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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G06K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06K
管理番号 1282749
審判番号 不服2013-340  
総通号数 170 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-01-09 
確定日 2013-12-18 
事件の表示 特願2007-551083「蛍光体粒子チップにより真贋判別可能なカード」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 6月28日国際公開、WO2007/072795〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成18年12月19日(優先権主張 平成17年12月19日,平成18年3月29日,平成18年7月24日)を国際出願日とする出願であって,平成24年3月16日付けで拒絶理由が通知され,同年5月28日に手続補正がされ,同年6月22日付けで最後の拒絶理由が通知され,同年9月3日に手続補正がされ,同年9月25日付けで,同年9月3日にされた手続補正が却下されるとともに,同日付けで拒絶査定がされ,これに対して,平成25年1月9日に審判請求がされたものである。

第2 本願発明について
1 本願発明
平成24年9月3日にされた手続補正は,同年9月25日付けで却下されているので,本願の請求項1?40に係る発明は,平成24年5月28日にされた手続補正により補正された明細書,特許請求の範囲及び図面の記載から見て,その請求項1?40に記載された事項により特定されるものであり,そのうち請求項9に係る発明は,特許請求の範囲の請求項9に記載された次の事項により特定されるとおりのもの(以下「本願発明」という。)である。

「【請求項9】基板及び真贋認証チップから構成され;前記基板の上に前記真贋認証チップが積層され;前記真贋認証チップに蛍光物質粒が不規則に混入されたことを特徴とする,認証カード。」

2 刊行物に記載された発明
引用例1: 特開2003-67717号公報
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2003-67717号公報(以下「引用例1」という。)には,図1及び2とともに次の記載がある。(下線は当合議体において付加。以下同様。)

・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,電子化データ記憶媒体に関する。より詳しく言えば,本発明は,格納した個人情報などに代表される有用な情報の不正コピーを防止すると同時に,安価に原本性を保証し,偽造に対するセキュリティを高めた電子化データ記憶媒体に関する。」
・「【0002】
【従来の技術】現代の社会生活上必要不可欠な,キャッシュカード,クレジットカード,免許証,IDカード,プリペイドカード等に代表されるカード類は,現状では一般的にコピーが容易であり,これらの不正コピー行為による偽造カードを使用した犯罪件数は増加の一途をたどっており,また,犯罪によって引き起こされる社会的影響,信用に与える影響は非常に深刻になってきている。従って,これらのカード類の原本性の保証や,記憶情報の不正コピーや盗難を防止することが求められている。」
・「【0004】
【発明が解決しようとする課題】これらの方式は,ランダム性を利用して真偽判定を行うものであり,その実施形態では,ランダム性から得られた真偽判定情報を事前にシステムに対して登録しておく必要があり,煩雑となる。また,真偽判定情報を登録しておく磁性材料や半導体メモリに代表される主記憶領域の重要な情報は,別段保護されるわけではないので,これまでのカード類と同様に情報の漏洩・盗難に対するセキュリティの向上は図れないという問題があった。」
・「【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは,上記した課題を解決すべく鋭意研究の結果,極めて安全性の高い電子化データ記憶媒体を作製するためには,材料物性が示す唯一性を利用することが重要であり,その唯一性を示す特性から得られるデータ自体も電子化データ記憶媒体へ記憶させることにより,セキュリティを飛躍的に向上させることが可能になるとの知見を得,本発明を完成するに至った。
【0007】すなわち,本発明は,材料自体が発現する様々な光学的紋様,あるいは分光学的特性等が,極めてランダムで人為的に再現不可能であることに着目し,このような紋様又は特性により特定される情報自体を従来の数学的な暗号化情報やバーコード等で得られる数値情報に代えて原本性情報として用いることにより,あるいは,そのような情報を従来の数学的な暗号化手法で暗号化して記憶領域に格納することにより,唯一性が極めて高く,またたとえ記憶領域の情報のコピーをしても,どのような紋様又は特性データ等を用いたかが分からなければ,その復元が不可能となる極めてセキュリティの高い電子化データ記憶媒体とすることを特徴とするものである。なお,ここでいう「材料」とは,単一種の材料であっても,複数種を組み合わせた材料であってもよい。
【0008】このように,本発明の電子化データ記憶媒体は,電子化データを情報記録として格納する電子化データ記憶媒体であって,材料自体が発現する唯一性を示す情報を有する部材を当該媒体に結合させてなることを特徴とする電子化データ記憶媒体である。この部材の媒体への結合は,接着,付着もしくは貼付といった手段によることができ,あるいは媒体自体の一部として組み込むことによってもよい。」
・「【0009】
【発明の実施の形態】本発明においては,材料自体が発現する唯一性を示す情報を,電子化データ記憶媒体の原本性情報として利用する。そのような情報をもたらすことができ,本発明において好ましく用いることができる材料の例としては,相分離を示す混合物,色素材料,結晶性を有する樹脂材料,特徴的な破断面を示す物質,蛍光性物質,光学活性物質などを挙げることができる。
【0010】
・・・(中略)・・・
【0012】本発明で用いることのできる色素材料の例としては,アゾ系,・・・(中略)・・・,フルギド系等の有機色素材料を挙げることができる。これらの2種以上の混合物でもよく,またこれらに限定されるわけでもない。
【0013】色素材料を用いる場合は,それが示す吸収等の光学データを利用することができる。特に2種以上を混合して用いる場合には,個々の色素材料に固有の分極(電子の偏り)が,混合による異種の色素どうしの会合などにより変化し,それにより示される独特の吸収その他の光学データを,材料の唯一性を示す情報として利用することができる。
【0014】単独の色素材料を用いる場合には,他の材料上に色素材料をばらまく等の手段により再現性のないランダムパターンで分散させることができ,そのパターンの変化を防ぐために分散した色素材料を封入するのが望ましい。あるいは,他の材料中に色素材料を練り込む等の手法によっても,再現性のないランダムパターンを得ることができる。ランダムパターンは,2種以上の色素材料の混合物により形成することも可能である。こうしたランダムパターンを利用する場合,そのパターンによる画像情報を材料の唯一性を示すデータとして使用することができる。」
・「【0019】蛍光性を有する物質の例としては,亜鉛,カドミウム,カルシウム,アルミニウム,イットリウム等の金属酸化物,あるいは硫化物と,これらに微量のマンガン,銀,銅,鉛又はユーロピウム等の活性化剤を含んだ系が挙げられるが,これらに限定されるわけではない。
【0020】こういった蛍光性を有する物質を用いる場合も,先に色素材料の場合について説明したように,その物質を他の材料上にばらまく,あるいは他の材料中に練り込む等の手法を有利に採用することができ,そしてそのランダムパターンの画像情報を材料の唯一性の特定に利用することができる。」
・「【0023】本発明では,このほかにも,唯一性を示す情報を有する部材として,例えば,粘着性物質を被着体から剥がした際に剥離面に生じる立体模様(凹凸形状)を有するもの,樹脂等のバインダー中に散りばめられた金属粒子,磁性材料,あるいは非磁性材料等の様々な混合物,又はそのような混合物を含む材料を用いることができる。
【0024】また,材料自体が発現する唯一性の特定のためには,使用する材料に応じて,光学的及び分光学的に観測可能な情報,並びに画像情報のうちの,少なくとも一つを利用すればよく,場合によっては利用可能な複数の情報を利用してもよい。利用可能な光学的及び分光学的情報の例としては,透過率,反射率,吸光度,蛍光,りん光,屈折率,円2色性などを挙げることができる。色素材料を使用する場合のように画像情報を利用する際には,レーザー光や可視光等の光源を使ってイメージセンサにより得られる画像情報をマッピングして得られたデータを利用することができる。光学的又は分光学的情報と画像情報の両者の組み合わせを用いることも可能である。」
・「【0025】次に,本発明の電子化データ記憶媒体をより具体的に説明することにする。本発明による電子化データ記憶媒体は,ICカードに代表される電気的記録方式を用いたデータ記憶媒体であっても,あるいは磁気カード等の磁気的記録方式を用いたデータ記憶媒体であってもよく,そして本発明の電子化データ記憶媒体においては,材料自体が発現する唯一性を示す情報を有する部材を,接着,付着もしくは貼付といった手段により,あるいは媒体自体の一部として組み込むことによって,媒体に結合させるようにする。接着,付着あるいは貼付のような手段で部材を媒体に結合させる場合には,唯一性を示す材料自体を層状シートもしくはフィルム状シートとして形成した部材や,唯一性を示す材料を適当な樹脂等のバインダー中に分散させて層状シートもしくはフィルム状シートとした部材や,更にはそのような材料自体もしくはそのような材料を他の材料中に含むものをシートもしくはフィルム上に担持させた部材を使用することができる。一方,部材を媒体自体の一部として組み込む場合には,例えば上述のような層状あるいはフィルム状シートとして形成した部材を,媒体の一部に窓材として配置することができ,あるいは埋め込んで媒体と一体化することができる。
【0026】使用する部材材料の唯一性を示す情報は,電子化データ記憶媒体に設けられた記録部位に事前に格納し,これを電子化データ記憶媒体の照合の際に取得された情報と比較することによって,当該記憶媒体の原本性を一意に特定することができる。この情報記録部位は,半導体メモリの部分に存在してもよく,あるいは磁気テープに代表される磁性材料の部分に存在してもよい。更に,この情報記録部位は,媒体中の電子化データを記憶している部位と同じ部分に存在してもよく,あるいはそれとは別個に存在してもよい。」
・「【0029】
【実施例】次に,実施例により本発明を更に説明することにする。言うまでもなく,本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0030】(実施例1)ここでは,記憶媒体に貼着するテープ部材の作製を説明する。図1に示すように,接着テープ1の基材に相分離を示す非相溶性樹脂の混合物から形成したシート2を担持させたテープ部材を作製した。接着テープ1の基材としては特に制限はないが,例えばセロハン,PVA,PVC,PS,PC,PET,PP等を材料とするものを使用することができる。接着テープ1の接着剤としては,ゴム類,ニカワ,カゼイン,でんぷん,熱硬化性樹脂,エポキシ系やアクリロニトリル系等の樹脂を主成分とするものを使用することができる。
【0031】
・・・(中略)・・・
【0037】(実施例7)実施例1?5で作製した各シートを,接着テープに担持させずに,部材シートとしてICカード自体に窓材の形で埋め込んで一体化して,電子化データ記憶媒体を作製した。
【0038】図2の模式図に示したように,実施例6と7で得られた電子化データ記憶媒体11は,半導体メモリ15を埋め込み,そして実施例1?5で作製したテープ部材17を貼付した,又は実施例1?5で作製したシート部材17’を埋め込んだICカード13から構成されている。」

ここにおいて,上記段落【0025】の記載から,引用例に記載された発明において,データ記憶媒体としては,ICカードや磁気カード等があることがわかる。
また,上記段落【0025】及び段落【0037】の記載から,唯一性を示す材料を適当な樹脂等のバインダー中に分散させて層状シートもしくはフィルム状シートとした部材を,接着,付着もしくは貼付といった手段により,ICカードや磁気カード等の「データ記憶媒体」に結合させたものが,「電子化データ記憶媒体」を構成していることがわかる。
さらに,上記段落【0020】の,「こういった蛍光性を有する物質を用いる場合も,先に色素材料の場合について説明したように,その物質を他の材料上にばらまく,あるいは他の材料中に練り込む等の手法を有利に採用することができ,そしてそのランダムパターンの画像情報を材料の唯一性の特定に利用することができる」との記載と,上記段落【0014】の,「他の材料上に色素材料をばらまく等の手段により再現性のないランダムパターンで分散させることができ,そのパターンの変化を防ぐために分散した色素材料を封入するのが望ましい。あるいは,他の材料中に色素材料を練り込む等の手法によっても,再現性のないランダムパターンを得ることができる」との記載から,前記段落【0025】に記載された「唯一性を示す材料を適当な樹脂等のバインダー中に分散させて層状シートもしくはフィルム状シートとした部材」について,蛍光性を有する物質が利用でき,その際,蛍光性を有する物質が再現性のないランダムパターンで分散されることは明らかである。
また,上記段落【0024】には,「利用可能な光学的及び分光学的情報の例としては,透過率,反射率,吸光度,蛍光,りん光,屈折率,円2色性などを挙げることができる。」と記載されているところ,上記段落【0019】?【0020】に記載された「蛍光性を有する物質」を用いた場合に,当該「蛍光性を有する物質」が発する「蛍光」の「光学的及び分光学的情報」を利用できることは明らかである。さらに,上記段落【0024】の「材料自体が発現する唯一性の特定のためには,使用する材料に応じて,光学的及び分光学的に観測可能な情報,並びに画像情報のうちの,少なくとも一つを利用すればよく,場合によっては利用可能な複数の情報を利用してもよい。」,及び「光学的又は分光学的情報と画像情報の両者の組み合わせを用いることも可能である。」との記載から,「蛍光性を有する物質」を用いた場合において,材料自体が発現する唯一性の特定のために,ランダムパターンの画像情報とともに,蛍光性を有する物質が発する蛍光の光学的及び分光学的情報をも利用できることがわかる。

以上を総合し,唯一性を示す材料として蛍光性を有する物質を用いるとともに,材料自体が発現する唯一性の特定のために,蛍光性を有する物質が分散されてできたランダムパターンの画像情報とともに,蛍光の光学的及び分光学的情報を利用したものに着目すると,引用例1には以下の発明が記載されているものと認められる(以下「引用発明」という。)。

「蛍光性物質が発現する唯一性を示す情報を,原本性情報として利用する,電子化データ記憶媒体であって,
前記蛍光性物質を樹脂等のバインダー中に分散させて層状シートもしくはフィルム状シートとした部材を,接着,付着もしくは貼付といった手段により,ICカードや磁気カード等のデータ記憶媒体に結合させたものであり,
前記層状シートもしくはフィルム状シートとした部材においては,前記蛍光性物質が再現性のないランダムパターンで分散されており,
前記蛍光性物質が発現する唯一性を示す情報として,前記蛍光性物質が分散されてできたランダムパターンの画像情報とともに,前記蛍光性物質が発する蛍光の光学的及び分光学的情報が利用され,
前記蛍光性物質が発現する唯一性を示す情報は,電子化データ記憶媒体に設けられた記録部位に事前に格納され,これを電子化データ記憶媒体の照合の際に取得された情報と比較することによって,当該電子化データ記憶媒体の原本性を一意に特定することができるものである,
電子化データ記憶媒体。」

3 対比
引用発明を本願発明と対比する。

・引用発明の「前記蛍光性物質を樹脂等のバインダー中に分散させて層状シートもしくはフィルム状シートとした部材」「においては,前記蛍光性物質が再現性のないランダムパターンで分散されており」,当該部材に「前記蛍光性物質」による「唯一性を示す情報」が発現されている。ここで,「蛍光性物質が再現性のないランダムパターンで分散されて」いることから,蛍光性物質が「分散」,すなわち微粒子状になって散在していることは明らかである。
そして,引用発明に係る電子化データ記憶媒体は,当該部材において発現されている「前記蛍光性物質」による「唯一性を示す情報」によって,当該電子化データ記憶媒体の原本性を一意に特定するのものである。それゆえ,引用発明の「前記蛍光性物質を樹脂等のバインダー中に分散させて層状シートもしくはフィルム状シートとした部材」は,本願発明の「真贋認証チップ」であって「蛍光物質粒が不規則に混入された」ものに相当する。

・引用発明の「前記蛍光性物質を樹脂等のバインダー中に分散させて層状シートもしくはフィルム状シートとした部材」は,「接着,付着もしくは貼付といった手段により,ICカードや磁気カード等のデータ記憶媒体に結合」されているから,当該「ICカードや磁気カード等のデータ記憶媒体」が本願発明の「基板」に相当する。そして引用発明においては,「ICカードや磁気カード等のデータ記憶媒体」に「層状シートもしくはフィルム状シートとした部材」を「接着,付着もしくは貼付」しているところ,「ICカードや磁気カード等のデータ記憶媒体」及び「層状シートもしくはフィルム状シートとした部材」は両者共に平板状のものであるから,これらは「積層」されているものといえる。従って,引用発明の「前記蛍光性物質を樹脂等のバインダー中に分散させて層状シートもしくはフィルム状シートとした部材を,接着,付着もしくは貼付といった手段により,ICカードや磁気カード等のデータ記憶媒体に結合させたもの」は,本願発明の「基板及び真贋認証チップから構成され;前記基板の上に前記真贋認証チップが積層され」たものに相当する。

・引用発明においては,「前記蛍光性物質が発現する唯一性を示す情報」を用いて,「当該電子化データ記憶媒体の原本性を一意に特定することができるものである」から,引用発明に係る「電子化データ記憶媒体」は,本願発明の「認証カード」に相当する。

従って,引用発明と本願発明とは,
「基板及び真贋認証チップから構成され;前記基板の上に前記真贋認証チップが積層され;前記真贋認証チップに蛍光物質粒が不規則に混入されたことを特徴とする,認証カード。」
である点で一致し,相違するところがない。

4 まとめ
よって,本願発明は,引用発明と同一であり,特許法第29条第1項第3号に該当するから,特許を受けることができない。


第3 平成24年9月25日付けの補正の却下の決定について
1 請求人の主張
原査定の理由についての検討は以上のとおりであるが,請求人は,平成24年9月25日付けの補正の却下の決定(以下「本件補正却下の決定」という。)において新たな引用刊行物である引用例2が追加されたことは不適法ないし不適切であり,また,平成24年9月3日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)により補正された請求項1及び9に係る発明は,引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない旨を主張しているから,以下においてはこれらの点について検討する。

2 本件補正について
(1)本件補正の内容
本件補正は,特許請求の範囲及び明細書の段落【0070】を補正するものであり,特許請求の範囲のうち請求項9については補正の前後で以下のとおりである。

〈補正前〉
「【請求項9】基板及び真贋認証チップから構成され;前記基板の上に前記真贋認証チップが積層され;前記真贋認証チップに蛍光物質粒が不規則に混入されたことを特徴とする,認証カード。」

〈補正後〉
「【請求項9】基板及び真贋認証チップから構成され;
前記基板の上に前記真贋認証チップが積層され;
前記真贋認証チップに複数波長の光を発射する蛍光物質粒が不規則に混入されたことを特徴とする,認証カード。」

(2)補正事項の整理
本件補正の補正事項は以下のとおりである。
〈補正事項〉
補正前の請求項9の「蛍光物質粒」を,補正後の請求項9の「複数波長の光を発射する蛍光物質粒」とすること。

(3)補正の目的の適否及び新規事項の追加の有無についての検討
補正前の請求項9の「蛍光物質粒」を,補正後の請求項9の「複数波長の光を発射する蛍光物質粒」とすることは,「蛍光物質粒」をその発光波長について技術的に限定するものであるから,特許法第17条の2第4項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項をいう。)第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また,「複数波長の光を発射する蛍光物質粒」とすることは,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)の段落【0113】?【0114】に記載されているから,上記各補正事項は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。

上記のとおり,本件補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含むから,本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項に規定する独立特許要件を満たすか)どうかを検討すべきものである。

3 本件補正却下の決定において引用例2が追加されたことについて

補正の制限に関する規定は,平成5年法律第26号により導入されたものであるが,当該導入以前は,過度の補正を行う出願について,補正がされるたびに新たに審査がやり直されることとなり,迅速な審査に支障が生じるとともに,過度の補正を行わない出願との間で不公平が生じていた。
そこで,補正の制限に関する規定により,当初明細書の範囲内で自由に補正ができるのは,原則1回とし,2回目以降の補正については,厳しく制限することとし,最後の拒絶理由通知を受けた後になされた補正が不適法である場合,当該補正を却下することにより,審査や審理が繰り返し行われることを防いで,審査の迅速性を確保することを図ったものであり,最後の拒絶理由通知を受けた後になされた特許請求の範囲を減縮する補正が,独立特許要件を満たしていない場合には,拒絶の理由を通知することなく,直ちに補正を却下することとされたのである。
すなわち,独立特許要件を満たしていない場合には,直ちに補正を却下するのであるから,その際,例えば,新たな刊行物を引用する場合にあっても,補正却下の決定に先立って,当該刊行物に基づく拒絶理由を出願人に通知しないことは,制度の趣旨からみて不適切でも不適法でもない。

また,以上の点に関しては,審査基準の「第IX部 審査の進め方」においても,以下の記載がある。
・「第2節 各論 6.2.1却下の対象となる補正 (4)独立特許要件を満たさない補正」には次の記載がある。
「(留意事項)
独立特許要件を満たさない場合とは,
(i)請求項の限定的減縮の補正によっても,先の「最後の拒絶理由通知」で指摘した上記規定に基づく拒絶理由が依然として解消していない場合,だけでなく,
(ii)請求項の限定的減縮の補正により,補正前の請求項に対して指摘した拒絶理由は解消されたが,補正後の発明について上記規定に基づく新たな拒絶理由が発見された場合,もこれに該当する。」

・「第2節 各論 6.2.3 独立特許要件違反で補正を却下する際の留意事項」には次の記載がある。
「(1)限定的減縮の補正がなされた請求項に係る発明が,第29条,第29条の2又は第39条の規定により特許を受けることができないとき
○1補正却下に際しては,「最後の拒絶理由通知」で引用した先行技術を引用することを原則とする。ただし,補正により請求項が限定されたために新たな先行技術を引用することは差し支えない。」

そこで,本件補正のうち請求項9に係る補正についてみると,前記第3「2 本件補正について」において検討したとおり,本件補正は,補正前の請求項9の「蛍光物質粒」を,補正後の請求項9の「複数波長の光を発射する蛍光物質粒」と補正しているところ,本件補正却下の決定においては,当該「複数波長の光を発射する蛍光物質粒」との発明特定事項に関して新たな刊行物である引用例2を引用しているから,前記制度の趣旨及び上記審査基準に照らして適切になされたものといえる。本件補正のうち請求項1に係る補正についても同様である。

なお,平成24年9月25日付けでされた拒絶査定においては,本件補正前の請求項1及び9に係る発明に対する,特許法第29条第1項第3号及び同法第29条第2項に係る査定の理由は,平成24年6月22日付けの最後の拒絶理由通知で引用された特開2003-67717号公報(引用例1)のみを引用するものである。

よって,本件補正却下の決定において,本件補正後の請求項1及び9に係る発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものかどうかを検討するに際して,新たに刊行物である引用例2を引用したことは,請求人が主張するように不適切ないし不適法とはいえない。

4 補正発明について
次に,本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものかについて検討する。
(1)補正発明
平成24年9月3日にされたにされた手続補正により補正された明細書,特許請求の範囲及び図面の記載から見て,特許請求の範囲の請求項9に係る発明は,特許請求の範囲の請求項9に記載された次の事項により特定されるとおりのもの(以下「補正発明」という。)である。

「【請求項9】基板及び真贋認証チップから構成され;
前記基板の上に前記真贋認証チップが積層され;
前記真贋認証チップに複数波長の光を発射する蛍光物質粒が不規則に混入されたことを特徴とする,認証カード。」

(2)刊行物に記載された発明
ア 特開2003-67717号公報
原査定の拒絶の理由及び本件補正却下の決定において引用され,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2003-67717号公報(引用例1)の記載事項及び引用発明は,前記第2 「2 刊行物に記載された発明」に記載したとおりである。

イ 特開2001-356689号公報
本件の補正却下の決定において引用され,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2001-356689号公報(以下「引用例2」という。)には以下の記載がある。
・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は各種製造物,各種美術品,宝飾品などの識別マーク作成と識別の技術に関する。」
・「【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は,識別を必要とする物品に,紫外光などの励起光による励起によってのみ発光する蛍光材料を用いた識別マークを印刷,塗布その他の方法で固着あるいは染色せしめ,複数の励起光の照射によって,これを発光せしめて,当該物品の識別を行う識別マーク技術である。さらに特定的には,複数種の蛍光材料を所定の混合比で混合し,識別すべき物品に固着あるいは染色せしめる。このような混合蛍光材料から発する蛍光スペクトルは,混合蛍光材料の種類,混合比に特有なスペクトルを発する。したがってこの蛍光発光を分光測定することにより,識別マークを付した物品の速やかで正確な識別が行われる。
【0005】
・・・(中略)・・・
【0006】本発明では,識別用蛍光材料として,複数種類の蛍光材料を所定の混合比で混合して用いる。そのため,これから発せられる蛍光スペクトルが,混合蛍光材料の種類と混合比によってきまる特有なスペクトルを発する。蛍光材料の種類は無機物,有機物にわたって,非常に多くの物質が知られており,そのうち,産業上,安定,安全に,かつ安価に利用できるものの種類だけでも,多種類存在する。しかも,本発明では,これらの物質を所定の混合比で混合して用いるので,そのスペクトルの組み合わせは無数と言えるほど多い。したがって,当該混合蛍光材料を作製した者以外の者が,当該混合蛍光材料の発する蛍光スペクトルと同一の蛍光スペクトルを,何らかの他の物質の混合物で再現することは,実質上不可能である。このように,本発明によれば,物品の識別に使用するマークに用いた混合蛍光材料と,それらの混合比を知る者以外には,該混合蛍光材料と同一の蛍光スペクトルを合成することはほぼ不可能である。それ故,識別マークの秘匿性および後述の困難に対する信頼性が大きい。
【0007】特に,混合蛍光材料の個々の蛍光物質の蛍光スペクトルが,全面的にあるいは部分的にオーバーラップする場合は,混合蛍光材料の蛍光スペクトルはそれらの合成されたものとなる。そのような場合は,それらの各構成要素以外の蛍光物質でその合成された蛍光スペクトルを再現することは,一層困難となるため,本発明による識別の信頼性の一層の向上が期待できる。」

以上の記載から,引用例2には次の発明が記載されているものと認められる。
「識別を必要とする物品に,紫外光などの励起光による励起によってのみ発光する蛍光材料を用いた識別マークを印刷,塗布その他の方法で固着あるいは染色せしめ,複数の励起光の照射によって,これを発光せしめて,当該物品の識別を行う識別マーク技術であって,
蛍光材料として,複数種類の蛍光材料を所定の混合比で混合して用いることにより,これから発せられる蛍光スペクトルが,混合蛍光材料の種類と混合比によってきまる特有なスペクトルを発することで,識別マークの秘匿性,及び,識別の信頼性の一層の向上が図られた,
識別マーク技術。」

(3)対比

前記第2 「3 対比」において行った対比を考慮すると,引用発明と補正発明とは,
「基板及び真贋認証チップから構成され;
前記基板の上に前記真贋認証チップが積層され;
前記真贋認証チップに蛍光物質粒が不規則に混入されたことを特徴とする,認証カード。」
である点で一致するといえる一方,両者は以下の点で相違する。

〈相違点〉
補正発明においては,「前記真贋認証チップに複数波長の光を発射する蛍光物質粒が不規則に混入された」構成を備えるが,引用発明においては「前記真贋認証チップに蛍光物質粒が不規則に混入された」ことに対応する構成を備えるものの,「複数波長の光を発射する蛍光物質粒」であることまでは特定されていない点。

(4)判断
引用発明は,「蛍光性物質が発現する唯一性を示す情報として,前記蛍光性物質が分散されてできたランダムパターンの画像情報とともに,前記蛍光性物質が発する蛍光の光学的及び分光学的情報が利用され」て,「電子化データ記憶媒体の原本性を一意に特定することができるものである」。また,前記前記第2 「2 刊行物に記載された発明」に摘記したとおり,引用例1の段落【0002】に「カード類の原本性の保証や,記憶情報の不正コピーや盗難を防止することが求められている」と記載されているように,カード類の原本性の保証や,記憶情報の不正コピーや盗難の防止は,当該技術分野における不断の技術課題といえるものである。
さらに,引用例1には,段落【0007】に「ここでいう「材料」とは,単一種の材料であっても,複数種を組み合わせた材料であってもよい」と記載されているように,色素材料に限定しない一般的な「材料」としても,複数種を組み合わせた材料を用いうることが記載されている。
一方,引用例2には「複数種類の蛍光材料を所定の混合比で混合して用いることにより,これから発せられる蛍光スペクトルが,混合蛍光材料の種類と混合比によってきまる特有なスペクトルを発することで,識別マークの秘匿性,及び,識別の信頼性の一層の向上が図られた,識別マーク技術」が記載され,当該技術が,「蛍光スペクトル」,すなわち蛍光の分光学的情報を利用して,前記不断の技術課題の解決に資するものであることは明らかである。ここで,引用例2に記載された発明においては「蛍光材料を用いた識別マークを印刷,塗布その他の方法で固着あるいは染色せしめ」ているところ,引用発明も「蛍光性物質を樹脂等のバインダー中に分散させて層状シートもしくはフィルム状シートとした部材を,接着,付着もしくは貼付といった手段により,ICカードや磁気カード等のデータ記憶媒体に結合させたもの」であり,蛍光性物質を含む部材をデータ記憶媒体に固着させたものといえる。
そうすると,引用発明において,カード類の原本性の保証や,記憶情報の不正コピーや盗難の防止をより高度なものとするために,引用例2に記載された発明を適用して,「蛍光性物質」を「複数種類の蛍光材料を所定の混合比で混合し」たものとして,相違点に係る,「前記真贋認証チップに複数波長の光を発射する蛍光物質粒が不規則に混入された」構成を備えるものとすることは,当業者が適宜になし得たことである。

(5)まとめ
従って,補正発明は,引用発明及び引用例2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって,補正発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができない。

5 小括
以上のとおりであるから,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に違反するとして,本件補正を,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下した本件補正却下の決定に誤りはない。

第4 むすび
従って,上記「第2 本願発明について」において検討したとおり,本願発明は特許法第29条第1項第3号に該当するから,他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-10-02 
結審通知日 2013-10-08 
審決日 2013-10-24 
出願番号 特願2007-551083(P2007-551083)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06K)
P 1 8・ 113- Z (G06K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 前田 浩  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 西脇 博志
近藤 幸浩
発明の名称 蛍光体粒子チップにより真贋判別可能なカード  
代理人 南條 眞一郎  

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