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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1283544
審判番号 不服2011-23337  
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-10-28 
確定日 2014-01-06 
事件の表示 特願2005- 25837「アプリケーション管理システムおよびアプリケーション管理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月22日出願公開,特開2005-259119〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は,平成17年2月2日(パリ条約による優先権主張2004年2月3日 欧州特許庁)の外国語書面出願であって,
平成17年3月29日付けで特許法第36条の2第2項の規定による外国語書面,及び,外国語要約書面の日本語による翻訳文が提出され,平成19年4月23日付けで審査請求がなされ,平成22年9月9日付けで審査官により拒絶理由が通知され,これに対して平成23年2月7日付けで意見書が提出されると共に手続補正がなされたが,平成23年6月20日付けで審査官により拒絶査定がなされ,これに対して平成23年10月28日付けで審判請求がなされると共に手続補正がなされ,平成24年3月23日付けで審査官により特許法第164条第3項の規定に基づく報告がなされ,平成24年7月23日付けで当審により特許法第134条第4項の規定に基づく審尋がなされ,平成24年10月24日付けで回答書の提出があったものである。

第2.平成23年10月28日付けの手続補正の却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成23年10月28日付け手続補正を却下する。

[理由]

1.補正の内容
平成23年10月28日付けの手続補正(以下,「本件手続補正」という)により,平成23年2月7日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲,
「 【請求項1】
アプリケーション(20)を管理するアプリケーション管理システムであって,
コンテキスト(65)を構成する複数のエンティティ(61?63’’)を記憶する,データベースリソース(22)と,
イベント(60)を定義する入力を受け取り,
前記イベント(60)により直接影響されるエンティティ(61)によって,前記コンテキスト(65)のサブセットであるサブコンテキスト(64)を定義し,かつ,
前記サブコンテキスト(64)に基づいて,アプリケーション(20)の動作を決定する,アプリケーションマネージャ(10)と
を備え,
前記アプリケーションマネージャ(10)は,
エンティティ間の関係(r)の程度と,エンティティ間の関係(r)の数とに基づいて,エンティティ(61?63’’)にアクティベーション値を割り当てる,アクティベーション値アサイナ(17)と,
アクティベーション値の合計が所定のしきい値を超えるエンティティ(62?63’)を,しきい値を超えるエンティティがなくなるまで,周期的にサブコンテキスト(64)に追加するか否かを決定する,決定手段(18)と
を備え,それによりサブコンテキスト(64)を定義することを特徴とする,アプリケーション管理システム。
【請求項2】
前記アプリケーションマネージャ(10)は,前記サブコンテキスト(64)を記憶するための記憶媒体(15)を含み,
前記記憶されたサブコンテキスト(64)は,将来の状況においてアプリケーション(20)の動作を決定するために使用されることを特徴とする,請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記記憶媒体(15)は,コンテキストモデラ(16)によってアクセス可能であることを特徴とする,請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
アプリケーションを管理する方法であって,
前記方法は,
データベースリソース(22)が,コンテキスト(65)を構成する複数のエンティティ(61?63’’)を記憶するステップと,
アプリケーションマネージャ(10)が,イベント(60)を定義する入力を受け取るステップと,
アプリケーションマネージャ(10)が,前記イベント(60)により直接影響されるエンティティ(61)によって,前記コンテキスト(65)のサブセットであるサブコンテキスト(64)を定義するステップと,
アプリケーションマネージャ(10)が,前記サブコンテキスト(64)に基づいて,アプリケーションの動作を決定するステップと
を含み,
前記サブコンテキスト(64)を定義するステップは,
アクティベーション値アサイナ(17)が,エンティティ間の関係(r)の程度と,エンティティ間の関係(r)の数とに基づいて,エンティティ(61?63’’)にアクティベーション値を割り当てるステップと,
決定手段(18)が,アクティベーション値の合計が所定のしきい値を超えるエンティティ(62?63’)を,しきい値を超えるエンティティがなくなるまで,周期的にサブコンテキスト(64)に追加するか否かを決定するステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
コンテキストモデラ(16)が,前記サブコンテキスト(64)を記憶した記憶媒体(15)にアクセスするステップを含むことを特徴とする,請求項4に記載の方法。
【請求項6】
請求項4又は5の方法を実行するための手段を含む,ユーザ端末。
【請求項7】
コンピュータに請求項4又は5の方法を実行させるためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。」(以下,上記引用の請求項各項を,「補正前の請求項」という)は,
「 【請求項1】
アプリケーション(20)を管理するアプリケーション管理システムであって,
複数のエンティティ(61?63’’)を記憶する,データベースリソース(22)と,
イベント(60)を定義する入力を受け取り,
前記イベント(60)により直接操作されるエンティティ(61)によって,前記複数のエンティティ(61?63’’)間の参照関係により表現されたコンテキスト(65)のサブセットであるサブコンテキスト(64)を定義し,かつ,
前記サブコンテキスト(64)に基づいて,アプリケーション(20)の動作を決定する,アプリケーションマネージャ(10)と
を備え,
前記アプリケーションマネージャ(10)は,
エンティティ間の参照関係(r)の程度と,エンティティ間の参照関係(r)の数とに基づいてエンティティ間の参照関係の重要度を示すアクティベーション値をエンティティ(61?63’’)に割り当てる,アクティベーション値アサイナ(17)と,
アクティベーション値の合計が所定のしきい値を超えるエンティティ(62?63’)を,しきい値を超えるエンティティがなくなるまで,周期的にサブコンテキスト(64)に追加するか否かを決定する,決定手段(18)と
を備え,それによりサブコンテキスト(64)を定義することを特徴とする,アプリケーション管理システム。
【請求項2】
前記アプリケーションマネージャ(10)は,前記サブコンテキスト(64)を記憶するための記憶媒体(15)を含むことを特徴とする,請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記記憶媒体(15)は,コンテキストモデラ(16)によってアクセス可能であることを特徴とする,請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
アプリケーションを管理する方法であって,
前記方法は,
データベースリソース(22)が,複数のエンティティ(61?63’’)を記憶するステップと,
アプリケーションマネージャ(10)が,イベント(60)を定義する入力を受け取るステップと,
アプリケーションマネージャ(10)が,前記イベント(60)により直接操作されるエンティティ(61)によって,前記複数のエンティティ(61?63’’)間の参照関係により表現されたコンテキスト(65)のサブセットであるサブコンテキスト(64)を定義するステップと,
アプリケーションマネージャ(10)が,前記サブコンテキスト(64)に基づいて,アプリケーションの動作を決定するステップと
を含み,
前記サブコンテキスト(64)を定義するステップは,
アクティベーション値アサイナ(17)が,エンティティ間の参照関係(r)の程度と,エンティティ間の参照関係(r)の数とに基づいてエンティティ間の参照関係の重要度を示すアクティベーション値をエンティティ(61?63’’)に割り当てるステップと,
決定手段(18)が,アクティベーション値の合計が所定のしきい値を超えるエンティティ(62?63’)を,しきい値を超えるエンティティがなくなるまで,周期的にサブコンテキスト(64)に追加するか否かを決定するステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
コンテキストモデラ(16)が,前記サブコンテキスト(64)を記憶した記憶媒体(15)にアクセスするステップを含むことを特徴とする,請求項4に記載の方法。
【請求項6】
請求項4又は5の方法を実行するための手段を含む,ユーザ端末。
【請求項7】
コンピュータに請求項4又は5の方法を実行させるためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。」(以下,上記引用の請求項各項を,「補正後の請求項」という)に補正された。

2.補正の適否
(1)新規事項
本件手続補正が,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定を満たすものであるか否か,即ち,本件手続補正が,平成17年3月29日付けで提出された外国語書面の日本語による翻訳文(以下,これを「当初明細書等」という)に記載した事項の範囲内でなされたものであるかについて,以下に検討する。

ア.補正後の請求項1に,
「イベント(60)により直接操作されるエンティティ(61)によって,前記複数のエンティティ(61?63’’)間の参照関係により表現されたコンテキスト(65)のサブセットであるサブコンテキスト(64)を定義し」,
と記載されているが,当初明細書等には,
以上引用の記載と同一,或いは,同等の記載は存在しない。
そこで,当初明細書等の記載から,上記引用の補正後の請求項1に記載された事項が読み取れるかを,次に検討する。

上記引用の補正後の請求項1の,
「前記複数のエンティティ(61?63’’)間の参照関係により表現されたコンテキスト(65)」(下線は,当審にて説明の都合上附加したものである。以下同じ),
という記載は,
“複数のエンティティのそれそれが,相互に参照関係を有している”
という構成を含むものである。

この点について,当初明細書等には,段落【0005】に,
「コンテキストは,イベントと関連付けられており,データベース内に記憶された複数のエンティティへの参照の組によりアプリケーション内で表現され,アプリケーションマネージャは,さらに,複数のエンティティへの参照のサブセットにより状況を決定して,サブコンテキストを定義するための,状況表現マネージャを含み,状況表現マネージャは,イベントに関連する複数のエンティティへの参照のサブセット識別するように構成されており」,
同段落【0007】に,
「コンテキストは,イベントに関連付けられ,データベースリソース内に記憶された複数のエンティティへの参照の組によってアプリケーション内で表現され,前記方法はさらに,サブコンテキストを定義するために,複数のエンティティへの参照のサブセットによって状況表現を決定するステップを含み,前記決定するステップは,イベントに関連する複数のエンティティへの参照のサブセットを識別するステップを含み」,
同段落【0011】に,
「コンテキスト65は,イベント60と関連付けられており,データベースリソース22内に記憶された複数のエンティティ61,62,63’,63”への参照の組により表現され,アプリケーションマネージャ10は,さらに,複数のエンティティ62,62,63’への参照のサブセットにより状況表現64(当審注;平成23年2月7日付けの手続補正により「サブコンテキスト64」と補正されている)を決定して,サブコンテキスト64を定義するための,状況表現マネージャ13を含み,状況表現マネージャ13は,イベント60に関連する複数のエンティティ62,62,63’への参照のサブセットを識別するよう構成されており」,
同段落【0029】に,
「コンテキスト65は,イベント60と関連付けられ,データベースリソース内に記憶された複数のエンティティ61?63への参照の組によってイベント内で表現され(ステップ72),前記方法はさらに,サブコンテキストを定義するために,複数のエンティティ61,62,63’への参照のサブセットによって状況表現64(当審注;平成23年2月7日付けの手続補正により「サブコンテキスト64」と補正されている)を決定するステップ(ステップ74)を含み,前記決定するステップは,イベント60に関連する複数のエンティティ61,62,63’への参照のサブセットを識別するステップを含み」,
という記載が存在するが,これらの記載に従えば,当初明細書等の記載における「コンテキスト」とは,
“アプリケーション内で,データベースリソース内に記憶された複数のエンティティへの参照の組”
であることは読み取れるが,
“データベースリソース内に記憶されたエンティティのそれぞれが,相互に参照している”
と言った構成は記載されておらず,また,上記引用の記載から,当業者にとって自明の事項でもない。
当初明細書等には,上記引用の記載の他,段落【0014】に,
「どのエンティティ61がコンテキスト表現を形成するかを決定する」,
と記載され,この記載に従えば,「エンティティ」自体が,「コンテキスト表現」を形成する“要素”と解され,
また,同段落【0016】に,
「スロット内のそれぞれのエンティティを参照する関係は,さまざまな値を持っていてもよい。例えば,それぞれのエンティティを参照する関係は,その関係の蓋然性および信頼度のうち少なくとも1つを示す値であってもよい」,
と記載されているが,該記載中の「エンティティを参照する関係」が,「エンティティ」それぞれの間における「参照関係」を意味するものであるという裏付けは,当初明細書等には存在しない。
更に,当初明細書等には,
「【0020】
サブコンテキスト64は,次の方法で識別されてもよい。サブコンテキストは,イベント60により直接影響されるエンティティ61を最初に含むように定義される。データベースリソースの内容の操作によりイベントが定義される場合,直接影響される2つ以上のエンティティは,リンクされている2つ以上のエンティティである。これらの直接影響されるエンティティ61は,以下,サブコンテキストのコアエンティティと記載する。」
という記載も存在するが,上記引用の段落【0020】における「リンク」が,何に対する「リンク」であるか,当初明細書等の記載内容からは明確にならないので,この記載を持ってしても,当初明細書等の記載内容からは,「参照関係」を読み取ることはできない。
以上のとおりであるから,補正後の請求項1に記載の,
「イベント(60)により直接操作されるエンティティ(61)によって,前記複数のエンティティ(61?63’’)間の参照関係により表現されたコンテキスト(65)のサブセットであるサブコンテキスト(64)を定義し」は,
当初明細書等に記載されたものではない。

イ.補正後の請求項1に,
「エンティティ間の参照関係(r)の程度と,エンティティ間の参照関係(r)の数とに基づいてエンティティ間の参照関係の重要度を示すアクティベーション値をエンティティ(61?63’’)に割り当てる,アクティベーション値アサイナ(17)」,
と記載されているが,当初明細書等には,
“エンティティ間の参照関係(r)の程度と,エンティティ間の参照関係(r)の数とに基づいてエンティティ間の参照関係の重要度を示すアクティベーション値をエンティティアクティベーション値アサイナ”
という記載は存在しない。
そこで,当初明細書等の記載から,上記引用の補正後の請求項1に記載された事項が読み取れるかを,次に検討する。

当初明細書等には,上記引用の補正後の請求項1の記載に類似する内容として,
「 【0031】
さらなる実施形態では,エンティティ61?63についてのアクティベーション値を導く前記ステップは,エンティティ61?63がイベント60に関係する程度に従って決定される。これにより,状況に密接に関係しているエンティティ61?63には,状況60に密接に関係していないエンティティよりも高いアクティベーション値が割り当てられる。特に,状況に直接関係しているエンティティにアクティベーション値を割り当てるステップは,状況に直接関係しているエンティティが,状況に間接的に関係しているエンティティよりも高い関連性を有するように実行される。さらに,アクティベーション値は,関係rの数に従って割り当てられてもよい。例えば,直接関係しているエンティティへの複数の関係rを有するエンティティ61,62,63′にアクティベーション値AVを割り当てるステップは,関係rの数に基づいて実行されてもよい。これにより,より高い関係数により関係しているエンティティには,より低い関係数により関係しているエンティティよりも高いアクティベーション値が割り当てられる。これにより,状況表現マネージャにより識別されるエンティティの関連性はさらに向上する。」
という記載が存在する。
しかしながら,上記引用の,当初明細書等の記載内容においては,下線で強調した箇所に示されているように,“「アクティベーション値」を,「関係rの数」に基づいて割り当てる”点は記載されているが,“関係rの程度”に基づいて「アクティベーション値」を割り当てる点については記載されていない。
上記引用の記載には,単に,
「アクティベーション値を導く前記ステップは,エンティティ61?63がイベント60に関係する程度に従って決定される」
と記載されるのみであり,該記載から読み取れるのは,
“アクティベーション値は,エンティティへ61?63がイベント60に関係する程度によって割り当てられる”
ということであり,上記引用の記載には,“イベント60に関係する程度”における「関係」と,「関係rの数」における「関係」とが,“同一のものであるか,関連するものであるか”
が明確になるほどの説明はなされていない。
そして,「関係r」の「r」については,上記引用の段落【0031】の記載の他は,【図2】に示されている程度であるから,当初明細書等の他の段落,図面の記載内容を加味しても,「関係の程度」における「関係」と,「関係rの数」における「関係」とを,同じ「参照関係r」として表現する根拠が,当初明細書等の記載からは読み取れない。
加えて,当初明細書等には,上記ア.で指摘したとおり「参照関係」という記載そのものが存在せず,また,当初明細書等の記載内容からも読み取れない。
さらに,上記引用の補正後の請求項1の記載中の,
「参照関係の重要度を示すアクティベーション値」に関しても,
当初明細書等の段落【0017】に,
「その状況内でのそれぞれの関係の重要度」,
という記載が存在するものの,ここでの「関係」は,上記ア.で引用した段落【0016】に記載された,
「スロット内のそれぞれのエンティティを参照する関係」,
における「関係」を指すものと解され,該「関係」は,上記ア.で指摘したとおり,「エンティティ」間の“参照関係”を示すものとは,当初明細書等の記載内容からは読み取れないので,当初明細書等の記載内容からは,「参照関係の重要度を示すアクティベーション値」を読み取ることはできない。
以上のとおりであるから,補正後の請求項1に記載された,
「エンティティ間の参照関係(r)の程度と,エンティティ間の参照関係(r)の数とに基づいてエンティティ間の参照関係の重要度を示すアクティベーション値をエンティティ(61?63’’)に割り当てる,アクティベーション値アサイナ(17)」は,
当初明細書等に記載されたものではない。

以上ア.,及び,イ.において検討したとおりであるから,本件手続補正は,当初明細書等の記載の範囲内でなされたものではない。

3.補正却下むすび
したがって,本件手続補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって,補正却下の決定の結論のとおり決定する。

第3.本願発明について
平成23年10月28日付けの手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願に係る発明は,平成23年2月7日付けの手続補正により補正された,上記「第2.平成23年10月28日付けの手続補正の却下の決定」の「1.補正の内容」において,補正前の請求項1?請求項7(以下,これを「本願の請求項1?請求項7」という)に記載された事項により特定されるものである。

第4.原審の拒絶理由
原審における平成22年9月9日付けの拒絶理由(以下,これを「原審の拒絶理由」という)は,概略,次のとおりである。

「 理 由
【理由1】この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


(1)?(7)省略

(8)請求項2の「アクティベーション値」という記載の意味するところが不明であり,請求項2の記載は明確ではない。特許請求の範囲の記載様式は,特許法施行規則の「様式29の2」にて規定されており,この「様式29の2」の[備考]には「8 技術用語は,学術用語を用いる。」,「9 用語は,その有する普通の意味で使用し,かつ,明細書及び特許請求の範囲全体を通じて統一して使用する。ただし,特定の意味で使用する場合において,その意味を定義して使用するときは,この限りでない。」と記載されているので,この記載に沿って以下検討する。
まず,請求項2の前記「アクティベーション値」というのは,「学術用語」ではない(反論があるのであれば,具体的な証拠と根拠を挙げて意見書で説明されたい)。
また,請求項2の前記「アクティベーション値」という用語の「普通の意味」というのが如何なる意味であるのかも不明である(反論があるのであれば,具体的な証拠と根拠を挙げて意見書で説明されたい)。
次に,請求項2の前記「アクティベーション値」という用語の定義を説明する記述が明細書中に存在するか否かを確認すると,明細書段落【0024】,【0031】,【0033】などには,「アクティベーション値」の計算の仕方に関する記載は一応存在するものの,そもそも「アクティベーション値」とは何であるのかという用語の定義を説明する記載は明細書中には存在しない(反論があるのであれば,具体的な証拠と根拠を挙げて意見書で説明されたい)。
したがって,請求項2の前記「アクティベーション値」という記載の意味するところが不明であり,請求項2の記載は明確ではない。
なお,仮に「学術用語」を用いていても,その「学術用語」が「普通の意味」で用いられていなければ,前記[備考]の9の規定に違反することになるので注意されたい(したがって,ただ単に「アクティベーション値」という用語が学術用語であると主張するだけでは,指摘されている記載不備は解消しない。また,請求項2において「アクティベーション値」という用語がどのような文脈で用いられているかを見ると,請求項2においては,「状況表現マネージャ」によって「複数のエンティティ」に割り当てられる数値であって,かつ,当該数値に基づいて状況表現に含められるべきエンティティを決定するために用いられる数値が「アクティベーション値」であるという文脈で「アクティベーション値」という用語が用いられているから,そのような文脈とは全く異なる文脈でたまたま「アクティベーション値」という用語が用いられている文献を証拠として提出して,「この文献に記載されているように「アクティベーション値」という用語は学術用語であり,普通の意味で用いられている」などという主張を意見書で行っても,指摘されている記載不備は解消しないので注意されたい)。
以上検討したとおり,請求項2の「アクティベーション値」という用語の意味するところが不明であり,したがって,請求項2の記載は明確ではない。同様の記載を有するその他の請求項についても,同様の記載不備がある。

(9)?(11)省略

(12)請求項7には「直接関係しているエンティティ(61)への複数の関係(r)を有するエンティティ(62′)には」という記載が存在し,この記載は,「エンティティ」が「エンティティ」に「関係」するという趣旨の記載が含まれているが,その意味するところが不明であり,請求項7の記載は明確ではない。同様の記載を有するその他の請求項についても,同様の記載不備がある。

(13)請求項8には「決定手段(17)は,イベント(60)により直接影響されるエンティティ(61)への参照を最初に含む初期サブセット(60)の連続的な拡張により」という記載が存在し,この記載は,「エンティティ」が「イベント」により「影響」される旨の記載を含むが,その意味するところが不明であり,請求項8の記載は明確ではない。同様の記載を有するその他の請求項についても,同様の記載不備がある。

(14)?(18)省略

(19)請求項16の「状況(60)または将来の状況に適合させる」という記載における「状況」とは,何の状況であるのか不明であり,請求項16の記載は明確ではない。同様の記載を有するその他の請求項についても,同様の記載不備がある。

(20)?(25)省略

以上(1)?(25)として指摘したように,請求項1?32の記載は明確ではない。
(以上,理由1)

【理由2】この出願は,発明の詳細な説明の記載が下記の点で,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。



(1)上記【理由1】で指摘したように,請求項1?32には不明確な事項が記載されており,そのような不明確な事項の具体的な実現手法は,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明に記載されていない。

(2)?(6)省略

(7)明細書段落【0012】には,「状況表現マネージャがサブコンテキストを決定するので」と記載されている(なお,同様の趣旨の記載は,明細書中のその他の箇所にも存在しているが,代表的に,段落【0012】の上述の記載箇所を指摘している点に注意されたい)が,この記載における「決定」とは,具体的にどのような内容のデータに対し,具体的にどのようなアルゴリズムに基づく演算処理を行うのか不明であり,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されていない。

(8)明細書段落【0013】には「通常,任意の時点において,ユーザは,アクションまたはプロセス,あるいはその両方を含んでいてもよいイベント60に関与している」という記載が存在する(なお,同様の趣旨の記載は,明細書中のその他の箇所にも存在しているが,代表的に,段落【0013】の上述の記載箇所を指摘している点に注意されたい)。この記載は,「イベント」が「アクション」や「プロセス」を含むという趣旨の記載を含むが,その意味するところが不明であり,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されていない(そもそも,本願明細書において,「イベント」,「アクション」,「プロセス」という用語を,どのような定義の用語として使用しているのかも不明である(具体的な証拠や根拠を挙げて,それらの用語の定義を説明されたい)。なお,当該技術分野における「普通の意味」に基づく用語法によれば,「イベント」が「アクション」や「プロセス」を含むなどということは有り得ないので,注意されたい)。

(9)省略

(10)明細書段落【0014】には,「状況表現64は,アプリケーション20および入力12からのデータに基づいてアプリケーションマネージャ10により決定され,そして,場合によっては,コンテキストモデラ16内に記憶されていてもよい現在のコンテキスト表現を使用して決定されてもよい」という記載が存在する(なお,同様の趣旨の記載は,明細書中のその他の箇所にも存在しているが,代表的に,段落【0014】の上述の記載箇所を指摘している点に注意されたい)が,この記載に含まれている2つの「決定」という処理は,具体的にどのような内容のデータに対し,具体的にどのようなアルゴリズムに基づく演算を施すことによって「決定」されるのか説明されておらず不明であり,したがって,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されていない。

(11)明細書段落【0014】には,「コンテキストモデラ16は,特に状況表現マネージャ13の出力に基づいて,どのエンティティ61がコンテキスト表現を形成するかを決定する」という記載が存在する(なお,同様の趣旨の記載は,明細書中のその他の箇所にも存在しているが,代表的に,段落【0014】の上述の記載箇所を指摘している点に注意されたい)が,この記載に含まれている「決定」という処理は,具体的にどのような内容のデータに対し,具体的にどのようなアルゴリズムに基づく演算を施すことによって「決定」されるのか説明されておらず不明であり,したがって,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されていない。

(12)明細書段落【0014】には,「プロセスまたはアクションにより定義される,エンティティまたはイベントのコンテキストは」という記載が存在する(なお,同様の趣旨の記載は,明細書中のその他の箇所にも存在しているが,代表的に,段落【0014】の上述の記載箇所を指摘している点に注意されたい)。この記載には,「エンティティまたはイベントのコンテキスト」が「プロセスまたはアクションにより定義」されるという趣旨の記載であるが,その意味するところが不明であり,また,具体的な実現手法も不明である。したがって,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されていない。

(13)?(14)省略

(15)明細書段落【0015】には,「本発明によれば,ユーザが関与してきた状況の表現は,記憶媒体15に記憶される。それらは,それぞれの特定のプロセスおよび/またはアクションに関与しているか,または関連付けられているエンティティ61によって,フレームとして記憶されてもよい。現在および以前の状況は,状況に含まれているオブジェクトまたはアクション,およびそれらの相互関係を説明する,複数のフレームによって表現されてもよい」という記載が存在するが,この記載の具体的な実現手法が,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明に記載されていない。
明細書の段落【0015】には「フレームは,当業者(例えば人工知能(AI)からの)に知られている用語であり,固定された「役割」内のさまざまな「アクター」で発生する共通のパターンを表現する。フレームはスロットを含み,そのようなフレームの特定のインスタンスの中で,役割はスロットにより表現され,スロットはアクターで埋められる」という記載が存在し,この記載には,「フレーム」が「固定された「役割」内のさまざまな「アクター」で発生する共通のパターン」を「表現する」という趣旨の記載(以下,便宜的に「記載D」という。)と,「フレームの特定のインスタンスの中で,役割はスロットにより表現され,スロットはアクターで埋められる」という趣旨の記載(以下,便宜的に「記載E」という。)とが存在するが,「フレーム」に関する当業者の技術常識を確認するために,

【参考文献2】
社団法人計測自動制御学会編,「ニューロ・ファジィ・AIハンドブック」,第1版,1994年5月25日,株式会社オーム社,第347?348頁,ISBN:4-274-03446-1

を参照しても,前記記載Dや前記記載Eに対応する記載は存在しないから,前記記載D及び前記記載Eに記載されている事項が周知技術であるか否かに疑義がある(反論があるのであれば,前記記載Dや前記記載Eに記載されている事項が周知技術であることを立証する証拠となる文献のコピーを提出されたい)。
更にまた,仮に,前記記載Dや前記記載Eに記載されている事項が周知技術であると仮定しても,前記記載D及び前記記載Eにおける「フレーム」,「スロット」,「アクター」,「役割」,「インスタンス」,「パターン」と,本願明細書に記載されている構成要件(エンティティ,コンテキスト,イベント,サブセット,状況表現,アクティベーション値など)とが,具体的にどのように対応付けられて実施されるのかも不明であるので,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されていない。

(16)明細書段落【0017】には,「ユーザが関与してきた状況のうちの少なくとも1つ,および現在の状況についての,フレーム,関係,および値は,第1の記憶媒体15に記憶される」という記載が存在する(なお,同様の趣旨の記載は,明細書中のその他の箇所にも存在しているが,代表的に,段落【0017】の上述の記載箇所を指摘している点に注意されたい)が,この記載の具体的な実現手法が,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明に記載されていない。「ユーザが関与してきた状況」というのが,具体的にどのような内容,記述形式,フォーマットを有しているデータであって,「フレーム,関係,および値」というのが,それぞれ具体的にどのような内容,記述形式,フォーマットを有しているデータであって,前記「ユーザが関与してきた状況」というデータに対し,具体的にどのようなアルゴリズムに基づく演算を施すと前記「フレーム,関係,および値」というデータが得られるのか何ら具体的に説明されておらず不明であり,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されていない。

(17)明細書段落【0020】には,「サブコンテキストは,イベント60により直接影響されるエンティティ61を最初に含むように定義される」という記載が存在する(なお,同様の趣旨の記載は,明細書中のその他の箇所にも存在しているが,代表的に,段落【0020】の上述の記載箇所を指摘している点に注意されたい)が,エンティティがイベントにより直接影響されるとは如何なる意味であるのか不明であり(そもそも,エンティティがイベントに「影響」されるとは如何なる意味であるのかも不明であり),そのように,イベントによって「影響」されるエンティティとは具体的にどのようなものであって,そのようなエンティティを具体的にどのようにして定義するのか,具体的な実現手法が説明されておらず不明であり,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されていない。

(18)明細書段落【0022】には,「連続した周期の中で,サブコンテキストに関係し,かつ,アクティブなコンテキストの一部であるかまたはアクティブなコンテキストに直接関係しているエンティティが,サブコンテキスト64に追加される」という記載が存在する(なお,同様の趣旨の記載は,明細書中のその他の箇所にも存在しているが,代表的に,段落【0022】の上述の記載箇所を指摘している点に注意されたい)が,「コンテキスト」が「アクティブ」であるとは如何なる意味であるのか不明であり,また,「コンテキスト」が「アクティブ」であるか否かの判断は,具体的にどのようにして行うのかも不明であり,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されていない。

(19)明細書段落【0022】には,「連続した周期の中で,サブコンテキストに関係し,かつ,アクティブなコンテキストの一部であるかまたはアクティブなコンテキストに直接関係しているエンティティが,サブコンテキスト64に追加される」という記載が存在する(なお,同様の趣旨の記載は,明細書中のその他の箇所にも存在しているが,代表的に,段落【0022】の上述の記載箇所を指摘している点に注意されたい)が,「エンティティ」がコンテキストに「直接関係」するとは如何なる意味であるのか不明であり(そもそも,「エンティティ」がコンテキストに「関係」するとは如何なる意味であるのかも不明であり),当業者が実施できる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されていない。

(20)明細書段落【0024】には,「上述のように,さらなる実施形態では,エンティティ61?63のアクティベーション値AVは,状況のコアエンティティ60にエンティティ61?63が関係する程度に従って導かれる」という記載が存在する(なお,同様の趣旨の記載は,明細書中のその他の箇所にも存在しているが,代表的に,段落【0024】の上述の記載箇所を指摘している点に注意されたい)が,この記載に含まれている「上述のように」とは,どこの記載を指すのか不明であり,また,「状況のコアエンティティ60にエンティティ61?63が関係する程度」という記載における「程度」とは,具体的にどのようにして計算されるのかも不明であり,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されていない。

(21)明細書段落【0024】には,「さらなる実施形態では,決定手段18は,状況のコアエンティティ60により直接影響されるエンティティ61への参照を最初に含むサブセット60の連続的な拡張により,サブコンテキスト64を,イベントに関係しているものとして決定するように構成される」という記載が存在する(なお,同様の趣旨の記載は,明細書中のその他の箇所にも存在しているが,代表的に,段落【0024】の上述の記載箇所を指摘している点に注意されたい)が,この記載に含まれている「拡張」という処理は,具体的にどのような内容のデータに対し,具体的にどのようなアルゴリズムに基づく演算を施すことによって行われるのか説明されておらず不明であり,したがって,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されていない。

(22)明細書段落【0024】には,「さらなる実施形態では,決定手段18は,エンティティ62,63′が初期サブセット60のエンティティ61のうちの少なくとも1つに関係している場合に,そして,追加されるべきエンティティ62,63′に割り当てられたアクティベーション値AVに基づいて,初期サブセット60にエンティティ62,63′を追加するように構成され,アクティベーション値AVは,追加されるべきエンティティ62,63′と,コンテキスト65に含まれているエンティティ61?63との関係に従って,および,前記関係しているエンティティに割り当てられたアクティベーション値に従って,追加されるべきエンティティ62,63′に割り当てられる」という記載が存在する(なお,同様の趣旨の記載は,明細書中のその他の箇所にも存在しているが,代表的に,段落【0024】の上述の記載箇所を指摘している点に注意されたい)が,この記載に含まれている「関係に従って」という処理は,具体的にどのような内容のデータに対し,具体的にどのようなアルゴリズムに基づく演算を施すことによって行われるのか説明されておらず不明であり,したがって,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されていない。

(23)明細書段落【0024】には,「さらなる実施形態では,アクティベーション値アサイナは,エンティティがサブコンテキスト内に含められた反復に依存するサブコンテキストアクティベーション属性(値とも呼ばれる)を,サブコンテキストに含まれているエンティティに割り当てる」という記載が存在する(なお,同様の趣旨の記載は,明細書中のその他の箇所にも存在しているが,代表的に,段落【0024】の上述の記載箇所を指摘している点に注意されたい)が,この記載に含まれている「反復に依存する」とは如何なる意味であるのか意味不明であり,前記記載の具体的な実現手法が不明である。したがって,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されていない。

(24)明細書段落【0028】には,「コンテキストを有するイベント」という記載が存在する(なお,同様の趣旨の記載は,明細書中のその他の箇所にも存在しているが,代表的に,段落【0028】の上述の記載箇所を指摘している点に注意されたい)が,イベントがコンテキストを有するとは如何なる意味であるのか意味不明であり,その具体的な実現手法も不明である。したがって,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されていない。

(25)明細書段落【0028】には,「コンテキストを有するイベントを,記憶されたエンティティの組によって定義する入力を受け取るステップ(ステップ72)」という記載が存在する(なお,同様の趣旨の記載は,明細書中のその他の箇所にも存在しているが,代表的に,段落【0028】の上述の記載箇所を指摘している点に注意されたい)。この記載には,「イベント」を「エンティティの組によって定義する」という趣旨の記載が存在するが,その意味するところが不明であり,その具体的な実現手法も不明である。したがって,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されていない。

(26)明細書段落【0028】には,「サブコンテキストを定義する,記憶されたエンティティの組のサブセットとして,状況表現を決定するステップ」という記載が存在する(なお,同様の趣旨の記載は,明細書中のその他の箇所にも存在しているが,代表的に,段落【0028】の上述の記載箇所を指摘している点に注意されたい)が,この記載の具体的な実現手法が不明である。具体的にどのような内容,記述形式,フォーマットを有するデータに対し,具体的にどのようなアルゴリズムに基づく処理を行うと,「エンティティの組のサブセット」が選択されるのか不明である。したがって,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されていない。

(27)明細書段落【0028】には,「状況表現に基づいて,アプリケーションの動作を,状況または将来の状況に適用させるステップ」という記載が存在する(なお,同様の趣旨の記載は,明細書中のその他の箇所にも存在しているが,代表的に,段落【0028】の上述の記載箇所を指摘している点に注意されたい)が,この記載の具体的な実現手法が不明である。「状況表現」というのが具体的にどのような内容,記述形式,フォーマットを有するデータであって,その中のどのデータに対し具体的にどのようなアルゴリズムに基づく処理を行うと,「アプリケーションの動作」が「状況」に「適用」するのか不明である(なお,前記記載に含まれる「適用」が,仮に,「適合」や「適応」とすべき誤記であると仮定しても,やはり,具体的な実現手法は不明である)。また,「状況」や「将来の状況」というデータは,具体的にどのような内容,記述形式,フォーマットを有するデータであって,具体的にどのようにして入手されるデータであるのかも不明である。したがって,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されていない。

(28)明細書段落【0029】には,「コンテキスト65は,イベント60に関連付けられ,データベースリソース内に記憶された複数のエンティティ61?63への参照の組によってイベント内で表現され」という記載が存在する(なお,同様の趣旨の記載は,明細書中のその他の箇所にも存在しているが,代表的に,段落【0029】の上述の記載箇所を指摘している点に注意されたい)が,コンテキストを「イベント内で」表現するとは如何なる意味であるのか不明であり,その具体的な実現手法も不明である。したがって,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されていない。

よって,この出願の発明の詳細な説明は,当業者が請求項1?32に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

【注意1】
発明の詳細な説明には,請求項の記載を形式的に反復して記載しているに過ぎない記載箇所が存在するが,それらの記載箇所は単なる願望が抽象的に記載されているに過ぎず,具体的な実現手法が説明されている記載箇所であるとは認められないので,注意されたい。
(以上,理由2)

【理由3】省略」

第5.当審の判断
1.36条6項2号について
(1)原審の拒絶理由の理由1(8)に関して
原審の拒絶理由の理由1(8)において,
「請求項2の前記「アクティベーション値」という記載の意味するところが不明であり,請求項2の記載は明確ではない。」
と指摘された,本願の請求項1,及び,請求項4に記載された「アクティベーション値」に関して,本願の請求項1においては,
「エンティティ間の関係(r)の程度と,エンティティ間の関係(r)の数とに基づいて,エンティティ(61?63’’)にアクティベーション値を割り当てる」,
「アクティベーション値の合計が所定のしきい値を超えるエンティティ(62?63’)を,しきい値を超えるエンティティがなくなるまで,周期的にサブコンテキスト(64)に追加するか否かを決定する」,
と記載され,本願の請求項4においては,
「アクティベーション値アサイナ(17)が,エンティティ間の関係(r)の程度と,エンティティ間の関係(r)の数とに基づいて,エンティティ(61?63’’)にアクティベーション値を割り当てるステップ」,
「決定手段(18)が,しきい値を超えるエンティティがなくなるまで,周期的にサブコンテキスト(64)を追加するか否かを決定するステップ」,
と記載されている。
しかしながら,上記引用の本願の請求項1,及び,請求項4には,単に,
「エンティティ(61?63’’)にアクティベーション値を割り当てる」,
「アクティベーション値の合計が所定のしきい値を超えるエンティティ」,
という記載があるのみであり,本願の請求項1,及び,請求項4には,「アクティベーション値」がどのようなものであるかを示す記載,或いは,「アクティベーション値」についての“定義”といったことは一切記載されていない。
そして,他の請求項に記載された内容を見ても,「アクティベーション値」の“定義”に繋がるような記載や,「アクティベーション値」がどのようなものであるかが,分かるような記載は存在しない。
したがって,本願の請求項1?請求項7に記載された事項からは,本願の請求項1,及び,請求4に記載の「アクティベーション値」が,どのようなものであるか,不明である。
そこで,本願明細書の発明の詳細な説明,及び,図面(以下,これを「本願明細書等」という)に記載された内容を参酌することで,前記「アクティベーション値」が,どのようなものであるかが,明確になるかについて,以下に検討する。

本願明細書等には,「アクティベーション値」について,
「【0021】
本発明の一実施形態によれば,状況表現マネージャ13は,参照の組により定義された複数のエンティティ(つまり,コンテキスト)にアクティベーション値を割り当てるための,アクティベーション値アサイナ17を含む。初期サブコンテキスト61内のエレメント(つまり,エンティティの組)について,アクティベーション値アサイナ17は,アクティベーション値をさらに定義して,前記サブコンテキストに含まれているエンティティに割り当てるように構成される。このさらなるアクティベーション手段は,コンテキストエンティティ61?63に割り当てられるアクティベーションとは無関係であり,以下ではサブコンテキストアクティベーションと記載される場合があることに注意されたい。
【0022】
状況表現マネージャ13は,状況表現を,周期的な方法で決定する。連続した周期の中で,サブコンテキストに関係し,かつ,アクティブなコンテキストの一部であるかまたはアクティブなコンテキストに直接関係しているエンティティが,サブコンテキスト64に追加される。図2からわかるように,イベント60に直接関係しているエンティティ62に加えて,状況表現マネージャ13は,エンティティ63′を,そのアクティベーション値AVに基づいて,サブコンテキスト64に追加する。それとは異なり,エンティティ63′′は,サブコンテキスト64に追加されない。同様に,エンティティ63′′をサブコンテキストに含めないことの決定は,アクティベーション値AVに基づいて行われる。エンティティがサブコンテキスト64に追加されるかどうかは,データ処理装置またはそれに類似したものを含んでいてもよい決定手段18により決定される。エンティティ63′をサブコンテキスト64に含めるための条件は,サブコンテキストアクティベーション値およびアクティブコンテキストアクティベーション値から導かれるアクティベーション値の加重和が,所定のしきい値を超えるということである。
【0023】
導かれるアクティベーション値(つまり,コンテキストエンティティに割り当てられたアクティベーション値と,サブコンテキストエンティティに割り当てられたアクティベーション値とを考慮に入れたアクティベーション値)は,各関係タイプに固有の係数によってそれぞれが重み付けされた,関係するエンティティのベースアクティベーションの合計として計算される。決定手段により適用される条件(この条件は,特定の状況によって変化する場合がある)の結果として,エンティティが,サブコンテキストへの特定の密接なつながりを有することにより,または一般的なコンテキストにおける特定の高い関連性を有することにより,サブコンテキストに追加されてもよい。これにより,最も関連のあるエンティティが,確実な,一貫した方法で識別されることがわかっている。さらなる実施形態では,サブコンテキストに新しく追加されたエンティティに割り当てられるサブコンテキストアクティベーション値は,エンティティが追加された周期に依存する。後の周期では,より低いアクティベーションが,新しいエンティティに割り当てられる。決定手段は,周期内で,サブコンテキストに含まれるために必要なしきい値を超えていると識別されるさらなるエンティティがない場合,サブコンテキストがいつ完成するかを決定する。これが達成されると,サブコンテキストが定義される。
【0024】
一実施形態では,決定手段18は,アクティベーション値AVに基づいて,所定のしきい値に対してサブコンテキスト64を決定する。さらなる実施形態では,アプリケーションマネージャ10は,サブコンテキスト64を記憶するための記憶媒体15を含み,記憶されたサブコンテキスト64は,将来の状況においてアプリケーションの動作を決定するために使用される。上述のように,さらなる実施形態では,エンティティ61?63のアクティベーション値AVは,状況のコアエンティティ60にエンティティ61?63が関係する程度に従って導かれる。さらに,状況のコアエンティティ60に直接関係しているエンティティ62には,状況のコアエンティティ60に間接的に関係しているエンティティ63よりも高い関連性を有するアクティベーション値AVが割り当てられる。さらに,直接関係しているエンティティ62への複数の関係を有するエンティティ63′には,関係の数に基づいてアクティベーション値が割り当てられる。さらなる実施形態では,決定手段18は,状況のコアエンティティ60により直接影響されるエンティティ61への参照を最初に含むサブセット60の連続的な拡張により,サブコンテキスト64を,イベントに関係しているものとして決定するように構成される。通常,ユーザはイベントに含まれていることに注意する必要がある。さらに,データベースエンティティの操作はイベントと見なされる。それに対して,状況は,終了時に完全なサブコンテキストを参照する。サブセットは,完全に定義された場合,状況がどのようなものであるかを定義する。コアエンティティは,状況の中心部である。さらなる実施形態では,決定手段18は,エンティティ62,63′が初期サブセット60のエンティティ61のうちの少なくとも1つに関係している場合に,そして,追加されるべきエンティティ62,63′に割り当てられたアクティベーション値AVに基づいて,初期サブセット60にエンティティ62,63′を追加するように構成され,アクティベーション値AVは,追加されるべきエンティティ62,63′と,コンテキスト65に含まれているエンティティ61?63との関係に従って,および,前記関係しているエンティティに割り当てられたアクティベーション値に従って,追加されるべきエンティティ62,63′に割り当てられる。さらなる実施形態では,アクティベーション値アサイナは,エンティティがサブコンテキスト内に含められた反復に依存するサブコンテキストアクティベーション属性(値とも呼ばれる)を,サブコンテキストに含まれているエンティティに割り当てる。さらに,サブコンテキストに含まれているエンティティのサブコンテキストアクティベーション属性は,サブコンテキストに含まれているエンティティが直接関係しているサブセットエンティティの数を考慮に入れることにより計算されてもよい。さらに,エンティティのアクティベーション値は,2つの構成要素の合計として計算されてもよく,第1の構成要素は,直接関係しているコンテキストエンティティのアクティベーション値の合計であり,第2の構成要素は,直接関係しているサブコンテキストエンティティのアクティベーション値の合計である。特に,前記合計は加重和であってもよく,関係している各エンティティのアクティベーション値は,関係の種類またはタイプに依存する加重係数により乗算される。上述のように,決定手段は,周期的な方法でサブセットを決定する。また,記憶媒体15は,記憶されたサブコンテキスト64に基づいて動的コンテキスト表現をモデル化するために,コンテキストモデラによってアクセス可能であってもよい。」
及び,
「【0030】
さらなる実施形態では,前記決定するステップは,参照の組61?63によって定義される複数のエンティティにアクティベーション値AVを割り当てるステップと,サブコンテキスト64内に含まれるべきエンティティ61,62,63′のサブセットを,アクティベーション値AVに基づいて決定するステップとを含む。さらに,前記決定するステップは,アクティベーション値AVに基づいて,所定のしきい値に対してサブコンテキスト64を決定する。所定のしきい値は,好ましい依存性,アプリケーションのタイプなどの要因によって変化してもよく,ユーザにより,またはシステムにより設定されてもよい。前記方法は,サブコンテキスト64を記憶する追加のステップを含んでいてもよく,記憶された状況表現は,将来の状況においてアプリケーションの動作を決定するために使用される。これにより,コンテキストモデラ16は以前に記憶された状況表現から学習できるようになるため,将来の状況についてのコンテキスト依存性が向上する。
【0031】
さらなる実施形態では,エンティティ61?63についてのアクティベーション値を導く前記ステップは,エンティティ61?63がイベント60に関係する程度に従って決定される。これにより,状況に密接に関係しているエンティティ61?63には,状況60に密接に関係していないエンティティよりも高いアクティベーション値が割り当てられる。特に,状況に直接関係しているエンティティにアクティベーション値を割り当てるステップは,状況に直接関係しているエンティティが,状況に間接的に関係しているエンティティよりも高い関連性を有するように実行される。さらに,アクティベーション値は,関係rの数に従って割り当てられてもよい。例えば,直接関係しているエンティティへの複数の関係rを有するエンティティ61,62,63′にアクティベーション値AVを割り当てるステップは,関係rの数に基づいて実行されてもよい。これにより,より高い関係数により関係しているエンティティには,より低い関係数により関係しているエンティティよりも高いアクティベーション値が割り当てられる。これにより,状況表現マネージャにより識別されるエンティティの関連性はさらに向上する。
【0032】
本発明の一実施形態では,状況60に関連しているものとしてサブコンテキスト64を決定するステップは,状況60により直接影響されるエンティティ61への参照を最初に含む,初期サブセット60の連続した拡張により実行される。さらに,前記決定するステップは,エンティティ62,63′が初期サブセット62′のエンティティのうちの少なくとも2つに関係している場合に,または,追加されるべきエンティティ62,63′に割り当てられたアクティベーション値AVに基づいて,初期サブセット60にエンティティ62,63′を追加するステップを含んでいてもよく,アクティベーション値は,追加されるべきエンティティと,コンテキスト65に含まれているエンティティとの関係に従って,および,関係しているエンティティに割り当てられたアクティベーション値に従って,追加されるべきエンティティに割り当てられる。
【0033】
さらなる実施形態は,エンティティがサブコンテキスト内に含められた反復に依存するサブコンテキストアクティベーション属性*を,サブコンテキスト64に含まれているエンティティ61,62,63′に割り当てるステップを含む。さらに,サブコンテキスト64に含まれているエンティティのサブコンテキストアクティベーション属性*を計算するステップは,サブコンテキストに含まれているエンティティが直接関係しているサブセットエンティティの数を考慮に入れることにより実行される。その上,エンティティのアクティベーション値を計算するステップは,2つの構成要素の合計として計算され,第1の構成要素は,直接関係しているコンテキストエンティティのアクティベーション値の合計であり,第2の構成要素は,直接関係しているサブコンテキストエンティティのアクティベーション値の合計である。任意選択で,前記合計は加重和とすることもでき,関係している各エンティティのアクティベーション値は,関係の種類またはタイプに依存する加重係数により乗算される。これにより,コンテキスト依存性はさらに向上する。上述のように,サブセットを決定する決定ステップは,周期的な方法で実行されてもよい。」
と記載されている。
上記引用の段落【0021】において,
「アクティベーション値をさらに定義して,前記サブコンテキストに含まれているエンティティに割り当てるように構成される」,
という記載が存在するが,同段落【0021】において,「アクティベーション値」に対する定義は,何らされておらず,また,上記に引用した,同段落【0021】以降の段落においても,「アクティベーション値」に対する定義は,何ら記載されていない。
上記引用の段落においては,段落【0022】の,
「エンティティ63′を,そのアクティベーション値AVに基づいて,サブコンテキスト64に追加する」,
「エンティティ63′′をサブコンテキストに含めないことの決定は,アクティベーション値AVに基づいて行われる」,
という記載から,
“「アクティベーション値AV」が,「エンティティ」を「サブコンテキスト」に含めるか否かの決定に用いられる”ことが(以下,これを「本願明細書等記載事項1」という),
同段落【0024】の,
「エンティティ61?63のアクティベーション値AVは,状況のコアエンティティ60にエンティティ61?63が関係する程度に従って導かれる。さらに,状況のコアエンティティ60に直接関係しているエンティティ62には,状況のコアエンティティ60に間接的に関係しているエンティティ63よりも高い関連性を有するアクティベーション値AVが割り当てられる」,
「直接関係しているエンティティ62への複数の関係を有するエンティティ63′には,関係の数に基づいてアクティベーション値が割り当てられる」,
という記載,
同段落【0031】の,
「エンティティ61?63についてのアクティベーション値を導く前記ステップは,エンティティ61?63がイベント60に関係する程度に従って決定される。これにより,状況に密接に関係しているエンティティ61?63には,状況60に密接に関係していないエンティティよりも高いアクティベーション値が割り当てられる。特に,状況に直接関係しているエンティティにアクティベーション値を割り当てるステップは,状況に直接関係しているエンティティが,状況に間接的に関係しているエンティティよりも高い関連性を有するように実行される」,
「アクティベーション値は,関係rの数に従って割り当てられてもよい。例えば,直接関係しているエンティティへの複数の関係rを有するエンティティ61,62,63′にアクティベーション値AVを割り当てるステップは,関係rの数に基づいて実行されてもよい」,
「状況に直接関係しているエンティティにアクティベーション値を割り当てるステップは,状況に直接関係しているエンティティが,状況に間接的に関係しているエンティティよりも高い関連性を有するように実行される」,
という記載から,
“「アクティベーション値AV」,或いは,「アクティベーション値」が,「状況のコアエンティティ60」,或いは,「イベント60」に「直接関係しているエンティティ」,或いは,「密接に関係しているエンティティ」に,「高い関連姓を有するアクティベーション値AV」,或いは,「高いアクティベーション値」を割り当てられる”こと,及び,
“「アクティベーション値」,が,「直接関係しているエンティティ」への「複数の関係を有するエンティティ63′」には,関係の数に基づいて割り当てられる,或いは,「アクティベーション値AV」が,「直接関係しているエンティティ」への「複数の関係rを有するエンティティ61,62,63′」に,関係rの数に基づいて割り当てられる”ことが(以下,これを「本願明細書等記載事項2」という),
更に,記載されていることは読み取れるが,本願明細書等記載事項1は,
“エンティティに割り当てられた,何らかの値によって,該エンティティが,サブコンテキストに追加するか否かを決定する”ことが説明されているに過ぎず,本願明細書等記載事項1からは,「アクティベーション値」がどのようなものであるかは不明である。
同様に,本願明細書等記載事項2は,
“エンティティに直接関係しているエンティティには,高い関連姓を有するアクティベーション値AVが割当てられる”こと,
“密接に関係しているエンティティには,高いアクティベーション値が割当てられる”こと,
“アクティベーション値,が,直接関係しているエンティティへの複数の関係を有するエンティティには,関係の数に基づいて割り当てられる”こと,
“アクティベーション値AVが,直接関係しているエンティティへの複数の関係rを有するエンティティに,関係rの数に基づいて割り当てられる”ことが説明されているが,そもそも,本願明細書等記載事項2における,「エンティティに直接関係しているエンティティ」と,「密接に関係しているエンティティ」,「高い関連姓を有するアクティベーション値AV」,「アクティベーション値」と,「アクティベーション値AV」,「関係」と,「関係r」の対応関係が,本願明細書等に記載された内容からは不明であり,また,本願明細書等記載事項1,及び,本願明細書等記載事項2は,「エンティティ」へ,「アクティベーション値」が割り当てられる条件を示すものであって,「アクティベーション値」の定義を示すものでも,「アクティベーション値」を説明するものでもない。
上記引用の段落には,他に,
「追加されるべきエンティティ62,63′に割り当てられたアクティベーション値AVに基づいて,初期サブセット60にエンティティ62,63′を追加するステップを含んでいてもよく,アクティベーション値は,追加されるべきエンティティと,コンテキスト65に含まれているエンティティとの関係に従って,および,関係しているエンティティに割り当てられたアクティベーション値に従って,追加されるべきエンティティに割り当てられる」(段落【0032】),
「エンティティのアクティベーション値を計算するステップは,2つの構成要素の合計として計算され,第1の構成要素は,直接関係しているコンテキストエンティティのアクティベーション値の合計であり,第2の構成要素は,直接関係しているサブコンテキストエンティティのアクティベーション値の合計である・・関係している各エンティティのアクティベーション値は,関係の種類またはタイプに依存する加重係数により乗算される」(段落【0033】),
等の記載が存在するが,これらの記載を参酌しても,「アクティベーション値」が,どのような“値”であるかは,明確にはならない。
そして,原審の拒絶理由の理由1(8)で指摘したとおり,「アクティベーション値」は,「学術用語」ではなく,当該技術分野における「技術用語」,「一般に広く知られた用語」の何れでもない。
以上検討したように,本願明細書等の記載内容を検討しても,原審の拒絶理由の理由1の(8)で指摘された「アクティベーション値」が,どのようなものであるか不明である。

(2)原審の拒絶理由の理由1(12)に関して
原審の拒絶理由の理由1(12)において,
「「エンティティ」が「エンティティ」に「関係」するという趣旨の記載が含まれているが,その意味するところが不明であり,請求項7の記載は明確ではない。」
と指摘された事項について,本願の請求項1に,
「エンティティ間の関係(r)の程度と,エンティティ間の関係(r)の数とに基づいて,エンティティ(61?63’’)にアクティベーション値を割り当てる」,
本願の請求項4に,
「アクティベーション値アサイナ(17)が,エンティティ間の関係(r)の程度と,エンティティ間の関係(r)の数とに基づいて,エンティティ(61?63’’)にアクティベーション値を割り当てるステップ」,
と若干表現を変えて存在している。
そこで,本願の請求項1,及び,請求項4に記載の「エンティティ間の関係(r)」が,どのようなものであるかについて,本願の請求項1,及び,請求項4に記載された事項を検討すると,本願の請求項1,及び,請求項4には,「エンティティ間の関係(r)」がどのようなものであるかについては,一切,説明されていない。
そして,本願の請求項2,請求項3,及び,請求項5?請求項7に記載された内容においても,「エンティティ間の関係(r)」については,何ら,説明されていない。
よって,本願の請求項1?請求項7に記載された内容からは,「エンティティ間の関係(r)」がどのようなものであるか,不明であり,結果,原審の拒絶理由の理由1の(12)において指摘された,“「エンティティ」が「エンティティ」に「関係」するという趣旨の記載が含まれているが,その意味するところが不明である”ことは,依然として不明である。
次に,本願の請求項1,及び,請求項4に記載の「エンティティ間の関係(r)」が,どのようなものであるかについて,本願明細書等の記載を参照すると,「エンティティ間の関係」に関して,上記引用の段落【0022】に,
「状況表現を,周期的な方法で決定する。連続した周期の中で,サブコンテキストに関係し,かつ,アクティブなコンテキストの一部であるかまたはアクティブなコンテキストに直接関係しているエンティティが,サブコンテキスト64に追加される」,
「イベント60に直接関係しているエンティティ62に加えて,状況表現マネージャ13は,エンティティ63′を,そのアクティベーション値AVに基づいて,サブコンテキスト64に追加する」,
同段落【0023】に,
「導かれるアクティベーション値・・・・は,各関係タイプに固有の係数によってそれぞれが重み付けされた,関係するエンティティのベースアクティベーションの合計として計算される」,
同段落【0024】に,
「状況のコアエンティティ60にエンティティ61?63が関係する程度」,
「状況のコアエンティティ60に直接関係しているエンティティ62には,状況のコアエンティティ60に間接的に関係しているエンティティ63よりも高い関連性を有するアクティベーション値AVが割り当てられる」,
「直接関係しているエンティティ62への複数の関係を有するエンティティ63′には,関係の数に基づいてアクティベーション値が割り当てられる」,
「エンティティ62,63′が初期サブセット60のエンティティ61のうちの少なくとも1つに関係している場合」,
「追加されるべきエンティティ62,63′と,コンテキスト65に含まれているエンティティ61?63との関係」,
「第1の構成要素は,直接関係しているコンテキストエンティティのアクティベーション値の合計であり,第2の構成要素は,直接関係しているサブコンテキストエンティティのアクティベーション値の合計である」,
同段落【0031】に,
「状況に密接に関係しているエンティティ61?63には,状況60に密接に関係していないエンティティよりも高いアクティベーション値が割り当てられる」,
「状況に直接関係しているエンティティにアクティベーション値を割り当てるステップは,状況に直接関係しているエンティティが,状況に間接的に関係しているエンティティよりも高い関連性を有するように実行される」,
「アクティベーション値は,関係rの数に従って割り当てられてもよい」,
「直接関係しているエンティティへの複数の関係rを有するエンティティ61,62,63′にアクティベーション値AVを割り当てるステップは,関係rの数に基づいて実行されてもよい」,
「より高い関係数により関係しているエンティティには,より低い関係数により関係しているエンティティよりも高いアクティベーション値が割り当てられる」,
同段落【0032】に,
「アクティベーション値は,追加されるべきエンティティと,コンテキスト65に含まれているエンティティとの関係に従って,および,関係しているエンティティに割り当てられたアクティベーション値に従って,追加されるべきエンティティに割り当てられる」,
同段落【0033】に,
「エンティティのアクティベーション値を計算するステップは,2つの構成要素の合計として計算され,第1の構成要素は,直接関係しているコンテキストエンティティのアクティベーション値の合計であり,第2の構成要素は,直接関係しているサブコンテキストエンティティのアクティベーション値の合計である」,
「関係している各エンティティのアクティベーション値は,関係の種類またはタイプに依存する加重係数により乗算される」,
という記載が存在するが,これらの記載内容を加味しても,本願の請求項1,及び,請求項4に記載の「エンティティ間の関係(r)」が,どのようなものであるか,即ち,原審の拒絶理由の理由の(12)において指摘された,
“「エンティティ」が「エンティティ」に「関係」するという趣旨の記載が含まれているが,その意味するところが不明である”
ことが明確になるものではない。
そして,本願明細書等には,上記引用記載の他,その段落【0014】に,
「エンティティまたはイベントのコンテキストは,そのエンティティまたはイベントにとって特に重要な,かつ,そのエンティティまたはイベントと通常は直接的または間接的な関係を有する,事実およびエンティティ61の集まりである」,
同じくその段落【0015】に,
「現在および以前の状況は,状況に含まれているオブジェクトまたはアクション,およびそれらの相互関係を説明する,複数のフレームによって表現されてもよい」,
同じくその段落【0019】に,
「前記ユーザの対話または新しい相互接続に関連していると識別される相互に関係するエンティティ61,62,63′のクラスタを含む,サブコンテキスト64が,状況表現マネージャ13によって構築される」,
という記載も存在しているが,これらの記載においても,「エンティティ間の関係」がどのようなものか説明されておらず,結果,本願明細書等の記載内容を加味しても,「エンティティ間の関係」,即ち,原審の拒絶理由の理由1(12)において指摘した,
“「エンティティ」が「エンティティ」に「関係」するという趣旨の記載が含まれているが,その意味するところが不明である”点は,依然として不明のままである。

(3)原審の拒絶理由の理由1(13)に関して
原審の拒絶理由の理由1(13)において指摘された,
“「イベント(60)により直接影響されるエンティティ(61)」という記載は,「エンティティ」が「イベント」により「影響」される旨の記載を含むが,その意味するところが不明である”という点に関して,本願の請求項1,及び,請求項4にも,依然として,
「イベント(60)により直接影響されるエンティティ(61)」という記載が存在している。
そこで,本願の請求項1,及び,請求項4に記載の「イベント(60)により直接影響されるエンティティ(61)」が,どのようなものであるかについて,本願の請求項1,及び,請求項4に記載された事項を検討すると,本願の請求項1,及び,請求項4には,「イベント(60)により直接影響されるエンティティ(61)」がどのようなものであるかについては,一切,説明されていない。
そして,本願の請求項2,請求項3,及び,請求項5?請求項7に記載された内容においても,「イベント(60)により直接影響されるエンティティ(61)」については,何ら,説明されていない。
よって,本願の請求項1?請求項7に記載された内容からでは,「イベント(60)により直接影響されるエンティティ(61)」がどのようなものであるか,不明であり,結果,原審の拒絶理由の理由1の(12)において指摘された,“「イベント(60)により直接影響されるエンティティ(61)」という記載は,「エンティティ」が「イベント」により「影響」される旨の記載を含むが,その意味するところが不明である”ことは,依然として不明である。
次に,本願の請求項1,及び,請求項4に記載の「イベント(60)により直接影響されるエンティティ(61)」が,どのようなものであるかについて,本願明細書等の記載を参照すると,その段落【0020】に,
「サブコンテキスト64は,次の方法で識別されてもよい。サブコンテキストは,イベント60により直接影響されるエンティティ61を最初に含むように定義される」,
「直接影響される2つ以上のエンティティは,リンクされている2つ以上のエンティティである。これらの直接影響されるエンティティ61は,以下,サブコンテキストのコアエンティティと記載する」,
同段落【0024】に,
「決定手段18は,状況のコアエンティティ60により直接影響されるエンティティ61への参照を最初に含むサブセット60の連続的な拡張により,サブコンテキスト64を,イベントに関係しているものとして決定するように構成される」,
同段落【0032】に,
「状況60に関連しているものとしてサブコンテキスト64を決定するステップは,状況60により直接影響されるエンティティ61への参照を最初に含む,初期サブセット60の連続した拡張により実行される」,
という記載が存在するのみであり,これらの記載からは,“「イベント」により「直接影響」される「エンティティ」”とは,どのような状況を表現しているのか,特に,「直接影響」されるとは,どのような状態であるのか不明であり,本願明細書等の他の記載内容を加味しても,“「イベント」により「直接影響」される「エンティティ」”がどのようなものであるか不明である。
よって,本願明細書等の記載内容を加味しても,本願の請求項1,及び,請求項4に記載の「イベント(60)により直接影響されるエンティティ(61)」が,どのようなものであるか,即ち,原審の拒絶理由の理由1(13)において指摘された,
“「イベント(60)により直接影響されるエンティティ(61)」という記載は,「エンティティ」が「イベント」により「影響」される旨の記載を含むが,その意味するところが不明である”
という点は,依然として不明のままである。

(4)原審の拒絶理由の理由1(19)に関して
原審の拒絶理由の理由1(19)において指摘された,
“「状況(60)または将来の状況に適合させる」という記載における「状況」とは,何の状況であるのか不明である”という点に関して,本願の請求項2に,依然として,
「サブコンテキスト(64)は,将来の状況においてアプリケーション(20)の動作を決定するために使用される」という記載が存在している。
そこで,本願の請求項2に記載の,
「サブコンテキスト(64)は,将来の状況においてアプリケーション(20)の動作を決定するために使用される」という記載中の「状況」が,どのようなものであるかについて,本願の請求項2に記載された内容を検討すると,本願の請求項2には,上記引用の内容程度しか記載されておらず,したがって,本願の請求項2に記載された「将来の状況」,或いは,「状況」が,どのようなものであるか,本願の請求項2に記載された内容からは,不明である。
そして,本願の請求項1,請求項3?請求項7に記載された内容を加味しても,本願の請求項2に記載された,「将来の状況」,或いは,「状況」が,どのようなものであるかは,明確にならない。
次に,本願の請求項2に記載の,「サブコンテキスト(64)は,将来の状況においてアプリケーション(20)の動作を決定するために使用される」における,「将来の状況」,或いは,「状況」がどのようなものであるかについて,本願明細書等の記載を参照すると,
「 【0006】
これにより,特定のユーザ対話またはエンティティ相互接続に関する状況モデルは,状況に最も関連するエンティティのみを含むサブコンテキストを定義するように範囲が定められる。これにより,動的コンテキスト表現を提供するために処理される必要のあるデータの量は減少する。さらに,表示されるデータの複雑さも減少し,状況に関連する追加の関連情報および/または活動が提供される」,
本願明細書等の段落【0011】に,
「アプリケーションマネージャ13は,サブコンテキスト64に基づいて,アプリケーション20の動作を,状況または将来の状況に適合させるように構成されている」,
同段落【0012】に,
「状況表現を記憶することにより,アプリケーションが過去の状況から動的な方法で学習してコンテキスト依存動作を向上させるために,それらの状況表現を利用することが可能になる。状況表現マネージャがサブコンテキストを決定するので,将来の状況において処理されるべきデータの量は最小に保たれ,その上,最も関連のあるデータが確実に識別され記憶される」,
同段落【0013】に,
「アプリケーションがコンテキスト依存動作を向上させるために,過去の状況から動的な方法で学習する場合,これらの状況は記憶媒体15内に記憶されるのが好ましいことがわかっている。動的コンテキストモデルがコンテキストモデラ16により使用される場合,状況60は,コンテキスト65のサブセット64として,つまり,現在のコンテキストモデル65にすべて含まれているエンティティ61,62,63′の組として,定義されることが可能であることがわかっている」,
同段落【0015】に,
「コンテキストモデラ16は,記憶媒体15に記憶された状況表現を使用して,状況に対応してコンテキストをモデル化する」,
「現在および以前の状況は,状況に含まれるオブジェクトまたはアクション,およびそれらの相互関係を説明する,複数のフレームによって表現されてもよい」,
「特に,フレームは,現在または以前の状況を表現するためのデータ構造である。言い換えれば,それはパターンの表現である。一般用語では,フレームは,オブジェクト指向プログラミング(OOP)の「クラス」に相当する場合がある」,
同段落【0016】に,
「一実施形態では,フレームにより表現されたパターンは,単一の状況を表現することができる。あるいは,フレームにより表現されるパターンは,多数の単一の状況の本質であってもよい」,
同段落【0017】に,
「その状況内でのそれぞれの関係の重要度を特徴付けるために,別の値が設定されてもよい」,
「因果関係は状況を特徴付けるのに対して,属性関係は推測とみなされてもよい」,
「ユーザが関与してきた状況のうち少なくと1つ,および現在の状況についての,フレーム,関係,および値は,第1の記憶媒体に15に記憶される」,
同段落【0018】に,
「アプリケーションマネージャ10に基づいてコンテキストモデラ16によりモデル化されるコンテキスト表現は,アプリケーション内容を表現するだけでなく,現在の状況を含む,観察されたユーザの動作も表現する」,
同段落【0023】に,
「(この条件は,特定の状況によって変化する場合がある)」,
同段落【0028】に,
「状況表現に基づいて,アプリケーションの動作を,状況または将来の状況に適用させるステップ(ステップ76)とを含む。続いて,システムは,状況が変化したかどうかを判定する(ステップ78)」,
同段落【0029】に,
「前記方法はさらに,状況表現に基づいて,アプリケーション20の動作を状況60または将来の状況に適合させるステップ(ステップ76)を含む」,
同段落【0030】に,
「記憶された状況表現は,将来の状況においてアプリケーションの動作を決定するために使用される」,
という記載が存在し,
更に,上記「(2)原審の拒絶理由の理由1(12)に関して」及び,上記「(3)原審の拒絶理由の理由1(13)に関して」においても引用した,本願明細書等の段落【0024】,上記「(2)原審の拒絶理由の理由1(12)に関して」においても引用した,本願明細書等の段落【0031】,及び,上記「(3)原審の拒絶理由の理由1(13)に関して」においても引用した,本願明細書等の段落【0032】に,それぞれ,「状況」に関連した記載が存在している。
上記引用の段落に記載された内容のうち,段落【0013】に記載の,
「状況60は,コンテキスト65のサブセット64として,つまり,現在のコンテキストモデル65にすべて含まれているエンティティ61,62,63′の組として,定義されることが可能であることがわかっている」,
段落【0015】に記載の,
「現在および以前の状況は,状況に含まれるオブジェクトまたはアクション,およびそれらの相互関係を説明する,複数のフレームによって表現されてもよい」,
「フレームは,現在または以前の状況を表現するためのデータ構造である」,
段落【0016】に記載の,
「フレームにより表現されたパターンは,単一の状況を表現することができる。あるいは,フレームにより表現されるパターンは,多数の単一の状況の本質であってもよい」,
段落【0017】に記載の,
「因果関係は状況を特徴付ける」,
「ユーザが関与してきた状況のうち少なくと1つ,および現在の状況についての,フレーム,関係,および値は,第1の記憶媒体に15に記憶される」,
段落【0018】に記載の,
「コンテキスト表現は,アプリケーション内容を表現するだけでなく,現在の状況を含む,観察されたユーザの動作も表現する」,
という記載が,「状況」を説明するものと解されるが,本願明細書等の記載からは,上記指摘の記載中,「状況60」と,「状況」とが,同じものであるか明確でなく,仮に同じものを表現しているとしても,段落【0013】の記載からは,“「状況60」は,「サブセット64」として定義されることが可能であることがわかっている”ものであること,即ち,“「状況60」=「サブセット64」”であると読み取れ,該「サブセット64」が,本願の請求項2に記載の「サブコンテキスト64」と同一のものと解されるが,本願の請求項2における「サブコンテキスト64」は,「将来の状況においてアプリケーション(20)の動作を決定するために使用される」ものであり,この点に関して,上記引用の段落【0029】に記載された内容も加味すると,本願明細書等の記載からは,「状況60」=「サブコンテキスト64」であるかは不明瞭であるので,上記段落【0013】に記載された内容からは,「状況」がどのようなものであるかは,明確にならない。
「状況」に関しては,更に,段落【0015】に,「フレームは,現在または以前の状況を表現するためのデータ構造である」と記載されているが,ここでいう「フレーム」に関しては,同段落【0015】に,
「フレームは,当業者(例えば人工知能(AI)からの)に知られている用語であり,固定された「役割」内のさまざまな「アクター」で発生する共通のパターンを表現する。フレームはスロットを含み,そのようなフレームの特定のインスタンスの中で,役割はスロットにより表現され,スロットはアクターで埋められる。特に,本発明に関しては,エンティティ61がスロットの内容を形成する。特に,フレームは,現在または以前の状況を表現するためのデータ構造である。言い換えれば,それはパターンの表現である。一般用語では,フレームは,オブジェクト指向プログラミング(OOP)の「クラス」に相当する場合がある」,
と説明されるに止まり,この点に関して,原審の拒絶理由の理由2(15)においても指摘したとおり,「フレーム」がどのようなものか不明であるので,該「フレーム」を用いて説明される「状況」も同じく不明である。
その他,「状況」を説明する,上記引用の段落【0017】,及び,【0018】の記載を参酌しても,「状況」がどのようなものであるかは,明確にならず,加えて,上記で指摘した「状況」を説明する記載内容の,それぞれに,相互の関連性が見出せないので,上記引用の「状況」を説明する記載内容を,総合勘案しても,該「状況」が,どのようなものであるかは明確にならない。
上記で引用した,他の「状況」に関連する本願明細書等の記載内容は,段落【0011】,【0028】,及び,【0029】,並びに,【0030】に記載された,本願の請求項2に記載された内容と同等の記載内容も含めて,何れも,「状況」という用語が,他を説明するために用いられているものであって,「状況」そのものを説明するものではない。
以上検討したとおりであるから,本願明細書等の記載内容を参酌しても,「状況」がどのようなものであるかは,依然として不明である。
そして,本願の請求項2は,本願の請求項1を引用し,本願の請求項3は,本願の請求項2を引用し,本願の請求項5は,本願の請求項4を引用し,本願の請求項6,及び,請求項7は,本願の請求項4,または,請求項5を引用しているので,本願の請求項1?請求項7に係る発明は,原審の理由1(8),(12),及び,(13),並びに,(19)において,明確でないと指摘された構成を,依然として内包しており,上記検討のとおり,平成23年2月7日付けの手続補正により補正された,本願明細書等の記載内容を勘案しても,原審の拒絶理由において,明確でないと指摘された構成は,依然として明確ではないので,本願の請求項1?請求項7に係る発明は,依然として,明確ではない。

2.36条4項1号について
(1)理由2(1)について
本願の請求項1,及び,請求項4に係る発明は,原審の拒絶理由において,明確でないと指摘された,「関係」,「関係(r)」,「イベント(60)により直接影響されるエンティティ(61)」,「アクティベーション値」を含み,本願の請求項2は,原審の拒絶理由において,明確でないと指摘された,「状況」を含んでいて,前記「関係」,「関係(r)」,「イベント(60)により直接影響されるエンティティ(61)」,「アクティベーション値」,及び,「状況」に関して,本願明細書等には,上記「1.36条6項2号について」引用した記載程度しか存在していないので,平成23年2月7日付けの手続補正により補正された,本願明細書等の記載内容からは,依然として,前記「関係」,「関係(r)」,「イベント(60)により直接影響されるエンティティ(61)」,「アクティベーション値」,及び,「状況」がどのようなものか不明である。

(2)理由2(7)に関して
上記「1.36条6項2号について」の「(4)原審の拒絶理由の理由1(19)に関して」において引用した,本願明細書等の段落【0012】に記載された「状況表現マネージャがサブコンテキストを決定する」に関して,「状況表現マネージャ13」の「決定」する「方法」に関しては,上記「1.36条6項2号について」の「(1)原審の拒絶理由の理由1(8)に関して」において引用した,本願明細書等の段落【0022】?段落【0024】に記載の内容が,その「決定」の説明に対応するものと解される。
しかしながら,上記「1.36条6項2号について」の「(1)原審の拒絶理由の理由1(8)に関して」,「(2)原審の拒絶理由の理由1(12)に関して」,及び,「(3)原審の拒絶理由の理由1(13)に関して」,並びに,「(4)原審の拒絶理由の理由1(19)に関して」において検討したとおり,本願明細書等の段落【0022】?段落【0024】に記載された内容は明確ではないので,結果として,本願明細書等の段落【0012】に記載された状況表現マネージャがサブコンテキストを決定する」ことが,どのようにして行われているか,本願明細書等の記載内容からは不明である。

(3)理由2(8),及び,(12)に関して
本願明細書等の段落【0013】に記載された,
「通常,任意の時点において,ユーザは,アクションまたはプロセス,あるいはその両方を含んでいてもよいイベント60に関与している」,
について,
“「イベント60」が,「アクション」を含む”,“「イベント60」が,「プロセス」を含む”,“「イベント60」が,「アクション」と,「プロセス」の両方を含む”という構成,即ち,「イベント60」が,どのような構成をしているか,本願明細書等の記載内容を検討すると,
本願明細書等の段落【0011】,【0013】,【0014】,【0022】,【0029】,及び,【0031】に,「イベント60」という記載が存在し,本願明細書等の段落【0005】,【0007】,【0014】,【0019】,【0024】,【0028】,及び,【0029】に,「イベント」という記載が存在し,更に,【符号の説明】【0043】に,「60 イベント,状況,初期サブセット」という記載が存在するが,「イベント60」という記載が存在する,同段落【0013】以外の段落に記載された内容をみても,例えば,同段落【0011】,及び同段落【0029】に,
「ユーザがアプリケーションを20に関与しているイベント60を定義する入力」,
「イベント60に関連する複数のエンティティ62,62,63’への参照のサブセットを識別する」,
同段落【0014】に,
「データベースが内部で提供されるビジネスアプリケーションなどの,ビジネスアプリケーション内で,コンテキストは,ユーザ,セッション,ビジネスエンティティ(ただし,これらに限定されない)などの,さまざまなエンティティ61またはイベント60について定義されてもよい」,
「イベント60は,少なくとも1つのプロセスまたはアクションにより定義されてもよい」,
同段落【0022】に,
「イベント60に直接関係しているエンティティ62」,
同段落【0029】に,
「コンテキスト65は,イベント60に関連付けられ」,
同段落【0031】に,
「エンティティ61?63がイベント60に関係する程度に従って決定される」,
と記載されるに止まり,「イベント60」と,「プロセス」,及び,「アクション」との関係に言及しているのは,同段落【0013】,及び,同段落【0014】のみであり,これら2つの段落の記載内容からは,“「イベント60」が,「アクション」を含む”,“「イベント60」が,「プロセス」を含む”,“「イベント60」が,「アクション」と,「プロセス」の両方を含む”という構成がどのようなものであるか不明であり,また,他の「イベント60」という記載を含む段落に記載された内容を見ても,上記指摘の点は不明である。
更に,上記で指摘の「イベント」という段落に記載された内容を加味しても,例えば,同段落【0024】に,
「ユーザはイベントに含まれる」,
同段落【0028】に,
「コンテキストを有するイベント」,
という記載が存在し,これらの記載と,同段落【0013】の上記で指摘の点から,本願明細書等に記載された,「イベント」,或いは,「イベント60」の構成を一意に特定することができず,「イベント」,或いは,「イベント60」の構成自体が,本願明細書等に記載された事項からは不明であるので,結果として,
“「イベント60」が,「アクション」を含む”,“「イベント60」が,「プロセス」を含む”,“「イベント60」が,「アクション」と,「プロセス」の両方を含む”という構成がどのようなものであるか不明である。
加えて,上記において引用した,同段落【0014】の,
「イベント60は,少なくとも1つのプロセスまたはアクションにより定義されてもよい」,
という記載に関して,前記「定義」に関しては,同段落【0014】に記載されるのみであり,前記「定義」がどのようなものであるか,本願明細書等に記載された内容からは不明である。

(4)理由2(9)?(11)に関して
本願明細書等の段落【0014】に記載された,
「サブコンテキスト64は,アプリケーション20および入力12からのデータに基づいてアプリケーションマネージャ10により決定され」,
「コンテキストモデラ16は,特に状況表現マネージャ13の出力に基づいて,どのエンティティ61がコンテキスト表現を形成するかを決定する」,
という,2つの「決定」について,
同段落【0014】に記載された内容からでは,「サブコンテキスト64」が,「アプリケーションマネージャ10」によって,「「アプリケーション20および入力12」からの,どんな「データ」に基づいて,どのようにして「決定」されるのか不明である。
また,同段落【0014】以外の,本願明細書等の各段落,及び,図面に記載された内容からも,どのようにして前記「決定」がなされるのか不明である。
また,同様に,「コンテキストモデラ16」は,「状況表現マネージャ13」の,どのような「出力」に基づいて,どのようにして,「どのエンティティ61がコンテキスト表現を形成する」のかを「決定」しているのか,同段落【0014】を含む全ての段落に記載された内容,及び,各図面に表現された事項を総合勘案しても不明である。
また,原審の拒絶理由の理由2(9)で指摘された,同段落【0014】に記載された「ダイリューション」に関しても,該「ダイリューション」とカタカナ表記されたものが何であるか,不明であるので,「本発明により提供されるソリューション」が,何を「回避」することを目的としているのか不明である。
(原語原文は,「dilution」であり,日本語訳は,「薄めること,希釈(物),希薄」である。そして,「ダイリューション」という,カタカナ表記は,日本語の一般用語として定着しておらず,また,該カタカナ表記は,当該技術分野における技術用語でもない。)

(5)理由2(14),及び,(15)に関して
本願明細書等の段落【0015】に記載された,
「コンテキストモデラ16は,記憶媒体15に記憶された状況表現を使用して,状況に対応してモデル化する」,
について,上記引用記載に含まれる「状況」については,上記「(4)原審の拒絶理由の理由1(19)に関して」において検討したとおり,その意味するところが,本願明細書等からは不明であるから,上記引用記載中の,特に,「状況に対応してモデル化する」という処理が,どのようなものであるか,本願明細書等の記載内容からは不明であり,「コンテキストモデラ16」による「モデル化」に関しても,本願明細書等には,上記引用の記載の他,本願明細書等の段落【0017】に,
「ユーザの動作は,システム10によって観察され,フレームとして記憶される。このデータは,その後,コンテキスト表現をモデル化するために,コンテキストモデラ16によって使用されてもよい」,
同段落【0018】に,
「アプリケーションマネージャ10に基づいてコンテキストモデラ16によりモデル化されるコンテキスト表現は,アプリケーション内容を表現するだけでなく,現在の状況を含む,観察されたユーザの動作も表現する」,
同段落【0024】に,
「記憶されたサブコンテキスト64に基づいて動的コンテキスト表現をモデル化するために,コンテキストモデラによってアクセス可能であってもよい」,
同段落【0025】に,
「さまざまなテーブルからのエンティティが,コンテキストモデラ16によりモデル化されるコンテキスト表現に含まれるようにするために,さまざまなテーブルからのエンティティの均一表現を記憶する,さらなる記憶媒体(図示せず)が提供されてもよい」,
同段落【0027】に,
「コンテキストモデラ16によりモデル化されたコンテキスト表現によって,複数のデータベースが影響されてもよい」,
同段落【0034】に,
「記憶された状況表現に基づいて動的コンテキスト表現をモデル化するために,コンテキストモデラによって記憶媒体にアクセスするステップを含む」,
「コンテキストモデラは,後続の状況内でモデル化されるコンテキストを向上するために,記憶された状況表現から学習する」,
という記載が存在するが,これらの記載を見ても,該「コンテキストモデラ16」による「モデル化」がどのようなものであるか不明である。
本願明細書等の段落【0015】に記載された「フレーム」については,上記「(4)原審の拒絶理由の理由1(19)に関して」において検討したとおり,本願明細書等に記載された内容から不明である。

(6)理由2(16)に関して
本願明細書等の段落【0017】に記載された,
「ユーザが関与してきた状況のうちの少なくとも1つ,および現在の状況についての,フレーム,関係,および値は,第1の記憶媒体15に記憶される」,
について,上記引用記載に含まれる「状況」については,上記「(4)原審の拒絶理由の理由1(19)に関して」において検討したとおり,その意味するところが,本願明細書等からは不明であるから,上記引用記載中の「ユーザが関与してきた状況」が,どのようなものを表現したものであるか,本願明細書等の記載内容からは不明である。

(7)理由2(17)に関して
本願明細書等の段落【0020】に記載された,
「サブコンテキストは,イベント60により直接影響されるエンティティ61を最初に含むように定義される」,
について,上記引用記載に含まれる「直接影響」については,上記「(3)原審の拒絶理由の理由1(13)に関して」において検討したとおり,その意味するところが,本願明細書等からは不明である。

(8)理由2(18),及び,(19)に関して
本願明細書等の段落【0022】に記載された,
「連続した周期の中で,サブコンテキストに関係し,かつ,アクティブなコンテキストの一部であるかまたはアクティブなコンテキストに直接関係しているエンティティが,サブコンテキスト64に追加される」,
について,上記引用記載に含まれる「アクティブなコンテキスト」については,同段落【0022】に,「アクティブなコンテキスト」,及び,「アクティブコンテキストアクティベーション値」という記載が存在するのみであり,該「アクティブなコンテキスト」,及び,「アクティブコンテキストアクティベーション値」が,どのようなものであるか,本願明細書等の記載内容からは不明である。
次に,上記引用記載に含まれる「直接関係」については,上記「(2)原審の拒絶理由の理由1(12)に関して」において検討したとおり,本願明細書等の記載内容からは,「直接関係」がどのような状態を表現したものであるか不明である。

(9)理由2(20)?(23)に関して
本願明細書等の段落【0024】に記載された,
「上述のように,さらなる実施形態では」,
における,「上述」が,どこを指し示しているのか,本願明細書等の記載内容からは不明である。
同段落【0024】に記載された,
「サブセット60の連続的な拡張により,サブコンテキスト64を,イベントに関係しているものとして決定するように構成される」,
について,上記引用記載に含まれる「連続的な拡張」については,上記引用の記載の他,本願明細書等の段落【0032】に,
「状況60に関連しているものとしてサブコンテキスト64を決定するステップは,状況60により直接影響されるエンティティ61への参照を最初に含む,初期サブセット60の連続した拡張により実行される」,
という記載が存在しているが,これらの記載からでは,「連続的な拡張」とは,どのような“処理”,或いは,“状態”を示すものか不明であり,本願明細書等の他の記載内容を加味しても,該「連続的な拡張」が,どのようなものであるか不明である。
同段落【0024】に記載された,
「アクティベーション値AVは,追加されるべきエンティティ62,63′と,コンテキスト65に含まれているエンティティ61?63との関係に従って,および,前記関係しているエンティティに割り当てられたアクティベーション値に従って,追加されるべきエンティティ62,63′に割り当てられる」,
における「エンティティ61?63との関係に従って」については,上記「(2)原審の拒絶理由の理由1(12)に関して」において検討したとおり,本願明細書等に記載された「関係」が,どのような状態を表現するものであるか,本願明細書等に記載の内容からは不明であるから,同段落【0024】に記載された,「関係に従って」という処理も,本願明細書等の記載内容からでは,どのような処理を表現したものであるか,不明である。
同段落【0024】に記載された,
「エンティティがサブコンテキスト内に含められた反復に依存するサブコンテキストアクティベーション属性(値とも呼ばれる)を,サブコンテキストに含まれているエンティティに割り当てる」,
について,上記引用記載に含まれる「反復に依存する」については,同段落【0033】に,
「エンティティがサブコンテキスト内に含められた反復に依存するサブコンテキストアクティベーション属性*を,サブコンテキスト64に含まれているエンティティ61,62,63′に割り当てる」,
という記載が存在し,他に,同段落【0023】に,
「サブコンテキストに新しく追加されたエンティティに割り当てられるサブコンテキストアクティベーション値は,エンティティが追加された周期に依存する」,
といった記載が存在しているが,これらの記載を参酌しても,「反復に依存」するとは,どのような状態を表現したものか不明であり,本願明細書等の他の記載内容を加味しても,それは解消しない。

(10)理由2(24)?(27)に関して
本願明細書等の段落【0028】に記載された,
「コンテキストを有するイベントを,記憶されたエンティティの組によって定義する入力を受け取るステップ」,
について,上記「(3)理由2(8),及び,(12)に関して」において検討したとおり,上記引用記載に含まれる「コンテキストを有するイベント」における「イベント」がどのようなものであるか不明であるので,該「コンテキストを有するイベント」も,同様に,本願明細書等の記載内容からは不明である。
上記引用記載に含まれる「イベントを,記憶されたエンティティの組によって定義する」については,「イベント」の「定義」に関して,本願明細書等には,上記引用記載の他,上記「(4)原審の拒絶理由の理由1(19)に関して」においても引用したように,同段落【0013】に,
「状況60は,コンテキスト65のサブセット64として,つまり,現在のコンテキストモデル65にすべて含まれているエンティティ61,62,63′の組として,定義されることが可能であることがわかっている」,
という記載が存在し,また,同段落【0024】に,
「サブセットは,完全に定義された場合,状況がどのようなものであるかを定義する」,
という記載が存在しているが,これらに記載された内容を加味しても,同段落【0028】に記載された,「イベントを,記憶されたエンティティの組によって定義する」という処理がどのように実現されているか不明であり,本願明細書等には,上記引用の記載以外にも,「定義」に関連する記載が存在しているが,それらの記載内容を全て参酌しても,該「イベントを,記憶されたエンティティの組によって定義する」が,どのようして行われているか不明である。
同段落【0028】に記載された,
「サブコンテキストを定義する,記憶されたエンティティの組のサブセットとして,状況表現を決定するステップ」,
について,同段落【0028】に記載された内容では,上記引用の「ステップ」がどのようなものであるか,不明である。
そこで,本願明細書等に記載された内容の内,上記引用記載以外に,「サブコンテキストを定義する」こと,或いは,「状況表現を決定する」ことに関する記載を探すと,
同段落【0029】に,
「サブコンテキストを定義するために,複数のエンティティ61,62,63′への参照のサブセットによってサブコンテキスト64を決定するステップ(ステップ74)を含み,前記決定するステップは,イベント60に関連する複数のエンティティ61,62,63′への参照のサブセットを識別するステップを含み」,
という記載が存在し,更に,上記「(1)原審の拒絶理由の理由1(8)に関して」において引用した,本願明細書等の段落【0030】に,
「サブコンテキスト64内に含まれるべきエンティティ61,62,63′のサブセットを,アクティベーション値AVに基づいて決定するステップ」
という記載が存在していて,上記引用の段落【0029】の記載内容に従えば,同段落【0029】の「決定するステップ」において,「サブコンテキストを定義するために」,「決定」されているのは,「サブコンテキスト64」であって,「状況表現」ではない。
そして,上記引用の段落【0030】の記載内容に従えば,同段落【0029】に記載された「複数のエンティティ61,62,63′への参照のサブセット」と,同段落【0030】に記載された「サブコンテキスト64内に含まれるべきエンティティ61,62,63′のサブセット」との関係が,本願明細書等の記載内容からは明確ではないものの,「サブコンテキスト64内に含まれるべきエンティティ61,62,63′のサブセット」が「決定」されるものであることが,読み取れる。
しかしながら,上述したように,本願明細書等の記載内容からは,同段落【0029】に記載された「複数のエンティティ61,62,63′への参照のサブセット」と,同段落【0030】に記載された「サブコンテキスト64内に含まれるべきエンティティ61,62,63′のサブセット」との関係が不明であり,これら2つの「サブセット」と,段落【0028】に記載された「記憶されたエンティティの組のサブセット」との関係も不明である。
また,同段落【0029】,及び,【0030】における決定は,「サブコンテキスト64」の「決定」であって,「状況表現」の決定ではない。
よって,上記引用の各段落に記載された内容からでは,同段落【0028】記載された,
「サブコンテキストを定義する,記憶されたエンティティの組のサブセットとして,状況表現を決定するステップ」,
をどのように実現しているか不明である。
更に,上記引用の同段落【0028】に記載された事項に関連する記載として,本願明細書等の段落【0005】に,
「複数のエンティティへの参照のサブセットにより状況表現を決定して,サブコンテキストを定義するための,状況表現マネージャを含み」,
同段落【0006】に,
「特定のユーザ対話またはエンティティ相互接続に関する状況モデルは,状況に最も関連するエンティティのみを含むサブコンテキストを定義するように範囲が定められる」,
同段落【0007】に,
「サブコンテキストを定義するために,複数のエンティティへの参照のサブセットによって状況表現を決定するステップを含み,前記決定するステップは,イベントに関連する複数のエンティティへの参照のサブセットを識別するステップを含み」,
同段落【0011】に,
「アプリケーションマネージャ10は,さらに,複数のエンティティ62,62,63′への参照のサブセットによりサブコンテキスト64を決定して,サブコンテキスト64を定義するための,状況表現マネージャ13も含み,状況表現マネージャ13は,イベント60に関連する複数のエンティティ62,62,63′への参照のサブセットを識別するように構成されており」,
同段落【0020】に,
「サブコンテキストは,イベント60により直接影響されるエンティティ61を最初に含むように定義される」,
同段落【0023】に,
「決定手段は,周期内で,サブコンテキストに含まれるために必要なしきい値を超えていると識別されるさらなるエンティティがない場合,サブコンテキストがいつ完成するかを決定する。これが達成されると,サブコンテキストが定義される」,
という記載が存在するが,これらの記載内容を加味しても,同段落【0028】に記載された,
「サブコンテキストを定義する,記憶されたエンティティの組のサブセットとして,状況表現を決定するステップ」,
が,どのように実現されているか不明である。
同段落【0028】に記載された,
「状況表現に基づいて,アプリケーションの動作を,状況または将来の状況に適用させるステップ」,
について,上記「(4)原審の拒絶理由の理由1(19)に関して」においても引用した,本願明細書等の段落【0011】の,
「アプリケーションマネージャ13は,サブコンテキスト64に基づいて,アプリケーション20の動作を,状況または将来の状況に適合させるように構成されている」,
という記載との関係が不明であり,仮に,同じ内容を示すものであったとしても,
本願明細書等に記載された内容からは,「状況表現」がどのようなものであるか明確でなく,更に,「(4)原審の拒絶理由の理由1(19)に関して」において検討したとおり,上記引用記載に含まれる「状況」,或いは,「将来の状況」がどのようなものであるか不明であるので,該「状況表現」,「状況」,或いは,「将来の状況」を含む,「状況表現に基づいて,アプリケーションの動作を,状況または将来の状況に適用させるステップ」をどのように実現しているか不明である。

(11)理由2(28)に関して
本願明細書等の段落【0029】に記載された,
「コンテキスト65は,イベント60に関連付けられ,データベースリソース内に記憶された複数のエンティティ61?63への参照の組によってイベント内で表現され(ステップ72)」,
について,上記引用記載に含まれる「イベント内で表現され」るが表現しようとする構成が,同段落【0029】に記載された内容からは不明であり,本願明細書等の他の記載内容を見ても,その段落【0005】に,
「コンテキストは,イベントと関連付けられており,データベースリソース内に記憶された複数のエンティティへの参照の組によりアプリケーション内で表現され」,
同段落【0007】に,
「コンテキストは,イベントに関連付けられ,データベースリソース内に記憶された複数のエンティティへの参照の組によってアプリケーション内で表現され」,
同段落【0014】に,
「データベースが内部で提供されるビジネスアプリケーションなどの,ビジネスアプリケーション内で,コンテキストは,ユーザ,セッション,ビジネスエンティティ(ただし,これらに限定されない)などの,さまざまなエンティティ61またはイベント60について定義されてもよい」,
という記載が存在しているが,上記引用記載中の「アプリケーション内」と,同段落【0029】に記載された「イベント内」との関係が,本願明細書等の記載内容からは不明であり,上記引用の各段落の記載内容を見ても不明であり,上記引用以外の本願明細書等の記載内容を加味しても,「イベント内で表現され」るとは,どのような構成,状態,を表現しようとしたものであるか不明であるので,
同段落【0029】に記載された,
「コンテキスト65は,イベント60に関連付けられ,データベースリソース内に記憶された複数のエンティティ61?63への参照の組によってイベント内で表現され(ステップ72)」,
という「ステップ」を,どのように実現しているか,本願明細書等の記載内容からは不明である。

以上,(1)?(11)に検討したとおり,原審の拒絶理由の理由2(1),及び,(7)?(12),並びに,(15)?(28)において指摘された事項は,依然として不明であるから,
よって,本願明細書の発明の詳細な説明は,経済産業省令で定めるところにより,その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記述したものでない。

第6.むすび
したがって,本願は,特許法第36条第4項第1号及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-07-29 
結審通知日 2013-07-30 
審決日 2013-08-21 
出願番号 特願2005-25837(P2005-25837)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (G06F)
P 1 8・ 537- Z (G06F)
P 1 8・ 536- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久保 光宏  
特許庁審判長 仲間 晃
特許庁審判官 田中 秀人
石井 茂和
発明の名称 アプリケーション管理システムおよびアプリケーション管理方法  
代理人 村山 靖彦  
代理人 志賀 正武  
代理人 渡邊 隆  
代理人 実広 信哉  

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