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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08F 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08F |
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管理番号 | 1286034 |
審判番号 | 不服2013-13632 |
総通号数 | 173 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-05-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-07-16 |
確定日 | 2014-03-18 |
事件の表示 | 特願2002-525251「改善された耐衝撃性を有するポリメチルメタクリレート成形材料」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 3月14日国際公開、WO2002/20634、平成16年 3月18日国内公表、特表2004-508438〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成13年7月26日(パリ条約による優先権主張 2000年9月4日 ドイツ連邦共和国(DE))を国際出願日とする特許出願であって、平成23年1月27日付けで拒絶理由が通知され、同年8月4日に意見書とともに手続補正書、誤訳訂正書が提出され、平成24年2月16日付けで拒絶理由が通知され、同年8月24日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、平成25年3月7日付けで拒絶査定がなされ、同年7月16日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。 第2.本願発明 本願の請求項1?11に係る発明は、平成24年8月24日に提出された手続補正書により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。 「以下のもの i)次のモノマー成分: a)C_(1)?C_(8)-アルキルメタクリレート58?91.9質量% b)C_(1)?C_(8)-アルキルアクリレート7?35質量% c)架橋剤または架橋剤混合物0.1?2質量%および d)スチレン、側鎖中でアルキル置換基で置換されたスチレン、環でアルキル置換基で置換されたスチレン、および/またはハロゲン化スチレン1?5質量% から構成されるコア(C)、 ii)次のモノマー成分: a)C_(1)?C_(8)-アルキルアクリレート75?99.9質量% b)スチレン、側鎖中でアルキル置換基で置換されたスチレン、環でアルキル置換基で置換されたスチレン、および/またはハロゲン化スチレン0?25質量%および c)架橋剤または架橋剤混合物0.1?2質量% から構成される一次シェル(S1) iii)次のモノマー成分: a)C_(1)?C_(8)-アルキルメタクリレート80?100質量%および b)C_(1)?C_(8)-アルキルアクリレート0?20質量%と、 二次シェル(S2)中のコポリマーの鎖長を調節するための分子量調節剤または分子量調節剤混合物0?5質量%と から構成される二次シェル(S2) から構成される多段エマルションポリマー。 」 第3.原査定の拒絶の理由の概要 原査定の拒絶の理由は、要するに、「本願発明は、その優先日前に日本国内において頒布された下記引用文献2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 引用文献2:特開平10-339723号公報」 という理由を含むものである。 なお、以下、引用文献2を「刊行物A」という。 第4.刊行物Aの記載事項 本願の優先日前に頒布された刊行物Aには以下の事項が記載されている。 なお、下線は当審で付した。 A1「【請求項1】 アルキル基の炭素数が1?4のアルキルメタクリレート40?100重量%、アルキル基の炭素数が1?8のアルキルアクリレート0?60重量%、およびその他の共重合可能な単量体0?20重量%から成る単量体または単量体混合物100重量部と、多官能単量体0.1?10重量部との混合物を重合して得られる最内層重合体(A)、 最内層重合体(A)の存在下に、アルキル基の炭素数が1?8のアルキルアクリレート70?90重量%、芳香族ビニル単量体10?30重量%、およびその他の共重合可能な単量体0?20重量%から成る単量体混合物100重量部と、多官能単量体0.1?5重量部との混合物を重合して得られる中間層重合体(B)、並びに、 最内層重合体(A)および中間層重合体(B)を含んで成る重合体の存在下に、アルキル基の炭素数が1?4のアルキルメタクリレート50?100重量%、アルキル基の炭素数が1?8のアルキルアクリレート0?50重量%、およびその他の共重合可能な単量体0?20重量%から成る単量体または単量体混合物を重合して得られる最外層重合体(C)を含んで成り、下式 完全被覆率=[中間層の最小厚み÷中間層の最大厚み]×100(%) で示す完全被覆率の平均値が30%以上であることを特徴とする多層構造アクリル系重合体。」 A2「【0013】最内層重合体(A)は、アルキル基の炭素数が1?4のアルキルメタクリレート40?100重量%、好ましくは40?95重量%、より好ましくは50?70重量%、アルキル基の炭素数が1?8のアルキルアクリレート0?60重量%、好ましくは4?59重量%、より好ましくは20?50重量%、およびその他の共重合可能な単量体0?20重量%から成る単量体または単量体混合物100重量部と、多官能単量体0.1?10重量部、好ましくは1?5重量部との混合物を重合して得たものである。組成を上述の各範囲内にすることにより、優れた落球・落錘衝撃強度、耐衝撃白化性、透明性が得られる。 【0014】ここで用いられるアルキル基の炭素数が1?4のアルキルメタクリレートとしては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート等が挙げられる。アルキル基の炭素数が1?8のアルキルアクリレートとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、i-プロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート等が挙げられる。その他の共重合可能な単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル単量体、フェニルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート等の非アルキルメタクリレート、およびそれらに対応した非アルキルアクリレート等が挙げられる。特に、芳香族ビニル単量体は完全被覆率を向上させる効果があるので、好ましくは1?10重量%、より好ましくは3?7重量%用いることが有利である。 【0015】また、多官能単量体は、それが有する複数の官能基の反応性が実質的に全て等しく、主に層内の架橋を形成せしめる架橋性多官能単量体と、それが有する複数の官能基の内少なくとも一つが他と反応性が異なり、その反応性の差のため層間の化学結合を有効に形成せしめるグラフト結合性多官能単量体とに大別される。多官能単量体全体としての使用量は前述の通りであるが、両者の重量比[架橋性多官能単量体/グラフト結合性多官能単量体]は、1/10?20/1が好ましく、1/1?10/1がより好ましい。架橋性多官能単量体としては、エチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール等のアクリル酸またはメタクリル酸のジエステル、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリアリルイソシアヌレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等が挙げられる。グラフト結合性多官能単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のアリル、メタクリルまたはクロチルエステル等が挙げられる。」 A3「【0016】中間層重合体(B)は、上述した最内層重合体(A)の存在下に、アルキル基の炭素数が1?8のアルキルアクリレート70?90重量%、好ましくは75?85重量%、より好ましくは80?85重量%、芳香族ビニル単量体10?30重量%、好ましくは15?25重量%、より好ましくは15?20重量%、およびその他の共重合可能な単量体0?20重量%から成る単量体混合物100重量部と、多官能単量体0.1?5重量部、好ましくは0.5?4重量部、より好ましくは1?3重量部との混合物を重合して得たものである。この中間層重合体(B)に用いられる単量体や多官能単量体として、先に挙げた最内層重合体(A)に用いうる単量体や多官能単量体の例と同様のものを使用できる。重量比[架橋性多官能単量体/グラフト結合性多官能単量体]は1/30?10/1が好ましく、1/20?2/1がより好ましい。」 A4「【0017】最外層重合体(C)は、上述した最内層重合体(A)および中間層重合体(B)を含んで成る重合体の存在下に、アルキル基の炭素数が1?4のアルキルメタクリレート50?100重量%、好ましくは80?99重量%、より好ましくは90?97重量%、アルキル基の炭素数が1?8のアルキルアクリレート0?50重量%、好ましくは1?20重量%、より好ましくは3?10重量%、およびその他の共重合可能な単量体0?20重量%から成る単量体または単量体混合物を重合して得たものである。この最外層重合体(C)に用いられる単量体として、先に挙げた最内層重合体(A)に用いうる単量体の例と同様のものを使用できる。また、マトリックス樹脂との相容性、流動性、耐衝撃性等を良好にするためにアルキルメルカプタン等の連鎖移動剤を用いることが望ましい。アルキルメルカプタンとしては、n-ブチルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン等が挙げられ、最外層重合体(C)に用いられる単量体混合物100重量部に対して、好ましくは0.1?2重量部、より好ましくは0.2?0.8重量部用いる。」 A5「【0025】本発明の多層構造アクリル系重合体は、例えば、公知の乳化重合法等により製造できる。この製造方法の好適な例を以下に示す。 【0026】反応容器に脱イオン水、必要があれば乳化剤を加えた後、最内層重合体(A)を構成するための各成分を添加し重合することにより、最内層重合体(A)から成る分散粒子を含むラテックスを得る。次に、このラテックスの存在下に、中間層重合体(B)を構成するための各成分を添加して重合を行うことにより、最内層重合体(A)から成る分散粒子の周りに中間層重合体(B)から成る殻を形成する。続いて、このラテックスの存在下に、最外層重合体(C)を構成するための各成分を添加して重合を行うことにより、分散粒子の周りにさらに最外層重合体(C)から成る最外殻を形成し、所望の多層構造アクリル系重合体が得られる。 ・・・ 【0030】乳化重合法によって得られたポリマーラテックスには、酸凝固法、塩凝固法、凍結凝固法、噴霧乾燥法等の公知の凝固法を用いることができる。酸凝固法には、硫酸、塩酸、リン酸等の無機酸;酢酸等の有機酸;等を使用できる。塩凝固法には、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、塩化カルシウム等の無機塩;酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム等の有機塩;等を使用できる。凝固した重合体は、さらに洗浄、脱水、乾燥すればよい。」 第5.刊行物Aに記載された発明 摘示A2?4のモノマー成分の好ましいとする記載及び摘示A5のラテックスとして得られるとの記載並びに摘示A1の記載からみて、刊行物Aには以下の発明(以下「刊行物A発明」という。)が記載されている。 アルキル基の炭素数が1?4のアルキルメタクリレート50?70重量%、アルキル基の炭素数が1?8のアルキルアクリレート20?50重量%、および芳香族ビニル単量体を3?7重量%から成る単量体または単量体混合物100重量部と、多官能単量体1?5重量部との混合物を重合して得られる最内層重合体(A)、 最内層重合体(A)の存在下に、アルキル基の炭素数が1?8のアルキルアクリレート80?85重量%、芳香族ビニル単量体15?20重量%、から成る単量体混合物100重量部と、多官能単量体1?3重量部との混合物を重合して得られる中間層重合体(B)、並びに、 最内層重合体(A)および中間層重合体(B)を含んで成る重合体の存在下に、アルキル基の炭素数が1?4のアルキルメタクリレート90?97重量%、アルキル基の炭素数が1?8のアルキルアクリレート3?10重量%から成る単量体または単量体混合物を重合して得られる最外層重合体(C)を含んで成り、下式 完全被覆率=[中間層の最小厚み÷中間層の最大厚み]×100(%) で示す完全被覆率の平均値が30%以上であることを特徴とするポリマーラテックス多層構造アクリル系重合体。 第6.対比・判断 1.本願発明について 本願発明と刊行物A発明とを比較する。 刊行物A発明における「最内層重合体(A)」は、本願発明における「コア(C)」に相当する。 そして、刊行物A発明の最内層重合体(A)における「アルキル基の炭素数が1?4のアルキルメタクリレート」「アルキル基の炭素数が1?8のアルキルアクリレート」「芳香族ビニル単量体」は、それぞれ、本願発明のi)における「a)C1?C8-アルキルメタクリレート」「b)C1?C8-アルキルアクリレート」「d)スチレン、側鎖中でアルキル置換基で置換されたスチレン、環でアルキル置換基で置換されたスチレン、および/またはハロゲン化スチレン」に相当する。また、刊行物A発明の最内層重合体(A)における「多官能単量体」には、「架橋性多官能単量体」も含むこと(摘示A2)から、刊行物A発明は、本願発明のコア(C)における「c)架橋剤または架橋剤混合物」を有している。 さらに、刊行物A発明の最内層重合体(A)における、「50?70重量%」、「20?50重量%」、「1?5重量部」、「3?7重量%」は、それぞれ、本願発明のi)における「a)58?91.9質量%」、「b)7?35質量%」、「c)0.1?2質量%」、「d)1?5質量%」と重複一致している。 刊行物A発明における「中間層重合体(B)」は、本願発明における「一次シェル(S1)」に相当する。 そして、刊行物A発明の中間層重合体(B)における「アルキル基の炭素数が1?8のアルキルアクリレート」「芳香族ビニル単量体」は、それぞれ、本願発明のii)における「a)C1?C8-アルキルアクリレート」「b)スチレン、側鎖中でアルキル置換基で置換されたスチレン、環でアルキル置換基で置換されたスチレン、および/またはハロゲン化スチレン」に相当する。また、刊行物A発明の中間層重合体(B)における「多官能単量体」は、最内層重合体(A)と同様のものであるとの記載(摘示A3)があることから、刊行物A発明は、本願発明の一次シェル(S1)における「c)架橋剤または架橋剤混合物」を有している。 さらに、刊行物A発明の中間層重合体(B)における、「80?85重量%」、「15?20重量%」、「1?3重量部」は、それぞれ、本願発明のii)における「a)75?99.9質量%」、「b)0?25質量%」、「c)0.1?2質量%」と重複一致している。 刊行物A発明における「最外層重合体(C)」は、本願発明における「二次シェル(S2)」に相当する。 そして、刊行物A発明の最外層重合体(C)における「アルキル基の炭素数が1?4のアルキルメタクリレート」「アルキル基の炭素数が1?8のアルキルアクリレート」は、それぞれ、本願発明のiii)における「a)C1?C8-アルキルメタクリレート」「b)C1?C8-アルキルアクリレート」に相当する。 さらに、刊行物A発明の最外層重合体(C)における、「90?97重量%」、「3?10重量%」は、それぞれ、本願発明のiii)における「a)80?100質量%」、「b)0?20質量%」と重複一致している。 刊行物A発明における「ポリマーラテックス多層構造アクリル系重合体」は、本願発明における「多段エマルションポリマー」に相当する。 以上のとおり、本願発明と刊行物A発明との間に差異はない。 第7.請求人の主張について 請求人は、審判請求書において、 1.刊行物Aに記載の上位概念で表現された実施例等に限定されない発明から、本願発明の対比対象とすべき発明として任意の下位概念に係る発明を認定することが可能であるかどうか 2.本願発明が刊行物Aに記載の技術(刊行物A発明)の選択発明であるかどうか を争点とし、本願発明は新規性、進歩性を有する旨の主張をしている。 しかし、(1.について)上記第6.に記載のとおり、刊行物Aに記載の実施例等に限定されない発明として、刊行物A発明が記載されていると認定できることから、この点に関する請求人の主張を採用することはできない。 また、(2.について)「審査基準第II部 第2章 2.5(3)〔3〕選択発明における考え方」(〔3〕は、○の中に3)には、「(i)選択発明とは、物の構造に基づく効果の予測が困難な技術分野に属する発明で、刊行物において上位概念で表現された発明又は事実上若しくは形式上の選択肢で表現された発明から、その上位概念に包含される下位概念で表現された発明又は当該選択肢の一部を発明を特定するための事項と仮定したときの発明を選択したものであって、前者の発明により新規性が否定されない発明をいう。したがって、刊行物に記載された発明とはいえないものは選択発明になりうる。」との記載があるとおり、刊行物Aに記載の発明により新規性が否定されている本願発明は、そもそも選択発明とはなり得ないことから、この点に関する請求人の主張を採用することはできない。 第8.まとめ 以上のとおり、本願発明は、刊行物Aに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないとする原査定の理由は妥当なものであり、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-10-17 |
結審通知日 | 2013-10-21 |
審決日 | 2013-11-01 |
出願番号 | 特願2002-525251(P2002-525251) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C08F)
P 1 8・ 113- Z (C08F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 川上 智昭 |
特許庁審判長 |
田口 昌浩 |
特許庁審判官 |
加賀 直人 大島 祥吾 |
発明の名称 | 改善された耐衝撃性を有するポリメチルメタクリレート成形材料 |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |
代理人 | 久野 琢也 |