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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1282617
審判番号 不服2012-15520  
総通号数 170 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-08-09 
確定日 2013-12-19 
事件の表示 特願2005-256651「翻訳装置、翻訳方法および翻訳プログラム、媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 3月22日出願公開、特開2007- 72594〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本件審判請求に係る出願(以下、「本願」という。)は、平成17年9月5日の出願であって、平成20年9月5日付けで審査請求がなされ、平成23年8月24日付けで拒絶理由通知(同年9月6日発送)がなされ、同年11月1日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされたが、平成24年5月22日付けで拒絶査定(同年5月29日謄本送達)がなされたものである。
これに対して、「原査定を取り消す。本願の発明は特許をすべきものであるとの審決を求める。」ことを請求の趣旨として、平成24年8月9日付けで審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。
そして、平成24年9月4日付けで審査官により特許法第164条第3項に定める報告(前置報告)がなされ、平成25年4月15日付けで当審により特許法第134条第4項の規定に基づく審尋(同年4月16日発送)がなされ、同年5月28日付けで回答書の提出があったものである。


第2 平成24年8月9日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成24年8月9日付けの手続補正を却下する。

[理由]

1.補正の内容

平成24年8月9日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)の内容は、平成23年11月1日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし請求項6の記載

「 【請求項1】
第1言語例文と、前記第1言語例文に対応する第2言語例文と、前記第1言語例文の語句と第2言語例文の語句の対応関係情報を1組とする対訳例文情報を複数組記憶する対訳例文データベースを備える記憶部と、
少なくとも翻訳すべき第1言語の原文を入力させる入力部と、
前記原文に対応する第1言語例文を、前記対訳例文データベースから検索する対訳例文検索部と、
前記原文の語句と、前記検索された第1言語例文の語句を対応付ける語句対応付け部と、
前記語句対応付け部により原文と検索された第1言語例文が一致する場合は、その第2言語例文を使用し、一致しない場合は、原文に最も類似する第1言語例文である類似対訳を検索し、原文の各語句と類似対訳の各語句を対応付けて対応付けのできない語句を特定し、その特定された語句を原文の語句に置換し、更に置換した語句について第2言語を検索してその第2言語の語句を第2言語例文の語句にあてはめて作成した第2言語合成文を使用し、前記原文の語句に、前記対訳例文データベースに記憶されている第1言語例文の語句と第2言語例文の語句の対応関係情報に基づいて、前記第2言語例文または第2言語合成文の語句を訳振りする訳振り部と、
前記原文と、前記訳振り部の訳振りに従い原文の語句に前記第2言語例文または第2言語合成文の語句を対応付けて出力する出力部と
を備えることを特徴とする翻訳装置。
【請求項2】
第2言語の訳振りレベルを記憶する第2言語訳振りレベルデータベースと、訳振りレベル変更部を更に備え、
前記訳振り部は、前記訳振りレベル変更部により指示された訳振りレベルに従い、前記原文の語句に、前記第2言語訳振りレベルデータベースに記憶された訳振りレベルにより、前記第2言語例文の語句を訳振りするか否か判定する訳振り制御部を備えることを特徴とする請求項1に記載の翻訳装置。
【請求項3】
第1言語の訳振りレベルを記憶する第1言語訳振りレベルデータベースと、訳振りレベル変更部を更に備え、
前記訳振り部は、前記訳振りレベル変更部により指示された訳振りレベルに従い、前記第2言語例文の語句に、第1言語訳振りレベルデータベースに記憶された訳振りレベルにより、前記第1言語例文の語句を訳振りするか否か判定する訳振り制御部を備えることを特徴とする請求項1に記載の翻訳装置。
【請求項4】
少なくとも翻訳すべき第1言語の原文を入力させるステップと、
前記原文に対応する第1言語例文を、第1言語例文とこの第1言語例文に対応する第2言語例文を複数記憶する対訳例文データベースから検索するステップと、
前記原文の語句と、前記検索された第1言語例文の語句を対応付ける語句対応付けステップと、
前記語句対応付けステップにより原文と検索された第1言語例文が一致する場合は、その第2言語例文を使用し、一致しない場合は、原文に最も類似する第1言語例文である類似対訳を検索し、原文の各語句と類似対訳の各語句を対応付けて対応付けのできない語句を特定し、その特定された語句を原文の語句に置換し、更に置換した語句について第2言語を検索してその第2言語の語句を第2言語例文の語句にあてはめて作成した第2言語合成文を使用し、前記原文の語句に、第1言語例文の語句と第2言語例文の語句の対応関係情報に基づいて、前記第2言語例文または第2言語合成文の語句を訳振りする訳振りステップと、
前記原文と、前記訳振りされた前記第2言語例文または第2言語合成文の語句を原文の語句に対応付けて表示するステップと
をコンピュータによって実行する翻訳方法。
【請求項5】
翻訳すべき第1言語の原文を入力させるステップと、
前記原文に対応する第1言語例文を、第1言語例文とこの第1言語例文に対応する第2言語例文を複数記憶する対訳例文データベースから検索するステップと、
前記原文の語句と、前記検索された第1言語例文の語句を対応付ける語句対応付けステップと、
前記語句対応付けステップにより原文と検索された第1言語例文が一致する場合は、その第2言語例文を使用し、一致しない場合は、原文に最も類似する第1言語例文である類似対訳を検索し、原文の各語句と類似対訳の各語句を対応付けて対応付けのできない語句を特定し、その特定された語句を原文の語句に置換し、更に置換した語句について第2言語を検索してその第2言語の語句を第2言語例文の語句にあてはめて作成した第2言語合成文を使用し、前記原文の語句に、第1言語例文の語句と第2言語例文の語句の対応関係情報に基づいて、前記第2言語例文または第2言語合成文の語句を訳振りする訳振りステップと、
前記原文と、前記訳振りされた前記第2言語例文または第2言語合成文の語句を原文の語句に対応付けて表示するステップと
をコンピュータに実行させるための翻訳プログラム。
【請求項6】
請求項5に記載の翻訳プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。」(以下、この特許請求の範囲に記載された請求項各項を「補正前の請求項」という。)

を、

「 【請求項1】
第1言語例文と、前記第1言語例文に対応する第2言語例文と、前記第1言語例文の語句と第2言語例文の語句の対応関係情報を1組とする対訳例文情報を複数組記憶する対訳例文データベースを備える記憶部と、
少なくとも翻訳すべき第1言語の原文を入力させる入力部と、
前記原文に対応する第1言語例文を、前記対訳例文データベースから検索する対訳例文検索部と、
前記原文の語句と、前記検索された第1言語例文の語句を前記第1言語例文の語句と第2言語例文の語句の対応関係情報を1組とする対訳例文情報に基づいて対応付ける語句対応付け部と、
前記語句対応付け部により原文の各語句と検索された第1言語例文の語句の対応付けができる場合は、その第2言語例文を使用し、原文の各語句と検索された第1言語例文の語句の対応付けができない場合は、原文に最も類似する第1言語例文である類似対訳を検索し、原文の各語句と類似対訳の各語句を対応付けて対応付けのできない語句を特定し、その特定された語句を原文の語句に置換し、更に置換した語句について第2言語を検索してその第2言語の語句を第2言語例文の語句にあてはめて作成した第2言語合成文を使用し、前記原文の語句に、前記第1言語例文の語句と第2言語例文の語句の対応関係情報に基づいて、前記第2言語例文または第2言語合成文の語句を訳振りする訳振り部と、
前記原文と、前記訳振り部の訳振りに従い原文の語句に前記第2言語例文または第2言語合成文の語句を対応付けて出力する出力部と
を備えることを特徴とする翻訳装置。
【請求項2】
第2言語の訳振りレベルを記憶する第2言語訳振りレベルデータベースと、訳振りレベル変更部を更に備え、
前記訳振り部は、前記訳振りレベル変更部により指示された訳振りレベルに従い、前記原文の語句に、前記第2言語訳振りレベルデータベースに記憶された訳振りレベルにより、前記第2言語例文の語句を訳振りするか否か判定する訳振り制御部を備えることを特徴とする請求項1に記載の翻訳装置。
【請求項3】
第1言語の訳振りレベルを記憶する第1言語訳振りレベルデータベースと、訳振りレベル変更部を更に備え、
前記訳振り部は、前記訳振りレベル変更部により指示された訳振りレベルに従い、前記第2言語例文の語句に、第1言語訳振りレベルデータベースに記憶された訳振りレベルにより、前記第1言語例文の語句を訳振りするか否か判定する訳振り制御部を備えることを特徴とする請求項1に記載の翻訳装置。
【請求項4】
少なくとも翻訳すべき第1言語の原文を入力させるステップと、
前記原文に対応する第1言語例文を、第1言語例文とこの第1言語例文に対応する第2言語例文を複数記憶する対訳例文データベースから検索するステップと、
前記原文の語句と、前記検索された第1言語例文の語句を前記第1言語例文の語句と第2言語例文の語句の対応関係情報を1組とする対訳例文情報に基づいて対応付ける語句対応付けステップと、
前記語句対応付けステップにより原文の各語句と検索された第1言語例文の語句の対応付けができる場合は、その第2言語例文を使用し、原文の各語句と検索された第1言語例文の語句の対応付けができない場合は、原文に最も類似する第1言語例文である類似対訳を検索し、原文の各語句と類似対訳の各語句を対応付けて対応付けのできない語句を特定し、その特定された語句を原文の語句に置換し、更に置換した語句について第2言語を検索してその第2言語の語句を第2言語例文の語句にあてはめて作成した第2言語合成文を使用し、前記原文の語句に、第1言語例文の語句と第2言語例文の語句の対応関係情報に基づいて、前記第2言語例文または第2言語合成文の語句を訳振りする訳振りステップと、
前記原文と、前記訳振りされた前記第2言語例文または第2言語合成文の語句を原文の語句に対応付けて表示するステップと
をコンピュータによって実行する翻訳方法。
【請求項5】
翻訳すべき第1言語の原文を入力させるステップと、
前記原文に対応する第1言語例文を、第1言語例文とこの第1言語例文に対応する第2言語例文を複数記憶する対訳例文データベースから検索するステップと、
前記原文の語句と、前記検索された第1言語例文の語句を前記第1言語例文の語句と第2言語例文の語句の対応関係情報を1組とする対訳例文情報に基づいて対応付ける語句対応付けステップと、
前記語句対応付けステップにより原文の各語句と検索された第1言語例文の語句の対応付けができる場合は、その第2言語例文を使用し、原文の各語句と検索された第1言語例文の語句の対応付けができない場合は、前記語句対応付けステップにより原文と検索された第1言語例文の対応付けが一致する場合は、その第2言語例文を使用し、一致しない場合は、原文に最も類似する第1言語例文である類似対訳を検索し、原文の各語句と類似対訳の各語句を対応付けて対応付けのできない語句を特定し、その特定された語句を原文の語句に置換し、更に置換した語句について第2言語を検索してその第2言語の語句を第2言語例文の語句にあてはめて作成した第2言語合成文を使用し、前記原文の語句に、第1言語例文の語句と第2言語例文の語句の対応関係情報に基づいて、前記第2言語例文または第2言語合成文の語句を訳振りする訳振りステップと、
前記原文と、前記訳振りされた前記第2言語例文または第2言語合成文の語句を原文の語句に対応付けて表示するステップと
をコンピュータに実行させるための翻訳プログラム。
【請求項6】
請求項5に記載の翻訳プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。」(以下、この特許請求の範囲に記載された請求項各項を「補正後の請求項」という。)

に補正するものである。

2.新規事項の有無

本件補正が、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定を満たすものであるか否か、即ち、本件補正が願書に最初に添付された明細書、請求の範囲及び図面(以下、これを「当初明細書等」という。)の範囲内でなされたものであるかについて、以下に検討する。

本件補正は、

補正前の請求項1に記載された
「前記語句対応付け部により原文と検索された第1言語例文が一致する場合は、その第2言語例文を使用し」を、
補正後の請求項1に記載された
「前記語句対応付け部により原文の各語句と検索された第1言語例文の語句の対応付けができる場合は、その第2言語例文を使用し」に補正し、

また、補正前の請求項4及び請求項5に記載された
「前記語句対応付けステップにより原文と検索された第1言語例文が一致する場合は、その第2言語例文を使用し」を、
補正後の請求項4及び請求項5に記載された
「前記語句対応付けステップにより原文の各語句と検索された第1言語例文の語句の対応付けができる場合は、その第2言語例文を使用し」に補正することを含むものである。

すなわち、補正後の請求項1、請求項4及び請求項5は、その記載からして、次の事項(a)を含んでいる。

(a)「原文の各語句と検索された第1言語例文の語句の対応付けができる場合は、その第2言語例文を使用」する態様

一方、請求人は、上記平成24年8月9日付け審判請求書において、当該補正の根拠として、

『(3)本願請求項1に係る発明(以下、本発明)
本発明は、・・・「前記語句対応付け部により原文の各語句と検索された第1言語例文の語句の対応付けができる場合は、その第2言語例文を使用し、・・・」を備えることを特徴とするものです。なお、上記アンダーライン部分は、明細書段落[0025]第2行?第5行の記載に基づいています。』

と主張している。

そこで、当初明細書等における該当する段落を見てみると、当該段落には、

「【0025】
(原文の語句と対訳の語句の対応付け処理)
上記検索処理ステップS131により、検索された第1言語例文は、原文の各語句と、第1言語例文の各語句の対応付けが語句対応付け部7-2により、対応付け処理(ステップS132)が行われる。原文と、検索された第1言語例文が完全に一致する場合は、原文の各語句と、第1言語例文の語句は、一対一に対応する。」
(当審注:下線は、参考のために当審で付与したものである。以下同じ。)

と記載されており、上記記載の内容からは、“原文の各語句と検索された第1言語例文の語句が(完全に)一致する場合、その第2言語例文を使用する”態様は読み取れるが、“原文の各語句と検索された第1言語例文の語句の対応付けができる場合、その第2言語例文を使用する”態様までは読み取れない。

すなわち、“原文の各語句と検索された第1言語例文の語句の対応付けができる場合”というのは、“対応付けはできるが語句が一致しない”態様も含み得るが、補正後の請求項1、請求項4及び請求項5において、“原文の各語句と検索された第1言語例文の語句の対応付けはできるが語句が一致しない場合、その第2言語例文を使用する”態様までは、当初明細書等に、記載も示唆もなく、また自明な事項でもない。

そして、当初明細書等の他の箇所を参酌しても、上記(a)の事項は、記載も示唆もなく、また自明な事項でもない。

以上のように、補正後の請求項1、請求項4及び請求項5に記載された上記(a)の事項は、当初明細書等に記載されておらず、かつ、その記載から自明なものでもないから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.むすび

以上のように、本件補正は、上記「2.新規事項の有無」で指摘したとおり、当初明細書等に記載されておらず、かつ、その記載から自明なものでもないから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、補正却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本件審判請求の成否について

1.本願発明の認定

平成24年8月9日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成23年11月1日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「第1言語例文と、前記第1言語例文に対応する第2言語例文と、前記第1言語例文の語句と第2言語例文の語句の対応関係情報を1組とする対訳例文情報を複数組記憶する対訳例文データベースを備える記憶部と、
少なくとも翻訳すべき第1言語の原文を入力させる入力部と、
前記原文に対応する第1言語例文を、前記対訳例文データベースから検索する対訳例文検索部と、
前記原文の語句と、前記検索された第1言語例文の語句を対応付ける語句対応付け部と、
前記語句対応付け部により原文と検索された第1言語例文が一致する場合は、その第2言語例文を使用し、一致しない場合は、原文に最も類似する第1言語例文である類似対訳を検索し、原文の各語句と類似対訳の各語句を対応付けて対応付けのできない語句を特定し、その特定された語句を原文の語句に置換し、更に置換した語句について第2言語を検索してその第2言語の語句を第2言語例文の語句にあてはめて作成した第2言語合成文を使用し、前記原文の語句に、前記対訳例文データベースに記憶されている第1言語例文の語句と第2言語例文の語句の対応関係情報に基づいて、前記第2言語例文または第2言語合成文の語句を訳振りする訳振り部と、
前記原文と、前記訳振り部の訳振りに従い原文の語句に前記第2言語例文または第2言語合成文の語句を対応付けて出力する出力部と
を備えることを特徴とする翻訳装置。」

2.引用文献に記載されている技術的事項及び引用発明の認定

(1)引用文献1

原審の拒絶の査定の理由である上記平成23年8月24日付けの拒絶理由通知において引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である、特許第3161942号(平成13年4月25日登録公報発行。以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は、参考のために当審で付与したものである。)

A 「【請求項1】 単語に対する品詞などの文法情報および訳語を格納するとともに、該訳語毎に訳振りレベルが付与された単語辞書と、
入力文を単語列に分割し、前記単語辞書から該単語列の各単語に対する品詞などの文法情報および訳語を得るとともに、該各単語の時制・人称・数を解析する辞書引き・形態素解析手段と、
前記辞書引き・形態素解析手段で得られた文法情報に従って該単語列の単語間の係り受け関係などの入力文章構造を決定する構文解析手段と、
前記構文解析手段で決定した入力文章構造を翻訳文に対する文章構造に変換し、意味的な整合性を検査して該単語に対する該訳語を選択する構文変換手段と、
前記構文変換手段で得られた訳語の並び順を決定し、活用変化を調整して翻訳文を生成する翻訳文生成手段とを備えた訳振り機械翻訳装置であって、
利用者が、該各単語の難易度、頻出度または重要度などのレベル情報に基づいて設定された訳振りレベルを指定可能な訳振りレベル設定手段と、
前記訳振りレベル設定手段で指定された訳振りレベルと前記単語辞書における訳振りレベルとの関係により訳語を付与するか否かを判定する翻訳出力判定手段と、
前記翻訳文生成手段までの翻訳処理を行なった後に、前記翻訳出力判定手段で判定した訳語に対して、入力文の各単語とその訳語との対応をとって該訳語を該入力文とともに見易い形式に整えて出力する原語訳語対応出力手段と、をさらに備え、
前記翻訳出力判定手段は、前記訳振りレベル設定手段で指定された訳振りレベルと前記単語辞書における訳振りレベルとの関係により訳語を付与するか否かを判定するとともに、前記解析処理中に得られる文の構文構造、前記変換処理中に得られる訳語の文字種構成、前記変換処理中に得られる訳語が分野指定されたものであるか否か、および、同一訳語の付与位置間の距離のうち、少なくともいずれかの情報を言語情報とし、該言語情報に基づいて訳語を付与するか否かを判定することを特徴とする訳振り機械翻訳装置。」

B 「【0044】図1は本発明の一実施例における訳振り機械翻訳装置の基本構成を示すブロック図である。
【0045】図1において、文字列および記号を入力する入力手段1は翻訳CPU2を介して出力手段3に接続され、訳振りに必要な単語に対応した訳語を入力文とともに出力手段3に出力し、出力手段3でそれを表示したり印刷したりして出力する。また、この翻訳CPU2は記憶手段4と接続されており、翻訳CPU2による翻訳処理に必要な辞書データおよび処理結果を記憶手段4に記憶している。」

C 「【0048】次に、この訳振り機械翻訳装置の具体的ハード構成を図2を用いて説明する。この訳振り機械翻訳装置は、各部を制御するメインCPU15と、記憶手段4の構成要素としてのメインメモリ4Aおよび辞書メモリ4aと、出力手段3としてのCRT(陰極線管)またはLCD(液晶ディスプレイ)からなる表示手段3Aと、入力手段1としてのキーボード1Aと、翻訳を行う翻訳モジュール16と、これら各部を接続するバスライン17とから構成されている。」

D 「【0053】I will take her child to the zoo.
まず、キーボード1Aなどの入力手段1で読み込まれた原文は、図5に示すようにバッファAに格納される。このバッファAは辞書引きのために原文は1単語毎(英語の場合は空白毎)に分離され、さらに、語尾処理などの形態素処理のために各単語も1文字づつ分離して格納される。図5では、一行が1単語に相当している。翻訳プログラムメモリ16Aに記憶された翻訳プログラムに基づく翻訳CPU2の制御にて、辞書引き・形態素解析手段5における処理において、バッファAに格納された原文に従って辞書メモリ4aの辞書を用いて各単語の訳語や、その単語に対する品詞などの文法情報などが得られ、バッファBに格納される。例えば、その各情報の一部である品詞情報は、図6に示すように格納される。ここで、“will”“her”“to”は多品詞語であるが、翻訳プログラムのうちの構文解析手段8における処理において一意に決定される。このようにして、辞書引き・形態素解析手段7による辞書引き、形態素解析において、辞書メモリ4aの辞書が引かれ、入力された文章が各形態素列(単語列)に分割され、この各単語に対する品詞などの文法情報および訳語が得られ、さらに時制・人称・数などが解析される。」

ここで、上記引用文献1に記載されている事項を検討する。

(ア)上記Aの記載からすると、引用文献1には、「訳振り機械翻訳装置」が、
「単語に対する品詞などの文法情報および訳語を格納するとともに、該訳語毎に訳振りレベルが付与された単語辞書」と、
「入力文を単語列に分割し、前記単語辞書から該単語列の各単語に対する品詞などの文法情報および訳語を得るとともに、該各単語の時制・人称・数を解析する辞書引き・形態素解析手段」と、
「前記辞書引き・形態素解析手段で得られた文法情報に従って該単語列の単語間の係り受け関係などの入力文章構造を決定する構文解析手段」と、
「前記構文解析手段で決定した入力文章構造を翻訳文に対する文章構造に変換し、意味的な整合性を検査して該単語に対する該訳語を選択する構文変換手段」と、
「前記構文変換手段で得られた訳語の並び順を決定し、活用変化を調整して翻訳文を生成する翻訳文生成手段」と、
「前記翻訳文生成手段までの翻訳処理を行なった後に、入力文の各単語とその訳語との対応をとって該訳語を該入力文とともに見易い形式に整えて出力する原語訳語対応出力手段」と、
を備える態様が記載されている。

(イ)上記(ア)の事項、上記Cの「訳振り機械翻訳装置は・・・記憶手段4の構成要素・・・辞書メモリ4a・・・とから構成されている」との記載からすると、引用文献1には、
“単語辞書を備える記憶手段”
が記載されていると解される。

(ウ)上記Bの「図1は本発明の一実施例における訳振り機械翻訳装置の基本構成を示すブロック図」、「図1において、文字列および記号を入力する入力手段1は翻訳CPU2を介して出力手段3に接続され、訳振りに必要な単語に対応した訳語を入力文とともに出力手段3に出力」との記載、上記Dの「キーボード1Aなどの入力手段1で読み込まれた原文」との記載からすると、引用文献1の「訳振り機械翻訳装置」が、
“翻訳すべき入力文(原文)を入力させる入力手段”
を備える態様が記載されている。

以上、(ア)ないし(ウ)で指摘した事項を踏まえると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「単語に対する品詞などの文法情報および訳語を格納するとともに、該訳語毎に訳振りレベルが付与された単語辞書を備える記憶手段と、
翻訳すべき入力文(原文)を入力させる入力手段と、
前記入力文(原文)を単語列に分割し、前記単語辞書から該単語列の各単語に対する品詞などの文法情報および訳語を得るとともに、該各単語の時制・人称・数を解析する辞書引き・形態素解析手段と、
前記辞書引き・形態素解析手段で得られた文法情報に従って該単語列の単語間の係り受け関係などの入力文章構造を決定する構文解析手段と、
前記構文解析手段で決定した入力文章構造を翻訳文に対する文章構造に変換し、意味的な整合性を検査して該単語に対する該訳語を選択する構文変換手段と、
前記構文変換手段で得られた訳語の並び順を決定し、活用変化を調整して翻訳文を生成する翻訳文生成手段とを備えた訳振り機械翻訳装置であって、
前記翻訳文生成手段までの翻訳処理を行なった後に、入力文(原文)の各単語とその訳語との対応をとって該訳語を該入力文(原文)とともに見易い形式に整えて出力する原語訳語対応出力手段と、をさらに備えることを特徴とする訳振り機械翻訳装置。」

(2)引用文献2

原審の拒絶の査定の理由である上記平成23年8月24日付けの拒絶理由通知において引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開2003-330924号公報(平成15年11月21日出願公開。以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに、以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は、参考のために当審で付与したものである。)

E 「【請求項1】翻訳対象文を入力する入力手段と、
前記翻訳対象文を検索キーとして翻訳例データベースから類似翻訳例を検索する類似翻訳例検索手段と、
複数の検索結果の表示の順番を決めるために複数用意された類似度計算方式を選択する類似度計算方式選択手段と、
検索結果を類似度計算方式で計算した類似度にしたがって順番に複数個表示するランキング手段と、
検索結果を、第1言語文の翻訳対象文と、翻訳例の第1言語文と、翻訳例の第2言語文の3つ組として表示する検索結果表示手段と、
翻訳対象文、翻訳例の第1言語文、翻訳例の第2言語文の3つ組の間で対応づけられている単語・句をハイライトして表示する対応情報検索手段と、
前記ハイライト表示されている単語・句のうちの1つを選択することにより他の2つをよりハイライトして表示するハイライト制御手段と、
複数の検索結果の中から選択した翻訳例の第2言語の文・句・単語を出力する翻訳例選択手段と、
を具備したことを特徴とする翻訳支援装置。」

上記Eの記載からすると、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。

「翻訳対象文を入力する入力手段と、
前記翻訳対象文を検索キーとして翻訳例データベースから類似翻訳例を検索する類似翻訳例検索手段と、
検索結果を、第1言語文の翻訳対象文と、翻訳例の第1言語文と、翻訳例の第2言語文の3つ組として表示する検索結果表示手段と、
翻訳対象文、翻訳例の第1言語文、翻訳例の第2言語文の3つ組の間で対応づけられている単語・句をハイライトして表示する対応情報検索手段と、
を具備したことを特徴とする翻訳支援装置。」

3.参考文献に記載されている技術的事項

上記平成24年5月22日付けの拒絶査定において引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開2004-220266号公報(平成16年8月5日出願公開。以下、「参考文献」という。)には、図面とともに、以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は、参考のために当審で付与したものである。)

F 「【請求項8】
第1言語による原文の文章と、第1言語と第2言語による同一の文章を対応させて記憶管理する例文データベース中の第1言語による文章とを比較し、前記例文データベース中に原文と完全に合致する第1言語による文章が存在する場合には対応する第2言語による文章を翻訳文として確定し、残る原文の文章と前記例文データベースの第1言語による文章の構成を解析して原文の文章構成に類似する例文データベースの第1言語による文章に対応する第2言語による文章を仮翻訳文として採用するとともに、原文と合致しない単語あるいは単語連を所定の訳語に置換して翻訳文を生成することを特徴とする機械翻訳方法。」

上記Fの記載からすると、参考文献には、次の技術的事項(以下、「周知技術1」という。)が記載されているものと認められる。

「第1言語による原文の文章と、第1言語と第2言語による同一の文章を対応させて記憶管理する例文データベース中の第1言語による文章とを比較し、前記例文データベース中に原文と完全に合致する第1言語による文章が存在する場合には対応する第2言語による文章を翻訳文として確定し、残る原文の文章と前記例文データベースの第1言語による文章の構成を解析して原文の文章構成に類似する例文データベースの第1言語による文章に対応する第2言語による文章を仮翻訳文として採用するとともに、原文と合致しない単語あるいは単語連を所定の訳語に置換して翻訳文を生成する」技術。

4.本願発明と引用発明1との対比

本願発明と引用発明1とを対比する。

(1)引用発明1の「訳振り機械翻訳装置」は、本願発明の「翻訳装置」に対応するものであるところ、引用発明1の「訳振り機械翻訳装置」は、入力された第1言語の入力文(原文)に対して、第2言語の翻訳文を生成し、当該第1言語の入力文(原文)の単語と第2言語の翻訳文の単語の訳振りを行って出力するものである。そして、本願発明の「翻訳装置」も、入力された第1言語の原文に対して、第2言語の翻訳文(原文と一致する例文がある場合はその第2言語例文、一致する例文がない場合は最も類似する類似対訳から生成した第2言語合成文)を生成し、第1言語の原文の語句と第2言語の翻訳文の語句の訳振りを行って出力するものである。
したがって、引用発明1の「訳振り機械翻訳装置」と、本願発明の「翻訳装置」とは、“入力された第1言語の原文に対して、第2言語の翻訳文を生成し、第1言語の原文の語句と第2言語の翻訳文の語句を対応付けて訳振りを行って出力する翻訳装置”である点で共通している。

(2)引用発明1の「記憶手段」は、本願発明の「記憶部」に相当する。
ここで、引用発明1の「単語に対する品詞などの文法情報および訳語を格納するとともに、該訳語毎に訳振りレベルが付与された単語辞書」とは、第1言語の語句と第2言語の語句との対訳情報を複数組記憶する翻訳用データベースに他ならない。また、本願発明の「第1言語例文と、前記第1言語例文に対応する第2言語例文と、前記第1言語例文の語句と第2言語例文の語句の対応関係情報を1組とする対訳例文情報を複数組記憶する対訳例文データベース」とは、第1言語の例文及び語句と、第2言語の例文及び語句との対訳情報を複数組記憶する翻訳用データベースに他ならない。
してみると、引用発明1の「単語に対する品詞などの文法情報および訳語を格納するとともに、該訳語毎に訳振りレベルが付与された単語辞書を備える記憶手段」と、本願発明の「第1言語例文と、前記第1言語例文に対応する第2言語例文と、前記第1言語例文の語句と第2言語例文の語句の対応関係情報を1組とする対訳例文情報を複数組記憶する対訳例文データベースを備える記憶部」とは、“第1言語の語句と第2言語の語句の対訳情報を複数組記憶する翻訳用データベースを備える記憶手段”である点で共通するといえる。

(3)引用発明1の「入力手段」は、本願発明の「入力部」に相当する。
してみると、引用発明1と、本願発明とは、“少なくとも翻訳すべき第1言語の原文を入力させる入力手段”を備える点で一致する。

(4)引用発明1の「前記入力文(原文)を単語列に分割し、前記単語辞書から該単語列の各単語に対する品詞などの文法情報および訳語を得るとともに、該各単語の時制・人称・数を解析する辞書引き・形態素解析手段」、「前記辞書引き・形態素解析手段で得られた文法情報に従って該単語列の単語間の係り受け関係などの入力文章構造を決定する構文解析手段」、「前記構文解析手段で決定した入力文章構造を翻訳文に対する文章構造に変換し、意味的な整合性を検査して該単語に対する該訳語を選択する構文変換手段」、「前記構文変換手段で得られた訳語の並び順を決定し、活用変化を調整して翻訳文を生成する翻訳文生成手段」、「前記翻訳文生成手段までの翻訳処理を行なった後に、入力文(原文)の各単語とその訳語との対応をとって該訳語を該入力文(原文)とともに見易い形式に整えて出力する原語訳語対応出力手段」とは、単語辞書を使用して入力文(原文)に対応する翻訳文を生成した後で、入力文(原文)の単語に翻訳文の単語を対応付けて訳振りしていることに他ならない。
そして、本願発明の「前記原文に対応する第1言語例文を、前記対訳例文データベースから検索する対訳例文検索部」、「前記原文の語句と、前記検索された第1言語例文の語句を対応付ける語句対応付け部」、「前記語句対応付け部により原文と検索された第1言語例文が一致する場合は、その第2言語例文を使用し、一致しない場合は、原文に最も類似する第1言語例文である類似対訳を検索し、原文の各語句と類似対訳の各語句を対応付けて対応付けのできない語句を特定し、その特定された語句を原文の語句に置換し、更に置換した語句について第2言語を検索してその第2言語の語句を第2言語例文の語句にあてはめて作成した第2言語合成文を使用し、前記原文の語句に、前記対訳例文データベースに記憶されている第1言語例文の語句と第2言語例文の語句の対応関係情報に基づいて、前記第2言語例文または第2言語合成文の語句を訳振りする訳振り部」においても、対訳例文データベースを使用して原文に対応する翻訳文(原文と一致する例文がある場合はその第2言語例文、一致する例文がない場合は最も類似する類似対訳から生成した第2言語合成文)を生成した後で、原文の語句と翻訳文の語句を対応付けて訳振りしていることに他ならない。
してみると、引用発明1と本願発明とは、“翻訳用データベースを使用して原文に対応する翻訳文を生成した後で、前記原文の語句と前記翻訳文の語句を対応付けて訳振りする訳振り手段”を備える点で共通するといえる。

(5)引用発明1の「入力文(原文)の各単語とその訳語との対応をとって該訳語を該入力文(原文)とともに見易い形式に整えて出力する原語訳語対応出力手段」との記載からすると、引用発明1は、訳振りに従い入力文(原文)の単語に翻訳文の単語を対応付けて出力する手段を有している。
してみると、引用発明1と本願発明とは、“原文と、訳振り手段の訳振りに従い前記原文の語句に翻訳文の語句を対応付けて出力する出力手段”を備える点で共通するといえる。

以上から、本願発明と引用発明1とは、以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。

(一致点)

入力された第1言語の原文に対して、第2言語の翻訳文を生成し、第1言語の原文の語句と第2言語の翻訳文の語句を対応付けて訳振りを行って出力する翻訳装置であって、
第1言語の語句と第2言語の語句の対訳情報を複数組記憶する翻訳用データベースを備える記憶手段と、
少なくとも翻訳すべき第1言語の原文を入力させる入力手段と、
前記翻訳用データベースを使用して前記原文に対応する翻訳文を生成した後で、前記原文の語句と前記翻訳文の語句を対応付けて訳振りする訳振り手段と、
前記原文と、前記訳振り手段の訳振りに従い前記原文の語句に前記翻訳文の語句を対応付けて出力する出力手段と
を備えることを特徴とする翻訳装置。

(相違点1)

翻訳用データベースに関して、本願発明が、「第1言語例文と、前記第1言語例文に対応する第2言語例文と、前記第1言語例文の語句と第2言語例文の語句の対応関係情報を1組とする対訳例文情報を複数組記憶する対訳例文データベース」であるのに対して、引用発明1は、「単語に対する品詞などの文法情報および訳語を格納するとともに、該訳語毎に訳振りレベルが付与された単語辞書」である点。

(相違点2)

翻訳文の生成に関して、本願発明が、「前記原文に対応する第1言語例文を、前記対訳例文データベースから検索」し、「前記原文の語句と、前記検索された第1言語例文の語句を対応付け」し、「原文と検索された第1言語例文が一致する場合は、その第2言語例文を使用し、一致しない場合は、原文に最も類似する第1言語例文である類似対訳を検索し、原文の各語句と類似対訳の各語句を対応付けて対応付けのできない語句を特定し、その特定された語句を原文の語句に置換し、更に置換した語句について第2言語を検索してその第2言語の語句を第2言語例文の語句にあてはめて作成した第2言語合成文を使用」することにより、原文に対する翻訳文を生成するものであるのに対して、引用発明1は、入力文(原文)に対して、辞書引き、形態素解析、構文解析、意味解析、構文変換等を行うことにより、入力文(原文)に対する翻訳文を生成するものである点。
(すなわち、本願発明が、原文に対する例文を利用して翻訳文を生成する(一致する例文がない場合は、最も類似する例文を基にして、必要に応じて語句を置換することにより翻訳文を生成する)ものであるのに対して、引用発明1は、入力文(原文)を解析して、単語の辞書引き、構文変換等を行うことにより翻訳文を生成するものである点。)

5.当審の判断

上記相違点1及び相違点2について検討する。

上記「4.本願発明と引用発明1との対比」の(1)で検討したように、引用発明1の「訳振り機械翻訳装置」と、本願発明の「翻訳装置」とは、“入力された第1言語の原文に対して、第2言語の翻訳文を生成し、第1言語の原文の語句と第2言語の翻訳文の語句を対応付けて訳振りを行って出力する翻訳装置”である点で共通している。

一方、機械翻訳の技術分野において、翻訳文の生成に関して、様々な翻訳手法が存在するが、予め翻訳例文データベースを作成しておき、当該翻訳例文データベースを検索して、入力文に対する翻訳例文として提供する技術(用例主導型の翻訳技術)についても、当業者が従来から普通に採用している周知慣用技術(必要であれば、上記引用文献2の上記引用発明2等参照。)に他ならない。

そして、上記参考文献の上記Fに、周知技術1として、次の技術、

「第1言語による原文の文章と、第1言語と第2言語による同一の文章を対応させて記憶管理する例文データベース中の第1言語による文章とを比較し、前記例文データベース中に原文と完全に合致する第1言語による文章が存在する場合には対応する第2言語による文章を翻訳文として確定し、残る原文の文章と前記例文データベースの第1言語による文章の構成を解析して原文の文章構成に類似する例文データベースの第1言語による文章に対応する第2言語による文章を仮翻訳文として採用するとともに、原文と合致しない単語あるいは単語連を所定の訳語に置換して翻訳文を生成する」技術、

が開示されているように、用例主導型の翻訳において、入力文(原文)と一致する翻訳例文を検索することができなかった場合には、類似する翻訳例文を仮翻訳文として採用するとともに、当該入力文(原文)と仮翻訳文との相違する部分を特定し、相違部分に対応する入力文(原文)中の語句の訳語で前記仮翻訳文中の対応する部分を置き替えて、翻訳文を生成する技術についても、当該技術分野における周知技術である。

してみると、引用発明1においても、翻訳文の作成に際して、翻訳例文データベースを使用して翻訳文を生成するように構成し、その際、入力文(原文)に一致する翻訳例文がない場合に、入力文(原文)に類似する翻訳例文を仮翻訳文として採用するとともに、入力文(原文)と合致しない単語を所定の訳語に置換して翻訳文を生成するように構成すること、すなわち、上記相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

ところで、翻訳例文データベースには、通常、第1言語例文と、当該第1言語例文に対応する第2言語例文が記憶されているが、上記のように、翻訳文の作成に際して、仮翻訳文を採用するとともに、入力文(原文)と合致しない単語を所定の訳語に置換する場合に、第1言語例文の各単語と、当該第1言語例文に対応する第2言語例文の各単語の対応関係が必要となることは、当業者にとって自明の事項である。そして、当該第1言語例文に対応する第2言語例文の各単語の対応関係に関する情報についても、当該翻訳例文データベースに一緒に記憶するようにすることも、当業者が容易に想到し得たことである。

してみると、引用発明1においても、上記のように、翻訳文の作成に際して、翻訳例文データベースを使用して翻訳文を生成するように構成し、その際、入力文(原文)に一致する翻訳例文がない場合に、入力文(原文)に類似する翻訳例文を仮翻訳文として採用するとともに、入力文(原文)と合致しない単語を所定の訳語に置換して翻訳文を生成するように構成とした場合に、第1の言語例文と、当該第1言語例文に対応する第2言語例文に加えて、前記第1の言語例文の単語と第2言語例文の単語の対応関係情報も記憶するように構成すること、すなわち、上記相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

よって、上記相違点1及び相違点2は格別なものではない。

上記で検討したごとく、上記相違点1及び相違点2は格別のものではなく、そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、上記引用発明1及び周知慣用技術等の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

したがって、本願発明は、上記引用発明1及び周知慣用技術等に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.回答書の補正案について

なお、請求人は、前記平成25年5月28日付け回答書において、

『[請求項1]
第1言語例文及び第1言語語句と、前記第1言語例文に対応する第2言語例文及び第2言語語句と、前記第1言語例文の各語句と第2言語例文の各語句の対応関係情報を1組とする対訳例文情報を複数組記憶する対訳例文データベースを備える記憶部と、
少なくとも翻訳すべき第1言語の原文を入力させる入力部と、
前記原文に対応する第1言語例文を、前記対訳例文データベースから検索する対訳例文検索部と、
前記原文の各語句と、前記検索された第1言語例文の各語句を対応付ける語句対応付け部と、
前記語句対応付け部により原文の各語句と検索された第1言語例文の各語句の対応付けが完全に一致する場合は、前記対応関係情に基づいて、原文の各語句と第2言語例文の各語句を各々対応付け、原文の各語句に第2言語例文の各語句を訳振りし、原文の各語句と検索された第1言語例文の各語句の対応付けが完全に一致しない場合は、原文に最も類似する第1言語例文である類似対訳を検索し、原文の各語句と類似対訳の各語句を対応付けるとともに、対応付けのできない語句を特定し、前記特定された語句を原文の語句に置換し、更に置換した語句について前記対訳例文データベースから第2言語語句を検索し、前記第2言語語句を第2言語例文の語句にあてはめて第2言語合成文を作成し、前記原文の各語句に、前記対応関係情報に基づいて、第2言語合成文の各語句を訳振りする訳振り部と、
前記原文と、前記訳振り部の訳振りに従い原文の各語句に前記第2言語例文または第2言語合成文の各語句を対応付けて出力する出力部と
を備えることを特徴とする翻訳装置。』

との補正案を提示しているが、上記「5.当審の判断」で検討したとおり、翻訳文の作成に際して、翻訳例文データベースを使用して翻訳文を生成する際に、検索された仮翻訳文中の単語の中で、入力文(原文)と合致しない単語を所定の訳語に置換する構成とした場合に、入力文(原文)中の各単語と検索された仮翻訳文中の各単語を各々対応付けて置換することは、当業者にとって自明の事項であり、また、第1言語例文の各単語と、当該第1言語例文に対応する第2言語例文の各単語との対応関係が必要となることについても、当業者にとって自明の事項である。そうすると、一般的な翻訳例文データベースに記憶されている、第1言語例文と当該第1言語例文に対応する第2言語例文に加えて、第1言語語句と第2言語語句、当該第1言語例文に対応する第2言語例文の各単語の対応関係に関する情報についても、当該翻訳例文データベースに一緒に記憶するようにすることも、当業者が容易に想到し得たことである。

したがって、仮に本願特許請求の範囲が、該補正案のとおりのものとなったとしても、本審決の結論に影響するものではない。

7.むすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-10-16 
結審通知日 2013-10-22 
審決日 2013-11-05 
出願番号 特願2005-256651(P2005-256651)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (G06F)
P 1 8・ 121- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長 由紀子  
特許庁審判長 仲間 晃
特許庁審判官 浜岸 広明
田中 秀人
発明の名称 翻訳装置、翻訳方法および翻訳プログラム、媒体  
代理人 野河 信太郎  

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