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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23L
管理番号 1284895
審判番号 不服2011-25087  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-11-21 
確定日 2014-02-19 
事件の表示 特願2007-233463「糖質と糖質以外の食品成分を混合して大気中で高温処理して機能性素材を製造する方法及びその素材」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 3月26日出願公開、特開2009- 60875〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯
この出願は、平成19年9月8日を出願日とする出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成23年 4月20日付け 拒絶理由通知書
平成23年 6月24日 手続補正書
平成23年 6月28日 意見書
平成23年 8月16日付け 拒絶査定
平成23年11月21日 審判請求書・手続補正書
平成25年 1月15日付け 審尋
平成25年 3月18日 回答書
平成25年 6月20日付け 当審による拒絶理由通知書および
平成23年11月21日付けの手続補正の
補正の却下の決定
平成25年 8月23日 意見書・手続補正書
平成25年 9月24日付け 当審による最後の拒絶理由通知書
平成25年11月25日 意見書・手続補正書


第2 平成25年11月25日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成25年11月25日付けの手続補正を却下する。

[理由]
本件手続補正は、補正前の平成25年8月23日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1における
「【請求項1】
原料の粉末状の食品素材の特性を人為的に変換させて特定の機能性を付加した加工製品としての粉末状の機能性食品素材を製造する方法であって、
1)原料の粉末状の食品素材を、該食品素材に対する水分含有率を25%(重量%)から40%(重量%)内で、振盪処理する又は液状の食品成分を噴霧して該食品成分を均等に分布させる又は該食品成分を噴霧した粉末の層を薄くする又は担体粉末を混合する方法により、該粉末を構成する粒子の分散状態を結晶粒子まで分離させた粉末状態に保持し、澱粉の場合は個々の澱粉粒の一部を崩壊-再結晶化させることで粒子の分離状態を結晶粒子まで分離させた粉末状態に保持しながら、大気中で加熱処理することにより、粉末状の難消化性、乳化性、抗酸化性のいずれかの機能を付加した機能性食品素材を製造する工程からなり、
2)上記原料の粉末状の食品素材が、穀類粉末の小麦粉又は米粉、澱粉、デキストリン、セルロース、キチン又はその構成成分のアセチルグルコサミン、グルクロン酸塩、ガラクツロン酸、ショ糖、乳糖、又はグルコースであり、
3)原料の粉末状の食品素材を、穀類粉末、澱粉の場合には、これを水、酸、及び/又は油脂を噴霧しながら加熱処理する、あるいは、デキストリン、ショ糖、乳糖の場合には、これに糖、油脂及び酸の粉末又は液体を添加して、アセチルグルコサミン、グルクロン酸塩、ガラクツロン酸の場合には、これにアミノ酸、糖及び酸の液体を添加して、又は、グルコースの場合には、これにアミノ酸のアラニン、ロイシン、イソロイシン又はGABA、糖及び酸の液体を添加して加熱処理する、
ことを特徴とする粉末状機能性食品素材の製造方法。」
を、
「【請求項1】
原料の粉末状の食品素材の特性を人為的に変換させて特定の機能性を持つようにした加工製品としての粉末状の機能性食品素材を製造する方法であって、
1)原料の粉末状の食品素材である澱粉、小麦粉、米粉のいずれかに、少なくとも25%(重量%)の水を噴霧・混合し、油脂を加えて大気中で加熱処理することにより難消化性を持った食品素材を製造する工程、又は、
2)原料の粉末状の食品素材であるデキストリン粉末に、油脂及び酸を加えて大気中で加熱処理するか、或いは、セルロース粉末を担体として、これにグルコース又はフルクトースのいずれかと、酸及び油脂を加えて大気中で加熱処理することにより乳化性を持った食品素材を製造する工程、又は、
3)原料の粉末状の食品素材であるコーンスターチ粉末に、アセチルグルコサミン、グルクロン酸、ガラクツロン酸のいずれかと、グリシン及び酸を加えて加熱処理することにより抗酸化性を持った食品素材を製造する工程、
上記1)?3)のいずれかの工程からなることを特徴とする粉末状機能性食品素材の製造方法。」
とする補正を含むものである。

上記請求項1に係る本件補正は、補正前の
「原料の粉末状の食品素材を、該食品素材に対する水分含有率を25%(重量%)から40%(重量%)内で、振盪処理する又は液状の食品成分を噴霧して該食品成分を均等に分布させる又は該食品成分を噴霧した粉末の層を薄くする又は担体粉末を混合する方法により、該粉末を構成する粒子の分散状態を結晶粒子まで分離させた粉末状態に保持し、澱粉の場合は個々の澱粉粒の一部を崩壊-再結晶化させることで粒子の分離状態を結晶粒子まで分離させた粉末状態に保持しながら、大気中で加熱処理することにより、」を削除し、
1)難消化性、2)乳化性、3)抗酸化性の3つの「特定の機能性」に対応する「製造する工程」をそれぞれ独立した選択肢として記載する形式に補正するものである。

1)難消化性については、上記補正により、「原料の粉末状の食品素材」が「澱粉、小麦粉、米粉」に限定され、「油脂」を加えることが特定された一方で、補正前の「水分含有率を25%(重量%)から40%(重量%)内」が「少なくとも25%(重量%)の水」と補正されることにより上限値がなくなり水分量の数値範囲が拡張されている。

2)乳化性については、上記補正により、「原料の粉末状の食品素材」が「デキストリン粉末」に限定され、「油脂及び酸を加え」る或いは「セルロース粉末を担体として、これにグルコース又はフルクトースのいずれかと、酸及び油脂を加え」ることが特定された一方で、補正前の「水分含有率を25%(重量%)から40%(重量%)内」との記載がなく「水分」を発明特定事項としないように拡張されている。

3)抗酸化性については、上記補正により、「原料の粉末状の食品素材」が「コーンスターチ粉末」に限定され、「アセチルグルコサミン、グルクロン酸、ガラクツロン酸のいずれかと、グリシン及び酸を加えて」加熱処理することが特定された一方で、当該加熱処理が「大気中」であるとの限定がなくなることで「加熱処理」の方法について拡張され、補正前の「水分含有率を25%(重量%)から40%(重量%)内」との記載がなく「水分」を発明特定事項としないように拡張されている。

したがって、本件補正後の請求項1に記載された発明は、上記した拡張される事項が複数含まれていることから、特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものではない。

また、これらの拡張された個々の事項が補正前に不明瞭であったとも、誤記であったとも認められないので、「明りょうでない記載の釈明」にも、「誤記の訂正」にも該当しない。

よって、請求項1に係る本件補正は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項に規定されたいずれの事項を目的とするものでもないので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成25年11月25日付けの手続補正は、「第2」に記載したとおり却下されたので、本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成25年8月23日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち請求項1および請求項4は、次のとおりである。(以下、請求項1および請求項4に係る発明をそれぞれ「本願発明A」および「本願発明B」という。)

【請求項1】
原料の粉末状の食品素材の特性を人為的に変換させて特定の機能性を付加した加工製品としての粉末状の機能性食品素材を製造する方法であって、
1)原料の粉末状の食品素材を、該食品素材に対する水分含有率を25%(重量%)から40%(重量%)内で、振盪処理する又は液状の食品成分を噴霧して該食品成分を均等に分布させる又は該食品成分を噴霧した粉末の層を薄くする又は担体粉末を混合する方法により、該粉末を構成する粒子の分散状態を結晶粒子まで分離させた粉末状態に保持し、澱粉の場合は個々の澱粉粒の一部を崩壊-再結晶化させることで粒子の分離状態を結晶粒子まで分離させた粉末状態に保持しながら、大気中で加熱処理することにより、粉末状の難消化性、乳化性、抗酸化性のいずれかの機能を付加した機能性食品素材を製造する工程からなり、
2)上記原料の粉末状の食品素材が、穀類粉末の小麦粉又は米粉、澱粉、デキストリン、セルロース、キチン又はその構成成分のアセチルグルコサミン、グルクロン酸塩、ガラクツロン酸、ショ糖、乳糖、又はグルコースであり、
3)原料の粉末状の食品素材を、穀類粉末、澱粉の場合には、これを水、酸、及び/又は油脂を噴霧しながら加熱処理する、あるいは、デキストリン、ショ糖、乳糖の場合には、これに糖、油脂及び酸の粉末又は液体を添加して、アセチルグルコサミン、グルクロン酸塩、ガラクツロン酸の場合には、これにアミノ酸、糖及び酸の液体を添加して、又は、グルコースの場合には、これにアミノ酸のアラニン、ロイシン、イソロイシン又はGABA、糖及び酸の液体を添加して加熱処理する、
ことを特徴とする粉末状機能性食品素材の製造方法。

【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の製造方法により製造された、原料の粉末状の食品素材の特性を人為的に変換させて特定の機能性を付加した加工製品としての粉末状の機能性食品素材であって、
1)上記原料の粉末状の食品素材が、穀類粉末の小麦粉又は米粉、澱粉、デキストリン、セルロース、キチン又はその構成成分のアセチルグルコサミン、グルクロン酸塩、ガラクツロン酸、ショ糖、乳糖、又はグルコースであり、2)上記原料の粉末状の食品素材に、難消化性、乳化性、抗酸化性のいずれかの機能が付加されていることを特徴とする粉末状機能性食品素材。


第4 引用刊行物の記載事項
平成25年9月24日付け当審による最後の拒絶理由通知書において引用された刊行物及びその記載事項は、以下のとおりである。

1.特開平9-12601(以下「刊行物1」という。拒絶理由通知書の引用文献1。)

(刊1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】少なくとも12%の総食物繊維含有率のデンプンを提供するために、少なくとも40重量%のアミロース含有率および10?80重量%の合計湿分含有率を有する高アミロースデンプンを60?160℃の温度で加熱することにより耐性粒状デンプンを製造する方法。
・・・
【請求項6】高アミロースデンプンが30?40重量%の合計湿分含有率であり、そして加熱が90?120℃の温度で行われる請求項1記載の方法。
・・・
【請求項13】 先行の請求項のいずれか1項記載の方法により製造された耐性粒状デンプン。」

(刊1b)「【0001】本発明は高い食物繊維含有率を有する耐性粒状デンプンを調製する方法に関する。より詳細には、本発明は、高アミロースデンプンの所定の加熱湿分処理による耐性粒状デンプンの調製、および、更に、この耐性粒状デンプンの食品中での使用に関する。
・・・
【0003】あるデンプン加工操作は、単純に耐性デンプンとして知られている、アミラーゼに耐性であるデンプンへとデンプンを転化することが知られている。耐性デンプンは小腸内のアミラーゼにより消化されずに大腸へ進む。研究文献はそれが食物繊維と似た特性を有して挙動することを示している。耐性デンプンは、この為、消化に対して耐性であるから低いカロリー値を有し、そして憩室症および結腸ガンの予防の要因になりそうである。耐性デンプン(RS)は文献上3種に分類されてきた:RS-1 - 物理的に接近不可能なデンプン(例えば、タンパク質または繊維マトリックス内に封入されたデンプン、例えば、ホールグレイン中のデンプン);RS-2 - 無傷の消化耐性天然デンプン粒( 例えば、ポテトまたはバナナデンプン);およびRS-3 - 老化消化耐性デンプン(Englyst and Cummings, "New Developmentsin Dietary Fibers", Planum Press, NY 1990参照)。」

(刊1c)「【0016】・・・本発明で有用な高アミロースデンプンは少なくとも40重量%アミロース含有率、好ましくは少なくとも65重量%を有するどんなデンプンであってもよい。高アミロースコーンデンプンは特に適切であったが、他の有用なデンプンは、高アミロース含有率デンプンを生じるまたは生じるようにされた植物種のいずれかから得られたデンプン、例えば、コーン、エンドウ豆、大麦、小麦、ポテト、タピオカおよび米を含む。」

(刊1d)「【0021】加熱処理されるべきデンプンの合計の湿分または水分含有量は、デンプンの重量を基準として約10?80重量%、好ましくは20?45重量%、そしてより好ましくは約30?40重量%の範囲であろう。加熱工程の間にこの湿分相対レベルが維持されることが重要である。」

(刊1e)「【0023】高レベルの総食物繊維を得るためのデンプンを処理するための最も望ましい条件は、デンプンの粒状構造が破壊されず、そして粒状物が依然として複屈折性でになるような条件である。しかし、デンプン粒状物が部分的に膨潤するが、結晶が完全に破壊しないような高湿分および高温度のような特定の条件が存在しうる。これらの条件下で、本発明により、デンプン粒状物は完全には破壊されず、そして総植物繊維の増加が得られることができる。従って、ここで使用されるものとして用語「粒状デンプン」は粒状構造を維持し、そしてある程度の結晶化度を有するデンプンを含む。
【0024】加熱処理後、デンプンは空気乾燥されて平衡湿分状態に達するか、または、フラッシュドライヤーまたは他の乾燥手段を使用して乾燥されうる。
【0025】上記の所定の条件で加熱されて得られたデンプン製品は顕微鏡で観察したときに、その複屈折性で粒状構造を有することが証明されるであろう。粒状耐性デンプン製品は少なくとも12重量%、好ましくは少なくとも20重量%の総食物繊維含有率を有するであろう。」

(刊1f)「【0044】例I
National Starch and Chemical Companyの製品である、約70重量%のアミロース含有率を含むHylon(商標)VIIデンプンの試料1400gを、標準ブレードを有するダブル遊星型ミキサーであるRossMixer(Charles Ross and Son Company製)に入れた。600mlの水を試料に加え、そしてミキサーを閉止し、そしてデンプンおよび水を室温で10分間混合した。これにより、37.4% の合計湿分量の試料を得た。温度を100 ℃に上げ、特定の時間、連続して混合し、そして30℃に冷却した。試料をミキサーから取り出し、そして空気乾燥した。幾つかの同一のデンプン試料を同様に調製し、37.4重量%の合計湿分量とした。試料を全て100 ℃に加熱し、そして0.5?6時間で変えて維持した。試料を、上記の試験手順を使用して、Prosky法および示差走査熱量測定(DSC) データを用いて、総食物繊維含有率(TDF) に関して分析した。表1に示す結果は1時間および4時間の加熱処理後に、12.0% から38.1%および41.9%にそれぞれ増加したことを示す。融解開始温度Toは、67.6℃から89.4℃および92℃にそれぞれ増加した。
【0045】
【表1】

【0046】例II
様々な水分量のHylon VII デンプン(70%アミロース含有率) の試料を例I のように調製した。全ての試料を100 ℃に4 時間加熱し、そして例IのようにTDF およびDSC 特性を分析した。
【0047】
【表2】

【0048】結果は、所定量の水分量、特に37.4% を有するデンプンが加熱処理されたときに、TDF または耐性デンプンが大きく増加することを示す。」


第5 当審の判断

1.平成25年9月24日付け拒絶理由通知書について

平成25年8月23日付け意見書における「実施例1?21のうち、その一部の実施例(実施例5-7、11、15-16、19-21)を参考例とする訂正を行った。」および「請求項1の記載(及び請求項4の同様の記載)に関し、『難消化性、乳化性乃至抗酸化性を付加した』との構成については、『難消化性、乳化性、抗酸化性のいずれかの機能を付加した』に訂正する補正を行った。」との請求人の主張に基づき、当審は、平成25年9月24日付け拒絶理由通知書において以下のように指摘して最後の拒絶理由を通知した。

「平成25年6月20日付け拒絶理由通知に応答した平成25年8月23日付け手続補正書に記載された請求項1?4に係る発明には、「原料の粉末状の食品素材」「に対する水分含有率を25%(重量%)から40%(重量%)内」という発明特定事項が新たに含まれており、結果として、実施例5?7、11、15?16、19?21が参考例となった。
また、補正前の「粉末状の難消化性、乳化性乃至抗酸化性を付加した機能性食品素材を製造する工程」との記載は、本願発明において「粉末状の難消化性、乳化性、抗酸化性のいずれかの機能を付加した機能性食品素材を製造する工程」と補正され、補正前には「難消化性」、「乳化性」、「抗酸化性」の機能が同時に得られる工程と解されていたところ、本願発明では「難消化性」、「乳化性」、「抗酸化性」の機能のいずれか1つが得られればよいこととなった。
そこで、請求項1?4に係る発明の「実施例」として残された、実施例1?4、8?10、12?14、17?18に基づいて、本願発明を検討すると、以下の3つの発明が記載されていると認められる。

(本願発明1)穀類由来の澱粉(スターチ)を加熱処理して難消化性とする発明(実施例1?4に対応)
(本願発明2)セルロース粉末を担体として、糖、油脂、酸等を加熱して乳化性とする発明(実施例8?10に対応)
(本願発明3)アミノ酸と糖を加熱して抗酸化性の褐色物質(メラノイジン)とする発明(実施例12?14、17、18)

本願は、そもそも特許法37条(発明の単一性)の要件を満足しない恐れがあり、かつ本願発明の特徴点も依然として不明確であるものの、以下に、上記本願発明1?3の観点で可能な限り拒絶理由を指摘する。」

そこで、請求項1?4に係る発明について、1)難消化性とする発明(実施例1?4)、2)乳化性とする発明(実施例8?10)、3)抗酸化性とする発明(実施例12?14、17?18)、の3つの観点から指摘された平成25年9月24日付け拒絶理由通知のうち、1)難消化性とする発明(実施例1?4)の観点から、本願発明B(請求項4に係る発明)の進歩性欠如について通知された拒絶理由Cについて以下に検討する。

なお、却下された平成25年11月25日付けの手続補正においては、更に実施例1、4、10、13、14、17、18も参考例として、実施例5を参考例から実施例に復帰し、結果として本願発明の実施例を実施例2、3(難消化性)、実施例5、8、9(乳化性)、12(抗酸化性)のみに限定することを試みていた。
特許法37条(発明の単一性)の要件違反が生じることもさることながら、なにより上記本願発明1?3に共通する技術思想の理解を阻む手続経緯となっていることを一言付言したい。

2.刊行物1に記載された発明
摘示(刊1a)の請求項13において請求項1及び6の記載を読み込むことにより、刊行物1には、「少なくとも12%の総食物繊維含有率のデンプンを提供するために、少なくとも40重量%のアミロース含有率および30?40重量%の合計湿分含有率を有する高アミロースデンプンを90?120℃の温度で加熱することにより製造された耐性粒状デンプン。」(以下「刊行物1発明」という。)が記載されている。

3.本願発明Bと刊行物1発明の対比
(1)難消化性について
摘示(刊1b)には、「本発明は高い食物繊維含有率を有する耐性粒状デンプンを調製する方法に関する」と記載されており、「高い食物繊維含有率」とすることにより刊行物1発明の「耐性粒状デンプン」が得られることが理解できる。刊行物1発明は、食物繊維含有率について「少なくとも12%の総食物繊維含有率のデンプンを提供するために」と目的が記載されているが、摘示(刊1f)には、総食物繊維含有率について「1時間および4時間の加熱処理後に、12.0% から38.1% および41.9% にそれぞれ増加した」との実験結果が記載されていることを考慮すると、加熱処理によって処理前の12%よりも総食物繊維含有率を増加させて、食物繊維含有率の高まった「耐性粒状デンプン」を製造することを意味している。ここで、摘示(刊1b)には、「耐性デンプンは小腸内のアミラーゼにより消化されずに大腸へ進む。研究文献はそれが食物繊維と似た特性を有して挙動することを示している。耐性デンプンは、この為、消化に対して耐性であるから低いカロリー値を有し、そして憩室症および結腸ガンの予防の要因になりそうである。」と記載されているように、「耐性粒状デンプン」とは「消化に対して耐性である」ことを意味しており、本願発明Bの「難消化性」と同様の意味である。
してみると、本願発明Bと刊行物1発明とは、加熱処理によって製造された難消化性の食品素材という点で共通している。

(2)「原料の粉末状の食品素材」について
本願発明Bの「粉末状機能性食品素材」は、「原料の粉末状の食品素材」から製造されたものである。
「原料の粉末状の食品素材」について、本願発明Bには、「1)上記原料の粉末状の食品素材が、穀類粉末の小麦粉又は米粉、澱粉、デキストリン、セルロース、キチン又はその構成成分のアセチルグルコサミン、グルクロン酸塩、ガラクツロン酸、ショ糖、乳糖、又はグルコースであり、」と特定されている。
一方、摘示(刊1c)を参酌すると、刊行物1発明の「高アミロースデンプン」も本願発明Bの「澱粉」に含まれる。
また、摘示(刊1f)の実施例で用いられた「高アミロースデンプン」である「Hylon(商標)VII デンプン」は、National Starch and Chemical Companyの製品であって、そのTechnical Service Bulletinには、「Form」が「Powder」と記載されており、「粉末状」のものである。
したがって、本願発明Bと刊行物1発明とは、「原料の粉末状の食品素材」において相違はない。

(3)「粉末状」機能性食品素材について
刊行物1には、「所定の条件で加熱されて得られたデンプン製品は顕微鏡で観察したときに、その複屈折性で粒状構造を有する」(刊1e)と記載されているように、製造された「粒状デンプン」は、ある程度小さな「粒状」のものであることがわかる。ここで、本願明細書には、本願発明Bの「粉末状」について粒径等の定義はないことから、刊行物1発明の「粒状デンプン」は、本願発明Bの「粉末状」のものに相当する。

(4)水分含有率について
水分含有率について、本願発明Bで引用される本願発明Aには、「食品素材に対する水分含有率を25%(重量%)から40%(重量%)内で、」と特定されている。一方、刊行物1発明では、「30?40重量%の合計湿分含有率」と記載されており、摘示(刊1f)に係る実施例においては「37.4重量%の合計湿分量」で加熱処理したところ、難消化性に対応する指標である総食物繊維含有率(TDF)が「12.0% から38.1% および41.9% にそれぞれ増加した」ことが確認されている。ここで、(刊1d)の「加熱処理されるべきデンプンの合計の湿分または水分含有量」との記載から「湿分含有率」と「水分含有率」とが同義であることが明らかである。
したがって、水分含有率の数値範囲について重複しており、かつ刊行物1発明の実施例も本願発明Aの水分含有率の数値範囲に含まれているから、本願発明Aを引用する本願発明Bと刊行物1発明とは、水分含有率について実質的な相違はない。

(5)「大気中での加熱処理」について
本願発明Bで引用される本願発明Aの「大気中での加熱処理」について、本願明細書の段落【0030】には、「大気中での加熱の方法は、特に限定されないが、通常は、高温空間を通過させるか、直接電熱機で熱するか、あるいは、電磁加熱又はジュール加熱を単独又は併用で均等加熱処理すれば目的を達成することができる場合もある。更に、大気圧の高温室で、粉末を上方から分散させながら落下させてもよいし、粉末の分散性をより高めるために回転板に衝突させる方法も適用できる。」と記載されており、本願発明Aにおいては大気圧での加熱処理であれば加熱手段の種類には制約がないと判断される。
一方、刊行物1には、加熱処理時の圧力に関する記載がないので、「大気圧での加熱処理」を意図しているものと判断される。
したがって、本願発明Aを引用する本願発明Bと刊行物1発明とは、「大気中での加熱処理」について相違はない。

(6)「澱粉粒の一部を崩壊-再結晶化させること」について
本願発明Aの「澱粉粒の一部を崩壊-再結晶化させること」について、本願明細書には、「澱粉の場合であれば、澱粉のアニーリングであり、結晶構造を崩壊させた後に、個々の澱粉粒で再結晶させて粉末状態を保持することである。」(段落【0011】)および「本発明では、例えば、澱粉の場合、粉末状態を保持して個々の澱粉粒の一部を崩壊-再結晶化させるものであり、それにより、その特性を人為的に変換させた新規食品素材を製造することを目的とするものである。」(段落【0013】)と記載されている。
一方、刊行物1発明の「粒状デンプン」について、刊行物1には、「デンプン粒状物が部分的に膨潤するが、結晶が完全に破壊しないような高湿分および高温度のような特定の条件が存在しうる。これらの条件下で、本発明により、デンプン粒状物は完全には破壊されず、そして総植物繊維の増加が得られることができる。従って、ここで使用されるものとして用語「粒状デンプン」は粒状構造を維持し、そしてある程度の結晶化度を有するデンプンを含む。」(刊1e)と記載されている。

ここで、本願明細書において、「従来法では、澱粉粒が崩壊しない程度の温度で温水中で処理した後、放冷して、一部の結晶が崩壊した澱粉粒表面が再結晶化をしたものを製造していた。」(段落【0012】)と記載されており、段落【0011】?【0013】以外には「再結晶」への言及がない。
一方、刊行物1の実施例において「温度を100℃に上げ、特定の時間、連続して混合し、そして30℃に冷却した」(刊1f)と記載されていることから、加熱処理により一部の結晶が崩壊した後に放冷されて「再結晶」するものと理解される。
してみると、本願明細書に記載された従来法と同じように、刊行物1発明における「結晶が完全に破壊しないような高湿分および高温度のような特定の条件」下で加熱処理した後に放冷された「ある程度の結晶化度を有するデンプン」は、本願発明Aの「澱粉粒の一部を崩壊-再結晶化させ」たものに相当すると考えられる。

したがって、本願発明Aを引用する本願発明Bと刊行物1発明とは、加熱処理によって「澱粉粒の一部を崩壊-再結晶化させること」で一致している。

(7)「水を噴霧しながら」の加熱処理について
本願発明Bが引用する本願発明Aには、「3)原料の粉末状の食品素材を、穀類粉末、澱粉の場合には、これを水、酸、及び/又は油脂を噴霧しながら加熱処理する、」と特定されている。
一方、刊行物1において、「加熱処理されるべきデンプンの合計の湿分または水分含有量は、デンプンの重量を基準として約10?80重量% 、好ましくは20?45重量% 、そしてより好ましくは約30?40重量% の範囲であろう。加熱工程の間にこの湿分相対レベルが維持されることが重要である。」(刊1d)ことが記載されているものの、実施例においては「温度を100 ℃に上げ、特定の時間、連続して混合し、そして30℃に冷却した」(刊1f)と記載され、「水」「を噴霧しながら加熱処理する」ことは記載されていない。

4.刊行物1発明と本願発明Bの一致点および相違点
上記(1)?(7)によれば、刊行物1発明と本願発明Bには、以下の一致点および相違点が認められる。

(一致点)
原料の粉末状の食品素材である澱粉を、該食品素材に対する水分含有率を30%(重量%)から40%(重量%)内で添加して、澱粉粒の一部を崩壊-再結晶化させるように、大気中で加熱処理することにより製造された、原料の粉末状の食品素材の特性を人為的に変換させて難消化性の機能性を付加した加工製品としての粉末状機能性食品素材。

(相違点1)
本願発明B(で引用する本願発明A)が「振盪処理する又は液状の食品成分を噴霧して該食品成分を均等に分布させる又は該食品成分を噴霧した粉末の層を薄くする又は担体粉末を混合する方法により、該粉末を構成する粒子の分散状態を結晶粒子まで分離させた粉末状態に保持し、澱粉の場合は個々の澱粉粒の一部を崩壊-再結晶化させることで粒子の分離状態を結晶粒子まで分離させた粉末状態に保持しながら、」加熱処理するのに対して、刊行物1発明では、「澱粉粒の一部を崩壊-再結晶化させること」だけが記載されている点。

(相違点2)
本願発明B(で引用する本願発明A)が「原料の粉末状の食品素材」である澱粉に水を噴霧しながら加熱処理するのに対して、刊行物1発明では、このような記載がない点。

5.相違点についての判断

(1)相違点1について
本願発明Bで引用する本願発明Aの「振盪処理する又は液状の食品成分を噴霧して該食品成分を均等に分布させる又は該食品成分を噴霧した粉末の層を薄くする又は担体粉末を混合する方法により、該粉末を構成する粒子の分散状態を結晶粒子まで分離させた粉末状態に保持し、」とは、(1)「振盪処理する」又は(2)「液状の食品成分を噴霧して該食品成分を均等に分布させる」又は(3)「該食品成分を噴霧した粉末の層を薄くする」又は(4)「担体粉末を混合する」の4つの方法のいずれかにより、「該粉末を構成する粒子の分散状態を結晶粒子まで分離させた粉末状態に保持」するとの意味であると解される。
そして、本願発明Bで引用する本願発明Aには「澱粉の場合は個々の澱粉粒の一部を崩壊-再結晶化させることで粒子の分離状態を結晶粒子まで分離させた粉末状態に保持しながら、」との記載もあることから、「原料の粉末状の食品素材」が澱粉の場合は、これらの4つの方法に加えて、「個々の澱粉粒の一部を崩壊-再結晶化させる」方法により、「該粉末を構成する粒子の分散状態を結晶粒子まで分離させた粉末状態に保持」するとの意味であると解される。
してみると、本願発明Bが引用する本願発明Aには、「該粉末を構成する粒子の分散状態を結晶粒子まで分離させた粉末状態に保持」するための5つの選択肢が記載されていることになる。

一方、刊行物1には、「高レベルの総食物繊維を得るためのデンプンを処理するための最も望ましい条件は、デンプンの粒状構造が破壊されず、そして粒状物が依然として複屈折性でになるような条件である。しかし、デンプン粒状物が部分的に膨潤するが、結晶が完全に破壊しないような高湿分および高温度のような特定の条件が存在しうる。これらの条件下で、本発明により、デンプン粒状物は完全には破壊されず、そして総植物繊維の増加が得られることができる。従って、ここで使用されるものとして用語「粒状デンプン」は粒状構造を維持し、そしてある程度の結晶化度を有するデンプンを含む。」(刊1e)と記載されており、刊行物1発明の難消化性の機能を付加する方法は、本願発明Bが引用する本願発明Aの上記5つの選択肢の1つに該当すると判断される。

ここで、当該選択肢について、本願明細書には、「澱粉の場合であれば、澱粉のアニーリングであり、結晶構造を崩壊させた後に、個々の澱粉粒で再結晶させて粉末状態を保持することである。」(段落【0011】)および「本発明では、例えば、澱粉の場合、粉末状態を保持して個々の澱粉粒の一部を崩壊-再結晶化させるものであり、それにより、その特性を人為的に変換させた新規食品素材を製造することを目的とするものである。」(段落【0013】)との一般的な記載はあるものの、「崩壊-再結晶化」や「粒子の分離状態を結晶粒子まで分離させた粉末状態」に関する具体的な記載はない。

この点について、平成25年9月24日付け拒絶理由通知の理由A(特許法第36条第4項第1号および第6項第1項違反)において、
「実施例等の明細書の記載において、『該粉末を構成する粒子の分散状態を結晶粒子まで分離させた粉末状態に保持』されていることが確認できない。
常識的にみて、『振盪処理する』又は『液状の食品成分を噴霧して該食品成分を均等に分布させる』又は『該食品成分を噴霧した粉末の層を薄くする』又は『担体粉末を混合する』ことで『結晶粒子』に分離できるとは考えがたい。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。また、本願発明が、本願明細書の発明の詳細な説明において、『該粉末を構成する粒子の分散状態を結晶粒子まで分離させた粉末状態に保持』する課題を解決できると認識できるように記載されているとはいえない。
なお、実施例に記載された方法で、『結晶粒子まで分離させた』ことを確認した機器分析データ等があれば提出されたい。」
と当審が指摘したところ、請求人からの回答は得られなかった。

してみると、この事実からも、本願発明Bで引用される本願発明Aの製造方法の「澱粉の場合は個々の澱粉粒の一部を崩壊-再結晶化させることで粒子の分離状態を結晶粒子まで分離させた粉末状態に保持しながら」との点において、刊行物1発明と技術的に格別に相違するものとはいえない。

(2)相違点2について
刊行物1には、澱粉に水を噴霧しながら加熱処理することが記載されていないが、摘示(刊1d)には、「加熱処理されるべきデンプンの合計の湿分または水分含有量は、デンプンの重量を基準として約10?80重量% 、好ましくは20?45重量% 、そしてより好ましくは約30?40重量% の範囲であろう。加熱工程の間にこの湿分相対レベルが維持されることが重要である。」と記載されており、加熱処理によって水分が蒸発しても湿分相対レベルが維持されるために、水を噴霧しながら加熱処理することも当業者であれば適宜容易になし得ることと認められる。

換言すると、相違点2は、刊行物1に記載された水分含有量を維持するという課題を解決するために食品分野の周知技術(必要であれば、下記の周知技術を参照)を適用した程度のものと判断される。

(周知技術)特開平6-277100号公報

「【特許請求の範囲】
【請求項1】マルトースの純度90%以上の水溶液を、マルトース濃度として88?97w/w%に濃縮する工程と、このものを実質的に水分蒸発を伴わない系において連続的に種晶と混合撹拌し、温度を90?130℃として、マルトース中のα-マルトース含量40w/w%以上の結晶含有マスキットとする種晶混合晶出工程と、そのものを連続的に撹拌,混合,崩壊,移送が可能な熟成機に導入し、その熟成機内部空間の雰囲気を温度70?100℃とし、この温度に対応して絶対湿度50?300gH_(2)O/kg乾燥空気の範囲に調整して結晶化を進行させα-マルトース含量55w/w%以上の無水結晶マルトース塊とする熟成工程とからなり、必要により更に乾燥、粉砕の工程を加えて連続的にα-マルトース主体の安定な無水結晶粉末を製造することを特徴とする無水結晶マルトースの全量無水結晶化方法。」

「【0016】次に種晶混合晶出工程であるが、ここでは濃縮液に種晶を短時間で充分分散晶出させ、且その晶出工程中に実質的に水分の蒸発が無いことが必要条件である。水分の蒸発により濃縮が進むと高粘度となり装置的に非常に大きな駆動力を必要として好ましくなく、また種晶の混合分散性が悪くなり結果として結晶晶出時間が長くなるという点からも過度の濃縮は好ましくない。本発明でいう実質的に水分の蒸発が無いということは、もとの含水率に対して10%以内の減少を意味する。そのために装置としては一般に高粘度物質や膠質物に少量の粉体を練り込む時に用いられている容器固定型,水平軸または水平復軸型,リボン式,スクリュー押出式,セルフクリーニング式,パドル式等の密閉型連続混練機が好ましい。また混合・混練り目的に使用されるニーダー,混合機と言われる装置の中から連続化に適したものを適宜選択して用いることもできる。また食品加工で用いられている押し出し調理機エクストリューダーも、スクリューにディスク等の混練り促進用エレメントを付加して、逆戻りを加えるなどして混練り効果をよくすればこの目的に使用できる。」

「【0018】次は本発明の最重要点である結晶の熟成工程である。種晶を混合した過飽和物は前述したごとく混合後数分で晶出が始まり、10?20分後に白色のマスキット塊となる、結晶熟成工程ではこの塊を高温度一定湿度の雰囲気下で崩壊・撹拌・混合・移送させることで結晶化が進行しながら結晶化装置出口に達する。ここで用いる結晶機は連続式のニーダー形式が好都合で内容物の崩壊・混合・撹拌・移送が可能な装置を用いなければならない。特に、内容物が前方に移送されるようになし、かつ内容物が塊となるとこれを崩壊し、均一に混合・撹拌できるような形式になっている構造のものが好ましい。結晶機内部の雰囲気を温度70?100℃の範囲とし、この温度に対応して絶対湿度を50?300gH_(2)O/kg乾燥空気の範囲に調整することが必要であり、その条件に調製した加湿熱風を供給し、結晶熟成を行うことが必要である。・・・即ち高温度時には比較的高絶対湿度、低温度時には比較的低絶対湿度とすることが好ましく、この工程中に結晶化の進行と共に含水率が低下し排出品では3w/w%以下となる。無水結晶マルトースであるので含水率は低いほうが安定であり、着色性や結晶化速度を加味すると最も好ましくは、85?95℃,100?200gH_(2)O/kg乾燥空気の条件とした加湿熱風を供給して熟成完了品の含水率を1w/w%程度とする。絶対湿度を300gH_(2)O/kg乾燥空気としても結晶の熟成は進行するが、その表面は一部濡れたようになりまた含水率も高く後工程にて乾燥が必須となり、本発明の目的に反することとなる。ここでのこの雰囲気の調製の目的は、前工程で結晶晶出の条件としてマルトース濃度として88?97w/w%の範囲とすることで結晶化が促進したように、この熟成工程中において結晶化の進行に伴い、実質的にはマルトースの無水結晶が晶出するのであるから、その他の非結晶部分は水分が高くなり固形分濃度が下がることになる。この濃度低下した結晶以外の部分のマルトース濃度を88?97w/w%の範囲にすることで結晶熟成の促進が図られる。そのマルトース濃度上昇のためには更に乾燥濃縮が必要であるが、ただ乾燥熱風を供給しただけでは、急速に水分が蒸発して引き飴状となり結晶化が著しく遅くなることが判明した。そこで本発明では、この調整された加湿熱風によりこの熟成機内部雰囲気を好適な温湿度の条件とすることで熟成工程中における結晶化の進行に見合った乾燥速度が得られ、短時間でより高いα-マルトース含量の無水結晶マルトースを得ることが可能となった。また、この熟成工程中において混合・撹拌・崩壊という作用は必須であり、静置の条件下で加湿熱風を供給すると表面が溶けたような状態となり、結晶化の進行が遅く長時間を要してしまう。これはベルトコンベア様のもので移送しながらその雰囲気をこのような温度、湿度の条件にしても結晶化の進行が遅いことからも混合・撹拌・崩壊という作用の必要性が確認される。加湿熱風の製造方法としては一般に用いられている方法が採用できる。例えば、加温された熱風に2流体ノズルを用いて当該湿度に見合う水分を噴霧すれば良い。」


6.本願発明Bの効果
本願発明Bの効果は、本願明細書の記載を参酌しても、刊行物1の記載から予測される範囲内のものであり、格別顕著なものではない。
そして、本願発明Aの製造方法において、仮にコストの削減や処理操作の簡素化という効果があったとしても、本願発明Aの製造方法で得られた本願発明Bの「難消化性」の「粉末状機能性食品素材」が、「物」として、刊行物1発明との比較において格別優れたものであることにはならないことも付言する。

7.まとめ
したがって、本願発明Bは、刊行物1に記載された発明および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


第6 むすび
以上のとおりであるから、本願発明B(請求項4に係る発明)は、刊行物1に記載された発明および周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の発明について判断を示すまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-12-25 
結審通知日 2013-12-26 
審決日 2014-01-07 
出願番号 特願2007-233463(P2007-233463)
審決分類 P 1 8・ 57- WZ (A23L)
P 1 8・ 121- WZ (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小金井 悟  
特許庁審判長 田村 明照
特許庁審判官 小川 慶子
齊藤 真由美
発明の名称 糖質と糖質以外の食品成分を混合して大気中で高温処理して機能性素材を製造する方法及びその素材  
代理人 須藤 政彦  
代理人 須藤 政彦  

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