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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C08L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08L
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1283733
審判番号 不服2013-253  
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-01-08 
確定日 2014-01-16 
事件の表示 特願2008-144684「高分子相溶化剤および高分子組成物ならびに被覆電線およびワイヤーハーネス」拒絶査定不服審判事件〔平成21年12月17日出願公開、特開2009-292860〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成20年6月2日を出願日とする特許出願であって、平成24年6月22日付けで拒絶理由が通知され、同年8月23日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年10月3日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成25年1月8日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年2月26日付けで前置報告がなされ、それに基いて当審において同年6月3日付けで審尋がなされ、それに対して同年7月17日に回答書が提出されたものである。

第2.平成25年1月8日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成25年1月8日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成25年1月8日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許法第17条の2第1項第4号に掲げる場合の補正であって、特許請求の範囲について、平成24年8月23日提出の手続補正書により補正された本件補正前の

「【請求項1】
分子構造中に、オレフィン系高分子またはスチレン系共重合体よりなる高分子鎖と芳香環(スチレン系共重合体よりなる高分子鎖の芳香環を除く)とを有し、前記高分子鎖と芳香環とが、マレインイミド骨格、マレインアミド酸骨格、および、マレイン酸骨格から選択された1種または2種以上の骨格を介して結合され、該骨格を介して前記高分子鎖に前記芳香環がグラフトされている化合物を含有する高分子相溶化剤と、
前記高分子鎖と相溶するオレフィン系高分子または前記高分子鎖と相溶するスチレン系高分子と芳香環を有するエンジニアリングプラスチックとの組み合わせ、前記高分子鎖と相溶するオレフィン系高分子とスチレン系高分子との組み合わせ、または、芳香環を有するエンジニアリングプラスチック同士の組み合わせからなる有機高分子と、を含有してなることを特徴とする高分子組成物。
【請求項2】
前記高分子相溶化剤の芳香環には、塩基性置換基が導入されていることを特徴とする請求項1に記載の高分子組成物。
【請求項3】
前記化合物が下記一般式(1)で表される化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の高分子組成物。
【化1】

(式中、R1、R2、R4およびR5は、水素原子、または炭素数が1?3のアルキル基のいずれかを示す。R1、R2、R4およびR5は、同一でも良く、異なっていても良い。アルキル基中には水酸基、アミド結合、エーテル結合、エステル結合、カルボニル基を含んでいても良い。R3は、炭素数が1?3のアルキル基、アミノ基、炭素数が6?21のアリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールアミノ基またはアリールアルキル基のいずれか、もしくは、オレフィン系高分子またはスチレン系共重合体よりなる高分子鎖が結合されたマレインイミド骨格、マレインアミド酸骨格またはマレイン酸骨格を示す。アルキル基中には水酸基、アミド結合、エーテル結合、エステル結合、カルボニル基を含んでいても良い。R3の芳香環にはアミノ基、アルキル基を含んでいても良い。R6は、オレフィン系高分子またはスチレン系共重合体よりなる高分子鎖を示す。)
【請求項4】
前記有機高分子の合計質量100質量部に対して、前記高分子相溶化剤を0.1?20質量部含有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の高分子組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の高分子組成物を被覆材に用いた被覆電線。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか1項に記載の高分子組成物を用いたワイヤーハーネス。」

を、

「【請求項1】
分子構造中に、オレフィン系高分子またはスチレン系共重合体よりなる高分子鎖と芳香環(スチレン系共重合体よりなる高分子鎖の芳香環を除く)とを有し、前記高分子鎖と芳香環とが、マレインイミド骨格、マレインアミド酸骨格、および、マレイン酸骨格から選択された1種または2種以上の骨格を介して結合され、該骨格を介して前記高分子鎖に前記芳香環がグラフトされている化合物を含有する高分子相溶化剤と、
前記高分子鎖と相溶するオレフィン系高分子または前記高分子鎖と相溶するスチレン系高分子と芳香環を有するエンジニアリングプラスチックとの組み合わせ、前記高分子鎖と相溶するオレフィン系高分子とスチレン系高分子との組み合わせ、または、芳香環を有するエンジニアリングプラスチック同士の組み合わせからなる有機高分子と、を含有してなり、
前記高分子相溶化剤が前記有機高分子のうち芳香環を有するものと反応する官能基を有さないものであるか、前記有機高分子のうち芳香環を有するものが前記高分子相溶化剤と反応する官能基を有さないものであるか、のいずれか一方または両方を満足し、前記高分子相溶化剤と前記有機高分子のうち芳香環を有するものとが反応するものを除き、前記高分子相溶化剤と前記有機高分子のうち芳香環を有するものとが芳香環スタッキングのみを利用して相溶することを特徴とする高分子組成物。
【請求項2】
前記高分子相溶化剤の芳香環には、塩基性置換基が導入されていることを特徴とする請求項1に記載の高分子組成物。
【請求項3】
前記化合物が下記一般式(1)で表される化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の高分子組成物。
【化1】

(式中、R1、R2、R4およびR5は、水素原子、または炭素数が1?3のアルキル基のいずれかを示す。R1、R2、R4およびR5は、同一でも良く、異なっていても良い。アルキル基中には水酸基、アミド結合、エーテル結合、エステル結合、カルボニル基を含んでいても良い。R3は、炭素数が1?3のアルキル基、アミノ基、炭素数が6?21のアリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールアミノ基またはアリールアルキル基のいずれか、もしくは、オレフィン系高分子またはスチレン系共重合体よりなる高分子鎖が結合されたマレインイミド骨格、マレインアミド酸骨格またはマレイン酸骨格を示す。アルキル基中には水酸基、アミド結合、エーテル結合、エステル結合、カルボニル基を含んでいても良い。R3の芳香環にはアミノ基、アルキル基を含んでいても良い。R6は、オレフィン系高分子またはスチレン系共重合体よりなる高分子鎖を示す。)
【請求項4】
前記有機高分子の合計質量100質量部に対して、前記高分子相溶化剤を0.1?20質量部含有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の高分子組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の高分子組成物を被覆材に用いた被覆電線。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか1項に記載の高分子組成物を用いたワイヤーハーネス。」

と補正しようとするものである。

2.特許法第17条の2第3項に規定する要件についての検討
上記本件補正が、本願の願書に最初に添付した明細書及び特許請求の範囲(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものであるかどうかについて検討する。

(1)当初明細書等の記載事項
当初明細書等には、以下の記載がある。なお、下線は当審において付与した。

ア.「【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の相溶化剤では、オレフィン系高分子とエンジニアリングプラスチックとの間の相溶化は不十分であった。また、これらの組み合わせに限られず、オレフィン系高分子とポリスチレンとの組み合わせや、エンジニアリングプラスチック同士の組み合わせなど、一般に高分子同士では相溶な組み合わせは少ない。そのため、従来のポリマーブレンドされた高分子組成物を成形用途に用いると、耐摩耗性などの機械的特性が不十分であるという問題があった。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、ポリマーブレンドされた高分子組成物の相溶性を向上させて耐摩耗性などの機械的特性を向上させることが可能な高分子相溶化剤を提供することにある。また、この高分子相溶化剤を含有する高分子組成物を提供することにある。また、他の課題は、これを用いて、耐摩耗性などの機械特性に優れる被覆電線ならびにワイヤーハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、ポリマーブレンドにおいて多く用いられているエンジニアリングプラスチックなどには芳香環を有するものが多いことに着目した。そして、鋭意検討した結果、一方の高分子とは相溶性を有するとともに、他方の高分子とは芳香環のスタッキングを利用して相溶性を高める考えに至り、本発明を完成するに至った。」(段落 【0006】?【0009】)

イ.「【発明の効果】
本発明に係る高分子相溶化剤は、分子構造中に、オレフィン系高分子またはスチレン系共重合体よりなる高分子鎖と芳香環とを有する化合物よりなる。そのため、オレフィン系高分子やスチレン系共重合体などの汎用性高分子と、エンジニアリングプラスチックとの組み合わせや、オレフィン系高分子とポリスチレンとの組み合わせ、エンジニアリングプラスチック同士の組み合わせなど、相溶しにくい高分子同士のポリマーブレンドにおいて、相溶性を向上させて耐摩耗性などの機械的特性を向上させることができる。
この際、前記芳香環に塩基性置換基が導入されていると、エンジニアリングプラスチック等の末端基と結合形成しやすくなり、より一層、相溶性を高めることができる。」(段落 【0018】?【0020】)

ウ.「上記芳香環には、置換基が導入されていても良い。このとき、置換基の数は特に限定されるものではない。置換基が複数個の場合、互いに同一の置換基であっても良いし、互いに異なる置換基であっても良い。
導入可能な置換基としては、例えば、アルキル基、アミノ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールアミノ基、アリールアルキル基などを示すことができる。より好ましくは、アミノ基、アリール基である。アミノ基は、エンジニアリングプラスチックの末端官能基と反応して結合形成が可能であるため、より相溶性を高めることができる。アリール基は芳香環を有するため、芳香環スタッキングによる相溶性向上効果がさらに期待できる。好ましい置換基としてのアミノ基やアリール基の導入位置は、特に限定されるものではないが、好ましくは、4位の位置(パラ位)である。
上記アルキル基には、水酸基、アミド結合、エーテル結合、エステル結合、カルボニル基を含んでいても良い。アルキル基の炭素数は、1?3の範囲内にあることが好ましい。また、アリール基の炭素数は、6?21の範囲内にあることが好ましい。アリール基としては、フェニル基、ナフチル基等を示すことができる。」(段落 【0028】?【0030】)

エ.「そして、上記高分子組成物中の他方の有機高分子がエンジニアリングプラスチックである場合には、エンジニアリングプラスチックには芳香環を有するものが多いため、上記高分子相溶化剤の芳香環との間で芳香環のスタッキングによる相互作用を利用することができる。同様に、ポリスチレン、スチレン系共重合体等の芳香環を含有する有機高分子についても、芳香環のスタッキングを利用することができる。これにより、他方の有機高分子と高分子相溶化剤とが相溶することができる。
そして、これらの結果、高分子相溶化剤を介して、一方の有機高分子と他方の有機高分子とが相溶することができる。これにより、オレフィン系高分子やスチレン系共重合体などの汎用性高分子と、エンジニアリングプラスチックとの組み合わせや、オレフィン系高分子とポリスチレンとの組み合わせ、エンジニアリングプラスチック同士の組み合わせなど、相溶しにくい高分子同士のポリマーブレンドにおいて、相溶性を向上させて耐摩耗性などの機械的特性を向上させることができる。この際、芳香環に塩基性置換基が導入されていると、エンジニアリングプラスチック等の末端基と結合形成しやすくなり、より一層、相溶性を高めることができる。」(段落 【0047】?【0048】)

オ.「【実施例】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、本実施例では、材料特性の一つとして、被覆電線の耐摩耗性を評価した。
(供試材料および製造元など)
本実施例および比較例において使用した供試材料を製造元、商品名などとともに示す。
(A)有機高分子
・ポリプロピレン(PP)[(株)プライムポリマー製、商品名「プライムポリプロE-150GK」]
・ポリエチレン(PE)[(株)プライムポリマー製、商品名「ハイゼックス5000S」]
・エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)[三井・デュポンポリケミカル(株)製、商品名「エバフレックスEV360」]
・アイオノマー[三井・デュポンポリケミカル(株)製、商品名「ハイミラン1706」]
・オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)[(株)プライムポリマー製、商品名「T310E」]
・ポリスチレン(PS)[日本ポリスチレン製、商品名「G899」]
・ポリアミド(PA)[デュポン(株)製、商品名「ザイテルFN727」]
・ポリフェニレンエーテル(PPE)[ダイセルエボニック社製、商品名「ベストラン1900」]
・ポリフェニレンサルファイド(PPS)[東レ社製、商品名「トレリナA900」]
・ポリカ-ボネート(PC)[三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商品名「ユーピロンS-2000」]
・ポリブチレンテレフタレート(PBT)[東レ(株)製、商品名「トレコン1401X06」]
・エチレン-プロピレンゴム(EPR)[JSR(株)製、商品名「EP51」]
(B)添加剤
・金属無機水和物(水酸化マグネシウム)[マーチンスベルグ社製、商品名「マグニフィンH10」]
・メラミンシアヌレート[DSMジャパン(株)製、商品名「melapurMC15」]
・縮合リン酸エステル[ADEKA社製、商品名「アデカスタブFP-700」]
・クレー[白石カルシウム(株)製、商品名「オプチホワイト」]
・炭酸カルシウム[白石カルシウム(株)製、商品名「白艶華CCR」]
・酸化防止剤[チバスペシャリティ・ケミカルズ(株)製、商品名「イルガノックス1010」]
・金属不活性化剤[チバスペシャリティ・ケミカルズ(株)製、商品名「イルガノックスMD1024」]
(C)高分子相溶化剤
・化合物A(式(2)の化合物)の合成
無水マレイン酸変性ポリプロピレン((株)三洋化成製、商品名「ユーメックス1010」)30gと、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(東京化成(株)製)3gとをキシレン400mLに懸濁させる。次いで攪拌しながら120℃まで加温し、2時間反応させる。得られた淡黄色透明液体を激しく攪拌しながら2Lの冷メタノールに少しずつ加え、再沈殿させる。1時間室温で攪拌した後、沈殿した高分子化合物を吸引ろ過し、真空中で24時間乾燥させ、目的物を得た。IR:1705cm^(-1)、1608cm^(-1)、1460cm^(-1)
【化2】

ただし、R6は、ポリプロピレンよりなる高分子鎖を表す。
・化合物B(式(3)の化合物)の合成
4,4’-ジアミノジフェニルエーテルに代えて、4,4’-ジアミノジフェニルメタンを用いた点以外、化合物Aと同様にして合成した。IR:1706cm^(-1)、1520cm^(-1)、1380cm^(-1)、975cm^(-1)
【化3】

ただし、R6は、ポリプロピレンよりなる高分子鎖を表す。
・化合物C(式(4)の化合物)の合成
無水マレイン酸変性ポリプロピレンに代えて、無水マレイン酸変性ポリエチレン(日本ユニカー社製、商品名「GB-301」)を用い、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル3gに代えて、パラフェニレンジアミン2.5gを用い、110℃で2時間反応させた点以外、化合物Aと同様にして合成した。IR:1705cm^(-1)、1615cm^(-1)、1467cm^(-1)
【化4】

ただし、R6は、ポリエチレンよりなる高分子鎖を表す。
・化合物D(式(5)の化合物)の合成
無水マレイン酸変性ポリプロピレンに代えて、無水マレイン酸変性SEBS(クレイトンポリマージャパン(株)製、商品名「KRATON G FG1901X」)を用い、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル3gに代えて、パラトルイジン2.3gを用い、110℃で2時間反応させた点以外、化合物Aと同様にして合成した。IR:1700cm^(-1)、1605cm^(-1)、1380cm^(-1)、977cm^(-1)
【化5】

ただし、R6は、SEBSよりなる高分子鎖を表す。
(高分子組成物および被覆電線の作製)
まず、後述の表1または表2に示す各成分を二軸混練機に投入し、有機高分子や相溶化剤が流動する好適温度(例えばポリプロピレンなどでは220℃)で約5分混練した後、ペレタイザーにてペレット状に成形して本実施例および比較例に係る高分子組成物をそれぞれ得た。次いで、得られた各組成物を、φ50mm押出機により、軟銅線を7本撚り合わせた軟銅撚線の導体(断面積0.5mm^(2))の外周に0.20mm厚で押出被覆し、本実施例および比較例に係る被覆電線を作製した。
以上のように作製した各被覆電線について、耐摩耗性試験を行った。実施例の結果を表1に、比較例の結果を表2に示す。各比較例の高分子組成物は、同じ番号の各実施例の高分子組成物と比べて、(C)相溶化剤を含有していない点で異なっており、(A)有機高分子、(B)添加剤、の種類および含有量は同じになっている。なお、表1および表2に示される(A)有機高分子、(B)添加剤、(C)相溶化剤の量は、質量部でそれぞれ表されている。
(耐摩耗性試験)
JASO D611-94に準拠し、ブレード往復法により行った。すなわち、被覆電線を750mmの長さに切り出して試験片とした。次いで、25℃の室温下にて、台上に固定した試験片の被覆材表面を軸方向に10mmの長さにわたってブレードを往復させ、被覆材の摩耗によってブレードが導体に接触するまでの往復回数を測定した。この際、ブレードにかける荷重は7Nとし、ブレードは毎分50回の速度で往復させた。次いで、試験片を100mm移動させて、時計方向に90度回転させ、上記の測定を繰り返した。この測定を同一試験片について合計3回行い、その最低値を評価値とした。摩耗回数が500回以上を合格とした。
【表1】

【表2】

表1および表2によれば、本発明に従う高分子相溶化剤を含有していない比較例に係る被覆電線は、耐摩耗性に劣ることが分かる。これに対し、本発明の一実施例に係る高分子相溶化剤を含有する実施例に係る被覆電線は、耐摩耗性に優れることを確認した。これは、本発明に従う高分子相溶化剤を用いることにより、ポリマーブレンドを作製する際に有機高分子同士の相溶性を高め、混ざりが良くなったためである。
また、実施例1と実施例11とを比較すると、同じ有機高分子同士を相溶させる場合、高分子相溶化剤の芳香環の数が多い実施例1の方が、より耐摩耗性向上効果に優れていることが確認できた。
そして、本実施例に示される被覆電線を電線束中に含んだワイヤーハーネスとすれば、電線束中の他の被覆電線などと接触する形態で使用されても、被覆材が著しく摩耗することはなく、長期にわたって高い信頼性が確保される。
なお、本実施例では電線特性のうち耐摩耗性について評価しているが、有機高分子同士の相溶性が良くなることにより向上が期待できる他の電線特性についても向上効果があると考えられる。また、電線だけでなく、他の材料、例えば成形材料全般などまたはこれ以外の材料についても、機械特性などの材料特性の向上効果があると考えられる。」(段落 【0057】?【0077】)

(2)当初明細書等の記載の検討
請求項1に係る発明を特定するために必要な事項として、本件補正後に追加された事項である「高分子相溶化剤と有機高分子のうち芳香環を有するものとが芳香環スタッキングのみを利用して相溶する」点は、当初明細書等には、文言として記載はなく、発明の詳細な説明におけるスタッキングに係わる記載としては、以下の記載がある。

「本発明者らは、ポリマーブレンドにおいて多く用いられているエンジニアリングプラスチックなどには芳香環を有するものが多いことに着目した。そして、鋭意検討した結果、一方の高分子とは相溶性を有するとともに、他方の高分子とは芳香環のスタッキングを利用して相溶性を高める考えに至り、本発明を完成するに至った。」(摘示ア)
「上記芳香環には、置換基が導入されていても良い。・・・より好ましくは、アミノ基、アリール基である。・・・アリール基は芳香環を有するため、芳香環スタッキングによる相溶性向上効果がさらに期待できる。」(摘示ウ)
「そして、上記高分子組成物中の他方の有機高分子がエンジニアリングプラスチックである場合には、エンジニアリングプラスチックには芳香環を有するものが多いため、上記高分子相溶化剤の芳香環との間で芳香環のスタッキングによる相互作用を利用することができる。同様に、ポリスチレン、スチレン系共重合体等の芳香環を含有する有機高分子についても、芳香環のスタッキングを利用することができる。
そして、これらの結果、高分子相溶化剤を介して、一方の有機高分子と他方の有機高分子とが相溶することができる。」(摘示エ)
「実施例1と実施例11とを比較すると、同じ有機高分子同士を相溶させる場合、高分子相溶化剤の芳香環の数が多い実施例1の方が、より耐摩耗性向上効果に優れていることが確認できた。」(摘示オ)

これらの記載からは、本願に係る発明が芳香環のスタッキングを利用して相溶性を高めるものであることまでは理解できても、スタッキングのみを利用して相溶しない樹脂同士を相溶することが記載されているとまではいえない。

発明の詳細な説明における実施例の記載には、化合物Dとして、分子構造中にスチレン系高分子鎖にあたるSEBSと官能基を有さない芳香族環を含有する高分子相溶化剤

が記載され、実施例5として当該化合物Dとポリフェニレンサルファイドとポリカーボネートとのアロイ、実施例8としてアイオノマーとポリアミドとのアロイについて、当該アロイを利用した絶縁電線の耐摩耗性(回数)が開示されているから、当該化合物Dを利用することで実施例5及び8のアロイの機械的強度が向上したことは確かめられているが、当該化合物Dがどのように相溶化に寄与しているのかについて、科学的には確認されていない。

本願出願時のこの発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)において、芳香環のスタッキングが高分子の相溶化に及ぼす影響については、科学的解明は十分に行われておらず、どのような理論ないし機構により相溶化がなされるのかは判然としていなかったものといえる。そして、上記化合物Dの反応する官能基を有さない芳香族環は、マレイミド骨格という独特な構造を介してSEBSと結合している構造であって、これらの構造のなかで、どの部分が相溶化に寄与しているかを科学的に検証する手法自体困難といえる。
このような技術背景の基で、当初明細書等の記載を見た当業者が、上記記載のみから、芳香環のスタッキングのみを利用して相溶化されたものが当初明細書等に記載されていたと同然であると認識できたものとは認められない。
そして、この補正によって「芳香環スタッキングのみを利用して相溶する」という技術的事項が導入されることは明らかである。
してみると、「高分子相溶化剤と有機高分子のうち芳香環を有するものとが芳香環スタッキングのみを利用して相溶する」という補正事項を新たに追加する本件補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものといえるから、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められない。

3.独立特許要件について
仮に、本件補正が、当初明細書等の記載の範囲内でなされた、限定的減縮を目的とする補正といえるとした場合、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものであるから、同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する補正であるか否か(いわゆる、独立特許要件の有無)について、以下に検討する。

(1)本件補正後の請求項1に係る発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)は、平成25年1月8日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲及び明細書(以下、「本件補正明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「分子構造中に、オレフィン系高分子またはスチレン系共重合体よりなる高分子鎖と芳香環(スチレン系共重合体よりなる高分子鎖の芳香環を除く)とを有し、前記高分子鎖と芳香環とが、マレインイミド骨格、マレインアミド酸骨格、および、マレイン酸骨格から選択された1種または2種以上の骨格を介して結合され、該骨格を介して前記高分子鎖に前記芳香環がグラフトされている化合物を含有する高分子相溶化剤と、
前記高分子鎖と相溶するオレフィン系高分子または前記高分子鎖と相溶するスチレン系高分子と芳香環を有するエンジニアリングプラスチックとの組み合わせ、前記高分子鎖と相溶するオレフィン系高分子とスチレン系高分子との組み合わせ、または、芳香環を有するエンジニアリングプラスチック同士の組み合わせからなる有機高分子と、を含有してなり、
前記高分子相溶化剤が前記有機高分子のうち芳香環を有するものと反応する官能基を有さないものであるか、前記有機高分子のうち芳香環を有するものが前記高分子相溶化剤と反応する官能基を有さないものであるか、のいずれか一方または両方を満足し、前記高分子相溶化剤と前記有機高分子のうち芳香環を有するものとが反応するものを除き、前記高分子相溶化剤と前記有機高分子のうち芳香環を有するものとが芳香環スタッキングのみを利用して相溶することを特徴とする高分子組成物。」

(2)明確性要件(特許法第36条第6項第2号)について
補正発明における「前記高分子相溶化剤と前記有機高分子のうち芳香環を有するものとが反応するものを除き」において、「高分子相溶化剤と有機高分子のうち芳香環を有するものとが反応するもの」が、どのようなものを包含しているのかが明確でない。以下詳述する。
「反応する」とは、デジタル大辞泉によれば、「物質の相互作用によって別の物質を生じること。化学反応や核反応。」を意味するが、物質の相互作用は、反応条件(触媒の有無も含む)により大きく異なるため、同じ化合物同士であっても、反応したり反応しなかったりする。そのため、反応条件を特定しないと、反応するかどうかを正確には特定できない。また、仮に当業者において反応条件が自明であるといえたとしても、以下の点で明確とはいえない。
前記高分子相溶化剤と前記有機高分子のうち芳香環を有するものとが(特定の反応条件において)反応しないものに関して、本件補正明細書の実施例2、3、7、10において有機高分子のうち芳香環を有するものとして高分子相溶化剤と反応する官能基を有さないものを挙げており、段落【0041】においてポリスチレン、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂など、有機高分子のうち芳香環を有するものとして、高分子相溶化剤と反応する官能基を有さないものを挙げていること、及び、請求人の平成25年7月17日提出の回答書における「また、「前記有機高分子のうち芳香環を有するものが前記高分子相溶化剤と反応する官能基を有さないものである」の部分は、有機高分子のうち芳香環を有するものに官能基がなければ官能基を有する高分子相溶化剤であっても反応しないことは明らかであること」との主張からみて、アロイする有機高分子のうち芳香環を有するものの主鎖に(特定の反応条件において)反応する官能基を有さないものは、反応しないものであると請求人は判断しているものと判断される。
しかるに、芳香環を有する有機高分子が、高分子相溶化剤と反応するかどうかは、芳香環を有する有機高分子の主鎖構造のみならず、末端基にどのようなものがあるかによって変わることは、当業者の技術常識である。
そうすると、補正発明の「高分子相溶化剤と有機高分子のうち芳香環を有するものとが(特定の反応条件において)反応するもの」に、相溶化剤と反応する末端基を有するポリスチレンや、ポリスルフォン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂が含まれるか否かが解らず、不明確である。

(3)新規性要件(特許法第29条第1項第3号)について
(3-1)刊行物
刊行物:特開平2-36248号公報(平成24年6月22日付け拒絶理由通知書において提示された引用文献4)

(3-2)刊行物の記載事項
本願の出願日前に頒布された刊行物であることが明らかな特開平2-36248号公報(以下、単に「引用文献」という。)には、以下の事項が記載されている。

カ.「1.a)ポリプロピレン系樹脂にb)熱可塑性ポリウレタン及びc)変性ポリオレフィンを配合してなるポリプロピレン系樹脂組成物。
2.a)ポリプロピレン系樹脂にd)ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、芳香族ポリエーテル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂からなる群より選ばれる熱可塑性樹脂及び必要によりd)熱可塑性ポリウレタン、並びにc)変性ポリオレフィンを配合してなるポリプロピレン系樹脂組成物。
3.変性ポリオレフィンがアミノ基及び/又は水酸基を含有する不飽和化合物で変性されてなる請求項1又は2記載の組成物。
4.変性ポリオレフィンが不飽和酸または不飽和酸無水物で変性されたポリオレフィンに低分子ジオール、低分子ジアミン、又は水酸基とアミノ基を有する低分子化合物を反応させたもの、及び/又は、さらにNCO末端のポリウレタンを反応させたものである請求項1又は2記載の組成物。
5.a)及びb)及び/又はd)の100重量部に対しb)及び/又はd)が5?95重量部、c)が1?30重量部である請求項1?4のいずれか記載の組成物。
6.a)及びb)及び/又はd)の100重量部に対しb)及び/又はd)が5?50重量部、c)が1?30重量部である請求項1?4のいずれか記載の組成物。」(特許請求の範囲1?6)

キ.「[産業上の利用分野]
本発明はポリプロピレン系樹脂組成物に関するものである。
[従来の技術]
ポリオレフィンと熱可塑性ポリウレタンの組成物としては、特開昭62-295054号公報に記載されている。
[発明が解決しようとする課題]
しかしながら従来のものは、各種成形品に用いるには、強度面など不適切であった。」(2頁1?10行)

ク.「本発明で用いる変性ポリオレフィンは、水酸基含有不飽和化合物および/またはアミノ基含有不飽和化合物でポリオレフィンを変性してなるもの(a)が挙げられる。変性に用いる不飽和化合物または不飽和化合物混合物の量は、通常1.5?30重量%であり、好ましくは3?10重量%である。1.5重量%未満ではポリウレタンに対する相溶化効果が発揮されず、30重量%を越えるとポリプロピレン系樹脂との相溶性が低下する。
この変性に用いられるポリオレフィンとしては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ-4-メチルペンテン-1、エチレンとα-オレフィンの共重合体、プロピレンとα-オレフィンの共重合体などのポリオレフィン類またはそのオリゴマー類、エチレン-プロピレンゴム、EPDM、EVA、ブチルゴム、ブタジエンゴム、低結晶性エチレン-プロピレン共重合体、もしくはプロピレン-ブテン共重合体からなるポリオレフィン系熱可塑性エラストマー類または、そのオリゴマー類、ポリプロピレンとエチレン-プロピレンゴムのブレンドを主体とするポリオレフィン系熱可塑性エラストマー類などのポリオレフィン系エラストマー類および、エチレン-ビニルエステル共重合体、エチレン-アクリルエステル共重合体およびそのオリゴマーなどを含み、これらの各種ポリオレフィンおよびオリゴマーのブレンド物も含まれる。好ましいのはポリプロピレンまたはプロピレンとα-オレフィンの共重合体またはEPDMまたは低密度ポリエチレンおよび、そのオリゴマー類である。分子量は通常1000?500000のものが用いられ、好ましくは3000?200000のものである。・・・
本発明において変性に用いる不飽和化合物のうち水酸基含有不飽和化合物としては、エチレン系の不飽和結合を存する炭素数2?3の炭化水素基1ケと水酸基1ケ以上を一分子中にそれぞれ有する化合物が挙げられる。
具体的には、例えばヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、グリセロールメタクリレート、グリセロールアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、ポリプロピレングリコ-ルアクリレート、ポリプロピレングリコールメタクリレート、カプロラクトン変性2-ヒドロキシエチルアクリレート、カプロラクトン変性2-ヒドロキシエチルメタクリレート、N-(4-ヒドロキンフェニル)マレイミドなどが挙げられ、これらのものは一種または二種以上で用いられる。好ましいのはグリセロールアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレートおよびN-(4-ヒドロキンフェニル)マレイミドである。
アミノ基含有不飽和化合物としては、一般式(1)に示されるようなアミノ基または置換アミノ基の少なくとも一種を含有するビニル系の単量体が挙げられる。

(式中 R_(1): 水素、メチル基またはエチル基
R_(2): 水素、炭素数1?18のアルキル基、炭素数2?18のアルカノイル基、フェニル基、アルキルフェニル基、炭素数6?12のシクロアルキル基である。)
具体的にはアクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸アミノプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチルおよびメタクリル酸シクロへキシルアミノエチルなどのアクリル酸アクリル酸またはメタクリル酸のアルキルエステル系誘導体類、アリルアミン、メタアリルアミンおよびN-メチルアミンなどのアリルアミン誘導体類、N-ビニルジエチルアミンおよびN-アセチルビニルアミンなどのビニルアミン系誘導体類、P-アミノスチレンなどのアミノスチレン類、アクリルアミドおよびメタアクリルアミドなどのアクリルアミド系誘導体類およびこれらの二種以上の混合物が挙げられる。好ましいものはアミノスチレン、アリルアミンである。」(2頁左下欄7行?3頁左下欄14行)

ケ.「変性ポリオレフィン(a)は上記の官能基含有不飽和化合物とポリオレフィンとを有機過酸化物の存在下で反応させることによってできる。
有機過酸化物としては一般にラジカル重合において開始剤として用いられているものが使用でき、特にその種類は制限されないが、一分間の半減期が100℃以上のものが好ましい具体的には1,1-ビス-1-ブチルパーオキシ-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンのようなケトンパーオキシド、ジクミルパーオキシドのようなジアルキルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシドのようなジアシルパーオキシド、2,5-ジメチル-ジベンゾイルパーオキシヘキサンのようなパーオキシエステル、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ハイドロパーオキシドのようなハイドロパーオキシドなどが挙げられる。
変性ポリオレフィン(a)の製造法としては溶液法、溶融法いずれの公知の方法も用いることができる。溶液法では、ポリオレフィンおよび前記不飽和化合物、または前記不飽和化合物混合物を有機溶媒に溶解し、加熱することにより得ることができる。使用する有機溶媒としては、炭素数6?12の炭化水素、または炭素数6?12のハロゲン化炭化水素などを用いることができる。また、反応温度は使用するポリオレフィンが溶解する温度であり、一般には110?160℃が好ましい。
溶融法では、ポリオレフィンと前記不飽和化合物または前記不飽和化合物混合物を有機過酸化物と混合し、溶融混合して反応させることによって得ることができる。これは押し出し機、ブラベンダー、ニーダー、バンバリーミキサー、ブラストミルなどで行うことができ、混練温度は使用されるポリオレフィンの融点以上ないし300℃以下の温度範囲が好ましい。」(3頁右下欄9行?4頁右上欄2行)

コ.「また、変性ポリオフィン(a、b、c)は、他の熱可塑性樹脂とポリプロピレン系樹脂との相溶化剤として使用することができる。かかる熱可塑性樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、芳香族ポリエーテル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂などの熱可塑性樹脂が挙げられる。本発明の変性ポリオレフィンを用いることによりかかる熱可塑性樹脂とポリプロピレン系樹脂との相溶性が改善された樹脂組成物すなわちa)ポリプロピレン系樹脂にd)ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、芳香族ポリエーテル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂からなる群より選ばれる熱可塑性樹脂および必要により熱可塑性ポリウレタンおよびc)変性ポリオレフィンを配合してなるポリプロピレン系樹脂組成物が得られる。好ましい熱可塑性樹脂はポリエステルおよび/またはABS樹脂および/またはポリアセタール樹脂である。」(7頁右下欄5行?8頁左上欄3行)

サ.「本発明に用いられるABS樹脂としては、ゴム(a)の存在下、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物および不飽和カルボン酸アルキルエステル化合物からなる群より選ばれた1種以上の化合物(b)を重合してなる樹脂が挙げられる。
ABS樹脂におけるゴム(a)と化合物(b)との組成比は特に限定はないが、通常ゴム(a)3?70重量%および化合物(b)97?30重量%である。」(9頁右上欄9行?同17行)

シ.「[実施例]
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、これに限定されるものではない。以下記載において部および%はそれぞれ重量部および重量%を意味する。
・・・
実施例4
N-ヒドロキノフェニルマレイミド5部、分子量100000、密度0.89、末端二重結合量2.0個(炭素数1000あたり)のポリプロピレン系オリゴマー100部を200℃で融解しジ-t-ブチルパーオキサイドの存在下に反応してN-ヒドロキンフェニルマレイミド含量4.2%の変性ポリオレフィンD(本発明の相溶化剤)を得た。
・・・
実施例9?11
PPとポリアミド樹脂(商品名レオナ1300S、旭化成(株)製、以下PAと略記)、PUおよび実施例1?4で作成した変性ポリオレフィンを表2に示した配合比で二軸押し出し機を用いて混練して本発明の樹脂組成物を得た。ペレット化した後射出成形してアイゾット衝撃強度と成形品の外観を評価した。結果を表2に示す。
比較例4?6
実施例9?11で変性ポリオレフィンを加えなかった以外は同様にして行なった。結果を表2に示す。
実施例12?14
PPとポリアセタール樹脂(商品名ジュラコンM25、ポリプラスチックス(株)製、以下POMと略記)、PUおよび実施例1?4で作成した変性ポリオレフィンを表3に示した配合比で二軸押し出し機を用いて混練して本発明の樹脂組成物を得た。ペレット化した後射出成形してアイゾット衝撃強度と成形品の外観を評価した。結果を表3に示す。
比較例7?9
実施例12?14で変性ポリオレフィンを加えなかった以外は同様にして行なった。結果を表3に示す。
実施例15?17
PPとポリブチレンテレフタレート(商品名1401-X06、東レ(株)製、以下PBTと略記)、PUおよび実施例1?4で作成した変性ポリオレフィンを表4に示した配合比で二軸押し出し機を用いて混練して本発明の樹脂組成物を得た。ペレット化した後射出成形してアイゾット衝撃強度と成形品の外観を評価した。結果を表4に示す。
比較例10?12
実施例15?17で変性ポリオレフィンを加えなかった以外は同様にして行なった。結果を表4に示す。
実施例18?20
PPとABS樹脂(商品名トヨラック500、東レ(株)製 以下ABSと略記)、PUおよび実施例1?4で作成した変性ポリオレフィンを表5に示した配合比で二軸押し出し機を用いて混練して本発明の樹脂組成物を得た。ペレット化した後射出成形してアイゾツト衝撃強度と成形品の外観を評価した。結果を表5に示す。
比較例13?15
実施例18?20で変性ポリオレフィンを加えなかった以外は同様にして行なった。結果を表5に示す。
実施例21?23
PPとポリカーボネート樹脂(商品名タフロンA2500、出光石油化学aJ製、以下PCと略記)PUおよび実施例1?4で作成した変性ポリオレフィンを表5に示した配合比で二軸押し出し機を用いて混練して本発明の樹脂組成物を得た。ペレット化した後射出成形してアイゾット衝撃強度と成形品の外観を評価した。結果を表6に示す。
比較例16?18
実施例21?23で変性ポリオレフィンを加えなかった以外は同様にして行なった。結果を表6に示す。
・・・

・・・

[発明の効果]
本発明のポリプロピレン系樹脂に熱可塑性ポリウレタンおよび変性ポリオレフィンを配合してなるポリプロピレン系樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂と熱可塑性ポリウレタンの組合せ、または熱可塑性ポリウレタンと変性ポリオレフィンのような二成分の組合せだけでは考えられなかった、各種成形品に用いるのに適した強度を持つ組成物である。耐衝撃性および塗装性に優れているため、工業材料やバンパーなどの自動車部品、各種成形材料として利用できる。
また本発明のa)ポリプロピレン系樹脂にd)ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、芳香族ポリエーテル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂からなる群より選ばれる熱可塑性樹脂および必要により熱可塑性ポリウレタンおよびc)変性ポリオレフィンを配合してなるポリプロピレン系樹脂組成物はポリプロピレン系樹脂と上記熱可塑性樹脂の相溶性を特定の変性ポリオレフィンを用いることにより改善したものであり各種成形材料として使用できる。」(10頁右下欄1行?14頁右上欄1行)

(3-3)引用文献に記載された発明
引用文献には、その特許請求の範囲における請求の範囲2(摘示カ)として、
「a)ポリプロピレン系樹脂にd)ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、芳香族ポリエーテル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂からなる群より選ばれる熱可塑性樹脂必要によりd)熱可塑性ポリウレタン、並びにc)変性ポリオレフィンを配合してなるポリプロピレン系樹脂組成物。」が記載されていて、
引用文献の詳細な説明における実施例には、「c)変性ポリオレフィン」として実施例4の「N-ヒドロキンフェニルマレイミド含量4.2%の変性ポリオレフィンD」(摘示キ)が記載されており、同じく実施例18-20についての記載として、「PPとABS樹脂(商品名トヨラック500、東レ(株)製、以下ABSと略記)、PUおよび実施例1?4で作成した変性ポリオレフィンを表5に示した配合比で二軸押出機を用いて混練して本発明の樹脂組成物を得た」(摘示シ)と記載されていることから、
「ポリプロピレン(商品名ウベポリプロJ609H、宇部興産(株)製)、ABS樹脂(商品名トヨラック500、東レ(株)製)、N-ヒドロキンフェニルマレイミド含量4.2%の変性ポリオレフィンDからなる樹脂組成物。」(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(3-4)補正発明と引用発明との対比
引用発明の「N-ヒドロキンフェニルマレイミド含量4.2%の変性ポリオレフィンD」は、「N-ヒドロキノフェニルマレイミド5部、分子量10000、密度0.89、末端二重結合量2.0個(炭素数1000あたり)のポリプロピレン系オリゴマー100部を200℃で融解しジ-t-ブチルパーオキサイドの存在下に反応して」(摘示シ)得られているものであるから、補正発明の「分子構造中に、オレフィン系高分子またはスチレン系共重合体よりなる高分子鎖と芳香環(スチレン系共重合体よりなる高分子鎖の芳香環を除く)とを有し、前記高分子鎖と芳香環とが、マレインイミド骨格、マレインアミド酸骨格、および、マレイン酸骨格から選択された1種または2種以上の骨格を介して結合され、該骨格を介して前記高分子鎖に前記芳香環がグラフトされている化合物を含有する高分子相溶化剤」に相当する。
引用発明の「ポリプロピレン(商品名ウベポリプロJ609H、宇部興産(株)製)」と「ABS樹脂(商品名トヨラック500、東レ(株)製)」は、補正発明における「前記高分子鎖と相溶するオレフィン系高分子とスチレン系高分子との組み合わせ」に相当する。
引用発明の「ABS樹脂(商品名トヨラック500、東レ(株)製)」は、審判請求人が平成25年7月17日提出の回答書において、有機高分子のうちの芳香環を有するものとして、高分子相溶化剤と反応する官能基を有さないものの具体例として「ポリスチレン、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂」を例示しているうちのポリスチレンに属するものであることは明らかであって、アロイとする芳香環の有機高分子のなかで高分子相溶化剤と反応する官能基を有さないものといえるから、当該ABS樹脂は、補正発明における「高分子相溶化剤と反応する反応基を有さないもの」に相当する。そうすると、引用発明においても、補正発明と同様に「前記高分子相溶化剤が前記有機高分子のうち芳香環を有するものと反応する官能基を有さないものであるか、前記有機高分子のうち芳香環を有するものが前記高分子相溶化剤と反応する官能基を有さないものであるか、のいずれか一方または両方を満足し」ており、「前記高分子相溶化剤と前記有機高分子のうち芳香環を有するものとが反応するものを除」いたものとなっている。
そして、引用発明の「ABS樹脂」と「N-ヒドロキンフェニルマレイミド含量4.2%の変性ポリオレフィンD」は、請求人の平成25年7月17日提出の回答書の主張に基づけば、当該「ABS樹脂」の主鎖には反応する官能基を有さないことから、これらは相互に反応しないものといえ、引用発明の組成物においても「前記高分子相溶化剤と前記有機高分子のうち芳香環を有するものとが芳香環スタッキングのみを利用して相溶する」ものといえる。

したがって、補正発明は、引用発明と同一であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。

4.請求人の主張について
(1)新規事項の追加(特許法第17条の2)に関して
審判請求人は、平成25年7月17日提出の回答書において、
「本願発明の段落0009、0047などから、本願発明の基本的な技術思想は、高分子相溶化剤と他方の有機高分子とを芳香環スタッキングを利用して相溶することにあります。その一方で、段落0020、0029、0048などから、高分子相溶化剤と他方の有機高分子とを芳香環スタッキングを利用するとともに塩基性官能基による反応を利用して相溶することも記載しています。これらの記載から、高分子相溶化剤と他方の有機高分子とを芳香環スタッキングのみを利用して相溶することも、当初明細書の記載から自明であると考えます。
したがいまして、「前記高分子相溶化剤と前記有機高分子のうち芳香環を有するものとが芳香環スタッキングのみを利用して相溶する」の部分は新規事項を追加するものではないと思料いたします。」
と主張している。

上記主張については、上記第2 3.(1)において検討したとおりであって、当該主張は失当であり、採用できない。

(2)明確性(特許法第36条)について
審判請求人は、平成25年7月17日提出の回答書において、
「ポリブチレンテレフタレートと化合物Bは、反応するものであります。審査官殿も前置報告で「反応するものであり」と述べられていますように、この点に疑義はなく、そうしますと、「反応する」ものと「反応しない」ものは十分明確に示されていると思料いたします。
なお、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート、化合物Bを含有する高分子組成物等、反応を利用する実施例は、本願新請求項1から外れるものとなります。
「前記高分子相溶化剤と前記有機高分子のうち芳香環を有するものとが反応するものを除き」の部分は、本願新請求項1から前記高分子相溶化剤と前記有機高分子のうち芳香環を有するものとが反応するものを除くことを意味しています。これより前段部分には、「前記高分子相溶化剤が前記有機高分子のうち芳香環を有するものと反応する官能基を有さないものであるか、前記有機高分子のうち芳香環を有するものが前記高分子相溶化剤と反応する官能基を有さないものであるか、のいずれか一方または両方を満足し、」の記載があり、この記載を受けて、本願新請求項1から前記高分子相溶化剤と前記有機高分子のうち芳香環を有するものとが反応するものを除くこととしています。そして、これに続く「前記高分子相溶化剤と前記有機高分子のうち芳香環を有するものとが芳香環スタッキングのみを利用して相溶する」の部分は、上述しますように、「前記高分子相溶化剤と前記有機高分子のうち芳香環を有するものとが反応するものを除く」ことと同義であります。
つまり、本願新請求項1の高分子組成物から「前記高分子相溶化剤と前記有機高分子のうち芳香環を有するものとが反応するものが除」かれることを意味しています。また、本願新請求項1の高分子組成物は、「前記高分子相溶化剤と前記有機高分子のうち芳香環を有するものとが芳香環スタッキングのみを利用して相溶する」ものであることを意味しています。
「前記高分子相溶化剤と前記有機高分子のうち芳香環を有するものとが反応するもの」を除いた「前記高分子相溶化剤と前記有機高分子のうち芳香環を有するもの」が芳香環スタッキングのみを利用して相溶する、ということを意味するものではありません。」

上記主張については、上記第2 3.(2)において検討したとおりであって、当該主張は失当であり、採用できない。

(3)新規性(特許法第29条第1項第3号)について
審判請求人は、平成25年7月17日提出の回答書において、
「しかし、当該補正後の請求項1は、下記の3.不明な記載(特許法第36条第6項第1号、同2号、同第4項第1号)について、において述べるように、「前記高分子相溶化剤と前記有機高分子のうち芳香環を有するものとが反応するものが除」かれるものであります。また、当該補正後の請求項1は、「前記高分子相溶化剤と前記有機高分子のうち芳香環を有するものとが芳香環スタッキングのみを利用して相溶する」ものであります。
・・・
刊行物4についても同様です。刊行物4の実施例15-17には、ポリブチレンテレフタレートと、ポリプロピレンと、N-ヒドロキシフェニルマレイミド含有変性ポリオレフィンを含有する樹脂組成物が記載されています。ポリブチレンテレフタレートはカルボン酸基あるいはカルボキシル基を有するものであり、N-ヒドロキシフェニルマレイミド含有変性ポリオレフィンはヒドロキシル基を有するものであって、これらの間でエステル化反応が起きることは明らかであります。
つまり、刊行物4に記載の発明も、刊行物1に記載の発明と同様、反応を利用してポリブチレンテレフタレートとN-ヒドロキシフェニルマレイミド含有変性ポリオレフィンの相溶性を高めていることが容易に推測できます。
すると、刊行物4に記載の発明は、反応を利用してポリブチレンテレフタレートとN-ヒドロキシフェニルマレイミド含有変性ポリオレフィンの相溶性を高めているものであり、本願発明とは技術思想が異なる別発明となります。
したがいまして、本願新請求項1と刊行物4とは同一発明ではなく、また、本願発明とは技術思想が異なる別発明である刊行物4に記載の発明から本願新請求項1に係る発明に想到することは容易ではないものと思料いたします。」

上記の点については、引用文献4に補正発明が記載されていると認定できることは、上記第2 3.(3)において検討したとおりであり、請求人の主張は採用できない。

5.まとめ
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。あるいは、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明
上記のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項1?6に係る発明は、平成24年8月23日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲及び明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に記載された発明は以下のとおりである。(以下、「本願発明」という。)

「分子構造中に、オレフィン系高分子またはスチレン系共重合体よりなる高分子鎖と芳香環(スチレン系共重合体よりなる高分子鎖の芳香環を除く)とを有し、前記高分子鎖と芳香環とが、マレインイミド骨格、マレインアミド酸骨格、および、マレイン酸骨格から選択された1種または2種以上の骨格を介して結合され、該骨格を介して前記高分子鎖に前記芳香環がグラフトされている化合物を含有する高分子相溶化剤と、
前記高分子鎖と相溶するオレフィン系高分子または前記高分子鎖と相溶するスチレン系高分子と芳香環を有するエンジニアリングプラスチックとの組み合わせ、前記高分子鎖と相溶するオレフィン系高分子とスチレン系高分子との組み合わせ、または、芳香環を有するエンジニアリングプラスチック同士の組み合わせからなる有機高分子と、を含有してなることを特徴とする高分子組成物。」

第4.原査定の拒絶の理由
原査定の理由とされた、平成24年6月22日付け拒絶理由通知書に記載した理由1は、以下のとおりである。

「1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
・・・
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・理由:1,2 請求項:1-9 刊行物:1-6
(備考)
・・・
刊行物4には、N-ヒドロキシフェニルマレイミド含有変性ポリオレフィン等の相溶化剤が記載されている(特許請求の範囲、実施例等)。
・・・
引 用 文 献 等 一 覧
1.略
2.略
3.略
4.特開平02-036248号公報
5.以下略」

第5.当審の判断
1.刊行物の記載事項
拒絶理由で提示された引用文献等4の特開平02-036248号公報(以下、前記第2.3.(3-2)と同様に「引用文献」という。)の記載事項は、前記「第2 3.(3-2)」に記載したとおりである。

2.引用文献に記載された発明
引用文献には、その特許請求の範囲における請求の範囲2(摘示カ)として、
「a)ポリプロピレン系樹脂にd)ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、芳香族ポリエーテル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂からなる群より選ばれる熱可塑性樹脂必要によりd)熱可塑性ポリウレタン、並びにc)変性ポリオレフィンを配合してなるポリプロピレン系樹脂組成物。」が記載されていて、
引用文献の詳細な説明における実施例には、「c)変性ポリオレフィン」として実施例4の「N-ヒドロキンフェニルマレイミド含量4.2%の変性ポリオレフィンD」(摘示キ)が記載されており、同じく実施例15-17についての記載として、「PPとポリブチレンテレフタレート(商品名1401-X06、東レ(株)製、以下PBTと略記)、PBTおよび実施例1?4で作成した変性ポリオレフィンを表4に示した配合比で二軸押出機を用いて混練して本発明の樹脂組成物を得た」(摘示シ)と記載されていることから、
「ポリプロピレン(商品名ウベポリプロJ609H、宇部興産(株)製)、ポリブチレンテレフタレート(商品名1401-X06、東レ(株)製)、N-ヒドロキンフェニルマレイミド含量4.2%の変性ポリオレフィンDからなる樹脂組成物。」(以下、「引用発明A」という。)が記載されていると認められる。
3.対比・判断
本願発明と引用発明Aとを対比する。
引用発明Aの「N-ヒドロキンフェニルマレイミド含量4.2%の変性ポリオレフィンD」は、「N-ヒドロキノフェニルマレイミド5部、分子量100000、密度0.89、末端二重結合量2.0個(炭素数1000あたり)のポリプロピレン系オリゴマー100部を200℃で融解しジ-t-ブチルパーオキサイドの存在下に反応して」(摘示キ)得られているものであるから、本願発明における「分子構造中に、オレフィン系高分子またはスチレン系共重合体よりなる高分子鎖と芳香環(スチレン系共重合体よりなる高分子鎖の芳香環を除く)とを有し、前記高分子鎖と芳香環とが、マレインイミド骨格、マレインアミド酸骨格、および、マレイン酸骨格から選択された1種または2種以上の骨格を介して結合され、該骨格を介して前記高分子鎖に前記芳香環がグラフトされている化合物を含有する高分子相溶化剤」に相当する。
引用発明Aの「ポリプロピレン(商品名ウベポリプロJ609H、宇部興産(株)製)」と「ポリブチレンテレフタレート(商品名1401-X06、東レ(株)製)」は、本願発明における「前記高分子鎖と相溶するオレフィン系高分子と芳香環を有するエンジニアリングプラスチックとの組み合わせ」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明Aとは同一である。

よって、本願発明は、引用文献に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

第6.回答書の補正案について
審判請求人は、平成25年7月17日提出の回答書において補正案を提示しているので、以下検討する。当該補正案は以下のとおりである。
「【請求項1】
分子構造中に、オレフィン系高分子よりなる高分子鎖と芳香環(スチレン系共重合体よりなる高分子鎖の芳香環を除く)とを有し、前記高分子鎖と芳香環とが、マレインイミド骨格、マレインアミド酸骨格、および、マレイン酸骨格から選択された1種または2種以上の骨格を介して結合され、該骨格を介して前記高分子鎖に前記芳香環がグラフトされている化合物を含有する高分子相溶化剤と、
前記高分子鎖と相溶するオレフィン系高分子と芳香環を有するエンジニアリングプラスチックとの組み合わせ、前記高分子鎖と相溶するオレフィン系高分子とスチレン系高分子との組み合わせ、または、芳香環を有するエンジニアリングプラスチック同士の組み合わせからなる有機高分子と、を含有してなり、
前記芳香環を有するエンジニアリングプラスチックおよび前記スチレン系高分子は、芳香環スタッキングによる相互作用のみを利用して前記高分子相溶化剤と相溶することを特徴とする高分子組成物。
【請求項2】
分子構造中に、スチレン系共重合体よりなる高分子鎖と芳香環(スチレン系共重合体よりなる高分子鎖の芳香環を除く)とを有し、前記高分子鎖と芳香環とが、マレインイミド骨格、マレインアミド酸骨格、および、マレイン酸骨格から選択された1種または2種以上の骨格を介して結合され、該骨格を介して前記高分子鎖に前記芳香環がグラフトされている化合物を含有する高分子相溶化剤と、
前記高分子鎖と相溶するスチレン系高分子と芳香環を有するエンジニアリングプラスチックとの組み合わせ、または、芳香環を有するエンジニアリングプラスチック同士の組み合わせからなる有機高分子と、を含有してなり、
前記芳香環を有するエンジニアリングプラスチックは、芳香環スタッキングによる相互作用のみを利用して前記高分子相溶化剤と相溶することを特徴とする高分子組成物。 」(以下、請求項1を「補正案発明1」、請求項2を「補正案発明2」という。)

上記補正案発明1について検討する。
補正案発明1と上記第2 3.(3)(3-1)の刊行物に記載の第2 3.(3)(3-3)の引用発明とを対比する。
引用発明の「N-ヒドロキンフェニルマレイミド含量4.2%の変性ポリオレフィンD」は、「N-ヒドロキノフェニルマレイミド5部、分子量10000、密度0.89、末端二重結合量2.0個(炭素数1000あたり)のポリプロピレン系オリゴマー100部を200℃で融解しジ-t-ブチルパーオキサイドの存在下に反応して」(摘示シ)得られているものであるから、補正案発明1の「分子構造中に、オレフィン系高分子またはスチレン系共重合体よりなる高分子鎖と芳香環(スチレン系共重合体よりなる高分子鎖の芳香環を除く)とを有し、前記高分子鎖と芳香環とが、マレインイミド骨格、マレインアミド酸骨格、および、マレイン酸骨格から選択された1種または2種以上の骨格を介して結合され、該骨格を介して前記高分子鎖に前記芳香環がグラフトされている化合物を含有する高分子相溶化剤」に相当する。
引用発明の「ポリプロピレン(商品名ウベポリプロJ609H、宇部興産(株)製)」と「ABS樹脂(商品名トヨラック500、東レ(株)製)」は、補正案発明1における「前記高分子鎖と相溶するオレフィン系高分子とスチレン系高分子との組み合わせ」に相当する。
引用発明の「ABS樹脂(商品名トヨラック500、東レ(株)製)」は、審判請求人が平成25年7月17日提出の回答書において、有機高分子のうちの芳香環を有するものとして、高分子相溶化剤と反応する官能基を有さないものの具体例として「ポリスチレン、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂」を例示しているうちのポリスチレンに属するものであることは明らかであって、アロイとする芳香環の有機高分子のなかで高分子相溶化剤と反応する官能基を有さないものといえるから、当該ABS樹脂は、補正案発明1における「高分子相溶化剤と反応する反応基を有さないもの」に相当する。そして、引用発明の「ABS樹脂」と「N-ヒドロキンフェニルマレイミド含量4.2%の変性ポリオレフィンD」は、請求人の平成25年7月17日提出の回答書の主張に基づけば、当該「ABS樹脂」の主鎖には反応する官能基を有さないことから、これらは相互に反応しないものといえ、引用発明の組成物においても「前記高分子相溶化剤と前記有機高分子のうち芳香環を有するものとが芳香環スタッキングのみを利用して相溶する」ものといえる。したがって、補正案発明1は、引用発明と同一である。 さらに、補正案発明1および2共に「芳香環を有するエンジニアリングプラスチックは、芳香環スタッキングによる相互作用のみを利用して前記高分子相溶化剤と相溶する」との記載が存在しているから、上記第2 2.に記載の特許法第17条の2第3項に係る新規事項の追加及び第2 3.(2)における特許法第36条第6項第2号に係る特許請求の範囲の明確性の拒絶理由も存在し、ただちに特許することができないものである。

第7.むすび
以上のとおり、原査定の拒絶の理由1は妥当なものであるから、その他の理由を検討するまでもなく、本願は、この理由により拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-11-15 
結審通知日 2013-11-19 
審決日 2013-12-03 
出願番号 特願2008-144684(P2008-144684)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C08L)
P 1 8・ 537- Z (C08L)
P 1 8・ 575- Z (C08L)
P 1 8・ 561- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安田 周史  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 加賀 直人
大島 祥吾
発明の名称 高分子相溶化剤および高分子組成物ならびに被覆電線およびワイヤーハーネス  
代理人 上野 登  
代理人 上野 登  
代理人 上野 登  
代理人 上野 登  

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