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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1285843
審判番号 不服2013-1982  
総通号数 173 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-02-01 
確定日 2014-03-12 
事件の表示 特願2004-328993「薄膜トランジスタ表示板及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月 9日出願公開、特開2005-150736〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年11月12日(パリ条約による優先権主張2003年11月12日、韓国)の出願であって、平成23年 7月 7日付けで最初の拒絶理由が通知され、これに対して、同年10月11日に意見書及び手続補正書が提出され、平成24年 2月 1日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年 5月 1日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年10月 3日付けで同年 5月 1日提出の手続補正が却下されると共に同日付けで拒絶査定がなされたところ、平成25年 2月 1日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正書が提出されたものである。


第2 補正の却下の決定
平成25年 2月 1日提出の手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理 由]
1 本件補正の内容
本件補正は、平成23年10月11日提出の手続補正書により補正された(以下、「本件補正前の」という。)特許請求の範囲の請求項1?16のうち請求項1を下記のとおりに補正しようとする事項を含むものである。

本件補正後の請求項1
「【請求項1】
絶縁基板と、
前記絶縁基板上に形成されており、不純物がドーピングされない物質から形成される、前記不純物がドーピングされない領域と;前記不純物がドーピングされて形成された物質から形成される、少なくとも一つの第1不純物ドーピング領域と、当該第1不純物領域と前記不純物がドーピングされない領域との間に形成され、前記不純物の濃度が前記第1不純物ドーピング領域よりも低い、少なくとも一つの第2不純物ドーピング領域と;を有する第1多結晶シリコン層と、
前記第1多結晶シリコン層上に形成される第1絶縁膜と、
前記第1絶縁膜上に形成される第1電極と、
前記第1絶縁膜と前記第1多結晶シリコン層との間に形成される第2絶縁膜と、
を含み、
前記第2不純物ドーピング領域は、前記第1不純物ドーピング領域にドーピングするために使用されるエネルギより高いエネルギを使用してドーピングされる前記不純物を含み、
前記第1絶縁膜と第2絶縁膜との側面を、平坦な傾斜を有するように形成することにより、当該傾斜の水平方向の幅に対応して、前記不純物がドーピングされない領域の角部は、垂直方向から水平方向になだらかに変化する曲面を有するように形成される
ことを特徴とする薄膜トランジスタ表示板。」
(なお、上記の下線を付した部分は補正箇所を示す。)

2 補正の適否について
(1)補正の目的
上記請求項1に関する補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1における、第1絶縁膜及び第2絶縁膜の形状並びに不純物がドーピングされない領域について、平成18年法律55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項2号に規定する減縮を目的として、
「前記第1絶縁膜と第2絶縁膜との側面を、平坦な傾斜を有するように形成することにより、当該傾斜の水平方向の幅に対応して、前記不純物がドーピングされない領域の角部は、垂直方向から水平方向になだらかに変化する曲面を有するように形成される」
との限定を追加しようとするものである。

(2)本件補正における上記構成の追加が、新規事項の追加に当たるか否かについての判断
ア 本願当初明細書の記載事項
(ア)絶縁膜を利用したドーピングに関して、本願当初明細書には、以下の事項が記載されている。(なお、以下において付されている下線は、当審合議体によって付加したものである。)
(本ア)「【背景技術】
【0002】・・(略)・・
【0005】
従来の技術による低濃度ドーピング領域の形成方法は、先ず、半導体層上にゲート電極を二重の導電膜でパターニングし、一つの導電膜は低濃度ドーピング領域を画定するマスクとして用い、他の導電膜は低濃度ドーピング領域を形成した後、ソース領域とドレイン領域を画定するマスクとして用いる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記した従来例の形成方法では、一度のフォトエッチング工程で二つの導電膜を異なるパターンに形成しなければならないなど、工程が複雑になり、低濃度ドーピング領域の幅を規定し難いという問題点がある。また、それによって工程時間が長くなって、製造収率が低下するようになる。
また、従来の技術によるソース領域及びドレイン領域の形成方法では、基板上に形成されているゲート絶縁膜(当審注:背景技術及び上記野問題点から「ゲート電極」の誤記と推定される。)の厚さのため、高エネルギで導電型不純物を半導体層に注入してチャネル領域とソース領域及びドレイン領域を形成するので、イオン注入チャンバに高電圧がかかるようになっている。そのため、危険であるとともに、チャンバにかかった高電圧によって素子が不良となる問題点がある。
本発明が目的とする技術的課題は、製造工程を単純化して製造費用を最少化し、高電圧による素子の不良を防止することができる薄膜トランジスタ表示板及びその製造方法を提供することにある。」

(本イ)「【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を達成するために、本発明ではゲート絶縁膜を薄い二重膜で形成し、ゲート電極をパターニングするための感光膜パターンで少なくとも一つまたは二重のゲート絶縁膜を異方性エッチングでパターニングしてソース領域及びドレイン領域を形成するためのイオン注入マスクとして用いる。
・・(略)・・この時、第1ゲート絶縁膜パターンは少なくとも二重の絶縁膜を含んでおり、少なくとも一つの絶縁膜がパターニングされてソース領域及びドレイン領域を除いた低濃度ドーピング領域及びチャネル領域と重畳する。」

(本ウ)「【0011】・・(略)・・ 第1及び第2ゲート絶縁膜パターンは第1絶縁膜と第1絶縁膜の上部に形成されている第2絶縁膜を含み、互いに異なる形態にパターニングされることができ、第1絶縁膜は基板の上部に全面的に形成され・・(略)・・
【0013】・・(略)・・金属膜上に感光膜パターンを形成した後、感光膜パターンをマスクとして利用した等方性エッチング工程で金属膜をパターニングしてゲート電極を有するゲート線を形成する。その次、感光膜パターンをマスクとして利用した異方性エッチング工程で少なくとも一つの絶縁膜をパターニングしてゲート絶縁膜パターンを形成し、多結晶シリコン層にゲート絶縁膜パターンをマスクとして導電型不純物を高濃度でドーピングしてソース領域及びドレイン領域を形成し、不純物がドーピングされていないチャネル領域を定義する。その次、ゲート電極をマスクとして多結晶シリコン層をドーピングしてチャネル領域の両側に低濃度ドーピング領域を形成し、ゲート線を覆いソース領域及びドレイン領域を露出する・・(略)・・」

(本エ)「【発明の効果】
【0015】
本発明によると、基板にソース領域及びドレイン領域を形成するための導電型不純物をドーピングする時に低エネルギを用いることによってチャンバに高エネルギによって発生する高電圧の危険を防止することができる。従って、素子の特性及び動作を安定化させることができる。また、フォトエッチング工程を行わずゲート絶縁膜をパターニングして低濃度ドーピング領域とソース領域及びドレイン領域を定義するドーピングマスクとして利用することによって製造工程を単純化することができ、これによって製造費用を最少化することができる。」

(本オ)「【発明を実施するための最良の形態】・・(略)・・
【0022】・・(略)・・この時、画素部と駆動部のCMOS素子においてゲート電極124d、124n及び維持電極133よりゲート絶縁膜パターン140d、140q、140nが広く、広い幅は低濃度ドーピング領域152d、152nの幅と同一である。・・(略)・・
【0027】
上述の本発明の実施例による薄膜トランジスタ表示板の製造方法・・(略)・・
【0031】
次いで、図9?図11に示したように、感光膜パターン53、54d、54n、54pをマスクとしてゲート用金属膜120を等方性エッチングでアンダーカット構造になるようにパターニングして・・(略)・・
【0032】
次に、図12?図14に示したように、感光膜パターン53、54d、54n、54pをエッチングマスクとして、第2絶縁膜402と第1絶縁膜401を異方性エッチングで順にパターニングして、ゲート電極124d、124n、124p及び維持電極133の幅より少し広い幅を有するゲート絶縁膜パターン140d、140p、140nを形成する。この時、・・(略)・・多結晶シリコン層150d、150n、150pとゲート電極124d、124n、124p及び維持電極133を各々絶縁させる役割を果たすと同時に、後述するソース領域及びドレイン領域を形成するための導電型不純物をドーピングする場合にイオン注入マスクの役割も果たす。
【0033】
その後、図15及び図16に示したように、感光膜パターン53、54d、54n、54pを除去した後、ゲート絶縁膜パターン140d、140q、140n、140pをマスクとしてPECVD(plasma etchanced chemical vapor deposition)方法またはプラズマイマージョン(plasma immersion)方法を用いて3?40eVの低エネルギでn型不純物イオンを高濃度でドーピングして画素部と駆動部の半導体層150d、150nにソース領域153d、153nとドレイン領域155d、155n及びチャネル領域154d、154nを形成する。・・(略)・・
【0034】
そして、図17及び図18に示したように、ゲート電極124d、124n及び維持電極133をマスクとして、高エネルギを用いてn型導電型不純物をスキャニング設備またはイオンビーム設備を利用して低濃度でドーピングして低濃度ドーピング領域152d、152nを形成する。・・(略)・・」

上記(本ア)?(本オ)の記載によれば、本願当初明細書には、絶縁膜によるドーピングに関して、
「感光膜パターンをマスクとして」「等方性エッチングでアンダーカット構造になるようにパターニング」された「ゲート用金属膜」を介して、前記「感光膜パターンをエッチングマスクとして、第2絶縁膜と第1絶縁膜を異方性エッチングで順にパターニングして、ゲート電極及び維持電極の幅より少し広い幅を有するゲート絶縁膜パターンを形成」し、
前記「感光膜パターンを除去した後、ゲート絶縁膜パターンをマスクとして」、「3?40eVの低エネルギでn型不純物イオンを高濃度でドーピングして」「ソース領域とドレイン領域及びチャネル領域を形成」し、
「図17及び図18に示したように、ゲート電極及び維持電極をマスクとして、高エネルギを用いてn型導電型不純物を」「低濃度でドーピングして低濃度ドーピング領域を形成する。」ことで、「ゲート電極及び維持電極よりゲート絶縁膜パターンが広く、広い幅は低濃度ドーピング領域の幅と同一」とすること、 即ち、
「2層のゲート絶縁膜を異方性エッチングによりゲート絶縁膜よりも幅広にパターニングし、ゲート電極よりも幅広の部分は、低濃度ドーピング領域の幅と同一である」
ことが記載されているものの、ゲート絶縁膜の側面形状として、傾斜を形成することについては、何ら記載されていない。

(イ)「傾斜」自体に関しては、本願当初明細書に以下の事項が記載されている。

(本カ)「【0027】
上述の本発明の実施例による薄膜トランジスタ表示板の製造方法・・(略)・・
【0030】
この時、ゲート用金属膜120は物理的性質が異なる二つの膜を含むのが好ましい。・・(略)・・一つの例としてアルミニウム-ネオジム(AlNd)の導電膜はアルミニウムに対して全て側面傾斜を与えながらエッチングする・・(略)・・湿式エッチングで形成することができる。このようなエッチング液はモリブデン-タングステン(MOW)の導電膜に対しても同一なエッチング条件で側面傾斜を与えながらエッチングすることができるため、二つの導電膜を連続して側面傾斜を与えながらエッチングすることができる。
【0031】
次いで、図9?図11に示したように、感光膜パターン53、54d、54n、54pをマスクとしてゲート用金属膜120を等方性エッチングでアンダーカット構造になるようにパターニングして画素部にゲート電極124dを有するゲート線121及び維持電極133を有する維持電極線131を形成し、・・(略)・・ゲート線121及び維持電極線131の切断面側壁は以後に形成される上部層との密着性を増加させるために傾斜するように形成するのが好ましい。
・・(略)・・
【0038】・・(略)・・データ用金属膜もゲート用金属膜と同一導電物質及びエッチング方法でパターニングすることができ、データ線171及びドレイン電極175d、175n、175pの切断面は上部層との密着性のために一定の傾斜を有するテーパ構造に形成するのが好ましい。」

上記(本カ)の記載によれば、傾斜を設ける部材或いは部位に関しては、等方性エッチングとして周知の「湿式エッチング」を用いて、エッチングした「ゲート用金属膜」の「側面」並びに「ゲート用金属膜と同一導電物質及びエッチング方法でパターニング」した「データ線及びドレイン電極の切断面」に関してのみであり、また、その目的も、「上部層との密着性を増加させるために傾斜するように形成」しているにすぎず、ゲート絶縁膜の側面を傾斜させることで、ドーピングされない領域に所定の形状の角部を形成することに関して何ら記載されていない。

イ 判断
(ア)請求人は、審判請求書において、補正の根拠について下記の主張を行っている。
「(2)補正の根拠の明示
(a)請求項1に係る発明について
図17等には、第1絶縁膜401および第2絶縁膜402が、平坦な傾斜を有するように形成されることが記載されております。また、同図には、当該第1絶縁膜401および第2絶縁膜402の傾斜の下に、当該傾斜に対応するように、不純物がドーピングされないチャネル領域の角部を垂直方向から水平方向になだらかに変化する曲面を有するように形成することが記載されております。」
即ち、本件補正の根拠を「図17等」によるとしている。
(イ)本願当初明細書には、上記「(2)ア」で摘記・検討したように、ゲート絶縁膜を構成する「前記第1絶縁膜と第2絶縁膜との側面を、平坦な傾斜を有するように形成すること」及び「当該傾斜の水平方向の幅に対応して、前記不純物がドーピングされない領域の角部は、垂直方向から水平方向になだらかに変化する曲面を有するように形成」する事自体について、記載されておらず、まして、そのような形状とすることによる作用効果、そのような形状を得るための具体的な製造方法について何らの記載もなされていない。
(ウ)したがって、上記本件補正については、単に図面に記載されている事実のみから本件補正の適否を判断する。
(エ)そこで、以下、第1絶縁膜及び第2絶縁膜をパターニングする際の説明図である図13及び請求人の主張している図17を精査してみる。
a 図13について
まず、第1絶縁膜と第2絶縁膜の側面を形成する段階を示す図13について検討すると、図13に関連して、本願当初明細書の【0032】には、「感光膜パターン53、54d、54n、54pをエッチングマスクとして、第2絶縁膜402と第1絶縁膜401を異方性エッチングで順にパターニングして、ゲート電極124d、124n、124p及び維持電極133の幅より少し広い幅を有するゲート絶縁膜パターン140d、140p、140nを形成」と記載されており、これを参照しつつ、図13を看取すると、図13には、
(a)半導体層150dの上に左右端部を傾斜させた平坦な上面を有したゲート絶縁膜パターン140dが積層され、その上面にゲート電極124d、或いは維持電極133(以下、まとめて「ゲート電極」という。)を積層し、更に感光膜パターン54d、53が積層された構造が示されており、
(b)ゲート電極の幅は、感光膜パターンの下面の幅よりも狭く、且つ、感光膜パターンの下面の内側に、前記ゲート電極の両側面が共に入るように配置されており、
(c)ゲート絶縁膜パターン140dの平坦な上面は、ゲート電極の両下端よりも更に左右に広がった幅広であり、前記感光膜パターンの下面の両端とゲート絶縁膜上面平坦部の両端との水平位置が揃えられており、
(d)ゲート電極が感光膜パターンの下端からエッチバックにより内側にエッチングされた幅の分だけゲート絶縁膜の上面平坦部が所定の幅を有しており、平坦部の左右端部から、半導体層150dの上面にかけて、およそ60°程度の連続したほぼ平らな傾斜面が側面として形成されていることが看取できる。

b 図17について
次に、上記aで摘示した図13から看取できた形状を踏まえて、本願当初明細書の【0033】、【0034】の工程を参照しつつ、図17を看取すると図17には、
(a)半導体層150dにおいて、ゲート電極124dの左外方からゲート絶縁膜パターン140dの左傾斜面を形成する左側面の下面左端部の下にまで、ソース領域153dが形成され、ゲート電極124dの右外方からゲート絶縁膜パターン140dの右傾斜面を形成する右側面の下面右端部の下にまで、ドレイン領域155dが形成され、
(b)ゲート絶縁層140dの平坦部分を介して、ゲート電極124dの左下端の下の半導体層150dの表面部分から、前記ソース領域右端の深さ方向中程にかけて下に凸の曲線状に形成された低濃度ドーピング領域152dが形成され、
(c)ドレイン領域155dについても、ソース領域153dと同様に、ゲート絶縁層140dの平坦部分を介して、ゲート電極124dの右下端の下の半導体層150dの表面部分から、前記ドレイン領域左端の深さ方向中程にかけて下に凸の曲線状に形成された低濃度ドーピング領域152dが形成されていることが看取できる。
(d)そして、本願当初明細書【0033】及び【0034】の記載によれば、感光膜パターンを除去した後、ドーピングが行われるが、低濃度ドーピング領域の形成時には、ゲート電極124dがマスクとして機能することが説明されており、ゲート電極が積層されていない部分のゲート絶縁膜の領域にも低濃度のドーピングが成されるのであるから、この点も合わせて参酌してみれば、不純物がドーピングされていない領域154dは、ゲート絶縁膜パターン140dの両下端それぞれ下方のソース領域の右端及びドレイン領域の左端の間に形成されており、不純物がドーピングされていない領域154dのその両端それぞれの上側部分は、ゲート絶縁膜パターンの下方に曲面でえぐられた形状を成し、当該えぐられた形状は、半導体層150dの上面であって、ゲート電極124dの両下端のそれぞれの下方から、ゲート絶縁膜パターン140dの両下端のそれぞれの下方であって、ソース領域の右端の深さ方向中程、ドレイン領域の左端深さ方向中程にかけて、下に凸の曲線状に形成されていること、即ち、上記えぐられた形状の幅は、ゲート絶縁膜パターンの上面平坦部の所定幅と側面である傾斜面の水平面射影部分の幅とにかけて形成されていることが看取できる。

(オ)したがって、本件補正の「前記第1絶縁膜と第2絶縁膜との側面を、平坦な傾斜を有するように形成すること」自体は、図示されているものの、「不純物がドーピングされない領域の角部」と称している部分に対応すると思われる部分については、図17では、上記(d)で摘示した「えぐられた形状」の部分に相当し、これは、ゲート電極140dの左右の下端から、ゲート絶縁膜パターン140d左右の下端にかけて形成されており、ゲート絶縁膜パターン140d左右側面の傾斜面を形成しているそれぞれ水平方向射影部分の幅よりも広いことから、本件補正事項の「当該傾斜の水平方向の幅に対応して」いない。

新規事項の追加に関する補正の適否のまとめ
よって、「前記第1絶縁膜と第2絶縁膜との側面を、平坦な傾斜を有するように形成することにより、当該傾斜の水平方向の幅に対応して、前記不純物がドーピングされない領域の角部は、垂直方向から水平方向になだらかに変化する曲面を有するように形成される」との構成を追加する本件補正は、本願当初明細書に記載されていない技術事項を特定するものであり、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


(3)独立特許要件
ア 次に、本件補正が図17の形状を表現するものとして、即ち、新規事項の追加ではないものと仮定すると、本件補正は上記「2(1)補正の目的」で検討したように限定的減縮を目的とするものであるから、独立特許要件(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものであるのか否か)について以下、検討する。

イ 刊行物及びその摘記事項
(ア)原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された、本願の優先権主張日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2003-45892号公報(以下「刊行物1」という。)には、「薄膜トランジスタ装置及びその製造方法」(発明の名称)に関して、図25?図30、並びに、図31及び図33?図41と共に次の事項が記載されている。
(刊1ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ゲート絶縁膜の膜厚が異なる少なくとも2種類の薄膜トランジスタを有する薄膜トランジスタ装置及びその製造方法に関し、特に周辺回路一体型液晶表示装置及び有機EL表示装置に適用できる薄膜トランジスタ装置及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】・・(略)・・
【0004】・・(略)・・ポリシリコン膜12には、n型不純物を高濃度に導入して形成された一対の高濃度不純物領域(ソース・ドレイン)13がチャネル領域を挟んで形成されており、これらの高濃度不純物領域13のチャネル領域側の先端部には、n型不純物を低濃度に導入して形成された低濃度不純物領域(LightlyDoped Drain :以下、LDD領域ともいう)14がそれぞれ形成されている。」

(刊1イ)「【0118】(第4の実施の形態)図25(a)は本発明の第4の実施の形態の薄膜トランジスタ装置(液晶表示装置)の・・(略)・・
【0122】次に、高電圧駆動用TFTの構成について説明する。図25(b)に示すように、ガラス基板221上には下地絶縁膜222が形成されており、下地絶縁膜222の上にはポリシリコン膜223が選択的に形成されている。このポリシリコン膜223には、ソース・ドレインとなる一対の高濃度不純物領域223aと、高濃度不純物領域223aのチャネル領域側の端部に配置された一対のLDD領域(低濃度不純物領域)223bとが設けられている。
【0123】ポリシリコン膜223のチャネル領域及びLDD領域223bの上には、厚さが100nmのシリコン酸化膜224と、厚さが30nmのシリコン酸化膜225とが積層されている。これらのシリコン酸化膜224,225により、高電圧駆動用TFTのゲート絶縁膜が構成されている。シリコン酸化膜225の上には、ゲート電極226bが形成されている。上から見たときに、LDD領域223bのチャネル領域側のエッジは、ゲート電極226bのエッジとほぼ同じ位置にある。
・・(略)・・
【0125】以下、本実施の形態の液晶表示装置の製造方法について、図26?図30を参照して説明する。・・(略)・・
【0131】次に、図29(a),(b)に示すように、ゲート電極226a,226b及びゲート絶縁膜224,225をマスクとして、加速エネルギーが10keV、注入量が1×10^(15)cm^(-2)の条件でポリシリコン膜223にP(リン)をイオン注入し、・・(略)・・高電圧駆動用TFTのソース・ドレインとなる高濃度不純物領域223aを形成する。
【0132】・・(略)・・更に、加速エネルギーが90keV、注入量が1×10^(14)cm^(-2)の条件で、シリコン酸化膜225,224を介して高電圧駆動用TFT形成領域のポリシリコン膜223にP(リン)をイオン注入し、LDD領域(低濃度不純物領域)223bを形成する。このように、本実施の形態では、ゲート絶縁膜の有無、及びゲート絶縁膜の厚さに応じて不純物の加速エネルギーを調整し、高濃度不純物領域223a、・・(略)・・高電圧駆動用TFTのLDD領域223bを形成する。」

(刊1ウ)「【0137】(第5の実施の形態)図31は本発明の第5の実施の形態の薄膜トランジスタ装置の高電圧駆動用TFTの構造を示す断面図、・・(略)・・図31(a)は高電圧駆動用TFTのゲート電極に直交する方向の断面を示し、・・(略)・・
【0138】まず、高電圧駆動用TFTの構造について説明する。図31(a),(b)に示すように、ガラス等の透明材料からなる基板301の上には、下地絶縁膜として、シリコン窒化膜302a及びシリコン酸化膜膜302bが積層して形成されている。シリコン酸化膜302b上の所定領域には、ポリシリコン膜303が形成されている。このポリシリコン膜303には、TFTのソース・ドレインとなる一対の高濃度不純物領域303aがチャネル領域を挟んで形成されており、更に高濃度不純物領域303aとチャネル領域との間にはLDD領域(低濃度不純物領域)303bが形成されている。
【0139】ポリシリコン膜303のチャネル領域及びLDD領域303bの上には、厚さが100nmのシリコン酸化膜304と、厚さが30nmのシリコン酸化膜305とが積層されている。これらのシリコン酸化膜304,305により、高電圧駆動用TFTのゲート絶縁膜が構成されている。シリコン酸化膜305の上には、ゲート電極306aが形成されている。このゲート電極306aの幅は、ゲート絶縁膜(シリコン酸化膜304,305)の幅よりも狭くなっている。また、上から見たときに、LDD領域303aのチャネル領域側のエッジは、ゲート電極306aのエッジとほぼ同じ位置にある。
【0140】・・(略)・・
【0142】・・(略)・・以下、上述した2種類のTFTを用いた本実施の形態の薄膜トランジスタ装置(液晶表示装置)の製造方法について、図33?図41を参照して説明する。・・(略)・・
【0143】まず、図33(a),(b)に示すように、CVD法により、ガラス基板301の上に下地絶縁膜として、厚さが約50nmのシリコン窒化膜302aと、厚さが約200nmのシリコン酸化膜302bを順次形成する。その後、プラズマCVD法により、シリコン酸化膜302bの上にアモルファスシリコン膜を約50nmの厚さに形成する。そして、このアモルファスシリコン膜にエキシマレーザを照射し、アモルファスシリコン膜をポリシリコン膜に変化させる。その後、ポリシリコン膜の上に所定のパターンのレジスト膜を形成し、このレジスト膜をマスクにしてポリシリコン膜をエッチングする。その後、レジスト膜を除去する。このようにして、図33(a),(b)に示すように、シリコン酸化膜302b上の所定の領域にポリシリコン膜303を形成する。
【0144】次に、基板301の上側全面にシリコン酸化膜304を約100nmの厚さに形成し、・・(略)・・
【0146】次に、図35(a),(b)に示すように、基板301の上側全面に、CVD法によりシリコン酸化膜305を例えば30nmの厚さに形成し、更にスパッタ法によりAl-Nd膜306を例えば300nmの厚さに形成する。その後、Al-Nd膜306の上に所定のゲート電極形状のレジストパターン315を形成する。
【0147】次に、図36(a),(b)に示すように、レジストパターン315をマスクにしてAl-Nd膜306をエッチングして、ゲート電極306a、・・(略)・・を形成する。このとき、Al-Nd膜306はサイドエッチングして、レジスト膜315よりも狭い幅とする。また、シリコン酸化膜304,305は、レジスト膜315をマスクとして垂直方向にドライエッチングして、レジスト膜315とほぼ同じ幅とする。このようにして、ゲート電極306a,306bとゲート絶縁膜であるシリコン酸化膜305との間に段差を設ける。
【0148】このとき、高電圧駆動用TFT形成領域では、ゲート電極306aの下方にシリコン酸化膜304,305が残り(図31(b)参照)、・・(略)・・
【0149】次に、図37(a),(b)に示すように、・・(略)・・シリコン酸化膜305,304を介してポリシリコン膜303に不純物をイオン注入する。n型TFTの場合はP(リン)をイオン注入し、n型TFTの場合はB(ボロン)をイオン注入する。このとき、イオン注入条件を適切に設定することにより、・・(略)・・、高電圧駆動用TFT形成領域では、その先端がゲート絶縁膜のエッジの真下に位置する高濃度不純物領域(ソース・ドレイン)303aを形成する。また、ゲート電極306aのエッジの真下とゲート絶縁膜305のエッジの真下との間の領域に低濃度不純物領域(LDD層)303bを形成する。
【0150】・・(略)・・
【0153】次いで、図41(a),(b)に示すように、スパッタ法により、基板301の上側全面にITO膜を例えば70nmの厚さに成膜し、フォトリソグラフィ技術を使用して、ITO膜をパターニングして、画素電極311を形成する。このようにして、液晶表示装置が形成される。・・(略)・・本実施の形態では、高電圧駆動用TF(当審注:TFTの誤記)のLDD構造をゲート電極306aをマスクとして自己整合的に形成するため、LDD長のばらつきを低減できる。これにより、薄膜トランジスタ特性のばらつきも低減できる。」

(刊1エ)図31(a)には、第5の実施の形態の薄膜トランジスタ装置の高電圧駆動用TFTのゲート電極に直交する方向の断面図が示され、ポリシリコン膜中、外方から、その先端が、積層されたシリコン酸化膜304、305からなるゲート絶縁膜のエッジの真下にまで達する高濃度不純物領域(ソース・ドレイン)303aと、それに接続されゲート絶縁膜のエッジの真下からゲート電極306bのエッジの真下までの間の領域に低濃度不純物領域(LDD層)303bが形成され、左右2つの低濃度不純物領域(LDD層)303bの間、即ち、ゲート電極306bの両エッジ真下の間の区間がチャネル領域となっていることが看取できる。
また、図31、図36?図41には、積層されたシリコン酸化膜304、305からなるゲート絶縁膜の上面が平坦となっており、上面の左右端部からそれぞれポリシリコン膜303にかけて、連続した直線状の傾斜面からなる側面が形成されていることが看取できる。

上記摘示事項(刊1ア)、(刊1ウ)及び(刊1エ)を整理すると、刊行物1には次の発明が開示されている。
「下地絶縁膜302a、302bが形成されたガラス等の透明材料からなる基板301と、
下地絶縁膜302a、302bの上の所定領域に形成されており、TFTのソース・ドレインとなる一対の高濃度不純物領域303aがチャネル領域を挟んで形成されており、更に各高濃度不純物領域303aとチャネル領域とのそれぞれの間には低濃度不純物領域(LDD領域)303bが形成されたポリシリコン膜303と、
ポリシリコン膜303のチャネル領域及び低濃度不純物領域(LDD領域)303bの上に積層され、厚さが100nmのシリコン酸化膜304と、厚さが30nmのシリコン酸化膜305とからなるゲート絶縁膜と、
シリコン酸化膜305の上に形成したゲート電極306bとを含み、
積層されたシリコン膜304、305からなるゲート絶縁膜の左右両側面が、それぞれ連続した直線状の傾斜面を形成しており、上から見たときに、低濃度不純物領域(LDD領域)303bのチャネル領域側のエッジは、ゲート電極306aのエッジとほぼ同じ位置にあり、ゲート電極306aの両端下方の間の区間がチャネル領域となっている、
薄膜トランジスタ装置を有する液晶表示装置」(以下「刊行物発明」という。)

ウ 対比・判断
(ア)対比
本願補正発明と刊行物発明とを対比すると、
a 刊行物発明の「ガラス等の透明材料からなる基板301」が、本願補正発明の「絶縁基板」に相当し、同様に「ポリシリコン膜303」、「ゲート電極306b」、及び、「薄膜トランジスタ装置を有する液晶表示装置」が、それぞれ「第1多結晶シリコン層」、「第1電極」、及び、「薄膜トランジスタ表示板」に相当する。
b 刊行物1の摘記事項(刊1ア)によれば、一対の高濃度不純物領域(ソース・ドレイン)は、n型不純物を高濃度に導入して形成された領域であり、低濃度不純物領域(LDD領域)は、n型不純物を低濃度に導入して形成された領域であることが説明されている。
また、刊行物発明の「チャネル領域」は、刊行物1の摘記事項(刊1ウ)によれば、「プラズマCVD法により、シリコン酸化膜302bの上にアモルファスシリコン膜を約50nmの厚さに形成する。そして、このアモルファスシリコン膜にエキシマレーザを照射し、アモルファスシリコン膜をポリシリコン膜に変化させ」、その後のチャネル領域を挟む「低濃度不純物領域(LDD領域)303b」及び「高濃度不純物領域303a」を形成するためのイオン注入処理においてイオンが注入されない領域であるから、本願補正発明の「不純物がドーピングされない物質から形成される、前記不純物がドーピングされない領域」に相当する。
したがって、刊行物発明の「下地絶縁膜302a、302bの上の所定領域に形成されており、TFTのソース・ドレインとなる一対の高濃度不純物領域303aがチャネル領域を挟んで形成されており、更に各高濃度不純物領域303aとチャネル領域とのそれぞれの間には低濃度不純物領域(LDD領域)303bが形成されたポリシリコン膜303」は、本願補正発明の「絶縁基板上に形成されており、不純物がドーピングされない物質から形成される、前記不純物がドーピングされない領域と;前記不純物がドーピングされて形成された物質から形成される、少なくとも一つの第1不純物ドーピング領域と、当該第1不純物領域と前記不純物がドーピングされない領域との間に形成され、前記不純物の濃度が前記第1不純物ドーピング領域よりも低い、少なくとも一つの第2不純物ドーピング領域と;を有する第1多結晶シリコン層」に相当する。
c 刊行物発明の「厚さが100nmのシリコン酸化膜304」、「厚さが30nmのシリコン酸化膜305」は、いずれも絶縁膜であり、ポリシリコン膜303のチャネル領域及びLDD領域303bの上に積層されものであるから、刊行物発明の「ポリシリコン膜303のチャネル領域及びLDD領域303bの上に積層され、厚さが100nmのシリコン酸化膜304と、厚さが30nmのシリコン酸化膜305とからなるゲート絶縁膜と、シリコン酸化膜305の上に形成したゲート電極306b」は、本願補正発明の「第1多結晶シリコン層上に形成される第1絶縁膜と、前記第1絶縁膜上に形成される第1電極と、前記第1絶縁膜と前記第1多結晶シリコン層との間に形成される第2絶縁膜」に相当する。
d 刊行物発明の「積層されたシリコン膜304、305からなるゲート絶縁膜の左右両側面が、それぞれ連続した直線状の傾斜面を形成しており」は、本願補正発明の「第1絶縁膜と第2絶縁膜との側面を、平坦な傾斜を有するように形成した」に相当する。

そうすると、両者は、
「絶縁基板と、
前記絶縁基板上に形成されており、不純物がドーピングされない物質から形成される、前記不純物がドーピングされない領域と;前記不純物がドーピングされて形成された物質から形成される、少なくとも一つの第1不純物ドーピング領域と、当該第1不純物領域と前記不純物がドーピングされない領域との間に形成され、前記不純物の濃度が前記第1不純物ドーピング領域よりも低い、少なくとも一つの第2不純物ドーピング領域と;を有する第1多結晶シリコン層と、
前記第1多結晶シリコン層上に形成される第1絶縁膜と、
前記第1絶縁膜上に形成される第1電極と、
前記第1絶縁膜と前記第1多結晶シリコン層との間に形成される第2絶縁膜と、
を含み、
前記第1絶縁膜と第2絶縁膜との側面を、平坦な傾斜を有するように形成した
薄膜トランジスタ表示板。」
の点で一致するものの、次の点で相違する。

*相違点1:本願補正発明では、「第2不純物ドーピング領域は、前記第1不純物ドーピング領域にドーピングするために使用されるエネルギより高いエネルギを使用してドーピングされる前記不純物を含」んでいるのに対して、刊行物発明では、そのようなことが明示されていない点。

*相違点2:本願補正発明では、「第1絶縁膜と第2絶縁膜との側面を、平坦な傾斜を有するように形成することにより、当該傾斜の水平方向の幅に対応して、前記不純物がドーピングされない領域の角部は、垂直方向から水平方向になだらかに変化する曲面を有するように形成され」ているのに対して、刊行物発明では、そのような形状が特定されていない点。

(イ)相違点についての判断
ここで、上記各相違点について検討する。
a 相違点1について
刊行物1の摘記事項(刊1ウ)の【0149】には、第5の実施の形態の説明として「イオン注入条件を適切に設定することにより、・・(略)・・、高電圧駆動用TFT形成領域では、その先端がゲート絶縁膜のエッジの真下に位置する高濃度不純物領域(ソース・ドレイン)303aを形成する。また、ゲート電極306aのエッジの真下とゲート絶縁膜305のエッジの真下との間の領域に低濃度不純物領域(LDD層)303bを形成する。」ことが説明されており、さらに、第4の実施の形態として、刊行物1の摘記事項(刊1イ)の【0131】及び【0132】には、「ゲート電極226a,226b及びゲート絶縁膜224,225をマスクとして、加速エネルギーが10keV、注入量が1×10^(15)cm^(-2)の条件で・・(略)・・高電圧駆動用TFTのソース・ドレインとなる高濃度不純物領域223aを形成する。」こと及び「加速エネルギーが90keV、注入量が1×10^(14)cm^(-2)の条件で、シリコン酸化膜225,224を介して高電圧駆動用TFT形成領域のポリシリコン膜223にP(リン)をイオン注入し、LDD領域(低濃度不純物領域)223bを形成する」ことが記載されており、2層のシリコン酸化膜の材質及び厚さは、第4の実施の形態及び第5の実施の形態共に同様であり、マスクとして機能させる際に同様の機能を有していることは明らかであるから、刊行物1記載の第5の実施の形態に相当する刊行物1発明においても、第4の実施の形態のように、「低濃度不純物領域(LDD領域)303b」及び「高濃度不純物領域303a」の形成に際して、10keV程度の加速エネルギーで「高濃度不純物領域303a」を形成し、90keV程度の加速エネルギーで「低濃度不純物領域(LDD領域)303b」を形成すること、即ち、「低濃度不純物領域(LDD領域)303b」は、「高濃度不純物領域303a」にイオン注入するために使用されるエネルギー10keV程度より高い90keV程度のエネルギーを使用してイオン注入される不純物を含むようにすることで、上記相違点1に係る構成とすることは、当業者ならば容易に想到し得た事項である。

b 相違点2について
(a)本願明細書には、「第1絶縁膜と第2絶縁膜との側面を、平坦な傾斜を有するように形成すること」及び「傾斜の水平方向の幅に対応して、前記不純物がドーピングされない領域の角部は、垂直方向から水平方向になだらかに変化する曲面を有するように形成」すること自体、及び製造方法、技術的意義について何ら記載されていないことは、上記「2 (2)本件補正における上記構成の追加に係る補正が、新規事項の追加に当たるか否かについての判断」で指摘したとおりであり、その根拠は、図17等の図以外にはない。
(b)そして、本願補正発明においては、
「第1絶縁膜と第2絶縁膜との側面を、平坦な傾斜を有するように形成することにより、当該傾斜の水平方向の幅に対応して、前記不純物がドーピングされない領域の角部は、垂直方向から水平方向になだらかに変化する曲面を有するように形成される 」
と特定しているものであり、本願当初明細書の【0032】によれば、第1絶縁膜と第2絶縁膜との積層膜のパターニングは、感光膜パターンをマスクとした異方性エッチングによりなされ、結果として、請求人が主張する「第1絶縁膜と第2絶縁膜との側面」が「平坦な傾斜を有するように形成」されるものであり、そのような傾斜面を「形成することにより」上記所定の形状の角部が形成されるものである。
(c)一方、刊行物発明の「厚さが100nmのシリコン酸化膜304と、厚さが30nmのシリコン酸化膜305とからなるゲート絶縁膜」のパターニングも、刊行物1の摘記事項(刊1ウ)の【0147】の「シリコン酸化膜304,305は、レジスト膜315をマスクとして垂直方向にドライエッチングして、レジスト膜315とほぼ同じ幅とする。このようにして、ゲート電極306a,306bとゲート絶縁膜であるシリコン酸化膜305との間に段差を設ける。」との記載によれば、「レジスト膜315をマスクとして垂直方向にドライエッチング」即ち、異方性エッチングを行うことで、結果として図31のような「積層されたシリコン膜304、305からなるゲート絶縁膜の左右両側面が、それぞれ連続した直線状の傾斜面を形成」することとなり、その後、刊行物1の摘記事項(刊1ウ)の【0149】の「シリコン酸化膜305,304を介してポリシリコン膜303に不純物をイオン注入する。」とのイオン注入が行われることで、「低濃度不純物領域(LDD層)303b」が形成されるのであるから、ポリシリコン膜の厚さに応じて適宜、刊行物発明のチャネル領域の上部の形状を、本願補正発明の角部の形状と同様に形成することは当業者ならば容易に想到し得た事項である。

(d)また、「低濃度不純物領域(LDD層)」の形状として、下記の周知例1、2のように種々の形状が知られており、本願補正発明おける角部の形状に格別な技術的意義を見出すこともできない。
<周知例の記載事項>
周知例1:原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された、本願の優先権主張日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2003-224272号公報
*図1(e)、図8(e)、図17(f)、図18(c)、図19(e)の各図には、ソース・ドレイン領域5よりも不純物濃度が低いエクステンション領域4が、ゲート電極のエッジ下端から、なめらかな曲線を描いて、エクステンション領域4よりも深く形成されているいソース・ドレイン領域5の側面に達している事が看取できる。

周知例2:特開平5-95000号公報
*図5(e)には、TFTのオフセット構造として、ゲート電極34の両エッジの下方の多結晶シリコン膜31上面から垂直下方に伸び、垂直方向から水平方向に変化する曲面を形成しながらゲート電極34外方近傍の高濃度のソースドレイン領域(n+拡散層)39に隣接する低濃度層37Sが形成されていることが看取できる。

エ 独立特許要件に関するまとめ
したがって、本願補正発明は、刊行物発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、本件補正発明における本件補正事項に係る構成が、新規事項の追加ではないものと仮定しても、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成25年 2月 1日提出の手続補正は上記「第2 補正の却下の決定」での検討のとおり却下されたので、本願の請求項1?18に係る発明は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1?18に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、請求項1に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】
絶縁基板と、
前記絶縁基板上に形成されており、不純物がドーピングされない物質から形成される、前記不純物がドーピングされない領域と;前記不純物がドーピングされて形成された物質から形成される、少なくとも一つの第1不純物ドーピング領域と、当該第1不純物領域と前記不純物がドーピングされない領域との間に形成され、前記不純物の濃度が前記第1不純物ドーピング領域よりも低い、少なくとも一つの第2不純物ドーピング領域と;を有する第1多結晶シリコン層と、
前記第1多結晶シリコン層上に形成される第1絶縁膜と、
前記第1絶縁膜上に形成される第1電極と、
前記第1絶縁膜と前記第1多結晶シリコン層との間に形成される第2絶縁膜と、
を含み、
前記第2不純物ドーピング領域は、前記第1不純物ドーピング領域にドーピングするために使用されるエネルギより高いエネルギを使用してドーピングされる前記不純物を含む ことを特徴とする薄膜トランジスタ表示板。」

2 刊行物1及び周知例1、2の摘記事項
刊行物1及び周知例1、2の摘記事項は、上記「第2 2(3)イ 刊行物及びその摘記事項」、「第2 2(3)ウ (イ)相違点についての判断」に記載されたとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、上記「第2 2 (3)独立特許要件」で検討した本願補正発明の「前記第1絶縁膜と第2絶縁膜との側面を、平坦な傾斜を有するように形成することにより、当該傾斜の水平方向の幅に対応して、前記不純物がドーピングされない領域の角部は、垂直方向から水平方向になだらかに変化する曲面を有するように形成される」との発明特定事項を削除したものである。

そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が上記「第2 2(3)独立特許要件」に記載したとおり、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 結言
本願の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願の請求項2?18に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-10-01 
結審通知日 2013-10-08 
審決日 2013-10-29 
出願番号 特願2004-328993(P2004-328993)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 561- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 聡一郎  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 西脇 博志
池渕 立
発明の名称 薄膜トランジスタ表示板及びその製造方法  
代理人 八田国際特許業務法人  

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