• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特37 条出願の単一性( 平成16 年1 月1 日から) 取り消して特許、登録 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 A61B
管理番号 1285926
審判番号 不服2013-18824  
総通号数 173 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-09-30 
確定日 2014-04-08 
事件の表示 特願2010-510404号「超音波手術システム」拒絶査定不服審判事件〔平成20年12月11日国際公開、WO2008/150650、平成22年8月26日国内公表、特表2010-528711号、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20年5月13日(パリ条約による優先権主張 2007年5月29日 アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成25年5月30日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年9月30日に拒絶査定不服審判の請求がされ、同時に手続補正がされたものである。
そして、当審において、同年11月1日付けで審査官により作成された前置報告書について、同年11月12日付けで審尋を行ったところ、審判請求人は平成26年2月17日付けで回答書を提出した。

第2 平成25年9月30日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)の適否
1.補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を、
「 【請求項1】
近位端及び遠位端を有する超音波伝送部材と、
前記伝送部材の前記遠位端に取り付けられた超音波作動エンドエフェクターと、
少なくとも1つの流体源と連通している流体ノズルを含む加圧流体デリバリーシステムと、を含む、骨を治療するための超音波手術システムであって、軟組織が損傷することを避けながら前記軟組織を移動させて骨の治療領域を露出させるように、前記流体ノズルが、使用中、前記エンドエフェクターから、前記骨の前記治療領域上に配された軟組織に、前記軟組織を前記骨の前記治療領域の表面から移動させる速度で、加圧流体ジェットを供給するように配設及び構成されており、
前記骨を治療するための超音波手術システムはさらに、
前記超音波伝送部材の周囲に配置された内部シースと、
前記内部シースの周囲に配置され、前記内部シースから放射状に間隔を空けられて、前記加圧流体を前記流体ノズルに向けるための流体通路を画定する、外部シースと、
ユーザーが握ることのできるハンドピースであって、前記ハンドピースは導波管に動作可能に接続された超音波変換器を備え、前記ハンドピースはユーザーが加圧流体供給を制御できるようにする、前記ハンドピース上に位置するユーザー制御部を備えている、ハンドピースと、
を含む、骨を治療するための超音波手術システム。
【請求項2】
前記流体ノズルから、少なくとも約20ml/秒の速度で流体を供給するように構成される、請求項1に記載の超音波手術システム。
【請求項3】
前記加圧流体デリバリーシステムが、複数の流体源を含む、請求項1に記載の超音波システム。
【請求項4】
前記複数の流体源が、第1の流体を含む第1の流体源と、前記第1の流体とは異なる第2の流体を含む第2の流体源と、を含む、請求項3に記載の超音波システム。
【請求項5】
前記複数の流体源が、第1の圧力で流体を提供するように構成された第1の流体源と、前記第1の圧力とは異なる第2の圧力で流体を提供するように構成された第2の流体源と、
を含む、請求項3に記載の超音波システム。
【請求項6】
前記エンドエフェクターが、
第1の熱伝導率を有する第1の材料を含む第1の部分と、
前記第1の熱伝導率より高い第2の熱伝導率を有する第2の材料を含む第2の部分と、を含む複合エンドエフェクターである、請求項1に記載の超音波手術システム。
【請求項7】
前記エンドエフェクターが、
使用中に自己発熱して組織に熱を提供する損失性材料を含む第1の部分と、
使用中に組織に提供される熱を制限する非損失性材料を含む第2の部分と、を含む複合エンドエフェクターである、請求項1に記載の超音波手術システム。
【請求項8】
前記エンドエフェクターが、金属材料のマトリックス内に配置されたダイヤモンド粒子を含む複合エンドエフェクターであって、前記ダイヤモンド粒子が、使用中に組織と接触するために、前記エンドエフェクターの表面において露出している、請求項1に記載の超音波手術システム。」(下線は補正箇所を示す。)
と補正するものである。

2.補正の適否
本件補正は、請求項1?8に記載した発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)である「超音波手術」について「骨を治療するための」との限定を付加し、同じく「治療領域」について「骨の」との限定を付加し、同じく「軟組織」に「前記骨の前記治療領域上に配された」との限定を付加するものであるとともに、同じく「前記流体ノズルが、使用中、前記軟組織に、前記エンドエフェクターから前記軟組織を遠ざける速度で加圧流体ジェットを供給する」を「前記流体ノズルが、使用中、前記エンドエフェクターから、前記骨の前記治療領域上に配された軟組織に、前記軟組織を前記骨の前記治療領域の表面から移動させる速度で、加圧流体ジェットを供給する」として請求項1?8の記載を明確にするものであって、補正前の請求項1?8に記載された発明と補正後の請求項1?8に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮及び第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。
そこで、本件補正後の請求項1?8に記載された発明(以下、「本願補正発明1?8」という。)が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

2-1.本願補正発明1
(1)刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由及び前置報告書において引用された特開2004-267462号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア:「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は腹腔壁等に超音波振動によって穿刺する超音波穿刺システムに関する。」

イ:「【0022】
(発明の目的)
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、穿刺状況をより正確に把握判断でき、穿刺処置するのに適した超音波穿刺システムを提供することを目的とする。
【0023】
【課題を解決するための手段】
超音波発生手段としての超音波振動子と収納したハンドピースと、
穿刺しようとする生体壁に超音波を伝達する穿刺用のプローブと、
プローブを覆い、ハンドピースに装着される外套管と、
上記超音波振動子を駆動するエネルギを供給する超音波電源装置とを備えた超音波穿刺システムにおいて、
上記超音波電源装置は超音波振動子へのエネルギ供給を停止する停止手段と、生体壁にプローブを穿刺する際の穿刺状況をインピーダンスにより検出するインピーダンス検出手段と、
外套管とプローブとの先端開口に流体を供給する流体供給手段とを有し、
プローブが生体壁を貫通したことを上記検出手段にて検出し、その検出出力により超音波振動子へのエネルギの供給を停止することにより、外套管とプローブとの先端開口に組織等が入り込まないようにでき、より正確に穿刺状況を把握できるようにしている。」

ウ:「【0025】
図1に示すように本発明の超音波穿刺システム1は、超音波による穿刺を行う超音波穿刺用処置具2と、この超音波穿刺用処置具2を駆動する高周波の電気エネルギを供給する電源装置3と、この電源装置3に接続され、電源装置3から超音波穿刺用処置具2に供給される電気エネルギのON/OFFを行うフットスイッチ等で形成される出力スイッチ4と、電源装置3に接続され、超音波穿刺用処置具2に流体を供給する流体を格納した流体タンク5とを備えている。
【0026】
超音波穿刺用処置具2は、手元側に設けられ、術者により把持される超音波振動子6を収納した振動子収納部7を有するハンドピース8と、このハンドピース8にその基端が連結され、円錐形状に尖った先端部9a側に超音波を伝達して穿刺の処置を行う超音波プローブ9と、この超音波プローブ9を覆い、ハンドピース8に着脱自在の外套管10とを有する。
【0027】
また、この超音波穿刺用処置具2は、ハンドピース8の後端から電気ケーブル11が延出され、この電気ケーブル11の後端に設けた電気プラグ12は、電源装置3の出力コネクタ13に着脱自在に接続され、この接続により電源装置3から超音波振動子6に高周波の電気エネルギを供給できるようにしている。
【0028】
また、ハンドピース8に装着される外套管10における後端部の外周面の口金14にはチューブ15の一端が接続され、このチューブ15の他端は電源装置3の流体供給コネクタ16に着脱自在で接続され、この接続により流体タンク5からの流体を外套管10の内側を通して超音波プローブ9の先端側に送ることができるようにしている。
【0029】
電源装置3には、例えばその前面に上述した出力コネクタ13,流体供給コネクタ16の他に電源のON/OFFを行う電源スイッチ17及び出力状態の表示や設定等を行うフロントパネル18とが設けてある。
【0030】
図2は穿刺対象物としての例えば皮膚組織21に対して超音波穿刺用処置具2により処置する状態での図1の内部構成を示す。
ハンドピース2を形成する振動子収納部7の内部には電気音響変換する機能を有する、例えば円板状の圧電素子が複数、両面に電極を取り付けた状態でボルト締め等して形成された超音波振動子6が配置され、電極に接続した電気ケーブル11の端部に設けた電気プラグ12を電源装置3の出力コネクタ13に接続することにより、高周波電気エネルギを超音波振動子6に印加して、超音波振動させることができるようにしている。
【0031】
この超音波振動子6の前端面には、棒状の超音波プローブ9における例えばテーパ状に拡径にした基端部が締結されており、超音波振動子6による超音波振動を超音波プローブ9の先端部9aに伝達する。
【0032】
振動子収納部7の前端には、外套管10の基端部が例えば螺着等により、着脱可能に装着され、この外套管10の中空部内に隙間22が形成される状態で超音波プローブ9が挿通され、この超音波プローブ9の尖った形状にした先端部9aは外套管10の先端の開口23から少し突出し、穿刺し易い形状にしている。 また、外套管10の基端部には口金14が設けてあり、チューブ15を介して電源装置3の流体供給コネクタ16に接続される。
【0033】
電源装置3には流体タンク5に一端が、流体供給コネクタ16に他端が接続にたポンプ24を内蔵し、このポンプ24により流体タンク5の流体を流体供給コネクタ16に接続されたチューブ15を介して外套管10の口金14に供給し、この口金14からさらに超音波プローブ9が挿通された外套管10の隙間22を経てその先端の開口23側に流体を供給可能にしている。
【0034】
また、この電源装置3内には超音波振動子6を超音波励振させるための周波数で発振する発振器26が設けてあり、この発振器26の発振信号は増幅する増幅器27により電力増幅されて振動子駆動用の電気エネルギとしての振動子駆動信号となる。
【0035】
この振動子駆動信号はその電流成分及び電圧成分を検出して超音波穿刺用処置具2の駆動インピーダンスを検出する駆動インピーダンス検出回路28を経てこの振動子駆動信号の給電ライン上に設けられた遮断スイッチ29を経た後、さらに電気的な絶縁を確保しつつ、振動子駆動信号を二次側に伝達する絶縁トランス30を経て出力コネクタ13から信号ケーブル11を経て超音波振動子6に印加される。
【0036】
また、電源装置3内には、電源装置3全体の動作を制御する制御手段31が設けられている。この制御手段31は出力スイッチ4、ポンプ24、発振器26、駆動インピーダンス検出回路28、遮断スイッチ29と接続されている。
そして、出力スイッチ4の操作に応じて、発振器26の発振/発信停止の制御、ポンプ24の動作の制御及び遮断スイッチ29の制御を行うと共に、駆動インピーダンス検出回路28による駆動インピーダンス検出の結果に応じて遮断スイッチ29の(ONから)OFFにより超音波振動子6への電気エネルギへ供給停止の制御やフロントパネル18での表示制御等を行う。また、この制御手段31は穿刺の処置を行っている場合には、ポンプ24を動作状態に設定する制御を行う。
【0037】
本実施の形態では、超音波穿刺用処置具2を用いて、図2に示すように穿刺対象物としての例えば皮膚組織21に超音波プローブ9の先端部9aにより穿刺を行う場合、その外周面を覆う外套管10内の隙間22を通して流体を供給し、先端部9aの周囲に体液や組織等の異物が入り込まないようにした状態で行うことができる構成にしている。」

a:イの「外套管とプローブとの先端開口に流体を供給する流体供給手段」との記載、ウの「流体タンク5からの流体を外套管10の内側を通して超音波プローブ9の先端側に送る」との記載、ウの「ポンプ24により流体タンク5の流体を流体供給コネクタ16に接続されたチューブ15を介して外套管10の口金14に供給し、この口金14からさらに超音波プローブ9が挿通された外套管10の隙間22を経てその先端の開口23側に流体を供給可能にしている。」との記載及び図2の図示内容からして、引用例には、流体タンク5と連通している外套管10とプローブ9との先端開口23を含むポンプ24により流体タンク5の流体を加圧して先端開口23に供給する加圧流体供給手段が記載されているといえる。

b:ウの「フットスイッチ等で形成される出力スイッチ4」との記載、ウの「この制御手段31は出力スイッチ4、ポンプ24、発振器26、駆動インピーダンス検出回路28、遮断スイッチ29と接続されている。そして、出力スイッチ4の操作に応じて、発振器26の発振/発信停止の制御、ポンプ24の動作の制御及び遮断スイッチ29の制御を行う」との記載及び図2の図示内容からして、引用例には、ユーザーが加圧流体供給を制御できるようにする、フットスイッチで形成される出力スイッチ4が記載されているといえる。

これら記載事項及び図示内容を総合すると、引用例には、次の発明が記載されている。
「近位端及び遠位端を有する超音波プローブ9と、
超音波プローブ9の遠位端に位置する先端部9aと、
流体タンク5と連通している外套管10とプローブ9との先端開口23を含むポンプ24により流体タンク5の流体を加圧して先端開口23に供給する加圧流体供給手段と、を含む、超音波穿刺システムであって、皮膚組織21に超音波プローブ9の先端部9aにより穿刺を行う場合、その外周面を覆う外套管10内の隙間22を経てその先端の開口23に加圧流体を供給し、開口23に体液や組織等の異物が入り込まないように配設及び構成されており、
皮膚21を穿刺するための超音穿刺システムはさらに、
超音波プローブ9の周囲に配置され、加圧流体を開口23に向けるための隙間22を画定する、外套管10と、
ユーザーが握ることのできるハンドピース8であって、ハンドピース8は超音波プローブ9に動作可能に接続された超音波振動子6を備えている、ハンドピース8と、
ユーザーが加圧流体供給を制御できるようにする、フットスイッチで形成される出力スイッチ4と、
を含む、皮膚21を穿刺するための超音波穿刺システム。」(以下、「引用発明」という。)

(2)対比
本願補正発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「超音波プローブ9」は本願補正発明1の「超音波伝送部材」に相当し、引用発明の「超音波プローブ9の遠位端に位置する先端部9a」と本願補正発明1の「前記伝送部材の前記遠位端に取り付けられた超音波作動エンドエフェクター」とは「前記伝送部材の前記遠位端に位置する超音波作動エンドエフェクター部」である点で一致する。

引用発明の「流体タンク5」は本願補正発明1の「少なくとも1つの流体源」に相当し、以下同様に、「外套管10とプローブ9との先端開口23」は「流体ノズル」に、「ポンプ24により流体タンク5の流体を加圧して先端開口23に供給する加圧流体供給手段」は「加圧流体デリバリーシステム」に、「超音波穿刺システム」は「超音波手術システム」に、それぞれ相当する。
そうすると、引用発明の「超音波穿刺システムであって、皮膚組織21にプローブ9の先端部9aにより穿刺を行う場合、その外周面を覆う外套管10内の隙間22を経てその先端の開口23に加圧流体を供給し、開口23に体液や組織等の異物が入り込まないように配設及び構成されて」いることと本願補正発明1の「骨を治療するための超音波手術システムであって、軟組織が損傷することを避けながら前記軟組織を移動させて骨の治療領域を露出させるように、前記流体ノズルが、使用中、前記エンドエフェクターから、前記骨の前記治療領域上に配された軟組織に、前記軟組織を前記骨の前記治療領域の表面から移動させる速度で、加圧流体ジェットを供給するように配設及び構成されて」いることとは、「超音波手術システムであって、前記流体ノズルが、使用中、前記エンドエフェクターから、加圧流体を供給するように配設及び構成されて」いる点で一致する。

引用発明の「隙間22」、「外套管10」は、本願補正発明1の「流体通路」、「外部シース」に、それぞれ相当するから、引用発明の「超音波プローブ9の周囲に配置され、加圧流体を開口23に向けるための隙間22を画定する、周囲に配置された外套管10」と本願補正発明1の「前記超音波伝送部材の周囲に配置された内部シースと、前記内部シースの周囲に配置され、前記内部シースから放射状に間隔を空けられて、前記加圧流体を前記流体ノズルに向けるための流体通路を画定する、外部シース」とは、「前記超音波伝送部材の周囲に配置され、前記超音波伝送部材から放射状に間隔を空けられて、前記加圧流体を前記流体ノズルに向けるための流体通路を画定する、外部シース」である点で一致する。

引用発明の「ハンドピース8」、「超音波プローブ9」、「フットスイッチで形成される出力スイッチ4」は、本願補正発明1の「ハンドピース」、「導波管」、「ユーザー制御部」に、それぞれ相当するから、引用発明の「ユーザーが握ることのできるハンドピース8であって、ハンドピース8は超音波プローブ9に動作可能に接続された超音波振動子6を備えている、ハンドピース8と、ユーザーが加圧流体供給を制御できるようにする、フットスイッチで形成される出力スイッチ4と」を含むことと本願補正発明1の「ユーザーが握ることのできるハンドピースであって、前記ハンドピースは導波管に動作可能に接続された超音波変換器を備え、前記ハンドピースはユーザーが加圧流体供給を制御できるようにする、前記ハンドピース上に位置するユーザー制御部を備えている、ハンドピースと」を含むこととは、「ユーザーが握ることのできるハンドピースであって、前記ハンドピースは導波管に動作可能に接続された超音波変換器を備えている、ハンドピースと、ユーザーが加圧流体供給を制御できるようにする、ユーザー制御部と」を含むことである点で一致する。

以上によれば、本願補正発明1と引用発明とは次の点で一致する。
「近位端及び遠位端を有する超音波伝送部材と、
前記伝送部材の前記遠位端に位置する超音波作動エンドエフェクター部と、
少なくとも1つの流体源と連通している流体ノズルを含む加圧流体デリバリーシステムと、を含む、超音波手術システムであって、前記流体ノズルが、使用中、前記エンドエフェクターから、加圧流体を供給するように配設及び構成されており、
前記超音波手術システムはさらに、
前記超音波伝送部材の周囲に配置され、前記超音波伝送部材から放射状に間隔を空けられて、前記加圧流体を前記流体ノズルに向けるための流体通路を画定する、外部シースと、
ユーザーが握ることのできるハンドピースであって、前記ハンドピースは導波管に動作可能に接続された超音波変換器を備えている、ハンドピースと、
ユーザーが加圧流体供給を制御できるようにする、ユーザー制御部と、
を含む、超音波穿刺システム。」

そして両者は以下の点で相違する。
(相違点1)
超音波伝送部材の遠位端に位置する超音波作動エンドエフェクター部が、
本願補正発明1では、「前記伝送部材の前記遠位端に取り付けられた超音波作動エンドエフェクター」であるのに対して、
引用発明では、超音波プローブ9(超音波伝送部材)の遠位端に取り付けられた部材ではなく、超音波プローブ9(超音波伝送部材)の先端部9aである点。

(相違点2)
流体ノズルが、使用中、エンドエフェクターから、加圧流体を供給するように配設及び構成されている超音波手術システムが、
本願補正発明1は、「軟組織が損傷することを避けながら前記軟組織を移動させて骨の治療領域を露出させるように、前記流体ノズルが、使用中、前記エンドエフェクターから、前記骨の前記治療領域上に配された軟組織に、前記軟組織を前記骨の前記治療領域の表面から移動させる速度で、加圧流体ジェットを供給するように配設及び構成されて」いる「骨を治療するための超音波手術システム」であるのに対して、
引用発明は、皮膚組織21(軟組織)にプローブ9の先端部9aにより穿刺を行う場合、その外周面を覆う外套管10内の隙間22を経てその先端の開口23に加圧流体を供給し、開口23に体液や組織等の異物が入り込まないように配設及び構成されている超音波穿刺システムである点。

(相違点3)
外部シースが、
本願補正発明1では、「前記超音波伝送部材の周囲に配置された内部シースと、前記内部シースの周囲に配置され、前記内部シースから放射状に間隔を空けられて、前記加圧流体を前記流体ノズルに向けるための流体通路を画定する、外部シース」であるのに対して、
引用発明では、超音波プローブ9(超音波伝送部材)の周囲に配置され、加圧流体を開口23(流体ノズル)に向けるための隙間22(流体通路)を画定する、外套管10(外部シース)である点。

(相違点4)
ハンドピースが、
本願補正発明1では、「ユーザーが握ることのできるハンドピースであって、前記ハンドピースは導波管に動作可能に接続された超音波変換器を備え、前記ハンドピースはユーザーが加圧流体供給を制御できるようにする、前記ハンドピース上に位置するユーザー制御部を備えている、ハンドピース」であるのに対して、
引用発明では、ユーザーが握ることのできるハンドピース8であって、ハンドピース8は超音波プローブ9(導波管)に動作可能に接続された超音波振動子6(超音波変換器)を備えている、ハンドピース8であるものの、ハンドピース8は、ユーザーが加圧流体供給を制御できるようにする出力スイッチ4(ユーザー制御部)を備えておらず、該出力スイッチ4(ユーザー制御部)はフットスイッチで形成される点。

(3)判断
最初に相違点2について検討する。
(相違点2)
引用例には、引用発明の超音波穿刺システムにより相違点2に係る本願補正発明1の発明特定事項で規定されている「骨を治療する」ことは記載も示唆もされていない。
しかも、引用発明の超音波穿刺システムは、皮膚組織21にプローブ9の先端部9aにより穿刺を行う際に、その外周面を覆う外套管10内の隙間22を経てその先端の開口23に加圧流体を供給するものの、プローブ9の先端部9aにより皮膚組織21を穿刺、つまり損傷させるものであるから、引用発明の超音波穿刺システムにおいて、「軟組織が損傷することを避けながら前記軟組織を移動させ」ることを前提とした相違点2に係る本願補正発明1の発明特定事項を採用することには阻害要因が存在する。
そうすると、引用発明において、本願補正発明1の相違点2に係る発明特定事項とすることは当業者が容易になし得るものとはいえない。
しかも、本願補正発明1は、相違点2に係る発明特定事項を有することにより格別顕著な効果を奏するものである。

(4)本願補正発明1についてのまとめ
以上によれば、相違点1,3,4について検討するまでもなく、本願補正発明1は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

2-2.本願補正発明2?8
次に、本願補正発明2?8について検討すると、これらの発明は、本願補正発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本願補正発明1についての理由と同様の理由により、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

3.独立特許要件についてのまとめ
以上のとおり、本願補正発明1?8は、引用例に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
また、他に本願補正発明1?8が特許出願の際独立して特許を受けることできないとすべき理由を発見しない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

4.補正の適否についてのむすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1?8に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものである。

第4 原査定の理由の概要
原査定の理由の概要は、次の理由1?3のとおりである。
(理由1)
本願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

(理由2)
本願の請求項2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(理由3)この出願は、下記の点で特許法第37条に規定する要件を満たしていない。

本願の請求項1に係る発明は刊行物に実質的に記載されたものである。
よって、本願の請求項1に係る発明は先行技術に対する特別な技術的特徴を有するものではない。
したがって、本願の請求項1に係る発明と、請求項2?8に係る発明との間に、同一の又は対応する特別な技術的特徴を見いだすことができない。


刊行物:特開2004-267462号公報

第5 原査定の理由について
本願の請求項1?8に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのもの(本願補正発明1?8)であり、原査定で引用された刊行物(特開2004-267462号公報)は前記第2において検討した引用例であることからすれば、本願発明1?8は、前記第2に記載したとおり、相違点1?4で引用発明と相違し、引用発明と同一ではなく、また引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
そうすると、原査定の理由1,2によっては、本願を拒絶することはできない。
さらに、本願発明1は、引用発明と同一ではなく、引用例に実質的に記載されているともいえないから、本願発明1が原査定で引用された刊行物(引用例)に実質的に記載されていることを根拠とする原査定の理由3によっても、本願を拒絶することはできない。

第6 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合し、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-03-27 
出願番号 特願2010-510404(P2010-510404)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61B)
P 1 8・ 65- WY (A61B)
P 1 8・ 113- WY (A61B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 井上 哲男  
特許庁審判長 本郷 徹
特許庁審判官 関谷 一夫
横林 秀治郎
発明の名称 超音波手術システム  
代理人 大島 孝文  
代理人 加藤 公延  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ