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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  E02B
管理番号 1282683
審判番号 無効2013-800048  
総通号数 170 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-02-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-03-26 
確定日 2013-12-16 
事件の表示 上記当事者間の特許第4105076号発明「護岸の連続構築方法および河川の拡幅工法」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
平成15年10月28日:出願(特願2003-368034号)
平成20年 4月 4日:設定登録(特許第4105076号)
平成23年 3月 2日:別件無効審判請求(無効2011-80003 6)
平成23年 5月27日:被請求人より答弁書提出
平成24年10月 6日 別件無効2011-800036審決(審判の 請求は成り立たない。)
平成25年 3月26日:本件審判請求
平成25年 6月 7日:被請求人より答弁書提出
平成25年 7月24日:審理事項通知
平成25年 8月26日:請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成25年 8月26日:被請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成25年 9月 2日:被請求人より上申書提出
平成25年 9月 9日:口頭審理

なお,請求人が平成25年8月26日付け口頭審理陳述要領書による,請求の理由の補正については,特許法第131条の2第2項の規定に基づき,「上記口頭審理陳述要領書において新たに主張された無効理由,すなわち『第2アプローチ』による無効理由については,許可しない」とされた。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1,請求項3及び請求項4に係る発明は,本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1,請求項3及び請求項4に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。
「【請求項1】
鋼管杭を回転圧入できる鋼管杭圧入装置を用いて,先端にビットを備えた切削用鋼管杭をコンクリート護岸を打ち抜いて圧入して鋼管杭列を構築し,この鋼管杭列から反力を得ながら,上記鋼管杭列に連続して上記切削用鋼管杭を回転圧入してコンクリート護岸を打ち抜いて連続壁を構築し,その後,上記鋼管杭列の河川側のコンクリート護岸と土砂を除去する護岸の連続構築方法。」
「【請求項3】
請求項1又は請求項2の護岸の連続構築方法において,鋼管杭を鋼管杭圧入装置に装着するために必要なクレーン,鋼管杭の搬送装置等の付帯設備を鋼管杭列上で作業可能に配置して連続壁を構築する護岸の連続構築方法。」
「【請求項4】
請求項1又は請求項2又は請求項3の護岸の連続構築方法を用いて連続壁を構築し,その後,拡幅作業を行う作業装置あるいは撤去作業を行う撤去装置を鋼管杭列上又は鋼管杭列近傍に配置して,上記構築された連続壁の拡幅する側の土砂等の撤去あるいは近傍の水底を浚渫する河川の拡幅工法。」
(以下,請求項1,請求項3及び請求項4に係る発明を,それぞれ「本件発明1」,「本件発明3」及び「本件発明4」という。)

第3 当事者の主張
1 請求人の主張
請求人は,本件特許第4105076号の特許請求の範囲の請求項1に係る発明,請求項3に係る発明,及び請求項4に係る各発明について特許を無効とする,審判の費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,審判請求書,平成25年8月26日付け口頭審理陳述要領書,及び同年9月9日の口頭審理において,甲第1号証?甲第9号証を提示し,以下の無効理由を主張した。

[無効理由]
(1)無効理由その1:本件発明1は進歩性なし
(a)本件発明1
本件発明1を構成要件ごと分説すると次のとおりである。
A.鋼管杭を回転圧入できる鋼管杭圧入装置を用いて,
B.先端にビットを備えた切削用鋼管杭を
C.コンクリート護岸を打ち抜いて圧入して鋼管杭列を構築し,
D.この鋼管杭列から反力を得ながら,
E.上記鋼管杭列に連続して上記切削用鋼管杭を回転圧入してコンクリー ト護岸を打ち抜いて連続壁を構築し,
F.その後,上記鋼管杭列の河川側のコンクリート護岸と土砂を除去する
G.護岸の連続構築方法。
(請求書第16頁第20行?第17頁第8行)

(b)甲第1号証及び甲第6号証に記載された発明(甲1発明)
甲1発明を構成要件ごと分説すると次のとおりである。
a.鋼矢板を圧入できる鋼矢板杭圧入装置を用いて,
b.先端にビットを備えたオーガヘッドを有するオーガスクリューを
c.コンクリート護岸を打ち抜き,オーガスクリューを引抜きながら鋼矢 板をコンクリート護岸に圧入して鋼矢板杭列を構築し,(施工断面図で は,コンクリート護岸を打ち抜いている形態が表されており,そもそも 「硬質クリア工法」では,オーガヘッドを有するオーガスクリューと鋼 矢板とを併用する工法であるから,オーガスクリューでコンクリード護 岸を打ち抜いて,オーガスクリューを引抜きながら鋼矢板をコンクリー ト護岸に圧入するものと認められる。)
d.この鋼矢板杭列から反力を得ながら,(「硬質クリア工法」の4頁に おける,サドルのクランプにより鋼矢板杭頭部をクランプしている形態 の図示などにより明らかである。)
e.上記鋼矢板杭列に連続して上記オーガヘッドを有するオーガスクリュ ーを回転させつつ,コンクリート護岸を打ち抜いて,鋼矢板を圧入して 鋼矢板連続壁を構築する,
g.護岸の連続構築方法。
(請求書第17頁第9行?第18頁第2行)

(c)甲1発明と本件発明1との対比
したがって,甲1発明と本件発明1とは,次の点で相違する。
<相違点1>
甲1発明は,「鋼矢板を圧入できる鋼矢板杭圧入装置」であるのに対し,本件発明1は「鋼管杭を回転圧入できる鋼管杭圧入装置」である点。
<相違点2>
甲1発明は,「先端にビットを備えたオーガヘッドを有するオーガスクリューでコンクリート護岸を打ち抜き,オーガスクリューを引抜きながら鋼矢板をコンクリート護岸に圧入して鋼矢板杭列を構築する」ものであるのに対し,本件発明1は「先端にビットを備えた切削用鋼管杭でコンクリート護岸を打ち抜いて圧入して鋼管杭列を構築する」点。
<相違点3>
甲1発明は,連続壁を構築した後の処理形態が不明であるのに対し,本件発明1は「鋼管杭列の河川側のコンクリート護岸と土砂を除去する」点。
(請求書第18頁第3行?第16行)

(d)かかる相違点についての検討
相違点1及び相違点2における基本的な相違は,次のとおりである。
ア 連続壁を鋼管杭とするか鋼矢板杭とするかの点。
イ 本件発明1において,鋼管杭として,特に先端にビットを備えた切削用鋼管杭を選択している点。
ウ 本件発明1において,切削用鋼管杭は回転圧入してコンクリート護岸を打ち抜く点。
エ 圧入装置が,鋼管杭を回転圧入できるようにする装置か,
あるいは,オーガヘッドを有するオーガスクリューを回転圧入によりコンクリート護岸を打ち抜き,オーガスクリューを引抜きながら鋼矢板をコンクリート護岸に圧入する装置かの点。
(請求書第18頁第17行?第19頁第3行)

(e)相違点1及び2についての,本件発明1へ到る動機付け並びに容易想到性を検討する。
(e-1) 連続壁を鋼矢板ではなく,鋼管杭を採用することは,甲1の4,33頁上欄の道路の拡幅においても行われるように,公知の事項であった。
甲2において鋼管杭の圧入装置が開示され,鋼管杭列から反力を得ながら,鋼管杭列連続壁を構築している。
さらに,甲2(【0019】)には,「本実施例は,適用する杭を鋼管矢板Pとしたが,他の杭,例えば鋼矢板やコンクリート矢板等にもクランプ12,13の形状を変更することで適宜対応することができる。」と教示していることからして,逆からいえば,甲2は,鋼矢板杭と鋼管矢板杭の置換可能性を教示しているのであり,鋼矢板杭の圧入装置に換えて,鋼管杭の圧入装置を使用し,鋼管杭列から反力を得ながら,鋼管杭列の連続壁を構築することは,本件発明出願前,当業者の公知の事項であったことを示しているのである。(下線は,請求人が付与。以下,同様)
甲3は,「鋼管杭壁の構築に用いられる装置として,既設の鋼管杭から反力を取って地中に鋼管杭を圧入する杭圧入装置が知られている。」(【0002】)こと,「杭圧入装置により既設の杭から反力を取って地中に杭を圧人する際に,請求項1記載のチャック装置によって,杭を少なくとも一つの回転方向に連続的に回転させながら地中に圧入できる。これにより,杭圧入時の抵抗力を軽減して杭の圧入を補助できるので,より効率よく杭を圧入することができる。」(【0005】)こと,「杭圧入装置1は,図示しないクランプにより既設の鋼管杭をつかんで既設の鋼管杭から反力を取った状態で,新たな鋼管杭Pを圧入する」(【0024】)ことを明らかにしている。
しかも,「図1においては,外周に羽根などが設けられていない回転鋼管杭Pを図示しているが,図1に示す鋼管杭Pに限らず,羽根や突条などが外周に設けられた鋼管杭を地中に圧入するのに杭圧入装置1を使用するものとしてもよい。」(【0037】)と記載されている。
甲4は,鋼管杭の連続壁構築にあたり,「鋼管杭は,・・・硬質地盤では図3の右図に示すようにケーシング掘削で用いられるビット1dが取り付けられたものを使用する。」(【0016】)
「軟弱地盤では押込みのみで建て込むことができるが,一般および硬質地盤では鋼管の下端に取り付けられたビット1d(図3参照)で地盤を掘削し」(【0021】)
「本発明の鋼管杭壁の施工方法は,ケーシング回転掘削機で回転圧入して施工され,軟弱地盤では圧入のみで作業できるので騒音振動が少なく,さらに硬い地質や転石・玉石の多い地質あるいは地中に障害物がある場合でも,鋼管下端のビットで地盤を掘削し鋼管内を掘削することにより,十分鋼管杭を建て込むことができるので,予め土の置換施工を行う必要がなく,施工工期を短縮できる。」(【0026】)
と教示している。
(請求書第19頁第4行?第20頁20行)

(e-2) 以上のように,鋼矢板杭に代えて,鋼管杭を使用して連続壁を構築することは当業者が適宜選択できる事項であることが判る。
甲1発明は,玉石混りの砂礫層や岩盤などの硬質地盤に対応するために,先端にビット(オーガヘッド)を備えた切削用ケーシングオーガ及び鋼矢板を併用して鋼矢板を圧入するものである。
甲1発明は,鋼矢板を圧入し鋼矢板杭列を構築し,この鋼矢板杭列から反力を得ながら,上記鋼矢板杭列に連続して鋼矢板を圧入して連続壁を構築するものである。
甲2発明は,鋼管杭を圧入して鋼管杭列を構築し,この鋼管杭列から反力を得ながら,上記鋼管杭列に連続して鋼管杭を圧入して連続壁を構築するものである。
そして,甲2は,「鋼矢板杭と鋼管矢板杭の置換可能性」を教示しているのであり,「鋼矢板杭の圧入装置に換えて,鋼管杭の圧入装置を使用し,鋼管杭列から反力を得ながら,鋼管杭列の連続壁を構築する」ことを教示しているのであるから,その教示に従って,甲1発明において,先端にビット(オーガヘッド)を備えた切削用ケーシングオーガ及び鋼矢板を併用して鋼矢板を圧入することに換えて,鋼管杭を圧入するようになし,圧入した鋼管杭列から反力を得ながら,新規鋼管杭を圧入して鋼管杭列の連続壁を構築することに,当業者が容易に想到できることは明らかである。
甲1発明においては,玉石混りの砂礫層や岩盤などの硬質地盤に対応するために,たまたま,先端にビット(オーガヘッド)を備えた切削用ケーシングオーガを利用しているが,
甲3は,「杭圧入装置により既設の杭から反力を取って地中に杭を圧入する際に,・・・杭を少なくとも一つの回転方向に連続的に回転させながら地中に圧入できる。これにより,杭圧入時の抵抗力を軽減して杭の圧入を補助できるので,より効率よく杭を圧入することができる。」と説明するように,鋼管杭は回転させながら圧入するのが効率的であると開示し,
甲4は,「硬い地質や転石・玉石の多い地質あるいは地中に障害物がある場合でも,鋼管下端のビットで地盤を掘削し鋼管内を掘削することにより,十分鋼管杭を建て込むことができる」と教示しているのであるから,
甲1発明において,硬質のコンクリート護岸を打ち抜く場合,先端にビツトを備えた切削用鋼管を利用し,かつ,切削用鋼管を回転圧入するようになし,切削用鋼管をコンクリート護岸を打ち抜いて圧入して鋼管杭列を構築し,この鋼管杭列から反力を得ながら,上記鋼管杭列に連続して上記切削用鋼管杭を回転圧入してコンクリート護岸を打ち抜いて連続壁を構築することに格別の創意を要するものではない。
このように当業者にとって,甲2?甲4が教示する置換容易な技術的事項を,その教示に従って,甲1発明に適用すると,
A.鋼管杭を回転圧入できる鋼管杭圧入装置を用いて,
B.先端にビットを備えた切削用鋼管杭を
C.コンクリート護岸を打ち抜いて圧入して鋼管杭列を構築し,
D.この鋼管杭列から反力を得ながら,
E.上記鋼管杭列に連続して上記切削用鋼管杭を回転圧入してコンクリ
ート護岸を打ち抜いて連続壁を構築,
する
G.護岸の連続構築方法。
となることは明らかである。
(請求書第20頁第21行?第22頁第16行)

(f)構成要件Fに係る相違点3についての,本件発明1へ到る動機付け並びに容易想到性の検討
甲1発明は,連続壁を構築した後の処理形態が不明であるのに対し,本件発明1は「鋼管杭列の河川側のコンクリート護岸と土砂を除去する」(構成要件F)点を明記する点で相違する。
そもそも,拡幅が必要とされ工事一般において,連続壁により後背側を支持する場合,甲1の4,33頁上欄における「新桜ヶ丘外廻り拡張工事その2」において,自立土留め壁としての「鋼管矢板」列を各鋼管矢板に化粧パネルで覆い,「施工断面図」に示された自立土留め壁(「鋼管矢板列」及び化粧パネル)より道路側の拡張(拡幅の意味)前の「法面部分」の土砂を除去することは,当然に実施しなければならない事項である。
この拡幅道路工事の場合と同様に,河川の拡幅が必要な場合には,構築した矢板連続壁の「河川側のコンクリート護岸と土砂を除去する」のは,元来の工事目的に応じて当然に実施しなければならない事項である。
現実に,「本件工事」において,甲1の5及び甲1の6のように,「鋼管杭列の河川側のコンクリート護岸を除去する」ことが行われたものである。すなわち,甲1の5写真と甲1の6を総合的にみてみると,両端部の旧護岸の間を補修して,新護岸を構築し,旧護岸は撤去したものであることが判る。
さらに,甲5は,河川の拡幅を行う場合を行う場合,「コンクリート破砕機により既存の護岸Pを解体し,パワーショベルによってこれを搬出している状況を示している。既存の講岸Pを撤去し,内部地盤の掘削を行い,鋼管矢板壁1を新たな護岸として拡幅を完了する。」(【0023】)と開示している。
したがって,本件発明1の構成要件F「その後,(上記鋼管杭列の)河川側のコンクリート護岸と土砂を除去する」ことは,河川工事の目的に応じて当業者が適宜採用する汎用技術である。
したがって,その技術的事項を,甲1発明に適用して,本件発明1の構成要件Fとすることは,当業者にとってなんら困難を伴う事項ではない。
(請求書第22頁第17行?第23頁第21行)

(g)まとめ
しかるに,甲1発明に,甲2発明?甲4発明を適用した場合に予想される作用効果は,
本件発明1の「コンクリート護岸の改修工事や護岸の補強工事あるいは河川等の浚渫工事等が安全かつ効率よく行える。
特に従来では拡幅不可能な河川等における改修工事が可能となり,この拡幅工事を行うための仮設工事を一切必要としないので工期の短縮,工費の削減を図ることができる。また,鋼管杭を回転しながら圧入するため,アースオーガ等の装置も必要としない。」なる作用効果と実質的に同一である。
してみると,本件発明1は,特許法第29条第2項に規定する進歩性を有しないにも拘わらず,特許されたものである。
(請求書第23頁第22行?第24頁第8行)

(2)無効理由その2:本件発明3は進歩性なし
(a)甲1の4,33頁上欄においては,鋼管矢板についてではあるが,鋼管矢板杭を鋼管矢板杭圧入装置に装着するために必要なクレーン,鋼管矢板杭の搬送装置等の付帯設備を鋼管杭列上で作業可能に配置して連続壁を構築する形態が示されている。
また,甲2においても,鋼管杭を鋼管杭圧入装置に装着するために必要なクレーン,鋼管机の搬送装置等の付帯設備を鋼管杭列上で作業可能に配置して連続壁を構築する形態が示されている。
(b)してみると,本件発明3に係る限定事項は格別のものではなく,必要により甲1発明に適用できるものであるから,本件発明3は,特許法第29条第2項に規定する進歩性を有しないにも拘わらず,特許されたものである。(請求書第24頁第9行?第25頁第1行)

(3)無効理由その3:本件発明4は進歩性なし
(a)甲5では「既存の護岸の外側に鋼管矢板壁1を構築し,その頂部に取り付けた両岸の走行レール6にまたがって移動構台7を載置し,この上から作業を」行うことを教示している。「移動構台7上のコンクリート破砕機により既存の護岸Pを解体し,パワーショベルによってこれを搬出」することも開示している。
かかる甲5における作業形態は,本件発明4に係る限定事項と実質的に相違はない。
(b)してみると,本件発明4に係る限定事項は格別のものではなく,必要により甲1発明に適用できるものであるから,本件発明4は,特許法第29条第2項に規定する進歩性を有しないにも拘わらず,特許されたものである。(請求書第25頁第2行?第25頁第20行)

(4)陳述要領書での主な主張
(a)本件滝の川工事の公知
被請求人らの最大の主張は,そもそも本件滝の川工事の「コンクリート層を直接打ち抜いた工事」であるとの立証がなされていないということである(被請求人ら答弁書,12頁下4行?13頁2行)。
しかし,本件滝の川工事については,目視を妨げる格別な障害物(背の高い強固なフェンスで囲まれているわけではない。)が存在するわけでもなく,単純に対岸の比較的近く場所から工事の始終を観察できる環境にある。
しかも,甲第6号証の5によれば,現場の状況として,長い鋼矢板(11.5m)を圧入しているのであるから,観察者は,その長い鋼矢板の下端が河川底よりかなり深く圧入されたものであることは,当然に観察中にも,素直に理解することは明らかである。
被請求人らはHPへの掲載が本件発明出願後であることを良いことにしてか,本件滝の川工事の観察者が地中の「コンクリート層を直接打ち抜いた工事」は目視できないのであるから,公然実施の立証が十分になされていないという。
しかし,被請求人技研子会社技研施工による工事の詳しい状況を,観察者が知ろうとすれば,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成11年5月14日法律第24号)では開示請求から30日以内に開示決定し,開示の実施をすることを規定しているから,施工完了の平成13年10月からそう遅くない時期に,横浜市に竣功図を開示請求すれば,少なくとも本件発明出願日(平成15年10月28日)には,閲覧し複写も可能であったことは経時の長さ関係から明らかである。
しかも,後述するように,甲第7号証の1?甲第7号証の4(竣功図:竣功図面として同じであるものの,甲第1号証の6のその1及びその2の複写部分と異なる部分の複写図面)によれば,本件滝の川工事は,地中の護岸基礎の「コンクリート層を直接打ち抜いた工事」であると観察者(閲覧者)が考えるのは自然である。
なお,乙第3号証は,被請求人技研の従業員が,実際施工した子会社技研施工による工事を,「工事当時の資料と関係者からの聞き取りなどの調査結果」に基づき陳述したものであるが,「技研施工は圧入工事に関わる「施工計画書」を作成したものの,圧入工事後にどのような作業が行われたのかは,具体的に把握しておりません。」(乙第3号証1頁下4行?3行)と言いつつも,3頁下6行以降に積極的な判断を下しながら,圧入工事後の工事の態様を説明している。また,1頁下2行?3頁下7行に,自らが圧入工事を担当したが如き陳述をなしており,その信憑性には大いに疑問があるところである。
しかも,乙第3号証の1頁下1行?3頁22行の陳述内容には,詳しい立証もなく,その信憑性には大いに疑問があり,採用の限りでない。
他方,乙第3号証の2頁19行?3頁15行に記載されているように「コンクリートと思われる障害物に衝突し」「鋼矢板2枚分は障害物を打ち抜く」こととしたと被請求人らは認めている。
したがって,本件滝の川工事は,地中の護岸基礎の「コンクリート層を直接打ち抜いた工事」であること自体,揺るがない事実である。
また,後述するように,情報の公開法に基づく開示請求者は,本件滝の川工事が,地中の護岸基礎の「コンクリート層を直接打ち抜いた工事」であると想定してもなんら不自然ではない。(第2頁第12行?第4頁第8行)

(b)甲第7号証の1?甲第7号証の4について
本件滝の川工事の竣功図を,甲第7号証の1?甲第7号証の4として追加提出する。
竣功図の平面図,各断面図(No.35+10,No.36+10,No.37(No記載漏れ),No.38)を提出する。
その各断面図において「護岸コンクリート」の実態が明記されている。甲第7号証の4下段のNo.38は工事区間の外であり,護岸の基礎コンクリートが省略されて護岸が浮いたようになっている。護岸の構造体として明らかに地中にあるべき既設護岸の基礎部分(根固めコンクリート)の全体像は省略されている。すなわち,既設護岸の基礎部分(根固めコンクリート)が図示されていないということは,省略のまま図示したものと考えるのが妥当である。
なお,工事区間の断面図はほぼ10m間隔になっており,詳細をみると,甲第7号証の2でNo.35+10の断面が,甲第7号証の3でNo.36+10の断面が,甲第7号証の4の上段でNo.37(No記載漏れ)の断面が図示されているものの,既設護岸の基礎部分は同様に省略のまま図示されている。
甲第7号証の4には,土質柱状図が併記されており,そのN値はほぼゼロであることから,既設護岸は非常に軟弱な地盤に設置されていたことが明らかとなっている。既設護岸が直接支持できないような不良な地盤に設置されている場合,当事業者において,既設護岸が堅固で幅広なコンクリート基礎等によって支えられていることは,常識的に判断できるのである。
したがって,No.38の断面図と同様に既設護岸の基礎部分(根固めコンクリート)が図示されていないとしても,当該事業者の観察者は竣功図から既設護岸の基礎部分(根固めコンクリート)に鋼矢板を圧入していると理解するのが相当である。この事実は,乙第3号証3頁2行?4行「白いもやの様に見えるのは,コンクリートと思われる障害物を削ったために発生した粉体と考えます」,乙第3号証3頁14行?15行「鋼矢板2枚分は障害物を打ち抜くことになりました」との記載からも裏付けられる。(第4頁第9行?第5頁第12行)

[証拠方法]
(1)甲第1号証(甲第1号証の1?甲第1号証の6)
技研製作所(被請求人の一人)のHP(ホームページ)「硬質地盤 クリア工法」,その実施に関する写真,図面
(2)甲第2号証:特開平6-240672号公報
(3)甲第3号証:特開2003-138563号公報
(4)甲第4号証:特開2001-214434号公報
(5)甲第5号証:特開平9-31935号公報
(6)甲第6号証(甲第6号証の1?甲第6号証の5)
「株式会社 技研施工」HP(ホームページ)「貫入技術」中の「パ イルオーガ併用圧入」
(7)甲第7号証の1?甲第7号証の4
滝の川工事の竣工図面
(8)甲第8号証:実公平6-21962号公報
(9)甲第9号証:特開2002-348870号公報

2 被請求人の主張の概要
被請求人は,平成25年6月7日付け審判事件答弁書,同年8月26日付け口頭審理陳述要領書,同年9月2日付け上申書,同年9月9日の口頭審理において,本件審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求め,請求人の主張する無効理由に対して以下のように反論した。

(1)無効理由その1に対して
請求人が主引例とする「準用河川滝の川補修工事」(以下「本件滝の川工事」という)に適用された「硬質地盤クリア工法」は,鋼管杭や鋼管矢板よりも圧入の容易な(強度は劣る)鋼矢板を圧入しながら,既設の鋼矢板上にオーガ装置を設置する,オーガ掘削と圧入を併用した工法であり(甲第1号証の6),本件発明1の回転圧入とは根本的に異なっている。
請求人が主張するとおり,既設の鋼管杭上に回転圧入装置を設置するという手段は公知であった(甲第2号証,甲第3号証)。
しかし,甲第2号証は鋼管矢板等の吊込機構に関する出願であって,圧入方法について特に記載されてはいない。また,甲第3号証には,硬質地盤の掘削について,何の記載も示唆もない。同号証は,従来技術の軟らかな地盤への適用を前提とする圧入のみによる装置について回転を加えて圧入を容易にすることを記載しているに過ぎない。
本件発明とは異なる方式(ケーシング回転掘削機とハンマーグラブを併用)による鋼管杭の回転圧入の公知文献である甲第4号証の【0016】段落に,「鋼管杭の下端部1c(図3参照)は回転掘削できるようにノコギリ状に形成されている。なお,軟弱地盤ではフラット(ノコギリ状の形成がないもの)のものを用い,硬質地盤では図3の右図に示すようにケーシング掘削で用いられるビット1dが取り付けられたものを使用する」と記載されているとおり,硬質地盤を想定していない甲第3号証ではフラットな鋼管杭の使用しか考えられていないのである。
(答弁書第4頁第23行?第5頁第14行)

(a)本件滝の川工事について
請求人が主引例とする本件滝の川工事につき,請求人の主張には技術的な誤りがあるので,工事内容について説明する。
なお,そもそも,本件滝の川工事に関する請求人の主張内容が,公知であるとの立証がなされていない。甲第1号証の4及び甲第6号証の5はいずれも公知文献ではなく,被請求人である株式会社技研製作所及びその子会社である技研施工のホームページ上に,2012年から公開されている事項である。
本件滝の川工事の施工時期は甲第1号証の4に記載されているとおりであるが,後述のとおり,本件滝の川工事はコンクリート護岸を直接打ち抜いた工事ではなかったし,本件滝の川工事の工事現場を見た第三者が存在したとしても,コンクリート護岸を直接打ち抜いた工事であると認識することはなかったものである。(答弁書第7頁第17行?第8頁第1行)
甲第6号証の5の「施工断面図」には,推測に基づいて地中にコンクリート層が存在するとの想定図が記載されているが,第三者が外部から工事を観察しても地中の状態は一切分からないし,そもそも圧入工事全体としてみれば,鋼矢板58枚中の2枚がやむを得ず障害物を打ち抜いたにすぎないので,コンクリートを直接打ち抜く方式の工事を公知とすることは,誤りである。
本件滝の川工事は,コンクリート壁の後方(陸側)に,アースオーガを併用して先行掘削も行いながら鋼矢板の壁面を形成した後に,土台部分には手を付けずに,土台部分上のコンクリート壁を全体的に除去し,鋼矢板圧入位置に新たなコンクリート壁を形成した工事とみるべきである。
アースオーガにより地盤を先行掘削したうえで鋼矢板の圧入をした工事であり,そして,コンクリートを避けた位置に鋼矢板の壁面を形成したという意味で,本件発明1とは全く異なる内容である。(答弁書第12頁第23行?第13頁第9行)

(b)甲1発明の認定誤り
甲1発明として本件発明と対比される公知発明は,甲第1号証(甲第6号証)の記載そのものではなく,同証拠に記載されている本件滝の川工事を,工事の当時に見聞した第三者が認識し得た内容であることを明確にしなければならない。
上記のとおり,甲第1号証の4(28頁)の本件滝の川工事において,護岸コンクリートを打ち抜いているように見える図は,(下部想定)と明記されているように,想定図であって,実施された工事そのままの図ではない。しかも,仮にこのような状態を生じたとしても,58枚の鋼矢板のうち,2枚のみにつき偶発的に生じたことであって,本件滝の川工事は,全体として既存コンクリート護岸に該当するコンクリート壁を回避して,その陸側に鋼矢板壁を設置する工事であった。したがって,本件滝の川工事は,その全内容が公知となったとしても,コンクリート護岸を打ち抜いた工事ではない点が,本件発明との明確な相違点となる。
しかも,上記は客観的事実としてこうであったということであり,工事現場を例えば河川の対岸から見聞した第三者には,コンクリート護岸の後ろ側で鋼矢板の圧入作業が行われていたこと以外を知ることはできなかった。
例えば,本件特許明細書図2や図4のような工事であれば,対岸から見てもコンクリート護岸を打ち抜いていることが認識できたであろう。しかし,本件滝の川工事において,たまたま偶発的に地中の障害物に衝突したとか,その障害物がコンクリート護岸の一部であるコンクリート層と推測できたか否かなどは,認識できるはずがないのである。
すなわち,請求人主張の相違点の他に,下記相違点Aが存在する。
<相違点A>
甲1発明は,「コンクリート護岸の後方(陸側)に鋼矢板を圧入して鋼矢板列を構築」するのに対し,本件発明1は「鋼管杭を回転圧入してコンクリート護岸を打ち抜いて連続壁を構築」する点。
(答弁書第19頁第17行?第20頁第17行)

(c)相違点と甲第2号証?甲第5号証の関係
(c-1)相違点Aについて
鋼管杭列をコンクリート護岸の位置に設けるという本件発明の特徴点が,甲1発明には存在しない。
甲第1号証の4及び甲第6号証は,それ自体が公知文献ではなく,本件滝の川工事が公然実施の公知技術となる可能性を示唆しているにすぎない。
そして,本件滝の川工事は,事実として改修されるコンクリート護岸を鋼管杭で打ち抜いて鋼管杭列を構築した工事ではなく,まして本件滝の川工事につき第三者が認識し得た事実として,そのような工事であることを推測する根拠も存在しなかった。
コンクリート護岸を鋼管杭で打ち抜く工法については,甲第2号証?第5号証には何の示唆もない。
甲第2号証?第4号証は,コンクリート護岸の改修と何の関係もない。甲第5号証はコンクリート護岸の改修に関係する公知文献ではあるが,既存コンクリート護岸の後ろ側(陸側)に鋼管矢板壁を設け,その鋼管矢板壁を足場として,重機を置くための構台を設け,構台上の破砕機を使用して,既存の護岸を破砕除去したという内容であって,本件発明を示唆するところはない。
相違点Aに想到することが困難である以上,その余の点を検討するまでもなく,本件発明の想到容易性は否定される。
(答弁書第22頁第24行?第23頁第12行)

(c-2)鋼管杭列圧入方法に関する相違点1及び2について
硬質地盤を打ち抜く手段自体の問題としても,甲1発明のアースオーガによって予め掘削した地盤に鋼矢板を圧入する方法に代えて,アースオーガやハンマーグラブを使用しない鋼管杭の回転圧入法を試みることは,成功の可能性を示唆するものがなく,動機付けが存在しないのである。
まして,甲第1号証(甲第6号証)からは公知と認められない,コンクリート護岸を直接打ち抜く工法に想到した上で,その手段として単なる回転圧入工法を適用しようという発想が生ずるはずはないのである。
(答弁書第24頁第29行?第25頁第5行)

(c-3)河川側のコンクリート護岸残存物の除去に関する相違点3について
上述のように,本件発明におけるコンクリート護岸残存物の除去の構成要件の技術的意義は,コンクリート護岸を打ち抜くという構成要件と一体的に評価されるべきである。
(答弁書第25頁第6行?第9行)

(d)本件発明1に関するまとめ
以上のとおり,請求人主張の無効理由は,相違点Aを看過しており,また圧入方法自体についても,アースオーガを使用する鋼矢板の圧入工法に代えて,アースオーガもハンマーグラブも使用しない回転圧入工法をコンクリート護岸に適用することは想到困難であるから,甲1発明に,甲第2号証?第4号証を適用しても,当業者は本件発明1に容易に想到しえない。
(答弁書第25頁第18行?第23行)

(2)無効理由その2,3に対して
基本となる本件発明1が進歩性を有するのが明らかな以上,本件発明3及び4も進歩性を有する。
(答弁書第25頁第24行?第26行)

(3)陳述要領書での主な主張
被請求人は,「6.1 本件発明と従来技術の相違」において,本件発明(第4105076号)等を用いた「ジャイロプレスエ法」(乙第1号証)と,従来技術である「硬質地盤クリアエ法」(甲第1号証の4)を比較して,相違点やそれに伴う利点について陳述した。
(1)審理事項通知書5頁においては,甲第1号証の4及び甲第6号証の5の「施工計画図」から,護岸コンクリートを削孔して鋼矢板を圧入している点が把握できると認定している。しかし,この質問で問題とされるのは,公然実施が主張されている本件滝野川工事の内容であると解されるところ,審判事件答弁書で述べたとおり,技研施工は実際の状況を把握しておらず,上記「施工計画図」も推測に基づいて記載したのであり,まして仮に工事現場を見た第三者が存在したとしても,護岸コンクリートを打ち抜いた工事であると認識することは無かった。(第9頁第17行?第24行)

(4)上申書での主な主張
(a)追加提出された「竣功図」(甲第7号証の1?4)について
請求人は,追加提出された「竣功図」(甲第7号証の1?4)の記載内容によれば,本件滝の川工事が「コンクリート層を直接打ち抜いた工事」であったと理解される旨主張しているが,誤りである。同竣功図は,本件滝の川工事の開始時点における地中のコンクリートの状態を示していない。
本件滝の川の工事区間において,鋼矢板の圧入がなされたのは,甲第7号証の1に記載されたとおり,B区間とC区間(No.35+12.521地点?No.37+2.681地点)の約30mである(当該「No.」は,河口から上流に向かって20m毎に設定された,河川の地点を表す番号)。
請求人も認めるように,甲第7号証の4の下段であるNo.38地点は,鋼矢板の圧入工事の区間外である。No.38地点において,地中には何も図示されていなかったのは,既設護岸のコンクリート部分がどのような構造であったか,把握できていなかったためであると推察される。
甲第7号証の4の上段であるNo.37地点は,鋼矢板の圧入工事の区間内であるところ,右側に「土質柱状図」が記載されている。当該「土質柱状図」では,地表から4m程度まではN値も非常に小さいと記載されており,他方,既設護岸のコンクリート部分の存在には,一切触れられていない。
すなわち,No.37地点の図面及び「土質柱状図」からは,鋼矢板の圧入位置は既設護岸のコンクリート部分を避けていると理解するのが自然である。
なお,甲第7号証の4の上段で,No.37地点に「間詰めコンクリート(18N)/mm^(2))」と記載されているのは,既設護岸のコンクリートブロックを撤去した後に,鋼矢板前面の露出した基礎地盤を被覆するために,新たに打設するコックリート層の意味である(18N/mm^(2)とは打設するコンクリートの強度を示す)。甲第7号証の2の上段の「基礎コンクリート(18N)/mm^(2))」も同様の意味であり,鋼矢板で地中のコンクリート層を打ち抜くことを示すものではない。すなわち,この図からは,工事前の時点で,コンクリートが存在していたかどうか,存在していたとしてもどの位置にコンクリートが存在していたかを知ることはできない。
高裁判決(参考資料2)10頁3?20行においても,「竣功図」(本件甲第7号証の1?4/侵害訴訟の乙第74号証の3?6)の記載をもってしても,本件滝の川工事について,地中で行われている工程については外見からは知ることはできず,地中で行われる工程について公然と実施されたとまでは認められないと判断された。
以上のとおり,竣功図を参照しても,本件滝の川工事において既存護岸のコンクリート層を打ち抜くエ事が行われたとの認識は生じない。
なお,いうまでもないことであるが,竣功図が公知となるのは,現実に申請により開示がなされた時点であって,本件特許出願前に申請がなされたとの立証はないのであるから,竣功図が公知資料であることを前提とする主張は成り立たない。
(第2頁第18行?第4頁第11行)

[証拠方法]
(1)乙第1号証:ジャイロプレスエ法(被請求人らのパンフレット)
(2)乙第2号証:施工計画書(被請求人技研/本件滝の川工事での圧入工 事に関する部分)
(3)乙第3号証:陳述書(被請求人技研従業員 木村育正)
(4)乙第4号証:鋼管矢板工法一鋼管矢板圧入標準積算資料-,〈陸上施 工〉,【平成16年度版】(全国圧入協会)
(5)乙第5号証:地盤調査法(表紙,192?207頁,奥付を抜粋)
(6)乙第6号証の1:回転式ケーシングドライバ(日立住友重機械建機ク レーン株式会社のパンフレット)
乙第6号証の2:ケーシングドライバ:環境適合製品リスト・データ シート:日立(日立製作所のホームページ)
(7)乙第7号証:鋼管矢板硬質地盤クリア工法 新桜ケ丘外回り拡張工事 その2(被請求人技研のホームページ)
(8)乙第8号証:硬質地盤クリア工法-鋼矢板圧入標準積算資料-【平成 20年度版】(表紙,目次,1?7頁,13?15頁,奥付を抜粋)
(9)参考資料1:平成25年9月9日口頭審理の被請求人側説明資料
(10)参考資料2:平成25年(ネ)第10012号判決

第4 無効理由についての判断
1 無効理由その1に対して
(1)本件滝の川工事について
請求人は,本件滝の川工事に係る発明を,甲第1号証及び甲第6号証に記載された発明(甲1発明)として,構成要件ごと分説すると次のとおりである,としている。
「a.鋼矢板を圧入できる鋼矢板杭圧入装置を用いて,
b.先端にビットを備えたオーガヘッドを有するオーガスクリューを
c.コンクリート護岸を打ち抜き,オーガスクリューを引抜きながら鋼矢 板をコンクリート護岸に圧入して鋼矢板杭列を構築し,(施工断面図で は,コンクリート護岸を打ち抜いている形態が表されており,そもそも 「硬質クリア工法」では,オーガヘッドを有するオーガスクリューと鋼 矢板とを併用する工法であるから,オーガスクリューでコンクリード護 岸を打ち抜いて,オーガスクリューを引抜きながら鋼矢板をコンクリー ト護岸に圧入するものと認められる。)
d.この鋼矢板杭列から反力を得ながら,(「硬質クリア工法」の4頁に おける,サドルのクランプにより鋼矢板杭頭部をクランプしている形態 の図示などにより明らかである。)
e.上記鋼矢板杭列に連続して上記オーガヘッドを有するオーガスクリュ ーを回転させつつ,コンクリート護岸を打ち抜いて,鋼矢板を圧入して 鋼矢板連続壁を構築する,
g.護岸の連続構築方法。」

しかしながら,被請求人の「甲1発明として本件発明と対比される公知発明は,甲第1号証(甲第6号証)の記載そのものではなく,同証拠に記載されている本件滝の川工事を,工事の当時に見聞した第三者が認識し得た内容であることを明確にしなければならない。」との主張のとおり,本件発明と対比される発明は,甲第1号証(甲第6号証)の記載そのものではなく,甲第1号証に係る滝の川工事で実施された施工方法に係る発明とするものである(以下,「滝の川工事発明」という。)。

(1-1)公然実施・公知について
請求人は,特に上記構成要件c.「コンクリート護岸を打ち抜き,オーガスクリューを引抜きながら鋼矢板をコンクリート護岸に圧入して鋼矢板杭列を構築し」及び構成要件e.「上記鋼矢板杭列に連続して上記オーガヘッドを有するオーガスクリューを回転させつつ,コンクリート護岸を打ち抜いて」に関し,「被請求人らの最大の主張は,そもそも本件滝の川工事の『コンクリート層を直接打ち抜いた工事』であるとの立証がなされていないということである(被請求人ら答弁書,12頁下4行?13頁2行)。しかし,本件滝の川工事については,目視を妨げる格別な障害物(背の高い強固なフェンスで囲まれているわけではない。)が存在するわけでもなく,単純に対岸の比較的近く場所から工事の始終を観察できる環境にある。」と主張する。
しかしながら,滝の川工事で実施された施工方法の一部である「コンクリート層を直接打ち抜いた工事」は地中で行われているものであって,対岸の比較的近く場所から工事の始終を観察できる環境にあったとしても,外見からはどのような工事が行われているかは判然としない。
また,請求人は,「甲第6号証の5によれば,現場の状況として,長い鋼矢板(11.5m)を圧入しているのであるから,観察者は,その長い鋼矢板の下端が河川底よりかなり深く圧入されたものであることは,当然に観察中にも,素直に理解することは明らかである。」とも主張するが,長い鋼矢板(11.5m)を圧入していることをもってして,「コンクリート層を直接打ち抜いた工事」が地中で行われているものとはいえない。
さらに,請求人は,陳述要領書において,本件滝の川工事の竣功図を,甲第7号証の1?甲第7号証の4(竣功図:竣功図面として同じであるものの,甲第1号証の6のその1及びその2の複写部分と異なる部分の複写図面)として追加提出し,「情報の公開法に基づく開示請求者は,本件滝の川工事が,地中の護岸基礎の「コンクリート層を直接打ち抜いた工事」であると想定してもなんら不自然ではない。」と主張する。
これらの甲第7号証の2の竣工図からは「鋼矢板の河床側に基礎コンクリート(18N/mm^(2))があること」,あるいは甲第7号証の4からは「鋼矢板の河床側に間詰めコンクリート(18N/mm^(2))があること」が理解でき,「基礎コンクリート」及び「間詰めコンクリート」を表す上下の水平の線と鋼矢板を表す線が交差して描かれており,両コンクリートを表す線は鋼矢板の継手部分である中心線まで伸びていることがみてとれる。
次に,請求人は,「甲第7号証の4には,土質柱状図が併記されており,そのN値はほぼゼロであることから,既設護岸は非常に軟弱な地盤に設置されていたことが明らかとなっている。既設護岸が直接支持できないような不良な地盤に設置されている場合,当事業者において,既設護岸が堅固で幅広なコンクリート基礎等によって支えられていることは,常識的に判断できるのである。したがって,No.38の断面図と同様に既設護岸の基礎部分(根固めコンクリート)が図示されていないとしても,当該事業者の観察者は竣功図から既設護岸の基礎部分(根固めコンクリート)に鋼矢板を圧大していると理解するのが相当である。」と主張する。しかしながら,甲第7号証の1?甲第7号証の4は竣功図であり,本件滝の川工事の竣功後,すなわち工事が終了した段階で,鋼矢板の河床側に基礎コンクリート及び間詰めコンクリートが存在することは理解できるが,工事の途中で,既存のコンクリート層,基礎コンクリート及び間詰めコンクリートを打ち抜いたかどうかはわからないと解するのが相当である。
そうすると,甲第7号証の1?甲第7号証の4からは,「コンクリート層を直接打ち抜いた工事」であると想定することができるとまではいえない。





また,当審は審理事項通知書で,「請求人は,上記工事が公然実施されたことについて明らかにする意思がありましたら,そのために必要な人物を特定して証人尋問を申請するなどして,甲1発明が公然に実施された発明であることが理解できるように詳しく説明してください。」としたが,口頭審理において,請求人は,適切な証人がいなかったとして,証人尋問を申請しなかったため,これによっても「コンクリート層を直接打ち抜いた工事」が公然実施されたとは認められない。

(1-2)小括
そうすると,甲第7号証の1?甲第7号証の4の竣工図の記載をもってしても,本件滝の川工事のうち,地中で行われている工程については,外見からは知ることができず,地中で行われる工程については公然と実施したとまでは認められない。
したがって,本件発明1は,滝の川工事発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。
よって,無効理由その1は理由がない。

(2)甲各号証について
上記のとおり,甲第1号証に係る滝の川工事の地中で行われる工程については本件特許出願前に公然実施,又は公知であることが認められなかったが,認められた場合を想定して,念のため,甲各号証による進歩性についても検討しておく。

(2-1)甲各号証の記載事項
なお,以下の記載において,下線は当審において付与した。

(2-1-1)甲第1号証(甲第1号証の1?甲第1号証の6)技研製作所のHP(ホームページ)「硬質地盤クリア工法」,その実施に関する写真,図面
請求人が証拠として提示した,甲第1号証(甲第1号証の3は除く)及び甲第6号証は,「甲第1号証の1」等の右下に印字された「2013/03/18」により,株式会社技研製作所及び株式会社技研施工のHP(ホームページ)から,それぞれ平成25年3月18日に印刷された印刷物と認められ,本件特許出願前に公知である文献とは認められない。
甲第1号証には,次の記載がある。
(1a)「多くの長所をもつ優れた圧入工法の唯一の弱点,それが硬質地盤への圧入です。この克服が業界の永年の懸案事項でした。特に玉石混りの砂礫層辛岩盤などの硬い地盤の場合は単独圧入ではもちろんのこと,ウォータージェット併用工法でもほとんど効果は期待できません。」(甲第1号証の4,□はじめに,第1行?第3行)
(1b)「玉石混りの砂礫層や岩盤などの硬質地盤に鋼矢板を打設する場合,掘削機と杭打機の2種類の大型機械を用いて作業を行うのが一般的ですが,この工法では工期・工費に問題があり,環境への悪影響も甚大,安全性にも難点があります。そこで,これらのマイナス面をすべて克服すべく開発されたのが「硬質地盤クリア工法」です。鋼矢板とオーガを連動させながら圧入することで騒音・振動を最小限に抑え,圧人機本体も軽量・コンパクトなので周囲への威圧感もなく高い安全性を誇ります。また,従来工法では困難とされた傾斜地や水上での施工も可能となり,システム技術による仮設レス化で環境負荷を大幅に低減させました。」(甲第1号証の4,第1頁,「工法概要」,第1行?第6行)
(1c)「『岩盤用3条』のオーガヘッド(ビットと呼ぶことができる)が用意されていることがみてとれる。」(甲第1号証の4,第3頁,「適用地盤」,□各種オーガヘッド,岩盤用3条)
(1d)「施工機械としては,『スーパークラッシュパイラー』と銘々されているように,ケーシング内に,先端にオーガヘッドを有するオーガスクリューが設けられ,ケーシングをチャックしつつ,オーガ駆動部によりオーガスクリューを駆動するものであることがみてとれる。 」(甲第1号証の4,第4頁,「施工機械」,□スーパークラッシュパイラー(各部名称))
(1e)「施工手順として,甲1の4,第9頁に,圧入機に鋼矢板を建込み,ケーシングオーガで掘削し,鋼矢板とオーガを連動させながら圧入するものであることがみてとれる。具体的な施工手順が,第14頁?16頁に記載され,当初は反力架台を設置して,5?6枚の鋼矢板を初期圧入した後,反力架台を撤去し,鋼矢板群に『スーパークラッシュパイラー』をチヤックし,ケーシングオーガ(パイルオーガ)で掘削し,鋼矢板とオーガを連動させながら圧入することを繰り返すものであることがみてとれる。」(甲第1号証の4,第9頁,第14頁?16頁)
(1f)「●護岸改修工事(既設護岸のコンクリートを削孔,障害物撤去が不要)
工事名:準用河川滝の川補修工事
施工場所:神奈川県横浜市神奈川区
施工期間:H13.9?H13.10
矢板形式:鋼矢板V_(L)型
矢板長:11.5m
▼施工断面図には,スーパークラッシュを用いて護岸コンクリート(下部想定)を鋼矢板V_(L)型が打ち抜いていることがみてとれる。」(甲第1号証の4,第28頁,下欄)

ここで,乙第3号証は,被請求人株式会社技研製作所の従業員が,実際施工した子会社株式会社技研施工による工事を,工事当時の資料と関係者からの聞き取りなどの調査結果に基づき陳述したものであるが,鋼矢板の圧入は全部で58枚圧入する計画で,31枚目か32枚目の鋼矢板を圧入する段階で,コンクリートと思われる障害物に衝突し,鋼矢板2枚分は障害物を打ち抜くこととした点が記載されている(第2頁第19行?第3頁第15行)
したがって,本件滝の川工事は,乙第3号証から,58枚の鋼矢板のうち,2枚分の区間,すなわち一部の区間のコンクリート護岸は削孔したと理解することができ,甲第1号証及び甲第6号証に記載された滝の川工事の発明(上記したとおり,滝の川工事発明という)は,以下のとおりのものと認められる。

「鋼矢板を圧入できる鋼矢板杭圧入装置を用いて,
鋼矢板をコンクリート護岸の後方に圧入して鋼矢板杭列を構築し,
この鋼矢板杭列から反力を得ながら,
上記鋼矢板杭列に連続して先端にビットを備えたオーガヘッドを有するオーガスクリューを回転させつつ,一部の区間のコンクリート護岸は削孔して,鋼矢板を圧入して鋼矢板連続壁を構築する,
護岸の連続構築方法。」

(2-1-2)甲第2号証:特開平6-240672号公報
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には,次の記載がある。
(2a)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし,狭隘地,水上等の作業箇所においては,杭圧入引抜機を設置しても上述のようなクレーンを進入させることができず,杭を吊上げて移動させることができないという不都合が生じていた。かかる不都合を是正すべく,本件出願人は,杭圧入引抜機と同様に杭上で自力走行できる吊込装置を提案している。ところがこの場合,図6に示すように,まず杭圧入引抜機Kが最前列,次に油圧ユニット21,次に吊込装置22という機械の配列となる。」
(2b)「【0019】なお,本実施例は,適用する杭を鋼管矢板Pとしたが,他の杭,例えば鋼矢板やコンクリート矢板等にもクランプ12,13の形状を変更することで適宜対応することができる。特に鋼矢板の場合には,自力走行にあたって,隣接する鋼矢板のフランジ間の幅以上にそのクランプを大きく開放させることで適用することができる。また,本実施例では運転台を備えているがこれを省略して無人化し,種々の油圧操作をリモートコントロールにより行うようにしてもよい。」

(2-1-3)甲第3号証:特開2003-138563号公報
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証には,次の記載がある。
(3a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,既設の杭から反力を取って地中に杭を圧入する杭圧入装置に設けられるチャック装置,このチャック装置を備える杭圧入装置,および,この杭圧入装置を用いた杭圧入工法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より,鋼管杭壁の構築に用いられる装置として,既設の鋼管杭から反力を取って地中に鋼管杭を圧入する杭圧入装置が知られている。このような杭圧入装置には,既に打ち込まれた鋼管杭をつかむクランプと,地中に圧入する鋼管杭をつかんで支持するチャックが設けられている。前記クランプにより既設の鋼管杭をつかんで反力をとった状態で,圧入する鋼管杭をつかんだ状態のチャックを降下させることによって,鋼管杭を地中に圧入できるようになっている。」
(3b)「【0005】請求項1記載の発明によれば,チャック装置は前記チャック手段と前記回転手段とを備えるので,杭がつかまれた状態のチャック手段を回転手段が少なくとも一つの回転方向に連続的に回転させると,前記杭が少なくとも一つの回転方向に連続的に回転する。したがって,杭圧入装置により既設の杭から反力を取って地中に杭を圧入する際に,請求項1記載のチャック装置によって,杭を少なくとも一つの回転方向に連続的に回転させながら地中に圧入できる。これにより,杭圧入時の抵抗力を軽減して杭の圧入を補助できるので,より効率よく杭を圧入することができる。また,杭圧入時の抵抗力を軽減できるので,外周に羽根や突条などが設けられた回転鋼管杭などであっても,容易に地中に圧入することができる。」
(3c)「【0024】次に,以上の構成の杭圧入装置1により鋼管杭Pを地中に圧入する杭圧入工法について説明する。杭圧入装置1は,図示しないクランプにより既設の鋼管杭をつかんで既設の鋼管杭から反力を取った状態で,新たな鋼管杭Pを圧入する。」
(3d)【0037】また,図1においては,外周に羽根などが設けられていない回転鋼管杭Pを図示しているが,図1に示す鋼管杭Pに限らず,羽根や突条などが外周に設けられた鋼管杭を地中に圧入するのに杭圧入装置1を使用するものとしてもよい。」

(2-1-4)甲第4号証:特開2001-214434号公報
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第4号証には,次の記載がある。
(4a)「【0013】本発明の鋼管杭壁の施工においては,ケーシング回転掘削機を使用するが,このケーシング掘削機はケーシングを把持して回転させつつ地中へ押し込むもので,場所打ち杭に使用される公知の施工機である。断面C型の継手の打設は,油圧ハンマやバイブロハンマによってもよいし,ケーシング回転掘削機に押込み用のアタッチメントを付設して,押込みのシリンダを作動させて行ってもよい。」
(4b)「【0016】鋼管杭は,この例では図1に示すように,断面が円筒で,長手方向へ円周上2カ所に,内側へ円弧状に凹む継手係合部1a,1bが設けられている。そして,鋼管杭の下端部1c(図3参照)は回転掘削できるようにノコギリ状に形成されている。なお,軟弱地盤ではフラット(ノコギリ状の形成がないもの)のものを用い,硬質地盤では図3の右図に示すようにケーシング掘削で用いられるビット1dが取り付けられたものを使用する。」
(4c)「【0021】軟弱地盤では押込みのみで建て込むことができるが,一般および硬質地盤では鋼管の下端に取り付けられたビット1d(図3参照)で地盤を掘削し,ハンマグラブ30などで鋼管内の土を掘削しながら掘進させる。鋼管杭1が所定深さまで建込まれたら,継手係合部1a,1bが施工の基準線上に向くように位置させる(図2(a))。なお,鋼管内の土を掘削した場合は,掘削土を鋼管内へ埋め戻してもよい。」
(4d)「【0026】また,本発明の鋼管杭壁の施工方法は,ケーシング回転掘削機で回転圧入して施工され,軟弱地盤では圧入のみで作業できるので騒音振動が少なく,さらに硬い地質や転石・玉石の多い地質あるいは地中に障害物がある場合でも,鋼管下端のビットで地盤を掘削し鋼管内を掘削することにより,十分鋼管杭を建て込むことができるので,予め土の置換施工を行う必要がなく,施工工期を短縮できる。」

(2-1-5)甲第5号証:特開平9-31935号公報
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第5号証には,次の記載がある。
(5a)「【0021】このようにして形成した二層河川は,上段の河床に土壌,玉石等を配置し,自然豊かな親水機能を有する人工河川として常時水を流しておき,下段は洪水時専用の地下河川とすることにより,洪水対策ならびに環境改善を同時に実現することができる。
実施例3
本発明の都市河川改修工法の第3の実施例として,河川の拡幅を行う場合を図12,13により説明する。
【0022】このケースでは,拡幅する護岸の位置に合わせて,既存の河川の背面に鋼管矢板壁を構築することが必要である。この鋼管矢板壁を,十分な支持力のあるものとすれば,実施例1,2におけるごとき腹起こしや切梁の取り付けを省略し,鋼管矢板壁1の頂部に直接走行レール6を取り付けることができる。図12は,既存の護岸の外側に鋼管矢板壁1を構築し,その頂部に取り付けた両岸の走行レール6にまたがって移動構台7を載置し,この上から作業を行っている状況を示す。たとえば,河川の上流側または下流側へ向かって鋼管矢板壁を延長する作業は,この移動構台7上に載置したクレーンCを使用して行うことができる。なお,前記鋼管矢板壁を鋼管杭やH形矢板またはH形杭に変更してもよい。
【0023】図13は,移動構台7上のコンクリート破砕機により既存の護岸Pを解体し,パワーショベルによってこれを搬出している状況を示している。既存の護岸Pを撤去し,内部地盤の掘削を行い,鋼管矢板壁1を新たな護岸として拡幅を完了する。この実施例でも,このように河川上空を作業基地として有効利用して改修工事を行うことができる。」

(2-2)対比
本件発明1と滝の川工事発明とを対比する。
滝の川工事発明の「鋼矢板」及び「鋼矢板杭圧入装置」と,本件発明1の「鋼管杭」及び「鋼管杭圧入装置」とは,それぞれ「鋼材」及び「鋼材圧入装置」で共通する。
次に,滝の川工事発明の「鋼矢板をコンクリート護岸の後方に圧入して鋼矢板杭列を構築し」と,本件発明1の「先端にビットを備えた切削用鋼管杭をコンクリート護岸を打ち抜いて圧入して鋼管杭列を構築し」とは,「鋼材を圧入して鋼材杭列を構築し」で共通する。
そして,滝の川工事発明の「鋼矢板杭列に連続して先端にビットを備えたオーガヘッドを有するオーガスクリューを回転させつつ,一部のコンクリート護岸は削孔して,鋼矢板を圧入して鋼矢板連続壁を構築する」と,本件発明1の「鋼管杭列に連続して上記切削用鋼管杭を回転圧入してコンクリート護岸を打ち抜いて連続壁を構築し」とは,「鋼材杭列に連続して切削機材で,一部のコンクリート護岸を削孔して,鋼材を圧入して鋼材連続壁を構築する」で共通する。

したがって,両者は以下の点で一致する。

<一致点>
「鋼材を圧入できる鋼材圧入装置を用いて,
鋼材を圧入して鋼材杭列を構築し,
この鋼材杭列から反力を得ながら,
上記鋼材杭列に連続して切削機材で,一部の区間のコンクリート護岸は削孔して,鋼材を圧入して鋼材連続壁を構築する,
護岸の連続構築方法。」

そして,本件発明1と滝の川工事発明とは,次の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1は「鋼管杭を回転圧入できる鋼管杭圧入装置」であるのに対し,滝の川工事発明は「鋼矢板を圧入できる鋼矢板杭圧入装置」である点。
<相違点2>
本件発明1は「先端にビットを備えた切削用鋼管杭をコンクリート護岸を打ち抜いて圧入して鋼管杭列を構築」するのに対し,滝の川工事発明は「鋼矢板をコンクリート護岸の後方に圧入して鋼矢板杭列を構築」するものである点。
<相違点3>
本件発明1は「上記鋼管杭列に連続して上記切削用鋼管杭を回転圧入してコンクリート護岸を打ち抜いて連続壁を構築し」ているのに対し,滝の川工事発明は,「上記鋼矢板杭列に連続して先端にビットを備えたオーガヘッドを有するオーガスクリューを回転させつつ,一部のコンクリート護岸は削孔して,鋼矢板を圧入して鋼矢板連続壁を構築する」ものである点。
<相違点4>
本件発明1は「鋼管杭列の河川側のコンクリート護岸と土砂を除去する」のに対し,滝の川工事発明は,連続壁を構築した後の処理形態が不明である点。

(2-3)判断
<相違点1について>
甲第2号証には,記載事項(2b)に記載されているように,杭列に適用する杭の「鋼矢板杭と鋼管矢板杭の置換可能性」が教示されている。
甲第3号証には,既設の杭から反力を取って地中に鋼管杭を回転圧入する「鋼管杭回転圧入装置」が記載されている。
甲第4号証には,鋼管杭壁の施工は,ケーシング回転掘削機で回転圧入して施工され,硬い地質や転石・玉石の多い地質あるいは地中に障害物がある場合でも,鋼管下端のビットで地盤を掘削する「鋼管杭回転圧入装置」が記載されている。
次に,滝の川工事発明は「鋼矢板を圧入できる鋼矢板杭圧入装置を用いて」と記載されているように,鋼矢板を圧入するものであって,杭列は鋼矢板を対象として圧入することが前提となっている。そうすると,甲第2号証の「鋼矢板杭と鋼管矢板杭の置換可能性」を教示があったとしても,滝の川工事発明の,回転させずに圧入のみを想定している「鋼矢板杭圧入装置」に換えて,甲第3,4号証の回転圧入する「鋼管杭回転圧入装置」を適用して相違点1に係る構成とすることはできない。

<相違点2について>
本件発明1は「先端にビットを備えた切削用鋼管杭をコンクリート護岸を打ち抜いて圧入して鋼管杭列を構築」することが前提となっているのに対し,滝の川工事発明は「鋼矢板をコンクリート護岸の後方に圧入して鋼矢板杭列を構築」するものであり,甲第2?5号証のいずれにも,「先端にビットを備えた切削用鋼管杭をコンクリート護岸を打ち抜いて圧入して鋼管杭列を構築」する技術事項は記載されていない。

<相違点3について>
本件発明1は「上記鋼管杭列に連続して上記切削用鋼管杭を回転圧入してコンクリート護岸を打ち抜いて連続壁を構築し」ているのに対し,滝の川工事発明は,たまたま一部の区間のコンクリート護岸を削孔したものであって,積極的にコンクリート護岸を打ち抜くものではなく,示唆もない。また,甲第2?5号証のいずれにも,「先端にビットを備えた切削用鋼管杭をコンクリート護岸を打ち抜いて圧入して鋼管杭列を構築」する技術事項は記載されていない。

<相違点4について>
甲第5号証には,記載事項(5a)に「鋼管杭列の河川側のコンクリート護岸と土砂を除去する」点が記載されている。しかしながら,甲第5号証には,コンクリート護岸を打ち抜いて鋼管杭を圧入し,鋼管杭列を構築する技術事項は記載されていないので,滝の川工事発明に適用して,相違点4に係る構成とすることはできない。

(2-4)小括
上記のとおり,先端にビットを備えた切削用鋼管杭をコンクリート護岸を打ち抜いて鋼管杭を圧入し,鋼管杭列を構築することは,滝の川工事発明,及び甲第2号証ないし甲第5号証のいずれにも記載も示唆もないから,「先端にビットを備えた切削用鋼管杭をコンクリート護岸を打ち抜いて圧入して鋼管杭列を構築し,この鋼管杭列から反力を得ながら,上記鋼管杭列に連続して上記切削用鋼管杭を回転圧入」することが,当業者が容易になしうるとすることはできない。
そして,本件発明1は,既設のコンクリート護岸を除去することなく鋼管杭列を構築するため,鋼管杭列の構築に先立って川の流れをせき止める等の仮設工事を必要としないので,工期が短縮される,コンクリート護岸に圧入された鋼管杭列から反力を得ることにより,アースオーガ等の装置を必要とせずに切削用鋼管杭をコンクリート護岸を打ち抜いて回転圧入することができ,装置がコンパクトになり,スペースの限られた護岸でも鋼管杭列壁を構築できる等の,特有の作用効果を奏するものと認められる。
したがって,本件発明1は,滝の川工事発明,及び甲第2号証ないし甲第5号証に記載の技術事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。
よって,無効理由その1は理由がない。

2 無効理由その2,3に対して
上記のとおり,本件発明1は,滝の川工事発明,及び甲第2号証ないし甲第5号証に記載の技術事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたとすることはできないので,請求項1を引用する本件発明3及び4も同様の理由で,当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。
よって,無効理由その2,3は理由がない。

第5 むすび
以上のとおり,請求人の主張する理由及び証拠方法によっては,本件発明1,本件発明3及び4に係る特許を,無効とすることはできない。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-10-22 
結審通知日 2013-10-24 
審決日 2013-11-07 
出願番号 特願2003-368034(P2003-368034)
審決分類 P 1 123・ 121- Y (E02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西田 秀彦  
特許庁審判長 高橋 三成
特許庁審判官 杉浦 淳
住田 秀弘
登録日 2008-04-04 
登録番号 特許第4105076号(P4105076)
発明の名称 護岸の連続構築方法および河川の拡幅工法  
代理人 齋藤 誠二郎  
代理人 増井 和夫  
代理人 永井 義久  
代理人 橋口 尚幸  
代理人 齋藤 誠二郎  
代理人 橋口 尚幸  
代理人 増井 和夫  

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