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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06Q
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06Q
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G06Q
管理番号 1285828
審判番号 不服2012-13333  
総通号数 173 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-07-12 
確定日 2014-03-12 
事件の表示 特願2007-547730「データセットのハンドリング」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 6月29日国際公開,WO2006/067685,平成20年 7月10日国内公表,特表2008-524739〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2005年(平成17年)12月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理,2004年(平成16年)12月21日 欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって,平成19年6月20日に特許法184条の4第1項の規定による翻訳文が提出され,平成23年3月1日付けの拒絶理由の通知に対し,平成23年9月7日に意見書が提出されたが,平成24年3月5日付けで拒絶査定がなされ,これに対して平成24年7月12日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正がなされ,平成24年9月11日付けで審尋がなされ,平成25年1月18日に回答書が提出されたものである。

第2 平成24年7月12日の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年7月12日の手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項の記載は次のとおりである。(下線部は,補正箇所であり,当審で付した。)
「【請求項1】
複数のデータセットをハンドリングするデータ・ハンドリング・システムであって,
いくつかのカテゴリのデータセットをアクセスするアクセス・モジュールであって,データセットのそれぞれのカテゴリが,別々のコントラスト・タイプの磁気共鳴画像に,又は時間-輝度曲線に関係し,前記データセットの少なくとも1つが,解剖学的磁気共鳴画像を表すアクセス・モジュールと,
前記解剖学的磁気共鳴画像内の関心領域を選択するための選択モジュールと,
前記それぞれのカテゴリにおけるデータセットをリンクするための接続モジュールであって,前記解剖学的磁気共鳴画像内の前記選択された関心領域が,前記時間-輝度曲線に,又は,前記別々のコントラスト・タイプの磁気共鳴画像内の対応する関心領域にリンクされる接続モジュールとを備え, 前記リンクは,前記リンクが確立される前記データセットに基づき,前記リンクされたデータセットへのアクセスを可能にするデータ・ハンドリング・システム。
【請求項2】
請求項1記載のデータ・ハンドリング・システムであって,
それぞれのカテゴリのデータセットが,順序付けられたデータセット系列を構成し,
前記接続モジュールが,前記それぞれのカテゴリにおける前記順序付けられたデータセット系列をたどって系列をリンクするよう構成されたデータ・ハンドリング・システム。
【請求項3】
請求項1記載のデータ・ハンドリング・システムであって,
前記選択モジュールは更に,前記解剖学的磁気共鳴画像内の特徴を選択するよう構成され,
前記接続モジュールは,データセットのリンクを,リンク対象のデータセットにおける対応する特徴に基づかせるよう構成されたデータ・ハンドリング・システム。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
複数のデータセットをハンドリングし,
いくつかのカテゴリのデータセットをアクセスするアクセス・モジュールであって,データセットのそれぞれのカテゴリが,別々のコントラスト・タイプの磁気共鳴画像に,又は時間-輝度曲線に関係するアクセス・モジュールと,
前記それぞれのカテゴリにおけるデータセットをリンクするための接続モジュールであって,前記リンクが,前記リンクされたデータセットへのアクセスを,データセットであって該データセットから前記リンクが設定されたデータセットに基づいて可能にする接続モジュールとを備えるデータ・ハンドリング・システム。
【請求項2】
請求項1記載のデータ・ハンドリング・システムであって,
それぞれのカテゴリのデータセットが,順序付けられたデータセット系列を構成し,
前記接続モジュールが,前記それぞれのカテゴリにおける前記データセット系列をたどって系列をリンクするよう構成されるデータ・ハンドリング・システム。
【請求項3】
請求項1記載のデータ・ハンドリング・システムであって,
前記接続モジュールが,データセットのリンクを,リンク対象のデータセットにおける対応する特徴に基づかせるデータ・ハンドリング・システム。
【請求項4】
請求項1記載の,複数のデータセットをハンドリングするデータ・ハンドリング・システムであって,
個々のデータセットにおける特徴を選択するための選択モジュールと,
前記選択された特徴に基づいてそれぞれのカテゴリにおけるデータセットをリンクするよう構成された接続モジュールとを備えるデータ・ハンドリング・システム。」

2 補正の適否について
本件補正は,補正前の特許請求の範囲に記載された請求項1及び同請求項を引用する請求項2,3の発明に,「解剖学的磁気共鳴画像内の関心領域を選択するための選択モジュール」に係る構成を付加する補正事項を含むものである。
本件補正後の請求項1の発明は,補正前の請求項1を引用する請求項4の発明特定事項に「個々のデータセットにおける特徴を選択するための選択モジュール」との記載があることから,「選択モジュール」に係る構成を備えた補正前の請求項4の発明を限定的に減縮したものということができる。
他方,補正前の請求項2,3の発明は,請求項4によって引用されておらず,「選択モジュール」に係る構成を備えていないから,補正前の請求項2,3の発明に,「解剖学的磁気共鳴画像内の関心領域を選択するための選択モジュール」に係る構成を付加することとなる本件補正は,補正前の請求項2,3に記載した発明特定事項を限定するものではない。
したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,「平成18年改正前特許法」という。)17条の2第4項2号に規定する,特許請求の範囲の減縮(同法36条5項の規定により請求項に記載した発明特定事項を限定するものであつて,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)を目的としたものとはいえない。
また,上記「選択モジュール」に係る構成を付加する補正が,同法17条の2第4項1号(請求項の削除),3号(誤記の訂正),4号(明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。))に規定される事項を目的とするものでないことは明らかである。

3 予備的見解
本件補正後の請求項1に係る発明は,上記のとおり,補正前の請求項4を限定的に減縮したものということもできるから,仮に,本件補正が,平成18年改正前特許法17条の2第4項2号に規定する,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとした場合に,補正後の請求項1に係る発明(以下,「本件補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について,以下に検討する。

(1)補正後の本願発明
本件補正発明は,上記第2[理由]1(1)の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。

(2)引用例
ア これに対して,原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第2003/107275号(以下,「引用例」という。)には,以下の記載がある。

a 「The present invention relates to image registration and fusion and is particularly related to a method and apparatus using a non-rigid technique for registration and fusion of images. ……」(1頁4行?6行)
(当審訳:本発明は,画像位置合わせ及び融合に関し,特に画像の位置合わせ及び融合のために非剛体技術を使用する方法及び装置に関する。……)

b 「Since the different imaging modalities have characteristic features related to their particular data acquisition and image processing methods, a particular modality may be more useful for obtaining specific types of diagnostic information. For example, functional imaging modalities include scintigraphy, functional MRI (fMRI) and nuclear medicine imaging techniques such as SPECT and PET. In addition, some lesser used functional techniques include perfusion MRI (pMRI), functional CT (fCT), electro impedance tomography (EIT) and magnetic resonance elastography (MRE). These functional modalities can provide imaging information showing primarily metabolic or functional information and some structural features of the imaged subject matter. ……」(1頁16行?25行)
(当審訳:異なるイメージングモダリティは,それぞれ固有のデータ収集及び画像処理方法に関連した特有のフィーチャーを有するので,特定のモダリティは,特定タイプの診断情報を得るのにより有用である。例えば,機能的なイメージングモダリティは,シンチグラフィ,ファンクショナルMRI(fMRI),及びSPECTやPETのような核医学イメージング技術を含む。さらに,あまり使用されない機能的な技術は,潅流MRI(pMRI),ファンクショナルCT(fCT),電気インピーダンス断層撮影法(EIT)及び磁気共鳴弾性率測定法(MRE)を含む。これらの機能的なモダリティは,主に撮像対象の代謝又は機能の情報及び何らかの構造的特徴を示す画像情報を提供することができる。……)

c 「When a physician requires images of anatomical structure, other medical imaging modalities can be used. For example, anatomical modalities include X- Ray, CT, MRI, ultrasound, portal images and video sequences obtained by various scopes such as laparoscopy or laryngoscopy. Some derivative techniques include magnetic resonance angiography (MRA), digital subtraction angiography (DSA) and computed tomography angiography (CTA). Images obtained from these modalities can be used to provide suitable images for general anatomical structure within an examination region.」(2頁6行?13行)
(当審訳:医師が解剖学的構造の画像を必要とするのであれば,他の医療イメージングモダリティが使用される。例えば,解剖学的モダリティは,腹腔鏡検査法又は喉頭鏡検査法のような様々な内視鏡検査により得られた,X線,CT,MRI,超音波,ポータル画像及びビデオシーケンスを含む。いくつかの派生的な技術は,磁気共鳴血管造影法(MRA),デジタルサブトラクション血管造影法(DSA)及びコンピュータ断層撮影血管造影法(CTA)を含む。これらのモダリティから得られた画像は,検査領域内の一般的な解剖学的構造に対して適切な画像を提供するために使用される。)

d 「When images from more than one imaging modality are available, it is often desirable to combine the information in the separate images from the different modalities into a single image. In addition to multimodality registration and fusion, it is sometimes valuable to combine images from a single modality. ……」(2頁14行?17行)
(当審訳:複数のイメージングモダリティからの画像が利用可能であれば,異なるモダリティからの別々の画像の情報を単一の画像に結合したい場合がよくある。マルチモダリティ位置合わせ及び融合に加え,単一のモダリティからの複数の画像を結合することが有用な場合もある。……)

e 「Rather than side by side comparison, the multimodality or monomodality images may be superimposed upon one another to correlate the location of specific image features relative to one another. Superposition of images of specifically related subject matter involves registration of the images and fusion of the images. Registration generally involves spatial alignment of the images and fusion is performed to produce the integrated display of the combined images. ……」(2頁25行?30行)
(当審訳:マルチモダリティ又はモノモダリティ画像は,並べて比較するのではなく,関連する画像フィーチャーの位置を互いに関連付けるために互いに重ね合わせられる。特定の関連する対象の画像の重ね合わせは,画像の位置合わせ及び画像の融合を伴う。位置合わせは,一般に画像の空間的な整列を含み,融合は,結合された画像を統合して表示するために実行される。……)

f 「A method of combining images according to principles practiced in the present invention comprises the steps of obtaining a first image dataset of a region of interest of a subject and obtaining a second image dataset of the region of interest of the subject. Next, a general model of physiological motion for the region of interest is provided. The general model of physiological motion is adapted with data derived from the first image data set to provide a subject specific physiological model. The subject specific physiological model is applied to the second image dataset to provide a combined image.」(4頁5行?12行)
(当審訳:本発明において実践される原理による画像を結合する方法は,対象の関心領域の第1画像データセットを得るステップと,対象の関心領域の第2画像データセットを得るステップとを有する。次に,関心領域に対する生理学的運動の一般的なモデルが形成される。生理学的運動の一般的なモデルは,第1画像データセットから得られたデータと適合され,対象特有の生理学的モデルを形成する。対象特有の生理学的モデルは,第2画像データセットに適用され,結合画像を形成する。)

g 「With reference to FIG. 1 , an image registration and fusion process 20 is shown with an image registration and fusion system 22 for providing combined images from two different imaging scans. A first scanning sequence 24 acquires and stores image data 26 in memory. The image data 26 is processed in a suitable reconstruction processor 28 for the particular imaging modality. The reconstructed image is loaded into a volume image memory 30. A second scanning sequence 34 acquires and stores image data 36 in memory. The image data 36 is processed in a suitable reconstruction processor 38. The reconstructed image is loaded into a volume image memory 40. The first and second scanning sequences 24, 34 can be monomodality or multimodality image scanning sequences. ……」(5頁28行?6頁6行)
(当審訳:図1を参照すると,画像位置合わせ・融合処理20は,2つの異なるイメージングスキャンから結合画像を形成する画像位置合わせ・融合システム22と共に示される。第1スキャニングシーケンス24は,画像データ26を取得してメモリに格納する。画像データ26は,特定のイメージングモダリティに適合した再構成プロセッサ28において処理される。再構成された画像は,ボリューム画像メモリ30内にロードされる。第2スキャニングシーケンス34は,画像データ36を取得してメモリに格納する。画像データ36は,適切な再構成プロセッサ38において処理される。再構成された画像は,ボリューム画像メモリ40にロードされる。第1及び第2スキャニングシーケンス24及び34は,モノモダリティ又はマルチモダリティ画像スキャニングシーケンスであることができる。……)

h 「A non-rigid physiological model based image registration and image fusion processor 50 is in data communication with the volume image memories 30, 40. The image memories 30, 40 input reconstructed image data into the processor 50. The processor 50 provides the registered and fused image, as described below, to a combined image memory 52 which is operatively connected to a video processor 54. The video processor 54 is connected to a human readable display 56 for viewing of the registered and fused images.」(6頁12行?18行)
(当審訳:非剛体生理学的モデルに基づく画像位置合わせ・画像融合プロセッサ50は,ボリューム画像メモリ30及び40とデータ通信状態にある。画像メモリ30及び40は,再構成された画像データをプロセッサ50に入力する。プロセッサ50は,位置合わせ及び融合された画像を,後述のように,ビデオプロセッサ54に動作的に接続された結合画像メモリ52に供給する。ビデオプロセッサ54は,位置合わせ及び融合された画像を見るために,人的に読み取り可能なディスプレイ56に接続される。)

i 「The imaging devices 62 and 64 cooperate to obtain patient information through different imaging modalities, to provide anatomical structure images and physiologic function images of a subject 66. More specifically, in this embodiment of an apparatus illustrating principles of the present invention, imaging device 62 is a computed tomagrophy (CT) scanner that utilizes X-rays as the mode of obtaining data from which images depicting the internal structure of the subject 66 are formed. Imaging device 64 is a positron emission tomography (PET) scanner that utilizes positron emissions originating from a radio-pharmaceutical introduced to the patient as the mode of acquiring data from which images depicting primarily metabolic physiological functions within the subject 66 are formed. ……」(6頁30行?32行)
(当審訳:イメージング装置62及び64は,協働して異なるイメージングモダリティにより患者情報を得て,対象66の解剖学的構造画像及び生理学的機能画像を形成する。より具体的には,本発明の原理の実例となる装置の本実施例において,イメージング装置62は,データを取得するモードとしてX線を使用するコンピュータ断層撮影(CT)スキャナであり,データから,対象66の内部構造を表す画像が形成される。イメージング装置64は,データを収集するモードとして患者に取り込まれた放射性薬剤から生じる陽電子放射を使用する陽電子放射形断層撮影(PET)スキャナであり,データから,主として対象66内の代謝の生理学的機能を表す画像が形成される。……)

j 「The data from the volume CT image memory 94 and volume PET image memory 104 are provided to a non-rigid image registration and fusion process 120. The non-rigid image registration and fusion process 120 performs non-rigid registration of CT and PET images with physiological modeled organ motions, such as respiratory motion and cardiac motion. ……
A video processor 124 is operatively connected to the combined image memory 122 to process the image data to provide suitable video signals to a human readable display 126. ……」(8頁30行?9頁12行)
(当審訳:ボリュームCT画像メモリ94及びボリュームPET画像メモリ104からのデータは,非剛体画像位置合わせ及び融合処理120に供給される。非剛体画像位置合わせ及び融合処理120は,呼吸運動及び心臓運動のような生理学的なモデル化された器官運動を用いてCT及びPET画像の非剛体位置合わせを実行する。……処理120は,融合画像データを結合画像メモリ122に供給する。
ビデオプロセッサ124は,結合画像メモリ122に動作的に接続され,画像データを処理し,適切なビデオ信号を人的に読み取り可能なディスプレイ126に供給する。……)

k 「In the event that the imaging modalities are discrete systems and the volume image data of 94,104 are acquired in different clinical settings (as opposed to the case of a combined CT/PET system shown in FIG. 2),
a pre-registration step 180 is performed to rigidly align the volume CT image in 94 with the volume PET image in 104 before non-rigid registration occurs in 120. . ……」(17頁19行?23行)
(当審訳:イメージングモダリティが離散システムであり,メモリ94,104のボリューム画像データが(図2に示される結合CT/PETシステムの場合と逆に)異なる臨床設定で収集される場合には,非剛体位置合わせが処理120において行われる前に,メモリ94におけるボリュームCT画像をメモリ104におけるボリュームPET画像と剛体配置するように,プレ位置合わせステップ180が実行される。……)

イ これらの記載及び図面によれば,引用例には,以下の技術的事項が記載されている。
(ア)引用例に記載された技術は,医療イメージングモダリティから取得した画像を位置合わせし融合する装置に係る技術である(記載事項aなど)。
(イ)機能的なイメージングモダリティ,例えば,PET,潅流MRI(pMRI)は,撮像対象の代謝又は機能の情報及び何らかの構造的特徴を示す画像情報を提供し(記載事項b),解剖学的モダリティ,例えば,CT,MRIは,検査領域内の一般的な解剖学的構造の画像を提供する(記載事項c)。
複数の異なるモダリティ(マルチモダリティ)から得られた情報を単一の画像に結合したり,単一のモダリティ(モノモダリティ)からの複数画像を結合することが求められる場合がある(記載事項d)。このとき,マルチモダリティ又はモノモダリティ画像は,関連する画像位置を互いに関連付けて重ね合わせるために,位置合わせされ融合される(記載事項e)。
(ウ)画像の結合は,対象の関心領域の第1画像データセット及び第2画像データセットを取得し,これらのデータに,関心領域に対する生理学的運動の一般的なモデルを適用することにより実行される(記載事項f),
具体的には,イメージング装置62,例えばコンピュータ断層撮影(CT)スキャナは,データから対象の内部構造を表す解剖学的構造画像を形成し,イメージング装置64,例えば,陽電子放射形断層撮影(PET)スキャナは,データから,対象内の代謝の生理学的機能を表す画像を形成する(記載事項i)。非剛体画像位置合わせ及び融合処理120は,生理学的なモデル化された器官運動を用いてCT画像とPET画像の非剛体位置合わせを実行し,融合画像データを結合画像メモリ122に供給する。ビデオプロセッサ124は,画像データを処理し,ビデオ信号としてディスプレイ126に供給する。
(エ)このとき,モダリティが離散システムであり,画像データが異なる臨床設定で収集される場合には,非剛体位置合わせの前に,CT画像をPET画像と剛体配置するように,プレ位置合わせステップ180が実行される。

ウ 以上のことから,引用例には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「機能的なイメージングモダリティ,例えば,PET,潅流MRI(pMRI)は,撮像対象の代謝又は機能の情報及び何らかの構造的特徴を示す画像情報を提供し,解剖学的モダリティ,例えば,CT,MRIは,検査領域内の一般的な解剖学的構造の画像を提供し,
対象の関心領域の第1画像データセット及び第2画像データセットを取得し,これらのデータに,関心領域に対する生理学的運動の一般的なモデルを適用することにより非剛体画像位置合わせ及び融合処理し,結合画像を形成するものであり,
例えば,イメージング装置であるコンピュータ断層撮影(CT)スキャナは,データから対象の内部構造を表す解剖学的構造画像を形成し,イメージング装置である陽電子放射形断層撮影(PET)スキャナは,データから対象内の代謝の生理学的機能を表す画像を形成し,非剛体画像位置合わせ及び融合処理により,生理学的なモデル化された器官運動を用いてCT画像とPET画像の非剛体位置合わせ及び融合処理を実行し,結合された画像データをディスプレイに表示するものであり,
このとき,モダリティが離散システムであり,画像データが異なる臨床設定で収集される場合には,非剛体位置合わせの前に,CT画像をPET画像と剛体配置するように,プレ位置合わせステップが実行される,
医療イメージングモダリティから取得した画像を位置合わせし融合する装置。」

(3)対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明は,「対象の関心領域の第1画像データセット及び第2画像データセットを取得し,これらのデータに,関心領域に対する生理学的運動の一般的なモデルを適用することにより結合画像を形成する」ものであり,「第1画像データセット」及び「第2画像データセット」には,「PET」,「潅流MRI(pMRI)」から取得した「撮像対象の代謝又は機能の情報及び何らかの構造的特徴を示す画像情報」,及び「CT」,「MRI」から取得した「検査領域内の一般的な解剖学的構造の画像」が含まれ,一般にこれらイメージング情報又は画像は,それぞれデータセットを構成するということができるから,本件補正発明の表現を用いれば,「複数のデータセットをハンドリングするデータ・ハンドリング・システム」ということができる。
また,上記「撮像対象の代謝又は機能の情報及び何らかの構造的特徴を示す画像情報」及び「検査領域内の一般的な解剖学的構造の画像」は,それぞれ異なる「カテゴリ」を構成するデータということができ,引用発明に係る装置が,各カテゴリのデータセットにアクセスする機能を有することは自明であるから,本件補正発明と引用発明は,「いくつかのカテゴリのデータセットをアクセスするアクセス・モジュール」を備える点で一致する。
(イ)引用発明において,「撮像対象の代謝又は機能の情報及び何らかの構造的特徴を示す画像情報」を提供する,「pMRI」及び「PET」から得られる画像は,当該技術分野の技術常識から,本件補正発明における「別々のコントラスト・タイプの磁気共鳴画像」又は「時間-輝度曲線」に対応するものであり,「撮像対象の代謝又は機能に関連する画像情報」である点で共通する。
また,引用発明において,「検査領域内の一般的な解剖学的構造の画像」あるいは「対象の内部構造を表す解剖学的構造画像」を提供する,「CT」や「MRI」から得られる画像は,当該技術分野の技術常識から,本件補正発明における「解剖学的磁気共鳴画像」に対応するものであり,「解剖学的構造画像」ということができる。
ここで,「撮像対象の代謝又は機能に関連する画像情報」及び「解剖学的構造画像」が,それぞれ異なる「カテゴリ」の画像データであることは明かであるから,本件補正発明と引用発明の「アクセス・モジュール」は,後記の点で相違するものの,「データセットのそれぞれのカテゴリが,撮像対象の代謝又は機能に関連する画像情報,及び解剖学的構造画像を含む」点で共通する。
(ウ)引用発明は,「対象の関心領域の第1画像データセット及び第2画像データセットを取得し,これらのデータに,関心領域に対する生理学的運動の一般的なモデルを適用することにより結合画像を形成するもの」であり,本件補正発明と引用発明は,後記の点で相違するものの,「解剖学的構造画像内の関心領域」を対象としている点で共通する。
(エ)引用発明は,対象の関心領域の第1画像データセット及び第2画像データセットを非剛体画像位置合わせ及び融合処理し,結合画像を形成するものであり,上記のとおり,CTにより,対象の内部構造を表す解剖学的構造画像を取得し,PETにより,対象内の代謝の生理学的機能を表す画像を取得し,非剛体画像位置合わせ及び融合処理により,CT画像とPET画像を非剛体位置合わせ及び融合処理する構成が例示されており,さらに,「モダリティが離散システムであり,画像データが異なる臨床設定で収集される場合には,非剛体位置合わせの前に,CT画像をPET画像と剛体配置するように,プレ位置合わせステップが実行される」ことが特定されていることから,CT画像とPET画像を「非剛体位置合わせ」あるいは「プレ位置合わせ」し,融合処理するにあたり,結合される画像について「関連付け」がされており,「関連付けるための手段」を備えることは技術常識である。
ここで,「リンク」あるいは「リンクする」の用語に関し,本件補正発明には,明細書の記載を参照しても格別の定義はされておらず,本件補正発明における「リンク(する)」は,当該技術分野における一般的な用語の意義から,「連結(する)」や「関連付け(る)」を意味すると解されることから,引用発明における,関心領域の「関連付け」は,「リンク」にほかならず,また,「関連付けるための手段」を「接続モジュール」と呼称することは,任意である。
そうすると,本件補正発明と引用発明は,後記の点で相違するものの,「それぞれのカテゴリにおけるデータセットをリンクするための手段であって,解剖学的構造画像内の関心領域を撮像対象の代謝又は機能に関連する画像情報にリンクする接続モジュール」を備える点で共通する。

イ 以上のことから,本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
[一致点]
「複数のデータセットをハンドリングするデータ・ハンドリング・システムであって,
いくつかのカテゴリのデータセットをアクセスするアクセス・モジュールであって,データセットのそれぞれのカテゴリが,少なくとも撮像対象の代謝又は機能に関連する画像情報,及び解剖学的構造画像を含むアクセス・モジュールと,
それぞれのカテゴリにおけるデータセットをリンクするための手段であって,解剖学的構造画像内の関心領域を撮像対象の代謝又は機能に関連する画像情報にリンクする接続モジュールと,を備えた,
データ・ハンドリング・システム。」

[相違点1]
本件補正発明は,データセットの「カテゴリ」が,「別々のコントラスト・タイプの磁気共鳴画像に,又は時間-輝度曲線に関係し,データセットの少なくとも1つが,解剖学的磁気共鳴画像を表」し,「解剖学的磁気共鳴画像内の選択された関心領域が,時間-輝度曲線に,又は,別々のコントラスト・タイプの磁気共鳴画像内の対応する関心領域にリンクされる」,すなわち,「解剖学的構造画像」と,「別々のコントラスト・タイプの磁気共鳴画像」又は「撮像対象の代謝又は機能に関連する画像情報」としての「時間-輝度曲線」とがリンクされているのに対し,引用発明は,データセットの「カテゴリ」が,「CT」,「MRI」から取得した「解剖学的構造画像」のカテゴリと,「PET」,「pMRI」から取得した「撮像対象の代謝又は機能に関連する画像情報」のカテゴリであり,これらのカテゴリー間で画像がリンクされる点。
[相違点2]
本件補正発明は,「リンクは,リンクが確立されるデータセットに基づき,リンクされたデータセットへのアクセスを可能にする」ものであるのに対し,引用発明は,「リンク」するものの,結合画像を形成するためのリンクである点。
[相違点3]
本件補正発明は,「解剖学的構造画像内の関心領域を選択するための選択モジュール」を備えるのに対し,引用発明は,「解剖学的構造画像内の関心領域」を対象としているものの,当該領域を選択する手段(選択モジュール)を備えることは特定されていない点。

(4)判断
以下,相違点について検討する。
ア 相違点1,2について
(ア)引用発明は,代謝の生理学的機能を表す画像と,解剖学的構造画像のカテゴリの画像とを,対応する関心領域について位置合わせし融合する,すなわち,少なくとも2つの位置の画像を結合するものであり,引用発明には,「代謝の生理学的機能を表す画像」として,「PET」や「pMRI」による画像が,また,「解剖学的構造画像」として,「MRI」による画像,すなわち「解剖学的磁気共鳴画像」が例示されている。
一方,「撮像対象の代謝又は機能に関連する画像情報」として,上記「PET」や「pMRI」による画像の他,「別々のコントラスト・タイプの磁気共鳴画像」があることは,例えば,特開平5-285116号公報及び特開平6-170号公報に記載されているように周知である。
そうすると,引用発明において,解剖学的構造画像内の関心領域にリンクさせる「撮像対象の代謝又は機能に関連する画像情報」として,上記「別々のコントラスト・タイプの磁気共鳴画像」を選択し,相違点1に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
また,データを「リンク」させることにより,関連付けられた画像やデータへのアクセスを可能とすることは,例えば,ハイパーリンクにみられるように周知の技術手段であり,引用発明における「リンク」を,関連付けられた画像やデータへのアクセスに利用すること,すなわち,相違点2に係る構成とすることは,当業者が適宜なし得る設計事項である。
(イ)なお,「撮像対象の代謝又は機能に関連する画像情報」として「時間-輝度曲線」があることは,例えば,特開2003-61959号公報及び特開2004-202142号公報に記載されているように周知であり,引用発明において,解剖学的構造画像内の関心領域にリンクさせる「撮像対象の代謝又は機能に関連する画像情報」を「時間-輝度曲線」とすることも,上記と同様に,当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点3について
(ア)引用発明は,代謝の生理学的機能を表す画像と,解剖学的構造画像のカテゴリの画像とを,関心領域について,位置合わせし融合処理する技術であり,また,「モダリティが離散システムであり,画像データが異なる臨床設定で収集される場合には,非剛体位置合わせの前に,CT画像をPET画像と剛体配置するように,プレ位置合わせステップが実行される」ことが特定されている。
これらを総合すれば,引用発明において,関心領域について位置合わせし融合処理するにあたり,位置合わせすべき解剖学的構造画像(例えば,CT画像)の関心領域を選択し指定する必要があることは自明であり,そのための手段として「選択モジュール」を備える構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
(イ)なお,医療画像の解析処理に当たり,解剖学的構造画像内の関心領域を選択し,種々のカテゴリのデータと関連付けることは,例えば,国際公開第2004/086972号に以下の記載があるように,当該技術分野における常とう手段である。
「1. A method to derive information regarding one or more bone parameters from an image comprising: (a) obtaining an image comprising bone from a subject; (b) defining two or more regions of interest (ROIs) in the image; and (c) analyzing a plurality of positions in the ROIs to determine one or more parameters selected from the group consisting of bone microarchitecture, bone macro- anatomy, biomechanical parameters and combinations thereof of the ROIs.」(91頁2行?8行)
(当審訳:1.画像から1又は複数の骨に関するパラメータを導出する方法であって:(a)被写体から骨を含む画像を取得するステップと;(b)当該画像における2又は3以上の関心領域(ROIs)を定めるステップと;(c)当該関心領域における複数の位置を分析し,当該関心領域における,骨の微細構造,骨のマクロ解剖,生体力学的パラメータ,及びこれらのパラメータの組み合わせを含むグループから選択された1又は複数のパラメータを決定するステップを有する方法。)

ウ そして,これらの相違点を総合的に勘案しても,本件補正発明の奏する作用効果は,引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。
よって,本件補正発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 補正却下の決定のむすび
以上のとおりであるから,本件補正は,平成18年改正前特許法17条の2第4項2号に規定する,特許請求の範囲の減縮(同法36条5項の規定により請求項に記載した発明特定事項を限定するものであつて,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)を目的としたものではなく,また,仮に,本件補正が,同法17条の2第4項2号に規定する,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとしても,本件補正発明は,同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,いずれにしても,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成24年7月12日の手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1ないし4に係る発明は,平成19年6月20日に提出された翻訳文の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,前記翻訳文の明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,上記第2の[理由]1(2)の,本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。再掲すれば,次のとおり。
「複数のデータセットをハンドリングし,
いくつかのカテゴリのデータセットをアクセスするアクセス・モジュールであって,データセットのそれぞれのカテゴリが,別々のコントラスト・タイプの磁気共鳴画像に,又は時間-輝度曲線に関係するアクセス・モジュールと,
前記それぞれのカテゴリにおけるデータセットをリンクするための接続モジュールであって,前記リンクが,前記リンクされたデータセットへのアクセスを,データセットであって該データセットから前記リンクが設定されたデータセットに基づいて可能にする接続モジュールとを備えるデータ・ハンドリング・システム。」

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は,上記第2の[理由]3(2)に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は,上記第2の[理由]3の「予備的見解」で検討した本件補正発明から,補正前の請求項4に特定された「選択モジュール」に係る構成を含む限定事項を省いたものである。
そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに発明特定事項を限定したものに相当する本件補正発明が上記第2の[理由]3(4)に記載したとおり,引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明することができたものである。

4 むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-08-28 
結審通知日 2013-09-03 
審決日 2013-10-31 
出願番号 特願2007-547730(P2007-547730)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06Q)
P 1 8・ 575- Z (G06Q)
P 1 8・ 572- Z (G06Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡北 有平  
特許庁審判長 西山 昇
特許庁審判官 須田 勝巳
清田 健一
発明の名称 データセットのハンドリング  
代理人 伊東 忠重  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 大貫 進介  

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