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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1284526
審判番号 不服2012-20750  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-10-22 
確定日 2014-02-05 
事件の表示 特願2005-241038「磁気メモリ素子,その動作方法及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 3月 2日出願公開,特開2006- 60236〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成17年8月23日(パリ条約による優先権主張2004年8月23日,大韓民国)の出願であって,平成23年7月1日付けで拒絶の理由が通知され,同年11月7日に意見書と手続補正書が提出され,平成24年6月20日付けで拒絶査定がなされた。
その後,同年10月22日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され,平成25年3月19日付けで審尋を行い,同年6月26日に回答書が提出された。

第2 補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成24年10月22日に提出された手続補正書による補正を却下する。

[理 由]
1 補正の内容
平成24年10月22日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は,補正前の特許請求の範囲の請求項1-14を補正して,補正後の請求項1-14とするものであり,補正前後の請求項1は,各々次のとおりである。

(補正前)
「【請求項1】
磁気トンネル接合層を備える磁気メモリ素子において,
前記磁気トンネル接合層は,構成要素が同心に備えられた円筒形であり,
前記磁気トンネル接合層は,
書き込み電流が印加される導電層と,
前記導電層の周りに前記導電層と同心に備えられた絶縁膜と,
前記絶縁膜の周りに前記導電層と同心に備えられた複数の磁性膜を備える物質層と,
を備え,
前記複数の磁性膜は,前記導電層に沿って軸方向に順次に積層された少なくとも下部磁性膜,トンネリング膜及び上部磁性膜を備え,
前記下部磁性膜は,SmCo膜またはNdFeB膜といったハード磁性体からなるピンド膜を有し,また,前記上部磁性膜は,NiFe膜あるいは順次に積層されたCoFe膜及びNiFe膜といったソフト磁性膜であることを特徴とする磁気メモリ素子。」

(補正後)
「【請求項1】
磁気トンネル接合層を備える磁気メモリ素子において,
前記磁気トンネル接合層は,構成要素が同心に備えられた円筒形であり,
前記磁気トンネル接合層は,
書き込み電流が印加される導電層と,
前記導電層の周りに前記導電層と同心に備えられた絶縁膜と,
前記絶縁膜の周りに前記導電層と同心に備えられた複数の磁性膜を備える物質層と,
を備え,
前記複数の磁性膜は,前記導電層に沿って軸方向に順次に積層された少なくとも下部磁性膜,トンネリング膜及び上部磁性膜を備え,
前記下部磁性膜は,NdFeB膜といったハード磁性体からなるピンド膜を有し,また,前記上部磁性膜は,NiFe膜あるいは順次に積層されたCoFe膜及びNiFe膜といったソフト磁性膜であることを特徴とする磁気メモリ素子。」

2 補正事項の整理
本件補正の補正事項を整理すると次のとおりである。

(1)補正事項1
補正前の請求項1の「前記下部磁性膜は,SmCo膜またはNdFeB膜といったハード磁性体からなるピンド膜を有し」を補正して,補正後の請求項1の「前記下部磁性膜は,NdFeB膜といったハード磁性体からなるピンド膜を有し」にすること。

(2)補正事項2
補正前の請求項4の「前記第2導電層ライン」を補正して,補正後の請求項4の「前記第2導電性ライン」にすること。

(3)補正事項3
補正前の請求項10の「前記下部磁性膜は,SmCo膜またはNdFeB膜といったハード磁性体からなるピンド膜を有し」を補正して,補正後の請求項10の「前記下部磁性膜は,NdFeB膜といったハード磁性体からなるピンド膜を有し」にすること。

(4)補正事項4
補正前の請求項13の「前記下部磁性膜は,SmCo膜またはNdFeB膜といったハード磁性体からなるピンド膜を有し」を補正して,補正後の請求項13の「記下部磁性膜は,NdFeB膜といったハード磁性体からなるピンド膜を有し」にすること。

3 新規事項追加の有無,及び,補正の目的の適否についての検討
(1)補正事項1,3,4について
補正事項1,3,4により補正された部分は,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。また,本願の願書に最初に添付した明細書を「当初明細書」という。)に記載されているものと認められるから,補正事項1,3,4は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって,補正事項1,3,4は,当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから,特許法第17条の2第3項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項をいう。以下同じ。)に規定する要件を満たす。
また,補正事項1,3,4は,補正前の各請求項における,「SmCo膜またはNdFeB膜といったハード磁性体」を「NdFeB膜といったハード磁性体」に限定しようとするものであるから,特許法第17条の2第4項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項をいう。以下同じ。)第2号に掲げる,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
したがって,補正事項1,3,4は,特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たす。

(2)補正事項2について
補正事項2により補正された部分は,当初明細書等に記載されているものと認められるから,補正事項2は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって,補正事項2は,当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。
また,補正事項2は,誤記を訂正しようとするものであるから,特許法第17条の2第4項第3号に掲げる,誤記の訂正を目的とするものに該当する。
したがって,補正事項2は,特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たす。

(3)新規事項追加の有無,及び,補正の目的の適否についてのまとめ
以上検討したとおりであるから,本件補正は,特許法第17条の2第3項及び第4項に規定する要件を満たすものである。
そして,本件補正は,特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであるから,本件補正による補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か,すなわち,本件補正がいわゆる独立特許要件を満たすものであるか否かについて,以下において更に検討する。

4 独立特許要件についての検討
(1)補正後の発明
本件補正による補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明1」という。)は,本件補正により補正された明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定されるとおりのものであり,再掲すると次のとおりである。

「【請求項1】
磁気トンネル接合層を備える磁気メモリ素子において,
前記磁気トンネル接合層は,構成要素が同心に備えられた円筒形であり,
前記磁気トンネル接合層は,
書き込み電流が印加される導電層と,
前記導電層の周りに前記導電層と同心に備えられた絶縁膜と,
前記絶縁膜の周りに前記導電層と同心に備えられた複数の磁性膜を備える物質層と,
を備え,
前記複数の磁性膜は,前記導電層に沿って軸方向に順次に積層された少なくとも下部磁性膜,トンネリング膜及び上部磁性膜を備え,
前記下部磁性膜は,NdFeB膜といったハード磁性体からなるピンド膜を有し,また,前記上部磁性膜は,NiFe膜あるいは順次に積層されたCoFe膜及びNiFe膜といったソフト磁性膜であることを特徴とする磁気メモリ素子。」

(2)引用例とその記載事項,及び,引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である下記の引用例1には,次の事項が記載されている。(なお,下線は,当合議体において付したものである。以下同じ。)

ア 引用例1:特開平11-353867号公報
(1a)「【請求項1】 閉磁路構造の第1の磁性層と,前記第1の磁性層よりも高い保磁力を有する閉磁路構造の第2の磁性層とを非磁性層を介して積層して成り,前記第1,第2の磁性層は左回りもしくは右回りに容易軸を有し,前記第1,第2の磁性層の磁化方向の相対角度によって,異なる抵抗値を有する磁性薄膜メモリ素子であって,前記第1,第2の磁性層の膜面に対し垂直方向に電流を供給し,発生する磁界によって情報を記録する電流路の長さを0.05μm以上,2μm以下とすることを特徴とする磁性薄膜メモリ素子。
【請求項2】 前記第1の磁性層の前記非磁性層と接する面とは反対側の面,もしくは前記第2の磁性層の前記非磁性層と接する面とは反対側の面の少なくとも一方に,前記第1,第2の磁性層よりも導電率の高い良導体層を形成し,前記第1,第2の磁性層,非磁性層及び前記良導体層を含んで前記電流路を構成することを特徴とする請求項1に記載の磁性薄膜メモリ素子。
【請求項3】 前記第1,第2の磁性層,前記非磁性層の膜面の略中心部に膜面に対し垂直方向に絶縁層を介して前記第1,第2の磁性層よりも導電率の高い電流供給用の良導体を設けたことを特徴とする請求項1に記載の磁性薄膜メモリ素子。」(【特許請求の範囲】)

(1b)「【発明が解決しようとする課題】しかしながら,上記従来の薄膜磁気メモリにおいては,ビットセルの面積を小さくするほど磁性層内部で生じる反磁界(自己減磁界)が無視できなくなり,記録保持する磁性層の磁化方向が一定方向に定まらず不安定になるという問題があった。そのため,ビットセルを微細化するには限度があり,高集積化を十分に行うことができなかった。
本発明は,上記従来の問題点に鑑み,磁性膜の反磁界の影響をなくし,より高集積化が可能な磁性薄膜メモリ素子及びそれを用いた情報記録方法,情報再生方法を提供することを目的とする。」(【0006】-【0007】)

(1c)「また,本実施形態では,第1,第2の磁性層1,2の磁化方向が同方向のときは第1,第2の磁性層1,2間の抵抗は低い抵抗値を示し,第1,第2の磁化方向が反対方向のときは高い抵抗値を示す。このように第1の磁性層1の磁化方向によってメモリ素子の抵抗値が異なるので,これを利用して磁化情報を読み出すことができる。また,“0”,“1”の磁化情報は第1,第2の磁性層1,2の磁化方向の左回りもしくは右回りに対応させて記録する。即ち,第1,第2の磁性層1,2の膜面に対して垂直方向(図1のt方向)に上向きまたは下向きに電流を供給し,これによって発生する磁界により第1の磁性層1もしくは第2の磁性層2の磁化を反転させて行う。情報の記録及び再生方法については詳しく後述する。本実施形態では,第1,第2の磁性層1,2が閉磁路構造となっているので,反磁界の影響をなくすことができ,安定して磁化情報を記録することができる。従って,1ビットのセル幅を小さくでき,集積度の高いメモリ装置を実現でき,更に漏洩磁界が隣接セルに洩れることがなく,安定して記録再生を行うことができる。」(【0015】)

(1d)「図7は本発明の第3の実施形態を示す図である。本実施形態では,メモリ素子の中心部に記録電流を供給するための導電体5を設けている。導電体5は絶縁体6に覆われていて,第1,第2の磁性層1,2よりも導電率の高いものを用いている。絶縁体6は導電体5が磁性層と電気的に接触するのを防ぐために設けているが,絶縁体6の厚みが厚いと導電体5と各磁性層との距離が遠くなって磁性層に印加する磁界が小さくなるので極力薄い方がよい。本実施形態では,記録時に磁性層に電流を供給せず,導電体5に供給するので,抵抗が小さくなり,消費電力を低減でき,また,応答性にも優れている。」(【0023】)

(1e)「また,図7に示すメモリ素子の構成では,磁化方向を定める電流は導電体5に流し,抵抗値を測定する電流は第1の磁性層1と第2の磁性層2間に流す。この場合の最適な実施形態を,第4,第5の実施形態としてそれぞれ図11,図12に示す。図11は第4の実施形態のメモリ素子の断面図を示したものであるが,この構成では,磁化方向を定める場合は,導電体71と72の間に電位差を設けて導電体5に電流を流す。メモリ素子の抵抗値を測定する場合は,第1の磁性層1の上面に設けられた導電体からなる電極61,63と,第2の磁性層2の下面に設けられた導電体からなる電極62と64の間に電流を流す。これは,CPP検出の場合であり,後述するスピントンネルとスピン散乱の両タイプの素子を検出する時に用いられる。
図12の構成は,第5の実施形態のメモリ素子の断面図を示しているが,この構成では,図11の電極62と64を削除しており,抵抗値を測定する場合には電極61と電極63に電流を流す。この場合は,CIP検出であり,後述するスピン散乱のタイプの素子を検出する場合に用いられる。スピン散乱の素子は磁性層の膜厚が薄く,CPP検出では抵抗値が小さいため,望ましくはCIP検出を用いるのが良い。
次に,磁性薄膜メモリ素子の第1,第2の磁性層,非磁性層の材料及びそれらの膜厚について説明する。ここで,メモリ素子膜構成として,スピントンネル膜構成とスピン散乱膜構成を採ることができ,これは,前述の第1のタイプの「メモリ層/非磁性層/ピン層」,第2のタイプの「検出層/非磁性層/メモリ層」のいずれの構成にも適用できる。但し,スピントンネル膜構成とスピン散乱膜構成では,スピントンネル膜構成を用いることが望ましい。これは,スピントンネル膜構成では,大きな磁気抵抗(MR)比が得られ,また,その抵抗値を1kΩ以上と抵抗値を大きくすることができ,半導体スイッチング素子のオン抵抗(約1kΩ程度)のばらつきの影響を受けにくいためである。また,後述するようにスピントンネル膜は,磁性膜を比較的厚くすることができるため,図1,図6,図7のいずれの実施形態にも採用できるが,スピン散乱膜は全磁性層及び非磁性層の膜厚を0.05μm以上に厚くすることが難しいため,図6もしくは図7の実施形態に用いるのが望ましい。
第1の磁性層,第2の磁性層は,Ni,Fe,Coの少なくとも一種を主成分として用いるか,CoFeを主成分とするアモルファス合金として用いるのが望ましい。例えば,NiFe,NiFeCo,Fe,FeCo,Co,CoFeBなどの磁性膜からなる。
(第1の磁性層の材料)第1の磁性層は,第2の磁性層よりも低い保磁力を有する。このため,第1の磁性層には,Niを含む軟磁性膜が望ましく,具体的には,特にNiFe,NiFeCoを主成分として用いるのが望ましい。また,FeCoでFe組成の多い磁性膜,CoFeBなどの保磁力の低いアモルファス磁性膜でも良い。
NiFeCoの原子組成比は,Ni_(x)Fe_(y)Co_(z)とした場合,xは40以上95以下,yは0以上40以下,zは0以上50以下,好ましくはxは50以上90以下,yは0以上30以下,zは0以上40以下,更に好ましくはxは60以上85以下,yは10以上25以下,zは0以上30以下が良い。
また,FeCoの原子組成は,Fe_(x)Co_(100-x) とした場合,xは50以上100以下,好ましくはxは60以上90以下が良い。また,CoFeBの原子組成は,(Co_(x) Fe_(100-x ))_(100-y) B_(y) とした場合,xは86以上93以下,yは10以上25以下が良い。
(第2の磁性層の材料)第2の磁性層は,第1の磁性層よりも高い保磁力を有する。例として,第1の磁性層と比較してCoを多く含む磁性膜が望ましい。Ni_(x)Fe_(y)Co_(z)は,それぞれ原子組成比で,xは0以上40以下,yは0以上50以下,zは20以上95以下,好ましくはxは0以上30以下,yは5以上40以下,zは40以上90以下,更に好ましくはxは5以上20以下,yは10以上30以下,zは50以上85以下が良い。Fe_(x)Co_(100-x) は,原子組成比で,xは0以上50以下が良い。また,第2の磁性層に保磁力の精著,耐食性の向上などの目的でPt等の添加元素を加えても良い。
スピントンネル膜構成の場合,第1,第2の磁性層1,2間の非磁性層3として薄い絶縁層を用い,再生時に電流を膜面に対し垂直方向に供給する際に第1磁性層1から第2磁性層2へ電子のトンネル現象が起きるようにする。このようなスピントンネル型の磁性薄膜メモリ素子は,強磁性体金属において伝導電子がスピン偏極を起こしているため,フェルミ面における上向きスピンと下向きスピンの電子状態が異なっており,このような強磁性体金属を用いて強磁性体と絶縁体と強磁性体からなる強磁性トンネル接合を形成すると,伝導電子はそのスピンを保ったままトンネルするため,両磁性層1,2の磁化状態によってトンネル確率が変化し,それがトンネル抵抗の変化となって現われる。これにより,第1磁性層1と第2磁性層2の磁化方向が同方向の場合は第1,第2の磁性層1,2間の抵抗が小さく,第1磁性層1と第2磁性層2の磁化方向が反対方向の場合は抵抗が大きくなる。」(【0032】-【0040】)

(1f)図7は,引用例1に記載された発明の第3の実施形態を示す図であって,上記摘記(1a)-(1e)の記載を参酌すれば,同図から,
磁化方向を定める電流を流す導電体5と,
前記導電体5の周りに前記導電体5と同心に備えられた絶縁体6と,
前記導電体5に沿って軸方向に順次積層された第2の磁性層2,非磁性層3及び第1の磁性層からなる,前記絶縁体6の周りに同心に備えられた複数の磁性層を備えた物質層と,
を備えた,構成要素が同心に備えられた円筒形を呈する磁性薄膜メモリ素子。
の構造を読み取ることができる。

イ 引用発明
引用例1の上記摘記(1a)-(1f)の記載から,引用例1には,以下に示す発明(以下「引用発明」という。)が開示されていると認められる。

「スピントンネル膜構成の磁性薄膜メモリ素子であって,
前記磁性薄膜メモリ素子は,閉磁路構造の第1の磁性層と,前記第1の磁性層よりも高い保磁力を有する閉磁路構造の第2の磁性層とを,非磁性層を介して積層して成るものであり,
前記第1の磁性層,前記第2の磁性層,前記非磁性層の膜面の略中心部に膜面に対し垂直方向に絶縁層を介して前記第1の磁性層,前記第2の磁性層よりも導電率の高い電流供給用の導電体を有し,
前記第1の磁性層,前記第2の磁性層は,Ni,Fe,Coの少なくとも一種を主成分として用いるか,CoFeを主成分とするアモルファス合金として用いるのが望ましく,例えば,NiFe,NiFeCo,Fe,FeCo,Co,CoFeBなどの磁性膜からなるものであり,
前記第1の磁性層は,前記第2の磁性層よりも低い保磁力を有するものであり,Niを含む軟磁性膜が望ましく,具体的には,特にNiFe,NiFeCoを主成分として用いるのが望ましく,
前記第2の磁性層は,前記第1の磁性層よりも高い保磁力を有するものであり,例として,前記第1の磁性層と比較してCoを多く含む磁性膜が望ましく,
スピントンネル膜構成の場合,前記第1の磁性層,前記第2の磁性層の間の前記非磁性層として薄い絶縁層を用い,再生時に電流を膜面に対し垂直方向に供給する際に前記第1の磁性層から前記第2の磁性層へ電子のトンネル現象が起きるようにされるものであり,
前記電流供給用の導電体は,磁化方向を定める電流を流すものであり,
前記電流供給用の導電体と,前記電流供給用の導電体の周りに前記導電体と同心に備えられた絶縁体と,前記電流供給用の導電体に沿って軸方向に順次積層された前記第2の磁性層,前記非磁性層及び前記第1の磁性層からなる,前記絶縁体の周りに同心に備えられた複数の磁性層からなる構成要素が同心に備えられた円筒形を呈する,
スピントンネル膜構成の磁性薄膜メモリ素子。」

(3)本願補正発明1と引用発明との対比
ア 引用発明の「『前記第1の磁性層,前記第2の磁性層の間の前記非磁性層として薄い絶縁層を用い,再生時に電流を膜面に対し垂直方向に供給する際に前記第1の磁性層から前記第2の磁性層へ電子のトンネル現象が起きるようにされる』『磁性薄膜メモリ素子』」は,本願補正発明1の「磁気トンネル接合層を備える磁気メモリ素子」に相当する。

イ 引用発明の「『磁化方向を定める電流を流す』『電流供給用の導電体』」,「絶縁体」,「第2の磁性層」,「薄い絶縁層」及び「第1の磁性層」は,それぞれ本願補正発明1の「書き込み電流が印加される導電層」,「絶縁膜」,「下部磁性膜」,「トンネリング膜」及び「上部磁性膜」に相当する。

ウ 引用発明の「前記第2の磁性層は,前記第1の磁性層よりも高い保磁力を有するものであり」及び「前記第1の磁性層は,前記第2の磁性層よりも低い保磁力を有するものであり,Niを含む軟磁性膜が望ましく,具体的には,特にNiFe,NiFeCoを主成分として用いるのが望ましく」は,それぞれ,本願補正発明1の「ハード磁性体からなるピンド膜」及び「NiFe膜あるいは順次に積層されたCoFe膜及びNiFe膜といったソフト磁性膜」に相当する。

エ したがって,上記ア-ウの対応関係から,本願補正発明1と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。

<一致点>
磁気トンネル接合層を備える磁気メモリ素子において,
前記磁気トンネル接合層は,構成要素が同心に備えられた円筒形であり,
前記磁気トンネル接合層は,
書き込み電流が印加される導電層と,
前記導電層の周りに前記導電層と同心に備えられた絶縁膜と,
前記絶縁膜の周りに前記導電層と同心に備えられた複数の磁性膜を備える物質層と,
を備え,
前記複数の磁性膜は,前記導電層に沿って軸方向に順次に積層された少なくとも下部磁性膜,トンネリング膜及び上部磁性膜を備え,
前記下部磁性膜は,ハード磁性体からなるピンド膜を有し,また,前記上部磁性膜は,NiFe膜あるいは順次に積層されたCoFe膜及びNiFe膜といったソフト磁性膜である磁気メモリ素子。

<相違点>
・相違点1:本願補正発明1の下部磁性膜は,「NdFeB膜といったハード磁性体」であるのに対して,引用発明では,第2の磁性層は,「Ni,Fe,Coの少なくとも一種を主成分として用いるか,CoFeを主成分とするアモルファス合金として用いるのが望ましく,例えば,NiFe,NiFeCo,Fe,FeCo,Co,CoFeBなどの磁性膜からなるものであり」,「例として,第1の磁性層と比較してCoを多く含む磁性膜が望まし」いとされている点。

(4)本願補正発明1と引用発明との相違点についての判断
・相違点1について
ア 引用例1の特許請求の範囲の記載である,上記摘記(1a)には,「閉磁路構造の第1の磁性層と,前記第1の磁性層よりも高い保磁力を有する閉磁路構造の第2の磁性層とを非磁性層を介して積層して成り」と記載されている。
また,上記摘記(1b)には,発明が解決しようとする課題として,「しかしながら,上記従来の薄膜磁気メモリにおいては,ビットセルの面積を小さくするほど磁性層内部で生じる反磁界(自己減磁界)が無視できなくなり,記録保持する磁性層の磁化方向が一定方向に定まらず不安定になるという問題があった。そのため,ビットセルを微細化するには限度があり,高集積化を十分に行うことができなかった。本発明は,上記従来の問題点に鑑み,磁性膜の反磁界の影響をなくし,より高集積化が可能な磁性薄膜メモリ素子及びそれを用いた情報記録方法,情報再生方法を提供することを目的とする。」と記載され,上記摘記(1c)には,「本実施形態では,第1,第2の磁性層1,2が閉磁路構造となっているので,反磁界の影響をなくすことができ,安定して磁化情報を記録することができる。従って,1ビットのセル幅を小さくでき,集積度の高いメモリ装置を実現でき,更に漏洩磁界が隣接セルに洩れることがなく,安定して記録再生を行うことができる。」と記載されている。

イ そして,特許請求の範囲には,発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならないとされているのであるから,引用例1に記載された発明は,「閉磁路構造の第1の磁性層」と,「前記第1の磁性層よりも高い保磁力を有する閉磁路構造の第2の磁性層」とを非磁性層を介して積層した構造を備えたことを特徴の一つとして有するものといえる。
すなわち,引用例1に記載された発明は,第1の磁性層及び第2の磁性層を「閉磁路構造」とすることによって,「従来の薄膜磁気メモリにおいては,ビットセルの面積を小さくするほど磁性層内部で生じる反磁界(自己減磁界)が無視できなくなり,記録保持する磁性層の磁化方向が一定方向に定まらず不安定になるという問題があった。」という課題を解決して,「反磁界の影響をなくすことができ,安定して磁化情報を記録することができる。従って,1ビットのセル幅を小さくでき,集積度の高いメモリ装置を実現でき,更に漏洩磁界が隣接セルに洩れることがなく,安定して記録再生を行うことができる。」という効果を得た発明であると当業者であれば理解することができるといえる。

ウ してみれば,引用例1に記載された発明において,「第1の磁性層」及び「第2の磁性層」に求められるのは,それぞれが「閉磁路構造」であることと,「第2の磁性層」が「第1の磁性層」よりも高い保磁力を有することにあると認められる。

エ 一方,「高い保磁力を有する」等の特性をもって特定される部材を備えた製造物において,前記特性を改善するために当該部材の材質等を変更して最適化又は好適化することは,当業者が普通に行っていることといえる。

オ 他方,いずれも本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である下記の周知例1,2の記載からも明らかなように,「高い保磁力を有する」材料として「NdFeB」は,周知である。
してみれば,引用発明において,「第1の磁性層よりも高い保磁力を有するものであ」る「第2の磁性層」として,「高い保磁力を有する」材料として周知である「NdFeB」を用いること,すなわち上記相違点1について本願補正発明1の構成となすことは,当業者にとって容易である。
また,このような構成を採用したことによる効果は当業者が予測する範囲内のものである。
すなわち,本願明細書の【0057】の「このように,フリー磁性膜64eに加えられる磁場Hがフリー磁性膜64eを貫通せずに,フリー磁性膜64e内で同心円の閉鎖ループを形成するため,フリー磁性膜64eに含まれたあらゆる磁気モーメントは,円形の閉じられた磁場Hに沿って配列する。これにより,フリー磁性膜64eには,ドメインウォールピンニング及びボルテックスピンニングのような従来の異常ピンニング現象が表れない。」等の記載に照らして,本願明細書の【0048】に記載された「前記フリー磁性膜に従来の異常ピンニング現象が発生せずに,フリー磁性膜の全体を均一にスイッチングできる。これは,与えられた強度の磁場でMTJ層を均一にスイッチングできるということを意味するが,与えられた強度の磁場でスイッチングされないMTJ層の数を最小化できるということを意味する。また,前記したように,MTJ層の導電層の周りに形成される磁場は,円形の閉じられた形態であるため,低電流でも高磁場を得ることができる。」という本願補正発明1の効果は,「フリー磁性膜64eに加えられる磁場Hがフリー磁性膜64eを貫通せずに,フリー磁性膜64e内で同心円の閉鎖ループを形成する」等の構成によって奏されるものと理解でき,本願明細書及び図面の記載からは,下部磁性膜のハード磁性体として,特に「NdFeB膜」を選択して採用したことによって奏される顕著な効果は認めることはできない。

・周知例1:特開平11-87801号公報
(周1a)「【請求項1】 第1の強磁性膜(2)と前記第1の強磁性膜(2)に隣接する非磁性膜(3)と前記非磁性膜(3)に隣接する第2の強磁性膜(4)とを順次積層された積層単位膜(5)を有する磁気抵抗効果素子(1)であって,前記非磁性膜(3)がAu又はAuを主成分とする合金により形成されていることを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【請求項2】 前記第1の強磁性膜(2)が保磁力の小さい材料で形成されているとともに第2の強磁性膜(4)が前記第1の強磁性膜(2)より保磁力の大きい材料で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗効果素子。」(【特許請求の範囲】)

(周1b)「このガラス基板6には,上面に80%Ni-Fe合金の第1の強磁性膜2が成膜されている。この第1の強磁性膜2の厚さは1?50nmの範囲に形成すると良い。特に好ましくは,5?20nmの厚さにすることが好ましい。第1の強磁性膜2の材質としては,この他にFe-79Ni-Mo-Cu合金,Fe-50Ni,Fe-79Ni-5Mo合金およびFe-9.5Si-5.5Al等を用いると良い。一般的には,この第1の強磁性膜2は,比較的保磁力が小さく,残留磁比/飽和磁化である角形比が1に近い強磁性材料が望ましいのである。
次に,第1の強磁性膜2の上面にAuの非磁性膜3が積層に成膜されている。この非磁性膜3はAuを主成分とする合金,化合物でも良い。そして,この膜厚は0.5?10nmの範囲の寸法に形成されている。特に膜厚を1?5nmのときが良好である。
非磁性膜3の上面には,第2の強磁性膜4が積層に成膜されている。この第2の強磁性膜4はCoにより成膜されている。又,この他の材料としては,Fe-49Co-2V,Nd-Fe-BおよびFe-Cr-Coなどを用いることが好ましい。この第2の強磁性膜4は第1の強磁性膜2よりも保磁力が大きい材料にする必要がある。」(【0023】-【0025】)

・周知例2:特開平8-56025号公報
(周2a)「図5の改変形では,高保磁力の中心強磁性体層は,例えばパーマロイなどの軟質磁性体層14によって構成されており,該層はその磁化が,MnFe,NiO,またはTbCo形の反強磁性体層による交換異方性か,または(NdCo,SmCo,NdFeBをベースとする合金などの)硬質材料による直接結合のどちらかによって閉塞され,該補助層は19で示されている。図5では,層14は2つの部分に分割されており,その間に反強磁性体層または硬質磁性体層19が配置されている。その他のすべての層12ないし18および基板11も設けられている。」(【0030】)

(5)本願補正発明1についての判断
相違点1については,以上のとおりであるから,本願補正発明1は,上記引用例1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって,本願補正発明1は,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 補正の却下の決定のむすび
したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成24年10月22日に提出された手続補正書による補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は,平成23年11月7日に提出された手続補正書によって補正された明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される次のとおりのものであると認める。

「【請求項1】
磁気トンネル接合層を備える磁気メモリ素子において,
前記磁気トンネル接合層は,構成要素が同心に備えられた円筒形であり,
前記磁気トンネル接合層は,
書き込み電流が印加される導電層と,
前記導電層の周りに前記導電層と同心に備えられた絶縁膜と,
前記絶縁膜の周りに前記導電層と同心に備えられた複数の磁性膜を備える物質層と,
を備え,
前記複数の磁性膜は,前記導電層に沿って軸方向に順次に積層された少なくとも下部磁性膜,トンネリング膜及び上部磁性膜を備え,
前記下部磁性膜は,SmCo膜またはNdFeB膜といったハード磁性体からなるピンド膜を有し,また,前記上部磁性膜は,NiFe膜あるいは順次に積層されたCoFe膜及びNiFe膜といったソフト磁性膜であることを特徴とする磁気メモリ素子。」

2 進歩性について
(1)引用例及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である引用例1に記載されている事項は,上記「第2 4 (2)引用例とその記載事項,及び,引用発明」の項で指摘したとおりである。
したがって,引用例1には,以下に示す発明(以下「引用発明」という。)が開示されていると認められる。

「スピントンネル膜構成の磁性薄膜メモリ素子であって,
前記磁性薄膜メモリ素子は,閉磁路構造の第1の磁性層と,前記第1の磁性層よりも高い保磁力を有する閉磁路構造の第2の磁性層とを,非磁性層を介して積層して成るものであり,
前記第1の磁性層,前記第2の磁性層,前記非磁性層の膜面の略中心部に膜面に対し垂直方向に絶縁層を介して前記第1の磁性層,前記第2の磁性層よりも導電率の高い電流供給用の導電体を有し,
前記第1の磁性層,前記第2の磁性層は,Ni,Fe,Coの少なくとも一種を主成分として用いるか,CoFeを主成分とするアモルファス合金として用いるのが望ましく,例えば,NiFe,NiFeCo,Fe,FeCo,Co,CoFeBなどの磁性膜からなるものであり,
前記第1の磁性層は,前記第2の磁性層よりも低い保磁力を有するものであり,Niを含む軟磁性膜が望ましく,具体的には,特にNiFe,NiFeCoを主成分として用いるのが望ましく,
前記第2の磁性層は,前記第1の磁性層よりも高い保磁力を有するものであり,例として,前記第1の磁性層と比較してCoを多く含む磁性膜が望ましく,
スピントンネル膜構成の場合,前記第1の磁性層,前記第2の磁性層の間の前記非磁性層として薄い絶縁層を用い,再生時に電流を膜面に対し垂直方向に供給する際に前記第1の磁性層から前記第2の磁性層へ電子のトンネル現象が起きるようにされるものであり,
前記電流供給用の導電体は,磁化方向を定める電流を流すものであり,
前記電流供給用の導電体と,前記電流供給用の導電体の周りに前記導電体と同心に備えられた絶縁体と,前記電流供給用の導電体に沿って軸方向に順次積層された前記第2の磁性層,前記非磁性層及び前記第1の磁性層からなる,前記絶縁体の周りに同心に備えられた複数の磁性層からなる構成要素が同心に備えられた円筒形を呈する,
スピントンネル膜構成の磁性薄膜メモリ素子。」

また,原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である引用例2,3には,次の事項が記載されている。

ア 引用例2:特開平5-63254号公報
(2a)「【請求項1】 第1強磁性薄膜(11)と第2強磁性薄膜(12)とを薄い絶縁層を含む非磁性膜(13)を挟んで接合し,これにより生じる強磁性トンネル接合を利用した磁気抵抗素子において,
前記第1及び第2強磁性薄膜(11,12)はそれぞれの磁化容易軸(M1,M2)が互いに直交するように配置して設けられ,
前記第2強磁性薄膜(12)はその磁化容易軸方向の保磁力が前記第1強磁性薄膜(11)の磁化容易軸方向の保磁力より小さくかつ強磁性磁気抵抗効果を有することを特徴とする磁気抵抗複合素子。」(【特許請求の範囲】)

(2b)「本発明の保磁力の小さい第2強磁性薄膜12は従来の強磁性の磁気抵抗効果を有する材料,即ち電子と磁気モーメントとの相互作用の大きな材料により構成される。例示すればFe,Co,Ni元素のうち少なくとも2種以上含み,同時にCo元素の含有量が40at%以下の強磁性材料が挙げられる。また保磁力が大きい第1強磁性薄膜11はCoを主成分とする材料により構成される。例示すればCo,Co-Sm,Co-Cr-Fe,Co-Pt,Co-Pt-Ni,Co-Pt-V等のCo元素を20at%以上含む強磁性材料が挙げられる。」(【0008】)

イ 引用例3:特表2002-540594号公報
(3a)「非磁性層は絶縁層(TMR-素子)であるのが有利である,それというのもこの層によってより高い素子抵抗(=100kΩ)を達成可能であるためであり,この高い素子抵抗は電力消費並びに信号/ノイズ比に関して有利である。磁性層の材料として,例えばNi,Fe,Co,Cr,Mn,Gd,Dy及びこれらの合金,例えばNiFe,NiFeCo,CoFe,CoCrFe,並びにMuBi,BiFe,CoSm,CoPt,CoMnB,CoFeBが適している。非磁性層の絶縁性材料として,例えばAl_(2)O_(3),MgO,NiO,HfO_(2),TiO_(2),NbO,SiO_(2)及びDLC(ダイヤモンド状炭素)が適している。非磁性層の導電性材料として,例えばCu又はAgが適している。」(【0025】)

(2)当審の判断
ア 本願発明1と引用発明との対比
本願発明1と引用発明との対応関係は,上記「(3)本願補正発明1と引用発明との対比」で検討したものと同様であり,本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。

<一致点>
磁気トンネル接合層を備える磁気メモリ素子において,
前記磁気トンネル接合層は,構成要素が同心に備えられた円筒形であり,
前記磁気トンネル接合層は,
書き込み電流が印加される導電層と,
前記導電層の周りに前記導電層と同心に備えられた絶縁膜と,
前記絶縁膜の周りに前記導電層と同心に備えられた複数の磁性膜を備える物質層と,
を備え,
前記複数の磁性膜は,前記導電層に沿って軸方向に順次に積層された少なくとも下部磁性膜,トンネリング膜及び上部磁性膜を備え,
前記下部磁性膜は,ハード磁性体からなるピンド膜を有し,また,前記上部磁性膜は,NiFe膜あるいは順次に積層されたCoFe膜及びNiFe膜といったソフト磁性膜である磁気メモリ素子。

<相違点>
・相違点2:本願発明1の下部磁性膜は,「SmCo膜またはNdFeB膜といったハード磁性体」であるのに対して,引用発明では,第2の磁性層は,「Ni,Fe,Coの少なくとも一種を主成分として用いるか,CoFeを主成分とするアモルファス合金として用いるのが望ましく,例えば,NiFe,NiFeCo,Fe,FeCo,Co,CoFeBなどの磁性膜からなるものであり」,「例として,第1の磁性層と比較してCoを多く含む磁性膜が望まし」いとされている点。

(3)本願発明1と引用発明との相違点についての判断
上記「(4)本願補正発明1と引用発明との相違点についての判断 ・相違点1について」で検討したように,引用例1に記載された発明において,「第1の磁性層」及び「第2の磁性層」に求められるのは,それぞれが「閉磁路構造」であることと,「第2の磁性層」が「第1の磁性層」よりも高い保磁力を有することであると認められるところ,「高い保磁力を有する」等の特性をもって特定される部材を備えた製造物において,前記特性を改善するために当該部材の材質等を変更して最適化又は好適化することは,当業者が普通に行っていることといえる。
他方,上記引用例2-3にも記載されているように,保磁力が大きい強磁性薄膜として「Co-Sm」すなわち「SmCo膜」を用いることは周知といえる。
してみれば,引用発明の「第2の磁性層」として,周知の「SmCo膜」を用いること,すなわち,引用発明において,上記相違点2について本願発明1の構成となすことは,当業者にとって容易である。また,このような構成を採用したことによる効果は当業者が予測する範囲内のものである。
したがって,本願発明1は,引用例1及び引用例2-3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,引用例1及び引用例2-3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって,他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-09-05 
結審通知日 2013-09-10 
審決日 2013-09-25 
出願番号 特願2005-241038(P2005-241038)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長谷川 直也  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 恩田 春香
加藤 浩一
発明の名称 磁気メモリ素子、その動作方法及びその製造方法  
代理人 実広 信哉  
代理人 渡邊 隆  

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