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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1284596
審判番号 不服2013-5753  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-03-29 
確定日 2014-02-06 
事件の表示 特願2007-248040「太陽電池モジュール」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 4月16日出願公開、特開2009- 81205〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2007年9月25日の出願であって、原審において平成24年10月2日付けで手続補正がなされ、平成25年1月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年3月29日付けで拒絶査定に対する不服審判請求がなされたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、上記の平成24年10月2日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲、明細書、図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「第1主面と、前記第1主面の反対側に設けられた第2主面と、前記第1主面と前記第2主面とに接する側面とをそれぞれ有する複数の太陽電池と、
前記複数の太陽電池それぞれの前記第1主面側を覆う第1主面側保護材と、
前記複数の太陽電池それぞれの前記第2主面側を覆う第2主面側保護材と、
前記第1主面側保護材と前記第2主面側保護材との間において、前記複数の太陽電池を封止する封止材と、
前記複数の太陽電池に含まれる一の太陽電池の第1主面側と、前記一の太陽電池に隣接する他の太陽電池の第2主面側と、を電気的に接続する配線材と、
を備え、
前記配線材は、
直線的に延び、前記一の太陽電池の前記第1主面上に接触する接触部分と、
前記接触部分に連なり、前記一の太陽電池の前記第1主面上から外側に延びる非接触部分とを有し、
前記非接触部分は、前記一の太陽電池の前記第1主面と前記側面との境界部分から離間して設けられているとともに、
前記配線材は、前記一の太陽電池と他の太陽電池の間隔に比べ、第1主面に対して垂直な方向の高さが小さくなるように形成された
ことを特徴とする太陽電池モジュール。」(以下「本願発明」という。)


第3 拡大先願(特許法第29条の2)
1 先願明細書
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた特願2006-329947号(特開2008-147260号)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「先願明細書」という。)には、以下の記載が図とともにある(下線は審決で付した。以下同じ。)。
(1)「【請求項1】
第1太陽電池セルの受光面電極に接続される受光面電極接続部と、前記第1太陽電池セルに隣接する第2太陽電池セルの裏面電極に接続される裏面電極接続部と、前記受光面電極接続部および前記裏面電極接続部を連結する連結部とを備えるインターコネクタであって、
前記連結部は、前記第1太陽電池セルの端部で前記受光面電極から離れる方向へ屈曲された受光面側屈曲部と、前記第2太陽電池セルの端部で前記裏面電極から離れる方向へ屈曲された裏面側屈曲部とを有することを特徴とするインターコネクタ。

【請求項6】
隣接する複数の太陽電池セル相互間をインターコネクタで接続して構成された太陽電池ストリングであって、
前記インターコネクタは、請求項1ないし請求項5のいずれか一つに記載のインターコネクタであることを特徴とする太陽電池ストリング。
【請求項7】
透光性基板、受光面側封止材、太陽電池ストリング、裏面側封止材および裏面基材が積層され前記太陽電池ストリングが搭載された太陽電池モジュールであって、
前記太陽電池ストリングは、請求項6に記載の太陽電池ストリングであることを特徴とする太陽電池モジュール。」(【特許請求の範囲】)
(2)「図1は、本発明の実施の形態1に係るインターコネクタを示す斜視図である。図2は、図1に示したインターコネクタを適用して隣接する2つの太陽電池セルを接続した状態を示す説明図であり、(A)は太陽電池セルの受光面を示す平面図、(B)は(A)の矢符B-Bでの断面図である。」(【0046】)
(3)「第1太陽電池セル21、第2太陽電池セル22は、例えば厚さ0.15?0.3mm程度、大きさ150mm角程度の単結晶シリコンや多結晶シリコンで構成されている。受光面電極21f、22fと裏面電極21r、22rは、銀層で形成され、銀層を保護してインターコネクタ10との接続を容易にするために、銀層の全面にわたり半田被覆が施される場合もある。」(【0053】)
(4)「帯状としたインターコネクタ10の幅、厚さ、長さは、太陽電池セルの受光面電極および裏面電極の形状、レイアウトなどにより規定される。一般的には、幅は、受光面電極の幅に対応させて例えば0.5?5.0mm程度が好ましく、受光面積を維持するために0.5?3.0mm程度とすることがさらに好ましい。また、厚さは、導電率を考慮して例えば0.05?0.5mm程度が好ましく、柔軟性およびコストを考慮して0.05?0.3mm程度とすることがさらに好ましく、0.2mm程度が特に好ましい。また、長さは、例えば180?300mm程度が好ましく、受光面電極のほぼ全てに重なり、隣接する太陽電池セルの裏面電極に例えば70?145mm程度重なるように形成することが好ましい。」(【0062】)
(5)「図3は、図1に示したインターコネクタの連結部(屈曲部)の形状例を説明する説明図であり、(A)は屈曲部を湾曲状とした場合の断面図、(B)は屈曲部を三角形状とした場合の断面図、(C)は屈曲部を矩形状とした場合の断面図である。」(【0063】)
(6)「連結部13は、隣接する第1太陽電池セル21および第2太陽電池セル22の間の間隔にもよるが、例えば、長さ10?20mmである。また、屈曲部は、太陽電池セルの端部から内側へ例えば0.5?1mmの位置で受光面電極接続部11(受光面電極)、裏面電極接続部12(裏面電極)から突出するように折り曲げられている。」(【0069】)
(7)「なお、屈曲部の高さHは、あまり高くすると、太陽電池ストリング20を搭載する太陽電池モジュール30(実施の形態2、図4参照。)での積層方向の厚さが厚くなり好ましく無いこと、自身の変形が大きくなり受光面接続部11および裏面電極接続部12への影響が生じることから、太陽電池セル10の表面/裏面からそれぞれ約500μm程度(最大で1mm程度以下)とすることが望ましい。」(【0070】)
(8)上記(2)及び【図2】より、「第1太陽電池セル21」及び「第2太陽電池セル22」は、受光面と裏面とに接する側面を有することが看取できる。
(9)上記(5)及び【図3】(B)より、「インターコネクタ10」の連結部(屈曲部)は、三角形状の屈曲部を直線形状で連結したものであることが看取できる。
(10)【図3】(B)(注釈は審決で付した。)


したがって、上記記載及び図面を含む先願明細書の記載から、先願明細書には、以下の発明が記載されていると認められる。
「受光面と裏面とに接する側面を有する第1太陽電池セルの受光面電極に接続される受光面電極接続部と、前記第1太陽電池セルに隣接し、受光面と裏面とに接する側面を有する第2太陽電池セルの裏面電極に接続される裏面電極接続部と、前記受光面電極接続部および前記裏面電極接続部を連結する連結部とを備え、前記連結部は、三角形状の屈曲部を直線形状で連結し、前記第1太陽電池セルの端部で前記受光面電極から離れる方向へ屈曲された受光面側屈曲部と、前記第2太陽電池セルの端部で前記裏面電極から離れる方向へ屈曲された裏面側屈曲部とを有するインターコネクタと、隣接する複数の太陽電池セル相互間を前記インターコネクタで接続して構成された太陽電池ストリングと、透光性基板、受光面側封止材、太陽電池ストリング、裏面側封止材および裏面基材が積層され前記太陽電池ストリングが搭載された太陽電池モジュールであって、第1太陽電池セル21、第2太陽電池セル22の厚さは、0.15?0.3mm、インターコネクタ10の厚さは、0.05?0.5mm、長さは、180?300mm、連結部13の長さ10?20mm、屈曲部の高さHは太陽電池セル10の表面/裏面からそれぞれ約500μm程度(最大で1mm程度以下)である太陽電池モジュール。」(以下「先願発明」という。)

2 対比
(1)先願発明の「受光面」、「裏面」、「側面」、「透光性基板」、「裏面基材」は、それぞれ本願発明の「第1主面」、「第2主面」、「側面」、「第1主面側保護材」、「第2主面側保護材」に相当する。
(2)先願発明の「第1太陽電池セル」と「第2太陽電池セル」とをあわせて、本願発明の「複数の太陽電池」に相当する。
(3)先願発明の「受光面側封止材」と「裏面側封止材」とをあわせて、本願発明の「封止材」に相当する。
(4)先願発明の「インターコネクタ」は、複数の太陽電池に含まれる一の太陽電池の第1主面側と、前記一の太陽電池に隣接する他の太陽電池の第2主面側と、を電気的に接続し、直線的に延び、前記一の太陽電池の前記第1主面上に接触する接触部分と、前記接触部分に連なり、前記一の太陽電池の前記第1主面上から外側に延びる非接触部分とを有し、前記非接触部分は、前記一の太陽電池の前記第1主面と前記側面との境界部分から離間して設けられている限度において、本願発明の「配線材」に相当する。
(5)よって、本願発明と先願発明は、
「第1主面と、前記第1主面の反対側に設けられた第2主面と、前記第1主面と前記第2主面とに接する側面とをそれぞれ有する複数の太陽電池と、
前記複数の太陽電池それぞれの前記第1主面側を覆う第1主面側保護材と、
前記複数の太陽電池それぞれの前記第2主面側を覆う第2主面側保護材と、
前記第1主面側保護材と前記第2主面側保護材との間において、前記複数の太陽電池を封止する封止材と、
前記複数の太陽電池に含まれる一の太陽電池の第1主面側と、前記一の太陽電池に隣接する他の太陽電池の第2主面側と、を電気的に接続する配線材と、
を備え、
前記配線材は、
直線的に延び、前記一の太陽電池の前記第1主面上に接触する接触部分と、
前記接触部分に連なり、前記一の太陽電池の前記第1主面上から外側に延びる非接触部分とを有し、
前記非接触部分は、前記一の太陽電池の前記第1主面と前記側面との境界部分から離間して設けられている、
太陽電池モジュール。」
の点で一致し、以下の点で一応相違している。
配線材に関し、本願発明は、一の太陽電池と他の太陽電池の間隔に比べ、第1主面に対して垂直な方向の高さが小さくなるように形成されているのに対し、先願発明は、一の太陽電池と他の太陽電池の間隔が定かでなく、第1主面に対して垂直な方向の高さが1mm以下に形成されている点(以下「相違点1」という。)。

3 判断
複数の太陽電池からなる太陽電池モジュールにおける当該複数の太陽電池の間隔を、1mmより大きい間隔となすことは、本願出願当時、当業者において技術常識である(必要なら、特開2002-111034号公報(【0042】、【0046】)、特開2004-247402号公報(【0041】)及び特開2006-147984号公報(【0040】)参照。)。そして上記事項に照らせば、先願明細書には、上記の一応の相違点に係る本願発明の発明特定事項(配線材に関し、一の太陽電池と他の太陽電池の間隔に比べ、第1主面に対して垂直な方向の高さが小さくなるように形成されていること)が実質的に開示されているといえる。
また、上記「1 先願明細書 (10)」より、配線材(インターコネクタ10)が、一の太陽電池(第1太陽電池セル21)と他の太陽電池(第2太陽電池セル22)の間隔に比べ、第1主面(第1太陽電池セル21の受光面)に対して垂直な方向の高さが小さくなるように形成されていることが看取できる。
よって、相違点1は、実質的な相違点ではない。
そうすると、本願発明と先願発明との間に相違するところはないから、本願発明は、先願明細書に記載された発明と同一であり、しかも、本願発明の発明者が上記先願明細書に記載された先願発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に、その出願人が先願の出願人と同一であるとも認められないから、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものである。


第4 進歩性(特許法第29条第2項)
1 引用刊行物
(1)刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された特開平11-186572号公報(以下「刊行物1」という。)には、以下の記載が図とともにある。
ア 「【0013】図3は、直列接続を施した状態を示す図であり、図3(a)は上面図、図3(b)は断面図である。図中304は端子部材であって厚み100μm程度の金属性の箔体である。端子部材304は、絶縁部材303にて光起電力素子301の外縁に露出の可能性がある前記基板、およびエッチングライン306より外側で性能が保証されない領域の電極層との絶縁を確保した上で、集電電極302に接続して、光起電力素子301の受光領域外へ取り出される。その後、端子部材304の一端は隣接する光起電力素子301’の裏面側へ半田307を用いて接続されて直列接続が完成する。

【0017】図5は、上記結晶系光起電力素子に直列接続を施した状態を示す図である。端子部材503は、ランド502a上で集電電極502と接続され、光起電力素子501の受光領域外へ取り出される。その後、端子部材503の一端は隣接する光起電力素子501’の裏面側ヘ周り込み、半田接続されて直列接続が完成する。

【0019】すなわち、直列接続終了後、次の工程ラインに素子群を移動させる場合や、最終的な端子を裏から取り出す時にその作業の為に素子群を裏返す場合に、取り扱い上、端子部材304、503にほとんどの応力がかかってしまう。そうした場合に、端子部材304,503は、主に光起電力素子のエッジ部305、504で折れ曲がり、折り目がついてしまう。その結果、折り目が形成された端子部材304,503は極端にその強度が弱くなり、繰り返しの曲げ応力がかかった場合には折り目部分に応力が集中し、破断が生じてしまう。
【0020】ただし、端子部材304,503が応力に耐えうるような強固な部材であれば上述のような問題は起きないが、この場合は端子部材304、503がある程度厚い形状のものになってしまい、後に充填材で太陽電池を封入する際に、その段差部分に気泡を生じる等の別の問題を生じていた。」
イ 「【0041】図1は本発明の光起電力素子モジュールの一例を示す図であり、図1(a)は上面図、図1(b)は図1(a)のX-X’断面図である。図1において、101、101’は光起電力素子、102はバスバー、103、103’は絶縁部材、104は金属体、105は被覆材、106は集電電極であり、2枚の光起電力素子101、101’が金属体104により接続されており、光起電力素子のエッジ部と金属体104の接触部には、絶縁部材103、103’が設けられている。
【0042】(光起電力素子101)本発明に於ける光起電力素子としては、単結晶、多結晶、あるいはアモルファスシリコン太陽電池に適用できる以外に、シリコン以外の半導体を用いた太陽電池、ショットキー接合型の太陽電池にも適用可能である。」
ウ 「【0066】(金属体104)本発明にかかる金属体104は、光起電力同士(101と101’)を電気的に接続、あるいは機械的に接続する為のものである。電気的に直列接続する場合には、一般的に金属体104の一端は、一方の光起電力素子101上のバスバー102と半田付け等の方法で接続され、もう一端はもう一方の光起電力素子101’の裏面側に接続される。また、並列接続する場合には、金属体104の一端は、一方の光起電力素子101上のバスバー102と半田付け等の方法で接続され、もう一端はもう一方の光起電力素子101’上のバスバー102に接続される。

【0068】(絶縁部材103)本発明にかかる絶縁部材103、103’は、少なくとも光起電力素子101のエッジ部と、前記金属体104との接触部に設けられ、両者の接触を回避することによって、金属体104に極端な折り目がつくことを防止し、曲げに対する耐久寿命を延ばすことを目的とするものである、よって、接触を回避する目的で、かつ可撓性を有する絶縁部材であれば基本的には限定なく用いることができるが、望ましくは、金属体104との接着性が良好で、曲げに対する機械的強度が高く、また、後工程の熱プロセスに耐性がある材料が好ましい。」
エ 「【0085】(被覆材105)本発明にかかる被覆材105は、大きく分類して最表面被覆材、充填材、最裏面被覆材の3種類に分類される。【0086】<最表面被覆材>最表面被覆材に要求される特性としては透光性、耐候性があり、汚れが付着しにくいことが要求される。材料としてガラスを使用した場合、充填材が厚くなければ充填不良が起きるという問題がある。またその場合、重量が大きくなるだけでなく外部からの衝撃により割れやすいという問題も考えられる。そのために最表面被覆材には耐候性透明フィルムが好意的に用いられる。そうすることにより、充填性が良くなり、軽量化が図れ、衝撃により割れない上に、フィルム表面にエンボス処理を施すことで、太陽光の表面反射が眩しくないという効果も生まれる。材料としては、ポリエチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)、ポリ3フッ化エチレン、ポリフッ化ビニルなどのフッ素樹脂フィルムなどをもちいることができるがこれに限られたものではない。充填剤との接着面には、充填剤が接着しやすいようにコロナ放電処理などの表面処理を施すこともできる。
【0087】<充填材>充填材に要求される特性としては、耐候性、熱可塑性、熱接着性、光透過性が挙げられる。材料としては、EVA(酢酸ビニル-エチレン共重合体)、ブチラール樹脂、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素化ポリイミド樹脂などの透明な樹脂を使用することができるがこれに限られたものではない。上記充填材に架橋剤を添加することにより、架橋することも可能である。また光劣化を抑制するために、紫外線吸収剤が含有されていることが望ましい。また、耐クラック性を向上させるために、該充填材中にガラス繊維等無機物を含有させることもできる。
【0088】<最裏面被覆材>最裏面被覆材は、光起電力素子モジュールの裏面側を被覆して光起電力素子モジュールと外部の間の電気的絶縁性を保つために使用する。要求される品質は、充分な電気絶縁性を確保でき、しかも長期耐久性に優れ、衝撃、引っ掻き、熱膨張、熱収縮に耐えられる、柔軟性を兼ね備えた材料が好ましい。好適に用いられる材料としてはナイロン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のプラスチックフィルムを使用できる。」
オ 上記イ乃至エを参照して図1をみると、複数の光起電力素子101,101’は、表面、裏面及び側面を有し、複数の光起電力素子101,101’の表面側及び裏面側を覆う被覆材105は、複数の光起電力素子101,101’の表面側を覆う最表面被覆材と、複数の光起電力素子101,101’の裏面側を覆う最裏面被覆材と、最表面被覆材と最裏面被覆材との間において、複数の光起電力素子101,101’を被覆する充填材とからなり、一の光起電力素子101の表面側と、一の光起電力素子101に隣接する他の光起電力素子101’の裏面側とを電気的に接続する直線的に延びる金属体104とが設けられたものであることが看取できる。
したがって、上記記載及び図面を含む刊行物全体の記載から、刊行物1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「表面、裏面及び側面を有する複数の光起電力素子の表面側を覆う最表面被覆材と、複数の光起電力素子の裏面側を覆う最裏面被覆材と、最表面被覆材と最裏面被覆材との間において、複数の光起電力素子を被覆する充填材と、一の光起電力素子の表面側と、一の光起電力素子に隣接する他の光起電力素子の裏面側とを電気的に接続する直線的に延びる金属体とを有し、複数の光起電力素子のエッジ部と金属体との接触部には絶縁部材が設けられた光起電力素子モジュール。」(以下「引用発明1」という。)

(2)刊行物2
同じく、特開昭57-89269号公報(以下「刊行物2」という。)には、以下の記載が図とともにある。
ア 「1. 電気接続されている複数の太陽電池から成る太陽電池装置において、太陽電池間の電気接続が無定形金属からなる帯または線であることを特徴とする太陽電池装置。」(「2 特許請求の範囲」)
イ 「熱膨張に不均一さが生じ、接点接続個所に機械的応力が加わる。従つて作動が長時間に及ぶと接点に疲労が生じ、それにより接続が断線することがある。」(第1頁右下欄第4行目?第8行目)
ウ 「実施例1
第1図では2つの太陽電池がそれぞれP-シリコン1とn^(+)-シリコン領域を有し、その表面には接点3が、裏面には接点4が各々設けられている。左側の太陽電池の表面接点3は無定形金属合金Fe_(80)B_(20)(80重量%の鉄と20重量%の硼素の合金)からなる金属箔5を介して右側の太陽電池の裏面接点4と導電接続されている。それにより両太陽電池は直列接続されている。」(第2頁左上欄第18行目?右上欄第7行目)
エ 上記アに照らして、FIG.1をみると、太陽電池の表面接点3と接続する接続部分から外側に延びる非接続部分を有し、非接続部分は太陽電池の表面と側面との境界部分から離間して設けられている、表面接点3と裏面接点4とを導電接続する無定形金属からなる帯または線5が看取できる。
したがって、上記記載及び図面を含む刊行物全体の記載から、刊行物2には、以下の発明が記載されていると認められる。
「電気接続されている複数の太陽電池から成る太陽電池装置において、太陽電池間の電気接続が、表面接点と裏面接点とを導電接続する無定形金属からなり、太陽電池の表面接点と接続する接続部分から外側に延びる非接続部分を有し、非接続部分は太陽電池の表面と側面との境界部分から離間して設けられている無定形金属からなる帯または線である、太陽電池装置。」(以下「引用発明2」という。)

2 対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
(1)引用発明1の「光起電力素子」、「表面」、「裏面」及び「側面」は、それぞれ本願発明の「太陽電池」、「第1主面」、「第2主面」及び「側面」に相当する。
(2)引用発明1の「最表面被覆材」は光起電力素子の表面側を覆うものであるから、本願発明の「第1主面側保護材」に相当する。同様に、引用発明1の「最裏面被覆材」は、本願発明の「第2主面側保護材」に相当する。
(3)引用発明1の「充填材」は、光起電力素子を覆うものであるから、本願発明の「封止材」に相当する。
(4)引用発明1の「金属体」は、一の光起電力素子と他の光起電力素子とを電気的に接続し、かつ、直線的に延びているものであるから、本願発明の「配線材」に相当する。
(5)よって、本願発明と引用発明1は、
「第1主面と、前記第1主面の反対側に設けられた第2主面と、前記第1主面と前記第2主面とに接する側面とをそれぞれ有する複数の太陽電池と、
前記複数の太陽電池それぞれの前記第1主面側を覆う第1主面側保護材と、
前記複数の太陽電池それぞれの前記第2主面側を覆う第2主面側保護材と、
前記第1主面側保護材と前記第2主面側保護材との間において、前記複数の太陽電池を封止する封止材と、
前記複数の太陽電池に含まれる一の太陽電池の第1主面側と、前記一の太陽電池に隣接する他の太陽電池の第2主面側と、を電気的に接続する配線材と、
を備え、
前記配線材は、
直線的に延び、前記一の太陽電池の前記第1主面上に接触する接触部分とを有する、
太陽電池モジュール。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

配線材の太陽電池との接続構造及び配線材の寸法に関し、本願発明は、配線材が、接触部分に連なり、一の太陽電池の第1主面上から外側に延びる非接触部分とを有し、非接触部分が、一の太陽電池の第1主面と側面との境界部分から離間して設けられていると共に、配線材の寸法が、一の太陽電池と他の太陽電池の間隔に比べ、第1主面に対して垂直な方向の高さが小さくなるように形成されているのに対し、引用発明1は、複数の光起電力素子のエッジ部と金属体との接触部には絶縁部材が設けられていると共に、配線材の寸法が明らかでない点。(以下「相違点2」という。)

3 判断
上記相違点2について、以下、検討する。
上記「1 引用刊行物 (2)」によれば、刊行物2には上記のとおりの引用発明2が記載されているところ、引用発明2の「太陽電池」、「表面接点」、「裏面接点」、「導電接続する無定形金属」及び「接続部分」は、それぞれ本願発明の「太陽電池」、「第1主面」,「第2主面」、「電気的に接続する配線材」及び「接触部分」に相当する。
また、引用発明2の「非接続部分」は、太陽電池の表面接点と接続する接続部分から外側に延び、太陽電池の表面と側面との境界部分から離間して設けられているから、本願発明の「非接触部分」に相当するといえる。
また、引用発明2の「無定形金属」は、太陽電池の表面接点と接続する接続部分から外側に延びる非接続部分を有しているから、接触部分に連なり、一の太陽電池の前記第1主面上から外側に延びる非接触部分とを有している点において本願発明の「配線材」に相当する。
そして、引用発明1と引用発明2とは、いずれも複数の太陽電池間の電気的接続、いわゆるモジュール化という共通の技術分野に属し、また、モジュール化に際し太陽電池の破損の抑制はこの技術分野において自明の課題であって、両者においても内在する自明の課題である。してみると、引用発明1に引用発明2を適用することは、当業者が容易になし得ることである。
しかるところ、本願明細書をみても、本願発明において、「一の太陽電池と他の太陽電池の間隔に比べ、第1主面に対して垂直な方向の高さが小さくなるように形成」した点に設計的事項の域を超えるほどの格別な技術的意義は認められず、上記相違点2に係る本願発明の奏する効果が引用発明1及び2から、当業者が予測困難な程の格別顕著なものとはいえない。
よって、引用発明1において、上記相違点2に係る本願発明の構成となすことは、当業者が容易になし得ることである。

よって、本願発明は、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第5 むすび
したがって、本願発明は、上記第3のとおり、先願発明と同一の発明であり、しかも、本願発明の発明者が先願発明をした者と同一ではなく、また本願の出願時において、本願の出願人が先願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。
また、本願発明は、上記第4のとおり、刊行物1及び刊行物2記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-10-09 
結審通知日 2013-10-15 
審決日 2013-12-13 
出願番号 特願2007-248040(P2007-248040)
審決分類 P 1 8・ 161- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡田 吉美  
特許庁審判長 吉野 公夫
特許庁審判官 黒瀬 雅一
藤本 義仁
発明の名称 太陽電池モジュール  
代理人 寺内 伊久郎  
代理人 藤井 兼太郎  
代理人 内藤 浩樹  

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