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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61L 審判 査定不服 特39条先願 特許、登録しない。 A61L |
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管理番号 | 1282981 |
審判番号 | 不服2011-9467 |
総通号数 | 170 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-02-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-05-06 |
確定日 | 2013-12-27 |
事件の表示 | 特願2007-123148「硬組織代替材料」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 8月 9日出願公開、特開2007-196033〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
I.手続の経緯 本願は、平成13年10月9日に出願した特願2001-311060号の一部を平成19年5月8日に新たな特許出願としたものであって、拒絶理由通知に応答し平成22年12月24日付けで手続補正書と意見書が提出されたが、平成23年1月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年5月6日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、その審判の請求と同時に手続補正(以下、「平成23年5月6日付け手続補正」ともいう。)がなされ、同年5月11日受付の手続補正書(方式)が提出されたものであり、その後、前置報告書を用いた審尋がなされたものである。 II.平成23年5月6日付け手続補正(以下、「本件補正」ともいう。)について [補正却下の決定の結論] 平成23年5月6日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.本件補正の概要 本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、 補正前(平成22年12月24日付け手続補正書参照)の 「【請求項1】 配向性を有するリン酸カルシウム系物質を含有する硬組織代替材料であって、前記配向性がc軸配向性であり、前記c軸配向性が正常な生体硬組織の各部位のc軸配向性に略等しくなるように設計されていることを特徴とする、各部位用硬組織代替材料。」から、 補正後の 「【請求項1】 配向性を有するリン酸カルシウム系物質を含有する硬組織代替材料であって、前記配向性がc軸配向性であり、前記c軸配向性が正常な生体硬組織の各部位のc軸配向性に略等しくなるように設計されていて、かつ、700?1400℃までの間で焼成することにより、焼成前よりもヒドロキシアパタイトの結晶粒径が増大する性質を有することを特徴とする、各部位用硬組織代替材料。」(下線は、原文のとおり。) とする補正を含むものである。 この補正前後の発明特定事項を対比すると、この補正により、「かつ、700?1400℃までの間で焼成することにより、焼成前よりもヒドロキシアパタイトの結晶粒径が増大する性質を有する」との事項が追加されたものと認められる。 2.補正の適否 本件補正による上記の追加事項の「かつ、700?1400℃までの間で焼成することにより、焼成前よりもヒドロキシアパタイトの結晶粒径が増大する性質を有する」は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「c軸配向性が正常な生体硬組織の各部位のc軸配向性に略等しくなるように設計されている」ことについて、その具体的な内容として「700?1400℃までの間で焼成すること」を特定したものと言え、その際に「焼成前よりもヒドロキシアパタイトの結晶粒径が増大する性質」があることを併せて説明したものであり、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 なお、「700?1400℃までの間で焼成することにより」とは、単に性質を表明するための前提であり、焼成処理を行う前の材料が請求項1に特定されているようにも理解できそうであるが、本願明細書の全趣旨からみて、例えば、段落【0027】?【0031】の本発明の硬組織代替材料の製造方法の説明、特に、段落【0030】の「700?1400℃までの間で焼成を行なう。このような温度範囲で焼成するのは、リン酸カルシウム系物質の結晶粒径、多孔質度、配向性、力学特性を調製するためである。通常、温度がより高いと、結晶粒径は増大し、多孔質度は低下し、c軸配向性は増大する傾向がある。」との記載や、実施例1で「種々の温度域により適宜焼成を行なうことで、HApの・・・配向性・・の異なる配向性多孔質材料を作成した」(注:配向性の異なることは、具体的にはc軸配向性の変化をみているのみであり、他の軸の配向性についての言及はない。)との記載などを勘案すると、配向性を調製(又は設計)するための必要な条件と解するのが相当である。 そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。 (1)原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、「この出願については、平成22年10月12日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。」というものであり、その平成22年10月12日付け拒絶理由通知書に記載した理由の概要は、同日出願された下記の出願に係る発明と同一と認められ、かつ、下記の出願に係る発明は特許されており協議を行うことができない」旨の指摘とともに、本願請求項1に係る発明が本出願の分割の元となった他の出願1(特願2001-311060;特許第3994152号;以下、「同日出願」ともいう。)の請求項1に記載の発明と実質的に同一であるため、本願請求項1に係る発明は特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。 なお、同日出願は、適法に登録されている。 (2)同日出願に係る発明 同日出願の請求項1に係る発明(以下、「同日出願発明」ともいう。)は、次のとおりである。 「【請求項1】 生体硬組織中の有機成分を除去した後、前記生体硬組織を700?1400℃までの間で焼成を行うことによって得られた、配向性を有するリン酸カルシウム系物質を含有する硬組織代替材料であって、前記配向性が、正常な生体硬組織の各部位の配向性に略等しくなるように設計されていることを特徴とする、各部位用硬組織代替材料。」(特許第3994152号公報を参照) (3)対比、判断 そこで、本願補正発明と同日出願発明を対比すると、両発明は、 「配向性を有するリン酸カルシウム系物質を含有する硬組織代替材料であって、前記配向性が、正常な生体硬組織の各部位の配向性に略等しくなるように設計されている、各部位用硬組織代替材料」 で一致し、次の点で一応相違する(なお、便宜的に相違点としているにすぎない)。 <相違点> A.同日出願発明では、「生体硬組織中の有機成分を除去した後、前記生体硬組織を700?1400℃までの間で焼成を行うことによって得られた」と特定されているのに対し、本願補正発明では、そのような表現では特定されていない点 B.配向性について、本願補正発明では、「c軸配向性」と特定されているのに対し、同日出願発明では、そのような表現では特定されていない点 C.本願補正発明では、「700?1400℃までの間で焼成することにより、焼成前よりもヒドロキシアパタイトの結晶粒径が増大する性質を有する」と特定されているのに対し、同日出願発明では、そのような表現では特定されていない点 そこで、これら一応の相違点A?Cについて検討する。 (A)相違点Aについて 本願補正発明において、「700?1400℃までの間で焼成することにより、」との特定は、性質の言及のために記載されているが、「c軸配向性が正常な生体硬組織の各部位のc軸配向性に略等しくなるように設計されている」ことの設計手段と理解するのが相当であり(前述の「2.」のなお書きを参照;c軸の配向性の増大と結晶性の増大は、焼成温度が高いほどその傾向がある)、同日出願の「700?1400℃までの間で焼成を行うこと」と実質的に相違しないものと認められる。 そして、本願明細書を検討しても、「配向性を有するリン酸カルシウム系物質を含有する硬組織代替材料」としてどのようなものを原材料とするかについては、実施例に見るごとく、例えば、牛大腿骨骨間部のような生体硬組織を用いることが説明されているだけで、他の材料として、どのようなものが具体的に採用し得るのか、また、その他の材料をいかにして配向性を生じせしめるのかについて何等言及されていないのである。 そうであるから、焼成を行なう対象として「生体硬組織」を用いる以外の態様は考えられていないと理解するのが相当であり、そのような生体硬組織を用いることを前提にすれば、「生体硬組織中の有機成分を除去」することを行うことは適宜な態様というべきであり(現に、本願明細書に記載の唯一実施例では、牛大腿骨骨間質を用いて焼成を行なう前に有機成分のみを除去することが明示されている。)、そのような明示的発明特定事項がなくとも、その点で実質的な相違があると解するべきではない。また、焼成するために昇温している状況で、乃至焼成中に、有機成分は除去されるものと認められることから、「生体硬組織中の有機成分を除去後、」との特定の有無によって、結果として得られた硬組織代替材料に実質的な差異が有るとも認められない。なお、意見書や審判請求理由において、相違点Aについては争点とされていない。 よって、相違点Aは実質的な相違ではない。 (B)相違点Bについて 同日出願の明細書の段落【0018】には、「配向性を有するリン酸カルシウム系物質は、硬組織代替材料に所望の力学特性、生体親和性を付与することができる。配向性は、本来、生体硬組織に存在するものであり、当該生体硬組織が部位に応じた特別なヒドロキシアパタイト(HAp)結晶子のc軸配向を持つことにより、生体内において最適な部位特性を有している。本発明においては、このような部位特有の配向性に着目し、見出されたものである。」とされているし、他の箇所でもc軸配向についのみ具体的に記載されているだけで、a軸配向やb軸配向などについては、言及はされていないし、どのように製造するのか具体的な記載を見出すことができない。 ところで、請求人は、審判請求理由において、「例えば、本願の明細書において、「図2(b)及び(c)において、縦軸は回折強度比(回折強度比は、(002)面からの回折強度比を、(310)の回折強度比で割ったものであり、a軸に対するc軸の相対的な回折強度比を示す。)」と記載されていることからも明らかなように、配向性とは、c軸以外に、a軸、b軸等が存在することはあきらかである。 加えて、本出願の分割の元となった他の出願1の出願当初の明細書には、「結晶の配向とは、通常、結晶性材料を構成する結晶子が一定方向に優先的に配列することをいう。配向には、ポリエチレンフィルムに見られる面配向(例えば、c軸がフィルム面内にあって、それ以外には配向性がないもの。)、一軸配向(c軸が繊維方向に配向するもの。)、木綿、麻に見られるらせん配向(c軸が繊維配向と一定の傾きを持つもの。)、さらに二重配向(ある結晶面が繊維軸を含む一定の面に平行なもの。)などがある。したがって、正常な生体硬組織の配向性と同様の配向性を有するように、硬組織代替材料を設計すれば、硬組織代替材料に所望の力学特性を付与することができる。」と記載されていることからも明らかなように(本願の明細書段落番号[0019])、配向は軸に限定されないことはもちろんのこと、それ以外に、種々の配向性の態様があることは明らかである。」と主張している。 しかし、c軸の外にa軸とb軸が存在するからといって、a軸配向性やb軸配向性についての具体的な言及がされていないのであるから、そして、a軸配向性やb軸配向性のものをどのように製造するのかについての具体的な記載がない以上、「配向性」についてc軸配向性以外の解釈はできないものというべきである。また、「配向には、ポリエチレンフィルムに見られる面配向(例えば、c軸がフィルム面内にあって、それ以外には配向性がないもの。)、一軸配向(c軸が繊維方向に配向するもの。)、木綿、麻に見られるらせん配向(c軸が繊維配向と一定の傾きを持つもの。)、さらに二重配向(ある結晶面が繊維軸を含む一定の面に平行なもの。)などがある」からといって、それは単なる配向の説明にすぎず、硬組織代替材料の配向性について説明するものではなく、「軸に限定されない」など論外の主張という他ない。そうであるから、前記請求人の主張は失当であり、採用できない。 したがって、同日出願発明における「配向性」は、実質的にc軸配向性を指すものと理解する他なく、相違点Bは、実質的な相違ではない。 (C)相違点Cについて 「焼成することにより、焼成前よりもヒドロキシアパタイトの結晶粒径が増大する性質を有する」ことは、焼成することによって生じた結晶粒径の変化について、単に言及しているにすぎず、同日出願発明においても、同じ「700?1400℃までの間で焼成する」ことが特定されており、当然に「焼成することにより、焼成前よりもヒドロキシアパタイトの結晶粒径が増大する性質を有する」ことになるというべきであり、同日出願の特許明細書にもそのように記載されている、例えば、段落【0026】に「700?1400℃までの間で焼成を行なう。このような温度範囲で焼成するのは、リン酸カルシウム系物質の結晶粒径、多孔質度、配向性、力学特性を調製するためである。通常、温度がより高いと、結晶粒径は増大し、多孔質度は低下し、c軸配向性は増大する傾向がある。」と説明されている(なお、本願明細書段落【0030】に同文の記載がある。)。 よって、前記相違点Cは、実質的な相違ではない。 (4)まとめ 以上のとおり、一応の相違点とした相違点A?Cは全て実質的な相違であるとは言えないものであり、本願補正発明と同日出願発明が実質的に同一の発明であると言えるので、そして、同日出願発明は既に特許登録されていて協議をすることができないことから、本願補正発明は、特許法第39条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3.むすび よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 III.本願発明について 平成23年5月6日の審判の請求と同時になされた手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成22年12月24日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されたとおりのものである。 なお、前記「II.1.」の補正前として摘示されているとおりであるため、再掲を省略する。 1.同日出願発明 原査定の拒絶の理由に引用された同日出願の発明は、前記「II.2.(2)」に記載したとおりである。 2.対比、判断 本願発明は、前記「II.」で検討した本願補正発明から、「かつ、700?1400℃までの間で焼成することにより、焼成前よりもヒドロキシアパタイトの結晶粒径が増大する性質を有する」との構成を省いたものである。 そうすると、本願発明と同日出願発明は、前記「II.2.(3)」で検討したとおりの一致点と一応の相違点A,相違点Bを有するものである。 先ず、相違点Aについて検討する。 本願明細書を検討しても、「配向性を有するリン酸カルシウム系物質を含有する硬組織代替材料」としてどのようなものを、原材料とするかについては、実施例に見るごとく、例えば、牛大腿骨骨間部のような生体硬組織を用いることが説明されているだけで、他の材料としてどのようなものが具体的に採用し得るのかについて何等言及されていないのである。 そうであるから、焼成を行なう対象として「生体硬組織」を用いる以外の態様は考えられていないと理解するのが相当であり、そのような生体硬組織を用いることを前提にすれば、「生体硬組織中の有機成分を除去」することを行うことは適宜な態様というべきであり、また、そのような明示的な発明特定事項がなくとも、焼成するために昇温している状況下で乃至焼成中に、有機成分は除去されるものと認められることから、その点で実質的な相違があると解することはできない。また、結果として得られた硬組織代替材料に差異があるものは、本願明細書に具体的に記載されているわけでもない。 そして、本願明細書を検討しても、「前記生体硬組織を700?1400℃までの間で焼成することにより得られた」との特定は、「c軸配向性が正常な生体硬組織の各部位のc軸配向性に略等しくなるように設計されている」ことの設計手段と理解するのが相当であり、そのような明示的発明特定事項がなくとも、その点で実質的な相違があると解するべきではない。また、その特定の有無によって、結果として得られた硬組織代替材料に差異があるものは、本願明細書に具体的に記載されているわけでもない。 よって、相違点Aは実質的な相違ではない。 次に、相違点Bについては、前記「II.2.(3)」の「(B)相違点Bについて」で判断したとおり、実質的な相違点とは言えない。 したがって、本願発明も、同日出願発明と実質的に同一の発明であると言える。 3.むすび 以上のとおり、本願発明は、同日出願発明と実質的に同一の発明であり、同日出願発明は既に特許登録されていて協議をすることがてきないものであるから、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-09-17 |
結審通知日 | 2013-10-08 |
審決日 | 2013-10-21 |
出願番号 | 特願2007-123148(P2007-123148) |
審決分類 |
P
1
8・
4-
Z
(A61L)
P 1 8・ 575- Z (A61L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 辰己 雅夫 |
特許庁審判長 |
川上 美秀 |
特許庁審判官 |
岩下 直人 穴吹 智子 |
発明の名称 | 硬組織代替材料 |
代理人 | 坂野 博行 |