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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1285951
審判番号 不服2012-23796  
総通号数 173 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-11-30 
確定日 2014-03-19 
事件の表示 特願2006-347746「薄膜トランジスタ及びその製造方法、並びにディスプレイ素子」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 1月24日出願公開、特開2008- 16806〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
平成18年12月25日 出願(パリ条約による優先権主張:
2006年 6月30日、韓国)
平成23年 1月24日付け 1回目の最初の拒絶理由通知書
平成23年 4月26日提出 意見書及び手続補正書
平成23年12月13日付け 2回目の最初の拒絶理由通知書
平成24年 3月19日提出 意見書及び手続補正書
平成24年 7月25日付け 拒絶査定
平成24年11月30日提出 審判請求書及び手続補正書
平成25年 1月10日提出 手続補正書(方式:請求の理由)
平成25年 3月19日付け 審尋
平成25年 8月30日提出 回答書

第2 補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成24年11月30日提出の手続補正書による手続補正を却下する。

[理 由]
1 平成24年11月30日提出の手続補正(以下「本件補正」という。)の内容
本件補正は、平成24年 3月19日提出の手続補正書により補正された(以下「本件補正前の」という。)特許請求の範囲の請求項1?17のうち請求項1を下記のとおりに補正しようとする事項を含むものである。

<< 本件補正前の請求項1 >>
「【請求項1】
基板上にゲート電極を形成する段階と、
前記ゲート電極と絶縁され、前記ゲート電極の一部とオーバーラップする半導体層を形成する段階と、
前記ゲート電極と半導体層を互いに絶縁させるために、それらの間にゾル-ゲル化合物を含むゲート絶縁膜を形成する段階と、
前記半導体層の両側にソース/ドレイン電極をそれぞれ形成する段階を含み、
前記ゾル-ゲル化合物は、X官能基を持つ金属アルコキシドとY官能基を持つシリコンアルコキシドのゾル化合物を含み、前記シリコンアルコキシドと前記金属アルコキシドを1:1の割合で混合して、
前記X及びY官能基は、二重結合又は三重結合を持つ官能基、アクリレート基、エポキシ基、オキセタン基及びアルキル基より構成される群から選ばれる少なくともいずれか一つであり、
前記ゾル-ゲル化合物は、前記X及びY官能基によって互いに架橋結合して、
前記X官能基を持つ金属アルコキシは、金属とX官能基が互いに共有結合しているし、
前記Y官能基を持つシリコンアルコキシは、シリコンとY官能基が互いに共有結合しているし、
前記ゾル-ゲル化合物は、前記X官能基を持つ金属アルコキシと前記X官能基を持つ金属アルコキシが互いに共有結合しているし、
前記Y官能基を持つシリコンアルコキシと前記Y官能基を持つシリコンアルコキシが互いに共有結合しているし、
前記X官能基を持つ金属アルコキシと前記Y官能基を持つシリコンアルコキシが互いに共有結合しているし、
酸素両端の金属またはシリコーンが単一結合しているし、
末端または測鎖にアルキル基またはフェニルが結合することを特徴とすることを特徴にする薄膜トランジスタの製造方法。」

<< 本件補正後の請求項1 >>
「【請求項1】
基板上にゲート電極を形成する段階と、
前記ゲート電極と絶縁され、前記ゲート電極の一部とオーバーラップする半導体層を形成する段階と、
前記ゲート電極と半導体層を互いに絶縁させるために、それらの間にゾルーゲル化合物を含むゲート絶縁膜を形成する段階と、
前記半導体層の両側にソース/ドレイン電極をそれぞれ形成する段階を含み、
前記ゾルーゲル化合物は、X官能基を持つ金属アルコキシドとY官能基を持つシリコンアルコキシドのゾル化合物を含み、前記シリコンアルコキシドと前記金属アルコキシドを1:1の割合で混合して、
前記X及びY官能基は、二重結合又は三重結合を持つ官能基、アクリレート基、陽イオン重合が可能なエポキシ基、オキセタン基及びアルキル基より構成される群から選ばれる少なくともいずれか一つであり、
(削除)
前記X官能基を持つ金属アルコキシは、金属とX官能基が互いに共有結合しているし、前記Y官能基を持つシリコンアルコキシは、シリコンドY官能基が互いに共有結合しているし、
前記ゾルーゲル化合物は、前記X官能基を持つ金属アルコキシドと前記X官能基を持つ金属アルコキシが互いに共有結合しているし、前記Y官能基を持つシリコンアルコキシド前記Y官能基を持つシリコンアルコキシが互いに共有結合しているし、前記X官能基を持つ金属アルコキシド前記Y官能基を持つシリコンアルコキシが互いに共有結合しているし、酸素両端の金属またはシリコーンが単一結合することを特徴にするし、末端または測鎖にフェニルが結合して、
前記官能基によって互いに架橋結合することを特徴として、
前記ゲート絶縁膜を形成する段階は、
前記ゾルーゲル化合物を溶媒に混合して基板上に均一にコーティングした後、70℃で仮硬化し、300℃で完全硬化することを特徴にする薄膜トランジスタの製造方法。」(以下「本願補正発明」という。)
なお、上記下線は、補正箇所を示している。

2 補正の適否について
(1)補正の目的と新規事項の追加の有無
上記請求項1の補正事項は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1における、
ア 「前記X及びY官能基は、二重結合又は三重結合を持つ官能基、アクリレート基、エポキシ基、オキセタン基及びアルキル基より構成される群から選ばれる少なくともいずれか一つであり」
を、「エポキシ基」に関して、本願出願当初明細書の【0050】の「XまたはYは、下記のような二重結合または三重結合を持つ官能基、アクリレート基、陽イオン重合が可能なエポキシ基、オキセタン基及びアルキル基より構成される群から選ばれた少なくともいずれか一つとする。」との記載を根拠に
「前記X及びY官能基は、二重結合又は三重結合を持つ官能基、アクリレート基、陽イオン重合が可能なエポキシ基、オキセタン基及びアルキル基より構成される群から選ばれる少なくともいずれか一つであり、」
と、限定的に補正しようとするものであり、

イ 「前記ゾル-ゲル化合物は、前記X及びY官能基によって互いに架橋結合して、
前記X官能基を持つ金属アルコキシは、金属とX官能基が互いに共有結合しているし、
前記Y官能基を持つシリコンアルコキシは、シリコンとY官能基が互いに共有結合しているし、
前記ゾル-ゲル化合物は、前記X官能基を持つ金属アルコキシと前記X官能基を持つ金属アルコキシが互いに共有結合しているし、
前記Y官能基を持つシリコンアルコキシと前記Y官能基を持つシリコンアルコキシが互いに共有結合しているし、
前記X官能基を持つ金属アルコキシと前記Y官能基を持つシリコンアルコキシが互いに共有結合しているし、
酸素両端の金属またはシリコーンが単一結合しているし、
末端または測鎖にアルキル基またはフェニルが結合する」
を、
「(削除)
前記X官能基を持つ金属アルコキシは、金属とX官能基が互いに共有結合しているし、前記Y官能基を持つシリコンアルコキシは、シリコンドY官能基が互いに共有結合しているし、
前記ゾルーゲル化合物は、前記X官能基を持つ金属アルコキシドと前記X官能基を持つ金属アルコキシが互いに共有結合しているし、
前記Y官能基を持つシリコンアルコキシド前記Y官能基を持つシリコンアルコキシが互いに共有結合しているし、
前記X官能基を持つ金属アルコキシド前記Y官能基を持つシリコンアルコキシが互いに共有結合しているし、
酸素両端の金属またはシリコーンが単一結合することを特徴にするし、 末端または測鎖にフェニルが結合して、
前記官能基によって互いに架橋結合する」
(上記において、両者の対応関係が分かるように行換えを揃えている。)
と、即ち、「ゾル-ゲル化合物」の「架橋結合」に関して、「末端または測鎖にフェニルが結合して、前記官能基によって互いに架橋結合する」と、文言の整理をし、また、「ゾル-ゲル化合物」の「末端または測鎖に」「結合する」「基」が、「アルキル基またはフェニル」との選択肢であった一方を削除して、「フェニル」のみとする限定的減縮を目的としたものであり、
(なお、「シリコンアルコキシ」及び「金属アルコキシ」、並びに、「シリコンドY官能基」、「シリコンアルコキシド前記Y官能基」及び「金属アルコキシド前記Y官能基」はそれぞれ「シリコンアルコキシド」及び「金属アルコキシド」、並びに、「シリコンとY官能基」、「シリコンアルコキシドと前記Y官能基」及び「金属アルコキシドと前記Y官能基」の明らかな誤記であり、また、「末端または測鎖にフェニルが結合」の「フェニル」は「フェニル基」、「酸素両端の金属またはシリコーンが単一結合する」の「シリコーン」は「シリコン」のいずれも誤記であることは【0050】、図3他の記載から明らかであるから、以下、請求項及び明細書の直接的な引用箇所を除いて、それぞれ共に後者の記載を用いる。また、本願補正発明についても、以下、同様に扱う。)

ウ ゲート絶縁膜の形成段階について、本願出願当初明細書の
「【発明が解決しようとする課題】・・(略)・・
【0023】
具体的に、シリコンアルコキシドと金属アルコキシドを化学反応させると、ゾル-ゲル複合材料が完成し、該ゾル-ゲル複合材料を溶媒に混合して基板上に均一にコーティングし70℃で仮硬化(soft-baking)した後、300℃で完全硬化(hard-baking)してゲート絶縁膜を形成する。
【0024】
しかしながら、上記の仮硬化及び完全硬化工程で溶媒が揮発しながらフィルム表面にクラックができるという問題があった。」
「【0051】
このような本発明のゾル-ゲル化合物は、上記X,Y官能基の存在によって分子内自由体積が向上し、絶縁膜のクラックを防止することができる。すなわち、ゾル-ゲル複合材料を溶媒に混合して基板上に均一にコーティングした後、70℃で仮硬化(soft-baking)し、300℃で完全硬化(hard-baking)しても、分子内X,Yの自由体積によって分子内物質は収縮せず、クラックが発生しない。」
及び、上記【0051】と同内容の【0069】、【0085】の記載を根拠として、
「前記ゲート絶縁膜を形成する段階は、
前記ゾルーゲル化合物を溶媒に混合して基板上に均一にコーティングした後、70℃で仮硬化し、300℃で完全硬化する」
との点を、限定的に追加する補正をしようとするものである。

したがって、上記の各補正事項ア?ウは、新規事項を追加するものでなく、限定的な減縮或いは明りょうでない記載の釈明を目的とした補正であるから、本件補正は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たし、平成18年法律55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項2号及び4号に規定する要件を満たす。

そこで、以下、本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(平成18年法律55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定を満たすか)否かについて、請求項1に係る発明について検討する。

3 独立特許要件
(1)原審における拒絶査定等の理由と、請求人の主張の概要
ア 拒絶査定等の理由
(ア)原審の2回目の最初の拒絶理由通知の拒絶の理由の概要
原審の2回目の最初の拒絶理由通知の拒絶の理由は、A.特許法36条4項1号、B.特許法36条6項1号及びC.特許法29条2項に関するものであり、そのうちの「理由A、B」の概要は以下の通りである。
「・・(略)・・ 以上より、請求項1?23に記載された発明は、「ゲート絶縁層が、X官能基を有する金属アルコキシド及びY官能基を有するシリコンアルコキシドを含むゾル-ゲル化合物」を含み、「前記X及びY官能基は、二重結合又は三重結合を持つ官能基、アクリレート基、エポキシ基、オキセタン基及びアルキル基より構成される群から選択される」ことを特徴としているといえる。
これに対して、発明の詳細な説明には、例えば、段落0050及び図3のような一般概念的な記載はなされているが、X官能基を持つ金属アルコキシドとY官能基を持つシリコンアルコキシドとして、具体的にどの様な化合物を用いるのか、また、ゾルゲル法によって得られたゾル-ゲル化合物の官能基が具体的にどの様に存在しているか、特に、X官能基及びY官能基が絶縁膜内で架橋せずに自由端として存在しているのか等について、具体的に説明していない。
したがって、本願発明を実施するためには、当業者の過度な試行錯誤を要するから、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?23に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。 また、請求項1?23に記載された発明の発明特定事項である「ゲート絶縁層が、X官能基を有する金属アルコキシド及びY官能基を有するシリコンアルコキシドを含むゾル-ゲル化合物」を含み、「前記X及びY官能基は、二重結合又は三重結合を持つ官能基、アクリレート基、エポキシ基、オキセタン基及びアルキル基より構成される群から選択される」ことについて、上述したとおり、発明の詳細な説明には具体的な根拠を示して記載されていない。
よって、請求項1?23に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。」

(イ)拒絶査定における理由A、Bの概要
「(三)・・(略)・・発明の詳細な説明には、X官能基を持つ金属アルコキシドとY官能基を持つシリコンアルコキシドとして、具体的にどの様な化合物を用いることで、図3に示されたようなゾル-ゲル化合物が得られるかについて記載されていないし、また、得られたゾル-ゲル化合物が、図3に示されたように、X官能基及びY官能基が絶縁膜内で一部が架橋し、その他が架橋せずに自由端として存在することを示す具体的な根拠(評価結果等)を記載していない。また、X官能基及びY官能基が絶縁膜内で架橋することを考慮すると、一部が架橋し、その他が架橋せずに自由端として存在するようなゾル-ゲル化合物を得ることが当業者にとって自明といえない。
さらに、意見書等において、X官能基を持つ金属アルコキシドとY官能基を持つシリコンアルコキシドの具体的な化合物を示し、さらに得られたゾル-ゲル化合物が、図3に示されたような構造であることを示す具体的な根拠(評価結果等)についても何ら説明も主張もなされていない。
したがって、本願発明を実施するためには、当業者の過度な試行錯誤を要するから、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?17に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。 また、図3に記載された構造のゾル-ゲル化合物は、上記したとおり具体的な技術的裏付けを欠くものであるから、図3に記載されたゾル-ゲル化合物を根拠に、本願発明が発明の詳細な説明に記載されているということはできない。
よって、請求項1?17に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。」

イ 請求人の主張の概要
(ア)平成24年 3月19日提出の意見書の主張について
「(i)X官能基を持つ金属アルコキシドとY官能基を持つシリコンアルコキシドとして、具体的にどの様な化合物を用いるのか、また、(ii)ゾルゲル法によって得られたゾル-ゲル化合物の官能基が具体的にどの様に存在しているか、特に、X官能基及びY官能基が絶縁膜内で架橋せずに自由端として存在しているのか等について、具体的に説明していない。」との拒絶理由に対して、
「上記(i)について:
本願発明の目的は、官能基XおよびYによりゲート絶縁層の生じるクラックを防止することにあります。従って、官能基X及びYを有する化合物が本願発明の対象ではありません。更に、本願明細書及び特許請求の範囲は、官能基X及びYを有する化合物を開示しません。もし官能基X及びYを有する化合物が明細書等に加えられるとするなら、それは新規事項の追加になります。
上記(ii)について:
補正後の請求項1,8,13技術的特徴については、本願図3に対応して段落【0050】により補正をいたしました。従って、官能基Xは金属アルコキシドの金属と結合し、官能基Yはゲート絶縁層のシリコンアルコキシドのシリコンと結合します。参考までに、以下の本願図3において、結合の状態を示します。・・(略)・・」

(イ)平成25年 1月10日提出の手続補正書(方式:請求の理由)による請求人の主張及び平成25年 8月30日提出の回答書の主張について
a 請求の理由では、
「(i)X官能基を持つ金属アルコキシドとY官能基を持つシリコンアルコキシドとして、具体的にどの様な化合物を用いるのか、また、(ii)X官能基及びY官能基が絶縁膜内で一部が架橋し、その他が架橋せずに自由端として存在することを示す具体的な根拠(評価結果等)を記載していない。また、X官能基及びY官能基が絶縁膜内で架橋することを考慮すると、一部が架橋し、その他が架橋せずに自由端として存在するようなゾル-ゲル化合物を得ることが当業者にとって自明といえない」
との査定の理由に対して、
「上記(i)については、X官能基を持つ金属アルコキシドとY官能基を持つシリコンアルコキシドの化合物は、従来周知である。例えば、Y官能基を持つシリコンアルコキシドの化合物は、引用文献1に記載されるようにメトキシシランが該当する。X官能基を持つ金属アルコキシドの化合物は、引用文献3に記載されるような、Al(O-CH3)3, Ti(OCH3), Zr(OCH3)4が該当する。したがって、当業者の過度な試行錯誤を要することなく、本件発明を達成することは可能である。
上記(ii)に関しては、X官能基及びY官能基が完全又は部分的絶縁下において架橋を形成する場合に、本件発明におけるゾル-ゲル化合物は、X官能基及びY官能基の存在により分子内自由体積が向上する。」
と主張し、
b 回答書では、
明細書の【0046】に記載されている、部分的な化学構造式を取り込む補正案を提示すると共に、
「X官能基を持つ金属アルコキシドとY官能基を持つシリコンアルコキシドに対する具体的な例は,上の[化1]ないし[化5]を利用して多様な実施例で類推することができます。・・(略)・・また,「末端または測端にフェニルが結合して」と記載した部分は、本件の詳細な説明の段落[0050]、[0051]に記載しており、上記による効果も充分に記載しています。
したがって,本件の発明の詳細な説明の記載のより、当業者が請求項1-17に係る発明を実施することができるほどに明確で十分な記載を有します。」
との主張をしている。

(2)出願当初明細書の記載事項
(本ア)「【発明が解決しようとする課題】・・(略)・・
【0023】
具体的に、シリコンアルコキシドと金属アルコキシドを化学反応させると、ゾル-ゲル複合材料が完成し、該ゾル-ゲル複合材料を溶媒に混合して基板上に均一にコーティングし70℃で仮硬化(soft-baking)した後、300℃で完全硬化(hard-baking)してゲート絶縁膜を形成する。
【0024】
しかしながら、上記の仮硬化及び完全硬化工程で溶媒が揮発しながらフィルム表面にクラックができるという問題があった。
【0025】
したがって、本発明は、ゾル-ゲルタイプの複合材料を用いたゲート絶縁膜においてコーティング及び乾燥工程の後に絶縁膜表面にクラックができる従来の問題点を解決するためのもので、その目的は、ゾル-ゲルタイプの複合材料に一定の体積を占める官能基を導入することによって、ゲート絶縁膜表面にできるクラックを防止できる薄膜トランジスタ及びその製造方法、並びにディスプレイ素子を提供することにある。
【0026】
なお、本発明の他の目的は、上記のようにゾル-ゲルタイプの複合材料に官能基を導入することによって、該官能基による化学結合によってゲート絶縁膜の耐熱特性を向上させることにある。」

(本イ)「【発明の効果】・・(略)・・
【0033】
第一に、本発明によるゾル-ゲル化合物は、X、Y官能基によって分子内自由体積が向上して、絶縁膜表面にクラックができるのを防止する。すなわち、ゾル-ゲル複合材料を硬化しても、分子内X、Yの自由体積によって分子内物質が収縮することがないため、クラックが発生しなくなる。
【0034】
第二に、ゾル-ゲル化合物の官能基X、Yは反応性を有するため、分子内架橋結合が誘導され、物質の耐熱性が向上する。
【0035】
第三に、シリコンアルコキシドと金属アルコキシドの含量比によって、有無機複合材料の絶縁性、コーティング性、耐熱性、硬度及び透過度を容易に調節できる・・(略)・・」

(本ウ)「【発明を実施するための最良の形態】
・・(略)・・
【0038】・・(略)・・図3は、本発明によるゾル-ゲル化合物の化学結合を示す図であり、・・(略)・・
【0040】
<薄膜トランジスタの製造方法>
・・(略)・・
【0041】
その後、ゲート電極112aを含めた全面に、シリコンアルコキシドと金属アルコキシドのゾル化合物を含む複合材料でゲート絶縁膜113を形成する。
【0042】 ・・(略)・・
【0046】
一方、複合材料でゲート絶縁膜を形成する場合、硬化工程過程で溶媒が揮発してクラックができることがある。そこで、ゲート絶縁膜のクラックを防止するために、X官能基を持つシリコン(Si)アルコキシドとY官能基を持つ金属(Me)アルコキシドのゾル化合物を含む複合材料(Si-ゾル/Me-ゾル)でゲート絶縁膜113を形成する。ここで、アルコキシドとは、アルコールのヒドロキシ基の水素原子を金属原子で置換した化合物を総称するもので、XまたはYは、二重結合(【化1】・・(略)・・)又は三重結合(【化2】・・(略)・・)を持つ官能基、アクリレート基(【化3】・・(略)・・)、エポキシ基(【化4】・・(略)・・)、オキセタン基(【化5】・・(略)・・)、及びアルキル基からなる群より少なくともいずれか一つを選択する。
【0047】
具体的に、シリコンアルコキシドと金属アルコキシドをゾル形態で反応させて、ゾル-ゲル複合材料を形成する。このような複合材料は、有/無機ハイブリッドタイプの材料であり、シリコンアルコキシドと金属アルコキシドとの含量比によって複合材料の誘電率、透過度が異なってくる。シリコンアルコキシドと金属アルコキシドを1:1の割合で混合することが、誘電率及び透過度の面で有利となる。
【0048】・・(略)・・
【0049】
また、シリコンアルコキシドと金属アルコキシドから製造されるゾル化合物は、加水分解及び縮合反応によって製造し、この時、反応促進のために水またはアルコールを触媒とすることができる。
【0050】
このような方法で形成されたゾル化合物は、図3に示すように、ケミカルネットワーク構造を有するもので、官能基XまたはYを含み、末端または測鎖にアルキル基(CHC_(3)-、C_(2)H_(5)-、C_(3)H_(7)-、...、C_(n)H_(2n+1)-)またはフェニル基などが結合されている。この時、XまたはYは、下記のような二重結合または三重結合を持つ官能基、アクリレート基、陽イオン重合が可能なエポキシ基、オキセタン基及びアルキル基より構成される群から選ばれた少なくともいずれか一つとする。・・(略)・・
【0051】
このような本発明のゾル-ゲル化合物は、上記X,Y官能基の存在によって分子内自由体積が向上し、絶縁膜のクラックを防止することができる。すなわち、ゾル-ゲル複合材料を溶媒に混合して基板上に均一にコーティングした後、70℃で仮硬化(soft-baking)し、300℃で完全硬化(hard-baking)しても、分子内X,Yの自由体積によって分子内物質は収縮せず、クラックが発生しない。
【0052】
また、官能基X,Yは反応性を有するため、分子内架橋結合を誘導することによって耐熱性向上を可能にする。」
以下、【0062】以降の<有機薄膜トランジスタの製造方法>及び【0078】以降の <TFTアレイ基板の製造方法>においても、ゾル-ゲル化合物の製造方法、X官能基及びY官能基、並びに硬化処理等について、上記【0040】以降の <薄膜トランジスタの製造方法>についての説明と同様の説明が記載されている。

上記摘示した出願当初の本願明細書の記載事項を整理すると、
従来の「ゾル-ゲルタイプの複合材料を用いてゲート絶縁膜」の形成に際し、「シリコンアルコキシドと金属アルコキシドを化学反応させると、ゾル-ゲル複合材料が完成し、該ゾル-ゲル複合材料を溶媒に混合して基板上に均一にコーティングし70℃で仮硬化(soft-baking)した後、300℃で完全硬化(hard-baking)」させると、「仮硬化及び完全硬化工程で溶媒が揮発しながらフィルム表面にクラックができるという問題が」あったため、「ゾル-ゲルタイプの複合材料に一定の体積を占める官能基を導入することによって、ゲート絶縁膜表面にできるクラックを防止」するものであって、「本発明によるゾル-ゲル化合物は、X、Y官能基によって分子内自由体積が向上して、絶縁膜表面にクラックができるのを防止する。すなわち、ゾル-ゲル複合材料を硬化しても、分子内X、Yの自由体積によって分子内物質が収縮することがないため、クラックが発生しなくなる」ものであると説明している。
そして、「発明を実施するための最良の形態」として、
「ゲート絶縁膜のクラックを防止するために、X官能基を持つシリコン(Si)アルコキシドとY官能基を持つ金属(Me)アルコキシドのゾル化合物を含む複合材料(Si-ゾル/Me-ゾル)でゲート絶縁膜113を形成する。ここで、アルコキシドとは、アルコールのヒドロキシ基の水素原子を金属原子で置換した化合物を総称するもので、XまたはYは、二重結合(【化1】)又は三重結合(【化2】)を持つ官能基、アクリレート基(【化3】)、エポキシ基(【化4】)、オキセタン基(【化5】)、及びアルキル基からなる群より少なくともいずれか一つを選択する。」こと、
「具体的に、シリコンアルコキシドと金属アルコキシドをゾル形態で反応させて、ゾル-ゲル複合材料を形成する。このような複合材料は、有/無機ハイブリッドタイプの材料であり、シリコンアルコキシドと金属アルコキシドとの含量比によって複合材料の誘電率、透過度が異なってくる。シリコンアルコキシドと金属アルコキシドを1:1の割合で混合することが、誘電率及び透過度の面で有利となる。」こと、
「シリコンアルコキシドと金属アルコキシドから製造されるゾル化合物は、加水分解及び縮合反応によって製造し、この時、反応促進のために水またはアルコールを触媒とすることができる。」ことが、製造方法に関して説明されており、
また、形成されたゾル化合物が図3のようになっているとして、図3に関して、
「このような方法で形成されたゾル化合物は、図3に示すように、ケミカルネットワーク構造を有するもので、官能基XまたはYを含み、末端または測鎖にアルキル基(CHC_(3)-、C_(2)H_(5)-、C_(3)H_(7)-、...、C_(n)H_(2n+1)-)またはフェニル基などが結合されている。この時、XまたはYは、下記のような二重結合または三重結合を持つ官能基、アクリレート基、陽イオン重合が可能なエポキシ基、オキセタン基及びアルキル基より構成される群から選ばれた少なくともいずれか一つとする。」
と説明し、その後、図3に示されているゾル化合物に対して次の硬化処理を行うことでゲート絶縁膜を形成することが説明されている。
「このような本発明のゾル-ゲル化合物は、上記X,Y官能基の存在によって分子内自由体積が向上し、絶縁膜のクラックを防止することができる。すなわち、ゾル-ゲル複合材料を溶媒に混合して基板上に均一にコーティングした後、70℃で仮硬化(soft-baking)し、300℃で完全硬化(hard-baking)しても、分子内X,Yの自由体積によって分子内物質は収縮せず、クラックが発生しない。」

(本エ)次に、図3に図示されている内容を確認する。
(ア)ケミカルネットワーク構造の内部を形成するMeとMe、SiとSi、及び、MeとSiが、下記のようにそれぞれ、Oを介して、一重結合により結合されていることが看取できる。
-Me-O-Me- 、 -Si-O-Si- 、 -Me-O-Si-

(イ)Siを含む末端の構造
Siの4つの結合手の内、酸素を介して他のSi或いはMeと結合している結合手が1つのものを、ケミカルネットワークの末端部分と推定すると、内部との結合に関与していない結合として、図3には、以下の結合が示されている。(なお、「( )」は、ケミカルネットワーク内部のMe或いはSiを示す。以下同様。)
l
a 結合相手が不明な一重結合が3つの ( )-O-Si-
もの l

O-
l
b 結合相手が不明な酸素を介した一重 ( )-O-Si-O-
結合が2つと、Yとの一重結合が1つ l
のもの Y

l
c 結合相手が不明な一重結合が2つと、( )-O-Si-
Yとの一重結合が1つのもの l
Y

(ウ)Meを含む末端の構造
Meの4つの結合手の内、酸素を介して他のSi或いはMeと結合している結合手が1つのものを、ケミカルネットワークの末端部分と推定すると、内部との結合に関与していない結合として、図3には、以下の結合が示されている。
a Meの末端の結合の有無が不明なも ( )-O-Me

O-
l
b 結合相手が不明な酸素を介した一重 ( )-O-Me-O-
結合が2つと、Xとの一重結合が1つ l
のもの X

O
l
c 結合相手が不明な酸素を介した一重 ( )-O-Me-O-
結合が1つと、末端の結合の有無が不 l
明な酸素との一重結合が1つと、Xと X
との一重結合が1つのもの

(エ)ケミカルネットワーク構造内部のSiと側鎖の構造
Siの4つの結合手の内、酸素を介して他のSi或いはMeと結合している結合手が2つ以上のものを、ケミカルネットワークの末端部分ではないと推定すると、内部との結合に関与している結合として、図3には、以下の結合が示されている。
O-( )
l
a 結合相手が不明な一重結合が ( )-O-Si-
1つと、Yとの一重結合が1つ l
のもの Y

O-( )
l
b 結合相手が不明な酸素を介し ( )-O-Si-O-
た一重結合が1つと、Yとの一 l
重結合が1つのもの Y

O-( )
l
c 末端の結合の有無が不明な酸 ( )-O-Si-O
素が1つと、Yとの一重結合が l
1つのもの Y

O-( )
l
d Yとの一重結合が1つのみの ( )-O-Si-O-( )
もの l
Y

O-( )
l
e 全て酸素を介して内部と結合 ( )-O-Si-O-( )
され、自由端となる側鎖である l
Yとの結合がないもの O-( )

OR
l
f Rと結合した酸素との一重結 ( )-O-Si-O-( )
結が1つと、Yとの一重結合が l
1つのもの Y

O-( )
l
g 結合相手が不明な結合手が2 ( )-O-Si-
つのみで、自由端としてのYと l
の結合がないもの

(オ)ケミカルネットワーク構造内部のMeと側鎖の構造
Meの4つの結合手の内、酸素を介して他のSi或いはMeと結合している結合手が2つ以上のものを、ケミカルネットワークの末端部分ではないと推定すると、内部との結合に関与している結合として、図3には、以下の結合が示されている。
O-( )
l
a Xとの一重結合が1つで、残り ( )-O-Me-O-( )
は、全て内部との酸素を介した1 l
重結合のもの X

O-( )
l
b 結合相手が不明な1重結合が1 ( )-O-Me-O-( )
つと、残りは、全て内部との酸素 l
を介した1重結合のみで、Xとの
結合がないもの

(3)当審の判断
<<特許法36条4項1号についての判断>>
出願当初明細書の記載事項及び図3に示されたケミカルネットワークの構造と本願補正発明との関係について以下検討する。
ア 請求項1で特定された「ゾルーゲル化合物」について
請求項1には「ゾルーゲル化合物」に関して、以下の特定がされている。
(ア)「ゾルーゲル化合物」は、「X官能基を持つ金属アルコキシドとY官能基を持つシリコンアルコキシドのゾル化合物を含」むこと、
(イ)「X及びY官能基」は、「二重結合又は三重結合を持つ官能基、アクリレート基、陽イオン重合が可能なエポキシ基、オキセタン基及びアルキル基より構成される群から選ばれる少なくともいずれか一つであ」ること、
(ウ)更に、「ゾルーゲル化合物」は、
a 「前記X官能基を持つ金属アルコキシドと前記X官能基を持つ金属アルコキシドが互いに共有結合しているし、」
b 「前記Y官能基を持つシリコンアルコキシド前記Y官能基を持つシリコンアルコキシが互いに共有結合しているし、」
c 「前記X官能基を持つ金属アルコキシド前記Y官能基を持つシリコンアルコキシが互いに共有結合しているし、」
d 「酸素両端の金属またはシリコーンが単一結合する」
e 「末端または測鎖にフェニル基が結合して、」
f 「前記官能基によって互いに架橋結合する」。

イ また、本願の出願当初明細書には、
(ア)ゾルゲル化合物の製造に関して、【0047】に「シリコンアルコキシドと金属アルコキシドを1:1の割合で混合する」ことが、【0049】等に「シリコンアルコキシドと金属アルコキシドから製造されるゾル化合物は、加水分解及び縮合反応によって製造し、この時、反応促進のために水またはアルコールを触媒とすることができる」旨説明されているが、他の混合物、及び、製造時の温度、時間等の製造パラメータについては、何らの説明もなされていない。
なお、【0047】の「シリコンアルコキシドと金属アルコキシドを1:1の割合で混合する」ことは、「誘電率及び透過度の面で有利となる。」との説明があるものの、当該混合比を採用することにより、ケミカルネットワーク構造の製造上、どの様な構造の形成に関与するのかについては何らの説明もなされていない。
(イ)そして、「シリコンアルコキシド」と「金属アルコキシド」自体については、【0046】に「X官能基を持つシリコン(Si)アルコキシドとY官能基を持つ金属(Me)アルコキシドのゾル化合物」であって、「アルコキシドとは、アルコールのヒドロキシ基の水素原子を金属原子で置換した化合物を総称するもので、XまたはYは、二重結合(【化1】・・(略)・・)又は三重結合(【化2】・・(略)・・)を持つ官能基、アクリレート基(【化3】・・(略)・・)、エポキシ基(【化4】・・(略)・・)、オキセタン基(【化5】・・(略)・・)、及びアルキル基からなる群より少なくともいずれか一つを選択する。」旨説明されており、これは、アルコキシドであって、上記特定されたX官能基またはY官能基を有する事が特定されているだけにすぎず、明細書の他の記載のいずれにも、その他のアルコキシ基或いはその他の官能基としてどの様な物質を含んだ化学構造であるのか具体的な物質名或いは具体的な化学構造式が記載されていない。
なお、仮に明細書中の【化1】?【化5】の一重結合の先が、CH,CH_(2)、CH_(3)、または水素に限定されるものであるとすると、それらは、
二重結合を有する基として、
【化1】 -CH=CH_(2) (-C_(2)H_(3) )

三重結合を有する基として、
【化2】 -C≡CH (-C_(2)H )

アクリレート基として、
【化3】 O=C-C=CH_(2) (-C_(3)H_(5)O_(2))
l l
-O CH_(3)
エポキシ基として、
【化4】 -CH-CH_(2) (-C_(2)H_(3)O)
\ /
O

CH_(2)-CH- O (-C_(6)H_(9)O)
/ \ /
-CH CH
\ /
CH2-CH2

オキセタン基として、
【化5】 CH_(2)-O (-C_(3)H_(5)O)
l l
-CH-CH_(2)

となるが、依然としてアルキル基については、具体的な説明はなく、一般式とし認識しうる(-C_(n)H_(2n+1))程度のものでしかない。

ウ 一方、【0050】及び図3からは、上記(2)(本ウ),(本エ)で摘示したように、ケミカルネットワーク構造を構成する内部の物質において、側鎖を除いたものは全て、酸素を介したMe,Siの一重結合によるもの(以下「内部結合」という。)であり、本願の出願当初明細書の、【0029】には、「官能基X、Yが反応性を持つことから分子内架橋結合が誘導され、物質の耐熱性が向上する。」、【0034】には、「 第二に、ゾル-ゲル化合物の官能基X、Yは反応性を有するため、分子内架橋結合が誘導され、物質の耐熱性が向上する。」また、【0055】、【0070】、【0086】にも同様の説明があり、請求項1の「前記官能基によって互いに架橋結合する」との特定からは、内部結合は、X官能基及びY官能基の架橋によって、生じるものと理解しうるものである。
これに対して、上記ケミカルネットワーク構造を構成するゾル-ゲル化合物については、シリコンアルキシドと金属アルキシドとの反応生成物であり、シリコンアルキシドと金属アルキシドとは、上記X官能基或いはY官能基以外にも、アルキシドとしてのアルコキシ基もシリコン及びメタルにそれぞれ結合されているところ、上記ケミカルネットワーク構造における内部結合に上記アルコキシ基がどの様に関与しているのか或いは関与していないのか何らの説明もされていない。
また、「前記官能基」は、上記したように「X官能基又はY官能基」であるが、仮に上記「イ」のなお書きのような基であったとしても、これらの「前記官能基によって互いに架橋結合する」ことにより、金属同士、シリコン同士或いは金属とシリコンとが、どのような構造の結合となるのか、或いは上記ケミカルネットワークの内部結合たる「酸素両端の金属またはシリコーンが単一結合する」結合を生じ得るのか周知の技術事項ではない。
さらに、「前記官能基」が酸素を含む事が必須であることは、本願補正発明に特定されておらず、明細書中にも、そのような限定に係る説明は、何らなされていないことから、本願補正発明における「X官能基又は官能基」の選択枝として「二重結合又は三重結合を持つ官能基」或いは「アルキル基」の場合、それら官能基の代表的なものは酸素を含まないものであり、このような官能基の場合、それら官能基同士の架橋結合により、どの様にして、内部結合、即ち、酸素を介在した-Me-O-Me-,-Si-O-Si-及び-Me-O-Si-を形成して、ゾル-ゲル化合物を製造するのかについて具体的な説明が無く、当業者にとって自明な製造方法であるとも言えない。なお、「前記官能基」が、さらに「フェニル基」を加えた「X官能基、Y官能基及びフェニル基」であったとしても、代表的なフェニル基自体には、通常酸素が含有されていないことから、この場合においても同様に上記内部結合を形成する反応系が不明である。
加えて、ケミカルネットワーク構造において、耐熱性向上を可能にする分子内架橋結合を誘導する反応性を有する「官能基X,Y」(【0052】)との効果を奏するとされる本願補正発明の「前記官能基によって互いに架橋結合する」内部構造に関与する「X官能基又はY官能基」と、架橋結合せずに、内部構造における側鎖或いは末端の金属或いはシリコンに結合したままで分子内自由体積を形成する「X官能基又はY官能基」とのそれぞれを有する図3のようなケミカルネットワーク構造を有するゾル-ゲル化合物をどのように製造するのかについての、具体的な物質及び製造条件が発明の詳細な説明には記載されていない。

エ したがって、少なくとも、アルコキシ基とX官能基を有している金属アルコキシドと、アルコキシ基とY官能基を有しているシリコンアルコキシドから、【0047】に記載の「シリコンアルコキシドと金属アルコキシドを1:1の割合で混合する」こと及び【0049】等に記載の「シリコンアルコキシドと金属アルコキシドから製造されるゾル化合物は、加水分解及び縮合反応によって製造し、この時、反応促進のために水またはアルコールを触媒とすることができる。」との製造条件のみで、当業者が、過度の試行錯誤無しで、図3に示されている内部結合、内部結合を構成するシリコン及び金属と結合する側鎖、並びに、末端におけるシリコン或いは金属と結合するX官能基、Y官能基或いはその他の結合相手を有するようにケミカルネットワーク構造を製造することは困難であることは明らかである。
よって、本願補正発明について、発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。

オ さらに、本願補正発明の「末端または測端にフェニル(基)が結合して」に関して検討する。
(ア)末端シリコン或いは末端金属と結合相手は、上記「(2)(本エ)(イ)」及び「(2)(本エ)(ウ)」に摘示したように、図3には、・結合相手が不明な一重結合のみでY官能基のないシリコン、・結合相手が不明な酸素との一重結合が2つとY官能基またはX官能基、・結合相手が不明な一重結合が2つとY官能基またはX官能基、となっていることが示されている。
(イ)内部構造におけるX官能基及びY官能基を除く側鎖としては、上記「(2)(本エ)(エ)」及び「(2)(本エ)(オ)」に摘示したように、図3には、・結合相手が不明な一重結合が1つとY官能基、・結合相手が不明な酸素との一重結合とY官能基、・結合相手の有無が不明な酸素との一重結合とY官能基、・Y官能基のみ或いはX官能基のみ、・側鎖無し、・OR基とY官能基、・結合相手が不明な一重結合が1つのみ、となっていることが示されている。
(ウ)一方、出願当初明細書の【0050】には、「末端または測鎖にアルキル基(CHC_(3)-、C_(2)H_(5)-、C_(3)H_(7)-、...、C_(n)H_(2n+1)-)またはフェニル基などが結合されている。」と説明されているが、上記「(ア)」、「(イ)」のように、図3には、末端及び側鎖において結合されている具体的な基として、X官能基、Y官能基が示されているのみであり、その他の基としてのOR基については、「R」が何か説明されておらず、さらに、これら以外の相当数を占める結合相手が図面上不明な相手が何かについても発明の詳細な説明に具体的な説明はない。即ち、図3におけるR或いはその他の不明な相手の何れがフェニル基を表しているのかについての説明が明細書にも図面にも示されておらず、フェニル基がケミカルネットワーク構造にどの様に組み込まれるているのか具体的な構造が不明である。
(エ)更に、出願当初明細書には、上記「イ(イ)」で摘示したように、シリコンアルキシド及び金属アルキシドがフェニル基を有していることについて何らの説明もなされておらず、ゾル-ゲル化合物の製造の際に混合する他の物質の有無とその物質名及び製造条件についてもフェニル基を末端または側鎖に設けるための具体的な説明が何ら記載されていない。
(オ)してみると、フェニル基を図3に示されたケミカルネットワーク構造にどの様に組み込むのか不明であり、結果、フェニル基に関しても具体的な接続関係が不明確なゾル-ゲル化合物を製造する際に、上記金属アルコキシド及シリコンアルキシドのみでどの様にしてフェニル基を形成し、それら各アルコキシド以外の物質を用いる場合には、どの様な物質を由来としてフェニル基を生じさせているのか、内部結合の架橋には関与しているのかまたそのための製造条件等について、何らの説明も開示されていない本願の出願当初明細書の記載に基づいて、「末端または測端にフェニル基が結合して」との構成を有する本願補正発明を過度の試行錯誤無しで当業者が実施する事は困難であると言わざるを得ない。
よって、「末端または測端にフェニル基が結合して」との構成に関しても、本願補正発明について、発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。


<<特許法36条6項1号についての判断>>
カ 本願補正発明における「ゾル-ゲル化合物」
本願補正発明における「ゾル-ゲル化合物」は、上記<<特許法36条4項1号についての判断>>の「(3)ア」に摘示したとおりであり、再掲すると、以下の通り。

「(ア)「ゾルーゲル化合物」は、「X官能基を持つ金属アルコキシドとY官能基を持つシリコンアルコキシドのゾル化合物を含」むこと、
(イ)「X及びY官能基」は、「二重結合又は三重結合を持つ官能基、アクリレート基、陽イオン重合が可能なエポキシ基、オキセタン基及びアルキル基より構成される群から選ばれる少なくともいずれか一つであ」ること、
(ウ)更に、「ゾルーゲル化合物」は、
a 「前記X官能基を持つ金属アルコキシドと前記X官能基を持つ金属アルコキシドが互いに共有結合しているし、」
b 「前記Y官能基を持つシリコンアルコキシド前記Y官能基を持つシリコンアルコキシが互いに共有結合しているし、」
c 「前記X官能基を持つ金属アルコキシド前記Y官能基を持つシリコンアルコキシが互いに共有結合しているし、」
d 「酸素両端の金属またはシリコーンが単一結合する」
e 「末端または測鎖にフェニル基が結合して、」
f 「前記官能基によって互いに架橋結合する」。」

即ち、本願補正発明においては、「X及びY官能基」は、「二重結合又は三重結合を持つ官能基、アクリレート基、陽イオン重合が可能なエポキシ基、オキセタン基及びアルキル基より構成される群から選ばれる少なくともいずれか一つであ」ると単に、概念的な選択肢が特定されているにすぎず、出願当初明細書においても、具体的なX官能基及びY官能基また、X官能基を持つ金属アルコキシドとY官能基を持つシリコンアルコキシド自体の具体的な物質が明細書には開示されていない。
なお、明細書中の【化1】?【化5】については、上記「イ」のなお書きの程度の物質が認識しうる程度である。

キ 「前記官能基によって互いに架橋結合する」ことについて
出願当初明細書には、「ゾルーゲル化合物」の例として、図3及び図3の説明【0050】が記載されているが、図3には、金属と金属、シリコンとシリコン、及び、金属とシリコンとの結合が酸素を介した一重結合によるものが示されているのみであることは上記<<特許法36条4項1号についての判断>>の「(2)(本エ)(ア)」で摘示したとおりである。
そして、上記「f 「前記官能基によって互いに架橋結合する」」事により形成される構造がどの様なものかについて、出願当初明細書には具体的な説明がなされていない。
してみると、出願当初明細書の金属と金属、シリコンとシリコン、及び、金属とシリコンとの結合が酸素を介した一重結合によるものしか示されていない記載事項から、「X及びY官能基」として特定されている選択枝において、その多くの物質が酸素を有していないものである「二重結合を持つ官能基」、「三重結合を持つ官能基」、及び、「アルキル基」を選択した場合に、そのような官能基同士の架橋結合を有する「ゾル-ゲル化合物」は、出願当初明細書には開示されているとは言えず、そのような架橋結合をする官能基同士が自明のものであるとも言えない。
仮に、上記「イ」のなお書きの物質として認識し得たとしても、同様に自明なものではない。

ク 「末端または測鎖にフェニル基が結合して」いることについて
本願補正発明の「X及びY官能基」として特定されている選択枝の一つとして、出願当初明細書の【0046】等に記載されている選択肢には、エポキシ基の一種である1,2エポキシシクロヘキサン基をはじめとしてフェニル基そのものは含まれていない。
そして、出願当初明細書には、フェニル基を有する金属アルコキシド又はシリコンアルコキシドは記載されておらず、「X及びY官能基」として特定されている選択肢の何れを選択しても「ゾル-ゲル化合物」の「末端または測鎖にフェニル基が結合して」いることを示す物質及び製造条件についても具体的な説明が記載されておらず、また自明な事項でもない。

ケ したがって、本願補正発明において特定されている「ゾル-ゲル化合物」は、出願当初明細書に記載された発明とは言えない。

(4)請求人の主張について
ア 請求人は、上記「(1)イ(ア)」で摘示したように、「官能基X及びYを有する化合物が本願発明の対象ではありません。」と主張しているが、本願補正発明として特定されている発明について、「発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。」ことは、上記「(3)」で検討したとおりである。
イ また、請求人は、上記「(1)イ(イ)」で摘示したように「X官能基を持つ金属アルコキシドとY官能基を持つシリコンアルコキシドの化合物は、従来周知である。例えば、Y官能基を持つシリコンアルコキシドの化合物は、引用文献1に記載されるようにメトキシシランが該当する。X官能基を持つ金属アルコキシドの化合物は、引用文献3に記載されるような、Al(O-CH3)3, Ti(OCH3), Zr(OCH3)4が該当する。したがって、当業者の過度な試行錯誤を要することなく、本件発明を達成することは可能である。」と主張しているが、当該主張で例示した物質を用いるとしても、ゾル-ゲル化合物の製造に際して、例示した物質のみ或いは他の具体的な混合物を用いて、どの様な製造条件によれば、図3に示されたケミカルネットワークの構造を根拠とする上記「(3)ア」の構成を有する「ゾル-ゲル化合物」を構成要件とする本願補正発明を実施するのかについて、具体的な説明が、発明の詳細な説明には記載されておらず、発明の詳細な説明の記載は、過度の試行錯誤無く本願補正発明を当業者が実施し得る程度の記載となっていない事は明らかであり、上記請求人が例示した物質をもって、本願補正発明における「X及びY官能基」として特定されている選択肢すべてにおいて、本願補正発明の「ゾルーゲル化合物」を得ることが自明であるとも言えない。
なお、本願補正発明においては、それらのシリコンアルコキシド及び金属アルコキシドが、X官能基又はY官能基として酸素を含まない無数の物質を含んでおり、上記例示された物質のみに限定されていないことから、そのような場合において、過度の試行錯誤無く本願補正発明を当業者が実施し得る程度の記載となっていない事については、上記「(3)ウ」で、また、「X及びY官能基」の全ての選択肢において「前記官能基によって互いに架橋結合する」を有する「ゾルーゲル化合物」である本願補正発明が出願当初明細書には開示されているとは言えないことは上記「(3)キ」で検討したとおりである。
ウ また、上記主張している周知の物質には、フェニル基が存在していないことから、「末端または測端にフェニル基が結合して」との構成をどの様に実施し得るのかについても、発明の詳細な説明には記載されておらず、過度の試行錯誤無く本願補正発明を当業者が実施し得る程度の記載となっていないこと及び「X及びY官能基」の全ての選択肢において、「末端または測端にフェニル基が結合して」いる「ゾルーゲル化合物」が出願当初明細書には開示されているとは言えないことは、上記「(3)オ」、「(3)ク」で検討したとおりである。
エ さらに、請求人の上記「(1)イ(イ)」で摘示した「上記(ii)に関しては、X官能基及びY官能基が完全又は部分的絶縁下において架橋を形成する場合に、本件発明におけるゾル-ゲル化合物は、X官能基及びY官能基の存在により分子内自由体積が向上する。」との主張においても、この主張は、具体的にどの様にしてそのようなゾル-ゲル化合物を製造するのかについて、釈明しているものではなく、発明の詳細な説明に具体的な記載が無くとも、過度の試行錯誤無く本願補正発明を当業者が実施し得る程度の記載となっている事の根拠となり得ないものである。
そして、実際に、製造されたゾル-ゲル化合物の分析データも示してもおらず、上記請求人の主張は、「X官能基及びY官能基が絶縁膜内で一部が架橋し、その他が架橋せずに自由端として存在することを示す具体的な根拠(評価結果等)を記載していない。また、X官能基及びY官能基が絶縁膜内で架橋することを考慮すると、一部が架橋し、その他が架橋せずに自由端として存在するようなゾル-ゲル化合物を得ることが当業者にとって自明といえない」との判断を変えるに足る事実を説明したものではない。
オ 加えて、上記「(1)イ(イ)」で摘示した回答書では、補正案を提示すると共に、「X官能基を持つ金属アルコキシドとY官能基を持つシリコンアルコキシドに対する具体的な例は,上の[化1]ないし[化5]を利用して多様な実施例で類推することができます。・・(略)・・また,「末端または測端にフェニルが結合して」と記載した部分は、本件の詳細な説明の段落[0050]、[0051]に記載しており、上記による効果も充分に記載しています。」と主張しているが、当該主張も、具体的なシリコンアルコキシド及び金属アルコキシドと、その他の混合物の有無及び具体的な物質名並びに製造条件を示したものではなく、そのような点が記載されずとも、発明の詳細な説明が、過度の試行錯誤無く本願補正発明を当業者が実施し得る程度の記載となっていること、及び、本願補正発明が出願当初明細書に記載された発明であることを釈明したものとなっていない。

したがって、請求人の上記各主張については、いずれも、本願の発明の詳細な説明が、過度の試行錯誤無く本願補正発明を当業者が実施し得る程度の記載となっていない、及び、本願補正発明が出願当初明細書に記載された発明ではないとの拒絶の理由を解消しうるものではない。

(5)独立特許要件の判断のまとめ
したがって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本願補正発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、本件補正により補正された本願は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしておらず、また、この出願の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする本件補正発明が発明の詳細な説明に記載したものではないから、本件補正により補正された本願は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしておらず、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 補正の却下の決定のむすび
よって、本件補正は、平成18年法律55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反するので、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成24年11月30日提出の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?17に係る発明は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1?17に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2 1 << 本件補正前の請求項1 >>」に記載されたとおりのものである。

2 判断
そうすると、本願発明の構成要件について、エポキシ基について限定的減縮をし、「末端または側鎖」に「結合する」基として2つの選択肢の一方を削除し、ゾル-ゲル化合物について明瞭化を行い、ゲート絶縁膜の形成に関して限定的減縮を行った本願補正発明に関して、上記「第2 3 独立特許要件」に記載したとおり、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本願補正発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、また、この出願の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする本件補正発明が発明の詳細な説明に記載したものではないから、限定的減縮を削除した等の本件補正前の本願発明についても、同様に、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、また、この出願の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする本件補正発明が発明の詳細な説明に記載したものではない。

3 むすび
したがって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、本願は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしておらず、また、この出願の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする請求項1に係る本願発明が発明の詳細な説明に記載したものではないから、本願は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしておらず、本願の請求項2?17に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-10-21 
結審通知日 2013-10-22 
審決日 2013-11-06 
出願番号 特願2006-347746(P2006-347746)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 536- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小出 輝宮澤 尚之  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 池渕 立
恩田 春香
発明の名称 薄膜トランジスタ及びその製造方法、並びにディスプレイ素子  
代理人 吉澤 弘司  
代理人 岡部 讓  
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