次の共振周波数と2次の共振周波数帯域との間に設定された例が示され,出願当初の請求項1に規定されていた超音波モータの共振周波数帯域をより限定的に制限したものであるから,出願当初の明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり,明細書の要旨を変更するものではない。(審判事件答弁書2頁16行-26行)
なお,「共振周波数帯域」との文言は,共振周波数から所定の幅を有するものを意味する。(口頭審理陳述要領書2頁10行-11行)
(2)本件補正における「励振された振動検出素子を用いて振動を検出する振動検出器」は,当初明細書等に記載されている。
すなわち,「振動」とは,正弦波のような規則的な運動(以下,「狭義の振動」)のみを指すのではなく,周期性のない波形や1発で終わる衝撃のような不規則現象も含む(乙第1号証)。さらに,カメラの手ぶれ補正等の分野において,「振動」とは,複雑な形状の波形や瞬間的な変動のような不規則現象も含む(甲第4号証,乙第2号証ないし乙第5号証)。そして,本件明細書においても「振動」を広義に用い,本件特許の請求項9(出願当初の請求項12)では,「振動検出素子は,手振れの検出用のセンサである」とされている。この請求項9は,本件特許の請求項1ないし6に間接的に従属しており,また,実施例においてもカメラの手振れ補正用の装置が説明され,本件明細書の「振動」が手振れのような広義の「振動」として用いられることが明らかである。
よって,本件特許の請求項1ないし6に係る「振動を検出する振動検出器」の「振動」とは,「撮影レンズのブレ」(甲第3号証(【0019】,【0028】)),「被検出物の変動」(甲第3号証(【0021】))を指すことが明らかである。
そして,「励振された振動検出素子」は,甲第3号証(【0021】等)から振動を検出する素子であると理解でき,「振動検出器」とは,「励振された振動検出素子」を用いて手振れのような「振動」を検出するための機器である。
よって,「励振された振動検出素子を用いて振動を検出する振動検出器」は,当初明細書等に記載されている。(審判事件答弁書3頁1行-4頁26行)
(3)請求項3,5及び6に係る本件補正について,超音波モータの共振周波数帯域や周波数制御範囲を,振動検出素子の1次の共振周波数と2次の共振周波数に関連して定まる帯域との間に設定したものは当初明細書等に記載されている。
すなわち,甲第3号証の図1に記載されている。
また,当該構成の技術的意義は,以下のとおりである。すなわち,振動検出素子の2次の共振周波数は,1次の共振周波数の2倍以上となる。よって,超音波領域(20kHz以上)においては,1次の共振周波数以下の領域と比べて,1次の共振の半値幅帯域と2次の共振の半値幅帯域との間の領域の方が広い。例えば,1次の共振周波数が50kHzである場合,超音波領域(20kHz以上)かつ1次の共振周波数以下の領域は約30kHzであるが,1次と2次の共振周波数の間の領域は,最低でも約50kHzである。一方,超音波モータは,あまりに高い周波数で駆動すると効率を低下させる。よって,超音波モータの周波数制御範囲を振動検出素子の1次の共振の半値幅帯域と2次の共振の半値幅帯域との間に設定する。
そして,甲第1号証,甲第3号証における図1その他の明細書の記載から,当業者はこれらの技術的意義が理解できる。(審判事件答弁書4頁27行-6頁22行)
(4)以上のように,本件補正は,何ら明細書の要旨を変更するものではないから,出願日が平成13年9月28日繰り下がることはなく,請求人の主張は失当である。(審判事件答弁書6頁23行-25行)

2.無効理由2(記載不備に基づく無効理由)について

本件特許発明1,3,4及び5並びにこれらを引用する本件特許発明7ないし9は,本件特許の発明の詳細な説明に記載されたものであり,本件特許発明1ないし9は,その発明の詳細な説明に,当業者が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効果が記載されているから,本件特許は,特許法第36条第4項及び第5項に規定する要件を満たしている。

(具体的理由)
(1)本件特許発明1,3,4及び5についての「共振周波数帯域」と他の共振周波数特性との関係が特定されている点は,当初明細書等の図1に,超音波モータの周波数制御範囲・共振周波数帯域が,振動検出素子の1次の共振周波数帯域と2次の共振周波数帯域との間に設定された例が記載されている。
また,当初明細書等の請求項1,3,4,5においては,超音波モータの周波数制御範囲・共振周波数帯域について,より広い範囲で特定されていた。
よって,本件特許発明1,3,4及び5は,当初明細書等に記載されたものであることが明らかである。(審判事件答弁書7頁1行-10行)
結局のところ,本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されている。(口頭審理陳述要領書4頁3行-9行)
(2)本件特許明細書の「振動」は広義に用いられ,カメラの手振れのような「変動」を含む概念で使用されており,本件特許発明1ないし9は,いずれも「励振された振動検出素子を用いて振動を検出する振動検出器とを備えた装置」を構成要件とし,その「振動を検出する振動検出器」は,「装置」の広義の振動を検出するものであり,具体的には,カメラの手振れや,被検出物の変動などを検出するものであるから,当業者が容易に理解・実施できるように本件特許明細書は記載されている。
また,本件特許発明1ないし9の特徴的な部分については,本件特許明細書に記載されたとおりに構成し,それ以外の部分については本件特許明細書中の示唆などから任意の公知の構成を利用することで,容易にその実施をすることができる。(審判事件答弁書7頁11行-8頁7行)
ここにいう「振動」は,運動に関する限り,「変動」とはほぼ同義となる。(口頭審理陳述要領書4頁13行-15行)

3.無効理由3(進歩性欠如に基づく無効理由)について

本件特許発明2及び6並びに7ないし9は,甲第4号証ないし7号証に記載された発明並びに共振に係る技術常識に基いて,もしくは,甲第4号証,甲第10号証及び甲第11号証に記載された発明に基いて,出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではない。なお,特許発明の特徴点に到達するために,主引例となる刊行物に他の刊行物に記載の発明を適用したはずであるという動機付けないし示唆等が存在するか否かを問題とすべきである。

(具体的理由)
(1)請求人主張の「相違点1について」に関し,甲第5号証ないし甲第7号証には,圧電振動ジャイロが超音波モータと共に使用されることが記載されていない。
そして,カメラの手振れ検出用角速度検出装置としては,圧電振動ジャイロに限らず,光ファイバージャイロ(乙第6号証,乙第7号証(【0019】)),光レートジャイロ(乙第8号証(【0080】)),オートジャイロ(乙第9号証(【0002】)),ハイドロスタティックセンサ(乙第10号証(【0004】))ないし流体慣性型角変位計(乙第8号証(【0044】))等が知られており,当業者が請求人引用発明の角速度検出部として圧電振動ジャイロを使用するとは限らず,圧電振動ジャイロを使用したはずであるという動機付けないし示唆等はない。
むしろ,請求人の主張及び甲第6号証,甲第7号証の記載からすれば,当業者は圧電振動型ジャイロの使用を避ける。請求人は超音波モータと圧電振動ジャイロとを同じ装置に搭載するときに,対策が必要であると主張している(審判請求書33頁4行-10行)。また,甲第6号証には,「・・・振れ検知装置は・・・ビデオカメラのモータ走行振動により,正規の手振れ信号以外の誤信号を出力してしまうという欠点がある。」と記載されている(【0002】)。
このように,振動を発生させる超音波モータと振動を検出する圧電振動ジャイロを一緒に使用すると,圧電振動ジャイロが誤信号を出力する可能性がある。また,甲第7号証には,超音波モータが外部の機械系に不要な振動を励振する場合があることを指摘している。
よって,励振された振動検出素子を用いる振動型ジャイロではなく,励振された振動検出素子を利用しない上記のような他の形式のジャイロセンサを使用するのが常識的である。(審判事件答弁書9頁14行-12頁1行)
(2)請求人主張の「相違点2についての評価(その1)に関し,請求人の「・・・超音波モータと励振された振動子を用いた圧電振動ジャイロを同じ装置に搭載するときには,そのための対策を採る・・・」(審判請求書33頁4行-10行)との主張は,甲第4号証ないし甲第7号証に,超音波モータと圧電振動ジャイロをー緒に用いることの示唆等がないにも関わらず,両者を同じ装置に搭載するときにはと,本件特許発明の着想・構成を前提としており後知恵によるものである。
仮に,両者を同時に使用するのであれば,甲第6号証(【0003】-【0007】,【0022】,【0025】,【0047】),甲第7号証(182頁)に記載された対策が必要となる。甲第6号証,甲第7号証の記載によれば,仮に超音波モータと圧電振動ジャイロを同時に使用するならば,超音波モータの振動を減衰させる部材を設けて,超音波モータの振動が圧電振動型ジャイロの励振された振動検出素子に伝搬しないようにするはずであり,甲第6号証,甲第7号証には,本件特許発明とは別の方法で問題を解決することが示唆されている。
甲第4号証ないし甲第7号証のいずれにも超音波モータと圧電振動型ジャイロを敢えて一緒に使用した上で,さらに超音波モータの周波数駆動範囲を振動検出素子の共振周波数から離すことで問題を解決することを示唆する記載はない。(審判事件答弁書12頁2行-14頁9行)
(3)請求人主張の「相違点2についての評価(その2)」に関し,甲第10号証,甲第11号証にも,超音波モータと圧電振動ジャイロとを一緒に使用することの示唆等はない。つまり,甲第4号証ないし甲第8号証,甲第10号証,甲第11号証のいずれにも,超音波モータと圧電振動ジャイロとを一緒に使用することの示唆等はなく,むしろ,甲第6号証,甲第7号証や請求人の主張する技術常識からは,超音波モータを振動ジャイロと一緒に使用するべきではないことが導ける。
よって,カメラに採用できる超音波モータ,圧電振動ジャイロがそれぞれ単独で開示されているからといって,これを同一装置に組み込んだはずであるという動機付けないし示唆等となるものではない。(審判事件答弁書14頁10行-25行)
(4)請求人主張の相違点3及び4について,上記したように,甲第4号証ないし甲第8号証,甲第10号証,甲第11号証のいずれにも,超音波モータと圧電振動ジャイロとを一緒に使用することの示唆等はなく,むしろ,超音波モータを振動ジャイロと一緒に使用するべきではないことが導ける。
請求人の主張は,甲第4号証ないし甲第8号証,甲第10号証,甲第11号証のいずれにも,超音波モータと圧電振動ジャイロとを一緒に使用することの示唆等はないにも関わらず,これを一緒に使用することを前提にし,本件特許発明6のように構成すれば問題を解決できることを事後分析的に説明しているにすぎない。(審判事件答弁書14頁26行-16頁6行)
(5)本件特許発明7ないし9はいずれも本件特許発明1ないし6のいずれかを限定したものであるから,本件特許発明7ないし9の限定事項の評価にかかわらず,本件特許発明2,6について説明したように,請求人の主張は失当である。(審判事件答弁書16頁7行-11行)

4.証拠方法

乙第1号証:長松昭男著,「モード解析入門」,株式会社コロナ社,2009年6月30日,1頁
乙第2号証:特開平2-198315号公報
乙第3号証:特開平4-355436号公報
乙第4号証:特開昭63-285408号公報
乙第5号証:特開平3-107768号公報
乙第6号証:特開平2-82113号公報
乙第7号証:特開平5-173241号公報
乙第8号証:特開平5-158101号公報
乙第9号証:特開平5-66442号公報
乙第10号証:特開平5-142613号公報


第4 無効理由についての当審の判断

1 無効理由1(要旨変更の補正に基づく無効理由)について

1.補正事項
本件補正における,請求人が明細書の要旨を変更するものであると主張する補正について,以下に検討する。
それら補正の概略はそれぞれ,
(1)請求項1の記載のうち,「振動検出素子の共振周波数帯域と前記超音波モータの共振周波数帯域とを別の帯域に設定した」を「超音波モータの共振周波数帯域を前記振動検出素子の1次の共振周波数と2次の共振周波数帯域との間に設定した」とする補正(以下,「補正事項1」という。)
(2)請求項1ないし6において「励振された振動検出素子を用いて振動を検出する振動検出器」とする補正(以下,「補正事項2」という。)
(3)請求項3,5及び6において,超音波モータの共振周波数帯域や周波数制御範囲を,振動検出素子の1次の共振周波数と2次の共振周波数に関連して定まる帯域との間に設定した,とする補正(以下,「補正事項3」という。)であって,
(3-1)請求項3において,「前記超音波モータの周波数制御範囲を前記振動検出素子の1次の共振周波数帯域と2次の共振周波数帯域との間に設定した」とし,
(3-2)請求項5において,「前記超音波モータの共振周波数帯域を前記振動検出素子の1次の共振の半値幅帯域と2次の共振の半値幅帯域との間に設定した」とし,
(3-3)請求項6において,「前記超音波モータの周波数制御範囲を前記振動検出素子の1次の共振の半値幅帯域と2次の共振の半値幅帯域との間に設定した」とするもの,
である。

2.補正事項3について
まず,平成24年4月24日付け第1回口頭審理調書によると,「共振周波数帯域」について,被請求人は「共振周波数から所定の幅を有するもの」を意味するとし,請求人は「所定の幅の意味は不明確だが,共振周波数から所定の幅を有するものとの意味には同意する」と主張している。なお,「所定の幅」の意味について,当審としては「所定の周波数範囲」の意と解する。
そして,本件特許発明の目的及び作用効果について,当初明細書等には,次の事項が記載されている。
・「【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし,前述したような超音波モータと振動検出素子とを,1つの装置に組み込んだ場合には,超音波モータの振動によって,振動検出素子が共振して,正確な振動検出ができなくなる,という問題点があった。
【0005】そこで,本発明は,超音波モータと振動検出素子とが備えられている場合に,振動検出素子の検出が正確に行える超音波モータと振動検出素子とを備えた装置を提供することを目的とする。」
・「【0018】
【作用】本発明においては,超音波モータの共振周波数帯域および/または駆動制御範囲と,振動検出素子の第1次又は第2次の共振周波数帯域および/又は第1次又は第2次の共振の半値幅帯域が別の帯域になるように設定したので,超音波モータの振動によって,振動検出素子が共振することがなくなり,正確な振動検出が可能になる。」
・「【0027】
【発明の効果】以上のように本発明によれば,超音波モータの共振周波数帯域および/または周波数制御範囲が,振動検出素子の1次又は2次の共振周波数帯域および/または共振の半値幅帯域とが一致しないように構成したので,超音波モータの振動によって振動検出素子が共振することがなくなり,正確な振動検出が可能になる,という効果がある。」
上記記載事項によれば,本件特許発明の目的及び作用効果は,超音波モータの共振周波数帯域および/または駆動制御範囲と,振動検出素子の第1次または第2次の共振周波数帯域および/または第1次または第2次の共振の半値幅帯域が別の帯域になるように(一致しないように)設定することにより,超音波モータの振動によって,振動検出素子が共振することがなくなり,正確な振動検出が可能になることであるといえる。
また,当初明細書等の発明の詳細な説明には,図1に係る記載として,
「【0022】図1は,本発明による超音波モータと振動検出素子とを備えた装置の実施例の共振特性の関係を表す図である。図1において,横軸は周波数,縦軸は超音波モータ5および振動検出素子8の振動振幅の絶対値を示している。また,各記号は以下を意味する。
L1:振動検出素子8の1次(基本振動モード)の共振特性
L2:超音波モータ5の共振特性
L3:振動検出素子8の2次共振特性
f1:振動検出素子8の1次(基本振動モード)の共振周波数
f2:超音波モータ5の2次の共振周波数
f3;振動検出素子8の2次の共振周波数
Δf1;振動検出素子8の1次(基本振動モード)の共振における半値幅(X3/X1=1/2)の帯域
Δf2;超音波モータ5の周波数制御範囲
Δf3;振動検出素子8の2次の共振における半値幅(X4/X2=1/2)の帯域
【0023】超音波モータ5と振動検出素子8とを1つの装置に組み込むときに,超音波モータ5の振動によって振動検出素子8が共振しないようにするために,以下の条件に設定するとよい。
〔1〕(注:丸付き数字の丸を〔〕に置き換えた。以下,同様。) 超音波モータ5の共振周波数f2を,振動検出素子8の1次(基本振動モード)の共振周波数f1から離す。
〔2〕 超音波モータ5の周波数制御範囲Δf2を,振動検出素子8の1次(基本振動モード)の共振周波数f1から離す。
〔3〕 超音波モータ5の周波数制御範囲Δf2を,振動検出素子8の1次(基本振動モード)の共振の半値幅帯域Δf1から離す。
【0024】〔4〕 超音波モータ5の共振周波数f2を,振動検出素子8の2次の共振周波数f3から離す。
〔5〕 超音波モータ5の周波数制御範囲Δf2を,振動検出素子8の2次の共振周波数f3から離す。
〔6〕 超音波モータ5の周波数制御範囲Δf2を,振動検出素子8の2次の共振の半値幅帯域Δf3から離す。」
と記載されている。

(1)請求項6に係る補正事項について
当初明細書等の請求項2には,超音波モータの周波数制御範囲と,振動検出素子の共振の半値幅帯域とを別の帯域に設定することが記載され,
【0023】に,〔3〕 超音波モータの周波数制御範囲を振動検出素子の1次の共振の半値幅帯域から離すことが記載され,
【0024】に,〔6〕 超音波モータの周波数制御範囲を振動検出素子の2次の共振の半値幅帯域から離すことが記載され,
また,図1には,超音波モータの周波数制御範囲Δf2が,振動検出素子の1次の共振の半値幅帯域Δf1と,2次の共振の半値幅帯域Δf3との間に設定された態様が記載されている。
そうすると,本件特許発明の目的及び作用効果を踏まえて,【0023】,【0024】段落の上記摘記事項及び図1をみれば,超音波モータの駆動制御範囲(周波数制御範囲)と振動検出素子の共振周波数帯域が一致しない範囲で,「1次の共振の半値幅の帯域と2次の共振の半値幅の帯域との間の領域」が,選択可能であることは,当業者にとって自明の事項である。
したがって,請求項6において,「超音波モータの周波数制御範囲を振動検出素子の1次の共振の半値幅帯域と2次の共振の半値幅帯域との間に設定した」構成は,当初明細書等に記載した事項から自明な事項であり,当初明細書等に記載した事項の範囲内のものであって,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。
よって,請求項6に係る補正事項は,明細書の要旨を変更するものではない。

(2)請求項3に係る補正事項について
当初明細書等の請求項7には,振動検出素子の共振周波数帯域以外の帯域に超音波モータの周波数制御範囲を設定することが記載され,
図1には,超音波モータの周波数制御範囲Δf2が,振動検出素子の1次の共振特性L1と,2次の共振特性L3との間に設定された態様が記載されている。
そして,振動検出素子の1次の共振特性L1,2次の共振特性L3は,いずれも共振周波数f1,f3から所定の周波数範囲を有する共振特性を表すものであって,共振周波数帯域ということができる。
そうすると,当初明細書等の上記各記載事項を総合して考慮すれば,「超音波モータの周波数制御範囲を振動検出素子の1次の共振周波数帯域と2次の共振周波数帯域との間に設定した」構成は,当初明細書等に記載した事項から自明な事項であり,当初明細書等に記載した事項の範囲内のものであって,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。
よって,請求項3に係る補正事項は,明細書の要旨を変更するものではない。

(3)請求項5に係る補正事項について
当初明細書等の請求項4には,振動検出素子の共振の半値幅帯域と超音波モータの共振周波数帯域とを別の帯域に設定したことが記載され,
図1には,超音波モータの共振周波数f2を含み所定の周波数範囲を有する共振特性L2が,振動検出素子の1次の共振の半値幅帯域Δf1と2次の共振の半値幅帯域Δf3との間に設定された態様が記載されている。
そして,超音波モータの共振特性L2は,共振周波数f2から所定の周波数範囲を有する,共振特性を表すものであるから,共振周波数帯域ということができる。
そうすると,当初明細書等の上記の各記載事項を総合して考慮すれば,「超音波モータの共振周波数帯域を振動検出素子の1次の共振の半値幅帯域と2次の共振の半値幅帯域との間に設定した」構成は,当初明細書等に記載した事項から自明な事項であり,当初明細書等に記載した事項の範囲内のものであって,当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。
よって,請求項5に係る補正事項は,明細書の要旨を変更するものではない。

そうすると,請求人が明細書の要旨を変更するものと主張した補正事項3に係る補正は,明細書の要旨を変更するものとは認められない。

3.補正事項1について
当初明細書等の請求項1には,振動検出素子の共振周波数帯域と超音波モータの共振周波数帯域とを別の帯域に設定したことが記載され,
図1には,超音波モータの共振周波数f2を含み所定の周波数範囲を有する共振特性L2が,振動検出素子の1次の共振周波数f1と,2次の共振特性L3との間に設定された態様が記載されている。
そして,超音波モータの共振特性L2は,共振周波数f2から所定の周波数範囲を有する,共振特性を表すものであるから,共振周波数帯域ということができ,振動検出素子の2次の共振特性L3は,共振周波数f3から所定の周波数範囲を有する共振特性を表すものであって,共振周波数帯域ということができる。
そうすると,当初明細書等の上記の各記載事項を総合して考慮すれば,「超音波モータの共振周波数帯域を振動検出素子の1次の共振周波数と2次の共振周波数帯域との間に設定した」構成は,当初明細書等に記載した事項から自明な事項であり,当初明細書等に記載した事項の範囲内のものであって,当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。
よって,請求項1に係る補正事項は,明細書の要旨を変更するものではない。

そうすると,請求人が明細書の要旨を変更するものと主張した補正事項1に係る補正は,明細書の要旨を変更するものとは認められない。

なお,請求人は,被請求人自身が「超音波モータの共振周波数帯域」は誤記であると主張し,本件特許発明1は当初明細書等に記載されたものとは異なる旨主張するのだから,当初明細書から自明なものであるといえるはずがないと主張し(口頭審理陳述要領書6頁6行-13行),被請求人が平成21年9月29日付けで提出した訂正2009-390116号の審判請求書(甲第15号証)における,「超音波モータの共振周波数帯域」は「超音波モータの共振周波数」の誤記である旨の被請求人の主張を指摘する(甲第15号証2頁11-15行,6頁22行-26行)。しかしながら,誤記であるとの主張と当初明細書等の記載から自明な事項ではないことの主張とは同義ではないし,補正事項1が明細書の要旨を変更するものでないことは上記のとおりであるから,請求人の上記主張は採用できない。

4.補正事項2について
まず,当初明細書等(甲第3号証)の段落【0017】に「・・・,前記振動検出素子は,手振れの検出用のセンサである・・・」と記載され,同じく段落【0019】に「・・・カメラボディ1には,ファインダ2と撮影レンズ3が取り付けられ,カメラシステムを構成している。・・・,撮影レンズ3のブレを検出する振動検出素子8・・・」と記載されているから,これを素直に解するならば,本件特許発明の「振動検出素子」は,カメラにおける「手振れの検出用のセンサ」として機能するものと認められる。また,当初明細書等の請求項12の記載からしても,その「振動検出素子」はカメラにおける「手振れの検出用のセンサ」として機能するものである。
ところで,いずれも本件特許の出願前に頒布されたものである,甲第4号証,甲第6号証,甲第20号証及び乙第2号証ないし乙第6号証における以下の摘記事項からすると,カメラにおける「手振れの検出用のセンサ」は手振れの振動を検出すべきものであることは,本件特許の出願時におけるカメラの技術分野における手振れ振動に係る技術常識であったものといえる。
すなわち,甲第4号証には,
「像ぶれの原因としては,撮影者がカメラを支える手の振動(以下,この振動を「手ぶれ」と称す)によるものと被写体自体の移動によるものとがある。
撮影者の手ぶれに起因する像ぶれを補正する像ぶれ補正装置としては,従来,手ぶれによるカメラの移動(振動)を加速度センサ等の振動センサで検出し,検出した振動に応じてレンズ鏡筒全体或いは撮像素子等を移動させるもの(例えば特公平1-53957号公報)か知られている。」(2頁左上欄12行?右上欄1行)
と記載され,
甲第6号証には,
「【0002】
【従来の技術】従来から,手振れによるカメラの像振れを補正する装置は種々提案されている。これらの像振れ補正方式の代表的なものは,振れ検知の装置によりカメラに生じた手振れ振動を検知し,該振れ信号に基づいて撮影光学系内の振れ補正光学素子を変位せしめて像振れを解消させるというものである。そして,手振れを検知する振れ検知装置には,角変位計,角速度計,角加速度計等があるが,・・・」
と記載され,
甲第20号証には,
「また最近では,例えばスチールカメラやビデオカメラ等の撮影用機器(以下,単に「カメラ」という)が手ブレなとで振動して生じる撮影像のブレなどを自動的に抑制するいわゆる像ブレ抑制装置を搭載する場合にも利用されている。
・・・
カメラにおいて問題になる手ブレは,比較的低い周波数の振動であり,このような振動を受けても撮影された像にブレが生じないようにするためには,手ブレによるカメラの振動を正確に検出して,ブレを補正する手段を精度よくかつ迅速に駆動する必要がある。
手ブレの検出は,一般には手ブレに大きく影響する角速度や角加速度等を検出する慣性センサを用い,その信号を電気的あるいは機械的に積分して角変位を求めるブレ検出手段を用いて行なわれる。」(2頁右上欄6行?左下欄11行)
と記載され,
乙第2号証には,
「本発明は比較的低い周波数の振動を受ける機器の振動検出装置として用いられる角速度計に関し,更には,例えばカメラ等の機器に搭載し,1Hzないし12Hz程度の周波数の振動(角速度)である手ぶれを検出してこれを像ブレ防止の情報として利用し,像ブレ防止を図るシステムに好適に用いられる振動ジャイロに関するものである。」(2頁右上欄12行?19行)
と記載され,
乙第3号証には,
「【0011】また,上述のように電気的手段,即ち駆動回路の増幅率を可変する手段を用いて手ぶれ振動を収束させる他の手段としては,同公報に開示されているように,カメラ本体の手ぶれを検出するための振動センサの剛性を,手ぶれ振動を収束せしめるように可変することによって手ぶれ補正を改善しているものもある。」
と記載され,
乙第4号証には,
「この発明は,たとえば1Hz乃至30Hz程度の比較的低い周波数の振動を受ける機器の振動検出に使用する振動検出装置に関し,更に詳細には,カメラ等の機器に搭載して該機器における前記周波数範囲の振動を正確に且つ迅速に検出することを可能にさせる振動検出装置に関するものである。
カメラの手ブレ振動を検出するための方法として,たとえば加速度計を含む振動検出装置をカメラに搭載しておき,該加速度計の出力(すなわち,加速度を表わす信号)を積分回路により一回もしくは二回積分して速度もしくは振動変位を得るという方法が提案されている。」(2頁左上欄11行?右上欄3行)
と記載され,
乙第5号証には,
「また,本発明にかかる振動検出器をカメラの手ぶれ検出に用いた場合を考える。第5図は,ある被験者がカメラを持った場合の加速度と速度,変位の各データである。また,第6図は,カメラを持った場合の手ぶれの加速度のデータ(20人分)の周波数分析の結果である。このグラフは平均値を示し,各周波数ポイントでの縦線はばらつきを示している。これらの検討の結果,手ぶれは,比較的に低周波数(20Hz以下)の振動であることがわかる。」(2頁左上欄18行?右上欄7行)
と記載され,
乙第6号証には,
「1.発明の名称
光ファイバージャイロを用いたカメラの手ブレ振動検出装置」
と記載されている。
そうすると,本件特許発明の「振動検出素子」は,当業者が上記手振れ振動に係る本件特許の出願時の技術常識を考慮すると,カメラにおける手振れの振動を検出すべき手振れの検出用のセンサとして機能するものであると,当初明細書等の記載から理解できるというべきである。

次に,本件特許の出願時における機械振動の技術常識を網羅した「JIS用語辞典」(甲第17号証)の「機械振動・衝撃用語」の項には,その1555頁の「一般」の項の番号1001として,用語「振動」は「ある座標系に関する量の大きさが,その平均値又は基準値よりも大きい状態と小さい状態とを交互に繰り返す変化。通常,時間に対する変化である。」との意味である旨記載され,同じく1559頁の「機械振動」の項の番号2001として,用語「(機械)振動」は「機械系の運動又は変位を表す量の大きさが,ある平均値又は基準値よりも大きい状態と小さい状態とを交互に繰り返す時間的変化。」との意味である旨記載されている。特に,用語「(機械)振動」は,その「変位」が「変動」と言い換えられるから,「機械系の変動を表す量の大きさが,ある平均値又は基準値よりも大きい状態と小さい状態とを交互に繰り返す時間的変化。」と考えられる。一方,一般的に「検出素子」と「検出器」との違いは,要するに「検出素子」を用いた「検出器」であって,「検出素子」は「検出器」の本質的な構成要素であり,「検出器」は「検出素子」のほかに回路などの構成を含むもの(平成24年4月24日付け第1回口頭審理調書参照)といえるから,先にみた振動の意味からすれば,被検出物が振動している場合,その「変動」の検出により「振動」を検出できるといえるので,励振された振動検出素子が被検出物の変動を検出するものであれば,その素子を本質的な構成要素とする検出器は,被検出物の振動を検出でき(平成24年4月24日付け第1回口頭審理調書参照),結局,励振された振動検出素子が被検出物の振動を間接的に検出できることも,技術的に自明といえる。
そこで,当初明細書等(甲第3号証)の段落【0021】に「振動検出素子8は,・・・被検出物の変動を検出するものである。」と記載されていることから,これを素直に解するならば,当業者が上記機械振動の本件特許の出願時の技術常識を考慮すると,「振動検出素子8」は振動を間接的に検出できると,当初明細書等の記載から理解できるというべきである。
そのうえ,同じく当初明細書等(甲第3号証)の段落【0021】に「振動検出素子8は,圧電振動ジャイロ型と呼ばれるものであり,」と記載されていることから,本件特許の出願時における振動ジャイロの技術常識が記載された「圧電セラミックス新技術」(甲第7号証)の116頁以降の「4・4 角速度センサ I」及び121頁以降の「4・5 角速度センサ II」の項を参照し,特に,121頁14行-15行の「振動ジャイロとは,・・・振動子に振動(x軸)を与える。」,及び,121頁2行-4行の「この音叉型角速度センサは・・・産業用各種機器・装置の振動検出用,・・・など幅広い応用展開が期待されている。」ことも技術常識といえるので,当業者が上記振動ジャイロの本件特許の出願時の技術常識を考慮すると,「振動検出素子8」は励振されており,かつ,振動を間接的に検出できることは,当業者であれば当初明細書等に記載されているのと同然であると理解する事項である。

最後に,先のとおり「振動検出素子8は,圧電振動ジャイロ型と呼ばれるもの」であるから,前記「圧電セラミックス新技術」(甲第7号証)の116頁以降の「4・4 角速度センサ I」及び121頁以降の「4・5 角速度センサ II」の項を参照し,特に,圧電振動ジャイロに係る技術常識といえる,118頁6行-8行の「コリオリ力によってたわみを生じた駆動素子側とモニタ素子側の各々の検知素子からは,たわみに応じた電力が出力される。したがって,この電圧を計測することで角速度の検出ができるのである。」,及び,121頁17行-18行の「このコリオリ力をy軸に設けた圧電セラミックスにて検出する・・・」との記載からすると,「振動検出素子8」はコリオリ力を検出するものである。そして,先のとおり当初明細書等の記載からすれば,「振動検出素子8」は変動を検出するものである。そうであるならば,コリオリ力と変動とは異なる物理量であるから,両者の間の何らかの変換がなされているはずであることは,当業者にとって自明である。したがって,「振動検出素子8」の他に,少なくとも何らかの変換のための他の回路などの構成が設けられていなければならないことも自明であるから,それらを含んだ検出器と呼称し得るものの存在が想定し得ることは,上記圧電振動ジャイロに係る技術常識からして自明といえる。すなわち,当業者であれば「検出器」は当初明細書等に記載されているのと同然であると理解する事項であり,当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものでもない。

以上のことからすると,結局,本件特許の出願時の上記いくつかの技術常識からして,手振れの振動を検出すべきものといえるカメラにおける手振れの検出用のセンサとして機能し,励振されており,かつ,振動を間接的に検出できる「振動検出素子」を,本質的な構成要素とする「検出器」である,「励振された振動検出素子を用いて振動を検出する振動検出器」は,当業者であれば当初明細書等に記載されているのと同然であると理解するから,当初明細書等の記載から自明な事項であり,当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものでもない。
そうすると,請求人が明細書の要旨を変更するものと主張した補正事項2に係る補正は,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるから,明細書の要旨を変更するものとは認められない。

5.まとめ
以上のとおりであるから,請求人が明細書の要旨を変更するものと主張した補正は,いずれも当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり,明細書の要旨を変更するものとは認められないので,本件特許の出願日は平成13年9月28日に繰り下がらないから,甲第3号証は本件特許の出願前に頒布されたものではなく,甲第3号証記載発明と対比して本件特許発明1ないし9の新規性,進歩性を云々することは失当であるといわざるを得ない。
したがって,請求人の主張する無効理由1及び提出した証拠方法によっては本件特許発明1ないし9の特許を無効とすることはできない。


2 無効理由2(記載不備に基づく無効理由)について

1.請求人が記載不備であると主張する事項について,以下に検討する。
すなわち,それらは,
(1)請求項1,3,4,及び5に特定された「共振周波数帯域」と他の共振周波数特性との関係は,発明の詳細な説明に「共振周波数」と他の共振周波数特性との関係が記載されていても,「共振周波数帯域」という文言が使用されていないから,発明の詳細な説明に記載されたものではない。これらを引用する本件特許発明7ないし9も同様である(以下,「記載事項1」という。)
(2)本件特許発明1ないし9は,いずれも「励振された振動検出素子を用いて振動を検出する振動検出器とを備えた装置」を構成要件とするところ,「振動を検出する振動検出器」の語は明細書にも図面にも記載がないから,発明の詳細な説明に,当業者が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効果が記載されていない(以下,「記載事項2」という。)
である。

2.記載事項1について
当初明細書等の発明の詳細な説明には,「共振周波数帯域」について,以下の記載がある。
・「【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために本発明による超音波モータと振動検出素子とを備えた装置の第1の解決手段は,超音波モータと振動検出素子とを備えた装置であって,前記振動検出素子の共振周波数帯域と前記超音波モータの共振周波数帯域とを別の帯域に設定したことを特徴とする。」
・「【0008】第3の解決手段は,超音波モータと振動検出素子とを備えた装置であって,前記振動検出素子の共振周波数帯域と前記超音波モータの周波数制御範囲とを別の帯域に設定したことを特徴とする。
【0009】第4の解決手段は,超音波モータと振動検出素子とを備えた装置であって,前記振動検出素子の共振の半値幅帯域と前記超音波モータの共振周波数帯域とを別の帯域に設定したことを特徴とする。
【0010】第5の解決手段は,超音波モータと振動検出素子とを備えた装置であって,前記振動検出素子の共振周波数帯域以外の帯域に前記超音波モータの共振周波数帯域を設定したことを特徴とする。」
・「【0012】第7の解決手段は,超音波モータと振動検出素子とを備えた装置であって,前記振動検出素子の共振周波数帯域以外の帯域に前記超音波モータの周波数制御範囲を設定したことを特徴とする。
【0013】第8の解決手段は,超音波モータと振動検出素子とを備えた装置であって,前記振動検出素子の共振の半値幅帯域以外の帯域に前記超音波モータの共振周波数帯域を設定したことを特徴とする。」
・「【0018】
【作用】本発明においては,超音波モータの共振周波数帯域および/または駆動制御範囲と,振動検出素子の第1次又は第2次の共振周波数帯域および/又は第1次又は第2次の共振の半値幅帯域が別の帯域になるように設定したので,超音波モータの振動によって,振動検出素子が共振することがなくなり,正確な振動検出が可能になる。」
・「【0027】
【発明の効果】以上のように本発明によれば,超音波モータの共振周波数帯域および/または周波数制御範囲が,振動検出素子の1次又は2次の共振周波数帯域および/または共振の半値幅帯域とが一致しないように構成したので,超音波モータの振動によって振動検出素子が共振することがなくなり,正確な振動検出が可能になる,という効果がある。」
また,「1 無効理由1について」の「2.補正事項3について」及び「3.補正事項1について」に記載したように,「共振周波数帯域」は超音波モータの共振特性L2,または,振動検出素子の1次の共振特性L1,2次の共振特性L3等を意味するものと認められる。
そして,「1 無効理由1について」の「2.補正事項3について」及び「3.補正事項1について」に記載したように,本件特許発明1は,図1に「超音波モータの共振特性L2を,振動検出素子の1次の共振周波数f1と2次の共振特性L3との間に設定した」態様として記載されており,
本件特許発明3は,図1に「超音波モータの周波数制御範囲Δf2を,振動検出素子の1次の共振特性L1と2次の共振特性L3との間に設定した」態様として記載されており,
本件特許発明5は,図1に「超音波モータの共振特性L2を,振動検出素子の1次の共振の半値幅帯域Δf1と2次の共振の半値幅帯域Δf3との間に設定した」態様として記載されているということができる。
また,本件特許発明4は,図1に「振動検出素子の1次または2次の共振の半値幅帯域Δf1またはΔf3と,超音波モータの共振特性L2とを別の帯域に設定した」態様として記載されているということができる。
そして,本件特許発明1,3,4,5はいずれも,超音波モータの振動によって振動検出素子が共振することがなくなり,正確な振動検出が可能になる,という効果を奏することが明らかである。

したがって,本件特許発明1,3,4及び5並びにこれらを引用する本件特許発明7ないし9は,本件特許明細書等の発明の詳細な説明に記載されたものである。

3.記載事項2について
本件特許発明1ないし9の目的は,本件特許明細書(甲第1号証)の発明の詳細な説明の段落【0004】に記載された
「【発明が解決しようとする課題】しかし,前述したような超音波モータと振動検出素子とを,1つの装置に組み込んだ場合には,超音波モータの振動によって,振動検出素子が共振して,正確な振動検出ができなくなる,という問題点があった。」
をふまえ,同じく段落【0005】に記載された
「本発明は,超音波モータと振動検出素子とが備えられている場合に,超音波モータの駆動効率を低下させることなく,振動検出素子の検出が正確に行える超音波モータと振動検出器とを備えた装置を提供することを目的とする。」
からすると,「超音波モータと振動検出素子とが備えられている場合に,振動検出素子の検出を正確に行うことを可能にすること」と解することができる。
また,本件特許発明1ないし9の効果は,同じく発明の詳細な説明の段落【0027】と段落【0028】とに記載された
「【0027】【発明の効果】以上のように本発明によれば,超音波モータの共振周波数帯域および/または周波数制御範囲が,振動検出素子の1次又は2次の共振周波数帯域および/または共振の半値幅帯域とが一致しないように構成したので,超音波モータの振動によって振動検出素子が共振することがなくなり,正確な振動検出が可能になる,という効果がある。
【0028】また,超音波モータが焦点整合用レンズを駆動し,振動検出素子が撮影レンズのブレを検出する装置の場合には,正確なブレ防止が可能になる。」
からすると,「超音波モータの振動によって振動検出素子が共振することがなくなり,正確な振動検出が可能になる」ことと解することができる。
さらに,確かに「振動を検出する振動検出器」の語は,それ自体は特許明細書にも図面にも記載がないが,上記「1 無効理由1(要旨変更の補正に基づく無効理由)について」の「4.補正事項2について」の項にて説示したように,「励振された振動検出素子を用いて振動を検出する振動検出器」の構成は,当業者にとって当初明細書等に記載されているのと同然と理解する事項であり,前記説示の判断に際し参照した記載事項は,当初明細書等(甲第3号証)の段落【0021】の記載事項であって,該記載事項は何らの補正もなされておらず,特許明細書(甲第1号証)における段落【0021】の記載事項と同一である。したがって,結局,「励振された振動検出素子を用いて振動を検出する振動検出器」の構成,特に,「振動を検出する振動検出器」は,当業者であれば特許明細書に記載されているのと同然と理解する事項である。
そして,「励振された振動検出素子を用いて振動を検出する振動検出器とを備えた装置」が,先の目的,効果の範囲内のものであることも,当業者は理解できる。
そうであれば,本件特許発明の属する技術分野において研究開発(文献解析,実験,分析,製造等を含む)のための通常の技術的手段を用い,通常の創作能力を発揮できる者(当業者)が,明細書及び図面に記載した事項と出願時の技術常識,特に,圧電振動ジャイロに係る技術常識とに基づき,本件特許発明1ないし9の「励振された振動検出素子を用いて振動を検出する振動検出器とを備えた装置」を理解することができる程度に,先の目的,効果の範囲内で,本件特許発明1ないし9の装置が,発明の詳細な説明に記載されているものと認められる。そして,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,本件特許発明1ないし9に係る「振動検出器」を理解できる程度の記載がなされているから,記載された条件の中で,当業者が技術常識を加味して,具体的な実施条件を決定すべきものであり,これにより本件特許発明1ないし9に係る「振動検出器」を実施することは,可能であるというべきである。
したがって,本件特許発明1ないし9は,その明細書及び図面に記載された発明の実施に係る事項と出願時の技術常識とに基づいて,当業者が発明を実施しようとした場合に,どのように実施するかが理解できない,例えば,どのように実施するかを発見するために,当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要がある,とすることはできない。
そうすると,本件特許発明1ないし9は,いずれも構成要件とする「励振された振動検出素子を用いて振動を検出する振動検出器とを備えた装置」を含め,発明の詳細な説明に,当業者が容易にその実施することができる程度に,その発明の目的,構成及び効果が記載されていないとすることはできない。

4.まとめ
以上のとおりであるから,請求人の主張する無効理由2及び提出した証拠方法によっては本件特許発明1ないし9の特許を無効とすることはできない。


3 無効理由3(進歩性欠如に基づく無効理由)について

1.甲第4号証ないし甲第14号証,甲第18号証ないし甲第20号証及び甲第23号証の記載事項

(1)甲第4号証の記載事項
本件特許の出願前に頒布された甲第4号証には,図面と共に次の事項が記載されている。

・「(2)被写体像を映像信号に変換する光電変換手段と,
この光電変換手段の表面に前記被写体像を結像させる光学系と,
前記光電変換手段より入力した前記映像信号を用いて前記被写体像の移動を検出する移動検出手段と,
機械的振動センサを用いて前記移動検出手段の振動を検出する振動検出手段と,
この振動検出手段より入力した前記移動検出手段の振動の検出値と前記移動検出手段より入力した前記被写体像の移動の検出値とを用いて,前記被写体の移動速度を演算する速度演算手段と,
この速度演算手段より入力した前記被写体の移動速度に基づいて像ぶれの補正を行なう補正手段と
を具備することを特徴とするカメラの像ぶれ補正装置。」(1頁右下欄2行?19行)

・「本発明のカメラの像ぶれ補正装置は,光学系によって光電変換手段の表面に結像された被写体像の移動を光電変換手段の出力する映像信号により移動検出手段で検出すると共に,手ぶれによる移動検出手段の振動を振動検出手段で検出し,さらに,移動検出手段の検出値と振動検出手段の検出値とにより被写体自体の移動速度を算出し,この算出値を用いて補正手段で像ぶれの補正を行なう。」(3頁右上欄2行?9行)

・「次に,第1図に示した防振装置13について,詳細に説明する。
第11図および第12図は,かかる防振装置13の構成を概略的に示すものであり,第11図は断面図,第12図は斜視図である。両図において,101はカメラの本体,102は撮影レンズである。撮影レンズ102は,撮影光学系103,第4図に示したy軸の回転方向に対する振動を検知するための第1の加速度センサ119a,第4図に示したx軸の回転方向に対する振動を検知するための第2の加速度センサ119b,軸110aを中心に回転できるように構成されたyz平面内の振動を補正するための第1の補正光学素子108,軸111aを中心に回転できるように構成されたxz平面内の振動を補正するための第2の補正光学素子109,第1の補正光学素子108を駆動させるためのディスク型超音波モータ112,第2の補正光学素子109を駆動させるためのディスク型超音波モータ113,第1の補正光学素子108の回転状態を検出するためのエンコーダ114,第2の補正光学素子109の回転状態を検出するためのエンコーダ115,ディスク型超音波モータ112および113の駆動を行なうための電気回路部120,カメラの本体101と撮影レンズ102との信号のやり取りを行なうための撮影レンズ側接点116により構成されている。なお,エンコーダ114は,第1の補正光学素子108の回転に応じて回転するドラム114a,ドラム114aの回転状態を検出するための磁気センサ(磁気ヘッド等,以下,MRセンサと称する)114b,ドラム114aの回転の終端を検出するための図示していない光学センサ(フォトリフレクタ等,以下,PRセンサと称する)により構成されている。同様に,エンコーダ115は,第2の補正光学素子109の回転に応じて回転するドラム115a,ドラム115aの回転状態を検出するためのMRセンサ115b,ドラム115aの回転の終端を検出するためのPRセンサ(図示せず)により構成されている。一方,カメラの本体101は,クイックリターンミラー104,焦点検出光学系2およびファインダー光学系からなる本体光学系106,接眼レンズ107,信号処理やカメラのぶれ量の演算等を行なうための電気回路部118,カメラの本体101と撮影レンズ102との信号のやり取りを行なうためのカメラ本体側接点117により構成されている。」(7頁右上欄20行?8頁左上欄6行)

・「また,カメラの本体101には,カメラの機械的なぶれ量を検出するために,y軸角速度検出部119aとx軸角速度検出部119bが搭載されている。ここで,カメラのx軸方向およびy軸方向を第13図のように定める。y軸角速度検出部119aは,カメラのy軸回りの回転方向のぶれの角速度を検出するためのものである。このy軸回りの回転方向のぶれは,フィルム105上でのx軸方向の像ぶれを発生させる要因となる。また,x軸角速度検出部119aは,カメラのx軸回りの回転方向のぶれの角速度を検出するためのものであり,このx軸回りの回転方向のぶれは,フィルム105上でのy軸方向の像ぶれを発生させる要因となる。y軸角速度検出部119aおよびx軸角速度検出部119bにより検出されたぶれ情報は,カメラ本体101の電気回路部118内に具備されたCPU5に転送される。」(8頁左上欄7行?右上欄3行)

・第11図には防振装置の構成を概略的に示す断面図が,第12図には防振装置の構成を概略的に示す斜視図が示され,両図には,カメラの本体101に第1及び第2の角速度検出器119a及び119bが設けられ,撮影レンズ102に補正光学素子108を駆動するディスク型超音波モータ112及び113が設けられた,撮影レンズ102とカメラの本体101とが着脱可能なカメラが図示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると,甲第4号証には,カメラの像ぶれ補正装置である防振装置に関し,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認めることができる。

・「超音波モータ112,113と,機械的振動センサを用いて手ぶれによる振動を検出する振動検出手段と,を具備する撮影レンズ102とカメラの本体101とが着脱可能なカメラ。」

(2)甲第5号証の記載事項
本件特許の出願前に頒布された甲第5号証には,図面と共に次の事項が記載されている。

・「【0002】
【従来の技術】近年,振動体に圧電素子を貼着した振動子を具える振動ジャイロが種々提案されている。かかる振動ジャイロは,小型,軽量にできることから,最近では異なる軸回りの角速度を検出する複数の振動子を具える振動ジャイロを,小型機器,例えば小型ビデオカメラに搭載し,これにより上下,左右等の複数の軸回りの角速度を検出して画面のブレを補正する試みがなされている。」

・「【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら,上述したように,小型ビデオカメラ等の小型機器に複数の振動子を有する振動ジャイロを搭載する場合には,スペースの関係から複数の振動子を接近して配置せざるを得ない。
【0004】この場合,例えば図3に示すように,接近して配置された振動子1a,1bが,それぞれの振動に伴って発生する音波2a,2bにより相互に影響し合ったり,また図4に示すように,振動子1a,1bの取付け台4を介して,それぞれの振動3a,3bにより振動子1a,1bが相互に影響し合うことになる。ここで,振動子1a,1bの振動,すなわち励振周波数は,個々の寸法誤差等によって完全に一致するものではなく,両者間には僅かな差が存在する。このため,振動子1a,1bの振動の振幅は,相互干渉によるうなりを生じて,図5に示すように変化し,その包絡線Aの周波数は,各振動子1a,1bの励振周波数の差となる。」

・「【0005】一方,振動ジャイロにおいては,例えば図6に示すように,横断面形状が四角形の振動体5の三つの側面に圧電素子6,7,8を貼着して振動子9を構成し,駆動装置10により圧電素子6に交流電圧を印加すると共に,対向する側面の圧電素子7の出力を駆動装置10に帰還することにより,振動子9をX方向に自励振動させている。また,他の圧電素子8の出力は,同期検波器11を経てローパスフィルタ12に供給している。このようにして,振動子9のX方向の振動状態下で,Z軸回りの角速度の発生によって生じるY方向の振動を,圧電素子8により電圧として検出し,その出力電圧を同期検波器11で検波した後,ローパスフィルタ12を通すことにより,所定のカットオフ周波数で遮断した直流の角速度検出信号を得ている。」

これらの記載事項及び図示内容を総合すると,甲第5号証には,次の技術的事項(以下,「甲第5号証記載技術」という。)が記載されていると認めることができる。

・「カメラのブレ防止のための検出器として励振された振動子を用いた圧電振動ジャイロで角速度を検出する。」

(3)甲第6号証の記載事項
本件特許の出願前に頒布された甲第6号証には,図面と共に次の事項が記載されている。

・「【0002】
【従来の技術】従来から,手振れによるカメラの像振れを補正する装置は種々提案されている。これらの像振れ補正方式の代表的なものは,振れ検知の装置によりカメラに生じた手振れ振動を検知し,該振れ信号に基づいて撮影光学系内の振れ補正光学素子を変位せしめて像振れを解消させるというものである。そして,手振れを検知する振れ検知装置には,角変位計,角速度計,角加速度計等があるが,これらの振れ検知装置は手振れ以外の有害な振動,例えば一眼レフレックスカメラのクリックリターンミラー,シャッタ,絞り機構等の作動による衝撃,或はビデオカメラのモータ走行振動により,正規の手振れ信号以外の誤信号を出力してしまうという欠点がある。」

・「【0016】この図において,1は所謂振動ジャイロ等の振れ検知装置であるところの角速度計で,・・・」

・「【0021】図1において,11はカメラボディ,12はレンズ鏡筒で,撮影光学系の一部を構成する前群レンズ13及び前述の光軸偏心手段4であるところの振れ補正光学系4を保持する。そして,振れ補正光学系4はレンズ鏡筒12の上下方向(ピッチ方向)の角度振れと左右方向(ヨー方向)の角度振れを補正するため,図中の矢印4p,4y方向に各々独立に移動可能に支持され,また駆動用アクチュエータも2組備えている。
【0022】レンズ鏡筒12には,図6の角速度計1に相当する振れ検知センサ16p,16yを取り付けるための台座14p,14yが一体的に設けられ,緩衝機能を有した両面接着テープ15p,15yを介して振れ検知センサ16p,16yが固定される。そして,不図示のカバー鏡筒が上から上記各部材を覆う。
【0023】振れ検知センサ16p,16yは矢印ωp,ωy方向の角速度を検知する。すなわち,振れ検知センサ16pはピッチ振れを,振れ検知センサ16yはヨー振れを検知する。そして,両振れ検知センサには同様の取付部材が使用されるので,以後ピッチ方向についてのみ説明する。」

・図1には振れ検知装置を備えたカメラの斜視図が示され,振れ検知センサ16p,16yがレンズ鏡筒に取り付けられることが図示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると,甲第6号証には,次の技術的事項(以下,「甲第6号証記載技術」という。)が記載されていると認めることができる。

・「カメラの振れ防止のための検出器として振動ジャイロで角速度を検出する。」

(4)甲第7号証の記載事項
本件特許の出願前に頒布された甲第7号証には,図面と共に次の事項が記載されている。

・「音叉型角速度センサは,圧電バイモルフからなる駆動素子と検知素子とを直交接合した振動ユニットを連結ブロックで連結して音叉構造とし,この連結ブロック部を一点で支持した構成になっている。(図4・33)。
さて,センサの構成要素である圧電バイモルフは,その両面間に電圧を印加すると圧電バイモルフの面と垂直の方向にたわみ,逆に外力を加えて圧電バイモルフ面と垂直にたわませると,圧電バイモルフの両面間に電圧が発生するという特長,電気-機械変換特性をもっている。角速度センサは,この圧電バイモルフの性質と,運動している物体に角速度が加わるとその運動している方向と直角な方向に“コリオリの力”が発生する,という原理を巧みに利用したものである。」(116頁23行?117頁7行)

・「図4・34を参照してこの動作原理を説明する。まず,この音叉型角速度センサの駆動素子にのみ電圧を印加,振動させると,連結ブロックを介してモニタ素子が振動し音叉構造全体を共振させることができる。この振動には振動帰還制御方式を採用しており,モニタ素子の振動振幅・位相をモニタすることで印加電圧を制御し駆動振動周波数を安定にしている。
センサがこの安定な振動状態にあるとき,図に示したようなセンサ軸方向に回転運動すなわち角速度ωが生ずると,検知素子の振動方向と直角の方向にコリオリの力F_(C)が生じる。
コリオリの力:F_(C)=2m×v×ω
ここに,ω:回転の角速度,m:質点の質量,v:質点の速度
コリオリの力によってたわみを生じた駆動素子側とモニタ素子側の各々の検知素子からは,たわみに応じた電圧が出力される。したがって,この電圧を計測することで角速度の検出ができるのである。」(117頁8行?118頁8行)

・「ビデオカメラ画振れ防止機能(図4・35)として,音叉型角速度センサと,光学系を含み撮像ユニットを水平および垂直方向に自由に動けるように支持する機構と,撮像ユニットを駆動するアクチュエータと,制御回路部とから構成すれば,ビデオカメラに振れが生じた場合,音叉型角速度センサの出力に応じて制御回路部とアクチュエータが働き,撮像ユニットを空中に静止させることにより画振れの少ない撮像画像を得ることができる。」(119頁12行?17行)

・「振動ジャイロとは,音片型や音叉型などの振動子に圧電セラミックスを貼り合わせ,圧電セラミックスにて振動子に振動(x軸)を与える。振動している振動子の中心軸(z軸)に回転角速度(Ω_(0))が加わると,もとの振動(x軸)に対し直角方向(y軸)にコリオリ力が生じる。このコリオリ力をy軸に設けた圧電セラミックスにて検出する方式で,GEタイプを基本型とする音片型振動ジャイロやスペリータイプ,ワトソンタイプを基本型とする音叉型振動ジャイロが代表的である。」(121頁14行?19行)

・図4・37には正三角形音片型振動ジャイロが示されている。

・「図6・1は進行波方式の超音波モータの動作原理の説明図である。圧電セラミックスと金属などの弾性体より振動体を構成し,この振動体の表面に移動体を加圧接触して設置する。同図では,移動体の表面に耐摩耗性の優れた摩擦材を構成しているが,動作原理上は必ずしも必要としない。
図6・2は駆動方式の説明図であり,圧電セラミックスに2組の駆動電極をお互いに1/4波長相当分ずらして構成する。それぞれの電極群は1/2波長相当の長さをもつ小電極群からなる。図中の圧電セラミックスに記された矢印は分極の向きを示す。隣り合う小電極の電界の方向が反対になるように,それぞれの駆動電極に振動体の共振周波数近傍の交流電界E_(1),E_(2)を印加すると,実線と破線で示すように1/4波長ずれた振幅分布をもつ二つの撓み振動が振動体に励振される。
二つの印加電界の位相差を90°にすれば,二つの撓み振動は進行波となり,振動体の表面の任意の点は図6・1に示すように楕円運動をする。移動体は,この楕円軌跡により摩擦駆動されて,進行波の進行方向と逆の方向に移動する。」(174頁3行?15行)

・「また,超音波モータは弾性振動を駆動源として使っている。したがって,超音波モータを外部の機械系と接続すると,機械系に不要な振動を励振する場合がある。特に,不要振動が可聴領域の場合は商品価値上問題は大きい。このため,外部の機械系への振動伝達を小さくする,外部の機械系の固有振動数が可聴域にないようにする,緩衝効果の大きい減衰要素を構成するなどの対応策が必要である。」(181頁17行?182頁3行)

これらの記載事項及び図示内容を総合すると,甲第7号証には,次の技術的事項が記載されていると認めることができる。

・「カメラのブレ防止のための検出器として励振された振動検出素子を用いた圧電振動ジャイロで角速度を検出する。」(以下,「甲第7号証記載技術」という。)

・「超音波モータは,励振された振動体により移動体を移動させるものであり,このため,外部の機械系と接続すると機械系に不要な振動を励振する場合があり,これに対する対応策が必要である。」(以下,「甲第7号証記載課題」という。)

(5)甲第8号証の記載事項
本件特許の出願前に頒布された甲第8号証には,次の事項が記載されている。

・「用途によって,共振子,発振子などとも呼ばれます。水晶の結晶を結晶軸と一定の角度を保って切り出し,方形板に加工してから,2面にメッキ加工などで電極を取り付けた構造をしています。水晶,ロッシェル塩,圧電セラミックなど,いわゆる圧電体は,機械的な圧力を加えると電圧を発生し,逆に電圧を加えると変形しますが,この加える電圧の周波数が,その圧電体の機械的な固有振動数に一致すると,非常に強力な共振現象を起こします。この固有振動は非常に安定していて,加える電圧の周波数がごくわずかでもずれると,共振はたちまち減衰してしまいます。そこで,この共振現象を利用して,安定な発振回路を作ったり,鋭い選択特性を持つフィルタを作ったりします。この目的で作られた水晶片が,水晶振動子です。小さな金属ケースの中に密閉封入された構造が一般的ですが,最近はプリント基板用平面実装形のものも開発されています。」(169頁左上欄)

・「水晶の他に,圧電体としてはロッシェル塩,圧電セラミック(PZT:チタン酸ジルコン酸鉛)などがあります。ロッシェル塩は,敗戦直後,電池式ポータブルラジオのクリスタルスピーカに使われたので,オールドファンなら記憶されておられると思います。もう一方の圧電セラミックは,水晶を使うほどではないが,ある程度正確な周波数が欲しい,というようなとき,水晶の代わりとして,発振回路,フィルタ回路などに応用されます。
セラミックは,小型で値段の安いのが利点ですが,周波数精度は水晶の±0.001%に対し±0.5%とかなり低く,共振の鋭さを表すQも,水晶の2?3×10^(5)に対しセラミックは1.1×10^(3)程度と下回っています。しかしLC発振回路と比べれば,これでもずば抜けた性能なので,最近では,LC回路は殆どセラミックに置き替えられてしまっているといってもよいくらいです。」(169頁右上欄)

これらの記載事項を総合すると,甲第8号証には,次の技術的事項(以下,「甲第8号証記載技術」という。)が記載されていると認めることができる。

・「いわゆる圧電体は,機械的な圧力を加えると電圧を発生し,逆に電圧を加えると変形するが,この加える電圧の周波数が,その圧電体の機械的な固有振動数に一致すると,非常に強力な共振現象を起こし,加える電圧の周波数がごくわずかでもずれると,共振はたちまち減衰してしまう。」

(6)甲第9号証の記載事項
甲第9号証には,次の事項が記載されている。

・「共振(きょうしん)は,エネルギーを有する系が外部から与えられた刺激により固有振動を起こすことである。特に,外部からの刺激が固有振動数に近い状態を表す。共鳴と同じ原理に基づく現象であるが,電気や固体については「共振」の語がよく用いられる。
共振の特性を表す無次元量としてQ値が用いられる。値が大きいほどエネルギーの分散が小さく,狭い振動数の帯域で共振する。共振のシステムとして,振動する振り子が単純な例として挙げられる。振り子を押して系に振動を励起することにより,振り子はその固有振動数で振動を始める。振り子の固有振動に近い周期で振動を与えると,振動の振幅は次第に大きくなる。しかし,固有振動と大きく異なる周期で振動を与えると,振幅は大きくならない。」(3行?10行)

この記載事項からすると,甲第9号証には,次の技術的事項(以下,「甲第9号証記載技術」という。)が記載されていると認めることができる。

・「固体の固有振動数に近い周期で振動を与えると,振動の振幅は次第に大きくなり,固有振動数と大きく異なる周期で振動を与えると,振幅は大きくならない。」

(7)甲第10号証の記載事項
本件特許の出願前に頒布された甲第10号証には,次の事項が記載されている。

・「2.1 圧電振動ジャイロの基本原理
圧電振動ジャイロとは,音片型や音叉型などの振動子に励振用圧電セラミックを貼り合わせ,一般の振動子と同様に励振(x軸)する。
励振している振動の中心軸(z軸)に回転角速度(ω_(0))が加わると,もとの振動軸(x軸)に対し直角方向(y軸)に回転速度に比例したコリオリ力(Fc)が生じる力学現象を利用したもので,y軸に設けた検出用圧電セラミックにて回転角速度を電圧として検出することができる。」(572頁左欄27行?右欄4行)

・「3.正3角形音片型振動ジャイロの設計
3.1 振動子の作製
・・・
車載用の共振周波数は,自動車のノッキングなどの外来振動やノイズ成分を考慮して7kHz以上に設定した。
また,カメラ用の共振周波数は,非可聴周波数域及び応答速度を考慮して20kHz以上に設定した。
振動子の材料として,恒弾性金属材料(エリンバ材)を用い,振動子サイズとして

車載用 カメラ用

一辺a 3.5mm 2.0mm
長さl 40.0mm 17.0mm

なる正3角形音片型振動子を異形成型にて作成し,各辺の中央部に圧電セラミックをエポキシ系接着剤にて貼り合わせた結果,共振周波数は
車載用 f_(Δ)=7.85kHz
カメラ用 f_(Δ)=24.0kHz
となり,計算値とも一致した。」(574頁左欄8行?29行)

これらの記載事項を総合すると,甲第10号証には,次の発明(以下,「甲第10号証記載発明」という。)が記載されていると認めることができる。

・「恒弾性金属材料(エリンバ材)を素材とした正3角形音片型振動子を備えたカメラ用の角速度を検出する振動ジャイロであって,その共振周波数を24.0kHzとするもの。」

(8)甲第11号証の記載事項
本件特許の出願前に頒布された甲第11号証には,図面と共に次の事項が記載されている。

・「【請求項1】 棒状弾性体に配置された電気-機械エネルギー変換素子に交流電界を印加することによって,棒状弾性体の軸を含む直交する2つの面方向に屈曲振動を励振させ,かつ適当な時間位相差を持たせることにより,振動体の表面粒子に円運動を行わしめる振動子と,振動体に押圧されて摩擦駆動される移動体とを有する超音波モータにおいて,該2つの屈曲振動の固有振動数が異なることを特徴とする超音波モータ。」

・「【0047】上記した本実施例の説明は,モータ効率の向上を図ることについて述べたが,図1に示す形状に振動子を形成することにより,「鳴き」の発生を防止できる効果も有する。
【0048】棒状に形成されたペンシル型の超音波モータにおいて,駆動中に鳴きを発生することがある。この現象は,例えばカメラ等に使用した場合に耳障りであり,その防止を発生する必要がある。」

・「【0106】また,上記した各実施例のように駆動周波数35?45KHzのモーターにおいては,2方向の固有振動数の差は,100Hz程度までは回転数の大きな低下を生じなかった。」

・「【0109】上記した各実施例の超音波モータは各種装置の駆動源として利用することができ,図16は図15に示した振動子を用いた超音波モータを駆動源とする駆動装置を示しており,振動子構造体41と42は連結ボルト45によりPZT等を挟持して固定されている。
【0110】50は出力取り出し用のギア部を外周面に形成した出力部材で,加圧用のコイルバネ51のバネ力を受けるコイルバネ受を兼用し,プチルゴム52を介して移動体53と摩擦力により連結されている。54は連結ギアで,出力部材50のギア部と噛合しており,移動体53の回転駆動力を例えばカメラの焦点調節部材55に伝達している。一方,連結ギア54には,エンコ-ダスリット盤56とフォトカプラ57とが取り付けられており,回転位置,速度等を検出している。」

これらの記載事項及び図示内容を総合すると,甲第11号証には,次の発明(以下,「甲第11号証記載発明」という。)が記載されていると認めることができる。

・「カメラの焦点調節部材を駆動する超音波モータであって,その駆動周波数を35?45kHzとしたもの。」

(9)甲第12号証の記載事項
本件特許の出願前に頒布された甲第12号証には,次の事項が記載されている。

・「本発明はメカニカルフィルター共振子などに用いられる恒弾性材料の製造に関するもので,特にメカニカルフィルターの共振子として使った場合,10kHz以上の高い周波数で25000以上の高いメカニカルQ値を示し,かつ-20?60℃の範囲で共振周波数の温度係数が3ppm/℃の特性を有する恒弾性材料の製造方法に関するものである。」(1頁左下欄15行?右下欄4行)

・「恒弾性材料のエリンバーにBeを添加することなしに,エリンバーの振動子を10kHz以上の高い周波数で共振せしめた場合に共振周波数が3ppm/℃(-20?60℃)以下の小さい値を保ち,しかも25000以上のメカニカルQ値の特性を持つ恒弾性材料を安価に得る製造方法を得ることである。」(2頁左上欄10行?16行)

これらの記載事項を総合すると,甲第12号証には,次の技術的事項(以下,「甲第12号証記載技術」という。)が記載されていると認めることができる。

・「恒弾性材料のエリンバーの振動子であって,10kHz以上の高い周波数で共振せしめた場合に25000以上のメカニカルQ値の特性を持つ恒弾性材料。」

(10)甲第13号証の記載事項
本件特許の出願前に頒布された甲第13号証には,図面と共に次の事項が記載されている。

・「本発明は酸化物強誘電体薄膜を用いた電気機械振動子に関する。電気機械振動子は高Q,高安定で小形であるという利点から,フイルタ,共振子などの回路部品に広く利用されており,電子回路に不可欠の素子である。」(1欄9行?13行)

・「以下本発明の典型的な実施の一例について図面を用いて説明する。
第1図のように厚さ100μmで10mm×2mmのエリンバー合金1の片方の表面全体にスパツタリング法によつてPb(Zr,Ti)O_(3)薄膜2を10μm形成した。形成したPb(Zr,Ti)O_(3)薄膜全体に数秒間レーザ光を照射してPb(Zr,Ti)O_(3)薄膜を結晶化させて,その上に金の電極膜3を蒸着した。得られたエリンバー音片振動子の基本共振周波数は5KHzでありQ値は5000であつた。」(4欄7行?16行)

これらの記載事項及び図示内容を総合すると,甲第13号証には,次の技術的事項(以下,「甲第13号証記載技術」という。)が記載されていると認めることができる。

・「エリンバーの振動子であって,5kHzの周波数で共振せしめた場合に5000のQ値の振動子。」

(11)甲第14号証の記載事項
本件特許の出願前に頒布された甲第14号証には,「Q値」の項として,図面と共に次の事項が記載されている。

・「共振回路のよさを表す量で,共振の鋭さと自由振動の減衰時間に比例する。・・・並列共振回路に・・・。ここでω_(0)^(-1)=(LC)^(1/2),・・・」(457頁右欄下から7?1行目)

・「Q>>1では定電流交流(ω)入力に対する応答は図2のように|V|^(2) ∝{1+[2Q(ω-ω_(0))/ω_(0)]^(2)}^(-1)で近似される(→(白抜き)共振回路)。したがって|V|^(2)がピークの1/2になる点の周波数の差Δωを求めれば,Qはω_(0)/Δωで与えられる。」(458頁左欄10行?14行)

・図2には2Q(ω-ω_(0))/ω_(0)に対する|V|^(2)の関係が示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると,甲第14号証には,次の技術的事項(以下,「甲第14号証記載技術」という。)が記載されていると認めることができる。

・「半値幅=ω_(0)/Qで近似される。ただし,QはQ値でありQ>>1の場合で,ω_(0)は共振周波数である。」

(12)甲第18号証の記載事項
本件特許の出願前に頒布された甲第18号証には,次の事項が記載されている。

・「しかし,この様な支持方法では筐体の振動や衝撃がセンサ本体に伝わることを防ぐことはできない。音叉構造振動型の角速度センサは外部からの振動や衝撃によって出力が変動するという欠点があり,特に検知用圧電バイモルフのたわみ方向の振動や衝撃に弱くかつ,音叉振動の周波数付近の振動や音叉振動の周波数成分の高調波を含む衝撃に対して弱いという問題があった。」(2頁左上欄13行?20行)

この記載事項からすると,甲第18号証には,次の技術的事項(以下,「甲第18号証記載課題」という。)が記載されていると認めることができる。

・「音叉構造振動型の角速度センサは外部からの振動や衝撃によって出力が変動するという欠点があり,特に検知用圧電バイモルフのたわみ方向の振動や衝撃に弱くかつ,音叉振動の周波数付近の振動や音叉振動の周波数成分の高調波を含む衝撃に対して弱い。」

(13)甲第19号証の記載事項
本件特許の出願前に頒布された甲第19号証には,次の事項が記載されている。

・「しかしながら,この種の音叉構造の振動型角速度センサは,素子を一定周波数で振動させているため,この周波数に近い周波数成分を含む外乱振動が加わると,誤動作してしまう。」(1頁右下欄14行?17行)

・「特に音叉振動の周期ω_(0)もしくはω_(0)の整数倍の周波数の成分を含む振動については誤動作しやすいため支持体の共振周波数はω_(0)より充分低くする事が望ましい。」(3頁右上欄3行?6行)

これらの記載事項を総合すると,甲第19号証には,次の技術的事項(以下,「甲第19号証記載課題」という。)が記載されていると認めることができる。

・「音叉構造の振動型角速度センサは,素子を一定周波数で振動させているため,この周波数に近い周波数成分を含む外乱振動が加わると,誤動作してしまう。特に音叉振動の周期ω_(0)もしくはω_(0)の整数倍の周波数の成分を含む振動については誤動作しやすい。」

(14)甲第20号証の記載事項
本件特許の出願前に頒布された甲第20号証には,図面と共に次の事項が記載されている。

・「第6図(a)は,上記の角速度を検出する慣性センサの一例である振動ジャイロを示していて,・・・」(2頁右下欄17行?19行)

・「例えば,第6図(a)で説明した振動ジャイロの振動駆動部64がある特定の周波数nで振動しているときに,外部から周波数nの振動成分を含む衝撃が支持手段62から伝わってきた場合を考えると,この周波数nの振動成分が振動駆動部64の振動振幅を変化させたり,あるいは振動片65a,65bを歪ませて,誤差出力を生じる。」(5頁左下欄1行?8行)

これらの記載事項及び図示内容を総合すると,甲第20号証には,次の技術的事項(以下,「甲第20号証記載課題」という。)が記載されていると認めることができる。

・「外部から,振動ジャイロの振動駆動部の周波数の振動成分を含む衝撃が支持手段から伝わると,振動駆動部の振動振幅を変化させたり,あるいは振動片を歪ませて,誤差出力を生じる。」

(15)甲第23号証の記載事項
本件特許の出願前に頒布された甲第23号証には,図面と共に次の事項が記載されている。

・「本発明は,表面進行波を利用したアクチュエータとして広く知られている超音波モータの原理を応用したアクチュエータを開発し,このアクチュエータによって補正レンズを駆動する像ブレ補正装置を得たものである。
すなわち本発明は,カメラに加わる角加速度を検知して,撮影光学系のブレを打ち消す方向に補正レンズを移動させるカメラの像ブレ補正装置において,撮影光軸側を中心とする円弧状のスラスト面と,該スラスト面の周方向に表面進行波を発生する手段とを有する弾性体からなるステータと;このステータのスラスト面に接触する接触部と,補正レンズの外側に設けた回動中心軸とを有し,この回動中心軸を中心に円弧運動を行なう回動部材とを設けて,この回動部材に補正レンズを設置し,カメラに加わるブレに応じてステータのスラスト面に表面進行波を発生させ,回動部材を回動させて補正レンズを移動させるようにしたことを特徴としている。」(2頁右上欄12行?左下欄10行)

・「上記構成の本像ブレ補正装置は,ステータ16の圧電体板17に所定の周波電圧を印加して,ステータ16のスラスト面18に表面進行波を発生させると,回動部材20に回転駆動力が発生する。超音波モータは,回動部材20がステータ16の中心に回転中心を持つロータである場合に相当するが,本発明では,回動部材20がステータ16の中心とは異なる回動中心軸19を回動中心としている。このため回動部材20は回動中心軸19を中心に円弧運動し,従って回動部材20に保持されている補正レンズ12が光軸Oと直交する平面内で移動する。」(3頁右上欄8行?19行)

・「第2図は,以上の像ブレ補正装置を有するカメラの制御系を示すものである。カメラ31には,第1図の装置が搭載されているが,図には主撮影レンズ11,補正レンズ12,ステータ16および圧電体板17のみを示している。カメラ31にはさらに,角速度センサまたは角加速度センサ32が搭載されている。この角速度センサまたは角加速度センサ32は,カメラブレの大きさを検出可能なものであればよいが,例えば松下電子部品株式会社製の角速度センサ『EYK-GO2C』(品番)を用いることができる。この角速度センサは,振動している音叉によって生じたコリオリの力を利用したもので,2個のバイモルフをT字形に配置したジャイロ信号検出部,音叉駆動回路,および信号処理回路よりなっている。また特願平1- (平成元年4月3日出願)において本出願人が提案した角加速度センサも用いることができる。」(4頁左上欄10行?右上欄7行)

これらの記載事項及び図示内容を総合すると,甲第23号証には,次の発明(以下,「甲第23号証記載発明」という。)が記載されていると認めることができる。

「超音波モータは,回動部材20がステータ16の中心に回転中心を持つロータである場合に相当するが,回動部材20がステータ16の中心とは異なる回動中心軸19を回動中心としている,超音波モータの原理を応用したアクチュエータ(本件特許発明2及び6の「超音波モータ」に相当する。)と,カメラブレの大きさを検出可能な振動している音叉によって生じたコリオリの力を利用した角速度センサ(本件特許発明2及び6の「励振された振動検出素子を用いて振動を検出する振動検出器」に相当する。)とを備えたカメラ31(本件特許発明2及び6の「装置」に相当する。)」

2.対比・判断

(1)本件特許発明2について
本件特許発明2と引用発明とを対比する。

まず,後者の「超音波モータ112,113」は前者の「超音波モータ」に相当する。
また,本件特許発明9からして,前者の「振動検出素子」はその具体的態様として「手振れの検出用のセンサ」を含み,後者の「機械的振動センサを用いて手ぶれによる振動を検出する振動検出手段」の「機械的振動センサ」も手ぶれを検出できるといえるから,後者の「機械的振動センサ」と前者の「励振された振動検出素子」とは,「センサ」との概念で共通している。
そして,後者の「振動検出手段」は前者の「振動検出器」に相当する。
さらに,本件特許発明7からして,前者の「装置」はその具体的態様として「撮影レンズとカメラボディとが一体又は着脱可能なカメラシステム」を含み,後者の「カメラの本体」は前者の具体的態様の「カメラボディ」に相当するから,後者の「撮影レンズ102とカメラの本体101とが着脱可能なカメラ」は,前者の具体的態様の「撮影レンズとカメラボディとが着脱可能なカメラシステム」に相当し,結局,前者の「装置」に相当する。
最後に,後者の「具備する」態様は前者の「備えた」態様に相当する。

したがって,両者は,

「超音波モータとセンサを用いて振動を検出する振動検出器とを備えた装置であって,超音波モータと振動検出器とを備えた装置」

の点で一致し,以下の点で相違している。

[相違点1]
センサに関し,本件特許発明2が「励振された振動検出素子」であるのに対し,引用発明が「機械的振動センサ」である点。

[相違点2]
センサと超音波モータとの関係について,本件特許発明2が「振動検出素子の共振の半値幅帯域と超音波モータの周波数制御範囲とを別の帯域に設定した」態様に特定しているのに対し,引用発明は特段の特定をしていない点。

上記相違点について以下検討する。

・[相違点1]について

まず,引用発明と同じぶれを検出するカメラの技術分野において,そのセンサとして励振された振動子を用いた圧電振動ジャイロを利用することは甲第5号証,甲第6号証及び甲第7号証に記載されたカメラのブレ検出に係る技術的事項(「甲第5号証記載技術」,「甲第6号証記載技術」及び「甲第7号証記載技術」参照)及び振動ジャイロには圧電素子が慣用されることからして,本件特許の出願前の周知技術であると認められる。
ところで,本件特許発明2の「励振された振動検出素子」は本件特許明細書(甲第1号証)の
「【0021】図4は,本実施例の装置に用いられる振動検出素子を示す斜視図である。振動検出素子8は,圧電振動ジャイロ型と呼ばれるものであり,励振用圧電素子8aが三角柱8cを励振させ,検出用圧電素子8bにより,コリオリの力を利用して,被検出物の変動を検出するものである。振動検出素子8の詳しい構造は,「日経エレクトロニクス 1990.11.26 P.183?191」に記載されているので,説明は省略する。なお,本発明において対象にしている振動検出素子の形式は,この例のような圧電振動ジャイロ型に限定されるものではない。」
との記載からして,その具体的態様として「圧電振動ジャイロ型」を含むから,圧電振動ジャイロを利用する上記周知技術は本件特許発明2の上記[相違点1]に係るセンサに相当するというべきである。
そして,甲第23号証には,超音波モータと励振された振動検出素子を用いて振動を検出する振動検出器とが実際に組合わされた発明(「甲第23号証記載発明」参照)が開示されていることからすれば,引用発明において,上記[相違点1]に係る本件特許発明2の構成とするべく,上記周知技術を組合わせることに困難性があるとは言い難い。
そうすると,上記[相違点1]に係る本件特許発明2の構成は,引用発明にカメラのぶれを検出するカメラのセンサとして励振された振動子を用いた圧電振動ジャイロを利用するとの上記周知技術を組み合わせることにより,当業者が容易に想到し得たものである。

・[相違点2]について

まず,甲第18号証記載課題,甲第19号証記載課題及び甲第20号証記載課題からすると,励振周波数に近い周波数成分を含む外乱振動が加わると,振動ジャイロは誤出力することは,本件特許の出願前周知の技術的事項といえる。そして,物体の固有振動数と同じ振動が外部から与えられると共振を起こし,固有振動数と大きく異なる振動が与えられた場合は,振動の振幅が大きくならないことは,甲第8号証記載技術及び甲第9号証記載技術のように共振に係る技術常識であるから,効率よく励振するためには,振動ジャイロの振動検出素子の共振の周波数(固有振動数)とその励振周波数とは概ね一致するものといえる(平成24年4月24日付け第1回口頭審理調書参照)。そうすると,結局,振動ジャイロの振動検出素子の共振周波数に近い周波数成分を含む外乱振動が加わると,振動ジャイロは誤出力することは,本件特許の出願時の振動ジャイロの共振周波数に関する技術常識と認められる。
そして,甲第10号証記載発明は,共振周波数を24.0kHzとする正3角形音片型振動子を備えたカメラ用の角速度を検出する振動ジャイロであって,その共振周波数を,非可聴周波数域及び応答速度を考慮して20kHz以上に設定したものであるから,カメラ用の振動ジャイロの振動子の共振周波数は超音波周波数域とすることが慣用されていたものと認められる。
また,甲第7号証記載課題にあるように,超音波モータは他の機械系に不要な振動を与えることは本件特許の出願前周知の技術的事項であって,その振動の周波数,より詳細には駆動周波数及びそれによって共振される超音波モータの共振周波数は超音波周波数域であるから,結局,超音波モータが与える不要な振動は超音波周波数域といえる。
しかしながら,超音波モータと振動ジャイロとをカメラに同時に搭載する際に,振動検出素子の共振周波数と超音波モータが与える不要な振動の周波数とがともに超音波周波数域であるとしても,それらが重なる蓋然性が高く,重なる場合には振動ジャイロは誤出力してしまうという,それらの振動の周波数に関わる特有の課題が存在することについては,請求人が提示したいずれの証拠にも開示されていないし,当業者が認識し得るものでもない。そうであれば,たとえ共振に係る技術常識を考慮したとしても,上記特有の課題を直接開示した証拠がない以上,それを解決するための手段を採用する動機がない。更に,平成24年4月24日付け第1回口頭審理調書において請求人が認めるとおり,所定の帯域あるいは範囲を含め,超音波モータの共振周波数あるいは駆動周波数を,励振センサーの共振周波数に関係した帯域に関連して設定することが,公知であったことを直接示すものも請求人が提出した証拠にない。
そうすると,上記特有の課題も,それに関わる解決手段も,その解決手段を採用する動機も,いずれも請求人が提出した証拠に開示されていないのであるから,上記[相違点2]に係る本件特許発明2の構成は当業者にとって容易に想到し得たものとすることはできないというべきである。

次に,甲第10号証(574頁)に記載された振動ジャイロは,構造を特段限定しない一般的なカメラ用の加速度センサであり,甲第11号証(【0048】,【0110】)に記載された超音波モータも,構造を特段限定しない一般的なカメラの焦点調整用部材を駆動するためのものであるから,これら甲第10号証記載発明と甲第11号証記載発明とを引用発明に採用することを妨げる理由は見あたらない。
ここで,甲第10号証記載発明の振動ジャイロにおいて,1次の共振周波数が24.0kHzの場合2次のそれは2倍の48.0kHzとすると,甲第11号証記載発明の超音波モータの駆動周波数(周波数制御範囲)35?45kHzは,甲第10号証記載発明の振動ジャイロの1次と2次の共振周波数の間である。さらに,それらの半値幅は,甲第10号証には記載されていなので,甲第14号証記載技術から「半値幅=共振周波数/Q値」で近似的に求めると,エリンバ材は,甲第12号証記載技術及び甲第13号証記載技術からして,Q値が5000以上であり,仮にQ値が100程度であっても,甲第10号証記載発明のエリンバ材を用いた振動ジャイロの2次共振周波数の半値幅は0.48kHz程度である。そうであれば,引用発明に甲第10号証記載発明の振動ジャイロと,甲第11号証記載発明の超音波モータとを採用したものにおいて,超音波モータの周波数制御範囲が振動ジャイロの1次と2次の共振の半値幅帯域に重ならないものとなり,上記[相違点2]に係る本件特許発明2の構成を満足する。
しかしながら,カメラに採用できる特定の超音波モータと,同じくカメラに採用できる特定の圧電振動ジャイロとが,それぞれ単独で公知であるとしても,すでに検討したように,超音波モータと圧電振動ジャイロとをカメラに同時に搭載する際の特有の課題,解決手段,及びそれを採用する動機のいずれも公知でない以上,特定の両者を選択して組み合わせる動機があったとはいえない。そうすると,どちらも,多種多様のものがある中において個別特定の公知技術の採用が容易に想到し得るものであるとはいえず,その対策を満たすべく,上記[相違点2]に係る本件特許発明2の構成を満足する,甲第10号証記載発明と甲第11号証記載発明とを,単に事後分析的に提示したにすぎないといわれてもやむを得ないと解するのが妥当である。
したがって,引用発明において,上記[相違点2]に係る本件特許発明2の構成とすることは,上記各甲号証に記載されたものに基づいて当業者が容易になし得たものではない。

以上,検討したとおり,本件特許発明2は,請求人の主張する各甲号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,請求人の主張する特許法第29条第2項(同法第123条第1項第1号)に係る無効理由を有しない。

(2)本件特許発明6について
本件特許発明6と引用発明とを対比する。

すでに「(1)本件特許発明2について」の項にて吟味したのと同様にすると,両者は,

「超音波モータとセンサを用いて振動を検出する振動検出器とを備えた装置であって,超音波モータと振動検出器とを備えた装置」

の点で一致し,以下の点で相違している。

[相違点3]
センサに関し,本件特許発明6が「励振された振動検出素子」であるのに対し,引用発明が「機械的振動センサ」である点。

[相違点4]
超音波モータとセンサとの関係について,本件特許発明6が「超音波モータの周波数制御範囲を振動検出素子の1次の共振の半値幅帯域と2次の共振の半値幅帯域との間に設定した」態様に特定しているのに対し,引用発明は特段の特定をしていない点。

上記相違点について以下検討する。

・[相違点3]について

すでに「(1)本件特許発明2について」の「・[相違点1]について」の項にて検討したのと同様である。

・[相違点4]について

上記[相違点4]は,すでに検討した上記[相違点2]に関し,本件特許発明2において「超音波モータの周波数制御範囲を振動検出素子の共振の半値幅帯域と別の帯域に設定した」態様に特定したものを,本件特許発明6において「超音波モータの周波数制御範囲を振動検出素子の1次の共振の半値幅帯域と2次の共振の半値幅帯域との間に設定した」態様に特定したものに相当すると解せるから,「超音波モータの周波数制御範囲」の設定について,本件特許発明2において単に「振動検出素子の共振の半値幅帯域と別の帯域」と特定していたものを,本件特許発明6においては「振動検出素子の1次の共振の半値幅帯域と2次の共振の半値幅帯域との間」とさらに限定して特定したものに相当すると解せる。したがって,すでに「(1)本件特許発明2について」の「・[相違点2]について」の項にて検討したことからすれば,上記[相違点4]に係る本件特許発明6の構成は,上記各甲号証に記載されたものに基づいて当業者が容易になし得たものではない。

以上のとおりであるから,本件特許発明6は,請求人の主張する各甲号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,請求人の主張する特許法第29条第2項(同法第123条第1項第1号)に係る無効理由を有しない。

(3)本件特許発明7ないし9について
本件特許発明7ないし9は,少なくとも本件特許発明1ないし本件特許発明6のいずれかを引用する形式で特定されたものであり,本件特許発明1ないし本件特許発明6のいずれかが備える構成要件をすべて含み,さらに構成を付加したものである。
そして,上記「2.対比・判断」の「(1)本件特許発明2について」及び「(2)本件特許発明6について」の項にて説示したとおり,本件特許発明2及び本件特許発明6は,請求人の主張する各甲号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,それらを引用する形式で特定される本件特許発明7ないし9も当然に,各甲号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって,本件特許発明7ないし9は,請求人の主張する特許法第29条第2項(同法第123条第1項第1号)に係る無効理由を有しない。

3.まとめ
以上のとおりであるから,請求人の主張する無効理由3及び提出した証拠方法によっては本件特許発明2及び6並びに7ないし9の特許を無効とすることはできない。


第5 むすび

以上のとおりであるから,請求人の主張する無効理由1ないし無効理由3及び提出した証拠方法によっては本件特許発明1ないし9の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2012-06-20 
出願番号 特願平5-281843
審決分類 P 1 113・ 534- Y (H02N)
P 1 113・ 121- Y (H02N)
P 1 113・ 531- Y (H02N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 下原 浩嗣  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 大河原 裕
槙原 進
登録日 2002-01-18 
登録番号 特許第3269223号(P3269223)
発明の名称 超音波モータと振動検出器とを備えた装置  
代理人 小林 武  
代理人 宮前 徹  
代理人 田中 健夫  
代理人 山口 裕司  
代理人 深井 俊至  
代理人 鐘ヶ江 幸男  
代理人 高橋 慶彦  
代理人 小杉 丈夫  
代理人 西村 光治  

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