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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1282770
審判番号 不服2010-19549  
総通号数 170 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-08-30 
確定日 2013-12-10 
事件の表示 特願2000-565105「移植可能なヒトニューロン幹細胞」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 2月24日国際公開、WO00/09668、平成14年 7月23日国内公表、特表2002-522069〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成11年8月5日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 平成10年8月14日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成20年10月29日付けの拒絶理由の通知に対し、平成21年2月9日付けで手続補正がなされたが、平成22年4月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年8月30日に拒絶査定に対する不服審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

第2.平成22年8月30日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年8月30日付の手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成22年8月30日付けの手続補正(以下、「本件補正」という)により、特許請求の範囲の請求項1は以下のように補正された。

補正前:
「【請求項1】 インビトロで安定な細胞系として維持されるbFGF及びEGFの両者に対して二重応答性であり、かつ生存する宿主被験者への要求に沿ったインビボの移植に適する、遺伝子的に改変されたヒトニューロン幹細胞であって、
(i)分裂性の自己複製性細胞系としてインビトロで継代される間は未拘束かつ未分化のままであり、さらにbFGF及びEGFの両者に対して二重応答性であり、
(ii)未拘束細胞としてインビボで移植可能であり、
(iii)移植後、生存する宿主被験者の神経系内での統合のために、該生存する被験者中で移植部位から第二の解剖学的部位へインビボで移動し、
(iv)移植後、生存する宿主被験者中で、第二の解剖学的部位で実質組織中にインシトゥで統合し、そして
(v)統合後に、インシトゥで、ニューロン、稀突起膠細胞およびアストロサイトより成る群から選択される細胞型に分化する、
ヒト起源の原始ニューロン幹細胞;および
特定のタンパク質産物をコードする外来遺伝子より構成される最低1個のDNAセグメントを担持するウイルスベクターを包含するよう遺伝子的に改変されているヒトゲノムDNA、
を含んでなる前記ヒトニューロン幹細胞。」

補正後:
「【請求項1】 インビトロで安定な細胞系として維持されるbFGF及びEGFの両者に対して二重応答性であり、かつ生存する宿主被験者への要求に沿ったインビボの移植に適する、インビボで外来遺伝子を発現するための遺伝子的に改変されたヒトニューロン幹細胞であって、
(i)分裂性の自己複製性細胞系としてインビトロで継代される間は未拘束かつ未分化のままであり、さらにbFGF及びEGFの両者に対して二重応答性であり、
(ii)未拘束細胞としてインビボで移植可能であり、
(iii)移植後、生存する宿主被験者の神経系内での統合のために、該生存する被験者中で移植部位から第二の解剖学的部位へインビボで移動し、
(iv)移植後、生存する宿主被験者中で、第二の解剖学的部位で実質組織中にインシトゥで統合し、そして
(v)統合後に、インシトゥで、ニューロン、稀突起膠細胞およびアストロサイトより成る群から選択される細胞型に分化する、
ヒト起源の原始ニューロン幹細胞;および
特定のタンパク質産物をコードする外来遺伝子より構成される最低1個のDNAセグメントを担持するウイルスベクターを包含するよう遺伝子的に改変されているヒトゲノムDNA、
を含んでなる前記ヒトニューロン幹細胞。」
(下線部は、補正前からの補正箇所を示す。)

2.補正の適否
本件補正は、補正前の請求項1の発明特定事項である「遺伝子的に改変されたヒトニューロン幹細胞」の用途を「インビボで外来遺伝子を発現するための」に限定するものであるから、本件補正は、補正前の請求項に記載された発明を特定するために必要な事項を限定するものであり、また、補正前後の請求項1に記載された発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題を同一とするから、本件補正は、平成18年改正前特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記1.に「補正後」として記載したとおりのものである。

(2)引用例の記載事項
これに対して、原査定の拒絶理由で引用文献1として引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第98/10058号(以下「引用例1」という。)には、次のア.?キ.の事項が記載されている。(英語で記載されているため、日本語訳で摘記する。また、下線は当審で付与した。)

ア.「実施例1
ヒトCNS前駆細胞株の調製および特徴付け
本実施例は、代表的な条件付きで不死化されたヒトCNS前駆細胞株の調製を例示する。
A.初代細胞培養
ヒト胎児CNS前駆細胞の増殖初代培養物を、Advanced Bioscience Resources,Inc(Alameda,CA)を通じて得た、13週妊娠齢の全ヒト胎児脳組織から樹立した。
・・・(中略)・・・
B.不死化
不死化のために、v-mycガン遺伝子が、tet調節様式で転写される(Hoshimaruら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA93:1518-1523,1996を参照のこと)レトロウイルスベクター(LINXv-myc)を使用した。・・・(中略)・・・
以下に議論されるようなクローン細胞株について、増殖培地はまた、(以下で述べるいくつかの場合において)EGF(ヒト組換え体、40ng/mL)およびPDGF A/B(ヒト組換え体、20ng/mL)を含んだ。」(第21頁4行?第22頁19行)

イ.「実施例3
クローンヒトCNS前駆細胞株の調製および特徴付け
本実施例は、クローンヒトCNS前駆細胞株の作製およびこのような細胞株の特徴づけを例示する。
A.クローン細胞株の単離
クローンを、実施例1に記載のヒトCNS前駆細胞株から、96ウェルプレート中の限界希釈により単離した。クローンに、上記のように栄養を与え、そして継代した。作製された異なるクローン細胞株のうち、4つが以下に詳細に記載され、そしてクローンB4、C2、E5およびC10と本明細書中で呼ばれる。・・・(中略)・・・
クローンC10の場合、EGF(PDGFではない)添加は、約40%まで総細胞数を増大した(図12A)。EGFおよびPDGFの添加は、さらにわずかに総細胞数を増大した。この細胞数の増大は、少なくとも一部には、増強した増殖速度によるものであり;BrdU取り込みおよび組込みは、EGFまたはEGF+PDGF添加で約2倍増大し(図12B)、そして倍加時間(インビトロでの日数の関数としての細胞計数に基づく、データ示さず)は、3日(EGFまたはPDGF添加なし)から2日(EGF+PDGF添加)に減少した。ひとまとめにして考えると、これらのデータは、生存および増殖が、FGF-2に加えて、増殖培地中にEGFおよびPDGFを含有することにより増強されることを示す。結果として、3つ全ての増殖因子は、後に、これらのクローンならびに他のクローンに使用される増殖培地中に含まれた。
細胞株B4、C2、E5およびC10のクローン性。ヒトの条件付きで不死化されたCNS前駆細胞株B4、C2、E5およびC10は異なるクローンである。」(第29頁1行?第30頁2行)

ウ.「4.クローンE5の特徴付け
クローンE5は、未成熟多能性細胞である。クローンE5は、多能性であり、そして不死化幹細胞を示すようである。増殖性増殖条件において(FGF-2)、細胞は多角形かつ平坦であり、2日毎に倍加し、そしてニューロンマーカーMAP2a/bについての標識も星状細胞マーカーGFAPについての標識も実質的に示さなかった(図27A-B)。tet、tet+高K^(+)+BDNF+NT-3、またはtet+レチノイン酸を用いた分化後、形態において実質的な変化はなかった。tetまたはtet+高K^(+)+BDNF+NT-3中の増殖後、約50%の細胞はMAP2a/bについて小さな程度まで染色され、約20%がGFAPについて小さな程度まで染色された。対照的に、tet+レチノイン酸を用いた増殖後、実質的に細胞は、MAP2a/bについて染色されなかったが、GFAPについての染色は30%に増大した。これらの結果は、クローンE5が多能性の未成熟幹細胞を示すことを示唆する。」(第38頁22行?第39頁2行)

エ.「実施例2
ヒトCNS前駆細胞株の分化
この実施例は、実施例1に記載のヒトCNS前駆細胞株に由来する分化CNS細胞の調製および分化細胞の特徴づけを例示する。
A.不死化培養物の分化
不死化細胞を分化させるために、培養物(クローンB4、以下に記載)を、N2補充物およびテトラサイクリン(ガン遺伝子の転写を抑制するための1μg/mL)を含むDMEM/F12に切り替えた。Tet添加(tet+RA 1日間、続いてtet、高K^(+)、NT-3およびBDNF 6日間)の約7日後に、ニューロンおよびグリアの形態学的分化が起こった(図2、右パネル)。」(第24頁1行?14行)

オ.「他の局面において、本明細書中に記載のヒトCNS前駆細胞株は、移植研究においておよび患者の処置のためにインビボで使用され得る。例えば、細胞は、動物(例えば、ラット、マウスまたはサル)への脳内移植により導入され得る。研究は、発達しているCNSまたは成体CNSへ移植された場合の細胞分化に取り組み得る。細胞が病理学的状態における治療剤として働く能力もまた調べられ得る。特に、細胞自体は、神経変性障害において死ぬニューロンを機能的に交換する能力を有し得るか、または治療的利益を有する薬剤(例えば、栄養因子)の供給源として働き得る。このような薬剤は、内因性遺伝子または細胞へトランスフェクトされた遺伝子により生成され得る。 患者の処置のために、条件付きで不死化されたヒトCNS前駆細胞および/または調整薬剤(上記)は、(予防的にまたは現存する疾患の処置のためのいずれかで)患者に投与され得る。ヒトCNS前駆細胞および/または調整薬剤を用いて予防および/または処置され得る疾患は、神経が変性した病理学的状態(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、発作、および/または外傷性頭部損傷)を含むが、それらに限定されない。細胞は、例えば、患者のCNSへの定位移植または脳内移植により導入され得る。細胞自体は、神経変性障害で死ぬニューロンを機能的に交換する能力を有し得るか、または治療的利益を有する薬剤(例えば、栄養因子)の供給源として働き得る。」(第18頁21行?第19頁8行)

カ.「図12Aおよび12Bは、FGF-2(カラム1)、FGF-2およびEGF(カラム2)、FGF-2およびPDGF A/B(カラム3)、またはFGF-2、EGFおよびPDGF A/B(カラム4)の存在下での培養後の、代表的なヒトクローンCNS前駆細胞株(C10)についての視野あたりの細胞数(図12A)およびBrdUにより標識された細胞パーセント(図12B)を示すヒストグラムである。それぞれの場合において、FGF-2レベルは40ng/mLであった。添加される場合、ヒト組換えEGFのレベルは40ng/mLであり、そしてヒト組換えPDGF A/Bのレベルは20ng/mLであった。」(第6頁21行?27行)

キ.




a.上記記載事項ア.及びイ.の記載によれば、引用例1には、ヒト胎児CNS(中枢神経系)前駆細胞から得られた初代細胞にv-mycガン遺伝子をレトロウイルスベクターを使用して形質導入した不死化ヒトCNS前駆細胞株から単離されたクローンヒトCNS前駆細胞株(B4、C2、E5およびC10)が記載されており、また、上記記載事項ウ.の記載によれば、クローンE5は、不死化幹細胞であるから、引用例1のヒト胎児CNS前駆細胞から得られた初代細胞を出発原料とするクローンヒトCNS前駆細胞株の一部は、v-mycガン遺伝子をレトロウイルスベクターを使用して形質導入した幹細胞であると認められる。

b.上記記載事項エ.の記載によれば、引用例1には、不死化細胞を分化させるためには、培養物にテトラサイクリンを含ませる必要があることが記載されており、また、上記記載事項イ.の記載によれば、クローンは、継代されること、上記記載事項ウ.の記載によれば、クローンE5は、2日毎に倍加し、そしてニューロンマーカーMAP2a/bについての標識も星状細胞マーカーGFAPについての標識も実質的に示さなかったと記載されていることから、引用例1の不死化幹細胞であるクローンE5は、テトラサイクリンを含有しない培地で培養、継代する場合には、インビトロで未分化のままであると認められる。

c.上記記載事項オ.の記載によれば、引用例1には、ヒトCNS前駆細胞株は、移植研究および患者の処置のためにインビボで使用され得、例えば脳内移植により導入され得ること、細胞自体は、薬剤として栄養因子等の外来性遺伝子を発現させ得ることが記載されていることから、引用例1のヒトCNS前駆細胞株は、インビボで移植可能であり、インビボで外来遺伝子を発現すると期待されているものである。

以上のa.?c.から、引用例1には以下の発明が記載されていると認められる。

「テトラサイクリンを含有しない培地で培養、継代する場合にはインビトロで未分化のままであり、インビボで移植する際には外来性遺伝子を発現し得る、ヒト胎児CNS前駆細胞から得られた初代細胞を出発原料とする、v-mycガン遺伝子をレトロウイルスベクターを使用して形質導入した幹細胞であるクローンヒトCNS前駆細胞株(E5)。」(以下、「引用発明」という。)

(3)対比
本願補正発明と引用発明を対比する。

引用発明の「ヒト胎児CNS前駆細胞から得られた初代細胞を出発原料とする、v-mycガン遺伝子をレトロウイルスベクターを使用して形質導入した幹細胞であるクローンヒトCNS前駆細胞株(E5)」は、本願補正発明の「遺伝子的に改変されたヒトニューロン幹細胞」、及び「ヒト起源の原始ニューロン幹細胞;および特定のタンパク質産物をコードする外来遺伝子より構成される最低1個のDNAセグメントを担持するウイルスベクターを包含するよう遺伝子的に改変されているヒトゲノムDNA、を含んでなるヒトニューロン幹細胞」に相当する。
また、引用発明のクローンヒトCNS前駆細胞株(E5)が有する性質である「テトラサイクリンを含有しない培地で培養、継代する場合にはインビトロで未分化のまま」は、本願補正発明の「インビトロで安定な細胞系として維持される」、及び「分裂性の自己複製性細胞系としてインビトロで継代される間は未分化のままであり、」に相当し、引用発明の「インビボで移植する際には外来性遺伝子を発現し得る」との性質は、本願補正発明の「生存する宿主被験者への要求に沿ったインビボの移植に適する、インビボで外来遺伝子を発現するため」に相当する。

そうすると、本願補正発明と引用発明とは、
「インビトロで安定な細胞系として維持され、生存する宿主被験者への要求に沿ったインビボの移植に適する、インビボで外来遺伝子を発現するための遺伝子的に改変されたヒトニューロン幹細胞であって、
分裂性の自己複製性細胞系としてインビトロで継代される間は未分化のままであり、
ヒト起源の原始ニューロン幹細胞;および
特定のタンパク質産物をコードする外来遺伝子より構成される最低1個のDNAセグメントを担持するウイルスベクターを包含するよう遺伝子的に改変されているヒトゲノムDNA、
を含んでなる前記ヒトニューロン幹細胞。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点]
本願補正発明の「遺伝子的に改変されたヒトニューロン幹細胞」は、
A.「インビトロでbFGF及びEGFの両者に対して二重応答性である」
B.「インビトロで継代される間は未拘束である」
C.「(ii)未拘束細胞としてインビボで移植可能であり、
(iii)移植後、生存する宿主被験者の神経系内での統合のために、該生存する被験者中で移植部位から第二の解剖学的部位へインビボで移動し、
(iv)移植後、生存する宿主被験者中で、第二の解剖学的部位で実質組織中にインシトゥで統合し、そして
(v)統合後に、インシトゥで、ニューロン、稀突起膠細胞およびアストロサイトより成る群から選択される細胞型に分化する」
というA.?C.の性質を有するのに対し、引用発明の「クローンヒトCNS前駆細胞株(E5)」は上記A.?C.の性質を有することが記載されていない点で相違又は一見相違する。

(4)判断
(4-1)相違点A.について
上記(2)引用例の記載事項イ.、カ.及びキ.に記載のとおり、引用例1には、不死化幹細胞であるクローンE5とは別にクローンC10が記載されている。当該クローンC10はヒトニューロン幹細胞であるかは不明であるものの、インビトロでFGF-2(FGF-2はbFGFと同義)及びEGFの両者に対して二重応答性であることが記載されている(図12)。
また、本願優先日前、bFGF及びEGFの両者に対して二重応答性であるニューロン幹細胞が存在すること、及び、bFGF及びEGFが増殖因子の好ましい組み合わせであることは当業者にとって周知であったから(要すれば、拒絶査定で示した国際公開第96/15226号の第13頁2行目?3行目、J.Neurobiol.(1994)Vol.25,No.7,pp.797-807の図5を参照)、引用発明のクローンヒトCNS前駆細胞株(E5)を取得する際に、増殖因子として知られるbFGF及びEGFの両者に対して二重応答性であるものを選択することは当業者が必要に応じて適宜なし得ることである。

(4-2)相違点B.について
上記(2)b.に記載のとおり、引用例1の不死化幹細胞であるクローンE5は、テトラサイクリンを含有しない培地で培養、継代する場合には、インビトロで未分化のままであると認められるが、未拘束であることは記載されていない。
しかし、本願明細書の段落【0001】に、「ニューロン幹細胞(NSC)は、発生中の神経系のおよび成体の神経系にさえ存在しそして成熟CNSのひと続きのより特化された細胞を生じさせている原因である比較的原始の未拘束(uncommitted)細胞であると仮定されている^(1-12)。」と記載されるように、ニューロン幹細胞(NSC)は一般的に未拘束(uncommitted)細胞であると認められるから、引用例1の不死化幹細胞であるクローンE5もテトラサイクリンを含有しない培地で培養、継代する場合には、インビトロで未分化のままであるとともに未拘束であるとの性質を有することは明らかである。

(4-3)相違点C.について
引用発明のクローンヒトCNS前駆細胞株(E5)のインビボでの使用については、引用例の記載事項オ.で示唆されているが、実際に確認されていない。
しかし、本願優先日前、外因性のv-myc遺伝子等の各種の不死化遺伝子により不死化されたラットの神経幹細胞もしくは神経前駆細胞を脳組織に移植すると、移植部位から移動し、移植後、組織に統合され、ニューロンやグリア細胞に分化することは周知であり(要すれば、平成20年10月29日付けの拒絶理由の通知で示したExp.Neurol.(1997)Vol.145,No.2,pp.342-360、Brain Res.(1996)Vol.737, No.1-2,pp.295-300、及びJ.Neurosci.(1995),Vol.15,No.8,pp.5668-5680を参照)、上記(2)引用例の記載事項オ.には、引用例1のヒトCNS前駆細胞は、脳内移植により導入され得ること、神経変性障害において死ぬニューロンを機能的に交換する能力を有し得ることが記載されていることから、引用発明のクローンヒトCNS前駆細胞株(E5)はラットの神経幹細胞と同様に、
「(ii)未拘束細胞としてインビボで移植可能であり、
(iii)移植後、生存する宿主被験者の神経系内での統合のために、該生存する被験者中で移植部位から第二の解剖学的部位へインビボで移動し、
(iv)移植後、生存する宿主被験者中で、第二の解剖学的部位で実質組織中にインシトゥで統合し、そして
(v)統合後に、インシトゥで、ニューロン、稀突起膠細胞およびアストロサイトより成る群から選択される細胞型に分化する」
との性質を有するものであり、当該性質を確認することは当業者が容易になし得ることである。

(4-4)効果について
本願明細書の段落【0030】に記載の表には、bFGF及びEGFの両者に対して二重応答性であるクローンD10やE11が移植可能ではないとの否定的な結果が記載されており、bFGF及びEGFの両者に対して二重応答性であるクローンヒトCNS前駆細胞株(E5)を選択することで当業者が予測できる程度を超える顕著な効果を奏すると認めることはできない。そして、本願補正発明において奏される効果が、引用例1の記載、及び上記周知技術から予測できない程の格別なものとはいえない。

(5)審判請求人の主張について
審判請求人は、平成22年8月30日付けの審判請求書において、
「引用例1の実施例1には、ヒト胎児CNS前駆細胞を不死化するためにレトロウイルスベクター(LINXv-myc)を用いて、そのvmycオンコジーンを転写するために、該ウイルスベクターを感染させた細胞が記載されている。かよう細胞は、最低1個のDNAセグメントを担持するウイルスベクターを包含するように改変されている点で本願発明と共通する。
しかし、引用例1には、かような細胞を、を(審決注:原文のまま引用)インビボで外来遺伝子(例えば、治療遺伝子)を発現するために使用することのみならず、使用できることを記載も示唆もしていない。」
と主張する。

しかし、上記(2)c.及び(4-3)に記載のとおり、引用例1のヒトCNS前駆細胞株は、インビボで移植可能であり、インビボで外来遺伝子を発現し得ると認められることから、請求人の上記主張は採用できない。

(6)むすび
以上検討したところによれば、本願補正発明は、引用例1に記載された発明、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
(1)本願発明
平成22年8月30日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成21年2月9日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】 インビトロで安定な細胞系として維持されるbFGF及びEGFの両者に対して二重応答性であり、かつ生存する宿主被験者への要求に沿ったインビボの移植に適する、遺伝子的に改変されたヒトニューロン幹細胞であって、
(i)分裂性の自己複製性細胞系としてインビトロで継代される間は未拘束かつ未分化のままであり、さらにbFGF及びEGFの両者に対して二重応答性であり、
(ii)未拘束細胞としてインビボで移植可能であり、
(iii)移植後、生存する宿主被験者の神経系内での統合のために、該生存する被験者中で移植部位から第二の解剖学的部位へインビボで移動し、
(iv)移植後、生存する宿主被験者中で、第二の解剖学的部位で実質組織中にインシトゥで統合し、そして
(v)統合後に、インシトゥで、ニューロン、稀突起膠細胞およびアストロサイトより成る群から選択される細胞型に分化する、
ヒト起源の原始ニューロン幹細胞;および
特定のタンパク質産物をコードする外来遺伝子より構成される最低1個のDNAセグメントを担持するウイルスベクターを包含するよう遺伝子的に改変されているヒトゲノムDNA、
を含んでなる前記ヒトニューロン幹細胞。」(以下、「本願発明」という。)

(2)引用例
原査定の拒絶理由で引用された引用例、及びそれらの記載事項は、前記第2.2.(2)に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、前記第2.2.で検討した本願補正発明における遺伝子的に改変されたヒトニューロン幹細胞の用途を限定する 「インビボで外来遺伝子を発現するための」との限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、さらに他の特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記第2.2.に記載したとおり、引用例1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用例1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
よって、本願発明は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第4.まとめ
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-07-02 
結審通知日 2013-07-09 
審決日 2013-07-22 
出願番号 特願2000-565105(P2000-565105)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
P 1 8・ 121- Z (C12N)
P 1 8・ 575- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西村 亜希子  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 冨永 みどり
植原 克典
発明の名称 移植可能なヒトニューロン幹細胞  
代理人 特許業務法人小田島特許事務所  
代理人 特許業務法人小田島特許事務所  
代理人 特許業務法人小田島特許事務所  

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