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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F01D
管理番号 1284121
審判番号 不服2013-11241  
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-06-14 
確定日 2014-02-24 
事件の表示 特願2008-175274「軸方向推力補償を備えるガスタービン」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 2月26日出願公開、特開2009- 41559、請求項の数(12)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1.手続の経緯
本件出願は、特許法第36条の2第1項の規定による平成20年7月4日(パリ条約による優先権主張2007年7月4日、スイス国)の出願であって、平成20年8月28日に明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書の翻訳文が提出され、平成23年6月30日に手続補正書が提出され、平成24年5月17日付けで拒絶理由が通知され、同年9月7日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成25年1月23日付けで拒絶の査定がなされ、これに対し、同年6月14日に拒絶査定に対する審判の請求がなされると同時に、手続補正書が提出されて特許請求の範囲を補正する手続補正がなされたものである。
そして、同年7月30日付けで当審において書面による審尋がなされ、同年12月5日に審尋に対する回答書が提出されたものである。

第2.平成25年6月14日付けの特許請求の範囲を補正する手続補正(以下、「本件補正」という。)の適否
1.本件補正の内容
本件補正は、本件補正により補正される前の(すなわち、平成24年9月7日付けの手続補正書により補正された)下記Aに示す請求項1の記載を、下記Bに示す請求項1の記載へと補正するものである。
A 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「 【請求項1】
ロータに軸方向力を働かす空力と圧力に関してガスタービンは、これら力が無負荷と低部分負荷において負的推力を形成し、高負荷と全負荷において正的推力を形成するように設計されている、推力補償を備えるガスタービンを操作する方法であって、ドラムカバーと第一タービンデスクの間の実質的に環状空間がシールによって外部環状空間(11)と内部環状空間(10)とに分割され、これら二つの空間の一方が推力制御するために圧力を作用され、それにより制御されて正付加的推力が印加され、それにより生じる軸方向支持力が全負荷範囲内に積極的に維持され、高負荷範囲では圧力作用する圧縮空気が使用されない方法において、
外部環状空間(11)がタービンロータに冷却空気を供給するために使用され、内部環状空間(12)が推力制御するために使用され、
圧縮空気が外部環状空間(11)に接続するロータ冷却空気導入部(12)を横切って供給されることを特徴とする方法。」

B 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「 【請求項1】
ロータに軸方向力を働かす空力と圧力に関してガスタービンは、これら力が無負荷と低部分負荷において負的推力を形成し、高負荷と全負荷において正的推力を形成するように設計されている、推力補償を備えるガスタービンを操作する方法であって、ドラムカバーと第一タービンデスクの間の実質的に環状空間がシールによって外部環状空間(11)と内部環状空間(10)とに分割され、これら二つの空間の一方が推力制御するために圧力を作用され、それにより制御されて正付加的推力が印加され、それにより生じる軸方向支持力が全負荷範囲内に積極的に維持され、高負荷範囲では圧力作用する圧縮空気が使用されない方法において、
外部環状空間(11)がタービンロータに冷却空気を供給するために使用され、内部環状空間(10)が推力制御するために使用され、
圧縮空気が、無負荷と低部分負荷において、外部環状空間(11)に接続するロータ冷却空気導入部(12)を横切って内部環状空間(10)に供給され、内部環状空間(10)の圧力を増加させることを特徴とする方法。」(アンダーラインは補正箇所を示すもので請求人が付したものである。)

2.本件補正の適否
本件補正は、「圧縮空気」の供給に関して、「無負荷と低部分負荷において、」、「内部環状空間(10)に供給され」及び「内部環状空間(10)の圧力を増加させる」という限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第4項に違反するところもない。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

2-1.引用文献記載の発明
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特開昭63-183227号公報(以下、「引用文献」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
ア.「第1図には、通常のガスタービン機関10の一部が図示されている。この機関は全体的に符号12で示されたロータを備え、ロータ12は一体の集成体として回転するため共通軸によって連結された圧縮機14およびタービン16を備えている。ロータは複数個の軸受によって回転可能に支持されているが、本発明の目的のため、スラスト軸受18のみが図示されている。
ロータは全体的に符号20で示された静止構造物内で回転し、静止構造物は静止壁22を備えている。静止壁22は圧縮機14から吐出される空気の吐出通路24の後方に配置されている。
第3図に最もよく示されたように、スラスト軸受はそれと一緒に回転するためロータに固定された回転する内側レース26とガスタービン機関の静止支持構造物20に固定された静止外側レース28とを備えている。その一つは30で示されているが複数の玉軸受が、内側外側レース26,28間に設けられる。本発明のこの実施例においては、機関の運転範囲の大部分の間、軸方向力が後向きにロータ12によってスラスト軸受およびその中の玉に加えられる。しかし低速およびアイドリング状態では機関はクロスオーバーを抑制することができ、すなわち、スラスト軸受に加えられる力は、後で一層詳細に説明するように、後向きから前向きに変えられる。
このクロスオーバーを防止するため、本発明は、第1図にまた第2図に一層詳細に図示されるような、圧縮機吐出区域24の後方でガスタービン機関に配置された従来から在る空所32を利用する。空所32は静止壁22、ロータ12の構造の一部を構成する第2の壁34、後方壁36及び前方壁38によって形成される。第2図から判るように後方壁36の軸方向ピストン面積はその大きい直径のため前方壁38の面積より著しく大きい。シール40,42は空所32の後方部分に形成され、ロータと静止構造物との間にこれらの点で密封係合する。別のシール44がロータと静止構造物との間で前方壁38に密封空所34を完成している。
本発明の特定の好ましい実施例において複数個の開口46が空所32内部への連通のため静止壁22に設けられ、これにより区域24から空所32への圧縮機吐出空気流を生ずる。用いられる開口の個数は所望により変え得るが、所望ならば、圧縮機吐出空気を空所32に流入するため、適当な条件下では、単一の開口を使用することもできる。しかし、好ましい実施例は壁22の円周に亘って均一に分布された複数個の開口を利用している。
空所32への圧縮機吐出空気流を制御するため弁48が各開口46に設けられている。弁が開いている時、圧縮機吐出空気は開口46から空所32へ通される。前記のように、空所32の後方壁36が前方壁38より著しく大きいピストン面積をもつため、開口46を介して圧縮機から流入する圧縮空気はロータ12、従ってスラスト軸受18に正味の後向き軸方向力を加える。
各弁48は開放位置に向って偏圧されるように構成されている。即ち、ガスタービン機関の低速およびアイドリング状態において、圧縮機吐出圧力が低い値である時、弁はこの偏圧力によって開放位置に維持される。したがってこのような状態で、壁36に対する付加的な後向き力が開口46を介して流入する圧縮機吐出空気によって加えられ、スラスト軸受への力がこれらの状態で前向きに転移することを阻止してクロスオーバーを防止する。しかしながら、機関速度が増加し圧縮機吐出空気の圧力が対応して増大する時、この圧力は弁48の偏圧力を超え弁の内部機構は、圧縮機吐出圧力によって、前記偏圧力に抗してその閉鎖位置に動かされる。即ち、これらの状態で、圧縮機吐出空気はまったく空所32に流入せずその壁36上の後向きの前記軸方向力は除去され、そのような高速、高出力運転状態でスラスト軸受への過大な圧力は回避される。」(公報第3ページ右下欄第7行ないし第4ページ右下欄第1行)

イ.「本発明の運転は第5図に示された線図から一層よく理解することができる。図示のようにロータの後向き負荷は機関速度が低下するに従って線84に沿って徐々に減少する。機関速度がさらに低下するとき状態が変化しないで続く場合、負荷は破線86に沿って継続し88で示されたクロスオーバ一点において後向き負荷から前向き負荷に変化する。しかし、本発明によれば、状態が90の点に達するとき弁ピストン68は皿ばね80によって加えられる偏圧力によって開放位置に動かされる。これで圧縮機吐出空気が空所32に流れ付加的軸方向力を後向きにロータ12に加え、後向き負荷は線92に沿って増加し負荷がクロスオーバ一点88に達するのを防止する。」(公報第5ページ左下欄第10行ないし右下欄第3行)

(2)ここで、上記(1)ア.及びイ.並びに図面から、次のことが分かる。
カ.上記(1)ア.及びイ.並びに図1及び図5から、ガスタービン機関10は、ロータ12に軸方向力を働かす力に関して、この力が低速状態とアイドリング状態において前向き負荷を形成し、高速、高出力運転状態において後向き負荷を形成するように設計されていることが分かる。

キ.上記(1)ア.並びに図1及び図2から、ガスタービン機関10は、付加的軸方向力を加える機構を備えることが分かり、また、空所32が付加的軸方向力を制御するために使用され、圧縮機吐出空気が、低速状態とアイドリング状態において、空所32に供給され、空所32の圧力を増加させることが分かる。

(3)上記(1)及び(2)より、引用文献には、次の発明が記載されている。
「ロータ12に軸方向力を働かす力に関してガスタービン機関10は、これら力がアイドリング状態と低速状態において前向き負荷を形成し、高速、高出力運転状態において後向き負荷を形成するように設計されている、付加的軸方向力を加える機構を備えるガスタービン機関10を操作する方法であって、
空所32が付加的軸方向力を制御するために使用され、
圧縮機吐出空気が、アイドリング状態と低速状態において、空所32に供給され、空所32の圧力を増加させる方法。」(以下、「引用文献記載の発明」という。)

2-2.本件補正発明と引用文献記載の発明との対比
本件補正発明と引用文献記載の発明とを対比すると、引用文献記載の発明における「ロータ12」、「力」、「ガスタービン機関10」、「アイドリング状態と低速状態」、「前向き負荷」、「高速、高出力運転状態」、「後向き負荷」、「付加的軸方向力を加える機構」、「付加的軸方向力を加える」及び「圧縮機吐出空気」は、それぞれの技術的意義及び機能からみて、本件補正発明における「ロータ」、「空力と圧力」、「ガスタービン」、「無負荷と低部分負荷」、「負的推力」、「高負荷と全負荷」、「正的推力」、「推力補償」、「推力制御する」及び「圧縮空気」に、それぞれ相当する。 また、引用文献記載の発明における「空所32」は、「空間」という限りにおいて、本件補正発明における「内部環状空間」に相当する。

したがって、本件補正発明と引用文献記載の発明は、
「ロータに軸方向力を働かす空力と圧力に関してガスタービンは、これら力が無負荷と低部分負荷において負的推力を形成し、高負荷と全負荷において正的推力を形成するように設計されている、推力補償を備えるガスタービンを操作する方法であって、
空間が推力制御するために使用され、
圧縮空気が、無負荷と低部分負荷において、空間に供給され、空間の圧力を増加させる方法。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点]
本件補正発明においては、ドラムカバーと第一タービンデスクの間の実質的に環状空間がシールによって外部環状空間と内部環状空間とに分割され、これら二つの空間の一方が推力制御するために圧力を作用され、それにより制御されて正付加的推力が印加され、それにより生じる軸方向支持力が全負荷範囲内に積極的に維持され、高負荷範囲では圧力作用する圧縮空気が使用されない方法において、外部環状空間がタービンロータに冷却空気を供給するために使用され、圧縮機吐出空気が、外部環状空間に接続するロータ冷却空気導入部を横切って内部環状空間に供給され、内部環状空間の圧力を増加させるものであるのに対して、引用文献記載の発明においては、「空間」が推力制御するために使用され、圧縮空気が、無負荷と低部分負荷において、空間に供給され、空間の圧力を増加させるものの、そもそも「空間」が、ドラムカバーと第一タービンデスクの間の実質的に環状空間がシールによって外部環状空間とによって分割されて設けられた内部環状空間ではないから、結局のところ、引用文献記載の発明においては、ドラムカバーと第一タービンデスクの間の実質的に環状空間がシールによって外部環状空間と内部環状空間とに分割され、これら二つの空間の一方が推力制御するために圧力を作用され、それにより制御されて正付加的推力が印加され、それにより生じる軸方向支持力が全負荷範囲内に積極的に維持され、高負荷範囲では圧力作用する圧縮空気が使用されない方法において、外部環状空間がタービンロータに冷却空気を供給するために使用され、圧縮機吐出空気が、外部環状空間に接続するロータ冷却空気導入部を横切って内部環状空間に供給され、内部環状空間の圧力を増加させるものではない点で両者は相違する(以下、「相違点」という。)。

2-3.当審の判断
上記相違点について検討する。
審尋において周知例として例示した特開平7-208208号公報には、「要素20として図示したような周知のステータ支持部は一般に、TOBI流路の上に形成された複数個のプレナムを有する。プレナムには前方向ロータキャビティからの冷却空気が流入する。この冷却空気の一部を直接エンジンの流路へ誘導してロータおよび他の部分の端からロータディスクのデッドリム領域90までを冷却する。本実施例ではプレナム80はTOBI流路48上のステータに形成され、環状に延在して11個の別々のプレナムを前壁81、側壁83および後壁85によって規定している。各プレナムはバイパスプレナムに臨む底部端上に複数個の孔が設けられている。したがって、空気流は前方向ロータキャビティ42から直接11個のプレナムを通過する。」(段落【0020】)と記載され、また、特公昭50-19681号公報には、「ローター・バランス室68からの空気の一部はシール部73を通つてタービン入口室76内に入り、前方タービン・デイスク44の外方端部を冷却する。」(公報第4ページ第8欄第22ないし25行)と記載されているように「空間がタービンロータに冷却空気を供給するために使用されること」は周知の技術(以下、「周知技術」という)である。
引用文献記載の発明に上記周知技術を適用できるかどうかについて検討するに、引用文献記載の発明における「空間」は、前述のように、ドラムカバーと第一タービンデスクの間の実質的に環状空間がシールによって外部環状空間とによって分割されて設けられた内部環状空間ではない、すなわち、引用文献記載の発明には、第一タービンデスクに隣接するような外部環状空間がないから、引用文献記載の発明に上記周知技術を適用する動機付けはない。
仮に、引用文献記載の発明に上記周知技術を適用できたとしても相違点に係る本件補正発明の発明特定事項における「圧縮機吐出空気が、外部環状空間に接続するロータ冷却空気導入部を横切って内部環状空間に供給され、内部環状空間の圧力を増加させる」点までもが容易に想到し得たということはできない。
そして、本件補正発明は、相違点に係る本件補正発明の発明特定事項を有することにより、本件出願の明細書の段落【0012】に記載されるような「追加推力は圧力を制御する方法によってタービンの端面或いは端面の部分領域にて発生される。この目的のために、ドラムカバーと第一タービンデスクの間の実質的に環状空間がロータシールとタービンブレード根元シールによって閉鎖されていて、シールによって外部環状空間と内部環状空間に分割されている。例えばタービンロータの外部環状空間から高圧冷却空気を供給され、その高圧冷却空気がこの環状空間に出来るだけ高い正接速度により供給される。」という効果を奏するものである。
したがって、本件補正発明は、引用文献記載の発明及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定に適合する。

2-4.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。

第3.本件出願の請求項1ないし12に係る発明
本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本件出願の請求項1ないし12に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲並びに願書に最初に添付した明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるとおりのものである。
そして、上記のとおりであるから、本件出願の請求項1に係る発明については、原査定の拒絶の理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、本件出願の請求項2ないし12に係る発明については、いずれも本件出願の請求項1に係る発明の発明特定事項を全て含むものであるから、本件出願の請求項2ないし12に係る発明も、上記で検討したことと同じ理由により拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-02-07 
出願番号 特願2008-175274(P2008-175274)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F01D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 石黒 雄一  
特許庁審判長 林 茂樹
特許庁審判官 中川 隆司
加藤 友也
発明の名称 軸方向推力補償を備えるガスタービン  
代理人 今村 良太  
代理人 久野 琢也  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 清田 栄章  

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