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審決分類 |
審判 査定不服 特37 条出願の単一性( 平成16 年1 月1 日から) 特許、登録しない。 C07C 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 C07C 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C07C 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C07C |
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管理番号 | 1285317 |
審判番号 | 不服2012-18539 |
総通号数 | 172 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-04-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-09-24 |
確定日 | 2014-03-05 |
事件の表示 | 特願2009-513191「メタンから製造された芳香族炭化水素の同位体分析による同定」拒絶査定不服審判事件〔平成19年12月13日国際公開、WO2007/142864、平成21年11月12日国内公表、特表2009-538908〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 この出願は、2007年5月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年5月31日(US)米国)を国際出願日とする出願であって、平成21年1月7日に手続補正書が提出され、平成24年2月2日付けで拒絶理由が通知され、同年6月1日に意見書及び手続補正書が提出され、同年6月22日付けで拒絶査定がされ、同年9月24日に審判請求がされるとともに手続補正書が提出され、平成25年2月4日付けで審尋がされ、同年5月7日に回答書が提出されたものである。 第2 平成24年9月24日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成24年9月24日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 本件補正 平成24年9月24日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1?10である、 「【請求項1】重水素および^(13)Cを含むベンゼンであって、 ベンゼンのδ(重水素)が-250未満であり、 ベンゼンのδ(^(13)C)が-36を超え、 δ(重水素)およびδ(^(13)C)が下記により定義されるベンゼン: δ(重水素)=(R’_(sample)/R’_(standard)-1)×1000 ここで、R’_(sample)はベンゼン中の重水素と水素の存在比であり、R’_(standard)は、自然界での重水素と水素の存在比: δ(^(13)C)=(R”_(sample)/R”_(standard)-1)×1000 ここで、R”_(sample)はベンゼン中の^(13)Cと^(12)Cの存在比であり、R”_(standard)は、自然界での^(13)Cと^(12)Cの存在比。 【請求項2】重水素および^(13)Cを含むベンゼンであって、 ベンゼンのδ(重水素)が-250未満であるか、または、 ベンゼンのδ(^(13)C)が-24未満であり、 δ(重水素)およびδ(^(13)C)は請求項1の定義に従い、以下の製造プロセスで製造されたベンゼン: (a)メタンを含む原料を、ベンゼンを含む芳香族炭化水素に転化できる条件下で、脱水素環化触媒に接触させて、芳香族炭化水素と水素とを含み、原料よりも芳香族を少なくとも5wt%多く含む第1生成物を生成させる。 (b)第1生成物中の水素の少なくとも一部を、COおよび/またはCO_(2)と反応させて、第1生成物よりも水素含有量が少なく、炭化水素含有量が多い第2生成物を生成させる。 (c)第2生成物の少なくとも一部を、(a)の接触工程へ送り返す。 【請求項3】請求項2に記載のベンゼンとともに製造されたナフタレンであって、δ(重水素)の値が-250未満、または、δ(^(13)C)の値が-24未満である、ナフタレン。 【請求項4】重水素および^(13)Cを含むキシレンであって、 キシレンのδ(重水素)が-250未満であり、 キシレンのδ(^(13)C)が-24未満であり、 δ(重水素)およびδ(^(13)C)が下記により定義されるキシレン: δ(重水素)=(R’_(sample)/R’_(standard)-1)×1000 ここで、R’_(sample)はキシレン中の重水素と水素の存在比であり、R’_(standard)は、自然界での重水素と水素の存在比: δ(^(13)C)=(R”_(sample)/R”_(standard)-1)×1000 ここで、R”_(sample)はキシレン中の^(13)Cと^(12)Cの存在比であり、R”_(standard)は、自然界での^(13)Cと^(12)Cの存在比。 【請求項5】重水素および^(13)Cを含むキシレンであって、 キシレンのδ(重水素)の値が-250未満であるか、または、 キシレンのδ(^(13)C)の値が-32未満であり、 δ(重水素)およびδ(^(13)C)が請求項4の定義に従うキシレン。 【請求項6】重水素および^(13)Cを含むキシレンであって、 キシレンのδ(重水素)が-250未満であるか、または、 キシレンのδ(^(13)C)が-24未満であり、 δ(重水素)およびδ(^(13)C)が請求項4の定義に従い、以下の製造プロセスで製造されたキシレン。 (a)メタンを含む原料を、ベンゼンを含む芳香族炭化水素に転化できる条件下で、脱水素環化触媒に接触させて、芳香族炭化水素と水素とを含む第1生成物を生成させる。 (b)第1生成物中のベンゼンの少なくとも一部を、ベンゼンをアルキル化してアルキルベンゼンを生成させることができる条件下で、アルキル化剤と接触させる。 【請求項7】重水素および^(13)Cを含むキシレンであって、 キシレンのδ(重水素)が-250未満であるか、または、 キシレンのδ(^(13)C)が-24未満であり、 δ(重水素)およびδ(^(13)C)が請求項4の定義に従い、以下の製造プロセスで製造されたキシレン。 (a)メタンを含む原料を、ベンゼンを含む芳香族炭化水素に転化できる条件下で、脱水素環化触媒に接触させて、芳香族炭化水素と水素とを含む第1生成物を生成させる。 (b)第1生成物中の水素の少なくとも一部を、COおよび/またはCO_(2)と反応させて、第1生成物よりも水素含有量が少なく、炭化水素含有量が多い第2生成物を生成させる。 (c)第2生成物の少なくとも一部を、(a)の接触工程へ送り返す。 (d)第1生成物中のベンゼンの少なくとも一部を、ベンゼンをアルキル化してアルキルベンゼンを生成させることができる条件下で、アルキル化剤と接触させる。 【請求項8】請求項1または請求項2に記載のベンゼンから製造された炭化水素製品であって、トルエン、クメン、エチルベンゼン、スチレン、ポリスチレン、フェノール、ポリエチレンテレフタレート、シクロヘキサン、ナイロンからなる群から選択される炭化水素製品。 【請求項9】請求項4から請求項7のいずれか1項に記載のキシレンから製造された炭化水素製品であって、トルエン、クメン、エチルベンゼン、スチレン、ポリスチレン、フェノール、ポリエチレンテレフタレート、シクロヘキサン、ナイロンからなる群から選択される炭化水素製品。 【請求項10】トルエン、クメン、エチルベンゼン、スチレン、ポリスチレン、フェノール、ポリエチレンテレフタレート、シクロヘキサン、ナイロンからなる群から選択される炭化水素製品であって、δ(重水素)およびδ(^(13)C)の値が、表4に示す範囲にある炭化水素製品。」 を、 「【請求項1】芳香族炭化水素製品に用いられた特定の製造工程、および/または、特定の原料を同定する方法であって、芳香族炭化水素製品中のδ(重水素)およびδ(^(13)C)の量を測定することを含む方法。 【請求項2】ナフサから製造された芳香族炭化水素製品と、地中にあるメタンのみの脱水素環化により製造された芳香族炭化水素製品と、地中にあるメタンおよびCO_(2)から作られたメタンの脱水素環化により製造された芳香族炭化水素製品とを識別するために用いられる、請求項1に記載の方法。」 と補正するものである(審決注:補正箇所に下線を付した。)。 2 補正の適否 上記補正は、補正前の請求項の全てである請求項1?10を削除し、新たに請求項1及び2を加えたものであるところ、補正後の請求項1は補正前のいずれの請求項の発明を特定するための事項を限定したものでもなく、かつ、補正前の請求項1?10はいずれも物の発明であるのに対し、補正後の請求項1は方法の発明であって、発明の解決する課題が同一であるともいえないから、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。また、同項第1、3及び4号に掲げられた、請求項の削除、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものにも該当しない。 3 むすび 以上のとおり、上記補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反するから、その余のことを検討するまでもなく、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。 第3 本願発明 平成24年9月24日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、この出願の発明は、平成24年6月1日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1及び2に係る発明(以下「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は次のとおりである。 「【請求項1】重水素および^(13)Cを含むベンゼンであって、 ベンゼンのδ(重水素)が-250未満であり、 ベンゼンのδ(^(13)C)が-36を超え、 δ(重水素)およびδ(^(13)C)が下記により定義されるベンゼン: δ(重水素)=(R’_(sample)/R’_(standard)-1)×1000 ここで、R’_(sample)はベンゼン中の重水素と水素の存在比であり、R’_(standard)は、自然界での重水素と水素の存在比: δ(^(13)C)=(R”_(sample)/R”_(standard)-1)×1000 ここで、R”_(sample)はベンゼン中の^(13)Cと^(12)Cの存在比であり、R”_(standard)は、自然界での^(13)Cと^(12)Cの存在比。 【請求項2】重水素および^(13)Cを含むベンゼンであって、 ベンゼンのδ(重水素)が-250未満であるか、または、 ベンゼンのδ(^(13)C)が-24未満であり、 δ(重水素)およびδ(^(13)C)は請求項1の定義に従い、以下の製造プロセスで製造されたベンゼン: (a)メタンを含む原料を、ベンゼンを含む芳香族炭化水素に転化できる条件下で、脱水素環化触媒に接触させて、芳香族炭化水素と水素とを含み、原料よりも芳香族を少なくとも5wt%多く含む第1生成物を生成させる。 (b)第1生成物中の水素の少なくとも一部を、COおよび/またはCO_(2)と反応させて、第1生成物よりも水素含有量が少なく、炭化水素含有量が多い第2生成物を生成させる。 (c)第2生成物の少なくとも一部を、(a)の接触工程へ送り返す。」 第4 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、平成24年2月2日付けの拒絶理由通知における理由1?5であり、以下の理由を含むものである。 その理由1は、この出願は特許法第37条に規定する要件を満たしていないというものであり、『請求項1-10に共通する技術的特徴は「芳香族炭化水素」であるが、該化合物は当業者に周知であり・・・「芳香族炭化水素」を特別な技術的特徴ということはできないから、請求項1-10の間には特別な技術的特徴を含む技術的関係がない』と説示した理由である。 その理由2は、この出願の請求項1に係る発明は、その出願前(優先日前)に頒布された引用文献1-10に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないという理由である。その引用文献2は、特開平10-272366号公報(以下「刊行物1」という。)である。 その理由4は、この出願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないというものであり、請求項1に係る発明に関連して、「発明の詳細な説明には、具体的製造例の記載はなく、さらに、原料の種類、製造方法等によって物性は変化するものであるから、具体的に製造したベンゼンが所定の物性を満たすとも推認できない。そして、所定の物性を満たすベンゼンを得るには、ベンゼンを逐一調製し、物性測定を行う必要があり、発明の詳細な説明の記載に基づいて、当業者は1に係る発明を再現実施できない」、「当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されておらず」と説示した理由である。 本願発明1は、これらの拒絶理由が通知された請求項1に係る発明に対応する。 第5 当審の判断 1 理由1について (1)はじめに 特許法第37条には、 「二以上の発明については、経済産業省令で定める技術的関係を有することにより発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するときは、一の願書で特許出願をすることができる。」 と規定され、特許法施行規則第25条の8には、 「特許法第37条の経済産業省令で定める技術的関係とは、二以上の発明が同一の又は対応する特別な技術的特徴を有していることにより、これらの発明が単一の一般的発明概念を形成するように連関している技術的関係をいう。 2 前項に規定する特別な技術的特徴とは、発明の先行技術に対する貢献を明示する技術的特徴をいう。」 と規定されている。 原査定は、「請求項1-10の間には特別な技術的特徴を含む技術的関係がない」と判断したが、ここでは、本願発明1と本願発明2の有する「同一の又は対応する技術的特徴」が、上記特許法施行規則第25条の8第2項に規定するところの「発明の先行技術に対する貢献を明示する」か、について検討する。 (2)本願発明1と本願発明2の有する同一の又は対応する技術的特徴 本願発明1も本願発明2も、重水素及び^(13)Cを含むベンゼンに関する発明であるところ、本願発明1は、「ベンゼンのδ(重水素)が-250未満であり、ベンゼンのδ(^(13)C)が-36を超え」と規定され、一方、本願発明2は、「ベンゼンのδ(重水素)が-250未満であるか、または、ベンゼンのδ(^(13)C)が-24未満であり」と規定されている。 そこでこの数値で規定される範囲をみると、本願発明1は、「δ(重水素)」で規定する範囲と「δ(^(13)C)」で規定する範囲のどちらをも満たす範囲のベンゼンであるが、本願発明2は、「δ(重水素)」で規定する範囲か、又は「δ(^(13)C)」で規定する範囲の、どちらかを満たす範囲のベンゼンである。 そうすると、本願発明1で規定する範囲と、本願発明2で規定する範囲とは、同一ではなく、大部分が一致しているともいえず、互いの範囲が同じ性質や作用を有するものともいえない以上、これらの範囲が対応しているともいえない。 そうすると、両発明の有する「同一の又は対応する技術的特徴」は、せいぜい、「重水素および^(13)Cを含むベンゼン」である、といわざるを得ない。 (3)「同一の又は対応する技術的特徴」が「発明の先行技術に対する貢献を明示する」かについて ベンゼンが分子式C_(6)H_(6)で表される炭素と水素からなる化合物であることは当業者に周知であり、また、主たる同位体として、水素には重水素とも呼ばれる質量数2のものがあり、炭素には質量数13のものがあることも、当業者に周知である(必要なら、化学大辞典編集委員会編、「化学大辞典5 縮刷版」、1997年9月20日縮刷版第36刷、共立出版株式会社、48?49頁、748?749頁参照)。 してみると、同位体比に影響を及ぼす特徴のない通常の方法で得られたベンゼンに、重水素と^(13)Cが含まれていることは当然であって、この「重水素および^(13)Cを含むベンゼン」が発明の先行技術に対する貢献を明示しているとはいえない。 (4)まとめ 以上のとおり、本願発明1と本願発明2とは、経済産業省令で定める技術的関係を有していないから、この出願は、その余について検討するまでもなく、特許法第37条に規定する要件を満たしていない。 2 理由4について (1)発明の詳細な説明の記載 本願発明1はベンゼンの発明であるから、この出願の明細書(以下「本願明細書」という。)の発明の詳細な説明の、ベンゼンについての、より具体的な記載を検討する。 本願明細書には、段落【0077】?【0081】に、 「芳香族生成物およびその誘導体中の同位体組成を、原料中の組成から求めるために、表計算モデルを作成した。すべての場合について、反応中に同位体の崩壊は生じないと仮定した。 ベンゼンおよびキシレン中の重水素と^(13)Cの測定はすべて、高分解能質量分析計による公知の方法で行なった。 第1入力値は、表1に示すとおりの、天然の地中にある化学種の同位体組成である。 【表1】 ![]() この組成範囲と表計算モデルを用いて、公知の製造プロセスで製造されるベンゼンとキシレンの同位体組成を計算した。その結果を表2に示す。 【表2】 ![]() 前記と同じ組成範囲と表計算モデルを用いて、この発明の製造プロセスで製造される製品の同位体組成を計算した。その結果を表3に示す。 【表3】 ![]() 表3では、メタンの脱水素環化によりベンゼンと水素とを含む第1生成物を生成させ、水素の少なくとも一部を、COおよび/またはCO_(2)と反応させて、第1生成物よりも水素含有量が少なく、炭化水素含有量が多い第2生成物を生成させ、第2生成物の少なくとも一部が脱水素環化工程へ送り返される製造プロセスによって、ベンゼンを製造する場合を想定した。 このような製造プロセスで製造されたベンゼンのδ(重水素)は、-250未満、例えば-260未満、例えば-270未満、例えば-280未満、例えば-290未満、例えば-300未満であり、δ(^(13)C)の値は、-59を超え、例えば-57を超え、例えば-55を超え、例えば-53を超え、例えば-51を超え、例えば-49を超える値である。 より好ましくは、ベンゼンのδ(^(13)C)は-36を超え、例えば-34を超え、例えば-33を超え、例えば-32を超え、例えば-31を超え、例えば-30を超える値である。 一般に、ベンゼンのδ(重水素)は、-450を超え、例えば-440を超え、例えば-430を超え、例えば-420を超え、例えば-410を超え、例えば-400を超える値であり、ベンゼンのδ(^(13)C)は-24未満、例えば-25未満、例えば-26未満、例えば-27未満、例えば-28未満、例えば-29未満の値である。」 と、記載されている。 (2)検討 上記(1)の説明からすると、表1の「地中のメタン」欄に記載された「δ(^(13)C)」である「-60」?「-36」及び「δ(重水素)」である「-450」?「-250」という数値は、天然の地中のメタンを採取し、これを高分解能質量分析計によって測定して得た数値であり、表2、表3に示す数値は、表1中の数値を基にして、表計算モデルを用いて同位体組成を計算して得たものと推認できる。 しかし、このように数値だけが提示されても、その数値が妥当なものであることを裏付けるデータは全く示されていない。地中のメタンや、地中のCO_(2)におけるδ(^(13)C)がある範囲のマイナス(-)の値をとること、すなわち自然界全体と比べると^(13)Cの^(12)Cに対する比が小さいことは、生物由来の炭化水素において該比が小さいであろうことから予測できるとしても、表1の表計算モデルについての「天然の地中にある化学種の同位体組成である」として示された「-60」?「-36」の範囲は、裏付けのないものである。 しかも、本願発明1におけるδ(^(13)C)は「ベンゼンのδ(^(13)C)が-36を超え」というものであり、上記の表1に示されたメタンのδ(^(13)C)と重複しないものである。天然の地中にあるメタンであってδ(^(13)C)が-36を超えるものの存在は、生物由来の割合が少ないものなどで、想定され、そのようなメタンから製造したベンゼンは、δ(^(13)C)が-36を超えることが想定されるとした場合でも、本願発明1を実施しようとする当業者は、いちいち、原料のメタンの生産地やバッチが異なるごとに、高分解能質量分析装置で測定をしなければ、本願発明1の実施ができたのかを確認することができず、当業者であっても、過度の試行錯誤を要するというべきである。本願明細書には、どの産地のメタンを用いればよいかについての、指針も示されていない。 このように、表1の数値に基づく表計算モデルも、本願発明1の実施に役に立たないし、どの産地のメタンを用いるかの指針も示されていないことから、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者に過度の試行錯誤を強いるものといえる。 (3)まとめ 以上のとおり、この出願は、発明の詳細な説明が、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。 したがって、この出願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。 3 理由2について (1)刊行物の記載事項 刊行物1には、以下の記載がある。 (1a)「【請求項4】亜鉛、ガリウム及びコバルトからなる金属並びにそれらの金属の化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種とメタロシリケートとからなる触媒の存在下、低級炭化水素を高温で接触反応させる事を特徴とする芳香族炭化水素を主成分とする芳香族化合物及び水素の製造方法。 【請求項5】モリブデン及びその化合物から選ばれた少なくとも一種と、亜鉛、ガリウム、コバルト、クロム、ランタン、ネオジム、サマリウム及びイットリウムからなる金属並びにそれらの金属の化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種と、メタロシリケートとからなる触媒の存在下、低級炭化水素を高温接触反応させる事を特徴とする芳香族炭化水素を主成分とする芳香族化合物及び水素の製造方法。 【請求項6】モリブデン、タングステン及びバナジウムから選ばれた少なくとも一種の金属を含有するヘテロポリ酸とメタロシリケートとからなる低級炭化水素の芳香族化触媒の存在下、低級炭化水素を高温で接触反応させる事を特徴とする芳香族炭化水素を主成分とする芳香族化合物及び水素の製造方法。」(2頁、特許請求の範囲の請求項4?6) (1b)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、天然ガス等の低級炭化水素含有ガスから化学工業、薬品類、プラスチック類などの化学製品の原料として有用であるベンゼン類及びナフタレン類を主成分とする芳香族炭化水素と高純度の水素ガスとを同時に効率的に製造することができる触媒と、該触媒の存在下に、低級炭化水素を高温接触反応に付して芳香族炭化水素を主成分とする芳香族化合物及び水素を製造する方法に関する。」 (1c)「【0007】【発明が解決しようとする課題】本発明はかかる従来技術の実状と問題点に鑑み、天然ガス等の低級炭化水素含有ガスを用いて有用な化学原料であるベンゼン、ナフタレン等の芳香族化合物と水素ガスとを同時に製造する有効な低級炭化水素変換用触媒を提供し、かつ該触媒を用いた芳香族化合物の製造法を提供することを課題とする。」 (1d)「【0025】・・・反応は、低級炭化水素原料を、気相中で酸素の非存在下で300?800℃、好ましくは450?775℃で触媒と接触させることによっておこなわれる。反応は、0.1?10気圧、好ましくは1?7気圧で好適に実施される。重量時間空間速度(WHSV)は0.1?10であり、好ましくは0.5?5.0である。反応生成物から回収される未反応原料は、芳香族化反応に再循環させることができる。」 (1e)「【0027】実施例1 HZSM-5に亜鉛、ガリウム、コバルトを担持した触媒の調製方法:0.21gの硝酸亜鉛を3mlの蒸留水に溶解し、HZSM-5(シリカ/アルミナ比=23)(表面積800m^(2)/g,細孔径=7Å)の粉末1.5gを混入し、充分に攪拌しながら回転式減圧エバポレーターを用いて蒸発乾固して、硝酸亜鉛のHZSM-5担持体を得た。これを石英製反応管(1.2φ長さ30cmV字タイプ)に充填後、純酸素ガス(40ml/分、1気圧)を流しながら、400℃で4時間焼成して3%の亜鉛をHZSM-5に担持した触媒(以下、Zn(3%)/HZSM-5と略記する)を得た。同様にして、Co(2%)/HZSM-5触媒及びGa(2%)/HZSM-5触媒を調製した。 【0028】実施例2 実施例1で調製した担持HZSM-5触媒を用いて、メタンの芳香族化反応を行った。Co(2%)/HZSM-5触媒(シリカ/アルミナ比=23)0.3gを固定床流通式反応装置の石英製反応器(内径8mm)に充填し、反応温度700℃、常圧でメタンガスを7.5ml/minの流量で供給し、メタンの芳香族化反応を行った。反応物中には未反応のメタンの他に、水素、一酸化炭素、二酸化炭素、炭素数2?5の炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ナフタレン、メチルナフタレン、ジメチルナフタレン等が存在していた。反応開始後、200分経過後の結果を、表1に示す。同様にして、実施例1で調製したGa(2%)/HZSM-5触媒、Zn(3%)/HZSM-5触媒を用いて、実施例2と同様の方法でメタンの芳香族化反応を行った。反応開始後、200分経過後の反応成績を表1に示す。 【0029】比較例1 実施例2の比較例として金属を担持しないHZSM-5触媒を用いて、実施例2と同様の方法でメタンの芳香族化反応を行った。反応開始後、200分経過後の結果を、表1に示す。 【0030】 ![]() 【0031】注:以下の定義は表1?4に共通。Co(2%)はHZSM-5にコバルトを2%担持した触媒を示す。 転化率:メタン転化率 HC選択率:炭化水素選択率 HC分布:炭化水素の分布 C_(6) H_(6) :ベンゼン C_(10)H_(8) :ナフタレン 【0032】実施例3 HZSM-5にモリブデンを担持した触媒の調製方法:0.66gパラモリブデン酸アンモニウム塩を10mlの蒸留水に溶解し、HZSM-5(シリカ/アルミナ比=12)(表面積800m^(2)/g,細孔径=7Å)の粉末12gを加え、充分に攪拌しながら回転式減圧エバポレーターを用いて蒸発乾固して、パラモリブデン酸アンモニウムのHZSM-5担持体を得た。これを石英製反応管(1.2φ長さ30cmV字タイプ)に充填後、純酸素ガス流(40ml/分、1気圧)下、400℃で4時間焼成して薄草色粉末としてMo(3%)/HZSM-5を得た。 【0033】Mo(3%)/HZSM-5触媒に更にコバルト、ガリウム、亜鉛、クロムを担持した触媒の調製方法:硝酸コバルト0.072gを3mlの蒸留水に溶解し、さらに上記で調製したMo(3%)/HZSM-5触媒1.5gを加えた後、同様に蒸発乾固、焼成する事により、Mo(3%)/Co(1%)/HZSM-5触媒を調製した。同様にして、Mo(3%)/Ga(1.5%)/HZSM-5触媒、Mo(3%)/Zn(1%)/HZSM-5触媒及びMo(3%)/Cr(3%)/HZSM-5触媒を調製した。 【0034】実施例4 実施例3で調製しMo(3%)/HZSM-5触媒に更にコバルト、ガリウム、亜鉛、クロムを担持した触媒を用いて実施例2と同様の方法でメタンの芳香族化反応を行った。反応開始後、200分経過後の結果を表2に示す。 比較例2 実施例4の比較例として6%のMoを担持したMo/HZSM-5触媒を用いて実施例2と同様の方法でメタンの芳香族化反応を行った。反応開始後、200分経過後の結果を表2に示す。 【0035】 ![]() ・・・・・・・・・・・・・・・ 【0039】実施例7 HZSM-5にヘテロポリ酸を担持した触媒の調製及び反応:12-リンモリブデンタングステン酸を原料としHZSM-5に担持して調製したPMoW(1.5%)-HZSM-5触媒を用いて行ったメタンの芳香族化試験結果を表4に示す。同様にして12-リンモリブデンバナジウム酸を原料としたPMoV(3%)-HZSM-5触媒を調製し、同様にメタンの芳香族化試験結果を表4に示す。 【0040】 ![]() 」 (2)刊行物に記載された発明 刊行物1には、特定の触媒の存在下に、低級炭化水素から芳香族炭化水素と水素を製造する方法について記載されるところ(摘示(1a))、低級炭化水素原料として天然ガス等が適し、ベンゼン、ナフタレン等の芳香族化合物と水素ガスが製造されること(摘示(1b)、(1c))、反応は酸素の非存在下で行われること(摘示(1d))、メタンの芳香族化反応を行うと反応物中には未反応のメタンの他に、水素、一酸化炭素、二酸化炭素、ベンゼン等が存在していたこと(摘示(1e))等が記載されている。 また、摘示(1e)の実施例で用いられる原料であるメタンとしては、摘示(1b)、(a3)の【発明の属する技術分野】や【発明が解決しようとする課題】の記載からすると、当然に天然ガスが用いられたものといえる。 そして、このようにして製造されたベンゼン自体も刊行物1に記載されているといえるから、刊行物1には、 「天然ガス由来の低級炭化水素原料を、酸素の非存在下で特定の触媒と接触させて反応させて製造した、ベンゼン」 の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。 (3)対比 本願発明1と引用発明とを対比すると、上記1(3)で検討したとおり、同位体比に影響を及ぼす特徴のない通常の方法で得られたベンゼンに、重水素と^(13)Cが含まれていることは当然であるから、両者は、 「重水素および^(13)Cを含むベンゼン」 である点で一致し、以下の点で一応相違する。 (相違点1) 本願発明1においては、ベンゼンが、構成元素の同位体組成により「ベンゼンのδ(重水素)が-250未満であり、ベンゼンのδ(^(13)C)が-36を超え」と特定されているのに対し、引用発明aにおいては、ベンゼンが、製造方法により特定されるものの、そのように同位体組成では特定されていない点 ただし、δ(重水素)及びδ(^(13)C)の定義は下記のとおりである。 δ(重水素)=(R’_(sample)/R’_(standard)-1)×1000 δ(^(13)C)=(R”_(sample)/R”_(standard)-1)×1000 ここで、 R’_(sample)はベンゼン中の重水素と水素の存在比 R’_(standard)は自然界での重水素と水素の存在比 R”_(sample)はベンゼン中の^(13)Cと^(12)Cの存在比 R”_(standard)は自然界での^(13)Cと^(12)Cの存在比 (4)一応の相違点1の検討 相違点1を検討するに先立ち、本願発明1について、請求項1に記載されるところの特定の同位体組成で規定されているベンゼンとするには、どのような方法で製造すればよいのかについて、検討する。 本願明細書には、段落【0001】に、 「この発明は、メタン、特に天然ガスから製造された芳香族炭化水素の同定への、同位体分析の適用に関する。」 と記載され、段落【0029】には、 「<原料>この発明のベンゼンとキシレンは、メタンを含有するあらゆる原料を用いて製造することができるが、本願の製造プロセスは天然ガスの使用を意図している。」 と記載され、段落【0034】には、 「<脱水素環化反応>この発明の脱水素環化工程では、メタンを含有する供給原料を、通常は非酸化条件下、好ましくは還元条件下で、メタンをベンゼン、ナフタレンを含む高級炭化水素に転換できる条件で、脱水素環化触媒に接触させる。」 等の記載がされており、これらの記載からすると、原料として天然ガスを用い、通常は非酸化条件下で、脱水素環化触媒と接触させることで、請求項1の同位体組成で規定されたベンゼンが得られるということになる。 そこで、相違点1を検討する。 上記2で述べたとおり、この出願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではないが、仮に、通常の天然ガス原料ないし生物由来の割合が少ない天然ガス原料を用いれば、本願発明1において特定されているδ(^(13)C)の範囲を満足するベンゼンが得られるというのであれば、本願発明1も引用発明も、原料として天然ガスを用い、非酸化条件下で、適した触媒を接触させて、得られたベンゼンであって、どちらも基本的に同じ方法で得られているのであるから、得られたベンゼンには、同位体組成も含めて差異はないといえる。 してみると、本願発明1と引用発明とは、相違点1において実質的に相違しているとはいえない。 (5)まとめ 以上のとおり、本願発明1は、本願の優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 第8 むすび 以上のとおり、この出願は特許法第37条及び同法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、本願発明1は同法第29条第1号第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、この出願は、拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-10-02 |
結審通知日 | 2013-10-08 |
審決日 | 2013-10-21 |
出願番号 | 特願2009-513191(P2009-513191) |
審決分類 |
P
1
8・
57-
Z
(C07C)
P 1 8・ 65- Z (C07C) P 1 8・ 536- Z (C07C) P 1 8・ 113- Z (C07C) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 安田 周史 |
特許庁審判長 |
中田 とし子 |
特許庁審判官 |
武重 竜男 齋藤 恵 |
発明の名称 | メタンから製造された芳香族炭化水素の同位体分析による同定 |
代理人 | 山崎 行造 |