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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B66B
管理番号 1285846
審判番号 不服2013-2426  
総通号数 173 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-02-08 
確定日 2014-03-12 
事件の表示 特願2009-530317「エレベータのローピング用アッセンブリ」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 4月 3日国際公開、WO2008/039199、平成22年 2月18日国内公表、特表2010-504898〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件出願は、2006年9月28日を国際出願日とする出願であって、平成21年3月27日付けで特許法第184条の5第1項に規定する国内書面が提出され、平成21年5月27日付けで特許法第184条の4第1項に規定する明細書、請求の範囲及び要約書の翻訳文並びに特許法第184条の8第1項に規定する条約第34条の規定に基づく補正書の翻訳文が提出され、平成23年11月24日付けで拒絶理由が通知され、平成24年2月10日付けで意見書が提出されたが、同年11月8日付けで拒絶査定がなされ、平成25年2月8日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に、同日付けで手続補正書が提出されて特許請求の範囲を補正する手続補正がなされ、さらに、同年3月21日付けで当審において書面による審尋がなされたものである。

第2.平成25年2月8日付けの特許請求の範囲を補正する手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成25年2月8日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
平成25年2月8日付けの手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に関しては、本件補正により補正される前の(すなわち、平成21年5月27日付けの特許法第184条の8第1項に規定する条約第34条に基づく補正書の翻訳文の)下記Aに示す記載を、下記Bに示す記載へと補正するものである。

A 本件補正前の特許請求の範囲
「 【請求項1】
固定位置に取り付けられるように適合された基部(40)と、
基部(40)に対して移動可能な速度制御部材(36)であって、細長い部材(32)に選択的に接触して、細長い部材(32)が基部(40)に対して移動する速度を制御するように構成された速度制御部材(36)と、
停止位置に押し付けられる停止部材(34)であって、押し付ける力に打ち勝つように作業者が加える入力がない場合に、停止位置で細長い部材(32)の基部(40)に対する移動を防止するように構成された停止部材(34)と、
押し付ける力に打ち勝って停止位置から外れるように停止部材(34)を移動させるために作業者によって手動で移動されるように構成されたフットペダルまたはハンドルの一方を含む第1の手動入力部材(70)と、
速度制御部材の位置を制御するために作業者によって手動で移動されるように構成されたフットペダルまたはハンドルの他方を含む第2の手動入力部材(84)と、
を備えることを特徴とする、エレベータ装置用の細長い部材(32)の垂直方向の移動を手動で制御するのに使用される装置(22)。」

B 本件補正後の特許請求の範囲
「 【請求項1】
固定位置に取り付けられるように適合された基部(40)と、
基部(40)に対して移動可能な速度制御部材(36)であって、細長い部材(32)に選択的に接触して、細長い部材(32)が基部(40)に対して移動する速度を制御するように構成された速度制御部材(36)と、
停止位置に押し付けられる停止部材(34)であって、押し付ける力に打ち勝つように作業者が加える入力がない場合に、停止位置で細長い部材(32)の基部(40)に対する移動を防止するように構成された停止部材(34)と、
押し付ける力に打ち勝って停止位置から外れるように停止部材(34)を移動させるために作業者によって手動で移動されるように構成されたフットペダルまたはハンドルの一方を含む第1の手動入力部材(70)と、
速度制御部材の位置を制御するために作業者によって手動で移動されるように構成されたフットペダルまたはハンドルの他方を含む第2の手動入力部材(84)と、
を備えており、停止部材(34)が、細長い部材(32)の外面輪郭に対応した輪郭を有することを特徴とする、エレベータ装置用の細長い部材(32)の垂直方向の移動を手動で制御するのに使用される装置(22)。」(アンダーラインは補正箇所を示すもので、請求人が付したものである。)

2.本件補正の目的
本件補正は、本件補正後の請求項1については、「停止部材(34)」に関して、「細長い部材(32)の外面輪郭に対応した輪郭を有する」とあるように、「停止部材(34)」の形状を限定するものであるから、本件補正後の請求項1に関する補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3.本件補正の適否
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下 、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

3-1.引用文献記載の発明
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である米国特許第1921627号明細書(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている(和文は当審において仮訳したものである。)。
ア.「The object of the present invention is to generally improve and simplify the construction and operation of rope brakes and locks; to provide a rope brake and lock which may be quickly and readily applied to a rope or cable; to provide a brake mechanism which is manually operable when descending on a rope or cable; to provide means for automatically gripping and locking the device with relation to the cable to stop descent in case of accidents, or otherwise; and, further, to provide means for manually releasing the automatic gripping or locking device when descending under brake control.」(明細書第1ページ第6ないし18行)
(仮訳:本発明の目的は、ロープブレーキおよびロックの構造および操作性を向上させて簡素化することである。すなわち、ロープあるいはケーブルに迅速かつ容易に取り付けることができるロープブレーキおよびロックを提供するものであり、ロープあるいはケーブルを下降する際に手動操作できるブレーキ機構を提供するものであり、アクシデントが発生した際に、自動的にケーブルに関係する装置を挟持してロックする手段を提供するものであり、さらに、あるいはそれに代えて、ブレーキ制御により下降する際に、手動操作によって自動挟持装置またはロック装置を解除する手段を提供するものである。)

イ.「Referring to the drawings in detail and particularly Figs. 2 to 4, inclusive, A indicates in general a housing which, in this instance, is divided into two sections indicated at 2 and 3. Lugs 4 are formed on the respective sections and pins 5 are insertable through the lugs to secure the sections with relation to each other. Formed between the sections 2 and 3 is a rope or cable passage 6 adapted to receive a rope or cable such as shown at 7. Formed in the upper portion of the housing section 2 are a pair of passages 8. Mounted in each passage is a ball 9 and disposed behind each ball is a shoe 10. The shoes are provided with rod-like extensions 11 which extend through bearings 12 and the rods are connected at their outer ends by means of a plate 13. Pivotally mounted in rugs 14 is a lever 15 and formed on the inner end thereof is a cam 16 engageable with the plate 13.」(明細書第1ページ第29ないし48行)
(仮訳:特に図2?図4を含む図面の詳細を参照して説明する。符号Aは、通常のハウジングを示すものであり、このハウジングはここでは符号2および3で示される二つの分割部に分けられている。突起部4が一方の分割部に形成されており、ピン5がこの突起部に自在に挿通されて二つの分割部を相互に固定する。二つの分割部2、3の間にはロープ通路またはケーブル通路6が形成され、これらは符号7で示すロープあるいはケーブルなどを受け入れる。ハウジング部2の上端部には一対の通路8が形成されている。各通路にはボール9が取り付けられ、各ボールの裏側には制動部材10が配置されている。これらの制動部材には棒状延出部11がそれぞれ設けられている。この二つの延出部11はベアリング12を通って延びており、両外端部がプレート13という手段によって接続されている。突出部14にはレバー15が軸支されており、その内端部にはカム16が形成されている。このカムはプレート13と自在に係合する。)

ウ.「 Formed in the lower portion of the housing section 2 is an upwardly extending angularly disposed passage 17, and mounted therein is a ball 18 and a shoe 19 having a rod 20 secured thereto. This rod extends through a bearing 21 and is provided with an eye or handle extension 22. A spring 23 is interposed between the shoe and the bearing 21 and this normally urges the shoe and the ball into engagement with the cable as shown in Fig. 2. The mechanism last described will hereinafter be referred to as the automatic gripping or locking device.」(明細書第1ページ第49ないし60行)
(仮訳:ハウジング2の下部には斜め縦方向に延びる通路17が形成されており、この中にはボール18と、ロッド20を有する制動部材19が固定されている。このロッドはベアリング21を通過して延び、環状部またはハンドル延出部22を備える。スプリング23が制動部材とベアリング21との間に配置されており、これにより、図2に示すように、制動部材とボールがケーブルに係合するように付勢する。先に説明した機構は、自動挟持装置またはロック装置として以下に言及する。)

エ.「In actual operation the device shown may be used for numerous purposes; for instance, it might be used as a fire escape when descending from a burning building. It may be used on farms for lowering heavy weights, like bales of hay from lofts and the like, or it may be used as a scaffold support as shown in Fig. 1. In this drawing it will be noted that the housing is provided with downwardly extending arms 30 and that these support a scaffold as shown at 31. The upper end of the housing is provided with a pair of lugs 32 and these are connected with a pulley block 33. Where the device is used as a scaffold support it is hung from the parapet wall of a building in the manner illustrated or by any other suitable supporting mechanism. If the workmen on the scaffold desire to hoist or pull themselves in an upward direction they merely grasp the loose end of the cable indicated at 34 and pull upwardly.」(明細書第1ページ第81ないし100行)
(仮訳:図示した装置は実際上、数々の目的に使用される。例えば、この装置は、炎上する建物から下りる際の火災避難道具として使用することが可能である。あるいは、農場において、干し草の俵などの重い物をロフトなどから降ろす際に使用することができ、さらには、図1に示すように、足場を支持するために使用することができる。なお、この図において、ハウジングには下方に延びるアーム30が設けられており、これらは符号31で示す足場を支持する。ハウジングの上端部には一対の突起部32が設けられ、これらの突起部32はプーリーブロック33に連結されている。この装置が足場を支持するために使用される場合、建物の欄干壁から図示した状態で吊り下げられ、あるいはその他の適宜の支持機構によって吊り下げられる。足場に乗っている作業員が、彼ら自身を上方に持ち上げあるいは引き上げたい場合には、単に符号34で示すケーブルの緩んでいる端部を掴んで上方に引っ張る。)

オ.「If the scaffold is at a high point on the building and it is desired to lower the same it is accomplished by pulling downward on the handle 15 until it assumes the dotted line position shown at 15a. The cam 16 will during such movement engage the plate 13 and force the rods 11 together with the shoes 10 and the balls 9 inwardly in the passage 8, thus bringing the balls into forceful engagement with the cable and bending the cable into the depressions 9a, The balls 9 due to the high pressure applied by the cam 16 will tend to flatten the cable and positively lock it in the depressions 9a. The operator next grasps the eye 22 or the rod 20 and pulls it in a downward direction so as to release the ball 18 with relation to the cable. Then by slightly relieving the pressure on the balls 9, by swinging the lever or handle 15a upwardly, the pressure of the balls 9 on the cable is released and the scaffold will begin to descend, the speed of descent being controlled directly by the operator and being proportional to the amount of friction or pressure imposed upon the bails 9 and cable 7. It should be remembered that when the operator is descending by brake action that he is forced to hold the ball 18 cut of engagement with the cable by pulling downwardly on the eye 22. If during descent he should accidentally release the lever 15a, or if he should faint or otherwise become incapacitated, he would naturally release the eye 22 hence ball 18 would instantly be urged inwardly by spring 20 and the shoe 19 and the cable would thus automatically be gripped and locked thus stopping further descent. 」(明細書第2ページ第9ないし42行)
(仮訳:足場が建物の高い場所に位置し、そこから降下させたい場合は、ハンドル15を符号15aで示す点線の形態をとるまで下方に引く。こうした動きの中で、カム16はプレート13と係合し、ロッド11を制動部材10およびボール9と共に通路8の内方へ押し込む。これにより、ボールをケーブルと強く係合させて、当該ケーブルを凹み部9aの中へ曲げ入れる。ボール9は、カム16による大きな圧力により、ケーブルを押し潰して凹み部9aの中で強固にロックする。作業員は、次に、環状部22またはロッド20を掴み、それを下方向に引いてボール18をケーブルから開放する。続いて、徐々にボール9に対する圧力を弱めることにより、そして、レバーまたはハンドル15aを上方に揺動させることにより、ボール9のケーブルに対する圧力が弱くなり足場は下降し始める。その下降速度は作業員によって直接コントロールされ、また、ボール9とケーブル7に作用する摩擦力あるいは圧力の大きさに比例する。なお、前述したように、作業員がブレーキ操作によって足場を降下させる際、その作業員は、環状部22を下方向に引っ張ることによって、ボール18とケーブルとの係合を解除する必要がある。もし、足場を降下中に、作業員が誤ってレバー15aを離してしまうと、あるいは作業員が気を失って操作できない状態になると、当然ながら環状部22を離してしまうことになるが、この場合、ボール18が瞬時にスプリング20によって内方に付勢され、これにより制動部材19およびケーブルは自動的に把持されロックされる。これにより、足場のさらなる降下を停止する。)

(2)ここで、上記(1)ア.ないしオ.及び図面から、次のことが分かる。
カ.上記(1)エ.及び図1から、ハウジング2,3は、アーム30を介して足場31に取り付けられるように適合されることが分かる。

キ.上記(1)ア.ないしオ.及び図2から、ボール9及び制動部材10は、ハウジング2,3に対して移動可能であって、ロープまたはケーブル7に選択的に接触して、ハウジング2,3がロープまたはケーブル7に対して移動する速度を制御するように構成されることが分かる。

ク.上記(1)ア.ないしオ.及び図2から、ボール18及び制動部材19は、停止位置に押し付けられるものであって、押し付ける力に打ち勝つように作業者が加える入力がない場合に、停止位置でハウジング2,3のロープまたはケーブル7に対する移動を防止するように構成されることが分かる。

ケ.上記(1)ア.ないしオ.及び図2から、環状部22は、押し付ける力に打ち勝って停止位置から外れるようにボール18及び制動部材19を移動させるために作業者によって手動で移動されることが分かる。

コ.上記(1)ア.ないしオ.及び図2から、レバー15は、ボール9及び制動部材10の位置を制御するために作業者によって手動で移動されることが分かる。

サ.上記(1)エ.及びオ.並びに図1から、足場は、上方及び下方に移動することが分かり、全体として足場昇降装置が構成されていることが分かる。
(3)引用文献1記載の発明
上記(1)及び(2)より、引用文献には、次の発明が記載されている。
「 足場30に取り付けられるように適合されたハウジング2,3と、
ハウジング2,3に対して移動可能なボール9及び制動部材10であって、ロープまたはケーブル7に選択的に接触して、ハウジング2,3がロープまたはケーブル7に対して移動する速度を制御するように構成されたボール9及び制動部材10と、
停止位置に押し付けられるボール18及び制動部材19であって、押し付ける力に打ち勝つように作業者が加える入力がない場合に、停止位置でハウジング2,3のロープまたはケーブル7に対する移動を防止するように構成されたボール18及び制動部材19と、
押し付ける力に打ち勝って停止位置から外れるようにボール18及び制動部材19を移動させるために作業者によって手動で移動されるように構成された環状部22と、
ボール9及び制動部材10の位置を制御するために作業者によって手動で移動されるように構成されたレバー15と、
を備えている足場昇降装置の足場昇降装置用のロープまたはケーブル7に対する垂直方向の移動を手動で制御するのに使用される装置。」(以下、「引用文献1記載の発明」という。)

(4)原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である特開2004-345763号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
タ.「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、エレベーターのロープ張設作業時に使用するのに好適なエレベーター用ロープ固定装置に関するものである。」(段落【0001】)

チ.「【0018】
図1及び図2において、ロープ固定装置1は、ロープ2を挟持する複数個の挟持機構部材3と、これら複数個の挟持機構部材3の各々を、間隔Lを保持した状態で配列して支持する支持機構部材4と、この支持機構部材4をエレベーターの機械室に設けたI型鋼からなるマシンビーム5に取り付けるための取り付け機構部材6とを少なくとも具備している。」(段落【0018】)

ツ.「【0027】
ロープ当接体25は、ボルト体22を回動(図3で時計回り)させることにより、そのボルト体22を上昇させて移動阻止体24に当接させると、ボルト体22から離れようとして第一挟持部材20の上端面に近づく方向に移動するように構成されている。したがって、ボルト体22を図3で時計回りに回動させたり、あるいはボルト体22を図3で反時計回りに回動させたりすることで、第一挟持部材20と第二挟持部材21との間に形成されるロープ挟持用間隙Gの大きさを調整することができる。それゆえに、ボルト体22を図3で時計回りに回動させることで、ロープ当接体25の下端面と第一挟持部材20の上端面の間でロープ2を挟持したり、あるいは、ボルト体22を図3で反時計回りに回動させることで、ロープ当接体25の下端面と第一挟持部材20の上端面の間からロープ2を離したりすることができる。また、第一挟持部材20と第二挟持部材21との間に形成されるロープ挟持用間隙Gの大きさは、ボルト体22とロープ当接体25との螺合寸法を変えるなどをすることによって、予め調整することができるようにしてある。」(段落【0027】)

テ.「【0034】
(6)次に、図7のステップS6において、ロープ固定装置1における挟持機構部材3のボルト体22を螺進(図3では時計回りに回転させる)させることにより、回り止め部材13によってロープ当接体25の回転が阻止されているため、ボルト体22が上方に移動させられる。ボルト体22が上方に移動して、移動阻止体24がブロック体23に当接すると、ボルト体22の上方への移動が阻止されることで、ロープ当接体25が下方に移動して、そのロープ当接体25の下端面と第一挟持部材20の上端面との間にロープ2を挟持固定させる。」(段落【0034】)

ト.「【0038】
上記(1)から(9)の手順によれば、つり合いおもり29と巻上機のシーブ31とそらせ車32と乗りかご36とにロープを取り付けるためのロープ張設作業を、円滑に行うことができる。このロープ張設作業中において、機械室30に設置させたロープ固定装置1により、すべてのロープ2がマシンビーム5に堅牢に固定された状態となるので、ロープ2が昇降路内のピット内底に向って落下することなく、安全である。」(段落【0038】)

(5)上記(4)タ.ないしト.及び図面から次のことが分かる。
ナ.上記(4)タ.ないしト.及び図4から、エレベータ用のロープ2の落下が挟持機構部材3のボルト体22を螺進することにより防止されることが分かる。

(6)引用文献2記載の発明
上記(4)及び(5)並びに図面によると、引用文献2には、次の発明が記載されている。
「エレベーター用のロープ2の落下をボルト体22の螺進で防止するのに使用される狭持機構部材3。」(以下、「引用文献2記載の発明」という。)

3-2.本件補正発明と引用文献1記載の発明との対比
本件補正発明と引用文献1記載の発明とを対比すると、引用文献1記載の発明における「足場」、「ハウジング2,3」、「ボール9及び制動部材10」、「ロープまたはケーブル7」及び「ボール18及び制動部材19」は、それぞれの技術的意義及び機能からみて、本件補正発明における「固定位置」、「基部」、「速度制御部材」、「細長い部材」及び「停止部材」に、それぞれ相当する。
また、引用文献1記載の発明における「環状部22」は、「第1の手動入力部材」という限りにおいて,本件補正発明における「フットペダルまたはハンドルの一方を含む第1の手動入力部材」のうちの「フットペダルを含む第1の手動入力部材」に相当し、引用文献1記載の発明における「レバー15」は、掴まれるものであるから、本件補正発明における「フットペダルまたはハンドルの他方を含む第2の手動入力部材」のうちの「ハンドルを含む第2の手動入力部材」に相当する。

また、引用文献1記載の発明における「ハウジング2,3がロープまたはケーブル7に対して移動する速度を制御する」は、「基部または細長い部材のうちの一方の部材が他方の部材に対して移動する速度を制御する」という限りにおいて,本件補正発明における「細長い部材が基部に対して移動する速度を制御する」に相当する。

そして、引用文献1記載の発明における「ハウジング2,3のロープまたはケーブル7に対する移動を防止する」は、「基部または細長い部材のうちの一方の部材の他方の部材に対する移動を防止する」という限りにおいて,本件補正発明における「細長い部材の基部に対する移動を防止する」に相当する。

また、引用文献1記載の発明における「足場昇降装置」は、「昇降装置」という限りにおいて,本件補正発明における「エレベータ装置」に相当する。

そして、引用文献1記載の発明における「昇降装置の足場昇降装置用のロープまたはケーブル7に対する垂直方向の移動を手動で制御する」は、「昇降装置の昇降装置用の細長い部材に対する垂直方向の相対的な移動を手動で制御する」という限りにおいて、本件補正発明における「エレベータ装置用の細長い部材の垂直方向の移動を手動で制御する」に相当する。

したがって、本件補正発明と引用文献1記載の発明は、
「固定位置に取り付けられるように適合された基部と、
基部に対して移動可能な速度制御部材であって、細長い部材に選択的に接触して、基部または細長い部材のうちの一方の部材が他方の部材に対して移動する速度を制御するように構成された速度制御部材と、
停止位置に押し付けられる停止部材であって、押し付ける力に打ち勝つように作業者が加える入力がない場合に、停止位置で基部または細長い部材のうちの一方の部材の他方の部材に対する移動を防止するように構成された停止部材と、
押し付ける力に打ち勝って停止位置から外れるように停止部材を移動させるために作業者によって手動で移動されるように構成された第1の手動入力部材と、
速度制御部材の位置を制御するために作業者によって手動で移動されるように構成されたハンドルを含む第2の手動入力部材と、
を備えている、昇降装置の昇降装置用の細長い部材に対する垂直方向の相対的な移動を手動で制御するのに使用される装置。」
の点で一致し、以下のア.ないしウ.の点で相違している。
ア.本件補正発明においては、「細長い部材」が「エレベータ装置用」であって、「装置」が、「固定位置」に取り付けられた「基部」に対する「細長い部材」の移動を制御するのに対し、引用文献1記載の発明においては、「ロープまたはケーブル7」(本件補正発明における「細長い部材」に相当。)が「足場昇降装置用」であって、「装置」が、「ロープまたはケーブル7」(本件補正発明における「細長い部材」に相当。)に対する「足場」(本件補正発明における「固定位置」に相当。)に取り付けられた「ハウジング2,3」(本件補正発明における「基部」に相当。)の移動を制御する点(以下、「相違点1」という。)。

イ.本件補正発明においては、「停止部材」を停止位置から移動させるために用いられ「第1の手動入力部材」が「フットペダルを含む」ものであるのに対し、引用文献1記載の発明においては、この点が明らかでない点(以下、「相違点2」という。)。

ウ.本件補正発明においては、「停止部材が、細長い部材の外面輪郭に対応した輪郭を有する]のに対し、引用文献1記載の発明においては、この点が明らかでない点(以下、「相違点3」という。)。

3-3.当審の判断
上記相違点1ないし3について検討する。
ア.相違点1について
本件補正発明は、「固定位置」に取り付けられた「基部」に対する「細長い部材」の移動を制御するものであり、引用文献1記載の発明は、「ロープまたはケーブル7」(本件補正発明における「細長い部材」に相当。)に対する「足場」(本件補正発明における「固定位置」に相当。)に取り付けられた「ハウジング2,3」(本件補正発明における「基部」に相当。)の移動を制御するものであることから、両者は、「基部」が移動しないか、あるいは移動するかで相違していることになる。
その結果として、移動を制御する対象が、本件補正発明においては「基部」に対して移動する「細長い部材」であり、引用文献1記載の発明においては「ロープまたはケーブル7」に対して移動する「足場」に固定される「ハウジング2,3」であるから、両者は、移動を制御する対象が相対的に異なることになる。
ここで、引用文献2記載の発明は、上記3.3-1.(4)ないし(6)で検討したように、「エレベーター用のロープ2の落下をボルト体22の螺進で防止するのに使用される狭持機構機構部材3。」というものである。
本件補正発明と引用文献2記載の発明とを対比すると、引用文献2記載の発明における「エレベータ装置」、「ロープ2」、「落下」及び「狭持機構部材3」は、それぞれの技術的意義及び機能からみて、本件補正発明における「エレベータ」、「細長い部材」、「移動」及び「装置」に、それぞれ相当する。
また、引用文献2記載の発明における「ボルト体22の螺進で防止」は、ボルト体の螺進は「手動」により行われることは明らかであり、また、「防止」は「制御」に含まれると解されることから、本件補正発明における「手動で制御」に相当する。
そうすると、引用文献2に記載の発明は、本件補正発明の用語を用いて表現すると、「エレベータ装置用の細長い部材の移動を手動で制御するのに使用される装置。」ということになる。
また、この引用文献2記載の発明は「エレベータ装置用の細長い部材の移動を手動で制御するのに使用される装置。」であるが、このような装置は、周知の技術(例えば、特開平11-322221号公報のロープブレーキ13及び特開2005-15071号公報のブレーキレバー28等参照。)でもある。
そして、引用文献2記載の発明は、移動を制御する対象が「ロープ2」(本件補正発明における「細長い部材」に相当。)であるから、移動を制御する対象が「足場」に固定される「ハウジング2,3」である引用文献1記載の発明とは、移動を制御する対象が相対的に異なるものであるが、移動を制御する対象が相対的に異なるものにおいて、いずれのものを制御の対象にするかは当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎないから、引用文献1記載の発明を、上記設計的事項を参酌しつつ、周知の技術ともいい得る引用文献2記載の発明に適用して、「エレベータ装置用の細長い部材の移動を手動で制御するのに使用される装置。」とすることにより、上記相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものと認められる。

イ.相違点2について
「停止部材」を停止位置から移動させるために用いられる手動入力部材をフットペダルを含む」ものとすることは周知の技術(以下、「周知技術1」という。例えば、米国特許第2939550号明細書の図3及び特開2001-233563号公報の図9等参照。)である。
引用文献1記載の発明において、上記周知技術1を適用して相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項のように構成することは当業者が容易に想到し得るものと認められる。

ウ.相違点3について
「停止部材」を「細長い部材の外面輪郭に対応した輪郭を有する」ものとすることは周知の技術(以下、「周知技術2」という。例えば、特開2004-211888号の図1A及び図1B並びに実願昭53-171454号(実開昭55-90682号)のマクロフィルムの第2図等参照。)である。
引用文献1記載の発明において、上記周知技術2を適用して相違点3に係る本件補正発明の発明特定事項のように構成することは当業者が容易に想到し得るものと認められる。

また、本件補正発明は、全体としても、引用文献1記載の発明及び周知の技術ともいい得る引用文献2記載の発明並びに上記周知技術1及び2から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するとも認められない。

以上から、本件補正発明は、引用文献1記載の発明及び周知の技術ともいい得る引用文献2記載の発明並びに上記周知技術1及び2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

3-4.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである

よって、結論のとおり決定する。

第3.本願発明について
1.本願発明の内容
平成25年2月8日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1ないし12に係る発明は、平成21年5月27日付けの特許法第184条の4第1項に規定する明細書の翻訳文、平成21年5月27日付けの特許法第184条の8第1項に規定する条約第34条に基づく補正書の翻訳文における特許請求の範囲及び出願当初の図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2.[理由]1.Aに記載したとおりである。

2.引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(米国特許第1921627号明細書)及び引用文献2(特開2004-345763号公報)の記載事項並びに引用文献1記載の発明及び引用文献2記載の発明は、前記第2.[理由]3-1.に記載したとおりである。

3.対比・判断
本件補正発明は、前記第2.[理由]2.で検討したように、本願発明における発明特定事項を限定したものに相当し、本願発明と引用文献1記載の発明を対比すると、前記相違点1及び相違点2で相違する。
そうすると、本願発明における発明特定事項を全て含む本件補正発明が、前記第2.[理由]3-3.に記載したとおり、引用文献1記載の発明及び周知の技術ともいい得る引用文献2記載の発明並びに上記周知技術1及び2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用文献1記載の発明及び周知の技術ともいい得る引用文献2記載の発明並びに上記周知技術1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1記載の発明及び周知の技術ともいい得る引用文献2記載の発明並びに上記周知技術1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-10-04 
結審通知日 2013-10-08 
審決日 2013-10-29 
出願番号 特願2009-530317(P2009-530317)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B66B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 栗田 雅弘大塚 多佳子  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 中川 隆司
藤原 直欣
発明の名称 エレベータのローピング用アッセンブリ  
代理人 富岡 潔  
代理人 小林 博通  

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