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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  F16K
管理番号 1284125
審判番号 無効2013-800101  
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-05-31 
確定日 2014-01-27 
事件の表示 上記当事者間の特許第4849644号発明「逆流防止装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 事件の概要
本件無効2013-800101号の特許無効審判(以下、「本件特許無効審判」という。)の請求の要旨は、請求人 タイム技研株式会社が、被請求人 株式会社テージーケーが特許権者である特許第4849644号の請求項1に係る発明についての特許(以下、「本件特許」という。)を無効にすることを求めるものである。


第2 手続の経緯
本件特許第4849644号の請求項1に係る発明についての出願(特願2008-124336号:以下、「本件出願」という。)は、平成20年5月12日に特許出願され、平成23年10月28日にその発明について特許権の設定登録(請求項の数1)がされたものである。
これに対し、平成24年9月14日付けで請求人により別件の特許無効審判(無効2012-800152号:以下、「前特許無効審判」という。)が請求されたところ、平成25年3月18日付けで「本件審判の請求は、成り立たない。」旨の審決がなされ、この審決は平成25年5月7日に確定した。
その後、平成25年5月31日付けで請求人により本件特許無効審判が請求され、これに対し、同年8月14日付けで被請求人により答弁書が提出され、同年9月12日付けで審理事項が通知され、同年10月15日付けで請求人より口頭審理陳述要領書が提出され、同年11月1日付けで被請求人より口頭審理陳述要領書が提出された。
そして、平成25年11月15日に口頭審理が行われたところである。


第3 本件特許発明
本件特許第4849644号の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)は、特許権の設定登録時の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「特許明細書等」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「給湯管から浴槽への配管の途中に設けられて給水圧の低下に応動することにより開弁して前記配管を大気に開放することにより前記浴槽から給水管への汚水の逆流を防止する大気開放弁を備えた逆流防止装置において、
前記大気開放弁は、中心軸が水平方向になるように形成されて大気へ通じる円管状の排出口を有し、
前記排出口は、先端に向かって外径が小さくなるテーパ面を外周部に備え、先端の重力方向下方の位置に切り欠き部を備えていることを特徴とする逆流防止装置。」

そして、請求人は、審判請求書の9頁8ないし20行において、本件特許発明の構成要件を、以下のとおり分説している。
A.給湯管から浴槽への配管の途中に設けられて給水圧の低下に応動することにより開弁して前記配管を大気に開放することにより前記浴槽から給水管への汚水の逆流を防止する大気開放弁を備えた逆流防止装置において、
B.前記大気開放弁は、中心軸が水平方向になるように形成されて大気へ通じる円管状の排出口を有し、
C.前記排出口は、先端に向かって外径が小さくなるテーパ面を外周部に備え、先端の重力方向下方の位置に切り欠き部を備えていることを特徴とする逆流防止装置。

そこで、本件特許発明における、請求人の主張による構成要件AないしCのそれぞれを、以下、単に「構成要件A」、「構成要件B」、「構成要件C」ということとする(但し、構成要件Cについては、「排出口は、先端に向かって外径が小さくなるテーパ面を外周部に備え、先端の重力方向下方の位置に切り欠き部を備えている」ことをいうものとする。)。


第4 請求人及び被請求人の主張の概要
1.請求人の主張
(1)無効理由1について
・甲第1号証ないし甲第4号証には、本件特許発明の構成要件A及び構成要件Bが開示されている。
・甲第4号証ないし甲第7号証から明らかなように、ホース等他の配管の接続が予定される管部の先端外周面に先端に向けて外形が小さくなるテーパ面を形成することは周知技術に過ぎない。
・甲第8号証には本件特許発明の切り欠き部に相当し、本件特許発明の構成要件Cのうち、「排出口は、先端の重力方向下方の位置に切り欠き部を備えている」の点が開示されている。
・当業者であれば、甲第1号証ないし甲4号証のいずれかに甲第8号証の技術を適用することにより、横向き排水管の残留水を効果的に排水し、かかる残留水が給水側まで逆流することが防止できるようになる、との考えに至ることはごく自然なことであって、何らの困難性はない。
・本件特許発明は甲第1号証ないし甲第4号証のいずれかに、周知技術に過ぎない排水管の外周面にテーパ面を形成する点を開示する甲第5号証ないし甲第7号証を参酌しつつ、甲第8号証に開示の技術を組み合わせることによって、当業者が容易に想到し得たものに過ぎない。
したがって、本件特許発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、同法第123条第1項第2号の規定により、本件特許は無効にされるべきものである。

(2)無効理由2について
・甲第1号証ないし甲第4号証には、本件特許発明の構成要件A及び構成要件Bが開示されている。
・甲第4号証ないし甲第7号証から明らかなように、ホース等他の配管の接続が予定される管部の先端外周面に先端に向けて外形が小さくなるテーパ面を形成することは周知技術に過ぎない。
・甲第9号証における切欠き部4に関する構成は、構成要件C中、「排出口は、 … 先端の重力方向下方の位置に切り欠き部を備えている」にそのまま対応するため、甲第9号証には本件特許発明の構成要件Cの構成が開示されている。
・当業者であれば、甲第1号証ないし甲第4号証のいずれかに甲第9号証の技術を適用することにより、横向き排水管の残留水を効果的に排水し、かかる残留水が給水側まで逆流することを防止できるようにする、との考えに至ることはごく自然なことであり、何らの困難性はない。
・本件特許発明は甲第1号証ないし甲第4号証のいずれかに、周知技術に過ぎない排水管の外周面にテーパ面を形成する点を開示する甲第5号証ないし甲第7号証を参酌しつつ、甲第9号証に開示の技術を組み合わせることによって、当業者が容易に想到し得たものに過ぎない。
したがって、本件特許発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、同法第123条第1項第2号の規定により、本件特許は無効にされるべきものである。

(3)本件特許無効審判の請求が特許法第167条に該当するものであるかについて
・甲第1号証ないし甲第4号証は今回の審判において新たに提出された証拠であり、無効理由1及び無効理由2共に、前特許無効審判(無効2012-800152号)と同一事実、同一証拠に基づいて請求するものではなく、本件特許無効審判の請求は、特許法第167条に該当しない。

[証拠方法]
甲第1号証:特開2005-147163号公報
甲第2号証:特開2006-10259号公報
甲第3号証:特開2000-304144号公報
甲第4号証:特開2008-69795号公報
甲第5号証:特開2002-275967号公報
甲第6号証:特開2005-233336号公報
甲第7号証:特開2002-267076号公報
甲第8号証:特開2006-78049号公報
甲第9号証:特開昭60-226699号公報

2.被請求人の主張
(1)本件特許無効審判の請求が特許法第167条に該当するものであるかについて
・請求人は、前特許無効審判(無効2012-800152号)において、特許庁からの要請(乙第1号証)を受け、平成25年2月12日付「回答書」(乙第2号証)で、重力方向下方の位置に切り欠き部を設けた構成を示す例として、参考資料1(甲第8号証)を提出するとともに、さらに、本件発明の構成要件A及びBが周知であることを示すためとして、参考資料2(甲第2号証)、参考資料3(甲第3号証)、参考資料4(甲第1号証)、参考資料5(甲第4号証)を提出した。
・本件特許無効審判で主引用例とされた刊行物は、前特許無効審判で、本件特許発明の構成要件A、Bが周知であることを示すため、すなわち、特開2005-207522号公報(前特許無効審判で甲第1号証として提出された刊行物。以下、「前甲第1号証」という。)を補強するために提出されたものであり、実質的には同一の内容の証拠であり、その他の周知技術、副引用例は全く同一の証拠であるから、無効理由2に関しては、本件特許無効審判は、前特許無効審判と同一の事実、同一の証拠に基づき請求されたものであって、認められない。
・甲第8号証は、前特許無効審判においても実質的に判断されたものといえる。よって、無効理由1に関しても、前特許無効審判と同一の事実、同一の証拠に基づき請求されたものといえ、認められない。

(2)無効理由1について
・本件特許発明の構成要件Bのうち、「中心軸が水平方向になる」という点については、甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証には記載されていない。
・甲第8号証には、「中心軸が水平方向になるように形成」された円管状の排出口は記載されていない。
・甲第8号証には、本件特許発明における「切り欠き部」は記載されていない(説明に乙第3号証を引用。)。
・甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証のいずれにおいても、本件特許発明のごとく、「大気開放弁の排出口が水平方向に向いている」という事項は記載されておらず、さらには、甲8号証には、本件特許発明でいうところの「切り欠き」を排出口の「重力方向下方」に設けるという事項も記載されていないのであるから、甲第1号証、甲第3号証または甲第4号証に係る発明(以下、「甲1発明等」という。)と甲第8号証に係る発明に基づいて、本件特許発明を容易になしえない。
・少なくとも、甲第2号証に係る発明のうち、排水路を水平方向としたモジュールに関しては、排水路に切り欠き部を設けるなどという動機付けは全くなく、かかる記載を見て、当業者が当該排水路に切り欠き部を設けようなどと想到することはあり得ない。よって、本件特許発明は、甲第2号証に係る発明と甲第8号証に係る発明を組合せることによって容易に発明できたものではない。

(3)無効理由2について
・本件特許発明の構成要件Bのうち、「中心軸が水平方向になる」という点については、甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証には記載されていない。
・甲9号証においては、切り欠き部を重力方向下方の位置に設けるべきであることの示唆は全くない。
・甲9号証には、本件特許発明における「重力方向下方」に設けられた切り欠きは記載されておらず、甲1発明等には、排出口に切り欠き部を設ける動機付けは一切なく、甲1発明等と甲第9号証に係る発明とは技術分野が全く異なることから、本件特許発明は、甲1発明等及び甲第9号証に係る発明に基づいて容易に発明できたものではない。

[証拠方法]
乙第1号証:平成25年1月31日付けファクシミリによる「無効2012-800152の口頭審理について」と題する文書
乙第2号証:平成25年2月12日付け回答書
乙第3号証:特開2000-74490号公報


第5 当審の判断
1.本件特許無効審判の請求が特許法第167条に該当するものであるかについて
本件特許無効審判において提出された甲第1ないし4号証及び甲第8号証は、乙第1号証及び乙第2号証から前特許無効審判において請求人により参考資料として提出されたことは認められるが、前特許無効審判の審決ではこれらに基づいて判断がなされておらず、実質的な審理を経ていないから、本件特許無効審判において新たに提出されたものということができる。
そして、甲第1号証ないし甲第4号証は、前特許無効審判において提出された前甲第1号証とは異なる証拠方法であり、別異の技術内容(前特許無効審判の判断の根拠となった構成を有していないもの)が記載されており、本件特許無効審判は、確定した前特許無効審判と同一の事実、同一の証拠に基づき請求されたものということはできないから、本件特許無効審判の請求は、特許法第167条の規定には該当しない。

よって、無効理由1及び無効理由2について検討を行うこととする。

2.各甲号証の記載事項
(1)甲第1号証
甲第1号証として提出された、本件出願前の平成17年6月9日に日本国内において頒布された刊行物である特開2005-147163号公報には、図面と共に以下の事項が記載されている。

・「【請求項5】
給湯管から浴槽へつながる配管の管壁に形成された開口部を介して前記配管に接続され、給水側の圧力低下に応じて前記配管内の水を大気に放出するよう開閉動作する大気開放弁と、
前記配管の前記開口部の位置に配置され、前記浴槽から前記給湯管側への水の流れを阻止する逆止弁構造と、
を備え、前記浴槽から上水道への汚水の逆流を防止する逆流防止装置において、
前記逆止弁構造は、
前記配管に一体に形成された段部からなる弁座に着座可能に構成され、前記配管内でその弁座に着座することにより前記流体の逆方向への流れを阻止する第1の弁体と、
前記配管内において第1の弁体の後方に同軸状に配置された第2の弁体と、
前記配管の内周面に固定された筒状の本体を有し、前記第1の弁体及び前記第2の弁体をそれぞれ軸方向に摺動可能に支持するとともに、その本体内部に一体に形成された段部により、前記第2の弁体を着座させることにより前記流体の逆方向への流れを阻止する弁座が形成されたケーシングと、
を備え、
前記配管の段部と前記ケーシングの端面とによって囲まれる空間が、前記開口部に連通するように構成されたことを特徴とする逆流防止装置。」

・「【0001】
本発明は逆止弁構造に関し、特に給湯装置からの温水を浴槽に導く配管の途中に設けられて浴槽の汚水が上水道へ逆流するのを防止する逆流防止装置への適用が好適な逆止弁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の給湯システムにおいては、例えば図6に示すように、上水道の給水管1は、流量センサ2を介して熱交換器3及び水バイパス弁4の上流側に接続されており、熱交換器3及び水バイパス弁4の下流側が合流した後、水比例弁5に接続されている。この水比例弁5の下流側は、例えば台所の蛇口などへ出湯する給湯管6に接続される。
【0003】
また、水比例弁5の下流側は、給湯管6と分岐した配管7にも接続され、流量センサ8,電磁弁9,及び直列に2つ配置した逆止弁110,120を介して風呂の浴槽14に接続されており、さらに、逆止弁110と逆止弁120との間に接続された配管15には大気開放弁130が配置されている。
【0004】
以上の構成要素の中で、逆止弁110,120及び大気開放弁130が、浴槽14から上水道への逆流を防止する逆流防止装置を構成している。ここに例示した浴槽14は、給水管1の導入位置よりも高い位置、例えば一戸建の住宅であれば2階あるいは3階に設置され、集合住宅であれば2階以上の高層階に設置されている。」

・「【0007】
図6に戻り、このような給湯システムにおいて、給水管1から給水された上水は、流量センサ2を通り、一部が熱交換器3にて加熱されて湯になり、一部は水バイパス弁4を通って熱交換器3から出てきた湯と混合される。このとき、水バイパス弁4により熱交換器3をバイパスする流量を制御することにより、湯水の混合比が変えられて出湯温度が制御される。所望の温度に制御された湯は、さらに、水比例弁5により出湯流量が制御されて給湯管6より給湯される。
【0008】
また、浴槽14に湯張りを行う時には、電磁弁9を開けることにより、水比例弁5を出た湯が流量センサ8、電磁弁9及び逆止弁110,120を介して風呂の浴槽14へ供給される。
【0009】
このとき大気開放弁130は、検圧管16を介して上水道の元圧(1次圧)が導入されている。この1次圧は、電磁弁9から逆止弁110,120を通過する配管内の通水圧(2次圧)より大きいため、ピストン136は弁体137を着座させる方向に付勢しているため、オーバフロー口134への通路は閉じた状態にある。
【0010】
停電により上水を汲み上げているポンプが停止したり、断水が発生するなどして給水管1内に負圧が発生した場合には、大気開放弁130は、1次圧の低下を感知したダイヤフラム138がピストン136を弁開方向に付勢し、電磁弁9から逆止弁110へ至る配管をオーバフロー口134と連通させて、配管内の水を大気に放出する。
【0011】
そして、もし逆止弁120が異物の噛み込みなどにより水密不良となっていた場合には、高所にある浴槽14内の汚水がその水頭圧により逆止弁120を介して大気開放弁130まで逆流してくるが、その汚水は大気開放弁130により大気に放出されるため、浴槽内の汚水が給湯管6の方まで逆流することはない。
【0012】
尚、このような給湯システムに限らず、配管内に設置される逆止弁の構造において、その弁部の噛みこみや引っ掛かり等により逆流した流体が漏れることを防止するために、逆止弁を直列に2段設ける構成については知られている(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特開2000-110959号公報」

・「【0019】
特に、このような逆止弁構造は、配管が給湯管から浴槽への途中に設けられ、浴槽から上水道への汚水の逆流を防止する逆流防止装置に適用するのに都合が良い。
すなわち、配管の管壁の所定位置に、給水側の圧力低下に応じて配管内の水を大気に放出するよう開閉動作する大気開放弁につながる開口部が形成し、上記配管の段部とケーシングの端面とによって囲まれる空間がその開口部に連通するように配置する。このように構成すれば、上記従来技術で述べたようなスペーサを設ける必要もなくなり、配管に形成した開口部をそのまま利用することができる。また、そのスペーサを省略できる分、逆止弁構造をコンパクトに構成することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の逆止弁構造によれば、第1の弁体の専用のケーシングを省略することができ、その結果、ケーシングを配管に固定する際の介在物を削減することもできるため、部品点数を削減した簡素な構成によりこれを実現することができる。」

・「【0032】
図1に戻り、逆止弁ユニット10の下流側では、配管7を構成する配管76がOリング92を介して配管71に接続されている。
また、大気開放弁20は、配管71の開口部74に接続される接続部21及び大気に開放されるオーバフロー口22を一体に備えたボディ23を有している。接続部21の開口中心と同軸上に、二重構造になったピストン24が軸線方向に進退自在に配置され、その進退移動によってピストン24に嵌着された環状の弁体25がピストン24の接続部21側の空間とオーバフロー口22との間の通路を開閉するよう構成されている。
【0033】
ピストン24の接続部21側とは反対側には、ダイヤフラム26の中心部がリテーナ94及びネジ95によって固定されている。このダイヤフラム26は、深い折り返し部を持ち、有効受圧面積を一定に保ちながら長いストロークを作動させることができる円筒形の形状を有したものである。ダイヤフラム26の外周部は、ボディ27,28によって挾持固定されている。ボディ28には、検圧管16を介して給水管1に接続される接続部29が設けられ(図8参照)、ダイヤフラム26とボディ28とによって形成される空間は、給水管1の元圧を受けるための部屋を構成している。また、ピストン24は、スプリング99によって、接続部21とオーバフロー口22との間の通路を開く方向に付勢されており、その開く方向のストロークは、中間のボディ27への当接によって規制されている。
【0034】
次に、以上のようにして構成された逆流防止装置の動作について、図1,図4及び図5に基づいて説明する。
まず、図1は、電磁弁9がオフされ、給水管1から風呂の浴槽14へ給水がされていない状態を表している。
【0035】
このとき、電磁弁9の弁体は閉弁状態にあるため、配管71内に上流側からの水は流れない。このため、第1の弁体30及び第2の弁体40は、それぞれコイルバネ77,78の付勢力によって弁座73,55に着座して閉弁状態となる。
【0036】
一方、大気開放弁20は、検圧管16を介して接続部29に上水道の元圧(1次圧)が導入されているため、ピストン24が押圧され、弁体25によってピストン24の接続部21側の空間とオーバフロー口22との間の通路が閉じられた状態となる。
【0037】
次に、図4は、電磁弁9がオンされ、給水管1から風呂の浴槽14へ給水されている状態を表している。
このとき、電磁弁9の弁体は開弁状態にあるため、配管71内に上流側からの水が流入し、そのときの配管71内の通水圧(2次圧)によって、第1の弁体30及び第2の弁体40が開弁状態となる。
【0038】
一方、大気開放弁20は、検圧管16を介して接続部29に上水道の元圧(1次圧)が導入されており、この1次圧は2次圧よりも大きいため、オーバフロー口22への通路は閉じた状態にある。
【0039】
このため、水比例弁5を出た湯は、第1の弁体30及び第2の弁体40を経由して風呂の浴槽14へ供給される。
次に、図5は、停電により上水を汲み上げているポンプが停止したり、断水が発生するなどして給水管1内に負圧が発生した場合の状態を表している。
【0040】
このとき、大気開放弁20は、1次圧の低下を感知したダイヤフラム26がピストン24を弁開方向に付勢し、配管71の開口部74をオーバフロー口22と連通させて、配管71内の水を大気に放出する。
【0041】
そして、もし第2の弁体40が異物の噛み込みなどにより水密不良となっていた場合には、高所にある浴槽14内の汚水がその水頭圧により第2の弁体40を介して大気開放弁20まで逆流してくるが、その汚水は大気開放弁20により大気に放出されるため、浴槽14内の汚水が給湯管6の方まで逆流することはない。」

そして、図6からは、逆止弁ユニット10と大気開放弁20を備えた逆流防止装置が、給湯管6から浴槽14への配管の途中に設けられることがみてとれる。

(2)甲第2号証
甲第2号証として提出された、本件出願前の平成18年1月12日に日本国内において頒布された刊行物である特開2006-10259号公報には、図面と共に以下の事項が記載されている。

・「【請求項2】
機能部品には給湯回路の流路の断続を行う主電磁弁と、この主電磁弁の下流側に設けられる縁切り弁とが含まれ、この縁切り弁は排水室と該排水室に連通する排水路を有し、前記主電磁弁の上流側の一次圧が主電磁弁の下流側の二次圧よりも低下したときに弁を開いて前記排水室を前記排水路から流入する空気と置換して主電磁弁の上流側と下流側を縁切りし、下流側から逆流する水を前記排水室に落としこんで前記排水路から外部へ流出する構成と成しており、前記主電磁弁の入水口は該主電磁弁が縦置き横置き何れの姿勢においても前記排水室の入り口よりも高所位置にあり、この排水室の入り口から主電磁弁の入水口までの高さは前記下流側から逆流してくる水を強制的に排水室に落とし込んで主電磁弁側への逆流を阻止するためのヘッド圧を発生する高さが確保されていることを特徴とする請求項1記載の弁内蔵式給湯回路モジュール。」

・「【0009】
本発明の一構成例では、前記機能部品には給湯回路の流路の断続を行う主電磁弁と、この主電磁弁の下流側に設けられる縁切り弁とが含まれ、この縁切り弁は排水室と該排水室に連通する排水路を有し、前記主電磁弁の上流側の一次圧が主電磁弁の下流側の二次圧よりも低下したときに弁を開いて前記排水室を前記排水路から流入する空気と置換して主電磁弁の上流側と下流側を縁切りし、下流側から逆流する水を前記排水室に落としこんで前記排水路から外部へ流出する構成と成しており、前記主電磁弁の入水口は該主電磁弁が縦置き横置き何れの姿勢においても前記排水室の入り口よりも高所位置にあり、この排水室の入り口から主電磁弁の入水口までの高さは前記下流側から逆流してくる水を強制的に排水室に落とし込んで主電磁弁側への逆流を阻止するためのヘッド圧を発生する高さが確保されているものとする。」

・「【0019】
さらに、主電磁弁の入水口は該主電磁弁が縦置き横置き何れの姿勢においても縁切り弁の排水室の入り口よりも高所位置にあり、この排水室の入り口から主電磁弁の入水口までの高さは前記下流側から逆流してくる水を強制的に排水室に落とし込んで主電磁弁側への逆流を阻止するためのヘッド圧を発生する高さが確保されている構成とした発明においては、主電磁弁を縦置き、横置きの何れの姿勢で設置しても、下流側から逆流してくる水を確実に排水室に落としこんで外部へ排水できるので、主電磁弁の一次側へ逆流水が混入することを防止できる。このように、主電磁弁を縦置き、横置きの何れの姿勢で設置しても支障なく使用できるので、設置場所のスペースや、外部配管状態に応じて、主電磁弁の縦置き、横置きの姿勢を選択できることとなり、給湯回路の設計の自由度が高まり、取り扱い、使用勝手に優れたものとなる。」

・「【0027】
貯湯タンク1内の湯は給湯管12を通して送出され圧力逃し弁3を介して混合弁6、8に供給される。この混合弁6と混合弁8は並列状に配置され、給湯管12を通して供給される湯と、給水管11を通して供給される給水(水)とを混合して予め設定された湯温の湯を作り出す。そして、混合弁6で作り出された湯は水量センサ4を介し給湯管20を通してシャワー21に供給され、シャワー利用に供される。また、混合弁8で作り出された湯は、上流側から順に、水量センサ13、主電磁弁14、逆止弁15、縁切り弁7、逆止弁16が配置された給湯管22を通して浴槽28の循環路40に供給され、該循環路40の管路38と戻り管25から浴槽28に湯が供給されて湯張りが行なわれる。なお、図中90は、混合弁6、6′のそれぞれの給水側および給湯側に着脱可能に組み込まれている逆止弁である。」

・「【0039】
図3は本実施形態例の弁内蔵式給湯回路モジュールに組み込まれているメーンユニット50の機能部品を抜き出してその構成を逆止弁16の機能部品と連結された状態で示す。このメーンユニット50はボデイB1内に主電磁弁14と、逆止弁15と、縁切り弁7との機構が形成され、入水側流路に水量センサ13が配置されているもので、主電磁弁14は通電によるソレノイド駆動によって弁46を上げて弁口48を開放し、通電停止によるスプリング47の付勢力によって弁46を弁口48の弁座に押し付けて弁口48を閉止するものである。弁口48の開放により、水量センサ13をへて供給される入水の湯は、弁口48から通水路49に入り込み、流水圧により逆止弁15、16を押し開けて逆止弁16の送水端から送水される。なお、主電磁弁14が閉弁の動作時においては、逆止弁15、16はばね51、52の不勢力によって水路を閉じ、送水端側から一次側(主電磁弁14の上流側)への水の逆流を阻止する。
【0040】
ボデイB1には一次側(主電磁弁14の上流側)の水路と縁切り弁7の背圧室55とを連通する通路が形成されており、常時はその一次圧を受けてダイアフラム53は図3(a)の状態で上方へ撓み、弁部54により両逆止弁15、16間の水路59と縁切り弁7の排水室56とを連通する排水導入路58の下端は弁部54によって閉止されている。主電磁弁14が開弁されて、湯が入水端から送水端へ流れるときには排水導入路58が弁部54に閉止されているので、その送水の湯が排水路9側へ流出されることはない。
【0041】
一方、一次圧(主電磁弁14の上流側の圧力)が二次圧(主電磁弁14の下流側の圧力)よりも低下したときには、下流側から主電磁弁14側へ下流側の水(湯)が逆流しようとする。逆止弁15、16が正常に動作していれば、その逆流はその逆止弁15、16によって阻止されるが、何らかの原因によりこれらの逆止弁15、16が正常に機能していないときには、逆止弁16を逆流して逆止弁15と逆止弁16の間の水路空間59に入り込む。一方、一次側が二次側よりも負圧化したときには、背圧室55の圧力が低下することで、弁部54が排水導入路58を開放するので、水路空間59に入り込んだ逆流水は排水導入路58から排水室56に入りこむ。このとき、主電磁弁14の入水口(弁口48の入口)と排水室56の入口(具体的には排水導入路58の入口)との間に、水路空間59に逆流した水を強制的に排水室56へ落とし込むためのヘッド圧(ヘッド水頭圧)を発生させる高さ(以下、排水ヘッド圧発生高さという)Hvが確保されているので、水路空間59へ逆流した水は確実に排水室56へ落とし込まれ排水路9を通して外部へ排水されるので、万が一主電磁弁14の閉弁状態に異常があっても(閉弁が正常にされていない状態であっても)、逆流水が主電磁弁14の上流側へ混入するのが防止される。
【0042】
このように、弁内蔵式給湯回路モジュールを縦置き状態(主電磁弁14を立て向きにした状態)に設置する場合は、必然的に前記排水ヘッド圧発生高さHvが確保されるので二次側から一次側への逆流は効果的に防止される。しかしながら、弁内蔵式給湯回路モジュールを給湯回路に設置する場合、設置場所の状況によっては横置きに設置(主電磁弁14を横向きの姿勢で設置)することが望まれる場合がある。」

・「【0043】
一般的には、主電磁弁14は縦向きに設置するのが慣習的な施工形態であり、主電磁弁14を横向きに設置することに関しての検討は行なわれていないのが現状である。」

そして、図9からは、メーンユニット50に備えられた主電磁弁14、逆止弁15、逆止弁16及び縁切り弁7が、給湯管12から浴槽28への配管の途中に設けられることがみてとれる。
また、図3(a)からは、主電磁弁14が立て向きの場合に、排水路9は中心軸が水平方向になるように形成されている態様がみてとれる。

(3)甲第3号証
甲第3号証として提出された、本件出願前の平成12年11月2日に日本国内において頒布された刊行物である特開2000-304144号公報には、図面と共に以下の事項が記載されている。

・「【請求項2】 給水源の水圧と縁切りしたい水である逆流水の水圧との圧力バランスにより前記逆流水を排水し縁切りする縁切り装置において、前記逆流水を開放する弁をピストンの片端に配置し、他の片端に給水圧を受け力に変換させる受圧部を固定し、前記受圧部により変換された給水圧の力ベクトルに対し前記逆流水を開放する弁にかかるふろ側逆圧の力ベクトルを同軸上に設け、かつ、給水源配管の接続部と逆流水配管の接続部を直行する様に設けたことを特徴とする縁切り装置。」

・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は給湯機に使用する縁切り装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、上記を目的とした縁切り装置として特開平7-103358号公報に記載の逆流防止装置があり図15に示す構造を有する。前記逆流防止装置においては、上流側水路と下流側水路間に装着した逆流防止室を大気に連通させる大気連通口100を備え、上流側水路と逆流防止室内の圧力差に基づき、大気連通口100を開閉する逆流防止装置において、一面を前記上流側水路の圧力に面し、他面を逆流防止室内の圧力に面する密閉面を設け、この密閉面の移動によって大気連通口100を開閉せしめ、また、前記大気連通口よりも大径で逆流防止室を大気に連通させる大気開放口101とを設け、逆流防止室内と大気の圧力差に基づき、前記大気開放口101を開閉せしめていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の形状では、部品点数が増え、又、形状が大きくなっていた。さらには、取付形状を特定していたためにふろの配管接続方法が単一化し、相手接続部の形状が複雑化していてしまい、コストも割高となり、また、給湯機に搭載したとき給湯機自体が大きくなったりするという問題があった。従って、本発明の目的は、部品点数を少なくし,形状も小さく、低コストな縁切り装置を提供することにある。」

・「【0005】請求項2は、給水源の水圧と縁切りしたい水である逆流水の水圧との圧力バランスにより逆流水を排水し縁切りする縁切り装置において、前記逆流水を開放する弁をピストンの片端に配置し、他の片端に給水圧を受け力に変換させる受圧部を固定し、前記受圧部により変換された給水圧の力ベクトルに対し前記逆流水を開放する弁にかかるふろ側逆圧の力ベクトルを同軸上に設け、かつ、給水源配管の接続部と逆流水配管の接続部を直行する様に設けたので、部品点数が少なく,形状も小さく、低コストにできる。」

・「【0019】図2は、縁切り装置の第2の実施例を示す構成図であり、開弁状態を図示している。上記縁切り装置は、図示のように、縁切り装置逆流水側のボディ1と給水源側のボディ3を固定し、縁切りしたい水の配管位置を給水源配管に対し直行する様に配置し 又、排水口を給水源配管に対し同軸上に配置し、内部にピストン5を配置構成している。
【0020】そのピストンのボディ1側にパッキン8をボディ3側に受圧部6を配置し、パッキン8側に受ける力ベクトルと受圧部6側に受ける力ベクトルが、対向するように配置され、かつ開弁付勢処置であるバネ7が受圧部側に受ける力ベクトルに対向するように配置されている。図では開弁不勢処置をバネ7にしているが受圧部の復元力やゴム製品のように復元力を持つものを使用しても良い。又、ピストンのボディ1側先端及びボディ1側には縁切り装置が水平方向に使われた場合でも大きな傾きを持たない様にガイドを設けている。ボディ1の接続部はOリング接続形状をしている。先端側溝にOリングを入れ次の溝に押さえ板を入れ相手配管に接続するが押さえ板をボディ1と一体にしても差し支えない。」

・「【0033】図14は、本発明の一実施例としての縁切り装置を給湯機に取り付けたときの構成図である。給湯21側からお湯はり経路を分岐し、電磁弁22後に本発明の縁切り装置23を取り付けその後に逆止弁24が取り付く。尚、縁切り装置23は逆止弁の後でも良い。又本図はお湯はり機能付きのみの給湯機を図示しているが、お湯はり機能付きの遠隔追焚給湯機でも対応できる。」

そして、段落【0033】の記載事項及び図14からは、電磁弁22、縁切り装置23及び逆止弁24が、給湯部21側からふろへのお湯はり経路の途中に設けられることがみてとれる。
また、段落【0019】ないし【0020】の記載事項及び図2からは、ピストンが水平方向に移動する場合に排水口の中心軸が水平方向にあることがみてとれる。

(4)甲第4号証
甲第4号証として提出された、本件出願前の平成20年3月27日に日本国内において頒布された刊行物である特開2008-69795号公報には、図面と共に以下の事項が記載されている。

・「【請求項1】
給湯装置と浴槽との間の配管に接続され、前記配管を前記給湯装置への給水管の元圧の低下に応動して大気に開放させる大気開放弁において、
前記配管に接続される第1の開口部と、前記給水管に接続される第2の開口部と、大気に開放された排水口とを有するボディと、
前記第1の開口部と前記排水口とを連通する通路に設けられた弁座と、
前記弁座に対して接離する弁体を保持し、前記排水口に連通する空間内にて開弁方向に付勢された状態で配置されたピストンと、
前記ピストンが配置された空間と前記第2の開口部との間の通路を塞ぐように配置され、前記給水管の元圧を受けて前記ピストンを閉弁方向に付勢するダイヤフラムと、
を備え、前記ピストンは、前記給水管の元圧を受けて前記ピストンが配置された空間の側へ膨出する前記ダイヤフラムのコルゲート部を受け止めるためのダイヤフラム受け部を有していることを特徴とする大気開放弁。」

・「【0001】
本発明は、大気開放弁に関し、とくに風呂給湯システムに配置されて浴槽から上水道への逆流を防止するのに好適な大気開放弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の風呂給湯システムにおいては、給湯装置から給湯用の蛇口に接続されている給湯管を分岐して、湯水を浴槽に供給するように配管が行われている。配管の途中には、一般に、浴槽への湯量を検出する流量センサ(フローセンサ)と、浴槽への温水供給を制御する電磁弁と、浴槽から逆流した汚水を大気に放出して上水道への逆流を防止する大気開放弁と、浴槽からの汚水の逆流を阻止する逆止弁とが配置されている。
【0003】
ところで、高層の集合住宅はもちろん、戸建ての住宅においても、給湯装置より浴槽が高い位置に設置される場合が多くなってきている。高層の集合住宅では、上水道の水圧を給水加圧ポンプによって加圧している。ところが、断水があったり、停電によって給水加圧ポンプが停止したりしてしまうと、給水側の水圧が低下して負圧になり、その負圧が浴槽への配管内の水を吸引しようとする。
【0004】
そのような場合に、弁部に異物が挟まるなどして逆止弁が万が一、正常に機能しなくなっていると、高い位置に設置されている浴槽と低い位置に設置されている給湯装置との間には水頭圧があり、さらに、給水側の負圧が加わって、その故障した逆止弁を介して浴槽内の汚水が吸引され、浴槽から給水側へ汚水が逆流してしまうことになる。こうした事故を防止するために、浴槽の汚水がたとえ故障した逆止弁を介して逆流してきたとしても、電磁弁及び流量センサを介して給湯用の配管まで吸い込まれないように、電磁弁の手前で
トラップして大気に流すようにした大気開放弁が設けられている。
【0005】
このような大気開放弁としては、従来から、受圧面における折り返しの深いベローフラムタイプのダイヤフラムから受圧部を構成し、その一方の面に給水源側の一次圧力を受けるとともに、他方の面に浴槽側の二次圧力を受けて、一次圧力が低下した場合に受圧部が弁体を駆動して開弁し、二次側の汚水を大気に逃がす構成を有するものがある(例えば、特許文献1参照。)。ところが、このような大気開放弁は、ダイヤフラムの製造コストが高く、しかも作動ストロークが大きいため大型化することから、部品点数も多くなっている。そこで、受圧部品に折り返しが浅くて作動ストロークの短い安価なダイヤフラムを使用することによって、小型で低コストの大気開放弁が考えられている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
図2は、このような大気開放弁を用いた風呂給湯システムの構成例を示す図である。
この風呂給湯システムにおいて、上水道の給水管101は、フローセンサ102を介して熱交換器103及び水バイパス弁104の上流側に接続されており、熱交換器103及び水バイパス弁104の下流側で合流した後、水比例弁105に接続されている。この水比例弁105の下流側は、例えば台所の蛇口などへ出湯する給湯管106に接続されている。これらフローセンサ102、熱交換器103、水バイパス弁104及び水比例弁105が、給湯装置を構成している。
【0007】
水比例弁105の下流側は、フローセンサ107、電磁弁108、及び直列に配置された逆止弁109,110を介して風呂の浴槽111に配管されており、これら逆止弁109,110の間の配管に大気開放弁112が配置されている。」

・「【0011】
このような風呂給湯システムでは、給水管101から給水された上水は、フローセンサ102を通り、一部が熱交換器103にて加熱されて湯になり、一部は水バイパス弁104を通って熱交換器103から出てきた湯と混合される。このとき、水バイパス弁104により熱交換器103をバイパスする流量を制御することにより、湯水の混合比が変えられて出湯温度が制御される。所望の温度に制御された湯は、さらに、水比例弁105によ
り出湯流量が制御されて給湯管106より給湯される。
【0012】
浴槽111に湯張りを行う時には、電磁弁108を開けることにより、水比例弁105を出た湯がフローセンサ107、電磁弁108及び逆止弁109,110を介して風呂の浴槽111へ供給される。このとき、大気開放弁112には検圧管123を介して上水道の元圧(一次圧P1)が導入されている。通常、上水道の元圧は逆止弁109,110を通過する配管内の通水圧(二次圧P2)より大きいため、ピストン116は押されて弁体117が接続部113と排水口114との間の通路を閉じた状態にする。そして、停電により上水を汲み上げている給水加圧ポンプが停止、あるいは断水が発生するなどして給水管101内に負圧が発生した場合には、一次圧P1の低下をダイヤフラム118が感知し、ダイヤフラム118はその中央部119が第2ボディ122の内壁に当接するまで吸引され、それに伴ってピストン116がスプリング125の付勢力によって開弁方向に移動し、逆止弁109,110の間の配管を排水口114と連通させる。このとき、逆止弁109,110に不具合があって、浴槽111から汚水が逆止弁109,110の間の配管まで逆流してきたとしても、その汚水は、この大気開放弁112を介して大気に放出されるので、逆止弁109、電磁弁108を通って給湯装置、さらには、給水管101へ逆流することはない。」

・「【0016】
本発明では、上記問題を解決するために、給湯装置と浴槽との間の配管に接続され、前記配管を前記給湯装置への給水管の元圧の低下に応動して大気に開放させる大気開放弁において、前記配管に接続される第1の開口部と、前記給水管に接続される第2の開口部と、大気に開放された排水口とを有するボディと、前記第1の開口部と前記排水口とを連通する通路に設けられた弁座と、前記弁座に対して接離する弁体を保持し、前記排水口に連通する空間内にて開弁方向に付勢された状態で配置されたピストンと、前記ピストンが配置された空間と前記第2の開口部との間の通路を塞ぐように配置され、前記給水管の元圧を受けて前記ピストンを閉弁方向に付勢するダイヤフラムと、を備え、前記ピストンは、前記給水管の元圧を受けて前記ピストンが配置された空間の側へ膨出する前記ダイヤフラムのコルゲート部を受け止めるためのダイヤフラム受け部を有していることを特徴とする大気開放弁が提供される。
【0017】
本発明の大気開放弁では、ダイヤフラムに第2の開口部からの高圧が加わった場合に、そのコルゲート部がピストンの側へ膨出するのをダイヤフラム受け部で受け止める構成にした。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ダイヤフラムのコルゲート部を給水管の元圧がかかる側と反対側にて受け止めるようなダイヤフラム受け部を備え、ダイヤフラムの耐圧性を構造的に向上させるようにしたので、その分、ダイヤフラムは、基布の膜圧を薄くしたり、ゴムの膜圧を薄くしたりすることができる。これにより、ダイヤフラムの剛性を小さくすることができ、コストの低減が可能となる。」

・「【0019】
以下、図面を参照してこの発明の実施の形態について説明する。図1は、実施の形態に係る大気開放弁を示す中央縦断面図である。
大気開放弁は、風呂給湯システムに配置されて好適なものであって、2つのボディ、すなわち第1ボディ1と第2ボディ2とを備え、第1ボディ1には、風呂給湯システムの浴槽の手前に配置された2つの逆止弁の間の配管に接続して二次圧P2を受ける第1の開口部3と、大気に開放される排水口4とを有し、第2ボディ2には、検圧管を介して給水管からの一次圧P1を受ける第2の開口部5を有している。
【0020】
第1ボディ1には、第1の開口部3と同軸に筒状のピストン6が配置され、このピストン6に対向して弁座7が一体に形成されている。ピストン6は、第1の開口部3側に設けたガイド部材8の脚部8aにガイドされて、排水口4に連通する空間内で往復運動するように構成されている。また、ピストン6の第1の開口部3側には、弁座7に対向して環状の弁体9が嵌着されている。
【0021】
これら弁体9と弁座7とにより構成される弁部が開閉制御されることにより、第1の開口部3と排水口4とをつなぐ連通路を開放、又は閉塞する。また、ピストン6は、そのガイド部材8とは反対側の端面に係合部6aが突設され、そこに平ダイヤフラムタイプのダイヤフラム10が配置されている。」

・「【0024】
このように、ピストン6は第1ボディ1と第2ボディ2によって外周縁部が挟持されたダイヤフラム10と一体に構成され、第1ボディ1の第1の開口部3側には、スプリング15が一端をガイド部材8により受けた状態で配置されている。このスプリング15は、ピストン6に嵌着された弁体9が弁座7から離れる方向に付勢することで、開弁時の動作を助けるように作用する。ピストン6が弁座7から離れるときのリフト量は、第2ボディ2に一体に形成されたストッパ部16にダイヤフラム10の中央部11が当接することによって規制されている。また、第2ボディ2には連通孔17が設けられ、第2の開口部5で受けた給水管からの一次圧P1を、第2ボディ2とダイヤフラム10とによって囲まれた空間に導入できるように構成されている。
【0025】
このような構成の大気開放弁は、風呂給湯システムにおける通常の使用状態では、第2の開口部5に検圧管を介して給水管からの元圧(一次圧P1)を受け、第1の開口部3には逆止弁を通過する配管内の通水圧(二次圧P2)を受けている。一次圧P1は、通常では二次圧P2よりも高いため、ダイヤフラム10がそれらの差圧を感知して図示のようにピストン6の弁体9をその弁座7に着座させる。これにより、第1の開口部3と排水口4との間の通路が遮断される。このような状態で、たとえ上水道の元圧が通常より上がったとしても、ピストン6のダイヤフラム受け部14が突起したダイヤフラム10のコルゲート部13を受け止めることで、ダイヤフラム10の破裂を防止することができる。
【0026】
ここで、停電による給水加圧ポンプの停止、断水などが発生して給水管内に負圧が発生して一次圧P1が風呂給湯システムの二次圧P2よりも低くなるときには、ダイヤフラム10はその一次圧P1により吸引されて中央部11がストッパ部16に当接するまで図の上方へ移動する。このとき、スプリング15により開弁方向に付勢されているピストン6は、ダイヤフラム10の移動とともに図の上方へ移動し、弁体9を弁座7からリフトさせて、この大気開放弁をその全開位置に保持する。これにより、第1の開口部3と排水口4との間の通路が連通されるから、風呂の浴槽への配管は、そこに直列に配置された2つの逆止弁の間で大気に開放されるようになる。このとき、浴槽が給湯装置よりも高い位置に設置された場合で、浴槽の手前に配置された逆止弁が異物の噛み込みなどにより水密不良となっていた場合、浴槽内の汚水がその水頭圧により逆止弁を介して大気開放弁まで逆流してくるが、その汚水は大気開放弁によって大気に放出されて、浴槽内の汚水が給湯管の方まで逆流することはない。」

そして、図2からは、電磁弁108、逆止弁109、大気開放弁112及び逆止弁110が、給湯管106に接続されている給湯装置と浴槽111との間の配管に接続されることがみてとれる。

(5)甲第5号証
甲第5号証として提出された、本件出願前の平成14年9月25日に日本国内において頒布された刊行物である特開2002-275967号公報には、図面と共に以下の事項が記載されている。
・「【0028】図2に示しているように、吐出本体部16はその外殻を成す本体ケーシング28を有しており、その先端部且つ内部に吐出口ユニット30が組み込まれている。図3に示しているように、吐出口ユニット30は筒状をなす吐出口26と、センサケーシング34と、接続管部36とを一体に有しており、その接続管部36において上記の可撓性のホースから成る導管24の先端部が差込接続され且つ固定具38によりその接続状態に固定されている。」

そして、図3からは、吐出口ユニットにおいて、導管24との接続がなされる接続管部36の先端外周部に、先端に向かって外径が小さくなるテーパ面を形成した構成がみてとれる。

(6)甲第6号証
甲第6号証として提出された、本件出願前の平成17年9月2日に日本国内において頒布された刊行物である特開2005-233336号公報には、図面と共に以下の事項が記載されている。
・「【0002】
従来より、例えば配管継手における筒体に対し、外嵌状態に軸方向から外挿した配管と筒体との間を、その筒体の外周面に装着した弾性を有するシール部材にてシールするようになした配管接続部のシール構造が広く採用されている。」

・「【0005】
図7及び図8はこれを詳しく説明したものである。
図7において200は管体で、202は外周面に形成された環状且つ外周面が開放された形状の保持溝であり、そこに弾性を有する環状のシール部材(ここではOリング)204が装着されている。
206は樹脂配管で、208は斜めに切断された先端面である。
【0006】
図8に示しているようにこの樹脂配管206を先端面208の側から筒体200に対して軸方向に外挿すると、シール部材204が斜めに切断された先端面208によって図中下側から上向きに絞り上げられて、図中の上部が保持溝202からはみ出してしまう。」

そして、図7及び図8からは、配管接続部において、樹脂配管206との接続がなされる筒体200の先端外周部に、先端に向かって外径が小さくなるテーパ面を形成した構成がみてとれる。

(7)甲第7号証
甲第7号証として提出された、本件出願前の平成14年9月18日に日本国内において頒布された刊行物である特開2002-267076号公報には、図面と共に以下の事項が記載されている。
・「【0036】本例のワンタッチジョイント38は、図2?図5に示しているように雌管としてのソケット部材46と、雄管としての端部部材48とをその主要素として備えている。端部部材48はニップル部50を有しており、そのニップル部50が接続配管36の内部に挿入され、その状態で接続配管36の外周面にかしめ付けられたスリーブ52とともに接続配管36の先端部に固定されている。」

そして、図2からは、ワンタッチジョイント38の端部部材48において、接続配管36との接続がなされるニップル部50の先端外周部に、先端に向かって外径が小さくなるテーパ面を形成した構成がみてとれる。

(8)甲第8号証
甲第8号証として提出された、本件出願前の平成18年3月23日に日本国内において頒布された刊行物である特開2006-78049号公報には、図面と共に以下の事項が記載されている。
・「【請求項6】
前記ガイドパイプのパイプ部は、その先端の下方に切り欠きを設けたことを特徴とする請求項3から5のいずれか一項に記載の製氷装置の給水装置。」

・「【0001】
本発明は、給水タンクに貯留した水を給水ポンプで汲み上げて給水経路を介して製氷皿に給水する構成の製氷装置の給水装置に関するものである。」

・「【0015】
請求項6に記載の発明は、請求項3から5のいずれか一項に記載の発明において、ガイドパイプのパイプ部は、その先端の下方に切り欠きを設けたことものであり、パイプ部の先端に給水された水が、表面張力等で水滴として残ることなく、長期的に非常に衛生的で、清潔な給水経路として維持することが可能となる。」

・「【0023】
次に、給水装置の構成について、図1を用いて説明する。給水装置は、冷蔵室22の下方に給水容器としての給水タンク30が配設され、その給水タンク30外に、冷蔵室22の奥側でタンク内の水面と略同一か若干高い位置に給水ポンプ31が配設されている。給水ポンプ31は離れた位置から水を吸い込むことができる自給性を有するものを適用していて、給水タンク30の汲み上げた製氷用の水を製氷皿27に導くための給水経路32を構成している。給水タンク30と給水ポンプ31を繋ぐ部材は軟質樹脂であるホース(図示せず)等で構成されている。給水タンク30は、上面の開口部を閉鎖するように着脱可能な蓋部33が装着されている。
【0024】
給水経路32は、図1から図6のように、断熱仕切板24に形成された空間24b内に固定パイプ41が配設され、その固定パイプ41と給水ポンプ31の間をつなぐガイドパイプ42を給水ポンプの出口部31aの下方に設けて水の通る経路として連結するようにし、ガイドパイプ42は冷蔵庫本体21の手前から着脱できるように構成している。
【0025】
また、ガイドパイプ42は、給水ポンプ31で汲み上げた水を下へ落とす際にこぼれないような4面を仕切壁で覆うように構成した受け部42aと、固定パイプ41へ挿入するために固定パイプ41の形状に沿った形で手前側に湾曲させたパイプ部42bとを連結するよう構成されている。例えば、連結部は受け部42aの底面に筒状の孔50を設け、その筒状の孔に突起51を構成し、パイプ部42bの入口の内側に前記突起がはめ込める凹部52を設け、受け部42aとパイプ部42bは上下に簡単に着脱できるようになっている。
【0026】
以上のように構成された製氷装置の給水装置は、自動製氷動作において、製氷皿27に製氷用の水を給水すべく給水ポンプ31が駆動されると、給水タンク30内の製氷用の水が吸い込まれて、給水ポンプ31内に汲み上げられる。そして、出口部31aからガイドパイプ42の水受け部42aに落とされ、固定パイプ41内を通過し、所定時間の給水ポンプ31の駆動により、製氷皿27内に適量の給水がなされる。以後、冷凍室23内で製氷が完了すると、離氷機構28により離氷動作されて製氷皿27の氷が離脱され、再び前述した給水動作が行われるようになる。」

・「【0028】
このように、ガイドパイプ42を固定パイプ41内に挿入して着脱可能な構成としているので、製氷用の水が流通する給水経路32を簡単に取り外して清掃ができるようになり、使用者が手軽に清掃作業を行うことができるようになる。」

・「【0030】
また、給水された水がパイプ部42aに構成された先端開口部42dの円弧の周辺に表面張力で水滴として滞留されないように、パイプ部42bの先端開口部42dの下方に切欠部42eを設けるとよい。」

そして、図1ないし図4及び図6からは、パイプ部42bの先端側の部分が、略水平方向に配置されること、及び、パイプ部42bの先端側の部分は、その先端の重力方向下方の位置に切欠部42eが設けられていることがみてとれる。

(9)甲第9号証
甲第9号証として提出された、本件出願前の昭和60年11月11日に日本国内において頒布された刊行物である特開昭60-226699号公報には、図面と共に以下の事項が記載されている。
・「産業上の利用分野
本発明は、水または水蒸気を熱媒とし、複数の伝熱管とそれらを接合するヘッダーによって構成される熱交換器に関するものである。
従来例の構成とその問題点
従来の水または水蒸気を熱媒とし、伝熱管の両端にヘッダーを接合する構成とした熱交換器において、この種の伝熱管とヘッダーの接合部は第1図および第2図に示す如く、上・下ヘッダー1a,1bに先端を垂直に切断した伝熱管2を挿入して接合する構造が用いられており、伝熱管2内の熱媒または水蒸気ドレン水3を滞留することなく排出させるために、多少の勾配を持たせて設置されるが、充分な勾配が取れない場合に、伝熱管2と下ヘッダー1bの接合部Aに形成される熱媒または水蒸気ドレン水3の表面張力のために伝熱管2の内部に滞留することがあり、気温が下がりその雰囲気の温度が氷点以下になった時に、滞留した熱媒または水蒸気ドレン水3が凍結して伝熱管2や下ヘッダー1bとの接合部Aなどを変形または破損に至らしめることがある。
発明の目的
本発明は上記従来の欠点を解消するもので、熱交換器の外観形状および熱交換性能を変えることなく、伝熱管とヘッダーの接合部に作られる熱媒またはドレン水の表面張力を弱めて、伝熱管内部に熱媒またはドレン水を滞留させることなくヘッダーに流出させることを目的とする。
発明の構成
上記目的を達するため、本発明の熱交換器は、複数の伝熱管とそれらを接合するヘッダーを備え、前記伝熱管内部の水または水蒸気などの熱媒およびドレン水を自然落下で排出する側の接合部において、先端に切欠きを設けた伝熱管をヘッダー内部に突出するように挿入して接合する構成であり、接合部の熱媒及びドレン水の表面張力を弱めて、伝熱管内部に滞留させることなく、下流側のヘッダーに流出させる効果を有するものである。
実施例の説明
以下本発明の一実施例を第3図により説明すると、この図は前記従来例第1図と外観を同じくする空気-水または空気-水蒸気の熱交換器のA部詳細断面図であり、先端を鋭角に複数個切断した切欠き部4を設けた伝熱管2を下ヘッダー1b内部に突出するように挿入し、5に示す位置で溶接して接合する熱交換器である。
かかる構成にすれば、自然落下により水または水蒸気ドレン水3を排出する際に、その接合部の伝熱管先端に作られる水の表面張力が弱まり、円滑に下ヘッダー1b内に水または水蒸気ドレン水3が流出されることになる。」(1頁左下欄12行?2頁右上欄2行)

そして、第3図からは、伝熱管2の水または水蒸気ドレン水3を排出する側の端部を、切欠き部4を設けたものとしたことがみてとれる。
また、同第3図からは、切欠き部4においてハッチングが施されていないのに対して、切欠き部4以外の部分でハッチングが施されていることや、伝熱管の先端の開口縁部近くの部位は殆どが空隙となっていることがみてとれる。

3.無効理由1について
甲第1号証ないし甲第4号証の各刊行物毎に無効理由1の検討を行うにあたり、共通して用いられる甲第8号証に記載された発明の認定を行う。
[甲第8号証に記載された発明について]
甲第8号証の記載事項及び図面からみてとれる内容を総合すると、甲第8号証には、ガイドパイプ42のパイプ部42bの先端に給水された水が、表面張力等で水滴として残ることなく、長期的に非常に衛生的で、清潔な給水経路として維持することが可能となるように、略水平方向に配置されたパイプ部42bの先端側の部分を、先端の重力方向下方の位置に切欠部42eを設けたものとすること、すなわち、「中心軸が略水平方向になるように形成された円管状の出口(『略水平方向に配置されたパイプ部42bの下方側の端部』が相当。括弧内、以下同様。)を、先端の重力方向下方の位置に切り欠き部(切欠部42e)を備えた(設けた)ものとすること」(以下、「甲8発明」という。)が記載されているものと認める。

被請求人は、以下のように主張する。
・「【0023】ないし【0025】段落には、ガイドパイプ42が水平方向を向いているという記載は一切ないし、また、図2等を見ても、ガイドパイプ42は円弧の一部を切り取ったような形状であり、全体として下方に向いており、『水平方向』ではないばかりか『略水平方向』に向いているとも言えない。かかる図の記載に関し、請求人は、『図2乃至図6を見る限り、ガイドパイプのパイプ部の先端側の一定の長さ範囲は明らかに略水平方向を向いている』と述べているが、全くもって『明らか』ではない。したがって、甲第8号証には『中心軸が水平方向になるように形成』された円管状の排出口は記載されていない。」(答弁書8頁2?11行)
・「『ガイドパイプ42』は円弧の一部を切り取ったような形状であり、全体として下方に向いており、『水平方向』ではないばかりか『略水平方向』に向いているとも言えない。そもそも『ガイドパイプ42』は、『給水タンク』から『製氷皿』へ確実に水を送るための給水経路に設けられるものであり(段落【0008】、【0026】等)、その途中で水が滞留する原因となるような水平部分が設けられる理由がない。したがって、甲第8号証には『中心軸が水平方向になるように形成』された円管状の排出口は記載されていない。」(平成25年11月1日付け口頭審理陳述要領書5頁19?27行)
・「たしかに、甲第8号証においては、ガイドパイプ42の先端に『切欠部42d』を設けることは記載されているものの、かかる切欠部はその名称こそ同じではあるが、本件発明における『重力方向下方の位置』に設けられた『切り欠き部』とは全く異なるものである。甲第8号証に記載された発明(以下、『甲8発明』という。)においては、切欠部42dは、『給水された水がパイプ部42aに構成された先端開口部42dの円弧の周辺に表面張力で水滴として滞留されないように』設けられている。ここで、『円弧の周辺に』という記載からすれば、甲8発明においては、正円に近い円管の場合、表面張力により円管の周縁全体にわたり水滴が付着し水膜となって、これが円管を塞ぐという事態を想定していると考えられ、これを防止するために、管の端部を斜めに切り落とし、それを『切欠部』と称しているにすぎない。・・・他方で、本件発明については、・・・重力方向下方に設けられた切り欠き部は、水平方向を向いている排出口の底部に残留する水を、自らの表面張力を利用して外へ排出するためのいわば『道』というべき存在である。上記のとおり、両者においては、水の表面張力と関連して『切り欠き部』が設けられており、一見、あたかも同じようなものであるかのように思われるが、実際には、前者は円管に均等に働く水の表面張力を破壊するために円管を正円状ではないものにしたものであり、後者は、水の表面張力を利用して、水が流れ出ていく道を造り出すものであり、全く作用・効果が異なるのである。・・・かかる作用・効果からすれば、本件発明における『重力方向下方』に設けられた『切り欠き部』とは、排出口の底面部にある程度の範囲の幅で形成されるものであり、甲8発明における『切欠部』のように、単に円管の下方が斜めに切り落とされているものとは、その構成においても全く異なる。」(答弁書8頁15行?9頁22行)
・「実際に、本件特許の『特許請求の範囲』においても、『(排出口)先端の重力方向下方の位置に切り欠き部を備え』と記載されており、文字どおり、『重力方向下方の位置』、すなわち、排出口を形成する円管の底部の位置を切り取って『欠け』を備えるという文言になっている。他方で、甲8発明における『切欠部42d』は、円管の底部が切り取られ、欠けているものではなく、円筒管の下方全体が切り取られているものであるから、『重力方向下方の位置』に『欠け』が存在しているとは言えず、文言上も全く異なる。」(答弁書9頁23行?10頁1行)
・「甲第8号証の『切欠部42e』は、その名称こそ同じではあるが、本件発明における『重力方向下方の位置』に設けられた『切り欠き部』とは全く異なるものである。甲第8号証に記載された発明(以下、「甲8発明」という。)においては、切欠部42eは、『先端開口部42dの円弧の周辺に表面張力で水滴として滞留されないように』するために、管の端部を斜めに切り落としたものにすぎない。・・・前無効審判において請求人が『切り欠き部』の証拠として提出した特開2000-74490号公報(乙3)の【図5】、段落【0021】の記載からも明らかなように、水の表面張力が孔等の端部に生じる場合、当該孔に均等に力が分散されるために、重力に抗して、水はその端部に留まろうとするのである。甲8発明において、水滴の表面張力が働く部分はガイドパイプの『先端開口部』である。当該先端開口部は、切欠部が設けられる前は単なる環状であり、その場合には、上記のとおり、ガイドパイプ42が下方を向いているにもかかわらず、その表面張力のために自重では先端の水滴が流れ落ちないことから、切欠部42eを設けているのである。・・・他方で、本件発明については、『切り欠き部の排水誘導手段を設けたことにより、排出中の水の表面張力を利用して排出口に留まろうとする残留水が外部に誘導されて排出される』(【0011】段落)、『水平部に乗っている残留水があれば、それを引き連れて一緒に排水していく』【0029】段落)との記載から分かるように、重力方向下方に設けられた切り欠き部は、水平方向を向いている排出口の底部に残留する水を、自らの表面張力を利用して外へ排出するためのいわば『道』というべき存在である。上記のとおり、両者においては、水の表面張力と関連して『切り欠き部』が設けられており、一見、あたかも同じようなものであるかのように思われるが、実際には、前者は円管に均等に働く水の表面張力を破壊するために円管を正円状ではないものにしたものであり、後者は、水の表面張力を利用して、水が流れ出ていく道を造り出すものであり、全く作用・効果が異なるのである。・・・すなわち、甲8発明においては、水はかかる円弧状のガイドパイプ42の上部から下部へと流れるため、かかるガイドパイプ42の底面に水が滞留するという事態は想定されず、したがって、その滞留した水を本件発明のような排出口の底面に設けた『道』によって排出させるということも必要ない。」(平成25年11月1日付け口頭審理陳述要領書5頁28行?7頁14行)
・「請求人は、本件発明の『切り欠き部』の解釈につき、『請求項の記載に基づかない被請求人の勝手な解釈』であると述べるが、実際に、本件特許の『特許請求の範囲』においても、『(排出口)先端の重力方向下方の位置に切り欠き部を備え』と記載していることから理解できるように、切り欠き部を設ける位置を、あえて、『下方』とせず、『重力方向』の『下方』、つまり、鉛直方向(時計で言えば、12時と6時を指す方向)のうちの『下方』(6時を指す方向)としている。このように、特許請求の範囲の記載についても、『重力方向下方の位置』、すなわち、排出口を形成する円管の底部(上記時計の6時に該当する方向)の位置を切り取って『欠け』を備えるという文言になっている。当然、『欠け』という以上は、ある程度『幅』があることが必要であるのは言うまでもない。他方で、甲8発明における『切欠部42e』は、円管の底部が切り取られ、欠けているものではなく、円筒管の下方全体が切り取られているものであるから、『重力方向下方の位置』に『欠け』が存在しているとは言えず、文言上も全く異なる。」(平成25年11月1日付け口頭審理陳述要領書7頁15行?8頁1行)

しかしながら、甲第8号証の図1、2、4及び6からは、ガイドパイプ42のパイプ部42bの先端側の部分が略水平方向に配置された構成が明らかにみてとれるものであり、また、ガイドパイプ42は、固定パイプ41とともに、水平方向から見て異なる位置にある給水ポンプ31から製氷皿27までの給水経路32を形成するものであり、水平方向への延長を伴うものであることを考慮すると、パイプ部42bの先端側の部分を略水平方向に配置する理由がないとすることはできないから、甲第8号証には、前述したように略水平方向に配置された(中心軸が略水平方向になるように形成された)パイプ部42bの先端側の部分(円管状の出口)が記載されていると認めるのが相当である。
さらに、甲第8号証の図4からみてとれるように、先端開口部4dを横から見ると、重力方向上方から重力方向下方に向けて伸びた部分と、切欠部4eの箇所で、先端に対し後方であって、斜め下に向けて延びた部分とからなっており、この態様から切欠部42eが欠けであることは明らかであり、また、特許明細書等における特許請求の範囲の請求項1には、切り欠き部に関して「排出口は、先端に向かって外径が小さくなるテーパ面を外周部に備え、先端の重力方向下方の位置に切り欠き部を備えている」と記載されているのみで、本件特許発明の切り欠き部は、排出口に設けられる位置の特定がされているものの、切り欠き部自体の具体的な特定はされておらず、他方、甲第8号証に記載された切欠部42eも、図1ないし4及び図6からみてとれるように、略水平方向に配置されたパイプ部42bの先端側の部分において、その先端の重力方向下方の位置に設けられるものであり、仮に、甲第8号証に記載された切欠部41eが、ある程度の幅で形成されておらず、水の表面張力を利用して、水が流れ出ていく道を造り出すものではないと解するとしても、本件特許発明の切り欠き部は甲第8号証に記載された切欠部42eの態様も含むものといえる。
したがって、被請求人のこれらの主張は採用することができない。

そして、請求人と被請求人との間で、甲第2号証についての争いが少ないので、まず、甲第2号証に基づく無効理由の検討を行う。

3-1.甲第2号証に基づく場合について
(1)甲2発明
甲第2号証の図9からは、メーンユニット50に備えられた主電磁弁14、逆止弁15、逆止弁16及び縁切り弁7が、給湯管12から浴槽28への配管の途中に設けられることがみてとれ、これより、メーンユニット50は、給湯管12から浴槽28への配管の途中に設けられることが理解できる。
また、甲第2号証の図3(a)からは、主電磁弁14が立て向きの場合に、排水路9は中心軸が水平方向になるように形成されている態様がみてとれ、甲第2号証の段落【0042】及び【0043】には、メーンユニット50の主電磁弁14を立て向きにした状態に設置する形態が示されていることを考慮すると、縁切り弁7は、中心軸が水平方向になるように形成された排水路9を有していることが理解できる。
さらに、甲第2号証に記載された排水路9は、逆流水を適切な場所にまで誘導し、しかる後に排水を行うようにするために、ホースの接続が予定されているものであり、ホースの断面形状に合わせて円管状に形成されていることは明らかである。

よって、甲第2号証の記載事項及び図面からみてとれる内容を本件特許発明の表現にならって整理すると、甲第2号証には、次の事項からなる発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認めることができる。
「給湯管12から浴槽28への配管の途中に設けられて、主電磁弁14の上流側の一次圧が該主電磁弁14の下流側の二次圧よりも低下したときには、弁部54が排水導入路58を開放し、逆止弁15と逆止弁16の間の水路空間59に入り込んだ逆流水は前記排水導入路58から排水室56へ落とし込まれ排水路9を通して外部へ排水されることにより、前記逆流水が前記主電磁弁14の上流側へ混入するのを防止する縁切り弁7を備えたメーンユニット50において、
前記縁切り弁7は、中心軸が水平方向になるように形成されて前記逆流水を外部へ排水する円管状の前記排水路9を有しているメーンユニット50。」

(2)対比
本件特許発明(以下、「前者」ということがある。)と甲2発明(以下、「後者2」ということがある。)とをその機能・作用も考慮して対比する。
・後者2の「給湯管12」は、前者の「給湯管」に相当し、後者2の「浴槽28」は、前者の「浴槽」に相当し、そして、後者2の「給湯管12から浴槽28への配管の途中に設けられて」との態様は、前者の「給湯管から浴槽への配管の途中に設けられて」との態様に相当する。
また、後者2の「主電磁弁14の上流側の一次圧が該主電磁弁14の下流側の二次圧よりも低下した」態様は、前者の「給水圧の低下」した態様に相当し、後者2の「弁部54が排水導入路58を開放し、逆止弁15と逆止弁16の間の水路空間59に入り込んだ逆流水は前記排水導入路58から排水室56へ落とし込まれ排水路9を通して外部へ排水される」態様は、これにより弁部54が開弁した状態となり、給湯管12から浴槽28への配管を大気に開放することになるから、前者の「開弁して配管を大気に開放する」態様に相当し、そして、後者2の「主電磁弁14の上流側の一次圧が該主電磁弁14の下流側の二次圧よりも低下したときには、弁部54が排水導入路58を開放し、逆止弁15と逆止弁16の間の水路空間59に入り込んだ逆流水は前記排水導入路58から排水室56へ落とし込まれ排水路9を通して外部へ排水される」態様は、前者の「給水圧の低下に応動することにより開弁して配管を大気に開放する」態様に相当する。
また、後者2の「逆流水が主電磁弁14の上流側へ混入するのを防止する」態様は、前者の「浴槽から給水管への汚水の逆流を防止する」態様に相当する。
さらに、後者2の「縁切り弁7」は、前者の「大気開放弁」に相当し、後者2の「メーンユニット50」は、前者の「逆流防止装置」に相当する。
よって、後者2の「給湯管12から浴槽28への配管の途中に設けられて、主電磁弁14の上流側の一次圧が該主電磁弁14の下流側の二次圧よりも低下したときには、弁部54が排水導入路58を開放し、逆止弁15と逆止弁16の間の水路空間59に入り込んだ逆流水は前記排水導入路58から排水室56へ落とし込まれ排水路9を通して外部へ排水されることにより、前記逆流水が前記主電磁弁14の上流側へ混入するのを防止する縁切り弁7を備えたメーンユニット50」は、前者の「給湯管から浴槽への配管の途中に設けられて給水圧の低下に応動することにより開弁して前記配管を大気に開放することにより前記浴槽から給水管への汚水の逆流を防止する大気開放弁を備えた逆流防止装置」に相当する。

・後者2の「逆流水を外部へ排水する」態様は、前者の「大気へ通じる」態様に相当し、後者2の「排水路9」は、前者の「排出口」に相当し、そして、後者2の「中心軸が水平方向になるように形成されて逆流水を外部へ排水する円管状の排水路9」は、前者の「中心軸が水平方向になるように形成されて大気へ通じる円管状の排出口」に相当する。

したがって、両者は、
「給湯管から浴槽への配管の途中に設けられて給水圧の低下に応動することにより開弁して前記配管を大気に開放することにより前記浴槽から給水管への汚水の逆流を防止する大気開放弁を備えた逆流防止装置において、
前記大気開放弁は、中心軸が水平方向になるように形成されて大気へ通じる円管状の排出口を有している逆流防止装置。」
の点で一致し、以下の各点で相違している。

[相違点1]
排出口について、本件特許発明では、先端に向かって外径が小さくなるテーパ面を外周部に備えているのに対して、甲2発明では、そのような特定がされていない点。

[相違点2]
排出口について、本件特許発明では、先端の重力方向下方の位置に切り欠き部を備えているのに対して、甲2発明では、そのような特定がされていない点。

(3)判断
上記相違点について検討する。
[相違点1について]
配管を有する部材において、他の配管との接続がなされる管部の排出口の先端外周部に、先端に向かって外径が小さくなるテーパ面を形成することは、周知の技術(例えば、甲第5号証ないし甲第7号証を参照のこと。以下、「周知技術」という。)である。
そして、配管を有する部材において、他の配管との接続を容易にするという課題は一般的な課題であり、甲2発明においても当然考慮されうる課題であるから、当該課題の下で、甲2発明に、上記周知技術を適用して、相違点1に係る本件特許発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

[相違点2について]
甲2発明において、中心軸が水平方向になるように形成された円管状の排出口(「排水路9」が相当。)の内部に水が留まり易いであろうことが予測できるとしても、排出口に滞留する水が給水側へ逆流することを防止するという課題は、特許明細書等の段落【0008】に記載されているような特別な条件(給水圧が低下して排出口から配管内の水が大気に排出されて、排出口内に水が留まっている状態で、給水圧の低下が一旦回復した後、再び給水圧が低下して配管内の水が大気開放弁を介して流出しようとするとき、上流側に配置された第1の逆止弁が完全に閉じることができない状態になっていた場合)の下で生じる問題点の解決を図るものであり、そのような課題が甲2発明においても当然認識されるべきものとはいえず、請求人が提出した逆流防止装置に関する甲第1ないし4号証の記載を参酌しても、大気(外部)へ通じる円管状の排出口の内部に汚水が滞留することを問題として認識することができないことから、甲2発明に甲8発明を適用することは当業者が容易に着想し得ないものである。
また、甲8発明において、ガイドパイプ42のパイプ部42bの下方側の端部における先端の重力方向下方の位置に設けられた切欠部42eは、パイプ部42bの先端に給水された水が、表面張力等で水滴として残ることなく、長期的に非常に衛生的で、清潔な給水経路として維持することを可能とするもの(甲第8号証の段落【0015】を参照。)であり、パイプ部42bの下方側の端部に残留した水の逆流を防止するためのものではない。しかも、当該切欠部42eが設けられるパイプ部42bの下方側の端部は、製氷用の水を製氷皿へ導くための給水経路32を構成するものであり、通常の使用において、長期的に非常に衛生的で、清潔な給水経路として維持することが求められる。これに対して、甲2発明において、大気開放弁(縁切り弁7)の排出口(排水路9)は、浴槽からの汚水の逆流という非常時において、当該汚水を大気(外部)に排出するためのものであって、衛生面を考慮する必要がないものである。これらのことからみても、甲2発明に甲8発明を適用することは当業者が容易に着想し得ないものである。
そうすると、甲8発明が、中心軸が略水平方向になるように形成された円管状の出口は、先端の重力方向下方の位置に切り欠き部を備えた構成を有するものであるとしても、甲2発明に甲8発明を適用する動機付けはないものといわざるを得ない。
よって、甲2発明において、甲8発明を適用し、上記相違点2に係る本件特許発明の構成とすることは、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。

なお、請求人は、以下のように主張するが、上述したとおり、甲2発明に甲8発明を適用する動機付けはないから、請求人のこれらの主張は採用できない。
・「甲第1号証乃至甲第4号証のいずれもが浴槽からの汚水の逆流を防止する逆流防止装置であり、横向きの排水管を備えたものとなっている。ところで、このように排水管が横を向いているものであれば、その先端部に水が滞留しやすいであろうことは当業者でなくとも当然に予測されるところである。したがって、排水管先端部に残留水が存在しているときに一次側に負圧が生じれば、残留水を含んだ逆流が懸念されることは甲第1号証乃至甲第4号証のいずれにも共通して言えることである。つまり、横向き排水管を備える甲第1号証乃至甲第4号証においては、そのいずれにも本件特許の課題が内在されている、と言い得る。・・・一方、甲第8号証には、甲第1号証乃至甲第4号証に内在されていた課題を解消する手段であるところの、実質的に横向き排水管の先端部の残留水を重力方向下方に切欠き部を設けることによって解消する構成が開示されている。したがって、当業者であれば、甲第1号証乃至甲第4号証のいずれかに甲第8号証の技術を適用することにより、横向き排水管の残留水を効果的に排水し、かかる残留水が給水側まで逆流することが防止できるようになる、との考えに至ることはごく自然なことであって、何らの困難性はない。」(審判請求書25頁13行?26頁2行)
・「甲第2号証のものも排水路9内に残留水が生じれば、逆流水と共に上流側へ逆流してしまう虞があるから、同号証には本件特許発明の課題が内在されている。一方、・・・甲第8号証には横向き排水管における残留 水の発生という解決すべき課題に対し、『下方の切欠部』という具体的解決策を提示しているのである。これらからして、当業者が甲第2号証において本件特許発明の課題(横向き排水管の残留水の解消)を認識したときに、その具体的 解決策が示されている甲第8号証を適用してその解決を図る、というのは極めて自然なことであり、これらを組み合わせることに何らの困難性はない。」(平成25年10月15日付け口頭審理陳述要領書5頁28行?6頁13行)
・「甲第1号証等には横向き排水管内における残留水発生の課題が内在している。一方、甲第8号証にはそのような課題に対する具体的解決策としての『切欠部』が開示されているのであるから、甲第8号証のものを適用して課題解決を図ろうとするのは、極めて自然なことであり、当業者であれば両者を組み合わせることは極めて容易なことである。・・・甲第2号証においても、横向き排水管を備え、その内部に残留水が生じれば、これが逆流水と共に逆流する可能性があり、したがって、甲第2号証にも横向き排水管内における残留水発生という本件発明の課題が内在している。したがって、・・・甲第8号証との組み合わせは容易なことである。」(平成25年10月15日付け口頭審理陳述要領書12頁5?18行)

そして、本件特許発明の全体構成により奏される「給水圧の回復後、再度、給水圧が低下して大気開放弁が開放したときに、排出口に残っている汚水を引き連れて給湯装置の方まで吸引してしまうという現象が発生することもない。」(特許明細書等の段落【0027】)という作用効果は、甲2発明、甲8発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲のものとはいえない。

よって、本件特許発明は、甲2発明、甲8発明及び周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

3-2.甲第1号証に基づく場合について
(1)甲1発明
甲第1号証に記載されたオーバーフロー口22は、逆流水を適切な場所にまで誘導し、しかる後に排水を行うようにするために、ホースの接続が予定されているものであり、ホースの断面形状に合わせて円管状に形成されていることは明らかである。

よって、甲第1号証の記載事項及び図面からみてとれる内容を本件特許発明の表現にならって整理すると、甲第1号証には、次の事項からなる発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認めることができる。
「給湯管6から浴槽14への配管の途中に設けられて給水側の圧力の低下に応じて弁開して前記配管内の水を大気に放出することにより前記浴槽14から前記給湯管6の方への汚水の逆流を防止する大気開放弁20を備えた逆流防止装置において、
大気開放弁20は、大気に開放される円管状のオーバーフロー口22を有している逆流防止装置。」

なお、請求人は、「甲第2号証の【0043】にも記載されている通り、電磁弁は縦向きに設置するのが慣習的な施行形態である。このことからすれば、甲第1号証中の図1、図4、図5に示された逆流防止装置は図示の通りの方向で設置される、と解することが一般的であると考えられる。したがって、当業者が甲第1号証の図1等を見た場合には、基本的にはオーバーフロー口22は水平方向を向いている、と判断するものと考えられる。」(審判請求書19頁11?17行)旨、及び「甲第1号証の図1、4及び5に示された電磁弁9は縦向き以外の向きで設置しなければならない特別な事情があるわけではないから、当業者の通常の認識からすれば、甲第1号証の図1、4及び図5に示された電磁弁はこれら各図に示された方向、つまり縦向きに設置されている、とまずは認識するのが通常である。こうして、甲第1号証に記載の電磁弁が縦向きに設置されるのであれば、図1、4及び5に示されるところにしたがって、オーバーフロー口22(排出口)は水平方向を向いていると考えるのが妥当である。」(平成25年10月15日付け口頭審理陳述要領書2頁24行?3頁3行)旨主張するが、甲第1号証中の図1、4及び5に示された逆流防止装置がどのように設置されるかは甲第1号証には何ら記載がなく、オーバーフロー口22が下方を向いた状態で設置することも想定することができるから、オーバーフロー口22が水平方向を向いているという事実は認定できない。

(2)対比
本件特許発明(以下、「前者」ということがある。)と甲1発明(以下、「後者1」ということがある。)とをその機能・作用も考慮して対比する。
・後者1の「給湯管6」は、前者の「給湯管」に相当し、後者1の「浴槽14」は、前者の「浴槽」に相当し、そして、後者1の「給湯管6から浴槽14への配管の途中に設けられて」との態様は、前者の「給湯管から浴槽への配管の途中に設けられて」との態様に相当する。
また、後者1の「給水側の圧力の低下」は、前者の「給水圧の低下」に相当し、後者1の「弁開」は、前者の「開弁」に相当し、そして、後者1の「給水側の圧力の低下に応じて弁開して」との態様は、前者の「給水圧の低下に応動することにより開弁して」との態様に相当する。
また、後者1の「配管内の水を大気に放出する」態様は、前者の「配管を大気に開放する」態様に相当し、後者1の「浴槽14から給湯管6の方への汚水の逆流を防止する」態様は、前者の「浴槽から給水管への汚水の逆流を防止する」態様に相当する。
さらに、後者1の「大気開放弁20」は、前者の「大気開放弁」に相当し、後者1の「逆流防止装置」は、前者の「逆流防止装置」に相当する。
よって、後者1の「給湯管6から浴槽14への配管の途中に設けられて給水側の圧力の低下に応じて弁開して前記配管内の水を大気に放出することにより前記浴槽14から前記給湯管6の方への汚水の逆流を防止する大気開放弁20を備えた逆流防止装置」は、前者の「給湯管から浴槽への配管の途中に設けられて給水圧の低下に応動することにより開弁して前記配管を大気に開放することにより前記浴槽から給水管への汚水の逆流を防止する大気開放弁を備えた逆流防止装置」に相当する。

・後者1の「大気に開放される」態様は、前者の「大気へ通じる」態様に相当し、後者の「オーバーフロー口22」は、前者の「排出口」に相当する。

したがって、両者は、
「給湯管から浴槽への配管の途中に設けられて給水圧の低下に応動することにより開弁して前記配管を大気に開放することにより前記浴槽から給水管への汚水の逆流を防止する大気開放弁を備えた逆流防止装置において、
前記大気開放弁は、大気へ通じる円管状の排出口を有している逆流防止装置。」
の点で一致し、以下の各点で相違している。

[相違点1]
排出口について、本件特許発明では、中心軸が水平方向になるように形成されているのに対して、甲1発明では、そのような特定がされていない点。

[相違点2]
排出口について、本件特許発明では、先端に向かって外径が小さくなるテーパ面を外周部に備えているのに対して、甲1発明では、そのような特定がされていない点。

[相違点3]
排出口について、本件特許発明では、先端の重力方向下方の位置に切り欠き部を備えているのに対して、甲1発明では、そのような特定がされていない点。

(3)判断
上記相違点2、3は、それぞれ、本件特許発明と甲2発明を対比した際の「相違点1」、「相違点2」と実質的に同じものであり、上記「3-1.(3)」の[相違点2について]において述べた理由と同様の理由により、上記相違点3に係る本件特許発明の構成とすることは、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
よって、本件特許発明は、上記相違点1についての検討を要するまでもなく、甲1発明、甲8発明及び周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

3-3.甲第3号証に基づく場合について
(1)甲3発明
甲第3号証の図14からは、電磁弁22、縁切り装置23及び逆止弁24が、給湯部21側からふろへのお湯はり経路の途中に設けられることがみてとれる。ここで、電磁弁22は閉弁することにより、縁切り装置23は排水口より排水することにより、また、逆止弁24は閉弁することにより、それぞれ水(お湯)の逆流を防止できるから、これら電磁弁22、縁切り装置23及び逆止弁24が逆流を防止する装置を構成していることが理解できる。そうすると、甲第3号証には、給湯部21側からふろへのお湯はり経路の途中に設けられて給水源の水圧と縁切りしたい水である逆流水の水圧との圧力バランスにより前記逆流水を排水し縁切りする縁切り装置23を、電磁弁22及び逆止弁24と共に備えた逆流を防止する装置が記載されているといえる。
また、甲第3号証の段落【0020】の「又、ピストンのボディ1側先端及びボディ1側には縁切り装置が水平方向に使われた場合でも大きな傾きを持たない様にガイドを設けている。」との記載によれば、ガイドはピストンが大きな傾きを持たないようにするために設けられるものと認められるところ、ピストンに大きな傾きが生じるのはピストンが水平方向に移動する場合であり、「縁切り装置が水平方向に使われた場合」はピストンが水平方向に移動する場合と理解できるのであって、甲第3号証の図2において、ピストンが水平方向に移動する場合に排水口の中心軸が水平方向にあることがみてとれることから、縁切り装置23は、水平方向に使われることに伴い、中心軸が水平方向になるように形成された排水口を有するものとなることが理解できる。
さらに、排水口は、逆流水を適切な場所にまで誘導し、しかる後に排水を行うようにするために、ホースの接続が予定されているものであり、大気へ通じるとともに、ホースの断面形状に合わせて円管状に形成されていることは明らかである。

よって、甲第3号証の記載事項及び図面からみてとれる内容を本件特許発明の表現にならって整理すると、甲第3号証には、次の事項からなる発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認めることができる。
「給湯部21側からふろへのお湯はり経路の途中に設けられて給水源の水圧と縁切りしたい水である逆流水の水圧との圧力バランスにより開弁状態となって前記逆流水を排水し縁切りする縁切り装置23を、電磁弁22及び逆止弁24と共に備えた逆流を防止する装置において、
前記縁切り装置23は、中心軸が水平方向になるように形成されて大気へ通じる円管状の排水口を有している逆流を防止する装置。」

なお、被請求人は、「甲3号証の【図2】についても、縁切り装置自体が記載されているだけで、これが給湯器の配管中においていかなる向きで接続されるかについては何ら記載されておらず、排水口が水平方向となるかどうかは明らかではない。したがって、本件発明の構成要件Bのうち、『中心軸が水平方向になる』という点については、甲3号証には記載されていない。」(答弁書6頁23?27行)旨、及び「ボディ1に設けられた『ガイド』なるものが一体どの部分であるか、また、どのような構成であるか、当該段落ないし【図2】からは定かでなく、そのため、『縁切り装置が水平方向に使われ』るとは、具体的に縁切り装置がどのような姿勢となるのか明らかではない。したがって、段落【0020】の記載から、『排出口の水平構成』を読み取ることはできない。また、【図2】についても、答弁書で述べたとおり、縁切り装置それ自体が記載されているだけで、これに基づいて、『排出口の水平構成』が開示されているとは言えない。よって、甲第3号証には、『排出口の中心軸が水平方向になるようにすること』(『排出口の水平構成』)は開示されていない。」(平成25年11月1日付け口頭審理陳述要領書5頁3?12行)旨主張するが、上述したとおり、縁切り装置23は、中心軸が水平方向になるように形成された排水口を有するものということができるから、被請求人のこれらの主張は採用することができない。

(2)対比
本件特許発明(以下、「前者」ということがある。)と甲3発明(以下、「後者3」ということがある。)とをその機能・作用も考慮して対比する。
・後者3の「給湯部21側からふろへのお湯はり経路」は、前者の「給湯管から浴槽への配管」に相当し、後者3の「給湯部21側からふろへのお湯はり経路の途中に設けられて」との態様は、前者の「給湯管から浴槽への配管の途中に設けられて」との態様に相当する。
また、後者3の「給水源の水圧」は、前者の「給水圧」に相当し、後者3の「開弁状態となって」との態様は、前者の「開弁して」との態様に相当し、そして、後者3の「給水源の水圧と縁切りしたい水である逆流水の水圧との圧力バランスにより開弁状態となって」との態様は、前者の「給水圧の低下に応動することにより開弁して」との態様に相当する。
また、後者3の「逆流水」は、前者の「汚水」に相当し、後者3の「逆流水を排水し縁切りする」態様は、給湯部21側からふろへのお湯はり経路を大気に開放することになり、ふろから給水管を含む給湯部21側への逆流水の逆流を防止することは明らかであるから、前者の「配管を大気に開放することにより浴槽から給水管への汚水の逆流を防止する」態様に相当する。
また、後者3の「縁切り装置23」は、前者の「大気開放弁」に相当し、そして、後者3の「縁切り装置23を、電磁弁22及び逆止弁24と共に備えた」態様は、前者の「大気開放弁を備えた」態様に相当する。
さらに、後者3の「逆流を防止する装置」は、前者の「逆流防止装置」に相当する。
よって、後者3の「給湯部21側からふろへのお湯はり経路の途中に設けられて給水源の水圧と縁切りしたい水である逆流水の水圧との圧力バランスにより開弁状態となって前記逆流水を排水し縁切りする縁切り装置23を、電磁弁22及び逆止弁24と共に備えた逆流を防止する装置」は、前者の「給湯管から浴槽への配管の途中に設けられて給水圧の低下に応動することにより開弁して前記配管を大気に開放することにより前記浴槽から給水管への汚水の逆流を防止する大気開放弁を備えた逆流防止装置」に相当する。

・後者3の「排水口」は、前者の「排出口」に相当する。

したがって、両者は、
「給湯管から浴槽への配管の途中に設けられて給水圧の低下に応動することにより開弁して前記配管を大気に開放することにより前記浴槽から給水管への汚水の逆流を防止する大気開放弁を備えた逆流防止装置において、
前記大気開放弁は、中心軸が水平方向になるように形成されて大気へ通じる円管状の排出口を有している逆流防止装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
排出口について、本件特許発明では、先端に向かって外径が小さくなるテーパ面を外周部に備えているのに対して、甲3発明では、そのような特定がされていない点。

[相違点2]
排出口について、本件特許発明では、先端の重力方向下方の位置に切り欠き部を備えているのに対して、甲3発明では、そのような特定がされていない点。

(3)判断
上記相違点1、2は、それぞれ、本件特許発明と甲2発明を対比した際の「相違点1」、「相違点2」と実質的に同じものであり、上記「3-1.(3)」の[相違点2について]において述べた理由と同様の理由により、上記相違点2に係る本件特許発明の構成とすることは、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
よって、本件特許発明は、甲3発明、甲8発明及び周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

3-4.甲第4号証に基づく場合について
(1)甲4発明
甲第4号証の図2からは、電磁弁108、逆止弁109、大気開放弁112及び逆止弁110が、給湯管106に接続されている給湯装置と浴槽111との間の配管に接続されることがみてとれる。ここで、電磁弁108は閉弁することにより、逆止弁109は閉弁することにより、大気開放弁112は排水口114より排水することにより、また、逆止弁110は閉弁することにより、それぞれ水(お湯)の逆流を防止できるから、これら電磁弁108、逆止弁109、大気開放弁112及び逆止弁110が逆流を防止する装置を構成していることが理解できる。また、甲第4号証において、図1の大気開放弁は図2の大気開放弁114に換えて用いられるものである。そうすると、甲第4号証には、給湯管106に接続されている給湯装置と浴槽111との間の配管に接続され、前記給湯装置への給水管の元圧の低下に応動して全開位置に保持して前記配管を大気に開放することにより前記浴槽111内の汚水が前記給湯管106の方まで逆流することを防止する大気開放弁を、電磁弁108、二つの逆止弁109,110と共に備えた逆流を防止する装置が示されているといえる。
また、排水口4は、逆流水を適切な場所にまで誘導し、しかる後に排水を行うようにするために、ホースの接続が予定されているものであり、大気へ通じるとともに、ホースの断面形状に合わせて円管状に形成されていることは明らかである。

よって、甲第4号証の記載事項及び図面からみてとれる内容を本件特許発明の表現にならって整理すると、甲第4号証には、次の事項からなる発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認めることができる。
「給湯管106に接続されている給湯装置と浴槽111との間の配管に接続され、前記給湯装置への給水管の元圧の低下に応動して全開位置に保持して前記配管を大気に開放することにより前記浴槽111内の汚水が前記給湯管106の方まで逆流することを防止する大気開放弁を、電磁弁108、二つの逆止弁109,110と共に備えた逆流を防止する装置において、
前記大気開放弁は、大気へ通じる円管状の排水口4を有している逆流を防止する装置。」

なお、請求人は、「排水口4は図1に示されるように、中心軸が水平方向を向くように形成されて大気へ通じるから、甲第4号証の排水口4は本件特許の『排出口』に相当する。」(審判請求書13頁20?22行)旨の主張、「図1には排水口4が水平方向を向いていることが示されており、先端は大気に開放している。」(審判請求書21頁12?13行)旨、及び「図1には排水口4が水平方向を向いている様子が示され、また明細書中には排水口4の方向に関し水平方向を積極的に除外する旨の記載は存在しない。また、図1に示す形態は、図2に示すもののように、上向きの排水口という明らかに図面の都合からのみ表示され通常にはあり得ない状況を示したものとは明らかに異なる。これらのことを併せて考えれば、図1を見た当業者の認識としては、排水口は横を向いている、とまずは認識するのが自然なことと思われる。」(平成25年10月15日付け口頭審理陳述要領書3頁6?14行)旨主張するが、甲第4号証中の図1に示された大気開放弁がどのように設置されるかは甲第4号証には何ら記載がなく、排水口4が下方を向いた状態で設置することも想定することができるから、排水口4が水平方向を向いているとすることはできず、請求人のこれらの主張は採用することができない。

(2)対比
本件特許発明(以下、「前者」ということがある。)と甲4発明(以下、「後者4」ということがある。)とをその機能・作用も考慮して対比する。
・後者4の「給湯管106」は、前者の「給湯管」に相当し、後者4の「浴槽111」は、前者の「浴槽」に相当し、そして、後者4の「給湯管106に接続されている給湯装置と浴槽111との間の配管に接続され」との態様は、前者の「給湯管から浴槽への配管の途中に設けられて」との態様に相当する。
また、後者4の「給湯装置への給水管の元圧の低下」は、前者の「給水圧の低下」に相当し、後者4の「全開位置に保持」は、前者の「開弁」相当し、そして、後者4の「給湯装置への給水管の元圧の低下に応動して全開位置に保持して」との態様は、前者の「給水圧の低下に応動することにより開弁して」との態様に相当する。
また、後者4の「浴槽111内の汚水が給湯管106の方まで逆流することを防止する」態様は、前者の「浴槽から給水管への汚水の逆流を防止する」態様に相当する。
また、後者4の「大気開放弁を、電磁弁108、二つの逆止弁109,110と共に備えた」態様は、前者の「大気開放弁を備えた」態様に相当する。
さらに、後者4の「逆流を防止する装置」は、前者の「逆流防止装置」に相当する。
よって、後者4の「給湯管106に接続されている給湯装置と浴槽111との間の配管に接続され、前記給湯装置への給水管の元圧の低下に応動して全開位置に保持して前記配管を大気に開放することにより前記浴槽111内の汚水が前記給湯管106の方まで逆流することを防止する大気開放弁を、電磁弁108、二つの逆止弁109,110と共に備えた逆流を防止する装置」は、前者の「給湯管から浴槽への配管の途中に設けられて給水圧の低下に応動することにより開弁して前記配管を大気に開放することにより前記浴槽から給水管への汚水の逆流を防止する大気開放弁を備えた逆流防止装置」に相当する。

・後者4の「排水口4」は、前者の「排出口」に相当する。

したがって、両者は、
「給湯管から浴槽への配管の途中に設けられて給水圧の低下に応動することにより開弁して前記配管を大気に開放することにより前記浴槽から給水管への汚水の逆流を防止する大気開放弁を備えた逆流防止装置において、
前記大気開放弁は、大気へ通じる円管状の排出口を有している逆流防止装置。」
の点で一致し、以下の各点で相違している。

[相違点1]
排出口について、本件特許発明では、中心軸が水平方向になるように形成されているのに対して、甲4発明では、そのような特定がされていない点。

[相違点2]
排出口について、本件特許発明では、先端に向かって外径が小さくなるテーパ面を外周部に備えているのに対して、甲4発明では、そのような特定がされていない点。

[相違点3]
排出口について、本件特許発明では、先端の重力方向下方の位置に切り欠き部を備えているのに対して、甲4発明では、そのような特定がされていない点。

(3)判断
上記相違点2、3は、それぞれ、本件特許発明と甲2発明を対比した際の「相違点1」、「相違点2」と実質的に同じものであり、上記「3-1.(3)」の[相違点2について]において述べた理由と同様の理由により、上記相違点3に係る本件特許発明の構成とすることは、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
よって、本件特許発明は、上記相違点1についての検討を要するまでもなく、甲4発明、甲8発明及び周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

3-5.小括
以上のとおり、本件特許発明は、甲1発明ないし甲4発明のいずれかと、甲8発明及び上記周知技術とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。
したがって、本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当しないから、無効にすることはできない。
よって、無効理由1は理由がない。

4.無効理由2について
甲第1号証ないし甲第4号証の各刊行物毎に無効理由2の検討を行うにあたり、共通して用いられる甲第9号証に記載された発明の認定を行う。
[甲第9号証に記載された発明について]
甲第9号証の記載事項及び図面からみてとれる内容によると、甲第9号証には、伝熱管2の内部に滞留した熱媒または水蒸気ドレン水3が凍結して、伝熱管2や下ヘッダー1bとの接合部Aなどを変形または破損に至らしめることを防止するために、接合部Aの熱源または水蒸気ドレン水3の表面張力を弱めて、伝熱管2内部に滞留させることなく、下流側のヘッダーに流出させるよう、十分な勾配が取れない状態で配置された伝熱管2の水または水蒸気ドレン水3を排出する側の端部を、先端を鋭角に複数個切断した切欠き部4(複数の切欠きが形成されたものとなる。)を設けたものとすることが記載されている。
ここで、甲第9号証の第3図からは、切欠き部4においてハッチングが施されていないのに対して、切欠き部4以外の部分でハッチングが施されていることや、伝熱管の先端の開口縁部近くの部位は殆どが空隙となっていることがみてとれること等も考え合わせれば、切欠き部4の切欠きが重力方向下方の位置にはないと解するのは不自然というべきであり、切欠き部4の切欠きが周方向に沿って一定ピッチで設けられ、切欠き部4の切欠きが重力方向下方の位置にも設けられているものと理解するのが相当である。
そこで、甲第9号証には、「中心軸が略水平方向になるように形成された円管状の排出口(『十分な勾配が取れない状態で配置された伝熱管2の水または水蒸気ドレン水3を排出する側の端部』が相当。括弧内、以下同様。)を、先端の重力方向下方の位置にも切り欠き部(切欠き部4の切欠き)を備えた(設けた)ものとすること」(以下、「甲9発明」という。)が記載されていると認める。

なお、被請求人は、「甲第9号証には、その切り欠き部が『重力方向下方の位置』に設けられていることについては明記されていない。請求人は『第3図』等を挙げて、重力方向下方の位置に切り欠き部がある旨を述べるが、これからは、重力方向下方の位置に切り欠き部があることは読み取れない。・・・甲第9号証にかかる発明(以下、『甲9発明』という。)において『切り欠き』を設ける理由は、『伝熱管先端に作られる水の表面張力が弱ま』るためである(甲第9号証2頁左上欄下から1行目)。つまり、甲9発明において切り欠きを設けるのは、円管先端部での表面張力によるドレン水等の滞留を防止するためであるから、円管先端部のいずれかの部分が欠けてさえいれば、円管先端に均一に作用する水の表面張力を弱めることができる。したがって、甲第9号証においては、切り欠き部を重力方向下方の位置に設けるべきであることの示唆は全くないというべきであり、請求人の主張は失当である。」(答弁書15頁15?16頁2行)旨主張するが、上述したとおり、甲第9号証に記載された切欠き部4の切欠きは、重力方向下方の位置にも設けられているものと理解することができるから、被請求人のかかる主張は採用することができない。

そして、請求人と被請求人との間で、甲第2号証についての争いが少ないので、まず、甲第2号証に基づく無効理由の検討を行う。

4-1.甲第2号証に基づく場合について
(1)甲2発明
甲2発明は、上記「3-1.(1)」に示したとおりである。

(2)対比
本件特許発明と甲2発明とを対比すると、上記「3-1.(2)」において示したとおりの一致点及び相違点1、2になる。

(3)判断
相違点について検討する。
[相違点1について]
上記「3-1.(3)」の[相違点1について]において述べた理由と同様の理由により、相違点1に係る本件特許発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

[相違点2について]
上記「3-1.(3)」の[相違点2について]において述べたように、甲2発明において、排出口に滞留する水が給水側へ逆流することを防止するという課題は、認識されるべきものとはいえず、請求人が提出した逆流防止装置に関する甲第1ないし4号証の記載を参酌しても、大気(外部)へ通じる円管状の排出口の内部に汚水が滞留することを問題として認識することができないことから、甲2発明に甲9発明を適用することも当業者が容易に着想し得ない。
また、甲9発明において、伝熱管2の水または水蒸気ドレン水3を排出する側の端部に設けられた切欠き部4の切欠きは、接合部Aの熱源または水蒸気ドレン水3の表面張力を弱めて、伝熱管2内部に滞留させることなく、下流側のヘッダーに流出させて、伝熱管2の内部に滞留した熱媒または水蒸気ドレン水3が凍結して、伝熱管2や下ヘッダー1bとの接合部Aなどを変形または破損に至らしめることを防止するものであり、伝熱管2の水または水蒸気ドレン水3を排出する側の端部に残留した水または水蒸気ドレン水3の逆流を防止するためのものではなく、しかも、甲2発明における、中心軸が水平方向になるように形成された円管状の排出口(排水路9)は、浴槽からの汚水の逆流水が給水側に逆流することを防止するための逆流防止装置(メーンユニット50)に備えられた大気開放弁(縁切り弁7)が有しているものであって、熱交換器に備えられた伝熱管とは異なる技術分野のものであることからみても、甲2発明に甲9発明を適用することは当業者が容易に着想し得ないものである。
そうすると、甲9発明が、中心軸が略水平方向になるように形成された円管状の排出口は、先端の重力方向下方の位置にも切り欠き部を備えた構成を有するものであるとしても、甲2発明に甲9発明を適用する動機付けはないものといわざるを得ない。
よって、甲2発明において、甲9発明を適用し、上記相違点2に係る本件特許発明の構成とすることは、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。

なお、請求人は、「甲第9号証の明細書第1頁左欄下から3行目から同頁右欄第8行目には、・・・横向き排水管における残留水の発生の問題が開示されており、この点において本件特許発明と同一の課題である。また、甲第9号証には甲第1号証乃至甲第4号証に開示されていた課題を解消する手段であるところの、横向き排水管(伝熱管2)の先端部の残留水を重力方向下方に切欠き部を設けることによって解消する構成が開示されている。したがって、当業者であれば、甲第1号証乃至甲第4号証のいずれかに甲第9号証の技術を適用することにより、横向き排水管の残留水を効果的に排水し、かかる残留水が給水側まで逆流することを防止できるようにする、との考えに至ることはごく自然なことであり、何らの困難性はない。」(審判請求書28頁26行?29頁11行)旨、及び「組み合わせの可否は形式的な技術分野の異同に依るのではなく、あくまでも当業者が引用発明から請求項に記載された発明に容易に到達し得たかどうかの具体的論理を形成できるか否かによるべきである。甲第1号証等には横向き排水管内における残留水発生の課題が内在し、甲第9号証にはそのような課題に対する具体的解決策としての『切欠き部』が開示されているのであるから、甲第9号証のものを適用して課題解決を図ろうとするのは、極めて自然なことであり、当業者であれば両者を組み合わせることは極めて容易なことである。」(平成25年10月15日付け口頭審理陳述要領書13頁15?23行)旨主張するが、上述したとおり、甲2発明に甲9発明を適用する動機付けはないから、請求人のこれらの主張は採用できない。

そして、本件特許発明の全体構成により奏される「給水圧の回復後、再度、給水圧が低下して大気開放弁が開放したときに、排出口に残っている汚水を引き連れて給湯装置の方まで吸引してしまうという現象が発生することもない。」(特許明細書等の段落【0027】)という作用効果は、甲2発明、甲9発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲のものとはいえない。

よって、本件特許発明は、甲2発明、甲9発明及び周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

4-2.甲1号証に基づく場合について
(1)甲1発明
甲1発明は、上記「3-2.(1)」に示したとおりである。

(2)対比
本件特許発明と甲1発明とを対比すると、上記「3-2.(2)」において示したとおりの一致点及び相違点1ないし3になる。

(3)判断
相違点2、3は、それぞれ、本件特許発明と甲2発明を対比した際の「相違点1」、「相違点2」と実質的に同じものであり、上記「4-1.(3)」の[相違点2について]において述べた理由と同様の理由により、相違点3に係る本件特許発明の構成とすることは、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
よって、本件特許発明は、相違点1についての検討を要するまでもなく、甲1発明、甲9発明及び周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

4-3.甲第3号証に基づく場合について
(1)甲3発明
甲3発明は、上記「3-3.(1)」に示したとおりである。

(2)対比
本件特許発明と甲3発明とを対比すると、上記「3-3.(2)」において示したとおりの一致点及び相違点1、2になる。

(3)判断
相違点1、2は、それぞれ、本件特許発明と甲2発明を対比した際の「相違点1」、「相違点2」と実質的に同じものであり、上記「4-1.(3)」の[相違点2について]において述べた理由と同様の理由により、相違点2に係る本件特許発明の構成とすることは、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
よって、本件特許発明は、甲3発明、甲9発明及び周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

4-4.甲第4号証に基づく場合について
(1)甲4発明
甲4発明は、上記「3-4.(1)」に示したとおりである。

(2)対比
本件特許発明と甲4発明とを対比すると、上記「3-4.(2)」において示したとおりの一致点及び相違点1ないし3になる。

(3)判断
相違点2、3は、それぞれ、本件特許発明と甲2発明を対比した際の「相違点1」、「相違点2」と実質的に同じものであり、上記「4-1.(3)」の[相違点2について]において述べた理由と同様の理由により、相違点3に係る本件特許発明の構成とすることは、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
よって、本件特許発明は、相違点1についての検討を要するまでもなく、甲4発明、甲9発明及び周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

4-5.小括
以上のとおり、本件特許発明は、甲1発明ないし甲4発明のいずれかと、甲9発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとすることはできない。
したがって、本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当しないから、無効にすることはできない。
よって、無効理由2は理由がない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許を無効にすることはできない。
審判に関する費用については、特許法169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-12-02 
結審通知日 2013-12-04 
審決日 2013-12-17 
出願番号 特願2008-124336(P2008-124336)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (F16K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 熊谷 健治  
特許庁審判長 新海 岳
特許庁審判官 藤井 昇
槙原 進
登録日 2011-10-28 
登録番号 特許第4849644号(P4849644)
発明の名称 逆流防止装置  
代理人 松尾 卓哉  
代理人 森下 賢樹  
代理人 植村 元雄  
代理人 特許業務法人グランダム特許事務所  
復代理人 横井 康真  
代理人 三木 友由  

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