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審決分類 審判 訂正 特許請求の範囲の実質的変更 訂正する F16D
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する F16D
審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正する F16D
審判 訂正 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 訂正する F16D
管理番号 1282447
審判番号 訂正2013-390071  
総通号数 170 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-02-28 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2013-05-08 
確定日 2013-06-13 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第4263146号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4263146号に係る明細書及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 
理由
第1 手続の経緯

本件訂正審判の請求に係る特許第4263146号(以下、「本件特許」という。)は、平成16年7月28日に出願されたものであり、以後の主な手続は以下のとおりである。

平成19年 5月21日 拒絶理由の通知
平成19年 7月24日 意見書、手続補正書の提出
平成20年 4月10日 拒絶理由の通知
平成20年 6月 5日 意見書、手続補正書の提出
平成21年 1月28日 特許査定
平成21年 2月20日 設定登録
平成25年 5月 8日 本件訂正審判の請求


第2 請求の要旨

本件訂正審判の請求の要旨は、本件特許に係る明細書及び特許請求の範囲を、審判請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであって、その内容は次のとおりである。(下線は、訂正箇所を示すものであり、当審にて付加。)

(1)訂正事項1:
特許請求の範囲の請求項1に「前記パッドガイド溝のディスク半径方向内側の端部に凹部を形成して、」とあるのを「前記耳片のディスク半径方向内側の端部に凹部を形成して、」に訂正する。

(2)訂正事項2:
特許請求の範囲の請求項3に「前記パッドガイド溝のディスク半径方向内側の端部及び前記パッドガイド溝のディスク半径方向内側の端部にそれぞれ凹部を形成して、」とあるのを「前記耳片のディスク半径方向内側の端部及び前記パッドガイド溝のディスク半径方向内側の端部にそれぞれ凹部を形成して、」に訂正する。

(3)訂正事項3:
明細書の段落【0005】において、「本発明の第1」に関して、「前記パッドガイド溝のディスク半径方向内側の端部に凹部を形成して、」とあるのを「前記耳片のディスク半径方向内側の端部に凹部を形成して、」に訂正する。

(4)訂正事項4:
明細書の段落【0005】において、「本発明の第3」に関して、「前記パッドガイド溝のディスク半径方向内側の端部及び前記パッドガイド溝のディスク半径方向内側の端部にそれぞれ凹部を形成して、」とあるのを「前記耳片のディスク半径方向内側の端部及び前記パッドガイド溝のディスク半径方向内側の端部にそれぞれ凹部を形成して、」に訂正する。


第3 当審の判断

上記訂正事項について検討する。

(1)訂正の目的について

訂正前の特許請求項の範囲には、特に、凹部が形成される部位、及び非当接面となる部位に着目すれば、以下のとおり記載されている。
(訂正前の特許請求の範囲)
「 【請求項1】
・・・車両用ディスクブレーキにおいて、前記パッドガイド溝のディスク半径方向内側の端部に凹部を形成して、・・・空隙部を設けて、前記耳片の端面のディスク半径方向内側を非当接面とするとともに、前記端面のディスク半径方向外側を当接面とし、・・・。
【請求項2】
・・・車両用ディスクブレーキにおいて、前記パッドガイド溝のディスク半径方向内側の端部に凹部を形成して、・・・空隙部を設けて、前記パッドガイド溝の奥端壁のディスク半径方向内側の隅部を非当接面とするとともに、前記奥端壁のディスク半径方向外側を当接面とし、・・・。
【請求項3】
・・・車両用ディスクブレーキにおいて、前記パッドガイド溝のディスク半径方向内側の端部及び前記パッドガイド溝のディスク半径方向内側の端部にそれぞれ凹部を形成して、・・・空隙部を設けて、前記耳片の端面のディスク半径方向内側及び前記パッドガイド溝の奥端壁のディスク半径方向内側の隅部をそれぞれ非当接面とするとともに、前記端面のディスク半径方向外側及び前記奥端壁のディスク半径方向外側を当接面とし、・・・。」(下線は、凹部と非接触面とが設けられる部位の対応関係を明確化するため、当審にて追加。)

また、この訂正前の特許請求の範囲は、平成20年6月5日付けの手続補正書により補正されたものであるが、同日付けの意見書の「(3)補正の根拠」には、
「請求項1は、出願当初の請求項2を独立項とし、かつ、・・・及び図1による。
請求項2は、出願当初の請求項3を独立項とし、・・・及び図6による。
請求項3は、出願当初の請求項4を独立項とし、・・・及び図7による。」(第3頁第3?8行参照。)とあり、願書に最初に添付された特許請求の範囲は次のとおり記載されている。

(願書に最初に添付された特許請求の範囲)
「【請求項1】
・・・車両用ディスクブレーキにおいて、前記耳片のディスク半径方向内側の角部と、前記パッドガイド溝のディスク半径方向内側の隅部との間に、空隙部を設けたことを特徴とする車両用ディスクブレーキ。
【請求項2】
前記空隙部は、耳片のディスク半径方向内側の端部に形成された凹部によって設けられることを特徴とする請求項1記載の車両用ディスクブレーキ。
【請求項3】
前記空隙部は、パッドガイド溝のディスク半径方向内側の端部に形成した凹部によって設けられることを特徴とする請求項1記載の車両用ディスクブレーキ。
【請求項4】
前記空隙部は、前記耳片のディスク半径方向内側の端部と前記パッドガイド溝のディスク半径方向内側の端部とにそれぞれ形成した凹部によって設けられることを特徴とする請求項1記載の車両用ディスクブレーキ。」

なお、平成20年6月5日付けの手続補正書より前に提出された平成19年7月24日付けの手続補正書は、願書に最初に添付された特許請求の範囲を補正するものであるが、請求項1の記載のみを補正し、請求項2?4の記載は補正していない。

これらの事項を踏まえて検討すると、凹部が設けられる場所について、訂正前の請求項1及び3には、それぞれ「前記パッドガイド溝のディスク半径方向内側の端部に凹部を形成」及び「前記パッドガイド溝のディスク半径方向内側の端部及び前記パッドガイド溝のディスク半径方向内側の端部にそれぞれ凹部を形成」と記載されているのに対し、上記意見書で請求項1及び3の記載の基礎として挙げられている願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項2及び4には、それぞれ「耳片のディスク半径方向内側の端部に形成された凹部」及び「前記耳片のディスク半径方向内側の端部と前記パッドガイド溝のディスク半径方向内側の端部とにそれぞれ形成した凹部」と記載されており、訂正前の請求項1及び3の記載は、凹部が形成される部位に関して、それぞれ願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項2及び4の記載と整合していない。

また、上記意見書によれば、訂正前の請求項1及び3は、それぞれ図1及び7に対応するものであるが、図1から、耳片13aの端面13bの半径方向内側の端部に凹部が形成される点が見て取れ、図7から、耳片13jの端面の半径方向内側の端部とパッドガイド溝3nの奥端壁の半径方向内側の端部のそれぞれに凹部が形成される点が見て取れ、訂正前の請求項1及び3の記載は、凹部が形成される部位に関して、それぞれ図1及び7の図示内容とも整合していない。

さらに、訂正のない請求項2では、「パッドガイド溝」に「凹部」を形成し、「パッドガイド溝」を「非当接面」とすると記載されており、請求項2の記載に従えば、「凹部」と「非当接面」とは同じ部位に設けられるという対応関係がある。そして、当該対応関係に基づけば、訂正前の請求項1においては、「耳片」を「非当接面」とすると記載されているのであるから、これと同じ部位、すなわち「耳片」に「凹部」を形成すると記載し、同様に、訂正前の請求項3においては、「耳片」及び「パッドガイド溝」の「それぞれ」を「非当接面」とすると記載されているのであるから、これらと同じ部位、すなわち「耳片」及び「パッドガイド溝」の「それぞれ」に「凹部」を形成すると記載することが、請求項2の「凹部」と「非当接面」の対応関係と整合するために必要である。

してみると、上記意見書を含めた本件特許に係る出願の経緯及び特許請求の範囲における記載の整合性からみて、訂正前の請求項1の「前記パッドガイド溝のディスク半径方向内側の端部に凹部を形成して、」との記載、及び請求項3の「前記パッドガイド溝のディスク半径方向内側の端部及び前記パッドガイド溝のディスク半径方向内側の端部にそれぞれ凹部を形成して、」との記載は、それぞれ「前記耳片のディスク半径方向内側の端部に凹部を形成して、」との記載、及び「前記耳片のディスク半径方向内側の端部及び前記パッドガイド溝のディスク半径方向内側の端部にそれぞれ凹部を形成して、」との記載の誤記であると認められる。(下線は、誤記部分を明示するため、当審にて追加。)

したがって、訂正事項1及び2は、特許法第126条第1項第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものである。

また、訂正事項3及び4は、それぞれ訂正事項1及び2と同じように特許明細書の段落【0005】を訂正するものであるから、訂正事項1及び2と同様に、特許法第126条第1項第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものである。

(2)新規事項の追加について

願書に添付した明細書の段落【0014】には、「前記端面13bは、・・・段付き形状に形成し、ディスク半径方向内側を本発明の凹部となる当接面13cとしている」との記載があり、願書に添付した図1からも、耳片13aの端面13bの半径方向内側の端部に凹部が形成される点が見て取れることから、訂正事項1及び3の「前記耳片のディスク半径方向内側の端部に凹部を形成して、」という事項は、願書に添付した明細書及び図面に記載した事項であると認められる。
また、願書に添付した明細書の段落【0021】には、「図7に示す本発明の第3形態例は、耳片13jを第1形態例のような段付き形状とするとともに、パッドガイド溝3nを第2形態例のような段付き形状として、端面とディスク半径方向内側壁3rとにより本発明の凹部を形成するもので、」との記載があり、願書に添付した図7からも、耳片13jの端面13kの半径方向内側の端部とパッドガイド溝3nの奥端壁の半径方向内側の端部のそれぞれに凹部が形成される点が見て取れることから、訂正事項2及び4の「前記耳片のディスク半径方向内側の端部及び前記パッドガイド溝のディスク半径方向内側の端部にそれぞれ凹部を形成して、」という事項は、願書に添付した明細書及び図面に記載した事項であると認められる。

したがって、訂正事項1ないし4は、新規事項を追加するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであるから、特許法第126条第5項に規定する要件に適合する。

(3)特許請求の範囲の拡張・変更について

訂正事項1ないし4は、上記(1)で検討したとおり、特許法第126条第1項第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものである。

そして、訂正事項1は、請求項1において、凹部が形成される場所を「パッドガイド溝」から「耳片」へと訂正するものであるが、上記(1)において述べた請求項2の記載に従った「凹部」と「非当接面」の対応関係に基づけば、訂正前の請求項1に「耳片の端面のディスク半径方向内側を非当接面とする」との記載があるから、凹部が形成される部位も、非当接面とされる部位と同じく「耳片」であるということが訂正前の請求項1でも実質的に特定されていたということができる。

また、訂正事項2は、請求項3において、凹部が形成される場所を「パッドガイド溝」及び「パッドガイド溝」の「それぞれ」から、「耳片」及び「パッドガイド溝」の「それぞれ」へと訂正するものであるが、訂正事項1と同様に、凹部と非当接面との対応関係に基づけば、凹部が形成される部位は非当接面とされる部位と同じく「耳片」及び「パッドガイド溝」の「それぞれ」であるということが訂正前の請求項3でも実質的に特定されていたということができる。

さらに、訂正事項3及び4は、それぞれ訂正事項1及び2と同じように特許明細書の段落【0005】を訂正するものである。

したがって、訂正事項1ないし4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第126条第6項に規定する要件に適合する。

(4)独立特許要件について

訂正事項1ないし4は、上記(1)で検討したとおり、誤記を訂正するものである。
そこで、訂正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される請求項1及び3に係る発明(以下「訂正後発明1及び3」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討するに、訂正後発明1及び3が特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を発見しない。

したがって、訂正後発明1及び3は、いずれも特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるから、訂正事項1ないし4は、特許法第126条第7号に規定する要件に適合する。

第4 まとめ

以上のとおりであるから、本件審判の請求は、特許法第126条第1項第2号に掲げる誤記の訂正を目的とし、かつ、同条第5項ないし第7項の規定に適合する。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
車両用ディスクブレーキ
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や自動二輪車等の車両に用いられる車両用ディスクブレーキに係り、詳しくは、摩擦パッドの裏板両側部に突設した耳片と、該耳片を支承するとともに、該耳片より制動トルクを受けるパッドガイド溝の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、キャリパブラケット又はキャリパボディのいずれかに設けたパッドガイド溝に、裏板両側部に突設した耳片をディスク軸方向に移動可能に支承する車両用ディスクブレーキでは、コ字状に形成されたパッドガイド溝に、略矩形に形成された耳片が嵌合され、パッドガイド溝の内壁と耳片の外側面とは、パッドリテーナを介して略隙間なく当接するようになっている。この摩擦パッドは、制動時にディスクロータとの摺接によって発生した制動トルクによって、ディスクロータの回転方向に引きずられ、ディスク回出側の耳片の端面がパッドガイド溝の奥端壁に押圧され、該奥端壁より制動トルクがキャリパブラケットか或いはキャリパボディに伝達されていく(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11-63041号公報(第3頁、図4、図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、摩擦パッドにかかる制動トルクは、ディスクロータの回転方向に向かうため、上述の摩擦パッドでは、制動トルクが耳片のディスク半径方向内側の角部から、該角部が当接するパッドガイド溝奥端壁のディスク半径方向内側の隅部に集中してキャリパブラケットに伝達され、これが偏荷重となって摩擦パッドが振動し、ブレーキ鳴きを発生させることがあった。
【0004】
そこで本発明は、制動トルクが、耳片の前記角部を介してパッドガイド溝奥端壁の前記隅部に集中することを防止し、制動トルクを、キャリパブラケット又はキャリパボディのいずれかに形成したパッドガイド溝の奥端壁の広い範囲で受けることにより、摩擦パッドを安定して作動させブレーキ鳴きの発生を極力防止させることのできる車両用ディスクブレーキを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するため、ディスク軸方向に延びるパッドガイド溝を、ディスク半径方向外側壁とディスク半径方向内側壁とこれら両壁を結ぶ奥端壁とを有したコ字状に形成して、キャリパブラケット又はキャリパボディのいずれかに互いに向き合わせて設け、ディスクロータを挟んで配設する摩擦パッドの裏板両側部に、前記奥端壁と当接するディスク回出・回入側の端面と前記ディスク半径方向外側壁に当接するディスク半径方向外側面と前記ディスク半径方向内側壁に当接するディスク半径方向内側面とを有する耳片をそれぞれ突設し、該耳片を前記パッドガイド溝に嵌合することにより、前記耳片の端面とディスク半径方向外側面とディスク半径方向内側面とが、前記パッドガイド溝の奥端壁とディスク半径方向外側壁とディスク半径方向内側壁とに案内されて、前記摩擦パッドを前記パッドガイド溝にディスク軸方向へ移動可能に支承するとともに、前記摩擦パッドをディスク軸方向に前記パッドガイド溝に移動可能に支承するとともに、制動トルクを前記耳片の端面から前記パッドガイド溝の奥端壁を介してキャリパブラケット又はキャリパボディのいずれかで受ける車両用ディスクブレーキにおいて、本発明の第1は、前記耳片のディスク半径方向内側の端部に凹部を形成して、前記パッドガイド溝のディスク半径方向内側の隅部と前記耳片のディスク半径方向内側の角部との間に空隙部を設けて、前記耳片の端面のディスク半径方向内側を非当接面とするとともに、前記端面のディスク半径方向外側を当接面とし、前記パッドガイド溝のディスク半径方向外側壁、奥端壁及びディスク半径方向内側壁に沿って弾性金属材を折曲して形成したパッドリテーナを配設して、前記耳片のディスク半径方向外側面、端面の当接面及びディスク半径方向内側面との間に前記パッドリテーナを介在したことを特徴とし、第2は、前記パッドガイド溝のディスク半径方向内側の端部に凹部を形成して、前記パッドガイド溝のディスク半径方向内側の隅部と前記耳片のディスク半径方向内側の角部との間に空隙部を設けて、前記パッドガイド溝の奥端壁のディスク半径方向内側の隅部を非当接面とするとともに、前記奥端壁のディスク半径方向外側を当接面とし、前記パッドガイド溝のディスク半径方向外側壁、奥端壁の当接面及び非当接面並びにディスク半径方向内側壁に沿って弾性金属材を折曲して形成したパッドリテーナを配設して、前記耳片のディスク半径方向外側面、端面の奥端壁当接面との当接面及びディスク半径方向内側面との間に前記パッドリテーナを介在したことを特徴とし、第3は、前記耳片のディスク半径方向内側の端部及び前記パッドガイド溝のディスク半径方向内側の端部にそれぞれ凹部を形成して、前記パッドガイド溝のディスク半径方向内側の隅部と前記耳片のディスク半径方向内側の角部との間に空隙部を設けて、前記耳片の端面のディスク半径方向内側及び前記パッドガイド溝の奥端壁のディスク半径方向内側の隅部をそれぞれ非当接面とするとともに、前記端面のディスク半径方向外側及び前記奥端壁のディスク半径方向外側を当接面とし、前記パッドガイド溝のディスク半径方向外側壁、奥端壁の当接面及び非当接面並びにディスク半径方向内側壁に沿って弾性金属材を折曲して形成したパッドリテーナを配設して、前記耳片のディスク半径方向外側面、端面の奥端壁当接面との当接面及びディスク半径方向内側面との間に前記パッドリテーナを介在したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、摩擦パッドの裏板に突設した耳片のディスク回入・回出側端面を介して、パッドガイド溝の奥端壁の広い部分で制動トルクを受けることができるようになり、制動時に摩擦パッドが振動することを防止し、ブレーキ鳴きの発生を極力防止させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明をピンスライド型のディスクブレーキに適用した第1形態例を図1乃至図5に基づいて説明する。なお、図中の矢印Aは、車両前進走行時のディスクロータの回転方向を示し、以下の説明で用いるディスク回入側及びディスク回出側は、車両前進走行時の場合とする。
【0008】
ディスクブレーキ1は、矢印A方向に回転するディスクロータ2の一側面に、車体に固設されるキャリパブラケット3が配設され、該キャリパブラケット3からディスクロータ2の外側をディスク軸方向と平行に延びる一対のキャリパ支持腕3a,3aに、キャリパボディ4が一対の摺動ピン5,5を介してディスク軸方向へ移動可能に支持されている。
【0009】
キャリパボディ4は、ディスクロータ2の一側面に配置される作用部4aと、ディスクロータ2の他側面に配置される反作用部4bとを、ディスクロータ2の外縁を跨ぐブリッジ部4cで連結したもので、作用部4aには、シリンダ孔4d,4dがディスクロータ2側を開口して設けられる。該シリンダ孔4d,4dにはピストン6,6が液密且つ移動可能に内挿され、該ピストン6,6は、シリンダ孔4d,4dの底部に画成される液圧室7,7に供給される圧液によってディスクロータ2方向へ移動する。また、作用部4aの側部には、車体取り付け腕4e,4eが突設されており、各車体取り付け腕4eの先端には、それぞれ上述の摺動ピン5が、取り付けボルト8にて突設されている。
【0010】
キャリパ支持腕3a,3aは、キャリパブラケット3の両側部から、ブリッジ部4cの両側を挟みながらディスクロータ2の外縁をディスク軸方向に跨ぎ、更にディスクロータ2の他側部で、反作用部4bの側壁に沿ってディスク中心方向へ延びる形状となっている。また、キャリパ支持腕3a,3aの先端部は、タイロッド3bにて連結されていて、制動トルクのかかる両支持腕3a,3aの剛性力を高めている。
【0011】
両キャリパ支持腕3aには、上述の摺動ピン5を収容するガイド孔9が穿設されている。双方のキャリパ支持腕3a,3aには、ディスクロータ2のそれぞれの側部で互いに向き合う4つのパッドガイド溝3cが設けられている。各パッドガイド溝3cは、ディスク半径方向外側壁3dとディスク半径方向内側壁3eと両壁3d,3eを結ぶ奥端壁3fとを有したコ字状に形成されている。該パッドガイド溝3c,3cには、薄い弾性金属材を折曲して形成したパッドリテーナ10が敷設される。
【0012】
ピストン6とディスクロータ2の一側面との間及びディスクロータ2の他面側と反作用部4bの反力爪4fとの間には、一対の摩擦パッド11,11が対向配置される。各摩擦パッド11は、ディスクロータ2と摺接されるライニング12を金属製の裏板13に接合したもので、裏板13の背面にはシム板14が装着されている。
【0013】
裏板13の両側部には、前記パッドガイド溝3c、3cに嵌合して各摩擦パッド11,11をディスク軸方向に移動可能に支承する耳片13a,13aが突設されている。各耳片13aは、パッドガイド溝3cの奥端壁3fと当接するディスク回出・回入側の端面13bと、ディスク半径方向外側壁3dに当接するディスク半径方向外側面13dと、ディスク半径方向内側壁3eに当接するディスク半径方向内側面13eとを有している。これら各面13b,13d,13eと各壁3f,3d,3eとの間にはパッドリテーナ10が介在されている。
【0014】
前記端面13bは、ディスク半径方向内側の突出長さを、ディスク半径方向外側の突出長さよりも短くして段付き形状に形成し、ディスク半径方向内側を本発明の凹部となる非当接面13cとしている。これにより、耳片13aのディスク半径方向内側の角部13fと奥端壁3fのディスク半径方向内側の隅部3gとの間に空隙部Eが設けられる。
【0015】
上述のように形成された本形態例は、制動操作によって、昇圧した作動液が液圧室7に供給されると、ピストン6,6がシリンダ孔4d,4dを前進して、作用部4a側の摩擦パッド11を、ディスクロータ2の一側面に押圧し、この押圧の反力によって、キャリパボディ4が摺動ピン5,5に案内されながら、作用部4a方向へ移動し、反力爪4fが反作用部4b側の摩擦パッド11を、ディスクロータ2の他側面へ押圧する。
【0016】
制動時に各摩擦パッド11の耳片13a,13aは、パッドリテーナ10に案内されながら、パッドガイド溝3c,3c内を円滑に移動し、摩擦パッド11のライニング12をディスクロータ2の側面に摺接させる。また、この摺接によって発生した制動トルクによって、各摩擦パッド11は矢印A方向に引きずられ、ディスク回出側の耳片13aの、ディスク回出側の端面13bがパッドガイド溝3cの奥端壁3fに押圧されて、該奥端壁3fより制動トルクがキャリパブラケット3のキャリパ支持腕3aに伝達されていく。
【0017】
このとき、耳片13aのディスク半径方向内側の角部13fと奥端壁3fのディスク半径方向内側の隅部3gとは、空隙部Eにより非当接状態となるため、従来のように、制動トルクが前記隅部3gに集中してかかることを防止できる。これに伴い、制動トルクは、耳片13aのディスク回出側の端面13bと当接するパッドガイド溝3cの奥端壁3fに広くかかるようになり、偏荷重による摩擦パッドの振動を抑制することができ、ブレーキ鳴きの発生を極力抑制することができる。
【0018】
図6は、本発明の第2形態例を、図7は本発明の第3形態例をそれぞれ示すもので、第1形態例と同一部分には同一の符号を付しその詳細な説明は省略する。
【0019】
図6に示す本発明の第2形態例では、パッドガイド溝3hの奥端壁3iのディスク半径方向内側を、ブラケット外方に向けて凹ませた段付き形状に形成したもので、奥端壁3iは、ディスク半径方向外側壁3jよりもディスク半径方向内側壁3kがブラケット外方に配設され、このディスク半径方向内側壁3kが本発明の凹部となる。また、パッドガイド溝3hに敷設されるパッドリテーナ15は、ディスク半径方向内側壁3kに沿って屈曲部15aが形成されている。
【0020】
摩擦パッド11の裏板13に突設される耳片13gは、従来と同様に略矩形に形成され、耳片13gをパッドガイド溝3hに嵌合させると、奥端壁3iのディスク半径方向外側壁3jと耳片13gのディスク回入・回出側の端面13hとが当接し、奥端壁3iのディスク半径方向内側壁3kと端面13hとの間に空隙部Eが形成される。これによって、耳片13gのディスク半径方向内側の角部13iとパッドガイド溝3hのディスク半径方向内側の隅部3mとが非当接状態となる。
【0021】
図7に示す本発明の第3形態例は、耳片13jを第1形態例のような段付き形状とするとともに、パッドガイド溝3nを第2形態例のような段付き形状として、端面13kとディスク半径方向内側壁3rとにより本発明の凹部を形成するもので、耳片13jのディスク半径方向外側の端面13mと、パッドガイド溝3nのディスク半径方向外側壁3pとが当接し、耳片13jのディスク半径方向内側の端面13kとパッドガイド溝3nのディスク半径方向内側壁3rとの間に空隙部Eが形成される。これにより、耳片13jのディスク半径方向内側の角部13nとパッドガイド溝3nのディスク半径方向内側の隅部3qとが非当接状態となる。また、本形態例のパッドリテーナ16も第2形態例と同様に、パッドガイド溝3nのディスク半径方向内側壁3pに沿って屈曲部16aが形成されている。
【0022】
上記第2,第3実施形態例も第1形態例同様に、空隙部Eの存在によって、制動トルクが、パッドガイド溝のディスク半径方向内側の隅部に集中せず、偏荷重による摩擦パッドの振動を抑制することができる。
【0024】
また、本発明は、上述の各形態例のように、耳片やパッドガイド溝を段付き形状にして凹部を形成するものに限らず、耳片のディスク半径方向内側の端部を斜めに傾斜させたり、耳片のディスク半径方向内側の端部を大きな円弧状に形成して凹部を形成するもの等、耳片のディスク半径方向内側の角部と、パッドガイド溝の奥端壁ディスク半径方向内側の隅部との間に空隙部が形成されるものなら、どのような形状のものでも差し支えない。さらに、本発明は、上述の形態例のようにピンスライド型のディスクブレーキに適用されるもの限らず、キャリパボディにパッドガイド溝を備えた対向型のディスクブレーキにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1形態例を示すディスクブレーキの要部断面図である。
【図2】本発明の第1形態例を示すディスクブレーキの一部断面背面図である。
【図3】本発明の第1形態例を示すディスクブレーキの平面図である。
【図4】図5のIV-IV断面図である。
【図5】本発明の第1形態例を示すディスクブレーキの正面図である。
【図6】本発明の第2形態例を示すディスクブレーキの要部断面図である。
【図7】本発明の第3形態例を示すディスクブレーキの要部断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1…ディスクブレーキ、2…ディスクロータ、3…キャリパブラケット、3a…キャリパ支持腕、3c,3h,3n…パッドガイド溝、3f…奥端壁、3g,3m,3q…隅部、4…キャリパボディ、4a…作用部、4b…反作用部、4c…ブリッジ部、4d…シリンダ孔、4e…車体取り付け腕、5…摺動ピン、6…ピストン、7…液圧室、11…摩擦パッド、12…ライニング、13…裏板、13a,13g,13n…耳片、13b,13h,13m…ディスク回入・回出側の端面、13c,13k…ディスク半径方向内側の端面、13f,13i,13n…角部、E…空隙部
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスク軸方向に延びるパッドガイド溝を、ディスク半径方向外側壁とディスク半径方向内側壁とこれら両壁を結ぶ奥端壁とを有したコ字状に形成して、キャリパブラケット又はキャリパボディのいずれかに互いに向き合わせて設け、ディスクロータを挟んで配設する摩擦パッドの裏板両側部に、前記奥端壁と当接するディスク回出・回入側の端面と前記ディスク半径方向外側壁に当接するディスク半径方向外側面と前記ディスク半径方向内側壁に当接するディスク半径方向内側面とを有する耳片をそれぞれ突設し、該耳片を前記パッドガイド溝に嵌合することにより、前記耳片の端面とディスク半径方向外側面とディスク半径方向内側面とが、前記パッドガイド溝の奥端壁とディスク半径方向外側壁とディスク半径方向内側壁とに案内されて、前記摩擦パッドを前記パッドガイド溝にディスク軸方向へ移動可能に支承するとともに、制動トルクを前記耳片の端面から前記パッドガイド溝の奥端壁を介してキャリパブラケット又はキャリパボディのいずれかで受ける車両用ディスクブレーキにおいて、前記耳片のディスク半径方向内側の端部に凹部を形成して、前記パッドガイド溝のディスク半径方向内側の隅部と前記耳片のディスク半径方向内側の角部との間に空隙部を設けて、前記耳片の端面のディスク半径方向内側を非当接面とするとともに、前記端面のディスク半径方向外側を当接面とし、前記パッドガイド溝のディスク半径方向外側壁、奥端壁及びディスク半径方向内側壁に沿って弾性金属材を折曲して形成したパッドリテーナを配設して、前記耳片のディスク半径方向外側面、端面の当接面及びディスク半径方向内側面との間に前記パッドリテーナを介在したことを特徴とする車両用ディスクブレーキ。
【請求項2】
ディスク軸方向に延びるパッドガイド溝を、ディスク半径方向外側壁とディスク半径方向内側壁とこれら両壁を結ぶ奥端壁とを有したコ字状に形成して、キャリパブラケット又はキャリパボディのいずれかに互いに向き合わせて設け、ディスクロータを挟んで配設する摩擦パッドの裏板両側部に、前記奥端壁と当接するディスク回出・回入側の端面と前記ディスク半径方向外側壁に当接するディスク半径方向外側面と前記ディスク半径方向内側壁に当接するディスク半径方向内側面とを有する耳片をそれぞれ突設し、該耳片を前記パッドガイド溝に嵌合することにより、前記耳片の端面とディスク半径方向外側面とディスク半径方向内側面とが、前記パッドガイド溝の奥端壁とディスク半径方向外側壁とディスク半径方向内側壁とに案内されて、前記摩擦パッドを前記パッドガイド溝にディスク軸方向へ移動可能に支承するとともに、制動トルクを前記耳片の端面から前記パッドガイド溝の奥端壁を介してキャリパブラケット又はキャリパボディのいずれかで受ける車両用ディスクブレーキにおいて、前記パッドガイド溝のディスク半径方向内側の端部に凹部を形成して、前記パッドガイド溝のディスク半径方向内側の隅部と前記耳片のディスク半径方向内側の角部との間に空隙部を設けて、前記パッドガイド溝の奥端壁のディスク半径方向内側の隅部を非当接面とするとともに、前記奥端壁のディスク半径方向外側を当接面とし、前記パッドガイド溝のディスク半径方向外側壁、奥端壁の当接面及び非当接面並びにディスク半径方向内側壁に沿って弾性金属材を折曲して形成したパッドリテーナを配設して、前記耳片のディスク半径方向外側面、端面の奥端壁当接面との当接面及びディスク半径方向内側面との間に前記パッドリテーナを介在したことを特徴とする車両用ディスクブレーキ。
【請求項3】
ディスク軸方向に延びるパッドガイド溝を、ディスク半径方向外側壁とディスク半径方向内側壁とこれら両壁を結ぶ奥端壁とを有したコ字状に形成して、キャリパブラケット又はキャリパボディのいずれかに互いに向き合わせて設け、ディスクロータを挟んで配設する摩擦パッドの裏板両側部に、前記奥端壁と当接するディスク回出・回入側の端面と前記ディスク半径方向外側壁に当接するディスク半径方向外側面と前記ディスク半径方向内側壁に当接するディスク半径方向内側面とを有する耳片をそれぞれ突設し、該耳片を前記パッドガイド溝に嵌合することにより、前記耳片の端面とディスク半径方向外側面とディスク半径方向内側面とが、前記パッドガイド溝の奥端壁とディスク半径方向外側壁とディスク半径方向内側壁とに案内されて、前記摩擦パッドを前記パッドガイド溝にディスク軸方向へ移動可能に支承するとともに、制動トルクを前記耳片の端面から前記パッドガイド溝の奥端壁を介してキャリパブラケット又はキャリパボディのいずれかで受ける車両用ディスクブレーキにおいて、前記耳片のディスク半径方向内側の端部及び前記パッドガイド溝のディスク半径方向内側の端部にそれぞれ凹部を形成して、前記パッドガイド溝のディスク半径方向内側の隅部と前記耳片のディスク半径方向内側の角部との間に空隙部を設けて、前記耳片の端面のディスク半径方向内側及び前記パッドガイド溝の奥端壁のディスク半径方向内側の隅部をそれぞれ非当接面とするとともに、前記端面のディスク半径方向外側及び前記奥端壁のディスク半径方向外側を当接面とし、前記パッドガイド溝のディスク半径方向外側壁、奥端壁の当接面及び非当接面並びにディスク半径方向内側壁に沿って弾性金属材を折曲して形成したパッドリテーナを配設して、前記耳片のディスク半径方向外側面、端面の奥端壁当接面との当接面及びディスク半径方向内側面との間に前記パッドリテーナを介在したことを特徴とする車両用ディスクブレーキ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2013-06-04 
出願番号 特願2004-220329(P2004-220329)
審決分類 P 1 41・ 855- Y (F16D)
P 1 41・ 856- Y (F16D)
P 1 41・ 852- Y (F16D)
P 1 41・ 854- Y (F16D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 竹村 秀康  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 森川 元嗣
中屋 裕一郎
登録日 2009-02-20 
登録番号 特許第4263146号(P4263146)
発明の名称 車両用ディスクブレーキ  
代理人 木戸 一彦  
代理人 木戸 良彦  
代理人 木戸 良彦  
代理人 木戸 一彦  
代理人 木戸 一彦  
代理人 木戸 良彦  

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