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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B44D
管理番号 1283830
審判番号 不服2013-3717  
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-02-27 
確定日 2014-01-17 
事件の表示 特願2007-207131「絵画制作に使用される糸の処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 2月26日出願公開、特開2009- 39942〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件出願は、平成19年8月8日の特許出願であって、平成24年4月5日付けの拒絶理由通知に対して、同年6月15日付けで意見書の提出とともに手続補正がなされ、同年11月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成25年2月27日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年7月31日に上申書が提出され、同年10月29日に面接が行われたものである。

第2.本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成24年6月15日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものと認めるところ、請求項1ないし4の記載は以下のとおりである。
「【請求項1】
絵画用カンバスの表面接着層に貼り付けられる糸の処理方法であって、糸に更に撚りを加えた状態で貼り付けることで、糸本来の色を濃く表現することを特徴とする絵画制作に使用される糸の処理方法。
【請求項2】
絵画用カンバスの表面接着層に貼り付けられる糸の処理方法であって、糸の撚りを戻して緩めた状態で貼り付けることで、糸全体が太くなり嵩高感を表現することを特徴とする絵画制作に使用される糸の処理方法。
【請求項3】
絵画用カンバスの表面接着層に貼り付けられる糸の処理方法であって、合糸された糸の撚りを戻して、糸を単糸又は複糸で取り出した状態で貼り付けることで、糸が以前の撚られていた癖を活かした表現をすることを特徴とする絵画制作に使用される糸の処理方法。
【請求項4】
絵画用カンバスの表面接着層に貼り付けられる糸の処理方法であって、糸を微塵切りにして綿状又は粉状にしてから貼り付けることで、糸を絵の具のように混ぜ合わせたり細かな箇所を描くことを特徴とする絵画制作に使用される糸の処理方法。」(以下、請求項4に記載の発明を「本願発明」という。)

第3.引用刊行物
○引用刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用された特開昭53-40356号公報(以下、「引用刊行物1」という。)には、「貼着手芸法」に関して、図面とともに、以下のとおり記載されている。

ア.2.特許請求の範囲
「(1)下絵上に接着材を設け、次いで接着材の上面に装飾材を貼着してなり、装飾材は手芸糸、布切れを任意の長さに切断するとともに、その撚りをほぐして形成してなることを特徴とする貼着手芸法。
(2)接着材は両面接着テープで形成してなることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の貼着手芸法。
(3)接着材は糊その他適当な接着剤で形成してなることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の貼着手芸法。
(4)下絵上に透明紙を配設し、その透明紙の上に接着材を設け、次いて接着材の上面に装飾材を貼着してなり、装飾材は手芸糸布切れを任意の長さに切断するとともに、その撚りをほぐして形成し、次いで下絵を取り除いて形成してなることを特徴とする貼着手芸法。
(5)透明紙はセロハン、ビニロン、ガラスまたはパラフイン紙で形成してなることを特徴とする特許請求の範囲第4項記載の貼着手芸法。」

イ.公報第1ページ右下欄第5行?第2ページ左上欄第2行
「3.発明の詳細な説明
この発明は貼着手芸法に関するものである。
従来の手芸法は、金糸、銀糸または木綿糸等の手芸糸とか、色紙、布切れ等をそのまま使用して、台紙上に貼着して所定の模様を製作するものである。
しかしながら、この種の手芸法では、手芸糸等をそのまま使用し、かつ手芸糸等の色彩がある程度限定されていることから、線図または色分け摸様など簡単な図案は表現できるとしても、複雑な絵画的図案とか、色と色との境目をぼんやりさせて色が自然にうつつて行くように見せる“ぼかし”のような微妙な色彩を表現することができない等の難点がある。
この発明は上記従来の手芸法の難点を解決し、初心者でも極めて簡単かつ良好に製作でき、かつ微妙な色彩を表現することができる貼着手芸法を提供することを目的とする。」

ウ.公報第2ページ左上欄第3行?右上欄第2行
「以下この発明を図示する実施の態様について説明すると、風景、人物その他適当な図案が描かれた下絵1の上面に接着材2を設ける。
接着材2は第2図に示すように両面接着テープ3または糊その他適当な接着剤で形成されている。
このように下絵1上に設けられた接着材2の上面には装飾材4を貼着する。
装飾材4は、毛糸、金糸、銀糸または木綿糸その他適当な手芸糸や布切れを下絵1の図案に合せて任意の長さに切断するとともに、その撚りをほぐして細糸状とし、適当に揉みあわせ綿状に形成されている。
このように下絵に合せて形成された装飾材4を下絵の上に貼着していく。この際、例えば雲と空の境界線のように、明確に区別できない場合、すなわち雲の白色から次第に空の青色に変化していくような微妙な色彩を必要とする場合には、白色と青色との装飾材4を適当に混合して貼着する。」

以上によれば、引用刊行物1には、
「下絵上に両面接着テープで形成した接着材を設け、次いで接着材の上面に装飾材を貼着してなり、装飾材は手芸糸、布切れを任意の長さに切断するとともに、その撚りをほぐして形成する貼着手芸法。」
との発明(以下、「引用刊行物発明1」という。)が開示されていると認められる。

○引用刊行物2
同じく、原査定の拒絶の理由に引用された特開昭61-110599号公報(以下、「引用刊行物2」という。)には、「絵模様形成方法」に関して、図面とともに、以下のとおり記載されている。

エ.2.特許請求の範囲
「短細糸粉群を合成糊液と混練して色別の糸糊を造成し、該色別の糸糊を画材上に模様に合つた配置混在をもつて立体的に盛り着けて絵模様を形成し、乾燥させて弾力性と立体性のある色模様を形成することを特徴とする絵模様形成方法。」

オ.公報第1ページ左下欄第11行?右下欄第7行
「〔産業上の利用分野〕
本発明は、美術・工芸・額絵等の絵模様の形成方法に係り、特に糸糊を用いて弾力性と立体感のある絵模様を形成する方法に関するものである。
〔従来の技術〕
従来、美術・工芸的な額絵等の絵模様を表現するのに、水彩や油彩により創作するもの、あるいは刺しゆう、アツプリケ、はり絵等による創作がある。
〔発明が解決しようとする問題点〕
前記従来の手法には、次のような問題点があつた。すなわち、水彩、油彩においては、色の配合や立体感を表現する上で、熟練を要するものであつた。また刺しゆう、アツプリケ、はり絵等の創作に際しては、熟練を必要とし、画面は平面的で、色の深みや写実的表現に欠けるとともに、立体感を表現する上で難があつた。」

カ.公報第1ページ右下欄第8行?第15行
「〔問題点を解決するための手段〕
本発明は前記問題点を解決するために、次の手段を講じた。
短細糸粉群を合成糊液と混練して色別の糸糊を造成し、該色別の糸糊を画材上に模様に合つた配置混在をもつて立体的に盛り着けて絵模様を形成し、乾燥させて弾力性と立体性のある色模様を形成することを特徴とする絵模様形成方法。」

キ.公報第2ページ左上欄第3行?第14行
「〔実施例〕
本発明の実施例を図面に基づき説明する。本発明に用いる短細糸粉は糸を切断したものでもよいし、フエルト屑粉、毛屑粉のようなものでもよい。第1図は繊維糸1としてリリアン糸を選択し、これを解編してカール状となつているものを1mm前後の長さに切断して短細糸粉2,2…を形成した状態を示すもので、この短細糸粉2,2…を拡大してみると第2図に示すように、繊維はリリアン編糸の編ぐせがついているために、ちぢれ、よじれ、曲り、丸まり、など変形して嵩だかになつている。」

ク.公報第2ページ右上欄第19行?左下欄第8行
「この糸糊3は水溶性の合成糊液を用いているので、即乾性でなく,1度画材4上に置いてもヘラで押し寄せれば粒度が高いから寄せることができ、色は短細糸粉2,2…に着いているために、色のにじみ、混色が生じず、創作者の意のままに配色することができる。すなわち区別的に配色することもできるし、まぜ合わせて混色にすることもできるので、色と色の境界を明確にすることができると共にミツクス色、ボカシ調、ウンゲン調などの表現もできる。」

以上によれば、引用刊行物2には、
「糸を切断した短細糸粉群を合成糊液と混練して色別の糸糊を造成し、該色別の糸糊を画材上に模様に合つた配置混在をもつて盛り着けて絵模様を形成し、まぜ合わせて混色にすることもできる絵模様形成方法。」
との発明(以下、「引用刊行物発明2」という。)が開示されていると認められる。

第4.対比・判断
本願発明と引用刊行物発明1とを比較する。
後者の「下絵上に」、「手芸糸」で形成した「装飾材」を貼着してなる「貼着手芸法。」は、前者の「絵画用カンバスの表面接着層に貼り付けられる糸の処理方法であって」、「絵画制作に使用される糸の処理方法。」と、糸によって絵画を描くという点で基本的に共通した技術分野に属するものであり、さらに、後者の「両面接着テープで形成した接着材」は、その形状・作用からみて、前者の「表面接着層」に相当し、さらに、後者の、「接着材の上面に装飾材を貼着」する点は、前者の糸が「表面接着層に貼り付けられる」点に相当する。

してみれば、両者の一致点は以下のとおりである。
<一致点>
「絵画用カンバスの表面接着層に貼り付けられる糸の処理方法であって、糸を貼り付けることで描く、絵画制作に使用される糸の処理方法。」

そして、以下の点で相違している。

<相違点>
本願発明は、「糸を微塵切りにして綿状又は粉状にしてから貼り付けることで、糸を絵の具のように混ぜ合わせたり細かな箇所を描く」のに対して、引用刊行物発明1はそうではない点。

<相違点>について検討する。
引用刊行物発明2は、「色別の糸糊を画材上に模様に合つた配置混在をもつて盛り着けて絵模様を形成し、まぜ合わせて混色にすることもできる絵模様形成方法。」であるから、引用刊行物発明1と共通する、糸によって絵画を描くという技術分野に属するものであり、また、「糸を切断した短細糸粉群」からなる糸糊を「画材上に模様に合つた配置混在をもつて盛り着けて絵模様を形成し、まぜ合わせて混色にすることもできる絵模様形成方法。」であって、貼り付ける糸が切断されて短細糸「粉」にすること、「まぜ合わせて混色にすること」も示されている。
してみれば、相違点に係る、糸によって絵画を描くにあたって、糸を細かく切断して「粉」状にすること、また、「糸を絵の具のように混ぜ合わせ」ることも、引用刊行物発明2に示されているということができ、さらに、「細かな箇所を描く」ことができるのは、糸が粉状であれば、自明な作用、あるいは効果であるということができる。
以上のとおり、相違点に係る本願発明の構成は引用刊行物発明2に示されているということができ、技術分野の点でも、引用刊行物発明1と引用刊行物発明2は共通しているから、これらを組み合わせるにあたっての阻害要因があるとすることもできない。
してみれば、相違点に係る発明特定事項の違いは、引用刊行物発明1に引用刊行物発明2を組み合わせたにすぎないものであり、当業者が容易に想到し得たものである。

作用ないし効果について
本願発明の作用ないし効果も引用刊行物発明1、引用刊行物発明2から当業者が予想できる範囲のものである。

第5.上申書について

なお、請求人は、平成25年7月31日付け上申書において、特許請求の範囲についての補正案を堤示し、同年10月29日の面接においてもこの補正案に基づく主張をしているので、同補正案についても検討する。

補正案による補正の内容は以下のとおりである。
1.請求項1ないし3を削除する。
2.請求項4を以下のとおり補正し、新たな請求項1とする。
特許請求の範囲補正案
「絵画用カンバスの表面接着層に貼り付けられる絹糸の処理方法であって、絹糸を微塵切りにして粉状にしてから貼り付けることで、絹の艶や輝きを保たせたまま細かな箇所を描くことを特徴とする絵画制作に使用される絹糸の処理方法。」

補正案に係る補正事項は、もとの請求項4について、以下の3点を補正することである。
1.使用する糸を「絹糸」に限定する点。
2.糸の程度を「綿状又は粉状」としたものから「粉状」に限定する点。
3.使用態様を元の「糸を絵の具のように混ぜ合わせたり細かな個所を描く」を「絹の艶や輝きを保たせたまま細かな個所を描く」に変更する点。

補正事項1.について
糸としての絹はいうまでもなく周知のものであって、刺繍などの手芸用に絹糸を用いることもまた周知の事項である。
手芸の一種である絵画制作においても、糸を用いることが引用刊行物発明1によって公然知られたものである以上、その絵画制作に用いられる糸として絹糸を使用するのは、多くの種類がある糸の中から、望まれる性状に基づいて絹糸を選択したというのにすぎない。

補正事項2.について
糸を「粉状」にした点は、上記第4.対比・判断、相違点についてで述べたとおり、引用刊行物発明2に示されている事項にすぎない。

補正事項3.について
細やかな個所を描くにあたり、「絹の艶や輝きを保たせたまま」で描くとした点は、これは、言うなれば、絹糸を用いたことによる効果、あるは、発明が解決しようとする課題を特許請求の範囲に記載したものである。
この点は、絹糸を用いたことにより当然に奏される効果、あるいは、絵画としてはごく普通に要求される課題にすぎないもの、であるから、この点に進歩性は見いだせない。

以上のとおりであるから、仮に補正案のとおり特許請求の範囲を補正したとしても、上記第4で示した判断を覆すことにはならない。

第6.むすび

以上のとおり、本願発明は、引用刊行物発明1、引用刊行物発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本願は、その余の請求項に係る発明について見るまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-10-31 
結審通知日 2013-11-12 
審決日 2013-11-27 
出願番号 特願2007-207131(P2007-207131)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B44D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 青木 正博  
特許庁審判長 豊原 邦雄
特許庁審判官 菅澤 洋二
刈間 宏信
発明の名称 絵画制作に使用される糸の処理方法  
代理人 玉利 冨二郎  
代理人 立川 登紀雄  

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