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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01B
管理番号 1284095
審判番号 不服2011-7706  
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-04-12 
確定日 2014-02-20 
事件の表示 特願2007-506413「反射光源を使用する位置推定方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年10月20日国際公開、WO2005/098476、平成19年11月 1日国内公表、特表2007-530978〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成17年3月25日を国際出願日(優先権主張日:2004年3月29日、米国)とする特許出願であって、特許請求の範囲について平成18年11月30日付けで補正がなされ(以下、「補正1」という。)、平成22年10月13日付けで補正がなされ(以下、「補正2」という。)、同年12月16日付け(送達:同年12月21日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年4月12日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に、特許請求の範囲についての補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。
その後、平成23年9月12日付けで審尋をしたところ、平成24年1月16日付け回答書の提出があった。

2.本件補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。
[理由]
(1)補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を、次のとおりに補正するものである。
(本件補正前)
「物体の位置を推定するための位置推定システムであって、
上向きに光を放射してある面に少なくとも2つの光スポットを投射するための1つまたはそれ以上の光源と、
前記少なくとも2つの光スポットからの反射光を検出するように前記物体に取り付けられた検出器と、
前記少なくとも2つの光スポットの場所に基づいて前記物体の位置および姿勢を測定するためのデータ処理装置とを備え、
前記少なくとも2つの光スポットのうちのある1つの光スポットは、第1の変調パターンで変調された光によって投射される一方、前記少なくとも2つの光スポットのうちの他の1つの光スポットは、前記第1の変調パターンとは異なる第2の変調パターンで変調された光によって投射され、
前記検出器を備えた前記データ処理装置は、少なくとも第1の変調パターンおよび第2の変調パターンに基づいて2つの光スポットを識別するように構成される位置推定システム。」
(本件補正後)
「物体の位置を推定するための位置推定システムであって、
上向きに光を放射してある面に、光反射部材を介することなく少なくとも2つの光スポットを投射するための1つまたはそれ以上の光源と、
前記少なくとも2つの光スポットからの反射光を検出するように前記物体に取り付けられた検出器と、
前記少なくとも2つの光スポットの場所に基づいて前記物体の位置および姿勢を測定するためのデータ処理装置とを備え、
前記少なくとも2つの光スポットのうちのある1つの光スポットは、第1の変調パターンで変調された光によって投射される一方、前記少なくとも2つの光スポットのうちの他の1つの光スポットは、前記第1の変調パターンとは異なる第2の変調パターンで変調された光によって投射され、
前記検出器を備えた前記データ処理装置は、少なくとも第1の変調パターンおよび第2の変調パターンに基づいて2つの光スポットを識別するように構成される位置推定システム。」(下線は補正箇所を示す。)

この補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「少なくとも2つの光スポットを投射する」について「光反射部材を介することなく」との限定を付加するものであって、特許法第17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

(2)引用例記載の事項・発明
原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平5-257527号公報(以下「引用例1」という。)には、「無人車の位置・方向検出方法」(発明の名称)に関し、次の事項(a)ないし(g)が図面とともに記載されている。
(a)「【産業上の利用分野】本発明は、誘導線や磁気テープ等のガイド線を設けない無人車システムにおいて用いられるガイドレス式無人車の位置・方向検出方法に関する。」(段落【0001】)
(b)「【従来の技術】この種の無人車の現在位置および方向の検出方法としては、例えば天井に光反射板を張りつけ、無人車に搭載したレーザ発振器から上記光反射板へレーザスポットを投影し、このレーザスポットを地上に設けたITVカメラ等の視覚装置で撮影してその画像データから無人車の現在位置および方向を検出する方法がある。
しかし、この方法では、天井の全面に光反射板を張りつけなくてはならない上、ITVカメラも複数台配置する必要があるので、システムが高価になる欠点がある。」(段落【0002】?【0003】)
(c)「図1において、10は工場の建屋、11は建屋10の水平な天井、L1 ?LNは天井11の内面に配設された蛍光灯である。20は建屋10内を走行するガイドレス方式の無人車であって、ITVカメラ21および受光ユニット22を搭載している。
蛍光灯L1 ?LN はインバータ蛍光灯であって、各々が異なる周波数F1 ?FN で変調された変調光を発生する。図4にその1例を示す。同図において、12は電源、13はタイオード整流器、14は平滑コンデンサ、15は発振回路、16は蛍光管である。」(段落【0014】?【0015】)
(d)「ITVカメラ21は天井11の一部を視野に収めうるように、ある仰角をもって取付けられており、また、受光ユニット22は、図2に示すように、受光素子23、左右および上下回動駆動機構24および制御装置25を有し、受光素子23の無人車20に対するチルト角αおよびパン角β(図3に示す)を調整可能に設けてある。」(段落【0016】)
(e)「図4は、ITVカメラ21が撮影した画像であり、ITVカメラ21からの画像信号は図2に示すように2値化回路31で2値データ(明〔1〕と暗〔0〕)に変換されたのち、画像メモリ32に格納される。図5の(A)はITVカメラ21の視野の縦断面を示し、図3の(B)はITVカメラ21の視野の水平断面を示す。図2の33は演算装置CPU、34は照明灯データメモリである。この照明灯データメモリ34は蛍光灯番号L1 ?LN 、周波数F1 ?FN および蛍光灯の座標g1 ?gN のテーブルを格納している。34Aは演算装置CPU33の演算結果を格納するデータメモリである。
(1)演算装置CPU33では、画像メモリ32に格納された1フレーム分の画像データの蛍光灯像(明領域)L1 ' ?L4 ' のうちの完全画像L1 ' とL2 'の像中心G1 、G2 の座標G1 (i1 ,j1 )、座標G2 (i2 ,j2 )を演算する。」(段落【0017】?【0018】)
(f)「(2)このチルト角α1 とパン角β1 およびチルトα2 とパン角β2 を受光ユニット22の制御装置25へ入力し、先ず、受光素子23をその受光面が蛍光灯L1に向く姿勢へ制御して、蛍光灯L1からの光を受光させ、受光素子23の出力を周波数検出回路35に入力して変調周波数F1を検出する。続いて、受光素子23の受光面が蛍光灯L2に向く姿勢へ当該受光素子23を制御し、受光素子23の出力を周波数検出回路35に入力して変調周波数F2 を検出する。
(3)演算回路CPU33は、このようにした求めた変調周波数F1 とF2 を照明灯データメモリ34の上記テーブルと照合して、画像L1 ' とL2 ' に対応する実像が蛍光灯L1 とL2 であることを特定する。」(段落【0019】?【0020】)
(g)「(4)演算回路CPU33は、蛍光灯L1 とL2 の座標g1 g2 を照明灯データメモリ34から読み出し、座標g1 とデータメモリ34Aから読み出したチルト角α1 とから図6に示す円O1 を演算し、同様に、照明灯データメモリ34から読み出した座標g2 とチルト角α2 とから図6に示す円O2 を演算する。無人車20はこの2つの円O1 とO2 の周上の交点AまたはB上に位置していることになり、パン角β1 とβ2 の大小関係(G1 とG2 の左右関係)で無人車20の位置Pを特定する。
(5)無人車20の方向(姿勢)δを検出する場合には、このようにして特定した無人車20の位置Pと蛍光灯L1 の位置g1 (もしくは蛍光灯L2 の位置g2)から図7に示す基準方向Xに対する角度γを演算し、角度γとパン角β1 (もしくはパン角β2 )との和から、無人車20の方向δを演算する。」(段落【0021】?【0022】)

・前記記載(a)、(b)より、
(ア)「無人車20の現在位置及び方向を検出するためのシステム」との技術事項が読み取れる。
前記記載(e)において、「完全画像Li´」を形成する蛍光灯Liから発せられる光を、「光Ei」と呼ぶことにすると、
・前記記載(c)、(e)及び図1より、
(イ)「天井に配設され、光Eiを発するための蛍光灯Li」との技術事項が読み取れる。
・前記記載(c)、(d)、(e)、(f)より、
(ウ)「光Eiを検出するように無人車20に搭載されたITVカメラ21及び受光ユニット22」との技術事項が読み取れる。
・前記記載(g)より、
(エ)「光Eiの座標giに基づいて無人車20の位置P及び方向(姿勢)δを演算するための演算回路CPU33」との技術事項が読み取れる。
・前記記載(c)によると、蛍光灯Liはそれぞれ異なる周波数Fiで変調された変調光を発生するから、
(オ)「光Eiは、互いに異なる変調周波数Fiで変調される。」との技術事項が読みとれる。
・前記記載(e)、(f)及び図2より、
(カ)「ITVカメラ21及び受光ユニット22を備えた前記演算回路CPU33は、変調周波数Fiを照明灯データメモリ34のテーブルと照合して完全画像Li´に対応する実像が光Eiであることを特定する。」との技術事項が読み取れる。

以上の技術事項(ア)ないし(カ)を総合勘案すると、引用例1には次の発明が記載されているものと認められる。
「無人車20の現在位置及び方向を検出するためのシステムであって、
天井に配設され、複数の光Eiを発するための複数の蛍光灯Liと、
前記複数の光Eiを検出するように無人車20に搭載されたITVカメラ21及び受光ユニット22と、
前記複数の光Eiの座標giに基づいて前記無人車20の位置P及び方向(姿勢)δを演算するための演算回路CPU33とを備え、
前記複数の光Eiは、互いに異なる変調周波数Fiで変調され、
前記ITVカメラ21及び受光ユニット22を備えた前記演算回路CPU33は、変調周波数Fiを照明灯データメモリ34のテーブルと照合して完全画像Li´に対応する実像が前記複数の光Eiであることを特定するように構成された無人車20の現在位置及び方向を検出するためのシステム。(ここで、i=1?Nである。)」(以下、「引用例1に記載された発明」という。)

(3)対比
本願補正発明と、引用例1に記載された発明とを対比する。
引用例1に記載された発明における「無人車20」、「現在位置及び方向」、「検出」、「現在位置及び方向を検出するためのシステム」、「天井」、「複数の蛍光灯Li」、「搭載された」、「ITVカメラ21及び受光ユニット22」、「座標gi」、「位置P及び方向(姿勢)δ」、「演算」、及び「演算回路CPU33」は、本願補正発明における「物体」、「位置」、「推定」、「位置推定システム」、「ある面」、「1つまたはそれ以上の光源」、「取り付けられた」、「検出器」、「場所」、「位置および姿勢」、「測定」、及び「データ処理装置」にそれぞれ相当する。
また、引用例1に記載された発明における「互いに異なる変調周波数Fi」は、本願補正発明における「第1の変調パターン」や「前記第1の変調パターンとは異なる第2の変調パターン」に相当する。
また、上記相当関係等を踏まえると、引用例1に記載された発明における、「前記変調周波数Fiを照明灯データメモリ34のテーブルと照合して」は、本願補正発明における「少なくとも第1の変調パターンおよび第2の変調パターンに基づいて」に相当する。
また、引用例1に記載された発明における「光Ei」も、本願補正発明における「光スポットからの反射光」も、共に、「光」であることには変わりがないから、引用例1に記載された発明における、「光Ei」も、本願補正発明における「少なくとも2つの光スポット」、「ある1つの光スポット」や、「少なくとも2つの光スポットのうちの他の1つの光スポット」も、それぞれ、「少なくとも2つの光」、「ある1つの光」、「少なくとも2つの光のうちの他の1つの光」である点で共通する。
同様に、引用例1に記載された発明における「完全画像Li´に対応する実像が前記複数の光Eiであることを特定する」も、本願補正発明における「2つの光スポットを識別する」も、共に、「2つの光を識別する」点で共通し、引用例1に記載された発明の「天井に配設され、複数の光Eiを発するための複数の蛍光灯Li」も、本願補正発明の「上向きに光を放射してある面に、光反射部材を介することなく少なくとも2つの光スポットを投射するための1つまたはそれ以上の光源」も、共に、「少なくとも2つの光を形成するための1つ、又はそれ以上の光源」である点で共通する。
また、引用例1に記載された発明における「前記複数の光Eiは、互いに異なる変調周波数Fiで変調され」ることも、本願補正発明における「前記少なくとも2つの光スポットのうちのある1つの光スポットは、第1の変調パターンで変調された光によって投射される一方、前記少なくとも2つの光スポットのうちの他の1つの光スポットは、前記第1の変調パターンとは異なる第2の変調パターンで変調された光によって投射され」ることも、共に、「前記少なくとも2つの光のうちのある1つの光は、第1の変調パターンで変調される一方、前記少なくとも2つの光のうちの他の1つの光は、前記第1の変調パターンとは異なる第2の変調パターンで変調され」る点で共通する。

してみると、両者の一致点、相違点は、以下のとおりである。
(一致点)
「物体の位置を推定するための位置推定システムであって、
少なくとも2つの光を形成するための1つ又はそれ以上の光源と、
少なくとも2つの光を検出するように前記物体に取り付けられた検出器と、
前記少なくとも2つの光の場所に基づいて前記物体の位置及び姿勢を測定するためのデータ処理装置とを備え、
前記少なくとも2つの光のうちのある1つの光は、第1の変調パターンで変調される一方、前記少なくとも2つの光のうちの他の1つの光は、前記第1の変調パターンとは異なる第2の変調パターンで変調され、
前記検出器を備えた前記データ処理装置は、少なくとも第1の変調パターンおよび第2の変調パターンに基づいて2つの光を識別するように構成される位置推定システム。」
(相違点)
本願補正発明では、「上向きに光を放射してある面に、光反射部材を介することなく少なくとも2つの光スポットを投射するための1つまたはそれ以上の光源と、前記少なくとも2つの光スポットからの反射光を検出する・・・」とあるように、上向きに光を放射する光源により、光反射部材を介することなく投射することで光スポットがある面に形成され、該形成されたスポットからの反射光を検出するようにしているのに対し、引用例1に記載された発明では、「天井に配設され、複数の光Eiを発するための複数の蛍光灯Liと、前記複数の光Eiを検出する・・・」とあるように、光Eiは、天井(本願補正発明の「ある面」に相当。以下、同様。)に配設された複数の蛍光灯Li(光源)により形成され、該形成された複数の光Eiを、ITVカメラ21及び受光ユニット22(検出器)が検出している点。
要するに、本願補正発明は、光源から上向きに光を投射して、ある面に形成されたスポット光からの反射光を検出するのに対し、引用例1に記載された発明は、天井(ある面)に配設された蛍光灯からの直接光である光Eiを検出するものである点。

(4)判断
前記相違点について検討する。
ア 引用例2に記載された技術事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開2002-82720号公報(以下「引用例2」という。)には、「移動体の目標位置教示方法、移動制御方法、光誘導方法および光誘導システム」(発明の名称)に関し、次の事項(a)、(b)が図面とともに記載されている。
(a)「【0055】この実施の形態においては、レーザーポインター16は天井に固定的に設置されている。
【0056】また、図3には、図2に示すブロック構成図のさらに詳細なブロック構成図が示されており、以下、図3を参照しながら、この移動体の光誘導システムの詳細な構成について説明する。
【0057】はじめに、レーザーポインター16は、レーザーユニット16aと、サーボユニット16bと、通信ユニット16cと、コントロールユニット16dとを有して構成されており、コントロールユニット16dによってサーボユニット16bならびに通信ユニット16cの動作が制御されている。
【0058】ここで、レーザーユニット16aは、床面14上における所望の領域に所定の色彩のレーザー光のビームを照射して、床面14上における所望の領域に所定の色彩の光の目印を形成するものである。そして、こうして形成された光の目印は、移動ロボット12-1,・・・,12-i,・・・,12-nが床面14上を移動する際の目標位置を示すものでる。
【0059】また、サーボユニット16bは、コントロールユニット16dによりその動作を制御されて、レーザーユニット16aの点灯/消灯の動作を制御することによって床面14上へのレーザー光の照射開始/照射停止を制御するとともに、レーザーユニット16aから照射されるレーザー光の光軸を床面14上の所望の座標位置上に指向させるようにするものである。
【0060】即ち、サーボユニット16bは、レーザーユニット16aから出射されたレーザー光が環境内における所望の表面上の所望の座標位置に到達するように、レーザーユニット16aを移動させるものである。
【0061】そして、上記したようなサーボユニット16bは、例えば、ロボットマニピュレータとして構成することができるものであり、このロボットマニピュレータにカラーCCDカメラを搭載するようにして、カラーCCDカメラから得られる視覚データに基づき、レーザーユニット16aから出射されるレーザー光の光軸の方位を制御するようにしてもよい。
【0062】さらに、通信ユニット16cは、コントロールユニット16dによりその動作を制御されて、制御装置10の通信ユニット10cとの間で通信を行うものである。
【0063】そして、コントロールユニット16dはマイクロコンピューターにより構成されており、上記したサーボユニット16bならびに通信ユニット16cを制御するための制御コマンドを出力する処理の他に、床面14とサーボユニット16bとの間で座標変換を行う処理をしたりするものである。
【0064】従って、上記したレーザーポインター16によれば、レーザーユニット16aから照射されるレーザー光のビームを、移動ロボット12-1,・・・,12-i,・・・,12-nが移動する際の目標位置として光の目印を形成すべき床面14における所定の座標位置上に指向させることができるものある。
【0065】即ち、レーザーポインター16は、環境内における床面14上に、移動ロボット12-1,・・・,12-i,・・・,12-nが移動する際の目標位置を表示するものであって、当該環境内においては、制御装置10によって移動ロボット12-1,・・・,12-i,・・・,12-nの移動の必要性に従って目標位置が測定され、その目標位置はレーザーポインター16のコントロールユニット16dに伝えられることになる。
【0066】つまり、レーザーポインター16から出射されるレーザー光のビームは、床面14上の所定の位置に指向されており、当該レーザー光のビームが照射される位置の数値座標は、移動ロボット12-1,・・・,12-i,・・・,12-nが移動する際の目標位置として、制御装置10からコントロールユニット16dに伝えられて得られるものである。
【0067】そして、レーザーポインター16のコントロールユニット16dは、座標変換を行うとともに、光ビームの光軸を再配向させて床面14上の所望の座標上に指向させるための制御コマンドを出力する。
【0068】さらに、レーザーポインター16のコントロールユニット16dは、制御装置10から対応する制御コマンドを受信すると、レーザーユニット16aの駆動を制御して、レーザー光を照射開始したり、あるいは照射停止したりする。
【0069】次に、移動ロボット12-1,・・・,12-i,・・・,12-nについて説明すると、これら移動ロボット12-1,・・・,12-i,・・・,12-nはそれぞれ、環境内において移動のタスクを遂行するものであり、センサーユニット12aと、サーボユニット12bと、通信ユニット12cと、コントロールユニット12dとを有して構成されており、コントロールユニット12dによってセンサーユニット12a、サーボユニット12bならびに通信ユニット12cの動作が制御されている。
【0070】ここで、センサーユニット12aは、床面14上に形成された所定の色彩の光の目印を検出するものであり、例えば、カラーCCDカメラなどにより構成することができる。そして、センサーユニット12aは、移動ロボット12-1,・・・,12-i,・・・,12-nのフレームと環境内における目標物との間の相対距離を測定して、床面14上の所定の色彩の目印の相対座標を算定するとともに、共通座標システムに関する移動ロボット12-1,・・・,12-i,・・・,12-nの座標を推定するためのための視覚データを供給する。」
(b)「【0116】また、上記した実施の形態においては、光照射装置としてレーザーポインター16を用いたが、これに限られるものではないことは勿論であり、光照射装置としては、LED、水銀灯あるいは蛍光灯などを用いることができる。
【0117】また、上記した実施の形態においては、光の目印を形成して移動ロボットに目標位置を教示するレーザーポインター16を天井に設置するようにしたが、これに限られるものではないことは勿論であり、ユーザー(人間)が把持して自由に照射位置を変更することのできる小型のレーザーポインターを用いるようにして、ユーザーが手元で移動ロボットに目標位置を教示するようにしてもよく、また、移動ロボット自体がレーザーポインターを有するようにして、他の移動ロボットに目標位置を教示するようにしてもよい。さらには、ロボットマニピュレータにレーザーポインターを搭載し、ロボットマニピュレータの動作を制御することにより、レーザーポインターの光の光軸を変更するようにしてもよい。」

上記記載(a)及び図1ないし図3より、引用例2には、次の技術事項が記載されているものと認める。
「レーザーポインターを照射して床面上に光の目印(スポット)を形成し、該光の目印(スポット)を移動体に設けたセンサーユニットにより検出し、該光の目印(スポット)の相対座標を算定することにより移動体の位置を推定する技術。」(以下、「引用例2に記載された技術事項」という。)

イ 検討
(ア)引用例1には、その従来技術として、前記「(2)(b)」として摘記した記載があるから、引用例1に記載された発明は、以下の従来技術を踏まえたものである。
「天井に光反射板を張りつけ、無人車に搭載したレーザ発振器から上記光反射板へレーザスポットを投影し、このレーザスポットを地上に設けたITVカメラ等の視覚装置で撮影してその画像データから無人車の現在位置及び方向を検出する方法。」(以下、「引用例1に記載の従来技術」という。)
してみると、引用例1に記載された発明は、引用例1に記載の従来技術が持つ問題点、すなわち、天井に投射されたスポット光を地上に設けたITVカメラ等の視覚装置で撮影することにより、無人車の現在位置及び方向を検出するためには、天井の全面に反射板を貼り付けなくてはならないこと、ITVカメラ等の視覚装置を複数台配置する必要があること、との問題点を解決するために提案されたものであり、そのため、天井にある複数の蛍光灯Liを用い、各蛍光灯Liは互いに異なる周波数Fiで変調させ、無人車に搭載した1つのITVカメラ21及び受光ユニット22により複数の蛍光灯Liを区別して検出するようにした点に引用例1に記載された発明の技術的特徴があると解される。
してみると、引用例1に記載された発明において、無人車20に搭載されたITVカメラ21及び受光ユニット22によって検出されるべき、互いに異なる周波数Fiで変調される光Eiは、必ずしも、天井に配設された蛍光灯Liにより放射されたものであることを前提とする必要はないと解され、蛍光灯Liを用いることの意義は、むしろ、天井に配設された既存の蛍光灯を使うことにより、システムを安価に提供できる(引用例1の【0030】【発明の効果】本発明は以上説明した通り、天井照明灯をガイドレス無人車の位置(および方向)検出指標とする場合に、各天井照明灯の発光にそれぞれ固有の変調周波数を持たせ、この変調周波数から天井照明灯の位置を特定する構成としたことにより、天井照明灯を利用してシステムを安価に構築することができ、位置検出のための演算は簡単な演算で済み、確実に、高い精度をもって無人車の位置および方向を検出することができる。)点にあると解するのが自然である。
ところで、上記アで説示したとおり、「レーザーポインターを照射して床面上に光の目印(スポット)を形成し、該光の目印(スポット)を移動体に設けたセンサーユニットにより検出し、該光の目印(スポット)の相対座標を算定することにより移動体の位置を推定する技術。」は、引用例2に記載された技術事項として公知である。
そして、引用例1に記載された発明も、引用例2に記載された技術事項も、共に、無人車の位置を検出するという同一の産業上の利用分野に属し、しかも、その位置検出手法も、無人車に設けられたカメラにより光学的に測定する点で共通している。
また、前記「ア(b)」として摘記したように、引用例2に記載された技術事項にあっては、光照射装置として、レーザーポインター以外に、蛍光灯を用いても良いものである。
よって、引用例1に記載された発明の蛍光灯Liに代えて、引用例2に記載された技術事項の如く、ある面上に光スポットを形成するようにし、蛍光灯Liの直接光を検出することに代えて、光スポットからの反射光を検出するようにして、本願補正発明のような構成とすることは、当業者ならば容易に想到し得たことである。
ここで、引用例2に記載された技術事項において、移動体12-iに設けられたセンサーユニット12aは、レーザーポインター16の照射により形成された床面14上に光の目印(スポット)を検出しているのであるから、センサーユニット12aは、光の目印(スポット)からの反射光を検出するものであることは明らかである。

(イ)次に、本願補正発明において、「上向きに光を放射してある面に、光反射部材を介することなく」としている点について、検討する。
まず、光スポットを、ある面(例えば天井)に投射するために光源からの光を上向きに投射することは、引用例1に記載の従来技術として示されたとおりであり、引用例1に記載された発明において、蛍光灯Liに代えて、ある面(例えば天井)に光スポットを形成するために、光源からの光を上向きに(例えば天井に向けて)投射する必要があることは、当業者にとって明らかなことである。
次に、「光反射部材を介することなく」との文言について検討するに、その前後を合わせて見ると、「上向きに光を放射してある面に、光反射部材を介することなく少なくとも2つの光スポットを投射するための1つまたはそれ以上の光源と、」とあるから、「上向きに光を放射してある面に、光反射部材を介することなく少なくとも2つの光スポットを投射するための1つまたはそれ以上の光源」は、光源から上向きに投射された光がある面に2つの光スポットを形成するに当たり、光源からある面までの投射光路上に光反射部材は存在しないことを意味するものと解される。そうだとすると、引用例2に記載された技術事項も、その投射光路上に光反射部材は用いられていないから、この点に、格別の技術的意義は認められない。
また、本願補正発明に係る請求項1に従属する請求項3を見ると、「前記1つまたはそれ以上の光源が光を投射する前記面は、壁、天井、1つまたはそれ以上の反射物、あるいはそれらの組み合わせの一部分である請求項1に記載の位置推定システム。」とあり、「ある面」は、反射物でもあり得るから、上記記載が、例えば、「ある面(例えば天井)に、光スポットを形成するための光反射部材を設けることなしに」を意味すると解するのは困難であるが、仮にそうだとしても、引用例2に記載された技術事項においても、床面に、光スポットを形成するための別途の光反射部材は用いられていないから、やはり、この点に、格別の技術的意義は認められない。

ウ まとめ
そして、本願補正発明の作用効果も、引用例1に記載された発明や引用例2に記載された技術事項から当業者が予測可能なものであって格別のものではない。
したがって、本願補正発明は、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)請求人の主張について
ア 請求人は、審判請求の理由や回答書において、以下のように主張している。
・引用例1に記載された発明に引用例2に記載の技術を適用するには、阻害要因がある。
・引用例2は、光スポットからの反射光を利用するものではない。
イ そこで検討するに、
・前記「(4)イ(ア)」で説示したとおり、引用例1に記載された発明は、天井に形成された光スポットからの反射光を検出するようにした引用例1に記載された従来技術を踏まえたものであり、天井に設けられた蛍光灯を用いることが前提となるものではないから、引用例1に記載された発明に、引用例2に記載の技術を適用することが阻害されることにはならない。
・前記「(4)イ(ア)」で説示したとおり、移動体12-iに設けられたセンサーユニット12aは、レーザーポインター16の照射により形成された床面14上に光の目印(スポット)を検出しているのであるから、センサーユニット12aは、光の目印(スポット)からの反射光を検出するものであることは明らかである。換言すれば、光の目印(スポット)からの反射光を検出していないとすれば、センサーユニット12aは、そもそも、光の目印(スポット)を検出し得ないこととなる。

(6)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
本件補正は前記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし12に係る発明は、補正1及び補正2によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明は次のとおりである。
「物体の位置を推定するための位置推定システムであって、
上向きに光を放射してある面に少なくとも2つの光スポットを投射するための1つまたはそれ以上の光源と、
前記少なくとも2つの光スポットからの反射光を検出するように前記物体に取り付けられた検出器と、
前記少なくとも2つの光スポットの場所に基づいて前記物体の位置および姿勢を測定するためのデータ処理装置とを備え、
前記少なくとも2つの光スポットのうちのある1つの光スポットは、第1の変調パターンで変調された光によって投射される一方、前記少なくとも2つの光スポットのうちの他の1つの光スポットは、前記第1の変調パターンとは異なる第2の変調パターンで変調された光によって投射され、
前記検出器を備えた前記データ処理装置は、少なくとも第1の変調パターンおよび第2の変調パターンに基づいて2つの光スポットを識別するように構成される位置推定システム。」(以下、「本願発明」という。)

(1)引用例記載の事項・発明
原査定の拒絶の理由に引用された発明・事項は、前記「2.(2)引用例記載の事項・発明」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記「2.(1)補正の内容」で検討した本願補正発明から、「少なくとも2つの光スポットを投射する」についての限定事項である「光反射部材を介することなく」との発明特定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(3)対比、(4)判断」に記載したとおり、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-07-24 
結審通知日 2012-07-31 
審決日 2012-08-16 
出願番号 特願2007-506413(P2007-506413)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01B)
P 1 8・ 575- Z (G01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 有家 秀郎  
特許庁審判長 飯野 茂
特許庁審判官 森 雅之
山川 雅也
発明の名称 反射光源を使用する位置推定方法および装置  
代理人 三枝 英二  

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